平成21(う)17 傷害致死,傷害被告事件

裁判年月日・裁判所
平成21年6月25日 広島高等裁判所 広島地方裁判所 平成19(わ)539
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判決文本文9,768 文字)

- 1 -主文原判決を破棄する。 被告人を懲役8月に処する。 原審における未決勾留日数中,その刑期に満つるまでの分をその刑に算入する。 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 本件公訴事実中傷害致死の点については,被告人は無罪。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人中佐古和宏作成の控訴趣意書記載のとおりであるから,これを引用する。 事実誤認の主張について原判決は,被告人が,平成19年6月7日午前1時45分ころ,原判示第1の畑付近から路上に至るまでの間において,Aから,鎌で顔面を切り掛かられるなどの攻撃を受けたことから,自己の生命身体を防衛するため,その防衛に必要な程度を超え,同人に対し,顔面をこぶしで殴り,路上に転倒させるなどの暴行を加え,同人に鼻出血等の傷害を負わせるとともに,同人を意識消失に至らせ,よって,そのころ同所において,同人を血液吸引による窒息により死亡させ(原判示第1),同日午前2時ころ,原判示第2のB方において,同人に対し,その頭部等をこぶしで殴り,腰を足で蹴るなどの暴行を加え,よって,同人に少なくとも数日間の加療を要する頭部・顔面皮下血腫,後頭部挫創,腰部挫創等の傷害を負わせた(同第2)旨認定したところ,論旨は,①原判示第1の事実に関し,被告人の暴行は,Aの暴行に対する相当な防衛行為であるから,正当防衛が成立し,被告人は無罪である,②原判示第2の事実に関し,原判決は,傷害の程度について,Bの公判供述により- 2 -同人方で生じた傷害と認められる後頭部挫創につき,診断書の記載に基づいて,数日間の加療を要すると認められることから,その限度で認定をするにとどめる旨説示しているところ,同人の公判供述中には,後頭部挫創が同人方で生じたことを裏付けるような供述は見受けられないのに,原判決はその旨認定していると 認められることから,その限度で認定をするにとどめる旨説示しているところ,同人の公判供述中には,後頭部挫創が同人方で生じたことを裏付けるような供述は見受けられないのに,原判決はその旨認定しているとして,原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるというのである。 所論にかんがみ記録を調査して検討する。 (1)関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア被告人は,広島市内に住み,広島県a市b町c番地所在の空き家になっている実家(以下「被告人方」という)に時々帰って,その管理をしていた。被告人方の南隣にはBの住居がある。 被告人は,平成19年1月ころ,かつて別れた妻Cと復縁した。 イAは,平成19年6月7日午前1時45分ころ,Bを伴って被告人方の玄関前に赴き「わりゃ」等と怒鳴るなどした。そこで,Cは,近く,の民家に駆け込んで電話を借り110番通報をした。その内容は,AとBが夜中に来て,Aと被告人が,被告人方の前でけんかをしているなどというものであった。 ウ上記110番通報により駆けつけた警察官は,同日午前2時16分ころ,広島県a市b町d番地付近路上において,Aが仰向けに倒れて死亡しているのを発見した。 (2)関係証拠によれば,原判決が,その争点に対する判断の項(以下「争点判断の項」という)の第1の3(2)アないしオで認定しているとおり,被告人とAとは互いに悪感情を持っており,本件前日のB方でのCの言動がきっかけとなって,Aが被告人方へ来て怒鳴り,両名が争ったことにより,- 3 -Aは,負傷して死亡したと認められる。 しかし,争った両名のうちAは死亡し,被告人は,本件前日午後8時ころから本件当日午前2時過ぎころまでの間の記憶が全くないと供述している。また,この両名の争う様子を目撃していたのではないかと考えられるCお ,争った両名のうちAは死亡し,被告人は,本件前日午後8時ころから本件当日午前2時過ぎころまでの間の記憶が全くないと供述している。また,この両名の争う様子を目撃していたのではないかと考えられるCおよびBは,いずれも,被告人とAとの間でどのような争いがあったのか分からないと述べている。このため,Aが負傷した状況を供述によって認定することはできず,その負傷した状況は,同人の遺体の状況,本件現場の状況や遺留品,被告人の負傷状況等を総合して認定するほかない。 (3)関係証拠から認められる本件現場の状況や遺留品,Aの遺体の状況および死因,被告人の負傷状況等は,以下のとおりである。 アAの遺体が発見された道路は,幅員約3.5ないし3.9メートルのコンクリート舗装された市道である(以下「本件道路」という)。本件道路は,果樹畑や民家の間を北から南に向けて通る下り坂である。これらの畑や民家の敷地は路面よりも高く,本件道路は,その両側を畑や住宅敷地の石垣やコンクリート壁で挟まれている。被告人方およびB方は本件道路の西側にある。Aの遺体が発見された場所は被告人方よりも南であり,その間の距離は約50メートルである。 ,。 イAの遺体は頭部を南側へ向け仰向けに倒れている状態で発見された上半身は,着用していた半袖Tシャツがめくれ上がって下腹部が露出しており,下半身にはズボンを着用しているものの,靴は両足とも履いておらず,左足のみ靴下を履いていた。 ウB方南隣のみかん畑からAの遺体があった場所までの間に,本件に関係すると思われる遺留品が複数残されているところ,その主なものは以下のとおりである。すなわち,上記みかん畑の本件道路際には,Aが着- 4 -用していたと思われる右足用の靴下とキャップ型帽子1個が残されており,同靴下は裏返しになっていた。本件道路上に なものは以下のとおりである。すなわち,上記みかん畑の本件道路際には,Aが着- 4 -用していたと思われる右足用の靴下とキャップ型帽子1個が残されており,同靴下は裏返しになっていた。本件道路上には,上記帽子等が残されていた場所の南東に位置する場所にAの防寒靴の右片方が残され,そこから約11メートル南に鎌1本(以下「本件鎌」という)とAが着用していたと思われる長袖シャツ1枚が残されていた。その長袖シャツは,ボタンがかかったまま裏返しになり,左手首部分は不完全に裏返されていた。その約6.1メートル南にAの遺体があり,そのそばには被告人が着用していたパジャマのズボンが残されており,その一部は,Aの頭部の下に敷かれていた。 エ本件道路の本件鎌が残されていた場所より北側の部分には,被告人またはBの各DNA型と同型の血痕が点在しており,Aのものと思われる血痕は見当たらないのに対し,上記場所より南側の部分には,同人のDNA型と同型の血液の付着が認められる。同人の血痕は,本件鎌が残されていた場所では小石に付着していたものである。また,本件鎌が残されていた場所から約6.1メートル南側に残されていた同人の血痕は,本件道路東端に沿って設けられている石垣(以下「本件石垣」という)の地上高約40ないし42センチメートルの箇所に点在するものであり,2か所に血痕とともに毛髪の付着も認められる。また,同人の遺体の頭部があった場所にも約30センチメートルの範囲に同人の血痕が付着していた。 オAの遺体は,各所に表皮剥脱や皮下出血等がみられるところ,大きな損傷部位は頭部と顔面である。その後頭部および左側頭部にそれぞれ皮下組織に達しているが骨には達していない挫創および皮下出血等が,頭,。 頂部に前同様の挫創および表皮剥脱が右側頭部に表皮剥脱がみられた- 5 - と顔面である。その後頭部および左側頭部にそれぞれ皮下組織に達しているが骨には達していない挫創および皮下出血等が,頭,。 頂部に前同様の挫創および表皮剥脱が右側頭部に表皮剥脱がみられた- 5 -これらの損傷は,石垣や路面など表面が滑らかでない鈍体に2回以上打撲ないし擦過したことにより生じたものであると考えられる。その顔面は,右目の周囲,鼻全体,左目の内側角部,口の左半分および左頬に皮下出血がみられ,額には表皮剥脱が点在している。上記顔面の皮下出血は,顔全体等ではなく,4ないし5か所に分かれた限られた部分に生じていること,眼窩等のくぼんだ部分にも及んでいること,表皮の剥脱を伴っていないこと,皮下出血の程度がかなり高度であることなどに照らすと,手のこぶしのような大きさの比較的表面が滑らかな鈍体による打撲が,4回以上,相当強い力で加えられたことにより生じたものであると考えられる。 Aは,上記の損傷のうち,比較的強い力が加わってできた後頭部と左側頭部の損傷によりクモ膜下出血を発症し,あるいはこれに脳震とうを併発して,意識を消失し,仰向けに倒れていたことから,鼻出血等を吸引して窒息死するに至ったものである。 カ被告人は,顔面や左右の腕ないし手を含む上半身に皮下出血または表皮剥脱を伴う多数の傷を負ったところ,このうち右手の近位指節関節には,こぶしを作った状態で何かが相当強い力で作用したために生じたとみられる腫脹や表皮剥脱が認められる。 キ本件鎌の刃には,その先端に被告人のDNA型と同型の血液と考えて矛盾しない血液が付着していたほか,より柄に近い部分に2か所にわたりAのDNA型と同型の血液が付着していた。