平成12(ワ)2683 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年8月29日 神戸地方裁判所
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判決文本文26,946 文字)

主文 1 被告は,原告に対し,3692万5652円及びこれに対する平成12年12月19日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 ただし,被告が3200万円の担保を供するときは,上記仮執行を免れることができる。 事実 第1 当事者の求めた裁判 1 原告(請求の趣旨)(1) 被告は,原告に対し,9704万1565円およびこれに対する平成12年12月19日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 被告(請求の趣旨に対する答弁)(1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 (3) 仮執行免脱宣言第2 当事者の主張 1 原告(請求原因)(1) 当事者ア原告は,亡Aの母であり,Aの唯一の相続人である。A(昭和56年12月23日生)は,平成9年4月にB高校の漁業科に入学し,3年次の平成11年10月に実施された遠洋マグロ延縄漁業実習(以下「本件実習」という。)に参加した。 イ被告は,Aが在籍していたB高校を設置管理する者であり,B高校が本件実習に使用していた但州丸の所有者である(甲6,乙1・2)。 (2) 本件事故の発生ア本件実習の実施(ア) 本件実習は,平成11年10月14日から同年12月16日までの予定で,漁業実習船・但州丸(499トン)に,C船長以下19名の乗組 (2) 本件事故の発生ア本件実習の実施(ア) 本件実習は,平成11年10月14日から同年12月16日までの予定で,漁業実習船・但州丸(499トン)に,C船長以下19名の乗組員,B高校教諭で指導教官のD教諭,E教諭,及びAを含むB高校漁業科の3年生18名(以下「実習生」という。)が乗船して,太平洋第6・7海区で遠洋マグロ延縄漁業実習を行うというものであった(甲4)。 (イ) 但州丸は,平成11年10月14日,兵庫県城崎郡香住町(日本海側)所在の香住港を出港し,姫路港を経て,同月18日,神戸港から太平洋第6・7海区に向けて出航した(別紙図面参照)。 イ Aの死亡ところが,平成11年10月19日から但州丸はしけに遭い,Aを含む実習生全員が船酔いになった。同月20日以降は天候も回復し,A外1名の実習生を除くその余の実習生は数日後には船酔いから回復したが,Aの船酔いはその後も継続していた。 そして,Aは,平成11年10月30日午後5時30分(日本時間同日午後2時,死亡推定時刻)ころ,本件実習海域であるアメリカ統治下マーシャル諸島共和国アルム島沖の北緯5度37分,東経176度50分の公海上において,頻回の嘔吐および脱水により体内の水分が欠乏し,血清電解質異常(推定)を起こして,急性循環不全で死亡した(以下「本件事故」という。)(別紙図面参照)。 (3) C船長,D教諭の注意義務違反ア一般的注意義務C船長は,但州丸に乗船している者の健康状態を把握し,体調の悪い者に対してはその動静に注意を払い,体調の回復に必要な措置を取るべき注意義務があり,D教諭は,本件実習のために生徒を引率指導する者として,実習生の健康に配慮する注意義務があった。 イ 10月26日,27日の注意 静に注意を払い,体調の回復に必要な措置を取るべき注意義務があり,D教諭は,本件実習のために生徒を引率指導する者として,実習生の健康に配慮する注意義務があった。 イ 10月26日,27日の注意義務違反(ア) もともとAは船酔いをしやすく,平成10年7月に行われた日本海沖の乗船実習においても,激しい船酔いになり,実習が終了したときには体重が10キロ以上減少していた。 (イ) Aは,平成11年10月19日以降,終始船酔いに苦しみ,ほとんど食事を取ることができず,食べても1口か2口であり,それもすぐに吐いてしまうという状態であった。司厨長は,当初Aのためにおかゆを作ってやっていたが,Aが食べないので,1,2回でおかゆを作るのをやめてしまった。Aは,船酔いのために立っていられず,座り込んだり,寝転がったりしていた。 同月25日には,二等航海士からD教諭に対して,Aが食物を摂取せずに弱ってきているので何か食べさせて欲しいとの要請があった。Aは,同月26日,食事当番であったが,賄い室の前で座り込んだだけで,励まされると返事をするが,すぐには動けない状態であり,自分の衣服を洗濯したり,シャワーを浴びる気力もなくなっていた。 同月27日,引率教諭らは,Aの船酔いがあまりにもひどいので,その対策について話し合うまでになっていた。C船長やD教諭は,船酔いが悪化して重篤な状態になった事例を知っており,Aのように長期間船酔いから回復しなかったことは過去に例がなく,Aが特異な船酔い状態であることを認識していた。 (ウ) 以上からすると,C船長やD教諭は,平成11年10月26日,27日の時点で,Aが,このままでは,船酔いによる嘔吐を継続させて食物を摂取できず,脱水がすすんで体液を喪失させ,死亡することもあり得ること 以上からすると,C船長やD教諭は,平成11年10月26日,27日の時点で,Aが,このままでは,船酔いによる嘔吐を継続させて食物を摂取できず,脱水がすすんで体液を喪失させ,死亡することもあり得ることを容易に予見することができた。 それゆえ,C船長やD教諭は,同月26日,27日時点で,Aの健康状態,体調に十分な注意を払い,医師や学校と連絡を取って助言を求めたうえで,Aにスポーツドリンクを飲ませ,ブドウ糖を投与して脱水症状の改善を図るべきであったし,但州丸の航路を変更して病院のあるポンペイないしクワジリン米軍基地に向かうか(別紙図面参照),ヘリコプターによるAまたは医師の搬送が可能な地点にまで向かい,そこでAを下船させるか,医師を乗船させ,Aに医師の診察,治療を受けさせるべき注意義務があった。 ところが,C船長やD教諭は,これを怠り,Aの容態に十分注意を払わず,漫然とAに対し,水分を取るように指導しただけであり,医師に連絡をとって助言を求めることもスポーツドリンクを与えることもせず,食事についても何らの配慮もしなかった。 但州丸は,同月27日正午にはクワジリン米軍基地まで約10時間,同日深夜に同基地にもっとも接近したときには同基地まで70マイルで約6時間の距離にあったから(別紙図面参照),C船長は,但州丸の航路を変更してクワジリン米軍基地に寄港することも,ヘリコプターでAまたは医師の搬送が可能な地点に向かい,そこでAを下船させるか医師を乗船させ,Aに医師の診察,治療を受けさせることも可能であったのに,これをしなかった。 ウ 10月28日の注意義務違反(ア) 実習生のFは,平成11年10月28日,食堂の床に寝ころんでいるAを見つけ,声をかけたが,Aは反応せず,心配になって体を揺すったところ た。 ウ 10月28日の注意義務違反(ア) 実習生のFは,平成11年10月28日,食堂の床に寝ころんでいるAを見つけ,声をかけたが,Aは反応せず,心配になって体を揺すったところ,Aが反応した。その際,Aの顔色は悪く,動作も緩慢になっていた。そこで,Fは,実習生のGとともに,D教諭に対しAの状態を告げ,Aの上陸を進言した。 C船長は,同日午前,Aの船酔いの状態が異常であると感じ,Aに下船を打診している。D教諭も,Aをこのままにしておくと容態が悪化するかもしれない,医師に診察させたほうがよいと考えており,船長からAの状態が悪ければマジュロ島に上陸させると言われて,安心している。 (イ) 以上のとおり,C船長やD教諭は,平成11年10月28日の時点で,Aの異常な状態を無視できなくなっており,Aの脱水がさらに悪化し,死亡することも十分予見できた。 