平成17(ワ)213等 解雇無効確認等請求事件(通称 三菱電機懲戒解雇)

裁判年月日・裁判所
平成20年2月28日 神戸地方裁判所 尼崎支部
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判決文本文40,663 文字)

- 1 -主文 原告の請求をいずれも棄却する。 原告は,被告に対し,2109万5995円及びうち152万7500円に対する平成16年11月1日から,うち1824万1989円に対する同年12月30日から,うち132万6506円に対する平成17年9月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告は,被告に対し,別紙「文書,資料一覧表」記載の物件を引き渡せ。 被告のその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用のうち,第1事件により生じた分は原告の負担とし,第2事件により生じた分は,これを2分し,その1を被告の,その余を原告の各負担とする。 この判決の第2項は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求 原告の請求(1)(主位的請求)原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有することを確認する。 (2)(予備的請求)被告は,原告に対し,805万円及びこれに対する平成15年9月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3)訴訟費用は被告の負担とする。 (4)仮執行宣言 被告の請求(1)原告は,被告に対し,5432万3576円及びうち158万0520円に対する平成16年11月1日から,うち4659万1990円に対する同年12月30日から,うち615万1066円に対する平成17年9月28日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 - 2 -(2)原告は,自ら別紙「差止行為目録」記載の各行為をしてはならず,かつ,第三者をして同各行為をさせてはならない。 (3)ア(主位的請求)原告は,被告に対し,別紙「ファイル目録」記載のファイル一式,及び,原告が現に所持するSIVに関する文書・技術文書その他これらに関する一切の資料等を返還せよ。 イ(予備的請求)原告は,別紙 求)原告は,被告に対し,別紙「ファイル目録」記載のファイル一式,及び,原告が現に所持するSIVに関する文書・技術文書その他これらに関する一切の資料等を返還せよ。 イ(予備的請求)原告は,別紙「ファイル目録」記載のファイル一式,及び,原告が現に所持するSIVに関する文書・技術文書その他これらに関する一切の資料等を廃棄せよ。 (4)仮執行宣言第2事案の概要及び争点 事案の概要本件は,被告の従業員であった原告が,被告に対し,被告が原告に対してなした懲戒解雇処分(以下「本件懲戒解雇処分」ともいう。)が無効であることを理由として,労働契約上の権利を有することの確認(主位的請求),被告の退職金不支給処分が無効であることを理由として,被告の年金支給規則9条但書に基づく退職金額の5割に相当する金員の支払(予備的請求)を求めた事案(第1事件),並びに,被告が原告に対して,原告による出張旅費の不正受給を理由とした不当利得の返還,原告が被告の名誉等を毀損する文書を被告の顧客等に送付したとして不法行為に基づく損害賠償,同種行為の差止め,及び,原告が所持する被告の技術資料等の返還(主位的請求),廃棄(予備的請求)を求めた事案(第2事件)である。 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認めることができる事実)(1)当事者- 3 -ア被告は,各種一般機械器具及び部品の製造並びに販売を業とする株式会社である。被告は,鉄道の車両用及び地上用の電気機械等を製造し,日本国内及び海外の鉄道会社,公共団体に対して製品を納入している。 イ原告は,昭和45年4月1日ころ,被告との間で雇用契約を締結して入社し,平成15年9月17日当時,交通システム事業所・生産革新推進プロジェクトグループに所属し,専任の職にあった。 ( している。 イ原告は,昭和45年4月1日ころ,被告との間で雇用契約を締結して入社し,平成15年9月17日当時,交通システム事業所・生産革新推進プロジェクトグループに所属し,専任の職にあった。 (2)SIVについてSIV(車両用補助電源装置)とは,電気鉄道車両に搭載される電力変換用インバータ装置のことであり,車両内の空調装置,照明機器,制御装置の電源として電力を供給するものである。通常は,電車の車両の床下に懸架されている箱状の装置であり,構成部品としてトランス(変圧器)が組み込まれている。 被告は,SIV関連装置を昭和57年ころから製造し,電鉄会社や車両製造メーカーに出荷しており,平成19年3月までに約3000台の出荷実績を有している。原告は,被告で主にSIVの設計を含む車載用電力変換装置設計部門を歩んだ。 (3)原告による出張旅費精算平成13年5月から平成15年6月にかけて原告が行った出張旅費精算の内容は,別紙「出張旅費精算内容一覧表」記載のとおりである。 (4)原告に対する懲戒解雇,退職金不支給ア平成15年9月17日,被告は交通システム事業所名で,原告に対し,原告が,平成13年5月から平成15年6月にかけて,多数回にわたり出張を偽装し会社を欺罔した旅費精算を行ったこと,「出張届ならびに出張旅費精算書」(以下,単に「出張届」という。)に繰り返し上長の許可なく上長印を押印したこと,及びこれら多数回に及ぶ不正な出張旅費精算により会社から金銭を詐取したことは,社員としての本分にもとる行為であ- 4 -るとして,社員就業規則78条6号,16号,20号により懲戒解雇すること(本件懲戒解雇処分)を通知した。また,被告はそのころ,原告に対して退職金を支給しないことを決定した。 イ被告の社員就業規則には,以下の規定が存在する(甲3,乙 16号,20号により懲戒解雇すること(本件懲戒解雇処分)を通知した。また,被告はそのころ,原告に対して退職金を支給しないことを決定した。 イ被告の社員就業規則には,以下の規定が存在する(甲3,乙4)。 第76条(懲戒)①懲戒は次に掲げる譴責・出勤停止及び懲戒解雇とする。 (1)譴責は厳重注意し,将来を戒める。 (2)出勤停止は7日を限って出勤を停止し,将来を戒める。 (3)懲戒解雇は予告期間を設けず,又予告手当も支給せずに即時解雇する。但し,事情によっては予告するか,又は予告手当を支給することがある。 第78条(懲戒解雇)社員が次の各号の一に該当するときは懲戒解雇に処する。但し,情状酌量の余地があるときは出勤停止若しくは譴責に留めることがある。 (1)氏名又は重要な経歴を偽って雇入れられ,その他会社に対し偽りの行為があったとき。 (2)許可なく会社財産を持ち出し,又は持ち出そうとしたとき。 (3)故意に会社財産を破損・破棄・濫用・隠匿又は滅失したとき。 (4)職務上重大な過失により会社に著しい損害を与えたとき。 (5)会社の機密を他へ漏らし,その他会社の不利益をはかったとき。 (6)不当にその地位を利用して私利をはかったとき。 (7)会社の許可なく業務上金品の贈与を受け,又はもてなしを受けたとき。 (8)風紀を乱し,又は秩序を破ったとき。 (9)正当な理由なしに上長の命に服さないとき。 (10)故意に作業能率を阻害したとき。 - 5 -(11)不当な他人の自由の拘束,名誉毀損,その他これに類する人権侵害の行為をなしたとき。 (12)他人に暴行又は脅迫を加えたとき。 (13)特に危険な場所において喫煙したとき。 (14)正当な理由なしに無届欠勤引き続き7日以上に及んだとき。 (15)数回懲戒処分を受けてもなお改悟の (12)他人に暴行又は脅迫を加えたとき。 (13)特に危険な場所において喫煙したとき。 (14)正当な理由なしに無届欠勤引き続き7日以上に及んだとき。 (15)数回懲戒処分を受けてもなお改悟の見込がないとき。 (16)刑罰に触れる行為があって社員としての体面を著しく汚したとき。 (17)会社の許可なく他に雇われたとき。 (18)正当な理由がなく欠勤・遅刻・早退が多く,著しく業務に不熱心なとき。 (19)前各号に規定する行為を故意に唆し,又は援助したとき。 (20)その他,前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき。 ウ被告の年金支給規則には,次の規定がある(乙18)。 第1条(通則)当社の社員として当社に永年勤務し退職した者の在職中の労に報い,その退職後の生活を補助するため本規則により年金支給制度を設ける。 第2条(資格)年金受領資格は勤続満20年以上に達した場合に生じる。 第3条(年金)①年金資格者が退職した場合は年金を支給する。 第9条(懲戒解雇)懲戒解雇の場合は第2条の規定に拘らず,年金受領資格はなくなるものとする。 但し,事情によっては所定額の5割の範囲内において特に年金又は一時金を支給することがある。 - 6 -第11条(一時金の支給)第3条ないし第5条又は第10条の規定に拘らず,年金又は遺族年金共にその受領者の希望及び事由によっては第12条ないし第14条の規定に基づき,その後の年金の支給を打ち切り,或いは減額して一時金を支給する。 (5)資料等の回収平成15年10月1日,被告の従業員は原告の自宅に赴き,原告が被告に無断で持ち出した会社資料の返還を求め,原告から資料一式を受領した。その際,原告は,全ての資料を返却した旨述べた。 (6)原告による文書等の送付ア原告は,平成16年5月26日から同年6月1 告に無断で持ち出した会社資料の返還を求め,原告から資料一式を受領した。その際,原告は,全ての資料を返却した旨述べた。 (6)原告による文書等の送付ア原告は,平成16年5月26日から同年6月11日にかけて,以下のとおり被告の顧客である鉄道会社各社に対して「SIV用インバータ変圧器落下事故に係わる件(報告)」と題する文書等を送付した。 ①西武鉄道株式会社平成16年5月26日到達②東日本旅客鉄道株式会社平成16年5月26日到達③京浜急行電鉄株式会社平成16年6月1日到達④横浜市交通局平成16年6月1日到達⑤東京都交通局平成16年6月1日到達⑥東京地下鉄株式会社平成16年6月1日到達⑦近畿日本鉄道株式会社平成16年6月1日到達⑧札幌市交通局平成16年6月1日到達⑨北越急行株式会社平成16年6月11日到達⑩名古屋市交通局平成16年6月3日到達⑪西日本旅客鉄道株式会社平成16年6月4日到達⑫新京成電鉄株式会社平成16年6月5日到達イそのころ,原告は,上記と同様の文書等を,新聞社等の複数の報道機関- 7 -に送付した。 (7)被告は,同年10月18日付け通知書をもって,原告に対し,不正に受給した出張旅費の返還として,158万0520円(別紙「出張旅費精算内容一覧表」の評価欄に「××」と記載された出張に係る旅費精算合計額)を同月31日までに支払うよう請求したが,同期限が経過しても原告は請求に応じなかった。 争点及び争点に関する当事者の主張本件の争点及び各争点における当事者の主張の要旨は以下のとおりである。 (1)本件懲戒解雇処分の効力についてア懲戒解雇事由の有無について(ア)被告の主張a原告は,平成13年5月から平成15年6月にかけて,繰り返し,出張命令がなく,出張等 下のとおりである。 (1)本件懲戒解雇処分の効力についてア懲戒解雇事由の有無について(ア)被告の主張a原告は,平成13年5月から平成15年6月にかけて,繰り返し,出張命令がなく,出張等をなすべき理由もないにもかかわらず,所属上長の職印を冒用して「出張届」を偽造し,これを被告に提出して不正な請求を行って金銭を不正に取得した。