令和5年9月29日宣告令和5年(わ)第10号主文被告人を懲役10年に処する。 未決勾留日数中110日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和4年12月27日午後11時53分頃、堺市a区b町c番地A駐車場において、普通乗用自動車を発進させて進行するに当たり、運転開始前に飲んだ酒の影響により、前方注視及び運転操作に支障が生じるおそれがある状態で同車を運転し、もってアルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、よって、同日午後11時55分頃、同区de番地f先道路を北から南に向かい時速約64キロメートルで進行中、その影響により前方注視及び運転操作が困難な状態に陥り、進路左前方を自車と同一方向に歩行中のB(当時46歳)、C(当時47歳)、D(当時48歳)及びE(当時46歳)に自車左前部を衝突させるなどし、前記B及び前記Cを路上に転倒させ、よって、前記B及び前記Cに頭蓋冠・頭蓋底骨折の傷害を負わせ、同月28日午前0時頃、同所において、前記Bを前記傷害に基づく血液吸引による窒息により、前記Cを前記傷害に基づく失血により、それぞれ死亡させたほか、前記Dに加療約8日間を要する右肘関節部打撲の傷害を、前記Eに加療約8日間を要する頭頸部打撲傷等の傷害を負わせた。 (事実認定に関する補足説明) 1 争点等被告人が、判示の日時場所において、普通乗用自動車(以下「被告人車」という。) の運転中、進路左前方を同一方向に歩行中の被害者4名に被告人車左前部を衝突させる事故(以下「本件事故」という。)を起こし、判示の死傷結果を生じさせたことについては、当事者間に争いがなく、証 の運転中、進路左前方を同一方向に歩行中の被害者4名に被告人車左前部を衝突させる事故(以下「本件事故」という。)を起こし、判示の死傷結果を生じさせたことについては、当事者間に争いがなく、証拠上も容易に認められる。 弁護人は、①被告人は、運転開始時点でアルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態ではなかった、②本件事故発生時点において、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥っていない、③①に関する故意も認められないとし、被告人に危険運転致死傷罪は成立せず、過失運転致死傷罪が成立するにとどまると主張するが、当裁判所は判示のとおり危険運転致死傷罪が成立すると判断したので、以下その理由を説明する。 2 判断の前提となる事実関係各証拠によれば、次の各事実が認められる。 ⑴ 被告人は、令和4年12月27日午後7時30分頃から堺市a区内の居酒屋で酒を飲み始め、同日午後10時頃、同じビル内にあるカラオケスナックに移動して同所でも酒を飲み、同日午後11時50分頃、退店した。 被告人は、近くの駐車場に被告人車を駐車していたため、その駐車場まで徒歩で移動し、同日午後11時53分頃、同車の運転を開始した。 ⑵ 本件事故現場は、南北を結ぶ片側1車線に、外側線で仕切られた路側帯が設置された直線道路(以下「本件道路」という。)であり、車線の幅は約3.1メートル、路側帯の幅は約0.5ないし0.6メートルである。また、同所の規制速度は、時速40キロメートルであり、左右には住宅が立ち並んでいる。 ⑶ 被害者4名を含む8名は、本件当時、夜警のために隊列を組んだ状態で、本件道路の主に路側帯内を北から南に向けて歩行していたが、外側線を超えて僅かに車線内にはみ出す者もいた。 被告人は、同日午後11時55分頃 を含む8名は、本件当時、夜警のために隊列を組んだ状態で、本件道路の主に路側帯内を北から南に向けて歩行していたが、外側線を超えて僅かに車線内にはみ出す者もいた。 被告人は、同日午後11時55分頃、被告人車を運転し、南行き車線を被害者らと同一方向に時速約64キロメートルで走行し(大阪府警察本部刑事部科学捜査研究所研究員のFは、本件事故現場付近の防犯カメラ映像を用いて、このときの被告 人車の走行速度を時速約64キロメートルと推計した旨を証言するところ、その推計方法は合理的で不審な点はないから、同証言により、本件事故当時の被告人車の速度は、おおむね推計どおりと認定できる。)