したがって,C船長やD教諭は,Aの健康状態や体調に十分な注意を払い続け,医師に連絡を取って助言を求め,但州丸の航路を変更して,陸に向かうか,ヘリコプターでA又は医師の搬送が可能な地点に向かい,そこでAを下船させるか医師を乗船させ,Aに医師の診察,治療を受けさせるべき注意義務があった。 (ウ) ところが,C船長やD教諭は,上記注意義務を怠り,Aの容態に十分な注意を払うことなく,医師に連絡を取って助言を求めることもしなかった。 また,但州丸は,平成11年10月28日正午にはマジュロ島まで100マイルで約8時間の距離,同日深夜に同島にもっとも接近したときには,同島から60ないし70マイルで約5時間の距離にあったから(別紙図面参照),C船長は,但州丸の航路を変更してマジュロ島に上陸することも,ヘリコプターでAまたは医師の搬送が可能な地点に向か ときには,同島から60ないし70マイルで約5時間の距離にあったから(別紙図面参照),C船長は,但州丸の航路を変更してマジュロ島に上陸することも,ヘリコプターでAまたは医師の搬送が可能な地点に向かい,そこでAを下船させるか医師を乗船させ,Aに医師の診察,治療を受けさせることも可能であったのに,これをしなかった。 エ 10月29日の注意義務違反(ア) Aは,平成11年10月29日朝もあまり食べなかったので,Fは,Aのためにカップ茶漬けを作ってやったが,Aはそれもあまり食べなかった。 このとき,Fは,Aの手足が冷たくなっているのに気がついたので,血行が悪くなっているのだと思い,Aの手足をさすってやったり,もんだりしてやった。 (イ) 上記事実からも,Aの脱水がさらに悪化していることが明らかであり,Aは,体温や血圧の低下や意識障害が生じている可能性が高いので,C船長やD教諭は,上記時点において,より明確に,Aが脱水により死亡することを予見することができた。 それゆえ,C船長やD教諭は,Aの健康状態や体調に不断の注意を払い続け,医師と連絡を取って助言を求めたうえで,Aにスポーツドリンクを飲ませたり,ブドウ糖液の点滴を行ったりしながら,Aの病状が悪化するのを阻止しつつ,早急に但州丸の航路を変更して陸に向かうか,ヘリコプターでAまたは医師の搬送が可能な地点に向かい,そこでAを下船させるか医師を乗船させ,Aに医師の診察,治療を受けさせるべき注意義務があった。 (ウ) ところが,C船長やD教諭は,上記注意義務を怠り,Aの容態に十分な注意を払うことなく,医師と連絡を取って助言を求めることもせず,また,Aにスポーツドリンクを飲ませたり,ブドウ糖液の点滴を行いながら病状が悪化するのを阻止しつつ,但州丸の航路 怠り,Aの容態に十分な注意を払うことなく,医師と連絡を取って助言を求めることもせず,また,Aにスポーツドリンクを飲ませたり,ブドウ糖液の点滴を行いながら病状が悪化するのを阻止しつつ,但州丸の航路を変更してマジュロ島に寄港することもしなかったし,ヘリコプターでAまたは医師の搬送が可能な地点に向かい,そこでAを下船させるか医師を乗船させ,Aに医師の診察,治療を受けさせることもしなかった。 オ 10月30日の注意義務違反(ア) Aは,平成11年10月30日朝,航海当直につくために船橋に上がってきたが,すぐに横になり,C船長から体を起こすようにと言われても,それができない状態であった。そこで,C船長は,同日午前8時過ぎ,Aに自室に戻るように言い,Aは,実習生のHに付き添われて自室に戻り,ベットに入った。 D教諭は,同日午前11時ころ,掃除のためにAの部屋を訪れたが,Aの様子を確かめることもしなかった。Aは,同日までは,昼食時には食べられなくても食堂に姿を見せていたが,この日は昼食時に食堂にも現れなかった。D教諭は,同日午後2,3時ころ,揚縄作業を開始するために実習生を呼びに行った際,Aの自室を訪れたが,Aの様子を確かめなかった。 そして,Fは,同日午後7時頃,夕食を告げるためにAの自室を訪れた際,意識を失っているAを発見した。 (イ) 以上の経過からすれば,C船長やD教諭は,平成11年10月30日の時点では,より明確にAが死亡することを予見できたのであるから,Aの健康状態や体調に不断の注意を払い,医師に連絡を取って助言を求めたうえで,Aにスポーツドリンクを飲ませたり,ブドウ糖液の点滴を行いながら,Aの病状が悪化するのを阻止しつつ,早急に但州丸の航路を変更して陸に向かうか,ヘリコプターでAまた に連絡を取って助言を求めたうえで,Aにスポーツドリンクを飲ませたり,ブドウ糖液の点滴を行いながら,Aの病状が悪化するのを阻止しつつ,早急に但州丸の航路を変更して陸に向かうか,ヘリコプターでAまたは医師の搬送が可能な地点に向かい,そこでAを下船させるか医師を乗船させ,Aに医師の診察,治療を受けさせるべき注意義務があった。 ところが,C船長やD教諭は,上記注意義務を怠り,C船長は,同日午前8時過ぎにAにベットで寝ているよう指示した以降,同日午後7時にAが意識不明の状態でFに発見されるまで,Aを放置している。 そして,D教諭は,同日午前11時と午後2時過ぎの2回,Aの部屋に入る機会があったにもかかわらず,Aの容態を確認しなかったし,Aにスポーツドリンクを飲ませたり,ブドウ糖液の点滴を行いながら病状が悪化するのを阻止するようなこともしなかった。 また,C船長も,但州丸の進路を変更してマジュロ島に寄港することもしなかったし,ヘリコプターでAまたは医師の搬送が可能な地点に向かい,そこでAを下船させるか医師を乗船させ,Aに医師の診察,治療を受けさせることもしなかった。 カまとめ以上の次第で,C船長やD教諭らは,上記のとおりの注意義務違反があり,これによってAが死亡したのであるから,被告は,Aの死亡についての損害賠償責任がある。 (4) 損害ア逸失利益(ア) 各指数a 平成10年の賃金センサス産業計・企業規模計・高卒・男子労働者の平均年間賃金528万8800円b 中間利息控除2パーセント(最近の低金利を特に考慮)c ライプニッツ係数(利率2パーセント)就労の終期(67歳)までの期間(50年)に対応する係数が31. b 中間利息控除2パーセント(最近の低金利を特に考慮)c ライプニッツ係数(利率2パーセント)就労の終期(67歳)までの期間(50年)に対応する係数が31.423606,就労の始期(18歳)までの期間(1年)に対応する係数が0.980392,適応する係数は30.443214d 生活費控除割合50パーセント(イ) 計算式Aの逸失利益は,次のとおり8050万4035円となる。 528万8800円(年収)×30.443214(ライプニッツ係数)×0.5(生活費控除割合)=8050万4035円イ慰謝料(ア) A自身の慰謝料 2000万円(イ) 原告固有の慰謝料 1000万円原告は女手一つでAを養育し,Aがまもなく社会に出て行くことを楽しみにしていた。安全であるはずの学校で我が子の命を奪われた原告の悲しみは大きく,今も悲嘆に暮れている。このような原告の精神的苦痛に対する慰謝料は1000万円を下らない。 ウ葬儀費用  153万7530円エ弁護士費用 1000万円オまとめ以上の次第で,原告は,Aの損害賠償金を相続し,また自己固有の権利として,被告に対し,前記アないしエの損害賠償金合計9704万1565円を有する。 (5) 結論よって,原告は,被告に対し,安全配慮義務違反又は国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償金9704万1565円,及びこれに対する平成12年12月19日(訴状送達の日の翌日)から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 被告(請求原因に対する認否,反論)(1) 請求原因(1)(当事者)について請求原因(1)のう 状送達の日の翌日)から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 被告(請求原因に対する認否,反論)(1) 請求原因(1)(当事者)について請求原因(1)のうち,原告がAの唯一の相続人であることは不知,その余は認める。 (2) 請求原因(2)(本件事故の発生)は認める。 (3) 請求原因(3)(C船長,D教諭の注意義務違反)についてア請求原因(3)ア(一般的注意義務)は認める。 イ請求原因(3)イ(10月26日,27日の注意義務違反)について(ア) 認否次の事実は認めるが,その余は否認ないし争う。 aAは,平成10年7月に日本海で行われた乗船実習に参加した。 bAは,平成11年10月19日以降も船酔いしていた。 (イ) 反論aAは,平成10年7月の実習でも船酔いをしたが,長時間寝込んでしまうような重い船酔いではなかった。 bAは,平成11年10月26日には,朝食,昼食および夕食を少し食べており,Fから夜中に即席茶漬けをもらい,うまいと言って全部食べている。 cAは,同月27日には,朝食を少々食べ,昼食および夕食も少し食べたという状態であり,C船長やD教諭は,Aが徐々に食事が取れるようになり,船酔いを克服しつつあると認識していた。 ウ請求原因(3)ウ(10月28日の注意義務違反)について(ア) 認否次の事実は認めるが,その余は否認ないし争う。 aC船長は,平成11年10月28日午前,Aに下船を打診した。 bD教諭は,C船長からAの状態が悪ければマジュロ島に上陸させると言われ,安心した。 (イ) 反論aFが,実習生のGとと 1年10月28日午前,Aに下船を打診した。 bD教諭は,C船長からAの状態が悪ければマジュロ島に上陸させると言われ,安心した。 (イ) 反論aFが,実習生のGとともに,D教諭にAの上陸を進言した事実はない。 bC船長がAに下船を打診したのは,Aが船酔いの状態で操業に従事させることの危険性を考慮したからである。D教諭が,船長からAの状態が悪ければマジュロ島に上陸させると言われ,安心したのは,体調不十分な状態でAを操業に従事させると事故が起きるのではないかと,心配していたためである。両名とも,当時のAの健康状態について,生命の危険を感じていたわけではない。 cAは,平成11年10月28日,ラーメンのような物や茶漬けを食べているし,他の生徒からも食べ物をもらっている。Aは,同日,甲板作業もしているし,船長からの下船の打診に対しても,「頑張ります。」と答えていた。 エ請求原因(3)エ(10月29日の注意義務違反)について(ア) 請求原因(3)エは否認ないし争う。 (イ) Aは,平成11年10月29日も航海当直につき,毎食毎に食堂に来ており,他の実習生と比較して特にAの様子が異常であるようには見られなかった。 (ウ) Aは,同月30日にも航海当直につこうと船橋に上がってきていたのであるから,体温や血圧の低下や意識障害が生じていたとは考え難い。 オ請求原因(3)オ(10月30日の注意義務違反)について(ア) 認否請求原因(3)オのうち,次の事実は認めるが,その余は否認する。 aAは,平成11年10月30日,朝食を食べ,航海当直につくために船橋に上がってきた。 bAは,同日午前8時過ぎ,船橋から自室まで階段を下りて 実は認めるが,その余は否認する。 aAは,平成11年10月30日,朝食を食べ,航海当直につくために船橋に上がってきた。 bAは,同日午前8時過ぎ,船橋から自室まで階段を下りて行った。 cFは,同日午後7時頃,夕食を告げるためにAの部屋を訪れ,意識を失っているAを発見した。 (イ) 反論Aは,平成11年10月30日,朝食を食べ,航海当直につくために船橋に上がってきている。それに,当日までに海況のよい日が2,3日継続しており,当日は漁場に到着して停泊している時間が長くなっている。したがって,Aの船酔いの悪化は考えられない。 カ C船長,D教諭に注意義務違反はない(ア) A死亡の予見可能性についてa 船酔いは,動揺の刺激が内耳特に耳石器系に作用して,それが原因となって,自律神経の失調状態を発症するものである。その症状としては,全身の倦怠感,顔面蒼白,なまつば,頭痛,悪心,嘔吐,めまい等である。船酔いは慣れによって克服することができ,船酔いによって人が死亡するという認識はない。 bD教諭は,本件実習までに6,7回遠洋漁業実習に参加し,百数十人の生徒を見てきたが,全員船酔いを克服しており,Aが船酔いによって死亡することは予想もできなかった。 また,C船長も,昭和47年4月から但州丸の船長を務め,本件実習までに200名以上の実習生を見てきたが,船酔いから回復しない実習生を経験したことがなく,また,船酔いで死亡した例を聞いたこともなく,船酔いは慣れによって克服できると思っていた。 そして,C船長やD教諭は,Aから体調が極端に悪いことや何らかの措置を求める申出がなかったばかりか,Aは徐々に食事が取れるようになっており,船酔いを克服しつ て克服できると思っていた。 そして,C船長やD教諭は,Aから体調が極端に悪いことや何らかの措置を求める申出がなかったばかりか,Aは徐々に食事が取れるようになっており,船酔いを克服しつつあると認識していた。 c それに,Aは,平成11年10月28日,C船長から下船を打診されて,「頑張ります。」と答えていたし,同月30日当日も,割り当てられた航海当直をしようと船橋に上がってきている。同日には漁業実習が始まり,C船長もこれまでの経験から,漁場において船酔いで苦しんでいる実習生はおらず,気も紛れ,揺れもおさまるので,Aの船酔いもおさまると考えていた。 d これらの事情からすると,C船長やD教諭は,Aが船酔いで死亡することは予見していなかったし,予見しうべき可能性もなかった。 (イ) スポーツドリンク,ブドウ糖液の投与についてa 原告は,「C船長やD教諭には,Aに対して,スポーツドリンクやブドウ糖液を投与あるいは点滴すべきであった。」と主張するが,C船長やD教諭に,そのような注意義務があったとは認められない。すなわち,bAは,頻回の嘔吐および脱水により,血清電解質異常(推定)になり,急性循環不全をおこし死亡したものである。 しかし,脱水症状によって血液の電解質異常が生じる場合に,その異常は一様ではなく,低Na血症,高Na血症,低K血症,高K血症等いろいろなタイプがあり,これに応じた治療方法も異なる。 低Na血症には生理食塩水の投与が有効であり,高Na血症には低電解質液の輸液が有効である。Aは低Na血症にかかっていたと推定されるので,この場合,水分を補給しても,これによって治療の実は上がらない。 c このような電解質異常があることは通常一般人は知 電解質液の輸液が有効である。Aは低Na血症にかかっていたと推定されるので,この場合,水分を補給しても,これによって治療の実は上がらない。 c このような電解質異常があることは通常一般人は知り得ず,現に船長もD教諭も船酔いには水分補給という程度の知識しかなかったのである。このような者に対して,但州丸に積み込まれていないスポーツドリンクを飲ませるべき注意義務を課すのは,不可能を強いるものである。 また,ブドウ糖の投与は低Na血症に対しては逆効果となり,さらに,ブドウ糖を点滴することは,医師でない船舶衛生管理者が行ってはならないとされているから(船舶衛生管理者教本,日本船舶医療便覧),このような義務を課すこともできない。 (ウ) 航路変更,ヘリコプターによる搬送についてa 平成11年10月30日にマジュロ島に向かったとしても,その時から到着までには30時間を要し,Aの死亡推定時刻は平成11年10月30日午後5時30分ころであるから,同日にAが救命された可能性はない。 b ヘリコプターは,100マイル以上の飛行が不可能であるところ,平成11年10月26日及び27日には最寄りの島まで100マイル以上の距離があり,ヘリコプターによるAや医師の搬送はできない。 cC船長やD教諭は,船酔いは慣れによって克服できると考えており,それは突飛な考えでないし,また,水分を取っても直らない脱水症があるという知識もなかった。