平成15年12月15日宣告平成15年刑(わ)第1817号被告人に対する業務上過失傷害被告事件について,当裁判所は,検察官三村仁及び弁護人川口誠各出席の上審理し,次のとおり判決する。 主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件の審理経過,公訴事実の概要及び争点等(なお,証拠書類に関する甲乙の表示及び番号は,検察官請求分証拠等関係カード記載の甲乙の表示及び番号を示す。また,差戻し前第1審で請求され取り調べられた証拠については,差戻し後の当審で初めて取り調べられた証拠と区別するために,甲乙の表示の前に「前」を記載し,「前甲1」のように表示する。) 1 本件の審理経過及び公訴事実の概要(1) 本件においては,被告人は,当初平成13年7月11日に,東京簡易裁判所に対していわゆる略式起訴されたものであるところ,その際の公訴事実の要旨は,被告人は,平成12年12月26日午後5時20分ころ,業務として大型貨物自動車(以下「被告人車両」ともいう。)を運転し,東京都江東区ab丁目c番d号先の信号機により交通整理の行われている交差点をe通り方面からf通り方面へ向かい左折するに当たり,同交差点左折方向出口には自転車横断帯が設けられていたのであるから,前方左右を注視し,同横断帯による横断自転車等の有無に留意し,その速度を調節して,その安全を確認しながら進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,左前方に気を取られ,同横断帯による横断自転車等の有無に留意せず,その安全確認不十分のまま,漫然時速約5ないし10キロメートルで進行した過失により,同横断帯を信号に従い左方から右方へ自転車 を怠り,左前方に気を取られ,同横断帯による横断自転車等の有無に留意せず,その安全確認不十分のまま,漫然時速約5ないし10キロメートルで進行した過失により,同横断帯を信号に従い左方から右方へ自転車を運転して進行してきたA(当時62歳。以下「被害者」ともいう。)に全く気付かず,同車に自車前部を衝突させて同人もろとも路上に横転させ,よって,同人に加療約1か月を要する右肋骨骨折の傷害を負わせたものであるというものであった。 これにつき,東京簡易裁判所は,平成13年7月23日,上記の内容の公訴事実を罪となるべき事実として,被告人を罰金30万円に処する旨の略式命令を発したが,被告人は,同年8月3日正式裁判を請求した。 (2) 差戻し前第1審第1回公判において,検察官は,公訴事実中,被害者運転の自転車(以下「被害車両」ともいう。)と衝突した被告人車両の部位について「自車前部」とあるのを「自車左後輪」と訂正した。そして,差戻し前第1審第2回公判においては,第1回公判において行った公訴事実の上記訂正と同一内容の被告人車両の衝突部位に関する変更とともに,被告人車両と被害車両が衝突した地点を「自転車横断帯」から「横断歩道」に変更し,また,被害者の傷害の部位程度を「加療約1か月を要する右肋骨骨折の傷害」から「加療約109日間を要する右肋骨強度打撲及び頸部打撲の傷害」に変更する旨の検察官の訴因変更請求が許可された。 その後,本件は東京地方裁判所に移送されて審理が続けられていたが,差戻し前第1審第8回公判において,被告人車両の衝突部位を「自車左後輪」から「自車左側部」へと変更する旨の検察官の訴因変更請求が許可された。そして,検察官は,この「自車左側部」とは,「被告人車両左前部の角から,左側の車体中央付近までの間」であると釈明した(な 左後輪」から「自車左側部」へと変更する旨の検察官の訴因変更請求が許可された。そして,検察官は,この「自車左側部」とは,「被告人車両左前部の角から,左側の車体中央付近までの間」であると釈明した(なお,衝突地点は「横断歩道」のままであり,傷害の程度も第2回公判において変更が許可された訴因のままである。)。 なお,弁護人,被告人は,その間一貫して衝突部位は被告人車両の左側後輪であり,また,被告人に注意義務違反はない旨主張していた。 (3) 平成15年1月15日に言い渡された差戻し前第1審判決は,被告人車両の衝突部位を「左側前部」であると認定し,注意義務の内容から「速度を調節して」を除き「前方左右を注視し,同横断歩道による横断自転車等の有無に留意し,その安全を確認しながら進行すべき業務上の注意義務」とした他は上記第8回公判において変更が許可された後の訴因と同じ事実を認定し,被告人に過失があったとして,被告人を罰金30万円に処した。 (4) この判決に対し弁護人が控訴したところ,東京高等裁判所は,平成15年5月8日,原判決を破棄し事件を東京地方裁判所に差し戻す旨の判決を言い渡した(以下「差戻し判決」という。)。その理由として,東京高等裁判所は,差戻し前第1審が衝突部位を被告人車両の左側前部として認定したのは目撃者とされるBの証言を信用できるものと見ているからであるが,同証言は事故直前の被害者の動きという基本的事実に誤りがあるから,衝突部位に関する部分も信用できないものというほかなく,差戻し前第1審で調べた他の証拠によれば被告人車両の衝突部位は左側後輪のうちの前輪であると認定するほかないのであって,衝突部位が変わってくると,差戻し前第1審が認定した被告人の過失をそのまま是認することはできないから,この事実誤認は判決に影響を及 の衝突部位は左側後輪のうちの前輪であると認定するほかないのであって,衝突部位が変わってくると,差戻し前第1審が認定した被告人の過失をそのまま是認することはできないから,この事実誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであり,衝突部位が左側後輪のうちの前輪であることを前提にした上で,それでも被告人に過失があるといえるか否かについて更に審理を尽くす必要があるとした(なお,被害者の傷害の部位程度についても,更に慎重な検討が望まれるとしている。)