平成13年(ワ)第4648号保証債務履行請求事件判決 主文 1被告は原告に対し3000万円及びこれに対する平成13年11月17日から支払い済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。 2原告のその余の請求を棄却する。 3訴訟費用はこれを7分し,その6を原告の,その余を被告の各負担とする。 4この判決は第1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求被告は原告に対し2億2228万7018円及び内731万7135円に対する平成13年5月17日から,内3217万9965円に対する平成15年6月24日から,それぞれ支払い済みまで年14パーセントの割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,原告が被告に対し保証債務の履行請求権に基づいて金員の支払を求めた事案であり,被告は原告の請求が信義則に反するとしてこれを争っている。 1争点判断の前提事実(1)株式会社東海銀行(以下「東海銀行」という。)は,昭和58年7月27日,訴外Aとの間で,Aが債務の一部でも履行を遅滞したときは,東海銀行の請求によって一切の債務の期限の利益を失い,年14パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨の約定を含む銀行取引約定契約を締結した(甲1)。 (2)被告は,同日,東海銀行との間で,Aが東海銀行との銀行取引約定契約に基づいて負担する債務について,元本極度額を1億円とする連帯保証契約を締結した(以下「本件保証契約」という。)(甲4の1,2,4)。 (3)東海銀行は,(1)の銀行取引約定に基づき,Aに対し,下記の各貸付をなした(甲2,甲3)。 記ア年月日昭和59年11月20日貸付方法証書貸付金額6000万円弁済期日昭和65年6月30日弁済方法昭和60年6月30日から以後,6か月毎に,第1回弁済額は500万円,第2回目以後500万円,最終回弁済額100 11月20日貸付方法証書貸付金額6000万円弁済期日昭和65年6月30日弁済方法昭和60年6月30日から以後,6か月毎に,第1回弁済額は500万円,第2回目以後500万円,最終回弁済額1000万円利息年7・7パーセント但し,その後,Aとの合意により7・8パーセントとされた。 利息支払方法利息は借入時に,昭和59年12月31日まで前払として,以後約定による元本弁済時に後6か月分前払いする。 遅延損害金年14パーセント(以下「第1貸付」という。)イ年月日昭和61年3月5日貸付方法手形貸付金額4000万円弁済期日昭和61年3月31日(以下「第2貸付」といい。第1貸付及び第2貸付を併せて「本件各貸付」という。)(4)Aは第1貸付について,平成2年6月30日の最終弁済期が到来するも,これを弁済せず,第2貸付について昭和61年3月31日の弁済をしなかったため,そのころ,期限の利益を喪失した。 (5)東海銀行は,平成14年1月15日,合併により原告が設立された(以下「東海銀行」を「原告」ということがある)。 (6)第1貸付についての弁済状況は以下のとおりである。 ア昭和60年12月31日ころ1000万円弁済イ平成4年12月30日ころ284万8892円弁済ウ平成11年3月25日ころ538万1752円但し,被告に対する預金債権538万1393円及びAに対する預金債権359円との相殺によるエ平成13年3月29日ころ1970万4017円但し,A所有不動産の競売の配当による回収(静岡地方裁判所浜松支部平成11年(ケ)第184号)オ平成13年5月16日ころ1474万8204円但し,A所有不動産の競売の配当による回収(静岡地方裁判所浜松支部平成11年(ケ)第184号)(7)第2貸付についての弁済状況は以下のとおりである。 オ平成13年5月16日ころ1474万8204円但し,A所有不動産の競売の配当による回収(静岡地方裁判所浜松支部平成11年(ケ)第184号)(7)第2貸付についての弁済状況は以下のとおりである。 ア平成14年2月27日ころ41万9128円但し,A所有不動産の競売の配当による回収(静岡地方裁判所浜松支部平成11年(リ)第261号)イ平成15年3月20日ころ109万6435円但し,A所有不動産の競売の配当による回収(名古屋地方裁判所豊橋支部平成12年(ケ)第177号)ウ平成15年6月10日ころ116万2757円但し,仮差押開放金からの回収エ平成15年6月23日ころ514万1053円但し,仮差押開放金からの回収(8)Aは,平成元年11月7日,平成4年6月26日,平成7年5月26日,平成10年5月13日に,本件各貸付について債務承認書を差し入れた(甲6の1ないし8)。 (9)原告の請求内容は別紙1のとおりであり,第1貸付については平成2年6月30日に履行期限が,第2貸付については昭和61年3月31日に履行期限が到来したものとして,保証債務の履行を求めている。 2原告の請求額についての被告の主張等について被告は,甲5号証の記載(平成13年5月31日は,融資計残額はゼロであるところ,同年6月19日から請求金額が手形貸付金4000万円,証書貸付金731万7135円として表れてきていること),甲7,甲8も,平成13年5月16日配当に係る配当金が30日後に入金されているなど事務処理上の重大な欠陥があり,乙4,乙12ないし乙14の記載内容相互間の食い違いも大きいこと,甲6の3,4の記載内容と原告の請求とも矛盾があることを根拠として,原告の元金,利息,遅延損害金はすべて証拠上の裏付けを欠いており請求自体否定されるべきであり,平成11年3月25日 いも大きいこと,甲6の3,4の記載内容と原告の請求とも矛盾があることを根拠として,原告の元金,利息,遅延損害金はすべて証拠上の裏付けを欠いており請求自体否定されるべきであり,平成11年3月25日付相殺も相殺適状になかったから無効である旨主張している。しかし,被告の主張は,いずれも,原告銀行内部において作成された帳簿類の内容が,原告の請求と若干異なる点等を指摘するにすぎないもので,甲5号証の記載についても,甲7,甲8及び弁論の全趣旨によれば,Aに対する貸付を行ったのは,原告が平成14年1月15日に吸収合併した東海銀行の新城支店であったが,支店の統廃合を行っていたことに絡んで,平成13年6月以後,新城支店の支店番号を「481」から「549」へ変更しているところ,甲5号証は,支店番号変更後の平成13年6月21日基準で作成しているため,「549」の支店番号で,同年5月31日時点の残額が出力されなかったにすぎないと認められる。なお,また被告は,被告が責任を追及されることはないという前提で,甲4号証の1の書類に署名押印したのであるから虚偽表示に当たる旨主張しているが,同事実を認めるに足りる証拠はない。 3主たる争点―原告の請求は信義則に違反し,制限されるか(被告の主張の要旨)下記(1)ないし(3)の事情を総合考慮すれば,原告の請求は権利濫用又は信義則違反により許されない。 (1)原告の債権回収は適切な期間内に回収されず,同回収がなされなかったことが不当であることア第1貸付について,昭和60年6月30日,被告は,東海銀行新城支店(以下「新城支店」という。)から,「2回目の返済の予定も立っていない。ホテルが倒産してしまうのでAを助けてやって欲しい。」と懇請され,900万円を訴外Aの口座に振り込んだものであり,かような状態に陥っていた後に,第2貸付 。)から,「2回目の返済の予定も立っていない。ホテルが倒産してしまうのでAを助けてやって欲しい。」と懇請され,900万円を訴外Aの口座に振り込んだものであり,かような状態に陥っていた後に,第2貸付をすること自体,無謀であるから,Aの全責任をそのまま被告が負うことは不当である。 イ原告は,これまで,2回にわたる債権回収が可能な機会があったにもかかわらず,これを怠ってきた。第1回目は昭和63年ころの1億0334万円の山林処分による債権回収の機会である。 すなわち,被告は,昭和61年ころ,新城支店長からの「Aの債務の支払がほとんどなされていない。Aの山林を売却するとどのくらいの金額になるか調査に協力して欲しい。」との要請に応じ,山林の境界を調査し,人夫を5人ほど雇い,50~60万円の費用をかけて,立木の種類・太さ・本数を確認し,同調査結果に基づいて,買主を探したところ,1億0334万円で購入する意向を示す業者が現れた。そこで,被告は,昭和63年春ころ,上記調査結果に係る書類及び購入希望者の情報を提供した。被告は,その後,原告から昭和63年9月28日付けの内容証明郵便(乙12)を受け取ったものの,同内容証明郵便は形式的なものであるとの新城支店長の言葉と,その後も,10年以上にわたって原告からは何らの連絡もなかったことから,Aの山林を処分して本件各貸金債務は完済されたと思っており,被告の念頭から消えていた。