主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 原告らが,被告との間で,それぞれ雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 2 被告は,原告らに対し,それぞれ平成20年4月から本判決確定日まで毎月20日限り別紙賃金一覧表「請求額」記載の各金員及びこれに対する各月21日から各支払ずみまで年6分の割合による金員並びに各70万円及びこれに対する同年4月1日から各支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の従業員で,平成20年3月31日までに満60歳の定年退職日を迎えた原告らが,60歳定年制を定めた被告の就業規則は,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(雇用安定法)9条1項に違反して無効であるから,原告らは,被告の従業員たる地位を有しているとして,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認,賃金請求権に基づく平成20年4月以降の賃金(各支払期日の翌日からの商事法定利率による遅延損害金)の支払を求め,被告が原告らの雇用契約上の地位を否定して本訴提起を余儀なくさせたことは不法行為に当たると主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づく損害賠償(不法行為日からの民法所定の遅延損害金)を請求している事案である。 1 前提事実(争いのない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨による認定事実)(1) 当事者等原告らは,いずれも日本電信電話公社(以下「公社」という。)に期間の定めのない労働者として雇用された。 公社は,昭和60年4月1日,民営化され,日本電信電話株式会社(以下 「NTT」という。)に一切の権利義務を引き継いで解散し,原告らは,NTTの従業員となったが,NTTはその後,持ち株会社となり,平成11年 年4月1日,民営化され,日本電信電話株式会社(以下 「NTT」という。)に一切の権利義務を引き継いで解散し,原告らは,NTTの従業員となったが,NTTはその後,持ち株会社となり,平成11年7月1日,東日本地域における地域電気通信業務を目的とする株式会社として被告を設立し,原告らとの雇用契約も被告へと承継された。 被告での賃金支払は,毎月末日締め当月20日であり,原告らの平成20年1月~3月の賃金額及び平均賃金額は,概ね別紙賃金一覧表「給与額」及び「請求額」記載のとおりである。 (2) 被告の定年制NTTは,平成4年4月1日,60歳定年制を導入したが,平成6年の厚生年金保険法の改正により,年金支給開始年齢が段階的に引き上げられること,平成2年の雇用安定法の改正により,65歳までの継続雇用の努力義務が規定されたこと等を受けて,平成11年4月1日から,定年退職した従業員を再雇用する制度を導入した。 同年7月1日に設立された被告は,NTTの人事制度を基本的に承継し,就業規則で,定年を満60歳,定年退職日を定年に達した日以後の最初の3月31日とし,被告を定年退職した者又は被告から転籍し転籍先で定年退職した者を1年間の雇用期間で再雇用し,欠勤日数が一定日数を超えた場合又は更新時において健康に問題がないと認められない場合を除き,業務上の必要性及び本人の希望により,満65歳に達した日以降の最初の3月31日まで契約を更新することができるという制度(以下「キャリアスタッフ制度」という。)を定めた。 (3) 被告の構造改革及びこれに伴う雇用形態の多様化ア被告は,平成13年4月以降,構造改革を策定,実施した。この構造改革の一環として地域密着型の業務等を目的とする複数の新会社(以下「グループ会社」という。)を設立し,被告の業務の相当 態の多様化ア被告は,平成13年4月以降,構造改革を策定,実施した。この構造改革の一環として地域密着型の業務等を目的とする複数の新会社(以下「グループ会社」という。)