、急制動や急転把の措置をとることなく、後方から、被告人車左前部を被害者らに衝突させた。 被告人車は、上記衝突の衝撃によりフロントバンパー左側、左ヘッドライト、ボンネットパネル左側、左フロントフェンダーパネル、左フロントピラーが破損し、フロントガラス左下部が蜘蛛の巣状に割れ、左フロントドアミラーのカバーが外れたが、そのまま現場を走り去った。 3 運転開始時点でのアルコールの影響による正常な運転への支障のおそれ⑴ 被告人の運転開始前の飲酒量ア関係証拠によれば、被告人は、居酒屋において、約2時間30分の間に生ビール1杯(約270ミリリットル・アルコール度数約5パーセント)、焼酎2杯(約360ミリリットル・アルコール度数約20パーセント)及びハイボール3杯(約420ミリリットル・アルコール度数約9パーセント)程度を、引き続きカラオケスナックにおいて、約1時間50分の間にハイボール3杯(飲み残しを除き約430ミリリットル・アルコール度数約9パーセント)程度を飲んだことが認められる。 イ大阪府警の警察官Hの証言によれば、前項の飲酒量等を前提に、ウィドマーク計 間にハイボール3杯(飲み残しを除き約430ミリリットル・アルコール度数約9パーセント)程度を飲んだことが認められる。 イ大阪府警の警察官Hの証言によれば、前項の飲酒量等を前提に、ウィドマーク計算式(大阪府警が、おおよその体内アルコール保有量を計算するために一般的に用いる計算式であって、一定の信頼性は認められる。)を用い、被告人に最大限有利な条件を適用して、本件事故時の被告人の体内アルコール保有量を推計すると、呼気1リットル当たり0.363ミリグラムから0.994ミリグラムと算出される。 ウ被告人は、本件事故の約2分前に運転を開始しており、上記算出結果に照らすと、概算ではあるものの、運転開始時点においても同程度のアルコールを保有していたといえるから、被告人は、同時点で、少なくとも道路交通法上、酒気帯び運転となる基準を大きく上回るアルコールを身体に保有した状態であったと認められ る。 ⑵ 被告人の運転開始前の挙動ア被告人が、本件事故の直前、カラオケスナックから駐車場に向けて歩く様子の一部を撮影した防犯カメラ映像(甲30)によれば、被告人は、歩行中、左右に蛇行する動きをすることがあったと認められる。 このような被告人の動きは、道路の形状に従った歩行とは認め難く、本件当日午後7時半頃、駐車場から居酒屋へ向かって歩く被告人には、蛇行する様子はないこと(甲31)と比較しても、ふらついていたと評価するのが相当であり、その原因は、飲酒の影響と考えるのが最も自然である。 イ弁護人は、別の防犯カメラの映像(弁8)では、被告人はふらついていない上、カラオケスナックの経営者Gは、被告人は、同スナックを退店する際、寝込んだり、ろれつが回らなかったりする様子はなく、通常どおり会計をし、店外の急な階段をつまづくことなく下りたなどと証言し いない上、カラオケスナックの経営者Gは、被告人は、同スナックを退店する際、寝込んだり、ろれつが回らなかったりする様子はなく、通常どおり会計をし、店外の急な階段をつまづくことなく下りたなどと証言したことを指摘し、被告人の行動に、飲酒の影響が現れていたことは証明されていない旨を主張する。 しかし、酒に酔った者が、歩行中に常にふらついているとは限らず、酔いの程度によっては、ある場面ではふらつき、他の場面では正常な様子で歩行するということも十分にあり得る。また、飲酒が身体に与える影響には個人差があるから、上記Gが、一見して明らかな被告人の酔いの症状を認めなかったことは、必ずしも被告人の言動や判断力等に飲酒の影響がなかったことを意味しない。弁護人が指摘する各事情は、被告人が、本件当時、合理的な言動が全くできない程度まで泥酔するに至っていなかったことを示すものではあるが、飲酒の影響を受けていたこと自体に疑問を生じさせる事情ではなく、この点を考慮しても、被告人は、飲酒の影響によりふらつくことがあったという上記評価が揺らぐことはない。 ⑶ 事故現場及び事故態様ア上記2⑵のとおり本件道路は、車線幅が広いとはいい難いものの、少なくとも普通乗用自動車が路側帯にはみ出さずに走行するには十分な幅があり、車線が複 雑に湾曲しているようなこともない直線道路であった。 また、本件事故当日の被害者らの服装には、明るい色調のものも相当含まれており、本件事故時と類似の条件下で行った検証の際、被告人は、後方約66.99メートルの地点において、進路前方を歩く歩行者を視認できたことも認められる(甲2、25)。 