- 1 -主文原判決を破棄する。 被告人を無期懲役に処する。 原審における未決勾留日数中210日をその刑に算入する。 理由 検察官の控訴の趣意は検察官見越正秋作成の控訴趣意書提出書添付の検察官松田成作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は弁護人宮重義則作成の答弁書に,被告人の控訴の趣意は弁護人宮重義則作成の控訴趣意書に,それぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。 弁護人の事実誤認の主張について論旨は,原判示第1の犯行について,被告人は,被害者を殺害した後に窃盗の,,意思が生じたのであるから殺人と窃盗の罪責を負うに過ぎないにもかかわらず強盗殺人罪の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。 所論にかんがみ記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せ検討するに,本件強盗殺人に関する原判決の事実認定は,事実認定の補足説明の項において認定説示するところも含めて,正当として是認できる。原判決に所論の事実誤認はない。以下,所論に即して付言する。 (1)原判決挙示の関係証拠によれば,本件の経緯等について,以下の事実が認められる。 ①被告人は,平成16年5月ころからAと交際を始め,間もなく,同女の母親であるB(以下「被害者」という)方において,同女,Aおよびその娘2人と同居して暮らすようになった。Aは,平成17年1月ころ,被告人の子を妊娠したことに気付いたものの,被告人に生活力がないことから中絶しよう,,,と考え被告人にその旨話したところ被告人が曖昧な態度をとったことや自分の思い通りにならないとすぐに不機嫌になる性格を一向に直そうとしな- 2 -かったことなどから,同年2月上旬ころ別れ話を切り出し,同月下旬ころ,被告人は,被害者方を追い出されて実家に戻った(以下 分の思い通りにならないとすぐに不機嫌になる性格を一向に直そうとしな- 2 -かったことなどから,同年2月上旬ころ別れ話を切り出し,同月下旬ころ,被告人は,被害者方を追い出されて実家に戻った(以下,特に断らない限り日付は平成17年である)。 ②被告人は,Aへの未練を断ち切れず,同女に対し電話やメールで復縁を迫っては固く拒まれていたところ,復縁できないのは,被害者が,そのように,。 Aに仕向けているのではないかなどと思い被害者への憤懣を募らせていた③被告人は,Aの中絶の意思が固いことを知り,中絶することに同意し,さらに中絶費用30万円の半額を負担することを渋々承諾した。ところが,Aは,当初に予定していたのとは別の産婦人科医院で中絶手術を受けることとなり,中絶費用が35万円必要となった。被告人は,3月31日ころ,Aからその旨聞かされ,不満をもらしたものの,最終的にはその半額である17万5000円を負担することを約束した。しかし,内心では当初約束した15万円を支払えばよいと考えた。 ④Aから中絶することを打ち明けられた被害者は,4月2日の午後,被告人,,に電話をかけて中絶費用の話をし互いに激しい口調で怒鳴り合った挙げ句被告人は,中絶費用のうち17万5000円を負担し,同月3日に被害者方に2万5000円を,同月6日にAの入院先に15万円をそれぞれ持参することを約束させられた。 ⑤被告人は,金策に奔走し,知人から借金したり,勤務先のラーメン店から給料を前借りしたりして,ようやく5万円を工面し,同月4日午前零時過ぎころ,被害者が留守であることをAに確認した上で,被害者方に行き,Aに対し上記2万5000円と従前に被害者から借りていた7000円との合計3万2000円を支払ったものの,同月6日までに15万円を用意する当てはなかった。 ま とをAに確認した上で,被害者方に行き,Aに対し上記2万5000円と従前に被害者から借りていた7000円との合計3万2000円を支払ったものの,同月6日までに15万円を用意する当てはなかった。 また,金策に窮した被告人は,同月2日の夜,路上強盗をしようと考え,自宅の台所にあった刃体の長さ約124センチメートルのナイフ(以下本. 「- 3 -件ナイフという)を普段持ち歩いているバッグ(以下本件バッグという)」「」に入れ,同月3日および4日は,本件ナイフをジャンパーのポケットに忍ばせて強盗の機会をうかがうなどしたが,決心がつかず実行しなかった。 ⑥被告人は,同月5日,勤務先のパチンコ店から給料5万円を前借りし,所持金が約6万2000円となったものの,15万円にはほど遠く,これを稼ぎ出そうとスロットをして大負けし,所持金が約4000円になってしまった。被告人は,一旦自宅に戻った後,同日午後11時過ぎころ,本件バッグを持ち,自転車に乗って出かけ,10万円を何とかすると言ってくれていた最後の頼みの綱である友人に電話したものの,金の用意はできなかったと言われ,遂に翌6日までに15万円を用意することは不可能となった。 ⑦被告人は,軍手を両手にはめ,自転車に乗って被害者方に向かい,同日午後11時半ころ,被害者方から少し離れた工事現場前に自転車を止めた。そして,本件バッグの中に入れていた本件ナイフを取り出し,着ていたジャンパーの右下ポケットに入れた。被告人は,歩いて被害者方に向かい,一度被害者方を通り過ぎて,近くの駐車場でタバコを吸うなどした後,同月6日午前零時ころ,被害者方を訪ねた。被害者は,一人で在宅しており,被告人を1階居間に通した。 ⑧被告人は,被害者方居間において,被害者に対し,金を貸してくれるはずの友人が金を工面でき た後,同月6日午前零時ころ,被害者方を訪ねた。被害者は,一人で在宅しており,被告人を1階居間に通した。 ⑧被告人は,被害者方居間において,被害者に対し,金を貸してくれるはずの友人が金を工面できないため,同日中に中絶費用の負担金を準備できないので,二,三日待って欲しい旨言ったところ,被害者から「あんた都合がい」「。 」いんじゃないんあんたは今日何しよったんあんたの親は何しよったん「あんたがあんたなら,その連れも連れよね」などと激しくなじられて激高し,同日午前零時30分ころ,原判示のとおり,被害者の胸部,腹部等を本件ナイフで多数回突き刺すなどして殺害した。 ⑨被告人は,被害者を殺害後,被害者方玄関の鍵を捜しに玄関へ行ったが,見付けることができなかった。被告人は,被害者のところに戻り,その腰か- 4 -,,らウェストポーチを外して中にあった同女の携帯電話機の電源を切った後同ポーチの中を捜して,二つ折りの財布と小銭入れを見付けた。被告人は,カード等しか入っていない二つ折りの財布は捨て,硬貨が10枚くらい入っている感触のあった小銭入れをジャンパーの胸ポケットに入れた。また,被害者が,強姦されそうになり抵抗して殺されたように仮装するため,被告人,。 ,,は被害者着用のジーパンと下着を膝下まで下ろしたそれから被告人は2階に上がって物色し,カウンター付き貯金箱および二つ折りの財布を見付けたが,いずれもめぼしいものは入っていなかった。さらに,被告人は,1階に戻って居間のテレビの下にある物入れの中を物色したが,現金は見付からなかった。 その後,被告人は,自己の犯行であることを隠す目的で,1階台所にあった灯油入りポリタンクを持って,その中の灯油を,階段,台所,居間,被害者の死体,居間に置かれていた衣類等にまき,その途中で居間 た。 その後,被告人は,自己の犯行であることを隠す目的で,1階台所にあった灯油入りポリタンクを持って,その中の灯油を,階段,台所,居間,被害者の死体,居間に置かれていた衣類等にまき,その途中で居間の窓のカーテンが少し開いていたのを閉めるなどした上,灯油のかかった衣類にライターで点火し,炎が上がるのを確認してから,同日午前1時前ころ,被害者方を出た。被告人は,自転車を止めた場所に戻り,血の付いた本件ナイフをタオルに包んで本件バッグに入れ,途中,軍手や血で汚れた靴下を川に捨てるなどし,コンビニエンスストアに立ち寄って漫画を立ち読みするなどした後,自宅に戻った。 (2)本件犯行当日の経緯等についての被告人の捜査段階における供述は,以下のとおり要約することができる。 Aとよりを戻すことをあきらめていなかったので,被害者の信用をこれ以上失わないため,被害者方に行き,中絶費用ができなかったことを謝るしかないと思った。しかし,4月2日の電話の態度から考えると,被害者は,謝っても許してくれず,いろいろ言って怒鳴るだろうと思った。4月2日の電話で被害者が口出ししなければ,中絶費用の問題は私とAの2人だけの問題のままであ- 5 -り,当初約束した15万円は何とか用意できていたのに,被害者が口出しして17万5000円を負担することとなり,スロットに手を出して金を失う羽目となったが,その原因は被害者にあると思った。