しかし,平成10年になって,催告書を受け取り,驚いた被告が,事情を調べたところ,被告が買主まで探したにも拘わらず,10年以上放置されていることが判明したものである。 原告の被告に対して報告がなされれば,被告としても財産保全の措置が執れたのに,この機会を失したもので,昭和63年当時の山林の価格からして,山林を売却するだけで,本件各貸金債務は完済さ たものである。 原告の被告に対して報告がなされれば,被告としても財産保全の措置が執れたのに,この機会を失したもので,昭和63年当時の山林の価格からして,山林を売却するだけで,本件各貸金債務は完済される状況にあった。 ウ2回目は平成11年9月に5250万円で山林処分による債権回収の機会があった。 すなわち,被告は,平成11年にも,原告から資料を渡され山林処分についての協力を要請され,山林調査と買主希望者を探し,平成11年9月13日,5250万円での購入の意思を示す業者がいたため,同情報を原告に提供したが,原告の不手際で任意売却はできなかった。すなわち,原告の名古屋融資管理センター豊橋分室長は,Aが既に買い主を見つけているのにそれを無視して,Aに対し,強行に高値を付けた業者に売れと迫ったために,任意売却の道が閉ざされてしまったものである。 エ原告は,不良債権処理についての世論の批判と,政府も不良債権回収を打ち出したという背景があり,また,旧東海銀行と旧三和銀行の合併に先だって債権回収の姿勢を示すために,ようやく平成11年になって重い腰をあげ始めたものであり,それ以前の債権回収の遅滞は著しいものがある。 オこれらの遅滞ないし放置について,原告は「貸付金の返済が滞ったからといって直ちに担保権の実行をして強制的に回収を図るものではなく,法的手続を採ることについて慎重な態度をとることが,銀行取引において一般的である。」旨主張しているが,本件では,かかる一般論ではなく,原告自ら債権回収に乗り出し,途中でこれを放棄したという特異性が問題なのである。しかも,その放棄の理由は,原告と事件屋との密約にある。すなわち,新城支店長は,平成元年11月6日,事件屋として著明なBと本件各貸金の回収について,直接接触し,法的手段に訴えない旨の密約をしたもので,この密 の放棄の理由は,原告と事件屋との密約にある。すなわち,新城支店長は,平成元年11月6日,事件屋として著明なBと本件各貸金の回収について,直接接触し,法的手段に訴えない旨の密約をしたもので,この密約に従って,原告はAから3年ごとの債務承認を執るだけで,13年間にわたり,債権の回収手続をしなかったものである。しかも,同支店長はBに強迫や強要されたわけではなく,自ら赴いて交渉している。原告は,直ちに,競売申し立て,訴訟提起などを行わなければならなかったもので,事件屋と密約するなどは言語道断である。また,原告は,AのC,Dらに対する債権の回収状況を注視していたと主張しているが,原告が客観的に事態を把握していたとは考えられない。 (2)被告と主たる債務者の関係被告は,昭和58年ころ,Aからホテルの共同経営の話を持ちかけられたが,被告の父に反対されたため,ホテル経営の話は断った。その後,Aが主たる債務者となったのは,原告が強引にAに借入れをすることを求めたことにある。被告は,本件ホテル経営で何らの利益も受けておらず,被告が主たる債務者と同様に,遅延損害金を含む過大な責任を負わされる筋合いはない。 (3)原告の債権回収状況,元本と利息等の比率等について原告の請求内容は,1の(9)のとおりであり,第1貸付については,遅延損害金が元金の12倍を超える異常なものであり,第2貸付についてもその遅延損害金は元金の2倍を超えており,異常である。 (原告の主張の要旨)(1)原告の債権回収が適切な期間内に回収されたか,同回収がなされなかったことの不当性についてア被告は第1貸付の支払が滞った後,第2貸付をするのは無謀である旨主張しているが,原告のAに対する1億円の融資は,昭和58年7月27日に証書貸付6000万円と手形貸付4000万円として実行されたもの ア被告は第1貸付の支払が滞った後,第2貸付をするのは無謀である旨主張しているが,原告のAに対する1億円の融資は,昭和58年7月27日に証書貸付6000万円と手形貸付4000万円として実行されたもので,この4000万円が昭和61年3月5日に手形貸付の形式で借り換えられたものが第2貸付であるから,被告の主張は理由がない。 