平成28(ワ)1903 築炉じん肺損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年7月18日 福岡地方裁判所 棄却
ファイル
hanrei-pdf-88972.txt

判決文本文51,104 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告は,原告A,原告B及び原告Cに対し,それぞれ1100万円及びこれに対する平成28年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告D及び原告Eに対し,それぞれ3300万円及びこれに対する平成28年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等本件は,築炉業を営む被告に雇用され,築炉工として,その作業に従事することにより当該労働者がじん肺にかかるおそれがあると認められる作業である炉の新築・補修・解体(以下「築炉作業」という。)に従事したことにより,けい肺若しくは石綿肺(以下「じん肺等」ともいう。)にり患したと主張する者又はその承継 人である原告らが,被告に対し,被告には雇用者として,従業員に築炉作業を行わせるに際して適切な粉じん対策を講じ,その従業員が,じん肺等にり患することのないよう配慮すべき義務があるのにこれを怠ったため,被告の築炉工であった原告E(以下「原告E」という。),同D(以下「原告D」という。)及び亡F(以下「亡F」といい,原告E及び同Dと併せて「本件築炉工ら」という。)が,じん肺 等にり患し,各3300万円(慰謝料3000万円及び弁護士費用300万円の合計額。)の損害が生じたと主張して,債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として,原告A(以下「原告A」という。),同B(以下「原告B」という。)及び同C(以下「原告C」といい,原告A及び原告Bと併せて「原告相続人ら」という。)については各1100万円(うち550万円は亡Fより相続〔原 告相続人らの法定相続分は各 「原告B」という。)及び同C(以下「原告C」といい,原告A及び原告Bと併せて「原告相続人ら」という。)については各1100万円(うち550万円は亡Fより相続〔原 告相続人らの法定相続分は各6分の1。〕したもの,うち550万円は亡G〔以下 「亡G」という。〕が亡Fより相続〔亡Gの法定相続分は2分の1。〕した1650万円につき原告相続人らが亡Gよりそれぞれ相続〔原告相続人らの法定相続分は各3分の1。〕したもの。),原告D及び同Eについては各3300万円,並びにこれらに対する本訴状送達の日の翌日である平成28年6月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。枝番号のある証拠については,特に枝番号を掲記しないときは全ての枝番号を含む。以下同じ。)(1) 当事者等ア原告ら(弁論の全趣旨) (ア) 本件築炉工らは,いずれも,被告の下で築炉工として築炉作業に従事したほか,株式会社H(以下「H」という。)を含む他の会社の下で,築炉作業やその他の仕事に従事していた(ただし,それぞれその就労期間や就労場所,担当した作業等の具体的な内容については争いがある。)。 (イ) 原告Eは,遅くとも平成5年8月24日までに,じん肺法(昭和35 年法律第30号「じん肺法」〔以下「旧じん肺法」という。〕につき,昭和52年7月「じん肺法の一部を改正する法律」〔昭和52年法律津第76号〕により改正されたじん肺法〔以下「改正じん肺法」といい,旧じん肺法と改正じん肺法の総称を「じん肺法」という。〕による。)に基づき,じん肺管理区分2の決定を受けた。(甲E1,2,乙ロ 法律津第76号〕により改正されたじん肺法〔以下「改正じん肺法」といい,旧じん肺法と改正じん肺法の総称を「じん肺法」という。〕による。)に基づき,じん肺管理区分2の決定を受けた。(甲E1,2,乙ロE5,弁論の全趣旨) (ウ) 原告Dは,遅くとも平成18年8月頃までに,福岡労働局長から,改正じん肺法に基づき,じん肺管理区分2の決定を受け,じん肺による肺機能の障害がある旨認定された。(甲F2,弁論の全趣旨)(エ) 亡Fは,平成8年12月頃,福岡労働基準局長から,改正じん肺法に基づき,じん肺管理区分3のイの決定を受け,併せて,続発性気管支炎の合併症に かかっていると認定された(甲G1,2)。 亡Fは,平成26年6月29日,じん肺死した(甲G7)。 亡Fの相続人は,妻の亡G(その相続分は2分の1)と,亡Fと亡Gの子である原告A,同B及び同Cであった(その相続分は各6分の1)。 亡Gは平成30年8月28日に死亡し,原告A,同B及び同Cは,遺産分割により,亡Gの相続財産を3分の1ずつ相続した。(争いなし) イ被告は,昭和18年創業の渡邊組を前身とする築炉業者であり,昭和25年に株式会社となった。 被告が築炉を請け負ってきた主要な製鉄所は,I株式会社及びJ株式会社(同社が昭和42年に合併したK株式会社を含む。),あるいは昭和45年に両者が合併して発足した,L株式会社(現在のM株式会社。以下「M」という。)の関連製鉄 所である,N(遅くとも昭和25年以降),O(遅くとも昭和33年以降),P(遅くとも昭和37年以降),Q(遅くとも昭和42年以降),R(昭和45年以降)である。(弁論の全趣旨)(2) 築炉作業の概要築炉とは,窯や炉の内側高温部分を,耐火れんが等の耐火 ),P(遅くとも昭和37年以降),Q(遅くとも昭和42年以降),R(昭和45年以降)である。(弁論の全趣旨)(2) 築炉作業の概要築炉とは,窯や炉の内側高温部分を,耐火れんが等の耐火物で構築する作業をい い,具体的な作業工程には,れんがの配列,組積み様式などについて,あらかじめ最も適した方法を選定する「れんが割付け(れんが割)」,れんが割付けに基づき,又は寸法誤差を調整するために,れんがを切断又は切削して所定の形にし,又は研磨する「れんが加工」(以下「本件加工作業」という。),袋に入ったモルタル粉末をミキサーに投入して水を注いで混錬し,れんがを積む際の目地材である耐 火モルタル(トロ)を練る「トロ練り」,れんがにトロを付け,れんが割付けのとおり耐火れんがを積み上げていく「れんが積み」(以下「本件積上げ作業」という。)などがある。 また,構築された炉を補修する作業(既存のれんがの取外し又は破壊,解体〔以下「本件取外し作業」という。〕と,新たなれんがの積上げ〔本件積上げ作業〕) は,修炉ともいい,傷んだれんがのみを部分的に取り換える場合と,れんが全体を 解体して炉を新たに構築する場合とがある。 (3) じん肺に関する一般的知見アじん肺の定義等じん肺は,「粉じんを吸入することによって肺に生じた繊維増殖性変化を主体とする疾病」(改正じん肺法2条1項1号)とされ,粉じん(粉塵)が肺内に沈着す ると,肺組織が,長い年月をかけて,これを細胞内部に取り込む線維化と呼ばれる生体反応を続け,やがて肺胞腔内の線維が固い結節となり,最後には融合して手拳大の塊になり,肺胞壁を閉塞させるというものであり,吸い込む粉じんの種類(けい酸じん又はけい酸を含む粉じん,石綿を含む粉じん)により,けい肺や石 て肺胞腔内の線維が固い結節となり,最後には融合して手拳大の塊になり,肺胞壁を閉塞させるというものであり,吸い込む粉じんの種類(けい酸じん又はけい酸を含む粉じん,石綿を含む粉じん)により,けい肺や石綿肺等に分類される。なお,じん肺法及び同施行規則(昭和35年労働省令第6号,以下 「旧じん肺法施行規則」という。)は,続発性気管支炎等を,じん肺の合併症(じん肺と合併した肺結核その他のじん肺の進展経過に応じてじん肺と密接な関係があると認められる疾病をいう。以下同じ。)と定めている(同法2条1項2号,同法施行規則1条)。(じん肺の分類について,弁論の全趣旨)イじん肺による病変 じん肺による病変は不可逆的であり,現在の医学では治療不可能である。また,肺内に粉じんが存在する限り前記アの生体反応が継続するところ,肺の線維増殖性変化は,粉じんの量に対応して進行し,無限に進行するものではないものの,気管支変化,肺気腫は進行し続ける。そのため,粉じん作業に従事する労働者が粉じんを発散する職場を離れた後,長い年月を経て初めてじん肺の所見が発現することも 少なくない。じん肺の進行の程度,速度は多様であるが,進行する場合の予後は不良であり,心肺機能障害は乏酸素血症を招き,その結果全身萎縮を来し,あるいは心不全より肺性心を招き,また肺感染症を合併して死亡に至る。 ウじん肺管理区分等(ア) 昭和30年7月29日,けい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保 護法(昭和30年法律第91号。昭和35年法律第29号により廃止された。以下 「けい特法」という。)が制定され,「遊離けい酸じん又は遊離けい酸を含む粉じんを吸入することによって肺に生じた繊維増殖性変化の疾病及びこれと肺結核の合併した疾病」をけい肺と れた。以下 「けい特法」という。)が制定され,「遊離けい酸じん又は遊離けい酸を含む粉じんを吸入することによって肺に生じた繊維増殖性変化の疾病及びこれと肺結核の合併した疾病」をけい肺とし,けい肺第1症度からけい肺第4症度までのけい肺の症状を決定する手続が定められた。 (イ) 昭和35年3月1日,旧じん肺法が制定され,「鉱物性粉じんを吸入 することによって生じたじん肺及びこれと肺結核の合併した病気」をじん肺とし,エックス線写真像,心肺機能検査の結果,結核精密検査の結果,胸部に関する臨床検査の結果の組合せによる,管理1から管理4までの「健康管理の区分」を決定する手続が定められた。同法は,その後,昭和52年7月に改正され(改正じん肺法),エックス線写真像と肺機能障害の組合せによる,管理1から管理4までの 「じん肺管理区分」を決定する手続が定められた。 エじん肺を発症し得る作業の分類等(ア) 昭和30年制定のけい特法は,築炉作業のうち,「耐火れんがを用いる炉の中に入って,耐火れんがを取り換え,その他炉を修理する作業」(本件積上げ作業及び本件取外し作業に該当する。)を「粉じん作業」と定めた(けい特法2 条1項2号・別表第一)。 (イ) 昭和35年制定の旧じん肺法の委任を受けたじん肺法施行規則は,「耐火物を用いてかま若しくは炉を築造し,若しくは修理し,又は耐火物を用いたかまその他の物を解体し,若しくは破砕する作業」を「粉じん作業」と定め(同規則別表第一の12号),これにより,炉の築造(新築)を含む,築炉作業全般が粉 じん作業に該当することとなった。 (ウ) 昭和54年制定の粉じん障害防止規則(昭和54年4月25日号外労働省令第18号)は,築炉作業を「粉じん作業」と定め(粉じん 築炉作業全般が粉 じん作業に該当することとなった。 (ウ) 昭和54年制定の粉じん障害防止規則(昭和54年4月25日号外労働省令第18号)は,築炉作業を「粉じん作業」と定め(粉じん障害防止規則が定める粉じん作業は,じん肺法施行規則から石綿関係の作業を除いたものとほぼ同じ作業であり,以下では特記しない限り根拠法を区別せず「粉じん作業」とい う。),さらに,粉じん作業のうち,作業の方法,粉じんの発生の仕方などから一 定の発生源対策を行うことができるものを「特定粉じん作業」(以下,単に「特定粉じん作業」といい,これ以外の粉じん作業を「特定外粉じん作業」という。)と定め,労働者に特定粉じん作業を行わせる事業者に対し,①粉じん発生源に応じた局所排気装置又は除じん装置の設置等,粉じん発散防止のための措置,②粉じん濃度の測定,及び③じん肺に関する特別の教育の実施を義務付けた(以下,①から③ までの措置を併せて「特定粉じん作業対応措置」という。)。 (4) 本件訴訟の提起ア原告らは,平成28年6月15日,福岡地方裁判所に対し,被告及びHを被告らとして,安全配慮義務違反に基づく損害賠償の支払を求める本件訴えを提起した。(顕著事実) イ平成31年2月12日,原告らのHに対する請求について弁論が分離され,原告らとHとの間で,Hが,本件築炉工らがじん肺にり患したことに対する損害賠償として,原告Eに対しては825万円,同Dに対しては550万円,同A及び同Bに対しては各366万6667円,同Cに対しては366万6666円を,それぞれ支払う旨の和解が成立した。(顕著事実) 2 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 本件築炉工らが被告に雇用された期間(争点1)(原告らの主 は366万6666円を,それぞれ支払う旨の和解が成立した。(顕著事実) 2 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 本件築炉工らが被告に雇用された期間(争点1)(原告らの主張)本件築炉工らは,次の各期間,被告に雇用され,次の各作業を担当するなどして,築炉工として就業していた。(別紙「就労期間一覧表」の原告らの主張欄) ア原告E(ア) 昭和38年7月から昭和39年1月まで(コークス炉新設,トピードカーの改修及び補修,高炉及び熱風炉の改修のほか,転炉,平炉,取鍋,バッチ炉の築炉作業)(イ) 平成3年1月から平成19年8月まで(コークス炉新設,トピードカ ーの改修及び補修,高炉及び熱風炉の改修のほか,転炉,平炉,取鍋,バッチ炉の築 炉作業)イ原告D(ア) 昭和34年5月から昭和36年9月まで(コークス炉築造と平炉補修)(イ) 昭和44年4月から昭和46年9月まで(コークス炉築造)ウ亡F (ア) 昭和32年4月から昭和39年10月まで(コークス炉及び熱風炉築造と補修)(イ) 昭和43年1月から昭和46年10月まで(コークス炉及び高炉築造と補修)(ウ) 昭和49年1月から同年12月まで(高炉改修築造と補修) (エ) 昭和57年5月から昭和58年5月まで(コークス炉修理,保全)(被告の主張)本件築炉工らが,被告を勤め先として厚生年金に加入していた次の各期間に,被告に雇用され,築炉工として次の各築炉作業を担当したことは認め,その余は否認する。 (別紙「就労期間一覧表」の年金記録欄) ア原告E(ア) 昭和38年7月から昭和39年1月まで 雇用され,築炉工として次の各築炉作業を担当したことは認め,その余は否認する。 (別紙「就労期間一覧表」の年金記録欄) ア原告E(ア) 昭和38年7月から昭和39年1月まで(コークス炉築造)(イ) 平成4年10月1日から平成19年8月31日まで(トピードカー改修及び補修,高炉及び熱風炉改修,並びにコークス炉築造)イ原告D (ア) 昭和34年7月1日から昭和36年9月1日まで(コークス炉築造)(イ) 昭和44年11月20日から昭和46年2月1日まで(コークス炉築造)(ウ) 昭和46年6月1日から同年9月30日まで(コークス炉築造)ウ亡F (ア) 昭和32年8月1日から同年9月4日まで(コークス炉築造) (イ) 昭和34年7月1日から昭和36年9月18日まで(コークス炉築造)(ウ) 昭和38年8月1日から昭和39年1月28日まで(コークス炉築造)(エ) 昭和46年6月1日から同年9月30日まで(コークス炉築造)(2) 被告が負っていた安全配慮義務の内容及びその違反の有無(争点2)(原告らの主張) ア被告が負っていた安全配慮義務の具体的内容(ア) 被告は,本件築炉工らの使用者として,本件築炉工らに対し,労働契約上の信義則に基づき,本件築炉工らの生命,身体の安全と健康を保持し,その侵害を未然に防止すべき安全配慮義務を負っていた。 じん肺被害が人の生命及び健康という掛替えのない絶対の価値にかかわるもので あること,じん肺防止対策は,じん肺法制定以降,確立していること,被告は,粉じん作業による労働者の生命,健康への危険を事前に予測できる上,築炉の専門業者と 替えのない絶対の価値にかかわるもので あること,じん肺防止対策は,じん肺法制定以降,確立していること,被告は,粉じん作業による労働者の生命,健康への危険を事前に予測できる上,築炉の専門業者として,予見可能性及び結果回避についての十分な能力もあったこと,他方,本件築炉工らは,職場環境を改善できる立場にはない上,適切な教育を受けなければ,じん肺の危険性を認識して自ら対策を取ることは困難であること,といった事実に照らせば, 本件築炉工らを築炉作業に従事させるに当たって負う安全配慮義務は,粉じん対策について周到な注意を払い,万全の措置を尽くすべき,極めて高度なものである。このことは,労働基準法及び安全衛生法が,事業者に対し,職場における労働者の安全と健康を確保し,快適な作業環境の形成(労働安全衛生)を実現するために必要な措置を講じるよう義務付けた上,労働安全衛生を実現するために,法が定める最低基準に 留まらない,積極的な努力をすることも義務付けている(安全衛生法3条)ことからも裏付けられる。 (イ) 具体的には,炭鉱,鉱山,トンネルなどの粉じん作業の現場においては,労働衛生工学により確立している,①作業環境管理,②作業条件管理,③健康管理という,いわゆる「3管理」によって,絶えず,その時点における実践可能な最高 の医学的・科学的・技術的水準に基づく,総合的,体系的な対策を採ることが,使用 者に求められている。このことは,使用者が,その従業員に対し,特定外粉じん作業を行わせる場合においても同様に当てはまる。以上に基づき,被告が,本件築炉工らを築炉作業に従事させるに当たり,採るべき具体的な対策は,次のaからdまでのとおりであった。 a 作業環境測定 作業環境管理にあっては,粉じん測定によっ き,被告が,本件築炉工らを築炉作業に従事させるに当たり,採るべき具体的な対策は,次のaからdまでのとおりであった。 a 作業環境測定 作業環境管理にあっては,粉じん測定によって,作業環境に有害な因子がどの程度存在し,その作業環境で働く労働者がこれらの有害な因子にどの程度ばく露しているかを把握することが不可欠であり,被告には,作業場で定期的に粉じん測定を行う義務があった。 b 作業環境管理 ①粉じん作業環境の改善には,有害因子である粉じんの排除が最も有効な対策といえるから,被告には,第一次的に,発じんの防止措置を講じる義務があり,②作業現場から粉じんを完全になくすことができない場合は,その発散を抑止することが有効な対策といえるから,被告には,除じん措置を講じる義務があり,③作業現場から粉じんの発散を抑制できない場合には,粉じんから労働者を隔離して粉じんばく露を防 止することが必要であるから,被告には,本件築炉工らをブレーカーによる破砕作業に当たらせるに際して,ブレーカーにフードを設け,集じん機によって発生した粉じんを除去するなどの措置を講じる義務があり,④発生した粉じんが作業場全体に飛散,拡散するのを防止するためには,発生した粉じんを作業場外に早期に排出する対策が必要であるから,被告には,局所排気装置や集じん装置を利用し,又は清掃を行うな どの措置を講じる義務があり,⑤ここまでの対策によっても作業場の粉じん濃度を充分に低下させられない場合は,作業場全体の空気を入れ替える必要があり,被告には,作業場の全体換気措置を講じる義務があった。 c 作業条件管理作業条件管理とは,作業環境を汚染させず,又は労動者の粉じんのばく露や作業負 荷が軽減されるよう,各種の作業条件 作業場の全体換気措置を講じる義務があった。 c 作業条件管理作業条件管理とは,作業環境を汚染させず,又は労動者の粉じんのばく露や作業負 荷が軽減されるよう,各種の作業条件や作業方法に関する作業標準を整備した上で, これを適切に実施することをいう。被告には,作業条件,作業方法,使用材料,使用設備等を定め,また,粉じんばく露時間を抑えるために労働時間を短縮し,又は休憩時間を設け,休憩場所設置を設置すべき義務があったほか,除じん効率が高く通気抵抗のかからない高規格の防じんマスク(呼吸用保護具)を無償支給し,その着用を徹底し,及びフィルター交換が容易にできる体制を確立するなどの措置を講じる義務が あった。 d 健康管理健康管理とは,労働者個々人の健康状態をチェックし,又は健康状態を回復するための医学的,労務管理的な措置をとることをいう。被告には,本件築炉工らを築炉作業に従事させるに当たり,胸部エックス線検査を含む健康診断を受けさせることはも とより,じん肺等の専門医によるじん肺健康診断を受けさせる義務があった。 また,労働安全衛生を実効的に推進するためには,労働者に対する情報の開示及び周知徹底と,安全衛生教育の実施が不可欠であるから,被告には,本件築炉工らを築炉作業に従事させるに当たり,作業現場の粉じん測定結果及びこれに基づく危険の程度を告知し,また,労働者自身が粉じんの危険性やじん肺発生のメカニズムを認識し て,主体的に予防措置や,じん肺り患時の適切な処置が行えるよう,作業場に注意事項等の掲示板を設置するとともに,じん肺法が定める雇入れ教育とは別に,ビデオでじん肺の被害状況を見聞させるなどして,定期的,計画的な特別教育を実施する義務があった。 イ被告の安全配 注意事項等の掲示板を設置するとともに,じん肺法が定める雇入れ教育とは別に,ビデオでじん肺の被害状況を見聞させるなどして,定期的,計画的な特別教育を実施する義務があった。 イ被告の安全配慮義務違反 被告は,以下のとおり,安全配慮義務に違反した。 (ア) 粉じん測定実施義務違反被告は,本件築炉工らが就労した期間において,高炉・熱風炉の粉じん測定を行ったことはなく,コークス炉及びトピードカーの粉じん測定を定期的に行ってはいなかった。 (イ) 作業環境管理義務違反 被告は,本件築炉工らが就労した期間において,炉の全体換気や局所排気,集じん・除じん装置の使用・設置,作業の湿式化・湿潤化・密閉化等を,いずれも適切に実施していなかった。 被告は,コークス炉の建屋に開口部を設け,換気扇を設置したと主張するが,コークス炉の築造は,建屋の内部でれんがを垂直に積み上げて行うものであるから,その 進行とともに足場が上がって閉塞的な作業環境となるものであるから,建屋に開口部があり,換気扇が4つ設置されているという程度では,換気措置として適当とはいえない。 また,被告は,トピードカー内でのれんがの取外しに際しては集じん機を用いた旨主張するが,被告においては3台のトピードカー修理が同時に行われる環境にあった ところ,上記集じん機の吸い込み口は2台分しかなかったのであるから,措置としては不十分であった。 そして,被告は作業場の粉じん測定を行っていないのであるから,被告が実施した措置が実効的なものであったということもできない。 (ウ) 作業条件管理義務違反 被告は,本件築炉工らが就労した期間において,粉じんばく露時間を抑えるための作業時間管理を行っておらず,高規格の ものであったということもできない。 (ウ) 作業条件管理義務違反 被告は,本件築炉工らが就労した期間において,粉じんばく露時間を抑えるための作業時間管理を行っておらず,高規格の粉じんマスクの無償支給及び着用の徹底をせず,粉じんマスクのフィルター交換体制も確立していなかった。現に被告は,本件築炉工らに対してマスクの無償支給を継続的に行ってきた証拠を提出していないし,被告の社史(甲B13)には,築炉工がマスクをせずに本件積上げ作業を行っている写 真が掲載されている。 (エ) 健康管理義務違反被告は,本件築炉工らが就労した期間において,本件築炉工らに定期的なじん肺健康診断を受けさせず,また,本件築炉工らに対して,作業環境等の情報開示や周知徹底をせず,適切な安全衛生教育やじん肺教育を定期的,計画的に実施しなかった。現 に被告は,本件築炉工らに対して,じん肺教育や健康診断を定期的,継続的に行って きた証拠を提出していない。 ウ本件築炉工らの粉じんへのばく露本件築炉工らは,被告の下において,築炉作業として,本件積上げ作業のほか,本件加工作業及び本件取外し作業を頻繁に行っていた。その際,被告の作業場では,本件加工作業,本件積上げ作業及び本件取外し作業のほか,トロ練りなどによって大量 の粉じんが発生して浮遊していた上,その作業場は,いずれの炉も鉄板で覆われるなど密閉された空間であり,複数人が同様の作業をするため,床などに堆積した粉じんも舞い上がって飛散していた。また,コークス炉の築炉作業工程においては,石綿が使用されていた。 そのため,別紙「就労期間一覧表」の「原告ら主張」の期間のうち,被告に就労し た期間に,被告の指揮の下で築炉作業を行った本件築炉工らは,石綿粉じ 作業工程においては,石綿が使用されていた。 そのため,別紙「就労期間一覧表」の「原告ら主張」の期間のうち,被告に就労し た期間に,被告の指揮の下で築炉作業を行った本件築炉工らは,石綿粉じんを含む大量の粉じんにばく露することとなった。 (被告の主張)ア被告の安全配慮義務の内容築炉作業は,法令上,特定粉じん作業ではないから,被告において,特定粉じん作 業において求められる措置(特定粉じん作業対応措置)をとる必要はなく,特定外粉じん作業において,法律上求められる措置(全体換気装置による換気の実施又はこれと同等以上の措置,休憩設備及び粉じん除去用具の備付け,清掃,呼吸用保護具の使用,安全衛生教育,じん肺健康診断の実施)を実施すれば足りる。したがって,原告らが主張するような特定粉じん作業対応措置等をとる義務はない(なお,被告が,法 律上求められる措置を超えて対応していることは後記のとおりである。)。しかも,築炉工のじん肺り患に係る安全配慮義務の内容は,各築炉業者の活動実態によっても,炉の種類によっても,築炉業務の具体的な内容及び就労環境が異なることから,個別にみるほかない。被告の築炉作業は,次の(ア)及び(イ)のとおりであり,現場の粉じん発生は極めて少ないのである。 (ア) 被告の築炉作業の特色 a 被告は,昭和38年頃から,築炉工と,「整備工」と呼ばれる補助担当者(手元工)の職種を設け,築炉作業のうち,コークス炉に関しては,築炉工を耐火れんがを積み上げる作業(本件積上げ作業)に,整備工をれんがの切断又は切削して所定の形にする作業並びにれんがの手渡し,トロの準備及び清掃等の業務(以下「本件準備・清掃等作業」という。)に,トピードカーに関しては,築炉工を本件積上げ げ作業)に,整備工をれんがの切断又は切削して所定の形にする作業並びにれんがの手渡し,トロの準備及び清掃等の業務(以下「本件準備・清掃等作業」という。)に,トピードカーに関しては,築炉工を本件積上げ作 業に,整備工を本件取外し作業に,それぞれ従事させていた。また,築炉工に必要とされる技術は,炉の種類により異なる点が多いため,被告は,築炉工を,炉の種類ごとに専門的に担当させてきた。したがって,本件築炉工らは,昭和32年から平成19年までの間,コークス炉における築炉作業に従事し,原告Eは,平成4年から平成19年までの間,トピードカー並びに高炉及び熱風炉における築炉作業に従事してい たにとどまる。 b 被告は,築炉事業において,M等の発注者から,当該炉の設計に応じた形状・寸法の耐火れんが(使用される場所に合わせて加工されたものを含む。)を支給されていた。そのため,本件積上げ作業に際し,本件加工作業が必要になることはわずかであった。また,耐火れんが自体,高温で焼き固められたものであり,被告に 支給される際に表面の埃は除去され,梱包された状態で納品される。したがって,本件積上げ作業において粉じんが発生することは,ほとんどない。 c 被告は,コークス炉の築造に際し,石綿を使用していない。 d 被告の下で粉じんにばく露する機会があるのは,築炉工より,むしろ本件取外し作業,本件加工作業及び本件準備・清掃等作業を行う整備工であるが,過 去に他企業において築炉業務に従事した経歴がある者を含めて,被告の整備工の中に,じん肺にり患した者はいない。 (イ) 炉の種類ごとの具体的状況及び築炉工の作業内容は次のとおりである。 a コークス炉の築造は,耐火れんがを垂直・水平方向に積み上げること( ,じん肺にり患した者はいない。 (イ) 炉の種類ごとの具体的状況及び築炉工の作業内容は次のとおりである。 a コークス炉の築造は,耐火れんがを垂直・水平方向に積み上げること(本件積上げ作業)を基本とする。本件積上げ作業により粉じんが舞うことはほとん どない。本件積上げ作業には製鉄所から支給された加工済みのれんがを使用するため, 本件加工作業のうち手作業(以下,手作業の本件加工作業を「本件加工手作業」という。)が必要になるのは,炉頂部にある曲面部分についてだけであり,曲面部分の割合は炉全体の1%にも満たない。しかも,本件加工作業のうち,定型的なものは,被告において建屋の外に設けた密閉された作業所で,整備工が,切断機を用いて行うから,築炉工が本件加工作業を行う場面は極めて少ない。 b トピードカーの修炉は,まず,整備工が,取換えを要する耐火れんがを取り外し(中修理),又は,工場外において重機を用いて数日かけて耐火れんがを取り外した(大修理)(本件取外し作業)後で,築炉工が,清掃済みのトピードカーの内部で新たに耐火れんがの積上げ作業(本件積上げ作業)を行う。 c 高炉及び熱風炉の修炉は,まず,解体業者が耐火れんがを全て取り外 して(本件取外し作業),清掃を行い,その後,築炉工が,炉の内部に入って,新たに耐火れんがの積上げ作業(本件積上げ作業)を行う。 イ安全配慮義務違反がないこと前記アのとおり,築炉作業は粉じん発生の少ないものであるが,被告は,じん肺対策として,法規の定めを超えて,積極的に対応してきた。すなわち,被告は,粉じん 障害防止規則等において定められた次の(ア)から(エ)までの措置と安全衛生教育のほか,作業環境測定や実態調査等を行ってきた。した の定めを超えて,積極的に対応してきた。すなわち,被告は,粉じん 障害防止規則等において定められた次の(ア)から(エ)までの措置と安全衛生教育のほか,作業環境測定や実態調査等を行ってきた。