平成14(わ)800 強盗殺人,詐欺,窃盗被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年5月15日 名古屋地方裁判所
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判決文本文11,967 文字)

主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中300日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人は, 1 別紙犯罪事実一覧表1記載のとおり,平成14年2月8日午後9時ころから同年3月5日午後10時30分ころまでの間,前後9回にわたり,名古屋市中区a丁目b番c号所在のAビル地下1階スナック「B」ほか8か所において,同店店員Cほか8名に対し,飲食代金を支払う意思も能力もないのに,これがあるように装って酒食等を注文し,同人らをして,飲食後直ちにその代金の支払いを受けられるものと誤信させ,よって,同年2月8日午後11時32分ころから同年3月6日午前1時30分ころまでの間,前記スナック「B」ほか8か所において,同人ほか8名からビール22本ほか26点の飲食物(代金合計7万1300円相当)の提供を受けるとともに,席料及びカラオケ使用等の利便(合計1万9000円相当)を受け,もって人を欺いて財物を交付させるとともに財産上不法の利益を得, 2 別紙犯罪事実一覧表2記載のとおり,同年2月8日ころから同年3月6日ころまでの間,前後9回にわたり,前記スナック「B」ほか8か所において,前記Cほか8名所有又は管理に係る現金合計約35万2300円及びかばん5個ほか約159点(時価合計約16万650円相当)を窃取した。 第2 被告人は,平成14年3月14日午前3時ころ,名古屋市中区a丁目b番c号所在のDビル3階スナック「E」店内において,同店経営者F(当時61歳)を殺害して金員を強取しようと決意し,同女に対し,殺意をもって,左腕で同女の頸部を絞め付け,さらに,同店内にあったマイクコードを同女の頸部に巻き付けて締め付け,よって,そのころ,同所において,同女を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した上,同店内にあった同女所有に係る現金約8000円 さらに,同店内にあったマイクコードを同女の頸部に巻き付けて締め付け,よって,そのころ,同所において,同女を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した上,同店内にあった同女所有に係る現金約8000円を強取した。 第3 被告人は, 1 平成14年3月15日午後8時30分ころ,名古屋市熱田区a丁目b番c号所在の居酒屋「G」において,同店経営者Hに対し,飲食代金を支払う意思も能力もないのに,これがあるように装って酒食を注文し,同人をして,飲食後直ちにその代金の支払いを受けられるものと誤信させ,よって,そのころから同日午後11時45分ころまでの間,同所において,同人からビール2本ほか7点の飲食物(代金合計5300円相当)の提供を受け,もって人を欺いて財物を交付させ, 2 同日ころ,上記居酒屋「G」において,上記H所有の現金5万9000円及び伝票9枚を窃取した。 第4 被告人は,平成14年3月16日ころ,名古屋市熱田区a町b番c号所在のI病院地下1階男性用職員更衣室において,J所有の作業着1着(時価約300円相当)を窃取した。 第5 被告人は,平成14年3月16日ころ,名古屋市熱田区a丁目b番c号所在のKビル2階株式会社L管理倉庫において,同社代表取締役M管理に係る入浴剤2箱(時価合計約2000円相当)を窃取した。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明)判示第2の強盗殺人の事実について,被告人は,第1回公判期日における事実認否では全面的にこれを認めたものの,第4回公判期日の被告人質問以降,財物奪取の目的で被害者を殺害したか否かについてあいまいな供述をするようになり,第6回公判期日において,被害者を殺害した当時の強盗殺人の故意を否認するに至った。