平成29(行コ)28 公務外認定処分取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成30年1月25日 名古屋高等裁判所 その他
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判決文本文20,691 文字)

平成30年1月25日判決言渡平成29年(行コ)第28号公務外認定処分取消請求控訴事件(原審名古屋地方裁判所平成26年(行ウ)第16号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要(略語は,新たに定義するものを除き,原判決の例による。以下,本判決において同じ。) 1 本件は,E高校の教諭として勤務していたP1(昭和41年▲月▲日生)が平成21年9月29日脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(本件疾病)を発症し,同年▲月▲日,満42歳で死亡したことについて,P1 の父である被控訴人が,地方公務員災害補償基金愛知県支部長に対し,P1の死亡はE高校における過重な公務に起因すると主張して,地公災法に基づく公務災害認定請求をしたところ,同支部長から平成24年1月12日付けでP1の死亡を公務外の災害と認定する本件処分を受けたため,被控訴人が控訴人に対し,本件処分の取消しを求めた事案である。 原審は,P1が本件疾病発症前1箇月間に従事していた公務は特に過重なものであると認められるのに対し,この公務のほかに本件疾病の危険性が切迫していたことをうかがわせる要因を認めることができず,本件疾病はP1の公務に内在する危険が現実化したものと評価でき,本件疾病に至るまでの具体的事情を総合的に勘案してもこの評価を覆す事情があるとはいえないとして,P1 の死亡と公務との間には相当因 件疾病はP1の公務に内在する危険が現実化したものと評価でき,本件疾病に至るまでの具体的事情を総合的に勘案してもこの評価を覆す事情があるとはいえないとして,P1 の死亡と公務との間には相当因果関係があり,公務起因性を認めるのが相当であるとして本件処分を取り消したところ,控訴人が控訴を提起した。 2 その余の事案の概要は,次項に当審における控訴人の主張を追加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の第2の1ないし3記載のとおりであるので,これを引用する。 3 当審における控訴人の主張(1) 認定基準及び民間認定基準における「長期間の過重業務について」に対する原判決の解釈の誤りア P1の睡眠時間「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」(乙D3・86頁,87頁)には,「業務の過重性の評価は,(中略)長時間労働に着目してみた場合,現在までの研究によって示されている1日4~6時間程度の睡眠が確保できない状態が,継続していたかどうかという視点で検討することが妥当と考えられる。」,「1日5時間以下の睡眠は,脳・心臓疾患の発症との関連において,すべての報告において有意性があるとしている。」などの記載があるところ,P1は,E高校から800メートルの位置の借家に居住し,自動車で通勤しており,その通勤時間は約10分(片道5分)であったことから,P1の時間外労働時間が月95時間35分であったとしても,P1は1日6時間を超えて睡眠時間を確保できていたと推認でき,睡眠不足による血圧上昇は生ぜず,その睡眠時間は,脳・心臓疾患との関連において,有意性はないということになる。 P1がどのくらいの睡眠時間をとっていたかは不明であるが,仮にその時間が1日5時間以下であったならば,それは,P1の生活スタイル との関連において,有意性はないということになる。 P1がどのくらいの睡眠時間をとっていたかは不明であるが,仮にその時間が1日5時間以下であったならば,それは,P1の生活スタイルによるものであり,時間外労働との因果関係はない。 イ P1の公務の量的過重性平成21年度のE高校の授業時間割によると,P1は18コマを担当 し,空きコマは13であった(甲A15)。P1が担当していた18コマのうちの1コマはホームルーム活動であり,準備は不要であるから,準備が必要な授業としてのコマは17コマであった。授業のコマ数は,空きコマの数を上回っているが,P1は,高校教諭として20年,E高校でも4年目であり,授業に関しては十分な知識・経験があったことなどからすると,P1が授業の準備のために授業時間と同程度の時間を要したとは認められないから,P1が「部活動の終了後も残業することを余儀なくされていたと推認される」との原判決の事実認定(原判決26頁8ないし9行目)には誤りがある。 空きコマの状況,授業分担を踏まえると,担当授業において,P1の業務量が他の教員と比較しても多いものであったとは評価できない。 ウ P1の公務の質的過重性P1は,多くの科目で複数の指導担当者の取りまとめ役で,労力としては,他の教員の作成した意見,資料等を調整するだけで,意見や資料の作成という実作業をしなくてもよいのであるから,時間的にも労力的にも少なくてすみ,むしろ,量的質的負荷が少ないともいえるし,また,課題研究は,他の教員も担当しているもので,授業の科目の1つにすぎず,P1の課題研究は量的にも質的にも普通の教員と同一であったから,原判決の「P1の担当授業に関する精神的負荷は相応に強いものであったと考 究は,他の教員も担当しているもので,授業の科目の1つにすぎず,P1の課題研究は量的にも質的にも普通の教員と同一であったから,原判決の「P1の担当授業に関する精神的負荷は相応に強いものであったと考えられる」(33頁15行目及び16行目)との判示は,証拠の取捨選択及び評価を誤っており,その事実誤認は明らかである。 