Aとよりが戻らない一番大きな原因は,被害者の存在であり,Aとの間を邪魔する存在であるという気持ちもあった。被害者のことをいろいろ考えているうちに,被害者に対する憎しみがどんどん大きくなり,被害者を本件ナイフで刺し殺してやろうという考えが頭に浮かんだ。そして,もし被害者を殺すことになったら,被害者の家にある。 ,,金を取ってやろうと考えた被 者に対する憎しみがどんどん大きくなり,被害者を本件ナイフで刺し殺してやろうという考えが頭に浮かんだ。そして,もし被害者を殺すことになったら,被害者の家にある。 ,,金を取ってやろうと考えた被害者方で以前Aと同棲していたので被害者がそのウェストポーチの中に財布を入れていることや,被害者が交際している男性が百円玉を入れる貯金箱,2階の被害者の部屋のどこかにあるカウンター式貯金箱や二つ折りの財布の存在は知っていた。 午後11時半ころ,被害者方のすぐ近くまで来たが,謝って許してもらえなければ被害者を殺そうかと思っていたので,被害者方の前に自転車を止めているのを近所の人に見られてはまずいと思い,その手前にある工事現場の前に自転車を止め,本件ナイフを着ていたジャンパーのポケットに入れた。被害者を絶対殺してやろうと決心するまでにはなっておらず,被害者方の前を通り過ぎて,近くの駐車場に行きタバコを吸った。被害者が支払を待ってくれる可能性が低いことは分かっていたが,殺してはいけない,どうにかなるものならという気持ちがあった。 被害者方に上がり,被害者の言葉に,何でここまで言われないといけないのかという怒りがどんどんこみ上げてきて,被害者に対する憎しみがとうとう抑えきれなくなり,本件ナイフで被害者を刺し殺そうと決意した。 (3)他方,被告人は,原審および当審各公判廷において,本件の経緯等について,捜査段階とは異なる供述をしているところ,その内容は,表現に若干曖昧なところがあるものの,以下のとおり要約することができる。 被害者方に行ったのは,4月6日に15万円を支払うという約束をしたけれ- 6 -ども,それを守れそうにないので,被害者に謝ろうというつもりだった。謝っても駄目な場合は殺そうという意識まではなかった。本件ナイフをジャンパーのポケットに入 を支払うという約束をしたけれ- 6 -ども,それを守れそうにないので,被害者に謝ろうというつもりだった。謝っても駄目な場合は殺そうという意識まではなかった。本件ナイフをジャンパーのポケットに入れたのは,被害者に頭を下げて通らなかったときに,被害者に対し,本件ナイフを突き付けるなど,暴力まがいのことをして脅かしてでも,金を払うのを二,三日待ってくれというふうに言おうと思ったからである。Aとの関係は,まだつなぎ止めておきたかった。被害者に本件ナイフを突き付けて脅すということになれば,Aとの関係がもう無理なのは分かっていた。金のことで切羽詰まっていたので,Aとの関係を続けることが無理なのであれば,中絶費用はもう払わなくてもいいということまでは考え及ばなかった。被害者の言葉に憤激した。被害者が,友人のことを言いながら台所の方に歩いて行った態度と言葉が重なって,頭に来て被害者を刺して殺害した。被害者を殺害するときは,金品を取るつもりはなかった。被害者を殺害した後,金を盗もうと考えた。金を奪う目的で殺意が生じたわけではない。被害者を殺害後,事件の発覚を遅らせるために玄関に施錠し,被害者の携帯電話機の電源を切って被害者方を出ようと思い付き,被害者のウェストポーチの中を捜したところ,鍵は見付からず,かわりに財布を見付けたため,金を取ろうという気持ちになり,盗みの意思が生じた。その延長で2階に上がって物色した。 (4)そこで,被告人の供述の信用性を検討するに,所論は,①被告人の警察官調書は,被害者の殺害後に物色行為をしている事実に照らし,被害者の殺害前から金品奪取の意思を有していたに違いないという警察官の思込みのもと,被告人に対して強圧的な誘導を行った結果作成されたものであり,同調書中の金品奪取の意思の発生時期に関する記載については,供述の任意性 ら金品奪取の意思を有していたに違いないという警察官の思込みのもと,被告人に対して強圧的な誘導を行った結果作成されたものであり,同調書中の金品奪取の意思の発生時期に関する記載については,供述の任意性および信用性がない,②被告人の検察官調書は,被告人が,読み聞かされた際,金銭奪取の意思を生じた時期に関する供述は事実と異なるとして,訂正を申し出たにもかかわらず,検察官に拒否されたため,それ以上反抗的な態度を示せば検察官の心証を害すると考えて,安易に迎合した結果作成されたものであるから,この- 7 -点に関する供述は信用性がない旨主張する。 