令和3(ワ)86 契約関係確認等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年9月27日 山口地方裁判所 岩国支部
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判決文本文30,034 文字)

主文 1 被告は、原告らに対し、それぞれ16万5000円及びこれに対する令和3年10月26日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを10分し、その1を被告の負担とし、その余を原告 らの負担とする。 4 本判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求被告は、原告らに対し、それぞれ152万8586円及びこれに対する令和 3年10月26日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 本件は、指定訪問介護事業者である被告と訪問介護サービス利用契約を締結した承継前原告A(以下「亡A」という。)が、被告が新型コロナウイルス感染症への感染対策を理由に同契約に基づくサービスの提供を中止し、同契約を 解除するなどしたことは債務不履行又は不法行為に該当すると主張して、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求として、代替サービスの利用に要した費用及び精神的損害の合計305万7172円並びにこれに対する令和3年10月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 亡Aは訴訟係属後である令和6年2月1日に死亡したため、亡Aの子である原告らが本件訴訟を承継した。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実。以下、書証番号は特に断らない限り枝番号を含む。) ⑴ 関係法令等の定め 別紙1「関係法令等の定め」記載のとおり⑵ 当事者等(甲28、乙2)ア亡A(大正9年生)は、山口県岩国市a 番号は特に断らない限り枝番号を含む。) ⑴ 関係法令等の定め 別紙1「関係法令等の定め」記載のとおり⑵ 当事者等(甲28、乙2)ア亡A(大正9年生)は、山口県岩国市a 町において一人暮らしをしていた女性であるところ、令和2年1月に要介護1、令和3年2月に要介護2の認定を受けた。 イ亡Aには3人の子がおり、令和2年4月当時、長男であるD(昭和25年生。以下「D」という。)は亡A宅の近くに、長女である原告B(昭和23年生)及び二女である原告C(昭和28年生)は東京都に居住していた。Dは、令和4年9月7日に死亡した。 ウ被告は、病院、介護老人保健施設等の開設・運営や居宅サービス事業を 行う医療法人であり、令和2年4月当時、介護保険法(法)41条1項本文の指定を受けた指定居宅サービス事業者(指定訪問介護事業者)であり、当該指定に係る居宅サービス事業を山口県岩国市内所在の事業所「Eケアセンター」(以下「ケアセンター」という。)により行っていた。 ⑶ 亡Aと被告の契約関係(甲1、乙1) ア亡Aは、以前からケアセンターの訪問介護を受けていたところ、要介護1の認定を受けたことを踏まえ、令和2年1月7日、被告との間で、訪問介護サービス利用契約(以下「本件契約」という。)を締結した。本件契約の契約書(甲1)には以下の記載がある。 (ア) ケアセンターは、法及び本件契約に従い、亡Aに対し、亡Aが可能な 限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、入浴、排泄、食事の介護その他生活全般にわたる援助(以下「訪問介護サービス」という。)を提供する(1条)。 (イ) 契約期間は令和2年1月7日から同年7月6日とする(自動更新条項あり)(2条1項、2項)。 事の介護その他生活全般にわたる援助(以下「訪問介護サービス」という。)を提供する(1条)。 (イ) 契約期間は令和2年1月7日から同年7月6日とする(自動更新条項あり)(2条1項、2項)。 (ウ) ケアセンターは、訪問介護サービスとして、訪問介護員(以下「ヘル パー」という。)が亡Aの居宅を訪問して行う①入浴、排泄、食事等の介護、②調理、洗濯、掃除等の家事、③生活等に関する相談及び助言、④その他亡Aに必要な日常生活上の世話を提供できる(3条1項)。 (エ) 被告は、亡Aに対して訪問介護サービスを提供するに当たり、居宅介護支援事業者等との密接な連携に努める(5条)。 (オ) ケアセンターのサービス提供責任者は、亡Aの日常生活全般の状況や希望を踏まえて、訪問介護計画を作成する(6条1項)。ケアセンターのサービス提供責任者は、訪問介護計画作成後も、当該計画の実施状況を把握し、亡Aの希望にも配慮し、必要に応じて当該計画の変更を行うとともに、居宅サービス計画の変更に伴い訪問介護計画の変更が必要と なる場合には、速やかにこれを変更する(同条4項)。亡Aは、ケアセンターに対し、いつでも訪問介護計画を変更するよう申し出ることができ、ケアセンターは、亡Aからの申出があった場合、変更を拒む正当な理由がない限り、亡Aの希望に添うように当該計画を変更する(同条5項)。 (カ) ケアセンターは、亡Aが故意に法令違反その他著しく常識を逸脱する行為をなし、ケアセンターの再三の申入れにもかかわらず改善の見込みがなく、前記(ア)に定める本件契約の目的を達することが不可能となったとき、2週間以上の予告期間をもって本件契約を解除することができる(12条)。 イ本件契約締結後、ケアセンターのヘルパーは亡A宅を訪問し、週2 る本件契約の目的を達することが不可能となったとき、2週間以上の予告期間をもって本件契約を解除することができる(12条)。 イ本件契約締結後、ケアセンターのヘルパーは亡A宅を訪問し、週2回の調理の補助と週1回の掃除の訪問介護サービスを提供した。 ウ本件契約は令和2年7月6日に同内容で更新された。 ⑷ 本件契約の解除通知に至る経緯(甲2、4、乙4)ア被告は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のために、ケアセン ターが提供する訪問介護サービスの利用者及びその家族に向けて、①ヘル パー訪問日の朝に検温を実施し、利用者又はその家族などに37.5度以上の発熱や体調不良がある場合は、ケアセンターに連絡すること、②訪問時に37.5度以上の発熱などが確認された場合は、訪問介護サービスを短縮し又は中止することがあること、③感染拡大地域から家族などが帰省した場合は、帰省した日から2週間、訪問の中止を検討することを連絡す る令和2年4月10日付け文書(以下「本件連絡文書」という。)を作成し、その頃、これを亡Aに交付した(甲2)。 イ被告は、別紙2「訪問介護不実施日一覧」記載の令和2年6月25日から同年10月19日まで間の計8日間、当初、亡Aに対して訪問介護サービスを提供する予定であったものの、これを提供しなかった(訪問介護サ ービスの不提供の理由及びその当否については争いがある。)。 ウ被告は、令和2年11月12日、亡A及びその家族に対し、同月10日付けの文書で、①訪問介護事業所として、亡Aの家族や居宅介護支援事業所等からの情報提供を受けられない状況にあること、②新型コロナウイルス感染症防止のため、感染者の多い地域からの家族等の訪問時の対応につ いて、理解や協力が得られない状況にあること、③亡Aに必 所等からの情報提供を受けられない状況にあること、②新型コロナウイルス感染症防止のため、感染者の多い地域からの家族等の訪問時の対応につ いて、理解や協力が得られない状況にあること、③亡Aに必要な支援が継続して提供できるように、家族と対応を考える協議の場を持つことを希望したが、同意してもらえなかったことなどを理由に、本件契約に基づく訪問介護サービスの継続は困難であり、中止せざるを得ず、本文書到着後2週間をもって訪問介護サービスを終了する旨を通知した(甲4)(以下「本 件サービス終了通知書」という。)。 エ被告は、本件サービス終了通知書記載の期限経過後も、亡A宅を訪問し、訪問介護サービスを提供していたが、令和3年1月29日を最後にこれを終了した。 ⑸ 亡Aの死亡及び相続 亡Aは令和6年2月1日に死亡し、原告らは亡Aの被告に対する損害賠償 請求権を各2分の1の割合で相続した。 3 争点及びこれに対する当事者の主張⑴ 被告が令和2年6月から同年10月までの間の計8日間に亡Aに対して訪問介護サービスを提供しなかったことにつき債務不履行責任又は不法行為責任を負うか(争点1) 【原告らの主張】ア被告は、本件契約に従って、亡Aに対して訪問介護サービスを提供すべき義務を負っていたところ、別紙2「訪問介護不実施日一覧」記載の計8日間、原告B、原告C又はその子が東京都から帰省したことを理由に訪問介護サービスを提供しなかった。 イ法2条1項は「介護保険は、被保険者の要介護状態…に関し、必要な保険給付を行うものとする。」