を設立し,被告の業務の相当部分をグループ会社に業務委託し,被告には,企画型業務,法人営業業務等のみを残し,当該 業務に特化した知識,技術を有する最低限の人員のみを配置することとした。グループ会社は,いずれも被告の完全子会社又は被告が40~49%の株式を所有し,その余の株式は被告又はNTTの完全子会社が所有している。 被告は,上記構造改革を踏まえ,平成13年12月3日,以下の内容の雇用形態,処遇体系多様化の制度(以下「本件制度」という。)を社長達で通知し,実施した。平成15年3月31日までに満51歳以上となる従業員を対象に,平成14年4月30日に被告を退職し,同年5月1日に同一都道府県内のグループ会社に雇用され,定年の60歳まで勤務した後,61歳以降はキャリアスタッフ制度と同様の仕組みで65歳まで契約社員として同社に再雇用される退職・再雇用型と,被告に満60歳まで勤務し,その後は再雇用されない満了型を選択させるというものである。退職・再雇用型の契約社員の更新基準は,キャリアスタッフ制度と同じで,各グループ会社の就業規則に明記され,実際も上記除外事由(一定の欠勤日数の超過又は健康上の問題)に該当しない限り,希望者全員の契約が更新され,業務上の必要性を理由に更新拒否された者は存在しない。各グループ会社の給与水準は,同一地域の同業種の賃金水準等を参考に設定されたが,被告の給与水準を大きく下回る地域もあったため,最下限を7割とし,定年までの所定内給与は,被告の賃金と比較して15~30%減額される結果になった。この減額分を緩和するため,定年までの総減額分に一定の支 の給与水準を大きく下回る地域もあったため,最下限を7割とし,定年までの所定内給与は,被告の賃金と比較して15~30%減額される結果になった。この減額分を緩和するため,定年までの総減額分に一定の支給率(最大50~60%)を乗じた金額を,グループ会社退職時及び契約社員期間に支払う繰延型と,被告退職時及びグループ会社退職時に一時金として支払う一時金型が設けられた。雇用形態の選択,通知をしない場合,60歳満了型を選択したものとみなすこととされた。本件制度の導入により,キャリアスタッフ制度は平成14年4月30日に廃止された。 被告は,平成16年の雇用安定法改正(平成18年4月1日施行)を受け, 同年3月30日付けで就業規則を改正して,本件制度を就業規則上に明記した。 (乙4,35,36,56,74~76,89)イ被告は,平成13年12月~平成14年1月の間,全従業員を対象に社員説明会を実施し,本件制度の概要及び選択方法(何らの意思表示もない場合は60歳満了型を選択したものとみなすことになることを含む。)を説明し,資料を配付する等した他,51歳以上の従業員を対象に,個人面談を実施した(1回目の選択)。そして,原告A,同B,同C及び同Dは,平成13年12月に社員説明会に参加し,上記説明を受け,上長から個別面談を申し入れられ,雇用形態選択通知書(意思表示がない場合の60歳満了型選択のみなし規定が明記されたもの。)を受領したが,面談を拒否し,同選択通知書を期限までに提出しなかったため,60歳満了型を選択したものとみなされた。原告E,同F,同G,同H,同I及び同Jは,同月,社員説明会に参加し,個別面談に応じ,雇用形態選択通知書を受領したが,同E及び同Gは,上長らに対し,同選択通知書を提出しない旨の意思を表明してこれを提出せず,同H及び同I H,同I及び同Jは,同月,社員説明会に参加し,個別面談に応じ,雇用形態選択通知書を受領したが,同E及び同Gは,上長らに対し,同選択通知書を提出しない旨の意思を表明してこれを提出せず,同H及び同Iは,期限までに同選択通知書を提出しなかったため,60歳満了型を選択したものとみなされた。原告F及び同Jは,60歳満了型を選択する旨通知した。(甲27,37,乙6,17,56)被告は,平成15年1月,1回目の機会に60歳満了型を選択した51~59歳の全従業員を対象に,雇用形態の再選択(2回目の選択)を実施し,社員説明会及び個人面談を行って本件制度の趣旨と概要を説明したが,原告Fは60歳満了型を選択し,その他の原告らはいずれも選択せず,60歳満了型を選択したものとみなされた。(乙37,45)被告は,平成16年12月~平成17年1月の間,60歳満了型を選択した従業員を対象に,雇用形態の再々選択(3回目の選択)を実施し,希 望者に必要書類を配布する等したが,原告らは,再々選択を希望しなかったため,60歳満了型を選択したものとみなされた。