平成29(行ウ)235 年金記録不訂正決定取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年6月13日 大阪地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-89384.txt

判決文本文20,059 文字)

【機密性2】- 1 - 令和元年6月13日判決言渡平成29年(行ウ)第235号年金記録不訂正決定取消請求事件 主文 1 近畿厚生局長が平成28年3月25日付けで原告に対してした年金記録の不訂正決定のうち昭和45年10月1日から昭和46 年5月31日までの期間及び昭和47年4月1日から昭和55年8月31日までの期間について訂正しない部分を取り消す。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求近畿厚生局長が平成28年3月25日付けで原告に対してした年金記録の不訂正決定を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,近畿厚生局長に対し,昭和45年10月1日から昭和55年 8月31日までの期間(以下「本件請求期間」という。)について,原告はA株式会社(以下「A」という。)に使用され,厚生年金保険の被保険者であったにもかかわらず,厚生年金保険原簿にその旨の記録がないとして,厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)28条の2第1項の規定に基づき,厚生年金保険原簿の訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)をしたところ,近畿厚生局長 から,平成28年3月25日付けで,厚生年金保険原簿を訂正しない旨の決定(以下「本件処分」という。)を受けたため,被告を相手に,その取消しを求める事案である。 1 法令の定め等(1) 厚生年金保険原簿の訂正の請求等 ア被保険者であり,又はあった者は,厚生年金保険原簿に記録された自己- 2 - に係る特定厚生年金保険原簿記録(被保険者の資格の取得及び喪失の年月日,標準報酬その他厚生労働省令で定める事項の内容をいう。以下同じ。)が事実でない,又は厚生年金保険原簿に自己に係 - 2 - に係る特定厚生年金保険原簿記録(被保険者の資格の取得及び喪失の年月日,標準報酬その他厚生労働省令で定める事項の内容をいう。以下同じ。)が事実でない,又は厚生年金保険原簿に自己に係る特定厚生年金保険原簿記録が記録されていないと思料するときは,厚生労働省令で定めるところにより,厚生労働大臣に対し,厚生年金保険原簿の訂正の請求(以下「訂 正請求」という。)をすることができる(厚年法28条の2第1項)。 厚生労働大臣は,訂正請求に理由があると認めるときは,当該訂正請求に係る厚生年金保険原簿の訂正をする旨を決定しなければならず,訂正をする旨の決定をする場合を除き,訂正請求に係る厚生年金保険原簿の訂正をしない旨を決定しなければならない(同法28条の4第1項,同条2項)。 厚生労働大臣は,上記各決定をしようとするときは,あらかじめ,社会保障審議会に諮問しなければならない(同条3項)。 イ厚生労働大臣の上記権限は,訂正請求を受理した日本年金機構の事務所の所在地を管轄する地方厚生局長に委任されている(厚年法100条の9第1項,厚生年金保険法施行令4条の4の2第1項)。 また,厚生労働大臣から権限の委任を受けた地方厚生局長が,訂正請求に係る厚生年金保険原簿の訂正をする旨の決定又はその訂正をしない旨の決定をしようとするときは,あらかじめ,地方年金記録訂正審議会に諮問しなければならない(厚年法28条の4第3項,同法100条の9第3項,厚生労働省組織令153条の2,地方年金記録訂正審議会規則1条)。 (2) 厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律(以下「特例法」という。)の定め厚年法28条の4第3項の規定による諮問に応じた社会保障審議会(厚生労働大臣の権限が地方厚生局長に委任された場合に 険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律(以下「特例法」という。)の定め厚年法28条の4第3項の規定による諮問に応じた社会保障審議会(厚生労働大臣の権限が地方厚生局長に委任された場合にあっては,地方年金記録訂正審議会。以下この項において同じ。)の調査審議の結果として,適用事業 所の事業主(以下「事業主」という。)が,同法84条1項又は2項の規定に- 3 - より被保険者の負担すべき保険料を控除した事実があるにもかかわらず,当該被保険者に係る同法82条2項の保険料を納付する義務を履行したことが明らかでない場合(当該保険料(以下「未納保険料」という。)を徴収する権利が時効によって消滅する前に同法27条の規定による届出若しくは同法31条1項の規定による確認の請求又は同法28条の2第1項(同条2項 及び3項において準用する場合を含む。)の規定による訂正の請求があった場合を除き,未納保険料を徴収する権利が時効によって消滅している場合に限る。)に該当するとの社会保障審議会の意見があった場合には,厚生労働大臣は,当該意見を尊重し,遅滞なく,未納保険料に係る期間を有する者(以下「特例対象者」という。)に係る同法の規定による被保険者の資格の取得及 び喪失の確認又は標準報酬月額若しくは標準賞与額の改定若しくは決定を行うものとし,ただし,特例対象者が,当該事業主が当該義務を履行していないことを知り,又は知り得る状態であったと認められる場合には,この限りでない(特例法1条1項)。 (3) 訂正に関する方針等 ア厚生労働大臣は,訂正請求に係る厚生年金保険原簿の訂正に関する方針を定めなければならないとされているところ(厚年法28条の3第1項),国民年金原簿及び厚生年金保険原簿の訂正に関する方針(平成27年厚生労働 大臣は,訂正請求に係る厚生年金保険原簿の訂正に関する方針を定めなければならないとされているところ(厚年法28条の3第1項),国民年金原簿及び厚生年金保険原簿の訂正に関する方針(平成27年厚生労働省告示第42号,以下「本件告示」という。乙1)は,「第三判断の基準」として,以下のとおり定めている。 (ア) 訂正請求に理由があると認める判断の基準は,訂正請求の内容が,社会通念に照らして明らかに不合理ではなく,一応確からしいものであることとする。 (イ) (ア)の判断を行うに当たっては,関連資料(訂正請求の内容に係る事実を推認するに足りる証拠をいう。以下同じ。)及び周辺事情(証拠ではな いが訂正請求に理由があると認める判断に資する事情をいう。以下同- 4 - じ。),関係法令その他政府管掌年金事業における取扱い等を踏まえ,別に定める基準に基づき,総合的に判断する。 イ厚生労働大臣は,上記ア(イ)の基準として「厚生年金保険記録訂正請求認定基準・要領」(以下「認定基準・要領」という。乙2)を定めている(平成27年2月27日同大臣決定)。 前記事案の概要のとおり,原告は,本件請求期間について,厚生年金保険の被保険者であったにもかかわらず,厚生年金保険原簿にその旨の記録がないとして本件訂正請求をしたものであるところ,認定基準・要領において,このような請求の事案は,「厚生年金保険の被保険者期間の相違又は被保険者期間の記録がない事案」(認定基準・要領第3章第1)とされてい る。認定基準・要領のうち,上記事案に適用される主な部分は,別添「認定基準・要領(抜粋)」のとおりであり(以下,認定基準・要領第3章第1の①から④までの要件を,それぞれ「①の要件」などという。),①の要件から④の要件までの順に審議を行うこととさ な部分は,別添「認定基準・要領(抜粋)」のとおりであり(以下,認定基準・要領第3章第1の①から④までの要件を,それぞれ「①の要件」などという。),①の要件から④の要件までの順に審議を行うこととされている(認定基準・要領第1章第5)。なお,①の要件(被保険者資格要件)は,基本的には,(a)事 業所への勤務要件,(b)適用事業所となる要件,(c)被保険者となる要件について,評価を行うなどとされている。 (4) 総務大臣によるあっせんの制度上記厚生年金保険原簿の訂正の請求の制度は,平成26年法律第64号による厚年法の改正によって設けられ,平成27年3月1日に施行されたもの であるが,同日前においては,総務大臣による苦情のあっせんの仕組みにより年金記録の訂正が行われていた。すなわち,厚生年金記録について事実と異なる内容が記録されている等の事案が発生して社会問題化したことから,平成19年6月22日,総務省に臨時の機関として年金記録確認第三者委員会(以下,単に「第三者委員会」という。)が設置され,年金記録に係る苦情 申立てについて,年金記録の訂正の要否等を判断することとされた。そして,- 5 - 総務大臣(ないし管区行政評価局長)は,第三者委員会の判断を踏まえ,厚生労働大臣に対し,年金記録の訂正をあっせんし,又は訂正は必要でない旨の通知を行うものとされ,厚生労働大臣は,これらを尊重して年金記録の訂正等の対応を行うものとされていた(甲14)。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠等により容易に認定するこ とができる事実。以下,書証番号は特記しない限り各枝番を含む。)(1) 原告の厚生年金保険原簿の記録等ア原告は昭和21年▲月▲日生まれの男性であり,本件請求期間(昭和45年10月1日から昭和55 できる事実。以下,書証番号は特記しない限り各枝番を含む。)(1) 原告の厚生年金保険原簿の記録等ア原告は昭和21年▲月▲日生まれの男性であり,本件請求期間(昭和45年10月1日から昭和55年8月31日まで)当時,その年齢は23歳から33歳までであった。 イ現在の原告の年金記録の内容は,別紙のとおりである(甲11)。 ウ Aは,昭和44年に京都市内に設立された,管工事等を業とする株式会社であり,本件請求期間において適用事業所となる要件(①の要件の(b))を満たしていたが,その後,昭和60年8月14日に適用事業所でなくなった(乙8,10,12,13)。 (2) 日本年金機構吹田年金事務所(以下「吹田年金事務所」という。)による原告の年金記録の確認の経緯ア吹田年金事務所は,平成23年1月26日頃,原告に対し,同日現在の原告の年金加入記録について被保険者記録照会回答票(甲9)を発行したところ,同回答票には,別紙記載番号①及び⑤の年金記録が記載されてい た。 イ吹田年金事務所は,平成23年4月6日頃,原告に対し,同日現在の年金加入記録について被保険者記録照会回答票(甲10)を発行したところ,同回答票には,別紙記載番号①及び⑤の年金記録のみが記載されるとともに,Aについて調べたが該当する厚生年金加入記録は見当たらなかった旨 が記載されていた。 - 6 - ウ吹田年金事務所は,平成23年4月15日頃,原告に対し,同日現在の年金加入記録について被保険者記録照会回答票(甲11)を発行したところ,同回答票には,別紙記載番号①及び⑤のほか,同②,③及び④の年金記録が,原告の申出に基づいて調査した結果として確認することができた旨が記載されていた。 (3) 原告によるあっせんの申立ての経緯 票には,別紙記載番号①及び⑤のほか,同②,③及び④の年金記録が,原告の申出に基づいて調査した結果として確認することができた旨が記載されていた。 (3) 原告によるあっせんの申立ての経緯ア原告は,平成23年5月26日,吹田年金事務所に「年金記録に係る確認申立書」(甲1)を提出し,総務大臣に対し,申立期間を昭和45年8月25日から昭和55年4月30日までとして年金記録の訂正を求めるあっせんの申立てをしたが,近畿管区行政評価局長は,平成23年11月1 8日付けで,原告に対し,第三者委員会において審議を行った結果,原告の年金記録の訂正が必要とまではいえないとの結論に至ったとして,年金記録の訂正のあっせんは行わない旨の通知をした(甲2)。 