P1が情報処理部顧問として担当していた部員は1年生であり,経験則上,全国大会に出場する3年生を担当するより負担が軽い。P1は平成18年度から情報処理部を担当し,過去3年の経験で指導方法は確立していたことが推認されることから,経験則上,指導における精神的負荷は軽減されていたと考えられる。 エ本件疾病発症前1箇月間のP1の公務の量的・質的過重性(ア) 夜間の残業P2は,平成21年9月の一日最後見回りに行ったのは隔日のことである上,P1が午後8時まで残業していたかについて,「覚えていない」と明確に証言しており(証人P2・49頁),また,被控訴人自身,P1の残業時間が午後8時までであったと主張する日は合計6日にすぎず,本件疾病発症前1箇月間についておおむね毎日午後8時まで残業していたと認定できない。 (イ) 全商協会の情報処理検定の試験監督全商協会の情報処理検定は,あくまで民間である全商協会が主催したもので,資格も全商協会が与えるものにすぎず,試験監督の報酬は全商協会から支払われており,E高校では全商協会の情報処理検定が学校教育には当たらないとして教育公務員特例法17条による兼業の承認手続を行い,全商協会では試験監督中の災害が公務災害とならないことから傷害保険に加入していた。 したがって,全商協会の情報処理検定の試験監督は勤務時間には含まれ 17条による兼業の承認手続を行い,全商協会では試験監督中の災害が公務災害とならないことから傷害保険に加入していた。 したがって,全商協会の情報処理検定の試験監督は勤務時間には含まれず,P1の平成21年9月の時間外勤務時間は72時間15分である。 (ウ) 体験入学の準備体験入学の事務は,①実施計画作成,②中学校への案内状発送文書作成,③配付資料作成,④参加生徒名簿作成,⑤封筒用タックシールの作成,⑥進行台本作成,⑦アンケート作成,⑧礼状作成であるが,平成22年8月16日付け所属回答(甲A17・4頁)によれば,本件疾病発生時点で,このうち③,⑥及び⑧は未着手であり,⑦は他の職員が作成したことが認められる。 ①の実施計画の作成についてはP1以外に3名の担当者がおり,8 月下旬にはその内容が固まっていたと考えられるから(乙A36),本件疾病発症前1箇月間の業務ではない。 ②の中学校への案内状発送文書作成については,「8/21:59作成と思われる」(甲A48の2)とされていることからすると,本件疾病発症前1箇月間の業務ではないし,仮に,本件疾病発症前1箇月間の業務としても,改定するだけでそれほど時間を要しない。 ⑤の封筒用タックシールの作成についても,「8月下旬と予想される」(甲A48の4の1)とされていることから,これも本件疾病発症前1箇月間の業務ではない。また,このタックシールは,昨年のものや他の用途で使用したものをそのまま使用できるものであり,体験入学のために一から作成したとは考えられず,タックシールの作成に時間を要することはない。 ④の参加生徒名簿作成については,成果物として提出されていた名簿(乙A37)によると(乙A15・4頁 のために一から作成したとは考えられず,タックシールの作成に時間を要することはない。 ④の参加生徒名簿作成については,成果物として提出されていた名簿(乙A37)によると(乙A15・4頁),入力された人数は157名で,入力内容は氏名,コード,地区,学校名,ふりがな,性別,中学校内通し番号,第1希望,第2希望,保護者及び8月参加の11項目であり,地区及び学校名は1名入力すれば,他は複写ですむので,1名の入力時間は1分ほどで,作業は3時間ほどである。教頭P3作成の報告(乙A38)によれば,体験入学者リストはエクセルの一つのシートに氏名を入力したものを加工するだけであり,作業としては単純で,平成20年度のデータが残されており,この作業もさして相当程度時間のかかるものではないことが認められる。 体験入学の書類は220頁と大部であるが,その作成作業は単純で,前年度に作成したものを使用でき,さらに,現存するファイルは他の 職員が修正追加したものであり,その書類からP1の作業量を推認することはできない。そして,全体の取りまとめは,締切りの9月30日以降しかできず,本件疾病発症前1箇月間の業務には入らない。 したがって,体験入学の準備でP1が平成21年9月に行った作業は,氏名を入力するという単純作業で,前年のデータを使い回ししていたことから,相当程度時間がかかり,精神的負荷がかかる公務とはいえない。 (エ) 全商協会の情報処理検定の指導全商協会の情報処理検定は年2回行われ,平成21年9月27日実施の検定では平成21年9月14日から同月26日まで指導週間が設けられていたが,情報処理検定以外の日本商工会議所簿記検定試験,全商協会の簿記実務検定試験及び全商協会の商業経済検定試 1年9月27日実施の検定では平成21年9月14日から同月26日まで指導週間が設けられていたが,情報処理検定以外の日本商工会議所簿記検定試験,全商協会の簿記実務検定試験及び全商協会の商業経済検定試験においても指導週間が設けられており,E高校の教員にとっては通常業務であり,P1にとっても全商協会の情報処理検定の受験指導は毎年のことであり,物理的のみならず精神的に強い負荷がかかるものとはいえない。 