また,本件鎌の柄には,その上部に被告人およびAのDNA型が混合した血液と考えて矛盾しない血液が付着していたほか,中央よりやや下の部分に被 分に2か所にわたりAのDNA型と同型の血液が付着していた。また,本件鎌の柄には,その上部に被告人およびAのDNA型が混合した血液と考えて矛盾しない血液が付着していたほか,中央よりやや下の部分に被告人のDNA型と同型の血液が付着していた。 - 6 -Aの遺体が着用していた半袖Tシャツは,後面の左肩部分と後頸部分がそれぞれ破れており,同人および被告人の各DNA型と同型の血液が付着していた。また,Aの遺体が着用していたズボンにも同人および被告人の各DNA型と同型の血液の付着が認められた。 本件道路に遺留されていたAの長袖シャツには,その後部に同人のDNA型と同型の血液が,その前部に被告人のDNA型と同型または同型と考えて矛盾しない血液が,それぞれ付着していた。 被告人が着用していたパジャマは,上着が右袖を含む右側部分において裾を残す形でぐるりと破れ,また,後面においてL字型に破れていたり,ズボンが前側の中央部において32センチメートルにわたり縦に破れ,また,右足部分において腰ゴム部分から膝下部分まで78センチメ,。 ,ートルにわたり破れているなど上下とも著しく破損しているそしてパジャマの上着には,被告人およびCの各DNA型と同型またはこれらが混合したものと考えて矛盾しない血液が付着しており,パジャマのズボンには前面及び後面にAのDNA型と同型または同型と考えて矛盾しない血液が付着していた。被告人が着用していたトランクスは,前部が右側において5角形状に破り取られている。そして,このトランクスには,被告人,CおよびBの各DNA型と同型の血液がそれぞれ付着していた。 ,,ク被告人は本件当時62歳で身長は158.3センチメートルであり体重は63キログラムである。また,Aは本件当時78歳で,身長は155センチメートル,体重は51キログ れぞれ付着していた。 ,,ク被告人は本件当時62歳で身長は158.3センチメートルであり体重は63キログラムである。また,Aは本件当時78歳で,身長は155センチメートル,体重は51キログラムであった。 (4)上記(1)ないし(3)で認定した事実に照らせば,被告人方前または上記帽子等が遺留されていた場所付近からAの遺体が発見された場所に至るま- 7 -での間において,同人と被告人とが闘争したことが窺われるところ,その間の被告人の行為に関し正当防衛が成立するか否かについて検討する。 ,,,ア上記(1)ないし(3)で認定した事実殊に本件鎌の刃の先端部分には被告人のDNA型と同型の血液と考えて矛盾しない血液が付着しているところ,被告人の顔面には動いている本件鎌の先端によって生じたと考えて矛盾しない傷が少なくとも2か所あること,被告人の着衣は,パジャマ上下やトランクスの破損がいずれも著しいこと,被告人の右目の周囲には手のこぶしによる打撲ともみられる皮下出血等があることなどにかんがみると,本件道路において,Aは,被告人に対し,本件鎌を用いてその顔面等に切り付けたり,こぶしで顔面を殴打するなど,激しい攻撃を加えていたことが窺われる。 イ他方,被告人もAに対し暴行を加えたことが認められるところ,関係証拠を総合しても,被告人がAに加えた暴行を具体的に認定することは困難である。 しかし,本件鎌が残されていた場所より北側では,被告人の血痕は散見されるのに対し,Aの血痕は発見されていないことからすると,少なくとも上記場所より北側における被告人の暴行は,Aに路上等にその血痕を残すほどの傷害を負わせるようなものではなかったことが窺われる。 これに対し,上記場所より南側では,3か所にわたってAの血痕が残っている上,同人の頭部の傷害や,本件石 暴行は,Aに路上等にその血痕を残すほどの傷害を負わせるようなものではなかったことが窺われる。 これに対し,上記場所より南側では,3か所にわたってAの血痕が残っている上,同人の頭部の傷害や,本件石垣に同人の血液のほか毛髪も付着していたことからすると,同人が頭部に受けた挫創は,本件石垣に頭部を打ち付けたことなどにより生じたものであると考えられる。そして,被告人の行為とは無関係にA自身が転倒するなどして,自らその頭- 8 -部を本件石垣に打ち付けるなどしたとはにわかに考え難いことに加え,同人の顔面や被告人の右手の負傷状況,Aおよび被告人の各着衣にはそれぞれ両名の血液とみられるものが付着していたことなどをも総合考慮すると,Aは,被告人からこぶしで顔面を殴打されたり,被告人ともみ合って突き飛ばされるなどしたことにより,その頭部を本件石垣に打ち付けるなどしたものと考えるのが自然かつ合理的である。 