平成13(ワ)4217 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年4月22日 名古屋地方裁判所
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判決文本文16,999 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は原告に対し、2313万6985円及びこれに対する平成13年1月10日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,下記1(3)の事故に関して,原告が後示2(1)②の安全配慮義務違反を主張して,被告に損害賠償を請求する事案である。 1 争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実(1) 当事者・関係者等(甲12,原告本人尋問の結果)ア被告は,フェルトの製造販売等を主たる目的とする会社であり,岐阜県美濃加茂市に工場(以下本件工場という)を有している。 イ原告は,平成11年3月8日被告に採用されて,本件工場でフェルト製造などに従事していた者である。原告は,フィリピン出身で,同国で私立フィアッティ大学工学部を卒業し,平成3年11月29日に来日している。 ウ A(以下単にAという)は,本件工場の責任者の一人である。 (2) 本件工場及び本件機械の概要等(甲2,甲13,甲16,甲17,乙1,乙3の1ないし15,乙11,乙12)(以下,下記の本件機械に関して方向をいうときは,下記イのコンベアローラーからメインシリンダーを見た方向を基準に前後左右等を表示する。また,本件機械の基本的部品は,第7回弁論準備手続期日に定めた呼称で表示する)ア本件工場には,別紙図面(1)記載の生産ラインがあり,うちフェルト製造の第一ライン(以下本件ラインという)には,原料の綿の塊を解きほぐす(開繊する)ランダム機(同図面記載A。以下本件機械という)があった。 イ本件機械の概要は,別紙図面(2)(側面図。ただし,一部記載の正確性に争いがある)のようなもので,上方から投入した原料を,回転するメインシリンダー(同①)で開繊し,できた繊維をファンでメッ た。 イ本件機械の概要は,別紙図面(2)(側面図。ただし,一部記載の正確性に争いがある)のようなもので,上方から投入した原料を,回転するメインシリンダー(同①)で開繊し,できた繊維をファンでメッシュベルト(同④)に吸い寄せ,同ベルトで下方に運搬し,本件ラインの次の段階に送る構造になっており,メインシリンダーの手前にはサブローラー(同②)が,更に手前にはメッシュベルトの位置決めをするコンベアローラー(同③)があった(ただし,サブローラーに下記ウと同様の開繊用の突起が付いていたか,他に下記2(1)⑤の別ローラーがあったか等につき争いがある)。 ウメインシリンダーは,金属製で,表面全体に開繊用の突起(以下金属棘という)が植え付けられており,その上方と手前下方には,ボルト止めのカバー(別紙図面(2)記載⑤,⑥。以下各々上カバー,下カバーという)があって,同シリンダーや下記オのダクト部を覆っていたが,これらカバーは,ボルトを外して取り外すことができた。一方,メインシリンダーを覆う左右両側面の部品は,そのままでは取外しが不可能だった。 エ本件機械は,電動式で,メインシリンダーは,右側に設置されたモーターからベルト(以下各々駆動モーター,駆動ベルトという)で駆動されて,別紙図面(2)記載のとおり手前から向こう側に回転し,メッシュベルトも,モーターで手前から向こう側に駆動されるようになっており,その運転・停止は,本件ラインの制御盤(別紙図面(1)記載B)のスイッチ(以下各々制御盤,メインスイッチという)でモーターへの電力供給を断続して行なうようになっていた(ただし,電力停止後もメインシリンダーが慣性力で回転を続けるか否か,メインスイッチを切った後,回転が続く時間の長さに争いがある)。また,大型で背の高い本件機械の下部(1階部分)には,非常停止用 た(ただし,電力停止後もメインシリンダーが慣性力で回転を続けるか否か,メインスイッチを切った後,回転が続く時間の長さに争いがある)。また,大型で背の高い本件機械の下部(1階部分)には,非常停止用のスイッチ(以下非常停止スイッチという)が付いていた。 オ本件機械を運転すると,メインシリンダー下方の機械内部(別紙図面(2)記載⑦。以下ダクト部という)の同記載⑧付近に,原料の屑(以下繊維屑という)が上方から垂れ下がって溜まることがあったが,これは,作業員がコンベアローラーの上に乗り,下カバーを外し,ダクト部に腕を入れるなどの方法で除去することができた(以下これを本件機械の清掃という)。なお,メインシリンダー等は,本件機械の2階部分にあり,上記清掃は,梯子で同部分に上がって行なわれていた。 カなお,本件機械は,下記(3)の本件事故後の平成14年に解体されており,現在その実物を検証することができない。 (3) 本件事故の発生等(下記時刻につき甲4の1・2,乙12)原告は,平成12年2月4日午後4時55分頃,Aから本件機械の清掃を命じられて,本件機械で作業中(以下本件作業という),下カバーを外してダクト部に手を入れていたときに,左腕を切断される事故に遇ったが(以下本件事故という),原告が同作業を開始した当時,メインスイッチは切られていた(ただし,当時すでにメインシリンダーの回転が停止していたか,その後同スイッチが入ったか等につき争いがある)。 2 争点本件の主たる争点は,原告主張の安全配慮義務違反の成否であり,その前提として,(a)本件事故の原因(下記(1)①),(b)被告の注意義務の存否(同②)が問題になっている(以上請求原因)。 (1) 原告の主張① 本件事故は,原告が駆動ベルトやメインシリンダーの動きなどを確認し,本件機械が作動していな (1)①),(b)被告の注意義務の存否(同②)が問題になっている(以上請求原因)。 (1) 原告の主張① 本件事故は,原告が駆動ベルトやメインシリンダーの動きなどを確認し,本件機械が作動していないことを確かめてから本件作業に入り,下カバーを外して,コンベアベルトの上にしゃがみ込み,サブローラーから下方にぶら下がった繊維屑のうち上の方の埃を取ろうとしたときに,左手が突然なにかにひっぱられて発生したもので,本件作業中に,被告の誰かが誤ってメインスイッチを入れたか,絶縁不良などで電気的接触が生じて,スイッチが入ったと同じ結果になったことにより生じたものである。 ② 本件機械は,メインシリンダーやサブローラーに金属棘が植え付けられているなど労働者の生命身体の安全に重大な影響を及ぼす巻き込み事故を発生させる危険性の高い機械で,その清掃作業にも同様の危険があるから,被告には,事故防止のために以下の措置を取る義務があったのに,これを怠り本件事故を発生させた(以下本件安全配慮義務違反という)。 なお,仮に原告が,停止に向かい減速しつつあったメインシリンダーの動きを見落として本件作業を開始したとしても,被告には同様の義務違反があるから,その責任には影響がない。 ア被告には,(a)労衛法20条1号,労衛則144条に基づき,ロール装置である本件機械に,労働者に危険を及ぼさない器具を設置する義務があり,(b)平成13年6月1日付厚生労働省労働基準局長・基発501号「機械の包括的な安全基準に関する指針について」(以下本件通達という)別表第2,3(2)イ,同(5)ウに基づき,下カバーを外した跡にできた,作業を行なうための開口部に,ロック機構等を備えた可動ガードや安全防護装置を設ける義務があった(なお,危険な類型の機械である本件機械のメインシリンダーには,本件通 づき,下カバーを外した跡にできた,作業を行なうための開口部に,ロック機構等を備えた可動ガードや安全防護装置を設ける義務があった(なお,危険な類型の機械である本件機械のメインシリンダーには,本件通達の規制を待つまでもなく,当然に上記の安全防護装置等が必要だったと解すべきである)。 したがって,被告には,安全カバーである下カバーを外した場合メインシリンダー等の駆動部分を強制停止するインターロック式の安全防護装置を,本件機械に設置する義務があったのに,設置しなかった。 イまた,被告には,本件機械の清掃の際は,直接手を使わず,なんらかの掃除用の道具を用いてを行なうよう指示指導する義務があったのに,Aは,原告に手で本件作業を行なわせた。 ウ更に,(ア)本件工場には外国人が就労しているのに,(a)制御盤には,日本語表記だけで,「START」「STOP」等の英語の表記がなく,(b)清掃作業中などの作業状況を示す外国語やシンボルマークによる表示もないし,(イ)駆動ベルトにカバーがなく,(ウ)原告には,必要な安全教育が行なわれていなかった。そのほか,(エ)本件機械の清掃について,安全確保のための作業手順マニュアルが作成されておらず,(オ)制御盤の操作者と清掃作業者との意思疎通,連携を図る担当者の配置が必要だったのに,被告は,これらの措置をいずれも怠った。 ③ 本件事故による原告の損害は,以下のとおりであり,損益相殺後の残額は2313万6985円である。 (ア)入院雑費2万3400円,(イ)休業損害209万6468円,(ウ)入通院慰謝料156万4000円,(エ)後遺障害逸失利益886万9615円,(オ)後遺障害慰謝料1350万円,(カ)弁護士費用137万円④ よって,原告は被告に対し,本件安全配慮義務違反に基づく損害賠償として,2313万6985円及び 後遺障害逸失利益886万9615円,(オ)後遺障害慰謝料1350万円,(カ)弁護士費用137万円④ よって,原告は被告に対し,本件安全配慮義務違反に基づく損害賠償として,2313万6985円及びこれに対する原告の症状固定の日である平成13年1月10日から支払済まで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 ⑤ 本件機械の実際の構造は,別紙図面(3)のとおりであって,サブローラーの手前には,更に別のローラー(同図面記載の緑色部分。