イ被告は,山林の調査について主張するが,そもそも本件ホテルは,被告が買収して経営に当たるはずであったのが,被告の父親に反対されたため,Aが契約当事者となったもので,かような経緯からすれば,むしろ,被告は信義則上も,Aの債務の履行を助けるべき立場にあったといえる。また,Aからの回収が進めば,その分被告の保証債務が減縮し,被告自身の利益にもかなうことになる。 保証人たる被告は債務を履行する責任を負っているのであって,立木見積もりを出したからといって保証人の責任を果たしたことにはならない。また,見積もりがなされたからといって,当該山林の処分の方法によって,債権を回収すべき義務が原告に生じるものでもない。被告の主張は,結局のところ,山林価格の下落を原告の責任と主張するに等しい。 また,被告は,原告への返済が終わったと認識していたと主張しているが,当該見積書提出の約4月後には,再度被告に対し催告書(昭和63年9月28日付け,乙12)を発信しており,山林が処分されていない事実を知っていた。また,被告は,ホテル買収に至る経緯に深く関与しており,原告から催告書を受け取った段階で,Aと返済計画について緊密に連絡をとり,協議することが十分に可能であり,そのように原告が期待しても被告に酷とはいえない。 ウ被告が主張するところの2回目の任意売却については,原告はAに対し,A所有山林を任意売却した場合の見込み価格を2200万円程度と考えており,Aは ,そのように原告が期待しても被告に酷とはいえない。 ウ被告が主張するところの2回目の任意売却については,原告はAに対し,A所有山林を任意売却した場合の見込み価格を2200万円程度と考えており,Aは当該価格程度で売却できそうな相手を捜した。他方で,被告から山林価格を5000万円程度とする見積書が提出されたため,原告としては被告の見つけた買主へ売却するように求めたが,Aはこれを拒否したので,被告の努力を水泡に帰せしめたのはAであり,原告を非難すべきではない。原告は,平成11年9月ころ,Aの前記の態度に接し,もはや任意売却による回収は困難であり,法的手段による回収やむ無しとして競売を申し立てるに至ったのである。 エ平成11年以後,原告の裁判手続を利用した回収手続については別紙2のとおりであり,原告は,A,E株式会社,F株式会社による悪質な執行妨害に対し,断固として対応を続けて現在もなお,債権回収を図っており,故意に債権回収を放棄などしていない。 オそもそも,期限の到来した債務の履行を,主債務者と連帯保証人のいずれに請求するかは,債権者の任意であるところ,原告は主債務者からの回収(任意弁済交渉及び強制執行)に注力し,主債務者からの回収の限界が判明した後に,本件訴えを提起し,連帯保証人である被告に対して履行を求めているのである。 被告の主張は,原告は,当初から,主債務者に対して法的回収手段に訴えるべきであったというに等しいが,金融機関は,その貸付金の返済が滞ったときは,直ちに抵当権の実行等をして強制的に回収を図るものではなく,より多くの債権回収を図ったり,貸し倒れを現実化させる時期等の配慮のために,債務者の立ち直りを待ったり,任意売却を進めたりする一方,法的手段に及ぶことは慎重な態度をとることが一般的であるから,被告の主張は取引観念に反する。 原告 貸し倒れを現実化させる時期等の配慮のために,債務者の立ち直りを待ったり,任意売却を進めたりする一方,法的手段に及ぶことは慎重な態度をとることが一般的であるから,被告の主張は取引観念に反する。 原告は,主債務者であるAからの債権回収を図り,同人との回収交渉を続けてきたが,Aは,Aの第三者に対する債権を回収して原告への返済原資とすべく訴訟継続中であるなどと原告に返済計画を説明し,あるいは,当該債権回収や担保不動産処分については,Bに一任しているなどと言って任意の返済に応じなかった。原告は,ねばり強く,担保不動産の任意売却による返済を求めたものの,Aが不誠実な対抗に終始したことから,平成11年に至りやむなく法的回収に訴えるに及び,原告の回収努力により,1(9)記載の元本額まで債務が減少しているのであって,Aからの債権回収を放置していたとの被告の主張は的はずれである。 