以上に加え,Aの死因等をも併せ考えると,被告人がAに対し,こぶ,,しで顔面を殴打したりもみ合って突き飛ばすなどの暴行を加えた結果同人は,鼻等から出血するとともに,その頭部を本件石垣に打ち付けるなどしてクモ膜下出血を発症し,あるいは,これに脳震とうを併発した,,,,ため意識を消失し仰向けに倒れていたことから鼻血等を吸引して窒息死するに至ったものであると推認される。 ウところで,Aが,深夜,被告人方に押しかけて怒鳴るなどしたことが発端となって,両名の上記闘争が始まったところ,原判決が,争点判断の項第1の3(3)において適切に認定説示するとおり,Aが,被告人方に押しかけてきたとき,本件鎌を携帯していたという疑いを払拭することはできない。 そして,本件鎌の刃や柄の部分には被告人のみならずAのものと解される血痕も存し,同人の右手のひらには, Aが,被告人方に押しかけてきたとき,本件鎌を携帯していたという疑いを払拭することはできない。 そして,本件鎌の刃や柄の部分には被告人のみならずAのものと解される血痕も存し,同人の右手のひらには,本件鎌の刃を握ってできたような傷が認められるものの,それは,ある程度止まっているような,余り勢いがないようなものを握ったときに生じたものであると考えられるのに対し,被告人の顔面には動いている本件鎌の先端によって生じたと考えて矛盾しない傷が複数あることをも併せ考えると,被告人とAとの間の闘争は,同人が本件鎌で被告人を攻撃するという形で始まり,これ- 9 -に対し被告人が防衛のため行動するという展開になっていったものと考えざるを得ない。原判決が適切に認定説示するとおり,被告人のAに対する暴行は,自己の生命身体を防衛するための行為であったと評価できる余地が十分にあるというべきである。 エそこで,被告人の暴行が自己の権利を守るための相当な範囲の行為であったかについて検討する。 本件鎌とAの長袖シャツが,同じ場所に遺留されていたことや,そのシャツがボタンのかかったまま裏返っていたことなどにかんがみると,上記遺留場所で,被告人とAがもみ合ううちに上記シャツが脱げ,そのころ本件鎌が同人の手から離れたと認められる。 そして,それまでの間は,Aが本件鎌を持ち,被告人は素手で対峙していたと考えるのが最も自然であるから,それまでの間の被告人の暴行は,自己の権利を守るための相当な範囲のものであったというべきである。 ところで,Aは,本件鎌が手を離れた場所から南に約6.1メートルの地点で,本件石垣にその頭部を打ち付けるなどし,その付近に仰向けに倒れて死亡したところ,いつどのような態様で本件石垣に頭部を打ち付けるなどしたのかは明らかでない。もっとも,本件道路やその メートルの地点で,本件石垣にその頭部を打ち付けるなどし,その付近に仰向けに倒れて死亡したところ,いつどのような態様で本件石垣に頭部を打ち付けるなどしたのかは明らかでない。もっとも,本件道路やその付近に靴の右片方や右足用靴下が残されていた位置関係に照らすと,同人と被告人は,本件道路を闘争しながら下るだけではなく,下った後に上がるなど,本件道路を行きつ戻りつしたことが認められるものの,基本的には本件道路を下りながら闘争していたことが窺われる。そうすると,本件鎌の遺留場所と本件石垣との位置関係からして,Aは,本件鎌が手から離れた後に,本件石垣にその頭部を打ち付けるなどしたと推認するの- 10 -が自然かつ合理的であるということはできる。しかし,その態様は不明であるといわざるを得ない。もっとも,被告人が,Aの頭部をつかんで本件石垣に殊更に打ち付けたことを窺わせるような証拠は存在せず,同人が自ら頭部を打ち付けたとも考え難い。そうすると,被告人がAともみ合ううちに,同人の頭部が,本件石垣に衝突し,あるいは本件石垣で擦られたと考えるか,被告人が,Aを突き飛ばしたり,殴打したりしたことにより,同人が本件石垣に頭部を打ち付けたと考えざるを得ない。 この場合,同人は,本件鎌を手にしていないのであるから,その攻撃力は,それまでと比べて低下していたと考えられるものの,本件鎌を手放した途端に,被告人に対する攻撃を止めたとは考え難い。そして,被告人は,本件鎌がAの手から離れるまで,鎌を用いるなどした攻撃への対処を強いられていたことに照らすと,その瞬間から直ちに防衛のための行為が不要になったということはできず,そのように考えることを被告人に期待することも困難である。また,本件鎌がAの手を離れた場所から本件石垣まで約6.1メートルしかないことにかんがみると, のための行為が不要になったということはできず,そのように考えることを被告人に期待することも困難である。また,本件鎌がAの手を離れた場所から本件石垣まで約6.1メートルしかないことにかんがみると,本件鎌が手を離れてから本件石垣に同人の頭部が打ち付けられるなどしたまでの時間は,ごく短かったと考えられるから,被告人が,Aの顔面を少なくとも4回殴っているとしても,素手になった同人を4回も殴ったとは考えられない。 