平成21(行コ)27 公金違法支出損害賠償請求控訴事件(原審・宇都宮地方裁判所平成17年(行ウ)第15号)

裁判年月日・裁判所
平成21年12月24日 東京高等裁判所 住民訴訟
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判決文本文15,656 文字)

- 1 -主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用(補助参加費用を含む)は,控訴人の負担とする。 。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 控訴人( )原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 ( )被控訴人の請求を棄却する。 ( )訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 被控訴人主文同旨第2事案の概要等 事案の概要本件は,α町(平成17年3月28日にβ町と合併し,さくら市となった)。 が,不動産業者である控訴人補助参加人A(以下「A」という)から,原判決。 添付別紙第1物件目録記載1ないし11の土地及び同第2物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という)を浄水場用地として代金2億5000万円で買い。 受け(以下「本件売買」という,その代金を支出したところ,さくら市の住。)民である被控訴人が,本件売買は,当時のα町長であり,同町の水道事業に関す(「」。),る地方公営企業の管理者であった控訴人補助参加人B以下Bというが裁量権を逸脱,濫用して締結したものであり,地方自治法2条14項,地方財政法4条1項に違反するとして,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,控訴人に対し,①Bに対して,不法行為に基づく損害金1億2192万円及びこれに対する平成17年1月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,②Aに対して,不当利得に基づく利得金1億2192万円及びこれに対する平成17年1月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割- 2 -合による利息の支払を,それぞれ請求するように求めた住民訴訟である。 原審は,被控訴人の上記①の請求を認容し,上記②の請求を棄却した。 そこで,控訴人は,これを不服として,上記判決を求めて控訴した。 前提事実前提 払を,それぞれ請求するように求めた住民訴訟である。 原審は,被控訴人の上記①の請求を認容し,上記②の請求を棄却した。 そこで,控訴人は,これを不服として,上記判決を求めて控訴した。 前提事実前提事実は,原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」の「1前提事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。 争点及びこれに関する当事者の主張争点及びこれに関する当事者の主張は,次項に「当審における当事者の主張」を付加するほか,原判決「事実及び理由」の「2争点及びこれに関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。 ただし,原判決13頁18行目冒頭から同15頁16行目までを削除する。 当審における当事者の主張( )控訴人の主張 アBに対する損害賠償請求の義務付け請求について①本件土地の適正価格について原判決は,C不動産鑑定士のした鑑定結果(以下「C鑑定」という)を。 もって本件土地の適正価格と認められないとして,もっぱらD不動産鑑定士らの鑑定結果(以下「D鑑定」という)に依拠して本件土地の適正価格。 を認定しているが,以下のとおり,不当である。 aD鑑定は,取引事例の1ないし3がいずれも農地であって,宅地ないし雑種地である本件土地との比較に用いるのは適切でない。 bD鑑定は,基準価格の算定に用いた「α×-1」が「田」として利用されている土地であるから,宅地ないし雑種地である本件土地の基準地とするのは,適切でない。 cD鑑定は,宅地造成工事費用総額として約1億円の費用がかかるとされ,この費用は,「田んぼの状態あるいは山林の状態から,各区画に分- 3 -けた宅地に分譲するまでの造成費用である」と説明するが,α町とAとでは,本件土地を更地として引き渡すことを条件としていたのであるから,1億円という多額の るいは山林の状態から,各区画に分- 3 -けた宅地に分譲するまでの造成費用である」と説明するが,α町とAとでは,本件土地を更地として引き渡すことを条件としていたのであるから,1億円という多額の造成費用を要しない。 ,,,dD鑑定の結果によれば本件土地の適正価格は7590万円であり1平方メートルの単価は,9230円となるが,本件土地に隣接する固定資産税の路線価は2万3700円あるいは2万8200円であり乙、(19,上記鑑定結果は,信用できない。 )e原判決は,Aが,本件土地に隣接する土地を,もと所有者であるEに対し,1平方メートルあたり,1万2081円で売却したことをD鑑定の評価額が適正であることの根拠にしているが,EとAの父が友人であ,,,,ったことEが事業に失敗し自宅を失うことになった背景事情Aは本件土地を前所有者であるEからスムーズに引渡しを受け,円満にプラントを撤去し,整地作業を実施する必要があったために,破格に低額で売却したものである。 ②Bが裁量を逸脱,濫用とした根拠についてa原判決は,Bが裁量を逸脱,濫用とした根拠として,Aが本件競売物件を約4500万円で競落したことを把握していたことを取り上げている。 ,,,しかしながら競落価格は適正価格を考える上で参考にならないし本件土地に関するα町とAとの取引は,本件土地上にある建物,プラント工場を撤去し,更地の状態に戻すことが条件になっていたのであるから,競落価格は,適正価格を検討する上で考慮すべき事情にならない。 b原判決は,α町が,Aから7000万円で売る打診を受けていたことを鑑定を見直すべき根拠にしている。 しかしながら,α町は,Aから,上記のような打診を受けていない。 c原判決は,平成16年8月31日の全員協議会で多くの議員から鑑定- 円で売る打診を受けていたことを鑑定を見直すべき根拠にしている。 しかしながら,α町は,Aから,上記のような打診を受けていない。 c原判決は,平成16年8月31日の全員協議会で多くの議員から鑑定- 4 -価格の妥当性や価格の高さについて疑問がだされていたことを取りあげ,鑑定を見直すべき根拠にしている。 しかしながら,2億5000万円という売買代金が提示された後の同年9月6日の全員協議会では,根本的な見直しを求めるような状況ではなかったので,鑑定を見直すべき事情があったとはいえない。 d原判決は,Bは,自ら,Cに説明を求め,鑑定価格が適正であるか否か判断すべきである旨指摘する。C鑑定士は,その結果が適正であると認識しているのであって,不適切であったことを認めるといった事情はない。 e以上によれば,専門的知識がないために,専門性の高い職業人に鑑定を求めたものであるのに,不動産鑑定理論に対する専門的な知見を水道事業管理者であるBに求めるものであって不当である。 イさくら市議会の議決による損害賠償請求権の消滅さくら市議会は,平成21年9月1日に開催された議会において,本件請求にかかる損害賠償請求権について,議員提案に基づき,その権利を放棄する旨の議決(以下「本件議決」という)をし,さくら市長は,上記議決を。 受けて,Bに対し,本件議決の事実と権利放棄の事実を記載した文書を送付し,この文書は,Bに到達した。 ウ本件議決に至るまでの経過①被控訴人代理人の要請書の提出被控訴人代理人らは,平成21年7月28日,さくら市長,さくら市議会議長及びさくら市議会各議員宛に「B前市長,F現市長に繋がる一部,の市民が,さくら市のB前市長に対する本件損害賠償請求権を放棄する議決を求める「嘆願書」の署名を集め,同書をさくら市議会に提出し,市議会をして ら市議会各議員宛に「B前市長,F現市長に繋がる一部,の市民が,さくら市のB前市長に対する本件損害賠償請求権を放棄する議決を求める「嘆願書」の署名を集め,同書をさくら市議会に提出し,市議会をして請求権の放棄をさせようとしているが,行政の非違の最終的判断は,司法の専権事項であって,議会や行政の長が,現に司法の判断の手続- 5 -に入った案件について,判決を回避し,それを妨害するため,請求権の放棄を議決することは越権であり,且つ違法であるとして,上記嘆願書が議会に提出されても,請求権の放棄という違法な暴挙をしないことを強く要請する」という趣旨の要請書を提出し,同書は,同年8月11日のさく。 ら市議会の議員全員協議会で報告された。 ②嘆願書の提出さくら市を明るくする会は,同年8月18日,さくら市議会議長宛に,「本件は,市の損害と認めるべき証拠や根拠があるとは言い難く,土地購入も適正な時価で行われており,裁量権の逸脱,濫用したものではなく,α町長当時の判断に間違いはみられないばかりか,水道事業計画推進に必要であったことに鑑みれば,権利放棄こそ,前市長の重荷を解放する手段であり,地方自治法96条1項10号の規定により議会の権利の放棄を求めて,署名活動を行ったものである」との嘆願書を1658名の署名を。 