平成13(ワ)1821 トヨタ車体退職金請求

裁判年月日・裁判所
平成15年9月30日 名古屋地方裁判所
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判決文本文22,930 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は原告に対し、2900万6000円及びこれに対する平成13年2月13日から支払済まで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、原告が、下記1(1)②の雇用関係に基づき、後示2(1)①の定年退職を主張して、被告に退職金の支払を求める事案である。 1 争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実(1) 当事者・関係者(ただし、原告の下記③の会社への関与の程度に争いがある)① 被告は、車両組立を主たる目的とする会社であり、トヨタ自動車株式会社から車体製造や設計・デザインの企画を受託している。 ② 原告(昭和16年M月N日生)は、昭和34年3月11日、被告に入社して、下記(3)のとおり主にデザイナーとして勤務していた者である。 ③ 有限会社テーシーエス(以下TCSという)は、工業デザインに関する企画・設計・モデル制作・コンサルタント業や、これに関する実務教育のための学習教室の運営を主たる目的とする会社である。原告は、平成4年12月7日同社を設立して、その代表取締役を務めている(乙3)。 ④ 株式会社A木型製作所は、鋳造用木型や各種樹脂型の製造を主たる目的とする会社であり、Aは、その代表取締役である(乙7)。 ⑤ 株式会社天白試作(上記A木型と一括して、以下A木型らという)は、合成樹脂の成形・加工を主たる目的とする会社であり、Bは、その代表取締役、Cは、取締役(元の代表取締役)である(乙12)。 (2) 被告の組織及びA木型らとの取引関係(ただし、下記①②の組織内における原告の影響力の有無や、同③のA木型らとの取引の経過に争いがある)① 被告には、デザイン部、購買部、試作部等があり、デザイン部には、デザイナーグループとモデル造形室があっ 、下記①②の組織内における原告の影響力の有無や、同③のA木型らとの取引の経過に争いがある)① 被告には、デザイン部、購買部、試作部等があり、デザイン部には、デザイナーグループとモデル造形室があって、自動車車体・部品のデザインやモデル制作を担当しており、前者には、部長以下、主査(部長・次長職)、主担当員(課長職)、担当員(係長職)、通常の従業員がいる(甲30)。 ② また、(a)デザイン部のモデル造形室では、モデル制作と、これを内製するか、その全部又は一部を外注するかの決定を、(b)購買部では、上記外注の実施をそれぞれ担当している(甲30、乙20、証人D、原告本人)。 ③ A木型は、昭和40年代から、天白試作は、平成4年から、被告の外注する上記②の木型の制作等を請け負っている(以下一括して又は各社の取引を、本件被告取引という。乙19、21、22、25)。 (3) 原告の経歴等① 原告は、主にデザイン部の上記(2)①のデザイナーグループに属しており、昭和59年2月係長職、平成2年2月課長職に昇格して、下記(7)当時、同部主担当員(課長職)の地位にあった。また、原告は、下記(10)の内規3条1号所定の平成12年3月31日以前から、同2条の基幹職だった(乙18)。 ② この間、原告は、(a)昭和61年頃から平成2年頃にかけて、トヨタ自動車の「エスティマ」の外形デザインを担当したことがあり、一方、(b)平成6年2月頃から約1年間、デザイン部を離れて、製品企画室に在籍していた(乙20、証人D・E、原告本人)。 (4) TCSの営業活動(ただし、下記以外の天白試作との取引に争いがある)同社は、株式会社小糸製作所等から、デザイン企画等の業務を請け負って、その名義で代金を受領していた(甲8ないし11、14、26)。 (5) 原告によるデザインスクール設立等 試作との取引に争いがある)同社は、株式会社小糸製作所等から、デザイン企画等の業務を請け負って、その名義で代金を受領していた(甲8ないし11、14、26)。 (5) 原告によるデザインスクール設立等(ただし、その詳細に争いがある)原告は、トータルクリエイティブスクールの名称でデザインスクール(以下本件デザインスクールという)を開設し、平成5年4月から生徒を募集して、平成9年3月まで継続していた(甲7の1・2、18ないし23、31)。 (6) A木型らの金員支払(ただし、この金員の実質的な受領者及びその趣旨、並びに下記②の天白試作の正確な支払総額につき争いがある)① A木型は、平成7年5月から平成11年4月にかけて、毎月各25万円ずつ、合計1200万円(以下本件金員Ⅰという)を、コンサルタント料の名目で支払い、これに関し、TCS名義の請求書等が発行されている。 ② 天白試作は、平成7年5月から平成10年6月にかけて、少なくとも合計638万8777円(うち平成9年3月から平成10年6月までは毎月20万円ずつ)を支払い、これに関し、TCS名義の請求書等が発行されている(以下この関係で授受された金員を本件金員Ⅱという)。 (7) 被告の懲戒解雇の意思表示(ただし、その効力に争いがある)被告は、平成12年12月6日原告に対し、下記(11)の規則66条13号該当を理由として、同日限り懲戒解雇する旨の意思表示(以下本件懲戒解雇という)をし、退職金全額を支払わない旨通知した。 (8) 原告の給与及び退職金支給率等① (a)下記(10)の内規3条1項所定の平成12年3月31日当時の旧賃金体系による原告の基本給(役付給、家族手当を除く)は、55万6980円(月額。以下同じ)であり、同年4月1日には2500円の昇給があって、同55万9480円となった(乙17、 3月31日当時の旧賃金体系による原告の基本給(役付給、家族手当を除く)は、55万6980円(月額。以下同じ)であり、同年4月1日には2500円の昇給があって、同55万9480円となった(乙17、18)。一方、(b)上記(7)当時の原告の基本給(役付給、家族手当を含む)は、62万7830円である。 ② また、原告が満60歳に達した後の下記(11)の規則43条ないし同(9)の規定13条所定の定年退職相当日における下記(9)の規定3条ないし同(10)の内規4条所定の退職金算定上の支給率は、いずれも41.2である。 (9) 被告の退職手当規定同規定(甲4、乙15。以下本件規定という)には、要旨、以下の内容の規定がある(以下(11)までの諸規定は、本件に直接関係ない部分を省略する)。 