令和6年2月15日宣告令和4年(わ)第321号現住建造物等放火、殺人被告事件判決 主文 被告人を懲役30年に処する。 未決勾留日数中480日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、兵庫県加古郡a 町b 番地所在の木造瓦葺2階建家屋(床面積合計206.1平方メートル。以下「本件家屋」という。)に実妹であるA、同人の夫であるB、前記両名の実子であるC(当時12歳)及び同D(当時7歳)と居住していたものであるが、Aらが現に住居に使用し、かつ、C及びDが現にいる本件家屋に放火してC及びDを殺害しようと考え、令和3年11月19日午後11時36分頃から同日午後11時42分頃までの間に、本件家屋1階南東側6畳和室において、殺意をもって、同室の押入れ内の布団に混合ガソリンをまいた上、新聞紙にライターで火をつけてこれを同布団上に投げ入れて火を放ち、その火を同布団、同押入れ、同室内の壁、柱等に燃え移らせ、よって、本件家屋を焼損(焼損面積合計178.5平方メートル)するとともに、その頃、同所において、C及びDをいずれも急性一酸化炭素中毒により死亡させて殺害した。 (証拠の標目) 省略(法令の適用)被告人の判示所為のうち、現住建造物等放火の点は刑法108条に、殺人の点は被害者ごとにいずれも同法199条にそれぞれ該当するところ、これらは1個の行為が3個の罪名に触れる場合であるから、同法54条1項前段、10条により1罪として犯情の最も重い殺人罪の刑(各殺人は、そのいずれもが等しく犯情は極めて悪く、現住建造物等放火との間において犯情が重いことは格 別、各殺人の間に軽重の差があるとは認め難いから、同法10条によって各殺人のうちいずれが重いかを決することはできない。)で処断 犯情は極めて悪く、現住建造物等放火との間において犯情が重いことは格 別、各殺人の間に軽重の差があるとは認め難いから、同法10条によって各殺人のうちいずれが重いかを決することはできない。)で処断することとし、所定刑中無期懲役刑を選択し、なお犯情を考慮し、同法66条、71条、68条2号、14条1項を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役30年に処し、同法21条を適用して未決勾留日数中480日をその刑に算入し、訴訟費用は、刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)第1 本件に至る経過関係証拠により認定できる、本件に関連する事実経過は以下のとおりである。 1(1) 本件家屋は、昭和59年頃に被告人の祖父(以下、被告人の親族については、被告人から見た続柄のみで標記することがある。)が建てたものであり、その後、被告人は、父、母、姉、妹(A)、弟と被告人の6人家族で本件家屋に居住していた。 Aは、前夫との交際を機に、平成4年頃から本件家屋を出ていたが、平成18年9月に父が死亡して被告人が本件家屋やE家の田を相続し、その頃にE家の田の一部が売却されていたのを知ったことなどから、平成20年3月頃、当時交際していたB、前夫との子であるFとともに、本件家屋の2階に、被告人や母への事前の相談なしに移り住んだ(なお、上記売却は、父の葬儀費用等の捻出のためにされたものであった。)。 (2) 被告人は、Bらが相談もなく実家に移り住んだことについて「何で」と疑問を抱いていたところ、平成21年12月頃、母に食事がまずいと文句を言ったことについて、Bから、家に食費を入れてもいないのに文句を言うのはおかしい旨言われ咎められたことを契機に、B及びAとの同居に嫌気がさし、本件家屋を出て大阪で生活するようにな 事がまずいと文句を言ったことについて、Bから、家に食費を入れてもいないのに文句を言うのはおかしい旨言われ咎められたことを契機に、B及びAとの同居に嫌気がさし、本件家屋を出て大阪で生活するようになった。以後、被告人は、更生保護施設に入所し生活保護を受給して生活したり、兵庫県伊丹市内等の飯場に 住み建築現場で稼働して生活するなどしていた。