平成12(行ウ)62 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成13年9月27日 東京地方裁判所 その他
ファイル
hanrei-pdf-15520.txt

判決文本文10,315 文字)

主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,1億2000万円を支払え。 第2 事業の概要本件は,魚つき保安林に指定されている森林を所有する原告が,保安林指定のためにその使用収益を妨げられて損失を被ったと主張して,平成11年法律第87号による改正前の森林法35条に基づき,損失補償を求めている事案である。 1 森林法(昭和26年法律第249号。平成11年法律第87号による改正前のもの。以下「法」という。)の定め(1) 法の目的法は,森林計画,保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて,森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り,もって国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的とするものである。 (法1条)(2) 森林及び森林所有者の定義法において,「森林」とは,木竹が集団して生育している土地及びその土地の上にある立木竹並びに上記の土地のほか,木竹の集団的な生育に供される土地をいい,主として農地又は住宅地若しくはこれに準ずる土地として使用される土地及びこれらの上にある立木竹を除くものとされ,また,「森林所有者」とは,権原に基づき森林の土地の上に木竹を所有し,及び育成することができる者をいう。 (法2条1項,2項)(3) 保安林の指定農林水産大臣は,水源のかん養,土砂の流出の防備,土砂の崩壊の防備,飛砂の防備,風害,水害,潮害,干害,雪害又は霧害の防備,なだれ又は落石の危険の防止,火災の防備,魚つき,航行の目標の保存,公衆の保健,名所又は旧跡の風致の保存の目的を達成するため必要があるときは,森林を保安林として指定することができる。 (法25条1項)(4) 保安林の指定に伴う使用収益の制限等保安林の指定がされると,立木の伐採,立竹の伐採,立 保存の目的を達成するため必要があるときは,森林を保安林として指定することができる。 (法25条1項)(4) 保安林の指定に伴う使用収益の制限等保安林の指定がされると,立木の伐採,立竹の伐採,立木の損傷,家畜の放牧,下草,落葉若しくは落枝の採取,又は土石若しくは樹根の採掘,開墾その他の土地の形質を変更する行為について,都道府県知事の許可を要することとなるほか,立木を伐採した場合には,森林所有者は伐採跡地に植栽をしなければならない義務を負うこととなる。 (法34条1項,2項,34条の3)また,これらの規定に違反した者は,都道府県知事の監督処分を受けるほか,違反行為に対する罰則も設けられている。 (法38条,206条3号ないし5号,213条)(5) 損失の補償保安林の指定により通常受けるべき損失で平成11年法律第87号の施行(平成12年4月1日)前に発生したものに係る補償については,なお従前の例によると定められているところ(同法86条3項),同法による改正前の法35条(以下,単に「法35条」という。)は,国は,保安林として指定された森林の森林所有者その他権原に基づきその森林の立木竹又は土地の使用又は収益をする者に対し,保安林の指定によりその者が通常受けるべき損失を補償しなければならないと規定している。 2 前提となる事実(各項末尾掲記の証拠等により認められる。)(1) 千葉県勝浦市鵜原字山見場993番の1の土地(地目保安林,地積3619平方メートル。以下「本件土地」といい,本件土地とその上にある立木竹とを併せて「本件森林」という。)