それに,Aが自室で寝込んでいるわけでなく,食堂に姿を現したり,航海当直に就いたりしていたことからすると,C船長やD教諭に対し,但州丸の航路変更義務やヘリコプターでのAや医師の搬送義務を認めることは,難きを強いるものである。 (エ) 刑事処分についてC船 とからすると,C船長やD教諭に対し,但州丸の航路変更義務やヘリコプターでのAや医師の搬送義務を認めることは,難きを強いるものである。 (エ) 刑事処分についてC船長及びD教諭は,いずれも本件事故について,業務上過失致死罪の被疑者として捜査の対象とされたが,両名とも,Aの船酔いによる死亡の予見可能性がないとして,嫌疑不十分により不起訴となっている(乙19)。 (4) 請求原因(4)(損害)は争う。 ア Aは平成12年から稼働しえたのであるから,Aの逸失利益を算定するについては,平成12年度の賃金センサス・産業計・企業規模計・高卒・男子労働者の平均賃金によるべきであり,その金額は年額519万3300円となる。 イ中間利息控除の利率は年5分によるべきである。 ウ Aからの相続分と原告固有の慰謝料を合わせて3000万円の慰謝料請求は過大である。 3 被告(抗弁)(1) 過失相殺本件事故当時,Aは高校3年生であり,心身の発達の程度が一般の成人のそれにほぼ匹敵すると解されるから,Aには,C船長の下船の打診があったにもかかわらず,体調が極端に悪いことや何らかの措置を求める申出をしなかったことに過失があり,損害の算定に当たって斟酌すべきである。 (2) 損害の填補原告は,本件事故について,日本体育・学校健康センターから死亡見舞金2500万円を受領し,兵庫県高等学校教育振興会から死亡弔慰金200万円を受け取っている。 4 原告(抗弁に対する認否)(1) 抗弁(1)(過失相殺)は争う。 次の各事実に照らせば,本件事故の発生について,Aにも過失があったものとは認められない。 aAは,本件実習を終了しなければ,5級海技士の筆記試験免除や乗船履歴の軽 過失相殺)は争う。 次の各事実に照らせば,本件事故の発生について,Aにも過失があったものとは認められない。 aAは,本件実習を終了しなければ,5級海技士の筆記試験免除や乗船履歴の軽減が認められなくなり,B高校漁業科を卒業する意味がなくなる。 b また,Aが本件実習途中で下船することになれば,但州丸は大幅な航路変更が避けられず,本件実習日程にも大きな影響を及ぼし,実習生や乗組員全体に迷惑をかけることになる。それゆえ,Aは,自ら下船を申し出ることは困難な状況にあった。 c さらに,Aは,その症状が急激に悪化したものではなく,他の実習生と同様に平成11年10月19日に船酔いになり,その後徐々に全身状態が悪化したものである。それゆえ,A自身が,自己の体調の変化を正確に把握して,C船長やD教諭に何らかの措置を求めること自体が困難であった。 d まして,Aは,脱水が重症化して腎不全を伴っていたのであれば,外部からの刺激に対する反応性が低下して,意識状態も悪くなるから,このような状態でC船長から下船の打診があった際に,体調の不良から救済措置を求める申出をしなかったからといって,A自身の過失の存在を認めることは不当である。 (2) 抗弁(2)(損害の填補)は認める。 理由 第1 前提事実 1 請求原因(1)(当事者)(ただし原告がAの唯一の相続人であることは除く。),同(2)(本件事故の発生)は,当事者間に争いがない。 2 そして,証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によると,原告がAの唯一の相続人であることが認められる。 第2 事実の認定前記第1の前提事実に,証拠(甲1~5,甲11~15,甲18,乙2,乙4~16,乙19,乙22~24,乙26,乙30,証人C〔船長〕,証人D〔指導教官 であることが認められる。 第2 事実の認定前記第1の前提事実に,証拠(甲1~5,甲11~15,甲18,乙2,乙4~16,乙19,乙22~24,乙26,乙30,証人C〔船長〕,証人D〔指導教官〕,証人F〔実習生〕),及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。 1 はじめに(1) 前年度の漁業実習ア Aは,本件事故の前年度(高校2年のとき)に,平成10年7月6日から30日にかけて,但州丸に乗船して日本海西部でトロール漁業の実習に参加した。 上記実習は,何日か航海しては陸に上がり,又航海するというものであり,夏で海も穏やかな状態であったが,実習生のうちでAだけが船酔いをした。Aは,その実習が終了したころには,体重が10~20キログラムも減少していた(D証言35頁,甲15の1頁,F証言2頁)。 イ C船長やD教諭も,上記実習に参加しており,Aが船酔いしやすい体質であることを知っていた。 C船長は,Aから将来はマグロ船に乗船する仕事に就きたいと聞いたときに,内心,Aはあれだけ激しい船酔いをしたのだから,無理ではないかと思った(C証言37頁)。 D教諭も,他の生徒は誰も船酔いさえもしていないのに,Aだけが10~20キログラムもやせるほどひどい船酔いをしたことから,Aはもともと船に弱い体質であると思っていた(D証言35頁)。 (2) Aの健康状態Aは,何ら健康状態に問題はなく,身長185センチメートル,体重120キログラムの巨漢であった。Aは寮で生活していたが,大食漢で,食事のときはどんぶり飯2杯位は食べて,友達の残ったおかずをもらうほどであった(F証言1頁)。 (3) 医療態勢ア但州丸には無線室があり,船舶電話,無線装置を備えていて(乙2),本 事のときはどんぶり飯2杯位は食べて,友達の残ったおかずをもらうほどであった(F証言1頁)。 (3) 医療態勢ア但州丸には無線室があり,船舶電話,無線装置を備えていて(乙2),本件実習中は,どこを航海していても,但州丸から神戸掖済会病院に電話して,同病院の医師の助言を求めることができる態勢になっていた。 神戸掖済会病院は,多数の医師が勤務している総合病院であり,特に船員等を対象とした船舶医療に関する専門病院であるから(乙26),同病院に勤務する医師は,船酔いに関する専門知識については,他の一般の総合病院の医師よりも造詣が深かった。 イ但州丸には,「船員法施行規則53条1項に掲げる船舶に備え付ける医薬品その他の衛生用品の数量」(平成7年12月22日号外運輸省告示801号)3号の別表第2の乙種衛生用品表記載の医薬品(乙14の10,11枚目参照)が積み込まれていた。 しかし,上記乙種衛生用品表には,「電解質の補給」のために使用し得る薬品は記載されておらず,但州丸にはそのような薬品は備え付けられていなかった。もっとも,何人かの実習生は,電解質の補給ができるスポーツドリンクを持ち込んでいた(D証言34頁,F証言6頁)。 ウ但州丸には,衛生管理者の資格を有する者が4,5名乗船しており,z3等航海士が衛生管理者に選任されていた。 2 本件実習におけるAの状態(1) 船酔い状態但州丸は,平成11年10月18日,神戸港を外洋に向けて出航したが,同月19日にしけに巻き込まれ,実習生全員が船酔いになった。大半の実習生は2~3日で船酔いから回復し(甲15,乙24),Aと同様重症であったもう一人の実習生も1週間程度で回復したが,Aだけはいつまでも船酔いの状態が続いた。 (2) 船酔いになった。大半の実習生は2~3日で船酔いから回復し(甲15,乙24),Aと同様重症であったもう一人の実習生も1週間程度で回復したが,Aだけはいつまでも船酔いの状態が続いた。 (2) 食事の状況Aは,同月19日以降も,食事の時間には食堂に顔を出していたものの,ほとんど食事をとることはできず,食べても1口か2口程度であった。しかも,少ししか食べていないのに,すぐに吐いてしまうという状態であった。 Aは,いつもビニール袋を持っていて,吐き気がすると,食堂の冷水器の水を飲んでは,食堂の入口や廊下で吐くということを繰り返していた(F証言4,12頁)。 