- 1 -主文 1 原告らの主位的請求をいずれも棄却する。 2 被告は、原告Aに対し、1972万6999円及びこれに対する令和3年11月△日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Bに対し、1972万1472円及びこれに対する令和3年 11月△日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 4 原告Bのその余の予備的請求を棄却する。 5 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を除く。)は被告の負担とし、補助参加によって生じた費用は被告補助参加人の負担とする。 6 この判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求(主位的請求及び予備的請求に共通) 1 被告は、原告Aに対し、1972万6999円及びこれに対する令和3年11月△日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、1972万6999円及びこれに対する令和3年1 1月△日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、原告らの母であるC(以下「C」という。)が、被告が管理する住宅型有料老人ホーム(以下「本件施設」という。)で、夜間一人で勤務していた際に、事務管理室において本件施設の入居者に殺害された事件(以下「本件事件」 という。)に関して、原告らが、主位的に上記事務管理室の設置又は保存に瑕疵があったとして工作物責任(民法717条1項)に基づく損害賠償請求権、予備的にCに対する安全配慮義務違反があったとして不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求権をCから相続するとともに原告らも被告に対して固有の損害賠償請求権を取得したと主張して、被告に対し、それぞれ損害合計19 72万6999円及びこれに 行為(民法709条)に基づく損害賠償請求権をCから相続するとともに原告らも被告に対して固有の損害賠償請求権を取得したと主張して、被告に対し、それぞれ損害合計19 72万6999円及びこれに対する本件事件の日である令和3年11月△日か- 2 -ら支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者等 ア C(昭和28年4月生まれ)は、原告らの母親であり、令和3年5月に被告との間で労働契約を締結して、本件施設において職員として勤務していたが、同年11月△日、本件事件により死亡した(死亡時68歳)。原告らはCの子である。(甲6の1~6、甲7~9)イ被告は、介護保険法に基づく居宅介護支援事業、有料老人ホームの経営 及び受託運営事業等を業とする株式会社である(甲1)。 ウ被告補助参加人は、本件事件当時、被告との間で、業務災害総合保険契約を締結していた保険会社である。 ⑵ 本件施設の運営管理、利用等ア株式会社D(現在の商号、以下「本件センター」という。)は、平成18 年10月4日、大阪市a区内に本件施設(F、7階建て、居室総数60室)を開設した。なお、本件センターは、本件施設の建物所有者(賃貸人)からの賃借人を賃貸人(転貸人)とする転借人に当たる。 被告は、平成19年7月2日以降、本件センターから本件施設1階の事務管理室(以下「本件事務室」という。)を使用貸借契約により借り受け、 本件事務室を占有使用している。 (甲3、4、35、乙2)イ本件施設の入居者は、本件センターとの間で、本件施設内の各居室について個別に賃 という。)を使用貸借契約により借り受け、 本件事務室を占有使用している。 (甲3、4、35、乙2)イ本件施設の入居者は、本件センターとの間で、本件施設内の各居室について個別に賃貸借契約を締結して居住している。また、被告は、本件施設において、介護サービスが必要な入居者との間で、個別に契約を締結して 介護サービスを提供している。 - 3 -本件施設の入居対象者は、介護サービス利用者(要支援1・2、要介護1~5)を中心とするが、そうでなくても、おおむね60歳以上であれば入居可能である(以下、被告と介護サービスの契約を締結していない者を「自立の入居者」という。)。 (甲5、35) ウ G(昭和24年5月生まれ、本件事件当時72歳。以下「G」という。)は、平成26年10月に本件センターと居室の賃貸借契約を締結し、同年11月以降、本件施設7階の701号室で生活していた自立の入居者である。 エ Cは、本件事件当時、本件施設において、午後10時から翌日午前9時 までの夜間勤務(夜勤)を行う介護ヘルパーとして勤務していた(甲9、12)。 ⑶ 本件事件直前のGの本件施設における行動等Gは、令和3年11月●日、郵便物に関するやり取りで激高し、本件施設内で椅子を蹴って、その椅子が被告の職員に当たったことがあった(以下「本 件接触事件」という。)。 また、Gは、同月〇日、浴室の扉の開閉に関して、他の自立の入居者であるUに激怒し、Uに対し暴行を加え、傷害を負わせた(以下「本件傷害事件」という。)。 これらのトラブルを受けて、同月▲日に被告の職員がGと面談した結果、 Gは本件施設からの退居を了承し、転居先を探すこととなった。 (甲15、16、証人F)⑷ 本件事 事件」という。)。 これらのトラブルを受けて、同月▲日に被告の職員がGと面談した結果、 Gは本件施設からの退居を了承し、転居先を探すこととなった。 (甲15、16、証人F)⑷ 本件事件の発生等ア Gは、令和3年11月△日午後10時29分頃、本件事務室に立ち入り、本件事務室内において夜勤をしていたCの頭部などを金づちで複数回殴打 して、Cを殺害した(本件事件、甲11、12、26、乙1)。 - 4 -イ Gは、令和3年11月△日午後10時45分頃、本件施設7階の自室ベランダから飛び降りて自殺した(甲26)。 ⑸ 労災保険金の受給原告らは、令和4年8月3日、Cの死亡につき、業務災害に係る労働者災害補償保険給付として、遺族補償一時金717万7000円の支払を受けた (甲18、24、25)。 2 争点⑴ 責任原因ア本件事務室の設置又は保存に瑕疵があったか(主位的請求、争点①)イ被告のCに対する安全配慮義務違反があったか(予備的請求、争点②) ⑵ 瑕疵又は安全配慮義務違反とCの死亡との因果関係(争点③)⑶ 損害額(争点④) 3 争点に関する当事者の主張⑴ 争点①(本件事務室の設置又は保存に瑕疵があったか)について(原告らの主張) 被告は、午後10時から午前9時までの夜間の時間帯に、Cを本件施設において一人で勤務させていた。 本件施設には、本件事件当時、認知症や精神障害を抱えた高齢者を中心とする多数の入居者がいたことに加え、本件施設の自立の入居者であるGは、本件事件前に、粗暴な言動等をし、他の入居者や被告の職員に対する本件接 触事件や本件傷害事件を起こしていた。 上記の事情に照らすと、本件事件当時、本件施設の入居者が 立の入居者であるGは、本件事件前に、粗暴な言動等をし、他の入居者や被告の職員に対する本件接 触事件や本件傷害事件を起こしていた。 上記の事情に照らすと、本件事件当時、本件施設の入居者が、本件事務室において夜勤中の職員に危害を加える危険があったというべきである。したがって、上記危険に備え、本件事務室には、扉に内鍵を付け、来訪者をその場で確認するための設備や防犯チェーン、防犯ベル等の警報装置を設置すべ きであったが、これらが設置されていなかったから本件事務室は通常有すべ- 5 -き安全性を欠き、設置又は保存に瑕疵があったというべきである。 (被告及び被告補助参加人の主張)否認し争う。 自立の入居者であるGがCを殺害するという危険は通常予想される危険とはいえない。 本件事務室には、内側から鍵を掛けられる電子錠が設けられており、扉の外に設置された防犯カメラの画像を映すモニターが設置されていた上、電話機や消防署への通報ブザーも設置されていた。したがって、本件事務室は入居者に介護サービスを提供する事務所として通常有すべき安全性を備えており、設置又は保存の瑕疵は存在しない。 ⑵ 争点②(被告のCに対する安全配慮義務違反があったか)について(原告らの主張)ア被告は、労働契約に基づき、職員であるCに対して、雇用主として安全配慮義務を負う。 そして、原告らが⑴において主張した、Cの勤務態様、本件施設の状況 及び本件事件前のGの行動に照らせば、被告は、本件施設の入居者を含む本件事務室への来訪者が、本件事務室内にいる被告の職員に危害を加えることを予見できたというべきである。 そうすると、被告は、Cを含む被告の職員に対して、雇用主としての安全配慮義務として、具 件事務室への来訪者が、本件事務室内にいる被告の職員に危害を加えることを予見できたというべきである。 そうすると、被告は、Cを含む被告の職員に対して、雇用主としての安全配慮義務として、具体的には次の①~③のような義務を負っていたとい うべきである。 ① 本件事務室の扉に内鍵を付け、来訪者をその場で確認するための防犯カメラ等を設置することに加え、本件事務室に来訪者があった場合にはその様子を小窓等により確認し、用件を確認した上で、安全であれば内鍵だけを開錠する手順を採るなど、安全確保のための措置を指導、徹底 する義務- 6 -② 一時的にでも夜勤の職員を1名以上増員し、最低でも合計2名を同時に夜間勤務に当たらせる体制を確保するとともに、本件接触事件や本件傷害事件などのGの行動に関する情報をCに適切に提供した上で、安全指導教育を徹底する義務③ 一時的にでも警備員を配置するなどして、Gが自室から出て移動した り、職員に接近したりする際にGを監視し、Gによる危険行動を抑制する措置を講じる義務イ被告は、本件事務室に内鍵を設けておらず、来訪者をその場で確認できる物的設備すら設けていなかった。 また、被告は、本件事件の当日、Cを一人で夜勤させた上、Gの危険性 等に関する情報をCに適切に提供することをせず、Cに対する安全指導教育を行わなかった。 さらに、被告は、本件事件当時、Gの危険性を把握していたにもかかわらず、Gに対する監視体制を設けることすらしなかった。 以上によれば、被告には、Cに対して安全配慮義務違反が認められる。 (被告及び被告補助参加人の主張)否認し争う。 ア Gが、Cに強い殺意を抱いていたことがうかがわれることなどからすれば、本 は、Cに対して安全配慮義務違反が認められる。 (被告及び被告補助参加人の主張)否認し争う。 ア Gが、Cに強い殺意を抱いていたことがうかがわれることなどからすれば、本件で問題となる予見可能性は、GがCに対して殺意を抱いて殺害することであるところ、被告はGによるCの殺害までは予見できなかったか ら、被告は、原告らが主張する安全配慮義務を負わない。 イ被告は、本件傷害事件の発生後には、事実を調査した上で、Gの姉に報告をし、Gの意思を確認した上で、本件施設からGが退居するための手続を進めていた。 また、本件傷害事件については、被告は、職員に対して情報提供を行っ ていたから、安全配慮義務を怠ったことはない。 - 7 -⑶ 争点③(瑕疵又は安全配慮義務違反とCの死亡との因果関係)について(原告らの主張)本件事務室の設置又は保存に瑕疵がなければ、Gは本件事件を起こすことはできなかったといえるから、上記瑕疵とCの死亡との因果関係は認められる。 