被告は,平成11年に至るまで原告がAに対して法的手段を執らなかったことを捉えて信義則違反であると主張しているが,原告としては法的回収措置を採れば,A及びBが執行妨害行為に及ぶ可能性が高いと判断しており,事実,平成11年以後,原告が法的回収手続を採るや,単に実力を行使するなどといった単純な妨害ではなく,A及びBは結託して法的手段を駆使して,原告の法的回収を妨害するに及んでおり,このような一連の妨害行為に鑑みても,原告がBによる執行妨害を懸念し,他方で,Aの返済原資獲得の説明及びそれによる任意の返済の意思が表明されていたことから,Aが説明していた裁判の帰趨を見た上で,法的回収手段を執るか否かを決定しようとした対応について,故意又は重大な懈怠があったとは評価できない。 (2)被告と主たる債務者の関係被告は,本件融資の対象となったホテルの買収案件に関して,主体的にホ かを決定しようとした対応について,故意又は重大な懈怠があったとは評価できない。 (2)被告と主たる債務者の関係被告は,本件融資の対象となったホテルの買収案件に関して,主体的にホテル経営にあたるべく原告からの借入れを行う予定であったところ,契約の内金をAに立替させておきながら,直前になって突如ホテルの買収計画から降りると言い出した。そのために,Aは,被告に立て替えた金員を無駄にしないために,被告に代わって原告から1億円の融資を受けることになったものである。これら,本件融資の実行の経緯等に照らせば,被告は道義的には主債務者であるAと同等の立場にあったといえる。 (3)原告の債権回収状況,元本と利息等の比率等について原告は,回収金については別紙1のとおり,すべて元本に充当してきた。その結果,元本が損害金に比して少額になっているが,被告にとって有利な取扱いであるから,現在の残債権額の構成において,損害金に比して元本が少額であるとの事実を信義則違反の事情と考えることはできない。 以上,いずれの点から見ても被告の信義則違反の主張は理由がない。 第3 主たる争点に対する判断1認定事実証拠(甲4の1ないし4,甲6の1ないし8,甲9ないし甲13,乙1ないし乙67,乙70)及び第2の1摘示の各事実並びに弁論の全趣旨を総合すると次の各事実が認められる。 (1)被告は,浜松市所在のラブホテル「G」(以下「本件ホテル」という。)を経営する株式会社Hを買収して本件ホテルの経営に当たることを計画し,知人のAに対し同ホテル事業の開始,経営についての協力を求め,Aはこれを了承した。 被告は,昭和58年6月30日,Iとの間で,上記会社の全株式を買い取る旨の契約を締結した。同売買代金については,1か月後に原告から全額融資を受けることが確定して ての協力を求め,Aはこれを了承した。 被告は,昭和58年6月30日,Iとの間で,上記会社の全株式を買い取る旨の契約を締結した。同売買代金については,1か月後に原告から全額融資を受けることが確定していたが,Aは被告が融資を受けるまでの繋ぎとして,静岡銀行から内金相当額の3000万円余の金額を借り入れ,これを被告に貸し渡し,被告はこれを内金としてIに支払っていた。 ところが,その後,被告は,父親からホテル事業に関わることを強く反対されたこともあって,これを断念し,上記契約を履行することができない旨をAに申し入れた。 Aは,新城支店に赴いて善後策を相談したところ,同支店長Jから,Aが被告に代わってホテル事業を行うことを提案され,契約内金を流さないためにも,自ら被告に代わってホテル事業を経営することを決意した。 (2)上記ホテル事業資金総額は約3億6000万円であり,1億円は原告がこれを貸付け,残額2億6000万円は,訴外セントラルリースからの貸付金2億5000万円及びAの自己資金1000万円があてられた。 (3)原告のAに対する1億円の融資は,昭和58年7月27日に,証書貸付6000万円と手形貸付4000万円として実行されたもので,この4000万円が昭和61年3月5日に手形貸付の形式で借り換えられたものが第2貸付である(この点で,被告の主張(1)アは理由がない。)。 原告は,昭和58年7月27日,Aとの間で,銀行取引約定契約を締結し,被告は,同日,原告との間で,本件保証契約を締結したが,Aの父であるKも,被告と共に連帯保証人となった(特に甲4の1)。 また,Kは同日,別紙3の№1ないし9,12ないし19,40,41の各物件について原告のために極度額を1億円とする根抵当権を設定し(特に乙25ないし33,36ないし38,40,41),Aの母の )。 また,Kは同日,別紙3の№1ないし9,12ないし19,40,41の各物件について原告のために極度額を1億円とする根抵当権を設定し(特に乙25ないし33,36ないし38,40,41),Aの母のLにおいては同№20を,Aにおいても,同№10,11を上記根抵当権の担保に供した(特に乙34,35,39)。