したがって,いずれの炉に係る築炉作業においても,被告に安全配慮義務違反があったということはできない。 (ア) 換気の実施a コークス炉の築造は,建屋の内部で行われる。同建屋の壁部分には大 きな開口部があり,換気装置も備えられていた。そして,労働省(当時)は,「作業環境評価基準」(昭和63年9月1日労働省告示第79号。以下,単に「作業環境評価基準」という。)により,粉じん測定結果の評価値が管理濃度に満たない場合を「第1管理区分」と定めていたところ,被告が実施した平成19年5月の粉じん測定結果によれば,築造のコークス炉の粉じん濃度は,第1管理区分であった。 b トピードカーの修理は,工場内で行われる。同工場の壁のうち,3面 には開口部があり,壁面上部には窓,天井には全体換気装置が設置されていた。また,整備工が耐火れんがを取外す際(本件取外し作業)には,散水と,集じん機による集じんを行っていた。 そして,被告が実施した平成元年5月の粉じん測定結果によれば,中修理中のトピードカー内部の粉じん濃度は,作業環境評価基準の第1管理区分であった。 c 高炉及び熱風炉を解体する際,炉の内部では集じん機を使用しているし,一方のマンホールからブロワーにより空気を送り込み,他方のマンホールからこれ吸い出して換気をしていた。 (イ) 休憩所及び洗浄器具の設置被告は,製鉄所の構内に事務所を有し,遅くとも昭和52年には炉の付近に休憩所 を設け,エアガンや靴底を洗浄するための器具を 出して換気をしていた。 (イ) 休憩所及び洗浄器具の設置被告は,製鉄所の構内に事務所を有し,遅くとも昭和52年には炉の付近に休憩所 を設け,エアガンや靴底を洗浄するための器具を設置している。 (ウ) 呼吸用保護具の使用被告は,築炉工に対し,法令に従って,適切な防じんマスクを支給してきた。 (エ) 健康診断の実施被告は,けい肺法及びじん肺法に基づき,その従業員に対し,健康診断を実施して きた。 (3) 本件築炉工らのじん肺り患と被告の安全配慮義務違反との因果関係(争点3)(原告らの主張)ア築炉作業は粉じん作業であるから,じん肺にり患する程度の粉じんが発生 することは明らかであり,本件築炉工らのじん肺り患の事実によって,築炉作業とじん肺り患との間の因果関係が,法律上推定される。 イ仮に前記アのような推定が働かないとしても,本件築炉工らは,被告の下での築炉作業に際し,じん肺にり患するおそれがある多量の粉じんにばく露しているから,因果関係は認められるし,少なくとも,民法719条1項後段の適用により, 因果関係が認められる。 (被告の主張)ア被告が築炉工に行わせる作業は,粉じんの発生量が少なく,粉じんばく露の程度が低いものであったから,本件築炉工らのじん肺り患と被告の築炉作業に因果関係はない。 イ粉じんばく露開始からじん肺発症までの期間は,最低二,三年,通常5年 から15年以上である。原告Eは,遅くとも平成5年8月にじん肺管理区分2の決定を受けているから,平成4年10月1日以降の就労によってり患したとはいえない。 また,原告Eは,昭和38年7月19日から昭和39年1月14日までの約6か月間,被告の下でコークス じん肺管理区分2の決定を受けているから,平成4年10月1日以降の就労によってり患したとはいえない。 また,原告Eは,昭和38年7月19日から昭和39年1月14日までの約6か月間,被告の下でコークス炉築造に従事しているが,その際の粉じんの発生は極めて少なく,同就労によりじん肺にり患したともいえない。 ウ原告Dがり患しているのは石綿肺であり,被告の築造する炉では石綿は使わないから,原告Dのじん肺り患と被告の築炉作業には因果関係がない。 (4) 本件築炉工らの損害の発生及び額(争点4)(原告らの主張)原告らは,築炉作業現場で粉じん作業に従事して粉じんにばく露し,その結果,前 提事実(1)アのとおり,じん肺等にり患するなどした。本件築炉工らへの慰謝料は1人当たり3000万円を下らない。また,弁護士費用としては1割相当額である300万円が相当である。 (被告の主張)慰謝料額は否認ないし争う。 第3 争点に対する判断 1 本件築炉工らが被告に雇用された期間(争点1)(1) 前提事実及び証拠(甲B13,甲D1,甲E3~10,甲F3,6,9の1・2,甲F12の1・3,甲F14~17,甲G3,6,証人S〔以下「証人S」という。〕,同I〔以下「証人T」という。〕,原告E本人,同D本人)によれば,本件築炉 工らの被告における就労期間及び担当した炉は次のとおりであると認められる。 ア原告E(ア) 昭和38年7月から昭和39年1月まで(コークス炉築造)(イ) 平成4年10月1日から平成19年8月まで(コークス炉築造,トピードカー改修及び補修,高炉改修,熱風炉改修)イ原告D (ア) 昭和34年5月から昭和36年9月まで(コー ) 平成4年10月1日から平成19年8月まで(コークス炉築造,トピードカー改修及び補修,高炉改修,熱風炉改修)イ原告D (ア) 昭和34年5月から昭和36年9月まで(コークス炉築造)(イ) 昭和44年4月から昭和46年9月まで(コークス炉築造)ウ亡F(ア) 昭和32年4月から昭和39年10月まで(コークス炉築造)(イ) 昭和43年1月から昭和46年10月まで(コークス炉築造) (ウ) 昭和49年1月から同年12月まで(コークス炉築造)(エ) 昭和57年5月から昭和58年5月まで(コークス炉築造)(2) 職歴に関する被告の主張についてア被告は,原告Dについて,①昭和34年5月から同年6月末日まで,②昭和44年4月から同年11月19日まで,③昭和46年2月2日から同年5月末日ま での各期間,原告Dは被告を勤め先として厚生年金に加入していないとして,上記各期間原告Dが被告に雇用されていない旨主張する。 しかしながら,原告Dは,平成18年に,昭和34年5月から昭和36年9月まで,及び昭和44年4月から昭和46年9月までの各期間,被告に雇用され,コークス炉の新設等に従事した旨の記載がある職歴申立表を作成しているところ(甲F6),平 成30年6月11日時点における原告Dの年金加入記録(甲F15)によれば,原告Dは,昭和44年4月1日から同年11月15日まで,昭和46年2月1日から同年6月1日までの各期間,被告を勤め先として厚生年金に加入していたことが認められ,上記職歴申立表に記載された被告における雇用期間合計4年9月のうち,4年5月は年金記録による裏付けがある。また,残りの昭和34年5月から7月1日まで,及び 昭和44年1 ていたことが認められ,上記職歴申立表に記載された被告における雇用期間合計4年9月のうち,4年5月は年金記録による裏付けがある。また,残りの昭和34年5月から7月1日まで,及び 昭和44年11月15日から同月20日までの各期間については,上記裏付けのある 期間と連続している上,被告に雇用されていたことを疑うような事情も認められないのである。したがって,上記①から③までの各期間も,被告に雇用されていたものと認めるのが相当である。 イ被告は,亡Fについて,①昭和32年4月から同年7月末日まで,②同年9月5日から昭和34年6月末日まで,③昭和36年9月19日から昭和38年7月 末日まで,④昭和43年1月から昭和46年5月31日まで,⑤昭和46年10月,⑥昭和49年1月から同年12月,⑦昭和57年5月から昭和58年5月までの各期間,被告を勤め先として厚生年金に加入していないとして,上記各期間,亡Fが被告に雇用されていない旨主張する。 しかしながら,亡Fは,平成8年に,昭和32年4月から昭和40年10月まで, 昭和43年5月から昭和46年10月まで,昭和49年1月から同年12月まで,及び昭和57年5月から昭和58年5月までの各期間,被告に雇用され,コークス炉の新設に従事した旨の記載がある職歴申立表を作成しているところ(甲G6),亡Fの年金加入記録(甲G3)並びに原告ら訴訟代理人弁護士伊黒忠昭の報告書(甲F16)及び原告Dの年金記録の訂正経緯(甲F6及び甲F15)によれば,亡Fは,昭和3 2年8月1日から同年9月4日まで,昭和34年7月1日から昭和36年9月18日まで,昭和38年8月1日から昭和39年1月28日まで,昭和43年1月8日から昭和46年9月30日までの各期間,被告を勤め先として厚生年金に加 9月4日まで,昭和34年7月1日から昭和36年9月18日まで,昭和38年8月1日から昭和39年1月28日まで,昭和43年1月8日から昭和46年9月30日までの各期間,被告を勤め先として厚生年金に加入していたことが認められ,上記職歴申立表に記載された被告における雇用期間合計13年4月のうち,11年3月の期間は年金記録による裏付けがある。また,昭和39年1月29 日から同年10月までの期間については,その後の同月15日からはHに雇用されていることと整合するし,上記職歴申立表のうち,昭和59年3月頃にUに雇用されていたという記載は,その間は国民保険に加入していたものの,Uが雇用者であったことを裏付ける雇用保険被保険者資格取得届出確認照会回答書(甲G4)が存在するなど,厚生年金に加入していない期間においても雇用されていたことを裏付ける証拠が 存在する上,残りの上記①から⑦までの各期間について,被告に雇用されていたこと を疑うような事情も認められないのであるから,これらの期間も被告に雇用されていたものと認めるのが相当である。 ウしたがって,被告の上記主張は,いずれも採用することができない。 (3) 職歴に関する原告らの主張についてア原告Eは,被告の下で,コークス炉新設,トピードカーの改修及び補修, 高炉及び熱風炉の改修のほか,転炉,平炉,取鍋,バッチ炉の築炉作業にも従事した旨主張し,これに沿う陳述書(甲E4)を提出する。 しかしながら,原告Eの就労期間中,被告の社史に被告が平炉,取鍋,バッチ炉の築炉作業を請け負っていた旨の記載はない(甲B13,乙ロD2)など,原告Eの陳述書の内容と被告の社史の内容は必ずしも整合しておらず,原告E自身,主としてコ ークス炉及びトピードカーの築炉作業に従 炉作業を請け負っていた旨の記載はない(甲B13,乙ロD2)など,原告Eの陳述書の内容と被告の社史の内容は必ずしも整合しておらず,原告E自身,主としてコ ークス炉及びトピードカーの築炉作業に従事したと供述し,被告における他の炉の築炉作業について具体的な供述はしておらず,他に上記陳述書の内容を裏付ける証拠もない。 イ原告Dは,被告の下で,コークス炉新設のほかに,平炉の補修を行った旨主張し,これに沿う原告Dの職歴申立表(甲F6)を提出する。 しかしながら,被告の社史に被告が平炉の築炉作業を請け負っていた旨の記載はない(甲B13,乙ロD2)上,他に被告が平炉の築炉作業を請け負っていたと認めるに足りる証拠はない。 ウ原告相続人らは,亡Fが,被告の下で,コークス炉新設のほかにも,高炉及び熱風炉の築造及び補修並びにコークス炉の修理及び保全を行った旨主張し,①昭 和32年4月から昭和40年10月までの間はOにおいて熱風炉の築炉作業を,②昭和43年5月から昭和46年10月までの間はRで高炉の築炉作業を,③所和49年1月から同年12月までの間はVで高炉の改修を,④昭和57年5月から昭和58年5月までの間はR及びWでコークス炉の修理を,それぞれ担当した旨の亡Fの職歴申立表(甲G6)を提出する。 しかしながら,被告の社史(甲B13)によれば,①の期間のうち,被告がOにお いて熱風炉の築造工事が行われた記載があるのは昭和35年,昭和37年及び昭和39年のみであり,②の期間において被告の大分事業所が高炉の築炉作業を請け負っていたことが明らかな記載はなく,③の期間において被告の広畑事業所が高炉の改修工事を請け負っていたことが明らかな記載はなく,④の期間において被告大分の事業所及び同釜石の事業所がコー 炉作業を請け負っていたことが明らかな記載はなく,③の期間において被告の広畑事業所が高炉の改修工事を請け負っていたことが明らかな記載はなく,④の期間において被告大分の事業所及び同釜石の事業所がコークス炉の修理を請け負っていたことが明らかな記載はな いなど,亡Fの職歴申立表の内容と被告の社史の内容は必ずしも整合しておらず,他に職歴申立表の内容を裏付ける証拠もない。 エ前記アからウまでに加え,就労を継続したか,他所に就業したか,休業していたかといった就労期間に係る記憶は比較的誤りが混入しにくいのに対し,就労内容に係る記憶は,原告D及び亡Fが,被告を含む複数の事業者の下で築炉作業に従事 していたことからすれば,被告における作業と,他の事業者でのそれとを混同することが考えられるのであり,就労期間については,他の事業者での就労状況との符合という具体的な裏付けが認められるのと異なり,担当作業については,その具体的な裏付けを欠くから,本件築炉工らの上記各供述はいずれも採用することができず,本件築炉工らの担当作業について,前記(1)の認定の限度の内容を超えて,他の築炉作業 をしていたと認めることはできない。 オしたがって,原告らの上記主張は,いずれも採用することができない。 2 被告が負っていた安全配慮義務の内容(争点2)(1) 使用者は,その雇用する労働者を粉じん作業に従事させるにあっては,当該労働者の生命・健康を保護するために安全配慮義務を負っているところ,その具体 的内容は,労働者の職種,労務内容,労務提供場所等,安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものである(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決・民集38巻6号557頁参照)。したがって,労働者を粉じん作業に従事させる使 場所等,安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものである(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決・民集38巻6号557頁参照)。したがって,労働者を粉じん作業に従事させる使用者については,じん肺法等の法令によって,労働者の生命・健康を保護するための一定の措置を講ずることが求められており,これらは具体的な安全配慮義務を 措定するに当たり,参考とすべきものということができるが,法令上の義務は,定型 的,類型的な状況について一般的に定めざるを得ないのであるから,法令上,一定の措置を講ずることが明示的に定められていない場合においても,具体的状況等によっては,さらに一定の措置を取ることが求められる場合があるというべきである。 そして,じん肺による被害が,生命・健康という法益にかかわるものであり,その病変が不可逆的であることからすれば,安全配慮義務の前提として,使用者は,粉じ んへのばく露は,労働者の健康・生命に重大な損害をもたらすとの抽象的な危険性を認識すれば足りるということができる。 そこで,まず,じん肺等に関する諸法令についてみた上で,本件築炉工らが担当した築炉作業の内容及びその作業環境と,じん肺等及びその防止対策に関する知見等に照らし,それぞれの工程等において被告の負っていた安全配慮義務の具体的内容につ き検討する。 (2) じん肺の防止に関係する法令等ア前提事実及び後掲証拠によれば,次の各事実が認められる。 (ア) 労働基準法等昭和22年に制定された労働基準法(昭和22年法律第49号)は,使用者に対し, 粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講じるよう求め(労働基準法45条,42条,43条),これを受けた労働安全衛生規則(昭和22年労働省令 昭和22年法律第49号)は,使用者に対し, 粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講じるよう求め(労働基準法45条,42条,43条),これを受けた労働安全衛生規則(昭和22年労働省令第9号,以下「昭和22年安全則」という。)は,使用者に対し,粉じんを発散する等の有害な作業場において,その原因を除去するために,作業又は施設の改善に努めなければならないとした(昭和22年安全則172条)。 具体的な措置としては,①安全衛生教育を実施するとともに(労働基準法50条),②屋内作業場においては,場内空気のその含有濃度が有害な程度にならないように,局所排気措置や密閉その他新鮮な空気による換気等の適当な措置を講じ(昭和22年安全則173条),③呼吸用保護具等の適当な保護具を備えなければならないものとした(同181条,184条)(以上の①から③までの各措置を「昭和22年措置」と いう。)。 また,屋外又は坑内の著しく粉じんを飛散する作業場においては,作業の性質上やむを得ない場合を除き,注水その他粉じん防止措置を講じなければならないとした(昭和22年安全則175条)。 (イ) けい特法昭和30年に制定・施行されたけい特法は,本件取外し作業を粉じん作業の一つと して指定し,労働者を粉じん作業に常時従事させる使用者に対し,就労時及び3年以内ごとのけい肺健康診断の実施を義務付け(けい特法3条1項・2項,2条1項3号・別表第二),一定の症度の者については,都道府県労働基準局長の勧告により,当該労働者の作業転換に努めるよう定めた(同法8条)。 (ウ) 旧じん肺法等 昭和35年に制定・施行された旧じん肺法は,当該作業に従事する労働者がじん肺にかかるおそれがあると認められる作業を「 業転換に努めるよう定めた(同法8条)。 (ウ) 旧じん肺法等 昭和35年に制定・施行された旧じん肺法は,当該作業に従事する労働者がじん肺にかかるおそれがあると認められる作業を「粉じん作業」と定義し(旧じん肺法2条1項2号,甲A12),使用者及び粉じん作業に従事する労働者は,じん肺の予防に関し,粉じんの発散の抑制,保護具の使用その他について適切な措置を講じるよう努めるものとした(同5条)。 そして,旧じん肺法は,労働者を粉じん作業に常時従事させる使用者に対して,じん肺に関する予防及び健康管理のために必要な教育の実施と(旧じん肺法6条),就労時及び3年以内ごとのじん肺健康診断の実施を義務付け(同法7~9条。),健康管理の区分が管理区分3である労働者については,都道府県労働基準局長の勧告により,当該労働者の作業転換に努めるよう定めた(同法21条)。 旧じん肺法の委任を受けたじん肺法施行規則は,築炉作業を粉じん作業の一つに指定した(じん肺法施行規則別表第一の12号)。 (エ) 労働安全衛生法等昭和47年に制定・施行された労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)は,事業者は,その責務として,単に労働災害防止のための最低基準を守るだけでなく,快 適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を 確保するようにしなければならないものとし(労働安全衛生法3条1項),事業者に対し,粉じんによる健康障害を防止するため必要な措置を講じるよう求め(同法22条1号),これを受けた同年制定の労働安全衛生規則(昭和47年号外労働省令第32号。以下「昭和47年安全則」という。)は,使用者に対し,昭和22年安全則と同様,粉じんを発散する等の有害な作業場について,作業又は れを受けた同年制定の労働安全衛生規則(昭和47年号外労働省令第32号。以下「昭和47年安全則」という。)は,使用者に対し,昭和22年安全則と同様,粉じんを発散する等の有害な作業場について,作業又は機械等の改善等必要な措 置を講じなければならないとした(同576条)。 具体的な措置としては,①安全・衛生のための教育の実施(労働安全衛生法59条)及び②健康診断の実施(同法66条)のほか,③発生源を密封する設備,局所排気装置又は全体換気装置を設ける等必要な措置を講じ(昭和47年安全則577条),④呼吸用保護具を備え(同593条,596条),⑤作業場外に休憩設備を設置しなけれ ばならないものとした(同614条)(以上の①から⑤までの各措置を「昭和47年措置」という。)。 さらに,労働安全衛生法は,屋外又は坑内の粉じんを著しく飛散する作業場においては,注水その他の粉じんの飛散を防止するため必要な措置を講じなければならないとし(昭和47年安全則582条),また,有害な業務を行う屋内作業のうち,政令で 定めるものについては,事業者に作業環境を測定して記録する義務を課し(労働安全衛生法65条),同年に制定・施行された労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号,以下「昭和47年安全令」という。)は,「土石,岩石又は鉱物の粉じんを著しく発散する屋内作業場」を,上記有害な業務を行う屋内作業と定めた(昭和47年安全令21条1号)。 (オ) 粉じん障害防止規則(別紙「粉じん障害防止規則(抄)」のとおり)昭和54年に制定された粉じん障害防止規則は,事業者は,粉じんにさらされる労働者の健康障害を防止するため,設備,作業工程又は作業方法の改善,作業環境の整備等必要な措置を講ずるよう努めなければならないとし(粉じん障害防止 た粉じん障害防止規則は,事業者は,粉じんにさらされる労働者の健康障害を防止するため,設備,作業工程又は作業方法の改善,作業環境の整備等必要な措置を講ずるよう努めなければならないとし(粉じん障害防止規則1条),具体的な措置として,労働者に粉じん作業を行わせる事業者一般に,①休憩設備及び 粉じん除去用具の設置(同23条),②粉じん作業を行う屋内の作業場所の定期清掃 の実施(同24条),③呼吸用保護具の使用(同27条。ただし一部の粉じん作業を除く。)を義務付けた(以上の①から③までの各措置を「粉じん作業対応措置」という。)。 また,同規則は,一定の場所における粉じん作業のうち,動力等を用いる作業等に係る箇所を粉じん発生源とする作業(鉱物等を掘削する場所における作業に係る粉じん発生源のうち,坑内において,鉱物等を動力により掘削する箇所〔同別表第2の1 号・別表第1の1号〕等。)を特定粉じん作業とし,その粉じん発生源を「特定粉じん発生源」とした。 そして,同規則は,労働者に特定粉じん作業を行わせる事業者に対し,特定粉じん発生源における粉じんの発散を防止するため,各発生源に応じた局所排気装置又は除じん装置を設置し,又は密閉する設備を設置するなどの粉じん発散防止措置を講じな ければならないとし(同4条,10条),じん肺教育につき,労働安全衛生法の規定に加え,①粉じんの発散防止及び作業場の換気の方法,②作業場の管理,③呼吸用保護具の使用の方法,④粉じんに係る疾病及び健康管理,⑤関係法令を含む特別の教育を行わなければならないとし(同22条),6月以内ごとに1回,常時特定粉じん作業が行われる屋内作業場における空気中の粉じんの濃度を測定しなければならないとし た(同25条,26条)(特定粉じん作業対応措置)。 他 し(同22条),6月以内ごとに1回,常時特定粉じん作業が行われる屋内作業場における空気中の粉じんの濃度を測定しなければならないとし た(同25条,26条)(特定粉じん作業対応措置)。 他方,同規則は,特定粉じん作業以外の粉じん作業(特定外粉じん作業)を行う屋内作業場について,事業者に,当該粉じん作業に係る粉じんを減少させるため,全体換気装置による換気の実施又はこれと同等以上の措置を講じなければならないとした(同5条。以下,粉じん作業対応措置と併せて,「特定外粉じん作業対応措置」とい う。)。 イじん肺の防止に関係する法令の趣旨について(ア) 前記アから,じん肺の防止に関係する法令等の制定経緯等についてみると,昭和22年頃,労働基準法及び昭和22年安全則は,使用者に対し,粉じん等による障害防止措置を義務付けているものの,粉じんを発生させる環境は様々で あるにもかかわらず,対象となるべき労働内容については制限を設けず,とるべき 措置の内容についても,場内空気の粉じんの含有濃度が有害な程度にならないように,局所排気や密閉その他新鮮な空気による換気等の適当な措置を講ずるという抽象的なものに留まり,屋外又は坑内の「著しく粉じんを飛散する作業場」(昭和22年安全則175条)についても,注水その他の粉じん防止の措置を講ずるよう求めるに留まっていた。 そして,昭和30年にはけい特法が,昭和35年にはじん肺法が,それぞれじん肺にり患するおそれのある作業を粉じん作業と定め,労働者を粉じん作業に従事させる使用者に対し,健康診断の実施を義務付けたが,粉じん作業自体についての具体的な規制を定めていなかった。 昭和47年には,労働安全衛生法が,事業者に対し,粉じん等による健康障害防 止措置を義務付 者に対し,健康診断の実施を義務付けたが,粉じん作業自体についての具体的な規制を定めていなかった。 昭和47年には,労働安全衛生法が,事業者に対し,粉じん等による健康障害防 止措置を義務付けたが,ここでも,具体的な措置については,屋内作業場における空気中の粉じんの含有濃度が有害な程度にならないように,事業者において,密閉や局所排気装置又は全体換気装置を備えるなどの必要な措置を講じるよう求め,粉じんを著しく飛散する屋外又は坑内については,注水その他粉じん防止の措置を講ずるよう求めるに留まり,「土石,岩石又は鉱物の粉じんを著しく発散する屋内作業 場」(安全衛生法65条,施行令21条1号)についてのみ,粉じん濃度の測定を行うよう求めるに留まっていた。もっとも,同法3条1項は,事業者に対して,最低基準を守るだけではなく,より積極的に労働者の安全と健康を確保することを定めており,これは,使用者において,個々の作業所に応じた具体的な対応をとるよう求める趣旨であると解される。 その後,昭和54年に至って,粉じん障害防止規則が,労働者に粉じん作業を行わせる事業者に対し,特定粉じん作業と特定外粉じん作業に分け,特定粉じん作業の健康障害防止措置として,粉じんの発散を防止するため,発生源に応じて,一定の条件に適合した局所排気装置,除じん装置又は密閉装置を設置するよう具体的に定め,かつ,これを稼働する際の条件や点検頻度などの具体的な規定を置いたほ か,定期的な空気中の粉じん濃度測定義務と,昭和47年安全則のほかに,じん肺 に関する特別の教育の実施義務を定め,他方,特定外粉じん作業については,健康障害防止措置として,当該粉じん作業に係る粉じんを減少させるため,全体換気装置による換気の実施又はこれと同等以上の措置を講じ に関する特別の教育の実施義務を定め,他方,特定外粉じん作業については,健康障害防止措置として,当該粉じん作業に係る粉じんを減少させるため,全体換気装置による換気の実施又はこれと同等以上の措置を講じるよう定めるに至った。 (イ) 前記(ア)の各定めの理解として,まず,粉じん作業は,具体的内容によって,粉じんの発生量に相当の差があるもの考えられているということができ る。すなわち,粉じん障害防止規則において,特定粉じん作業が規定されているのは,粉じんを発生する作業が,動力や吹付けにより行われ(同第2の1号,2号,5~8号,12~15号),又は大量に行われ(同第2の3号,4号),又は粉状の原料すなわち粉じん自体を取り扱うもの(同第2の9~11号)であるから,当該作業の粉じん発生源において,急激かつ大量の粉じんが発生し,かつ,その発生自 体を抑制することが困難であると,類型的に予定される作業として,その対策を講じる必要性が特に高いものと認められたことによるということができる。そうすると,特定粉じん作業においては,発生した粉じんの発散を防止することによって危険を除去するために,局所排気装置等の設置(同4条)など,高度な措置をとり,粉じん濃度を測定することでその効果を定期的に確認し,労働者自身にもこれらの 措置の重要性を認識させることが,定型的に求められているものと解される(特定粉じん作業対応措置)。他方,特定外粉じん作業において,特定粉じん作業の場合に求められる義務を実施することが,必ずしも困難とはいえないにもかかわらず,上記のような高度な措置をとることが求められていない趣旨は,これらの作業については,特定粉じん作業対応措置によることなく,粉じんを減少させる措置をとるこ とが可能であり,かつ,それで足りると考えられ ような高度な措置をとることが求められていない趣旨は,これらの作業については,特定粉じん作業対応措置によることなく,粉じんを減少させる措置をとるこ とが可能であり,かつ,それで足りると考えられることにあるということができる。 このように,粉じん障害防止規則は,築炉作業を始めとする特定外粉じん作業一般と,特定粉じん作業からそれぞれ生じる粉じんについて,類型的に,量的な差異を想定し,事業者において,これに応じた対策を採るものとする趣旨であると解す るのが相当である。 もっとも,特定外粉じん作業は,一般的にみれば,特定粉じん作業に比して,じん肺り患の危険性が低いといえるとしても,特定の作業において,その特殊性から大量の粉じんが発生する危険が認められるような場合には,当時の知見等に基づき,事業者の認識に照らして,上記危険を除去するための相応の方策をとることが,当然求められているというべきである。 (ウ) 以上からすれば,労働者を特定外粉じん作業に従事させる事業者においては,法令上粉じん障害を防止するために求められる具体的な措置を講じる義務を負い,特定粉じん作業を行わせる事業者と同様の措置を取る義務が課されているということは直ちにはできないものの,他方,法規上定められた措置を講じれば足りるというのではなく,なお,具体的な作業場面において,じん肺り患の危険性に 応じ,現実的に可能な対応をとるべきものと解される。 (3) 本件築炉工らが担当した築炉作業の内容及びその作業環境次に,被告における築炉作業の工程と,本件築炉工らが担当した具体的な築炉作業の内容(本件築炉工らにおいて,昭和32年から平成19年までの間のコークス炉の築造,原告Eにおいては,これに加え平成4年から平成19年までの間のトピードカ 程と,本件築炉工らが担当した具体的な築炉作業の内容(本件築炉工らにおいて,昭和32年から平成19年までの間のコークス炉の築造,原告Eにおいては,これに加え平成4年から平成19年までの間のトピードカ ー改修及び補修並びに高炉及び熱風炉の改修)についてみた後,本件築炉工らが担当した具体的作業が,特定外粉じん作業として求められる措置を超えた措置をとるべき危険性を有するものであったかを検討する。 ア前提事実及び後掲証拠によれば,被告の築炉作業について,次の各事実が認められる。 (ア) 築炉作業の基本的な工程a 築炉作業を順調に行うため,工事に先行して,れんがの配列,組積み様式などは,あらかじめ選定する(れんが割付け)。その際,作業能率のため,なるべくれんが加工を要しない方法を選択するのが適切である。(甲B18)b れんが加工(本件加工作業)は,手作業か,切断機により行う。手作 業で行う場合(本件加工手作業)は,①れんがを,切断箇所に引いた線に沿って,目 切りと呼ばれるへら状の刃物をトンカチやハンマーで叩いて切断し,②れんがの切断面に残った凸部分を,たがね(チス)や両刃(タンガロイ)と呼ばれる刃物で削り取って平らにし,③断面を角砥石や不要なれんがですり合わせ,④表面に付着した削り粉を落とす,という手順が採られる。同一形状の加工れんがが大量にある場合や,厳密な寸法にれんがを切断する必要があるときは,れんが切断機が用いられる。れんが 切断機には,湿式のものと乾式のものがある。(甲B18)c トロ練りは,手作業か,機械により行う。手作業で行う場合は,作業の前日か数時間前に,トロ船と呼ばれる桶に必要量のモルタル粉末を入れて均し,その上に水を張って,水分をモルタ 甲B18)c トロ練りは,手作業か,機械により行う。手作業で行う場合は,作業の前日か数時間前に,トロ船と呼ばれる桶に必要量のモルタル粉末を入れて均し,その上に水を張って,水分をモルタル粉末に十分含ませた後,鋤などで練る。大量のモルタルを練る場合は機械を使う。練られたトロは,トロ箱と呼ばれる容器に入れられ, 築炉工の手近に配置される。(甲B13)d れんが積み(本件積上げ作業)は,①片手でれんがをつかむ,②他方の手に持った鏝でモルタルをすくう,③れんがにトロを付ける,④れんがを据える,⑤はみ出したトロを切り取ってトロ箱に戻す,という作業を繰り返して行う。(甲B18) e 一定期間操業して,炉全体の損傷が甚だしくなった場合には,新しく作り直すか,大掛かりな修理を行う。炉体の一部分の損傷に対しては,一般に,部分修理が行われる。修理に際しては,傷んだれんがを取外し(本件取外し作業),新たにれんがを積み上げる(本件積上げ作業)。 (イ) 被告におけるコークス炉の築造の過程等(前提事実(3)ア,同イ(ア),乙 ロD2~6,乙ロD14,15,17,19,25,30の1,36の1・2,乙ロD39,41,42,証人S,同I,原告D本人)a コークス炉の炉体は,長さ12~16m,高さ4~7m,幅400~450㎜程度の炭化室と燃焼室が交互に配列される上部構造体と,廃熱回収のための蓄熱室のある下部炉体で構成されている。 b コークス炉の築造は,築造するコークス炉を全て覆う程度の建屋(幅 約50m,奥行き約100m,高さ約30m)の内部で行われる。 被告は,昭和34年以降,被告のコークス炉築造用建屋に,各短辺に幅8.6m,地上からの高さ約18mの開 程度の建屋(幅 約50m,奥行き約100m,高さ約30m)の内部で行われる。 被告は,昭和34年以降,被告のコークス炉築造用建屋に,各短辺に幅8.6m,地上からの高さ約18mの開口部を1つずつ,同開口部の上部に幅約1m,高さ約数十cmのシャッター窓を3つずつ,それぞれ設置した。開口部及びシャッターは,状況に応じて開閉していた。 被告は,遅くとも昭和42年以降,同建屋の長辺のうちの1つに,短辺との接点から約20m,地上から約13mの高さに2つ,短辺との接点から約12m,地上から約20mの高さに2つ,合計4つの工事用換気扇を設置して,全体換気を行っていた。 c 被告におけるコークス炉の築造は,昭和38年頃から,次のような手順で行われていた。まず,「整備工」と呼ばれる補助担当者(手元工)が,事前に,築 炉工がいる場所とは離れたところでトロ練りを行い,M等より支給される,炉の設計に応じた加工済みの耐火れんがを炉内まで運搬し,これを炭化室及び燃焼室1室ごとに,水平方向に,必要な数だけ配列する(本件積上げ作業)。築炉工は,炭化室及び燃焼室の間に設けられる足場に立って,配列されたれんがのトロ付け及び積上げを,列ごとに,数段ずつ順次行い,一列が終われば,次の列に移動し,再び積上げを繰り返 す。積み終わったれんがの目地押しや,はみ出したトロの除去は整備工が行う。床に落ちたトロは,整備工が吸引装置により除去し,他の清掃も整備工が行う。ひととおりの列の積上げが終わると,足場を一段高くし(以下「棚上げ」という。),上記過程を再び繰り返す。 d コークス炉の炉頂には曲面部分があり,同部分に使用するれんがは, 曲面に沿った形に加工する必要があるところ,その大部分は,整備工が,あらかじめ,炉外の加工 程を再び繰り返す。 d コークス炉の炉頂には曲面部分があり,同部分に使用するれんがは, 曲面に沿った形に加工する必要があるところ,その大部分は,整備工が,あらかじめ,炉外の加工作業場において,切断機を用いて切断する(本件加工作業)。曲面を形成する段又は列の最後のれんが1,2個については,築炉工が,れんがを積み上げる工程の途中で,手作業で加工する(本件加工手作業)。その場合の所要時間は数分程度である。加工を要するれんがの割合は,全体の1%程度である。 また,昭和34年頃は,支給された加工済みれんがの中に,余分な膨らみがあるな ど,不整形なものがあったため,築炉工が積上げ作業の途中で,手作業によりこれを切削することがあった(本件加工手作業)。 e 被告は,遅くとも昭和42年以降,棚上げをするごとに,集じん機を用いて清掃を行っていた。(乙ロD25,39,証人S)また,被告は,遅くとも昭和46年頃には,れんが加工のために湿式の切断機を導 入して整備工に使用させた。また,昭和52年頃,被告のコークス炉築造に際して使用されていたれんが切断機及び研磨機にはファンフードが設置されていた。(乙ロD19,証人S)f 被告におけるコークス炉の築造の過程で,石綿は使用されていない。 (ウ) 被告におけるトピードカーの大修理過程等(前提事実(3)ア,同イ(エ), 甲B13,乙ロD3,40,乙ロE1~3,7,9,12~14,証人T)a トピードカーの炉体は,水平円筒を横に倒した形状の直胴部と,その両側に,直胴部を底面とする円錐台形状のコニカル部を配した形状である。直胴部の中央には,溶銑の出し入れに使用する炉口が設けられ,炉体の両端には,炉体を保持し炉体を回転させ 倒した形状の直胴部と,その両側に,直胴部を底面とする円錐台形状のコニカル部を配した形状である。直胴部の中央には,溶銑の出し入れに使用する炉口が設けられ,炉体の両端には,炉体を保持し炉体を回転させる際の回転軸となるトラニオンと呼ばれる部材が備え付けられて いる。 b トピードカーの大修理は,内部の耐火れんがを全て取り外し(本件取外し作業),新たな耐火れんがを積み上げる(本件積上げ作業),全面修理である。一人の築炉工が大修理を担当する頻度は,年に1,2回程度であり,大修理を担当しない年もある。 c トピードカーの大修理は,まず,整備工又は解体業者が,修理工場の外で,重機を用いて,トピードカー内部の耐火れんがを全て取り外し,水洗いして内部を清掃する。れんが解体機は,昭和55年頃に被告が設置した。 その後,トピードカーは修理工場内に搬入され,築炉工が,トピードカー内部に,M等から支給される,トピードカーの設計に応じた加工済みの耐火れんがを,新たに 積み上げる。 d コニカル部において円を形成する最後の1個の耐火れんが及び,トピードカーの両先端の円周に当たる部分の耐火れんがは,加工が必要であるところ,平成元年頃以降は,整備工が,被告が作業場の外に設置した,密閉式の切断機を使用してこれを行っている。 (エ) 被告におけるトピードカーの部分修理過程等(前提事実(3)ア,同イ(エ), 甲B13,乙ロD8,40,乙ロE1~3,7,9,12~14,証人T)a まず炉口から撒き水をしてミスト冷却を行った後,整備工5名程度で,8時間程度かけて,解体機又はブレーカー及びバールを使用して,トピードカーの内部に銑鉄の一部が固まって付着した地金を除去する(地金取り)。 炉口から撒き水をしてミスト冷却を行った後,整備工5名程度で,8時間程度かけて,解体機又はブレーカー及びバールを使用して,トピードカーの内部に銑鉄の一部が固まって付着した地金を除去する(地金取り)。その後,整備工4名程度で3時間かけて炉内各部位ごとの溶損量を測定する。 さらに,トピードカーを修理工場に移動させ,整備工5名程度で,3日間かけ,補修範囲を,エアブレーカー,バール,ハンマーで順次耐火れんがを解体し(本件取外し作業),解体くずを除去し,清掃を行う。工期が迫っているなど,場合によっては築炉工がこれを手伝うこともあるが,エアブレーカーの重量は30㎏程度あり,手伝うのは主として若年層の築炉工である。 その後,築炉工2名程度で,3日間かけ,解体した範囲で,M等から支給される,トピードカーの設計に応じた加工済みの耐火れんがを積み上げ,整備工3名程度でこれを補助する。れんが積みが終わると,整備工5名程度で3時間かけて,れんが上に不定形炉材を吹付コートし,整備工1名程度で3日間かけ,炉内を乾燥焦熱する。 トピードカー中修理において必要なれんが積みに用いる不定形耐火物(キャスター, キャスタブル)の混錬は,整備工が,工場の外で行う。 b コニカル部分の耐火れんがを取り換える際は,コニカル部において円を形成する最後の1個の耐火れんがについて,れんが加工が必要となる。本件取外し作業のほか,地金取り,炉内のれんがに不定形炉材を吹き付けてコーティングする作業でも,粉じんが発生する。 c 被告は,昭和55年頃,Nのトピードカー工場に集じん機を設置し, 平成2年頃,Rのトピードカー工場に,ホース状の集じん機を設置し,平成4年頃,同所に2台目の集じん機を導入した。 d れんが加工の必要と,切断機 トピードカー工場に集じん機を設置し, 平成2年頃,Rのトピードカー工場に,ホース状の集じん機を設置し,平成4年頃,同所に2台目の集じん機を導入した。 d れんが加工の必要と,切断機の設置状況は,前記(ウ)dと同様であった。 (オ) 被告における高炉及び熱風炉の改修過程等(前提事実(3)ア,同イ(イ), 乙ロD3,弁論の全趣旨)a 高炉の炉体は,筒型で,炉下が膨らんだ徳利のような形状をしており,高さは50m以上にもなる。耐火れんがを積み上げた後の高炉内部の内寸は,直径約20m,高さ約50m程度である。 b 熱風炉の炉体は,上部がドーム型の天井で覆われた円筒形縦型で, 燃焼室と,蓄熱室及びこれらをつなぐ直径約2mのチューブ状の連絡管から構成される。 c 高炉及び熱風炉の内部の既存の耐火れんがの取外しは,外部の解体業者が行う。 築炉工は,その後,M等より支給される,炉の設計に応じた加工済みの耐火れんが を積み上げる作業を行う。本件加工作業は,主として,整備工が築炉工の指示により,炉外の加工作業場において切断機を用いて行う。曲面を形成する段又は列の最後のれんが1,2個は,築炉工が,れんがを積み上げる工程の途中で,手作業で加工する(本件加工手作業)。 d 被告は,昭和56年頃,Nの高炉に集じんフード等を設置した。(甲B 13)(カ) 被告における高炉の鋳床及び樋の補修過程等(前提事実(3)ア,同イ(イ),弁論の全趣旨)a 高炉周囲の作業場である鋳床には,耐火れんがではなく,建築景観用れんがである,いわゆる赤れんがが敷き詰められており,損耗した赤れんがを取り換 える作業を鋳床補修という。取換えを要する赤れんがは,整備工が 作業場である鋳床には,耐火れんがではなく,建築景観用れんがである,いわゆる赤れんがが敷き詰められており,損耗した赤れんがを取り換 える作業を鋳床補修という。取換えを要する赤れんがは,整備工が取り外し(本件取 外し作業),当該部分に,築炉工が新たに赤れんがを積み上げる(本件積上げ作業)。 b 鋳床の一部は,高炉から溶銑を取り出す際に溶銑が流れる樋となっており,樋の内側には耐火れんがが設置されている。そのうち,損耗した耐火れんがを取り換える作業を,樋の補修という。取換えを要する耐火れんがは,解体業者が取り外し(本件取外し作業),当該部分に,築炉工が耐火れんがを積み上げる(本件積上げ 作業)。 イ本件築炉工らが担当した築炉作業について(ア) 前記アの認定事実を踏まえ,本件築炉工らが関与した作業(昭和32年から平成19年までの間,本件築炉工らにおいて,コークス炉における本件積上げ作業及び本件加工作業,平成4年から平成19年までの間,原告Eにおいて,トピー ドカー並びに高炉及び熱風炉における本件取外し作業,本件積上げ作業及び本件加工作業)についてみる。 a コークス炉の築造前記ア(イ)から(カ)までに照らせば,被告の下でコークス炉の築造に従事する築炉工は,主としてれんがの積上げ(本件積上げ作業)を担当し,必要に応じて,れんが加 工を行っていたものと認められる。もっとも,前記認定事実によると,れんが割付けは,なるべくれんが加工を要しないように行われ(前記ア(ア)a),被告においては,M等より,炉の設計に合わせた加工済みれんがを支給されていた上,熟練を要しない定型的な加工は,整備工が機械によるなどして行っていたものであるから(前記ア(イ)から(カ)),コークス炉の築造において,築 等より,炉の設計に合わせた加工済みれんがを支給されていた上,熟練を要しない定型的な加工は,整備工が機械によるなどして行っていたものであるから(前記ア(イ)から(カ)),コークス炉の築造において,築炉工が本件加工作業を行うのは主として手 作業によるもの(本件加工手作業)で,また,その機会も,担当作業のうちの1%にも満たない時間であったと認められる。 b トピードカーに関する修理,補修,高炉及び熱風炉の補修次に,トピードカーの修理補修,高炉及び熱風炉の補修についても,原告Eは,主として本件積上げ作業を担当し,必要に応じて,本件加工手作業を行っていたほか, 専ら,整備工が解体(本件取外し作業)を行う中で,工期が迫っているときなどには, 臨時的に,自らブレーカーを用いてれんがを取り外すこともあったものの(前記ア(エ)a),コークス炉築造と同様,本件加工手作業及び本件取外し作業の機会は,必ずしも多くなく,全作業のうちの1%にも満たない時間であったと認められる。 (イ) 原告Dは,被告はコークス炉築造において,石綿を使用していたと主張し,証拠として被告の大分事業所が石綿ばく露作業による労災認定等事業場とされ た一覧表(甲B7)を提出する。 