令和2(ワ)17731 損害賠償等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年8月9日 東京地方裁判所
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判決文本文23,685 文字)

1 令和5年8月9日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 令和2年(ワ)第17731号 損害賠償等請求事件 口頭弁論終結日 令和5年5月24日 判 決 主 文 5 1 被告らは、原告に対し、連帯して440万円及びこれに対する令和2年7月 6日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 被告新潮社は、同被告が運営するウェブサイト「デイリー新潮」(htt ps://G)に掲載された「コロワイド、大戸屋プロキシーファイトに敗 れて…前門の虎と後門の狼」との見出しの記事につき、別紙1本件各記載目 10 録記載1及び2の各記載を削除せよ。 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の負担とし、その余は被告らの負 担とする。 5 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 15 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、原告に対し、連帯して550万円及びこれに対する令和2年7月 6日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 主文第2項同旨 20 3 被告らは、別紙2謝罪広告文記載の謝罪広告を、被告新潮社の運営するウ ェブサイト「デイリー新潮」(https://G)に、別紙3掲載要領記 載の掲載要領にて掲載せよ。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 25 本件は、東京証券取引所市場第一部(後記2⑵アの本件記事掲載当時)に上 2 場している原告が、被告Aが執筆し、被告新潮社が運営するウェブサイトに掲 載した記事により原告の社会的評価が低下して無形の損害を被ったとして、被 告らの共同不法行為に基づく損害賠償請求として、被告らに対し、連帯して5 50万円及びこれに対する不法行為日である令和2年7月6日から支払済みま で民法所定の年3分の割合に 無形の損害を被ったとして、被 告らの共同不法行為に基づく損害賠償請求として、被告らに対し、連帯して5 50万円及びこれに対する不法行為日である令和2年7月6日から支払済みま で民法所定の年3分の割合による遅延損害金を支払うことを求めるとともに、 5 民法723条の名誉を回復するのに適当な処分として、被告新潮社に対し同記 事中の一部の記載の削除を、被告らに対し謝罪広告を掲載することをそれぞれ 求める事案である。 2 前提事実等 次の事実は、当事者間に争いがないか、掲示の証拠及び弁論の全趣旨によっ 10 て容易に認められる。 ⑴ 当事者等 ア 原告は、東京証券取引所市場第一部(後記⑵アの本件記事掲載時)に上 場する、飲食店の経営等を業とする株式会社であり、その傘下に、焼肉チ ェーン店である「牛角」等を運営する株式会社レインズインターナショナ 15 ル(以下「レインズ」という。)、回転ずしチェーン店である「かっぱ寿 司」を運営するカッパ・クリエイト株式会社(以下「カッパ・クリエイト」 という。)、ステーキ及びハンバーグのレストランチェーン店である「ス テーキ宮」を運営する株式会社アトム(以下「アトム」という。)等を有 している。 20 イ(ア) 被告新潮社は、書籍及び雑誌の出版等を目的とする株式会社であり、 週刊誌「週刊新潮」の発行や、インターネットメディア「デイリー新潮」 (https://H。以下「本件ウェブサイト」という。)の運営等 を行っている。 (イ) 被告Aは、企業の財務分析等を行っている会計評論家である。 25 ⑵ 被告Aによる記事の執筆及び被告新潮社による本件ウェブサイトへの掲 3 載 ア 被告Aは、令和2年6月頃から7月頃、「コロワイド、大戸屋プロキシ ーファイトに敗れて…前門の虎と後門の狼」と題する記事(以下「本件記 事」とい 新潮社による本件ウェブサイトへの掲 3 載 ア 被告Aは、令和2年6月頃から7月頃、「コロワイド、大戸屋プロキシ ーファイトに敗れて…前門の虎と後門の狼」と題する記事(以下「本件記 事」という。)を執筆した。本件記事の内容は、別紙4のとおりである。 イ 被告新潮社は、令和2年7月6日、本件記事を本件ウェブサイトに掲載 5 した。本件ウェブサイトにおいて本件記事を閲覧するためのID登録やロ グイン等の手続は不要であり、本件記事は、誰でも無料で閲覧することが できる。 また、被告新潮社は、本件記事を訴外株式会社LINE及び訴外ヤフー ジャパン株式会社に提供し、両社がそれぞれ運営するライブドアニュー 10 ス及びYahoo!JAPANニュース(以下「Yahooニュース」 という。)内の記事として公開させた。 ウ 本件記事は、被告Aが本件記事を執筆し、被告新潮社がこれを本件ウェ ブサイトに掲載するとの合意に基づいて掲載されたものである。 ⑶ 本件記事の記載内容 15 ア 本件記事には、別紙1本件各記載目録記載1及び2の各記載がある (以下、同目録記載1を「本件記載1」と、同目録記載2を「本件記載 2」といい、本件記載1及び本件記載2を「本件各記載」と総称す る。)。) イ 本件記事において、本件記載1の前には以下の記載がある。 20 (ア) 「コロワイドは国際会計基準を採用している。国際会計基準では 『のれん』の定期償却は必要がなく、これに代えて、『のれん』の減損 テストが行われる。そもそも、『のれん』とは、買収価額が被買収企業 の純資産額を超える差額であり、この買収差額は一般に買収プレミアム と言われている。企業会計は、買収プレミアムの本質を超過収益力とみ 25 なし、当該買収差額に超過収益力が認められる場合に限り『のれん』の 4 る差額であり、この買収差額は一般に買収プレミアム と言われている。企業会計は、買収プレミアムの本質を超過収益力とみ 25 なし、当該買収差額に超過収益力が認められる場合に限り『のれん』の 4 資産計上を認めている。」 (イ) 「有価証券報告書において開示された2020年3月期のセグメン ト別損益に基づき、各セグメントの『のれん』の(実効税率30.5 8%を考慮した)投下資本利益率を求めると、アトムとレインズは投下 資本利益率がマイナスで、カッパ・クリエイトが1.4%(=414百 5 万円÷20,887百万円×69・42%)と計算される。すなわち、 2020年3月期においては、すべてのセグメントにおいて、『のれん』 の超過収益力(=日本の上場会社ROE平均8%を超える収益力)は認 定できない。」 (ウ) 「どのような計算を行おうが、レインズとカッパ・クリエイトにつ 10 いては『のれん』の超過収益性を認めることができない。両セグメント の『のれん』は合計677億円(=46,782百万円+20,887 百万円)となり、この金額は、2020年3月期末の連結株主持分資本 250億円をはるかに上回る。」 ウ 本件記事は、被告Aについて、 15 「A(A) 1953年生まれ。『会計士界のレジェンド』と称される会計評論家。 財務諸表危険度分析プログラム『フロードシューター』を開発。フロー ドシューターの分析通り、ライザップは業績見通し下方修正を行ない、 ソフトバンクグループの携帯子会社ソフトバンクの新規上場も、初値公 20 募価格割れとなる事態となった。複式簿記研究会を主宰。年会費は1万 円。http://B.com」 と紹介している。 3 争点 ⑴ 本件各記載による原告の社会的評価の低下の有無(争点1) 25 ⑵ 本件各記載の真実性・相当性(争点2 究会を主宰。年会費は1万 円。http://B.com」 と紹介している。 3 争点 ⑴ 本件各記載による原告の社会的評価の低下の有無(争点1) 25 ⑵ 本件各記載の真実性・相当性(争点2) 5 ⑶ 原告の損害額、本件各記載の削除及び謝罪広告の要否(争点3) 4 争点1(本件各記載による原告の社会的評価の低下の有無)に関する当事者 の主張 【原告の主張】 ⑴ 本件記載1について 5 ア 摘示事実等 本件記載1は、一般読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、 ① 原告グループの令和2年3月期末の連結財政状態計算書には、レイ ンズとカッパ・クリエイトののれんとして合計677億円が計上されて おり、その結果、同期末の連結株主持分資本は250億円になっている 10 との事実 ② 企業会計において、のれんは超過収益力が認められる場合に限り資 産計上が認められるところ、のれんの超過収益力は、日本の上場企業の ROE平均8%を超える収益力の有無によって判断されるとの事実 ③ 令和2年3月期におけるレインズとカッパ・クリエイトの事業は、 15 どのような計算を行おうと超過収益力を認めることができず、そののれ んの資産計上は認められないとの事実 を摘示するとともに(以下、これらを「原告主張摘示事実①」などとい う。本件記載2も同じ。)、 ④ これらの事実によると、原告グループは、令和2年3月期末におい 20 て最低427億円の連結債務超過状態にあるとの評価を示すものである。 イ 社会的評価の低下 上記アの摘示事実等は、原告の経営状態が危機的状態にあるとの印象を 読者に与えるものであり、原告の社会的評価を低下させる。 ⑵ 本件記載2について 25 ア 摘示事実等 6 本件記載2は、一般読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、次の にあるとの印象を 読者に与えるものであり、原告の社会的評価を低下させる。 ⑵ 本件記載2について 25 ア 摘示事実等 6 本件記載2は、一般読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、次の事 実を摘示するものである。 ① 有限責任あずさ監査法人(以下「あずさ監査法人」という。)が、 原告の令和2年3月期決算監査において、カッパ・クリエイトの事業が 超過収益性を持つことはなく、レインズの事業はのれんの絶対額が大き 5 すぎると考え、原告のこれらの事業ののれんに資産性を認めることはで きないと述べた事実 ② 原告が、①の指摘に対し、コロナ禍での減損会計厳格適用緩和要請 を用いて抵抗し、その結果、あずさ監査法人は、原告の主張を了承して、 適正意見を出した事実 10 ③ 原告が、令和2年3月期決算監査に関する原告とあずさ監査法人の 意見対立から、会計監査人をあずさ監査法人から有限責任監査法人トー マツ(以下「監査法人トーマツ」という。)に交代させたとの事実 イ 社会的評価の低下 上記アの①の事実は、原告の会計処理がのれんに資産性を認める不当な 15 ものであるとの印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させ る。 また、上記アの②及び③の事実は、原告がのれんの減損を行わない自身 の会計処理を問題とする監査法人を交代させるような不公正な行動をす る企業であるとの印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下さ 20 せる。 【被告らの主張】 ⑴ 本件記載1について ア 本件記載1は、要するに、 ① 原告は、子会社の株式に関して多額ののれんを計上している、 25 ② のれんの資産計上が認められる実質的根拠は、超過収益力にある、 7 ③ 原告の子会社は、コロナ禍の影響がない時期でも、ROE8%に達 しておらず、超過収益力がないとい 上している、 25 ② のれんの資産計上が認められる実質的根拠は、超過収益力にある、 7 ③ 原告の子会社は、コロナ禍の影響がない時期でも、ROE8%に達 しておらず、超過収益力がないというべきである、 ④ 上記②及び③により、原告の資産となっているのれんには、実質的 な資産性がない、 ⑤ その意味において、原告は、実質的には連結債務超過状態である、 5 という趣旨の被告Aの財務分析及び意見を述べるものである。 そして、本件記事は、超過収益力の判断手法には様々なものがあり得 るところ、被告Aが行った今回の財務分析においては、ROE8%を基 準として判断したということを明示するものであって、のれんの超過収 益力はROE8%を超える収益力の有無によって判断される(ROE 10 8%を基準とする方法以外は誤りである)という事実を摘示するもので はない。 イ 原告は、本件記載1が、原告の経営状態が危機的状態にあるとの印象を 読者に与えるものであると主張する。 しかしながら、債務超過であっても、通常は全ての債務について一斉に 15 弁済期が到来するわけではなく、借換えや新たな借入れをすることもあ り得るし、増資をして資産超過となることもあり得ることなどからすれ ば、現時点でのれんに資産性が認められず、実質的に債務超過状態にあ るからといって、直ちに原告の経営が危機的状況にあるということには ならないし、そのようなことは本件記事には一切書いていない。 20 したがって、本件記載1は、原告が危険な財務状態にあると述べるもの ではなく、一般読者に原告の経営が危機的状態にあるという印象を与え るものでもないから、本件記載1は、原告の社会的評価を低下させるも のではない。 ウ また、被告Aは、原告の会計処理が会計基準に照らして誤っているとは 25 考えてお 機的状態にあるという印象を与え るものでもないから、本件記載1は、原告の社会的評価を低下させるも のではない。 