平成18(う)1897 傷害致死,傷害,岐阜県青少年健全育成条例違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成19年5月29日 東京高等裁判所 破棄自判 長野地方裁判所
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判決文本文11,354 文字)

- 1 -主文原判決を破棄する。 被告人を懲役1年10月に処する。 原審における未決勾留日数中258日をその刑に算入する。 平成17年8月15日付け起訴に係る傷害致死及び傷害の各事実については,被告人は無罪。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人松本和英作成名義の控訴趣意書に,これに対する答弁は,検察官高木和哉作成名義の答弁書に各記載されたとおりであるから,これらを引用する。 第1事実誤認の主張について論旨は,要するに,平成17年8月15日付け起訴に係る傷害致死及び傷害の公訴事実について,被告人は,A,Bらと暴行の共謀をしたことはなく,無罪であるから,被告人とA,Bらとの間で黙示の現場共謀が成立したとして,同公訴事実と概ね同旨の「罪となるべき事実」第3の傷害致死及び傷害の事実を認定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。 原判決の認定した事実原判決が認定した「罪となるべき事実」第3は,以下のとおりである。 「被告人は,第3指定暴力団甲一家乙組組員であるところ,平成17年3月18- 2 -日午前2時7分ころ,長野県飯田市a通りb丁目c番付近路上において,乙組組長が乗車中の乗用車が,対立する暴力団組織である指定暴力団丙組関係者に取り囲まれ,同組関係者が乗用車の窓越しに乙組組長に話しかけ,同組員Cが,丙組組員を殴打したことをきっかけとして,乙組関係者と丙組関係者との間で乱闘が始まった。 これを見た被告人は,指定暴力団甲一家丁組組員A,同Bらと暗黙のうちに丙組関係者に暴行を加えようとの意思を相通じ, D(当時23歳)に対し,所携のナイフ様の物で同人の右背部を突き刺すなどの暴行を加えて,同人に左眼窩上部切創,右肩甲下部刺創等の傷害を負わせ,よって,同日午前6時18分ころ,同市内のW病院に D(当時23歳)に対し,所携のナイフ様の物で同人の右背部を突き刺すなどの暴行を加えて,同人に左眼窩上部切創,右肩甲下部刺創等の傷害を負わせ,よって,同日午前6時18分ころ,同市内のW病院において,同人を出血性ショックにより死亡させ, E(当時37歳)に対し,所携のナイフ様の物で同人の左前胸部を突き刺し,ジャッキ等で同人の頭部を殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に全治約2週間を要する頭部創傷6か所及び左前胸部刺創の傷害を負わせ, F(当時24歳)に対し,所携のナイフ様の物で同人の左肩を突き刺すなどの暴行を加え,よって,同人に全治約2週間を要する背部刺創の傷害を負わせ, G(当時30歳)に対し,所携のナイフ様の物で同人の顔面を切り付けるなどの暴行を加え,よって,同人に全治約1週間を要する顔面切創の傷害を負わせた- 3 -ものである。」 関係証拠から明らかに認められる事実原判決挙示の関係各証拠及び当審で取り調べた証拠によれば,本件に至る経緯,本件犯行状況等として,以下の各事実を明らかに認めることができる。 (1)被告人,分離前の原審相被告人H及び同C(いずれも,前記起訴状により,原判示第3の各罪について被告人らと共謀したとして起訴され,併合審理されていた。)は,本件当時,いずれも岐阜県内を中心に活動していた指定暴力団甲一家乙組(組長I)の組員であり,被告人及びCは組長舎弟の立場にあり,Hは組長付きの務めを終えたばかりで,その任務を後任者に引継ぎ中の者であった。また,A及びBは,本件当時,いずれも指定暴力団甲一家丁組の組員で,Aはその若頭,BはAの舎弟であり,両名とも,丁組の拠点である長野県松本市ではなく,主に同県飯田市で活動していた。 他方,本件の被害者4名は,いずれも同県飯田市に長野県本部を置く指定暴力団 の組員で,Aはその若頭,BはAの舎弟であり,両名とも,丁組の拠点である長野県松本市ではなく,主に同県飯田市で活動していた。 他方,本件の被害者4名は,いずれも同県飯田市に長野県本部を置く指定暴力団丙組の組員であり,Eはその若頭補佐であった。 (2)丁組のA及びBは,数年前から飯田市内に活動拠点を移し,飯田市を縄張とする丙組と対立関係にあり,平成17年1月19日ころには,交通トラブルが原因で,本件傷害致死の被害者であるDの双子の兄である丙組関係者Jほか1名が,Aが経営するスナックの店長で丁組関係者であるKに因縁を付けたため,A及びBがJらに暴行を加え,これに対する報復として,Eが,金属バット,鉄パイプ,警棒等を携えた配下の組員十数名と共に,Aが当時住んでいたマンションを襲撃し,A及びBの両名に重傷を負わ- 4 -せる事件があった。もっとも,この事件については,両組織の間でいわゆる手打ちがなされていた。 (3)本件の前日である同年3月17日,乙組のI組長はじめ,被告人,C,Hら十数名は,I組長の静養と組員の慰労等のために飯田市方面に赴いた。Bが飯田インターでI組長らを出迎え,その後,Aら飯田市の甲一家関係者らも合流して,宿泊先であるX温泉のホテルで宴会を行った。宴会後,さらに酒を飲むなどするため,I組長以下十数名が数台の車に分乗して飯田市内に出た。同人らは,まずスナック「Y」で飲酒した。 (4)I組長らは,次いで,翌18日午前零時ころ,丙組関係者が面倒を見ている店であるナイトパブ「Z」に入店し,同店で飲酒を始めた。他方,I組長らがZで飲んでいることを知った丙組関係者は,配下の組員らに動員をかけ,E,D,J,L,Mら丙組関係者多数が飯田市a通り付近に集まった。 同日午前1時30分ころ,Eは,配下の者数名と共にZに赴き,被告人に対し,Z いることを知った丙組関係者は,配下の組員らに動員をかけ,E,D,J,L,Mら丙組関係者多数が飯田市a通り付近に集まった。 同日午前1時30分ころ,Eは,配下の者数名と共にZに赴き,被告人に対し,Zは丙組の相談役が面倒を見ている店なので出入りしてもらっては困る,などと言った。これに対して被告人は,慰安旅行を兼ねて遊びに来ただけで,おとなしく飲んで帰るから,今日だけは飲ませてくれなどと言い,Eは,今日だけはいいが,今後は入らないようにしてくれと言うなどのやりとりがあった。 (5)I組長らは,同日午前2時ころ同店を出て,4台の自動車に分乗して宿泊先のホテルに向かった。A及びBは,Kが運転する先頭車両(ウィンダム)に乗った。I組長は,2台目(もしくは3台目)のベンツの後部座席に乗り,その助手席にHが乗っていた。被告人及びCは,3台目(もしくは- 5 -2台目)のリンカーンの後部座席に乗っていた。同日午前2時7分ころ,上記各車両は,本件現場東側のスクランブル交差点付近で赤信号のために停車したが,そのとき,丙組組員多数が現れ,上記ベンツに駆け寄ってその左側を取り囲み,これを見た被告人,C,H,A,Bら甲一家側の者も,それぞれ,乗っていた車から降りて,丙組組員とベンツの間に割って入るようにして集まった。 (6)I組長は取り囲んできた丙組組員らに対して怒鳴って車から降りようとしたが,甲一家側の者が後部ドアを押さえて同組長を降ろさないようにした。Eは車内のI組長に話しかけるとともに,丙組組員を制止し,付近の店に入っていろと指示するなどした。また,Cが,丙組のMの態度が悪いとして,同人の胸倉を掴むなどしたので,被告人は「やめろ」と言って両名の間に入ってCを止め,他方でLがMを羽交い締めにして押さえるなどした。 (7)しかし,Cは更にMの顔面を裏 組のMの態度が悪いとして,同人の胸倉を掴むなどしたので,被告人は「やめろ」と言って両名の間に入ってCを止め,他方でLがMを羽交い締めにして押さえるなどした。 (7)しかし,Cは更にMの顔面を裏拳で殴り,被告人はこれに対しても「やめろ」と言って制止したけれども,これを切っ掛けとして,双方が入り乱れての乱闘となった。その乱闘の最中,Aは乱闘の輪の中に入っていき,ナイフ様の物で,Eの左胸部を突き刺すなどし(原判示第3の2),Fの左肩を突き刺すなどし(原判示第3の3),Gの顔面を切り付けるなどし(原判示第3の4),Dの左眼窩部を切り付け,背部右肩甲下部を突き刺すなどした(原判示第3の1)。Bは,ジャッキ様の物を頭上に持ち上げて乱闘の輪の中に入っていき,そのジャッキ様の物で,Eの頭部等を殴打した(原判示第3の2)。 - 6 -Dは,Aによる上記攻撃を受けて左眼窩上部切創,右肩甲下部刺創等の傷害を負い,それが原因となって,出血性ショックにより死亡した。 (8)また,本件乱闘後,被告人は,丙組のLらの乗車する自動車に乗り込んでEらの収容された病院に赴いたが,その車中で,Lらに対して「あんちゃん,悪かったね。酒,飲んでもいいけれど,喧嘩するために来たんじゃないのに。