と定め、指定居宅サービス等基準9条は、指定訪問介護事業者は「正当な理由」なく指定訪問介護の提供を拒んではならないとし、山口県条例も同様に定めている。また、「新型コロナウイル 給付を行うものとする。」と定め、指定居宅サービス等基準9条は、指定訪問介護事業者は「正当な理由」なく指定訪問介護の提供を拒んではならないとし、山口県条例も同様に定めている。また、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」、厚生労働省の令和2年4月7日付け事 務連絡「社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)」などでは、利用者が濃厚接触者である場合も単純にサービスの提供を停止するのではなく、生活に必要なサービスを提供するとされている。 さらに、その後に発出された厚生労働省の令和3年2月8日付け事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る在宅の要介護(支援)者に対する介護 サービス事業所のサービス継続について」は、「介護サービス事業所が…感染が拡大している地域の家族等との接触があり新型コロナウイルス感染の懸念があることのみを理由にサービスの提供を拒むことは、サービスを拒否する正当な理由には該当しない」としている。 以上のとおり、亡Aが帰省した家族と接触したことを理由に訪問介護サ ービスの提供を拒むことはできない。 ウまた、亡Aへの訪問介護サービスの主たる目的が調理や掃除であったとしても、亡Aにはふらつきがあったのであるから介助や見守りが必要な状態であり、亡Aの家族による対応もできないのであるから、亡Aは被告による訪問介護サービスが必要な状態にあった。 エしたがって、被告が亡Aの家族が東京都から帰省したことを理由に前記 アの各日に訪問介護サービスを提供しなかったことにつき「正当な理由」(指定居宅サービス等基準9条)はないから、被告には債務不履行責任又は不法行為責任が認められる。 【被告の主張】ア別紙2「訪問介護不実施日一覧」記載の計8日間、亡Aに対して訪問介 護 (指定居宅サービス等基準9条)はないから、被告には債務不履行責任又は不法行為責任が認められる。 【被告の主張】ア別紙2「訪問介護不実施日一覧」記載の計8日間、亡Aに対して訪問介 護サービスを提供しなかったことは事実であるが、その理由は同別紙記載のとおりである。 イ令和2年4月16日に緊急事態宣言が全国に拡大されて以降新型コロナウイルス感染症の感染は拡大したが、当時は新型コロナウイルス感染症の実態や伝染過程も不明確で、PCR検査態勢等も整っておらず、ワクチン も開発されていない状況であった。特に東京都の感染率は高く、山口県を含む地方の感染者の多くは東京都、大阪府等の都市部からの移動者から感染したというものであった。 訪問介護を担うヘルパーが出入りする在宅介護支援センターは、被告が運営する介護老人保健施設Fの建物内にあり、ケアセンターのヘルパーは Fの職員や在宅介護支援センターの職員と報告事務等で接触することがあるから、ヘルパーが新型コロナウイルス感染症に感染した場合、これらの職員を介して、Fの職員に感染が拡大するおそれがあった。Fの利用者は高齢であり、何らかの身体的・精神的な疾患等を有しているため、ひとたびFで新型コロナウイルス感染症への感染が起こるとクラスター現象とな り、多くの死者が出る事態や、Fの利用者への介護が困難になることが予 想された。したがって、ケアセンターのヘルパーの新型コロナウイルス感染症への感染は絶対に防がなければならない状態であった。 令和2年4月当時は、感染予防用のマスクや消毒用アルコール、医療用ガウンが不足している状況であり、訪問介護の利用者ないしその家族が新型コロナウイルス感染症に感染していた場合、濃厚接触をするヘルパーも 罹患するおそれが極めて高かった や消毒用アルコール、医療用ガウンが不足している状況であり、訪問介護の利用者ないしその家族が新型コロナウイルス感染症に感染していた場合、濃厚接触をするヘルパーも 罹患するおそれが極めて高かった。 そこで、被告は、亡Aに本件連絡文書を配付し、感染防止のため東京都から家族が帰省する際はその日時を連絡してほしい旨、亡Aの家族に伝えていた。しかしながら、原告らは被告の要望を聞き入れず、被告に事前連絡なしに帰省することを繰り返し、特に、原告Cは、帰省日を連絡する必 要はなく、今後も帰省する際に連絡はしない旨述べた。そこで、被告は、被告の介護職員や施設利用者への感染防止のため、当時のガイドラインで感染者や濃厚接触者に対する健康観察期間とされていた2週間は、やむなく亡Aへの訪問介護サービスを中止したものである。 ウまた、亡Aの訪問介護サービスの利用は週2回の昼食の調理補助と週1 回の掃除であり、亡Aの家族が昼食の補助を行うとの理由で訪問介護サービスの利用の中止が亡Aから申し込まれることも多々あった。このように、亡Aの家族が訪問介護サービスを代替することも可能な状態であった。 エ以上のとおり、被告は、原告Bの了解を得ていた場合や亡Aに係る居宅サービス計画の変更の準備中であった場合、訪問介護サービスを継続する ことによる被告ないし被告の利用者の不利益と訪問介護サービスを2週間中止することによる亡Aの不利益を比較考量し、前者が後者よりはるかに大きいと判断した場合に、亡Aに対する訪問介護サービスを中止したものである。 したがって、被告が別紙2「訪問介護不実施日一覧」記載の各日に訪問 介護サービスを提供しなかったことについては、実質的に亡Aの同意があ ったり、「正当な理由」(指定居宅サービス等基準9条)が存在した 被告が別紙2「訪問介護不実施日一覧」記載の各日に訪問 介護サービスを提供しなかったことについては、実質的に亡Aの同意があ ったり、「正当な理由」(指定居宅サービス等基準9条)が存在したり、仮に「正当な理由」が認められないとしても、前記の新型コロナウイルス感染症の感染状況を踏まえて「正当な理由」があると判断したりしたものであるから、被告には債務不履行責任又は不法行為責任は認められない。 ⑵ 被告が亡Aに係るサービス担当者会議を欠席し、訪問介護計画を変更しな かったことにつき債務不履行責任又は不法行為責任を負うか(争点2)【原告らの主張】ア指定訪問介護は、利用者の心身の状況、その置かれている環境等に応じて、利用者の選択権に基づきサービスの提供がされなければならず(法73条1項)、訪問介護の提供は、居宅サービス計画(法8条24項)の内 容に沿って作成された訪問介護計画に基づき行われる(指定居宅サービス等基準24条1項、2項)。また、居宅サービス計画に沿った訪問介護計画の作成及び変更は、本件契約上の義務である。そして、サービス担当者会議は、利用者の心身の変化を踏まえた情報共有の場であり、居宅サービス計画の変更に欠かせないものであって、担当者への照会による求意見は 「やむを得ない理由がある場合」に限るとされている(指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)13条9号)。 したがって、被告は、サービス担当者会議に出席し、必要に応じて訪問介護計画の変更を行うべき義務があった。 イそれにもかかわらず、被告は、原告Bが帰省したことを理由に令和2年6月30日のサービス担当者会議を欠席した。また、同年7月2日の訪問介護予定日前にすべき訪問介護計画の変更をしなかった。 イそれにもかかわらず、被告は、原告Bが帰省したことを理由に令和2年6月30日のサービス担当者会議を欠席した。また、同年7月2日の訪問介護予定日前にすべき訪問介護計画の変更をしなかった。 さらに、同年9月頃には、亡Aの身体状況はいつ転倒してもおかしくない状態であったのであるから、被告は、サービス担当者会議に出席した上 で、居宅サービス計画及び訪問介護計画の変更を行う必要があったにもか かわらず、これを怠った。 ウしたがって、被告がサービス担当者会議を欠席し、訪問介護計画の変更をしなかったことについて、債務不履行責任又は不法行為責任が認められる。 【被告の主張】 ア被告がサービス担当者会議に出席しなかったことは認めるが、訪問介護計画の変更をしなかったことは否認する。 イサービス担当者会議はケアマネージャーが主宰するものであり、会議を構成する担当者が欠席しても会議は成立するし、ケアマネージャーからの意見聴取がされれば訪問介護サービスの提供に支障はない。 また、令和2年6月30日のサービス担当者会議の際、ケアセンターは担当ケアマネージャーであるG(以下「Gケアマネージャー」という。)の文書照会に対して回答をしており、それに基づいて訪問介護計画が立てられている。 ウしたがって、被告がサービス担当者会議を欠席し、訪問介護計画を変更 しなかったことについて、債務不履行責任又は不法行為責任は認められない。 ⑶ 被告が令和3年2月以降に亡Aに対して訪問介護サービスを提供しなかったことにつき債務不履行責任又は不法行為責任を負うか(争点3)【原告らの主張】 ア被告は、本件契約に従って、亡Aに対して訪問介護サービスを提供すべき義務を負っていたところ、令和3年2月以降、本件契約の 不履行責任又は不法行為責任を負うか(争点3)【原告らの主張】 ア被告は、本件契約に従って、亡Aに対して訪問介護サービスを提供すべき義務を負っていたところ、令和3年2月以降、本件契約の解除を理由に訪問介護サービスの提供をしなかった。 イ前記⑴【原告らの主張】のとおり、家族が帰省したことを理由として訪問介護サービスを提供しなかったことにつき、「正当な理由」(指定居宅 サービス等基準9条)はないから、信頼関係の破壊や本件契約12条に該 当する事情はない。 したがって、本件契約の解除事由はなく、本件契約は令和3年2月以降も存続していたのであるから、被告の同月以降の訪問介護サービスの不提供について、被告には債務不履行責任又は不法行為責任が認められる。 【被告の主張】 ア被告は、本件サービス終了通知書到着後2週間をもって本件契約に基づく訪問介護サービスを終了する旨告知した。同通知書は令和2年11月12日には亡Aに到達しているので、本件契約は同月26日に終了した。 イ前記⑴【被告の主張】イのとおり、被告は、原告Cに対し、本件連絡文書記載の対応を求めたが、原告Cはこれに応じる必要はないと主張し、予 告もなく亡A宅に帰省することを繰り返していた。被告は亡Aに必要な協議を打診したが、亡A及び原告Cはこれにも同意しなかった。 ウ前記の経緯に照らせば、継続的契約関係である本件契約を維持する上での信頼関係が完全に破壊されたといえ、また、亡Aの対応は「その他著しく常識を逸脱する行為」(本件契約12条)に該当するから、本件契約の 解除原因がある。 エしたがって、令和3年2月以降は、本件契約は解除されているのであるから、被告には債務不履行責任又は不法行為責任は認められない。 ⑷ 損害の発生及び額(争 、本件契約の 解除原因がある。 エしたがって、令和3年2月以降は、本件契約は解除されているのであるから、被告には債務不履行責任又は不法行為責任は認められない。 ⑷ 損害の発生及び額(争点4)【原告らの主張】 ア亡Aは、訪問介護サービスの提供が終了したことにより、他の業者と契約して令和3年1月から令和5年1月まで介護保険外のサービスを利用せざるを得なかった。同業者に対して支払った代金85万7172円は被告の債務不履行又は不法行為による損害である。 イ亡Aは、被告の訪問介護サービスの不提供によって、調理や食事の声掛 け等のサービスを受けられなくなり、生命、健康等が脅かされた。また、 亡Aの子である原告ら及びDの援助に頼ることが多くなり、原告ら及びDへの負担増によるストレスや将来への不安が生じた。これらによって生じた亡Aの精神的苦痛に対する慰謝料は200万円を下らない。 ウ弁護士費用相当額の損害は20万円を下らない。 【被告の主張】 いずれも争う。本件契約終了後について被告は責任を負わない。亡Aは本件契約終了後も介護保険の利用ができたはずである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実に加えて、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認 められる。 ⑴ 新型コロナウイルス感染症拡大の概要及び介護サービス提供に関する行政通達ア令和2年4月7日に東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県の7都府県に緊急事態宣言が発令された。 新型コロナウイルス感染症対策本部は、同日、以下のとおりの「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を示した(甲23)。 (ア) 上記7都府県のうち、特に東京都及び大阪府では感染が拡大しており、感染者数 イルス感染症対策本部は、同日、以下のとおりの「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を示した(甲23)。 (ア) 上記7都府県のうち、特に東京都及び大阪府では感染が拡大しており、感染者数のさらなる急増の危険性がある。 (イ) 世界保健機関によると、潜伏期間は1~14日とされており、厚生労 働省では、濃厚接触者については14日間にわたり健康状態を観察することとしている。 (ウ) 高齢者・基礎疾患を有する者では重症化するリスクが高いことが報告されており、医療機関や介護施設等での院内感染対策、施設内感染対策が重要となる。 (エ) 政府は、「ロックダウン」(都市封鎖)のような施策は実施しないが、国民の落ち着いた対応(不要不急の帰省や旅行など都道府県をまたいだ移動の自粛等)を呼びかける。 (オ) 緊急事態宣言の対象区域に属する都道府県は、国民生活・国民経済の安定確保に不可欠な業務を行う事業者に対し、十分に感染拡大防止策を 講じつつ、事業の特性を踏まえ、業務の継続を要請する。このような事業者の一例として、高齢者、障害者など特に支援が必要な方々の居住や支援に関するすべての関係者(介護老人福祉施設、障害者支援施設等の運営関係者のほか、施設入所者への食事提供など、高齢者、障害者などが生活する上で必要な物資・サービスに関わるすべての製造業、サービ ス業を含む。)の事業継続を要請する。 (カ) 厚生労働省は、医療機関及び高齢者施設等における施設内感染を徹底的に防止する観点から、感染が流行している地域においては、施設での通所サービスなどの一時利用を中止又は制限するなどの対応を検討すべきであることなどについて、周知徹底を行う。 イ厚生労働省は、令和2年4月7日、以下の内容の事務連絡「社会福祉施設等 での通所サービスなどの一時利用を中止又は制限するなどの対応を検討すべきであることなどについて、周知徹底を行う。 イ厚生労働省は、令和2年4月7日、以下の内容の事務連絡「社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点(その2)」を発した(甲56)。 (ア) 社会福祉施設等が提供する各種サービスは、利用者の方々やその家族の生活を継続する上で欠かせないものであり、十分な感染防止対策を前提として、利用者に対して必要な各種サービスが継続的に提供されるこ とが重要である。 (イ) 社会福祉施設等(居宅を訪問して行うサービス)における感染防止に向けた対応について、サービスを提供する際は、その提供に先立ち、利用者本人・家族又は職員が本人の体温を測定すること、新型コロナウイルス感染症に感染した者や感染が疑われる者が発生した場合、当該事業 所等は、速やかに管理者等に報告を行い、当該事業所内での情報共有を 行うこと、保健所により濃厚接触者とされた利用者については、居宅介護支援事業所等が、保健所と相談し、生活に必要なサービスを確保するが、その際、保健所とよく相談した上で、訪問介護等の必要性を再度検討することといった取組を行う。 ウ令和2年4月16日、全国の都道府県に緊急事態宣言が拡大された。緊 急事態宣言の拡大以降も、全国で感染者数は増加し、介護老人保健施設や介護施設内におけるクラスターの発生や、医療現場におけるマスクや消毒液等の不足が続いた(乙29~37、39)。 エ厚生労働省は、令和2年9月4日、以下の内容の事務連絡「有料老人ホーム等における入居者の医療・介護サービス等の利用について」を発した (甲27)。 (ア) 医療・介護サービス事業所において、適切な感染防止対策が実施されているにもかかわらず 絡「有料老人ホーム等における入居者の医療・介護サービス等の利用について」を発した (甲27)。 (ア) 医療・介護サービス事業所において、適切な感染防止対策が実施されているにもかかわらず、新型コロナウイルス感染の懸念を理由に当該サービスの利用を制限することは不適切である。 (イ) 入居者が希望する、もしくは入居者に必要である各種訪問系サービス 及び通所系サービスや、訪問診療、計画的な医学管理の下で提供されるサービス等について、不当に制限することがないようにする。 オ厚生労働省は、令和2年12月14日、事務連絡「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン等について」(甲58)及び「介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」 (甲59)を発した。 同事務連絡及び同ガイドラインは、介護サービスが利用者やその家族の生活に欠かせないものであり、感染症や自然災害が発生した場合であっても利用者に対して必要なサービスが安定的・継続的に提供されることが重要であるとの認識を示し、業務継続に向けた計画策定について定めている。 カ厚生労働省は、令和3年2月8日、以下の内容の事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る在宅の要介護(支援)者に対する介護サービス事業所のサービス継続について」を発した(甲12)。 (ア) 介護サービス事業所が提供する各種サービスについては、利用者やその家族の生活を継続する観点から、十分な感染防止対策を前提として、 利用者に対して継続的に提供されることが重要である。 (イ) 感染が拡大している地域の家族等との接触があり新型コロナウイルス感染の懸念があることのみを理由にサービスの提供を拒むことは、サービスを拒否する正当な理由には該当しない。 が重要である。 (イ) 感染が拡大している地域の家族等との接触があり新型コロナウイルス感染の懸念があることのみを理由にサービスの提供を拒むことは、サービスを拒否する正当な理由には該当しない。 (ウ) 現行制度上、各サービスの基準省令において、正当な理由なくサービ スの提供を拒否することはできないこととされており、解釈通知において、提供を拒むことのできる正当な理由がある場合とは、①当該事業所の現員からは利用申込に応じきれない場合、②利用申込者の居住地が当該事業所の通常の事業の実施地域外である場合、③その他利用申込者に対し自ら適切なサービスを提供することが困難な場合とされている。 ⑵ 訪問介護サービスの提供の中止に関する被告と亡A及びその家族とのやり取り(甲3、乙4、38)ア被告は、本件連絡文書を作成し、遅くとも令和2年4月14日(以下、⑵及び⑶においては、令和2年の記載は省略する。)には、亡Aに対し、東京都から家族が帰省した場合は、新型コロナウイルス感染症対策のため、 2週間はヘルパーの訪問を控えることになる旨伝えた。 その際、亡Aは、感染が心配なのでしばらくヘルパー訪問は中止してほしいと述べたため、被告は、5月7日まで訪問介護サービスを提供せず、同月8日から提供を再開した。 イ原告Bは、6月19日、東京都から亡A宅に帰省した。被告は、同月2 3日に原告Bの帰省の事実を知り、その頃、亡A及び原告Cに対し、新型 コロナウイルス感染予防のため、2週間はヘルパーの訪問を控える旨伝えたところ、原告Cは、サービスを提供しないことにつき抗議した。 ウ被告は、亡Aに対し、6月25日、同月26日、同月29日及び7月2日に予定されていた訪問介護サービスを提供せず、同月3日から再開した。 エ前記イのや サービスを提供しないことにつき抗議した。 ウ被告は、亡Aに対し、6月25日、同月26日、同月29日及び7月2日に予定されていた訪問介護サービスを提供せず、同月3日から再開した。 エ前記イのやり取りにつき報告を受けた岩国市介護保険課指導監査班の担 当者は、7月8日、被告に対し、国は訪問介護については感染対策をしっかりして訪問するようにとの方針である旨助言した。 オ亡Aの担当ケアマネージャー(介護支援専門員)であるGケアマネージャーは、7月17日、被告に対し、Gケアマネージャーが家族が帰省しているかを確認して被告に連絡し、帰省していたとしても別宅に帰省してい る場合は生活援助での訪問が可能である旨伝えた。 カ原告Cは、9月1日頃、亡A宅に帰省した。Gケアマネージャーは原告Cに対していつ帰省したのかと尋ねたが、原告Cは「私の情報をあなたに言う必要はない。」などと述べてこれに答えなかった。 報告を受けたケアセンターの事務長は、その頃、Gケアマネージャーを 通じ、原告Cに対して帰省してから2週間は訪問できないと伝えた。 キケアセンターの職員は、9月7日、原告Cに架電し、台風が接近しているため同日の訪問介護サービスの提供を中止すること、帰省した日は連絡してほしいこと、帰省後2週間は訪問を控えることに協力してほしいことを伝えた。 これに対して、原告Cは、同日の訪問介護サービスの提供の中止については「わかりました。」と応じたが、帰省の件については、2週間という期間の根拠をはっきり示すことができないなら納得できない、自分達はしっかり感染対策をして東京都から帰省しており、東京都から帰省したというだけで差別されたくない、厚生労働省の通達によれば、濃厚接触者との 接触があった場合には、2週間、健康観察すべき 自分達はしっかり感染対策をして東京都から帰省しており、東京都から帰省したというだけで差別されたくない、厚生労働省の通達によれば、濃厚接触者との 接触があった場合には、2週間、健康観察すべきであり、訪問介護につい ては、感染対策をしっかりした上でこれを継続すべきであるとなっているなどと述べた。 クケアセンターは、9月18日、岩国市介護保険課指導監査班の職員と協議し、介護サービスの提供は拒否できないが、ケアセンターと併設されている介護老人保健施設内での感染を防ぐ観点から、2週間、訪問を控える という方針を亡A及びその家族に理解してもらうほかないと話し合った。 ケ原告Bは、9月18日、亡A宅に帰省し、ケアセンターに対し、同月24日から10月1日までの訪問介護サービスの提供の中止を申し入れた。 コ原告Bは、Gケアマネージャーに対し、10月6日に亡Aの孫2名が東京都から亡A宅に帰省する旨伝えたが、ケアセンターには連絡しておらず、 Gケアマネージャーも、ケアセンターに対し、上記孫らの帰省について報告していなかった。 原告Bは上記孫らは感染対策を十分に実施している旨説明したが、ケアセンターは、同月15日、Gケアマネージャーを通じて、同月19日までは亡A宅を訪問することはできないと伝えた。 サ被告は、亡Aに対し、10月16日及び同月19日に予定されていた訪問介護サービスを提供せず、同月22日から再開した。 シ亡A及び原告Cは、10月25日、ケアセンターに対し、①家族が帰省したことを理由に訪問介護サービスの提供を拒否することは、介護保険法制や厚生労働省の通知に違反する、②家族の帰省日を聞かれても答えない 旨記載した書面を送付した。 被告は、同書面を踏まえ、亡Aに対してこれ以上訪問介護サービス 供を拒否することは、介護保険法制や厚生労働省の通知に違反する、②家族の帰省日を聞かれても答えない 旨記載した書面を送付した。 被告は、同書面を踏まえ、亡Aに対してこれ以上訪問介護サービスの提供を継続することは困難であると判断し、本件契約を解除する方向で検討を開始した。 ス原告Bは、11月6日、ケアセンターに対し、東京都から帰省する際に PCR検査で陰性証明を得れば、2週間のヘルパーの訪問中止は避けられ るか問い合わせたところ、ケアセンターは、陰性証明書を提示することと感染対策を徹底することが遵守されれば、訪問は継続すると回答した。しかし、原告Bは、同月7日、ケアセンターに対し、上記の問い合わせはなかったことにしてほしいと伝えた。 セ被告は、11月12日、亡Aに対し、本件サービス終了通知書をもって、 2週間後に本件契約に基づく訪問介護サービスの提供を終了する旨通知した。もっとも、被告は、山口県長寿社会課からサービス終了につき家族の同意が得られるまでは訪問介護サービスの提供を継続するよう指導を受けたため、本件サービス終了通知書が亡Aに到達してから2週間が経過した同日26日以降も提供を継続し、令和3年1月29日まで提供した。同年 2月以降、被告による亡Aに対する訪問介護サービスの提供は行われていない。 ⑶ 居宅サービス計画及び訪問介護計画の変更(乙4、49、50、弁論の全趣旨)ア Gケアマネージャーは、6月30日、亡Aに係るサービス担当者会議を 開催し、亡A及びその家族の意向を踏まえて居宅サービス計画を変更し、7月3日以降の訪問介護サービスは、居宅サービス計画の変更内容に沿って変更された訪問介護計画に基づき実施された。 イケアセンターの担当者は、亡Aの家族が帰省したことを理由に前記ア ス計画を変更し、7月3日以降の訪問介護サービスは、居宅サービス計画の変更内容に沿って変更された訪問介護計画に基づき実施された。 イケアセンターの担当者は、亡Aの家族が帰省したことを理由に前記アのサービス担当者会議に出席しなかったものの、これに先立って行われたG ケアマネージャーからの照会に対して書面で回答をした。 ウ原告Cは、9月3日、Gケアマネージャーに対し、亡Aの歩行状態が低下しているので居宅サービス計画を変更してほしい旨述べた。 エケアセンターの担当者は、9月9日に開催された亡Aに係るサービス担当者会議に出席し、同月10日以降の訪問介護サービスは、居宅サービス 計画の変更内容に沿って変更された訪問介護計画に基づき実施された。 2 争点1(被告が令和2年6月から同年10月までの間の計8日間に亡Aに対して訪問介護サービスを提供しなかったことにつき債務不履行責任又は不法行為責任を負うか)について⑴ 前提事実⑶ア及び⑷イのとおり、被告は、令和2年6月25日、同月26日、同月29日、同年7月2日、同年9月4日、同月7日、同年10月16 日及び同月19日の計8日間について、当初、本件契約に基づき、亡Aに対して訪問介護サービスを提供する予定であったが、これを提供しなかった。 ⑵ このうち令和2年9月7日については、前記1⑵キのとおり、ケアセンターの職員が、亡Aとの連絡窓口であった原告Cに対し、台風が接近しているため同日の訪問介護サービスの提供を中止する旨連絡したところ、原告Cは 「わかりました。」