(乙46)原告らはいずれも,平成20年3月31日までに満60歳の誕生日を迎え,同日の経過をもって,被告を定年退職したものと扱われた。 (4) 雇用安定法の改正経緯ア平成16年に改正された(平成18年4月1日施行。以下「本件改正」という。)雇用安定法9条1項は,65歳未満の定年の定めをしている事業主は,その雇用する高年齢者(55歳以上の者。同法2条1項,同法施行規則1条)の65歳までの安定した雇用を確保するため,①当該定年の引上げ,②継続雇用制度の導入,③当該定年の定めの廃止のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならないと規定している。 イ平成2年3月,労働大臣の諮問 保するため,①当該定年の引上げ,②継続雇用制度の導入,③当該定年の定めの廃止のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならないと規定している。 イ平成2年3月,労働大臣の諮問を受けた雇用審議会は,65歳までの雇用機会確保方策として,高年齢者の雇用は事業主の自主的努力を基に進められるものであり,国は事業主の自主性を尊重し,指導に十分配慮する必要がある,雇用確保の具体的な方法として多様な方法を講ずる必要がある,法的整備については,事業主の自主的努力を促進する趣旨の規定とすることが適当であること等を答申した。同答申を踏まえた雇用安定法の改正案が国会に提案され,同年6月の衆議院,参議院での各社会労働委員会での審議において,当時の労働省職業安定局高齢・障害者対策部長は,継続雇用の推進について,同一企業グループの中で雇用を継続的に確保することも選択肢の1つと考えている旨答弁した。(乙82~84)平成2年改正の雇用安定法は,65歳までの継続雇用の努力義務を新設した。これは,事業主に対し,65歳までの雇用を一律に求めることは困難であるが,雇用する高年齢者に対して雇用機会を確保すべき責務を一般的に負わせた趣旨である。(乙87)ウ平成5年12月,労働大臣の諮問を受けた雇用審議会は,60歳を超え る者につき多様な形態による雇用,就業機会の確保が図られることが重要であるが,賃金,労働時間等の労働条件を全ての労働者について60歳までの延長線上で考えることは困難な面も多く,十分な検討,工夫が必要であること,高年齢者の技能,経験を生かすためには,同一企業又は同一企業グループ内において定年延長,勤務延長,再雇用等の継続雇用を計画的かつ段階的に進めていくことが重要であり,事業主の自主的努力を更に促進するための法的措置を講 験を生かすためには,同一企業又は同一企業グループ内において定年延長,勤務延長,再雇用等の継続雇用を計画的かつ段階的に進めていくことが重要であり,事業主の自主的努力を更に促進するための法的措置を講じる必要があること等を答申した。(乙82)上記答申等を受けた平成6年改正の雇用安定法は,60歳定年制の義務化を図り(4条),定年後の継続雇用の努力義務規定は維持しつつ(4条の2),新たに,65歳までの継続雇用制度の導入,改善計画の作成についての労働大臣の指示について規定した。なお,平成6年,老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢は60歳から65歳に段階的に引き上げられた。 エ平成12年改正の雇用安定法は,継続雇用の努力義務規定(4条の2)について,65歳未満の定年の定めをしている事業主は,定年の引上げ,継続雇用制度の導入又は改善その他の65歳までの安定した雇用確保を図るために必要な措置を講ずるよう努めなければならない旨規定した。 オ平成16年1月,労働政策審議会は,平成15年4月以降厚生労働省で開催された「今後の高年齢者雇用対策に関する研究会」の意見を踏まえて,「今後の高齢者雇用対策について」と題する建議(以下「平成16年建議」という。本件改正の前提となったものである。)を行った。