。 (5) 差戻し後の当審において,検察官は,要旨以下のとおりの訴因変更請求をし,当裁判所は,第1回公判においてこれを許可し,この訴因の下で審理が行われた。 被告人は,平成12年12月26日午後5時20分ころ,業務として大型貨物自動車を運転し,東京都江東区ab丁目c番d号先の信号機により交通整理の行われている交差点をe通り方面からf通り方面へ向かい左折するに当たり,同交差点左折方向出口には横断歩道が設けられていたのであるから,前方左右を注視し,同横断歩道による横断自転車等の有無に留意し,速度を調節して,その安全を確認しながら進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,左前方に気をとられ,同横断歩道による横断自転車等の有無に留意せず,その安全確認不十分のまま,漫然時速約5キロメートルないし10キロメートルで進行した過失により,同横断歩道を横断しようとe通り方面からg通り方面に向かって自転車を運転して進行してきたA(当時62歳)に全く気付かず,同横断歩道上を信号に従い左方から右方へ進行してきた同人運転の自転車に自車左後輪付近を衝突させて同人を自転車もろとも路上に転倒させ,よって,同人に加療約96日間を要する頸椎捻挫等の傷害を負わせたものである。 この訴因は,要するに,差戻し前 運転の自転車に自車左後輪付近を衝突させて同人を自転車もろとも路上に転倒させ,よって,同人に加療約96日間を要する頸椎捻挫等の傷害を負わせたものである。 この訴因は,要するに,差戻し前第1審第8回公判において訴因変更が許可された内容のうち,被告人車両の衝突部位を「自車左側部」から「自車左後輪付近」に変え,また傷害の部位程度を「加療約109日間を要する右肋骨強度打撲及び頸部打撲の傷害」から「加療約96日間を要する頸椎捻挫等の傷害」に変えたものである。 2 当事者の主張及び本件の争点(1) 検察官は,①本件事故当時の状況について,被害車両と衝突した被告人車両の部位が左側後前輪であることを前提に,被告人車両の進行経路,被害車両との衝突地点は,前甲1記載のとおりであり,被告人車両の速度は時速約5キロメートル,被害車両の速度は時速約10キロメートルであるとした上で,その速度及び制動距離並びに被告人車両と被害車両の位置関係等に照らすと,左折開始から7秒後までの間に被告人は被害車両を発見することは可能であり,かつ,その間に急制動の措置をとれば本件事故を回避できたのであるから,被告人には過失が認められる,②傷害についても関係証拠から訴因変更後の公訴事実記載のとおりの傷害結果を認めることができると主張する。 (2) 他方,弁護人は,①被告人の進行経路や被害車両との衝突地点について,前甲1はそもそも信用できないが,たとえ検察官の主張どおりの進行経路や衝突地点であったとしても,証拠上,被告人から被害者を発見することはできなかったのであり,被告人には過失は認められない,②傷害の点についても,その傷害結果を裏付ける証拠は信用できない旨主張する。 (3) そこで,本件の争点は,上記訴因変更後の公訴事実記載の日時場所において,被告人車両と被害 過失は認められない,②傷害の点についても,その傷害結果を裏付ける証拠は信用できない旨主張する。 (3) そこで,本件の争点は,上記訴因変更後の公訴事実記載の日時場所において,被告人車両と被害車両が衝突したことは明らかであるが,①本件事故が被告人の過失によって惹起されたと認められるか(その前提として,両車両の衝突地点,被告人車両の進行経路等,本件事故に関する具体的事実関係自体も争われている。),②被告人に過失が認められた場合,訴因変更後の公訴事実記載のとおりの被害者の傷害結果を認めることができるかの点であることになる。 第2 前提となる事実等関係証拠によれば,以下の事実を認めることができる。 1 本件事故現場の状況等本件事故現場(東京都江東区ab丁目c番d号先路上)は,g通り方面とe通り方面を東西に走る道路(この道路のうち,本件事故現場の交差点よりもe通り方面側の道路(以下この部分の道路を「(A)道路」ともいう。)は,幅員約15.5メートル,片側2車線で,被告人車両が進行していた側にある2車線の幅員は約7.5メートルであった。)と,国道h号線方面とf通り方面を南北に走る道路(この道路のうち,本件事故現場の交差点よりもf通り方面側の道路(以下この部分の道路を「(B)道路」ともいう。)は,幅員約8.9メートル,片側1車線で,被告人が進行しようとしていた車線(西側)の幅員は約4.5メートルであった。)とが,ほぼ直交する交差点であって,信号機による交通整理が行われており,被告人が左折進行しようとしていた交差点出口には,交差点中央部に近い方から順に自転車横断帯及び横断歩道が連続して設けられていた。 (A)道路,(B)道路の両側にはいずれも車道と区別された歩道があり,被害車両が本件事故前に進行していた(A)道路北側沿い 近い方から順に自転車横断帯及び横断歩道が連続して設けられていた。 (A)道路,(B)道路の両側にはいずれも車道と区別された歩道があり,被害車両が本件事故前に進行していた(A)道路北側沿い歩道は幅員約4.3メートルであり,(A)道路側にはガードレールと街路樹等があった。 なお,本件事故当時は晴れており,路面は乾燥していた。 2 被告人車両の構造等被告人が本件事故当時運転していた車両は,自家用普通貨物自動車(いすゞ社製ダンプ,型式P-CXZ19JD)で,車長は7.85メートル,車幅2.49メートル,車高3.66メートル,後輪はダブルタイヤであり,被告人車両の左前方には,アンダーミラー(車両前方下方の状況を確認するためのもの。),サイドミラー(車両左後方を確認するもの。),サイドアンダーミラー(車両の左後方,特に,巻き込み事故を防止するため左側面下部を中心に確認するもの。)