しかしながら,同一覧表によれば,石綿取扱期間は昭和32年4月から昭和39年8月であるところ,被告の社史(甲B13)においても同期間において被告の大分事業所が操業していたことは認められず,同所が石綿ばく露作業による労災認定等事業場とされたのは,石綿にり患した労働者の最後の就労場所であったからにすぎないと 認めるのが相当であり,他に被告がコークス炉築造において石綿を使用していたと認めるに足りる証拠もない。したがって上記一覧表は前記認定を覆すものでなく,原告Dの上記 所であったからにすぎないと 認めるのが相当であり,他に被告がコークス炉築造において石綿を使用していたと認めるに足りる証拠もない。したがって上記一覧表は前記認定を覆すものでなく,原告Dの上記主張は採用できない。 (ウ) 原告らは,被告の下での築炉作業において,本件積上げ作業に加え頻繁に本件加工作業を行い,また,トピードカーの修理において,ブレーカーを用いて れんがの取外しを行っていた旨主張して,原告Eはこれに沿う供述をし,また,れんがの切削や解体を行ったと記載がある原告Eの手帳(甲E5~9)提出する。 しかしながら,前記アのとおり,被告においては,昭和38年頃から,築炉工と整備工の役割分担による仕事の効率化が行われていたものと認められる上,原告Eがトピードカーの修理に携わった頃,原告Eは60歳近い年齢であり,腰部脊柱管狭窄症 や腱鞘炎,くも膜下出血を患うなどしていたのであるから(甲E5,6,乙ロE20),重量が30㎏もあるエアブレーカーを頻繁に扱っていたとは考え難く,また,原告Eは平成18年から監督員を務め(甲E8,乙ロE17,18,19,21),具体的な作業に従事していたとも考え難いこと,原告Eの同僚であった証人Tが比較的年配であり腰も悪かった原告Eがブレーカーを使っていたとは考え難いと証言しているこ と(証人T)からすれば,上記手帳の記載は,原告Eが所属したグループが行った作 業を記載した可能性が高く,原告E本人が自ら行った作業を記載したものとは認められない。そして,原告E及び同Dの上記供述を裏付ける他の証拠もないことからすれば,同供述は信用できず,原告らの上記主張は採用できない。 ウ前記ア及びイの認定事実を踏まえ,本件築炉工らが関与した作業において,どの程度粉じんを発生させるものであった 他の証拠もないことからすれば,同供述は信用できず,原告らの上記主張は採用できない。 ウ前記ア及びイの認定事実を踏まえ,本件築炉工らが関与した作業において,どの程度粉じんを発生させるものであったかをみる。 (ア) 前記ア(ア)によると,本件積上げ作業は,その工程でれんがの破砕を伴うものではなく,れんがが,他のれんがや工具等に触れた際に,その一部が剥離して粉じんとなることはあり得るものの,粉じんが発生する機会も量も,瞬間的,限定的なものであるから,類型的に見て,特定外粉じん作業において求められる措置を超えた対応をとるべき粉じん発生の危険を有していたものと認めることはできないし,そ の作業場が,著しく粉じんが発散するものであったとも認められない。 (イ) また,前記ア(ア)によると,本件加工手作業は,れんがの破砕を伴うものであるから,その作業を行う間は必然的に粉じんが発生するものと認められる(本件加工作業をれんが切断機などの機械により行う場合は,手作業で行う場合よりさらに多くの粉じんが発生するものと認められるものの,これは専ら整備工が別の場所で 行うのであり,本件築炉工らが担当していたものとは認められない。)。他方で,築炉作業において本件加工手作業が行われる頻度は,全工程の1%にも満たないものであるから,粉じんが発生する機会も量も,一時的で,限定的なものに留まる。したがって,本件加工手作業について,その粉じん対策として一定の措置をとるべき危険が類型的に認められるとはいえるものの,特定粉じん作業と同視すべき危険を有していた ものとまでは認められないし,これを行う作業場が,著しく粉じんが発散するものであったとも認められない。 (ウ) 前提事実(3)ウ(ア)のとおり,けい特法においても,れんがを取り換え, ものとまでは認められないし,これを行う作業場が,著しく粉じんが発散するものであったとも認められない。 (ウ) 前提事実(3)ウ(ア)のとおり,けい特法においても,れんがを取り換え,炉を修理する作業(本件積上げ作業及び本件取外し作業)が粉じん作業に指定されていたのであるから,一般的に,本件取外し作業は,築炉作業等のうちでも,相当程度 の粉じんが発生する作業であるものと認められ,さらに,トピードカーの中修理は, トピードーカー内部という狭い空間内で,動力を用いてれんがを破砕する作業を行うものであるから,急激かつ大量の粉じんが発生することが予想される。そして,遊離けい酸を含む粉じんによるけい肺問題は戦前から問題視され,特に,れんがの取外し,解体,破壊の作業(本件取外し作業)等における粉じんの発生量は,昭和35年当時の一般的な許容濃度を超えるとの調査結果もあったというのである(甲A13,甲C 2~4,6~8)。しかしながら,トピードカー中修理における本件取外し作業は,整備工においてこれを担当し,本件築炉工らはそれを手伝う程度であったというのであるから,ここでも前記(イ)と同様,本件築炉工らの作業工程としては一時的,限定的なものにすぎない。このことからすれば,その粉じん対策として一定の措置をとるべき危険が類型的には認められるものの,特定粉じん作業と同視すべき危険性のある状況 にあったとまでは認められないし,これを行う作業場が,著しく粉じんが発散するものであったとも認められない。 (エ) 以上のような,被告の下での粉じん作業に対して,どのような対策が効果的であるかを見る。 (4) じん肺防止のための具体的対策 ア前提事実及び後掲証拠によれば,次の各事実が認められる。 (ア での粉じん作業に対して,どのような対策が効果的であるかを見る。 (4) じん肺防止のための具体的対策 ア前提事実及び後掲証拠によれば,次の各事実が認められる。 (ア) 粉じん対策として最も有効な方法は,有害物質の製造,使用の中止であり,有害物質の発散が抑制できない場合は,発じんの抑制,粉じん発生源の自動化,密閉化又は隔離,局所排気装置の使用による,粉じんの飛散,拡散抑制が有効である。 これらによっても換気中の有害物質の濃度をなお十分低下させられないときは,希釈 による濃度の低減,維持が重要となる。そして,これらの手段とともに,粉じんマスク等の呼吸用保護具の利用を検討すべきである。(甲B1,4の1・2,甲C6)(イ) 発じんの抑制について湿った面から粉じんは飛散し難いことから,発じんの抑制には湿式化が効果的である(甲B4の1・2,甲B14)。もっとも,築炉作業においては,本件積上げ作業中 に散水すると,耐火れんがが変質して性能を損ない,また,トロの水分量が増えて, その硬化時間及び硬化後の寿命に影響が生じる上,炉の内部に残存した水による水蒸気爆発等の危険もあるため,本件積上げ作業中に散水することはできない。(弁論の全趣旨)(ウ) 粉じん発生源の遮断・密閉について発生した粉じんの飛散を可能な限り狭い範囲に限定することにより,作業者のばく 露自体を防ぐことが考えられる。方法としては,発じん作業を他の作業と隔離する,発じん作業を自動化する,作業者に完全な保護具を着用させる,粉じんを発生させる装置を密閉する,といったものがある。(甲B14)(エ) 除じんについて発生した粉じんを取り除く方法の代表的な装置は,粉じんの発生源にフードを取り 用させる,粉じんを発生させる装置を密閉する,といったものがある。(甲B14)(エ) 除じんについて発生した粉じんを取り除く方法の代表的な装置は,粉じんの発生源にフードを取り 付け,これにより粉じんを発生源において捕まえ,その捕まえた粉じんをダクトと呼ばれる管を通し,ファンで吸引して排出口から屋外に出す,局所排気装置である。フードは,できるだけ,発生源を囲むようにするか,又は作業位置に近い位置に設け,その大きさと方法は発生源の状態に適したものを選ぶ必要がある。 (甲B4の1・2)(オ) 粉じん濃度の希釈について(甲B4の1・2,甲B15,19) 全体換気による粉じん濃度の希釈は,①発散源における発じん量が余り多量でないこと,②発散粉じんの有害性が低い(遊離けい酸の含有率が低い)こと,③発散源が不特定多数であること,④発散源が一定構内で移動性があること,⑤作業形態などの理由で局所排気装置が設置し難いこと,といった条件がある場合に効果がある。その際は,大容量の換気扇を1台設置するよりも,小容量の換気扇を複数分散して設置す る方が効果的である。 (カ) 呼吸用保護具の着用について(甲A13,甲B2〔17,36 枚目〕,3〔16枚目〕,4,20)粉じん作業における呼吸用保護具の着用の必要性は,戦前から指摘されていたところ,昭和22年安全則の定める労働衛生保護具の規格について,労働衛生保護具検定 規則(昭和25年12月26日労働省令第32号)が制定され,昭和28年からは, 防じんマスクの国家検定が実施されることとなった。同検定に係る規格は,昭和36年には特級,1級,2級に分けられ,遊離けい酸を含む粉じん作業のための規格は1級とされた。もっとも,呼吸用保護具による防じ 防じんマスクの国家検定が実施されることとなった。同検定に係る規格は,昭和36年には特級,1級,2級に分けられ,遊離けい酸を含む粉じん作業のための規格は1級とされた。もっとも,呼吸用保護具による防じんは,補完的な措置であり,粉じんによる健康障害を防止するための対策は,作業環境の改善を第一に行うべきものとされている。 イ前記アのとおり,じん肺防止のための具体的対策についてみると,粉じん対策は,その有効性にいくつかの段階がある一方で,特定の粉じん作業によっては選択し得ない方法もあることから,粉じんの発生場所及びその状況に応じて適切な方法を選択するなど,総合的な対策により,労働者が吸引してもじん肺り患の危険性がない程度の量に留める必要があると認められる。 ところで,前記(3)アによると,本件積上げ作業や,本件加工手作業は,複数の築炉工が,適時に,それぞれの作業場所で行っていたものと認められるから,これらの作業における粉じんの発散源は,不特定多数で,かつ,一時的なものであると認められる。 そして,本件積上げ作業については,前記(3)イのとおり,局所排気装置を備え付け るのは難しいと考えられる一方で,前記(4)イのとおり,発じん量が限定的であることからすれば,全体換気による濃度の希釈が一定の効果を発揮するものと認められる。 本件加工手作業については,その発生源が不特定多数かつ一時的なものであることに照らせば,全体換気のほか,作業量自体を減らすなどの方策による対策が有効であると認められる。 本件取外し作業については,その性質上,固定の除じん装置を設置することは困難であるものの,密閉された空間(例えばトピードカー内)であれば,移動式の集じん機等を用い,そうでなければ,これのほか,全体換気をすることが考え いては,その性質上,固定の除じん装置を設置することは困難であるものの,密閉された空間(例えばトピードカー内)であれば,移動式の集じん機等を用い,そうでなければ,これのほか,全体換気をすることが考えられる。 なお,呼吸用保護具については,前記ア(カ)のとおり,規格は1級のものを使用するのが望ましいものの,交換用フィルタの取換え頻度や,マスク本体の耐用年数につい ては,具体的な基準は定められておらず,発生する粉じん量に応じて,適宜に交換を 行う必要があると認められる。 (5) 被告の負っていた安全配慮義務の内容ア(ア) 前記(2)イ(ウ)のとおり,被告が,昭和32年から平成19年までの間,本件築炉工らを本件築炉工らに築炉作業を行わせるに当たっては,安全配慮義務として,法令上最低限実施するよう求められている粉じん対策措置を講ずる義務を負って いたものと認められる。 すなわち,㋐昭和32年から昭和34年頃(旧じん肺法制定以前)までは,昭和22年措置(安全教育,換気等の措置,呼吸用保護具の使用)及びけい肺健康診断の実施が,㋑昭和35年から昭和46年頃(労働安全衛生法制定以前)までは,昭和22年措置及びじん肺健康診断の実施が,㋒昭和47年から昭和53年頃(粉じん障害防 止規則制定以前)までは,昭和47年措置(昭和22年措置に加えて,作業場外への休憩設備の設置)及びじん肺健康診断の実施が,㋓昭和54年以降は,特定外粉じん作業対応措置(昭和47年措置に加えて,粉じん除去用具の設置,作業場所定期清掃の実施)及びじん肺健康診断の実施が,それぞれ,法令により,被告の本件築炉工らに対する安全配慮義務の具体的内容となっていたものである。 (イ) そして,前記1(1)及び前記(3)イのとおり,被告は ん肺健康診断の実施が,それぞれ,法令により,被告の本件築炉工らに対する安全配慮義務の具体的内容となっていたものである。 (イ) そして,前記1(1)及び前記(3)イのとおり,被告は,昭和32年から平成19年までの間,本件築炉工らを,コークス炉における本件積上げ作業及び本件加工手作業に従事させ,平成4年から平成19年までの間,原告Eを,トピードカー並びに高炉及び熱風炉における本件取外し作業,本件積上げ作業及び本件加工作業に従事させていたことが,それぞれ認められるところ,前記(3)ウのとおり,被告が本件築 炉工らに行わせた築炉作業の具体的内容のうち,本件加工手作業及び本件取外し作業は,特定粉じん作業と同視すべき程にじん肺り患の危険を有するものとまでは認められないから,被告が安全配慮義務として,本件築炉工らに前二者の作業を行わせるに当たり,直ちに,特定粉じん作業対応措置をとる義務を負っていたということはできない。また,同様に,前二者を行う作業場が著しく粉じんを発散させていたとは認め られないから,昭和47年安全則65条の粉じん濃度測定義務を格別に負うというこ ともできない。 他方で,前記ウのとおり,本件加工手作業及び本件取外し作業と,本件積上げ作業とでは,発生する粉じんに類型的な差異が認められ,前二者の作業は,その具体的態様によっては,特定外粉じん作業対応措置のみでは足りない程度の危険を有するものとなり得ることは,被告においてもこれを認識できたと認めるのが相当である。 そこで,前二者の作業については,項を改め,被告の認識に照らして,その危険性を除去するためにいかなる具体的措置をとるべきであったかについて,前記(2)から(4)までを踏まえて検討する。 (ウ) 本件加工手作業について は,項を改め,被告の認識に照らして,その危険性を除去するためにいかなる具体的措置をとるべきであったかについて,前記(2)から(4)までを踏まえて検討する。 (ウ) 本件加工手作業について前記(3)イのとおり,本件築炉工らが行っていた本件加工手作業は,本件積上げ作 業の際に,その場で手作業として行うれんが加工であるところ,このような作業形態及び耐火れんがの特性に照らせば,湿潤化,密閉化,局所排気装置の設置といった措置をとることは困難であるといえる。