オ時間外労働時間(ア) 全商協会の情報処理検定の位置付けE高校のホームページには,全商協会主催の情報処理検定以外の経済産業省主催の情報処理技術者試験,日本商工会議所主催の簿記検定,日本漢字能力検定主催の日本漢字能力検定並びに全商協会主催のワープロ実務(現ビジネス文書実務),簿記実務,珠算・電卓実務,商業経済,英語,会計実務及びパソコン入力スピード認定を挙げて「資格取得(省略)の実績」とされているが,情報処理検定の取得状況が(省略)かどうかは不明である。また,年間行事には,日商簿記,日本漢字検定試験,秘書検定,公務員模試,看護模試等も記載されており,生徒に関するものであって,E高校が実施する行事を記載しているわけではな い。 全商協会の情報処理検定は,生徒が自主的に取得する資格試験であり,学校教育そのものとは目的及び性格を異にしており,学校教育の一環とはいえない。 (イ) 原判決の認定について退庁前に見回りを行っていたP2が,平成21年9月当時,P1が午後8時まで残業していたかについて,「覚えていない」と明確に証言し(証人P2・49頁),また,被控訴人が,P1が午後8時まで残業していたのは同月中の合計6日にすぎないと 平成21年9月当時,P1が午後8時まで残業していたかについて,「覚えていない」と明確に証言し(証人P2・49頁),また,被控訴人が,P1が午後8時まで残業していたのは同月中の合計6日にすぎないと主張しているにもかかわらず,P1が平成21年9月におおむね午後8時頃まで勤務していたことを前提に,P1の同月の時間外労働時間数が95時間35分に達していたとした原判決の認定は,P2の証言と矛盾する上,被控訴人の主張を超えるものであり,証拠主義及び弁論主義に反するものである。 P1の本件疾病発症前1箇月間の時間外労働時間は,別紙「労働時間集計表」の控訴人主張時間外労働時間数欄記載のとおり72時間15分であり,仮に,P1が午後8時まで勤務していたことがあるとしても,被控訴人の主張によれば,同表の「原審認定時間を被控訴人主張時間に修正」の時間外労働時間欄記載の88時間43分である。 仮に,原判決のとおり,本件疾病発症前1箇月間の時間外勤務時間を95時間35分であるとしても,認定基準の「週当たり平均25時間程度以上の連続」又は民間認定基準の「1月当たりおおむね100時間以上」との要件を満たしていない。 (2) 本件疾病の発症の基礎となるような公務外の要因の存在ア脳動脈瘤P1が緊急搬送されたO病院で撮影されたCT画像によると,硬膜内部の前交通動脈に脳動脈瘤が存在することが確認された。その大きさは脹ら みの高さ4.3㎜,根元3.7㎜で,形状は不整形(瘤が2つ重なっている形状)である(乙B11)。 「未破裂動脈瘤の自然経過に関する大規模研究の結果発表」(乙B2)には,「最大径7ミリ未満の動脈瘤に関しては,特定の場所(前交通,後交通動脈瘤)や不整形のものを除くと破 ある(乙B11)。 「未破裂動脈瘤の自然経過に関する大規模研究の結果発表」(乙B2)には,「最大径7ミリ未満の動脈瘤に関しては,特定の場所(前交通,後交通動脈瘤)や不整形のものを除くと破裂率は低く,予防的治療の適応は慎重に検討する必要があるいうこともわかりました」(3頁),「未破裂脳動脈瘤の破裂は,2001年1月から2004年4月の期間中に調査された成人5720名(6697動脈瘤)において,111名でクモ膜下出血が発生し,全体での年間平均出血率は0.95%でした。出血のリスクは瘤の大きさ,場所(前交通動脈,後交通動脈),形状(不整形)に影響されることがあきらかとなりました。」(1頁),「前交通動脈の破裂率は1.31%/年で,中大脳動脈に対するハザード比が2.02」(2頁・図2)とされている。また,小林祥泰編「脳卒中データバンク」の「くも膜下出血をきたした破裂脳動脈瘤の疫学」(乙B6)には,「3623人のデータを表1に示す。破裂脳動脈瘤の大きさは6㎜未満が57%,14㎜未満で95.3%であった。部位別では前交通動脈瘤(32.9%),内頸動脈-後交通動脈分岐部(29.0%),中大脳動脈瘤(21.4%),前大脳動脈瘤(6.5%)の順に多かった。前交通動脈瘤,中大脳動脈瘤,椎骨脳底動脈系の破裂動脈瘤はサイズが小さい傾向にあった。」(154頁)とされている。 以上によれば,P1の脳動脈瘤は,場所が前交通動脈にある上,不整形であるため,破裂の現実的危険性があったことが認められ,日本の脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会作成の脳卒中ガイドライン2015(以下「脳卒中ガイドライン」という。乙B4,7,8)によれば,「5㎜未満であっても前交通動脈(中略)などの部位に存在する脳動脈瘤」(2の②B)),「不整形(中略)を有す 脳卒中ガイドライン2015(以下「脳卒中ガイドライン」という。乙B4,7,8)によれば,「5㎜未満であっても前交通動脈(中略)などの部位に存在する脳動脈瘤」(2の②B)),「不整形(中略)を有するなどの形態的特徴をもつ脳動脈瘤(2の ②C))は治療等を含めた慎重な検討を要することが勧められる(グレードB)」とされており(乙B4・230頁),予防的治療を検討する必要があった。 イ高血圧日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会作成の高血圧治療ガイドライン2014(以下「高血圧ガイドライン」という。