添えて提出し,同書は,同年8月21日のさくら市議会の議員全員協議会で報告された。 ③被控訴人の陳情書の提出被控訴人代理人は,同年8月26日,さくら市議会議長宛に「最近に,なって,一部の住民からさくら市に対し,宇都宮地裁がB旧α町長に1億2000万円の支払を命じた判決に関して,請求権の放棄を求める嘆願書が提出され,現在,その是非について市議会の審議が予定されているが,,,本来議会は市民のために厳しくチェックする機関であるにもかかわ 00万円の支払を命じた判決に関して,請求権の放棄を求める嘆願書が提出され,現在,その是非について市議会の審議が予定されているが,,,本来議会は市民のために厳しくチェックする機関であるにもかかわらずこのような不当な放棄をすれば,住民の声が反映されないばかりか,住民訴訟そのものを否定してしまうことになるので,上記請求権の放棄を求める嘆願書を議会に取り上げないことを強く要望する」との陳情書を提出。 し,同書は,同年8月31日のさくら市議会の議員全員協議会で報告された。 - 6 -④議案提出の通告及び議会運営委員会さくら市議会議員Gは,同年8月28日,さくら市議会議長に対し,同年9月1日から開催される平成21年第3回定例議会において,本件訴訟の対象となっている損害賠償請求権の放棄の議案を,議案内容を示し提出したい旨を通知し,同年8月31日の議会運営委員会において,議案を同年9月1日の本会議において審議することを決定した。 ⑤議案の可決さくら市議会は,同年9月1日,平成21年第3回定例議会において,本件訴訟の対象となっている損害賠償請求権放棄を議題とする議案が,議員提案として提出され,審議した後採決し,賛成16,反対5,欠席1の賛成多数で原案どおり可決された。 ⑥文書の送付さくら市長は,同年10月15日,Bに対し「損害賠償請求の放棄」,についてと題する書面で「平成21年度第3回さくら市議会定例議会に,おいて,地方自治法96条1項10号の規定により,平成21年9月1日付けで,平成16年度α町水道第2次拡張事業浄水場用地取得に係わるさくら市前市長に対するさくら市の損害賠償請求権に関するすべての権利を放棄する議決がされたので,上記議決に基づき権利が放棄されたことを通知する」という文書を送付し,そのころ到達した。 。 エ本件議決 くら市前市長に対するさくら市の損害賠償請求権に関するすべての権利を放棄する議決がされたので,上記議決に基づき権利が放棄されたことを通知する」という文書を送付し,そのころ到達した。 。 エ本件議決の内容①放棄する権利の内容平成16年度α町水道第2次拡張事業浄水場用地取得に係わるさくら市前市長に対するさくら市の損害賠償請求権に関するすべての権利②放棄により利益を受ける者さくら市前市長B③放棄の理由- 7 -α町水道第2次拡張計画に基づく新浄水場工事用地取得に錯誤はなく,さくら市発展に貢献したため権利を放棄するものである。 ④放棄の時期平成21年9月1日⑤提案の理由上記議案の提案議員は,B前市長が,合併以来4年間新生さくら市の発展のため,旧両町の融合一体化に尽力され,現在も地域社会の一員として活躍されていること及び本件土地の取得にあたって,元町長の裁量に不法な逸脱・濫用が見られないことを理由として,権利放棄の提案をしたものであるが,さらに,宇都宮地裁の判決の基礎となっている原告の鑑定によれば,結果として,固定資産税,相続税,登録免許税,不動産取引税などの課税に支障をきたすこと,当時の近傍取引事例とも著しく離れ,当時の町長への諮問機関からの答申や議員全員協議会での共通の相場観からも著しくかけ離れていること,当時のα町議会は,固定資産評価額との著しい差もなく,また課税や行政執行上の支障も考えられない金額にして了承したものであり,結果として,取引において成立すると認められる正常価格に近いものになっていること,当時新浄水場の建設は,早期着手を迫られていたので,当該用地の取得は,水道事業管理者としての裁量として必然的な選択であったことなど実質的な提案理由として指摘している。 オ本件議決の法的効力について①地方自治法9 は,早期着手を迫られていたので,当該用地の取得は,水道事業管理者としての裁量として必然的な選択であったことなど実質的な提案理由として指摘している。 オ本件議決の法的効力について①地方自治法96条1項10号は,議会の議決事項として「法律若し,くはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか,権利を放棄すること」と定め,地方公共団体の権利放棄については,執行機関たる地方公共団体の長でなく,議会の議決によるべきものとしているところ,法令及び条例には,本件損害賠償請求権の放棄について特別な定めはないので,本件損害賠償請求権の放棄の可否は,住民の代表で- 8 -ある議会が,損害賠償請求権の発生原因,賠償額,債務者の状況,放棄,。 