「3条(退職金の計算)退職金は、退職時の基本給を退職金基礎額とし、これに別表の支給率を乗じて算出する。ただし、満55歳以降の基幹職の者の計算は、別に定める。 5条(特別加算)1項会社が次の各号の一つに該当すると認めたときは、退職金に特別加算する。 (2) 勤続年数が30年を超えたとき。 2項5条1項2号の場合は、原則として、退職金基礎額に次の係数を乗じたものを特別加算する。 (5) 勤続年数が39年以上のとき56条(支給制限)懲戒解雇された者に対しては、退職金を支給しない。 9条(退職金の支給)退職金は、原則として退職日から30日以内に通貨により支払う。 13条(定年退職者の退職月日)定年退職者については、定年に達する当該年月の末日を退社日とする。 14条(端数の取扱)この規定に定める計算における端数の取扱は、次の各号による。 (2) 退職金の1000円未満の端数は、1000円に切り上げる。」(10) 被告の退職金算定に関する内規被告は、平成12年4月1日、基幹職の賃 に定める計算における端数の取扱は、次の各号による。 (2) 退職金の1000円未満の端数は、1000円に切り上げる。」(10) 被告の退職金算定に関する内規被告は、平成12年4月1日、基幹職の賃金制度を改定して本件規定3条の退職金基礎額となる基本給の範囲を変更し、同年6月1日、「満55歳以降の基幹職の退職金算定に関する内規」(乙16。以下本件内規という)を制定したが(乙17、弁論の全趣旨)、これには、要旨、以下の内容の規定がある。 「2条(対象者)この内規でいう基幹職の者とは、満55歳以降で職級が基幹職4-B以上の者をいう。 3条(退職金基礎額)基幹職の退職金基礎額は、次のとおり定める。 (1) 平成12年3月31日時点で基幹職であった者平成12年3月31日時点の旧賃金体系での基本給に、退職までの期間の毎年4月1日実施の昇給額及び昇格時の昇給額を加算したものとする。 4条(退職金の計算)基幹職の退職金は、原則として退職時の退職金基礎額に退職時の勤続年数に基づく支給率を乗じて算出する。」(11) 被告の就業規則同規則(乙1。以下本件規則という)には、要旨、以下の内容の規定がある。 「43条(定年退職)社員の定年退職は、満60歳とする。 65条(懲戒の種類及び方法)懲戒は、譴責、減給、出勤停止、昇給一時延期、降職、解任、降格、昇給停止、諭旨退社、懲戒解雇の10種とし、その一つ又は二つ以上を科す。 (10) 懲戒解雇は、予告期間を設けないで解雇する。 66条(懲戒事由)社員が、次の各号の一に該当する場合は懲戒に処す。 (13) 業務に関し、みだりに金品その他を受け取り、又は与えたとき。」 2 争点本件の主な争点は、(a)本件懲戒解雇事由の存否(下記(2)③。抗弁)と、(b)これが退職金の不支給を相当とするだけの内容か否か(下記(1)⑦、同(2)⑥) 他を受け取り、又は与えたとき。」 2 争点本件の主な争点は、(a)本件懲戒解雇事由の存否(下記(2)③。抗弁)と、(b)これが退職金の不支給を相当とするだけの内容か否か(下記(1)⑦、同(2)⑥)であり、更に、(c)本件懲戒解雇の手続的違法(下記(1)⑧。再抗弁)も問題になっている。 (1) 原告の主張① 原告は、前示1(1)②のとおり、昭和34年3月11日被告に入社し、本件規則43条所定のとおり、満60歳に到達した平成13年1月13日に定年退職したから、本件規定による退職金請求権がある。 ② (ア)本件規定3条所定の退職金基礎額である前示1(8)①(b)の基本給62万7830円と、同②の支給率41.2に基づく本件規定3条所定の退職金は、2586万6596円、(イ)上記基本給と、本件規定5条2項5号の係数5に基づく本件規定5条1項2号所定の特別加算は、313万9150円であるから、両者を合計し、本件規定14条2号の端数処理をした後の退職金額は、2900万6000円となる。 ③ よって、原告は被告に対し、同額及び本件規定9条所定の支払期日(退職日から30日以内の日)の翌日である平成13年2月13日以降の商事法定利率による遅延損害金の支払を求める。 ④ 後示(2)③の事実は、以下のとおり否認ないし争う。 ア本件金員Ⅰ、Ⅱは、下記⑤⑥のとおり、TCSが本件デザインスクールへの資金援助ないし正当な営業活動の対価として受領したものであって、脅迫や架空の請求書等によるものではないし、原告が収受したものでもないから、本件規則66条13号の懲戒事由には該当しない。 イ被告のデザイン部には、前示1(2)①②のとおりデザイナーグループとモデル造形室があり、外注の決定は、モデル造形室課長の判断がデザイン部部長に伝えられて、順次試作部、購買部を経て実施される い。 イ被告のデザイン部には、前示1(2)①②のとおりデザイナーグループとモデル造形室があり、外注の決定は、モデル造形室課長の判断がデザイン部部長に伝えられて、順次試作部、購買部を経て実施されるところ、原告は、(ア)上記デザイングループに属し、外注に関する権限を有しておらず、また、(イ)平成3年12月、上司の更迭を社長に直訴したため、前示1(3)②(b)のとおり製品企画室に左遷され、デザイン部復帰後も閑職にあって、外注に影響を与えるのも不可能な立場にあったから、本件被告取引の継続を条件にA木型らに圧力を加える余地はないし、その事実もなかった。 ウ TCSは、周囲の勧めもあり、下記⑤アのとおり本件デザインスクール開設のため、原告の兄で、美術・デザインの教師だったFとともに設立したものであるが、(a)原告自身は、名目的な代表取締役にすぎず、兄をアドバイスする立場に終始しており、また、(b)同社には、多数の実務デザイナーが所属して、前示1(4)のとおり小糸製作所等から業務を受注し、複数の被告社員も本件デザインスクールの運営に参画しているのであって、金員収受の隠れ蓑のためのペーパーカンパニーなどではない。その活動は、被告にも公知だったが、一切問題視されてこなかった。 エ本件は、(a)被告に取引を打ち切られた天白試作が、これを原告の差し金と邪推して、脅迫されたとか、A木型と癒着していると告発したところ、(b)A木型が、保身を図るため、原告に脅迫されたと告発したというのが真相であり、原告は、G副社長の退任により、庇護する者がいなくなって、違法に本件懲戒解雇されたのである。 ⑤ 本件金員Ⅰは、以下のとおり、TCSがA木型から本件デザインスクールへの資金援助として受領したものである。 ア原告は、平成元年頃、肝臓癌の疑で生死の境をさまよう一方、遺産相 雇されたのである。 ⑤ 本件金員Ⅰは、以下のとおり、TCSがA木型から本件デザインスクールへの資金援助として受領したものである。 ア原告は、平成元年頃、肝臓癌の疑で生死の境をさまよう一方、遺産相続で資金的余裕ができたため、デザイン教育への従事を希望するようになり、エスティマのデザインを通じて知り合った知人らと、実務デザイナーによる小人数教育を目的とする本件デザインスクールを開設した。