以下別ローラーという)があって,金属棘が植え付けられており,また,サブローラーもメインシリンダー左側にあったモーターからベルトで駆動されていた。 ⑥ 内部がブラックボックスとなっている機械で発生した労災事故の過失の主張立証責任については,危険責任や報償責任の観点から,労働者が当該機械により労災事故が発生したことにつき一応合理的な説明をした場合,使用者は,当該説明では事故が発生し得ないことを合理的な疑いを差し挟まない程度に主張立証する法的責任があると解すべきである。また,事故後に知り得た事実を前提に,労働者の過失を判断することも許されない。 ⑦ 後示(2)①の事実は否認する。 ア被告は,訴訟外の本件機械の見分時に,「動かすと壊れる」という不可解な理由で試運転を拒否したばかりでなく,前示1(2)カのとおり本件機械を取り壊してしまったが,これは,原告の主張が核心に迫ったことを知って,裁判所の現場での進行協議期日前に,約束に反し,あわてて本件機械を破壊したものと推認することができ,争点解明を避けるための証拠隠滅と評価されてもやむを得ないところであって,民訴法222条2項を準用ないし類推適用して,原告の主張事実の存在が推定されるべきである。したがって,メインスイッチを切ってもメインシリンダーが慣性力で回転するという被告 むを得ないところであって,民訴法222条2項を準用ないし類推適用して,原告の主張事実の存在が推定されるべきである。したがって,メインスイッチを切ってもメインシリンダーが慣性力で回転するという被告の主張は認められないし,その停止時間に関する被告の一方的な実験も有効なデータとはいえない。 イ本件事故後,原告が被告主張の事実を認めたことはない。また,事故当時,制御盤付近にはA自身がおり,他のスイッチを入れようとして,間違ってメインスイッチに触った可能性は否定できないし,平成11年冬から本件事故発生までの間に,丸1日かけて本件ラインの配電盤を修理したことがあり,本件機械には,なんらかの故障があった。 ウ本件ラインは,長い帯状のフェルト生地に所定の加工を施して製品にするプラントで,停止時に各機械が個々バラバラに止まると,製品に重大なダメージを与える危険があるから,各機械は,始動・停止時に適切に同期を取るよう設計されていると考えるのが合理的であり,メインスイッチを切った後もメインシリンダーが回転し続けるとは考えられない。また,中部熱工業の説明書(乙10)も同趣旨に理解することができる。 エ更に,本件事故時,メッシュベルトが動き出したとしても,あるいは出さなかったとしても,原告の主張に矛盾はない。 すなわち,当時原告には,なにが起きたかはっきり分からなかったというのが現実であり,メッシュベルトが動き出したために,ダクト部の奥まで手を入れて本件事故が発生したと考えることには合理性がある。また,メインシリンダーは,メッシュベルトとは別に始動することもできるのであって,この可能性もなんらおかしなものではない。 ⑧ 同②の主張は争う。 アインターロック式の安全防護装置は,日常的な家電製品でも周知の技術で,高額の対策費用も不要である。また,清掃用具の使 のであって,この可能性もなんらおかしなものではない。 ⑧ 同②の主張は争う。 アインターロック式の安全防護装置は,日常的な家電製品でも周知の技術で,高額の対策費用も不要である。また,清掃用具の使用にも格別費用等は要しないが,被告がこのように簡単な措置を履行していれば本件事故は防止できたのであるから,過失相殺はすべきでないし,するとしても,せいぜい10パーセントに止まるというべきである。 イ労災事故とは,労働者からみて,不可抗力で,あるいは労働者の不注意も競合して発生するものであって,被告主張のごとく,すべての注意義務が労働者に存するなら,安全防護装置は一切必要がなく,その設置義務も意味がなくなってしまうのであって,同主張は失当である。 ウ本件事故時に外された下カバーが,機能上,単なるカバーではなく,本件機械の構成要素だとしても,安全配慮義務とは無関係な問題であり,それが危険部位であれば,安全防護装置が必要だというべきである。 (2) 被告の主張① 前示(1)①の事実は否認する。 ア本件事故前,Aは,本件ラインを止める操作の最後に,本件機械の非常停止スイッチを押したが,同スイッチにはロック機構が付いており,これを解除しない限り,メインスイッチを入れても本件機械が動き出すということはない。したがって,本件事故時,本件機械が再起動するというのは,誰かが故意に非常停止スイッチを解除して,メインスイッチを入れなければあり得ないことであって,容易に考えられない。 イ本件機械は,メインスイッチが切れて駆動モーターへの電力が止まった後も,通常5分30秒から長くて6分以上メインシリンダーが慣性力で回転し続けるもので,本件事故は,メインスイッチを切った後,まだメインシリンダーが回転中に,原告がその部分に手を入れたことによって生じたもので,被告側の 秒から長くて6分以上メインシリンダーが慣性力で回転し続けるもので,本件事故は,メインスイッチを切った後,まだメインシリンダーが回転中に,原告がその部分に手を入れたことによって生じたもので,被告側の誤操作や絶縁不良等が原因ではない。 