平成22(わ)273 殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反

裁判年月日・裁判所
平成22年11月26日 松山地方裁判所
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判決文本文4,475 文字)

- 1 -主文被告人を懲役5年6月に処する。 未決勾留日数中90日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は第1平成22年5月30日午後2時30分ころ,愛媛県八幡浜市a番地bのA方において,同人(当時73歳)に対し,殺意をもって,出刃包丁(刃体の長さ約18.5センチメートル)で,同人の首や顔面等を数回切り付けたが,同人に全治約1か月を要する頸部切創等の傷害を負わせるにとどまり,殺害の目的を遂げなかった第2業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時場所において,前記出刃包丁1本を携帯したものである。 (証拠の標目)省略(法令の適用)被告人の判示第1の所為は刑法203条,199条に,判示第2の所為は銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22条にそれぞれ該当するところ,各所定刑中判示第1の罪については有期懲役刑を,判示第2の罪については懲役刑をそれぞれ選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役5年6月に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中90日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)※以下,月日のみで示す日付は平成22年である。 - 2 - 殺意の形成過程について㨯証拠によれば,以下の事実が認められる。 被告人は,かねて,知人のBからしばしば自動車を借りて競輪(場外車券売場)に出かけていたが,Bが被告人に自動車を貸すのを渋るようになり,その理由として,Bから,A(被害者)が被告人に自動車を貸さないように働きかけていると聞き,Aに対し,腹を立てていた。 被告人は,事件当日,居候しているC Bが被告人に自動車を貸すのを渋るようになり,その理由として,Bから,A(被害者)が被告人に自動車を貸さないように働きかけていると聞き,Aに対し,腹を立てていた。 被告人は,事件当日,居候しているC宅でテレビを見ていたが,面白い番組もなく,所持金も使い果たしていたことから,苛立ちが増す中で,A方に行くことを決意した。 そして,C宅にあった出刃包丁の中から,刃体の長さ約18.5センチメートル,重さ約300グラムの出刃包丁を選び,刃をタオルにくるんで自転車のかごに入れ,C宅を自転車で出た。 被告人は,A方アパートに向かう途中,このままA方に行けば警察沙汰になるかもしれない,そうすれば,Cに自転車が返せなくなるなどと考えて,自転車を途中で降り,その場所をCに携帯電話で知らせた上で,出刃包丁を抜き身でズボンのポケットに入れ,徒歩でA方に向かった。 被告人は,A方の近くでAに電話をかけたところ,Aは,いったん電話を切ったものの,すぐに被告人に電話をかけ直し,家に上がるように言った。 被告人は,A方玄関に靴を脱いで上がったところ,Aは,6畳間に敷かれた布団の上に横たわっていた。 被告人は,ポケットから包丁を出して,布団の脇まで近付き,包丁を示して,「Bが車を貸してくれると言っているのになぜ駄目なのか。」などと強い口調で言った。Aが,「何やこら。」などと言いながら,起き上がりつつ,被告人に向かって手を伸ばしてきたことから,被告人はかっとなって,Aの胸辺りを足で押し返し,Aを後方に倒した。そして,被告人は,「三途の川連れてっちゃる。」などと怒鳴り,Aの顔面や頸部等を少なくとも4回切り付けた。 - 3 -㨯Aは,自宅で被告人から切り付けられた際の経過として,被告人が,寝室に入ってくるなり仰向けに寝ていたAの腹を踏み付け,右手に持った出刃包丁を示しながら, を少なくとも4回切り付けた。 - 3 -㨯Aは,自宅で被告人から切り付けられた際の経過として,被告人が,寝室に入ってくるなり仰向けに寝ていたAの腹を踏み付け,右手に持った出刃包丁を示しながら,「おれも死ぬる覚悟じゃけん,お前も殺してやる。」などと怒鳴りつけ,Aがやや上半身を起こしたところを包丁で切り付けてきたと供述する。 しかし,被告人が自宅に上がり,いきなり枕元まで来て怒鳴ってきたのに対し,抵抗も示さず漫然と切り付けられるというのも,やや不自然な感があること,自動車を貸さないようBに働きかけたことに関して,Bから相談されて助言しただけであるなどと,第三者であるBの話とは食い違った内容を述べていること,被告人が自宅に来た理由について,当初は思い当たることはないなどと述べながら,その後自動車の件で来ることを予想していたことを認めるなど,一部変遷も見られることから,その証言をそのまま信用することはできない。 また,検察官は,寝室内の血痕の付着位置からすると,A供述が信用でき,被告人供述が信用できないと主張するが,必ずしもそうは断定できない。A方におけるやり取りについての被告人供述の信用性を否定する事情は特になく,上記認定のとおりであったと認められる。 㨯検察官は,被告人が包丁を持ち出した時点から徐々に殺意を形成させていたと主張するのに対し,弁護人は,犯行直前に突発的に殺意が生じた旨主張する。 