A木型は、当初からその設立運営に協力していたが、同スクールの経営状況が芳しくないため、平成7年2月、原告がA社長に依頼したところ、その理念に共鳴して、同年5月以降、本件金員Ⅰを援助してくれたものである。 イ A木型は、トヨタグループの木型メーカーでは大手であり、もともと左遷された被告の一課長が脅せるような企業ではないうえ、A社長は、昭和40年代から原告と個人的交際があり、原告の被告での地位等も熟知していたのであって、原告がA社長を脅迫したり、同社長がこれに畏怖したりすることはあり得ない。 ⑥ 本件金員Ⅱは、以下のとおり、TCSが天白試作から請け負ったデザイン業務の対価として受領したものである。 ア上記⑤アのように、本件デザインスクールの経営が芳しくなかったので、原告は、その運営維持のため、エスティマのデザインを通じて知り合った人脈に頼ってTCSでデザインの仕事を請け負うことにし、平成7年5月頃以降、別紙2記載のとおり、天白試作からデザイン業務を受注し、その代金として本件金員Ⅱの支払を受けた(以下本件原告取引という)。 イ天白試作は、中小企業であり、木型メーカーとして必要なデザイン力が十分でなく、これを補うために、実務デザイナーが多数所属するTCSにデザインの仕事を発注していたもので、同社のパンフレットでもTCSとの提携を大々的に広告している。 ウまた して必要なデザイン力が十分でなく、これを補うために、実務デザイナーが多数所属するTCSにデザインの仕事を発注していたもので、同社のパンフレットでもTCSとの提携を大々的に広告している。 ウまた、TCSは、前示1(4)のとおり小糸製作所から請け負ったフォグランプのモデル作成などを天白試作に発注して、その代金を支払っており、両者間に通常の取引関係があったことは明らかである。 ⑦ 仮に、原告に懲戒事由があるとしても、退職金が賃金の後払いである以上、その不支給には、労働者に、勤続の功労をすべて抹消ないし減殺するほどの著しく信義に反する行為が存在することを要すると解すべきところ、原告にかかる行為はなく、本件退職金の不支給は許されない。 ⑧ そのほか、本件懲戒解雇に当たり、被告は、本件規則所定の懲戒事由を明らかにせず、あらかじめ原告に弁明の機会を与えることもしなかったものであって、同解雇は、手続違反により無効である。 (2) 被告の主張① 前示(1)①の退職金請求権は、下記③のとおり争い、原告の定年退職すべき日も争う。その日は、本件規定13条により、原告の満60歳到達の月の末日である平成13年1月31日である。 ② 前示(1)②の定年退職の場合の退職金額の計算は争う。 (ア)本件規定3条但書と本件内規3条1号による基幹職の退職金基礎額である前示1(8)①(a)の基本給55万6980円と、同②の支給率41.2に基づく本件規定3条所定の退職金は、本件規定14条2号の端数処理をした後で2305万1000円、(イ)上記基本給と、本件規定5条2項5号の係数5に基づく本件規定5条1項2号所定の特別加算は、同じく端数処理後で279万8000円であり、合計2584万9000円である。 ③ 原告は、下記のとおり、業務に関して取引業者から金員を収受しており、本件規則 本件規定5条1項2号所定の特別加算は、同じく端数処理後で279万8000円であり、合計2584万9000円である。 ③ 原告は、下記のとおり、業務に関して取引業者から金員を収受しており、本件規則66条13号所定の懲戒事由があるから、被告は、原告を本件懲戒解雇した。 よって、本件規定6条により、原告に退職金請求権はない。なお、TCSは、原告みずから代表取締役を務め、すべてを取り仕切っていたペーパーカンパニーであり、本件金員Ⅰ、Ⅱは、いずれも同社を隠れ蓑にして、原告自身が収受したものである。 ア原告は、平成2年2月から課長職に従事し、デザイン及びモデル制作の外注に関する実質的な決定権限があったところ、これを濫用して、本件被告取引の継続を条件に、A木型に圧力をかけて、同社とTCSとの間の実態のないコンサルタント契約や内容架空の請求書等に基づき、前示1(6)①のとおり、平成7年5月から平成11年4月にかけて、本件金員Ⅰ合計1200万円を同社に支払わせて、これを収受した。 イまた、原告は、同じく外注権限を濫用して、本件被告取引の継続を条件に、天白試作に圧力をかけて、TCS名義の内容架空の請求書等に基づき、前示1(6)②を含め、別紙1記載のとおり、平成7年5月から平成10年6月にかけて、本件金員Ⅱ合計639万3000円を請求し、それぞれその頃同社に支払わせて収受した。 ④ 前示(1)⑤の事実は否認する。 ア原告は、コンサルタント料名下に金員を得る等の目的で、平成4年頃、A社長にコンサルタント契約の締結を打診し、断わられると、前示③アのような実権を濫用し、モデル制作の外注先を天白試作に振り分けるなどして、A木型に圧力をかけ、平成7年4月以降、無理やり実態のないコンサルタント契約を締結させたもので、その後なんらのコンサルタントの仕事もしていない。 、モデル制作の外注先を天白試作に振り分けるなどして、A木型に圧力をかけ、平成7年4月以降、無理やり実態のないコンサルタント契約を締結させたもので、その後なんらのコンサルタントの仕事もしていない。 イ A社長は、原告のバックに、被告のG常務(当時。後の副社長)が付いているとして、その力を恐れており、原告は、この恐怖感を利用して、名目だけのコンサルタント契約を締結させ、不正に本件金員Ⅰを支払わせたものであり、同社長は、本件デザインスクールの運営実態についてほとんどなにも知らなかった。 ウ (a)本件デザインスクール開設時、原告は、被告のデザイン部員らに対し、即戦力のデザイナーやモデラーを養成すると説明して、TCSへの出資や同スクールの講師等をさせたが、これらデザイン部員は、利益を重視する原告の姿勢に反発して辞めてしまっており、(b)同スクール閉鎖後も、本件金員Ⅱの支払が継続されていた点も考慮すれば、本件金員Ⅱが、同スクールの理念に共鳴しての資金援助などでないことは明らかである。 ⑤ 前示(1)⑥の事実は否認する。 ア原告は、平成4年8月頃、天白試作のC社長(当時。以下同じ)と知り合い、同社の真空注型技術に目を付けて、当時被告に取引口座がなく、かつ従業員十数人の弱小企業で、自動車のモデル制作の経験もない同社に、被告からモデル制作を発注させる一方、同代金の上乗せや、これに対するバックマージンの支払を要求した。 