そうすると,本件加工手作業において粉じんを抑制する方法としては,作業自体を低減させ,全体換気を行うことが望ましいものといえ,被告においては,このような方策によって粉じんが発生する機会を低減する措 置をとる義務があったものと認められる。 (エ) 本件取外し作業について前記(3)イのとおり,原告Eが行っていたれんがの取外し(本件取外し作業)については,高炉・熱風炉でのものと,トピードカーでのものとがあるところ,このような作業においては,粉じんの発生自体を抑制することは困難である一方,取り外すれん がについては湿潤化を図ることができるほか,発生する粉じんに対して集じん機を利用してこれを排除することが可能であり,かつ効果的であるから,被告においては,このような方策によって粉じんの発散を防止する措置をとる義務があったものと認められる。 イ原告らの主張について (ア) 原告らは,築炉作業においても,炭鉱,鉱山,トンネルなどでの粉じん 作業と同様に,①作業環境管理,②作業条件管理,③健康管理という,いわゆる3管理による体系的な安全管理体制を構築する必要がある旨主張する。しかしながら,炭鉱,鉱山,トンネルなどにおける特定粉じん作業と 業と同様に,①作業環境管理,②作業条件管理,③健康管理という,いわゆる3管理による体系的な安全管理体制を構築する必要がある旨主張する。しかしながら,炭鉱,鉱山,トンネルなどにおける特定粉じん作業と,その他の粉じん作業(特定外粉じん作業)とでは,粉じんの発生量及び求められる対策に違いがあることは前記(3)ウのとおりであり,被告が本件築炉工らに粉じん作業を行わせたということのみから, 直ちに被告において特定粉じん作業と同様の措置をとる義務があったということはできない。そして,本件築炉工らにおいて担当した作業内容をみても,前記ア(ウ)(エ)以上の義務があったともいえない。 (イ) 原告らは,被告は,作業場の環境管理をするには粉じん濃度測定が不可欠であり,被告においても粉じん濃度を測定する義務があった旨主張する。 しかしながら,労働者を築炉作業に従事させる事業者に粉じん濃度測定の実施を義務付ける明示的な規定はなく,築炉作業において,一般的に多量の浮遊粉じんが発生するとはいえない上,本件積上げ作業,本件加工手作業及び本件取外し作業が,その作業空間において大量の浮遊粉じんを発生させるものではないことは,前記(3)ウのとおりであり,他に,被告の作業現場において特に浮遊粉じんが相当程度存在してい たことを認めるに足りる証拠もないのであるから,作業現場において定期的に粉じん濃度を測定することが望ましいとしても,被告において粉じん濃度を測定する義務があったとまでは認めることはできない。なお,被告は,コークス炉の築造作業について平成19年に,トピードカーの修炉作業について平成元年に,それぞれ粉じん濃度の測定を行い,その結果は,いずれも第1管理区分(基準値未満の濃度)であったと ころ,被告における築炉作業自体に従前と大きく変わるとこ ピードカーの修炉作業について平成元年に,それぞれ粉じん濃度の測定を行い,その結果は,いずれも第1管理区分(基準値未満の濃度)であったと ころ,被告における築炉作業自体に従前と大きく変わるところはないと認められるのであるから,それ以前の粉じん濃度がより高濃度であったと認めることはできず,結局,被告において,粉じん濃度測定を実施すべき状況にあったとはいえない。 したがって,原告らの上記主張は採用できない。 (ウ) 原告らは,じん肺教育について,労働者自身が粉じんの危険性やじん 肺発生のメカニズムを認識して,主体的に予防措置や,じん肺り患時の適切な処置が 行えるよう,じん肺法が定める雇入れ教育とは別に,ビデオでじん肺の被害状況を見聞させるなどして,定期的,計画的な特別教育を実施する義務があったと主張する。 しかしながら,粉じん障害防止規則が,事業者に対し,特定粉じん作業に常時従事する者に対して,じん肺法の定めを超えた特別教育を義務付けながら,特定粉じん作業以外の作業については特に同様の教育を求めていないことからすれば,被告におい て特別の教育を行う義務があったとはいえないし,教育方法について,ビデオ等特定の手段によらなければ教育が行えないともいえない。 したがって,原告らの上記主張は採用できない。 3 被告の安全配慮義務違反の有無(争点2)(1) 前記2の認定判断を踏まえ,被告に安全配慮義務違反があるかを見るに, 前提事実及び後掲証拠によれば,被告の対応について,次の事実が認められる。 アコークス炉の築造について前記認定のとおり,被告は,昭和34年以降,被告のコークス炉築造用建屋に開口部を,そしてその上部にシャッター窓を設けるなどし,状況に応じて開閉していたほか,遅くとも アコークス炉の築造について前記認定のとおり,被告は,昭和34年以降,被告のコークス炉築造用建屋に開口部を,そしてその上部にシャッター窓を設けるなどし,状況に応じて開閉していたほか,遅くとも昭和42年以降,同建屋に合計4つの工事用換気扇を設置して全体換気 を行っていたこと,また,遅くとも昭和42年以降,棚上げをするごとに,集じん機を用いて清掃を行っていたこと,遅くとも昭和46年頃には,れんが加工のために湿式の切断機を導入して整備工に使用させ,昭和52年頃,被告のコークス炉築造に際して使用されていたれんが切断機及び研磨機にファンフードを設置したこと,コークス炉の築造は,棚上げにより,徐々に築炉工の足場から天井までのスペースが少なく なっていくものの,炉頂部から天井まで約5m程度あり,足場の高さが上がるに連れて埃っぽくなるということはなかったこと(証人S)が認められるところ,築炉工が本件加工手作業を行う際には多少の粉じんが立ち,本件積上げ作業の際にも,れんがについたけい石や乾いたトロによって,多少の粉じんが発生し,清掃の際も一部に粉じんが舞い上がることがあって,これらにより,築炉工の衣服に粉じんが付着しエア ガンを用いて除去する必要があったことが認められる。(証人S) イトピードカーの中修理,大修理前記2(3)ア(ウ),(エ)の認定のとおり,被告は,昭和55年頃,Nのトピードカーに,れんが解体機及び集じん機を設置し,平成2年頃,Rのトピードカーの工場に,ホース状の集じん機,密閉式で湿式のれんが切断機を設置し,平成4年頃,同所に2台目の集じん機を導入したことが認められる。 その結果,トピードカー修理の過程においては,衣服に付く程度に粉じんが発生していたものの,被告が,平成元年にトピ 機を設置し,平成4年頃,同所に2台目の集じん機を導入したことが認められる。 その結果,トピードカー修理の過程においては,衣服に付く程度に粉じんが発生していたものの,被告が,平成元年にトピードカー修理における作業環境測定を実施した際,粉じん濃度は作業環境評価基準の第1管理区分であった。(乙ロEの3,証人T)ウ高炉・熱風炉の改修 被告は,昭和56年頃,Nの高炉に集じんフード等を設置した。(甲B13)エ呼吸用保護具(ア) 被告は,遅くとも昭和42年以降,年に1度マスクを支給し,昭和52年には安全衛生保護具の支給基準を定め,防じんマスクが新規入構時及び毎年一回支給し,適宜フィルター交換が行えるようになっていた。(甲B13,乙ロD22,30 の3,証人S,同I)(イ) 被告は,昭和63年には,フィルターの交換時期を確認するための呼気抵抗器を導入し,フィルターが使いづらくなったときに随時取り換えられるようにし,朝礼の場でマスクの着用の確認を呼び掛けていた。(乙ロD10の4,乙ロD20の3~6,乙ロD21,23の1~3,乙ロD24,31の1~4,乙ロD32~3 4,37,証人T)オ粉じん教育(ア) 被告は,昭和42年以降,粉じん作業に従事させる従業員が就労する際,じん肺について説明し,マスクをしなければ肺に小さな粉が刺さってじん肺になり,一度なればよくならないことを説明した。(証人S,同I) (イ) 被告は,昭和54年頃から,安全教育の際,じん肺の仕組みや危険性, 予防方法,健康管理区分等が図解付きで平易な文章で説明された小冊子を配布し,昭和60年以降は,入社時と,年1回,1時間程度実施し,平成3年には一部の従業員に粉じ 肺の仕組みや危険性, 予防方法,健康管理区分等が図解付きで平易な文章で説明された小冊子を配布し,昭和60年以降は,入社時と,年1回,1時間程度実施し,平成3年には一部の従業員に粉じん作業インストラクターコースを受講させた。(乙ロD10,11,乙ロE10,11,証人T)(ウ) 原告Eは,平成10年と平成11年に,じん肺有所見者のための安全 教育を受講した。(乙ロE4,6,15)カ健康診断の実施について被告は,昭和35年11月頃,粉じん作業に従事させた従業員に対して,旧じん肺法所定のじん肺健康診断を実施し,少なくとも昭和42年以降,粉じん作業に従事させた従業員に対して,年に2回程度,旧じん肺法所定のじん肺健康診断を実施した。 (乙ロD8,9,12,40,証人S,同I)キその他(ア) 被告は,遅くとも昭和42年以降,コークス炉において,遅くとも昭和55年以降,トピードカー中修理において,それぞれ集じん機を用いた清掃を行い(前記(3)ア(イ)e,(エ)c),また,遅くとも昭和54年以降,安全管理推進のための具体 的な目標として,一仕事終わるごとの清掃・片付けや,粉じん作業における防じんマスクの着用及び集じん機の設備を掲げていた。(乙ロD12,26)(イ) 被告は昭和52年頃,コークス炉築造の現場詰所に,築炉工らの休憩設備を設けていた。(乙ロD15)(ウ) 被告は,遅くとも平成6年頃,被告の大分事業所に作業服除じん用エ アガンを設置した。(甲B13,証人T)(2) 被告の安全配慮義務違反についてア本件築炉工らの担った各作業ごとに,安全配慮義務違反の有無を見る。 (ア) コークス炉については,前記認定事実のとおり,被告は遅くとも昭 ,証人T)(2) 被告の安全配慮義務違反についてア本件築炉工らの担った各作業ごとに,安全配慮義務違反の有無を見る。 (ア) コークス炉については,前記認定事実のとおり,被告は遅くとも昭和34年以降,作業場である建屋に開口部を設け,また,遅くとも昭和42年以降は換 気扇を設置して全体換気を行うとともに,集じん機を用いて清掃をしているところ (前記(1)ア,キ(ア)),コークス炉築造作業においては,大半が本件積上げ作業であり,1%に満たない程度で本件加工手作業が行われたにすぎず,れんがについたけい石や乾いたトロによって,多少の粉じんが発生し,清掃の際に粉じんが一部舞い上がることがあったことを踏まえても,特定外粉じん作業対応措置を超えて,具体的措置をとらなければならないほどの粉じんが発生していた状況であったと認めることは できず,また,被告において,そのような認識にあったと認めることもできない。他に上記各措置が法の求める適切な処置に至っていなかったと認めるに足りる証拠もない。 (イ) トピードカーの中修理,大修理については,前記認定事実のとおり,大修理の際のれんが取外しは,解体業者が重機によって外から行い,中修理の際のれん が取外しは,ミスト冷却された後に,専ら整備工が,集じん機を用いて,ブレーカーによって行い,機械によるれんが加工は,トピードカー外で,整備工により,密閉式で湿式のれんが切断機を用いて行っていた(前記(1)イ)。トピードカーは密閉された空間であり,全体換気等の措置を取るのが困難であること,本件積上げ作業により粉じんが発生する量はわずかであり,また,本件取外し作業により粉じんが発生するの は比較的限られた空間で,その作業量もわずかであることからすれば,集じん機による代替 こと,本件積上げ作業により粉じんが発生する量はわずかであり,また,本件取外し作業により粉じんが発生するの は比較的限られた空間で,その作業量もわずかであることからすれば,集じん機による代替には合理性があり,現に粉じん濃度を測定した際にも基準値以下であったというのであるから,これらの措置の下で,被告が,本件築炉工らがじん肺にり患する危険性があり,これに対する措置を講じる必要性あると認識できるほどに粉じんが発生していたものと認めることはできず,他に上記各措置が法の求める適切な処置に至っ ていなかったと認めるに足りる証拠もない。 (ウ) 高炉及び熱風炉の修理については,集じんフード等の設置がされているところ(前記(1)ウ),これが法令の求める適切な処置に至っていなかったと認めるに足りる証拠はない。 (エ) 前記(ア)から(ウ)までのとおり,被告は,コークス炉においては,本件積 上げ作業及び本件加工作業に対して,①のうち全体換気の設備を設け,清掃を励行し ており,これが設置できないトピードカーや高炉においては,本件取外し作業に対して,ミスト冷却等を行って粉じん発生を低減させ,本件取外し作業,本件積上げ作業及び本件加工作業に対して,換気に代わる措置として集じん機を用いて粉じん除去を図っていたのであり,トピードカーにおける上記各作業についていえば,特定粉じん作業において求められる措置に沿う対応を概ねとっていたということができる(その 結果,粉じん濃度測定は定期的に行われていなかったにしても,コークス炉及びトピードカーにおいて,その後行われた測定結果によれば,作業環境評価基準の第1管理区分であった(第一管理区分の場合には,作業環境はよく管理されていると考えてよいとされ,現在の管理の継続的維持に努めるとされている において,その後行われた測定結果によれば,作業環境評価基準の第1管理区分であった(第一管理区分の場合には,作業環境はよく管理されていると考えてよいとされ,現在の管理の継続的維持に努めるとされている〔甲C6,乙ロ11〕。)というのである。)。さらに,前記(1)エからキまでの認定事実によれば,被告は,このほ か,安全教育の実施,マスクの無償支給,健康診断の実施,休憩設備の設置等の法令が定める具体的措置を採ってきたものと認められる。そうすると,被告の築炉作業のうち,本件積上げ作業により発生する粉じん量はごくわずかであり,また,本件加工作業及び本件取外し作業は粉じんを発生させる作業ではあるものの,上記のとおり,全体からすればわずかな作業量に止まることを併せ考えると,これらの各措置により, 被告の築炉作業においては,上記措置以上に,じん肺防止のための何らかの措置をとるべき状況にあったとは認め難く,また,被告において,じん肺り患の危険性を認識し,それ以上の措置をとるべき必要性を認識していたと認めることはできない。 したがって,被告において安全配慮義務違反があったと認めることはできない。 イ原告らの主張について (ア) 原告らは,被告らがとった前記ア(ア)から(ウ)までの各措置について,継続的に行われたと認めるだけの証拠はないし,また,昭和41年以前のマスクの支給及びじん肺教育の実施,昭和35年以前の健康診断の実施については,そもそも証拠が提出されていないから実施されていなかったのであり,被告には安全配慮義務違反がある旨主張する。 