弁護人は,こうした被告人の弁解に沿って,被告人に強盗殺人罪は成立せず,殺人罪と占有離脱物横領罪 述をするようになり,第6回公判期日において,被害者を殺害した当時の強盗殺人の故意を否認するに至った。弁護人は,こうした被告人の弁解に沿って,被告人に強盗殺人罪は成立せず,殺人罪と占有離脱物横領罪又は窃盗罪の併合罪が認められるにとどまる,と主張する。そこで,当裁判所が同事実を認定した理由を補足して説明する。 1 被告人の供述調書を始めとする関係証拠によれば,被告人が強盗殺人の犯行に及ぶに至った経緯及び犯行状況は以下のとおりであったと認めることができる。 (1) 被告人は,平成14年1月14日前刑執行終了により出所した後,定職に就かず,サウナやカプセルホテルを転々とし,宿泊費や食費を得るために判示第1の各事実のとおり,飲食客を装ってスナック等の飲食店に入り,無銭飲食の上,店主等の隙を突き売上金等を盗んでは逃げることを繰り返していた。 被告人は,同年3月13日,名古屋市中区内のサウナを出た後,所持金が乏しくなってきたことから,前同様に客を装い同市東区内の居酒屋に入ったものの,売上金等を盗む隙を見出すことができず,結局飲食代金を支払わないまま逃走するにとどまった。そこで,被告人は,さらに別の飲食店に入って売上金等を盗もうと考え,ホテルや携帯電話販売店に立ち寄り,飲食店主らを信用させるための小道具にする名刺やサンプルの携帯電話を手に入れた上,適当な飲食店を物色していた。 (2) 被告人は,同日午後11時ころ,被害者が経営するスナックE(以下「E」という。)を見掛けて店内をのぞくと,客はおらず被害者一人がボックス席に座っていた。営業時間を尋ねると,12時までという答えが返ってきたため,被告人は,隙を作らせて金を盗むには時間が足りないと考えて,一たんは店を出ようとしたが,被害者に時間は気にしなくていい旨言われて引き留められたことから,店内に入 2時までという答えが返ってきたため,被告人は,隙を作らせて金を盗むには時間が足りないと考えて,一たんは店を出ようとしたが,被害者に時間は気にしなくていい旨言われて引き留められたことから,店内に入りカウンター席に座った。被告人は,トイレに行くようにし向けるために被害者にもビールを勧めながら,画廊関係者の安藤と名乗り,絵画等の話をしていたが,そのうち,被害者が,被告人との会話に気分を害したのか,「うちは,本当は一見さんは入れないのよ。」,「うちは,身元のはっきりしたお客さんばかりよ。」などと言ったり,出身地の話になると,「長野県の人には余りいい感情を持っていないの。」と言ったりしたことから,被告人も腹が立ってきたものの,我慢していた。そして,この間に,被告人は,被害者にお世辞を言うなどしつつ,カウンターの内側に視線を走らせるなどして売上金等のありかを探し,金を盗んで逃げる機会をうかがっていたが,金が入っていそうなバッグ等は見当たらなかった。 (3) しかし,被害者は一向にトイレに立つ気配を見せず,また,被害者との会話も余り気分のよいものではなかったことから,被告人は,翌14日午前1時ころには,別の飲食店を狙った方がいいのではないかと思い始め,さらに,被害者が「一見の客なんか入れないのに。」と言う回数がますます増えてきたことから,嫌気がさし,無銭飲食だけで逃げようと考えるに至った。被告人は,まず,煙草がないかと被害者に聞いて,買いに行かせようとしたが,被害者は煙草は置いていないと答えるだけで店外に出ようとはしなかった。そこで,被告人は,サンプルの携帯電話に電話がかかってきた振りをして,一緒に飲んでいた人を迎えに行くと称して店の外に出たが,被害者も付いてきて腕を絡めてきた上,ビルの前に客引きらしい数人の男が立っていたため,被告人は,被害 携帯電話に電話がかかってきた振りをして,一緒に飲んでいた人を迎えに行くと称して店の外に出たが,被害者も付いてきて腕を絡めてきた上,ビルの前に客引きらしい数人の男が立っていたため,被告人は,被害者を振り切って逃げることもできず,やむなくEの店内に戻った。 