は、大正11年6月1日,千葉県知事により,森林法(明治40年法律第43号)14条に基づき,大正11年千葉県告示保編第1号をもって,森林法施行手続(明治40年農商務省訓令第30号)4条1項9号に定める魚 正11年6月1日,千葉県知事により,森林法(明治40年法律第43号)14条に基づき,大正11年千葉県告示保編第1号をもって,森林法施行手続(明治40年農商務省訓令第30号)4条1項9号に定める魚附保安林に編入された。 (乙1ないし同3)(2) 上記魚附保安林への編入処分は,昭和26年8月1日,法の施行により,森林法施行法(昭和26年法律第250号)24条2項に基づき,魚つき保安林の指定とみなされた。 なお,魚つき保安林とは,水面に対する陰影,投影,魚類等に対する養分の供給,水質汚濁の防止等の作用により魚類の棲息と繁殖を助けることを目的とする保安林を意味する。 (乙4,同8,弁論の全趣旨)(3) 原告は,昭和44年12月17日,本件森林を買い受け,現在もこれを所有している。 (争いがない事実) 3 当事者双方の主張(原告の主張)(1) 本件土地が保安林に指定されているために,原告は,その使用収益を防げられ,多大の損失を被っている。 本件土地は,JR外房線鵜原駅から徒歩数分の位置にあり,交通の便がよく,かつ,鵜原理想郷と称されている房総半島随一の景勝地であって,住宅地として極めて高価な土地である。現に,本件土地に隣接し,同一の地質条件である土地に旅館や住宅が建設されており,保安林の指定がなければ,建物の建設に支障はない。 原告は,本件土地が保安林に指定されなければ,これを月額100万円で賃貸することができたのであるから,被告に対し,法35条に基づき,本件訴えを提起した平成12年3月15日までの10年間の補償額として,合計1億2000万円の支払を求める。 (2) なお,被告は,法35条に基づく損失補償を受けるには,損失が特別の犠牲に基づくものであることを要すると主張するが,これは法令の解釈を誤った主張であり,認められない。 また, 支払を求める。 (2) なお,被告は,法35条に基づく損失補償を受けるには,損失が特別の犠牲に基づくものであることを要すると主張するが,これは法令の解釈を誤った主張であり,認められない。 また,被告は,本件土地上の立木についての補償を求めているのではなく,本件土地の使用収益上の補償を求めているのであるから,立木のみの補償額を評価して本件土地の補償額を0円とする被告の主張は失当である。 (被告の主張)(1) 法35条の規定する損失補償制度は,保安林制度が公共の目的を達成するために森林の取扱いに制限を課することにより,その森林の森林所有者等に強度の財産権の制限を強いることにかんがみ,森林所有者等が保安林指定によって森林の使用収益権そのものに内在する社会的自然的制約(すなわち,森林の持つ国土保全的機能から森林の使用収益権者すべての者が一様に負うべき負担)を超えた犠牲を強要されて経済上の損失を被った場合に,全体の負担においてその損失を補償しようとするものである。 このような法の趣旨に照らせば,法35条にいう「通常受けるべき損失」とは,客観的,社会的にみて,保安林指定に基づき,その森林所有者等が受けるべきものと認められる,その使用収益権そのものに内在する社会的自然的制約の範囲を超えて特別の犠牲を強いられた結果被る経済的損失のうち,通常生ずべき範囲の損失であり,かつ,保安林指定と相当因果関係があるものをいうと解すべきである。 (2) アそこで,原告が保安林指定により,本件森林の本来有している使用収益権そのものに内在する社会的自然的制約を超えた特別の犠牲を強いられて経済上の損失を被ったか否かを検討すべきであるところ,本件の保安林指定による制限がかかる特別の犠牲に当たるか否かは,魚つき保安林制度の目的である魚介類の棲息,繁殖の促進の要請や,本件森 を強いられて経済上の損失を被ったか否かを検討すべきであるところ,本件の保安林指定による制限がかかる特別の犠牲に当たるか否かは,魚つき保安林制度の目的である魚介類の棲息,繁殖の促進の要請や,本件森林を含む周辺一帯の地域の良好な漁場環境の確保,漁業協同組合等の安定した経営の確保等の各要請が,どの程度保護すべきものであるか,また,建物の建築を目的とした土地の賃貸がなされた場合に,上記魚介類の棲息,繁殖や,漁場環境,漁業協同組合の経営等にどのような影響を与えるか,さらに,保安林指定により本件森林を従前の用途に従って利用し,あるいは従前の状況から客観的に予想され得る用途に従って利用することが不可能ないし著しく困難になるか否か等の諸事情を総合勘案して判断すべきである。 