かかる行為は,社員就業規則78条6号「不当にその地位を利用して,私利をはかったとき」,同条16号「刑罰に触れる行為があって社員としての体面を著しく汚したとき」,同条20号「その他,前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき」の各懲戒解雇事由に該当する。 原告の出張旅費請求についていわゆるカラ出張の疑いが濃厚であるものは,①休日の出張(業務性,行先の妥当性は不明),②勤怠との不一致はないが,旅費精算内容(行先・時間・宿泊者人数)に疑問点のある出張,③勤怠との不一致がある出張や,メール発信ログと不一致だがその時間差が僅少な出張,④勤怠,メール発信ログの双方が不一致である出張や,勤怠は合致しているが,メール発信ログとの不一致がある出張,メールでの記録内容等との不一致がある出張である。 - 8 -平成13年5月から平成15年6月までの間に原告が精算請求を行った合計420日分(精算金額合計1150万1643円)の出張のうち,いわゆるカラ出張の疑いが濃厚であるものは,少なくとも274日分(精算金額合計773万1586円)に上る。 b原告が主張するような調査を被告が原告に対して命じたことはなく,原告の上長である車両電源システム設計課課長のP1(以下「P1課長」という。)が調査のための出張を追認した事実もない。 (イ)原告の主張a出張旅費精算書の記載内容と原告の勤怠,電子メール報告内容・発信記録との間に不一致 ステム設計課課長のP1(以下「P1課長」という。)が調査のための出張を追認した事実もない。 (イ)原告の主張a出張旅費精算書の記載内容と原告の勤怠,電子メール報告内容・発信記録との間に不一致が生じていることは認めるが,その余は否認する。 b(a)「①休日の出張(業務性,行先の妥当性は不明)」について休日の出張であるからといって,実際に出張に行っているのであるから,直ちに業務上の必要性がないことにならない。この中にはP1課長が自ら出発検印又は帰着検印した出張も存在する。 (b)「②勤怠との不一致なし。ただし,旅費精算内容(行先・時間・宿泊者人数)に疑問点あり」について原告は実際に出張をしており,かつ原告一人分の出張旅費を請求しているのであるから,出張旅費を被告から詐取したことにはならない。 たとえ同宿者がいたとしても,直ちに業務上の必要性は否定されない。取引先で工事等を行う出張では,面識のない現場作業員と同宿することがしばしばあり,同宿者の名前を覚えていないのがむしろ普通である。 (c)「③勤怠と不一致,メール発信ログと不一致であるが,その時間差が僅少なもの」「④勤怠,メール発信ログの双方が不一致。 - 9 -勤怠は合致しているが,メール発信ログと不一致。メールでの記録内容等との不一致」について根拠となっている就業管理表,勤怠簿,「出張届」の正確性について疑問があり,出張の事実が認められるものがある。 メール発信ログ記録及びメール発信リストに基づき,原告の不正出張を証明することはできない。メール発信ログ記録には原告自身がメール発信していない記録も認められる。 記録上の不一致は,実際に業務上の出張をしたものの勤怠簿や出張旅費精算書に記憶違いによる記載がなされたことや,原告が被告から命じられた調査(以下「本件調査」という。) 信していない記録も認められる。 記録上の不一致は,実際に業務上の出張をしたものの勤怠簿や出張旅費精算書に記憶違いによる記載がなされたことや,原告が被告から命じられた調査(以下「本件調査」という。)のための出張旅費を捻出する便法として実際とは異なる日時,出張先を記載した「出張届」を作成したために生じたものである。本件調査とは,被告が製作し西武鉄道に納入したSIV装置において,トランスがボルトの外れによってSIV装置内に落下したこと(以下「本件落下」という。)があったため,同様の締付構造を有する既出荷のSIV装置において緊結状態に不具合が生じていないかを調査するというものであった。 c原告は出張の都度「出張届」を提出し,P1課長がその内容を認知していたのであって,出張には業務性があった。P1課長は,原告が本件調査のための出張に行っていたことを承知していたのであり,少なくとも事後の追認があった。 イ本件調査命令の有無について(ア)原告の主張a本件落下を受けて,平成12年12月14日及び同月16日,被告神戸工場製造部内の会議において,原告を担当としてM-4500方式のSIV装置を対象に現地調査を行うこと(水平展開)が決定され- 10 -た。その後,同月25日及び同月27日に対象台数の絞り込みがなされ,対象台数870台について現地調査を行うことが決まった。原告は,外部出向中でこれらの会議には出席していないが,決定内容についてはP2部長,P3担当部長,P1課長及びP4専任から逐次報告を受けた。 他の取引先に対し本件落下を公表して正式にボルトの締付不良の検査をすることは,被告の信用を失うことや取引先が被る損害について賠償問題を招くことが懸念されたため,取引先に秘して検査をすることとなった。 b本件調査は被告の会議において決定され トの締付不良の検査をすることは,被告の信用を失うことや取引先が被る損害について賠償問題を招くことが懸念されたため,取引先に秘して検査をすることとなった。 b本件調査は被告の会議において決定されたものであり,その後の会議において中止する旨変更されたことはなく,原告に対して中止が指示されたこともない。 被告は西武鉄道への最終報告での客先了解を得たこと及び二度の検証試験にて問題がないことが判明したというが,これらは虚偽の報告及び試験であって,不具合が解決したとは決定されていない。 c原告は,被告の指示通り,顧客に対してトランスのボルト締結部の点検申し入れをすることなく,本件調査を実行した。 (イ)被告の主張a被告において全数調査を行う旨の正式な機関決定は,一度もなされておらず,かつ,その後,被告が原告に対して,本件調査をなすよう命令した事実もない。 本件落下の原因は,他部門から派遣された未熟な応援者により,仮止めの状態のままで本締めを忘れ,出荷及び輸送されたことによるものであり,SIVそれ自体の品質上の問題ではないことが,平成12年12月20日の被告製造部品質会議にて確認された。そして,既に出荷したSIVを対象とした全数調査を実施する必要がないことは,- 11 -上記品質会議等における確認,顧客側との協議及び確認等のプロセス,さらには,振動試験及び実輸送試験(輸送振動試験)等も経て,遅くとも平成13年2月までには部内のコンセンサスとなっていた。 b原告が本件調査をした事実はない。 SIVを点検するには,鉄道会社に事前連絡の上,車両基地に鉄道会社のしかるべき担当者の案内のもとで,該当車両の点検線への移動,高圧電気の遮断,車両移動の禁止(表示,輪止め)などの安全装置をとる必要があり,原告が,何のアポイントメントもなく,突然赴いて 鉄道会社のしかるべき担当者の案内のもとで,該当車両の点検線への移動,高圧電気の遮断,車両移動の禁止(表示,輪止め)などの安全装置をとる必要があり,原告が,何のアポイントメントもなく,突然赴いて点検することなど不可能である。そもそも多数のSIV装置を過不足なく点検するためには,営業運用中の車両を予め計画的に点検線へ入線させる車両運用計画変更などの客先の組織的業務を発生させることが不可欠である。 原告が主張するような突然訪問し勝手に点検する手法では,上記の問題点に加え,点検すべき車両が点検線にないことや,既に過去に点検した車両であった等の車両取り上げの不具合も生じることが明らかであり,個人的な隠密行動でSIV装置の一斉点検をすることは全く非現実的な絵空事である。 ウ本件懲戒解雇処分の相当性について(ア)原告の主張a以下の事情によれば,本件懲戒解雇処分は,社会通念上相当として是認できないものであって,懲戒権の濫用として無効である。 b本件調査のための出張が被告の業務でないとしても,原告が本件調査を被告から命じられた事実があること,その後これを中止すべき合理的理由はなく,むしろ本件調査の必要性が認められること,本件調査を中止する旨の決定が被告においてなされていないこと,原告は実際に本件調査を行っておりそのために出張旅費請求を行ったこと,原- 12 -告の出張についてP1課長がこれを追認したと認められる状況においてなされたことなど,原告の出張旅費請求は,やむを得ない事情の下でなされたものというべきであり,原告の行為の違法性は小さいと考えられる。 c被告においては,出張をする従業員が,机の決められた場所に置いてある課長印を使用して,「出張届」に押印することが一般的であり,本件は,このような悪しき慣行の中でなされたものであって, えられる。 c被告においては,出張をする従業員が,机の決められた場所に置いてある課長印を使用して,「出張届」に押印することが一般的であり,本件は,このような悪しき慣行の中でなされたものであって,他の従業員が同様の事実に基づき懲戒解雇処分がなされていないことからすると,原告に対する処分は,他の従業員に対する処分と均衡を失している。 仮に原告が不正請求をしたのであれば,上長であるP1課長は,原告が自身の印鑑を勝手に使用し,出張を偽装して出張旅費を請求していることを知りながら,約2年間これを放置していたことになるところ,P1課長には,何らの懲戒処分がなされていないことと比較して原告に対する本件懲戒解雇処分は不相当である。 d被告が本件懲戒解雇処分のために行った手続は,原告の弁明を無視し,形式的に聴聞の機会を設けたに過ぎないのであって,そのような手続で懲戒解雇処分をなすことは不当である。 原告は,被告からの事情聴取において,弁明を行おうとしたが,そのような弁明については話をする必要がないとされ,勤怠等と出張旅費精算書とに不一致があることは認めるのか,どうしてカラ出張したのか,実際に出張に行ったのなら証拠を示せなどと答えようのない質問を受けるばかりであった。また,顛末書は,原告が言わんとする本件調査のための出張であることを弁明できる形式のものではなかった。 当時,原告は,職場に立ち入ることや関係者と連絡を取ることを禁止されていたため,出張の事実を証明することができなかった。 - 13 -(イ)被告の主張a原告の主張は否認ないし争う。 bそもそも,課長印を冒用して,「出張届」を作成する行為自体が,懲戒解雇事由に該当する行為であって,原告の主張は,不正旅費請求を正当化させる事情にはおよそなり得ない。 c確かに,当時,課長印が机の上に置 そも,課長印を冒用して,「出張届」を作成する行為自体が,懲戒解雇事由に該当する行為であって,原告の主張は,不正旅費請求を正当化させる事情にはおよそなり得ない。 c確かに,当時,課長印が机の上に置かれていたことは事実であるが,被告会社内において,出張者が勝手に押印することが一般的であったという事実は全くない。 P1課長は懲戒処分を受けている。そもそも,上長に対する処分との権衡は,自己の不正行為を正当化する理由にはなり得ない。 d被告は,原告に対して3回にわたり事情聴取を行い,弁明の機会を与えた上,顛末書の提出を求めて出張の事実を証明するよう要請したところ,原告から出張の事実を証明する資料等は提出されなかった。 被告が原告に対して,同伴者を明らかにするよう要請しても,一切明確な回答をすることはなかった。原告は自筆の弁明書を提出しており,十分な弁明の機会が与えられていた。 被告は,懲戒解雇処分に至るまでに充分な事情聴取,手続,検討過程を踏んでいる。そして,これらの手続を経ても,原告が一向に明らかにしない,業務性,行先の妥当性が不明な出張や,同宿者を明らかにすることを拒んだ出張旅費精算が多数存在するため,被告は,原告の行為が社員就業規則の懲戒解雇事由に該当し,懲戒解雇処分をもって対処するしかないとの結論に至り,社員就業規則に則って懲戒解雇処分したのであるから,本件懲戒解雇処分は相当であって,適正に行われている。 (2)退職金不支給処分の効力(退職金不支給事由の有無)について(予備的請求)- 14 -ア原告の主張被告における退職金は,功労報酬的な意味合いよりも賃金後払的な性質がより強いと解されるところ,退職金を全額不支給とするには,懲戒解雇事由が存在するだけでなく,長年の勤続の労を抹消するほどに重大な不信行為があることが必要である 酬的な意味合いよりも賃金後払的な性質がより強いと解されるところ,退職金を全額不支給とするには,懲戒解雇事由が存在するだけでなく,長年の勤続の労を抹消するほどに重大な不信行為があることが必要である。被告の年金支給規則第9条は,原則として5割の範囲内で退職金(一時金)が支給されるものと考えるべきである。 仮に,本件懲戒解雇処分が有効であったとしても,原告の虚偽の旅費請求には情状において宥恕すべき事情が認められること,原告が当時得られた退職金は2000万円以上であったところ,被告が被った損害は158万0520円に過ぎないことからすると,原告に長年の勤続の労を抹消するほどに重大な不信行為はないというべきであって,被告の退職金不支給処分は無効であり,被告は,原告に対し,年金支給規則第9条が規定する原告が得ることができた退職金(一時金)の5割に相当する金員(805万円)の支払をなすべき義務を負う。 よって,原告は,被告に対し,805万円及びこれに対する原告が退職した日以降の日である平成15年9月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ被告の主張本件懲戒解雇処分については,原告が長年にわたり,出張を偽装し会社を欺罔した旅費精算を行ったこと,「出張届」に繰り返し上長の許可なく上長印を押印したこと,及びこれら多数回に及ぶ不正な出張旅費精算により会社から金銭を詐取したことが理由となっており,その期間,回数及び悪質性に鑑みれば,退職金不支給処分は適切である。 被告の損害は約160万円にとどまらず,極めて多数の不正請求が存在する。 (3)不当利得返還請求権の有無(不正な旅費受給の有無)について- 15 -ア被告の主張(ア)原告は,平成13年5月から平成15年6月までの間に,以下①ないし④のとおり,274日 する。 (3)不当利得返還請求権の有無(不正な旅費受給の有無)について- 15 -ア被告の主張(ア)原告は,平成13年5月から平成15年6月までの間に,以下①ないし④のとおり,274日(出張日数)にわたり,被告から出張命令がないにもかかわらず,また,出張等をなすべき理由がないにもかかわらず,所属上長の職印を無断で持ち出して「出張届」を偽造し,これを被告に提出して不正な請求をなし,合計773万1586円を不正に取得したのであるから,被告は原告に対し,同額の不当利得返還請求権を有する。 ①「休日出張分」合計132日分(精算金額合計427万2460円)(別紙「出張旅費精算内容一覧表」評価欄に「休日」と記載されたもの)②旅費精算内容(行先,時間,宿泊人数等)に疑義があるもの合計52日分(精算金額合計116万6546円)(同別紙評価欄に「△」と記載されたもの)③勤怠との不一致が認められるもの合計30日分(精算金額合計71万2060円)(同別紙評価欄に「×」と記載されたもの)④メールの発信記録等の不一致が明白なもの合計60日分(精算金額合計158万0520円)(同別紙評価欄に「××」と記載されたもの)(イ)本件調査命令が原告に対してなされた事実はなく,原告が本件調査のための出張をした事実もない。P1課長による黙認の事実もない。 (ウ)よって,被告は,原告に対し,不当利得に基づき,773万1586円及びうち158万0520円(上記(ア)④の分)に対する平成16年11月1日から,うち615万1066円(上記(ア)①②③の合計額)に対する平成17年9月28日(訴えの変更申立書送達の日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める。 - 16 -イ原告の主張(ア)原告が被告に提出した出張旅費精算書の記載内 る平成17年9月28日(訴えの変更申立書送達の日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める。 - 16 -イ原告の主張(ア)原告が被告に提出した出張旅費精算書の記載内容と原告の勤怠,電子メール報告内容・発信記録との間に不一致が生じていることは認めるが,その余の被告の主張は否認ないし争う。 (イ)原告の出張は,本件調査のための出張であり,被告の業務命令に基づく業務上必要な出張である。原告は出張の都度「出張届」を提出しており,P1課長がその内容を認知していたものであって業務性があった。 原告の出張旅費請求は,本件調査に要する費用を捻出するための便法であり,出張届には,原告が実際に行った出張とは異なる日時,出張先が記載されている。 (ウ)a①について休日であっても,実際に出張に行っているのであるから,直ちに業務上の必要性がないことにはならない。出張の当・不当に関する事項であって,不当利得には当たらない。 b②についてたとえ同宿者がいたとしても,実際に出張に行っているのであれば,業務上の必要性は否定されないし,原告自身の出張旅費分しか請求していないから,出張旅費を水増し請求したことにもならない。 c③,④について根拠となっている就業管理表,勤怠簿,「出張届」の正確性について疑問があり,出張の事実が認められるものがある。 勤怠簿は各自の自己申告によるもので,また,後日記憶に基づき記載されるのが通例であるから,その内容に正確性が担保されているとは言いがたく,出張費を詐取したとの認定は困難である。 メール発信ログ記録及びメール発信リストに基づき,原告の不正出張を証明することはできない。メール発信ログ記録には原告自身- 17 -がメール発信していない記録も認められる。 (エ)被告が請求しているのは既に原告に対 びメール発信リストに基づき,原告の不正出張を証明することはできない。メール発信ログ記録には原告自身- 17 -がメール発信していない記録も認められる。 (エ)被告が請求しているのは既に原告に対して支給済みの出張旅費であって,一旦,被告が出張であることを認め支給した出張旅費であるから,仮に原告の出張が不当であったとしてもそれは被告の労務管理上の問題に過ぎず,法律上の原因がないことにはならない。 (オ)出張旅費精算書のとおりの出張の事実が認められないとしても,上長であるP1課長において,原告が本件落下の調査のために出張に行っていることを長期間にわたり黙認したのであり,原告が出張旅費を取得する法律上の原因がある。 (4)名誉毀損・信用毀損,営業妨害による損害賠償請求についてア名誉毀損・信用毀損,営業妨害の成否について(ア)被告の主張a原告は,平成16年5月26日から同年6月11日ころにかけて,繰り返し執拗に被告の最重要顧客である12の鉄道会社やマスコミに対して,「被告がSIVの品質問題を隠している」などの虚偽の事実,被告に対する誹謗中傷,脅迫的内容や,名誉毀損・信用毀損表現の記載された文書を通知・頒布した。また,同年10月6日には,西武鉄道に対して,「三菱電機SIVの品質問題」と記載した文書を送付した。 原告が送付した文書(添付資料を含む。)の内容は,要旨以下のとおりである。①被告が品質問題を不正に隠した(被告が,人命に関わる安全上の品質問題を隠し通していること)。②原告は,被告に命じられて問題隠しの工作を行っていたものである。それゆえ,懲戒解雇には理由がなく,また,問題隠しの責任を一人負わされた。③原告は被告に対して,SIVの総点検の実施及び報告を要請する。④原告は被告に対して,不当解雇に対する保証及び解雇措置の撤回を れゆえ,懲戒解雇には理由がなく,また,問題隠しの責任を一人負わされた。③原告は被告に対して,SIVの総点検の実施及び報告を要請する。④原告は被告に対して,不当解雇に対する保証及び解雇措置の撤回を要求する。 - 18 -原告の行為は,被告の技術,過去に発生した不具合の原因,製品の品質管理システム,稼働中の製品そのものの品質等について虚偽の事実を流布するものである。原告は,自己の主張が虚偽であることを当然に認識していたはずであり,原告の行為は,被告の信用を故意に毀損しようとするものである。 原告の行為は,明らかに被告の信頼を失墜させ,営業利益を毀損させ,製造メーカーとしての被告の社会的評価を著しく損ない,名誉を毀損するものであって,不法行為に該当する。 b原告が添付同封した文書は,いずれも被告作成にかかる内部文書,内部検討文書,さらには,各種技術文書等であり,他に公開を予定していない内部文書ないし企業機密文書である。原告による頒布行為は,組織の内部者でなければ入手できない内部文書を添付して及んでおり,かかる情報漏洩行為は,反真実かつ自己利益目的と相まって,不法行為を構成するものである。 (イ)原告の主張原告が,各取引先及びマスコミに対し,被告の品質管理体制に問題がある旨の文書を送付したことは認めるが,その余は,否認ないし争う。 イ違法性阻却事由の有無について(ア)原告の主張a原告が各取引先及びマスコミへ文書を送付したことは,被告が公共交通機関である電車車両搭載機器の製造メーカーであるところ,被告がSIV機器の組立に関しずさんな工作方法をなしていること,被告の品質管理体制に不備があることを指摘することによって被告の製造管理体制を是正し,もって,公共交通機関の安全という公共の利益を図る目的があった。 b原告の鉄道会社に対す 方法をなしていること,被告の品質管理体制に不備があることを指摘することによって被告の製造管理体制を是正し,もって,公共交通機関の安全という公共の利益を図る目的があった。 b原告の鉄道会社に対する送付文書中,被告の名誉・信用毀損と考え- 19 -られるのは,被告が人命に関わる安全上の品質問題を隠し通している旨の記述であるが,かかる記述内容は真実である。 品質問題の内容としては,本件落下を踏まえ7つの工作不具合及び管理不具合(①締め付け方法が図面と相違していた,②締め付けトルク管理がされていなかった,③チェックシート上に重要部に関してのトルクチェック,チェックマーク確認の項目がなかった(締め付けた証拠確認ができなかった),④回り止めの接着剤の塗布が洩れていた,⑤回り止め接着剤塗布時に拭き取られるべきグリスが拭き取られていなかった,⑥重要作業箇所でありながら他部門の車両組み立てに精通していない作業者に締め付け作業をさせていた,⑦重要箇所締結部でありながら品質管理部門の確認がされていなかった)が発見されており,このことが,被告が工作品質,品質管理に根本的問題を抱えていることを示している。 被告の品質問題について客先に虚偽の報告がなされたこと,現実に調査が被告の指示どおりに原告を中心に実行され,その結果,ボルトの緩み等が発見されたことは真実である。 (イ)被告の主張a原告は,自己の膨大な数のカラ出張を正当化するためだけに,虚偽のストーリーを作出・展開し,文書に記載して頒布した。 これら一連の行為に及んだ原告の目的は,自己に対する懲戒解雇処分の撤回を図ることと推認されるところ,懲戒解雇処分は,就業規則等に照らしても,また,不正出張旅費請求の回数,態様等に鑑みても適正,正当であるから,原告の目的が不当であることは明白である。 また,不正 の撤回を図ることと推認されるところ,懲戒解雇処分は,就業規則等に照らしても,また,不正出張旅費請求の回数,態様等に鑑みても適正,正当であるから,原告の目的が不当であることは明白である。 また,不正な金銭的利益を得ることも目的であった。 自己の主張(被告の品質問題やSIVに関する不具合)を展開する手段として,鉄道会社やマスコミ等に虚偽の文書を送付する行為は適- 20 -切とは言えず,加害目的が認められる。 b原告が送付した文書の記載内容は,いずれも真実性を欠く。 本件落下の原因は,①不慣れな応援作業者が,ボルトナットの本締めを忘れたこと,②本件西武鉄道向けSIVのトランス装置は,特殊な構造のため取付ボルト部の締結状態をチェックすることが困難であり,締結不良を見逃したこと,③ボルトが仮止め状態のままであったために,トラック輸送の振動により極めて短時間でボルトが外れたことであった。