被告人に残された方法は,被害者がトイレに入った隙に売上金等を盗んで逃げることだけであったが,ビルの外に人がいたことに加えて,被害者が出入口ドアに取り付けられている二つの鍵を内側から掛けてしまったことから,被告人はかなり逃走しにくい状況に追い込まれた。そして,同日午前3時ころ,やっと被害者がトイレに立ったものの,出入口ドアの鍵を確認した上,トイレのドアをきちんと閉めなかったことから,被告人は,この間にEから逃げ出すことを諦め,金だけでも盗んでおこうとして,カウンター席から身を乗り出しカウンター内を見回したが,売上金等のありかは分からなかった。 (4) 被告人は被害者にしてやられたと感じて苛立ちを募らせていたところ,トイレから出てきた被害者が被告人の隣りに座り,またしても「うちは本当は一見さんは入れないのよ。」と言い始めたので,被告人が,「鍵も掛けられちゃったしなあ。」と嫌みを言ったのに,被害者が,「私鍵なんて掛けてないよ。」,「私のこと,何とかしちゃおうと思って掛けたんじゃないでしょうね。」などと答えたことを契機として,被害者の殺害を決意し,被害者を椅子ごと引き倒した。 床に仰向けに転倒した被害者は,「初めからおかしいと思ったんだ。」などと大声で叫んで抵抗し,被告人が左手の平でその口を押さえつけるようにして塞いでも,なおも暴れるので,被告人が被害者の口を塞いだまま立たせたところ,左手親指と人差し指の付け根付近に思い切り噛みつかれた。被告人が左手を前に伸ばして噛みつかれた手 口を押さえつけるようにして塞いでも,なおも暴れるので,被告人が被害者の口を塞いだまま立たせたところ,左手親指と人差し指の付け根付近に思い切り噛みつかれた。被告人が左手を前に伸ばして噛みつかれた手を引き抜くと,被害者が再び大声で叫び始めたことから,被告人は,被害者の背後からその首に左腕を回して,自己の左手首付近に右腕を十字に重ねて数分間思い切り引き,被害者の首を絞めた。被害者は,初めこそ叫んで抵抗していたものの,被告人が首を絞め続け,さらにそのままの体勢で被害者の体を持ち上げて約1分間経過すると,おとなしくなったので,被告人は被害者を床に寝かせた。 被告人が被害者の息を確認したところ,息は感じられなかったが,被害者を確実に殺害するため,その首に店内にあったカラオケのマイクコードを二重に巻き付けた上,コードの両端を思い切り引っ張り,締め付けて殺害した。 (5) 被告人は,指紋を消すために触れたところをおしぼりでざっと拭いてから,店内で現金を探し,カウンター内側の棚に置かれていたポシェットを見つけて開披し,中の千円札8枚と小銭を上着のポケットに入れた。さらに,被告人は,被害者がわいせつ目的の犯罪で殺されたと見せかけるため,被害者のスカートをまくり上げて下着を途中まで引き下ろす偽装工作をした。そして,被害者殺害後に飲んだトマトジュースの空き缶とその場にあったタオルを持ち,タオルで出入口ドアの取っ手等をつかみ,指紋を残さないようにしてEを出た。 2 以上の事実関係,特に,被告人は,そもそも金を盗む目的でEに入っている上,被害者がトイレに入ると,身を乗り出して売上金等の置いてある場所を探しており,被害者殺害の直前まで金を盗む機会をうかがっていたこと,殺害後も,当初の目的どおり現金を探し,ポシェット内に現金を見つけるや直ちに抜き取り窃取して を乗り出して売上金等の置いてある場所を探しており,被害者殺害の直前まで金を盗む機会をうかがっていたこと,殺害後も,当初の目的どおり現金を探し,ポシェット内に現金を見つけるや直ちに抜き取り窃取していることからして,被告人は被害者殺害の前後を通じて一貫して現金を手に入れることを目的として行動していたと認めるのが相当である。加えて,被害者との会話等に気分を害したからといって,それだけで,被害者の殺害を決意するというのは,殺人の動機として余りに薄弱であることを考え併せると,被告人が現金を奪うために被害者を殺害したことが強く推認される。 3(1) そればかりでなく,被告人は,捜査段階において強盗殺人の故意を認める供述をしていた。