イ原告は,平成24年頃及び平成25年頃にも,上記アと同様のあっせんの申立てをした(ただし,申立期間は,いずれも,昭和45年8月20日 から昭和55年10月1日までである。)が,近畿管区行政評価局長は,平成24年6月22日付け及び平成25年10月11日付けで,原告に対し,年金記録の訂正のあっせんは行わない旨の各通知をした(甲3,4)。 (4) 本件処分に至る経緯ア原告は,平成27年9月18日,近畿厚生局長に対し,本件請求期間につ いて,厚生年金保険の被保険者であったにもかかわらず,厚生年金保険原簿にその旨の記録がないとして,本件訂正請求をした(乙3)。 イ近畿厚生局長は,平成28年2月29日,近畿地方年金記録訂正審議会に対し,本件訂正請求について諮問した(乙4)。 ウ近畿地方年金記録訂正審議会は,平成28年3月18日,近畿厚生局長 に対し,本件訂正請求に対しては訂正を認めることはできないとの決定を- 7 - するのが妥当である旨の答申をした。その判断の理 方年金記録訂正審議会は,平成28年3月18日,近畿厚生局長 に対し,本件訂正請求に対しては訂正を認めることはできないとの決定を- 7 - するのが妥当である旨の答申をした。その判断の理由の要旨は,原告が本件請求期間とほぼ同じ期間,Aに勤務していたことは推認できるが,原告が保険料を控除されていたと認めることはできないというものであった。 (以上につき,乙5)エ近畿厚生局長は,平成28年3月25日付けで,原告に対し,本件請求 期間について厚生年金保険原簿を訂正しない旨の本件処分をした。その理由については,上記ウの答申における判断の理由が引用されていた。(以上につき,甲5,乙6)(5) 本件訴えの提起に至る経緯ア原告は,平成28年5月23日,厚生労働大臣に対し,本件処分につき, 審査請求をしたが,同大臣は,平成29年5月30日付けで,原告に対し,上記審査請求を棄却する旨の裁決をした(乙7)。 イ原告は,平成29年11月28日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 争点(1) 本件訂正請求に理由があると認められるか ア原告が本件請求期間においてAに使用されており勤務実態があったと認められるか(①の要件の(a)及び(c))(争点1)イ Aにより本件請求期間に対応した厚生年金保険に係る届出又は保険料納付が行われていたと認められるか(②の要件)(争点2)ウ Aにより本件請求期間に対応した保険料控除が行われていたと認められ るか(③の要件)(争点3)エ本件請求期間に対応する原告の厚生年金保険の被保険者資格の取得日・喪失日等が明らかであると認められるか(④の要件)(争点4)(2) 本件処分が十分な調査に基づかず原告に不可能な立証を事実上強いるものとして違法であるか(争点5) 険の被保険者資格の取得日・喪失日等が明らかであると認められるか(④の要件)(争点4)(2) 本件処分が十分な調査に基づかず原告に不可能な立証を事実上強いるものとして違法であるか(争点5) 4 争点に対する当事者の主張- 8 - (1) 争点1(勤務実態があったと認められるか)について(原告の主張)ア原告は,本件請求期間(昭和45年10月1日から昭和55年8月31日まで)のうち,少なくとも,北海道に行っていた昭和46年6月から昭和47年2月までの期間を除き,Aにおいて常勤の従業員として使用され て勤務していた。 このことは,Aの社長(以下「本件事業主」という。)の妻や長女,元従業員らが認めているほか,社団法人京都市公認水道協会(以下「水道協会」という。)から提出されたAに係る従業員名簿(乙12。以下「本件従業員名簿」という。)によっても裏付けられている。 被告は,Aにおける原告の雇用保険被保険者記録がないと主張するが,大阪労働局からの回答(乙9)においては,Aと同じく,B及びCについても,原告の雇用保険被保険者記録が見当たらないとされているところ,これらの事業所については,原告の年金記録が回復されているのであるから,Aにおける雇用保険被保険者記録がないことは,原告のAにおける勤 務実態を否定する理由にならない。 イ被告は,本訴において事業所への勤務要件を否定するが,本件処分においては,原告が本件請求期間とほぼ同じ期間にAに勤務していたことが推認できるとされていたのであって,上記のように明らかに矛盾する主張は,信義則上も,原告の手続保障の観点からも,制限されるべきである。 (被告の主張)ア Aの「健康保険・厚生年金保険適用事業所名簿(事業所台帳)」(乙13。 以下「本件事業 に矛盾する主張は,信義則上も,原告の手続保障の観点からも,制限されるべきである。 (被告の主張)ア Aの「健康保険・厚生年金保険適用事業所名簿(事業所台帳)」(乙13。 以下「本件事業所台帳」という。)には原告の記載はなく,Aにおける原告の雇用保険被保険者記録がない。また,本件事業主は既に死亡しており,本件請求期間におけるAでの原告の勤務実態を確認することもできず,そ の他に的確な証拠はない。以上によれば,本件請求期間におけるAでの原- 9 - 告の勤務実態は明らかでなく,これを認定することはできない。 イ原告は,原告の勤務実態は本件事業主の妻や長女が認めていると主張するが,長女は原告の働き方や給料のことは分からないと回答し,妻については認知症のため回答は得られていない。元従業員らの回答も,原告の具体的な勤務実態を明らかにするものではない上,何らの裏付けもない。 また,本件従業員名簿(乙12)も,原告のAにおける勤務実態そのものについて,十分な資料であるとはいえない。 本訴におけるDの証言は,その内容が重要部分で変遷していることや不自然であることから信用性が認められず,原告の供述も,その内容が曖昧で変遷しており,原告の厚生年金保険の加入状況等や本件事業所台帳と整 合していないから,信用性が認められない。 (2) 争点2(届出又は保険料納付が行われていたと認められるか)について(原告の主張)ア後記争点3における原告の主張のとおり,Aは原告から保険料控除をしていたのであるから,保険料納付が行われていた可能性もある。 なお,本件事業所台帳については,そこに記載されている従業員に係る届出内容が実際の勤務期間と合致しないなど,不正確であったことが判明しているのであるから,同台帳に原告に係 た可能性もある。 なお,本件事業所台帳については,そこに記載されている従業員に係る届出内容が実際の勤務期間と合致しないなど,不正確であったことが判明しているのであるから,同台帳に原告に係る記載がないからといって届出又は保険料納付がされていなかったということにはならない。 イ本件請求期間は基礎年金番号制度が発足した平成9年1月より以前で あるから,原告のAにおける厚生年金被保険者記録が基礎年金番号未統合の年金記録に含まれる可能性がある。 (被告の主張)ア以下のとおり,Aには厚生年金保険の届出がされていた従業員と届出がされていなかった従業員がいたことが認められるところ,原告について届 出がされていたと認めるに足りる積極的事情は見当たらない。 - 10 - (ア) 本件従業員名簿により確認できる本件請求期間中の従業員27人のうち被保険者は12人にとどまっている。 (イ) 複数の元従業員がAには厚生年金保険に加入していない従業員がいた旨供述している(乙18,19)。 (ウ) 原告が当時の同僚として挙げる従業員5名のうち4名は,本件事業所 台帳に記載されていないし,原告が,原告と同じ2級技術者で,原告と同職種であったとする者の中にも本件事業所台帳に記載されていないものが認められる。 イ原告はAにおける厚生年金被保険者記録が基礎年金番号未統合の年金記録に含まれる可能性があると主張するが,基礎年金番号未統合の年金記 録の問題とは,「健康保険・厚生年金保険適用事業所名簿(事業所台帳)」(紙台帳)に厚生年金保険の加入が記録されているが,その記録が基礎年金番号に統合されず,又はオンライン化されていない年金の問題であるのに対し,本件では,本件事業所台帳に原告の厚生年金保険の加入の記録が存在しないのであ 保険の加入が記録されているが,その記録が基礎年金番号に統合されず,又はオンライン化されていない年金の問題であるのに対し,本件では,本件事業所台帳に原告の厚生年金保険の加入の記録が存在しないのであるから,上記問題は本件と関係がない。 (3) 争点3(保険料控除が行われていたと認められるか)について(原告の主張)ア原告については,Aにより本件請求期間に対応する保険料控除が行われていた。 このことは,以下の事情からも裏付けられる。 (ア) 原告は,本件請求期間に被保険者記録がある従業員3名と同業種(積算設計業務)であった。 (イ) 原告以外にもAにおける勤務期間と厚生年金保険被保険者記録がある期間とが一致していない者がいる。 (ウ) Aは,昭和60年頃に廃業しており,本件請求期間頃においても,恒 常的に資金繰りに窮していたことが推認され,保険料の控除だけをして- 11 - いたことも十分に考えられる。 イ被告は,元従業員の回答を根拠に,Aにはあえて厚生年金保険への加入を希望しない従業員がいたことがうかがわれるなどと主張するが,元従業員の中に,自ら保険加入を拒否したと述べる者はおらず,被告が指摘する回答によっても,正社員の中に厚生年金保険の加入を希望しない者がいた かは定かではない。 (被告の主張)本件事業主は既に死亡しており,本件事業主が本件請求期間に係る原告の給料から保険料を控除していたかどうかを確認するに足りる客観的資料はない。当時の従業員らからの聴取等によっても,保険料を引かれるのが嫌で 厚生年金保険への加入を希望しない者もいたとの回答や分からない旨の回答しか得られず,原告の給料から保険料が控除されていた事情はうかがわれない。その他,原告に係る保険料が控除されていた事実を確 厚生年金保険への加入を希望しない者もいたとの回答や分からない旨の回答しか得られず,原告の給料から保険料が控除されていた事情はうかがわれない。その他,原告に係る保険料が控除されていた事実を確認し得る積極的な事情は認められない。 保険料控除が行われていた旨をいうDの証言及び原告の供述は,争点1で 主張したとおり,信用することができない。 したがって,原告について,Aにより本件請求期間に対応する保険料控除が行われていたとは認められない。 (4) 争点4(取得日・喪失日等が明らかであると認められるか)について(原告の主張) 本件従業員名簿においては,原告の雇用年月日が昭和45年8月20日,退職年月日が昭和55年9月30日とされているところ,厚生年金保険の被保険者資格は,通常,雇用年月日及び退職年月日と一致するものであるから,本件においては,本件従業員名簿をもって,原告の厚生年金保険の被保険者資格の取得日・喪失日等が明らかであると認められる場合に該当する。 (被告の主張)- 12 - 水道協会は,京都市上下水道局との連携機関として同業者が加入する団体であり,加入業者の従業員の厚生年金保険の被保険者資格の有無等を把握することが必要な団体ではないし,本件従業員名簿の「退職年月日」欄に「不明」と記載されているものが多数あることからしても,水道協会が加入業者の従業員の退職年月日を厳密に把握するものでないことは明らかであるか ら,水道協会が把握する情報を基に作成された本件従業員名簿をもって,Aの従業員の厚生年金保険被保険者資格取得の有無及びその取得・喪失時期を認定することはできない。 (5) 争点5(本件処分が十分な調査に基づかず原告に不可能な立証を事実上強いるものとして違法であるか)について 保険被保険者資格取得の有無及びその取得・喪失時期を認定することはできない。 (5) 争点5(本件処分が十分な調査に基づかず原告に不可能な立証を事実上強いるものとして違法であるか)について (原告の主張)前記前提事実(3)アの原告によるあっせんの申立時においては,本件事業主は存命中であり,会計事務を担当していた本件事業主の妻からも事情を聴くことができたはずであるのに,第三者委員会は,同人らに対する事実関係の確認等の調査を怠り,年金記録の訂正のあっせんは行わない旨の通知をし た。 近畿厚生局の調査員が本件事業主の妻に対する調査を行ったのは平成28年1月30日であり,この時点では,同人の認知状況が悪化しており,原告の給料から保険料が控除されていたか等の事情を一切聴取することができなかった。 近畿厚生局長は,上記のような経緯を考慮せず,単に事業主の死亡及びその妻の病状悪化により同人らから事実関係の確認を取ることができなくなったとして本件処分をしている。 以上のとおり,第三者委員会による調査は不十分であるところ,この違法は本件処分にも引き継がれるというべきである。また,上記のような経緯に 照らせば,本件処分は,十分な調査に基づかず原告に不可能な立証を事実上- 13 - 強いるものとして違法である。 (被告の主張)厚生年金保険原簿記録の訂正請求に対する許否判断に当たり,過去に行われた第三者委員会による調査が十分であったかどうかを確認することは予定されておらず,仮に,過去の同委員会による調査が不十分であったとして も,そのことによって本件処分の違法性が基礎付けられることはない。 上記の点を措くとしても,本件において,同委員会による調査の際,本件事業主及びその妻に対する事実確認が可能であったと認 として も,そのことによって本件処分の違法性が基礎付けられることはない。 上記の点を措くとしても,本件において,同委員会による調査の際,本件事業主及びその妻に対する事実確認が可能であったと認めるに足りる証拠はない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(勤務実態があったと認められるか)について(1) 原告本人尋問における原告の供述内容は,要旨,以下のとおりであり,原告作成の陳述書(甲8)にもこれに沿う記載がある。 ア本件請求期間(昭和45年10月1日から昭和55年8月31日まで)のうち,北海道でおじの事業を手伝っていた期間を除き,Aにおいて常勤 の従業員として使用されて勤務していた。 イ雇用年月日及び退職年月日については記憶が定かでないが,本件従業員名簿に記載されている昭和45年8月20日及び昭和55年9月30日というのは概ね正確であると思う。 ウ北海道に行っていた期間も記憶が定かでないが,昭和46年6月頃に北 海道に行き,遅くとも昭和47年3月頃には北海道から帰ってきてAに復帰した。 エ Aでは,「番頭」と呼ばれる正社員の地位で,通常の始業時刻から終業時刻まで勤務し,業務内容としては,取引先等への営業,水道管工事の現場管理,書類・図面作成等の事務をしていた。 (2) 原告の上記供述内容には,一定程度,あいまいな部分が見受けられるもの- 14 - の,40年以上前の日常的な事実を述べるものとしては,相応に具体的であるということができ,その内容にも特に不自然・不合理な点は見当たらない。 加えて,証拠(甲12,乙12,15~21,証人D)によれば,原告が本件請求期間頃にAで「番頭」として勤務していたことやその期間中に離職していた期間があったことについては,Dを含む複数の当時の同僚や本件 て,証拠(甲12,乙12,15~21,証人D)によれば,原告が本件請求期間頃にAで「番頭」として勤務していたことやその期間中に離職していた期間があったことについては,Dを含む複数の当時の同僚や本件事 業主の長女も認めている上,Aが加入していた同業者団体である水道協会が保管していた本件従業員名簿にも本件請求期間頃に原告がAで勤務していたことを裏付ける記載がされていることが認められる。 以上によれば,本件請求期間(昭和45年10月1日から昭和55年8月31日まで)のうち,北海道に行っていた昭和46年6月頃から昭和47年 3月頃までの期間を除き,Aにおいて常勤の従業員として使用されて勤務していたとする原告の上記供述は信用することができる。北海道に行っていた期間については,本件全証拠によっても,具体的に特定することが困難であるが,原告の上記供述内容に照らせば,昭和46年6月1日から昭和47年3月31日までについては,Aで勤務していなかった可能性が高く,原告に よる勤務の事実は認められないというべきである。この点に関し,原告は,北海道に行っていたのは同年2月までであり,同年3月1日から勤務要件が認められる旨主張するが,原告は,その本人尋問(主尋問)において3月に北海道から戻ってきた可能性がある旨明確に供述しているから,原告の上記主張は,採用することができない。 (3) 以上に対し,被告は,本件事業所台帳に原告の記載がない旨主張するが,そもそも,厚生年金保険原簿の訂正の請求の制度は,同原簿について,過去の年金記録の管理方法に起因する問題,事業主からの届出の誤り等により,事実と異なる内容が記録されているか,又は記録すべき内容が記録されていないなどの事案が発生し,社会問題化したために設けられたものであり,現 に事業 因する問題,事業主からの届出の誤り等により,事実と異なる内容が記録されているか,又は記録すべき内容が記録されていないなどの事案が発生し,社会問題化したために設けられたものであり,現 に事業主からの届出に誤りがあった事案が多数あったというのであるから- 15 - (甲14,乙1,弁論の全趣旨),原則として事業主からの届出によって記載・作成されるものと考えられる「健康保険・厚生年金保険適用事業所名簿(事業所台帳)」に記載された情報が正確であることを当然の前提とすることはできないし,少なくとも,本件事業所台帳に原告の記載がないからといって,原告がAで勤務していなかったことが推認されるということはできない。し たがって,本件事業所台帳に原告の記載がないからといって,原告の上記供述の信用性が減殺されることはないというべきである。 