することの影響効果等を考慮して行う合理的な判断に委ねられている②地方自治法96条1項10号が,権利放棄を議会の議決事項としたの,,は住民の意思をその代表者を通じて直接反映させようとしたものあり執行機関の専断を排除しようとする趣旨をも含むもので,権利放棄の議決について長の執行行為は必要がない。 したがって,本件訴訟の対象になっている損害賠償請求権は,地方自治法149条6号によりさくら市の執行機関が管理すべき債権であり,その債務免除は,同法240条3項により,執行機関の債務者に対する意思表示によってなされるべきであり,議会の議決のみによって効力が生じるとはいえないとの考え方は不当である。 ( )被控訴人の主張 ア議会の債務免除の議決だけでは効力を生じないことBに対する本件損害賠償請求権は,地方自治法149条6号によりさくら市の執行機関が管理すべき債権であり,その放棄は,同法240条3項により,執行機関の債務者に対する意思表示によってはじめて生じるものである。地方自治法96条1項10号 自治法149条6号によりさくら市の執行機関が管理すべき債権であり,その放棄は,同法240条3項により,執行機関の債務者に対する意思表示によってはじめて生じるものである。地方自治法96条1項10号は,執行機関の専断をチェックするためのものにすぎず,議会の債務免除の議決が,執行機関の執行行為に代わって債務免除の効力を生じさせるものではない。 イ本件議決は,実体的にも違法無効であり,その効力はないこと①地方公共団体の議員,議会の責務地方自治法96条1項10号,同法240条,同法施行令171条ないし171条の7の各規定を整合的に解釈すると,地方自治法96条1項10号の権利放棄について,野放図な自由裁量を認めず,議会の議決が公益に資するという要件を備えることを要すると考えるべきである。 地方公共団体の議員は,住民の代表であり,議会は,その合議体であっ- 9 -て,行政に対する監視権限をもっており,地方公共団体の議員,議会も地方公共団体がもっている債権を含む財産の維持について善管注意義務を負っているが,本件議決は,公益性がなく,さくら市に損害を与えるだけで,B前市長の救済を図るためのものであるから,無効である。 ②本件議決は,地方自治の基本を破壊するもので無効であること本件提案理由からすると,本件住民訴訟の公益性を超える公益性の存在は認められないし,むしろ「元町長の裁量に不法な逸脱,濫用がみ,られない「当該用地の取得は,水道事業管理者の裁量として必然的」,な選択であった」「元町長の判断に著しい錯誤がみられない」など,控,訴人の主張を鵜呑みにして原審の判断を真っ向から否定していること,高裁判決の言渡し期日直前に「さくら市の損害賠償請求権に関するすべての権利を放棄するため」になされたものであることからすれば,本件債権放棄の議決がB みにして原審の判断を真っ向から否定していること,高裁判決の言渡し期日直前に「さくら市の損害賠償請求権に関するすべての権利を放棄するため」になされたものであることからすれば,本件債権放棄の議決がB個人の利益を図り,公の利益のための本件住民訴訟を無に帰せしめ,且つ,裁判妨害を意図したものであるから,地方自治の趣旨に反し違法,無効である。 ③本件議決は,市長の命を受けたさくら市建設部H部長の指導と教示によってされたもので,違法且つ無効である。 第3当裁判所の判断 当裁判所も,控訴人がBに対して,不法行為に基づく損害金1億2192万円及びこれに対する平成17年1月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求するように求めた被控訴人の請求は,理由があると判断する。その理由は,次項以下において,当審における当事者の主張に対,「」「」する判断を付加するほか原判決 事実及び理由 の第3争点に対する判断に記載のとおりであるから,これを引用する。 ただし,原判決38頁14行目冒頭から同39頁18行目までを削除する。 Bに対する損害賠償請求の義務付け請求について- 10 -,,,( )控訴人は原判決がC鑑定による評価額を本件土地の適正価格と認めず もっぱらD鑑定に依拠して本件土地の適正価格を認定したのは不当である旨主張するので,以下この点について判断する。 前記のとおり(原判決を引用,Aは,平成16年7月5日,本件競売物件)1ないし12の土地及び本件競売建物を合計4465万円で競売により取得した。