上記(4)②について検討するに,被告人の検察官に対する供述は,上記(1)の認定事実の流れに沿って,本件殺害の決意に至るまでの揺れ動く気持ちを詳細に述べており,特に不自然なところはなく,迫真性や臨場感に富んだ内容となっている上,上記(1)の認定事実や本件現場の状況等の客観的な状況ともよく符合している。そして,被告人は,原審公判廷において,検察官から,取調べの際,強盗殺人罪の被疑事実で取調べをする旨告げられ,同罪について説明を受けて,同罪が,金を取るつもりがあって人を殺した場合に成立する犯罪で,定められている刑は死刑か無期懲役という重い刑しかないことも承知した上で,被害者方に向かう途中,金を取るために被害者を殺してやろうとは思っていないが,被害者を殺したらついでに金を取ってやろうと思っていたなどと述べた旨供述していることに徴すると,検察官の心証を害すると考えて安易に迎合したという被告人の公判供述は不自然である。被告人の検察官調書は,十分信用することができる。 また,上記(4)①についてみるに,本件の事実関係の下では,捜査官としては,被告人が,被害者を殺害する前から財物奪取の意思を有していたのではないかと疑 人の検察官調書は,十分信用することができる。 また,上記(4)①についてみるに,本件の事実関係の下では,捜査官としては,被告人が,被害者を殺害する前から財物奪取の意思を有していたのではないかと疑い,その点について被告人を追及するのは当然のことであるところ,捜査段階における被告人の警察官に対する供述の任意性に疑いを差し挟むような事情は窺えないし,被告人の警察官調書は,金品奪取の意思の発生時期について,信用性の高い被告人の検察官調書と同旨である。 これに対し,被告人の原審および当審における各公判供述は,曖昧な点が多々みられるほか,上記(1)の認定事実と整合しない。すなわち,被告人の公判供述のとおりであるとすると,被告人は,被害者に謝罪するつもりで被害者方を訪れた際,謝罪を受け入れてもらえない場合であっても,本件ナイフを示して被害者を脅すことまでは考えていたものの,そのナイフで被害者を傷つけることまでは考えておらず,ましてや殺害することなど全く念頭になかったにも- 8 -かかわらず,被害者の発言に憤激して,とっさに殺意を生じて被害者を殺害してしまったというのである。このような場合は,思いがけずに被害者を殺害することになってしまったという意外な展開に呆然としたり,慌てたり動揺したりするのが自然な反応であると考えられる。ところが,被告人は,そのような素振りを全く見せることなく,被害者の殺害直後から,被害者方玄関の鍵を捜し,被害者の携帯電話機の電源を切り,被害者の小銭入れを奪い,被害者が強姦されそうになったように仮装し,被害者方をあちこち物色し,さらに放火行為に及ぶなどの犯跡隠蔽工作をしている。しかも,鍵を捜したのは,死体の発,,見を遅らせるために被害者方玄関に施錠して逃げようという考えからであり携帯電話機の電源を切ったのは,被害者に電話 放火行為に及ぶなどの犯跡隠蔽工作をしている。しかも,鍵を捜したのは,死体の発,,見を遅らせるために被害者方玄関に施錠して逃げようという考えからであり携帯電話機の電源を切ったのは,被害者に電話がかかってきた際,呼出音がするにもかかわらず被害者が電話に出なければ,不審に思われて事件が早く発覚するので,それを妨げるためであるというのである。そして,被告人は,要領よく物色し,被害者が強姦被害にあったかのように仮装し,ついには犯跡を隠すために灯油をまいて放火しているところ,灯油をまく途中で居間のカーテンが少し開いていたのを閉めたのは,外から炎が見えて,早期に火災を発見されるのを妨げるためであるというのである。このように,被告人が,殺害直後から落ち着いて冷静に行動していることに照らすと,被害者を本件ナイフで単に脅そうと考えていたに過ぎなかったとは考え難い。また,Aとよりを戻すことを強く望んでいながら,その母親である被害者に対し,ナイフで脅してでも中絶費用の支払を猶予してもらおうと思ったというのは,明らかに矛盾した行動であり,被害者を脅すために本件ナイフをジャンパーのポケットに隠し持っていたというのは不自然不合理である。 