本件家屋では、母、姉、弟、B、A、Fが生活していたところ、AとBとの間に平成21年10月にCが誕生し、Bは平成22年7月に婚姻後の姓を「E」としてAと入籍し、さらに平成26年7月にAとBとの間にDが誕生した。他方、姉と弟は、いずれも知的障害があるところ、それぞれ本件家屋に住みながら仕事に通っていたが、平成25年5月、姉とAとの間で姉の退職金受領をめぐるトラブルがあったことなどを契機に、二人とも本件家屋を出て施設に入所した。 (3) 被告人は、胃と背中の痛みがあったことから、治療に専念するため、平成27年8月頃までに仕事を止め、再度生活保護を受給して生活していたが、平成30年12月頃に、被告人が本件家屋を含む父から相続した不動産を所有していることが担当ケースワーカーに知れ、生活保護が廃止されることになった。被告人は、本件家屋に帰りたくないなどと考えて多量服薬し自殺を図るなどし、精神科病院に入院もしたが、平成31年1月27日からB、A、F、C、D及び母の住む本件家屋に戻ることになった。 2(1) 被告人の帰宅直後である平成31年1月28日、被告人は、BとA(以下「妹夫婦」という。)の求めに応じて、父から相続した不動産の権利を放棄する旨の書面を2通作成し、うち1通をAに交付した。この書面の作成に際し、妹夫婦は、被告人が上記不動産を第三者に売却することを防ぐ意図があり、被告人は、自分名義の不動産がなくな た不動産の権利を放棄する旨の書面を2通作成し、うち1通をAに交付した。この書面の作成に際し、妹夫婦は、被告人が上記不動産を第三者に売却することを防ぐ意図があり、被告人は、自分名義の不動産がなくなり再び生活保護を受給しながら更生保護施設で暮らすことを期待したが、その後、妹夫婦が不動産の名義を変更することはなかった。 (2) 本件家屋に戻った被告人には、1階に居室が割り当てられ、被告人は当初は、B一家(B、A、C及びD。以下同じ)が銭湯や外食に行く際に誘われて同行したり、子供たち(C及びD。以下同じ)と野球の話や将棋をするなどして交流したりしていた。しかし、令和元年5月頃を境に、始めはBと被告人、次いでAと被告人との間で、言葉を交わすことが全くなくなった。 子供たちは、その後もしばらくは被告人と上記のような交流があったが、一緒にテレビを観ていた際に被告人が「うるさい」と注意をしたことがきっかけで、疎遠になっていった(なお、Fは、令和元年10月頃には、独立して本件家屋を出ていた。また、母は、被告人が本件家屋に戻った当時から家の中で孤立しており、令和3年7月までには本件家屋を飛び出して養護老人ホームで生活するようになった。)。 3(1) 時期は不明であるが、B一家がキャンプに出掛けるなどして不在にするときにBがテレビアンテナの増幅部に電源を供給するコンセント(2階南東6畳和室にある。)を抜くようになっていたため、テレビを見ることができない被告人はこれを嫌がらせと感じつつ、2階に上がってコンセントを入れて自室のテレビを見て、B一家が帰ってくる前に同コンセントを抜くようにしていた。すると妹夫婦は、2階の部屋の扉に紙片を挟んで扉が開けられたら紙片が落ち扉が開けられたことが分かるよう細工をしたり、2階の各部屋の扉に「立入厳禁」の貼り紙をし 前に同コンセントを抜くようにしていた。すると妹夫婦は、2階の部屋の扉に紙片を挟んで扉が開けられたら紙片が落ち扉が開けられたことが分かるよう細工をしたり、2階の各部屋の扉に「立入厳禁」の貼り紙をしたりした。被告人はそれまで2階に上がらないよう言われたことはなかったところ、上記貼り紙を見て、何で口で言えないのだと感じたものの、以後、テレビを見るのを止めてラジオを聴くにとどめていた。その後の令和3年3月頃、Bは2階の廊下に防犯カメラ(Bが自身のスマートフォンを使って映像を確認することができるもの)を設置した(ただし、被告人はこのカメラがあることには気付いていなかった。)。 (2) 令和3年9月、Bは、2階の上記防犯カメラを、本件家屋1階台所の、冷蔵庫や流し、コンロが映る位置に移設した。