ウ本件事故直後には,原告自身がメインシリンダーの回転が止まらないうちに手を入れた事実を認めていた。また,事故当時,制御盤付近には人がおらず,誰かが誤ってメインスイッチを入れたとは考えられないし,絶縁不良等のため,本件事故時以外に本件機械が自然に動き出したり,ショートして故障するなどの問題が生じたこともない。 エ静止状態から動き出すときのメインシリンダーには勢いがないため,人間の腕を巻き込んで潰してしまうほどの運動量があるとは考えられず,事故態様からも,大きな慣性力で回転しているメインシリンダーに腕を巻き込まれたと考えるのが自然である。 オ原告主張のとおり,本件事故当時,停止していた本件機械に電源が入ったとすれば,メッシュベルトが動き始め,コンベアベルトの上に載って作業していた原告の身体も,ダクト部の奥の方に運ばれたはずであるが,原告の供述中には,そのような状況に関する説明は一切ない。 カなお,原告が問題とする本件機械の破壊は,従前からの方針によるもので,綱渡りの経営を強いられる被告にとってラインの改造を待つ余裕はなく,早急にランダム機である本件機械を廃棄して,カード機に変える経営上の必要性があり,証拠隠滅等と非難されるべきものではない。 ② 同②のうち,安全教育を実施しなかったとの事実は否認し,その余の法的主張は争う。 ア本件機械の下カバーは,ドライバーやレンチで固定ボルトを外さなければ開かない構造で,メインテナンス時以外に開くことを予定しておらず,単なる「カバー」ではなく,ダクト部の側板なのであり は争う。 ア本件機械の下カバーは,ドライバーやレンチで固定ボルトを外さなければ開かない構造で,メインテナンス時以外に開くことを予定しておらず,単なる「カバー」ではなく,ダクト部の側板なのであり,本件通達所定の固定ガードに該当する。したがって,同カバーや同じくボルト止めされた上カバーを開けない限りメインシリンダーに触れられない本件機械は,安全上,所定の性質を具備したものというべきである。 イ本件ラインには,長大な材料が半製品を経て製品となるまでつながって流れており,本件ライン中の機械を止める場合,全部を停止させなければ,貴重な材料が引き裂かれて全部だめになってしまう。したがって,原告主張のインターロック式安全防護装置を設置するには,本件ライン中のどの機械のどのカバーを開けても,ライン全体を一斉に停止させなければならないが,そのような装置はコスト的に非現実的である。 また,安全防護装置で,本件機械への通電を止めただけでは,慣性力で回転するメインシリンダーを停止させることはできず,事故防止には無意味だし,併せて強制停止装置を設置するとしても,本件ライン中には,高速回転するシリンダーが無数にあり,全部に強制停止装置を付けることもコスト的に現実性がないのであって,原告主張の安全防護装置の欠如をもって安全配慮義務に違反するということはできない。 更に,ダクト部に溜まる微細な繊維屑は,どうしても手でないと取り切れず,うまく埃を除去できる適当な清掃道具は存在しない。 ウ (a)日頃,被告では,駆動モーターや駆動ベルトの動きを見て,メインシリンダーの回転が完全に停止したのを確認してから本件機械の清掃を行なうよう指導しており,原告も従前これを遵守していた。本件事故は,上記指導を遵守していれば発生しなかったのであって,もっぱら原告の過失による事故である 完全に停止したのを確認してから本件機械の清掃を行なうよう指導しており,原告も従前これを遵守していた。本件事故は,上記指導を遵守していれば発生しなかったのであって,もっぱら原告の過失による事故である。また,(b)メインシリンダーが回転している最中に同部分に手を入れるという行為自体が危険で非常識なものであるし,(c)清掃が必要な繊維屑は,サブローラーの手前に房状に溜まるから,奥のメインシリンダー部分に手を入れる必要はなく,あえてそこまで手を届かせようとすれば,コンベアローラー上に寝そべらねばならないが,これは本件機械の通常の清掃作業には必要のない姿勢であり,被告には,以上のような危険で異常な行為があり得ることを前提として,安全防護装置の設置等の安全対策を取るべき注意義務はなかった。 したがって,被告には,本件事故発生につき責任がないし,そうでないとしても,大幅な過失相殺をすべきである。 エ被告では,平成11年3月8日から21日まで原告の研修を実施し,Aが付き添って本件ラインの各工程を回り,作業内容,安全上の注意事項等を指導したが,その際,本件機械の清掃は,スイッチを切ってもメインシリンダーが慣性力で回転するため,駆動ベルトが完全に停止したことを確認してから作業を開始するように日本語と若干の英語で説明した。原告は,簡単な日本語を理解する能力があり,また従前この指導に従っており,上記説明を理解していたことは明らかである。 ③ 同③の事実は否認する。 ④ 原告は,理解力が高く,仕事の要領も良い優秀な従業員で,上記②のとおり安全上の注意事項も理解していたが,本件事故の2,3か月前から,なにかに悩んでいたのか,茫然と考え事をしているのが目立ち,集中力を欠いており,そのような状況で本件事故を起こしたものである。 第3 当裁判所の判断 1 前提となる事 が,本件事故の2,3か月前から,なにかに悩んでいたのか,茫然と考え事をしているのが目立ち,集中力を欠いており,そのような状況で本件事故を起こしたものである。 第3 当裁判所の判断 1 前提となる事実①前示第2,1の各事実,甲4の1・2,甲13,甲17,乙1,乙3の1ないし15,乙5の1ないし同号証の2の8,乙10ないし乙12,証人A・同Bの各証言,②いずれも後示採用できない部分を除く甲2,甲12,甲16,原告本人尋問の結果によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被告の本件工場には,フェルト製造用の本件ラインなど別紙図面(1)記載の生産ラインがあったが,本件機械(同図面記載A)は,本件ライン中で,原料の綿塊を解きほぐす開繊作業を行なう,ランダム機と呼ばれるタイプの大型機械であり,上方から投入した原料を,回転するメインシリンダー(別紙図面(2)記載①)で開繊し,ほぐした繊維を,ファンによる気流の力でメインシリンダー下方のダクト部(同⑦)を通ってメッシュベルト(同④)に層状に吸い寄せて,同ベルトで下方に運搬し,更に最下部から本件ラインの次の機械に送る構造になっていた。そのほか本件機械には,メインシリンダーの手前に,開繊された繊維を同シリンダーから剥離させる目的のサブローラー(同②。コームローラーなどともいう)が設置されており,更にその手前にはメッシュベルトの位置決めを行なうコンベアローラー(同③)があった。 (2) メインシリンダーは,直径48センチメートル,長さ2メートル前後の円筒形の大型金属部品で,本件機械の2階床部分に水平に設置されていたが(軸受がほぼ同階床面の高さにある),表面全体に開繊用の金属棘が植え付けられており,回転中の同シリンダーに人体が触れると危険だった。しかし,上方と手前下方には,ボルト止めの上カバー(別紙図面(2) (軸受がほぼ同階床面の高さにある),表面全体に開繊用の金属棘が植え付けられており,回転中の同シリンダーに人体が触れると危険だった。しかし,上方と手前下方には,ボルト止めの上カバー(別紙図面(2)記載⑤。カマボコ型)と下カバー(同⑥。略方形の板状)があって,左右両側面の部品などともにメインシリンダーを覆っており,これらを外さないと同シリンダーに触れることができない構造になっていた。一方,サブローラーは,前示のとおり繊維の剥離用のため表面は滑らかで,金属棘等は付いていなかった。 (3) また,下カバーは,左右両側面の部品などと合わせてダクト部を構成し,内部を通過する繊維やファンの気流が漏れないように側面を囲っていたが,点検,清掃等の目的から,固定用の4本のボルトを緩めて下カバー全体を取り外し,できた開口部からダクト部内に接近できるように設計されていた(一方,左右両側面などの部品は,そのままでは取外しが不可能だった)。 (4) 本件機械は電動式で,メインシリンダーは,その右側の2階床面上に設置された駆動モーターによって,駆動ベルトを介して,別紙図面(2)記載のとおり手前から向こう側に回転するようになっていた。そして,本件事故当時,駆動ベルトの一部には段ボールの覆いが掛けてあったが,他は露出しており,同部分のベルトの動静を見れば,メインシリンダーが回転しているか否かを確実に視認することができた。また,メッシュベルトもモーターで手前から向こう側に駆動されるようになっていた。 (5) 本件機械の運転・停止は,本件ラインの制御盤上のメインスイッチで上記モーターへの電力供給を断続して操作できるようになっていたが,電力停止後,抵抗の大きいメッシュベルトが短時間で止まるのに対し,前示(2)のとおり大型の金属製で重量があり慣性力の大きなメインシリンダーは, ターへの電力供給を断続して操作できるようになっていたが,電力停止後,抵抗の大きいメッシュベルトが短時間で止まるのに対し,前示(2)のとおり大型の金属製で重量があり慣性力の大きなメインシリンダーは,抵抗も小さく,かなりの時間,回転を続けたままだった(本件事故後の被告の実験によれば,条件によって異なるものの,短くて5分30秒程度の回転の継続が認められた)。なお,本件ラインの一連の機械は,一定の手順で運転・停止を行なわないと,これらの間で加工中の帯状のフェルト半製品などが切断等される危険があったが,電力停止後に原料の供給が止まり,それ以降の工程とも物理的に結合していないメインシリンダーは,回転を継続しても格別問題がなかったため,強制停止装置等は設置されていなかった。 また,本件機械1階部分には,ロック機構の付いた非常停止スイッチがあって,下記(6)以下の清掃作業時などに使用されていたが,一旦ロックを入れると,これを解除しない限り本件機械を再起動させることができなかった。 