とこれに応じており、その後、亡Aがこの中止に異議を述べたことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると、同日の訪問介護サービスの不提供は被告と亡Aの合意に基づくものといえるから、被告に債務不履行責任又は不 応じており、その後、亡Aがこの中止に異議を述べたことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると、同日の訪問介護サービスの不提供は被告と亡Aの合意に基づくものといえるから、被告に債務不履行責任又は不法行為責任は認められない。 ⑶ 被告は、令和2年6月26日については、亡Aに対して訪問介護サービスを提供しないことにつき原告Bの了解を得ており、同月29日及び同年7月2日については、居宅サービス計画の変更の準備中であったため、訪問介護サービスを提供しなかったと主張する。 しかしながら、同年6月26日に訪問介護サービスを提供しないことにつ いて、亡A又はその家族がこれを了解したことを認めるに足りる証拠はない。 また、居宅サービス計画の変更を準備していたとしても、従前の計画に従って訪問介護サービスを提供すればよいはずであり、被告が亡Aに対して訪問介護サービスを提供できなかった理由は明らかではない。 したがって、被告の上記主張は理由がないというほかない。 ところで、前記1⑵イのとおり、被告は、同月23日頃、原告Bが同月19日に亡A宅に帰省したことを理由に、同日から2週間後の同年7月2日までヘルパーの訪問を控える旨伝えており、上記の同年6月26日、同月29日及び同年7月2日はこの期間に含まれている(被告がこれらの日に亡Aに対して訪問介護サービスを提供しなかったのは、原告Bが帰省したことがき っかけとなっていると推測される。)。そこで、他の訪問介護サービスの不提供日(前記⑵の同年9月7日は除く。)と併せて、亡Aの家族が亡A宅に帰省したことを理由に訪問介護サービスを提供しなかったことにつき、被告に債務不履行責任又は不法行為責任が認められるかを検討する。 ⑷ア被告は、亡Aの家族が亡A宅に帰省したことを理 の家族が亡A宅に帰省したことを理由に訪問介護サービスを提供しなかったことにつき、被告に債務不履行責任又は不法行為責任が認められるかを検討する。 ⑷ア被告は、亡Aの家族が亡A宅に帰省したことを理由として亡Aに対して 訪問介護サービスを提供しなかったことには「正当な理由」(指定居宅サービス等基準9条)があるから、債務不履行責任又は不法行為責任は認められないと主張する。 イ前提事実⑵ウ及び⑶アのとおり、被告は指定居宅サービス事業者(指定訪問介護事業者)であり、本件契約に基づき亡Aに対して提供される訪問 介護サービスは指定居宅サービスに該当する訪問介護(指定訪問介護)に当たるものである。 訪問介護等を行う指定居宅サービス事業者は、厚生労働省令で定める基準に沿って定められる事業の設備及び運営に関する都道府県の条例に従い、要介護者の心身の状況等に応じて適切な指定居宅サービスを提供しな ければならないところ(法73条)、この厚生労働省で定める基準であるところの指定居宅サービス等基準9条では、指定訪問介護事業者は、「正当な理由」がない限り指定訪問介護の提供を拒んではならないとされている。これは、指定訪問介護が、法に基づく要介護認定を受けた者の能力に応じた自立した日常生活、ひいては当該者の生命及び健康に関わる重要な サービスであることによるものと解される。そして、「指定居宅サービス 等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」(前提事実⑴、別紙1「関係法令等の定め」3)では、上記「正当な理由」がある場合として、①当該事業所の現員からは利用申込に応じきれない場合、②利用申込者の居住地が当該事業所の通常の事業の実施地域外である場合、③その他利用申込者に対し自ら適切な指定訪問介護を提供することが困難な場合 ①当該事業所の現員からは利用申込に応じきれない場合、②利用申込者の居住地が当該事業所の通常の事業の実施地域外である場合、③その他利用申込者に対し自ら適切な指定訪問介護を提供することが困難な場合 が列挙されており、これらの場合であっても、居宅介護支援事業者への連絡、他の指定訪問介護事業者等の紹介等の必要な措置を速やかに講じなければならないとされている。 ところで、新型コロナウイルス感染症拡大後の訪問介護サービスの提供のあり方に関して、新型コロナウイルス感染症対策本部が令和2年4月7 日に示した「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(前記1⑴ア)は、高齢者が新型コロナウイルス感染症に感染すると重症化するリスクが高く、介護施設等では施設内感染対策が重要であるとしつつ、高齢者等特に支援が必要な者の居住や支援に関わる全ての関係者に対し、十分に感染拡大防止策を講じた上で、事業の特性を踏まえて事業の継続を要請 するとしている。また、同日付けの厚生労働省の事務連絡「社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)」(同イ)は、社会福祉施設等が提供する各種サービスは、利用者やその家族の生活を継続する上で欠かせないものであり、十分な感染防止対策を前提として、利用者に対して必要な各種サービスが継続的に提供されることが重要であ るとし、濃厚接触者とされた利用者であっても、保健所と相談し、生活に必要なサービスを確保するとともに、訪問介護等の必要性を検討するとしている。同年9月4日付け事務連絡「有料老人ホーム等における入居者の医療・介護サービス等の利用について」(同エ)は、医療・介護サービス事業所において、適切な感染防止策が実施されているにもかかわらず、新 型コロナウイルス感染の懸念を理由として、サ ける入居者の医療・介護サービス等の利用について」(同エ)は、医療・介護サービス事業所において、適切な感染防止策が実施されているにもかかわらず、新 型コロナウイルス感染の懸念を理由として、サービスの利用を制限するこ とは不適切であるとしている。さらに、同年12月14日付け事務連絡「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン等について」及び同ガイドライン(同オ)は、介護サービスは利用者やその家族の生活に欠かせないものであり、感染症等が発生した場合であっても利用者に対して必要なサービスが安定的・継続的に提供されることが重要であるとしている。そし て、令和3年2月8日付けの厚生労働省の事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る在宅の要介護(支援)者に対する介護サービス事業所のサービス継続について」(同カ)は、より端的に、感染が拡大している地域の家族等との接触があり、新型コロナウイルス感染の懸念があることのみを理由としてサービスの提供を拒むことは、サービスを拒否する正当な理由 には該当しないとしている。 以上によれば、本件契約は、指定訪問介護事業者である被告が指定訪問介護に当たる訪問介護サービスを提供することを目的としたものであるが、指定訪問介護事業者は「正当な理由」がない限り指定訪問介護の提供を拒むことはできず、「正当な理由」が認められる場合としては、一義的 には当該事業者が態勢的又は地理的に提供することが困難な場合が想定されており、当該事業者独自の意図や方針といったものを理由に提供を拒むことは許されないと解される。そして、新型コロナウイルス感染症対策本部の示した方針や厚生労働省の一連の事務連絡によれば、令和2年4月時点から、訪問介護等のサービスが利用者及びその家族が日常生活を送る 上で不可欠のも る。そして、新型コロナウイルス感染症対策本部の示した方針や厚生労働省の一連の事務連絡によれば、令和2年4月時点から、訪問介護等のサービスが利用者及びその家族が日常生活を送る 上で不可欠のものであり、利用者に対して提供され続ける必要があることを前提に、新型コロナウイルス感染症に対する懸念をもってこれらのサービスを提供しないことが直ちに正当化できるものではないという考えが示されていたというべきである。 そうすると、本件契約において、亡Aや同居する家族が新型コロナウイ ルス感染症の感染者又は濃厚接触者である場合、亡A側又は被告側におい て十分な感染防止対策をとることが物理的に困難な場合等、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のために訪問介護サービスを提供しないことが許される場合もあり得ようが、新型コロナウイルス感染症の実態につきまだ十分解明されていなかったと考えられる同月時点であっても、被告が新型コロナウイルス感染症への感染の具体的かつ合理的な危険性の有 無を慎重に検討することなく亡Aに対して訪問介護サービスを提供しないことは、「正当な理由」を欠くものであって許されず、被告は債務不履行責任又は不法行為責任を負うというべきである。 