が設置されていた。なお,被告人車両には,左方,後方に対して死角の存在が認められる(もっとも,被告人車両の死角の具体的状況については,関係証拠上不明である。甲2に死角の状況について記載があるが,この車両は被告人車両とは別の車両であり,かつ,被告人は,この車両のサイドアンダーミラーの角度が,本件事故当時運転していた被告人車両の当該ミラーの角度とは違う旨主張しているところ,本件証拠中には,事故発生当時のものかどうかを問わず被告人車両の写真は1枚もないことを始め,甲2の当該ミラーの角度と本件事故当時の被告人車両の当該ミラーの角度との関係を具体的客観的に明らかにする内容のものは存しない。)。 3 本件事故の発生状況等(1) 被告人は,(A)道路をe通り方面からg通り方面(西から東)へ進行し,本件交差点の手前で,対面信号機が赤色信号を表示していたため する内容のものは存しない。)。 3 本件事故の発生状況等(1) 被告人は,(A)道路をe通り方面からg通り方面(西から東)へ進行し,本件交差点の手前で,対面信号機が赤色信号を表示していたため,一旦停止した。そして,被告人は,対面信号機が青色信号を表示したため,本件交差点を左折して(B)道路をf通り方面(北)へ進行するため,ギアを2速に入れて被告人車両を発進させ,左折を開始した。この際,被告人は,左折をするため方向指示器を点灯させており,進行方向の左右を確認した(確認の程度については争いがある。また,この際の被告人車両が停車した位置,進行経路等についても争いがあるが,この点は後に検討する。)。 他方,被害者は,職場へ向かうために,(A)道路北側沿いの歩道を自転車に乗ってe通り方面からg通り方面(西から東)へ向かって進行して来ていた。被害者は,本件交差点北側を通って(B)道路(ここでは,被告人車両の左折方向出口に設けられた自転車横断帯と横断歩道を含めた意味である。)を横断した後,左折して(B)道路東側沿いの歩道を北へ進行する予定であった。被害者は,自己の進行方向の信号(横断歩行者用信号)の表示が青色であったため,一旦止まることなくそのまま交差点を横断しようとしたところ,被告人車両と衝突をした(被害者が交差点に入る前に一旦止まっていないと認めるべきことについては,被害者のその旨の供述があることに加え,差戻し判決がその5頁で説示するとおり,一旦止まったものと仮定すると,本件現場の状況に照らして,計算上本件事故が起こり得ないことになることからも明らかである。なお,被告人車両と被害車両の衝突地点等については,後に検討する。)。 本件事故によって,被害車両は,前輪後輪曲損,左ペダル破損の状態となった。 (2) 衝突部 とからも明らかである。なお,被告人車両と被害車両の衝突地点等については,後に検討する。)。 本件事故によって,被害車両は,前輪後輪曲損,左ペダル破損の状態となった。 (2) 衝突部位について被害車両と衝突した被告人車両の部位については,左後輪の前輪と認めるべきである。なぜなら,本件事故発生当日に実施された実況見分の結果を記載した前甲1の被告人運転車両の「損害の部位・程度・状況」欄には,「左後輪付近擦過,実害なし。」との記載があり,また,事故直後本件現場に臨場し,この前甲1を作成した警察官Cが,差戻し前第1審公判において,被告人車両の左側前部を特に重点的に見分したが衝突痕はなく,他方,被告人車両の左側後前輪に特に新しいと認められる擦過痕が存在し,被告人も擦過痕の辺りが衝突部位と思われる旨説明していたことから,これを衝突痕と認定した,被害車両は前輪,後輪とも折れ曲がって全損状態になっていたが,これは被告人車両の左後輪のうちの後輪でひかれたものと考えた旨証言しているところ,被害者も被告人車両の後前輪に衝突したことに矛盾する供述はしていないし,被告人自身も,一貫して,左後前輪に衝突したと供述しているからである。 この点,本件事故の目撃者であるとされるBは,被告人車両の前部に被害車両が衝突したと証言し,同人を立会人とするその旨の実況見分もなされているが,その証言内容は,上記のように他の証拠が符合しているところと異なっている。また,B証言は,差戻し判決が指摘するとおり,被害者の本件事故直前の動きに関する部分が,被害者の供述と大きく異なっているばかりか内容も不合理であって事実に反しており,基本的な部分に誤りがある以上,衝突部位に関する部分も信用することができないといわざるを得ない。 (3) 被告人車両の進 者の供述と大きく異なっているばかりか内容も不合理であって事実に反しており,基本的な部分に誤りがある以上,衝突部位に関する部分も信用することができないといわざるを得ない。 (3) 被告人車両の進行経路及び衝突地点被告人車両の進行経路及び衝突地点について,前甲1の実況見分調書においては,被告人車両は,本件交差点を左折しようとしたが,信号待ちのため,(A)道路の被告人車両進行方向の2つの車線の中央付近に被告人車両の幅の中心が来る形(歩道寄りの車線(第1車線)から中央寄りの車線(第2車線)に車体を半分程度はみ出させる形)で停止し,対面信号機の表示が青色信号に変わったので,そのまま半分程度車体をはみ出させた形で約9.7メートル直進し,その後左折を開始して約14.5メートル進行した横断歩道に併設された自転車横断帯上で被害者と衝突した上,そこから約1.1メートル進行した被告人車両の運転席が横断歩道中央付近に来る地点に被告人車両を停車させたとの記載となっている。 検察官は,前甲1の実況見分調書は,事故直後に被告人立会いの下,その指示説明に従って作成されたものであるから信用でき,これに記載された進行経路及び衝突地点が,本件事故における被告人車両の進行経路及び衝突地点である旨主張する。 