イこの点,本件森林の周辺海域には,多様な魚介類が棲息しているところ,本件森林は,樹木の根張りによって土壌等が保護されるなどして安定した森林を確保しているとともに,落葉等の分解によって生じた栄養分が海に流れ込んで魚介類の餌となるプランクトン等を育んでいる結果,多様な魚介類の棲息を可能にしており,このような森林は,魚つき保安林制度の目的に照らして,維持する必要性が極めて高いというべきである。 また,本件森林を含む勝浦市域においては,漁業が主要産業として重要な地位を占めており,漁業協同組合が築磯,魚礁の整備を実施するなど,周辺漁場の整備に積極的に取り組んでいる状況に照らせば,その漁場環境及び漁業協同組合等の経営を保護する必要性は極めて高いというべきである。 しかるに,本件土地上に建物を建築すれば,その前提として森林伐採が行われ,海への安定的,持続的な栄養分の供給が断たれ,プランクトン等の増殖,成長に支障を来たし,ひいては魚介類の棲息,繁殖に重大な影響を及ぼすほか,漁港,海域への濁 すれば,その前提として森林伐採が行われ,海への安定的,持続的な栄養分の供給が断たれ,プランクトン等の増殖,成長に支障を来たし,ひいては魚介類の棲息,繁殖に重大な影響を及ぼすほか,漁港,海域への濁水,土砂等の流入により,漁場環境の悪化を招き,周辺地域の基幹産業である漁業に対し大きな影響を及ぼすことになることは明らかである。 加えて,本件森林は,樹齢5年生から60年生の広葉樹が林内全域に生立しており,林床の植生,土壌,腐葉土等の状況からみても,保安林の指定目的を達成することのできる林況を保っているものであるから,本件土地は,客観的に見て,従前から社会通念上,格別の公益上の理由がない限り,建物建築が予定されていない土地であるといわざるを得ない。 ウこれらの事情を総合すると,本件の保安林指定によって,立木の伐採や開墾その他の土地の形質変更が制限されたとしても,その制限は,魚介類の棲息,繁殖環境の保護,漁場環境の保護及び基幹産業である漁業の保護のために必要かつ合理的な制限として,社会生活上何人も受忍すべき財産権の内在的制約の範囲内にあり,これによって生じる損失を補償することを要しないというべきである。 (3) また,本件森林は,大正11年6月1日に保安林に指定されたのに対し,原告が本件森林の所有権を取得したのは,その約50年後の昭和44年12月17日であることからすれば,原告が主張する損失は,本件森林が保安林として指定される以前の用途と連続性を有する森林の利用行為を制限されたことによって生じたものでないことは明らかである。 さらに,原告は,本件森林が保安林として指定されたことに伴い,景勝地ないし住宅地として賃貸する計画の断念,変更等を余儀なくされたものではないから,原告の主張する損失は,本件森林の保安林指定と相当因果関係があるとはいえない。 保安林として指定されたことに伴い,景勝地ないし住宅地として賃貸する計画の断念,変更等を余儀なくされたものではないから,原告の主張する損失は,本件森林の保安林指定と相当因果関係があるとはいえない。 そもそも,法35条は,理論的には森林の立木竹のみならず土地も損失補償の対象とするものと解されるものの,法にいう「土地」とは「木竹の集団的生育」を当然の前提としており,また保安林指定の性質上,保安林指定と立木竹に関して生じた損害の間に直接的因果関係を認め易いのに対し,保安林指定と土地に関して生じた損害の間にはこれを認め難いことから,実際上は立木竹について損失補償をすれば足りる。このような観点から,本件森林については,その補償額が0円と評価されているものである。 (4) 以上のとおりであるから,原告が本件森林の保安林指定によって,本件土地上の立木竹を伐採してこれを住宅地として賃貸することができないことをもって,法35条に定める「通常受けるべき損失」を被ったと認めることはできない。 