ウそこで本件に関する事情を検討すると、前記1⑴ア及びウのとおり、令和2年4月頃、新型コロナウイルス感染症の感染者は増加する一方であり、 同月16日に緊急事態宣言が全国に拡大したところ、新型コロナウイルス感染症対策本部は、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」において、東京都などで感染が拡大していることを前提に、不要不急の帰省や旅行など都道府県をまたいだ移動の自粛を呼びかけるなどの考えを示していた。同月当時、新型コロナウイルス感染症の感染力、潜伏期間、感 染期 などで感染が拡大していることを前提に、不要不急の帰省や旅行など都道府県をまたいだ移動の自粛を呼びかけるなどの考えを示していた。同月当時、新型コロナウイルス感染症の感染力、潜伏期間、感 染期間等に関する知見が現在よりも相当乏しかったと考えられることを併せ考えると、被告が、特に感染が拡大していた東京都から家族が帰省することによって訪問介護サービスの利用者やヘルパーに感染することを懸念し、亡A及びその家族に対し、家族が帰省する際には事前に連絡するよう求めたり、いつ帰省したのかを尋ねたりしたことは正当な対応であったと いうことができる。 しかしながら、被告が作成した亡Aに係るやり取りの記録(乙4)によっても、被告が、上記対応のほかに、東京都から帰省した家族による新型コロナウイルス感染症の感染拡大の可能性を検討するために、当該家族の体調、症状の有無、感染予防対策の有無及び内容、当該家族と利用者との 接触の有無及び程度等の事情を具体的に聴取し、内部で感染の可能性やとり得る対処方法を慎重に検討した形跡は見られない。 また、被告において、本件連絡文書に記載された内容のほかに、訪問介護サービスの提供の可否の判断基準を定めていたことや、実際に利用者ごとの事情に応じて訪問介護サービスの提供の可否を検討していたことを認 めるに足りる証拠はない。令和2年4月当時、被告の総務部長であったH証人は、亡A及びその家族からいかなる感染対策をとったかなどについての情報提供があれば、訪問介護サービスの提供を中止しなかった可能性があった旨証言するが、これを裏付ける証拠はないし、(どのような感染対策がとられていたか)「通常であれば、聞こうとされていたと思います。」、 「担当者が尋ねたと思います。」などとあいまいな証言内容に終始 証言するが、これを裏付ける証拠はないし、(どのような感染対策がとられていたか)「通常であれば、聞こうとされていたと思います。」、 「担当者が尋ねたと思います。」などとあいまいな証言内容に終始しており、被告において利用者ごとの事情を積極的に収集しようというつもりはなかったことをうかがわせる。 さらに、前提事実⑷アのとおり、同月10日付けの本件連絡文書では、家族などが感染拡大地域から帰省した場合、訪問の中止を検討すると記載 されていたのに対し、被告が利用者及びその家族に向けて作成した同年7月1日付け、同年9月10日付け、同年10月9日付け及び同年11月9日付けの各連絡文書(甲62ないし65)では、いずれも「訪問を中止させていただきます。」と、利用者ごとの事情を考慮することなく一律に訪問介護サービスの提供を中止するように読める記載をしている。 前記1⑵スのとおり、被告は、同月6日、原告Bに対し、PCR検査による陰性証明書の提示及び感染対策の徹底を条件に、訪問介護サービスの提供を継続する旨を伝えているが、原告Bの問い合わせを受けて回答したものにすぎず、同日以前に、被告が亡A及びその家族に対してこの方針を伝えたことを認めるに足りる証拠はない。 以上に照らせば、被告は、本件契約に基づき、亡Aに対して同年6月2 5日、同月26日、同月29日、同年7月2日、同年9月4日、同年10月16日及び同月19日に訪問介護サービスを提供することを予定していたところ、これを提供することによる新型コロナウイルス感染症への感染の具体的かつ合理的な危険性の有無を慎重に検討することなく、本件連絡文書記載の方針に従い、亡Aの家族が感染拡大地域である東京都から帰 省したことのみをもって、上記各日に亡Aに対して訪問介護サービス 具体的かつ合理的な危険性の有無を慎重に検討することなく、本件連絡文書記載の方針に従い、亡Aの家族が感染拡大地域である東京都から帰 省したことのみをもって、上記各日に亡Aに対して訪問介護サービスを提供しなかったと認めるのが相当である。したがって、被告の上記対応は、「正当な理由」を欠くものであって許されず、被告は債務不履行責任又は不法行為責任を負うというべきである。 エこれに対して、被告は、①ケアセンターのヘルパーが出入りする在宅介 護支援センターは介護老人保健施設Fの建物内にあり、ヘルパーが新型コロナウイルス感染症に感染すると、Fにおいてクラスター現象となるおそれがあったことから、ヘルパーの感染は絶対に防がなければならなかった、②令和2年4月当時、感染予防用のマスクや消毒用アルコール等が不足している状態であり、訪問介護の利用者又はその家族が新型コロナウイルス に感染していた場合、ヘルパーも罹患するおそれが極めて高かった、③亡Aに対する訪問介護サービスは調理補助と掃除であり、亡Aの家族がこれを代替することは可能であったと主張する。 しかし、上記①について、一般的にそのような危険性があることは十分理解できるものの、前記イで検討したとおり、新型コロナウイルス感染症 対策本部の示した方針等では、このような危険性を踏まえてもなお訪問介護等のサービスが感染対策をとった上で利用者に対して提供され続けるべきであるとされていたものであるし、前記ウのとおり、被告は亡Aに関する具体的な事情を何ら検討することなく、その家族が東京都から帰省したことのみをもって訪問介護サービスを提供しなかったものであるから、や はり「正当な理由」があったとは認め難い。 また、上記②について、当時、被告においていかなる物資が不足 省したことのみをもって訪問介護サービスを提供しなかったものであるから、や はり「正当な理由」があったとは認め難い。 また、上記②について、当時、被告においていかなる物資が不足していたかを認めるに足りる証拠はなく、ケアセンターのヘルパーが新型コロナウイルス感染症に感染するおそれが具体的に高かったのかは明らかでない。 さらに、上記③について、前記ウのとおり、被告は亡Aに関する具体的な事情を何ら検討することなく、亡Aの家族との間で、亡Aに対する訪問 介護サービスの内容である調理補助等を代替することができるかを協議することもないまま、一方的に提供しなかったものであるから、「正当な理由」となるものではない。 したがって、被告の上記主張は理由がない。 3 争点2(被告が亡Aに係るサービス担当者会議を欠席し、訪問介護計画を変 更しなかったことにつき債務不履行責任又は不法行為責任を負うか)について⑴ 原告は、被告が亡Aに係るサービス担当者会議を欠席し、訪問介護計画を変更しなかったことについて、被告には債務不履行責任又は不法行為責任が認められると主張する。 ⑵ 介護支援専門員は、居宅サービス計画の作成のために、利用者及びその家 族の参加を基本としつつ、居宅サービス計画の原案に位置付けた指定居宅サービス等の担当者を招集してサービス担当者会議を開催し、利用者の状況等に関する情報を担当者と共有するとともに、当該居宅サービス計画の原案の内容について、担当者から、専門的な見地からの意見を求めるものとされる(「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」(平成11年 厚生省令第38号)13条9号(乙46))。そして、指定訪問介護事業者は、指定訪問介護の提供に当たっては、利用者に係る上記サービス担当 介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」(平成11年 厚生省令第38号)13条9号(乙46))。そして、指定訪問介護事業者は、指定訪問介護の提供に当たっては、利用者に係る上記サービス担当者会議等を通じて、利用者の心身の状況、その置かれている環境、他の保健医療サービス又は福祉サービスの利用状況等の把握に努めなければならないとされる(指定居宅サービス等基準13条)。これらに鑑みると、サービス担当 者会議は、一義的には、介護支援専門員が居宅サービス計画を作成するため に指定居宅サービス等の担当者から意見を求めるためのものであり、指定訪問介護事業者は、サービス担当者会議等を通じて、利用者の心身の状況等を把握する努力義務を負うと解される。 また、本件契約は指定訪問介護に当たる亡Aに対する訪問介護サービスの提供を定めたものであるが、訪問介護サービスを提供するに当たり、被告は 居宅介護支援事業者等と密接な連携に努めるとされている(本件契約5条)。 