しかし,前甲1によると,被告人車両と被害車両が衝突した地点は自転車横断帯上となるが,既に指摘したように,本件審理の過程においては,当初の「自転車横断帯」上を進行してきた被害車両に衝突した旨の訴因が,「横断歩道」上を進行してきた被害車両に衝突した旨の訴因に明示的に変更されており,当該「自転車横断帯」と「横断歩道」は明確に区別されて来ていて,差戻し後の当審における訴因変更においても,「横断歩道上」を進行してきた被害車両に衝突したとの点 突した旨の訴因に明示的に変更されており,当該「自転車横断帯」と「横断歩道」は明確に区別されて来ていて,差戻し後の当審における訴因変更においても,「横断歩道上」を進行してきた被害車両に衝突したとの点は変化がなかったところ,当審の論告弁論が行われた第3回公判において,検察官が,論告に先立ち訴因変更の予定はない旨明言しながら,論告において前甲1のとおり自転車横断帯上が衝突地点であると主張するのは,そもそも首尾一貫していない。 更に,この点に関する証拠関係を見ると,確かに本件現場の状況からすれば,被害者が走行していたという(A)道路北側沿いの歩道の中央部分をそのまま真っ直ぐ進行すると自転車横断帯部分に至るのではあるが,被害者は,事故当日に録取された司法警察員に対する供述調書(前甲5)においてこそ自転車横断帯上で衝突した旨を供述しているものの,その後に録取された司法警察員に対する供述調書(前甲6)においては横断歩道を渡っていて衝突したと供述しており,被害者立会いの実況見分調書(前甲2)においても同様の指示説明をしている上(前甲3の捜査報告書は,この前甲2の衝突地点が被告人立会いの前甲1のそれと異なっていることを端的に取り上げて指摘したものである。),差戻し前第1審の公判廷においても,前甲2記載のとおり,自転車横断帯ではなく横断歩道の幅員の真ん中あたりを渡ったと明確に証言している(差戻し前第1審第2回公判調書中の被害者の証人尋問調書2頁,7ないし10頁)。また,これに続く差戻し前第1審の公判準備期日における証言においては,被害者は,それまでの捜査公判段階の供述を後退させ,曖昧にしか述べなくなった事柄が多い中,衝突地点については,自転車横断帯上ではなく,横断歩道上である旨明言しているのである(同公判準備における証人尋問調書7頁)。そして 査公判段階の供述を後退させ,曖昧にしか述べなくなった事柄が多い中,衝突地点については,自転車横断帯上ではなく,横断歩道上である旨明言しているのである(同公判準備における証人尋問調書7頁)。そして,被害者は,自転車横断帯ではなく横断歩道を渡った理由について,(B)道路を横断した後,左の方へ行く予定だったので,横断歩道の中央付近を渡った旨説明しているところ,この説明には十分な合理性を認めることができる。加えて,被告人も,差戻し前第1審の公判廷及び当公判廷において,被害車両とは横断歩道上の幅員の中央付近からf通り方面寄りの辺りの地点で衝突したと思う旨供述しているのであり,衝突地点が横断歩道上であることについては,被害者と被告人の供述が一致しており,その横断歩道上の場所もそう明白に大きく食い違っているというわけではない。結局,前甲1記載の衝突地点(自転車横断帯上)は,これらの被害者及び被告人の双方の供述と異なる内容になっているのである。 そればかりではなく,前甲1の記載は,被告人車両の進行経路についても問題がある。すなわち,前甲1に記載されている立会人である被告人の説明は,上記のとおり,被告人車両が赤色信号で停止していた際,第1車線から第2車線に車体を半分程度はみ出させる形で停止し,対面信号機の表示が青色信号に変わったことから,そのまま第2車線に車体を半分程度はみ出させた形で進行し,左折しようとしたという内容になっているが,そのような状態では,本件交差点を直進しようとする後続車が来た場合,被告人車両がその後続車の進行を妨げることになってしまうところ,第1車線上に駐車している車があったなど,被告人がこのような状態で被告人車両を停止・進行させざるを得なかった事情は関係証拠上認められないのであるから,結局,このような被告人車両の停止位置 まうところ,第1車線上に駐車している車があったなど,被告人がこのような状態で被告人車両を停止・進行させざるを得なかった事情は関係証拠上認められないのであるから,結局,このような被告人車両の停止位置や進行経路は極めて不自然といわざるを得ない。この点について,前甲1を作成した警察官Cは,差戻し前第1審の公判において,被告人はベテランのドライバーであるから説明に相違はないと思ったとか,大型車両については内輪差があるのであまり不自然には思わなかったという趣旨の証言をしている。しかし,被告人は,前甲1の進行経路等は被告人が指示説明したとおりに書かれていない旨供述しているし,ベテランドライバーであればこそ,何ら特別な事情もないのにこのような進行経路を採ることは考え難いというべきであるから,このCの供述によっても,前甲1の被告人車両の進行経路等の不自然性を払拭することはできない。そうであれば,そのような進行経路等に続く衝突地点として説明したという地点についても高い信用性を認めることは困難である。 そうすると,前甲1を根拠とする被告人車両と被害車両との衝突地点についての上記検察官の主張には同調することはできない。 他方において,被告人の供述中には,衝突地点が本件横断歩道の北端付近であるように述べる部分もあるが,多分に推測が入っていると思われる上,仮に北端付近であるとすれば,それは横断歩道の幅員の中で最も交差点中央から遠い部分なのであるから,そこに衝突部位である被告人車両の後前輪が到達するまでには,被告人車両の後前輪より前の部分が既にそこを通過していることになるところ,被害者が全くそれに気付かずに横断歩道内に進入するというのは余りに不自然であるし,検察官が指摘する,(A)道路北側沿いの歩道上の被害車両の進行位置からして横断歩道を こを通過していることになるところ,被害者が全くそれに気付かずに横断歩道内に進入するというのは余りに不自然であるし,検察官が指摘する,(A)道路北側沿いの歩道上の被害車両の進行位置からして横断歩道を渡る際に横断歩道の手前で横断歩道の最も右側から最も左側に進路を急激に変更したことになるから明らかに不自然である旨の批判を免れず,これも当裁判所の採用するところではない。 