また、原告らが、争点②において具体的に安全配慮義務を構成すると主張する①~③の義務は、遅くとも、Gが本件接触事件を起こした令和3年11月●日の時点で発生しており、被告がこの時点から準備を進めていれば、少なくとも上記①の義務は本件事件の発生までに完了することができたといえる。そして、上記①の義務だけでも尽くされていれば、Gが本件事務室に来 訪した際に、Cは内鍵等を施錠した状態でGに対応することができたし、Gも本件事務室に容易に侵入できなかったことにより本件事件の実行を断念した可能性があるから、被告の安全配慮義務違反とCの死亡との間には相当因果関係が認められる。 (被告及び被告補助参加人の主張) 本件事務室に容易に侵入できなかったことにより本件事件の実行を断念した可能性があるから、被告の安全配慮義務違反とCの死亡との間には相当因果関係が認められる。 (被告及び被告補助参加人の主張) 被告の夜間勤務者は、清掃及び巡視のために、本件施設内を移動し、頻繁に本件事務室を出入りするところ、Gは、Cが本件事務室から出ている時間帯を狙って犯行に及ぶこともできたのであり、実際にGはCが清掃中の時間帯に本件事務室内で本件事件を実行した。 したがって、本件事務室の設置又は保存に瑕疵がなく、かつ、原告ら主張 の安全配慮義務違反がなかったとしても、Cが本件事務室の外で作業している際に殺害されることを防ぐことはできなかったから、Cの死亡との間に相当因果関係はない。 ⑷ 争点④(損害額)について(原告らの主張) ア Cの損害- 8 -① 死亡逸失利益 1501万3711円㋐給与収入 879万7124円[計算]基礎収入1,614,092 円×(1-生活費控除率0.3)×労働能力喪失期間9 年間に対応するライプニッツ係数7.786≒8,797,124 円㋑年金収入 621万6587円 [計算]基礎収入650,121 円×(1-生活費控除率0.4)×68 歳女性の平均余命22 年間に対応するライプニッツ係数15.937≒6,216,587 円② 死亡慰謝料 2500万円イ原告ら固有の損害① 駆け付け費用合計1万7287円 ② 慰謝料合計300万円ウ損害の塡補 -717万7000円(遺族補償一時金)エ弁護士費用 360万円オ合計 費用合計1万7287円 ② 慰謝料合計300万円ウ損害の塡補 -717万7000円(遺族補償一時金)エ弁護士費用 360万円オ合計 3945万3998円(各1972万6999円)(被告及び被告補助参加人の主張) 否認し争う。 本件で原告らが主張する損害は、通常損害ではなく特別損害であるところ、被告は本件事件によるCの死亡について予見可能性がなかった。 また、原告らが主張する損害は本件事件によって発生したものであるところ、本件事件は専らGの責任によるものであって、損害の衡平な分担という 観点からも、Gの行為によって生じた責任を被告が負うべきではない。よって、いずれにしても被告は、原告らが主張する損害について賠償する責任を負わない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 上記前提事実に加え、掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が- 9 -認められる。 ⑴ 本件事件当時の本件施設における入居者、勤務体制、設備等ア本件事件当時、本件施設の入居者は41名で、そのうち自立の入居者はGを含め7名であった。また、本件施設の入居者のうち、認知症又は精神疾患を抱えていた者は少なくとも合計9名であった。(甲30、乙13、1 4、証人F)イ本件事件当時、本件施設で稼働する被告の職員は13名いたが、午後10時から翌朝午前9時までの夜勤時間帯は職員1名の割当てであった。Cは、およそ週3回、月12回程度勤務していた。 夜勤の職員は、午後10時の勤務開始後本件施設内の清掃、玄関等の施 錠を行った後、午後11時から2時間置きに被告から介護サービスを受けている入居者の部屋を巡視し、各入居者の安 た。 夜勤の職員は、午後10時の勤務開始後本件施設内の清掃、玄関等の施 錠を行った後、午後11時から2時間置きに被告から介護サービスを受けている入居者の部屋を巡視し、各入居者の安否確認を行い、上記作業の時間以外は入居者からの呼出し等に備え、本件事務室内で待機し、事務作業を行うこととされていた。夜勤の職員は、Gを含む自立の入居者の居室には巡視を行わないが、各居室に設置されているナースコール(緊急通報装 置)で自立の入居者から呼出しを受けることがあった。 (甲12、乙8、証人F)ウ本件施設の1階の部屋の配置は、別紙見取図のとおりであり、中央に廊下があり、廊下の左右に本件事務室、談話室、浴室などの施設が配置されている。本件事務室には、1階廊下側に設置された内開きの開き戸(以下 「本件ドア」という。)を利用して出入りする。本件ドアの上部にはドアクローザーが設置され、ドアを開けても自動的に閉まる構造になっているが、下部にドアストッパーが取り付けられ、これを用いてドアを開放したままとすることができる。 本件事件当時、本件ドアの廊下側には掛け金錠が取り付けられ、掛け金 部分にダイヤル式の南京錠を掛けることによって、廊下側から本件事務室- 10 -を施錠することができ、夜勤の際の巡視など本件事務室が無人となる場合に利用されていた。 一方、本件ドアの本件事務室内側には、掛け金錠など手で簡易に開け閉めできる錠は取り付けられておらず、代わりに、本件ドアには、本件事務室内に設置された機器を用いて施錠することができる電子錠(電気錠、以 下「本件電子錠」という。)が取り付けられていた。本件電子錠は、本件事務室内の制御盤のボタンを押すなどして施錠・開錠することができるというも 機器を用いて施錠することができる電子錠(電気錠、以 下「本件電子錠」という。)