被告人の供述調書は,犯行に至る経緯,犯行状況及び犯行後の状況等の供述内容が,被害者との会話内容を始めとして具体的で迫真性があり,体験した者でなければ語り得ない内容も含まれている。また,被害者を殺害した際左手を噛まれたことや首にマイクコードを巻いたこと等の犯行状況,ポシェットが置かれていた場所,殺害後トマトジュースを飲んで空き缶を捨てたことなど,供述の相当部分が客観的な証拠により裏付けられている。供述経過を見ても,平成14年3月16日に本件で逮捕された当初こそ強盗殺人の故意を否認していたものの,同月24日にこれを変更して故意があったことを認める内容の書面(乙47)を作成し提出してからは,一貫して金を奪う目的で被害者を殺害したことを認める供述をしており,第1回公判期日の罪状認否においても,何ら留保を付することなく事実を認める旨陳述している。そうすると,強盗殺人の故意を認めた被告人の供述調書は十分信用できる。 弁護人は,被告人が強盗殺人について自白したのは,取調官から「窃盗しようとして行って殺したんだから立派な強盗殺人で ている。そうすると,強盗殺人の故意を認めた被告人の供述調書は十分信用できる。 弁護人は,被告人が強盗殺人について自白したのは,取調官から「窃盗しようとして行って殺したんだから立派な強盗殺人である」という違法な誘導を受けたことによるもので,任意性及び信用性に疑いがある,と主張する。しかし,被告人は,被害者を殺害した直後にその現金等を盗むなどした殺人・窃盗等の罪で懲役15年に処せられた前科を有し,その事件との対比で,財物奪取の目的で人を殺さなければ強盗殺人の罪に問われないことを十分理解していたと推認されるのであるから,仮に取調官から上記のように言われた事実が存在したとしても,それが原因で自白を強制されるとは考え難く,供述調書の任意性・信用性を揺るがせるものではない。 (2) 被告人は,第4回公判期日以降,被害者を椅子ごと引き倒したのは,「一見の客は入れない。」などと何度も言われて,馬鹿にしたような言い方で腹が立ってきたからで,そのときには,被害者を殺害する意思も,売上金等を奪おうという意思もなかった。被害者を殺害しようと思ったのは,椅子を引き倒した後被害者が騒ぎ出したからであり,被害者を殺害した後,売上金等を奪うことが頭に浮かび上がってきた,などと弁解している。 しかしながら,無銭飲食を行おうとしている被告人が,被害者との会話に気分を害したからといって,それだけで,被害者を椅子ごと転倒させるという,自己の逃走を困難にする行為に出るとは考え難く,その他の被告人の弁解も,上記1の事実関係に照らしてはなはだ不自然不合理である上,第4回公判期日において,弁護人の質問に対して,被害者を殺害するときには売上金等を奪う目的はなかったと供述しながら,検察官の質問に対しては,強盗殺人については否定しないなどと供述し,第5回公判期日においてもあ 日において,弁護人の質問に対して,被害者を殺害するときには売上金等を奪う目的はなかったと供述しながら,検察官の質問に対しては,強盗殺人については否定しないなどと供述し,第5回公判期日においてもあいまいな供述を続けていたところ,第6回公判期日になり強盗殺人の故意を否認するに至ったという供述経過や強盗殺人を定義づけるものが何だか知りたいから強盗殺人の故意を否認するという変遷理由の不自然さ等に照らしても,到底信用できない。 4 以上によれば,被告人は,判示第2のとおり,金員強取の目的で被害者を殺害したものと認定することができる。 (量刑の理由)第1 本件各犯行の概要は,被告人が,売上金等の現金を盗む目的で客を装いスナックに入ったが,その隙を見出すことができなかったことから,金を奪うために経営者である被害者を殺害した上,金8000円余りを強取した強盗殺人(第2),その犯行の前後にまたがり,1か月余りの期間中に,延べ11軒の飲食店で,上客を装い無銭飲食をしたり,加えて売上金等の金品の窃盗も行ったという詐欺と窃盗各10件(第1,第3)の事案のほか,第3の犯行で逃走する際,上着や上客を装うための小道具を失ってしまったことから,これに替わる物を盗んだ窃盗2件(第4,第5)の事案である。 