ウ また、被告Aは、原告の会計処理が会計基準に照らして誤っているとは 25 考えておらず、本件記事は、原告の会計処理に誤りがあると指摘するもの 8 ではない。本件記事は、被告Aの評価・判断によれば、原告は、実質的に は、負債が資産を上回っており、連結債務超過状態というべきであるとい う以上のことを意味するものではない。 ⑵ 本件記載2について ア 原告と監査法人の意見の対立については、被告Aの意見である。 5 イ 原告は、本件記載2について、原告が会計監査人を交代させたという事 実を摘示するものであると主張する。 しかしながら、本件記載2は、原告の会計監査人が「変更されることに なった」というものにすぎず、会計監査人の交代が原告の意思によるも のであるという記載はない。すなわち、本件記事において、会計監査人 10 の変更が、原告の意向によるものか、あずさ監査法人の意向によるもの かという点は全く触れられておらず、のれんの資産性をめぐる意見の相 違があり、その結果、会計監査人が変更されたという旨が記載されてい るだけである。 ウ 原告は、本件記載2が、原告が不公正な行動をする企業であるとの印象 15 を与えるものであると主張する。 しかしながら、のれんの減損を避けたい会社と、監査基準に従いたい会 計監査人との間で意見対立が生じるのは当然であり、どの会計監査人を 起用するかはそれぞれの会社の自由であるから、意見対立が原因で会社 が会計監査人を交代させたからといって、一般読者に不公正な行動をす 20 る企業であるとの印象を与えるものではない。 したがって、本件記載2は、原告の社会的評価を低下させるものではな い。 5 争点2(本件各記載 代させたからといって、一般読者に不公正な行動をす 20 る企業であるとの印象を与えるものではない。 したがって、本件記載2は、原告の社会的評価を低下させるものではな い。 5 争点2(本件各記載の真実性・相当性)に関する当事者の主張 【被告らの主張】 25 ⑴ 公共性及び公益目的について 9 原告は上場企業であり、投資家から広く出資を受けているのであるから、 原告が開示した情報をどのように理解すべきか、財務分析を行って、減損リ スクがある旨の意見を述べることは、金融商品取引法が上場企業に対して一 定の情報の適時開示を求める趣旨に合致し、公共性がある。 また、本件記事は、広く一般読者に対して情報提供することを目的として 5 公開されているから、公益目的があることも明らかである。 ⑵ 本件記載1の真実性・相当性について ア 本件記事には、「企業会計は、買収プレミアムの本質を超過収益力とみ なし、当該買収差額に超過収益力が認められる場合に限り『のれん』の資 産計上を認めている。」との記載があるところ、これは、会計学上の通説 10 を述べたものである。 イ もっとも、国際会計基準において、超過収益力の有無を判断する具体的、 一義的な基準はない。一般的には、対象企業の将来の事業計画を作成し、 将来収益をキャッシュフローに代え、キャッシュフローを現在価値に割り 引くことによって計算するが、この手法は、企業自身の主観的な判断に陥 15 るという欠点があり、のれんの減損をしたくない企業は、楽観的な事業計 画を作成することで、のれんの減損を免れることができる。 そこで、一般投資家に向けた被告Aの財務分析においては、日本の資本 市場のベンチマークとなるROE8%を超過するかどうかによって、超 過収益力があるかを判断している。 20 実際、平成26 。 そこで、一般投資家に向けた被告Aの財務分析においては、日本の資本 市場のベンチマークとなるROE8%を超過するかどうかによって、超 過収益力があるかを判断している。 20 実際、平成26年8月に経済産業省が発表した「持続的成長への競争力 とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトの 最終報告書(以下「伊藤レポート」という。)において、ROE8%の達 成が求められている。 そして、日本市場の投資家は、ROE8%を超える場合は収益性を評価 25 しているが、ROE8%を下回る場合には、解散価値程度の評価にとど 10 まり、収益性を評価していない。 したがって、被告Aの財務分析の手法は合理的である。 ウ また、そもそも被告Aが本件記載1を執筆するに当たって前提とした事 実は、原告が開示した情報に基づいている。 エ 以上より、本件記載1は、意見としての域を逸脱するものではなく、真 5 実性又は相当性がある。 ⑶ 本件記載2の真実性・相当性について ア 原告主張摘示事実①について のれんの減損は、のれんの減損を避けたい会社と、減損をすべきとする 監査法人で意見が対立しやすいところ、金融庁が公表している「監査基 10 準」によれば、監査法人としては、会社の楽観的な業績予想やのれんの 減損の安易な回避に対しては、厳しい姿勢で臨むべきであるとされてい る。 そして、原告が、有価証券報告書にのれんの減損リスクを記載するよう になったのは、令和3年3月期の監査報告書から監査上の重要な検討事 15 項(英語でKey Audit Mattersと呼ばれるものであり、 以下「KAM」という。)の開示が必要になったことを踏まえて、あず さ監査法人と協議した結果である。 したがって、監査法人は、当然、原告に対しのれんの減損について疑義 tersと呼ばれるものであり、 以下「KAM」という。)の開示が必要になったことを踏まえて、あず さ監査法人と協議した結果である。 したがって、監査法人は、当然、原告に対しのれんの減損について疑義 を示したはずであるし、そのように信じるについて相当の理由がある。 20 イ 原告主張摘示事実②について 令和2年4月上旬に、衆議院財務金融委員会で、今後、政府の緊急経済 対策が実施されることも考慮して柔軟な判断を行うことが重要である旨 の説明がされ、企業会計基準委員会も、明らかに不合理な仮定でなけれ ば、事後的な結果との間に乖離が生じても誤謬ではない旨の見解を示し 25 たのであり、コロナ禍での減損会計厳格適用の緩和要請があったことは 11 客観的な事実である。 原告は、毎年見通しが甘い事業計画を立て、大幅な下方修正を繰り返し ていたのであるから、政府の緊急経済対策の実施等も考慮に入れたと考 えるのが当然であるし、そのように信じるについて相当の理由がある。 ウ 原告主張摘示事実③について 5 監査法人の交代は、原告自身が発表した客観的真実である。 また、原告と監査法人の意見対立については、「あずさ監査法人はそう 言ったに違いなく」という表現のとおり、被告Aの意見である。 そして、あずさ監査法人は、当然、原告に対し、のれんの減損について 疑義を示したはずであって、のれんの減損を避けたい原告と意見が対立 10 し、そのことは監査法人の交代に影響があったはずであるし、そのよう に信じるについて相当の理由がある。 そもそも本件記事には、コロナ禍になってからの意見対立だけが原因で 監査契約が終了したとは書いていない。 エ 以上より、本件記載2は、真実性又は相当性がある。 