本件土地は本件競売物件1ないし11の土地及び12の土地の一部であるところ,C鑑定は,同年7月26日,本件土地を2億7390万円(1平方メートル当たり3万3000円,実測面積8225.12平方メート 本件土地は本件競売物件1ないし11の土地及び12の土地の一部であるところ,C鑑定は,同年7月26日,本件土地を2億7390万円(1平方メートル当たり3万3000円,実測面積8225.12平方メートルとして計算)と評価し,α町は,同年9月21日,本件土地を2億5000万円で買い受けたものである。 ,,(),ところで本件競売における競売物件の評価額は評価書甲3によれば本件競売物件1ないし11の土地が2119万円,本件競売物件12の土地及び本件競売建物が2404万円の合計4523万円であり,建物そのものの評価額及び本件土地に含まれない12の土地の一部を除いて,本件土地についての評価額を計算すると3889万円となる。もっとも,この評価額は,競売という特殊な市場での評価を得るため,競売市場減価がなされているので,減価される前の評価額を評価書にしたがって求めると7189万円となる。また,前記のとおり(原判決を引用,Aは,本件土地に含まれない本件競売物件1)2の土地の一部及びその上の本件競売建物を,競落後,他に売却しているが,その際の売買価格は,建物は0円,土地は500万円であり,1平方メートル当たり1万2081円である。 上記C鑑定の評価額(本件土地全体で2億7390万円,1平方メートル当たり3万3000円)は,これら競売における評価額や競落後実際に売買された額とはかけ離れた額であり,その鑑定の内容についても,原判決が指摘するように多くの問題点がある上,基本的な調査が不十分であり,現に,財団法人I協会は,CがC鑑定に際し,①対象不動産の確認調査や市場分析を十分行わ- 11 -なかった(登記簿を自ら確認することを怠り,本件土地が平成16年7月5日に不動産競売により4465万円で落札されたことを見過ごし,地歴調査や関係者からの の確認調査や市場分析を十分行わ- 11 -なかった(登記簿を自ら確認することを怠り,本件土地が平成16年7月5日に不動産競売により4465万円で落札されたことを見過ごし,地歴調査や関係者からの聴聞も行わなかった,②鑑定条件の設定や鑑定評価方式の適用等)において不動産鑑定評価基準を逸脱した,③案件の難易度に比して極めて短期間で処理を行った,④極めて不自然な経緯で受注するという軽率な行動をとった等の問題点を指摘し,Cに対し,国土交通省の制定する不動産鑑定評価基準及び同協会の倫理規定順守義務に違反した不当鑑定を行ったとの理由で,6カ月間の会員権停止処分を行っている(甲17)ところであって,C鑑定の結果をもって本件土地の適正価格と認めることはできないとした原判決の判断は相当である。 次に,控訴人は,D鑑定について,第2の4( )ア①のaないしeに掲げる 点で問題があると主張するので以下順次判断する。 aのD鑑定における取引事例が農地であって適切でないとの主張についてみると,本件土地の種別は宅地見込地であるから,宅地見込地としての評価の参考にするとの観点からすると,取引事例とする土地が農地であるか否かは重要ではなく,宅地にするのにどの程度の難易度があるのかが問題であって,D鑑定士は,証人尋問において,田だから畑だから山だからということではなく,出来上がりの宅地とどのくらいの開差があるかという観点で見る旨述べていて評価の方法として妥当なものと認められるから,農地を取引事例とすることが不適切であるとの控訴人の主張は採用できない。 bの基準価格の算定に用いた「α×-1」の土地は田として利用されていてこれを基準地とするのは不適切であるとの主張についてみると,D鑑定士の証,,「」言によれば本件土地が宅地見込地であるため宅地見込地であるα×- 用いた「α×-1」の土地は田として利用されていてこれを基準地とするのは不適切であるとの主張についてみると,D鑑定士の証,,「」言によれば本件土地が宅地見込地であるため宅地見込地であるα×-1の土地を基準地として用いたものと認められ,これを不適切とする控訴人の主張は採用できない。 cの造成費が1億円に見積もられているがそのような多額な造成費は要しな- 12 -いとの主張についてみると,D鑑定における開発法の試算は,1区画平均230平方メートルの戸建専用住宅敷地を26区画に分譲する場合の開発を想定して,宅地造成工事費1億0281万4000円(1平方メートル当たり1万2500円)を計上しているものであり,その単価は類似の造成工事費を参考として査定されており(甲6の別表4,これを過大であるとする事情は窺われ)ないから,上記控訴人の主張は採用できない。 