本件においては,前甲1に写真が全く添付されていないなどの理由により,既に指摘した被告人車両の状況のみならず,被害車両の状況や事故直後の現場の状況についても不明なところが多く,初動捜査における証拠収集,証拠保全が極めて不十分であったといわなければならない。それ故,明確な認定を可能とする客観的な証拠がなく,詳細な認定は困難ではあるものの,上記被害者及び被告人の各供述,とりわけ自車の進行状況については合理的な説明をしていると評価し得る被害者の供述によれば,被告人車両と被害車両は,自転車横断帯上ではなく,横断歩道上の,幅員との関係でいうとほぼ中央付近で衝突したと認めるべきである。 ちなみに,横断歩道上で衝突したとすれば被害車両が横断歩道を渡る際に横断歩道の手前で進路を急激に変更したことになり不自然であるとの趣旨の上記検察官の指摘について一言しておけば,既に述べたとおり,検察官のこの指摘は,直接には被害車両がほぼ横断歩道の幅員の北端で被告人車両と衝突したとすることについてなされたものであって,当裁判所の認定は,上記のとおり,横断歩道の幅員のほぼ中央付近を衝突地点とするものであるから前提を異にするし,被害車両が(A)道路北側沿いの歩道上の進行位置から本件横断歩道上を横断するには,必ずしも横断歩道の手前で右から左へ進路を急激に変更する必要はなく,それまで進行していた のであるから前提を異にするし,被害車両が(A)道路北側沿いの歩道上の進行位置から本件横断歩道上を横断するには,必ずしも横断歩道の手前で右から左へ進路を急激に変更する必要はなく,それまで進行していた歩道中央付近から横断歩道に近づくにつれて徐々に進路を斜め左方向へ変更して横断歩道上を走行するということもできるし,むしろその方が自然ともいえるのである。 そして,以上の衝突地点についての検討内容と,第1車線上に停止して,対面信号機の表示が青色信号に変わったためそのまま進行し,左折をしたという被告人の公判段階における供述はその内容も自然であって信用性が高いことからすれば,被告人車両の進行経路は,第1車線上に停止してそのまま進行し左折したと認めるのが相当である(また,このような進行経路と前甲1,前甲2,甲1,甲4の記載を総合すれば,衝突地点がどの程度被害車両が進行してきた側の本件横断歩道手前の歩道部分の端から本件横断歩道内に入った所であるかについては,概ね約1.1ないし1.5メートル程度と見るべきである。)。 (4) 被告人車両の速度被告人は,当公判廷において,時速約5キロメートルで進行していたと供述しているところ(当審において,これまで,時速5キロメートルについて秒速5メートルだと勘違いしていたのでそんなに速くないと思っていたが,秒速約1.4ないし5メートルというのであれば,その程度だと思う旨供述している。),この速度は,赤色信号で一旦停止していたダンプが青色信号に従って発車し交差点を左折する際の速度として特に不自然ではない。 そして,被告人が捜査段階で時速5キロから10キロメートルで進行していたと供述している(前乙2)以外に,関係証拠上,被告人がそれ以上の速度で進行していたことを窺わせる証拠はない。とすれば,被告人が当公 して,被告人が捜査段階で時速5キロから10キロメートルで進行していたと供述している(前乙2)以外に,関係証拠上,被告人がそれ以上の速度で進行していたことを窺わせる証拠はない。とすれば,被告人が当公判廷で供述するとおり,被告人車両は時速約5キロメートルで進行していたと認めることができる。 (5) 被害車両の速度について被害者は,本件事故当日に録取された司法警察員に対する供述調書(前甲5)においては,普通の速度であったと供述し,平成13年8月18日に録取された司法警察員に対する供述調書(前甲6)では,普通より遅い,ゆっくりとしたスピードだったと思うと供述している。そして,差戻し前第1審第2回公判では,時速20キロメートルくらいの速度との趣旨の供述をした後,もっとゆっくりで時速10キロメートルくらいであったとの趣旨を述べており,ゆっくりだったと思うという理由については,仕事に急いで行く状況ではなかったからとの旨を述べている。 この被害者の供述は,上記のとおり一貫していないきらいもあり,またその速度について必ずしも明確に述べているものではないが,普通より遅いスピードであったと思う理由についての説明も不自然とまではいえない。他方,被害者の年齢・性別等を考慮しても通常の自転車の速度よりもあまりにも遅かったと考えるべき理由もないから,結局,被害車両の速度については,通常の自転車の速度よりもやや遅い速度としても矛盾しない速度であるとして,少なくとも時速10キロメートルの速度であったと認めるのが相当である。 第3 注意義務違反の有無 1 上記第2「前提となる事実等」で認められる事実を前提に,被告人に本件事故について当審における訴因変更後の公訴事実記載の過失が認められるか検討する。 2 検察官は,衝突部位を被告人車両の左後前輪 1 上記第2「前提となる事実等」で認められる事実を前提に,被告人に本件事故について当審における訴因変更後の公訴事実記載の過失が認められるか検討する。 2 検察官は,衝突部位を被告人車両の左後前輪であることを前提にした上で,被告人に過失があることを立証するために,当審において,甲1及び甲4の証拠調べを請求し,当公判廷においてこれらを取り調べた。これらは,本件事故現場において,被告人車両とほぼ同型のダンプを使用して同車両からの見通し状況を明らかにし,被告人車両から被害車両を確認することができたことを立証するためになされた実況見分の結果を記載した調書である。 