なお,A及びその家族,並びにAが経営する有限会社M所有に係る不動産として他に別紙3の№23ないし45記載の各土地があった。 他方,セントラルリースは,本件ホテルの土地,建物に抵当権を設定した(特に乙66,乙67)。 (4)Aは,昭和58年7月にホテル経営を開始したが,経営は困難を極めた。 そのため,第1貸付について,昭和60年6月30日,元金500万円及び昭和60年12月31日までの利息が不履行となっていたもので,被告は,新城支店長から求められて,900万円を訴外Aの口座に振り込んだ。 しかし,Aは,昭和61年6月30日,第1貸付について履行遅滞に陥った。 (5)被告は,昭和61年7月21日,新城支店長からの内容証明郵便(乙4)により,訴外Aに対する合計9000万円の弁済の催告と期限の利益喪失の通告を受けた。被告は新城支店を訪ねたところ,N支店長から,A一族の所有する山林の調査,査定をしてほしいとの要請を受けた。 被告は,新城支店のOにも加わってもらい,急峻な山岳部に点在する上記山林について,境界の確定をしつつ,立木の種類,本数,太さ,価格などの山林調査を自費を投じて,補助者数名を使い開始した。そして,昭和61年から昭和63年ころまでの調査に一区切りをつけ,同調査に基づく調査結果を書面で新城支店長に交付した(特に乙5ないし乙10)。また,被告は,上記山林調査結果を踏まえ,上記山林の買主を探した結果,株式会社Pが,昭和63年5月19日 に一区切りをつけ,同調査に基づく調査結果を書面で新城支店長に交付した(特に乙5ないし乙10)。また,被告は,上記山林調査結果を踏まえ,上記山林の買主を探した結果,株式会社Pが,昭和63年5月19日,別紙3の№6ないし9,23ないし28,30ないし37の立木について1億0334万円の買い受け価格での購入の意思を示した。そこで,被告は,直ちに,同情報を原告に提供した(乙11,以下乙11にかかる見積書を「第1見積書」という。)(6)原告は,上記山林の処分等によって,本件債権の回収がなされたと思っていたが,昭和63年9月28日,本件各貸金についての内容証明郵便による弁済催告書(乙12)を受け取った。そこで,被告は新城支店を訪ねたところ,同支店長からは内規に基づく定番の書面にすぎないと言われた。被告は,その後,平成10年に至るまで,原告から何らの説明も催告も受けなかった。また,Aとも次第に疎遠になっていった。 (7)他方,Aは,昭和60年ころ,本件各貸金の返済に充てる目的もあって,C,Dらとともに,健康センター事業を手がけたが,経営権を巡る紛争が生じ,暴力団が介入するに至ったため,昭和61年初めころ同事業から撤退した。 (8)Aは,本件ホテル事業からも撤退することを決意し,事件屋として知られたBにホテルの売却方を依頼した。そして,Bが中心となり,昭和62年1月には,本件ホテルを売却し,抵当権者であるセントラルリースは,そのころ,本件ホテルの売却代金から貸金全額を回収した。 Aは,このころから以後,原告に対し,Bに一任しているなどと主張し,本件各貸金の返済交渉についてはBを通してでないと行えない状況になった。そして,原告は,Bが事件屋であるとの風評を聞きつけたことから,法的回収手続を採った場合には,Bが執行妨害に及ぶことを警戒した。また,Aは, 返済交渉についてはBを通してでないと行えない状況になった。そして,原告は,Bが事件屋であるとの風評を聞きつけたことから,法的回収手続を採った場合には,Bが執行妨害に及ぶことを警戒した。また,Aは,原告の担当者に対して,健康センター事業を巡り,出資金返還や損害賠償を求めて裁判を起こしているとの説明をなし,C及びDに対し,出資金等1億円を超える債権があるからそれが回収できれば,本件各貸金債務の返済ができるとの説明をしていた。 (9)新城支店長Qは,平成元年11月6日,前記Oを伴って,Bの事務所に自ら赴き,Aの立会いのもと,「法的な手段は執らないから時効中断のために,債務の承認をお願いしたい。」と要請し,債務承認書(甲6の1,2)を作成してもらい,平成4年6月,平成7年5月にも,原告の担当者はBの事務所において,上記同様の要請をして,Aから債務承認書の交付を受けた。 Rは,平成10年3月に,新城支店の支店長代理として着任したが,「5月に3年目の時効が来るので時効中断の手続を採るように。」との引継を受けたが,その際に,Bが介入しているために回収が難航している旨を聞いた。