イその後も、原告は、(a)みずからの知己であるトヨタ自動車系列の各社に天白試作とTCSの売込みを図り、見返りにバックマージンを要求したり、(b)被告との取引口座の開設には2000万円必要だが、自分の影響力で、もう少し安く開設できるなどと申し向けて、類似の金額を要求したほか、(c)平成4年から平成10年にかけて、C社長らに総額2000万円 被告との取引口座の開設には2000万円必要だが、自分の影響力で、もう少し安く開設できるなどと申し向けて、類似の金額を要求したほか、(c)平成4年から平成10年にかけて、C社長らに総額2000万円近い接待をさせたり、(d)平成4年頃にも、自分の企画した違法駐車防止装置の設計・試作を同社に強要し、制作費等約500万円を負担させた。 ウこの間、原告は、(ア)TCSから天白試作に業務を発注するなど、両者の間で一部で正常な取引を行なうこともあったが、(イ)本件原告取引は、本件被告取引を打ち切る等の圧力を加えて、架空の請求書等に基づき、天白試作に金員を支払わせたものであって、もともと同社がデザイン業務を行なう会社でないことや、毎月の請求書中にはBの書いたものがあること、上記ア、イのような経過も考慮すれば、本件原告取引に実態のないことは明らかである。 ⑥ 前示(1)⑦の主張は争う。 原告の行動は、従業員としてあるまじき行動であって、卑劣という以外になく、A木型らから収受した本件金員Ⅰ、Ⅱも常軌を逸した金額であり、反省の様子もなく、上長として範を示すべき管理職の者がかかる行為に及んだことは、被告として放置できるものではない。 したがって、そのほか、前示⑤イ(c)(d)の2000万円近くの接待要求や、違法駐車防止装置の設計等の強要などの情状も考慮すれば、原告に退職金の不支給を相当とするだけの不当な行為があったことは明らかである。 ⑦ 前示(1)⑧の事実は否認する。 本件懲戒解雇に際しては、事前に、平成12年10月6日から11月7日にかけて5回にわたって、原告から事情聴取し、懲戒事由を説明しており、弁明の機会は十分に与えている。 第3 当裁判所の判断 1 本件懲戒解雇事由の存否等(前示第2の2(2)③の主張及び同(1)⑦、同(2)⑥の各主張について)(1 事情聴取し、懲戒事由を説明しており、弁明の機会は十分に与えている。 第3 当裁判所の判断 1 本件懲戒解雇事由の存否等(前示第2の2(2)③の主張及び同(1)⑦、同(2)⑥の各主張について)(1) まず、本件懲戒解雇事由の存否につき検討するに、(a)前示第2の1(1)ないし(7)の各事実、(b)甲6の1ないし4、7の1・2、8ないし11、14、18ないし26、28、33の1ないし3、34の1・2、(c)乙3、6、7、9、10の1ないし3、11、12、19ないし29、(d)証人B・C・A・H・D・I・Eの各証言、(e)いずれも後示採用できない部分を除く証人J・Kの各証言、原告本人尋問の結果のほかに、(f)甲29、乙4の1ないし3、5の1ないし49、8の1ないし20、13、30の1ないし5、31の1ないし3、32の1ないし4の各存在によれば、以下の事実を認めることができる。 ① 被告は、車両組立を主たる目的とするトヨタ自動車系の会社であり、同社から車体製造や設計のほか、自動車デザインの開発・企画を受託している。 一般に、新車開発時の車体・部品のデザイン開発には、(a)デザイナーが、対象をレンダリングや図面に描き起すデザインの作業と、(b)これら図面等やCADデータに基づき、モデラーがモデルを試作して、デザイナーの意図を忠実に造形に現すモデル制作の作業とがあり、(c)両作業を繰り返しながら、必要な修正を行ない、最終デザインを決定してゆく手法が取られているが、被告には、(ア)前示第2の1(2)①のような職位のデザイナー約50名の属するデザイン部があって、上記(a)のデザイン業務を担当しており、(イ)同部内には、モデラーなど約50名の属するモデル造形室(従前のモデル課)があって、上記(b)のモデル制作業務や下記②の外注の決定を担当していた。 ② 上記(a)のデザイン業務を担当しており、(イ)同部内には、モデラーなど約50名の属するモデル造形室(従前のモデル課)があって、上記(b)のモデル制作業務や下記②の外注の決定を担当していた。 ② 一方、被告の外部にも、モデル制作関連のメーカーがあり、モデル造形室が多忙で、モデル制作業務をこなす余裕がない場合などに、外注される同業務を請け負っているが、被告では、このような外注をなすか否か及び外注の場合の発注先等の決定は、モデル造形室が、同室や外製メーカーの業務負荷状況や品質、コスト、納期等を考慮のうえ判断することになっており、また、実際の発注業務は、被告内に別に存在する購買部(後の調達部)が担当するという業務分担になっていた。 しかしながら、上記①(b)のとおり、モデル制作業務では、デザイナーの意図に忠実に造形することが重要であり、実際には、要求される品質や外部メーカーでのモデル確認の利便性などについて、デザイナーの意向が相当程度尊重されるのが通常であるため、発言力の強いデザイナーに実質的な発注権限があるのと同様の状態になっていた。 ③ 原告は、昭和34年3月11日、被告に入社し、もっぱらデザイナーとしてデザイン部で勤務して、昭和59年2月係長職に、平成2年2月課長職に昇格し、平成12年12月の本件懲戒解雇当時、デザイン部主担当員(課長職)の地位にあった。 この間、原告は、トヨタ自動車の初代マークⅡハードトップ、2代目コロナハードトップなどのデザイン開発に関与したほか、昭和60年頃から平成2年頃にかけて、被告やトヨタグループの他のデザイナーらとともに、エスティマの外形デザインを担当したことがあり、このデザインは、高く評価されて、各種の賞を受賞し(ただし、原告が個人的に受賞したものはない)、車両自体も市場から好意的に迎えられたが、原告は、遅 に、エスティマの外形デザインを担当したことがあり、このデザインは、高く評価されて、各種の賞を受賞し(ただし、原告が個人的に受賞したものはない)、車両自体も市場から好意的に迎えられたが、原告は、遅くともその頃から、当時の被告のG常務(その後副社長に昇進)の知遇を得たとか、被告や他のトヨタグループの役員らと親しい関係にあるなどと主張して(原告は、本訴当初も同種主張をしていた-同準備書面1・5、9頁)、これを背景に、社内での発言力を強めてゆき、たとえば、平成2年12月には、そりの合わない上司の更迭を社長に直訴したほか、上記②第2段のようなデザイナーとしての実質的発注権限を確保し、これを利用して、業務上関連のある被告の取引先に対し、以下のような圧力をかけたりするようになった。 ④ すなわち、取引先の一つであるA木型は、鋳造用木型や各種樹脂型の製造を主な目的とする会社で、昭和40年代より上記②の外製メーカーとして、デザイン開発に使うモデル制作用の木型の製造を、被告から受注していたが、原告は、上記のような実質的な発注権限を濫用して同社に圧力を加え、金員を支払わせようと企て、まず平成4年、A社長に、技術のコンサルタント等をする人間はいらないかと、コンサルタント契約の締結方を打診し、断わられると、そのデザイナーとしての立場と上記③のような発言力を利用して、後示⑩の真空注型技術によるモデル確認の利便性等を理由に、モデル造形室や購買部に要求して、モデル制作業務の外注先を、被告と取引の実績がなく、取引口座も開設されてなかった天白試作に振り替えさせて、A木型に圧力をかけた。その結果、平成2年、3年と、年間約1億7000万円又は1億9000万円あった同社の被告からの受注高は、平成4年に1億5000万円以下に、更に平成5年には1億円程度にまで急減してしまった をかけた。その結果、平成2年、3年と、年間約1億7000万円又は1億9000万円あった同社の被告からの受注高は、平成4年に1億5000万円以下に、更に平成5年には1億円程度にまで急減してしまった。 ⑤ そのため、A木型は受注量の確保に苦しむようになったが、被告内でも、(a)モデル造形室は、取引口座のない天白試作にモデル制作を発注するたびに、同社との現金取引について購買部の承諾を取り付けねばならないことを重荷に感じており、また、(b)天白試作制作のモデルは、アクリルを使用する真空注型技術の特性上、表面研磨が困難で、色調や光沢感の確認に支障があって、モデル造形室で外注決定を担当していたL係長は、このような問題状況や、原告から外注に関し強い圧力がかかることを社内に漏らすようになっていた(乙23・3頁、平成15年1月28日E証人調書4頁以下、同年4月8日同証人調書3頁以下、9頁)。 ⑥ そこで、平成7年2月、モデル造形室係長に異動したEは、その頃、モデル制作業務の発注方を依頼に来たA社長に、自分の聞いた上記⑤の事情を説明して、原告の懐柔を示唆したため、同社長は、同年3月頃、原告を居酒屋に呼び出し、モデル制作業務の外注過程に介入しないよう要請した。 これに対し、原告は、同社の前示④の受注の減少が、平成4年のコンサルタント契約締結拒否への原告の対応であることを明らかにしたうえ、天白試作へはA木型経由で業務を発注させるので、見返りに、A木型のランプないし全体の売上の5パーセントをよこせと要求し、同社長は、法外な要求に困惑ながらも、本件被告取引を中断・削減されることに対する恐れから、折合いをつけるため月額25万円の支払を提示し、結局原告も、これを見返りに、被告とA木型との取引に介入しないことに同意した。 ⑦ そして、両者は、A木型の税務処理上の必要性か ることに対する恐れから、折合いをつけるため月額25万円の支払を提示し、結局原告も、これを見返りに、被告とA木型との取引に介入しないことに同意した。 ⑦ そして、両者は、A木型の税務処理上の必要性からコンサルタント契約を締結した形式を整えることにし、原告が当時設立していた下記⑧のTCSがデザインモデルの製作技術向上に関するコンサルティングを行ない、A木型が報酬として月額25万円を支払う旨を記載したコンサルタント契約書(有効期間・平成7年4月1日から1年間)を作成し、同年5月以降、毎月上記金額が、A木型からTCS名義の預金口座に振り込まれ、同様に有効期間1年間の契約書が、平成8年4月1日と平成9年4月1日に作成された。ところが、以後は契約書が更新されなかったにもかかわらず、原告がTCS名義で請求を続けたため、やむなく、A木型は、最後の契約書の有効期限が経過した平成10年5月以降も、上記金額の支払を継続し、結局、経営状態の悪化で同社がこれを打ち切った平成11年4月までに、支払済の本件金員Ⅰの総額は1200万円にのぼっていた。 しかし、その一方で、契約書に記載されたTCSのコンサルタント業務は一切行なわれておらず(原告も、その旨の主張をしない)、またA木型やその関係者は、本件デザインスクールの下記⑨のような運営実態については、ほとんどなにも知らされないままであった。 ⑧ 他方、原告は、上記⑦ないし後示⑪⑫のような金員収受の受け皿や、本件デザインスクールの運営母体とする目的から、平成4年12月7日、TCSを設立して、その代表取締役に就任した。 同社の商業登記簿上の目的は、(a)工業デザインに関する企画・設計・モデル制作・コンサルタント業や、(b)工業デザインに関する実務教育のための学習教室の運営であったが、登記簿上の本店所在地は原告の自宅で、格 業登記簿上の目的は、(a)工業デザインに関する企画・設計・モデル制作・コンサルタント業や、(b)工業デザインに関する実務教育のための学習教室の運営であったが、登記簿上の本店所在地は原告の自宅で、格別の事務所等はなく、また役員は、原告と、その兄で高校で美術の教師をしているFだけであり、常勤の従業員はおらず、もっぱら一人で原告が下記のような業務受託の営業等を行なって、付随する事務を処理していた。 そして、上記(a)の工業デザインの企画・モデル制作等については、問題となっている天白試作との本件原告取引を除き、平成7年8月頃から平成12年3月頃までの間に、小糸製作所など四者から、車幅灯のデザイン企画など合計10件、総額700万円余りの業務を受託して、その支払を受けたが、実際には、TCSには自前のデザイナーがおらず、固有のモデル制作設備等もなかったため、原告は、(a)モデル制作を天白試作に丸投げで下請けさせて、差額相当の利鞘を稼いだり、(b)自分の意向を聞く被告のデザイナーらを休日に呼び出して、トヨタ関係の取引企業でモデル制作の作業をさせるなどして、上記の業務をこなすという状態であった。 また、TCSの設立に当たって、原告は、その後本件デザインスクールに関係するようになった者らを勧誘して、一人当たり数十万円から100万円程度を出資させたが、本件全証拠を精査しても、同社で社員総会が開催されたり、これへの決算報告等が行なわれた形跡はない。 ⑨ 次に、上記⑧(b)の学習教室の運営状況についてみると、学校教育法所定の学校等に該当しなかったため、原告は、「トータルクリエイティブスクール」の名称を使用して、本件デザインスクールを開設し、実務デザイナーによる実践的デザイン教育を謳い文句に、生徒一人当たり年間100から128万円の授業料を徴収して、平成5年4月か リエイティブスクール」の名称を使用して、本件デザインスクールを開設し、実務デザイナーによる実践的デザイン教育を謳い文句に、生徒一人当たり年間100から128万円の授業料を徴収して、平成5年4月から平成8年4月まで、毎年3ないし5名の生徒を新規に入学させ、平成9年3月まで、同スクールの運営を継続していた。 