が取り付けられていた。本件電子錠は、本件事務室内の制御盤のボタンを押すなどして施錠・開錠することができるというものであり、本件電子錠により施錠すると、本件ドアの廊下側からは開扉のために必要なレバーハンドルを動かすことができず、立入りができない状態となる。 しかし、本件電子錠の制御盤は、高所(天井付近)の壁に設置されており、踏み台を用いるなどして操作する必要があった上、本件事件当時、被告は、職員が在室している間に本件事務室を施錠する必要性を認識していなかったため、職員に対し本件電子錠の使用方法を知らせておらず、本件電子錠は使用されていなかった。 本件ドアの廊下側中央には、「関係者以外立入禁止」と記載された標示が貼られていたが、日中の時間帯において、本件施設の入居者が勝手に本件事務室に立ち入ることはあった。 なお、1階厨房・配膳室は、調理業者が施錠して帰るため、夜間は施錠されていた。 (甲26、乙3~5、9、証人F)エ本件施設内には、9か所以上に防犯カメラが設置されており、本件事務室前の廊下にも防犯カメラが1台設置されていた。防犯カメラ映像は、本件事務室内に設置されたモニター(人の肩幅ほどの大きさ)に、常時分割表示されていた。 また、本件事務室内には、ボタンを押すと消防署へ通報可能なブザー及- 11 -び電話機が設置されていた。 (甲26、乙1、証人F)⑵ 本件事件前のGの言動等ア Gは、Gの姉から本件施設のことを聞いて、平成26年11月、本件施設に入居した。Gは、要支援・要介護の認定は受けておらず、自立の入居 者であった。(甲13、14) Gの言動等ア Gは、Gの姉から本件施設のことを聞いて、平成26年11月、本件施設に入居した。Gは、要支援・要介護の認定は受けておらず、自立の入居 者であった。(甲13、14)イ Gは、本件施設に入居後、被告の職員に対し、本件施設に関する苦情を繰り返し述べていたほか、過去に規則違反行為を行ったこともあり、本件施設においては対応等に注意を要する人物とされており、令和3年7月にFが本件施設の施設長となった際にも、Fは前任者からその旨を引き継い だ。なお、Fが、自立の入居者について注意を要する人物として引き継いだのは、Gのみであった。 また、被告が認識していたところでは、Gは、同年4月頃、本件施設の駐輪場に止められていた職員の自転車を抱えて投げ、これにより自転車の後部の反射板が破損するなどしたことがあった。 (甲14、証人F、弁論の全趣旨)ウ Gは、2か月に1回程度、郵便物の受取や苦情を述べるために本件事務室を訪れることがあった(証人F)。 エ Gは、令和3年11月●日頃、本件事務室北隣にあり、本件施設の入居者の立入りが禁止されている談話室を訪ね、郵便物の有無をめぐり同所で 休憩中の被告の職員とやり取りをした。このとき、Gは、感情を高ぶらせて椅子を蹴り、その椅子が被告の職員に当たった(本件接触事件)。 被告の職員は、この件をGの姉に報告し、今後の対応として退居も視野に入れることを伝えた上、Gに対しても今後このようなことがないように注意した。連絡を受けたGの姉は、同月●日、本件施設を訪れて謝罪した。 (甲14~16、証人F)- 12 -オ Gは、令和3年11月■日午前5時50分頃、自室からナースコールで本件事務室にいた夜勤中の職員に連絡を取り、本件施設7階 設を訪れて謝罪した。 (甲14~16、証人F)- 12 -オ Gは、令和3年11月■日午前5時50分頃、自室からナースコールで本件事務室にいた夜勤中の職員に連絡を取り、本件施設7階の照明器具をLEDのものに交換してほしい旨申し出た。上記申出に対し、上記職員は、返答できない旨回答した。(乙8)カ Gは、令和3年11月〇日午後8時50分頃、入浴のため本件施設の1 階浴室脱衣所において服を脱いでいたところ、Uが同部屋の扉を開けたことに腹を立て、下着姿のまま廊下に出て来て、Uに殴り掛かり、倒れ込んだUに対し更に少なくとも約37秒間にわたり、そのうちUが倒れ込んだ約3秒後以降はGを止めようとする被告の職員がそばにいる状態で、殴る蹴るの暴行を加え続けた(本件傷害事件)。 その後、Gは、別の被告の職員が現れたタイミングで暴行を止め、そのまま浴室に戻って行った。これらの暴行により、Uは、唇から出血したほか、打撲や脇腹の痛みを訴えるなどのけがを負った。なお、本件傷害事件より前のGとUとの間のトラブルについて、被告が把握していた事実はなかった。 (甲15、16、26、乙8、証人F)キ被告の職員は、翌□日、GとUから本件傷害事件について事情聴取し、本件傷害事件の発生をGの姉に報告した。上記事情聴取において、Gは、Uが扉を閉めなかったから腹が立った、Uから殴り掛かってきたと述べ、Uは、Gから急に殴り掛かられたと述べた。 Fを含む被告の職員は、翌▲日、再度GとUから本件傷害事件について事情聴取した。聴取時のGは、ハトのふん、ドアの開閉音、郵便物の受渡しの遅れなどの本件施設に対する不満を述べた。被告の職員が、Uから殴り掛かってきたと述べるGに、防犯カメラの映像を見せたところ、Gは「そんなごちゃごちゃ Gは、ハトのふん、ドアの開閉音、郵便物の受渡しの遅れなどの本件施設に対する不満を述べた。被告の職員が、Uから殴り掛かってきたと述べるGに、防犯カメラの映像を見せたところ、Gは「そんなごちゃごちゃ言うんやったら出て行く」と述べた。このため、被告の 職員は、Gに対し、本件傷害事件をGの姉と生活保護のケースワーカーに- 13 -報告した上で本件施設からの退居の話を進める旨を伝えた。 被告から報告を受けた本件センターの職員は、翌△日午前、Gのケースワーカーを訪問して、緊急保護施設などへの転居の相談をし、同日午後、転居候補先の資料を同ケースワーカーに交付した。 