そのため,司厨長は,当初は,Aのためにおかゆを作ってやっていたが,Aが食べないので,1,2回でおかゆを作るのをやめてしまった。そして,司厨長は,その後は,Aの食事を作らなくなってしまった(F証言9頁)。 そのようなことから,2等航海士は,見かねて,同月25日,D教諭に対し,Aは食べておらず体が弱っているので,何か食べさせてやってほしいと申し入れをしている(乙16の10月25日欄)。 このように,Aは,同月19日以降,まともに食事をとっていなかったというのが実態である。D教諭も,Aがそのような実態であったことを認めている(D証言23頁)。 (3) 生活状況ア Aの部屋の中は衣服が散らかり(F証言7頁),段ボールが2,3個置いてあって,その中に反吐を吐いたビニール袋が詰まっていた(D証言24頁)。 Aの部屋は反吐の臭いがひどいので,同室の実習生は,向かいのコンピューター室の長椅子で寝泊まりするようになった(甲15)。 イ Aは,航海当直(ワッチ)につくときも,船酔いのために立っていることができず,座り込んだり寝転がってい 習生は,向かいのコンピューター室の長椅子で寝泊まりするようになった(甲15)。 イ Aは,航海当直(ワッチ)につくときも,船酔いのために立っていることができず,座り込んだり寝転がっていた(乙7,C証言28頁)。Aは,同月26日は食事当番であったが,賄い室の前で座り込むだけであったし,励ますと返事はするが,すぐには動けないという状態であった。 このように,Aは,割り当てられた任務をこなすことができず,また,冷蔵庫に入っている他の実習生の炭酸飲料を無断で飲んだりするので,当初は,他の実習生から苦情が出ていたが(甲15,乙16),Aがずっと船酔いで苦しんでいる様子を見て,暫くすると誰も何も言わなくなった(甲15,D証言26頁)。 Aは,同月19日以降,船内作業時間中も,座ったり寝たりという状態が続いていた。D教諭作成の報告書(乙7)の「作業内容及び本人の状態等」欄にも,「座ったり寝たり」と書かれていることが多い。 ウ実習生は,毎日,備え付けの洗濯機で下着や作業着を洗っていたが,Aは,洗濯をする気力もなく,ずっと同じものを着ていた(F証言8頁)。Aは,シャワーをする気力もなかったので,みかねた実習生が,Aをシャワー室に連れて行き,シャワーを浴びせたほどであった(F証言8,9頁)。 3 10月28日ないし30日の状況(1) 10月28日の状況ア既に平成11年10月27日の時点で,D教諭がE教諭とAの状態について話し合うなど(乙16の10頁,D証言13頁),指導教官の間でもAの船酔いに対する不安が募っていた。 イ Fは,同月28日,Aが食堂の床に寝ころんでいるのを見つけた。Aは,それまでは,食堂の長椅子で横になっているのが常であったので,Fは,Aの様子がおかしいと思い 対する不安が募っていた。 イ Fは,同月28日,Aが食堂の床に寝ころんでいるのを見つけた。Aは,それまでは,食堂の長椅子で横になっているのが常であったので,Fは,Aの様子がおかしいと思い,Aに声をかけたが,Aが反応しなかった。そのため,Fは,Aは意識がなくなっているのではないかと心配し,Aの体をゆすったところ,ようやくAが反応したので,Aを長椅子の上に寝かせた(甲15,F証言10頁)。 Aは,顔色も悪く,自分で体を動かすのもしんどい様子で,動作もにぶくなっていた。そこで,Fは,実習生のGと連れ立ち,甲板にいたD教諭にそのことを報告し,「Aを上陸させた方がよいのではないか。」と進言した(甲15,F証言10頁)。 ウ C船長は,同月28日午前,Aの船酔いの状況がひどく,一向によくならないため,Aに下船を打診したが,Aは,「頑張ります。」と言って,下船に応じなかった(乙6の2頁)。しかし,C船長は,暫くAの様子を見ていて,漁の操業開始後もAの船酔いが治らない場合は,Aをマジュロ島に上陸させようと思っていた。 D教諭も,Aの船酔いの状態が異常であると思っていたので,同日の昼食の席上で,C船長から,漁の操業開始後もAが同じ状態であれば,Aをマジュロ島に上陸させると言われ,C船長も自分と同じくAの船酔い状態を異常と感じ,心配していることを知って安心した(乙16の10月28日欄)。 エ但州丸の位置は,同月28日正午現在で,マジュロ島まで約100マイルで約8時間の距離にあり,同日夜遅く最もマジュロ島に接近したときは,マジュロ島まで約60~70マイルで5時間強の距離にあった(C証言38頁)。 マジュロ島には病院があり(別紙図面参照),医療施設が整っている。 マジュロ島はミクロネシアのマーシャル諸 ときは,マジュロ島まで約60~70マイルで5時間強の距離にあった(C証言38頁)。 マジュロ島には病院があり(別紙図面参照),医療施設が整っている。 マジュロ島はミクロネシアのマーシャル諸島南東部の環礁であり,マーシャル諸島共和国の首都がマジュロ島に置かれている。 (2) 10月29日の状況Aは,平成11年10月29日朝もあまり食べなかったので,Fは,Aのためにカップ茶漬けを作ってやったが,Aはそれもあまり食べなかった。このとき,Fは,Aの手足が冷たくなっているのに気がついたので,血行が悪くなっているのだと思い,Aの手足をさすってやったり,もんだりしてやった(乙7の10月29日欄,F証言11頁,D証言8頁)。 (3) 10月30日の状況ア但州丸は,平成11年10月30日漁場に着き,実習生は,指導教官や船員らの指導の下で,午後から漁の実習作業を始めた。 イ Aは,同日朝,航海当直につくために船橋に上がってきたが,すぐに横になり,C船長から体を起こすようにと言われても,それができない状態であった。そこで,C船長は,同日午前8時過ぎ,Aに自室に戻るように言い,Aは,実習生のHに付き添われて自室に戻り,ベットに入った。 Aは,同日までは,昼食時には食べられなくても食堂に姿を見せていたが,この日は昼食時に食堂にも現れず,ずっとベッドの中にいた。そして,Aは,同日午後7時ころ,危篤状態になって意識を失っているところを,夕食を告げるためにAの部屋を訪れたFによって発見された。 ウ C船長が,同日午後7時30分ころ,神戸掖済会病院に電話をかけ,船舶衛生管理者らが,同病院の医師の指示,助言に従い,Aに対し心臓マッサージをし,ボスミン1ミリリットルの投与等をして,Aの蘇生を試みたが,Aは ,同日午後7時30分ころ,神戸掖済会病院に電話をかけ,船舶衛生管理者らが,同病院の医師の指示,助言に従い,Aに対し心臓マッサージをし,ボスミン1ミリリットルの投与等をして,Aの蘇生を試みたが,Aは回復しなかった。 そこで,C船長の判断で,同日午後9時55分,Aに対する心臓マッサージを停止し,Aの死亡が確認された。Aの死亡推定時刻は,同日午後7時30分(日本時間午後2時)であった(甲3)。 4 Aの死因(1) Aの遺体の司法解剖Aの遺体は,ホルマリンで全身を固定され,日本へ搬送された。そして,神戸大学医学部法医学教室のI教授の執刀により,Aの遺体が司法解剖に付された(乙19)。 (2) I教授の推測I教授は,Aの死因について,次のとおり推定している(甲3,乙19)。 ア Aの明確な死因は不明であるが,Aは,頻回の嘔吐および脱水により体内の水分が欠乏し,血清電解質異常(推定)起こして,急性循環不全で死亡したものと思われる。 イ脱水症には,次の2つのタイプがある。 (ア) 高Na+型脱水症通常の船酔いで見られる症状。体中の水分が失われ,Na+の濃度が高くなる。水分を補給すれば治る。 (イ) 低Na+型脱水症水を飲んでも直らない脱水症。細胞内のNa+イオンが少なくなることによる脱水症。治療は,細胞内にNa+イオンを補給することであり,スポーツドリンクなどを大量に飲ませる。Aがだるい症状をずっと見せていたのは,この脱水症であった可能性が大である。 ウ Aが死亡前に頻回の嘔吐を繰り返していたことから判断すると,脱水による血清電解質異常と脱水症のため不整脈を起こしたとしてもおかしくない。