そして,本件ラインの運転・停止は,本件工場の責任者の一人であるAが行なっており,他の者がこれを行なうことはなかった。 (6) 本件機械の運転を継続してゆくと,メッシュベルトに吸い寄せ切れなかった繊維屑がサブローラー周辺に留まり,ダクト部の別紙図面(2)記載⑧付近に上方から房状に垂れ下がって溜まって,その結果気流が乱れ,製品にむらができるなどしたが,これは,本件機械を停止させた後,作業員が同機械の2階部分でコンベアローラーの上に乗って,前示(3)のとおり下カバーを外し,しゃがみ込む等の低い姿勢で,比較的低い位置にある開口部からダクト部に腕を入れて清掃することができ,本件事故当時,本件工場では,少なくとも1日1回以上の割合で,このような本件機械の清掃を行なっていた。 (7) 一方 い姿勢で,比較的低い位置にある開口部からダクト部に腕を入れて清掃することができ,本件事故当時,本件工場では,少なくとも1日1回以上の割合で,このような本件機械の清掃を行なっていた。 (7) 一方,繊維屑が溜まるのは,気流の渦などができる上記別紙図面(2)記載⑧付近であるため,このような清掃作業で,メインシリンダーのあるダクト部の奥の方に手を入れる必要はなかった(原告もこの点の認識を認める-同本人調書24頁)。また,仮に作業員が上記コンベアローラー上の位置からメインシリンダーに触れようとすれば,中間の比較的低い位置にあるサブローラーを避けて,その向こう側斜め上方にあるメインシリンダーに手を伸ばさなければならず,距離的にも少なくとも20センチメートル程度以上,通常の清掃作業より余分に手を伸ばす必要があった。 (8) また,前示(5)のとおり,メインスイッチを切っても直ちにメインシリンダーの回転が止まらないため,被告では,危険防止のため,作業員に対し,駆動ベルトを見て同シリンダーの停止を確認してから本件機械の清掃に取り掛かるよう指導していた(原告も,実質的にその趣旨の指導を受けたことを認める-同本人調書6,9,17頁。なお,上カバーには,日本語で,「確認停止したらあけること。」との注意書きが記載されている)。 (9) 本件機械は,C株式会社の製造により,平成9年本件工場に設置された。当時,本件機械のサブローラーは,メインシリンダーからの繊維の剥離を良くするため,同シリンダー左側からベルトを掛けて,同方向に回転させるようになっていたが,試運転の結果,回転させない方が製品が良好だったため上記ベルトを外し,これ以降サブローラーは,受動的に回転する以外に回転しないまま使用されるようになった。 また,下カバーは,設計図面とはやや異なり,サブローラーを 回転させない方が製品が良好だったため上記ベルトを外し,これ以降サブローラーは,受動的に回転する以外に回転しないまま使用されるようになった。 また,下カバーは,設計図面とはやや異なり,サブローラーを覆う位置に設置された(別紙図面(2)は,この下カバーの位置変更を考慮して,設計図に修正を施してある-ただし,その位置,形状は概略のものである)。なお,そのほかにも,各種の改造が行なわれたが(直接本件に関係のないものは省略する),電気関係の改造等は行なわれなかった。 (10) 原告は,フィリピン出身で,同国で私立フィアッティ大学工学部を卒業し,平成3年11月29日に来日し,その後建築関係の仕事などに従事した後,平成11年3月8日被告に採用された。採用後,原告は,Aから作業内容のほか,安全上の注意,例えば巻き込み防止のための手袋,長袖シャツの禁止や,機械の作動中は絶対中に手を入れないなどの点について説明を受け,本件機械の清掃についても前示(8)のような注意を受けていた。 そして,原告は,少なくとも本件事故の1か月前から,本件機械の清掃も担当するようになったが,Aの上記指示を遵守しており,駆動ベルトを見てメインシリンダーの停止を確認してから,本件機械の清掃を行なっていた。 2 本件事故の経過等(1) この点について,原告は,前示第2,2(1)①の経過を主張するほか,本件機械の構造について,同⑤のとおり主張しており,甲4の1・2,原告本人の供述中には,要旨,「(a)平成12年2月4日午後4時45分頃,本件工場で就労中,Aから本件機械を清掃するよう言われたので,梯子を上って本件機械の2階部分に行き,メインシリンダー右側の駆動モーターのほかに,同シリンダー左側にあるサブローラーの駆動モーターのベルトを見て,本件機械が停止しているのを確認してから,本件作業 梯子を上って本件機械の2階部分に行き,メインシリンダー右側の駆動モーターのほかに,同シリンダー左側にあるサブローラーの駆動モーターのベルトを見て,本件機械が停止しているのを確認してから,本件作業を始め,ボルトを緩めて下カバーを外し,繊維屑を取っているときに,突然手がなにかに引っ張られて,本件事故に遇った。」と,停止中の本件機械が再起動したため本件事故が発生したとの趣旨をいう部分がある。 また,原告本人の供述中には,要旨,「(b)サブローラーの表面には,金属棘が植え付けられており,モーターで駆動されている同ローラーと,前示第2,2(1)⑤の別ローラーとの間に左手を挟まれて負傷した。」