したがって,他のタイプのトランス装置においては,①応援作業者にトランスの取付ボルトに関わる作業をさせたことが過去になく,未熟な応援作業者の作業ミスによる類似の事象が発生し得ないこと,②西武鉄道で採用されたものと同構造の装置は他になく,チェックできない構造のものが他にないこと,③過去に被告の工場から出荷されたSIV製品において同様の不具合の発生が皆無であること等の事実に照らせば,他のタイプのトランス装置が落下することは技術的にあり得ず,本件落下と類似の事象が今後発生する危険性は考えられなかった。そして被告は,西武鉄道に対しその旨の報告,作業実施をなし,理解を得た。それ故,原告の「被告が品質問題を隠している」「被告が人命に関わる安全上の品質問題を隠し通している」旨の主張は虚偽である。被告が,原告に対して,「問題隠しの工作を行うよう」出張等を命じることなどおよそあ ,原告の「被告が品質問題を隠している」「被告が人命に関わる安全上の品質問題を隠し通している」旨の主張は虚偽である。被告が,原告に対して,「問題隠しの工作を行うよう」出張等を命じることなどおよそあり得ない。 原告は,SIVの設計を長年担当し,かつ本件西武鉄道向けSIV用トランス取付不具合の対応を行った担当者であり,自らの主張が虚偽であることを当然認識していたはずである。 ウ損害及び因果関係について(ア)被告の主張a直接損害及び間接損害:1359万1990円- 21 -被告は,相当数の人的物的資源を活用し,原告の一連の行為は全く根拠がないことの理解を,広く顧客等に求めるなどの対応を強いられ,そのため,外注費用,材料費,工場技術者や本社担当者等の出張費用等の通常負担すべき費用ではない損害が発生し,その合計は1359万1990円を下らない。 b慰謝料:3000万円原告による名誉毀損,信用毀損,営業妨害行為は,原告が内部事情を知悉する元従業員であることを最大限に悪用し,内部者でなければ入手し得ない内部文書・技術文書等を利用した点において悪質であり,その態様,反復継続の状況に加え,鉄道会社という最重要顧客に対して,被告の信頼を失墜させ,あるいは,失墜させる危険をもたらしたこと,被告において風評被害を防ぐために多大な労力をかけざるを得なかったこと等に鑑みると,慰謝料は3000万円を下らない。 一連の対応に伴う人件費等相当額として,合計500万円以上もの多額の損害が生じており,このことは,慰謝料額に反映されるべきである。 c弁護士費用:300万円被告は,被告訴訟代理人に本訴の提起追行を委任し,その費用及び報酬として300万円を支払うことを約した。 dよって,被告は,原告に対し,不法行為に基づき,4659万1990円及びこれに対す 0万円被告は,被告訴訟代理人に本訴の提起追行を委任し,その費用及び報酬として300万円を支払うことを約した。 dよって,被告は,原告に対し,不法行為に基づき,4659万1990円及びこれに対する平成16年12月30日(第2事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (イ)原告の主張被告の主張は争う。 被告が主張する各損害項目は,損害として認められない。仮に損害が- 22 -認められるとしても,権利を守ることは権利者の責務であって,弁護士費用として損害額の10パーセント相当額の損害以外は不法行為と相当因果関係がない。 エ差止請求の可否について(ア)被告の主張原告は,計画的に反復継続して文書等送付による営業妨害行為及び信用毀損行為に及んだのであり,その際,被告が本源的に所有し,営業秘密性を有する文書・図面等を用いている。かかる行為は,不正競争防止法2条1項7号の「不正競争」に該当し,又は少なくともこれに同視しうる行為である。原告がこれらの行為を再度繰り返す危険性は皆無とは言えず,原告によるこれらの通知・頒布等の行為を事前に差し止める必要性は高く,かつ,原告のかかる表現行為は,虚偽の事実の摘示を含んでおり,法の保護に値するものではないこと,さらに不正競争防止法3条の趣旨にも鑑みれば,被告は,名誉,信用及び営業権を侵害されたことに基づき,原告ないし第三者をして同様の妨害行為をさせることの排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利を有する。 (イ)原告の主張被告の主張は否認ないし争う。 (5)返還,廃棄請求についてア返還請求の可否について(ア)被告の主張a原告による通知・頒布行為に際しては,被告が所有する別紙「ファイル目録」記載のファイル一式から文書,技術書面, う。 (5)返還,廃棄請求についてア返還請求の可否について(ア)被告の主張a原告による通知・頒布行為に際しては,被告が所有する別紙「ファイル目録」記載のファイル一式から文書,技術書面,図面等を抽出等した上,添付・同封しているから,被告は原告に対し,所有権に基づき,原告が持ち出した別紙「ファイル目録」記載のファイルー式,又は,原告が現に所持するSIVに関する文書・技術文書その他これら- 23 -に関する一切の資料等の返還を請求する権利を有する。 b仮に,原告が現に所持する前記資料等が写しであるとしても,原告が当該「写し」を被告の社内で作成した場合,その写しの所有権は被告にあり,よって,この場合,被告は所有権に基づき,「写し」にかかる前記資料等の返還を請求することができる。 原告が被告の社外で「写し」を作成した場合であっても,就業規則65条が「解雇された者は会社から借用している物を取りそろえ,直ちに返納しなければならない」と規定し,これは雇用契約における約定となっているところ,かかる「写し」は,被告が本源的に所有するファイル(内部文書の集合体)から文書・図面等を抽出するなどして,原告において写しを得たものであることが明白であることに照らせば,原告が所持する一切の文書・図面等は被告からの借用物であると言え,被告は返還を求めうるというべきである。 cそもそも,団体内(企業等)の各構成員(社員)が保有する,当該団体に関係する情報の媒体としての文書等が,「写し」か「原本」かを議論することは無意義であるか,困難であることが認識されて然るべきである。法的に保護されるべき利益は,各従業員が保有する,情報が化体された有体物としての文書等が適切に管理されることであり,仮に,従業員が,外部においてコピーをして写しを得たとしても,これは情 べきである。法的に保護されるべき利益は,各従業員が保有する,情報が化体された有体物としての文書等が適切に管理されることであり,仮に,従業員が,外部においてコピーをして写しを得たとしても,これは情報の本源的保有者である組織体に帰属・返還されるべきものである。したがって,「写し」であることだけを理由に,法的には直ちに返還請求権の対象とはならないという結論は,組織における意思決定等の保護の観点等に照らしても正しいものとは言えない。 (イ)原告の主張a原告が所持するファイルは,写しであって,被告に所有権は認められない。 - 24 -b原告が所持している文書(写し)は,原告が手控え用に所持していた文書(写し)及び会議資料として配布された文書(写し)であり,かかる文書(写し)については,会議終了後等に回収されることはなく処分が所持者に委ねられており,所有権が被告にあるとは到底言えない。 また,就業規則65条は,被告から貸与される備品等の返還を定めた規定であることが明らかであり,資料の写しがこれにあたるとは到底言えない。 イ廃棄請求の可否について(予備的請求)(ア)被告の主張仮に返還請求が認められないとしても,原告の行為の態様,執拗性,悪質性は著しく,返還を求められない場合の司法的救済としては廃棄が必要かつ相当であること,就業規則65条は懲戒解雇に際して借用物の返還を規定しているところ,これらの行為に応じない元社員に対しては,当該物の廃棄を求めることが必要かつ相当であり,同条の趣旨として含意されていること,原告が,SIVに関する文書・技術文書等を使用して,被告に対して,名誉毀損ないし信用毀損行為を執拗に繰り返したこと,懲戒解雇により原告がこれらのSIVに関する文書・技術文書を所持する理由は存在しないこと,さらには,侵害物を組成し 文書等を使用して,被告に対して,名誉毀損ないし信用毀損行為を執拗に繰り返したこと,懲戒解雇により原告がこれらのSIVに関する文書・技術文書を所持する理由は存在しないこと,さらには,侵害物を組成した当該物の廃棄を司法的救済において求めることが必要かつ相当で,不正競争防止法3条の趣旨をも考慮し,悪意をもって侵害行為に使用された情報に対する保護が認められるべきであることから,就業規則65条に基づき,別紙「ファイル目録」記載のファイル一式,又は,原告が現に所持するSIVに関する文書・技術文書等その他これらに関する一切の資料等の廃棄が認められるべきである。 (イ)原告の主張- 25 -原告が所持している文書(写し)は,原告が手控え用に所持していた文書(写し)及び会議資料として配布された文書(写し)であり,かかる文書(写し)については,会議終了後等に回収されることはなく処分が所持者に委ねられている。また,就業規則65条は,被告から貸与される備品等の返還を定めた規定であることが明らかであり,資料の写しがこれにあたるとは到底言えない。したがって,同条に基づく廃棄請求は認められない。 第3当裁判所の判断 本件懲戒解雇処分の効力について(1)懲戒解雇事由の有無ア証拠(乙23)によると,被告内部における出張旅費の前借り,精算に関する運用は次のとおりであると認められる。 ①出張前に旅費を前借りしようとする場合,「出張届」の所定の欄に,行先・所在地・用件・氏名・工事番号・前借金額等を記入し,氏名欄の横に押印の上,上長に伺い出る。 上長は,行先・用件等の内容を確認し,承認する場合は「出発所属上長」欄に押印する。 ②出張者は上長印のある「出張届」等を旅費精算等の窓口であるメルコトラベル株式会社(以下「メルコトラベル」という。)に持参する。 件等の内容を確認し,承認する場合は「出発所属上長」欄に押印する。 ②出張者は上長印のある「出張届」等を旅費精算等の窓口であるメルコトラベル株式会社(以下「メルコトラベル」という。)に持参する。 メルコトラベルでは,書類に不備がないことを確認し,申請された前借金額を現金で出張者に手渡す。その際に,メルコトラベルは当日の日付を表示した確認印(出納済,年月日,メルコトラベルを表示した丸印)を押印する。 なお,前借りに必要な書類は,通常は,日課事務の担当が,出張者の代行としてメルコトラベルへ持参する運用となっていたが,原告は自分自身で持参し直接前借金を受領していた。 - 26 -③出張から帰着した後,出張者は「出張届」に出発・到着の月日,時分,発着駅名,交通機関,自己が支出した交通費等の費用・費用合計等を記載の上,上長に報告する。 上長は報告内容を確認し,承認する場合は,「帰着所属上長」欄に押印する。 宿泊費用(ホテル)の精算が必要な場合は,領収書を添付して提出する。JR等の公共交通機関を利用した場合の交通費については,領収書の添付は求められていない。車中泊を利用した場合も,領収書の添付は求められていない。 ④旅費前借りを行わない場合は,①,②の手続は不要である。 イ証拠(乙15ないし17,20ないし23,33)によれば,平成13年5月から平成15年6月までの間における原告の出張旅費精算の内容は,別紙「出張旅費精算内容一覧表」記載のとおりであることが認められるところ,これらの出張旅費精算のうち,出張の事実が存在しないいわゆるカラ出張の疑いが濃厚であると被告が主張するものは,同別紙の評価欄において,「××」「×」「△」「休日」と記載されているものである。そこで,各出張旅費請求について証拠(乙15,20ないし22)を基に以下検討する が濃厚であると被告が主張するものは,同別紙の評価欄において,「××」「×」「△」「休日」と記載されているものである。