すなわち,甲1は,既に内容を摘示したとおりの前甲1記載の衝突地点及び被告人車両の進行経路を基にして,被告人車両が時速5キロメートルで進行し前甲1記載の衝突地点で被害車両と衝突したとした場合の,衝突の10秒前と5秒前の被告人車両の各位置を設定し,他方,被害車両の速度が時速10キロメートルと時速15キロメートルであったときについて,それぞれ衝突の10秒前と5秒前の被害車両の各位置を設定し,それぞれの時点における,被告人車両の位置に置いた実況見分に用いた車両からの被害車両の位置の見通し状況を見分し,さらに,被告人車両が,被告人の供述するように,第1車線から発進したとした場合について,同様の見分をしたものである。 また,甲4は,同様に前甲1の記載を基にして,被告人車両が時速5キロメートルで進行し前甲1記載の衝突地点で衝突したとした場合の,衝突の5秒前,4秒前,3秒前,2秒前の被告人車両の各位置を設定し,他方,被害車両の速度が時速10キロメートルと時速15キロメートルであったときについて,それぞれ衝突の5秒前,4秒前,3秒前,2秒前の被害車両の各位置を設定し,それぞれの時点にお 両の各位置を設定し,他方,被害車両の速度が時速10キロメートルと時速15キロメートルであったときについて,それぞれ衝突の5秒前,4秒前,3秒前,2秒前の被害車両の各位置を設定し,それぞれの時点における,被告人車両の位置に置いた実況見分に用いた車両からの被害車両の位置の見通し状況を見分したものである。 3 当裁判所としては,既に述べたとおり,被告人車両と被害車両との衝突地点及び被告人車両の進行経路は,前甲1記載の衝突地点及び進行経路ではなく,衝突地点については横断歩道上の幅員のほぼ中央付近,進行経路については,(A)道路の第1車線上に停止して,対面信号機の表示が青色信号に変わったためそのまま進行し左折をしたのであり,当時の被告人車両の速度は時速約5キロメートルで,被害車両の速度は少なくとも時速10キロメートルと認めるべきであると考える。そして,本件では,被告人車両の前部ではなく,左側後前輪が被害車両に衝突したのであるから,被告人が左折に当たって安全確認をするに際しては,前部に当たった場合よりは被害車両がより遠くにいたであろうとはいい得るものの(被害車両が本件交差点手前で一旦停止していないことは既に述べたとおりである。),より具体的に事故前の被告人車両と被害車両の位置や相互関係を直接明らかにする証拠は存しない(被告人と被害者は,いずれも衝突ないしその直前までは相手方車両の存在に気が付かなかったと述べているし,そうであれば当然ながら,各立会の前甲1,前甲2の各実況見分調書にも事故前の相手方車両の位置に関する指示は記載されていない。他の証拠にも触れられていない。)。すなわち,本件事故の予見可能性や結果回避可能性の検討に用いるべき適切な証拠が十分ではないのである(ちなみに,当裁判所の認定した衝突地点と被告人車両の進行経路は,衝突地点については前 れていない。)。すなわち,本件事故の予見可能性や結果回避可能性の検討に用いるべき適切な証拠が十分ではないのである(ちなみに,当裁判所の認定した衝突地点と被告人車両の進行経路は,衝突地点については前甲2における衝突地点にほぼ近い地点であり,被告人車両の進行経路については被告人の公判廷における供述内容と合致するものであるところ,当審第3回公判において,当事者双方は,当裁判所に対して,これ以上の立証をしない趣旨を明らかにしている。)。 しかし,更に取調べ済みの証拠により検討する。 衝突地点が横断歩道上の幅員の中央付近であるとすれば,前甲1での衝突地点である自転車横断帯上よりも被告人車両が更に本件交差点内を左折方向に進行した地点において被害車両と衝突したことになるのであるから,前甲1の衝突地点を基に被告人車両の衝突10秒前,5秒前,4秒前,3秒前,2秒前の位置であるとして設定した各地点は,それぞれ当裁判所が認定する衝突地点を基にした衝突の10秒前,5秒前,4秒前,3秒前,2秒前の被告人車両の位置よりも前の時点での被告人車両の位置であるということになり,したがって,前甲1を基に設定した各地点に被告人車両が位置していたときの被害車両の各位置は,前甲1を基にして導かれる被害車両の各位置よりも遠い(本件交差点よりも離れている)ということになる(例えば,後記のとおり,甲4では,衝突の5秒前の被告人車両の位置を「②-1」とし,時速10キロメートルと仮定した被害車両の位置を「(エ)」としているが,当裁判所の認定を前提にすれば,被告人車両が「②-1」の地点にいたのは衝突5秒前より更に前の時点であり,そのときの被害車両の位置は「(エ)」より本件交差点から離れている地点であったことになる。つまり,被告人車両が「②-1」の位置のときには,被害車両は 地点にいたのは衝突5秒前より更に前の時点であり,そのときの被害車両の位置は「(エ)」より本件交差点から離れている地点であったことになる。つまり,被告人車両が「②-1」の位置のときには,被害車両は「(エ)」より被告人車両から離れていたということである。)。 そうすると,前甲1を基にした被告人車両からの被害車両の視認状況を検討し,その場合に被害車両の視認が不可能又は困難であるというのであれば,本件衝突地点が横断歩道上の幅員の中央付近であった場合には,特段の事情のない限り,その視認はより一層不可能又は困難であった合理的疑いが残るということになる(もっとも,被告人車両の進行経路の認定も異なる以上,厳密には,そもそも甲1及び甲4の設定地点に被告人車両がなかったのではないかという問題があるが,既に述べたとおり,検討に用いるべき適切な証拠が十分ではない前提でのものであるから,その点は無視せざるを得ないし,本件交差点の状況や前甲1記載の被告人車両の進行経路と当裁判所の認定したそれとの差の程度を考慮すれば,衝突地点や被告人車両の進行経路についての当裁判所の認定を前提にした場合に被告人の過失を認定することに合理的疑いが残るか否かの判断に際しては,このような検討をして推しはかることにも意味があるというべきである。)