同カメラに気づいた被告人が、妹夫婦の様子を見るため茶葉をわざと冷蔵庫の方に捨てたところ、同カメラ越しに、「そんなところに捨てるな」と言うCの声と、その横で笑うBの声が聞こえた(同カメラには通話機能も付いていた。)。 被告人は、この出来事に強い衝撃を受け、「そこまでやるか。子供をダシにするな。言いたいことがあるなら口で言え。」などと感じて強い怒りや悲 しみを募らせ、「このままでは自分が窃盗や傷害に及ぶかもしれないが、母の気持ちや周りの目を考えるとできない。BとAが喜ぶだけなので自殺もできない。『あいつら』(妹夫婦)を苦しめる方法はないか。」と考えるようになった。 (3) そして被告人は、同年11月6日か7日頃には、「あいつらの大切なものを奪えば俺の苦しみが分かるんじゃないか。」との思いから、子供たちの殺害を考え始めた。 被告人は、殺害の方法に関して、絞殺は首を絞めた感触が残るのが嫌、刺殺は返り血を浴びるとシャワーが必要になって逃走が遅くなる、火をつけ るんじゃないか。」との思いから、子供たちの殺害を考え始めた。 被告人は、殺害の方法に関して、絞殺は首を絞めた感触が残るのが嫌、刺殺は返り血を浴びるとシャワーが必要になって逃走が遅くなる、火をつける方法なら子供たちが死ぬ可能性が一番あるし二人同時に殺すことができるなどと考え、本件の数日前、火をつける方法で殺害しようと決めた。 4(1) 本件当日、被告人は、妹夫婦の日中の行動パターンから、午後11時過ぎからの30分程度は妹夫婦が不在となり、犯行が可能であると知っていた。 そうしたところ、夕方頃、被告人は、一度捨てておいたカップ麺の容器がポットの上に置かれ、その中に、容器を洗えという趣旨の紙が貼り付けられているのを見て、それまで同様の指摘を受けたことがなかったことから、何で今さら、と感じ、今日犯行を実行しようと決意した。 (2) 被告人は、本件当日午後11時30分過ぎ、Bが車で外出したのを確認すると、「これで全て終わらす。あいつら(妹夫婦)の人生も俺の人生もこれで終わり。俺が娑婆に出ることはもうない。」という気持ちで、犯行計画通りの方法で本件家屋に放火した後、逃走した。 第2 量刑判断以上の事実を前提に、被告人に対する量刑について検討する。 1 本件は、被告人が、同居中の妹夫婦に対し、無視や嫌がらせをされたなどとして深い恨みや憎しみを抱き、大切にしている存在を奪うことで自分の苦しみを分からせたいなどと考えて、妹夫婦の不在中、子供2名が就寝しているとこ ろを狙って自宅に放火し、ほぼ全焼させて子供2名を殺害した事案である。 被告人は、子供たちを恨む気持ちはなかったのに、妹夫婦への恨みを晴らすためだけに二つの尊い命を奪った。被害結果は極めて重大であり、妹夫婦が極刑を求める心情は理解できる。犯行態様も、妹夫婦が不在であり、子供たちが眠 ちを恨む気持ちはなかったのに、妹夫婦への恨みを晴らすためだけに二つの尊い命を奪った。被害結果は極めて重大であり、妹夫婦が極刑を求める心情は理解できる。犯行態様も、妹夫婦が不在であり、子供たちが眠っているタイミングで、混合ガソリンを使って、階段が燃え上がり子供たちが逃げ遅れるであろう場所に火を放ったのであって、子供たちの遺体は炎に焼かれて、いずれも両親との対面がかなわないほど痛ましく損傷してしまったのである。本件犯行態様は残酷との評価を免れない。また、被告人の放火により本件家屋はほぼ全焼し、近隣住民にも多大な影響を及ぼしたもので、この点も強い非難を免れない。 その上で検察官は、罪質は極めて重大かつ悪質であるなどとして、本件においては死刑を選択すべき旨を主張し、これに対し弁護人は、本件に死刑を適用すべきではなく、そもそも死刑制度は憲法36条に違反する制度であると主張している。我が国の死刑制度が憲法36条に違反しないことは、最高裁判所の判例(最高裁昭和23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁、最高裁昭和30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁、最高裁昭和36年7月19日大法廷判決・刑集15巻7号1106頁)とするところであって、弁護人の憲法違反の主張は採用できない。