そこで,各出張旅費請求について証拠(乙15,20ないし22)を基に以下検討する。 (ア)「××」と被告が評価する出張旅費請求について(別紙「出張旅費請求一覧表(××)」,合計158万0520円)56件(同別紙の認定欄に「※」が記されているもの)について,出張旅費請求内容に沿った出張事実が存在しない(合計額152万7500円)と認められ,その余については出張旅費請求内容に沿った出張事実が存在しないとは認められない。その理由については同別紙の理由欄に各記載のとおりである。 (イ)「×」と被告が評価する出張旅費請求について(別紙「出張旅費請- 27 -求一覧表(×)」,合計71万2060円)17件(同別紙の認定欄に「※」が記されているもの)について,出張旅費請求内容に沿った出張事実が存在しない(合計額46万6130円)と認められ,その余については出張旅費請求内容に沿った出張事実が存在しないとは認められない。その理由については同別紙の理由欄に各記載のとおりである。 (ウ)「△」と被告が評価する出張旅費請求について(別紙「出張旅費請求一覧表(△)」,合計116万6546円)38件(同別紙の認定欄に「※」が記されているもの)について,業務性又は出張旅費請求内容に沿った出張事実が存在しないもの(合計86万0376円)と認められ,その余については,業務性や出張旅費請求内容に沿った出張事実が存在しないとは認められない。その理由については同別紙の理由欄に各記載のとおりである。 (エ)「休日」と被告が評価する出張旅費請求について(別紙「出張旅費精算内容一覧表」評価欄に「休日」と記載されているもの)この分類の出張旅費請求について ては同別紙の理由欄に各記載のとおりである。 (エ)「休日」と被告が評価する出張旅費請求について(別紙「出張旅費精算内容一覧表」評価欄に「休日」と記載されているもの)この分類の出張旅費請求について,被告は,業務性,行き先の妥当性は不明であるが,休日に行われた出張として請求されていることを理由として不正請求であると主張する。確かに,これらの出張旅費請求は休日に行われた出張として旅費請求がなされていることが認められるものの,このことのみをもって当該出張旅費請求内容に沿った出張事実が存在しないという事実を推認することはできない。その上,休日に出張を行うことが被告において禁止されている事実は認められないのであるから,出張が休日に行われたことをもって当該出張が業務性を欠くものであるとか,出張命令によらないものであると推認することもできない。 また,被告は,「出張届」の検印はすべて原告が上司の印を冒用したものであると主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。 - 28 -よって,「休日」と被告が評価する出張旅費請求が不正請求であるとは認められず,出張旅費の受領が法律上の原因を欠くものとはいえない。 ウ原告の主張について(ア)出張旅費請求内容に沿った出張事実が存在しないと認められる出張旅費請求(別紙「出張旅費請求一覧表」の各認定欄に「※」が記されているもの)について,原告の主張は,同別紙の原告の主張欄に記載のとおりである。そして,その多くは,出張旅費請求内容に沿う出張を実際に行っている旨の主張と解されるところ,かかる主張を裏付けるに足りる証拠はない。 また,原告は,他方で,西武鉄道に納入したSIV装置において,トランスの取り付けボルトが外れてトランスが落下したこと(「本件落下」)を受けて,同様の締付構造を有するSIV装置におけるトランスの 。 また,原告は,他方で,西武鉄道に納入したSIV装置において,トランスの取り付けボルトが外れてトランスが落下したこと(「本件落下」)を受けて,同様の締付構造を有するSIV装置におけるトランスの緊結状態を秘密裏に調査する(「本件調査」)ための旅費を捻出する便法として,実際に行った出張とは異なる日時,出張先と異なる出張内容で旅費を請求したとも主張しているところ,同主張は出張旅費請求内容に沿う出張を実際に行った旨の主張とは相容れないものであって,主張自体相互に矛盾しているといわざるを得ない。 (イ)各分類における主張についてa「△」について,原告は面識のない現場作業員と同泊することがしばしばあると主張するが,領収書によると,部屋番号が1つしか記載されておらず,相部屋であるにもかかわらず,原告は同泊者について覚えていないと述べるのみで,勤務先や出張先での業務内容といった特定の手がかりについてさえ明らかにしていない。かかる原告の対応は当該出張が業務性に欠けるものと推認するに足りるものである。 また,前借りの申請内容が事前のメール報告と異なるものについて,事前報告後に出張先が変更することがありうるので,虚偽申請,不正- 29 -受給が明らかであるとはいえないと主張するが,かかる主張を裏付ける証拠はない。 b「××」「×」について,原告は,根拠となっている就業管理表,勤怠簿,「出張届」の記載内容の正確性に疑問があると主張するが,「出張届」に記載された日程が就業管理表や勤怠簿と明らかに矛盾する出張旅費精算が多数に上っていることに鑑みると,実際に出張に行った者であれば,出張の日付を誤って記載することが多数回にわたることは通常考えられず,かかる原告の主張は合理的ではない上,原告の同主張を裏付けるに足りる証拠はない。 また,メール発信ログ記録 張に行った者であれば,出張の日付を誤って記載することが多数回にわたることは通常考えられず,かかる原告の主張は合理的ではない上,原告の同主張を裏付けるに足りる証拠はない。 また,メール発信ログ記録には原告自身が発信していないメール記録が存在すると主張するが,これを裏付ける証拠は見当たらない。 (ウ)被告から原告に対する本件調査命令の有無a原告は,被告から命じられた本件調査に要する費用を捻出するための便法として,実際とは異なる出張日時,行先を「出張届」に記載したものがあると主張し,被告から平成12年12月5日,車両製造メーカーである日立製作所の笠戸工場において被告製造にかかる西武鉄道向けSIVのトランスの取付ボルトが外れ,トランスがSIV箱内に落下したことを契機に,SIVの現車調査を命じられ(水平展開),顧客に対して秘密裏に調査を行っていたと供述する。 bしかしながら,原告は,調査を指示された状況について具体的な供述をしておらず,指示した人物についても陳述書(甲42)では当時の被告神戸工場所長のP5であるとするが,本人尋問においてはP4専任あるいはP1課長と記憶している旨述べるなど,不自然な変遷が認められる。 また,原告は,SIVの現車調査の結果報告について,平成13年2月中ころまではP1課長あるいは機技部長のP6に対して書面で報- 30 -告をしていた,その後は口頭での報告になった,それは顧客に秘した調査であり,社内的にも秘密裏で進めるため,書面による報告がはばかられたためである,口頭報告は,P1課長に対して日常的に,緩みの程度や即時対応の要否を報告していた,などと供述するが,原告が平成15年に被告の取締役社長に対して送付した手紙には,「私は約3年もの間,会社の中で相談も出来ず一人調査に奔走しました」(乙5),「部内でも極 時対応の要否を報告していた,などと供述するが,原告が平成15年に被告の取締役社長に対して送付した手紙には,「私は約3年もの間,会社の中で相談も出来ず一人調査に奔走しました」(乙5),「部内でも極秘で動くしかなく私は孤立していきました」(乙7の1)との記載があり,主張,供述自体矛盾している。 さらに,社内的にも秘密裏で進める必要があったとの原告の供述についても,平成12年12月27日付けの「業務報告」において,被告社内において原告他数名によって具体的な取組体制を組むことが予定されていること(甲15)に照らし,原告の上記供述は客観的証拠とも矛盾しているものといえ,採用できない。これらの事情に照らすと,原告の供述は信用性が低く,採用することができない。 また前記「業務報告」によれば,同時点で,念のため他ユーザー向けの類似取付構造出荷品の全数について,優先順位付けのうえ,現車調査を行う旨記載されている(甲15)。 しかしながら,同業務報告には,「(全対象台数870台)」,「と考える」「P7CS殿朱して修正ください」と手書きで加筆されていることが認められ,作成中の文書であることがうかがわれるところ,P1印のある平成13年1月30日以降,修正後の正式文書が成立した事実を認めるに足りる証拠はない。したがって,甲15の存在をもって原告に対する本件調査命令の存在を推認することはできない(かえって,乙44,証人P1,同P2の各証言によれば,被告において本件調査を行うことの決定がなかったことが認められる。)。 c原告は,本件調査を行っていたことの証拠として,現車調査結果報- 31 -告書(甲14)を提出する。しかし,同報告書は本件訴訟係属後である平成17年9月20日に作成されたものであるところ,同報告書の基となった原記録が提出されていない。原告は 現車調査結果報- 31 -告書(甲14)を提出する。しかし,同報告書は本件訴訟係属後である平成17年9月20日に作成されたものであるところ,同報告書の基となった原記録が提出されていない。原告は,調査結果の大部分を平成16年9月ころ処分したと主張するが,旅費の不正請求を否認し,本件懲戒解雇処分を争っていた原告が,懲戒解雇事由の不存在を証明する調査結果記録を処分することは考えがたい。 また,同報告書において調査したとされている小田急電鉄の4201編成設置のSIVは,本件落下よりも前に廃却されている事実が認められ(乙51,52,証人P1尋問調書15頁),同報告書の内容はこのことと明らかに矛盾する。さらに,同報告書には写真が添付されているものの,撮影時期が不明である上,写真内容と調査結果との関係も明確にされていない。以上によれば,同報告書は信用性に欠けるものといわざるをえない。 d以上の検討によると,原告が水平展開の調査を行っていた事実も,原告に対して被告から水平展開の調査命令がなされていた事実も認められない。 (エ)P1課長による追認の有無原告は,原告が本件調査の費用を捻出するために実際とは異なる内容の出張旅費請求を行っていたことをP1課長が追認していたと主張する。 しかし,原告が実際に行っていない出張内容で出張旅費請求を行っていることをP1課長において承認や黙認をしていた事実を認めるに足りる証拠はない。この点,本件各出張旅費請求に使用された「出張届」の出発検印欄や帰着検印欄にはP1課長の印が押印されているが,出発検印を受ける時点では「出張届」に出発,到着日時は通常記載されておらず,帰着検印については「出張届」に記載されている出張の日から相当経過した日に帰着検印がなされている出張旅費請求が数多く存在するこ- 32 -と,また, 張届」に出発,到着日時は通常記載されておらず,帰着検印については「出張届」に記載されている出張の日から相当経過した日に帰着検印がなされている出張旅費請求が数多く存在するこ- 32 -と,また,原告が「出張届」に自ら課長印を使用した(P1課長においてこれを容認した事実は認められない。)出張旅費請求が存在することに照らすと,原告による不正請求に気がつかなかった旨の証人P1の供述は信用できる。 エ以上検討したとおり,原告による出張旅費請求には,出張旅費請求内容に沿った出張事実が存在しないものが認められ,かかる出張旅費請求をすることについて業務性も上司の承認も認められない。そして,このような出張旅費請求が多数に上ること,原告自らが「出張届」を作成してそのような出張旅費請求を行い,旅費を受給していることなどに照らすと,原告はあえて架空の出張を作出し,旅費相当額の金銭を受給したものと認められる。 これらの不正な出張旅費請求行為は,就業規則78条(6)(「不当にその地位を利用して私利をはかったとき」),(16)(「刑罰に触れる行為があって社員としての体面を著しく汚したとき」)の懲戒解雇事由に該当するといわざるを得ない。 (2)懲戒解雇の相当性の有無ア原告は,実際に水平展開の調査を行っておりそのために出張旅費請求を行ったことや,原告の出張についてP1課長がこれを追認したことなどから,原告による出張旅費請求はやむを得ない事情の下でなされたものであると主張するが,前記のとおり,同主張事実を認めることはできない。 また,原告は,被告において「出張届」には出張を行う従業員が課長印を自ら押印することが一般的であった,P1課長は原告が出張を偽装して出張旅費請求していることを知りながら放置したなどと主張するが,かかる事実を認めるに足りる証拠もない。 イ 出張を行う従業員が課長印を自ら押印することが一般的であった,P1課長は原告が出張を偽装して出張旅費請求していることを知りながら放置したなどと主張するが,かかる事実を認めるに足りる証拠もない。 イそして,証拠(乙23,証人P8)によると,本件懲戒解雇処分の経緯は次のとおりであると認められる。 - 33 -(ア)平成15年6月26日,被告は,原告に対し,出張の業務性を確認するため,隠密裏に出張して点検した装置の点検記録を提出するよう求めた。これに対し,同年7月4日,原告から点検記録と称する文書が提出されたが,これには,実際に赴いた日の記載や写真の添付はなされておらず,原告の手書きで車両番号や点検の結果が記載されているにすぎなかった。 (イ)被告の人事課は,原告に出張の事実を弁明させる機会として,事情聴取を平成15年7月11日(午後1時から午後4時10分まで),同月23日(午後1時から午後4時まで),同年8月8日(午後1時から午後2時30分まで)の合計3回,延べ7時間40分にわたって行い,出張の事実を説明,証明するよう求めた。 平成15年7月23日の事情聴取では,被告は,旅費請求内容の不整合な点が原告に分かりやすいよう,メールの発信記録や勤怠簿を提示する代わりに,その内容を抽出し,「出張届」の記載内容と併せて一覧表にまとめたもの(乙46)を原告に提示し,不整合となっている理由を明らかにするよう求めた。また,日時,出張先,宿泊場所を個別具体的に特定した上で疑問点や不整合な点に関する質問が印刷された「出張旅費精算に関する陳述書」(乙24)を原告に渡した。同陳述書には,質問に対する回答欄及び自由記載欄が設けられており,原告は同年8月8日付けで同書面に回答を記入して被告に提出した。 これら一連の事情聴取において,原告は,同泊者のいる出張に 告に渡した。同陳述書には,質問に対する回答欄及び自由記載欄が設けられており,原告は同年8月8日付けで同書面に回答を記入して被告に提出した。 これら一連の事情聴取において,原告は,同泊者のいる出張について同泊者を覚えていないと答えた。 勤労課のP8がP1課長に確認したところ,原告の出張のうちかなりの数についてP1課長が押印した記憶のないものがあった。 (ウ)一連の事情聴取の結果をふまえて,被告は,原告による出張旅費請求には数多くの不一致が存在し,出張の事実を原告が証明しようとしな- 34 -かったこと,上長に無断で報告をすることのない出張を繰り返していたこと,上長印を無断で押印して出張旅費の精算をしていたことを認めていることから,原告の行為が非常に悪質であると判断し懲戒解雇処分及び退職金不支給を決定した。 以上の経過をみると,被告は原告に対して十分な弁明の機会を与えた上,原告の弁明をふまえて検討した結果,本件懲戒解雇処分を決定したものであり,懲戒解雇手続の適正,相当性を疑わせる事情は認められない。 ウ原告は,他の従業員やP1課長に対する処分との権衡を主張するが,他の従業員が不正な出張旅費請求に及んだ事実は認められないのであって比較の前提を欠いている上,P1課長は管理不備の事由で社内処分を受けた(乙44)から,原告の主張には理由がない。 エ以上のとおり,本件懲戒解雇処分において相当性を欠く事情は認められず,本件懲戒解雇処分が解雇権の濫用にあたるとは認められない。 (3)したがって,本件懲戒解雇処分は客観的に合理的な理由があり,社会通念上も相当なものというべきである。 本件退職金不支給の効力について前記のとおり被告の年金支給規則(乙18)では,懲戒解雇の場合,原則として退職金の受領資格がなくなるが,事情によっては所定額の5割の範囲 当なものというべきである。 本件退職金不支給の効力について前記のとおり被告の年金支給規則(乙18)では,懲戒解雇の場合,原則として退職金の受領資格がなくなるが,事情によっては所定額の5割の範囲内において特に年金又は一時金を支給することがあると定めている。また退職金は在職中の功労報酬的な性格だけでなく,賃金の後払い的な性格も有していることを考慮すると,退職金を支給しないことが正当であるというためには,当該懲戒解雇の理由となる事由が当該従業員の過去の功労を否定し尽くすほどのものであることが必要であるというべきである。 これを本件についてみると,被告の年金支給規則では勤続20年以上に達した者を年金受領資格者とするところ,原告は昭和45年に被告に入社した者であり,懲戒解雇当時の原告について算出される退職一時金額は1609万円で- 35 -あるが(乙23),原告は,前記認定のとおり,1年9か月にわたり111件という数多くの架空の出張旅費請求をし,被告を欺罔して285万円余りの出張旅費を不正受給したものであり,その行為態様及び内容は被告に対する重大な背信行為というべきである。そして,原告がかかる行為に及んだことについて酌むべき事情が見当たらないこと,原告は,被告による事情聴取及び弁明の手続を経るも不正受給の事実を認めていないことなどに照らすと,原告による出張旅費の不正受給は,原告の過去の功労を否定し尽くすだけの重大なものといえる。 したがって,被告が原告に対して退職金を支給しないこととしたのは正当かつ有効というべきである。 不当利得返還請求について(1)前記のとおり,原告による出張旅費請求のうち,出張旅費請求内容に沿った出張事実が存在しないものと認められる出張旅費請求の件数は以下のとおりであり,この出張旅費請求によって原告に支給され いて(1)前記のとおり,原告による出張旅費請求のうち,出張旅費請求内容に沿った出張事実が存在しないものと認められる出張旅費請求の件数は以下のとおりであり,この出張旅費請求によって原告に支給された旅費の合計額は,285万4006円である。 ア「××」分:56件,小計152万7500円イ「×」分:17件,小計46万6130円ウ「△」分:38件,小計86万0376円エ「休日」分:なし(2)そもそも出張旅費とは,従業員が実際に業務上の出張を行うことに伴って発生する費用は会社が負担すべきものであることから,従業員に対して事前又は事後に支給されるものであり,出張旅費請求の内容に沿った出張事実が存在しないにもかかわらず,当該出張旅費請求の内容に基づく出張旅費を受給することは,法律上の原因がないものというべきである。 したがって,原告が上記の出張旅費請求に基づいて被告から285万4006円の出張旅費を受給したことは,法律上の原因を欠くものである。 - 36 -(3)この点,原告は,一旦被告が出張であることを認めて支給した以上は,出張が不当であったとしても労務管理上の問題にすぎず,法律上の原因を欠くことにはならないと主張するが,出張旅費を支給する趣旨は上記のとおりであり,出張が不当である場合には出張旅費支給の法的根拠が欠けることになるから,原告の主張は理由がない。 また,原告は,本件調査の費用を捻出するための便法として実際と異なる出張旅費請求を行ったことについて,P1課長による黙認や追認があったことから,出張旅費受給に法律上の原因があると主張するが,本件調査が行われた事実も,P1課長による黙認や追認の事実も認められないのであるから,原告の上記主張も理由がない。 (4)よって,原告は,被告に対して,不当利得として285万4006円 主張するが,本件調査が行われた事実も,P1課長による黙認や追認の事実も認められないのであるから,原告の上記主張も理由がない。 (4)よって,原告は,被告に対して,不当利得として285万4006円を返還する義務があるものと認められる。(なお,附帯請求は,うち152万7500円については,請求期限の翌日である平成16年11月1日から,うち132万6506円については訴えの変更申立書送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成17年9月29日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。) 名誉毀損,信用毀損,営業妨害について(1)原告が12の鉄道会社に対して以下の文書,資料を送付したこと(以下,「本件文書送付行為」という。)は争いがない。そして証拠(乙39の1ないし10)によれば,一部の送付先には,これらに加えて写真資料が添付されていることが認められる。 ア「SIV用インバータ変圧器落下事故に係わる件(報告)」と題する書面(平成16年の日付のもの)イ同表題の書面(平成15年の日付のもの)ウ平成12年12月27日付け業務報告エトランス取付け不具合に対する水平展開- 37 -オSIV用トランス水平展開図面リスト(2)「SIV用インバータ変圧器落下事故に係わる件(報告)」と題する書面(平成16年の日付のもの)の記載内容の要旨は以下のとおりである(内容は各送付先でほぼ同じである。)。 「ア平成16年付け「SIV用インバータ変圧器落下事故に係わる件(報告)」イ御社に対して非常に重大な品質問題となる内容でもあり,マスコミの矢面に立つこととなることを危惧し,手紙を出すこととさせて頂きました。 現在,三菱ふそうの人命に係わる品質問題がマスコミを賑わしており,会社トップが逮捕される等,企 題となる内容でもあり,マスコミの矢面に立つこととなることを危惧し,手紙を出すこととさせて頂きました。 現在,三菱ふそうの人命に係わる品質問題がマスコミを賑わしており,会社トップが逮捕される等,企業の品質問題隠しが発覚し問題となっております。 今回,手紙を送付させて頂きましたのは,御社に納入のSIV装置について,三菱電機が安全に係わる品質問題でありながら,三菱ふそう同様に問題隠しに終始しているからです。三菱ふそう同様に組織的関与があり,今まさにマスコミを通じて公表される事態に直面しています。私は御社に三菱電機の不正を正して頂き,御社に迷惑のかからぬ解決策を望んでいます。 ウ私は,昨年9月に会社人事を通して三菱電機社長宛に品質不具合について早期に対応するよう要求を提出しました。しかし,何等回答はありませんでした。今回の品質問題隠しは本社のトップレベルが関与していることは間違いないのです。私は会社を解雇される前より会社に対して善処の要求をしておりましたが,全く無視されています。 私は品質上の問題,それも人命に係わる重要問題でありながら,世間及び客先に報告するどころか問題隠しに徹する三菱電機の姿勢を許す訳にはいきません。 - 38 -早期に安全確保の動きをする必要があります。 電鉄会社殿やマスコミ,及び国土交通省あるいは政党等のお力をお借りし,三菱電機の不正を正し,早期に問題解決を図る必要があると考えています。 エ三菱電機は二つの罪を犯しています。 ①人命に係わる安全上の品質問題を隠し通している事②ただ一人真剣に問題調査を行っていた私を処分した事(私は経済的制裁のみならず人として精神的,肉体的苦痛を受けています)私は系電の不正分子の中で処分を受けました。御社のお力で三菱電機の一部であろうこの不正分子が処分されることで,私自身の不当解 事(私は経済的制裁のみならず人として精神的,肉体的苦痛を受けています)私は系電の不正分子の中で処分を受けました。御社のお力で三菱電機の一部であろうこの不正分子が処分されることで,私自身の不当解雇が撤回されることを望まざるを得ません。 マスコミを通じての品質問題公表は三菱電機はともかく電鉄会社殿に対して多大のご迷惑をお掛けすることになるとともに,社会に対して不安を与えることとなります。 私が理解している不正分子について下記させて頂きます。 ※系電所長,車シ部部長,次長,設計の一部,品質管理課の一部※系電人事部長,課長,担当者(不正に係わる書面を確認しながら不正隠しに荷担した確信犯です)※本社交通事業部の一部※本社人事部の一部私は被害者である電鉄会社のお力で早期に三菱電機内部の不正分子の摘発と,安全確認の行動を三菱電機に対して要求されることを要望したい。 三菱電機より私に対する処分撤回の動き(連絡)があることで,私の要望が実ったものと判断したいと思います。 - 39 -オ6月11日を目途に何等動きが無い場合や私自身に対して恐喝や拘束等の動きがあった場合は申し訳ありませんが即マスコミに対して証拠書類や具体的会社名や問題の全貌を提出したいと思います。 本内容が世間に公表されれば,三菱電機はともかく御社に多大な迷惑がかかることは明らかであり,安全確認の為に国土交通省の査察やマスコミ,乗客よりの非難は想像できるところです。 問題が人命に係わる安全問題ゆえに安全が確認されるまで営業運転不可となれば日本の交通網は完全に破綻してしまいます。想像もできないパニック状態になってしまいます。 私は責任を一人負わされて解雇されましたが,会社は社会に対して何の責任を負わない無責任さに怒りを通り越して,呆れ返る次第です。 カ※添付資料の業務報告について いパニック状態になってしまいます。 私は責任を一人負わされて解雇されましたが,会社は社会に対して何の責任を負わない無責任さに怒りを通り越して,呆れ返る次第です。 カ※添付資料の業務報告について今回私が社長宛報告しているにも係わらず,何等対応をしないのは会社ぐるみの問題隠しといわざるをえません。 そこには微塵も客先,乗客に対しての安全最優先の考えはありません。 ※添付資料の水平展開資料製造部は問題の認識と客先報告を実施することで所長宛報告しておきながら現在まで何等実施していません。 当時外注設計出向中の当方を実務責任者としています。これは正規に客先に報告せず,秘密の中で現場サイドに顔のきく設計者の私を一人対応させるもので,ここに品質管理部門を表に出さない秘密行動の姿勢が如実にあらわれています。 キ私は,三菱電機に対して最後通告として下記の2点を要求しています。 三菱電機が内部の不正分子を処分した上で,なお無視するならばマスコミ,全客先,国土交通省,政党等考えられる手段で公表することで実行するしかないでしょう。 - 40 -本準備は第三者にも委ねていますので,会社が告発等で力ずくで私を拘束しようとしたり,その動きがみられた場合は即実行致します。そのときは,最終的に三菱電機社長や電鉄会社社長の国会での喚問等に発展することになるのではと危惧しています。 三菱電機への要求項目①早期SIVの総点検実施と報告②不当解雇に対する保証要求御社のご尽力で事が大きくならない中で処理できればと考えております。特に電鉄会社殿にはマスコミ等で公になりますと車両運用や国土交通省の査察等非常に問題が大きくなることを危惧するからです。」(3)以上の記載内容をみると,被告が製造したSIV装置が人命に係わる重大な品質問題を有していること,被告はその品質問題を隠し や国土交通省の査察等非常に問題が大きくなることを危惧するからです。」(3)以上の記載内容をみると,被告が製造したSIV装置が人命に係わる重大な品質問題を有していること,被告はその品質問題を隠し続けており,これは被告社内のトップレベルが関与した組織的な隠蔽であること,被告社内の不正分子(系電所長,車シ部部長,系電人事部長等)が真剣に問題調査を行った原告一人に責任を負わせて不当な解雇を行ったことを各鉄道会社に告知する内容であると認められる。かかる記載内容は,被告の顧客である各鉄道会社に,被告製品の品質や安全に関する企業姿勢に対する社会的評価を毀損する危険性を有し,被告の平穏な営業活動を妨害するものであることが明らかであり,本件文書送付行為は被告の名誉や信用を毀損し,その営業を妨害するものということができる。 (4)違法性阻却事由の有無ア以上のとおり,本件文書送付行為は被告の社会的評価を毀損し,平穏な営業活動を妨害するものであるが,かかる行為が公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的に出たものであって,かつ,摘示された事実が真実であるか,真実でなかったとしても,原告において真実であると信じたことに相当な理由がある場合には,その行為に違法性はないものとい- 41 -うべきである。そこで,以下において検討する。 イ「公共の利害に関する事実」についてのものであること原告が送付した文書は,電車に設置されるSIV装置に品質問題が存在し,被告が品質問題を組織的に隠し通しているという内容であるところ,かかる事項は公共交通機関の安全や企業の社会的責任に関係するものであって,これを指摘することは公共の利益に資するものというべきであり,「公共の利害に関する事実」についての表現行為であると認められる。 ウ目的が「専ら公益を図る目的」である 会的責任に関係するものであって,これを指摘することは公共の利益に資するものというべきであり,「公共の利害に関する事実」についての表現行為であると認められる。 ウ目的が「専ら公益を図る目的」であること(ア)前記争いのない事実のほか証拠(乙3,乙5,乙7の1・2,乙8の1・2)によれば,原告が本件文書送付行為に至る経緯として以下の事実が認められる。 ①平成15年9月17日,原告は被告から本件懲戒解雇処分を受けた。 同月25日,原告の銀行からの借入金について被告が保証人として合計803万9716円を代位弁済した。被告の人事担当者は原告と面談し,被告が原告に対して返還すべき積立金125万3000円を求償債権に相殺充当することを告知した。 ②原告は,同日付けで,被告の取締役社長宛の手紙を送付した。その主な内容は,被告の命令により本件調査を約3年間実施してきたこと,各電鉄会社に納入したSIV機器において大事故につながる不具合があること,被告はかかる不具合を隠蔽し,原告一人に本件調査を押しつけたこと,解雇処分にあたり原告が主張した本件調査の事実を被告は否定し,不正出張として原告を解雇したこと,事の発端が被告の品質問題に起因し,会社命令として本件調査を指示しておきながら認めず,問題を隠そうとする被告を到底許すことができないこと,今後早期に全機器の解体調査を行い安全確認の実行を願うこと,被告が対応しない場合は電鉄会社,マスコミ各社の順に,不具合の存在や報告懈- 42 -怠等を告知する予定であることであった。 ③平成15年11月18日,原告は再び被告の取締役社長宛に上記手紙と同様の内容の手紙を本件落下に関する内部資料とともに送付した。 ④平成16年2月10日付けで,原告はP8に手紙を送付した。その主な内容は,前年から依頼していた品質問題の対 の取締役社長宛に上記手紙と同様の内容の手紙を本件落下に関する内部資料とともに送付した。 ④平成16年2月10日付けで,原告はP8に手紙を送付した。その主な内容は,前年から依頼していた品質問題の対応について被告が何もしておらず,不正隠しに終始していること,原告は被告の指示によって行動し,結果として解雇されたこと,解雇に係わった全ての関係者は被告の不正を承知しながら保身のみをしており,罪人であること,今後原告の人生がどうなるか関係者は一生罪の意識を持って生きていくことになること,会社品質問題の早期取組と取組内容の報告,不当解雇に対する要求(退職金を含めた解雇による未払金の早期支払)について回答を要求すること,回答がない場合は予告したとおりの告知行動をとること,被告独自で解決することを期待すること,被告から請求されている融資返済については必ず履行するので猶予を頂きたいこと,上記要求に対する被告の回答を待ち,状況により「マスコミ等より入金が出来れば」即返済する考えであることであった。 ⑤平成15年5月26日から同年6月11日にかけて,原告は本件文書送付行為を行った。 (イ)前記認定のとおりの本件文書送付行為に至る経緯,とりわけ被告から代位弁済にかかる求償金803万9716円の支払を求められるや,原告は本件文書送付行為を開始し,その送付行為を重ねる経過において金銭補償を求め,又はマスコミ等からの入金を得るなどすれば返済をするなどと文書に記載していることからすれば,本件文書送付行為には被告に対して本件懲戒解雇処分の撤回と金銭補償を求める原告の強い意図が認められる。また,同文書には被告の不正分子によって不当に解雇されたという内容の記載があるが,原告は虚偽の出張を作出して出張旅費- 43 -を受給したこと,本件調査に関する会社命令は存在し 意図が認められる。また,同文書には被告の不正分子によって不当に解雇されたという内容の記載があるが,原告は虚偽の出張を作出して出張旅費- 43 -を受給したこと,本件調査に関する会社命令は存在しないこと,自ら行った出張旅費の不正受給を理由として懲戒解雇されたことは前記認定のとおりであり,上記記載は意図的に虚偽の内容を記載したものであることが認められる。その上,本件懲戒解雇処分に至る過程や,被告から原告に代位弁済にかかる求償金について支払請求がなされるまで,原告がSIVトランスの品質問題を被告に指摘した事実は窺われない。 これらの事情を総合考慮すると,原告が本件文書送付行為に及んだのは,本件懲戒解雇処分を行った被告に対する加害意図や,本件懲戒解雇処分の撤回や金銭的補償を求める意図によるものと認められる。 (ウ)よって,本件文書送付行為が専ら公益を図る目的でなされたものであるとは認められない。 エしたがって,表現内容の真実性等について検討するまでもなく,本件文書送付行為の違法性は阻却されない。 (5)以上検討した結果,本件文書送付行為は不法行為に該当し,原告はこれによって生じた損害を賠償する責任を負うものというべきである。 (6)損害額ア証拠(乙27,29,30,証人P9)によると,原告による本件文書送付行為の結果,被告に対して各鉄道会社から説明や点検の要請があり,被告は信頼回復措置として,再度の振動試験を行うとともに,別紙「鉄道会社への対応状況」に記載のとおり,各鉄道会社に対して経緯説明,技術説明及び実車点検を実施したこと,そのために以下の費用が発生したことが認められる。 ①材料費207万1749円内訳振動試験材料費5万4240円ダミートランス製造13万6441円- 44 -箱枠製造24万9000円試験用機材 以下の費用が発生したことが認められる。 ①材料費207万1749円内訳振動試験材料費5万4240円ダミートランス製造13万6441円- 44 -箱枠製造24万9000円試験用機材2万5307円現車点検295円その他160万6466円②出張旅費327万0612円内訳現車点検時の技術員出張198万3275円管理職による会議・客先説明出張110万8090円その他17万9247円③外注費663万7916円内訳現車点検外注費125万5277円振動試験準備16万0000円振動試験287万3620円現車点検機材関連9717円その他233万9302円④その他経費161万1712円内訳再検証試験関連28万0711円現車点検関連2万2410円その他130万8591円⑤以上の合計1359万1989円前記認定の本件文書の内容,その配布先等によると,これらの費用は,原告の本件文書送付行為と相当因果関係にある損害ということができる。 イ慰謝料本件文書送付行為は,原告が被告の元従業員であり技術職にあったこと- 45 -を利用して,従業員たる地位に基づいて取得した内部資料を添付して行ったものであり,被告製品の安全性に対し重要顧客が有する被告の評価,信用をことさら失墜させようとするものである。