Rも,平成10年5月13日に,B事務所において,Aから本件貸付についての債務承認書を差し入れてもらった。 新城支店は,被告から提出された第1見積書を利用して,Aに任意売却を促したりすることもなく,Aから,年に何回か前記裁判等の状況報告を受けるにとどまっていた。 そして,Aだけでなく,被告に対しても何らの説明も,催告をすることなく,10年余が経過した。なお,その間,木材の価格は大幅に下落した。 (10)原告においては,平成10年6月ころ,不良債権を独自に取り扱う融資管理センターができ,同センターにおいて,本件各貸金を管理することとなった。原告豊橋融資管理センターは,平成10年12月1 。 (10)原告においては,平成10年6月ころ,不良債権を独自に取り扱う融資管理センターができ,同センターにおいて,本件各貸金を管理することとなった。原告豊橋融資管理センターは,平成10年12月18日,被告に対し,本件各貸金について内容証明郵便による催告をなした(乙13)。また,原告は,平成11年3月25日,被告の定期預金に係る相殺をなし(特に乙14),平成11年8月6日には,被告に対し,本件各貸付金について返済計画書を提出するように求めた(特に乙15)。 被告は,10年前に既に債権回収済みであると思っていたことから驚いて,原告に強く抗議し,「第1見積書を提出しており,Aの債務は十二分に返済可能であったと考えられる。そして,その後の経過については,私に何らの連絡もなく,当然のことながら,返済は既に終了していると思っていた。」旨の回答書(乙16)も提出したが,容れられるところとならなかった。 (11) 被告は,平成11年8月ころ,原告から再度,資料を渡され山林処分についての協力を要請され(特に乙17),これに応じ,山林調査をなす一方,買い受け希望者を探したところ,前記株式会社Pが平成11年9月13日別紙3の№6ないし9,43を5250万円で購入する旨の意向を示したため,同情報を原告に提供した(乙18,以下乙18にかかる見積書を「第2見積書」という。)。 一方,原告とAの間で,すでに山林の任意売却の話が進んでいたが,同価格が第2見積書の価格を大幅に下回っていたため,原告が今までの任意売却の話は進められないと主張し,Aがこれに憤慨したこともあって,任意売却の話も頓挫した。 (12)その直後から,原告は,別紙2に記載した各法的手続を採り,本件債権の回収に努めたが,Bらの妨害に遭い,回収は第2の1(7)記載のものにとどまっている。 2判断本件 意売却の話も頓挫した。 (12)その直後から,原告は,別紙2に記載した各法的手続を採り,本件債権の回収に努めたが,Bらの妨害に遭い,回収は第2の1(7)記載のものにとどまっている。 2判断本件各貸金はホテル経営事業の資金として融資されたものであるところ,当該ホテル事業は昭和61年には破綻したのであるから,その後10年以上にわたって主債務者の任意の支払を待つということ自体特異であるといわざるを得ない。現に,原告と同じく,ホテル事業の資金を貸し付けたセントラルリースは昭和62年1月に本件ホテルの売却によって返済を受けている。 そして,この遅延は,原告が事件屋であるBをおそれたことを理由とするものであり,前記のように,原告は,単に,その間,回収に着手しなかっただけでなく,新城支店長においてBとの間で,法的手段に訴えないとのいわば密約を取り交わしたもので,同密約が直ちに不起訴の合意と認められることはないにしても,原告は,同密約に基づいて債権回収を放置したと認めざるを得ず,これが著しく不相当なものであることは多言を要しない。原告は,この点について,法的回収措置を採れば,A及びBらが法的手段を駆使,悪用して執行妨害行為に及ぶ可能性が高いことを懸念し,他方で,Aの返済原資獲得の説明及びそれによる任意の返済の意思が表明されていたことから,Aが説明していた裁判の帰趨を見た上で,法的回収手段を執るか否かを決定しようとした対応については,一定の合理性がある旨主張しているが,かような態度は銀行の公共性に照らすと極めて不相当なものであり,むしろ,事件屋が介入すれば,その時点で法的手段を執ることが強く要請されるのであって,事件屋と密約を結ぶことを言語同断とする被告の指摘も首肯すべきものがある。また,Aの返済原資獲得の説明及びそれによる任意の返済の意思が表明さ その時点で法的手段を執ることが強く要請されるのであって,事件屋と密約を結ぶことを言語同断とする被告の指摘も首肯すべきものがある。