この点,被告人が包丁を持ち出した時点においては,包丁で切り付けることを決意していたとまでは断定できないが,A方に向かう途中で自転車を降り,Cにその置き場所を知らせた段階では,Aに対して包丁で攻撃することも考えていたとみるのが自然である。そして,被告人がA方に入るまでの流れの中で,徐々に気持ちが高まり,Aの対応によって,最終的に切り付けて殺そうと決意 知らせた段階では,Aに対して包丁で攻撃することも考えていたとみるのが自然である。そして,被告人がA方に入るまでの流れの中で,徐々に気持ちが高まり,Aの対応によって,最終的に切り付けて殺そうと決意したと認められる。 被告人は,Aの対応が反抗的だったので,その場で殺意を生じたというが,Aの対応は,刃物を示されて怒鳴られた者として,それほど意外なものとはいえず,にもかかわらず,被告人がいきなり切り付けていることからすると,A- 4 -方に入るまでに包丁で切り付けることをある程度考えていたとみるのが自然である。 また,弁護人は,被告人がA方に靴を脱いで入ったことを,その時点で殺意がなかったことの表れであると主張するが,家に入る際に靴を脱ぐというのはごく普通の行動であるから,殺意を否定する事情にはならない。 犯行の計画性・態様・結果上記のとおり,本件犯行は,当初から殺害計画があったわけではない。しかし,被告人が,Aに対する苛立ちを募らせ,自宅から包丁を持ち出し,A方に向かううち,徐々に気持ちを高ぶらせ,A方で,Aと対面して殺害しようと決意したもので,一時の激情にかられた偶発的な事件だとも評価できない。 被告人は,無抵抗のAに対し,刃体の長さ約18.5センチメートル,重さ約300グラムの出刃包丁という殺傷能力の非常に高い凶器で頭部(顔面)や頸部を少なくとも4回,力任せに一方的に切り付けている。うち1回は結果的に上腕部が切られているが,これは,Aが腕で顔面を防御した際の負傷であり,この攻撃も頭部や頸部を狙ったと認められる。 Aは,緊急入院して手術を受け,命こそ取りとめたものの,全治約1か月の左頸部切創等の重傷を負っており,結果はそれ自体重大である。また,体勢や刃の当たる角度が異なれば,たちどころに総頸動脈を切断して死に至っていたはずであり,A ,命こそ取りとめたものの,全治約1か月の左頸部切創等の重傷を負っており,結果はそれ自体重大である。また,体勢や刃の当たる角度が異なれば,たちどころに総頸動脈を切断して死に至っていたはずであり,Aが死亡しなかったのは,幸運であったというにすぎない。 犯行に至る経緯・動機被告人は,事件の3年くらい前から,毎日のようにA方に赴き,麻雀をするなどして親しく付き合っていた。Aを通じて知り合ったBから自動車を借りて,Aと一緒に競輪にも行っていた。しかし,3月ころ,麻雀仲間の1人が死亡したことや,Aが金に困り競輪をやめたことなどから,A方から足が遠のき,競輪にも1人で行くようになった。そして,Bから自動車を借りて1人で競輪に行こうとした際に,Bから,Aが被告人に自動車を貸すなと言っていると聞かされるなど- 5 -した。被告人は,自動車を借りるたびに,Bに対しガソリン代やタバコ代として計1300円を渡しており,自分としては,するべきことはきちんとしていると思っていたにもかかわらず,横やりを入れられた,競輪に行けないAが自分に嫌がらせをしているという思いを抱くようになった。しかし,被告人は,自分からAに連絡を取って事情を問い質すことなく過ごし,Aからの連絡もなかったことから,1人でうつうつとし,Aへの怒りを次第に増幅させ,事件当日に至った。 その心の動きは,供述内容や生活歴等からうかがえる被告人の性格,当時の被告人の置かれた境遇などを前提にすると,理解不能であるとまではいえない。しかし,AのBへの働きかけが,被告人への嫌がらせや意地悪としてされていたとしても,それは,刃物で切り付けられ,殺されかけるほどの事情とは到底考えられないし,そのことは,被告人も十分分かっていたはずである。被告人が,1人で怒りを募らせ,結果としてAの気持ちを確かめることなく ても,それは,刃物で切り付けられ,殺されかけるほどの事情とは到底考えられないし,そのことは,被告人も十分分かっていたはずである。被告人が,1人で怒りを募らせ,結果としてAの気持ちを確かめることなく凶行に及んだことについては,自分勝手だと評価するほかなく,厳しい非難を免れない。 その他被告人は,犯行後に自殺を試みているが,その行動を,反省の表れであるとまで認めることはできない。また,被告人は,当公判廷において,自分なりにAに対する謝罪と反省を示しているものの,やったことの重さを十分に自覚し,内省を深めているとは認め難い。他方で,Aが被告人に対する厳重な処罰までは求めていないこと,親族の援助を得て2万円を弁償していること,前科がないことなどの事情もある。 結論 以上の事情を踏まえて検討すると,犯行態様の危険性,結果の重大性,犯行に至る経過などからすれば,本件については,法定刑の下限である懲役5年を下回ることが相当な事案とは認められない。そして,被告人の置かれた境遇や立場,被害者が必ずしも厳重な処罰までは求めていないことなどを考慮すると,法定刑の下限を若干上回る懲役5年6月に処するのが相当である。 - 6 -(量刑意見:検察官/懲役7年,弁護人/懲役4年)平成22年12月2日松山地方裁判所刑事部村越一浩裁判長裁判官伊藤隆裕裁判官松原経正裁判官

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