。 4 甲1及び甲4に記載された視認状況(1) 甲1及び甲4によれば,衝突5秒前の時点で,被告人車両は②-1地点に,被害車両は(時速10キロメートルの場合。以下この段落内においては同じ。),衝突地点から13.5メートルの(エ)地点に,その1秒後(衝突4秒前)には,被告人車両は②-2地点に,被害車両は衝突地点から10.8メートルの(エ)-1地点に,その1秒後(衝突3秒前)には,被告人車両は②-3地点に,被害車両は衝突地点から8.1メート 後(衝突4秒前)には,被告人車両は②-2地点に,被害車両は衝突地点から10.8メートルの(エ)-1地点に,その1秒後(衝突3秒前)には,被告人車両は②-3地点に,被害車両は衝突地点から8.1メートルの(エ)-2地点に,その1秒後(衝突2秒前)には,被告人車両は②-4地点に,被害車両は衝突地点から5.4メートルの地点(エ)-3地点に,それぞれあったとされている(なお,甲1及び甲4においては,被害車両の速度が時速15キロメートルであった場合についても見分しているが,上記のとおり,被害車両の速度については少なくとも時速10キロメートルであったと認めるべきであり,被害車両の速度が時速15キロメートルであれば,各時点において,時速10キロメートルの場合よりも更に衝突地点から離れた位置にいることになり,被告人車両からの見通しが悪くなることから,時速10キロメートルの場合についてのみ取り上げる。)。 (2) そして,甲1及び甲4によっても,関係証拠から認められる現場の状況や被告人車両からの視界等に照らすと,衝突5秒前から衝突2秒前にあったとされる被告人車両の位置からは,そのときあったとされる位置の被害車両の存在を目視によって確認することが可能であったとは認められない。 他方,確かに,甲4記載の衝突4秒前以降に被告人車両があったとされる各地点では,見分車両のサイドアンダーミラーに,そのときあったとされている位置の仮想被害車両が映っていることは認められる。しかし,いずれの地点においても,仮想被害車両はサイドアンダーミラーにおいて極めて小さくしか映っておらず,このサイドアンダーミラーで仮想被害車両を確認することは相当困難である。しかも,甲4の実況見分が行われたのは午後1時15分から午後2時の間であり,本件事故時点よりはるかに明るく見通しが良い状 らず,このサイドアンダーミラーで仮想被害車両を確認することは相当困難である。しかも,甲4の実況見分が行われたのは午後1時15分から午後2時の間であり,本件事故時点よりはるかに明るく見通しが良い状況下で行われているのである。このように本件事故当時よりもはるかに明るく見通しがよい状況で行われた実況見分においても仮想被害車両を確認することが相当困難であることからすれば,本件事故発生日時(平成12年12月26日午後5時20分ころ)のように既に暗くなっている状況において(この点は,表現がやや異なるものの,被告人,被害者,Bの述べる趣旨が合致しており,経験則上も明らかである。),サイドアンダーミラーによって被害車両を確認するのは極めて困難で,ほぼ不可能に近かったというほかはない(なお,街灯等の照明により明るさが補充され確認が可能であったといった状況は本件証拠からは認められない。B証言中に街灯により人の区別がつかない暗さではないという部分があるが,視認可能なことを裏付けるものかどうか不明であるし,その状況下のBの目撃内容なるものに誤りがあることは既に指摘したとおりである。)。さらに,甲1及び甲4の実況見分時の使用車両のサイドアンダーミラーの向きは,その機能(前記のとおり,サイドアンダーミラーは,巻き込み事故を防止するため左側面下部を中心に確認するためのものである。)に照らせば,通常の場合よりもやや上向きに設定されており,そのために,より左後方の遠方まで視認できる状況になっていた可能性があり,その点を考慮すれば,サイドアンダーミラーが通常どおりの向きで設定されていれば(既に指摘したとおり,本件当時の被告人車両のこのミラーの状況を具体的客観的に明らかにする証拠はないが,被告人は,本件事故当時,被告人車両のこのミラーは通常どおりの向きで設定されていたと述 ていれば(既に指摘したとおり,本件当時の被告人車両のこのミラーの状況を具体的客観的に明らかにする証拠はないが,被告人は,本件事故当時,被告人車両のこのミラーは通常どおりの向きで設定されていたと述べている。),サイドアンダーミラーにより被害車両を確認することはより不可能であった疑いがあるのである。 5 衝突地点が横断歩道上の幅員のほぼ中央付近である場合の視認状況以上のとおり,甲1及び甲4からは,それぞれ記載の地点において被告人が被害車両を確認することが可能であったと合理的疑いを入れない程度に認められない。そして,衝突地点が当裁判所の認定どおりであるとすると,甲1及び甲4記載の被告人車両があったとして設定されている各地点に被告人車両があった時点においては,その内容よりも,更に被告人車両と被害車両の距離が離れていたのであり(被告人車両の進行経路の違いを考慮して厳密にいえば,離れていた可能性があり),それにもかかわらず被告人が被害車両を視認することができたと解すべき特段の事情は,関係証拠上窺えない。 更に,甲4記載の衝突2秒前の被告人車両の位置として設定された地点は,当裁判所の認定を前提にすれば,2秒より更に前の時点の地点ということになるが,当該横断歩道の幅員等を前提としたこの地点から本件横断歩道の幅員のほぼ中央部分までのおおよその距離(証拠中には明示されていないので概略を推測するしかない。)