との趣旨の部分がある(同本人調書16頁及び同添付図面(3))。 (2) しかしながら,原告主張の別ローラーの存在を明確に示す写真等の客観的証拠はない(原告は,甲17の写真3に写っている金属棘の植わったローラーがそれである旨主張しているが,これはむしろメインシリンダーと考えられ,同写真からそのような別ローラーの存在を認定することはできないし,当該部分に別ローラーを設置する余地も必要性もないことは,CのB証人も証言している。また,原告本人の供述によれば,上記(1)(b)のように,別ローラーではなく,むしろサブローラーの方に金属棘が植わっていたというのであって,原告の主張内容には一貫性も認められない)。 そして,試運転後サブローラーに掛かっていたベルトを外し,その後同ローラーが能動的に回転しなくなったことは,前示1(9)認定のとおりであって,これと固定されていたという別ローラーとの間に原告の手が挟まれる余地はないものといわなければならない。 また,原告供述等のとおり,本件事故当時,停止中の本件機械に電源が入ったとすれば,メインシリンダーのみでなくメッシュベルトも動き ラーとの間に原告の手が挟まれる余地はないものといわなければならない。 また,原告供述等のとおり,本件事故当時,停止中の本件機械に電源が入ったとすれば,メインシリンダーのみでなくメッシュベルトも動き始め,その結果コンベアベルトの上に載って作業していた原告の身体も,ダクト部の奥の方に運ばれる結果となったはずであるが,原告の供述中には,そのような場面に関する部分を見出すことはできず,かえって,原告は,手を挟まれる前後を含め,本件作業中にメッシュベルトやコンベアローラーが動いたことはない旨を明言している(同本人調書28頁)。 更に,前示1(5)第2段及び下記(3)認定のとおり,本件作業の際には,Aが本件機械の非常停止スイッチを掛けていたのであるから,何者かが敢えて同スイッチのロック機構を解除して,メインスイッチを入れない限り,本件機械が再起動することはないと考えられるが,そのような可能性は極めて乏しいものといわねばならない。 (3) したがって,以上の点を考慮すれば,原告に有利な前示(1)掲記の各証拠はいずれも採用することができない。 そして,乙12,証人Aの証言,いずれも前後示採用できない部分を除く甲12,原告本人尋問の結果のほか,前示1認定の各事実によれば,(a)本件事故前,Aは,制御盤のメインスイッチを切って本件ラインへの電力供給を停止するとともに,本件機械1階部分にあった非常停止スイッチを押してロック機構を作動させたが,前示1(5)のとおり慣性力の大きなメインシリンダーは回転を続けていたところ,(b)本件ラインの解毛機付近でAから清掃の指示を受けた原告は,下カバーを外す道具類を持って梯子を上り,本件機械の2階部分で,いまだメインシリンダーが回転していて右側の駆動ベルトが動いているのを見ながら,下カバーのボルト4本を外し(甲12の実験に けた原告は,下カバーを外す道具類を持って梯子を上り,本件機械の2階部分で,いまだメインシリンダーが回転していて右側の駆動ベルトが動いているのを見ながら,下カバーのボルト4本を外し(甲12の実験によれば,以上に要する時間は2分間を大きく上回らない程度であり,前示1(5)のとおりメインシリンダーの回転は十分続いていたと認められる),(c)コンベアローラーとメッシュベルトの上で,通常の本件機械の清掃の場合に比べ非常に低い姿勢を取ったうえ(寝ころんでいた可能性もある),前示1(7)の認定と同様に,通常,繊維屑が溜まっている別紙図面(2)記載⑧の部分を超えてダクト部の奥の方に左腕を伸ばし,まず比較的低い位置にあるサブローラーを避けるため,一旦左腕を斜め下方に下げたうえ,肘関節を曲げるなどして前腕部をサブローラー向こう側の斜め上方にあるメインシリンダーの方向に伸ばし,(d)その結果,回転中の同シリンダーとサブローラーとの間に左腕を挟まれて,本件事故が発生したと認めることができる。 (4) 上記認定の事実によれば,本件事故は,原告が正常な本件機械の清掃手順を完全に逸脱した異常な行動に出たために発生したものというべきであって,被告には,かかる異常な行動によって事故が発生する危険性までも予想したうえで,本件機械にインターロック式の安全防護装置を設置したり,原告に清掃用具の使用を指示したりする注意義務は存しないというのが相当である。また,原告主張の前示第2,2(1)②の各注意義務の履行の有無と本件事故との間の因果関係も認められない。 したがって,以上によれば,被告には,本件安全配慮義務違反の事実があると認めることはできず,本件事故発生についての責任を肯定することができない。 3 原告の主張に対する検討(1) これに対し,原告は,メインスイッチの切断後メ 被告には,本件安全配慮義務違反の事実があると認めることはできず,本件事故発生についての責任を肯定することができない。 