以下、本件において死刑を選択すべきか、さらに検討する。 2 死刑は、他の刑罰とは異なり被告人の生命そのものを永遠に奪い去るという点で、あらゆる刑罰のうちで最も冷厳で誠にやむを得ない場合に行われる究極の刑罰であるから、その適用は慎重に行われなければならず、また、その適用に当たっては公平性の確保にも十分に意を払わなければならないものである(最高裁平成27年2月3日第2小法廷決定・刑集69巻1号1頁参照)。 当裁判所は、裁判員裁判において死刑が求刑された事件のうち、 に当たっては公平性の確保にも十分に意を払わなければならないものである(最高裁平成27年2月3日第2小法廷決定・刑集69巻1号1頁参照)。 当裁判所は、裁判員裁判において死刑が求刑された事件のうち、殺人による死亡被害者が1名から3名の事案を中心に従前の裁判例の概要を参照し、また、 死刑が求刑されたかつての裁判例の大まかな傾向や、量刑検索システム上で「殺人」「単独犯」「処断罪と同一又は同種の罪の件数2~4件」という条件で検索した結果等も参照した。そして、死刑の選択上考慮されるべき要素及び各要素に与えられた重みの程度・根拠の検討結果を裁判体の共通認識とした上で、それを出発点として、本件において、死刑を選択することが誠にやむを得ないと認められるかにつき、検察官の主張に沿って検討した。 (1) 本件の罪質について本件は、被告人が、妹夫婦に対する恨みや憎しみから、妹夫婦の子供2名を殺害した事案であるところ、子供たちが犯行の動機となった恨みや憎しみの対象でなかったことは被告人も自認している。恨みを果たすために恨みの対象でない子供らを殺害した点で、生命軽視の度合いが著しいとの検察官の主張には、首肯し得る面があることは確かである。 しかし、被告人の妹夫婦に対する恨みや憎しみは、妹夫婦に無視された、言いたいことがあるなら口で言えばいいのに貼り紙でしか伝えられない、挙句の果てに行動が監視されるようなカメラを設置された、ということに由来するのであって、被告人がそのような恨み等を抱くに至った点をどのように評価するかは後にさらに検討する必要はあるものの、本件が同居の親族間のトラブルに起因する犯行であるのは明らかである。また、確かに子供らは恨み等の対象ではないものの、恨み等の対象である妹夫婦の子であり、被告人は子供らを奪うことによって妹夫婦への恨みを晴 同居の親族間のトラブルに起因する犯行であるのは明らかである。また、確かに子供らは恨み等の対象ではないものの、恨み等の対象である妹夫婦の子であり、被告人は子供らを奪うことによって妹夫婦への恨みを晴らそうと本件に及んだのである。恨みや不満とはおよそ関係のない人物を殺害した事案とは異なる。 そうすると、本件の罪質を考えるにあたっては、同居の親族間のトラブルに起因する犯罪であるとの視点を抜きにすることは相当でない。そうである以上、犯情評価に際しては、被告人が妹夫婦への強い恨み等を抱くに至ったトラブルの背景、経過がどのようなものであったかに留意しつつ、犯行動機に対しての検討を行わなければならない。このような検討を俟たずに、本件 の罪質が2名を殺害した事件の中でもとくに重い部類に属すると結論づける検察官の指摘は、本件被害者が周囲に見守られてしかるべき若年者である点を踏まえても、拙速に過ぎる。 (2) 動機、経緯についてそこで次に、本件の動機や、動機が形成されるに至った本件の経緯について検討していく。 本件犯行動機は、前記のとおり、「大切にしている存在を奪うことで自分の苦しみを分からせたい」というものであり、このような動機が身勝手で悪質であることは言うまでもない。もっとも、被告人は、「放火殺人は死刑になると思った。」とも述べており、死刑になることを覚悟の上で、それでもやるしかないと考えて犯行に及んでいるのであって、被告人が相当に追い込まれた精神状態にあったことも認められるのであり、そこまで追い込まれた精神状態にはなかった場合と同列の非難が妥当するとは必ずしもいえない。 また、本件犯行をやるしかないとの意思決定に至った背景には、被告人の問題解決能力の低さがあり、そこに後記する知的障害の影響が否定できないことは一定の斟酌を要する。 