15 【原告の主張】 ⑴ 公共性及び公益目的について いずれも争う。 公益目 見対立だけが原因で 監査契約が終了したとは書いていない。 エ 以上より、本件記載2は、真実性又は相当性がある。 15 【原告の主張】 ⑴ 公共性及び公益目的について いずれも争う。 公益目的について、本件記事は、「会計士界のレジェンド」である被告A が、さも真実であるかのように、原告の経営状態が危機的状態にあるとか、 20 のれんの減損を行わない会計処理を問題視する監査法人を交代させる不公正 な行動をしているとの事実を摘示して読者の強い関心を惹きつけ、被告Aが 主催する年会費1万円の複式簿記研究会に、そのURLを掲載した上で誘導 するという、専ら自己の集客や営利の目的で掲載しているものであるといえ るから、公益目的があるとは到底いえない。 25 ⑵ 本件記載1の真実性・相当性について 12 ア 真実性について (ア) 原告主張摘示事実②について IFRS(国際会計基準)の下においても、日本の会計基準の下にお いても、ROEを指標としてのれんの超過収益力を判定するという考え 方は採用されておらず、企業会計において、のれんの超過収益力が日本 5 の上場企業のROE平均である8%を超える収益力の有無によって自動 的に判断されることはない。 したがって、原告主張摘示事実②が真実ではないことは明らかである。 (イ) 原告主張摘示事実③について 原告主張摘示事実③は、原告主張摘示事実②を前提としており、原告 10 主張摘示事実②が真実でない以上、レインズとカッパ・クリエイトの事 業が、どのような計算を行おうと超過収益力を認めることができないと いうことにもならないから、原告主張摘示事実③も真実ではない。この ことは、通常よりも厳しい姿勢で監査に臨んだはずのあずさ監査法人に よって行われた令和2年3月期の監査においてでさえ、あずさ監査法人 15 とにもならないから、原告主張摘示事実③も真実ではない。この ことは、通常よりも厳しい姿勢で監査に臨んだはずのあずさ監査法人に よって行われた令和2年3月期の監査においてでさえ、あずさ監査法人 15 が、原告に対し、カッパ・クリエイトとレインズに関して、のれんを減 損すべきであるとの指摘をした事実が一切存在しないことからも明らか である。 (ウ) したがって、本件記載1の摘示事実は、真実ではない。 イ 相当性について 20 被告Aは、原告主張摘示事実②が真実ではないことを本件記事執筆当時 から認識していたのであるから、相当性も認められない。 ウ そして、原告グループが連結債務超過であるとの評価は、原告主張摘示 事実②及び③が真実であることを前提とするが、上記アのとおり、これ が真実であるとは認められない。 25 ⑶ 本件記載2の真実性・相当性について 13 ア 真実性について (ア) 原告主張摘示事実①について 原告の令和2年3月期決算において、あずさ監査法人が、原告に対し、 カッパ・クリエイトとレインズに関して、のれんを減損すべきであると の指摘をした事実は一切存在しないから、原告主張摘示事実①は真実で 5 はない。 (イ) 原告主張摘示事実②について そもそも原告は原告主張摘示事実①記載の指摘をあずさ監査法人から 受けていないのであるから、原告主張摘示事実②も真実ではない。 (ウ) 原告主張摘示事実③について 10 原告が会計監査人をあずさ監査法人から監査法人トーマツに変更した のは、過去のあずさ監査法人とのやり取りの中で、あずさ監査法人のコ ミュニケーションの取り方や仕事の進め方に原告が疑問を抱く場面が複 数あったことが原因であり、実際に、原告は平成29年前半頃から会計 監査人の変更を検討していた。そして、原告は、あずさ監査 監査法人のコ ミュニケーションの取り方や仕事の進め方に原告が疑問を抱く場面が複 数あったことが原因であり、実際に、原告は平成29年前半頃から会計 監査人の変更を検討していた。そして、原告は、あずさ監査法人に対し、 15 令和2年3月期の監査が進行していた令和元年夏頃には会計監査人の変 更を通知しており、あずさ監査法人も令和2年3月期の監査をもって原 告の会計監査人を退任することを認識していたのであるから、原告主張 摘示事実③も真実ではない。 そもそも原告グループのような巨大企業の監査法人の変更には相当な 20 準備が必要であって、令和2年3月期決算の際に生じた監査法人との意 見の相違を理由に当該監査法人を同決算期限りで変更することは不可能 である。 イ 相当性について 被告Aは、原告主張摘示事実①から③までの各事実を含む本件記事を掲 25 載するに当たり、原告関係者にもあずさ監査法人にも一切取材をしてお 14 らず、一方的な思い込みと臆測に基づいて本件記載2を執筆したのであ り、相当性は認められない。 6 争点3(原告の損害額、本件各記載の削除及び謝罪広告の要否)に関する当 事者の主張 【原告の主張】 5 ⑴ 共同不法行為の成立 被告らの行為は、被告Aが本件記事を執筆し、被告新潮社が本件記事を本 件ウェブサイトに掲載することを内容とする合意に基づくものであるから、 被告らの相互の主観的及び客観的関連共同に基づくものであって、共同不法 行為に該当する。 10 ⑵ 原告の損害額 ア 本件記事の被閲覧数 一般社団法人日本ABC協会によれば、平成30年4月―6月期におけ る本件ウェブサイトの自社被閲覧数及び外部被閲覧数の月間平均数の合 計は、1億4708万1303件であり、現在に至るまでの本件記事の 15 被閲覧数は、少なくとも月間数千万件 30年4月―6月期におけ る本件ウェブサイトの自社被閲覧数及び外部被閲覧数の月間平均数の合 計は、1億4708万1303件であり、現在に至るまでの本件記事の 15 被閲覧数は、少なくとも月間数千万件から1億件を下回らない。 本件記事は、著名なインターネットメディアであり、ログイン等が不要 で閲覧できる本件ウェブサイトだけではなく、ライブドアニュース及び Yahooニュース内の記事としても公開され、かつ、本件記事掲載当 時、原告が、訴外大戸屋ホールディングスに対し株主提案を行い、次い 20 で株式公開買付けを発表するなど、本件記事の主題については社会の関 心も相当に高かったことなどから、本件記事の閲覧者数も相当数に上っ た。 イ 本件記事に対する反応 本件記事を転載したYahooニュースのコメント機能においては、 25 「よその企業の株式を取得して経営に口出しする前に、まずてめえんと 15 この経営を建て直せとしか思わんな。」などというコメントが書き込ま れ、こうしたコメントに多数の「いいね!」が押されている。このこと は、本件記事により、あたかも原告が、破産手続開始決定又は上場廃止 決定を受ける可能性のある極めて危険な財務状態にあるかのような印象 が一般の読者に広まってしまったことを如実に表すものである。 5 また、本件記事は、被告Aを「会計士界のレジェンド」などと紹介し、 読者に対しあたかも被告Aが本件記事に記載した会計的な分析が正しい かのような印象を与えているから、本件記事を読んだ者への影響も大き かったといえる。 