Gの姉は、同日午後3時頃、Gを訪ねた。このとき、Gは、Gの姉の面 前で泣き出し、前日の面談の内容については言えない、迷惑は掛けられないから籍を抜いてほしいなどと述べた。 (甲14、16、乙8、証人F)ク Gは、本件事件の前に自室で保管していたノートに、「10時までの人間が帰ってから凶行に移る」「11時になればC1人」「Cをハンマーでなぐ り殺したらもううごける」「ちゅうぼうは早くこじあけて油みつけて」「火をつけてケムリだらけにする」などと記載していた。上記ノートは、本件事件後、警察官により自室から発見された。(甲10、26、乙1)ケ被告においては、本件施設の入居者に生じた出来事や注意事項を記載し、職員に周知する申し送り事項に関するノートが作成されており、本件接触 事件及び本件傷害事件に関しては上記ノートにその概要が記載されている。ただし、本件接触事件や本件傷害事件を踏まえたGへの対応に関する具体的指示は被告から被告の職員に対してされたことはなかった。(甲15、証人F)⑶ 本件事件 ア Cは、令和3年11月△日午後9時2 や本件傷害事件を踏まえたGへの対応に関する具体的指示は被告から被告の職員に対してされたことはなかった。(甲15、証人F)⑶ 本件事件 ア Cは、令和3年11月△日午後9時20分頃、本件施設に出勤し、同日午後9時29分頃、Fが退勤して、以後、本件施設において一人で勤務した。その後、Cは掃除機やモップで1階の掃除をするとともに、非常扉や玄関扉を施錠などした後、同日午後10時28分頃、本件事務室に入り、カウンター窓のカーテンを下ろすなどした。Cが本件事務室に入室した後、 本件ドアは開放されていた。 - 14 -イ Gは、自室を出てエレベーターで1階に向かい、同日午後10時29分頃、エレベーターから降りるや、所携のかばんの中から金づちを取り出し、開放されていた本件ドアから本件事務室内に侵入し、本件事件に及んだ。 ウ Gは、同日午後10時29分頃、本件事務室から出て、1階厨房に向かったが、施錠されていた扉を開錠することができず、本件事務室に立ち寄 った後、自室に戻った。その後、自室を出て、1階非常扉から建物外に出た後、同所から建物内に戻り、本件事務室に入って廊下側から本件ドアを閉めるなどした。そして、再び1階非常扉から建物外に出て、同所から建物内に戻り、1階洗濯室に出入りするなどした後、同日午後10時40分頃、自室に戻り、その後ベランダから飛び降りて自殺した。 エ令和3年11月★日午前6時35分頃、本件施設敷地内で倒れているGが発見され、その後通報を受けて駆け付けた警察官によって、同日午前7時05分頃、本件事件が発覚した。 (甲13、26、乙1)⑷ 本件事件後 本件事件後、被告は、職員に対し、不安を解消するため、警備会社への連絡がつながる防犯ブザーを配布し、 午前7時05分頃、本件事件が発覚した。 (甲13、26、乙1)⑷ 本件事件後 本件事件後、被告は、職員に対し、不安を解消するため、警備会社への連絡がつながる防犯ブザーを配布し、夜勤に従事する職員の数を1名から2名に増員するとともに、本件事件から1週間後には、本件事務室の扉に掛け金錠の内鍵を取り付けた。Fは、内鍵取付け後、職員に対し、その旨及びもし何かあれば中から鍵を掛けられる旨周知した。(乙5、14、証人F) 2 争点①(本件事務室の設置又は保存に瑕疵があったか)について本件事件当時、認定事実⑴ウのとおり、本件ドアには、内側から施錠することができる本件電子錠が設置されており、本件事務室で勤務する職員は、本件施設内に設置された防犯カメラ映像を確認し、本件事務室に来訪する者を確認できる状態にあった。本件施設が介護サービスを提供する有料老人ホームであ ることを考慮すれば、これらの設備が適切に利用されれば、通常想定される施- 15 -設の状況において、本件事務室内で勤務する職員の安全を確保することは可能であったといえるから、本件事務室は施設の一般的な性質に応じた通常有すべき安全性が一応確保されていたということができる。 なお、原告らは、本件事務室が通常有すべき安全性の程度を考えるに当たって、Gが本件事件以前に本件接触事件や本件傷害事件を引き起こしたことも考 慮すべきであると主張する。しかしながら、本件事務室の一般的な性質に応じて通常有すべき安全性を考えるに当たっては、上記事象まで考慮するのは相当とはいえず、採用することができない。 したがって、被告が工作物責任を負うとは認められない。 3 争点②(被告のCに対する安全配慮義務違反があったか)について ⑴ 労働者は、労働契約に えず、採用することができない。 したがって、被告が工作物責任を負うとは認められない。 3 争点②(被告のCに対する安全配慮義務違反があったか)について ⑴ 労働者は、労働契約に基づき、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うのであるから、使用者は、労働者が労務提供のため設置する場所、設備若しくは器具等を使用し又は使用者の指示の下に労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っているものと解される。 ⑵ア前提事実⑵エ、認定事実⑴イのとおり、被告は、Cに対し夜10時から翌朝9時まで職員1名での夜勤を命じ、勤務の場所を本件施設と指示し、勤務時間内には、本件施設を清掃することや被告の介護サービスを受けている入居者を2時間置きに巡視することほか、その他の時間は本件事務室で事務作業をすることを指示していた。 