甲B1)では,Ⅰ度高血圧は「収縮期血圧が140~159㎜Hg 又は拡張期血圧が90~99㎜Hg」,Ⅱ度高血圧は「収縮期血圧が160~179㎜Hg 又は拡張期血圧が100~109㎜Hg」,Ⅲ度高血圧は「収縮期血圧が180㎜Hg 以上又は拡張期血圧が110㎜Hg 以上」とされている(表2-5(19頁))。 P1は,平成6年に90~142㎜Hg とⅠ度高血圧となり,その後,次第に血圧が上昇し,平成12年には拡張期血圧が106㎜Hg とⅡ度高血圧となり,高血圧症と指摘されている。脳卒中ガイドライン(乙B7)には,「高血圧患者は降圧治療を行うよう強く勧められる(グレードA)」(24頁)とされており,高血圧は脳動脈瘤破裂の危険因子である(乙B14・19頁)。 P1は15年以上前から高血圧でありながらその治療を怠ったことにより高血圧の状態を長期間継続し,発症の可能性を高めたものである。 ウ飲酒脳卒中ガイドライン(乙B8)には,「脳卒中予防のためには,大量の飲酒を避けるように強く勧められる(グレードA)」,「出血性脳卒中(脳出血やくも膜下出血)の発症率と飲酒との間 ウ飲酒脳卒中ガイドライン(乙B8)には,「脳卒中予防のためには,大量の飲酒を避けるように強く勧められる(グレードA)」,「出血性脳卒中(脳出血やくも膜下出血)の発症率と飲酒との間には直線的な正の相関関係がある。」,「機会飲酒者と比べ,大量飲酒(エタノール450g/週以上)者で全脳卒中の発症率が68%増加し,特に出血性脳卒中の中でもくも膜下出血の発症率が著しく増加した。」との記載がされており,乙B1 4には,「破裂脳動脈瘤の危険因子となる後天的要因(生活習慣)のうちエビデンスレベルの高いものとして,喫煙習慣,高血圧保有,1週間に150g以上の飲酒があげられる。過去の報告を総合するとそれぞれ相対危険率は,1.9,2.8,4.7となり,過度の飲酒は最も危険因子とされている。これらの要因が複数ある場合さらに危険率を上げることが報告されている。」(19頁)とされている。 P1は,毎日日本酒を2合ないし3合飲酒していたもので,エタノール換算で週300ないし450gのアルコールを摂取していたこととなり,前記「大量飲酒(エタノール450g/週以上)」又は「1週間に150g以上の飲酒」に該当する。 エ医師の意見書P1の主治医であったP4医師は,意見書(乙B15)において,「もし,仮に破裂前に今回破裂後の画像の動脈瘤が発見されていたとしたら,まず高血圧の治療や飲酒に関して是正をするように指導する必要があっただろうと思います。また,手術に関しても,直ちに手術治療を行いなさいとまでは言いませんが,手術治療の方法についてもお話をし,破裂リスクが高い群であることを念頭に置いて経過観察は慎重に行われるだろうと推察されます。」(2頁)と記載し,P1の高血圧について「平成21年の数値は『Ⅲ度高血圧』であり の方法についてもお話をし,破裂リスクが高い群であることを念頭に置いて経過観察は慎重に行われるだろうと推察されます。」(2頁)と記載し,P1の高血圧について「平成21年の数値は『Ⅲ度高血圧』であり,直ちに降圧治療を勧められる数値でした。 この数値で治療していないとしたら,それだけで脳心臓疾患を引き起こすリスクとなり,結果論ですが,前交通動脈瘤があるP1氏には大きなリスクだったわけです。」(3頁),「P1氏の飲酒量は,『本件疾病の発症の危険性を高めるほどに多量なものであった』ということになります。」(4頁)と述べている。 このように,P4医師は,P1の前交通動脈に動脈瘤があり,それが自然経過によって増悪して破裂し,本件疾病を発症したことを明確に述べて いる。 また,P5脳神経外科教授は,意見書(乙B16)において,「硬膜内であれば,約4ミリメートル大の動脈瘤でも破裂の危険性があり,P1氏の場合,前交通動脈瘤ですので,小さくても破れやすいうえ,不整形(乙B11)であることから一層破れやすかったと言えます。そして,P1氏は,高血圧症でしたが,その治療をされておらず,また,飲酒の習慣があったとのことですから,複数の破裂のリスクファクターを有していたと思います。」(2頁)と記載している。 このように,P5教授は,P1の前交通動脈に約4㎜大の不整形な動脈瘤があり,それは破れやすい状況であったことに加え,P1が高血圧症や飲酒の習慣という複数のリスクファクターを有していたことにより,本件疾病を発症したことを明確に述べている。 オ結論以上によれば,P1は,前交通動脈に約4㎜大の不整形な動脈瘤を保有し,その破裂の危険因子である高血圧が本件疾病の発症の15年以上前から上昇傾向 ことを明確に述べている。 オ結論以上によれば,P1は,前交通動脈に約4㎜大の不整形な動脈瘤を保有し,その破裂の危険因子である高血圧が本件疾病の発症の15年以上前から上昇傾向を保ちながら継続しており,しかも「1週間に150g以上の飲酒」という危険因子を満たす毎日2合ないし3合の日本酒の飲酒があったのであるから,本件疾病の基礎となる公務外の要因(個体的要因又は生活的要因)があったことは明らかである。 そうすると,P1の死亡は,P1の個体的要因の自然的経過によって生じたものであり,本件疾病の発症及びP1の死亡と公務との間に相当因果関係は認められない。 (3) まとめ以上によれば,本件処分は適法であり,これを取り消した原判決は取り消されるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,P1の死亡は公務に起因すると認めるのが相当であり,本件処分は取り消すべきものと判断する。 