第2 被害者F(以下「被害者」という。)の経歴及び生活状況被害者は,若いころから自分の店を持つのが夢で,栃木県足利市内から名古屋市内に移り住んでクラブのホステスとして働いていたが,そのころ,内縁の夫となるNと知り合い,同人から資金提供を受けて昭和54年にEを開業した。  昭和60年ころ,Nと一緒に暮らし始め,スナックでの忙しい仕事のかたわら,  家事やNの二人の子の養育にも献身的に携わり,二人の子が結婚等により独立 資金提供を受けて昭和54年にEを開業した。  昭和60年ころ,Nと一緒に暮らし始め,スナックでの忙しい仕事のかたわら,  家事やNの二人の子の養育にも献身的に携わり,二人の子が結婚等により独立した後は,Nと二人で堅実な生活を営み,Eの経営がここ三,四年苦しくなってはいたものの,Nの子が孫を連れて訪れるのを楽しみにしていた。 第3 本件犯行までの被告人の犯罪歴等及び生活状況被告人は,陸上自衛隊在勤中の昭和49年に,寸借詐欺を働いたり同僚の財布を盗むなどして懲戒免職になるとともに,上記詐欺・窃盗の罪で懲役2年(3年間執行猶予)に処せられ,その猶予期間中に犯した商品詐欺等の詐欺5件と窃盗2件及び確定判決前の余罪に当たる詐欺の罪で,昭和50年2月に懲役8月と懲役2月の判決を受け,先の執行猶予も取り消されて併せて服役した。  被告人は,昭和52年4月に仮出獄した後も,仮出獄中に犯した建造物侵入・窃盗罪で同年7月に懲役10月に,その刑の執行終了後に犯した8件の窃盗と  6件の詐欺につき常習累犯窃盗罪等に問われて,昭和55年3月に懲役3年に各処せられたばかりでなく,後者の刑の仮出獄期間中に,無銭飲食・宿泊等の詐欺4件のほか,宿泊先の旅館の女将の頸部を電気こたつのコードで絞めて殺害し,その死体を押入れに隠匿して遺棄した上,その直後に同人所有の現金等を盗むという凶悪事件を敢行して,昭和58年10月に懲役15年の判決を受けている。そして,被告人は,平成10年6月に上記刑の執行を終えたが,住居を定めず無職でサウナを転々とする不良な生活を送るうち,スナック等の飲食店で,客を装い飲食物を注文して無銭飲食した上,店主等の隙を狙って売上金等を盗むという手口による犯行を行うようになり,平成11 無職でサウナを転々とする不良な生活を送るうち,スナック等の飲食店で,客を装い飲食物を注文して無銭飲食した上,店主等の隙を狙って売上金等を盗むという手口による犯行を行うようになり,平成11年12月に3件の窃盗と1件の詐欺で懲役2年2月の判決を受けて服役した。被告人は,平成  14年1月14日刑執行終了により満期出所したが,就職活動等の更生のための努力を全くしないまま,前同様にサウナを転々としつつ,その宿泊代や食費等を手に入れるため,前刑と同一手口による無銭飲食と売上金等の窃盗の犯行を繰り返す中で,本件各犯行を犯すに至ったものである。 第4 量刑に当たり特に考慮した事情 1 本件強盗殺人に至る経緯及び犯行状況等は,既に補足説明で詳しく述べたとおりであるが,そもそも被告人がEに入った動機が,その直前に,サウナ代金等の生活費を得るため,別の飲食店で売上金等を盗もうとして失敗したことから,同様の手口で売上金等を盗むためであったところ,被害者が付け入る隙を見せず,最終的には出入口扉の鍵を内側から掛けるなどの対応をとったため,売上金等を盗んで逃走することが困難な状況に追い込まれたことに加えて,被害者の接客態度に立腹していたことから,被害者を殺害して売上金等を奪おうと決意したもので,極めて自己中心的かつ短絡的な犯行動機に酌量の余地は全くない。 犯行態様も,突然被害者を椅子ごと転倒させた上,確定的殺意に基づき,必死に抵抗する被害者の頸部を腕で絞め上げ,さらに,被害者を確実に死亡させるため頸部にマイクコードを二重に巻いて強く締め付け,コードを少しでも緩めようと頸部を引っ掻いてもがく被害者を無惨にも窒息死するに至らしめたもので,殺害方法は執拗かつ残忍である。被告人は,わずか め頸部にマイクコードを二重に巻いて強く締め付け,コードを少しでも緩めようと頸部を引っ掻いてもがく被害者を無惨にも窒息死するに至らしめたもので,殺害方法は執拗かつ残忍である。