ウ 損害額について 10 前記ア及びイの事情からすれば、本件各記載がされたことによる原告の 損害額は、500万円を下回ることはない。 また、被告らの不法行為と因果関係のある弁護士費用は、50万円であ る。 ⑶ 本件記事の削除 記ア及びイの事情からすれば、本件各記載がされたことによる原告の 損害額は、500万円を下回ることはない。 また、被告らの不法行為と因果関係のある弁護士費用は、50万円であ る。 ⑶ 本件記事の削除について 15 本件記事は、誰でも閲覧が可能な状態で本件ウェブサイト上に公開され続 けており、現在も本件記事による権利侵害は継続している。そして、このよ うな状況である以上、原告についてインターネット上で検索をすれば本件記 事にたどり着くことは容易であるから、本件記事中の本件各記載を削除しな ければ、上記権利侵害を止める有効な手段はないといえ、削除の必要性があ 20 ることは明らかである。 他方、原告が削除を求めているのは、本件記事のうち、権利侵害をしてい る本件各記載に限定されているから、削除の対象も限定されている。 したがって、本件各記載の削除は、原告の名誉を回復するのに適当な処分 として認められるべきである。 25 ⑷ 謝罪広告について 16 ひとたびインターネット上で記事等が掲載されると、これを完全に削除す ることは容易でなく、完全に削除されない以上、検索等により容易に本件記 事又はこれを引用した記事を閲覧することが可能となる。このような事情を 踏まえると、本件記事の掲載によって生じた原告の無形損害については、金 銭賠償のみではその損害を填補するのに十分とはいえず、本件記事が掲載さ 5 れた媒体そのものである本件ウェブサイトに本件記事を訂正・謝罪する広告 を出すことは、原告の名誉を回復するのに適当な処分として必要かつ相当で ある。 【被告らの主張】 争う。本件記事により原告の社会的評価が下がったのであれば、株価に悪 10 影響が生じるはずであるが、そのような悪影響は見られないのであるから、 原告の損害は小さいか、又は実質的に損害はないという 争う。本件記事により原告の社会的評価が下がったのであれば、株価に悪 10 影響が生じるはずであるが、そのような悪影響は見られないのであるから、 原告の損害は小さいか、又は実質的に損害はないということができる。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記第2の2の前提事実等のほか、証拠(甲8、22、乙4から6まで、1 15 0、11、31、証人C、被告A)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を 認めることができる。 ⑴ 国際会計基準によるのれんの減損について ア 国際会計基準(IAS)第36号によれば、国際会計基準において、の れんの減損は、大要、以下のような方法で行われる。 20 ① 減損損失の可能性を示す兆候が存在する場合において、回収可能価 額が帳簿価額を下回る場合には減損損失を認識する(甲8のA1440 頁、A1442頁)。 ② 回収可能価額は、処分コスト控除後の公正価値及び使用価値のいず れか高い金額とする。使用価値は将来キャッシュ・フローに基づき算定 25 する(甲8のA1422頁、A1423頁)。 17 ③ 個別資産の回収可能価額の見積りが可能でない場合には、資金生成 単位の回収可能価額を算定する(甲8のA1434頁)。 イ 国際会計基準及び実際に行われている会計監査において、のれんの超過 収益力の有無をROE8%という基準によって自動的に判断されることは ない(被告A)。 5 ⑵ 伊藤レポートには、「個々の企業の資本コストの水準は異なるが、グロー バルな投資家から認められるにはまずは第一ステップとして、最低限8%を 上回るROEを達成することに各企業はコミットすべきである。もちろん、 それはあくまでも『最低限』であり、8%を上回ったら、また上回っている 企業は、より高い水準を目指すべきである。」との記載がある(乙10の6 OEを達成することに各企業はコミットすべきである。もちろん、 それはあくまでも『最低限』であり、8%を上回ったら、また上回っている 企業は、より高い水準を目指すべきである。」との記載がある(乙10の6 10 頁)。また、ニッセイ基礎研究所のD氏は、ROEが8%以上の領域ではR OEが上がると日経平均も上昇する様子が見られるが、ROEが8%以下で は、ROEが低下しても日経平均が下がらず、PBR(株価純資産倍率)は 1倍程度で横ばいとなっていること、ROEが改善しても、これがなお8% を下回る場合には、投資家の要求水準を満たさないので株価は上昇せず、株 15 式市場はプラスに評価をしてくれない旨を指摘している(乙11)。 ⑶ 新型コロナウイルス感染症による企業の会計等への影響について ア 麻生太郎大臣(肩書は当時のものであり、以下「麻生大臣」という。) は、令和2年4月10日の衆議院財務金融委員会で、新型コロナウイルス 感染症の影響下における会計基準について、「現行の会計基準を変更した 20 という事実は、これは全くありません。」と述べた上で、政府の緊急経済 対策が今後実施されていくことなども考慮に入れた上で、現行の会計基準 の下で柔軟な判断を行ってもらいたい旨を述べ、E金融庁企画市場局長 (当時)も、麻生大臣と同趣旨の答弁をした(乙4の33頁)。 イ 企業会計基準委員会は、令和2年4月10日に開催された同委員会の議 25 事概要として、新型コロナウイルス感染症の広がりにより、将来キャッシ 18 ュフローの予測を行うことが極めて困難な状況となっていると考えられ、 このような状況において会計上の見積りを行う上での留意事項の一つとし て、企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の 見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な 、 このような状況において会計上の見積りを行う上での留意事項の一つとし て、企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の 見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果と の間に乖離が生じたとしても、誤謬(原因となる行為が意図的であるか否 5 かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったこと による、又はこれを誤用したことによる事実の見落としや誤解から生じる 会計上の見積もりの誤り)には当たらないものと考えられることを公表し た(乙5)。 ⑷ 原告の会計監査人の交代について 10 原告の会計監査人であったあずさ監査法人は、21年間に及び原告の会計 監査人を務めたが、令和2年6月30日開催の定時株主総会の終結の時をも って任期満了となり、新たに監査法人トーマツが原告の会計監査人に選任さ れた。 原告は、「公認会計士等の異動に関するお知らせ」と題する文書の中で、 15 この交代の趣旨について、あずさ監査法人は会計監査が適切かつ妥当に行わ れていることを確保する体制を十分に備えているものの、21年間という監 査継続年数等を考慮し、新たな視点での監査を期待することができることか ら、会計監査人の交代を検討することとした旨を公表している。 (乙6) 20 ⑸ 被告Aは、本件記事の執筆に当たっては、公表されている財務資料のみを 参考にしており、取材を一切していない(被告A)。 2 争点1(本件各記載による原告の社会的評価の低下の有無)について ⑴ 名誉を毀損するとは、人の社会的評価を低下させることをいうところ、あ る記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、 25 当該記事についての一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべ 19 きものと解される(最高裁昭和29年(オ) る記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、 25 当該記事についての一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべ 19 きものと解される(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日 第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。また、上記判断は、当 該記事の記載のみならず、当該部分の前後の文脈等の事情を総合的に考慮し た上で判断すべきである。 ⑵ 本件記載1について 5 ア 一般読者の通常の注意と読み方を基準として、本件記載1の記載に加 え、前記第2の2⑶イの記載を併せて読めば、本件記載1は、 ① 「原告グループの令和2年3月期末の連結財政状態計算書には、レ インズとカッパ・クリエイトの『のれん』として合計677億円が計上 されており、同期末の連結株主持分資本は250億円になっている」と 10 の事実、 ② 「企業会計において、のれんは超過収益力が認められる場合に限り 資産計上が認められるところ、『のれん』の超過収益力は、日本の上場 企業ROE平均8%を超える収益力の有無によって判断される」との事 実、 15 ③ 「令和2年3月期におけるレインズとカッパ・クリエイトの事業は、 どのような計算を行おうと超過収益力を認めることができず、その『の れん』の資産計上は認められない」との事実を摘示するとともに(以下、 これらを「摘示事実①」などという。本件記載2についても同じ。)、 ④ これらの事実によると、原告グループは、令和2年3月期末におい 20 て最低427億円の連結債務超過状態にあるとの評価を示すものと認め られる。 イ そして、上記アの事実は、レインズとカッパ・クリエイトののれんの資 産計上は認められず、これらのれんの資産計上を否定すると原告グループ が連結債務超過状態にあるということを示すものであり られる。 イ そして、上記アの事実は、レインズとカッパ・クリエイトののれんの資 産計上は認められず、これらのれんの資産計上を否定すると原告グループ が連結債務超過状態にあるということを示すものであり、原告の経営状態 25 が危機的状態にあるとの印象を一般読者に与え、原告の社会的評価を低下 20 させるものであると認められる。 ウ(ア) 被告らは、本件記事は、超過収益力の判断手法には様々なものがあ り得るところ、被告Aが行った今回の財務分析においては、ROE8% を基準として判断したということを明示するものであって、ROE8% 基準以外の方法は誤りであるという事実を摘示するものではないと主張 5 する。 しかしながら、本件記事には、「『のれん』の超過収益力(=日本の 上場会社ROE平均8%を超える収益力)」と記載され、のれんの超過 収益力とはROE8%を超える収益力であると断定的に記載されている こと、他方で、超過収益力の判断手法には様々なものがあり得るという 10 趣旨の記載はなく、また、のれんの超過収益力はROE8%を基準とし て判断するということが被告Aの個人的な見解であることを示す記載も ないことからすれば、一般読者は、一般的に、ROE8%を超える収益 力がなければのれんの超過収益力を認めることはできないとされている と受け取ると認められ、これが被告Aの意見を記載したものと受け取る 15 とは到底認められないから、上記被告らの主張を採用することはできな い。 (イ) 被告らは、現時点でのれんに資産性が認められず、実質的に債務超 過状態にあるからといって、直ちに「原告の経営が危機的状況にある」 ということにはならないと主張する。 20 しかしながら、債務超過とは、企業の負債総額が資産総額を上回る状 態を意味し、一般的にもそのように理解されている て、直ちに「原告の経営が危機的状況にある」 ということにはならないと主張する。 20 しかしながら、債務超過とは、企業の負債総額が資産総額を上回る状 態を意味し、一般的にもそのように理解されているということができる。 そして、原告のような東京証券取引所市場第一部に上場している企業は、 その事業年度の末日に債務超過の状態である場合において、1年以内に 債務超過の状態でなくならなかったときは、東京証券取引所の上場廃止 25 基準に抵触し、上場が廃止されることになる(甲5)。また、企業が債 21 務超過に陥った後、資産超過になることがあり得るとしても、「最低4 27億円」という一般的にみて巨額の連結債務超過状態にあるとの記載 からすれば、これを解消することは容易ではないとの印象を一般読者に 与えるということができる。これらのことからすれば、本件記載1は、 原告の経営状態が危機的状態にあるとの印象を一般読者に与えるものと 5 いうことができる。 したがって、被告らの主張は失当である。 ⑶ 本件記載2について ア 本件記載2の内容に照らして、一般読者の通常の注意と読み方を基準と すれば、本件記載2は、次の事実等を摘示するものと認められる。 10 ① あずさ監査法人が、原告の令和2年3月期決算監査において、カッ パ・クリエイトの事業が超過収益性を持つことはなく、レインズの事業 はのれんの絶対額が大きすぎると考え、原告のこれら事業ののれんに資 産性を認めることはできないと述べた事実 ② 原告が、①の指摘に対し、コロナ禍での減損会計厳格適用緩和要請 15 を用いて抵抗し、その結果、あずさ監査法人は原告の主張を了承して、 適正意見を出した事実 ③ 原告が、令和2年3月期決算監査に関する原告とあずさ監査法人の 意見対立から、会計監査人をあずさ監査法人から監査法人ト 抗し、その結果、あずさ監査法人は原告の主張を了承して、 適正意見を出した事実 ③ 原告が、令和2年3月期決算監査に関する原告とあずさ監査法人の 意見対立から、会計監査人をあずさ監査法人から監査法人トーマツに交 代させたとの事実 20 イ 本件記載2の摘示事実①は、一般読者に対し、原告の会計処理が、資産 性を認めることができないのれんに資産性を認める不当なものであるとの 印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させるものと認められ る。 