その理由は,以下の補正をし,次項において控訴人の当審における主張についての判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決16頁13行目末尾に「基本情報技術者試験,応用情報技術者試験及びITパスポート試験は情報処理の促進に関する法律第29条1項に基づき経済産業大臣が行う国家資格で,平成21年の秋の試験日は10月18日であった(甲A16)。合格率(成人を含む。)は,ITパスポート試験は約17%,基本情報技術者試験及び応用情報技術者試験は20%台であり,基本情報技術者は国家資格であるため全商協会の情報処理検定より合格者がかなり少なく,応用情報技術者の合格者はE高校で1,2名でさらに合格が難しかった(甲A7)。」を加える 術者試験は20%台であり,基本情報技術者は国家資格であるため全商協会の情報処理検定より合格者がかなり少なく,応用情報技術者の合格者はE高校で1,2名でさらに合格が難しかった(甲A7)。」を加える。 (2) 原判決16頁24行目の「ITパスポート試験」の前に「基本情報技術者試験及び」を加える。 (3) 原判決20頁18頁末尾に「全商協会(平成23年4月に公益財団法人に移行)は,高等学校における商業教育の発展向上に寄与することを目的として主務官庁である文部省(現文部科学省)の許可を受けて設立された財団法人であり,情報処理(プログラミング部門1級から3級,ビジネス情報部門1級から3級)のほか珠算・電卓実務,簿記実務,会計実務,英語,ワープロ実務及びパソコン入力スピード認定の各種検定試験並びに全国高等学校の情報処理等の競技大会を主催していた(甲A7,甲40,甲41・4頁,弁論の全趣旨)。」を加える。 (4) 原判決20頁22行目の「情報処理検定による資格取得状況について」を「経済産業省主催情報処理技術者試験の『基本情報』,『応用情報』及び『ITパスポート』並びに全商協会の情報処理の『プログラミング部門 1級』及び『ビジネス情報部門1級』の資格取得状況について,全商協会主催の他の検定や日本商工会議所簿記検定2級,日本英語検定主催の実用英語検定2級及び準2級などとともに」と改める。 (5) 原判決25頁23行目の「9月については,」の後に,「同月5日開催の愛知県商業実務総合競技大会及び」を加える。 (6) 原判決26頁17行目の「平成21年9月には,」の後に,「同月5日開催の愛知県商業実務総合競技大会及び同月27日実施の全商協会の情報処理検定のための部活ないし授業の準備に時間を取られていた。また,同年 決26頁17行目の「平成21年9月には,」の後に,「同月5日開催の愛知県商業実務総合競技大会及び同月27日実施の全商協会の情報処理検定のための部活ないし授業の準備に時間を取られていた。また,同年10月18日実施の経済産業省主催の情報処理技術者試験(基本情報技術者,応用情報技術者及びITパスポート)は,国家資格であるため全商協会よりも難易度がはるかに高い上,合格者が1名ないし2名であるが,応用情報技術者試験の合格者がいることからして(甲A7),P1は課題研究で応用情報技術者試験の担当をしていないが,課題研究の授業又は部活動等で基本情報技術者試験に合格した応用情報技術者試験の受験者のための試験対策指導をしていたと考えられることなどから,P1は,情報処理技術者試験の試験対策の指導準備のために相当程度の時間を要していたと考えられる。さらに,P1は,」を加える。 (7) 原判決26頁25行目の「平日の部活動の指導終了時刻が午後7時頃になっていたほか,」の後に,「平成29年9月5日開催の愛知県商業実務総合競技大会,同月27日実施の全商協会の情報処理検定,同年10月18日実施の経済産業省主催の情報処理技術者試験のための部活及び授業の準備(甲A16),」を加える。 (8) 原判決36頁6行目の「報告もあり」から9行目末尾までを「報告がある(甲A37)。」と改める。 2 当審における控訴人の主張に対する判断(1) P1の公務の量的,質的過重性について ア P1の日常業務について控訴人は,P1は水曜日の午前及び木曜日の午後は授業がなく,2名で担当する授業は講義を担当しておらず,空きコマを利用して校務を行うことが十分に可能であること,P1は高校教諭として20年,E高校でも4年目であり,授業に関しては十 び木曜日の午後は授業がなく,2名で担当する授業は講義を担当しておらず,空きコマを利用して校務を行うことが十分に可能であること,P1は高校教諭として20年,E高校でも4年目であり,授業に関しては十分な知識・経験があったこと,指導担当者の取りまとめ役は実作業をしなくてよいこと,課題研究の授業では基本情報技術者試験,ITパスポート試験の指導をしているだけであることなどからすれば,P1の公務は,量的にも質的にも重いものであったとはいえないと主張する。 しかしながら,P1はE高校の情報処理科の主任として,「情報処理(パソコン実技等)」,「ビジネス情報(表計算等)」,「プログラミング(言語を用いたアルゴリズム等)」,「文書デザイン(ワープロ実技等)」及び「課題研究(情報処理技術者試験)」を担当し,主任として他の教員を指導するなどその責任的な立場にあり,授業以外にも情報処理部顧問として,全商協会が主催する情報処理の全国大会等各種大会の指導をし,全国大会で優勝するなど非常に優秀な成績をあげていた(原判決15頁11行目ないし17頁12行目)。