また,Aの返済原資獲得の説明及びそれによる任意の返済の意思が表明されていたことから,Aが説明していた裁判の帰趨を見ていた旨の原告の主張についても,事件屋を介入させる人物の言をやすやすと信用するというのも考え難い事柄であること,証拠上もAが裁判によって返済原資を獲得できた蓋然性があったとまでは認められず(甲10によれば,Aが原告となった裁判では結局Aは敗訴している。),前記Rの「Cさんのほうの裁判が終結したとして,金が入る目処はなかった。」旨の供述(甲12)に照らしても,上記原告の主張も根拠に欠ける弁解といわざるを得ない。 こうして,原告は前記密約に基づき,Aに対して債務承認書を差し入れさすにとどまり,被告において費用と労力をかけて作成した第1見積書を利用して積極的に任意弁済を促すこともしなかった。また,被告に対しても,催告することなく,第1見積書の利用についても何ら説明もしなかったもので(被告の主張するように,第1見積書は,財務省等への報告のための資料として使われたにすぎないと思われる。),これらは重大な懈怠といわざるを得ない。 次に,被告の認識について検討する。この点,原告は,「第1見積書提出の約4月後には,再度被告に対し催告書(昭和63年9月28日付け,乙12)を発信しているから,被告は,山林が処分されていない事実を知っていた。また,被告は,ホテル買収に至る経緯に深く関与しており,原告から催告書を受け取った段階で,Aと返済計画について緊密に連絡をとり,協議することが十分に可能であり,そのように原告が期待しても被告に酷とはいえない。」旨主張している。しかし,同催告書の中には山林の処分のことは触れられておらず Aと返済計画について緊密に連絡をとり,協議することが十分に可能であり,そのように原告が期待しても被告に酷とはいえない。」旨主張している。しかし,同催告書の中には山林の処分のことは触れられておらず,同催告書だけからかような判断をすることはできない上,被告は,同催告書を受け取って後,新城支店を訪ねたところ,同支店長から内規に基づく定番の書面にすぎないと言われて,安心して帰宅したと述べており(乙70),被告が山林の処分によって本件債務の履行が終わっていると認識していたことについては乙16の回答書の文言からも窺うことができるし,10年以上にわたり,何らの催告もなかったのであれば,かような認識をもつこと自体,特に異とするに足りない。また,「被告がAと会って返済計画を協議すべきである。」との主張については,原告が,そのような認識を有しているのであれば,そのような申し出を被告に対してなせばよいだけであるのにこれをなさず,10年以上にわたって上記のような経緯で本件貸金の回収をしなかった原告の落ち度に比べると,被告に落ち度があるとしても,格段に小さいものといわざるを得ない。 以上に検討したところによれば,原告の本件請求をそのまま認容することは信義則上許されず,原告の請求を棄却することも考えうべきところ,他方,平成11年以後の原告の回収措置については,原告に格別の落ち度はないと認められること,仮に,昭和63年ころに原告が回収を試みていたとしても,任意売却が支障なくなされたかは疑問があり,法的手段による回収の場合,原告が第1見積書に係るような金額を回収しえたとは断言できないこと,原告は回収に係る金員を元本に充当しているにも拘わらず,なお多額の元本債権を有する状態であること,ホテル経営事業開始に当たっての被告が深く関与していたこと等の事情もあり,これらの 断言できないこと,原告は回収に係る金員を元本に充当しているにも拘わらず,なお多額の元本債権を有する状態であること,ホテル経営事業開始に当たっての被告が深く関与していたこと等の事情もあり,これらの諸事情を総合すると,原告の請求は,3000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年11月17日から支払い済みまでの年6パーセントの割合による金員の支払を求める部分に限り理由があるものと認めるのが相当である。 3以上の次第で,原告の請求は主文1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条,仮執行宣言について同法259条1項を適用して主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判官樋口英明
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