3 原告の主張に対する検討(1) これに対し,原告は,メインスイッチの切断後メインシリンダーが回転を継続する点を争い,また被告による本件機械の取壊しを証明妨害に該当すると主張している。 しかしながら,慣性力によるメインシリンダーの回転継続は,製造者であるCのB証人が証言するばかりでなく,原告自身が,本件機械の清掃に当たり,その点を注意しなければならなかった事実を実質的に認める供述もしているのである(同本人調書17頁)。また,証人Aの証言によれば,本件機械は,不良品の発生率が高く,清掃にも手間がかかるため,従前からカード機と呼ばれる別タイプの機械の導入が計画されており,平成13年12月に,原告立会いのうえで本件機械の見分が完了した後に,予定とおり取り壊しただけであると認められ,直ちにこれを証明妨害行為などと評価できるものではない。 したがって,一部被告の主張に不適切な点があることを考慮しても,原告の上記主張は容易に採用できず,メインスイッチ切断後のメインシリンダーの回転継続を否定することはできない。 (2) また,原告は,前示第2,2(1)②ア,⑧ウのとおり,本件機械の下カバーを外してできた跡は,本件通達所定の作業を行なうための開口部に該当し,また危険性があるから,本件事故態様のいかんにかかわらず,同通達や労衛法20条1号,労衛則144条に基づき,インターロック式安全防護装置が必要だったと主張しているが,(a)前示1(3)認定の事実によれば,下カバーは,ダクト部の構成要素であって,本件通達所定の固定ガードに該当し(同別表第2,3(2)ア),これが取り外せるようになっているのは,単に点検,清掃のためにすぎず,したがって,取り 実によれば,下カバーは,ダクト部の構成要素であって,本件通達所定の固定ガードに該当し(同別表第2,3(2)ア),これが取り外せるようになっているのは,単に点検,清掃のためにすぎず,したがって,取り外した跡にできる穴は,作業を行なうための開口部には該当しないというのが相当であるし(上記作業とは,当該機械の目的となっている作業をいうと解される),メインシリンダーの停止の確認という適切な作業手順を遵守さえすれば,本件機械の清掃に格別の危険が伴うものでないのは明らかであるから,上記主張はいずれも直ちに採用することができない(本件事故時の原告の行動は,前示2(3)(4)認定のとおり異常なものであり,容易に,前示第2,2(1)⑧イの主張のような正常な作業に随伴する通常の不注意とは評価することができない)。 (3) 更に,原告は,前示第2,2(1)⑦イないしエのとおり,(a)誤操作又は故障による本件機械の再起動の可能性を指摘し,(b)本件ラインの各機械の同期関係を理由にメインスイッチ切断後のメインシリンダーの回転を否定するほか,(c)本件事故時にメッシュベルトが動いても,動かなかったとしても,本件機械が再起動したことと矛盾しないなどと主張している。 しかしながら,(ア)本件事故当時,非常停止スイッチのロック機構が作動していて,これを解除しない限り本件機械を再起動することができなかったのは,前示2(3)(a),同1(5)認定のとおりであるし,(イ)原告主張の誤操作ないし機械故障が,たまたま本件事故時に,メインシリンダーの駆動モーターないしそのスイッチについてのみ発生したというのも容易にありそうにない事態である。また,(ウ)本件事故当時,メッシュベルトが動き出したとすれば,原告の身体は,前方約45度の斜め下方に進むことになるのであって,そのために,原告 のみ発生したというのも容易にありそうにない事態である。また,(ウ)本件事故当時,メッシュベルトが動き出したとすれば,原告の身体は,前方約45度の斜め下方に進むことになるのであって,そのために,原告の左腕が,自己の体幹部に対し上方に持ち上がってメインシリンダーに触れるなどという事態は容易に起こりそうにもない。 そして,(エ)上記(a)の故障を裏付ける,他の機会における本件機械の故障等を認めるに足りる証拠はなく,(オ)上記(b)の可能性が排除されるのは,前示1(5)認定のとおりであって,原告の上記主張は容易に採用できない。 (4) そのほか,原告は,前示第2,2(1)⑥のとおり本件機械の内部がブラックボックスであると主張して,立証責任の軽減又は実質的転換を求めているが,その前提事実は直ちに認めることができず,他に前示認定を覆すに足りる証拠はない。 なお,そのほかに本件では,本件事故前,Aが本件ラインのスイッチを切ったのと原告に本件機械の清掃を命じたのとの先後関係や,スパナとドライバーの入った道具箱を持ってきたのが原告なのかAかなどの点も問題となっていたが,前示したところに照らせば,これらの点に関する事実認定が,直ちに本件の結論を左右するものではないというべきである。 4 結論以上の次第で,原告の請求は,すべて理由がない。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判官夏目明徳(別紙省略)

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