なお するとは必ずしもいえない。 また、本件犯行をやるしかないとの意思決定に至った背景には、被告人の問題解決能力の低さがあり、そこに後記する知的障害の影響が否定できないことは一定の斟酌を要する。 なお、検察官は、「動機は極めて非人道的」と評価し、その前提として、被告人が、子供たちを焼死させ、その無惨な遺体を妹夫婦に見せつけることを意図して犯行に及んだと主張するが、本件犯行態様が遺体の激しい損傷を伴い得ると容易に予想できるものであることを踏まえても、本件証拠上、被告人が無惨な遺体を見せつけようとして犯行に及んだとまでは認められない。 この点において検察官の前記主張は採用できない。 そして、犯行に至る経緯について、被告人の妹夫婦に対する深い恨みや憎しみは、被告人が、自分の所有する実家に戻ってきたはずなのに、家の中で完全に孤立し、自分の家であれば通常許されると思われる行為を、貼り紙や防犯カメラといった、およそ対話を拒否する態度で殊更咎められ、相談する 相手もなく精神的に追い詰められたことに起因している。この点、B一家は当初、約10年振りに実家に戻ってきた被告人を家族として迎え入れ、三度の食事を用意し、外出にも誘ってくれていたのに、被告人は、これに感謝の意を示すこともなく、Aに繰り返し促されても仕事を探す姿勢を見せず、Bに一度無視されたと感じるや、二度と口をきこうとしなくなったというのであり、ことB一家との会話がなくなり孤立感を深めたことについては、このような被告人自身の在り方も少なからず影響していたと認められる。その意味では、被告人がB一家から無視された等と感じるに至った点には、被告人自身にもそのような事態を招いた原因があったといわざるを得ない。 しかし、その後の、2階に立ち入ったことが分かるようにドアに紙を挟んだり、台所の冷蔵庫前に防犯 された等と感じるに至った点には、被告人自身にもそのような事態を招いた原因があったといわざるを得ない。 しかし、その後の、2階に立ち入ったことが分かるようにドアに紙を挟んだり、台所の冷蔵庫前に防犯カメラを設置したりした妹夫婦の行動は、同居の親族に対する行為として明らかに行き過ぎであって、被告人がこれを、人として扱われていないと受け止めたのは、誠に無理からぬことである。この点、検察官は、そのような妹夫婦の行動が不満というのなら被告人はそのことを直接妹夫婦に伝えればよかった、と主張する。しかし、仮にBやAが供述するように、2階居室のドアに紙を挟む等した目的が、2階の部屋に入ってきているのか確かめたかったというものであるなら、まずはBの側が被告人に直接尋ねればよいのである。部屋に入られていると分かったのなら、立入厳禁の貼り紙をする以前に、何のために部屋に入ってくるのか、そのようなことは止めてほしい、と被告人に直接言えばよいのである。冷蔵庫の中の物を勝手に食べられると困ると思うのであれば、冷蔵庫内の物を勝手に食べないように被告人に直接言えばよいのである。そのようなことを全くせずに、上述のような明らかに行き過ぎた行動を続ける妹夫婦に対して、被告人が不満を伝える気にならないのは不思議でもなんでもなく、不満を伝えなかった被告人に非があるかのようにいう検察官の主張には到底賛同することができない。しかも妹夫婦が、上記の行き過ぎた行為に疑問を全く抱いておらず、 被告人のことを陰で「なまはげ」「あほにつける薬がない」などと言い合っていたこと等も踏まえると、被告人が妹夫婦に不満を口にしたところで、悪化していた関係の改善は、客観的に見て期待しがたかったといえる(不動産の名義移転が望めなかったことについても同様である。これについて被告人が、名義を外して 被告人が妹夫婦に不満を口にしたところで、悪化していた関係の改善は、客観的に見て期待しがたかったといえる(不動産の名義移転が望めなかったことについても同様である。これについて被告人が、名義を外してくれるのはまだかとAに尋ねたことはあったが、Aの返答は「名義を移転するためのお金がない、近隣の目もある。」