また、本件記載2の摘示事実②及び③は、一般読者に対し、原告は、の 25 れんの減損を行わない自身の会計処理を問題とする監査法人を交代させ 22 るような不公正な行動をする企業であるとの印象を与えるものであり、 原告の社会的評価を低下させるものと認められる。 ウ(ア) 被告は、本件記載2の摘示事実③について、原告とあずさ監査法人 の意見の対立というのは被告Aの意見であり、また、本件記事には監査 法人が交代したとの記載があるだけで、原告があずさ監査法人との契約 5 を終了させたとの記載はないと主張する。 しかしながら、本件記載2は、「のれんに資産性を認めることはでき ない」と断定的に述べた上で、「あずさ監査法人はそう言ったに違いな く」との記載がされていることに照らして、一般読者は、これを単に被 告Aの推測にとどまるものではなく、事実として受け取るものと認めら 10 れる。そして、原告とあずさ監査法人との間に意見の対立があった結果、 原告の会計監査人があずさ監査法人から監査法人トーマツに「変更され ることになった」との本件記載2の記載に照らして、一般読者は、原告 が監査法人を交代させたと受け取るものと認められる。 (イ) また、被告らは、意見対立が原因で会社が監査法人を交代させたか 15 らといって、一般読者に不 件記載2の記載に照らして、一般読者は、原告 が監査法人を交代させたと受け取るものと認められる。 (イ) また、被告らは、意見対立が原因で会社が監査法人を交代させたか 15 らといって、一般読者に不公正な行動をする企業であるとの印象を与え るものではないと主張する。 しかしながら、自身の会計処理を問題としたことを理由に監査法人を 交代させることは、自社の会計処理の方針に沿わない意見を述べる会計 監査人は交代させるということであって、会計監査人による監査を受け 20 る意義を没却する、不公正な行動をする企業であるとの印象を一般読者 に与えるものであるから、被告らの主張は失当である。 3 争点2(本件各記載の真実性・相当性)について ⑴ 本件記載1について ア 摘示事実①について 25 証拠(甲7、乙1の56頁以下、85頁)によれば、令和2年3月期末 23 の親会社の所有者に帰属する持分合計は249億5800万円であり、 レインズとカッパ・クリエイトののれんの合計額は676億6900万 円であると認められるから、摘示事実①は、真実であると認められる。 イ 摘示事実②について (ア) 前記1⑴イのとおり、国際会計基準又は実際に行われている会計監 5 査において、のれんの超過収益力の有無が、ROE8%という基準によ って判断されることはないことからすれば、摘示事実②が真実であると 認めることはできない。 そして、被告A自身が、本人尋問において上記の事実を認める供述を していることからすれば、被告らにとって、摘示事実②が真実であると 10 信じるにつき相当の理由があったと認めることもできない。 (イ) 被告らは、被告Aは原告が開示した情報に基づき、伊藤レポートに おいてROE8%の達成が求められていること、日本市場の投資家はR OE8%を下回る場合に の理由があったと認めることもできない。 (イ) 被告らは、被告Aは原告が開示した情報に基づき、伊藤レポートに おいてROE8%の達成が求められていること、日本市場の投資家はR OE8%を下回る場合には収益性を評価していないことなどを踏まえた 合理的な手法により財務分析を行っているから、真実性又は相当性があ 15 ると主張する。 しかしながら、被告らの主張は、被告Aが行った財務分析の手法の合 理性を主張するものにすぎず、摘示事実②の真実性又は相当性、すなわ ち、のれんの超過収益力は、ROE8%を超える収益力の有無によって 判断されることについて論ずるものではないから、その主張自体、失当 20 である。そして、投資家からROE8%の達成を求められているとして も、ROE8%を超える収益力がない限りのれんの超過収益力は認めら れず、のれんの資産計上は認められないということが真実であるとは認 められないことは、前記(ア)で述べたとおりである。 ウ 摘示事実③について 25 摘示事実③の真実性は、のれんの資産計上はROE8%を超える収益力 24 がある場合に限り認められるという摘示事実②が真実であることが前提 となっていると認められるところ、上記イのとおり、摘示事実②が真実 であるとは認められないのであるから、摘示事実③が真実であると認め ることはできない。 また、被告らにとって、摘示事実②の相当性は認められないのであるか 5 ら、摘示事実③についても真実であると信じるにつき相当の理由があっ たと認めることはできない。 エ そして、原告グループは、令和2年3月期末において最低427億円の 連結債務超過状態にあるとの評価は、摘示事実②及び③を前提とするもの であるところ、前記イ及びウのとおり、摘示事実②及び③は真実であると 10 は認められず、また、真実であ 末において最低427億円の 連結債務超過状態にあるとの評価は、摘示事実②及び③を前提とするもの であるところ、前記イ及びウのとおり、摘示事実②及び③は真実であると 10 は認められず、また、真実であると信じるにつき相当の理由があったと認 めることもできず、評価の前提を欠くから、当該評価が違法性を欠き、ま た、被告らに故意又は過失がないということはできない(最高裁平成6年 (オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号380 4頁参照)。 15 ⑵ 本件記載2について ア 摘示事実①について 被告らは、あずさ監査法人は、当然、原告に対しのれんの減損について 疑義を示したはずであるし、そのように信じるについて相当の理由があ ると主張する。 20 しかしながら、あずさ監査法人が、原告のカッパ・クリエイトやレイン ズの事業ののれんに資産性を認めることはできないと述べたと認めるに 足る証拠はなく、摘示事実①が真実であると認めることはできない。 被告らは、原告の有価証券報告書にのれんの減損リスクの記載があるこ と(乙1の15頁)をもって、あずさ監査法人が原告に対しのれんの減 25 損について疑義を示したと主張するが、のれんの減損リスクと現実にの 25 れんを減損すべきかどうかとは別の問題であることから、被告らの主張 は理由がない。