被告人は,わずか数千円の現金を手に入れるために,被害者の尊い生命を奪っており,その結果は極めて重大である。  しかも,被告人は,被害者殺害後,自己が犯人であることが発覚するのを防止するため,指紋を拭き取るにとどまらず,わいせつ目的の犯罪被害に遭ったように見せかけるべく,被害者の下着を途中まで引き下ろすという死者を冒とくするがごとき行為にまで及んでいる上,翌日には平然と同種無銭飲食及び窃盗犯行(第3)を繰り返しており,そこには,被害者に対する憐憫の情も自己の非道な所業についての悔悟の念もうかがわれない。 かかる非道な犯行によって被告人は,当時61歳であった被害者やその家族の上記のような平穏な家庭生活や将来設計を一瞬のうちに崩壊させてしまったのである。被害者は,何らの落ち度もないにもかかわらず,客として接待していた被告人から,突如椅子ごと引き倒され,必死の抵抗もむなしく無惨にも窒息死させられたもので,その恐怖や苦しみ,愛する家族らを残して非業の最期を遂げなければならなかった無念さは察するに余りある。そして,突然被害者を失った遺族の心情にも悲痛極まりないものがあり,内縁の夫のNほか,実妹,  夫の子は,いずれも被害者を失った精神的打撃の大きさを訴えるとともに,被告人の極刑を求める旨の厳しい処罰感情を述べている。これに対して,被告人から遺族に対する被害弁償等の慰謝の措置は一切講じられていない。 2 被告人は,二十代のころから詐欺・窃盗の犯行を繰り返して何度も服役しているにもかかわらず,前刑出所後1 に対して,被告人から遺族に対する被害弁償等の慰謝の措置は一切講じられていない。 2 被告人は,二十代のころから詐欺・窃盗の犯行を繰り返して何度も服役しているにもかかわらず,前刑出所後1か月も経たないうちに,またしても同様の犯行に及んでいたものであるが,その手口は,上客を装うための名刺や店から逃げる際の口実に使うサンプル携帯電話等をあらかじめ準備した上,言葉巧みに飲食店の関係者を信用させ,素早く売上金等を盗んで逃走するというまことに手慣れた巧妙なもので,計画性常習性も顕著である。こうした点から見ると,  規範意識が麻痺しているだけでなく,詐欺・窃盗の犯罪性向は極めて強固で,  もはや矯正不能と見ざるを得ない。さらに,被告人は,32歳のときに殺人罪を犯しているところ,被害者殺害に至る経緯や動機は証拠上確定し難いとされているものの,少なくとも殺害方法や犯行直後の金品窃取・罪証隠滅工作等の外形的事実関係は,本件強盗殺人の犯行と極めて似かよっており,懲役15年という重い刑を受け,長期にわたって服役しながら,刑執行終了後わずか4年足らずで,再び強盗殺人という凶悪犯罪を犯していること,他人を思いやり憐れむ心に欠け,性格的な偏りが認められる上,公判途中から不合理な弁解に及び,再び本件強盗殺人や昭和58年に犯した殺人と同様の犯罪を犯す可能性があると自ら述べるなど真摯な反省悔悟の情に乏しいことからすれば,強盗殺人等についても再犯の可能性を否定し難い。 3 そして,本件強盗殺人の犯行が,被害者と同じ飲食店を営む者や地域住民に与えた不安と恐怖は大きく,社会に与えた影響も無視することはできない。 4 判示の詐欺・窃盗の犯行についても,犯行件数が多く被害額も合計すると相当多額にのぼるのに 飲食店を営む者や地域住民に与えた不安と恐怖は大きく,社会に与えた影響も無視することはできない。 4 判示の詐欺・窃盗の犯行についても,犯行件数が多く被害額も合計すると相当多額にのぼるのに,今日に至るまで被害弁償は一切なされておらず,その点でも犯情は悪質である。 5 そうすると,被告人の刑事責任は,誠に重大であり,極刑をもって臨むことも十分に考えられる事案である。 6 しかしながら,死刑が人間存在の根元である生命の剥奪を内容とする最も峻厳かつ究極の刑罰であることを考慮すると,その選択には特に慎重を期さなければならず,犯罪の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を検討し,これを併せ考慮したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑の選択が真にやむを得ないと認められる場合に限り,その選択が許されるというべきである。 