この中で,65歳までの雇用確保措置の導入について,厳しい経済情勢から実施状況が必ずしも進んでいないことや,年金の支給開始年齢の段階的引上げ等を踏まえると,意欲と能力のある限り,少なくも65歳までは働き続けることが可能となる取組を更に求めていくべきであること,厳しい状況が続く企業の経営環境等を考慮すれば,65歳までの雇用確保については個々の企 業の実情に応じた対応が取れるようにすべきであり,直ちに法定定年年齢を65歳に引き上げることは困難 こと,厳しい状況が続く企業の経営環境等を考慮すれば,65歳までの雇用確保については個々の企 業の実情に応じた対応が取れるようにすべきであり,直ちに法定定年年齢を65歳に引き上げることは困難であること,法定定年年齢60歳は維持した上で,65歳までの雇用確保に資するよう,企業の定年年齢の引上げ又は継続雇用制度の導入を行わなければならないとすることが適当であること,各企業の実情に応じて職種等の別に定年年齢を定める等の工夫も有効であること,継続雇用制度についても,各企業の実情に応じ労使の工夫による柔軟な対応が取れるようにすべきであり,労使協定により継続雇用制度の対象となる労働者に関わる基準を定め,基準該当者のみを対象とする制度を導入できるようにすることが適当であること,65歳までの雇用確保に当たっては,今後の労働力供給動向を踏まえた人材の確保,雇用・就業ニーズの多様化や厳しい経営環境の中での総コスト管理の観点から,労使間で賃金,労働時間等について十分話し合い,労働条件,人事処遇制度の見直しに取り組む必要があることが記載されている。 2 争点及び当事者の主張(1) 雇用安定法9条1項の私法的効力の有無(原告らの主張)雇用安定法9条1項は,確実な義務の履行を事業主に求めるため,具体的かつ実効性ある選択肢を提供して,具体的な作為,不作為を命じていること,同条は,年金支給開始年齢の引上げに伴い,年金支給までの空白期間を生じさせないようにして高年齢者の生存権と勤労権を保障する趣旨のもので,憲法27条2項に由来すること,65歳までの雇用確保が努力義務から法的義務に高められた経緯を勘案すると,雇用安定法9条1項には私法的効力が認められるべきである。同法が公法的性格を持つこと,義務違反に対する罰則がないこと,同法の他の条項の規定の仕方 が努力義務から法的義務に高められた経緯を勘案すると,雇用安定法9条1項には私法的効力が認められるべきである。同法が公法的性格を持つこと,義務違反に対する罰則がないこと,同法の他の条項の規定の仕方,同項違反の場合の私法的効力を定めていないこと等は,いずれも同項の私法的効力を否定する理由にならない。同項の3つの選択肢の中に定年制の廃止が含まれていること,定年年齢 を補足する基準が一義的に定まらないことから,同項違反により,65歳未満の定年制が無効となり,定年の定めがないことになると解すべきである。 (被告の主張)雇用安定法9条1項違反により当該定年制が無効となるのでは,同法10条が規定した指導,助言,勧告の余地などなくなるし,同法8条が60歳以上65歳未満の定年制を適法としていることと矛盾するから,私法的効力を有するとの解釈は取り得ない。労働市場法の1つである雇用安定法が事業主に課す義務は公法上の義務であり,履行の確保を行政システムで担保する仕組みであること,事業主だけでなく,国や地方自治体等にも施策を要請していること,事業主の義務の規定が努力義務に止まるものが多いこと,義務違反に対する私法的効力の定めがないことからも明らかである。雇用安定法の改正経緯は,一貫して企業の実情に配慮し,自主性を尊重して介入に消極的な考えであり,このような経緯から改正された同法9条は,定年年齢の65歳引上げを一律に義務付けず,選択肢の1つとして継続雇用制度を認め,しかも対象者の基準を定めて選別することまで許容しているのであるから,立法者意思は,各企業の経営,労使関係等の実情に応じた適切な対応を可能にする趣旨であり,私法的効力は付与せず,罰則の対象ともしないで行政システムによって履行を確保しようとしたものである。 (2) 本件制度の雇用安定法9 経営,労使関係等の実情に応じた適切な対応を可能にする趣旨であり,私法的効力は付与せず,罰則の対象ともしないで行政システムによって履行を確保しようとしたものである。 (2) 本件制度の雇用安定法9条1項2号該当性の有無(原告らの主張)被告は,雇用安定法9条1項が規定する定年の引上げも定年制の廃止もせず,本件制度は同項2号の継続雇用制度に該当しないから,被告は,同項に違反している。