そして、被告Aは、本件記事の執筆に当たり、取材を一 切行っていない(前記1⑸)こと、他にこれを真実であると信じたこと が相当であることを基礎付けるに足る事情は認められないことからすれ ば、摘示事実①について真実であると信じるにつき相当の理由があった 5 と認めることはできない。 イ 摘示事実②について (ア) 真実性について 前記アのとおり、あずさ監査法人が、原告のカッパ・クリエイトやレ インズの事業ののれんに資産 つき相当の理由があった 5 と認めることはできない。 イ 摘示事実②について (ア) 真実性について 前記アのとおり、あずさ監査法人が、原告のカッパ・クリエイトやレ インズの事業ののれんに資産性を認めることはできないとの指摘をした 10 ことについて、真実であると認めることはできないから、摘示事実②は、 その前提を欠くと認められる。 また、原告が、あずさ監査法人に対し、コロナ禍での減損会計厳格適 用緩和要請を主張し、その結果、あずさ監査法人が原告の主張を了承し たという事実を認めるに足る証拠もない。 15 なお、被告らは、原告の令和3年度(2021年度)の有価証券報告 書に政府の協力金の記載がされていることをもって、減損会計厳格適用 緩和要請の援用そのものであり、2020年度3月期も同様であったは ずであると主張するが、協力金の支給と減損会計厳格適用緩和要請とは 別の事実であり、また、会計年度も異なるから、被告らの主張は、理由 20 がない。 したがって、摘示事実②が真実であると認めることはできない。 (イ) 相当性について 被告らは、原告は毎年見通しが甘い事業計画を立て、大幅な下方修正 を繰り返していたのであるから、政府の緊急経済対策の実施等も考慮に 25 入れたと考えるのが当然であるし、そのように信じるについて相当の理 26 由があると主張する。 しかしながら、そもそも政府の緊急経済対策の実施を考慮に入れて事 業計画を立てることと減損会計厳格適用緩和要請を用いて監査法人に抵 抗することとは別の事実であるから、被告らの主張は、失当である。ま た、そもそも被告Aは、本件記事の執筆に当たり、原告等に対する取材 5 を一切行っていない(前記1⑸)。 したがって、摘示事実②について、真実であると信じるにつき相当の 理由があったと認めることはで た、そもそも被告Aは、本件記事の執筆に当たり、原告等に対する取材 5 を一切行っていない(前記1⑸)。 したがって、摘示事実②について、真実であると信じるにつき相当の 理由があったと認めることはできない。 ウ 摘示事実③について (ア) 真実性について 10 前記1⑷のとおり、原告の監査法人は、令和2年6月30日にあずさ 監査法人から監査法人トーマツに交代している。 しかしながら、原告が、令和2年3月期決算監査に関する意見対立か らあずさ監査法人から交代させたことを認めるに足る証拠はなく、摘示 事実③が真実であると認めることはできない。 15 (イ) 相当性について 被告らは、あずさ監査法人は当然、原告に対しのれんの減損について 疑義を示したはずであって、のれんの減損を避けたい原告とあずさ監査 法人の意見が対立し、監査法人の交代に影響があったはずであるし、そ のように信じるについて相当の理由があると主張する。しかしながら、 20 有価証券報告書にのれんの減損リスクの記載があるからといって、直ち にあずさ監査法人が原告に対しのれんの減損について疑義を示したとい うことはできず(前記ア参照)、本件各証拠に照らしても、他にこれを 真実であると信じたことが相当であることを基礎付けるに足る客観的な 事情があるとは認められない。加えて、被告Aは、本件記事の執筆に当 25 たり原告等に対する取材を一切行っていないのであるから(前記1 27 ⑸)、摘示事実③について、真実であると信じるにつき相当の理由があ ったと認めることはできない。 ⑶ 小括 以上より、本件各記載について、いずれも真実性及び相当性を認めること はできない。 5 したがって、被告らは、違法に原告の社会的評価を低下させる行為を行っ たと認められるから、被告らの行為は不法行為であると認めら 各記載について、いずれも真実性及び相当性を認めること はできない。 5 したがって、被告らは、違法に原告の社会的評価を低下させる行為を行っ たと認められるから、被告らの行為は不法行為であると認められる。 4 争点3(原告の損害額、本件各記載の削除及び謝罪広告の要否)について ⑴ 損害額について ア 本件記事の内容に照らして、上場企業である原告の経済的信用に与える 10 影響は極めて大きいものと認められる。そして、本件記事は誰でも無料で 読むことができ、かつ、ライブドアニュースやYahooニュースでも公 開されていること(前記第2の2⑵)その他本件に現れた一切の事情も総 合すると、本件記事の本件ウェブサイトへの掲載によって原告が被った社 会的評価の低下に対する慰謝料は、400万円とするのが相当である。 15 イ 被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、40万円とする のが相当である。 ウ 本件記事は、被告Aが本件記事を執筆し、被告新潮社がこれを本件ウェ ブサイトに掲載するとの合意に基づいて掲載されたものであるから(前記 第2の2⑵ウ)、被告らは、共同不法行為に基づき、前記ア及びイの合計 20 440万円を連帯して原告に支払う義務を負う。 ⑵ 本件各記載の削除及び謝罪広告の要否について ア 本件記事の内容及び本件記事が現在も公開され不法行為が継続している こと(弁論の全趣旨)に照らすと、原告の名誉回復のため、被告新潮社に 対し、本件記事のうち、本件各記載の削除を命ずる必要があると認められ 25 る。 28 イ 他方で、謝罪広告は、その性質上、名誉回復のためにその必要性が特に 高い場合に限って命ずるのを相当とする措置であると解すべきところ、本 件に現れた一切の事情を考慮しても、原告の名誉を回復するために前記⑴ の損害賠償及び前記アの本件 上、名誉回復のためにその必要性が特に 高い場合に限って命ずるのを相当とする措置であると解すべきところ、本 件に現れた一切の事情を考慮しても、原告の名誉を回復するために前記⑴ の損害賠償及び前記アの本件各記載の削除に加え、謝罪広告を行うことが 必要であるとは認められない。 5 第4 結論 よって、原告の請求は、被告らに対し連帯して440万円及びこれに対する 不法行為日(本件記事の掲載日)である令和2年7月6日からの遅延損害金の 支払並びに被告新潮社に対し本件各記載の削除を求める限度で理由があるから その限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとお 10 り判決する。 東京地方裁判所民事第32部 裁判官 寺 岡 洋 和 15 裁判官 原 健 志 20 裁判長裁判官坂本三郎は、転官のため、署名押印することができない。 裁判官 寺 岡 洋 和 25

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