しかしながら、実際には、本件デザインスクールの講師は、被告所属のデザイナーらのほか、もっぱら家電メーカーに勤務するデザイナーやデザインスタジオの経営者など自分の仕事を持つ実務デザイナーに、原告が依頼して、パートタイマー的に授業・指導を行なってもらっていたもので、専属の教師はおらず、校長も、原告の前示実兄の知人が名目的に就任していただけだった。更に、本件デザインスクールにも、常勤の事務員はおらず、実質的に原告が一人で事務関係を取り仕切っていたが、結局同スクールは、生徒が集まらず、平成9年3月閉鎖された。 ⑩ 一方、天白試作は、従前は、合成樹脂の成形・加工を主たる目的とする、従業員十数名の小会社であり、家電メーカーとの間で、顧客作成のデザイン画や図面に基づき、合成樹脂製の試作品を成形・加工することを主な業務内容としていた。同社は、被告と取引はなかったが、真空注型技術という独自の試作技術を持っていた。 しかるところ、平成4年8月頃、同社のC社長(当時。後に社長を退任し通常の取締役となった)と面識を持った原告は、上記技術に目を付けて、前示④のとおり、平成4年当時、原告の要求を拒絶していたA木型への外注を削減させて圧力をかける手段に利用することにし、実質的に自分が仲介して、天白試作を被告に紹介したうえ、真空注型技術によるヘッドランプモデルは、実際に点灯して状態を確認できるなどの利点があることを理由に、前示④のとおりの経過で、デザイナーとしての実 的に自分が仲介して、天白試作を被告に紹介したうえ、真空注型技術によるヘッドランプモデルは、実際に点灯して状態を確認できるなどの利点があることを理由に、前示④のとおりの経過で、デザイナーとしての実質的な発注権限を利用して、取引口座を開設しておらず、前示⑤(a)(b)のような問題もあった同社に対し、同年10月頃、ヘッドランプレンズの試作モデル制作業務を発注させた。 そして、当時天白試作では、上記代金を約470万円と見積もっていたが、原告は、その数額を聞き出すや、更に約200万円の上乗せを要求し、指示した金額での契約が被告との間で成立すると、500万円という法外なバックマージンの支払を要求した。 ⑪ このとき、天白試作は、上記要求に応じなかったが、その後も、原告は、(a)平成4年、違法駐車防止装置「ばんぺい君」の設計・試作を同社に強要し、予想どおりの販売ができなかったため、要した制作費等約500万円を負担させたり、(b)小糸製作所など自分の知合いのいるトヨタ自動車系列の各社に対し、優秀な技術を持つTCSと、その提携先のモデル制作会社の天白試作という触れ込みで、両社の売込みを図り、その後天白試作の獲得した仕事等の見返りに天白試作にバックマージンを要求したりし、C社長や事務・経理担当のB(平成5年以降取締役)が、これらを渋ると、「誰のおかげで、天白試作に車関連の仕事が入ってくるのか」「逆らうと、こんな会社はすぐに言いふらして潰してやる」などと怒鳴りつけたり、被告等の役員らとの交友を記した手帳を示したりして、C社長らに圧力をかけた。 そのため、本件被告取引の中断を恐れたC社長らは、度重なる原告の要求に負けて、当初は請求書もないまま、1回数万円程度を、相当回数原告に支払っていたが、要求が続くため、会計処理の都合から、平成7年5月以降、TCS名義の請 引の中断を恐れたC社長らは、度重なる原告の要求に負けて、当初は請求書もないまま、1回数万円程度を、相当回数原告に支払っていたが、要求が続くため、会計処理の都合から、平成7年5月以降、TCS名義の請求書に基づき本件金員Ⅱを支払うようになった。以後原告は、これを繰り返させ、平成9年2月までに合計339万3000円にのぼったが、上記請求書中には、Bが書いたものなどが相当数含まれていた。 ⑫ ところが、平成9年1月頃になると、原告はC社長らに対し、前示⑦のコンサルタント契約書等を示して、天白試作との間でも同様の契約書を作成して定期的な金員を支払えと要求するようになり、これに対し、天白試作は、いったん契約書を作成すれば、どんな要求を受けるか分からないと考えて、拒絶していたが、結局定期的な金員の支払には応ずることにし、契約書等を作成しないまま、平成9年3月以降、月額20万円の定期金をTCS名義の預金口座に振り込んで支払い、下記⑬の経過で天白試作が支払を辞めた平成10年6月までに、支払済の本件金員Ⅱは、総額639万3000円に達したが、これに見合う取引の実態は存在していなかった。 ⑬ しかるに、平成10年7月、天白試作に税務調査が入り、下記(ア)のような多額の接待費が問題となったため、同社では、同年8月分から定期金の支払を停止したが、これに対し、原告は、(a)前示③の実質的な発注権限を濫用して、直後から、天白試作へのモデル制作業務の発注を停止させたうえ、(b)同年8月末頃から、天白試作に定期金の不払いをなじる手紙(乙30以下)を出して、要旨、C社長らを怒鳴りつけてやりたいとか、「月20万円のことで会社が廃業に追い込まれる」と脅迫したほか、(c)同年12月には、天白試作に乗り込み、更には、(d)平成11年6月、すでに天白試作の広告使用を承諾していたデ りつけてやりたいとか、「月20万円のことで会社が廃業に追い込まれる」と脅迫したほか、(c)同年12月には、天白試作に乗り込み、更には、(d)平成11年6月、すでに天白試作の広告使用を承諾していたデザインモデルを、無断使用と主張して、損害賠償等を要求したりした。 そして、前示⑩以下以外にも、原告は、天白試作に対し、(ア)平成4年から10年にかけて、C社長らに総額2000万円近い酒食の接待をさせたり、(イ)被告との取引口座の開設には2000万円必要だが、自分なら、もう少し安く開設できるなどと申し向けて、金員を要求するなどの行為に及んでいた。 ⑭ 結局、平成12年7月、被告の調達部と天白試作との打ち合わせの際に、原告の上記行為が被告に発覚し、その後調査の結果、前示⑦⑪⑫認定のとおり、前示第2の2(2)③ア、イ掲記の懲戒事由が確認された。 そこで、被告では、本件規則64条と懲罰委員会規則に従って手続を進め、平成12年10月6日から11月7日にかけて5回にわたり、それぞれ1時間ないし1時間半程度を費やして、人材開発部の担当者が事情聴取を実施したが、原告から、説得力のある弁解や、正常な取引等を裏付ける客観的資料は提出されず、同年11月8日、会社側5名と労働組合側4名とで構成する懲罰委員会において、本件規則66条13号所定の「業務に関し、みだりに金品その他を受け取り、又は与えたとき」の懲戒事由に該当すると判断され、再審議の申し出も退けられて、同年12月6日、本件懲戒解雇に至った。 (2) 以上の事実に基づき、後示(3)以下において、本件懲戒解雇事由及び退職金不支給事由の存否につき判断する前に、懲戒解雇と退職金請求権の関係について、以下、若干一般的に検討する。 ① 懲戒解雇は、使用者が被用者に対して課する制裁罰の一種であり、(ア)就業規則にその解雇事由に 支給事由の存否につき判断する前に、懲戒解雇と退職金請求権の関係について、以下、若干一般的に検討する。 ① 懲戒解雇は、使用者が被用者に対して課する制裁罰の一種であり、(ア)就業規則にその解雇事由に関する定めがあって、(イ)当該規定に法的規範性を肯定するに足りる一般的合理性があり、(ウ)具体的な事案においても、被用者に、かかる合理性の認められる程度の実質的な懲戒解雇事由が存在する場合に、使用者は、就業規則所定の懲戒解雇権を行使できることが認められる。 また、就業規則に、懲戒解雇のときは退職金支給せず、あるいは減額する旨の定め(以下一括して退職金不支給規定という)がある場合、このような不支給規定は、(a)被用者の違法、不当な行為が発生するのを防止し、また、(b)退職金を実質的な引当とすることにより、当該違法、不当な行為によって使用者の被る損害を補填するとともに、(c)企業をめぐる取引、法律関係が非常に多面的なため、かかる損害の発生やその数額の立証に困難の伴う場合が少なくないことから、当該立証上の負担を軽減するなどの目的に基づいて制定されるのが通常と解されるところ、以上のような退職金不支給規定の目的は、それ自体合理的であって、社会通念上も相当なものと認められ、格別不当ということができない。 ② 他方、就業規則に退職金に関する具体的な規定が置かれており、その請求が被用者の権利に属するといえる場合には、退職金は、過去の就労に対する賃金の後払いとしての性質を有すると解されるから、この点を考慮すれば、懲戒解雇が肯定されて、被用者の労働契約上の地位を将来に向かって喪失させることが許容される場合においても、それだけで退職金不支給規定自体に、当然かつ全面的に法的規範性を認めるだけの合理性があると解するのは妥当でないのであって、当該退職金不支給規定は、上記① て喪失させることが許容される場合においても、それだけで退職金不支給規定自体に、当然かつ全面的に法的規範性を認めるだけの合理性があると解するのは妥当でないのであって、当該退職金不支給規定は、上記①(ウ)の実質的懲戒解雇事由が存在するだけでなく、(ア)下記(a)以下の事情を考慮すれば、被用者の退職金全額の支払請求が信義則に違反するといえる場合に、(イ)信義則違反の内容程度に応じた範囲内で退職金を不支給又は減額とする趣旨に出たものと制限的に解釈される限りにおいて、法的規範性を肯定するに足りる合理性が具備されるものと解するのが相当である。 そして、そのほか、他面で退職金が功労報酬としての性格も有している点も考慮すれば、上記(ア)(イ)の信義則違反の成否等の判断に当たっては、(a)当該懲戒解雇事由の内容・程度及び、これによって使用者の被る損害の性質・程度が相当重要であり、あるいは上記①(c)判示のような損害立証の困難性が認められるために、(b)更に、直接懲戒解雇事由とされなかった他の非違行為の存在その他の懲戒解雇の一般的な情状も考慮すれば、(c)被用者の勤続年数の長さや職務内容の重要性、ないしこれに対する給与額の相対的な低さなどのほか、過去の特別な功績の存在・内容等の被用者に有利な諸事情を勘案しても、これによる退職金全額の支払請求が信義に反するといえるものであるか否かを総合的に検討して決するのが妥当である。 ③ 更に、上記②掲記の各事情の主張立証の負担について検討するに、被用者の退職金全額の支払請求が、最終的に上記②(ア)(イ)の信義則違反に当たること自体は、同請求に対する抗弁事実の一部をなし、使用者に立証責任があると解されるが、他方上記②(a)ないし(c)掲記の事情は、上記信義則違反の判断の根拠となる具体的事実であり、訴訟上の主要事実に準ず 自体は、同請求に対する抗弁事実の一部をなし、使用者に立証責任があると解されるが、他方上記②(a)ないし(c)掲記の事情は、上記信義則違反の判断の根拠となる具体的事実であり、訴訟上の主要事実に準ずる重要な事実というべきところ、このうち同(a)の事情は、信義則違反の主張の中核をなすものであって、使用者に立証の負担があり、これに対し、被用者は、同(c)の自己に有利な事情を立証して、懲戒解雇事由の効果を減殺等することができるが、更に使用者は、同(b)の事情を主張して、減殺された信義則違反の事情の効果を回復できるというのが相当である。 なお、前示①第1段のとおり、懲戒解雇は、制裁罰であって、使用者が、その根拠として主張できる事由は、現に当該懲戒解雇の理由となった事実に制限されると解するのが相当であるが、他方、(ア)退職金の不支給の当否は、前示②第1段判示のとおり、懲戒解雇の成否とは別の法律問題であり、また、(イ)前示②(c)のとおり、被用者が、退職金不支給規定の効力を争うに当たって、前示信義則違反の効果を減殺する事情を広く主張立証できると解すべき点を考慮すれぱ、公平上、使用者にも、懲戒解雇事由以外の一般的情状を主張して被用者の主張を争う機会が与えられるべきであるから、前示②(b)の懲戒解雇の情状については、懲戒解雇事由に関する上記のような主張制限が当てはまるものではないと解するのが相当である。 (3) そこで、以上を本件についてみるに、前示(1)⑧⑨認定のTCSや本件デザインスクールの実情からすれば、他方、前示(1)⑧第3段、同⑨第1段認定のとおり、TCSの小糸製作所等からの業務受注や、本件デザインスクールの生徒募集等の実際の活動が認められる点を考慮しても、TCSは、当初から、事実上原告の金員収受のためのダミー会社としても使用するという不当な目的 Sの小糸製作所等からの業務受注や、本件デザインスクールの生徒募集等の実際の活動が認められる点を考慮しても、TCSは、当初から、事実上原告の金員収受のためのダミー会社としても使用するという不当な目的に基づいて設立されたと認めるのが相当であり、同社の名義で収受された本件金員Ⅰ、Ⅱは、実質的に原告が受領したものと評価するのが相当であるから、前示(1)⑦⑪⑫認定の事実によれば、本件では、被告主張のとおりの本件懲戒解雇事由が認められるというのが相当である。 そして、原告は、デザイン部課長職という地位と、これに伴う実質的な発注権限等を濫用して問題の行為に及んだもので、その内容は、いずれも本件被告取引を切られるという相手方の恐怖心や困惑に付け込んだ、恐喝ないしこれに準じる悪質な行為というべきであって、収受された本件金員Ⅰ、Ⅱの金額も、合計1800万円以上と多額である。また、これら金員を支払ったA木型らは、結局、その全部又は一部を被告への請求金額に上乗せして回収を計った蓋然性が高いと考えられるが、その金額を適切に算定することは極めて困難であって、本件の場合、被告には、前示(2)①(c)判示のような損害立証上の困難性という事情も存在すると認められる。 