Aは は,この脱水症であった可能性が大である。 ウ Aが死亡前に頻回の嘔吐を繰り返していたことから判断すると,脱水による血清電解質異常と脱水症のため不整脈を起こしたとしてもおかしくない。Aは突然死に近い状態ではなかったか。 嘔吐をするということは胃液を失うことであり,胃液は血液から作られているので,血液を失うということにもなる。血液には,K+,Na+,Mg+といったイオンが含まれており,嘔吐が頻繁になると,これら血中イオンのバランスが崩れてしまう。これが血清電解質異常である。 K+イオンが不足すると筋肉の収縮がうまく行われなくなり,足がつる,腹筋がつるという症状が現れ,ひいては心臓の収縮もうまくいかなくなってしまう。Aは,冷水器の水をがぶ飲みし,嘔吐を繰り返していたが,これが電解質異常に拍車をかけたようである。 (3) 当裁判所の判断原・被告双方ともに,Aの死因について,I教授の推測(頻回の嘔吐および脱水により体内の水分が欠乏し,血清電解質異常を起こして,急性循環不全で死亡したもの)どおりと考えており,当裁判所も,Aの死因は上記I教授の推測どおりと認める(甲12~14〔医学文献〕参照)。 第3 C船長,D教諭の注意義務違反の検討 1 C船長やD教諭の高度の注意義務(1) 本件事故は,船内における事故であるところ,一般に船内で事故が発生した場合,陸上とは異なり外部との接触をはかるのに時間がかかるため,船舶の運航をつかさどる者は,乗員の生命・身体・健康の安全を配慮すべき高度の注意義務がある。 (2) また,本件事故は,校外における正規授業として実施された実習中の事故であるが,校外学校行事は,日常的・定型的な教育活動とは異なり,一時的な要素の強い教育活動であるから 注意義務がある。 (2) また,本件事故は,校外における正規授業として実施された実習中の事故であるが,校外学校行事は,日常的・定型的な教育活動とは異なり,一時的な要素の強い教育活動であるから,生徒の危険に対する対応能力が十分に備わっていないし,校外で実施されるところから,どのような危険を伴うか予測しがたい面がある。 それゆえ,指導教官には十分な事前調査と適切な指導,及び事故が発生した場合の対応策等,生徒の生命・身体・健康の安全を配慮すべき高度の注意義務がある。 (3) しかも,日本をはるか離れた南洋の太平洋上での操業は成人にとっても過酷で,生命・身体・健康への危険が高いものであるから,いまだ十分な知識や経験を備えていない高校生にとっては,たとえ漁業実習といえども,本件実習はきわめて危険性の高い教育実習であったといえる。 (4) したがって,C船長やD教諭は,但州丸に乗船していた実習生の生命・身体・健康に危険が及ばないように配慮し,実習生の健康状態を常に把握し,体調の悪い者に対してはその動静に十分な注意を払い,体調の回復に必要な措置を取るべき高度の注意義務があった。 (5) すなわち,本件実習では,医師を乗船させていないため,実習生の健康状態に異常が生じた場合には,取りうる措置には限度がある上,外部との接触を取ることに時間がかかるため,短時間のうちに適切な医療措置を受けさせられない事態が予想される。 このように,本件実習には実習生に対する生命・身体・健康に対する高度の危険が内在している一方,その危険の回避措置に制約があることを考慮すると,C船長やD教諭は,本件実習中,実習生の生命・身体・健康に対する被害の発生が予見される場合には,医師への連絡やその指示に基づく治療,航路の変更や救援要請などの結果回 置に制約があることを考慮すると,C船長やD教諭は,本件実習中,実習生の生命・身体・健康に対する被害の発生が予見される場合には,医師への連絡やその指示に基づく治療,航路の変更や救援要請などの結果回避義務が生ずるということができる。 2 注意義務が問題となる時点(1) 船酔いは,動揺の刺激が内耳特に耳石器系に作用して,それが原因となって,自律神経の失調状態を発症するものである。その症状としては,全身の倦怠感,顔面蒼白,なまつば,頭痛,悪心,嘔吐,めまい等である。船酔いは通常は慣れによって克服することができ,船酔いによって人が死亡した事例は希有である(乙19,乙26~29,弁論の全趣旨)。 (2) 日本船舶医療便覧(乙26)を編纂した川島博・博士の見解では,一般に,船酔いは1週間位で克服できるという。けれども,船酔いが始まって10日以上経過しても治らない船酔いは異常であり,要注意である(乙19)。 C船長やD教諭も,船酔いは1週間~10日で慣れて克服できると考えていた(C証言3頁,D証言4頁)。したがって,C船長やD教諭の認識を前提としても,船酔いが始まって10日以上経過しても治らない船酔いは異常であり,要注意であるといえる。 (3) Aは,平成11年10月19日から船酔いが始まったのであるから,船酔いが始まってから10日目に当たる同月28日以降について,Aの船酔い状態,体調や健康状態が特に問題となる。 それゆえ,本件においても,C船長,D教諭が,同月28日以降,Aの船酔い状態,Aの体調や健康状態に十分な注意を払い,体調の回復に必要な措置を取るべき高度の注意義務を怠っていなかったかが,特に問題となる。 3 10月28日時点での注意義務(1) 注意義務を認めるための前提となる事実ア 意を払い,体調の回復に必要な措置を取るべき高度の注意義務を怠っていなかったかが,特に問題となる。 3 10月28日時点での注意義務(1) 注意義務を認めるための前提となる事実ア Aの船酔いの程度Aは,平成11年10月28日当時,10日間にもわたってひどい船酔い状態が続いていた(前記第2の2(1))。 食事も10日間にわたりほとんどとっておらず,少ししか食べていないのに,すぐに吐いてしまうという状態であった。Aは,いつもビニール袋を持っていて,吐き気がすると,冷水器の水を飲んでは吐くということを繰り返していた(前記第2の2(2))。 Aの船内での生活状況も異常であり,10日間にもわたり,船内作業時間中も,座ったり寝たりという状態が続いていた。Aは,洗濯をする気力もなく,ずっと同じものを着ていたし,シャワーをする気力もなかった(前記第2の2(3))このように,同月28日の時点では,Aの船酔いは異常であり,要注意の船酔いであった。 イ C船長やD教諭の認識現に,D教諭は,既に同月27日の時点で,E教諭とAの状態について話し合うなどして,Aの船酔いに対する不安を募らしていた(前記第2の3(1)ア)。 また,C船長は,同月28日午前,Aの船酔いの状況がひどく,一向によくならないため,Aに下船を打診している。さらに,D教諭は,同日の昼食の席上で,C船長から,漁の操業開始後もAの船酔いがよくならないようだったら,Aをマジュロ島に上陸させると言われ,安心している(前記第2の3(1)ウ)。 さらに,D教諭は,同月28日,実習生のF及びGから,「Aの様子がおかしいのいで,Aを上陸させた方がよいのではないか。」と進言されている(前記第2の3(1)イ)。 前記第2の3(1)ウ)。 さらに,D教諭は,同月28日,実習生のF及びGから,「Aの様子がおかしいのいで,Aを上陸させた方がよいのではないか。」と進言されている(前記第2の3(1)イ)。 ウ Aの船酔いに弱い体質しかも,Aは,前年度に日本海沖で実施された25日間のトロール漁の実習で,その間何回も陸に上がり,海も穏やかな状態であったのに,Aだけがひどい船酔いをして,体重が10~20キログラムも減少している(前記第2の1(1)ア)。 C船長やD教諭は,上記実習に参加して,Aが船酔いしやすい体質であることを知り尽くしていたのであるから(前記第2の1(1)イ),今回のAの10日間にも及ぶひどい船酔いについては,特に注意しなければならなかった。 エ Aの船酔いの特質・治療方法Aは,頻回の嘔吐および脱水により体内の水分が欠乏し,血清電解質異常を起こしていたものであり,その治療には,単に水分を補給しただけでははだめで,スポーツドリンクなどを大量に飲ませることが必要であった(前記第2の4(2)(3))。 