4 争点本件の争点は,原告が本件土地上の立木竹を伐採して住宅地として賃貸することができないことが,法35条に定める「通常受けるべき損失」に当たるか否かである。 第3 争点に対する判断 1 前記第2の1のとおり,保安林の指定は,法25条1項各号に規定する公共の目的を達するために,立木竹の伐採等,森林の取扱いにつき,種々の制約を課するものであって,当該森林の所有者その他権原に基づき当該森林の立木竹又は土地の使用又は収益をする者の使用収益権に対し,制限を加えるものである。 そして,法35条は,森林の森林所有者その他権原に基づきその森林の立木竹又は土地の使用又は収益をする者に対し,保安林の指定に伴う損失補償の制度を設けているところ,その趣旨は,森林所有者等が上記制限等により負 法35条は,森林の森林所有者その他権原に基づきその森林の立木竹又は土地の使用又は収益をする者に対し,保安林の指定に伴う損失補償の制度を設けているところ,その趣旨は,森林所有者等が上記制限等により負担する経済上の犠牲が,森林の使用収益権そのものに内在する社会的自然的制約,すなわち,森林の持つ国土保全などの公益的機能から森林の使用収益権者すべてが一様に負うべき負担を超えた犠牲であることから,公平の観点に立って,このような特別の犠牲による経済的損失を全体の負担において補償することにある。 したがって,法35条が規定する,保安林の指定により「通常受けるべき損失」とは,保安林指定に基づき,客観的,社会的にみて,森林所有者等が受けるべきことが認められる,その使用収益権そのものに内在する前記の社会的自然的制約の範囲を超えて特別の犠牲を強いられた結果被る経済的損失のうち,通常生ずべき範囲のものであって,保安林指定と相当因果関係があるものを指すものと解することが相当である。 2 そこで,以上のような観点に立って,本件土地の保安林指定により,原告の立木竹の伐採,開墾その他の土地の形質を変更する行為について,都道府県知事の許可を要することとなったことが,本件土地の使用収益権に内在する制約の範囲を超える特別の犠牲を強いられたものとして,「通常受けるべき損失」に当たるか否かを検討する。 (1) 証拠(甲2,乙6,同8,同11,同13ないし同20)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア本件森林の位置,林況,地形等本件森林は,房総半島南部の勝浦市大字鵜原字山見場993番の1に所在し,本件土地を含む周辺の面積1.5697ヘクタールの土地が,魚つき保安林に指定されている。本件森林を構成する主要な樹種は,ヤブニッケイ,スダジイ,マテバシイ,タブ,トベ 字山見場993番の1に所在し,本件土地を含む周辺の面積1.5697ヘクタールの土地が,魚つき保安林に指定されている。本件森林を構成する主要な樹種は,ヤブニッケイ,スダジイ,マテバシイ,タブ,トベラの広葉樹で,樹齢は5年生ないし60年生,胸高における直径は,平均約14センチメートルである。 本件森林の標高は,最高約40メートルであり,林地の傾斜方向は全体として東向きであって,その東端においてはほぼ垂直状の海食崖をもって勝場港に面しており,表流水のほとんどは,直接同港に流れ込む地形を呈している。 本件土地は,JR外房線鵜原駅から至近距離にあり,近隣には旅館等も存するが,本件森林周辺の海岸線は,房総丘陵が海に入り込んで深い入江を形成しており,南房総国定公園の第1種特別区域に指定されているほか,海中公園に指定されている箇所も存する。 イ本件森林周辺の地質等本件森林周辺の地質は,第三系・鮮新統・豊岡亜層群に属する砂岩及び泥岩の互層で,浸食や風化を受けやすく,常時海水の浸食を受ける東側は海食崖を形成している。 他方,本件森林内では,一部の急斜面において,基岩が露出しているものの,樹木の根張りが土壌を捕捉,保護しており,また,緩斜面等の条件に恵まれた箇所においては,腐葉土等の堆積が見られ,地表植生が土壌等の流失を防ぐ役割を果たしている。 