したがって、他方、(ア)前示(1)③認定の原告の勤続年数や職務内容のほか、デザイナーとしてある程度の功績をあげたなどの原告に有利な事情を考慮しても、その懲戒事由は、けっして軽微なものということができず、そのほか、(イ)前示(1)⑩や、同⑪(a)(b)、同⑬(ア)(イ)のような情状の悪さも考慮すれば、原告の行なう退職金全額の請求は、全体としても、十分信義則に違反するものであって許されないというべきであり、これに応じた退職金の不支給である以上、本件での退職金不支給規定である本件規定6条には、前示のような法的規範 金全額の請求は、全体としても、十分信義則に違反するものであって許されないというべきであり、これに応じた退職金の不支給である以上、本件での退職金不支給規定である本件規定6条には、前示のような法的規範性を肯定するに足りる合理性が認められるというのが相当であって、原告の退職金請求は失当といわねばならない。 (4) 以上の認定に対し、原告は、懲戒解雇事由を否認し、前示第2の2(1)④ないし⑥のとおり、(ア)モデル制作業務の外注に関する自己の権限、影響力を争い、(イ)TCSが自己の金員収受のためのダミーの役割を果たしていたことを否定するほか、(ウ)本件金員Ⅰは、本件デザインスクールに対する資金援助であって、原告がA木型を脅迫等する余地はなく、(エ)本件金員Ⅱは、木型メーカーとしてデザイン力を必要としていた天白試作が、TCSに発注した本件原告取引の正当な対価であるなどと主張し、更に、(オ)A木型らの告発は、いすれも各社の内部事情に基づく虚偽のものであると主張しており、(a)甲30、31、証人J・Kの各証言、原告本人尋問の結果中には、これに沿う部分があり、また、(b)甲7の1・2、8ないし11、14、26、12、18ないし25、33の1ないし3、34の1・2、(c)乙4の1ないし3、5の1ないし49、8の1ないし20、13には、上記主張に沿うかのような部分もある。そのほか、原告は、本件原告取引の成果物等として、甲15ないし17、27を提出している。 しかしながら、まず、上記(ア)の点から検討するに、原告は、前示(1)④や⑬(a)のとおり、現実にA木型らに対する被告の発注量を減少等させる行為に出ているほか、前示(1)⑤、⑥認定のとおり、これが被告社内で問題となっており、また原告自身、A社長に対し、自己の影響力でA木型に対する発注量を減少させたことを明 する被告の発注量を減少等させる行為に出ているほか、前示(1)⑤、⑥認定のとおり、これが被告社内で問題となっており、また原告自身、A社長に対し、自己の影響力でA木型に対する発注量を減少させたことを明らかにしているのであって、以上によれば、前示(1)③認定のように、原告がデザイナーとしての発言力を利用して、外製メーカーに対する発注に影響を与え得る実質的な権限を有していたことは明らかである。 次に、上記(イ)の点についてみるに、前示(1)⑧⑨認定のとおり、(a)TCSは、原告の自宅を本店所在地とし、役員は原告の親族のみで、常勤の従業員はおらず、社員総会が開催された形跡もないし、(b)登記簿上の目的の一つである工業デザインの企画・モデル制作等については、自前のデザイナーがおらず、固有のモデル制作設備等もないうえ、小糸製作所等から受注したデザイン業務は、天白試作に丸投げするか、休日に被告のデザイナーらを使用して実行させていたのであり、(c)もう一つの登記簿上の目的である学習教室の運営については、少数の生徒を集めて、本件デザインスクールを開設していた事実は認められるものの、講師は、もっぱら自分の仕事を持つ実務デザイナーにパートタイマー的に担当してもらっていただけであり、講師の一人だったIは、原告の経営重視の姿勢に反発して辞職しているのであって、以上の事実のほか、前示(1)⑦⑪認定のとおり、TCSの名義が本件金員Ⅰ、Ⅱの授受に利用された経過も考慮すれば、前示(3)第1段認定のとおり、TCSは、当初から、事実上金員収受のためのダミーとしても使用する目的に基づいて設立されたと認めるのが相当であり、上記(イ)の主張は容易に採用できない。 また、上記(ウ)をみると、本件金員Ⅰは、平成9年3月に本件デザインスクールが閉鎖後も、平成11年4月まで2年近くも支払 いて設立されたと認めるのが相当であり、上記(イ)の主張は容易に採用できない。 また、上記(ウ)をみると、本件金員Ⅰは、平成9年3月に本件デザインスクールが閉鎖後も、平成11年4月まで2年近くも支払が継続しているし、このうち、平成10年5月以降の分については、前示(1)⑦のようなコンサルタント契約書も存在しないのであって、これが本件デザインスクールの理念に共鳴しての資金援助等と認められないのは当然である。 更に、上記(エ)について検討するに、(a)現在、甲15ないし17以外に本件原告取引の成果物は現存しておらず、証人Jの証言によれば、これらは単なるアイデアスケッチ等の域を出ないものであって、原告主張のような金員支払の根拠となるようなものとは認められない。また、(b)乙30を精査しても、原告が不満を述べているのは、もっぱら自分が被告やトヨタグループ各社に売込みを図ってやったのに、天白試作が金員の支払を停止したという点であって、本件原告取引の代金不払に対するものではない。そして、そのほか、(c)前示(1)⑪(a)に認定のとおり、ばんぺい君の試作時期は、本件原告取引とは別の時点であって、その根拠となるようなものではないこと、(d)前示(1)⑪⑫認定のような請求書の不備やコンサルタント契約書の不存在も考慮すれば、上記(エ)の主張も直ちに採用できない。 したがって、そのほか、反対趣旨の前示(1)冒頭掲記のその余の証拠も考慮すれば、原告に有利な前掲証拠はいずれも採用できないというべきである。 (5) また、原告は、前示第2の2(1)⑦のとおり、退職金支給事由としての相当性も争っているが、前示(2)(3)のとおり、本件では退職金不支給を相当とするだけの事情が認められるのであって、上記主張は容易に採用することができない。 そのほか、原告は、前示第2の2(1 しての相当性も争っているが、前示(2)(3)のとおり、本件では退職金不支給を相当とするだけの事情が認められるのであって、上記主張は容易に採用することができない。 そのほか、原告は、前示第2の2(1)⑧のとおり、本件懲戒解雇の手続違反も主張しているが、前示(1)⑭認定の事実によれば、原告には、十分な弁明の機会が与えられたと評価するのが相当であり、この主張も容易に採用できない。 2 結論以上の次第で、原告の請求は、すべて理由がない。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判官夏目明徳

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