以上を総合すると,被告人とAとの年齢や体格の差を考慮しても,Aの手から本件鎌が離れた後に,同人に対し被告人が加えた何らかの暴行が,防衛のためにやむを得ない程度を超えたものであったということができるかは,疑問なしとしない。 オ原判決は,本件鎌がAの手を離れた時点で,同人の攻撃力はかなり低- 11 -下していたとみられるところ,その後も,被告人は,し烈な暴行を加えたと推認される旨説示している。 ,,,,しかし原判決も説示するとおりAが丸腰となった状態においてなおも被告人に攻撃を加えようとしていた可能性は否定できない上,それまでの闘争において,被告人は,鎌による攻撃にさらされていたということに照らすと,被告人とAとの攻撃力の差が絶対的なものであったとはいい難い。 また,原判決が,被告人のAに対する暴行をし烈なものであったと評価している点についても,暴行態様を具体的に認定することはできない上,顔面を殴った回数が,同人の手から本件鎌が離れた後に何回であるかは定かでないことを考えると,同人が死亡したという結果のみから,被告人の暴行の程度を原判決のように評価することは難しいといわざるを得ない。 カこのように,被告人とAとの闘争過程を全体としてみる限り,被告人の一連の暴行が,防衛のためにやむを得ない程度を超えていたことが証明されて 原判決のように評価することは難しいといわざるを得ない。 カこのように,被告人とAとの闘争過程を全体としてみる限り,被告人の一連の暴行が,防衛のためにやむを得ない程度を超えていたことが証明されているとまでいうことはできない。したがって,被告人が暴行を加えてAを死に至らせた原判示第1の行為については,正当防衛が成立するといわざるを得ない。 (5)原判示第2の事実について,所論は,原判決が,Bの傷害のうち後頭部挫創について,同傷害がB方で生じたことを裏付ける証拠がないのに,その旨認定しているとして論難する。 しかし,原判決が,争点判断の項の第2で認定説示するとおり,原判示第2の各傷害は,後頭部挫創を含めて,B方における被告人の暴行により生じたものであると認められる。原判決に所論の事実誤認はない。 - 12 -(6)以上のとおり,原判示第1の事実については事実の誤認があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから,論旨は,この限度で理由がある。そこで,量刑不当の主張に対する判断を省略し,原判決は,原判示第1の事実と同第2の事実とを併合罪の関係にあるものとして1個の刑をもって処断しているから,刑事訴訟法397条1項,382条により原判決を全部破棄し,同法400条ただし書に従い当裁判所において更に判決する。 自判(1)原判決が認定した罪となるべき事実第2に法令を適用するに,被告人の判示所為は刑法204条に該当するので,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役8月に処し,同法21条を適用して原審における未決勾留日数中その刑期に満つるまでの分をその刑に算入し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予し,原審および当審における各訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適 その刑期に満つるまでの分をその刑に算入し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予し,原審および当審における各訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (2)一部無罪の理由本件傷害致死の公訴事実は「被告人は,平成19年6月7日午前1時,45分ころ,広島県a市b町e番地の畑およびa市b町d番地付近路上等において,A(当時78歳)に対し,鎌で切り付け,その顔面を手拳で殴打し,同人を路上に転倒させる等の暴行を加え,同人に鼻出血等の傷害を負わせるとともに同人を意識消失に至らせ,よって,そのころ,同所において,同人を血液吸引による窒息により死亡させた」というものであるところ,既に説示したところに照らして,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとする。 - 13 -よって,主文のとおり判決する。 平成21年7月8日広島高等裁判所第1部裁判官野原利幸裁判官結城剛行裁判長裁判官楢崎康英は差し支えのため署名押印することができない。 裁判官野原利幸

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