ウ勝浦市における漁業の状況勝浦市は,黒潮の北上する太平洋岸に面しており,同市の海岸線は,勝浦湾を中心に東西に延び,その形状は湾奥部の砂浜域を除いて起伏の激しい岩礁地帯で占められ,総延長は約30キロメートルであり,本件森林の東端もその一部を形成している。 千葉県内にある69の漁港のうち,勝浦市には勝浦,鵜原等,8の漁港があり,港湾である興津港を合わせて,9港が漁港として機能している。同市内には,勝浦 あり,本件森林の東端もその一部を形成している。 千葉県内にある69の漁港のうち,勝浦市には勝浦,鵜原等,8の漁港があり,港湾である興津港を合わせて,9港が漁港として機能している。同市内には,勝浦漁港にカツオの水揚高が全国有数の勝浦漁業協同組合,その他の8港に新勝浦市漁業協同組合があり,総組合員2161名(平成11年3月31日現在)で組織されている。同市の漁業形態としては,岩礁域が多い沿岸部では,底棲性魚介藻類に恵まれ,アワビ,サザエ,イセエビ等の磯根漁業が営まれており,沖合でも天然礁が多く,キンメダイに代表される底魚や,黒潮に乗って来遊するカツオ,マグロ等を対象にした漁業が営まれている。 勝浦市の2つの漁業協同組合の平成11年度における水揚高は,2万4242トン,水揚金額は約93億円である。 エ新勝浦市漁業協同組合鵜原支所(以下「鵜原支所」という。)の漁業経営の実態本件森林の所在する地区は,鵜原支所の管内である。鵜原支所に属する組合員は,平成11年3月31日現在324名であり,県内最大級の漁業協同組合である新勝浦市漁業協同組合の組合員(1933名)の約17パーセントを占める。 鵜原漁港は,昭和28年6月に漁港指定を受けた第1種漁港で,勝揚港,長入港を含む総称である。鵜原支所に属する動力漁船は168隻であるが,0.9トン以下が102隻,1トン以上3トン未満が41隻,3トン以上5トン未満が19隻,5トン以上10トン未満が6隻と,小型漁船の割合が多い。 鵜原支所における平成11年の主要漁種別水揚高は,次のとおりである。 ① 魚類85トン,金額約6300万円(主要種別:カツオ,キンメダイ,ブリ類)② 貝類17トン,金額約6000万円(同:サザエ,アワビ類)③エビ・カニ類8トン,金額3400万円(同:イセエビ)④ 海藻類95トン,金 額約6300万円(主要種別:カツオ,キンメダイ,ブリ類)② 貝類17トン,金額約6000万円(同:サザエ,アワビ類)③エビ・カニ類8トン,金額3400万円(同:イセエビ)④ 海藻類95トン,金額2600万円(同:ヒジキ,ハバノリ)⑤ その他14トン,金額1000万円(同:イカ,タコ類)合計219トン,金額1億9300万円なお,勝浦市鵜原地先の海域における増養殖場の整備状況をみると,鵜原支所が管理主体となっている自然石等による築磯,魚礁の整備が,昭和37年度以降,継続的に実施されており,実施箇所は38箇所に上っている。 オ漁業における森林の果たす役割海辺の森林は,水面に対して陰影を与えるとともに,魚類等に対して有機物等の栄養分を供給し,土砂等の流入による水質汚濁を防止する作用を有するとされており,魚つき保安林も,このような森林の作用により,魚類の棲息と繁殖を助けることを目的として指定されている。そして,森林が海の生産力や漁業との関連においても様々な効果を発揮していることが漁業関係者にも広く認識されてきたことから,近年,全国各地の漁業協同組合において,「漁民の森」等の植樹運動が行われるに至っている。 (2) 以上認定した事実に基づいて,本件の保安林指定により,原告が特別の犠牲を強いられたか否かについて検討する。 ア本件森林の保安林指定に伴う立木竹の伐採等の制限に伴って原告が受けた使用収益権の制限により,特別の犠牲を強いられたと認められるか否かは,魚つき保安林制度の目的である魚介類の棲息,繁殖の促進や,本件森林の周辺海域一帯の良好な漁場環境,漁業協同組合等の安定した経営の確保といった要請に対する要保護性,本件森林の伐採による周辺一帯の魚介類の棲息,繁殖や,漁場環境,漁業協同組合の経営等に対する影響,さらに,保安林指定により本 漁場環境,漁業協同組合等の安定した経営の確保といった要請に対する要保護性,本件森林の伐採による周辺一帯の魚介類の棲息,繁殖や,漁場環境,漁業協同組合の経営等に対する影響,さらに,保安林指定により本件森林を従前の用途又は従前の状況から客観的に予想される用途に従って利用することが不可能ないし著しく困難になるか否か等の事情を,総合的に検討した上で判断することが相当である。 