そして,証拠(乙26ないし28,31,45,証人P9)及び弁論の全趣旨によると,被告は平成16年5月26日以降,相次いで鉄道会社12社から原告からの書信が届いた旨の連絡を受けたことからこれに対応するのみならず,対応の対象を到着が予想された他の7社にも拡大することとし,全国に所在する計19社に対して,ほぼ同時期に鉄道会社への訪問,経緯及び技術説明を行ったこと,被告はそれらに先立つ資料作成,準備に時 らず,対応の対象を到着が予想された他の7社にも拡大することとし,全国に所在する計19社に対して,ほぼ同時期に鉄道会社への訪問,経緯及び技術説明を行ったこと,被告はそれらに先立つ資料作成,準備に時間を要し,かつ,事案の性質上誠実かつ迅速な対応を迫られたこと,当時三菱自動車工業に対する「リコール隠し」との批判が社会問題化していた時期でもあり,6月末に株主総会を控え,安全,安心を最も重視する鉄道会社は過敏な反応を示し,要望があった鉄道会社については車両点検等対応を迫られたこと,これに加え,被告は報道機関による取材にも対応を迫られ,関係部署は混乱と機能麻痺に陥ったこと,一連の対応に伴う人件費相当額が549万円に上ったこと,本件文書送付行為が,懲戒解雇した原告によるものであることから社内でも情報は限られた一部の社員にとどめておく必要があり,配慮を要したことが認められる。 他方,前記(6)ア認定のとおり,本件不法行為については約1359万円の財産的損害の賠償請求権が認められること,そもそも原告の本件文書送付行為は被告製造のトランス落下に関連するものであり,被告も一時は水平展開を予定したことがあること(甲15),本件文書送付行為は重要顧客である取引先や報道機関に対して前記認定のとおり技術的な根拠もなくなされたものであり違法性は高いものの,本件文書の内容は個別具体的な技術にかかるもので,電車を利用する一般乗客に対して抽象的にその不安をあおる態様でなされたものとまではいえないこと,したがって文書- 46 -の送付を受けた相手方等に限定し,専門事項について説明をすることで無用な不安感を払拭することができ,一般乗客を相手方とする行為に比して信頼回復が容易であるといえること,重要顧客への対応は実車点検期間を含めても平成16年8月までには終了したと推認 説明をすることで無用な不安感を払拭することができ,一般乗客を相手方とする行為に比して信頼回復が容易であるといえること,重要顧客への対応は実車点検期間を含めても平成16年8月までには終了したと推認されること,また同年7月末ころから報道機関の取材申込みはあったもののいずれも数回の面接又は電話による取材を経た後については(乙28),それ以上の取材対応の必要性を認めるに足りる証拠はないこと,本訴判決の認定により被告の信頼回復も相応に図られることなどを総合考慮し,慰謝料としては300万円をもって相当と認める。 ウ弁護士費用本件事案の内容,上記ア,イの認容額によると,165万円が原告の本件文書送付行為と相当因果関係を有する損害であると認められる。 (7)したがって,原告は被告に対して,不法行為に基づく損害賠償として,1824万1989円を支払う義務を負う。 (8)差止請求について前記認定のとおり,本件文書送付行為は,原告がことさらに被告の有する社会的評価を失墜させる意図をもって,被告の顧客である鉄道会社や報道機関に対してなされたものであることからすれば,その違法性は高いものといえる。 しかし,前記認定のとおり,被告の的確な対応(技術説明,実車点検等)により,鉄道会社や報道機関に対し,被告の立場につき一定の理解が得られたものと考えられること,前記のとおり本件では,原告の不法行為により,原告に対して1800万円以上の損害賠償義務を負わせること,後記のとおり,原告が被告の従業員としての立場で入手した文書等については,被告に返還すべきであること,その他本件落下以後相当の期間が経過したことなどを勘案すると,現段階では,原告の新たな行為によって,被告の営業上の利- 47 -益が侵害されたり,侵害されるおそれがあるとは認めがたい。 したがって,被告 本件落下以後相当の期間が経過したことなどを勘案すると,現段階では,原告の新たな行為によって,被告の営業上の利- 47 -益が侵害されたり,侵害されるおそれがあるとは認めがたい。 したがって,被告の差止請求は,その余の点を判断するまでもなく,理由がないというべきである。 文書等の返還,廃棄請求について(1)社内情報が記載された社内文書や資料は,社員が会社における業務遂行上の必要性から保持しているものであって,これらは社員が原則として会社から貸与されたものとみるべきである。また,会社にとって,社内文書や資料を適切に管理する必要性は非常に高く,他方で解雇された社員が社内文書や資料を会社の意思に反して保持する必要性がないだけでなく,かえって社内情報が不当に漏れる危険性がある。 そして,被告の社員就業規則65条には,解雇された者は会社から借用している物を取りそろえ,直ちに返納しなければならないとの規定があること(乙4),本件文書の性質,すなわち本件文書は外部に公表を予定していない,被告の技術分野に関する具体的かつ詳細な文書であること,写しであっても,社員が写しそのものを取得した場合や,社員が取得した写しや原本を複写機を用いて作成した場合についても,複写技術の高度化に伴い,原本とその記載された情報の質において異ならないことなどに照らせば,社内情報が記載された社内文書や資料(原本及び写し)は,社員が解雇されたときに,会社の求めによって返納すべきものと解するのが会社と社員の合理的意思に適うものといえる。 以上に加え,前記認定のとおり,被告は本件文書送付行為にあたり,本件落下に関する内部資料を添付したことなどをも考慮すれば,被告が,解雇された原告に対し,就業規則65条に基づき,原本,写しの別を問わず,原告が現に所持する被告の社内文書や資料の返 付行為にあたり,本件落下に関する内部資料を添付したことなどをも考慮すれば,被告が,解雇された原告に対し,就業規則65条に基づき,原本,写しの別を問わず,原告が現に所持する被告の社内文書や資料の返還を求めることは相当ということができる。 (2)本件では,弁論の全趣旨によれば,甲23ないし41の文書,平成17- 48 -年2月10日付け主張書面に添付されている一覧表,及び,同月25日付け提案書に添付されている「西武鉄道事故関連所持資料一覧表」にそれぞれ記載された文書,資料は,原告が現に所持している被告の社内文書,資料であることが認められる(これらの文書,資料の標目,枚数等をまとめたものが別紙「文書,資料一覧表」である。)。 (3)被告は,「原告が現に所持するSIVに関する文書・技術文書その他これらに関する一切の資料等」の返還を求めるが,別紙「文書,資料一覧表」記載の文書等の内容・性質等に鑑みれば,被告が返還請求している文書等をより特定したものが同別紙記載のものというべきであるから,原告に対して同別紙記載の文書等の返還を命じることは申し立てていない事項について判断するものとはいえない。 (4)したがって,原告は,被告に対し,別紙「文書,資料一覧表」記載の文書等を返還する義務を負うというべきである。 第4 結論 以上の次第で,原告の第1事件についての請求はいずれも理由がないから棄却し,被告の第2事件についての請求は主文第2項,第3項掲記の限度で理由があるから認容し,その余は失当であるから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する(ただし,主文第3項については仮執行宣言を付すのは相当でないから,これを付さない。)。 神戸地方裁判所尼崎支部第2民 条本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する(ただし,主文第3項については仮執行宣言を付すのは相当でないから,これを付さない。)。 神戸地方裁判所尼崎支部第2民事部裁判長裁判官竹中邦夫裁判官三上乃理子- 49 -裁判官大久保俊策- 50 -(別紙)文書,資料一覧表番号文書,資料の標目枚数等原本,写しの別備考電気機器箱の吊手用ボトルサイズ及び取付穴の標準不明写し 組立作業要領書不明写し 西武鉄道向SIVトランス落下不具合原因と対策不明写し SIV装置振動試験報告書不明写し インバータ変圧器脱落不具合報告書(速報)不明写し インバータ変圧器脱落不具合報告書不明写し作成途中の原稿 インバータ変圧器取り付け不具合報告書不明写し SER20000SIV不具合(現車確認結果)不明写し 西武20000形99年納め不明写し 20000形1次車140kVASIVのトランス取付不明写し 現車確認と不具合品の対応SER20000系#51編成SIV改修不明写し 2000年12月27日付業務報告書(西武鉄道向200不明写し添付資料1~3あり 00形車両用SIV装置トランス脱落不具合)MTRCTR1落下事故調査不明写し 西武鉄道納SIV装置トランス取付不具合に対する不明写し 水平展開(「SIV用トランス水平展開図面リスト」が添付されている。)西武鉄道20000形用SIV振動試験実測データ枚写し 社内メール記録式写し 現車調査記録式原本 西武鉄道製品チェックシート枚写し 西武鉄道トランス組立フロー枚写し SI 測データ枚写し 社内メール記録式写し 現車調査記録式原本 西武鉄道製品チェックシート枚写し 西武鉄道トランス組立フロー枚写し SIVトランス組立作業枚写し SIV作業要領書式写し 振動試験調査依頼メモ式原本 車両SIV装置枠組・溶接・パテシール塗装チェック枚写し シート ACT-07045劣化診断報告書式写しSIV巻物脱落防止対策資料枚写し SIV工程表枚写し ~編成SIVの手直し作業資料枚写し 設計上の注意事項枚写し甲号証 省令に基づく205系電車と209系電車の検査体系と新枚写し 保全体系 JISE4031鉄道車両部品の振動試験方法枚写し水平-鉛直二方向振動試験設備カタログ枚写し AZN-A-98-392インバータ盤輸送時の振動,ひずみ測定結果資料枚写しALTECOF-30カタログ枚写し SIV組立作業指導票枚写し,甲号証 ALK-D0001 平成7年度品質に関する方針の資料枚写し カエ本における製品安全に関する取組の資料枚写し 西武鉄道20000形車140kVASIVトランス落下枚写し 対策西武鉄道宛FAX(年月日付)枚写し 技術員派遣依頼書枚写し SIV製作資料保管リスト枚写し 三相変圧器外形図枚写し,甲号証 交通BU工程改善チェックシート枚写し甲号証 SIV製作資料保管リスト枚写し 三相変圧器外形図枚写し,甲号証 AP14298 交通BU工程改善チェックシート枚写し甲号証 ALD-Q2819製作経歴表枚写しTRI固定ボルト回り止め構造枚写し 緊急処置摘要表枚写し - 51 -(別紙)文書,資料一覧表車両用(SIV)装置の組立要領書枚写し 細目表出図票枚写し 製品外注取引先検討依頼書枚写し 4506SIV用トランス振動試験の件枚写しRL-「タイトル:工程混乱対策会議の件」で始まるメール文書枚写し甲号証 「SIVトランス組み立て作業フロー」と題する書面枚写し甲号証 「SIVのトランス組み立て作業」と題する書面枚写し甲号証 SIV構造概略図枚写し甲号証 「トルクがかからない場合の部品寸法図」と記されている書枚写し甲号証 面変圧器取付部詳細図枚原本甲号証 「SIV装置インバータ箱本体チェックシート」と題する書枚写し甲号証 面ボルトネジ類のJIS規格抜粋資料枚写し甲号証 「件名:JR東E-JAPUコンタクタネジ脱落」と枚写し甲号証 記されているメール文書西武鉄道型SIV組立図枚写し甲号証 20000 「SERトランス輸送時の不具合再現試験」と題する書面枚写し甲号証 トラック輸送再現試験報告書枚写し甲号証 「SERトランス水平展開(点検)」と題する書面 SERトランス輸送時の不具合再現試験」と題する書面枚写し甲号証 トラック輸送再現試験報告書枚写し甲号証 「SERトランス水平展開(点検)」と題する書面枚写し甲号証 「件名:KBK5000形TR1締め付け状態確認の件」と枚写し甲号証 記されているメール文書「SIV組立作業方法の変更の件(回答)」と題する書面枚写し甲号証

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