イまた、認定事実⑴、⑵の各ウのとおり、Cを含めた被告の職員の本件施設における勤務場所である本件事務室には、本件ドアの廊下側に「関係者以外立入禁止」との標示が貼られていたが、被告の職員の了承を得ないまま、入居者が本件事務室に日中の時間帯に勝手に立ち入ることもあり、Gも2か月に1回程度郵便物の受取や苦情を述べる目的で本件事務室を訪問 していたのであるから、職員が一人で勤務する夜勤時間帯にGを含む本件- 16 -施設の入居者が本件事務室に勝手に立ち入ることは、被告にとって想定される事態であったということができる。 さらに、認定事実⑵イ、エ、カ、キのとおり、Gについては、本件施設において過去に規則違反行為を行っており、本件事件の約2週間前である令和3年11月●日頃には、Gは立入りが禁止 とができる。 さらに、認定事実⑵イ、エ、カ、キのとおり、Gについては、本件施設において過去に規則違反行為を行っており、本件事件の約2週間前である令和3年11月●日頃には、Gは立入りが禁止されている本件施設1階の 談話室に来て、休憩中の職員に苦情を述べた上、職員の近くで椅子を蹴り椅子を職員に当てるという本件接触事件を起こし、本件事件の3日前である同月〇日には、Gは他の入居者の振る舞いに腹を立てて、一方的に同人に殴る蹴るの暴行を加える本件傷害事件を起こし、同月▲日の事情聴取において、Gは、本件施設に対する不満を職員に述べたものの、本件傷害事 件に関する自己の言い分を防犯カメラの映像によって排斥されて、長らく生活の本拠であった本件施設からの退居を余儀なくされていた。 このようなGの本件施設における経緯に照らせば、Gは、本件事件直前に、本件施設に対して強い不満を抱き、かつ、自らの感情を適切に制御することができないために、被告の職員や本件施設の他の入居者に粗暴な行 動に繰り返し及ぶという状態に至っていたということができる。そして、本件施設においてGに対応していた被告は、Gが上記の状態に至り、被告の職員や本件施設の他の入居者の身体に危害を加える具体的な危険性があることを認識しており、上記の認識の下でGの本件施設からの退居手続を進めていたということができる。 ウ以上のア、イによれば、Gの本件施設からの退居手続が完了していない令和3年11月△日の時点では、Gが本件施設において他の入居者や被告の職員に対して粗暴な行為に及ぶ具体的な危険性があったのであり、被告の職員であるCに対する関係では、安全配慮義務として、上記の危険性に適切に対処し、生命身体に危害が及ぶことを防ぐ措置を採るべき義務を負 っていたと 為に及ぶ具体的な危険性があったのであり、被告の職員であるCに対する関係では、安全配慮義務として、上記の危険性に適切に対処し、生命身体に危害が及ぶことを防ぐ措置を採るべき義務を負 っていたというべきである。 - 17 -そして、採るべき措置の具体的内容としては、想定されるGの危険性や被告の職員の本件施設における勤務の内容、設備の状況等に照らせば、次の①、②のようなものであったというべきである。 ① 被告が、被告の職員に対して、Gの直近の言動及び本件施設に対する不満について周知し、本件施設で勤務する際には、Gの動静に注意を払 ったり、Gとの接触を減らしたりするよう指導する(Gの危険性の周知と被害予防方法の指導)② 被告の職員が1名のみとなる夜勤の時間帯においては、取り分けGに対する監視やGによる粗暴行為の制止が困難であるから、少なくともGが本件施設から退居するまでの期間、勤務する職員の数を一時的に増や したり、これまで被告の職員が本件事務室に在室時には開放することが多かった本件ドアについても、内側から施錠できるように新たに錠を取り付けたりこれまで使用していなかった本件電子錠の使用方法を被告の職員に説明して、その使用を促し、少なくとも本件事務室を本件施設の入居者が無断で侵入ができない状況にする(夜勤時間帯における危害防 止措置の実施)⑶ア認定事実⑵ケのとおり、被告においては、本件施設の入居者に関して生じた出来事などを記載し、職員に周知するための申し送り事項に関するノートが作成されていたが、本件接触事件や本件傷害事件に関する記載は概括的なものにとどまり、かつ、これらを踏まえたGへの対応に関する具体 的指示は被告の職員にされていなかった。以上によれば、被告による職員に対するGの危険性 触事件や本件傷害事件に関する記載は概括的なものにとどまり、かつ、これらを踏まえたGへの対応に関する具体 的指示は被告の職員にされていなかった。以上によれば、被告による職員に対するGの危険性の周知と被害予防方法の指導は適切に行われていなかったと認められる。 なお、Fは、午前8時45分から午前9時までの間に行われる朝礼において、職員と共有すべき事項を伝達していた旨供述するが、朝礼で共有さ れた内容を的確に認定できる証拠はないことに照らせば、上記供述は、被- 18 -告の職員に対するGの危険性の周知が適切に行われていなかったとの判断を左右しない。 イまた、認定事実⑴ウ、⑶ア、イのとおり、本件事務室には本件電子錠が設置されていたものの、その使用方法が被告職員に周知されていなかったために本件ドアを内側から施錠することができなかった上に、本件事件の ときも、Cは一人で、かつ、本件ドアを開放して本件事務室において勤務していた。 以上によれば、被告は、本件傷害事件後Gが本件施設を退居するまでの間、Gによる粗暴行為に備えて、職員に対し、本件電子錠の操作方法を指導して本件ドアを施錠した上で本件事務室において執務することを指導し たり、一時的に夜勤の職員の配置人数を増やしたりするなどといった検討をすることなく、本件施設の入居者による立入りが極めて容易な状態にある本件事務室において、従前どおり、Cを含む被告の職員に夜間一人での勤務を行わせていたということができ、夜勤時間帯における危害防止措置を実施していなかったということができる。 