したがって,被告人の捜査段階における供述は十分に信用することができ,これに反する被告人の原審および当審における各公判供述は信用できない。そして,上記(1)の認定事実および十分に信用できる被告人の捜査段階における供述を総合すると,被告人が,強盗殺人の故意を有していたことは優に認定す- 9 -ることができる。 (5)なお,所論は,被告人の自白調書を前提としても,本件の殺害動機は100パーセント被害者への怨恨であって,殺害行為に着手した時点で財物奪取の意思が存在していたと解するのは不可能であり,被告人は,被害者を殺害後,被害 告人の自白調書を前提としても,本件の殺害動機は100パーセント被害者への怨恨であって,殺害行為に着手した時点で財物奪取の意思が存在していたと解するのは不可能であり,被告人は,被害者を殺害後,被害者方に赴く途中で金品があれば奪取しようと考えていたことを思い出して行動したに過ぎないから,強盗殺人罪の責を負わない旨主張する。 たしかに,関係証拠によれば,被告人は,被害者の言動に激高して被害者の殺害を決意したと認めるほかなく,その時点では,怒りに我を忘れており,金品を奪うことはほとんど意識していなかったと考えられる。 しかし,上記(1)で認定したとおり,被告人は,被害者方に赴く途中,確定的に決意するまでには至っていないものの,被害者に謝罪して許してもらえない場合は被害者を殺害しようと考え,そのときは被害者方にある金員を奪おうと考えていたこと,それまでの経緯から,謝罪しても被害者は許してくれない可能性が高いと認識していたこと,被害者殺害後,動揺したり躊躇したりすることなく,直ちに物色行為を始めて小銭入れを奪ったほか,放火等の犯跡隠蔽工作をしたことなどが認められる。そして,これらの事実を全体的に観察すると,被告人は,被害者方に来る途中の時点では,被害者を殺害する事態を可能性が高いこととして予期しており,被害者の言動が引き金となって殺害を決意した後,被害者方に来る途中に思い描いていたとおりに犯行を実現していることに照らすと,被害者の殺害を決意した時点では,怒りに我を忘れて財物奪取の点まで明確に意識していなかったとしても,その時点においても財物奪取の意思が併存していたと認められるから,強盗殺人罪の故意に欠けるところはない。 (6)そのほか,所論が種々指摘するところを検討しても,原判決に所論の事実誤認はない。論旨は理由がない。 検察官および弁護人 存していたと認められるから,強盗殺人罪の故意に欠けるところはない。 (6)そのほか,所論が種々指摘するところを検討しても,原判決に所論の事実誤認はない。論旨は理由がない。 検察官および弁護人の各量刑不当の主張について- 10 -検察官の論旨は,無期懲役を酌量減軽した上,被告人を懲役25年に処した原判決の量刑は,著しく軽きに失して不当であるというのである。 他方,弁護人の論旨は,原判示第1の事実について,被告人は,殺人と窃盗の罪責を負うに過ぎないから,強盗殺人罪の成立を認めて被告人を懲役25年に処した原判決の量刑は,重過ぎて不当であるというのである。 所論にかんがみ記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せ検討する。 本件は,被告人が,かつて同棲していた元交際相手である女性の母親を刃体の長さ約12.4センチメートルのナイフで多数回突き刺すなどして殺害した上,同女所有の現金在中の小銭入れ1個を強取し(原判示第1),その際上記ナイフを携帯し(同第2),引き続き,上記強盗殺人の犯跡を隠蔽するため,木造瓦・亜鉛メッキ鋼板葺2階建の被害者方の室内等に灯油をまいて火をつけ,被害者方を全焼させるとともに,被害者の死体を炭化させるなどして損壊した(同第3)という事案である。 本件のうち強盗殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反の犯行についてみるに,被告人は,元交際相手の女性とよりを戻すことができないのは,その母親である被害者が反対しているからであるなどと考え,被害者に対する憤懣を募らせていたところ,元交際相手の中絶費用の負担金を約束した日までに用意できず,被害者に支払の猶予を求めたものの,立腹した被害者から激しくなじられるや,これまでの憤懣の情を爆発させ,本件殺害行為に及んだものである。