イそこで,このような観点から,本件森林の保安林指定に伴う伐採等の制限について検討する。 a 前記(1)で認定した事実によれば,本件森林の周辺海域は,岩礁部が多く,国定公園特別区域や海中公園に指定される良好な自然環境にあって,多様な魚介類が棲息しているところ,本件森林は,傾斜地にあって,樹木の根張りにより土砂が周辺海域に流失することを防ぐなど,周辺海域の水質汚濁の防止に寄与するのみならず,落葉等の分解によって生じる栄養分が海に流入することにより,多様な魚介類の棲息を可能にしている。 また,本件森林が所在する勝浦市においては,千葉県内最大級の漁業協同組合を擁するなど,漁業が主要な産業となっており,その形態としては,小型漁船によるものが多く,沿岸部の磯根漁業も盛んであり,漁業協同組合による築磯,魚礁の整備が実施されるなど,沿岸部の漁場整備も積極的に行われていることから,本件森林周辺の沿岸部において,漁場環境や漁業の経営を保護する高度の必要性が認められるというべきである。 したがって,本件森林については,多様な魚介類が棲息可能な周辺海域の自然環境を保全し,沿岸部における漁業を保護する必要が高いことから,魚つき保安林の指定目的である魚類の棲息,繁殖の保護を全うするために,伐採等の現状変更を制限すべき要保護性が強いものということができる。 b しかるに,本件土地を宅地造成するた る必要が高いことから,魚つき保安林の指定目的である魚類の棲息,繁殖の保護を全うするために,伐採等の現状変更を制限すべき要保護性が強いものということができる。 b しかるに,本件土地を宅地造成するために,本件森林の伐採が行われれば,周辺海域への栄養分の供給に影響が生じ,ひいては魚介類の棲息,繁殖に影響を与えるほか,周辺海域への濁水,土砂等の流入により,周辺海域の自然環境の悪化を招き,周辺地域の主要産業である漁業に悪影響を及ぼす懸念がある。 さらに,本件森林は,樹齢5年生から60年生の広葉樹が全域に生立しており,林床の植生,土壌,腐葉土等の状況に照らして,現在もなお魚つき保安林の指定目的を達成することが可能な林況を保っており,このことに照らせば,本件土地がJR外房線鵜原駅から至近距離に位置する風光明媚な環境にあって,近隣に旅館が存すること等の事情を考慮しても,なお従前より本件土地上に建物の建築が客観的に予想されていたものということはできない。 ウ以上によれば,本件の保安林指定によって,本件森林における立木の伐採や開墾その他の土地の形質変更が制限されたとしても,その制限は,魚つき保安林の目的である魚介類の棲息,繁殖環境の保全や,周辺海域における漁場環境及び漁業の保護といった,公益上の目的を達成するために必要な範囲内における,一般的な土地の使用収益の制限にとどまるものというべきであって,原告が本件土地を宅地造成できないとしても,このことをもって,原告に対し,本件土地の使用収益権に内在する制約の範囲を超えて,特別の犠牲を強いるものと認めることはできない。 したがって,原告は,本件森林の保安林指定に伴う立木竹の伐採等の制限により,本件土地を宅地造成し,賃貸することができなくなったとしても,これにより法35条の規定する「通常受けるべき損失」を被っ 。 したがって,原告は,本件森林の保安林指定に伴う立木竹の伐採等の制限により,本件土地を宅地造成し,賃貸することができなくなったとしても,これにより法35条の規定する「通常受けるべき損失」を被ったものということはできない。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部裁判長裁判官市村陽典裁判官森英明裁判官馬渡香津子

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る