ウそして、認定事実⑵ク、⑶ウのとおり、Gは、本件事件前に、C殺害後、本件施設1階の厨房に侵入することを計画していたが、本件事件後、本件事務室を出て1階の厨房に向かったものの、施 ウそして、認定事実⑵ク、⑶ウのとおり、Gは、本件事件前に、C殺害後、本件施設1階の厨房に侵入することを計画していたが、本件事件後、本件事務室を出て1階の厨房に向かったものの、施錠されていたため侵入を断念した。以上の経過に照らせば、被告からCに対して本件施設においてGが粗暴行為に及ぶ危険性があることを知らせ、本件事務室についてもCが 内側から本件ドアを施錠し、訪問してきたGに対しドア越しに用件を確認するなどの方法により応対することができる状況にあれば、GがCの殺害計画の実行を断念した可能性があったということができ、上記⑵ウで検討した被告の安全配慮義務についてはこれが尽くされていれば、Cの死亡という結果の回避可能性があったと認められる。 エ以上によれば、被告は、Cを含む被告の職員に対して安全配慮義務を尽- 19 -くしていなかったというべきであり、この不履行は、被告の職員であるCに対する不法行為を構成するものと認められる。 ⑷ 被告及び被告補助参加人の主張についてア被告は、本件の安全配慮義務の前提となる予見可能性の対象は、GがCに殺意を抱き、Cを殺害するという本件事件の内容であるところ、被告は 本件事件の内容を予見することができなかったから、被告は、Cに対する安全配慮義務を負わないと主張する。 しかし、安全配慮義務の前提となる予見可能性は、発生した事故の個別、具体的な内容を予見することが可能であったかではなく、業務内容や人的・物的構成、職場環境等を総合的に考慮して当該事故が発生することを客観 的に予測することが可能であったかを問題とすべきである。本件で、被告は、本件事件前に、Gが本件施設において被告の職員や他の入居者に粗暴行為に及ぶ危険性があること及びGが本件 生することを客観 的に予測することが可能であったかを問題とすべきである。本件で、被告は、本件事件前に、Gが本件施設において被告の職員や他の入居者に粗暴行為に及ぶ危険性があること及びGが本件施設に居住している状況で、内側からの施錠ができない本件事務室で被告の職員が夜間一人で勤務することが危険であることを認識していたのであるから、本件の安全配慮義務の 前提となる予見可能性を基礎付ける事情に関する被告の認識に欠ける点はなく、被告の主張は採用できない。 イ被告は、Gの問題行動に対しては適切に対処し、本件傷害事件については職員に対し情報提供を行っており、安全配慮義務を尽くしていた旨主張するが、このような主張が認められないことは、上記⑶ア、イで検討した とおりである。 4 争点③(被告の安全配慮義務違反とCの死亡との因果関係)について⑴ 上記3のとおり、被告が安全配慮義務を尽くしていれば、本件事件は生じず、本件事件によりCは死亡していなかったということができる。よって、被告の安全配慮義務違反とCの死亡との間の相当因果関係は認められる。 ⑵ 被告は、原告らが主張するような措置を採っていたとしても、Cが本件施- 20 -設の本件事務室以外の場所で勤務している際に殺害されることを防ぐことはできなかったから、被告の安全配慮義務違反とCの死亡との間に相当因果関係はない旨主張する。 しかし、本件事件は、あくまで、Gが本件事務室に侵入し、本件事務室で勤務していたCを殺害したというものであるところ、被告の上記主張は仮定 的な事実経過を前提とするものであって、本件事件に関する相当因果関係の判断を左右するものとはいえない。なお、被告が、労働契約に基づき、本件施設の本件事務室以外の場所で勤務中の職員に対して 仮定 的な事実経過を前提とするものであって、本件事件に関する相当因果関係の判断を左右するものとはいえない。なお、被告が、労働契約に基づき、本件施設の本件事務室以外の場所で勤務中の職員に対しても安全配慮義務を負っていることを勘案すれば、上記主張は、被告の安全配慮義務違反とCの死亡との相当因果関係を否定するものには当たらない。 5 争点④(損害額)について⑴ Cの損害ア死亡逸失利益前提事実⑴アのとおり、Cは、本件事件当時、被告において就労していたところ、甲第21号証によれば、前年の給与年収は161万4092円 であった。また、甲第22号証及び第23号証によれば、Cの令和3年4月分以降の老齢基礎年金及び老齢厚生年金の年額合計は61万4508円、令和4年中の企業年金連合会老齢年金は年額3万5613円であり、年金収入の年額は65万0121円であったと認められる。 そして、Cが本件事件当時68歳で一人暮らしであったこと(甲40、 原告B本人)などを考慮すれば、生活費控除率を、①給与収入については30%、②年金収入については生活費に充てられる割合が高いことを考慮して40%とみるのが相当である。 また、令和3年における68歳女性の平均余命は22年であるところ、逸失利益の対象となる期間等は、①給与年収については、就労可能期間を Cが従事していた職務の内容や原告の主張の内容等を考慮して9年と考え- 21 -て、これに対応するライプニッツ係数7.786を、②年金年収については、22年に対応するライプニッツ係数15.937を用いて計算するのが相当である。 以上によれば、給与収入に係る逸失利益は879万7124円、年金収入に係る逸失利益は621万6587円、その合計 年に対応するライプニッツ係数15.937を用いて計算するのが相当である。 以上によれば、給与収入に係る逸失利益は879万7124円、年金収入に係る逸失利益は621万6587円、その合計額は1501万371 1円と認められる。 [計算(給与)]基礎収入1,614,092 円×(1-生活費控除率0.3)×9 年に対応するライプニッツ係数7.786≒8,797,124 円[計算(年金)]基礎収入650,121 円×(1-生活費控除率0.4)×22 年に対応するライプニッツ係数15.937≒6,216,587 円 イ死亡慰謝料本件事件が故意による犯罪行為であること、本件事件で命を奪われたCの精神的苦痛は重大であり、Cの無念さは察するに余りあること及び被告の安全配慮義務違反の態様などをも総合考慮すれば、死亡慰謝料は2500万円と認めるのが相当である。 ウ以上によれば、Cに生じた損害は合計4001万3711円である。 ところで、前提事実⑸のとおり、原告らは遺族補償一時金として717万7000円の支給を受けているから、その塡補の対象となる損害と性質を同じくし、かつ、相互補完性を有する死亡逸失利益の元本との間で、損益相殺的な調整を行うのが相当である。 上記調整後の原告らが取得した損害賠償請求権の額は、合計3283万6711円であり、これを法定相続分2分の1で割り付けると、原告らが相続取得した損害賠償請求権の額は、それぞれ1641万8355円となる。 ⑵ 原告ら固有の損害 ア駆け付け費用- 22 -甲第20号証及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件事件発生のため、それぞれ自宅から本件事件発生現場である本件施設までの往復を余 原告ら固有の損害 ア駆け付け費用- 22 -甲第20号証及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件事件発生のため、それぞれ自宅から本件事件発生現場である本件施設までの往復を余儀なくされ、自家用車で移動したところ、その走行距離に応じたガソリン代及び有料道路通行料金を合計した額は、原告Aが1万4170円、原告Bが3117円であり、これらは被告の安全配慮義務違反と相当因果関係の ある損害と認められる。 イ原告ら固有の慰謝料原告らは本件事件によりかけがえのない母を失っており、その精神的苦痛は甚大である。甲第39号証、第40号証及び原告Bの本人尋問から認められる原告らとCとの心理的結び付きなど本件訴訟に現れた一切の事情 を考慮すると、原告らの精神的苦痛に対する固有の慰謝料(民法711条)はそれぞれ150万円と認めるのが相当である。 ⑶ 弁護士費用弁護士費用を除く損害費目について、原告Aが取得した損害賠償請求権の額は、合計1793万2525円、原告Bが取得した損害賠償請求権の額は、 合計1792万1472円である。 そして、上記損害額、本件事案の内容等に鑑み、相当因果関係内の弁護士費用をそれぞれ180万円と認める。 ⑷ 小括ア以上によれば、弁護士費用を含めた損害額は、原告Aが1973万25 25円、原告Bが1972万1472円となるが、原告らは、それぞれ1972万6999円を請求しているから、原告Aの認容額は1972万6999円となる。 イ被告は、Cの死亡によって発生する損害は特別損害に該当するところ、Cが死亡することについて予見可能性がなかったから、被告は上記損害を 賠償する責任を負わないと主張する。しかしながら、本件の被告がCに対- 23 - て発生する損害は特別損害に該当するところ、Cが死亡することについて予見可能性がなかったから、被告は上記損害を 賠償する責任を負わないと主張する。しかしながら、本件の被告がCに対- 23 -して負っていた安全配慮義務の内容に照らせば、Cの死亡の結果が特別の事情によって生じた損害であるとはいえないから、上記被告の主張は採用できない。 ウまた、被告は、上記損害は本件事件によって発生したところ、本件事件は専らGの責任によって発生したから損害の衡平な分担という観点から、 被告が損害賠償責任を負うべきではないとも主張する。 確かに、本件事件には、Gの故意行為が介在しており、GがC又は原告らに対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 しかしながら、上記3において検討したとおり、被告もCに対して安全配慮義務を負い、これを怠ったことによってCの死亡の結果が生じたとい えるから、Gの故意行為が介在していることをもって、Cの死亡の結果による損害の負担を免れることはできないというべきである。なお、本件事件において、被害者であるCに何らの落ち度があるとは認められないにもかかわらず、被告主張にかかる事情をもって、従業員に対する安全配慮義務を怠った被告に対して原告らが請求できる金額を減額することを認める 法的根拠は存在しないし、そのような減額は原告らと被告との損害の衡平な分担の観点からも許容される余地はない。 6 結論以上によれば、原告らの主位的請求は理由がないからこれを棄却し、原告らの予備的請求は、原告Aについてはすべて理由があり、原告Bについては、1 972万1472円及びこれに対する本件事件の日である令和3年11月△日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限 ついてはすべて理由があり、原告Bについては、1 972万1472円及びこれに対する本件事件の日である令和3年11月△日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 なお、訴訟費用については原告Bの予備的請求の棄却部分が僅かであること を考慮して、民訴法64条ただし書、61条及び68条を適用して、すべて被- 24 -告及び被告補助参加人の負担とし、仮執行免脱宣言については相当でないからこれを付さない。 大阪地方裁判所第22民事部 裁判長裁判官松本展幸 裁判官村瀬洋朗 裁判官清水康平 - 25 -(別紙の掲載省略)
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