との内容であって、被告人の希望に沿う方向に向けた努力を窺わせるものではなかった。)。 このように、本件犯行に至る経緯については、被告人への非難の程度を考える上で相応に斟酌すべき事情がある。検察官は、動機が極めて身勝手で自己中心的であり、圧倒的に悪質であると主張するが、上述のような経緯を踏まえれば、被告人が妹夫婦に対して極めて強い恨みを抱いたことには、被告人の軽度知的障害(IQ66)の影響を考慮するまでもなく、無理からぬ面があったというべきである。そうである以上、被告人が妹夫婦の子らを殺害するとの意思決定は、子供たち自体は恨みの対象でなかった点を考慮しても、これを「最大限の非難に値する」とする検察官の評価は重きに失するといわざるを得ない。 (3) 犯行の計画性について本件犯行の計画は、夫婦が不在の夜に行う、逃げ遅れるよう階段下に火をつけるなど、子供たちの殺害を遂げるのに十分な具体性・危険性を有しており、被告人はこのような計画を考え、手順を頭の中で事前にシミュレートして、本件当日、その考えたとおりに行動して子供たちの殺害という目的を達している。 しかし、計画性の存在が犯情を重く評価する要因になるのは、犯行実現の危険性の高まりにつながったり、生命軽視の度合いの大きさを窺わせる事情になったりするからである。このような観点から改めてみると、被告人は、本件前日までには、頭の中では犯行手順をシミュレートするなどしているも のの、そのシミ 命軽視の度合いの大きさを窺わせる事情になったりするからである。このような観点から改めてみると、被告人は、本件前日までには、頭の中では犯行手順をシミュレートするなどしているも のの、そのシミュレートした手順の中で重要になる混合ガソリンについては、Bの置いた混合ガソリン缶が庭先にあることにはかねてから気付いていながら、本件当日に至るまで、その缶に実際に混合ガソリンが入っているかどうかを確かめる等の行動をしていない。つまり、少なくとも本件前日までの時点では、被告人は頭の中で犯行を考えるにとどまり、容易に開始することのできる準備行為には着手していなかったのである。考えた犯行計画の内容にも、混合ガソリンを燃やした経験がないのに、燃え方を事前に確認していない点や、子供たちの就寝を直接には確認していない点など、ややずさんな面がある。被告人が犯行の実行を決めたのは犯行当日で、それまで被告人が、「そんな簡単に幼い子供の命を奪ってはいけない」と犯行をためらい、子供たちが死ぬことを考えないようにしていたと認められる点も踏まえれば、犯行実現の危険性の高まりや生命軽視の度合いの大きさという観点から見た計画性は、殺害被害者2名の事案の中で特に高いといえるものではない。 (4) 犯行態様について本件犯行態様は、前記のとおり、保護者が不在の間に、逃げ道を塞ぐ形で混合ガソリンをまき放火するというもので、まだ小学生の子供たちが、もし目覚めれば、逃げられず、助けも来ない状況で火事にまかれ、絶望と苦痛の中で死亡することを余儀なくさせるものと言え、極めて残虐と評価しなければならない。子供たちが目覚め、炎に焼かれるなどして苦しむことまで被告人が意図したとは解されないが、そのような事態が生じる危険が十分ある態様であって、被告人が子供たちに起こりうる悲劇的な状況を意図 ばならない。子供たちが目覚め、炎に焼かれるなどして苦しむことまで被告人が意図したとは解されないが、そのような事態が生じる危険が十分ある態様であって、被告人が子供たちに起こりうる悲劇的な状況を意図しなかったことは、犯行態様の客観的な悪質性を減じる理由にならない。 他方、これまで死刑が言い渡された他の殺人の事案との比較で見ると、被害者が目の前にいるわけでも、自ら凶器を使用して攻撃を加えるわけでもない本件は、刃物での攻撃を執拗に繰り返したような事案とは異なり、実行行為それ自体の残虐性や、実行行為に至る規範のハードルの高さが極めて高い 部類に属するとはいえない。 (5) 結果の重大性について二人の子供たちの命を奪った本件犯行の結果が極めて重大であることは言うまでもない。最も安全で、安心できる場所であるはずの自宅において、何の罪もないのに、就寝中に命を奪われたC、Dの苦痛や無念は察するに余りある。