dのD鑑定結果が路線価と乖離していて信用できないとの主張についてみると,路線価は,国税庁によって市街地的形態を形成する地域にある宅地を路線価方式で評価するものであり,宅地見込地の評価額ではないから,宅地見込地として評価しているD鑑定による鑑定評価額が,近隣の路線価と乖離しているからといって,その鑑定が不適切であるということにはならず,控訴人の上記主張は採用できない。 eのAとEとは特別の事情があったために,破格に低額の1平方メートル当たり1万2081円で売却したものであるから,これを根拠にD鑑定の評価額が適正であるとすることはできないとの主張についてみると,AのEへの売却,,価額が破格に低額であることを認めるに足りる的確な証拠は存在しないから上記控訴人の主張は採用できない。 ( )控訴人は,Bが裁量を逸脱,濫用した根拠として原判決が指摘する事項に ついて,第2の4( )ア②の 低額であることを認めるに足りる的確な証拠は存在しないから上記控訴人の主張は採用できない。 ( )控訴人は,Bが裁量を逸脱,濫用した根拠として原判決が指摘する事項に ついて,第2の4( )ア②のaないしeのとおり,原判決の判断は適切でない 旨主張するので,以下判断する。 aの競落価格は適正価格を考える上で参考にならないからBが本件競売物件が約4500万円で競落されたことを把握していても,そのことはBが裁量を逸脱,濫用した根拠とならないとの主張についてみると,競落価格は,競売という特殊な市場で形成される価格であるから,競落価格をもって,直ちに,通常の市場で形成される適正価格と扱うことができないことはいうまでもないが,競売にあたって評価額を求める場合,一般に,通常の市場において形成さ- 13 -れる額を求めた上で,競売市場減価をして評価額を求めていることからも明らかなように,競落価格は通常の市場で形成される適正価格と密接に関連しており,競落価格が適正価格を考える上で参考にならないとの控訴人の主張は採用の限りでない。そして,約4500万円で競落された物件について,競落後1,,カ月もたたない時点で2億7390万円の鑑定評価がなされたのであるから競落価額を把握している者としては,鑑定評価額について疑問をいだいてしかるべきであり,競落価額を把握していることを,裁量の逸脱,濫用の根拠とした原判決の判断は相当であって,控訴人の上記主張は採用できない。 bのα町はAから7000万円で売る打診を受けていないとの主張についてみると,原判決の第3の1( )に判示するとおり,Aは,α町役場におい て,本件競売物件を約4500万円で取得し,α町に7000万円程度で売ることを考えている等と話したことが認められるのであり,原判決の認定は関係証拠に照らして 判示するとおり,Aは,α町役場におい て,本件競売物件を約4500万円で取得し,α町に7000万円程度で売ることを考えている等と話したことが認められるのであり,原判決の認定は関係証拠に照らして相当であって,控訴人の上記主張は採用できない。 cの平成16年8月31日の全員協議会で価格について多くの議員から疑問が出されたが,その後の同年9月6日の全員協議会では根本的な見直しを求めるような状況ではなかったから,鑑定を見直すべき事情があったとはいえないとの主張についてみると,同年8月31日の全員協議会の状況は,原判決第3の1()に判示されているとおりであり,出席議員からは,鑑定評 価額に妥当性はあるのか,近傍に比較すると高すぎるのではないか,このような金額では町民は理解できないのではないか,不動産鑑定は一人によるものか,金額等について再度検討願いたい,今回の経緯を踏まえてAと協議してはどうか,だめなら断るしかないなどの意見・質問が出されたのであり,これらの意見・質問を踏まえれば,当然,鑑定について再検討すべきであって,その後の全員協議会において根本的な見直しが求められなかったからといって,再検討しなかったことが正当化されるものではなく,控訴人の上記主張は採用できない。 - 14 -dの,原判決はBが直接Cに説明を求めるべきであったとしているが,C鑑定士は,その結果が適正であると認識しているのであるから,不適切であ,,ったことを認めるといった事情にはないとの主張についてみると原判決は,. ,. C鑑定の評価額が競落価額の約61倍当初Aが提示した代金額の約39倍もの高額になっていることから,Bとしては,その理由について,C鑑定においてその理由が合理的に説明されているかを検討し,Cに直接説明を求め,あるいは他の不動産鑑定士 当初Aが提示した代金額の約39倍もの高額になっていることから,Bとしては,その理由について,C鑑定においてその理由が合理的に説明されているかを検討し,Cに直接説明を求め,あるいは他の不動産鑑定士に別途鑑定を依頼するなどして,C鑑定の評価額が適正なものであるかを検討すべきであったとしているのであり,Cの説明のみによって評価額が適正であるか否かを判断するよう求めているものではないから,控訴人の上記主張は失当である。 