おれも止めに入ったのに,あの子はさっきまでちゃんと立っていたのにな」などと話しかけ,また,上記病院に到着した後は,Eが収容された救急センターの処置室に入ってその治療を見守り,Eと話をするなどしていた(Lの当審公判供述等)。 争点及び当裁判所の判断以上のとおり,被告人は,乱闘が始まるまで,乙組関係者らが暴力沙汰に及ぶのを制止し,乱闘後にも丙組関係者の受傷者を心配する言動を見せていることが認められるし,捜査段階以来,一貫して,自らは,乱闘が始まってからも,乱闘の輪の中に入って喧嘩 ,乙組関係者らが暴力沙汰に及ぶのを制止し,乱闘後にも丙組関係者の受傷者を心配する言動を見せていることが認められるし,捜査段階以来,一貫して,自らは,乱闘が始まってからも,乱闘の輪の中に入って喧嘩を制止したり,Eにも喧嘩を止めるよう申し入れたり,Dが深手を負って倒れているのを見て丙組の者にタオルを持ってこいとか救急車を呼べとかと指示したり,Eが怪我をしてうずくまっているのを見て大丈夫かと声を掛け丙組の者におしぼりを取ってこいと指示したりしており,Aらと暴行の共謀をしたことはなく,自らが丙組の者に対して暴力を振るったこともない旨供述しているが,他方,Zのホステスをしていて,本件当日,被告人らを接待したNは,捜査段階において,本件乱闘を目撃した際,被告人がスキンヘッドのEの頭部を車のルームミラー様の平たく細長い物で2回くらい殴るのを見た旨供述してお- 7 -り,またLは,当審公判等において,乱闘が始まるまでは被告人が乙組関係者を制止していたが,双方が入り乱れての乱闘になった後は喧嘩を止めている者を自分は目撃していないと供述している。 検察官は,暴力団組織乙組の一員である被告人としては,仮に不本意であっても,乱闘が生じた場合には,組長や同組関係者を守り,組の威信を維持するために,他の乙組関係者と一体となって丙組関係者に対抗せざるを得ないのであって,乱闘が始まったという条件が成就した以上,それと同時に,被告人が他の乙組関係者と一体となって丙組関係者に対して暴力を含めた行為で対抗するという内容の共謀が成立したことを認めることができる旨主張するのである。 なるほど,暴力団組織に属する者特有の発想や行動様式を考えると,二つの暴力団の組員間の乱闘事件では,乱闘が始まった以上,それと同時に,それぞれの組の組員の間に一体となって相手方と暴力等で対抗す る。 なるほど,暴力団組織に属する者特有の発想や行動様式を考えると,二つの暴力団の組員間の乱闘事件では,乱闘が始まった以上,それと同時に,それぞれの組の組員の間に一体となって相手方と暴力等で対抗するとの共謀が形成されたとの事実上の推定をしてよい場合も多かろうと思われる。 また,本件で,仮にNの供述するように被告人がEに対して暴行を加えているとの事実が存するのであれば(なお,E以外の丙組関係者に対して被告人が暴行に及んだことを具体的に窺わせるような証拠は存しない。ちなみに,Lは,乱闘が始まった後被告人が何をしていたかは分からないなどと供述している。),上記の推定は極めて強力に働くことはいうまでもない。 しかしながら,本件では,被告人は乱闘が始まるまでこれを制止しているとの事実が認められるばかりでなく,事後にもEに暴行を加えた者あるいは共謀の上乱闘した者にはそぐわないような言動を示していることも認- 8 -められ,そのことを考えると,直ちには上記のような事実上の推定をすることはできないし,そのような被告人の乱闘前後の言動をも踏まえて,Nの供述の信用性を詳細に検討してみると,同女が被告人を他の者と見誤っていた(記銘の誤りを含む趣旨で「見誤る」という語を用いる。)可能性が否定できないのであって,これらからすると,被告人について暗黙の現場共謀を認定するには合理的疑いが残るというほかないのである。以下,この点を補足して説明する。 (1)被告人の乱闘前後の言動について前記のように,被告人は,Zの店外でEと話した際も丙組との摩擦を避けようとしていたし,本件乱闘前にCがMの胸倉を掴んだ際,及び裏拳で同人を殴った際にもこれを制止しており,少なくとも乱闘が始まる時点においては,これを避けようと努めていたことが明らかである。 また,被告人は,本件乱闘後, 件乱闘前にCがMの胸倉を掴んだ際,及び裏拳で同人を殴った際にもこれを制止しており,少なくとも乱闘が始まる時点においては,これを避けようと努めていたことが明らかである。 また,被告人は,本件乱闘後,丙組関係者の自動車に乗って病院に赴き,その車中で受傷した丙組関係者を心配する言動をしているほか,病院においてもEの処置室に入り,Eと話をするなどしている。