また,授業のみならず,情報化推進委員会の情報化推進者となり,生徒の実習用パソコン(211台)のメンテナンスや校内の総務事務系のパソコンのLAN環境及び教員のパソコンの故障の対応をしており,いわば,E高校における情報機器システムの責任者とでもいうべき立場にあった(原判決17頁13行目ないし18頁18行目,甲42・3頁,4頁)。 さらに,E高校は普通科より就職率が高く,履歴書の「資格取得」欄にどの検定の何級に合格したかを記載するため,国家試験である情報処理技術者試験及び全商協会の情報処理検定の合格者数,全商協会主催の情報処理競技大会での成績を向上させることが要請されていた(甲A43・ どの検定の何級に合格したかを記載するため,国家試験である情報処理技術者試験及び全商協会の情報処理検定の合格者数,全商協会主催の情報処理競技大会での成績を向上させることが要請されていた(甲A43・2 頁,弁論の全趣旨)。 したがって,教員歴が20年あり,E高校赴任から3年を経過し,主任のベテラン教員として他の教員を指導する立場にあったP1の公務は,量的にも質的にも,他の教員よりも重いものであったと認められる。 イ全商協会の情報処理検定の指導について控訴人は,全商協会の情報処理検定は,あくまで民間の全商協会が主催したもので,資格も全商協会が与えるものにすぎず,試験監督の報酬は全商協会から支払われており,E高校は全商協会の情報処理検定が学校教育には当たらないとして教育公務員特例法17条による兼業の承認手続を行い,試験監督中の災害が公務災害とならないことから全商協会において傷害保険に加入していたものであり,全商協会の情報処理検定の試験監督は勤務時間には含まれないし,また,情報処理検定以外の日本商工会議所簿記検定試験,全商協会の簿記実務検定試験及び全商協会の商業経済検定試験においても指導週間が設けられており,E高校の教員にとっては通常業務であり,物理的のみならず精神的に強い負荷がかかるものとはいえないと主張する。 しかしながら,全商協会は,文部科学省の所管する財団法人で,その検定試験科目は情報処理(プログラミング部門1級から3級,ビジネス情報部門1級から3級)のほか,珠算・電卓実務,簿記実務,会計実務,英語,ワープロ実務及びパソコン入力スピード認定という商業科目に沿ったものを行い,全国高等学校の情報処理競技大会等を主催するなど商業高校の教育に密接に関連している団体であり,そ 簿記実務,会計実務,英語,ワープロ実務及びパソコン入力スピード認定という商業科目に沿ったものを行い,全国高等学校の情報処理競技大会等を主催するなど商業高校の教育に密接に関連している団体であり,その情報処理検定は全国の規模で行われ,愛知県だけでも60校が参加し,愛知県では検定のための準備会議は本部校(R高等学校)で勤務時間中に開催され,愛知県下の高等学校の商業科教育の一環として位置付けられ,E高校においては情報処理検定前の約2週間を情報処理検定週間とし,検定前日には受験指導が行わ れ,授業では生徒に対し情報処理検定を受けるように指導され,試験会場もE高校で,試験監督もE高校の教諭によってされていたもので,実際に全校生徒のほぼ全員が受験しE高校の情報処理教育にとって必須なものとなっていた(甲A7,甲A29,甲A40,甲A41,甲A43・2頁,甲A44ないし47,弁論の全趣旨(原判決20頁15行目ないし21頁17行目))。 全商協会の情報処理検定の結果は,日本商工会議所の簿記検定試験,全商協会の簿記実務検定試験及び全商協会の商業経済検定試験などの結果とともにE高校のホームページに掲載されるものであり(甲A7),情報処理主任で情報処理部の顧問であるP1にとって,全商協会の情報処理検定の受験指導は,自身の生徒に対する教育成果とみなされるものであるから,その指導は,P1にとって精神的に強い負荷がかかるものであったと考えられる。 ウ体験入学の準備について控訴人は,体験入学の事務は,①実施計画作成,②中学校への案内状発送文書作成,③配付資料作成,④参加生徒名簿作成,⑤封筒用タックシールの作成,⑥進行台本作成,⑦アンケート作成,⑧礼状作成であるが本件疾病発生時点で,このうち③,⑥及び⑧は未着手であること, 内状発送文書作成,③配付資料作成,④参加生徒名簿作成,⑤封筒用タックシールの作成,⑥進行台本作成,⑦アンケート作成,⑧礼状作成であるが本件疾病発生時点で,このうち③,⑥及び⑧は未着手であること,⑦は他の職員が作成したこと,①の実施計画作成についてはP1以外に3名の担当者がおり,8月下旬にはその内容が固まっていたと考えられ,本件疾病発症前1箇月間の業務ではないこと,②の中学校への案内状発送文書作成についても本件疾病発症前1箇月間の業務ではないし,仮に,本件疾病発症前1箇月間の業務としても,改定するだけでそれほど時間を要しないこと,⑤の封筒用タックシールの作成についても本件疾病発症前1箇月間の業務ではないし,このタックシールは,昨年のものや他の用途で使用したものをそのまま使用できるものであり,体験入学のために一から作成したとは 考えられず,タックシール作成に時間を要することはないこと,④の参加生徒名簿作成については,成果物として提出されていた名簿(乙A37)によると入力された人数は157名で,入力内容からすると作業時間は3時間ほどであること,体験入学者リストはエクセルの1つのシートに氏名を入力したものを加工するだけであり,作業としては単純で,平成20年度のデータが残されており,この作業もさして相当程度時間のかかるものではないこと,全体の取りまとめは,締切りの9月30日以降しかできず,本件疾病発症前1箇月間の業務には入らないことから,負荷はほとんどなかったと主張する。 