生命軽視の度合いが甚だしく大きいとの検察官の評価は誠に正当である。妹夫婦は、いかに自分たちに被告人への行き過ぎた対応があったとしても、日々愛情をもって育み、楽しい思い出を積み重ねて幸せな子供時代を送れるよう慈しんできた子供たちを、その思い出の詰まった自宅とともに奪われるまでのいわれは全くないのであって、このような妹夫婦の精神的苦痛や峻烈な処罰感情は、犯行の結果として斟酌すべきである。 (6) 犯行後の情状について検察官は、被告人が犯行後に逃走し犯行の結果を新聞社前に掲示された新聞で確認していた、事件から2年以上が経過した今でも自分のしたことに心から向き合うことができておらず、後悔や悔悟の念が皆無であるとして、犯行後の情状が芳しくないと主張している。確かに被告人は、当公判廷において、妹夫婦に「今は謝ることができない」などと述べているが 心から向き合うことができておらず、後悔や悔悟の念が皆無であるとして、犯行後の情状が芳しくないと主張している。確かに被告人は、当公判廷において、妹夫婦に「今は謝ることができない」などと述べているが、公訴事実は争わず、死刑を覚悟しているとし、子供たちに対しては一貫して申し訳ないと述べている。また、その理由についても、公判当初は「(妹夫婦が悲しんでいる様子がないので)犬死にさせて申し訳ない」旨述べるにとどまっていたのが、公判終盤では、妹夫婦を悲しませる手段として子供たちを殺害したこと自体、間違っていたのではないかと問われ、これを肯定するようになっている。被告人の内省は、なお不十分であるが、検察官がいうように、後悔や悔悟の念が皆無とまではいえない。 (7) 検討以上の検討に照らすと、本件の犯情が誠に悪いことは言うまでもないが、 死刑選択の観点から検討すると、本件は、利欲目的や自己保身目的とは異なる、同居親族間のトラブルを背景とした事案であるところ、前記した各要素の中には、意思決定への非難の程度等を中心に、検察官がいうほど悪質と評価できないものが含まれる。そして、社会的影響の大きさ等、上記のほか死刑選択を検討する上で考慮すべき要素を加えても、本件は、死刑の選択がやむを得ないといえるような事案ではない。 3 これを前提として、被告人に対する量刑を検討する。検察官が死刑を求刑しなかったものも含め、殺人既遂2件を中心とする同種事案の量刑動向を検討しつつ本件をみると、恨み等の直接の対象でない、いずれも小学生の子供らを殺害した点が悪質であることは論を俟たず、本件では無期懲役刑を選択することも十分に考慮に値するといえる。 しかしながら、本件は、単に利欲目的等からくる犯行でないというだけでなく、妹夫婦を苦しめて恨みを晴らそうとしたという動機 論を俟たず、本件では無期懲役刑を選択することも十分に考慮に値するといえる。 しかしながら、本件は、単に利欲目的等からくる犯行でないというだけでなく、妹夫婦を苦しめて恨みを晴らそうとしたという動機の形成に関して、そのような恨みを抱くのにも無理からぬ面がある以上は、被告人の意思決定を理不尽あるいは身勝手と非難するにも限度がある。捜査段階で精神鑑定を行った医師らの供述等によれば、本件の背景にある被告人の問題解決能力の低さや、社会性・欲求不満耐性の低さは、軽度知的障害や家庭環境の影響を受けていると認められ、そのような意味において、被告人の軽度知的障害が軽微とはいえ本件に影響を与えたことは否定できない。このことも一定程度は被告人に有利に斟酌すべきことになる。以上に加えて、被告人に後悔や反省が生じてきている点も踏まえれば、本件に無期懲役刑をもって臨むことは躊躇を禁じ得ない。 4 結論そこで当裁判所は、本件について、その重大性に鑑み刑期は最長期とすべきではあるものの、死刑でも無期懲役刑でもなく、有期懲役刑を選択するのが相当と判断した。 よって主文のとおり判決する。 (求刑死刑)令和6年2月16日神戸地方裁判所姫路支部刑事部裁判長裁判官佐藤洋幸 裁判官水落桃子 裁判官白鳥葵
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