また,被告は,原告のAにおける雇用保険被保険者記録がない旨主張するが,前記前提事実(2)に加え,乙第9号証によれば,Aと同様に,大阪労働局からの回答において原告の雇用保険被保険者記録について該当なしとされ た,B及びCについては,原告の厚生年金保険の被保険者記録が確認されたというのであるから,雇用保険被保険者記録がないという事情も,原告の上記供述の信用性を減殺する事情とはならない。 さらに,被告は,原告の勤務実態が明らかでないとも主張するが,原告の上記供述内容によれば,常用的雇用関係が認められるような勤務形態であっ たことが認められ,本件において,原告の勤務時間や勤務日数が少なかったことをうかがわせる事情は何ら見当たらない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。 その他,被告は,原告の供述について,Aで勤務していた期間や北海道に行っていた期間が変遷しているとか,その期間が わせる事情は何ら見当たらない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。 その他,被告は,原告の供述について,Aで勤務していた期間や北海道に行っていた期間が変遷しているとか,その期間が特定できないなどと主張す るが,上記のとおり,40年以上前の事実について,供述内容が曖昧となったり,変遷したりするのはやむを得ないというべきであって,このことをもって,原告の供述が信用できないとか,事業所への勤務要件を認定できないとかいうのは相当でない。 (4) 以上によれば,本件請求期間のうち昭和45年10月1日から昭和46年 5月31日まで及び昭和47年4月1日から昭和55年8月31日までにつ- 16 - いては,原告がAに使用され勤務実態があったものと認められる。 2 争点2(届出又は保険料納付が行われていたと認められるか)について(1) 証拠(甲2,3,6,乙13)及び弁論の全趣旨によれば,本件事業所台帳に原告に係る記載はないと認められるところ,本件において,Aにより厚生年金保険に係る届出又は保険料納付が行われていたにもかかわらず,誤っ て上記台帳に原告に係る記載がされなかったことをうかがわせる事情は何ら見当たらない。また,原告及びDを含め,原告について,上記届出又は保険料納付が行われていたことを直接に見聞した旨の供述をする関係者はいない。 そうすると,本件において,原告について上記届出又は保険料納付が行わ れていたと認める根拠となるべき証拠は全くないというほかない。 (2) 以上に対し,原告は,Aは原告から保険料控除をしていたのであるから,保険料納付をしていた可能性もある旨主張するが,当該主張自体,単なる可能性をいうものにすぎない上,甲第14号証及び弁論の全趣旨によれば,現に,事業主の中には,保険 保険料控除をしていたのであるから,保険料納付をしていた可能性もある旨主張するが,当該主張自体,単なる可能性をいうものにすぎない上,甲第14号証及び弁論の全趣旨によれば,現に,事業主の中には,保険料控除を行いながら,厚生年金保険に係る届出又 は保険料納付を行わないものが多数存在していたというのであるから,原告の上記主張を採用することはできない。 また,原告は,Aにおける厚生年金保険の被保険者記録が基礎年金番号未統合の年金記録に含まれる可能性があると主張するが,上記のとおり,本件事業所台帳に原告に係る記載がなく,他に原告についてAにより厚生年金保 険に係る届出又は保険料納付が行われていたと認めるに足りる証拠がない以上,Aにおける原告の厚生年金保険の被保険者記録が存在するとは認められないから,同記録が存在することを前提に同記録が基礎年金番号未統合のままとなっている可能性があるとする原告の上記主張は,その前提を誤るものとして採用することができない。 (3) したがって,Aにより本件請求期間に対応した厚生年金保険に係る届出又- 17 - は保険料納付が行われていたとは認められない。 3 争点3(保険料控除が行われていたと認められるか)について(1) 原告は,その本人尋問において,Aでは保険料を控除されていた旨供述し,原告作成の陳述書(甲8)にもこれに沿う記載があるものの,原告が保険料を控除されていたことを客観的に裏付ける証拠はなく,原告のほかに,上記 控除が行われていたことを直接に見聞した旨の供述をする関係者はいない。 しかしながら,法令の定め等(3)ア(ア)のとおり,本件告示は,訂正請求に理由があると認める判断の基準は,訂正請求の内容が,社会通念に照らして明らかに不合理ではなく,一応確からしいものであること 。 しかしながら,法令の定め等(3)ア(ア)のとおり,本件告示は,訂正請求に理由があると認める判断の基準は,訂正請求の内容が,社会通念に照らして明らかに不合理ではなく,一応確からしいものであることとしているところ,以下のとおり,原告の上記供述等の内容と矛盾するなど,その信用性を否定 すべき特段の事情は見当たらない上,原告について保険料控除が行われていたことについては,これに沿った積極的な事情に該当し得る事情も認められる。そうすると,被告の主張も踏まえ,認定基準・要領の内容に照らして検討しても,原告の上記供述等の内容は,本件告示にいう「社会通念に照らして明らかに不合理ではなく,一応確からしいものである」場合に該当すると いうべきである。 (2)アすなわち,被告は,当時の従業員(被告提出の証拠(乙13,14,18等)において「従業員⑤」とされている者。以下「従業員⑤」という。)が保険料を引かれるのが嫌で厚生年金保険への加入を希望しない者もいたと述べている旨主張するが,当該従業員の供述(乙18)によれば,同人 は,保険料控除等の会計事務には関与していなかったというのであるし,原告が保険料の控除を嫌がっていた旨を述べているものでもない。