元交際相手から別れ話を切り出されるなど,愛想を尽かされたの ,被害者に支払の猶予を求めたものの,立腹した被害者から激しくなじられるや,これまでの憤懣の情を爆発させ,本件殺害行為に及んだものである。元交際相手から別れ話を切り出されるなど,愛想を尽かされたのも,もとはといえば被告人の身勝手かつ無責任な言動が原因であり,本件の際,被害者が立腹して被告人を激しく,,ののしるなどしたのもそれまでの被告人の無責任でいい加減な言動に照らすと無理からぬことであるのに,そのことを全く省みることなく,筋違いの憎しみを募らせた挙げ句,本件凶行に至ったものである。被告人は,約9か月間も被害者,,方に同居させてもらったばかりか仕事の紹介まで受けた恩義に報いるどころか- 11 -最悪の結果を生じさせている。被害者の言動に触発されたとはいえ,本件は,まことに短絡的な犯行であり,その動機や経緯に酌量の余地は皆無である。 被告人は,刃体の長さ約12.4センチメートルのナイフで,被害者の左脇腹付近を思い切り突き刺し,逃げる被害者の背後から数回刺し,悲鳴を上げて倒れた被害者に馬乗りになって,その胸部等を数回思い切り突き刺し,さらに必死に命乞いをする被害者に対し文句を言いながら,その頸部等を数回刺すなどしていたぶったばかりか,被害者の絶命を確認するまでの間,被害者に馬乗りになり続けたものである。被害者は,身体の枢要部である胸部,背部,頸部等に14か所もの刺切創を負っている。上記のとおり,殺害の態様は,強固な殺意に基づく,執拗かつ冷酷で甚だ残忍なものであり,凶悪というほかはない。 被害者は死亡しており,結果が極めて重大であることはいうまでもない。被害者が味わった肉体的苦痛や恐怖は想像を絶するものであるとともに,人生半ばにして,その生に終止符を打たれた被害者の無念さは察するに余りある。しかも,被害者の遺体は,被告人の犯跡隠蔽工 までもない。被害者が味わった肉体的苦痛や恐怖は想像を絶するものであるとともに,人生半ばにして,その生に終止符を打たれた被害者の無念さは察するに余りある。しかも,被害者の遺体は,被告人の犯跡隠蔽工作により,下半身に着用していた衣類を下着ごと膝下まで下ろされるという辱めを受け,さらには放火により燃されて,全身が黒褐色に炭化し見るも無惨な姿に変わり果てている。 被告人は,被害者の殺害直後から,被害者方をあちこち物色して小銭入れを奪っており,典型的なものとは趣を異にするとはいえ,強盗殺人という極めて重大な罪を犯したものであって,強い非難に値する。被告人は,被害者方に赴く途中の段階において,被害者を殺害する事態を可能性が高いこととして予期し,自己が犯人であることが発覚するのを防ぐため,乗って行った自転車を被害者方から離れた場所に止め,軍手をはめたまま被害者方を訪ねたほか,被害者方の玄関に施錠してから逃走するという犯跡隠蔽工作を予め考えていたものであり,本件殺害直後から,事前に考えていたとおり,被害者方を物色して小銭入れを奪うなどしたのであるから,最終的に被害者の殺害を決意したのは犯行の直前であったと,,。 しても本件強盗殺人およびナイフの携帯が偶発的なものであるとはいえない- 12 -また,現住建造物等放火,死体損壊の犯行は,本件殺害行為の発覚を遅らせるため,被害者方の玄関に施錠して逃走しようと計画していたところ,その鍵が見付からなかったことから,灯油入りポリタンクを目にするや,本件強盗殺人の犯跡を隠蔽する目的で,被害者方屋内の数か所に灯油をまき,さらに被害者が刺創を負っているのを分からなくしようと考え,被害者の死体にまで灯油をかけて,火を放ったものである。被害者方もろとも被害者の死体を燃やし,その際,屋内にある元交際相手やその子らも使 ,さらに被害者が刺創を負っているのを分からなくしようと考え,被害者の死体にまで灯油をかけて,火を放ったものである。被害者方もろとも被害者の死体を燃やし,その際,屋内にある元交際相手やその子らも使用する衣類や家具什器等も燃えることや,近所,,の家屋に延焼するおそれなどを全く意に介さず罪証隠滅を図ろうとしたもので自己保身のみを考えた非道な犯行であり,その経緯や動機は,身勝手極まりない悪質なものである。本件放火は,人が寝静まった深夜,狭い路地が入り組んで消防車両が接近できないため消火活動が難しい住宅密集地において敢行されたものであり,しかも,火災の発覚を遅らせるため,窓のカーテンを閉めて逃走するなど,甚だ危険かつ悪質である。