そうすると、被告人が、本件事故現場において、被害者らの隊列を事前に発見し、同人らを避けて走行することは容易な状況であったと認められる。 被告人は、そ 視認できたことも認められる(甲2、25)。 そうすると、被告人が、本件事故現場において、被害者らの隊列を事前に発見し、同人らを避けて走行することは容易な状況であったと認められる。 被告人は、そのような状況下において、規制速度を20キロメートル以上上回る時速約64キロメートルで被告人車を走行させ、急制動や急転把を含む一切の回避措置をとることなく、路側帯付近を歩行中の被害者らに同車を衝突させており、衝突まで被害者らの隊列に気付いていなかったと推認されることも含め、通常ではあり得ない態様の事故を引き起こしたといえる。加えて、被告人が、運転開始からわずか約2分で本件事故を起こし、これにより被告人車が大きく破損し、相当な衝撃を受けたと考えられるにもかかわらず、そのまま走り去るなど、車両運転者として不合理な行動を続けたことをも考慮すると、被告人は、本件事故当時、注意力及び判断力等が相当程度減退していたといわざるを得ず、その原因となる事情についても、やはり飲酒の影響以外には考えがたい。 イ被告人は、視認状況に関する上記検証について、歩行者がよく見える近い位置からはじめ、徐々に離れる方法で行ったが、このような方法では、予め歩行者が存在することを認識し、より遠方でも歩行者を発見することができるため、実際の視認状況とは異なる結果となり不適切である旨を供述する。 しかし、上記検証は、被告人車からの視認状況を客観的に特定し、これを目安として、本件事故回避の可否やその難易等を検討するために行うものであるから、上記の検証方法が不適切ということはない。同検証時の被告人の説明に特に不審な点はないから、同検証結果に基づき、被害者らの視認可能な地点を特定した上記事実認定に何ら不当はない。 また、被告人は、被害者らを事前に発見できなかった理由につい 被告人の説明に特に不審な点はないから、同検証結果に基づき、被害者らの視認可能な地点を特定した上記事実認定に何ら不当はない。 また、被告人は、被害者らを事前に発見できなかった理由について、本件事故現場の道路は普段から通る道であるが、夜に人が歩いているのを見たことがなく、本件事故時も歩行者はいないものと思い込んでいたためであって、飲酒の影響ではない旨を供述する。 しかし、被告人が思い込みにとらわれ、容易に視認できるはずの被害者らに気付かないまま本件事故を引き起こしたとすれば、むしろ同事故当時、運転に必要な注意力や判断力等が相当程度減退していたと推認され、飲酒の影響がないなどということにはならない。 ⑷ 評価これまでに検討した被告人の運転開始前の飲酒量、運転開始時点におけるアルコール保有量、本件事故直前の挙動、運転開始から本件事故までの時間、本件事故態様及び事故後の行動等からすれば、被告人は、本件当日午後11時53分の運転開始時点で、アルコールの影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態であったと認めるのが相当である。 4 本件事故発生時点でのアルコールの影響による運転の状態⑴ 上記3で認定した本件事故の状況等からすると、被告人は、運転開始直後に、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥り、本件事故を引き起こしたと認められる。 ⑵ これに対し、弁護人は、被告人が、本件事故直前、路外からの進入車を回避するような運転操作をしていることから、被告人は本件事故発生時点においても正常な運転操作が可能な状態であった旨を主張するが、上記のとおり被告人は、本件事故直前、合理的な行動が全くできないほど酩酊していたわけではなく、認識することができた進路上の障害物を回避する程度の単純な運転操作を行うことは特に不自然 旨を主張するが、上記のとおり被告人は、本件事故直前、合理的な行動が全くできないほど酩酊していたわけではなく、認識することができた進路上の障害物を回避する程度の単純な運転操作を行うことは特に不自然ではないから、本件事故直前に進入車を回避したことは、上記⑴の評価とは矛盾しない。 