むしろ,証拠(甲8,12,乙12,14,17~20,証人D,原告本人)によれば,Aには,当時,正社員として勤務する者のほか,職人として工事現場での作業を行う者がおり,当時の正社員は数人程度であったと認められ るところ,仮に正社員の中に上記控除を受けない者がいたとすれば,加入- 18 - を希望しない者につき具体的な氏名が挙げられてもよいのに,従業員⑤は具体的な氏名を挙げることはしていない。他方で,職人はより多数であった(その中にも,Aから資材の支給を受けて作業のみを行う者と資 を希望しない者につき具体的な氏名が挙げられてもよいのに,従業員⑤は具体的な氏名を挙げることはしていない。他方で,職人はより多数であった(その中にも,Aから資材の支給を受けて作業のみを行う者と資材も自ら用意して作業を行う者とがあった)ことが認められ,職人の中には,保険料控除をされていた者とそうでない者がいたことがうかがわれる(乙1 9)ことからすれば,従業員⑤の上記供述は,職人について当てはまる可能性が高いのであり,上記供述を根拠に,正社員の中に本人の希望で上記控除を受けない者がいたことまで認めるのは困難である。そうすると,従業員⑤の上記供述があるからといって,原告が保険料の控除をされていなかったということはできない。 また,被告は,原告がその本人尋問において入社当時の給料は15万円から18万円であった旨供述したことに関し,この頃の本件事業主の標準報酬月額が4万2000円であること,昭和45年当時の大学卒業者の初任給が3万9000円であることと矛盾する旨主張する。確かに,原告の供述する上記給料の金額は客観的には不正確であるものと考えられるが, これは,無意識のうちに現在の貨幣価値に引き直して金額を述べたものとも考えられ,そうであるとすれば,何ら不自然・不合理な金額ではないから,上記誤りのみをもって,保険料控除をされていたとする供述全体の信用性が否定されることはないというべきである。 イ(ア) 他方,前記前提事実(1)イ及び原告本人尋問の結果によれば,原告につ いては,本件請求期間を除けば,中学校を卒業した後の昭和37年7月にEに就職した後は,昭和59年5月にFを退職するまでの間,一貫して厚生年金被保険者記録があるところ,本件において,原告がAで勤務していた本件請求期間についてのみ,あえて保険料の控除を受 37年7月にEに就職した後は,昭和59年5月にFを退職するまでの間,一貫して厚生年金被保険者記録があるところ,本件において,原告がAで勤務していた本件請求期間についてのみ,あえて保険料の控除を受けないように希望していたことをうかがわせる事情は見当たらない。 この点に関し,被告は,原告がGで勤務していた際に,婚姻期間中の- 19 - み厚生年金保険に加入して給料から保険料が控除される労働形態で働いていたことが明らかであるとして,Aにおいても厚生年金保険に加入しないで働いていたと考えるのが合理的である旨主張する。しかしながら,本件請求期間中において,婚姻をしたなどの原告の身分関係や生活状況に大きな変動があったことをうかがわせる事情は見当たらないこ とからすると,仮に,Gで勤務していた期間については,被告が主張するような事情があったとしても,そうであるからといって,原告がAにおいても,あえて保険料控除を受けないようにしていたと推認することはできない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。 (イ) また,証拠(甲8,12,乙14,17,18,20,証人D,原告 本人)及び弁論の全趣旨によれば,従業員⑤(I)はAにおいて番頭と呼ばれる地位にあり,原告はこれに次ぐ番頭の地位にあり,従業員⑤がAを退職した後は,原告がその業務内容を引き継いだことが認められるところ,このように,原告とその勤務内容・勤務形態に同質性が認められる従業員⑤について,保険料控除が行われ,厚生年金記録があること が認められる。このことは,原告につき保険料控除が行われていたことをうかがわせる積極的な事情に該当し得る(認定基準・要領第4章第1節第1・3(1)ア(イ)参照)ものであり,原告の上記供述等に沿う事情であるということがで は,原告につき保険料控除が行われていたことをうかがわせる積極的な事情に該当し得る(認定基準・要領第4章第1節第1・3(1)ア(イ)参照)ものであり,原告の上記供述等に沿う事情であるということができる。 ウ原告の上記供述等に客観的な裏付けがないことは上記アのとおりであ るが,前記前提事実(1)ウに加え,証拠(甲8,乙18,19,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,Aは昭和60年頃に倒産して,その後,本件事業主は既に死亡しており,保険料控除等の事務を担当していた本件事業主の妻も疾病により判断能力を失っているというのであって,このような事情の下において,40年以上前に保険料控除がされていたかについての 客観的な裏付けとなる資料が残っていないとしても,何ら不自然でなく,- 20 - そのことを主な根拠として原告の上記供述等の内容が社会通念に照らして明らかに不合理であるということは到底できない。また,前記前提事実(2)から(4)までの経緯や本件における原告の訴訟追行態度等に照らしても,原告が,Aにおいて保険料控除をされていなかったにもかかわらず,殊更に虚偽の事実を供述ないし主張している様子はうかがわれない。 (3) 以上のとおり,Aにおいて保険料を控除されていた旨の原告の供述等は,本件告示にいう「社会通念に照らして明らかに不合理ではなく,一応確からしいものである」ということができるから,Aにより本件請求期間に対応した保険料控除が行われていたと認められる。 4 本件処分の適法性について(小括) (1)ア以上によれば,本件訂正請求のうち,昭和45年10月1日から昭和46年5月31日までの期間及び昭和47年4月1日から昭和55年8月31日までの期間に係る部分については,①の要件及び③の要件を満たすものと認め ば,本件訂正請求のうち,昭和45年10月1日から昭和46年5月31日までの期間及び昭和47年4月1日から昭和55年8月31日までの期間に係る部分については,①の要件及び③の要件を満たすものと認められる。