オ但州丸の位置但州丸の位置は,同月28日正午現在で,マジュロ島まで約100マイルで約8時間の距離にあり,同日夜遅く最もマジュロ島に接近したときは,マジュロ島まで約60~70マイルで5時間強の距離にあった。マジュロ島には病院があり,医療施設が整っている(前記第2の3(1)エ)。 カ但州丸の医療態勢本件実習中は,どこを航海していても,但州丸から神戸掖済会病院に電話をして,同病院の医師の助言を求めることができる態勢になっていた(前記第2の1(3)ア)。何人かの実習生は,電解質の補給ができるスポーツドリンクを持ち込んでいた(前記第2の1(3)イ)。 話をして,同病院の医師の助言を求めることができる態勢になっていた(前記第2の1(3)ア)。何人かの実習生は,電解質の補給ができるスポーツドリンクを持ち込んでいた(前記第2の1(3)イ)。 神戸掖済会病院は,多数の医師が勤務している総合病院であり,特に船員等を対象とした船舶医療に関する専門病院であって,同病院に勤務する医師は,船酔いに関する専門知識については,他の一般の総合病院の医師よりも造詣が深かった(前記第2の1(3)ア)。 (2) Aの死亡についての予見可能性ア下痢や嘔吐が高度かつ持続性のときには,適切な治療が早期かつ迅速にされなければ,電解質や酸・塩基平衡異常が憎悪し,腎機能障害も合併してくれば重篤な状態となる(甲14の44頁)。下痢・嘔吐などによる消化管液の喪失は,容易に脱水を来すとともに,種々の電解質の喪失や酸塩基平衡異常を来す(甲14の45頁)。 嘔吐や下痢で胃液や消化液に含まれる塩類が失われたり,熱傷や発汗で体液が大量に排出された際に生じるのが,塩類欠乏性脱水である。高度の塩類欠乏性脱水では,脳細胞内の水分の増加,細胞内K(カリウム)濃度の低下,細胞外Na(ナトリウム)濃度の低下などにより,嗜眠,昏睡など意識障害をまねき,最終的には生命の危機となる(甲12の77,78頁)。 イ確かに,一般的には,単なる船酔いで死に至ることはないと言われている。しかし,船酔いが長引き,ひどい嘔吐が長期間にわたり継続すれば,あるいは死に至ることもあり得ることは,通常人であっても認識できることである。 炎天下の課外活動や運動部の練習などにより,学生,生徒が脱水症状に陥り,熱中症を合併して死亡したという事故は多発している。これらの経験から,脱水症状が重症化して体液 ことである。 炎天下の課外活動や運動部の練習などにより,学生,生徒が脱水症状に陥り,熱中症を合併して死亡したという事故は多発している。これらの経験から,脱水症状が重症化して体液を喪失すれば,死亡という最悪の事態を招くことも,学校関係者には周知の事実である。 ひどい下痢が長期間継続しているのに,水分の補給を怠り,何らの医療措置も講じずに放置していると,脱水症状が重症化して体液を喪失して,場合によれば死に至ることは,我々通常人であっても,一般的な知識として認識していることである。 ウ以上のア,イの認定判断に,前記(1)ア(Aの船酔いの程度),同(1)イ(C船長やD教諭の認識),同(1)ウ(Aの船酔いに弱い体質)の認定を総合すると,C船長やD教諭は,平成11年10月28日当時,Aをこのままの状態で放置しておくと,Aの船酔いによる症状が重症化して,死亡に至る危険があったことを,予見することが可能であったと認めることができる。 (3) Aの救命の可能性前記(1)(注意義務を認めるための前提となる事実)によると,C船長やD教諭が,平成11年10月28日時点で神戸掖済会病院の医師に電話をして,Aの船酔いの症状,その経過,Aの船酔いに弱い体質等について丁寧に説明し,同医師の助言を求めれば,同医師から,Aの船酔いは危険な状態にあり,直ちに,Aにスポーツドリンクを飲ませて,これ以上の症状の悪化を防ぎつつ,Aを上陸させて医療措置を受けさせる必要がある旨,助言を受けていた可能性が大である。 C船長やD教諭が同医師からそのような助言を受ければ,但州丸は,当時,医療施設が整っているマジュロ島まで10時間未満で行ける位置にいたのだから,C船長は,D教諭と相談して,直ちに但州丸の航路を C船長やD教諭が同医師からそのような助言を受ければ,但州丸は,当時,医療施設が整っているマジュロ島まで10時間未満で行ける位置にいたのだから,C船長は,D教諭と相談して,直ちに但州丸の航路を変更してマジュロ島に向かい,Aをマジュロ島に上陸させて病院に入院させることができ,Aを救命することができた。 仮に,神戸掖済会病院の医師が,Aを上陸させて医療措置を受けさせる必要がある旨の助言までしなかったとしても,Aにスポーツドリンクを飲ませて,これ以上の症状の悪化を防ぐ必要がある旨の助言はした可能性が大である。したがって,その場合でも,C船長やD教諭らが,Aに大量のスポーツドリンクを飲ませておれば,やはりAは死亡しなかったものと思われる。 (4) C船長,D教諭の注意義務違反前記第2の3(3)ウ(Aの死亡),同第2の4(2)(3)(Aの死因),同第3の1(C船長やD教諭の高度の注意義務),同第3の2(注意義務が問題となる時点),同第3の3(1)ア(Aの船酔いの程度),同第3の3(1)イ(C船長やD教諭の認識),同第3の3(1)ウ(Aの船酔いに弱い体質),同第3の3(1)エ(Aの船酔いの特質・治療方法),同第3の3(1)オ(但州丸の位置),同第3の3(1)カ(但州丸の医療態勢),同第3の3(2)(Aの死亡についての予見可能性),同第3の3(3)(Aの救命の可能性)の認定判断を総合すると,次のアないしオのとおり認めることができ,Aは,平成11年10月28日時点でのC船長,D教諭らのAの生命・身体・健康状態に対する注意義務違反(過失)により,死亡したことが認められる。 ア C船長やD教諭は,平成11年10月28日時点で,Aの異常な船酔いの症状を無視できなくなっており,同人の下船も検討していたのであるか 注意義務違反(過失)により,死亡したことが認められる。 ア C船長やD教諭は,平成11年10月28日時点で,Aの異常な船酔いの症状を無視できなくなっており,同人の下船も検討していたのであるから,このままAの船酔いの状態を放置しておけば,Aの船酔いの症状がさらに悪化し,Aが死亡するに至ることも予見できた。 イもし,C船長やD教諭が,同月28日の時点で,神戸掖済会病院の医師と連絡を取って,Aの船酔いについての指示・助言を求め,その指示・助言に基づき,Aに対して,大量のスポーツドリンクを飲ませるなどの適切な措置を講ずるか,但州丸の航路を変更してマジュロ島に向かい,そこでAを下船させて,Aに医師の診察,治療を受けさせるかして,Aのこれ以上の船酔い症状の悪化を防いでおれば,Aは死亡しなかったことが認められる。 ウしたがって,C船長やD教諭は,Aの健康状態や体調に十分な注意を払い,同月28日,神戸掖済会病院の医師と連絡を取って,Aの船酔いについての指示・助言を求め,その助言に基づき,Aに対して,大量のスポーツドリンクを飲ませるなどの適切な措置を講ずるか,但州丸の航路を変更してマジュロ島に向かい,そこでAを下船させて,Aに医師の診察,治療を受けさせ,Aのこれ以上の船酔い症状の悪化を防ぐべき注意義務があった。 エところが,C船長やD教諭は,同月28日の時点で,上記注意義務を怠り,Aの容態に十分な注意を払うことなく,神戸掖済会病院の医師と連絡を取って,Aの船酔いについての指示・助言を求めることもせず,但州丸の航路を変更することもしなかったため,Aは,同月30日午後7時30分ころ(推定),頻回の嘔吐および脱水により体内の水分が欠乏し,血清電解質異常を起こして,急性循環不全で死亡するに至ったものである。 オし もしなかったため,Aは,同月30日午後7時30分ころ(推定),頻回の嘔吐および脱水により体内の水分が欠乏し,血清電解質異常を起こして,急性循環不全で死亡するに至ったものである。 