継続雇用制度は,文言からして,同一事業主での継続雇用を原則とし,転籍先での雇用が例外的に許されるためには,安定性や継続性が十分保証されなければならない。本件制度は,定年までの賃金が15~30%減額され,再雇用後の賃金も安いという劣悪な労働条件であって,安定性の 要件を満たさないし,再雇用後は1年の有期契約で,業務上の必要性が更新基準とされているため,継続性の要件も満たさない。同号は,「高年齢者が希望するときは」と規定して,希望聴取を55歳以降にすべきことを要請しているのに,被告は,従業員が50歳の時点で希望聴取しており,手続違反がある。原告らには,本件改正後の同法施行後に雇用形態選択の機会が付与されておらず,本件改正法施行前の機会付与で同項の手続を履行したことにはならない。原告らに対する希望聴取は,十分な情報を与えず,被告への残留を許さないという押し付けが横行する中でされたもので,本人の自由意思に基づく判断が保障されておらず,同法の趣旨に著しく反する。そもそも本件制度は,被告からの退職,子会社での再雇用という被告のリストラ計画に応じない者には,65歳までの雇用継続を与えないという不利益を課す不公平なものであり,同法の趣旨に反する。 (被告の主張)雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度には,同一事業主だけでなく,元の事業主との密接な関連があ での雇用継続を与えないという不利益を課す不公平なものであり,同法の趣旨に反する。 (被告の主張)雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度には,同一事業主だけでなく,元の事業主との密接な関連があるグループ企業(密接性)での雇用も,継続雇用が担保されている限り(明確性),含まれると解すべきであることは,各企業の実情に応じ,労使の工夫による柔軟な対応を取るべきであるという立法者意思から明らかである。本件制度は,被告又は被告,その完全子会社若しくはNTTの完全子会社が全株式を所有する新会社で(密接性),制度的に65歳までの継続雇用を確保し,実際,就業規則に定める例外的な要件以外の理由で契約更新が拒否されたことはない(明確性)から,継続雇用制度に該当する。 第3 当裁判所の判断 1 雇用安定法9条1項の私法的効力について(争点(1))原告らは,雇用安定法9条1項違反の効果として,65歳未満定年制の定めが無効となり,定年の定めがないことになると主張している。そこで,同項が 私法的強行性を有するかを検討する。 同項の規定上,これに違反した場合に,労働基準法のような私法的効力を認める旨の明文規定も補充的効力に関する規定も存在しない。また,同項各号の措置に伴う労働契約の内容や労働条件について規定していない。むしろ,継続雇用制度について,現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度であると定義づけるだけで,制度内容を一義的に規定せず,多様な制度を含み得る内容となっており,直ちに私法上の効力を発生させるだけの具体性を備えているとは解し難い。このように,同項の規定自体,私法的強行性を認める根拠は乏しいといわなければならない。 のみならず,同法は,定年の引上げ,継続雇用制度の導入等による 発生させるだけの具体性を備えているとは解し難い。このように,同項の規定自体,私法的強行性を認める根拠は乏しいといわなければならない。 のみならず,同法は,定年の引上げ,継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進,高年齢者等の再就職の促進,定年退職者その他の高年齢退職者に対する就業の機会の確保等の措置を総合的に講じ,もって高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに,経済及び社会の発展に寄与することを目的とし(同法1条),事業主のみならず国や地方公共団体も名宛人として,種々の施策を要求しており,社会政策誘導立法,政策実現型立法として,公法的性格を有している。