したがって,本件処分のうち上記各期間に係る部分(上記各期間について原告の厚生年金保険原簿の訂正をしない旨の決定)は, その余の点について判断するまでもなく違法であり,その限度で取消しを免れない。 イ以上に対し,被告は,訂正請求に係る要件該当性の判断に当たって,そもそも,請求者の給料明細等の各種資料に基づき控除金額を確認又は推認することができないような場合には,証拠上,事業主が請求者の保険料を 控除したこと自体,認定することができないなどと主張する。しかしながら,本件のように数十年も前の保険料控除について,その事実自体は「社会通念に照らして明らかに不合理ではなく,一応確からしい」という程度に認められるが,その控除金額が明らかでないという事案があることは当然に想定されるのであって,厚年法ないし特例法が,被告が主張するよう な各種資料に基づき控除金額を確認又は推認することができない場合に- 21 - は訂正自体を認めない趣旨であるとは到底解されない。 被告は,上記主張の根拠として,認定基準・要領第4章第2節第1の3の定めを挙げるが,認定基準・要領は,訂正の要件については,上記各法の規定に基づき,第3章において,前記法令の定め等(3)イのとおりの要件を定め,その審理の方法については,第4章第1節で定めているのであっ て,同章第2節は,同章第1節に定める審議の結果として訂正の要件が認められる場合の訂正事項の認定の在り方を定めているものと解するほかない。同章第2節において請求者の標準報酬の認定に関し被告が主張する て,同章第2節は,同章第1節に定める審議の結果として訂正の要件が認められる場合の訂正事項の認定の在り方を定めているものと解するほかない。同章第2節において請求者の標準報酬の認定に関し被告が主張するような各種資料が挙げられているのは,飽くまでも例示と解されるのであって,これらの資料がないからといって,保険料控除の要件自体を欠くと判 断すべきことを定める趣旨と解することはできない。したがって,同節の定めを根拠として,被告の上記主張を採用することはできないというべきである。 他に,特例法1条1項及び認定基準・要領の定めによっても,被告が主張するような各種資料に基づき請求者の標準報酬を具体的に認定できない 限り,同項該当事例として厚生年金保険原簿の訂正をすることができないと解すべき合理的根拠を見いだすことはできない。 被告の上記主張は,採用することができない。 ウなお,上記各期間について原告の厚生年金保険原簿の訂正をするに当たっては,標準報酬を認定する必要があるが,改めて原告その他の関係者か ら当時の給料額等について事情を聴取するなどし,関連資料等に照らして「社会通念に照らして明らかに不合理ではなく,一応確からしいもの」と認められる限度でこれを認定すれば足り,その認定については,事柄の性質上,処分行政庁に一定の裁量が認められるものと解される(仮に,関連資料等から具体的な標準報酬を特定することができないとしても,認定基 準・要領に記載がないことを理由に標準報酬が認定できないとするのでは- 22 - なく,標準報酬の最低額をもって原告の標準報酬と認めることも許容されるべきものである。)。 (2) 他方で,本件訂正請求のうち,昭和46年6月1日から昭和47年3月31日までの期間に係る部分については,①の要件を 最低額をもって原告の標準報酬と認めることも許容されるべきものである。)。 (2) 他方で,本件訂正請求のうち,昭和46年6月1日から昭和47年3月31日までの期間に係る部分については,①の要件を満たさないから,本件処分のうち上記期間に係る部分(上記期間について原告の厚生年金保険原簿の 訂正をしない旨の決定)は適法である。 原告は,本件処分が十分な調査に基づかず原告に不可能な立証を事実上強いるものとして違法であるとも主張するが,既に認定・説示したところに照らせば,調査が十分に行われたか否かにかかわらず,上記期間については勤務実態があったとは認められないのであるから,本件処分のうち上記期間に 係る部分について,十分な調査に基づかないものとして違法であるということはできない。原告の上記主張は,採用することができない。 5 結論以上によれば,原告の請求は,本件処分のうち昭和45年10月1日から昭和46年5月31日までの期間及び昭和47年4月1日から昭和55年8月3 1日までの期間について訂正しない部分の取消しを求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとする。 訴訟費用の負担については,原告が本件訂正請求のときから本件請求期間に北海道に行っていてAで勤務していなかった期間が含まれる旨自認しており,そのこと自体は実質的な争点となっていなかったこと等に鑑み,行政事件訴訟 法7条,民事訴訟法64条ただし書を適用し,その全部を被告の負担とすることとする。 よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官松永栄治- 23 - 裁判官森田亮 裁 る。 大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官松永栄治- 23 - 裁判官森田亮 裁判官石川舞子は,差支えのため,署名押印することができない。 裁判長裁判官松永栄治 - 24 - ( 別紙 ) 番号加入制度勤務先名称資格取得年月日資格喪失年月日加入月数①厚生年金ES37.7.20S41.6.1647月②厚生年金BJS41.7.1S45.4.145月(本件請求期間(昭和45年10月1日から昭和55年8月31日まで)の記録なし)③厚生年金CKS55.10.1S56.3.265月④厚生年金FS56.7.21S59.5.134月⑤厚生年金GH14.1.21H20.3.3174月

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る