と被告人車両,被害車両の速度等を考慮すると,同地点から当裁判所の衝突地点とする地点まで進行する間に,目視あるいはサイドアンダーミラーによる視認が可能になることも証拠上窺えない(被告人車両の進行経路の違いを考慮した場合に,この点の結論が変わってくると認めるべき内容の証拠もない。)。 なお,念のために触れると,甲1においては,被告 が可能になることも証拠上窺えない(被告人車両の進行経路の違いを考慮した場合に,この点の結論が変わってくると認めるべき内容の証拠もない。)。 なお,念のために触れると,甲1においては,被告人が主張する衝突地点(横断歩道の北端付近)及び進行経路の場合を基にした被害車両の視認可能状況等についての実況見分も行われているところ,この点の実況見分については,前甲1に基づいて設定した被害車両の位置と,衝突地点を被告人が主張する横断歩道上北端付近として設定した被害車両の位置とを全く同じ位置として設定していることや,実況見分の内容についての記載が誤っていること(5項について,(1)から(6)が記載された(実はこの中に既に(2)が重複している。)後に(4)ないし(7)が記載されていて,(4)ないし(6)が重複しているばかりか,後に出てくる(4)と(5)で(ここが被告人の主張する衝突地点及び進行経路の場合の実況見分の方法を記載している部分である。)「前記(1)と同様にし」とか「前記(2)と同様に」としているところ,(1)と(2)に記載されているのは,実況見分調書に図面と写真を添付する旨と車両の運転者及び模擬被害者の氏名のみであるから,結局どこを指すのか分からないので,どのような見分をしたか判然としない。)などに照らしてその信用性,正確性には疑問がある上に,この点をひとまず措くとしても,やはりサイドアンダーミラーによる被害車両の視認は前甲1に基づく場合と同様に可能であるとは認められず,結局,上記結論は左右されない。 6 以上のとおりであるから,対面信号機の表示が青色信号に変わったため被告人車両を発車させ左折を開始してから被害車両と衝突するまでの間に,被告人が被害車両を発見することは,本件の証拠関係の下では,可能であったと合理的疑いを入れないまでには 示が青色信号に変わったため被告人車両を発車させ左折を開始してから被害車両と衝突するまでの間に,被告人が被害車両を発見することは,本件の証拠関係の下では,可能であったと合理的疑いを入れないまでには認められないとしかいい様がない。したがって,被告人に本件事故について予見可能性及び結果回避可能性があったとするには合理的な疑いが残るというべきである。 検察官は,道路交通法38条1項の趣旨に鑑みれば,被害者の発見が困難であったとしても,被害者が横断歩道に接近していたという事情があった以上,同項にいう「歩行者又は自転車がないことが明らかな場合」とは到底いえないのであるから,被害者の発見が困難であったことをもって被告人の過失が否定されるとはいえないと主張する。しかしながら,本件は業務上過失傷害罪に問われている事案であるから,道路交通法上の義務の内容を,その趣旨に鑑みるという形であっても,過失における注意義務の内容にそのまま取り込むことには疑問が残るし,本件では,被告人は被害者を見つけていないのであるから,歩行者等の姿が見え横断しようとしているのかどうかの判断が明確にできないといった場合ではなく,暗いとはいっても格別見通しを遮る物があったと認められるわけでもないといった状況であったのに(本件事故は12月(平成12年)の発生であるから,7月(平成15年)の様子が写っている甲1添付の写真より,1月(平成14年)の様子が写っている前甲14添付の写真に近かったと思われる。これによれば,街路樹等は格別見通しを遮るような状況ではない。前甲14も本件事故から1年以上後のものであるが,本件では,事故当時の見通し状況を明らかにした写真等はないし,見通しを遮る物の存在を積極的に推認させるような事情も証拠もない。),客観的に被害車両が本件交差点に近付いていたことの 後のものであるが,本件では,事故当時の見通し状況を明らかにした写真等はないし,見通しを遮る物の存在を積極的に推認させるような事情も証拠もない。),客観的に被害車両が本件交差点に近付いていたことの一事をもって,被告人の現場の状況に関する認識内容に関わらず,直ちに「歩行者又は自転車がないことが明らかな場合」には該当しないとすることにも同調できない。 なお,被告人車両は死角のある大型自動車であることから,その注意義務の程度も普通自動車に比して高度なものが要求されるとしても,交差点の直前で一旦停止して,助手席側に体を移動させるなどして確認すべき注意義務まで要求することは,信号機による交通整理がなされており,格別見通しを遮る物があったと認められるわけでもないといった状況であったことなどを考慮すれば運転者にとって酷であるといわざるを得ず,また,そのようにすれば被害者を発見できたことを適切に認められるような証拠もない。検察官自身,当審第3回公判において,これ以上の訴因変更はないと明言しているところでもある。 そうすると,結局,本件では,被告人に当審における訴因変更後の公訴事実記載の過失があると認めるには合理的な疑いが残る。 第4 結論したがって,本件公訴事実については,本件事故が被告人の過失によって惹起されたことについて,その証明がないことに帰するから,被害者が本件事故によって負ったとされる傷害の点について検討するまでもなく,刑事訴訟法336条により,被告人に対し,無罪の言い渡しをすべきである。 そこで,主文のとおり判決する。 平成15年12月25日東京地方裁判所刑事第11部裁判長裁判官合田悦三裁判官小林正樹 平成15年12月25日東京地方裁判所刑事第11部裁判長裁判官合田悦三裁判官小林正樹裁判官北村治樹は差支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官合田悦三
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