また、弁護人は、本件事故は前方不注視、一瞬の居眠りなどを原因とした通常の 過失運転の可能性があり、本件事故後、被告人が停車しなかったことについても、被告人が電柱に衝突したと思い込んだためであるから、危険運転を裏付ける事情ではない旨を主張する。しかし、既に見た本件事故の状況等から、本件事故の原因が単なる前方不注視とは考えられないし、被告人自身でさえ、本件事故前に居眠りしたとは供述しておらず、被告人は、本件事故直前に進入車を回避し、本件事故時も本件道路に沿って相当速度で被告人車を直進させていたこと等から、本件事故の原因が居眠りである疑いは生じない。また、被告人が、本件事故について電柱に衝突したと思い込んだとすれば、そのこと自体が行動として不合理といえ、判断力等の減退をうかがわせるから、弁護人の主張はいずれも採用できない。 5 アルコールの影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態の認識上記3で認定した本件事故前の飲酒状況や歩行状況等に照らせば、被告人は、上記運転開始時点において、自身の身体に少なくとも酒気帯び運転に該当する程度のアルコールを保有していることは認識できていたと推認されるから、この程度の認識があれば、アルコールの影響により、走行中に正常な運転に支障を生じるおそれがある状態で自動車を運転することの故意はあったと認めるのが相当である。 6 結論以上によれば、被告人は、①アルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障を生じるおそ 支障を生じるおそれがある状態で自動車を運転することの故意はあったと認めるのが相当である。 6 結論以上によれば、被告人は、①アルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障を生じるおそれがある状態で自動車を運転し、②その影響により前方注視及び運転操作が困難な状態に陥って本件事故を起こしたものと認められ、③①の点に関する故意も認められるから、被告人の判示の行為に危険運転致死傷罪が成立する。 (量刑の理由)被告人は、飲酒をするのに車両で出掛け、4時間以上にわたって酒の注文を繰り返し、相当量を飲酒した後、自らの飲酒状況等を認識していたにもかかわらず、車両の運転を開始した。これにより、被告人は、車線幅が広くない住宅地の道路において、適確に前方を確認し、状況に適合した運転操作を行うこと等が困難な状態で、規制速度を20キロメートル以上超える速度で車両を走行させることとなったが、 当該運転行為の危険性は相当高かったといえる。 その結果、本件道路の左端を歩行していたにすぎない4名を巻き込む事故を引き起こし、このうち2名もの被害者を死亡させたから、本件の結果は、取り返しのつかない重大なものといえる。死亡した被害者の苦痛の大きさや、家族を残して死亡することに対する無念さは想像を絶するものといえ、遺族らが峻烈な処罰感情を述べるのは当然である。他の2名の被害者を負傷させた点も軽視はできない。 被告人の飲酒運転には常習性が認められ、平成24年に酒気帯び運転で罰金刑に処された前科を有すること等にも照らすと、その危険性を顧みない態度が明らかといえる。 以上によれば、本件の犯情は、自動車運転処罰法3条1項の危険運転致死傷罪のの中でも重い部類に位置付けられるから、長期の実刑は免れない。 一般情状についてみるに、被告人は、被害者らに対し える。 以上によれば、本件の犯情は、自動車運転処罰法3条1項の危険運転致死傷罪のの中でも重い部類に位置付けられるから、長期の実刑は免れない。 一般情状についてみるに、被告人は、被害者らに対して申し訳ないと述べるものの、事故原因や飲酒の影響等について曖昧な供述に終始し、自己の刑責に向き合う態度は十分に示されていない。被告人が自賠責保険及び任意保険に加入しており、被害者らに対する損害賠償がされる見込みであること、兄が今後の監督を約束したこと、今後は飲酒をしないと述べていること等被告人に有利な事情を踏まえても、主文の刑はやむを得ないと判断した。 (求刑:懲役12年)令和5年9月29日大阪地方裁判所堺支部第2刑事部 裁判長裁判官荒木未佳 裁判官山田裕章 裁判官奥野佑麻
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