eの専門的知識がないために,専門性の高い職業人に鑑定を求めたものであるのに,原判決は,不動産鑑定理論に関する専門的な知見を水道事業管理者であるBに求めるもので不当であるとの主張についてみると,原判決の認,,定した事情の下では不動産鑑定に関する専門的な知見がない者であってもC鑑定の評価額に疑問を抱いてしかるべきであり,最終的にその適否を判断するに当たっては,他の鑑定士に鑑定を依頼するなど,専門知識を有する者を活用することは十分に可能であったのであるから,控訴人の上記主張は採用できない。 さくら市議会よる本件損害賠償請求権を放棄した議決(本件議決)の効力について( )乙25ないし27号証及び弁論の全趣旨によれば以下の事実を認めること ができる。 ア平成21年9月1日に開催されたさくら市議会おいて,本件請求にかかる損害賠償請求権について,その権利を放棄する旨の議案(以下「本件議案」という)が議員から提案され,審議の結果,16対5の多数決により。 決議された。さくら市長は,上記議決を受けて,Bに対し,本件議決がな- 15 -,,されたので議決に基づき権利が放棄されたことを通知する文書を送付しこの文書は,Bに到達した。 イ本件議案の提案理由においては,さくら市議会は前市長に対する控訴審の報告を受け,元町長の裁量 ,,されたので議決に基づき権利が放棄されたことを通知する文書を送付しこの文書は,Bに到達した。 イ本件議案の提案理由においては,さくら市議会は前市長に対する控訴審の報告を受け,元町長の裁量に不法な逸脱・濫用が見られないことから,前市長に対する損害賠償請求に関するすべての権利を放棄するため議案を提出するとされ,先の宇都宮地裁の判決(原判決)においては,原告の鑑定を正常価格認定の基礎としているが,その結果は市の固定資産評価額,近傍取引事例,議員全員協議会の共通の相場観等とは著しくかけ離れていること,一方,α町の購入価額は,固定資産評価額とも著しい差はなく,結果として取引において成立すると認められる正常価格に近いものとなっていること,また,当該用地の取得は水道事業管理者の裁量として必然的な選択であったこと,これらを鑑みれば,元町長の判断に著しい錯誤がみられないばかりか,水道の事業計画推進に必然的な土地購入であったこと,,。 を考慮して現在前市長への権利放棄は必然の帰結であるとされている( )被控訴人は,本件議決は,本件住民訴訟を無に帰せしめ,裁判妨害を意 図したものであるから,違法・無効であるなど,第2の4( )イ①ないし③ のとおり,本件議決の効力を争っているので,以下,その点について判断する。 住民訴訟の制度は,執行機関又は職員の財務会計上の行為又は怠る事実の適否ないしその是正の要否について,地方公共団体の判断と住民の判断,,が相反して対立し当該地方公共団体がその回復の措置を講じない場合に住民がこれに代わって提訴して,自らの手により違法の防止又は損害の回復を図ることを目的とするものであり,違法な財務会計上の行為又は怠る事実について,最終的には裁判所の判断に委ねて判断の客観性と措置の実効性を確保しようとするもの 自らの手により違法の防止又は損害の回復を図ることを目的とするものであり,違法な財務会計上の行為又は怠る事実について,最終的には裁判所の判断に委ねて判断の客観性と措置の実効性を確保しようとするものである。そして,住民訴訟により,違法な行為を行った職員に損害賠償請求をすることを当該普通地方公共団体の執行- 16 -機関又は職員に対して求める請求をする場合,上記のような理由で訴訟当事者は住民と地方公共団体の執行機関又は職員であるが,当該裁判において判断されるのは,当該普通地方公共団体が当該職員に対して損害賠償請求権を有するか否かという権利義務の存否についてである。 地方自治法96条1項10号は,地方公共団体の議会は,法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか,権利を放棄することを議決できる旨定めている。住民から直接選挙により選ばれた議員により構成されている議会が民主主義の原則に則り審議の上多数決により権利の放棄を議決した場合には,その議決は十分に尊重される必要がある。そして,損害賠償請求権について放棄を制限する法令は存在しないし,住民訴訟が提起されたからといって,直ちに地方公共団体の議会が本来の権限に基づいて権利の放棄を議決することが妨げられる理由はないというべきであるから,その放棄の可否は,住民の代表である議会が,損害賠償請求権の発生原因,賠償額,債務者の状況,放棄することによる影響・効果等を総合考慮して行う良識ある判断に委ねられていると解され,裁,,,判所としては原則として当該議決の当否について判断すべきではなくその議決の当不当の評価は最終的に選挙を通じた住民の判断に委ねられているというべきである。 