加えて,乙組側の関係者ではあるが,前記Kは,Eが現場で両肩辺りに血を流していて,丙組関係者が首の辺りにタオルを当てて介抱しているときに,その場にいた被告人が誰かにタオルを持ってくるように言っていたと供述している(当審弁10の同人の平成17年8月3日付け検察官調書,同人の原審公判供述)ところ,これが虚偽であるとみるべき証拠はない(むしろ,同人が,被告人よりも近い関係にあるAやBの乱闘中の行動についてすら,同人らに有利か不利かを問わず,誠実に供述していることなどを考えると,この供述の- 9 -信用性は高いというべきである。なお,これが信用できるということは,被告人の捜査段階から一貫して述べている,乱闘開始後それが終息するころまでの間における自己の行動に関する弁解の一部が裏付けられたことを同時に意味するのであって,この弁解が単なる罪責逃れのためのものであるとして一蹴すれば足りるようなものではないことを気付かせるのである。 Lは,前記のとおり,双方が入り乱れての乱闘になった後は喧嘩を止めている者を目撃していない,乱闘開始後被告人が何をしていたかは分からないなどと供述するが,上述のように,乱闘開始後それが終息するころまでの間における自己の行動に関する被告人の弁解の一部が信用できる証拠により裏付けられたことを考えると,Lがこのように供述しているからといって,被告人が乱闘開始後喧嘩を制止する行動を取っ 息するころまでの間における自己の行動に関する被告人の弁解の一部が信用できる証拠により裏付けられたことを考えると,Lがこのように供述しているからといって,被告人が乱闘開始後喧嘩を制止する行動を取ったことはないと断じることはにわかにできないし,また被告人が乱闘開始後自らも乱闘に加わったと考える余地が多分にあると推測することもできないというべきである。)。被告人のこれらの言動は,自らEに暴力を振るった者あるいは共謀の上乱闘した者のそれとしてはそぐわない感を否めない。しかも,被告人が病院の処置室に入ってEと話をしていることなどからすると,Eはじめ丙組関係者にも,被告人がEに対して暴力を振るったとの認識がなかったことが窺われるのである。 検察官は,被告人の事後の言動について,傷害事件を起こした者が,その直後に犯行を悔悟し,被害者を気遣って傷の手当てをしたり,病院に行って被害者の様子を見たりすることは珍しいことではなく,そのような事情は被告人がEに暴行を加えたことあるいは共謀の上乱闘したことがなか- 10 -ったことを裏付けるものとはいえないし,相手方に多数の負傷者を出してしまった乙組としては,Eらの負傷の程度を見極め,丙組が警察に被害申告をしないように見張って事態の収拾を図ろうとしたことも考えられると主張する。しかし,被告人がそのような意図で前記言動に及んだということを的確に裏付ける証拠はないのみならず,乱闘状態の中であるとはいえ,被告人がEの頭部を殴ったのであれば,Eあるいは他の丙組の関係者がこれに気付いてよさそうであるのに,前記のとおり,Eら丙組関係者は被告人がEに暴力を加えたとの認識を持っていなかったと窺われることなどからすると,検察官の上記主張は証拠上の根拠が薄弱であって,説得性が十分でないといわなければならない。 これらにかん 丙組関係者は被告人がEに暴力を加えたとの認識を持っていなかったと窺われることなどからすると,検察官の上記主張は証拠上の根拠が薄弱であって,説得性が十分でないといわなければならない。 これらにかんがみると,本件乱闘が乙組関係者と丙組関係者との間で開始され,被告人が乙組関係者の1人であったからといって,そのことから被告人について直ちに上述のような事実上の推定は働かないというべきである。 (2)N供述の信用性について被告人は,Eの頭部を殴ったことを否定しているところ,被告人が現にEに暴力を振るっていたことについての直接的証拠は上記N供述しかない。 ところで,前述したところからすると,Nの前記供述の信用性については慎重な検討を要するというべきである。 そこで,まずNの目撃状況についてみると,夜間ではあるものの街灯による照明等があって視認は十分可能であったとはいえ,同女は,12ないし13メートル離れた地点にあるシャッターの下りた建物の柱の陰から犯- 11 -行現場を見ていたというのであり,かつ,視認の対象者も多数であったのであるから,一般的にはその目撃状況ないし人物識別状況が良好であったとはいえない。 