しかしながら,前記ア(ア)から(ウ)までのとおり,被告は,コークス炉における本件 積上げ作業については,遅くとも昭和34年以降,作業場である建屋に開口部を設け,また る。 しかしながら,前記ア(ア)から(ウ)までのとおり,被告は,コークス炉における本件 積上げ作業については,遅くとも昭和34年以降,作業場である建屋に開口部を設け,また,遅くとも昭和42年以降は換気扇を設置して粉じん濃度の希釈に務めたほか,遅くとも平成4年以降原告Eの高炉やトピードカーにおける本件取外し作業については,ミストや集じん機を用いて粉じんの発生及び飛散の防止に関する対応するなど,じん肺に関する法令の定めを遵守する態度を取っており,昭和35年には法の規定に 基づきじん肺健康診断を実施していること(乙ロD9)も併せ考えると,昭和35年以前に健康診断が実施され,昭和41年以前にマスクの支給及びじん肺教育が実施されたことがうかがわれ,単に,直接の証拠がないとの一事をもって,それ以前にあっても,被告が,上記粉じんの発生又は抑制の措置及び健康診断の実施をしていないと認めることはできない。 (イ) 原告らは,被告の築炉作業においては大量の粉じんが発生していたと主張し,原告E及び同Dはこれに沿う供述をする。 しかしながら,前記2(3)ウ(ア)から(ウ)までのとおり,本件築炉工らが担当した築炉作業については,大半が,それ自体で大量の粉じんを発生させるものではない上,比較的粉じんが発生しやすい本件加工手作業や本件取外し作業についても,多量の粉 じんが発生するとまでいうことはできず,しかも,その作業量自体が多いとはいえず,原告らの主張するように,整備工の代わりに本件取外し作業を担当したことがあるということを踏まえても,原告らが主張するような粉じんの舞う作業であったと認めることはできない。 (ウ) 原告らは,コークス炉の建屋に開口部があることや,4つの換気扇が 設置されている程 うことを踏まえても,原告らが主張するような粉じんの舞う作業であったと認めることはできない。 (ウ) 原告らは,コークス炉の建屋に開口部があることや,4つの換気扇が 設置されている程度では,全体換気措置としては足りない旨主張する。 しかしながら,被告においては,作業自体の低減や,清掃の実施等,複数の措置を組み合わせて,粉じん発生による危険を除去する必要があり,前記2(3)ウ(ア)から(ウ)までのとおり,特定粉じん作業に至るほどの多量の粉じんが発生していたとは認められないのであるから,粉じん濃度が低い場合に採用される全体換気の方法が,対応と して不適合であった,あるいは,上記各措置が全体換気措置として足りなかったとい うことはできず,原告らの上記主張は採用できない。 (エ) 原告らは,トピードカーの集じん装置について,作業人員と比較して台数が少なすぎる旨主張するが,集じん機が足りないままに作業せざるを得なかったことを認めるに足りる証拠はなく,原告らの上記主張は採用できない。 (オ) 原告らは,被告が粉じん濃度を定期的に測っていないことから,被告 が実施した措置に効果があったとはいえない旨主張する。 しかしながら,そもそも,被告における築炉作業は,特定粉じん作業ではないから,粉じん濃度の測定は不要であり,前記2(2)イのとおり,本件築炉工らが担当した築炉作業は浮遊粉じんが大量に発生する作業とはいえない上,粉じんを発生させる作業も,局所的,一時的なものであり,被告は,これらに対して,全体換気又は局所換気 を設置するなどそれぞれ適切に対応し,発生する粉じんを相当程度抑えていたことに照らせば,粉じん濃度を測定した上で,被告が何かしらの対応をすべきであったかは明らかではなく,結局,これを行う 気 を設置するなどそれぞれ適切に対応し,発生する粉じんを相当程度抑えていたことに照らせば,粉じん濃度を測定した上で,被告が何かしらの対応をすべきであったかは明らかではなく,結局,これを行う義務があったということはできない。したがって,原告らの上記主張は採用できない。 (カ) 原告らは,本件築炉工らは必ずしもマスクの着用を徹底していなかっ た旨主張し,同旨の証言をする証人S及び同Iのほか,昭和53年頃,築炉工がマスクをせずに本件積上げ作業を行っている写真(甲B13)を援用する。 しかしながら,マスクの着用は,発生源における粉じんの発生削減,浮遊の減少といった措置を取ることを前提とし,更なる安全性を確保するための補完的な一方法とされているところ,被告においては,本件加工作業のうち本件加工手作業を除くもの, すなわち機械によって切断等するものについては,別途,密閉した場所を設置するなどしたほか,換気設備を整え,清掃を徹底するなど,関連法規の要請するところに従って粉じんに対する措置をとっているのであり,マスクの配布や安全教育についても,一定程度の期間からこれを実施していることが裏付けられること(乙ロD10~12,20~26,34,35,乙ロE10,11)からすれば,そしてまた,上記写真に おいても粉じんが発生しているような様子はうかがえず,原告らにおいても,本件加 工作業や本件取外し作業など,粉じんが発生する作業の際にマスクを着用していなかったとは主張していないのであるから,一定の品質を有するマスクの適切な配布がされていなかったと認めるに足りる証拠はない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (3) 小括 以上のとおりであるから,本件築炉工らの就労期間中,被告に 切な配布がされていなかったと認めるに足りる証拠はない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 (3) 小括 以上のとおりであるから,本件築炉工らの就労期間中,被告に安全配慮義務違反があったと認めることはできない。 4 本件築炉工らのじん肺り患と被告の安全配慮義務違反との因果関係について(争点3)前記3のとおり,被告に安全配慮義務違反があったと認めることはできないが,事 案に鑑み,仮に,被告における築炉作業において,粉じんの発生量が多くはなかったものの,これに対する措置が不十分であると認められ,これが被告の安全配慮義務違反になるとして,これと本件築炉工らのじん肺り患との間に因果関係が認められるかについて,進んで検討する。 (1) 前提事実(2)アのとおり,肺の繊維増殖性変化は,一般には長時間にわたる 粉じんばく露の結果によるものであり,じん肺が粉じんの吸入量に対応して悪化する疾病であることに照らせば,じん肺り患の危険は,粉じんへのばく露量とばく露期間により増大するものということができる。そして,その量や期間についての医学的知見は十分ではないものの,ある程度の量及び期間のばく露(いわゆる「絶対的ばく露」)がなければ,じん肺り患の可能性はなく,一般的には,粉じんばく露開始からじん肺 発症までの期間は,最低二,三年,通常5年から15年以上とされている(以下「最低ばく露期間」という。弁論の全趣旨)。 (2) 民法416条における因果関係についてア前記(1)を前提にすると,原告Eの被告における就労期間は,前提事実(1)ア(ア)のとおり,合計1年3か月に留まるのであるから,仮に被告に安全配慮義務違 反があるとしても,これと原告Eのじん肺り患との間に因果関係を認めるこ Eの被告における就労期間は,前提事実(1)ア(ア)のとおり,合計1年3か月に留まるのであるから,仮に被告に安全配慮義務違 反があるとしても,これと原告Eのじん肺り患との間に因果関係を認めることはでき ない。 また,前提事実(1)ア(イ)及び(ウ)までのとおり,被告における就労期間は,原告Dについては4年7か月,亡Fについては8年3か月であると認められるところ,前記2(3)ウ(ア)から(ウ)までのとおり,被告のコークス炉における粉じん濃度は第1管理区分に留まるのであり,その作業環境を維持することで足りるとされている程度である ことからすれば,これによって発生した粉じんの量も機会も限定的なものであって,前記各期間粉じん作業に従事したことによってじん肺り患の危険があると認めることはできない。したがって,仮に被告に安全配慮義務違反があるとしても,これと原告D及び亡Fのじん肺り患との間に因果関係を認めることはできない。 イ原告は,築炉作業が粉じん作業である以上,本件築炉工らのじん肺り患と 被告の下での築炉作業との間の因果関係は,じん肺法又は粉じん障害防止規則により,法律上推定される旨主張するが,根拠を欠くものであり,採用できない。 (3) 民法719条1項後段の適用による因果関係について原告は,被告の安全配慮義務違反と本件築炉工らのじん肺り患との間に直ちに因果関係が認められないとしても,民法719条1項後段の適用により,これを認めるこ とができる旨主張するので,この点について検討する。 ア民法719条1項後段は,特定の複数の加害者につき,それぞれ因果関係以外の点では独立の不法行為の要件が具備されている場合において,被害者に生じた損害が加害者らの行為のいずれかによって発生したことは明 民法719条1項後段は,特定の複数の加害者につき,それぞれ因果関係以外の点では独立の不法行為の要件が具備されている場合において,被害者に生じた損害が加害者らの行為のいずれかによって発生したことは明らかであるが,加害者らの各行為が原因として競合していると考えられるため,現実に発生した損害の一部又 は全部がそのいずれによってもたらされたかを特定することができないときには,加害者らの各行為がそれだけで損害をもたらし得るような危険性を有し,現実に発生した損害の原因となった可能性があることを要件として,発生した損害と加害者らの各行為との因果関係の存在を推定するものである。このような趣旨は,不法行為の事案のみならず,債権者の生命又は身体を保護することを目的とした債務の不履行におい ても妥当するから,債務不履行に基づく損害賠償責任についても,民法719条1項 後段の規定を類推適用するのが相当である。 他方で,じん肺が,吸入期間及び量を主たる要因として,不可逆的に増悪していく疾患であることに照らせば,短期間又は少量であっても,粉じん作業により粉じんを吸入した場合には,その症状に何らかの悪影響が生じ得るものではあるが,特定の事業者がじん肺関連法規を概ね遵守し,粉じん作業中の粉じん濃度を作業環境評価基準 の基準値未満に抑えるなどしているときには,何らかの安全配慮義務違反が認められるとしても,実質的には当該作業により,じん肺り患の危険性のあったものということはできず,また,事業者においても,当該作業に継続して従事させることだけで,労働者がじん肺にり患する危険性を認識していたということはできない。そして,他の事業者が,労働者を粉じん作業に従事させた場合において,当該他の事業者が,じ ん肺関連法規を遵守することなく,労働者 働者がじん肺にり患する危険性を認識していたということはできない。そして,他の事業者が,労働者を粉じん作業に従事させた場合において,当該他の事業者が,じ ん肺関連法規を遵守することなく,労働者を基準値を超えるような粉じん濃度下における粉じん作業に従事させ,当該労働者をじん肺にり患させたことがあったとしても,そのような事情を予見するなどしない限り,当該事業者がこれと関連共同しているものということはできず,民法719条1項後段の類推適用の前提を欠くといわなければならない。 イこれを本件について見るに,まず,本件築炉工らのいずれについても絶対的ばく露があったと認められないことは前記(1)のとおりである。 次に,前記認定事実のとおり,被告が本件築炉工らに行わせた築炉作業の過程において,粉じんが発生しているものの(前記3(1)ア),本件築炉工らは,おおむね,別紙「就労期間一覧表」の各「原告ら主張」欄記載のとおり,被告以外の1又は複数の 会社(その下請会社も含む。以下「別件会社等」という。)に雇用されるなどして,築炉工として就労してきた者であるところ(原告Eの主な就労歴は,Hに約16年11か月,Xに2年3か月,Yに約1年4月〔甲E3,4,原告E本人,弁論の全趣旨〕,原告Dの主な就労歴は,Hに8年4か月,Uに10年9か月〔甲F4,6,8,9,原告D本人〕,亡Fの主な就労歴は,Hに3年6か月,Uに7年3か月〔甲G6,弁論 の全趣旨〕。),別件会社等においては,被告と異なって,マスクの支給,健康診断及び 入構教育を実施していたほかは,必ずしも特定外粉じん作業対応措置を含めた,じん肺り患防止のための措置を行っていなかったものと認められること(乙イB1~10,乙イE1,弁論の全趣旨)からすれば,本件築炉工らは を実施していたほかは,必ずしも特定外粉じん作業対応措置を含めた,じん肺り患防止のための措置を行っていなかったものと認められること(乙イB1~10,乙イE1,弁論の全趣旨)からすれば,本件築炉工らは,別件会社等において,一定期間(最低ばく露期間),ある程度の量及び期間のばく露(絶対的ばく露)を受けたということができる。他方,前記認定事実のとおり,被告は築炉作業を本件築炉工らに 行わせるに当たり,一定の措置をとり,これによって築炉作業により発生した粉じんの量は少量かつ限定的であり,作業環境として,粉じん濃度は作業環境評価基準の基準値未満であったから,そのような状況において,仮に,被告の下で最低ばく露期間を越えて就労していた場合においても,被告が,本件築炉工らが築炉作業によりじん肺にり患すると認識していたものと認めることはできず,また,認識し得る余地も認 められない(被告において,本件築炉工らが,被告と異なって,じん肺関連法規を遵守することのない余所の職場に就業し,築炉作業に従事することを想定できたとはいえない。)。 したがって,719条1項後段の類推適用をすべきとする原告らの主張は,その前提を欠き,採用することができない。 (4) 前記(2)及び(3)のとおりであるから,仮に被告に安全配慮義務違反があるとしても,これと本件築炉工らのじん肺り患との因果関係を認めることはできない。 5 小括以上のとおりであって,被告において安全配慮義務違反があったということはできず(争点(1)),因果関係も認められない(争点(2))から,その余の点について検討す るまでもなく(被告は,原告らに損害賠償請求債権が認められることを前提として,消滅時効の抗弁,Hから受領した損害賠償金のてん補を主張している。),原告らの請求は ら,その余の点について検討するまでもなく(被告は,原告らに損害賠償請求債権が認められることを前提として,消滅時効の抗弁,Hから受領した損害賠償金のてん補を主張している。),原告らの請求はいずれも理由がないこととなる。 第4 結論 以上のとおり,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官 足立正佳 裁判官 永田早苗 裁判官 川上タイ

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る