しかしながら,控訴人が,本件議決によりBに対する損害賠償請求権が消滅したと主張するに至る経緯をみ ではなくその議決の当不当の評価は最終的に選挙を通じた住民の判断に委ねられているというべきである。 しかしながら,控訴人が,本件議決によりBに対する損害賠償請求権が消滅したと主張するに至る経緯をみると,平成17年12月14日,被控訴人は控訴人を相手として本件住民訴訟を宇都宮地方裁判所に提起し,同裁判所は,平成20年12月24日,控訴人に対して,Bに対し損害賠償として1億2192万円及び遅延損害金の支払を請求せよとの判決(原判決)をし,控訴人はこれを不服として控訴し,当裁判所は,審理の上,平成21年7月14日に口頭弁論を終結し,判決言渡期日を同年9月29日と指定したところ,前記のとおり,さくら市議会は,判決言渡日を間近に- 17 -控えた同年9月1日,本件議決をし,控訴人は,同議決を踏まえ,口頭弁論の再開を申し立て,再開された弁論期日において,本件議決によりBに対する損害賠償請求権は消滅したとして原判決を取り消し被控訴人の請求を棄却するよう求めたものである。 そして,前記のとおり,本件議案の提案理由をみると,前市長に対する控訴審の報告を受け,元町長(B)の裁量に不法な逸脱,乱用が見られないことから,損害賠償請求に関するすべての権利を放棄するため議案を提出するとされ,原審の認定した正常価格は,市の固定資産評価額等と著しくかけ離れており,α町の実際の購入価格が取引において成立すると認められる正常価格に近いものであること,また,当該用地の取得は水道事業管理者の裁量として必然的な選択であったことに鑑みると,元町長の判断に著しい錯誤がみられないばかりか,水道の事業計画推進に必然的な土地購入であったことを考慮して,現在控訴中,任意の権利放棄は当然の帰結であるとしているのである。 以上の本件議決がなされた前後の事情及びその提案理由によれば,本件 か,水道の事業計画推進に必然的な土地購入であったことを考慮して,現在控訴中,任意の権利放棄は当然の帰結であるとしているのである。 以上の本件議決がなされた前後の事情及びその提案理由によれば,本件議決は,本件土地の購入価格が不当に高額であり,Bが本件売買を締結したことは,地方公営企業の管理者に与えられた裁量を逸脱,濫用したもので地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項に反し違法であり,過失も認められるから,さくら市はBに対して損害賠償請求権を有するとの原審の認定判断に対して,購入価格は正常価格であり,Bには裁量の逸脱,濫用はないとの立場から,上記原審の認定判断を覆し,また,当審において,同様の認定判断がなされることを阻止するために決議されたものであるといわざるをえない。 前記のとおり,地方自治法96条1項10号に基づく権利の放棄の可否は,議会の良識にゆだねられているものではあるが,裁判所が存在すると認定判断した損害賠償請求権について,これが存在しないとの立場から,- 18 -裁判所の認定判断を覆し,あるいは裁判所においてそのような判断がなされるのを阻止するために権利放棄の決議をすることは,損害賠償請求権の存否ついて,裁判所の判断に対して,議会の判断を優先させようとするものであって,権利義務の存否について争いのある場合には,その判断を裁判所に委ねるものとしている三権分立の趣旨に反するものというべきであり,地方自治法も,そのような裁判所の認定判断を覆す目的のために権利放棄の議決が利用されることを予想・認容しているものと解することはできない。 したがって,本件議決は,地方自治法により与えられた裁量権を逸脱又は濫用したものとして違法無効なものというべきであり,本件議決によりBに対する損害賠償請求権は消滅するものではない。 以上のとおり, したがって,本件議決は,地方自治法により与えられた裁量権を逸脱又は濫用したものとして違法無効なものというべきであり,本件議決によりBに対する損害賠償請求権は消滅するものではない。 以上のとおり,本件議決により本件損害賠償請求権が消滅したとの控訴人の主張は,その余の点について判断するまでもなく採用できない。 結論 よって,原判決は,相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第14民事部裁判長裁判官房村精一裁判官滝澤雄次- 19 -裁判官脇博人

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