また,警察官作成の電話聴取書謄本(原審甲3),捜査報告書謄本(当審検8)等によれば,本件当日の午前2時7分ころ,飯田警察署に「スクランブル交差点付近で男数名が騒いでいて今にも喧嘩になりそうです」との匿名の電話による通報があり,同署の警察官がパトロールカーで急行し,午前2時10分ころスクランブル交差点手前に到着したところ,既に他のパトロールカーも到着しており,更に交差点を右折して現場に赴いたところ,現場にDが倒れていたというのであり,既にこの時点では乱闘は終息していたものと考えられるから,本件乱闘は時間的に3分程度のものであったと推測される しており,更に交差点を右折して現場に赴いたところ,現場にDが倒れていたというのであり,既にこの時点では乱闘は終息していたものと考えられるから,本件乱闘は時間的に3分程度のものであったと推測されるところ,この間,現場にいた双方の暴力団関係者(乙組関係者十数名,丙組関係者十数名)が入り乱れ,二,三人ずつの固まりになって喧嘩をしていたのであって,あちこちで様々なことがごく短時間内に凝縮して起こっているという状況に照らすと,当時の具体的な目撃状況,人物の識別状況も良好であったとはいえない。 なお,現場からはルームミラー様の物ないしその破片等も発見されておらず,当時の被告人らの乗っていた自動車のルームミラーが破損していたことも窺えない。 その上,本件乱闘の状況をみると,Nが被告人の行動と見誤った可能性のある他人の行動が現にあったことも指摘できる。すなわち,Nは,平成17年3月25日付け警察官調書(当審検7)では,E(スキンヘッドの- 12 -男)は,「駐車してあった車から出てきた」被告人に,ルームミラー様の物で殴られたと供述し(なお,同年7月28日付け検察官調書(当審検10)でも,E(スキンヘッドの男)を殴った被告人は,「止まっていた何台かの車の方から出てきた」と供述している。),他方,自動車(リンカーン)のトランクからジャッキを持ち出してEの頭部を殴打しているBは,持ち出す際,「ドアのところにボタンがあって,それでトランクを開けた」旨供述している(当審検3の同人の公判における被告人供述調書謄本)ところ,このNの供述における被告人の動きとBの供述する同人の行動とを対比すると,両者の間には類似している点がかなりあるのであって,これからして,Nの供述における被告人の動きは,Bの行動を見誤ったとの想定も十分成立するのである。 検察官は,この点に る同人の行動とを対比すると,両者の間には類似している点がかなりあるのであって,これからして,Nの供述における被告人の動きは,Bの行動を見誤ったとの想定も十分成立するのである。 検察官は,この点について,当時被告人は青色の作務衣を着ており,Bは柄シャツとジーパンという服装だったのであるから,両名を見誤る可能性はないというのであるが,総勢二十数名が入り乱れて乱闘状態となっていることを考えれば,両名の服装が違っているからといって,Nが両名を見誤らないとはいえないと考えられる。 以上にみたところによれば,Nの供述中,被告人について述べている部分についてはその信用性が高いとはいえず,このことと既に述べたように被告人がEに対して暴力を振るった者にはそぐわない言動をしていることなどを考え併せると,被告人がEの頭部を殴打したとの事実を認めるには合理的疑いが残るというべきである。 そして,被告人の具体的な暴行が認定できないことをも踏まえて検討す- 13 -ると,本件乱闘が前記のような短時間のものであって,事前に計画されていたものであることが窺えないことや,被告人が乱闘前後に既述のような言動を行っていること等からして,共謀を否認する被告人の弁解の信用性を否定し去ることはできないというべきであり,被告人がAらと丙組関係者に対して暴行を加える旨暗黙のうちに意思を相通じたと認定するには合理的疑いが残るというほかない。 結論 以上によれば,被告人について原判示第3の各罪(平成17年8月15日付け起訴に係る傷害致死及び傷害)を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるといわなければならない。 論旨は理由があり,原判決は破棄を免れないが,原判決は第3の各罪とその余の第1及び第2の罪とを併合罪として一個の刑を科しているので,結局全部を破 とが明らかな事実の誤認があるといわなければならない。 論旨は理由があり,原判決は破棄を免れないが,原判決は第3の各罪とその余の第1及び第2の罪とを併合罪として一個の刑を科しているので,結局全部を破棄すべきことになる。 そこで,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,当裁判所において更に次のとおり判決する。 