しかしながら,本件疾病の発症は9月29日であり,8月末は本件疾病発症前1箇月間に含まれる。また,甲A58によれば,平成21年の体験授業の申込者は304名であったことが認められるところ,教頭P3作成の「平成22年8月16日付け所属長回答に対する 8月末は本件疾病発症前1箇月間に含まれる。また,甲A58によれば,平成21年の体験授業の申込者は304名であったことが認められるところ,教頭P3作成の「平成22年8月16日付け所属長回答に対する確認事項への報告」(乙A38)には,エクセルで作成された「一日体験入学」フォルダ内の「⑤参加者(10月).xlst」はP1が大半を作っていたと考えられ,10月17日の体験入学前の9月末までに申込みをメールにて受付入力していたと思われるとし(2頁),名簿のうちP1が作成した部分は,①班別タイトル,受付台帳(1)(15頁分)は中学校別通し順,「W中学校追加挿入」,⑤班別のタイトル,作業用ワークシートで,二つの選択授業の入ったもの(17枚),⑥タイトルなしで,第1~2希望,保護者,8月の別の体験入学での参加,班の各列が追加された一覧(16枚),E高校一日体験入学参加者名簿タイトルは,受付中学校別参加者一覧(12枚),⑦同じく,E高校一日体験入学参加者名簿タイトルは中学校の整理番号順ごとに参加者の一覧(46枚),⑧受付名簿で出欠欄を加えたもの(22枚),⑨会場掲示用最終中学校別名簿(22枚),⑩参加保護者名簿(1枚)であるとし,P1は倒れた日時までの入力・作業・出力の 各ワークシートの一部をしており,入力のどこまでという境界は中学校受付締切りが9月末となっており判明しませんでしたとされている(3頁)。これによれば,体験入学の成果物として提出されていた名簿(乙A37)によると入力された人数は157名であるが,中学校から締切り直前に申し込まれることは考えられず,入力者数が申込者数の半分である157名とは考え難い上,上記の記載によれば,P1は9月中に相当の入力をしていたと推測される。 また,上記報告(乙A38)には,「 ことは考えられず,入力者数が申込者数の半分である157名とは考え難い上,上記の記載によれば,P1は9月中に相当の入力をしていたと推測される。 また,上記報告(乙A38)には,「同一のファイル内の複数のワークシートを使って,中学校ごとに受け付けた体験入学申込みをデータ入力しチェックするワークシート,作業(申し込んだ中学生がいくつかのコースの中から平等に二つの体験授業を選択体験できるように,希望者データと体験コースデータをすり合わせて結合する,かつ,中学校間でのアンバランスを修正する)ワークシート,出力(参加生徒別の書類点検チェックシート・集合会場の掲示物・受付係・点呼用紙)ワークシートの,おおよそ3種類のデータで構成されていた。実際には出力用シートは用途に応じてさまざまある。」(2頁),「受付名簿のデータは1つで,エクセルにより並び替えをしたり,希望中学生の受講コースを追加した後,抽出や行や列の挿入をして,それぞれの名簿を作成しております。」(3頁)とされており,P1はおおよそ3種類のワークシートにデータを入力した後,エクセルを用いてデータの並び替え,追加,抽出,行や列の挿入などを行っており,体験入学の名簿作成は,単にデータを入力すればよいというものではなく,情報処理が必要であり,相当程度の負担になっていたと考えられる。 エ本件疾病発症前1箇月間のP1の公務の量的・質的過重性(ア) 平成21年9月5日にはP1が顧問を務める情報処理部が参加した愛知県商業実務総合競技大会,同月27日には全商協会の情報処理検 定が実施され,同年10月17日には体験入学の開催,同月18日には情報処理技術者試験の実施が予定されていた(甲A16)。 (イ) E高校の情報処理部は,情報処理に関する各種の全国 定が実施され,同年10月17日には体験入学の開催,同月18日には情報処理技術者試験の実施が予定されていた(甲A16)。 (イ) E高校の情報処理部は,情報処理に関する各種の全国大会で団体優勝を始めとする優秀な成績を収めており(原判決16頁17行目から21行目),また,E高校では全商協会の情報処理検定を受験することが生徒に奨励され,ほぼ生徒の全員が受験しており(原判決21頁3行目から6行目),これらの競技大会や情報処理検定の結果は,P1の教育の成果と評価されることも考えられるから,その直前の授業及び部活動の指導に当たるP1には,相当程度の精神的負荷がかかっていたと考えられる。 (ウ) また,体験入学が,P1にとって相当程度の負担になっていたと考えられることは上記ウのとおりであり,P1の立場からすれば,P1が,全商協会の情報処理検定よりも難易度の高い情報処理技術者試験の受験指導のために相当程度の時間を割いていた可能性もある。 (エ) 以上によれば,P1の本件疾病発症前1箇月間は従前に比して,その公務の量的・質的過重性が相当に増していたものと認められる。 オ P1の睡眠時間について控訴人は,P1がE高校から800メートルの位置の借家に居住し,その通勤時間は約10分(片道5分)であったと推認でき,1日6時間を超えて睡眠時間を確保できていたと推認できるから,脳・心臓疾患の発症の原因との関連において,この点を考慮すべきである旨主張する。 