そうすると、指定訪問介護事業者である被告が亡Aに係るサービス担当者会議に常に出席しなければならない法的又は契約上の義務を負っていたとまではいえず、前記1⑶ア及びイのとおり、ケアセンターの担当者は、令和2年6月30日に開催された亡Aに係るサービス担当者会議に先立ち、介護支 援専門員であるGケアマネージャーからの照会に対して書面で回答していることを併せ考えると、被告が同会議を欠席したことにより直ちに債務不履行責任又は不法行為責任が認められるとはいえないというべきである。 ⑶ 本件契約では、居宅サービス計画の変更に伴い訪問介護計画の変更も必要となる場合には、被告は速やかにこれを変更するとし、また、亡Aからの申 出があった場合、変更を拒む正当な理由がない限り、被 ⑶ 本件契約では、居宅サービス計画の変更に伴い訪問介護計画の変更も必要となる場合には、被告は速やかにこれを変更するとし、また、亡Aからの申 出があった場合、変更を拒む正当な理由がない限り、被告は亡Aの希望に添うように訪問介護計画を変更すると定められている(本件契約6条4項、5項)。 しかし、被告は居宅サービス計画の変更や亡Aの意向を踏まえて訪問介護計画を変更すべきであるとしても、本件契約ではその具体的な履行期は定め られていない。前記1⑶アのとおり、令和2年6月30日に開催されたサービス担当者会議の結果を踏まえて居宅サービス計画が変更され、被告はこれに沿って訪問介護計画を変更し、同年7月3日以降、変更後の訪問介護計画に基づき訪問介護サービスを提供している。また、前記1⑶ウ及びエのとおり、同年9月3日に原告CがGケアマネージャーに対して居宅サービス計画 の変更を要望し、同月9日に開催されたサービス担当者会議の結果を踏まえ て居宅サービス計画が変更され、被告はこれに沿って訪問介護計画を変更し、同月10日以降、変更後の訪問介護計画に基づき訪問介護サービスを提供している。 そうすると、被告は、居宅サービス計画の変更後、適宜訪問介護計画を変更し、これに基づき訪問介護サービスを提供しているから、被告による訪問 介護計画の変更が遅滞したと認めるのは困難である。 ⑷ したがって、被告が亡Aに係るサービス担当者会議を欠席し、訪問介護計画を変更しなかったことについて、被告が債務不履行責任又は不法行為責任を負うとは認められない。 4 争点3(被告が令和3年2月以降に亡Aに対して訪問介護サービスを提供し なかったことにつき債務不履行責任又は不法行為責任を負うか)について⑴ 被告は、令和3年2月以降、亡Aに れない。 4 争点3(被告が令和3年2月以降に亡Aに対して訪問介護サービスを提供し なかったことにつき債務不履行責任又は不法行為責任を負うか)について⑴ 被告は、令和3年2月以降、亡Aに対して訪問介護サービスを提供していないところ(前記1⑵セ)、原告Cは被告に予告することなく亡A宅に帰省することを繰り返し、被告が打診した必要な協議にも応じなかったため、継続的契約関係である本件契約を維持する上での信頼関係が完全に破壊され、 また、亡Aの対応は「その他著しく常識を逸脱する行為」(本件契約12条)に該当するとして、本件サービス終了通知書により令和2年11月26日をもって本件契約を解除したと主張する。 ⑵ そこで検討すると、前記1⑵のとおり、亡Aの家族は、被告に対して事前に連絡することなく亡A宅への帰省を繰り返しており、亡A及び原告Cは、 被告に対し、家族の帰省日を聞かれても答えないと伝えている。多数の訪問介護サービスの利用者を抱え、介護老人保健施設等も運営する被告にとって、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止することは重大な関心事であり、このような亡A及びその家族の対応を非協力的な態度と捉えたことは理解できるところである。 しかしながら、前記2⑷ウのとおり、被告は、亡Aに対して訪問介護サービスを提供することによる新型コロナウイルス感染症への感染の具体的かつ合理的な危険性の有無を慎重に検討することなく、本件連絡文書の方針に従い、亡Aの家族が感染拡大地域である東京都から帰省したことのみをもって、訪問介護サービスを提供しなかったことに照らせば、亡A及びその家族が被 告に対して東京都から帰省する旨を事前に連絡すれば、被告が実際の亡Aや原告らの体調、感染防止対策の実施状況にかかわらず、亡Aに対す 護サービスを提供しなかったことに照らせば、亡A及びその家族が被 告に対して東京都から帰省する旨を事前に連絡すれば、被告が実際の亡Aや原告らの体調、感染防止対策の実施状況にかかわらず、亡Aに対する訪問介護サービスの提供を2週間中止した可能性が高かったといえる。そして、このような対応につき、被告が債務不履行責任又は不法行為責任を負うことは前記2で判断したとおりである。 そうすると、亡A及びその家族が被告に対して東京都から帰省する旨を事前に連絡しなかったのは、亡Aに対して訪問介護サービスの提供が中止され、これによって亡Aが必要な援助を得られなくなる事態を避けるためにやむを得なかったともいえ、これをもって、亡Aと被告との間の信頼関係が破壊されたとか、亡A及びその家族に「その他著しく常識を逸脱する行為」があっ たということはできない。そして、被告による訪問介護サービスの不提供に端を発し、これが前記2⑷イで摘示した法や関係事務連絡等に沿った形で是正されることもその見込みもない中、亡A及びその家族が被告の打診した協議に応じなかったことを被告との信頼関係を破壊する事情と評価することは困難である。 ⑶ したがって、本件サービス終了通知書による解除は解除原因を欠くものといわざるを得ず、令和2年11月26日をもって本件契約が解除されたとは認められないから、被告が令和3年2月以降に亡Aに対して訪問介護サービスを提供しなかったことについて、被告は債務不履行責任又は不法行為責任を負うというべきである。 5 争点4(損害の発生及び額)について ⑴ 亡Aは要介護2の認定を受けており、本件契約に基づく訪問介護サービスの提供が必要な状態にあったにもかかわらず、前記2⑷ウの合計7日間、被告による訪問介護サービスが提供 び額)について ⑴ 亡Aは要介護2の認定を受けており、本件契約に基づく訪問介護サービスの提供が必要な状態にあったにもかかわらず、前記2⑷ウの合計7日間、被告による訪問介護サービスが提供されず、食事の調理や掃除等の必要な援助を受けることができなかったこと、前記2⑷イ及びウのとおり、指定訪問介護事業者は「正当な理由」がない限り指定訪問介護の提供を拒むことができ なかったところ、被告の亡Aに対する訪問介護サービスの不提供に「正当な理由」は認められないことからすると、亡Aは被告の債務不履行又は不法行為により精神的苦痛を被ったと認めるのが相当である。 他方で、前記4⑶のとおり、被告による本件契約の解除は認められないにもかかわらず、令和3年2月以降、亡Aは本件契約に基づく訪問介護サービ スの提供を受けることができなかったものではあるが、この間、亡Aは他の業者による訪問介護サービスを受けていたと認められ(甲13、15、17ないし22)、被告による訪問介護サービスと概ね同程度の援助を受けることができていたといえるから、精神的苦痛の程度は小さかったというべきである。 そこで、被告による債務不履行等の態様、亡Aが訪問介護サービスの提供を受けられなかった日数、その当時の訪問介護サービスの内容等に鑑み、亡Aの精神的苦痛に対する慰謝料は30万円が相当と認める。また、本件は、単に契約に基づく債務が履行されなかったことだけが争点となるものではなく、「正当な理由」(指定居宅サービス等基準9条)の解釈等が問題になる ことからすると、亡Aは弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難であったというべきであるから、弁護士費用相当額の損害として3万円を認めるのが相当である。 ⑵ 原告らは、被告による訪問介護サービスの不 、亡Aは弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難であったというべきであるから、弁護士費用相当額の損害として3万円を認めるのが相当である。 ⑵ 原告らは、被告による訪問介護サービスの不提供により、新たに法の適用を受けない他の事業者と契約せざるを得なくなったとして、当該新規契約に 係る代金相当額を損害として主張する。 しかしながら、亡Aが、令和3年2月以降に本件契約と同等の訪問介護サービスの提供を受けるため、被告同様の法が適用される指定訪問介護事業者と新たに契約を締結することができなかったことを認めるに足りる証拠はない(むしろ、原告C本人の供述によれば、亡Aはそもそも法の適用のある指定訪問介護事業者と契約しようとしたことはないとのことである。)。 そうすると、法の適用を受けない事業者との新規契約に係る代金相当額は、亡Aが自らの判断で法の適用外の事業者を選択したことによって生じたものというべきであって、被告による訪問介護サービスの不提供と相当因果関係があるとは認められない。 したがって、原告らの上記主張は理由がない。 