第2自判(罪となるべき事実)原判示第1及び第2の事実と同一であるから,これを引用する。 (証拠の標目)原判示第1及び第2の事実について挙示された証拠の標目と同一であるから,これを引用する。 (累犯前科)- 14 -原判決に摘示されたものと同一であるから,これを引用する。 (法令の適用)原判示第1及び第2の各所為に原判決挙示の関係法令を適用し(刑種の選択,累犯加重の処理を含む。),以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い原判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年10月に処し,同法21条を適用して原審における未決勾留日数中258日をその刑に算入することとする(被告人は原審において当審で無罪とされることとなった平成17年8月15日付け起訴状記載の公訴事実(傷害致死及び傷害,原判示第3)により勾留されており,これと併合して審理された同年10月21日付け起訴状記載の公訴事実(岐阜県青少年健全育成条例(以下単に「育成条例」という。)違反,原判示第2),平成18年1月10日付け起訴状記載の公訴事実(育成条例違反,原判示第1)によっては勾留されていなかったのであるが,各育成条例違反の事実についても勾留の要件が存在することは明らかであったのに,原判決宣告まで各育成条例違反の事実で勾留されることがなかったのは,先行して起訴された傷害致死及び傷害の かったのであるが,各育成条例違反の事実についても勾留の要件が存在することは明らかであったのに,原判決宣告まで各育成条例違反の事実で勾留されることがなかったのは,先行して起訴された傷害致死及び傷害の事実によって被告人が勾留されその身柄拘束が継続していたため,各育成条例違反の事実で重ねて勾留するまでの必要がなかったからである。勾留されている事実に追起訴された勾留要件はあるが勾留されていない事実が弁論併合されて審理されてきた場合において,勾留事実について無罪が宣告されるときは,勾留事実による未決勾留日数を,非勾留事実によって宣告される刑に裁量算入することが許されるが,この裁量算入の対象となし得- 15 -る勾留事実による未決勾留の期間については,裁量算入が許される根拠が,勾留事実による勾留によって被告人の身柄が適法に拘束された結果としてその事実上の効果が非勾留事実に及んでいたことにあると解されること(最高裁判所昭和30年12月26日第三小法廷判決・刑集9巻14号2996頁参照)にかんがみれば,この事実上の効果が及んでいた間であると解するのが相当であるところ,この事実上の効果は,弁論併合の時点に至って初めて非勾留事実に及ぶものではなく(ちなみに,本件で,傷害致死及び傷害の事実に最初の追起訴にかかる育成条例違反の事実が弁論併合されたのは平成18年1月6日である。),本件の場合が現にそうであるように,既に非勾留事実が追起訴された時点から及ぶのであるから,追起訴時点から判決前日に至るまでの間(判決当日の未決勾留は法定通算の対象になると解される。)が上記対象期間ということになる。本件の場合でみると,最初の育成条例違反の事実による追起訴日平成17年10月21日から原判決宣告の前日平成18年7月5日までが上記対象期間ということになり,この間の未決 記対象期間ということになる。本件の場合でみると,最初の育成条例違反の事実による追起訴日平成17年10月21日から原判決宣告の前日平成18年7月5日までが上記対象期間ということになり,この間の未決勾留日数258日についてその全部又は一部を各育成条例の事実による刑に裁量により算入することができることになる。)。 (なお,原審及び当審における訴訟費用で原判示第1,第2の事実の審理に関して生じたものはなく,そのすべてが原判示第3の各事実(平成17年8月15日付け起訴状記載の公訴事実)の審理の関して生じたものであるから,被告人に負担させることのできる訴訟費用はないことになる。)(一部無罪の理由)- 16 -平成17年8月15日付け起訴状記載の公訴事実は,第1の1に摘示した原判示第3の各事実と概ね同旨であるところ,前記のとおり,これらの事実については,犯罪の証明がないことに帰するから,刑訴法336条後段により被告人に対し無罪の言渡しをすることとする。 よって,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官須田賢裁判官小西秀宣裁判官秋吉淳一郎)

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