そして,同法9条1項が,事業主に対する公法上の義務を課す形式をとり,義務違反に対する制裁としては,緩やかな指導,助言,勧告を規定するのみであること(同法10条),同法9条2項は,一定の場合に,継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることを許容して,希望者であっても,継続雇用制度の対象としないことを容認していること,同法8条は,本件改正後も65歳未満定年制を適法としていることを考えると,同法は,65歳までの雇用確保については,その目的に反しない限り,各事業主の実情に応じた労使の工夫による柔軟な措置を許容する趣旨であると解されるのであり,同法9条1項に,原告らが主張するような私法的強行性を認める趣旨ではないことを裏付けている。実際に,同法の改正経緯を見ると,65歳までの雇用確保を推し進める一方,事業主に対して一律に65 歳までの雇用を求めることは困難であること,雇用継続は各事業主の実情に配慮し,その自主性を尊重し,労使の工夫による自主的努力に委ねられるべきであることが一貫して指摘され,平成16年建議でも,直ちに法定定年年齢を65歳に引き上 難であること,雇用継続は各事業主の実情に配慮し,その自主性を尊重し,労使の工夫による自主的努力に委ねられるべきであることが一貫して指摘され,平成16年建議でも,直ちに法定定年年齢を65歳に引き上げることは困難であることが指摘され,各企業の実情に応じた労使の工夫による柔軟な対応を許容すべきであることが要請されているのである。 以上のように,同法9条1項の規定自体からも,同条の全体構造からも,また,立法過程に遡った同条の趣旨からも,原告らが主張するような同項の私法的強行性を肯定する解釈は成立しない。 以上によれば,原告らは,いずれも平成20年3月31日の経過により定年退職し,被告の従業員たる地位を失ったことになるから,原告らの地位確認及び賃金請求は,その余の主張を検討するまでもなく,いずれも理由がない。 2 本件制度の雇用安定法9条1項2号該当性について(争点(2))(1) 原告らの主張は,被告が,原告ら従業員に対して,正当な理由もなく雇用安定法9条1項に違反したまま,従業員たる地位を否定する行為が,当該従業員に対する不法行為を構成するというものであると解釈できるから,被告について,同項の違反行為が認められるかを検討する。 (2) 上述した雇用安定法の改正経緯,同法9条の趣旨,同条1項がその措置に伴う労働契約の内容等について規定していないこと,同条2項が継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることを容認していることを考慮すると,同条1項2号の継続雇用制度は,年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保という同法の目的に反しない限り,各事業主が,その実情に応じ,同一事業主に限らず,同一企業グループ内での継続雇用を図ることを含む多様かつ柔軟な措置を講ずることを許容していると解すべきであり,また,その場合の賃金 的に反しない限り,各事業主が,その実情に応じ,同一事業主に限らず,同一企業グループ内での継続雇用を図ることを含む多様かつ柔軟な措置を講ずることを許容していると解すべきであり,また,その場合の賃金,労働時間等の労働条件についても,労働者の希望や事業主の実情等を踏まえた多様な雇用形態を容認していると解するのが相当である。 上記前提事実によれば,本件制度は,被告退職後に再雇用される予定のグループ会社が,被告,その完全子会社又はNTTの完全子会社が全額出資して設立した株式会社で,被告との間に資本的な密接性が認められること,社長達やグループ会社の就業規則の中で,欠勤日数が一定日数に達した場合や更新時に健康上の問題がないと判断されなかった場合を除き,原則として65歳まで再雇用する旨明記され,実際,除外事由に該当しない限り,希望者全員の契約が更新されてきたこと,後述のとおり,グループ会社入社後の労働条件は,当該地域に生活する労働者に配慮した内容となっていることからすると,同一企業グループでの高年齢者の安定した雇用が確保される制度と評価でき,被告における継続雇用を保障するものでないからといって,直ちに同法9条1項2号の継続雇用制度に該当しないということはできない。 (3) 原告らは,転籍後の労働条件が劣悪であるから,雇用安定法9条1項2号の定める継続雇用制度に該当しないと主張する。しかし,継続雇用制度は事業主に一定の負担を強いるものであり,同号は,継続雇用制度によって確保されるべき雇用の内容までは規定しておらず,労働者の希望に合致した労働条件であることまで要求しないで,事業主の実情等を踏まえた多様な雇用形態を許容する趣旨であると解するのが相当である。したがって,労働条件が低下するからといって,直ちに継続雇用制度に該当しないとはいえな 件であることまで要求しないで,事業主の実情等を踏まえた多様な雇用形態を許容する趣旨であると解するのが相当である。したがって,労働条件が低下するからといって,直ちに継続雇用制度に該当しないとはいえない。 上記前提事実のとおり,本件制度は,定年前のグループ会社への転籍により,定年までの給与の減額を伴うが,各グループ会社の給与水準は,同一地域における同業種の賃金水準等を参考にしつつ,大幅な減額とならないよう一定の配慮をした上で設定され,減額分に対して繰延型又は一時金型を設けて,最大5~6割を賃金の上乗せや退職金の支払によって填補する仕組みであり,勤務地も限定的なものとする等,当該地域で生活する労働者の事情に配慮したものとなっているから,総所得が低下する場合があっても,直ちに継続雇用制度に該当しないとはいえない。 また,原告らは,同法9条1項2号は55歳以降に希望聴取すべきことを要請しているとして,50歳の時点で希望を聴取したのは同項に違反していると主張するが,同法は,希望聴取の時点について何ら規定せず,合理的な範囲内で事業主の裁量に委ねていると解されるから,上記主張を採用することはできない。原告らは,本件改正法施行後に改めて原告らに対する雇用形態選択の機会が付与されていないと指摘するが,上記前提事実のとおり,原告らは,3度にわたる選択の機会が付与されているし,企業が,本件改正により原告らに対して改めて選択の機会を付与すべき義務を負うと解すべき根拠はないから,上記主張もまた採用することはできない。 原告らは,十分な情報が与えられず,本人の自由意思に基づく判断が保障されなかったから,同法の趣旨に反すると主張する。しかし,上記前提事実のとおり,被告は,原告らを含む従業員らに対し,説明会を開き,資料を配付する等して本件制度の趣 ,本人の自由意思に基づく判断が保障されなかったから,同法の趣旨に反すると主張する。しかし,上記前提事実のとおり,被告は,原告らを含む従業員らに対し,説明会を開き,資料を配付する等して本件制度の趣旨,概要,選択手続等を具体的に説明しているのであり,原告らに対し,違法な退職強要等,自由な意思決定が阻害されたことを窺わせる事情は見当たらないから,上記主張にも理由がない。 原告らは,本件制度は,被告のリストラ計画に応じない者に不利益を課す不公平なもので,同法の趣旨に反すると主張する。本件制度は,退職・再雇用型を選択しない限り,定年後の再雇用の機会が与えられない制度であるが,被告が企業経営の合理化の観点から被告の業務の相当部分をグループ会社に業務委託し,それにあわせて本件制度を導入し,キャリアスタッフ制度を廃止した結果であり,本件制度を不公平なものと評価する根拠にはならないし,他に,本件制度について,同法の趣旨に反する不公平なものであるとする根拠はないから,上記原告らの主張は採用できない。 (4) 以上のとおり,本件制度が雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度に該当しないとはいえず,被告が同項に違反していると認める根拠はないから,被告が定年後の原告らの従業員たる地位を否定したことが不法行為に該当す るとの原告らの主張は,その余の点を判断するまでもなく,理由がないといわなければならない。 第4 結論以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第36部 裁判長裁判官渡邉弘 裁判官藤井聖悟 裁判官秋武郁代 渡邉弘 裁判官 藤井聖悟 裁判官 秋武郁代
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