オしたがって,Aが船酔いの症状を悪化させて死亡したことについて,C船長やD教諭には,注意義務違反による過失責任を免れない。 4 上記認定に反する被告主張の検討(1) 被告の主張被告は,上記3(4)の認定に反し,次のとおり主張する。 ア C船長及びD教諭は,いずれも本件事故について,業務上過失致死罪の被疑者として捜査の対象とされたが,両名とも,Aの船酔いによる死亡の予見可能性がないとして,嫌疑不十分により不起訴となっている(乙17~19)。 イそれゆえ,本件訴訟においても,C船長及びD教諭について,Aが船酔いで死亡したことについて,注意義務違反による過失があったものとは認められない。 (2) 検討ア民事上の不法行為責任と刑事責任とでは社会的機能,目的を異にし,効果の点でも刑事責任は刑罰という強力な公権力の発動をともなうものであるから,同一の行為について刑事上の過失が否定されているからといって,当然に民事上の過失も否定されることにはならない。 イことに,Aの死亡についての予見可能性や,Aの救命の可能性を判断するに当たっては,刑事上の過失責任を追及する際の判断基準の方が,民事上の過失責任を追及する際の判断基準よりも,より厳格に評価することになる。 ウしたがって,C船長やD教諭が,業務上過失致死罪の被疑者として捜査の対象とされたが,Aの船酔いによる死亡の予見可能性がないとして,嫌疑不十分により不起訴となった(乙17~21)からといって,本件訴訟で,C船長やD教諭について ,業務上過失致死罪の被疑者として捜査の対象とされたが,Aの船酔いによる死亡の予見可能性がないとして,嫌疑不十分により不起訴となった(乙17~21)からといって,本件訴訟で,C船長やD教諭について,Aの死亡についての注意義務違反があったと認めることの妨げとはならない。 第4 損害賠償額の検討 1 請求原因(4)ア(逸失利益)(1) 賃金センサスア Aが死亡した平成10年の賃金センサス産業計・企業規模計・高卒・男子労働者の平均賃金は,年額528万8800円である。 イ被告は,Aの逸失利益の算定に当たっては,Aが死亡しなければ稼働を開始したであろう平成12年の賃金センサス産業計・企業規模計・高卒・男子労働者の平均賃金によるべきだと主張するが,損害額はAの死亡時において確定されていると考えるべきであるから,逸失利益の算定の基礎となる平均賃金は平成10年のものを採用すべきである。 (2) 中間利息控除ア中間利息控除は,年5パーセントとするのが相当である。 イこれに対し,原告は,近時の低金利を考慮して,中間利息控除は,年2パーセントとすべきであると主張する。 しかし,民法制定当時において,法定利率が年5分と定められたことや,遅延損害金の利率が法定利率の年5分と定められた際には,運用利益などが考慮されており,中間利息控除の問題と共通の背景があったこと,これらの規定が民法制定当時から改正されていないことなどに照らすと,年5分という利率が特に不合理とはいえない。 それに,本件のように50年という長期間にわたる逸失利益を算定する際,その間の定期預金等の金利の推移を予測することは不可能である。 ウそれゆえ,中間利息控除は,年5パーセントによるのが相当である。そうすると,適用すべきライプニッツ わたる逸失利益を算定する際,その間の定期預金等の金利の推移を予測することは不可能である。 ウそれゆえ,中間利息控除は,年5パーセントによるのが相当である。そうすると,適用すべきライプニッツ係数は,次のとおり17.3036となる。 (ア) 就労の終期(67歳)までの期間(50年)に対応する係数が18.2559,就労の始期(18歳)までの期間(1年)に対応する係数が0.9523である。 (イ) よって,適応する係数は17.3036(18.2559-0.9523)となる。 (3) 生活費控除割合50パーセント(当事者間に争いがない。)(4) まとめ以上によると,Aの逸失利益は,次のとおり4575万7639円となる。 528万8800円(年収)×17.3036(ライプニッツ係数)×0.5(生活費控除割合)=4575万7639円 2 請求原因(4)イ(慰謝料)Aは本件事故当時独身であり,原告はAの実母であってAの唯一の相続人であること,その他,前記認定の事実関係等,本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件事故による慰謝料額は,Aからの相続分と原告固有分とを合わせて2000万円と認めるのが相当である。 3 請求原因(4)ウ(葬儀費用)証拠(甲7~9〔枝番を含む〕)によると,原告は,Aの葬儀費用として,153万7530円を支出していることが認められ,同額について,本件事故と相当因果関係のある原告の葬儀費用の損害と認める。 4 抗弁(1)(過失相殺)(1) 本件事故当時,Aは高校3年生であり,C船長から下船の打診があったにもかかわらず,「頑張ります。」と言って,C船長からの下船の打診を断っており(前記第1,第2の3(1)ウ),本件事故の発生に (1) 本件事故当時,Aは高校3年生であり,C船長から下船の打診があったにもかかわらず,「頑張ります。」と言って,C船長からの下船の打診を断っており(前記第1,第2の3(1)ウ),本件事故の発生については,Aにも過失があったものと認めざるを得ない。 (2) しかし,Aは,本件実習を終了しなければ,5級海技士の筆記試験免除や乗船履歴の軽減が認められなくなり,B高校漁業科を卒業する意義の多くがなくなる(C証言37頁)。 また,Aは,途中で下船することになれば,大幅な航路変更が避けられず,実習日程にも大きな影響を及ぼし,他の実習生や乗組員全体に迷惑をかけることになるから,自ら下船を申し出ることは事実上言い出しづらい状況にあったことが認められる。 (3) そこで,上記(1)(2)の各事情を考慮して,C船長及びD教諭とAの過失割合を9対1と認める。 5 抗弁(2)(損害填補)原告は,本件事故により,日本体育・学校健康センターから死亡見舞金として2500万円を受領し,兵庫県高等学校境域振興会から200万円の死亡弔慰金の支払を受けていることは,当事者間に争いがない。 6 請求原因(4)エ(弁護士費用)(1) 弁護士費用を除く損害賠償額弁護士費用を除く損害賠償額は,次のとおり3356万5652円と認められる。 ア逸失利益4575万7639円(前記1(4))イ慰謝料2000万円(前記2)ウ葬儀費用153万7530円(前記3)エ過失相殺後の金額以上のアないしウの合計6729万5169円の9割(前記4(3))である6056万5652円オ損害填補控除後の金額上記6056万5652円から2700万円(前記5)を控除した3356万5652円(2) 9円の9割(前記4(3))である6056万5652円オ損害填補控除後の金額上記6056万5652円から2700万円(前記5)を控除した3356万5652円(2) 弁護士費用上記3356万5652円の約1割である336万円をもって,原告の本件事故と相当因果関係にある弁護士費用の損害と認める。 7 まとめ以上によると,原告の本訴請求により認められる損害賠償額は,上記6(1)オの3356万5652円(弁護士費用を除く損害賠償額)に,上記6(2)の336万円(弁護士費用)を加算した3692万5652円となる。 第5 結語 1 以上によると,被告は,原告に対し,国家賠償法1条1項及び安全配慮義務違反に基づき,損害賠償金3692万5652円(前記第4の7),及びこれに対する平成12年12月19日(訴状送達の日の翌日)から完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。 2 よって,原告の本訴請求は,上記認定の限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官紙浦健二裁判官今中秀雄 裁判官秋田志保

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