被害者方は全焼し,隣接した住宅にも延焼して,その一部を焼損している。本件放火による財産的損害は約1900万円と多額であるほか,元交際相手とその子らは,生活の基盤となる住居や家財道具等の一切を失ったのであり,結果はまことに重大である。付近住民に与えた不安も軽視することができない。また,殺害した被害者の死体を炭化させて余りにも無惨な姿にした点も,甚だ悪質であり,量刑においては十分考慮されなければならない。 被害者の遺族は,突如として最愛の被害者を失い,しかも放火されて住居もろとも被害者の死体を損壊されたものであり,その心中は筆舌に尽くし難く,遺族らの悲嘆の情や喪失感,憤りは激しい。特に,被害者の娘らは,最愛の家族ばか,。 ,りか住居や家財道具を含め文字通り総てを奪い去られたものであるしかるに被害弁償や慰謝の措置は一切講じられておらず,当然のことながら遺族らの処罰感情は峻烈である。 なお,検察官は,原判決が現住建造物等放火の犯行は計画性がない旨認定説示した点について,犯行発覚の阻止策として被害者方玄関に施錠して逃走しよ ておらず,当然のことながら遺族らの処罰感情は峻烈である。 なお,検察官は,原判決が現住建造物等放火の犯行は計画性がない旨認定説示した点について,犯行発覚の阻止策として被害者方玄関に施錠して逃走しようと- 13 -いう当初の計画を,鍵が発見できなかったことから,より危険で悪質な罪証隠滅行為に切り替えたのであり,本件現住建造物等放火等の犯行は事前に検討していた犯行発覚阻止策の延長線上にある旨主張する。しかし,現住建造物等放火の犯行は,犯跡隠蔽の目的でされたものではあるものの,被害者方玄関に施錠して逃走する行為とは質的に全く異なる行為であって,事前に検討していた犯行発覚阻止策の延長線上にあると評価するのは相当でなく,この点に関する原判決の説示は正当である。 ,,,被告人は本件各犯行後犯行の際に着用していた軍手や靴下を川に投棄して罪証隠滅工作をしており,犯行後の情状も芳しくない。また,被告人は,原審公判廷において捜査段階の自白を翻して以後,不合理な弁解に終始しており,十分に反省しているとはいい難い。 以上によれば,本件の犯情は極めて悪く,特に,強盗殺人を犯した直後,その犯跡を隠すために現住建造物等放火まで犯したことを考慮すると,被告人の刑事責任は極めて重大であるから,強盗殺人罪の法定刑である無期懲役を酌量減軽すべき事情があるかどうかについては,慎重な検討を要するというべきである。 かかる観点から,酌量すべき事情の有無について検討するに,原判決は,酌量減軽した主な理由として,本件強盗殺人は,金品を奪うという利欲目的が殺害の動機付けになっておらず,強盗目的を達成するために殺害したとか,強盗犯人がその機会に殺人に及んだというような典型的な強盗殺人の事案とは著しく趣を異にする旨説示する。 たしかに,本件殺害行為の主要な動機は,被害者に対する憤懣 強盗目的を達成するために殺害したとか,強盗犯人がその機会に殺人に及んだというような典型的な強盗殺人の事案とは著しく趣を異にする旨説示する。 たしかに,本件殺害行為の主要な動機は,被害者に対する憤懣の情を爆発させたことにあり,金品奪取の目的が,殺害の積極的な動機とはなっていない点において,典型的な強盗殺人の事案とは趣を異にするとの原判決の説示は,その限りにおいては正当である。 しかし,被告人は,被害者方に赴く途中の時点では,殺害行為に伴う副次的なものであったにせよ,被害者を殺害した場合は,被害者方にある現金を奪う意図- 14 -をも有していたのであり,現実にも,被害者を殺害した直後から被害者方を物色し,被害者の小銭入れを奪っている。そして,被告人が,被害者方を訪ねて居間に入り,約束の金を用意できなかったことを被害者に謝ったときには,被害者を殺害するようなことがあれば,ついでに現金を奪おうという意図を放棄していたのではないかと疑わせるような事情は全く見当たらない。しかも,本件犯行当時の被告人の経済状況に加え,被告人が元交際相手との復縁を強く望んでおり,被害者を殺害したとしても,なお中絶費用15万円を用意する必要に迫られていたと認められることなどを併せ考えると,被告人にとっては,被害者方の現金を奪うこともそれなりに意味のある行為であったと認めるのが相当であり,本件犯行に利欲的な側面もあったことは否定し難い。