7 そこで,さらに本件強盗殺人の犯情について検討すると,被告人がEに入ったのはこれまでと同様に無銭飲食の上,店の売上金等を盗む目的によるものであって,当初から強盗殺人の犯意を有していたものではない。そして,被告人は,一度は売上金等を盗むことを諦めてEから逃げようとしたが失敗し,その後出入口扉の鍵を掛けられたことから,このままでは逃げることができないと思い,いよいよ切羽詰まって逡巡の末,ついには被害者を殺害して売上金等を奪い逃げるほかないと考えるに至ったもので,心理的に追いつめられての犯行であった一面を否定できず,殺害には店内にあったマイクコードが使用されており,強盗殺人についての計画性を認めることはで 奪い逃げるほかないと考えるに至ったもので,心理的に追いつめられての犯行であった一面を否定できず,殺害には店内にあったマイクコードが使用されており,強盗殺人についての計画性を認めることはできない。殺害方法やその態様も,被害者の頸部を腕やマイクコードで絞めて窒息死させたもので,他の殺害方法と比較して残虐さ,執拗さが非常に強いとまではいえない。 検察官は,本件強盗殺人が,偶発的犯行ではなく,計画的犯行に準ずる極めて悪質な犯行であると述べ,その理由として,被告人が,捜査段階において,場合によれば,強盗殺人を起こしかねないことを分かっていた旨供述していることを挙げる。しかし,被告人は,上記供述と併せて,店に入ったときから店の人を殺害して金を奪う計画があったわけではないとも述べていることからすると,被告人は強盗殺人の可能性があったことを述べたにすぎないとみるのが相当であって,検察官指摘の上記供述によって,被告人がEに入店する前から強盗殺人の犯意を明確にもっていたとはいえず,これをもって,本件強盗殺人が計画的犯行に準ずる極めて悪質な犯行であるとすることはできない。 8 さらに,被告人が殺人の前科を有し,その外形的事実関係が本件強盗殺人の事実と近似していることは,検察官指摘のとおり軽視し得ないところではあるが,強盗殺人で起訴されたわけではなく,宣告刑も有期懲役刑にとどまり,その執行も既に終了していること,他の前科のほとんどが詐欺と窃盗であり,強盗殺人を含む強盗等の前科はなく,無期懲役刑に処せられた前科もないこと等の諸情状に,上記のとおり本件強盗殺人に計画性までは認められないこと,被告人は,公判において遺族に対する謝罪の気持ちを述べるなどして一応反省の態度を示している 処せられた前科もないこと等の諸情状に,上記のとおり本件強盗殺人に計画性までは認められないこと,被告人は,公判において遺族に対する謝罪の気持ちを述べるなどして一応反省の態度を示していることをも加えて勘案すると,被告人に対して,もはや極刑をもって臨むしかないと断ずることはできない。 第5 以上に述べた諸事情その他記録にあらわれた一切の事情を総合考慮したとき,  本件強盗殺人の犯行が,何らの落ち度のない被害者を確定的殺意に基づいて殺害した上金員を強取した極めて重大な事案であること,動機が自己中心的で酌量の余地が全くないこと,被告人には殺人を含む多数の前科があり,その犯罪性向は相当に強固で矯正困難であること,遺族の処罰感情が極めて厳しいこと等からすると,被告人の罪責は極めて重大というべきであるが,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑の選択が真にやむを得ないと断ずるにはなお疑いが残るので,被告人に対しては主文のとおり無期懲役刑を科し,終生,  被害者の冥福を祈らせて贖罪に当たらせることが相当であると判断した次第である。 (求刑死刑)平成15年5月15日名古屋地方裁判所刑事第5部裁判長裁判官伊藤新一郎裁判官後藤眞知子裁判官高橋信幸

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