6 まとめ以上によれば、亡Aは、被告に対し、前記2及び4のとおりの債務不履行又は不法行為に基づき33万円の損害賠償請求権を取得し、亡Aの死亡により、同請求権を2分の1ずつの割合で相続した原告らは、被告に対し各16万5000円の損害賠償請求権を取得したと認められる。 第4 結論よって、原告らの各請求は主文の限度で理由があるからこれらを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 山口地方裁判所岩国支部 裁判長裁判官小川暁 裁判官 も理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 山口地方裁判所岩国支部 裁判長裁判官小川暁 裁判官岩谷彩 裁判官岡田総司は、差支えのため、署名押印することができない。 裁判長裁判官小川暁 (別紙1)関係法令等の定め 1 介護保険法(以下「法」という。)及び介護保険法施行規則⑴ 要介護認定 ア要介護状態とは、身体上又は精神上の障害があるために、入浴、排せつ、食事等の日常生活における基本的な動作の全部又は一部について、厚生労働省令で定める期間にわたり継続して、常時介護を要すると見込まれる状態であって、その介護の必要の程度に応じて厚生労働省令で定める区分(以下「要介護状態区分」という。)のいずれかに該当するもの(要支援状態に該当す るものを除く。)をいう(法7条1項)。 イ介護給付(被保険者の要介護状態に関する保険給付。法18条1号)を受けようとする被保険者は、要介護者に該当すること及びその該当する要介護状態区分について、市町村の認定(以下「要介護認定」という。)を受けなければならない(法19条1項)。 ⑵ 訪問介護居宅サービスとは、訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、通所介護等をいい(法8条1項)、そのうち訪問介護とは、要介護者であって、居宅において介護を受けるもの(以下「居宅要介護者」という。)について、その者の居宅において介護福祉士その他政令で定める者により行われる入浴、排せつ、食事等 の介護その他の日常生活上の世話であって、厚生労働省令で定めるものをいう(同条2項)。 う。)について、その者の居宅において介護福祉士その他政令で定める者により行われる入浴、排せつ、食事等 の介護その他の日常生活上の世話であって、厚生労働省令で定めるものをいう(同条2項)。 前記の厚生労働省令で定める日常生活上の世話は、入浴、排せつ、食事等の介護、調理、洗濯、掃除等の家事(居宅要介護者が単身の世帯に属するため又はその同居している家族等の障害、疾病等のため、これらの者が自ら行うこと が困難な家事であって、居宅要介護者の日常生活上必要なものとする。)、生 活等に関する相談及び助言その他の居宅要介護者に必要な日常生活上の世話とする(介護保険法施行規則5条)。 ⑶ 指定居宅サービスの事業の基準指定居宅サービス事業者とは、都道府県知事が法41条1項に基づき指定した者であり、指定居宅サービスとは、指定居宅サービス事業者から受ける、当 該指定に係る居宅サービス事業を行う事業所により行われる居宅サービスをいう。 指定居宅サービスに従事する従業者の員数、指定居宅サービスの事業の設備及び運営に関する基準は、都道府県の条例で定める(法74条1項、2項)。 都道府県がこの条例を定めるに当たっては、厚生労働省令で定める基準に従い 定めるものとする(同条3項)。 ⑷ 居宅介護支援居宅介護支援とは、居宅要介護者が指定居宅サービス等の適切な利用等をすることができるよう、その者の依頼を受けて、その心身の状況、その置かれている環境、その者及びその家族の希望等を勘案し、利用する指定居宅サービス 等の種類及び内容、これを担当する者等を定めた計画(以下「居宅サービス計画」という。)を作成するとともに、当該居宅サービス計画に基づく指定居宅サービス等の提供が確保されるよう、指定居宅サービス事業者等との連絡調整 、これを担当する者等を定めた計画(以下「居宅サービス計画」という。)を作成するとともに、当該居宅サービス計画に基づく指定居宅サービス等の提供が確保されるよう、指定居宅サービス事業者等との連絡調整その他の便宜の提供を行うこと等をいう(法8条24項)。 2 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚 生省令第37号。以下「指定居宅サービス等基準」という。)(甲9、29)⑴ 趣旨法74条1項及び2項等の規定に基づき、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等を定める。 ⑵ 提供拒否の禁止 指定訪問介護事業者(指定居宅サービスに該当する訪問介護の事業を行う者をいう。)は、正当な理由なく指定訪問介護(指定居宅サービスに該当する訪問介護をいう。)の提供を拒んではならない(指定居宅サービス等基準9条)。 ⑶ 居宅サービス計画に沿ったサービスの提供指定訪問介護事業者は、居宅サービス計画が作成されている場合は、当該計 画に沿った指定訪問介護を提供しなければならない(指定居宅サービス等基準16条)。 ⑷ 訪問介護計画の作成サービス提供責任者は、(既に居宅サービス計画が作成されている場合は当該計画の内容に沿って、)利用者の日常生活全般の状況及び希望を踏まえ、指 定訪問介護の目標、当該目標を達成するための具体的なサービスの内容等を記載した訪問介護計画を作成しなければならない(指定居宅サービス等基準24条1項、2項)。 3 指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について(平成11年老企第25号通知)(甲53)第3の一の3⑶ ⑴ 指定居宅サービス等基準9条(前記2⑵)は、指定訪問介護事業者は、原則として、利用申込に対しては応じな ビス等に関する基準について(平成11年老企第25号通知)(甲53)第3の一の3⑶ ⑴ 指定居宅サービス等基準9条(前記2⑵)は、指定訪問介護事業者は、原則として、利用申込に対しては応じなければならないことを規定したものであり、特に、要介護度や所得の多寡を理由にサービスの提供を拒否することを禁止するものである。 ⑵ 提供を拒むことのできる正当な理由がある場合とは、①当該事業所の現員か らは利用申込に応じきれない場合、②利用申込者の居住地が当該事業所の通常の事業の実施地域外である場合、③その他利用申込者に対し自ら適切な指定訪問介護を提供することが困難な場合である。 ⑶ 指定訪問介護事業者は、指定居宅サービス等基準9条の正当な理由により、利用申込者に対し自ら適切な指定訪問介護を提供することが困難であると認め た場合には、指定居宅サービス等基準10条の規定により、当該利用申込者に 係る居宅介護支援事業者への連絡、適当な他の指定訪問介護事業者等の紹介その他の必要な措置を速やかに講じなければならない。 4 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等を定める条例(平成24年山口県条例第35号。以下「山口県条例」という。)(甲10、30) 指定訪問介護事業者は、正当な理由がなく、指定訪問介護の提供を拒んではならない(山口県条例9条)。 以上 (別紙2)被告の主張原告らの主張 6月25日同月19日に原告Bが岩国に帰省したことを知ったためであり、被告はその旨を亡Aに伝えている。 6月19日に原告Bが岩国に帰省したのは事実であるが、親族が岩国に帰省したことを理由とする訪問介護サービスの不提供は許されない。 6月26日原告Bに訪問介護を行わないことを伝え、了承を得ている。 原告B 日に原告Bが岩国に帰省したのは事実であるが、親族が岩国に帰省したことを理由とする訪問介護サービスの不提供は許されない。 6月26日原告Bに訪問介護を行わないことを伝え、了承を得ている。 原告Bが訪問介護の中止を了解した事実はない。 6月29日 7月2日 9月4日亡Aの家族が岩国に帰省した日や、帰省した家族と亡Aとの関わりの程度が不明であったためである。 9月1日に原告Cが岩国に帰省したことは事実であるが、親族が岩国に帰省したことを理由とする訪問介護サービスの不提供は許されない。 9月7日台風が山口県東部に接近していたため、原告Bに訪問できない旨伝え、了解を得ている。 否認する。 7 10月16日 8 10月19日※ 日付はいずれも令和2年である。 居宅サービス計画の変更を準備していた期間であったため、訪問介護サービスは実施していない。 訪問介護不実施日一覧10月15日に亡A宅を訪問したヘルパーが、亡Aから先週孫2人が岩国に帰省した旨を聞かされたため、2週間は訪問介護サービスを行わなかった。 居宅サービス計画の作成・変更は居宅介護支援事業者の責務であり、その準備は、本件契約に基づくサービスを提供しない正当な理由にはならない。 10月6日に亡Aの孫2名が岩国に帰省したことは事実であるが、親族が岩国に帰省したことを理由とする訪問介護サービスの不提供は許されない。

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