そうすると,本件が典型的な強盗殺人の事案とは「著しく趣を異にする」という原判決の指摘は,本件犯行の利欲的側面の評価を誤っているといわざるを得ず,この点を量刑上酌むべき事情として過大に評価することは許されない。 また,原判決は,酌むべき事情として「殺害行為についても,被害者方に赴,くまで逡巡や葛藤を繰り返した上,とにかく謝罪をして支払の ,この点を量刑上酌むべき事情として過大に評価することは許されない。 また,原判決は,酌むべき事情として「殺害行為についても,被害者方に赴,くまで逡巡や葛藤を繰り返した上,とにかく謝罪をして支払の猶予を得ようとしたが,結局,被害者の態度に逆上して殺害したものであって,綿密に計画された犯行とは考えられない」と説示している。しかし,被告人は,被害者方に赴く途中において,被害者に謝罪しても許してもらえない場合には,被害者を殺害しようと考え,かつ,被害者に許してもらえない可能性が高いことを認識していたのであり,本件殺害前後の被告人の行動をみても,被害者方に赴く途中に思い描いていたとおりの行動をしており,本件殺害行為が全く予想外の出来事であり,偶発的犯行であるとはいい難いのであって,ある程度の計画性は否定できないことにかんがみると「綿密に計画された犯行」でない点を酌むべき事情として格別,に斟酌するのは相当でない。 さらに,原判決は,酌むべき事情として「被告人が自らの犯行を認めて反省の情を示している」と説示している。たしかに,被告人は,強盗殺人の犯意の点を- 15 -除いて自らの犯行を認め,反省の弁を述べている。しかし,被告人は,前述したとおり,強盗殺人の犯意の点について,原審および当審各公判廷において,被害者の殺害後になって初めて金員を奪おうと思ったなどと述べ,捜査段階の自白を翻し,不自然不合理な弁解に終始しており,原審公判廷においては,元交際相手とよりを戻すことができないのは被害者のせいでもある旨述べるなど,十分に反省しているとは認め難く,この点についても,量刑上酌むべき事情として過大に評価することはできない。 そうすると,本件強盗殺人は,金銭奪取という利欲目的が殺害の主要な動機となっていない点において,典型的な強盗殺人とは趣を異にするこ についても,量刑上酌むべき事情として過大に評価することはできない。 そうすると,本件強盗殺人は,金銭奪取という利欲目的が殺害の主要な動機となっていない点において,典型的な強盗殺人とは趣を異にすること,強盗の被害は少額であること,現住建造物等放火は偶発的犯行であること,被告人は,強盗殺人の犯意の点を除き,本件各犯行を認めて反省の弁を述べていること,原判決後,自らの非について認識を深めつつあり,それなりに反省の態度を示してもいること,まだ22歳と若く前科前歴がないこと,被告人の実母が,原審公判廷において,被告人のために証言していることなど,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,前述したとおり,本件の犯情が極めて悪質であり,被告人の刑事責任が極めて重大であることにかんがみると,本件においては,酌量減軽することができるほどの事情はないというべきである。それにもかかわらず,無期懲役を酌量減軽して被告人を懲役25年に処した原判決の量刑は,軽きに過ぎるといわざるを得ない。検察官の論旨は理由があり,弁護人の論旨は理由がない。 そこで刑事訴訟法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,当裁判所において更に判決する。 原判決の認定した事実に原判決挙示の法令(科刑上一罪の処理,刑種の選択,併合罪の処理を含み,酌量減軽に関する部分を除く)を適用し処断して被告人を無期懲役に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中210日をその刑に算入し,原審および当審における各訴訟費用は,刑事訴訟法181条1,。 項ただし書を適用して被告人に負担させないこととして主文のとおり判決する- 16 -平成18年10月12日広島高等裁判所第1部裁判長裁判官楢崎康英裁判官森脇淳一裁判官友重雅裕 て被告人に負担させないこととして主文のとおり判決する- 16 -平成18年10月12日広島高等裁判所第1部裁判長裁判官楢崎康英裁判官森脇淳一裁判官友重雅裕
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