しかしながら,最も健康的と考えられる1日7.5時間の睡眠時間が確保されている状態であれば,疲労の蓄積は生じないとしても(乙D3・88頁),本件全証拠によってもP1の睡眠時間を特定することはできず,睡眠によってP1が疲労の蓄積を免れていたと認め 間の睡眠時間が確保されている状態であれば,疲労の蓄積は生じないとしても(乙D3・88頁),本件全証拠によってもP1の睡眠時間を特定することはできず,睡眠によってP1が疲労の蓄積を免れていたと認めることはできないから,控訴人の上記主張を採用することはできない。 カ P1の時間外労働時間について(ア) 全商協会の試験の監督を担当していた時間について前記のとおり,全商協会は高等学校における商業教育の発展向上に寄与することを目的として文部科学省が所管する財団法人で単なる民間団体とはいえないし,E高校においてはその受験指導がされ,試験会場もE高校であり,かつ,試験監督も担当教諭が行っているものであるから,その試験監督業務について教育公務員特例法17条による兼業の承認手続が行われており,試験監督中に発生した傷害については傷害保険によって賄われることになっていたとしても,公務の量的過重性を判断するに当たっては,試験監督を担当していた時間も勤務時間に含めることが相当である。 (イ) 控訴人は,退庁前に見回りを行っていたP2が,平成21年9月当時,P1が午後8時まで残業していたかについて,「覚えていない」と明確に証言し(証人P2・49頁),被控訴人がP1が午後8時まで残業していたのは同月中の合計6日にすぎないと主張しているにもかかわらず,P1が平成21年9月におおむね午後8時頃まで勤務していたことを前提に,P1の同月の時間外労働時間数が95時間35分に達していたとした原判決の認定は,P2の証言と矛盾する上,被控訴人の主張を超えるものであり,証拠主義及び弁論主義に反するものであると主張する。 しかしながら,P2は,P1が平成21年9月にはおおむね午後8時頃まで勤務していたと ,被控訴人の主張を超えるものであり,証拠主義及び弁論主義に反するものであると主張する。 しかしながら,P2は,P1が平成21年9月にはおおむね午後8時頃まで勤務していたとの印象を述べていること(証人P2・30,49,50頁),P1の同僚のP6やP7が,伝聞ではあるが,平成21年9月当時のP1が夜の8時頃まで残って仕事をしていたとの趣旨を述べていること(甲A21・3頁,甲42・5頁),P1の公務災害認定請求書に添付された「発症前1か月を越える期間の職務従事状況・生活 状況調査票」(甲A12の2,乙A25)に記載された退勤時刻は具体的な資料に基づくものではなく,その正確性に疑問があること(証人P2・25,31,33頁)等を考慮すれば,原審の事実認定は合理的なものであると認められる。また,原審は,被控訴人の主張する範囲内でP1の時間外労働時間を認定したものであるから,原判決に弁論主義違反の違法があるとは認められない。 (2) 公務外の要因(脳動脈瘤)についてア高血圧についてP1の血圧は,P1がE高校に赴任してきてから約1年後である平成19年4月10日時点では収縮期血圧は146㎜Hg,拡張期血圧は92㎜Hg であり,高血圧ガイドラインではⅠ度高血圧であるが,正常値を収縮期血圧が6㎜Hg,拡張期血圧が2㎜Hg 上回るにすぎず,ほぼ正常値であったと認められ,P1が長年高血圧であったとはいえない。 平成20年4月9日時点では,収縮期血圧は162㎜Hg でⅡ度高血圧の下限,拡張期血圧は110㎜Hg でⅢ度高血圧の下限となり,P1はそのころからⅡ度高血圧症となっていたと認められる。本件疾病発症の約6箇月前の平成21年4月8日時点では,第1回目の検査が収縮期血 の下限,拡張期血圧は110㎜Hg でⅢ度高血圧の下限となり,P1はそのころからⅡ度高血圧症となっていたと認められる。本件疾病発症の約6箇月前の平成21年4月8日時点では,第1回目の検査が収縮期血圧192㎜Hg,拡張期血圧が130㎜Hg といずれもⅢ度高血圧に該当する数値であったが,第2回目が収縮期血圧が170㎜Hg でⅡ度高血圧,拡張期血圧が96㎜Hg でⅠ度高血圧であった(原判決21頁23行目以下の表)。 これによれば,P1はE高校に赴任した1年後に血圧がほぼ正常値に戻っており,2年後にはⅡ度高血圧症となっているが,重症であったとまでは認め難い。 イ飲酒についてJACCStudy(文部省の助成を受け,P8教授が昭和63年か ら平成2年に40歳から79歳までの約11万人に病歴や生活習慣についてアンケートをし,約10年間追跡調査した結果に基づくくも膜下出血が原因で死亡する危険因子の研究結果)では,「日本酒換算で一日平均2合以上の多量飲酒者は非飲酒者と比較して,男性では2.08倍の死亡リスクが高くなりましたが,高血圧症・喫煙・脳卒中の家族歴の危険因子を考慮するとリスクは認められませんでした。」とされており(甲A38の2頁),飲酒のみでは危険因子とはいえない。 また,P1は,健康診断の問診票(乙A24)に,1日日本酒を2合(300g)ないし3合(450g)飲むと回答していたが,これは,脳卒中ガイドライン(乙B8)にいう「大量飲酒者(エタノール450g/週以上)」には該当しないし,また,本件疾病の発症前に特にP1の飲酒量が増えていたことを認めるに足りる証拠はない。 ウ小型脳動脈瘤について井川房夫・森田明夫編著「未破裂脳動脈瘤」の「小型未破裂 た,本件疾病の発症前に特にP1の飲酒量が増えていたことを認めるに足りる証拠はない。 ウ小型脳動脈瘤について井川房夫・森田明夫編著「未破裂脳動脈瘤」の「小型未破裂脳動脈瘤」(乙B13の178頁)には,「P9らは,脳動脈瘤の発生からその増大と破裂までの過程を4つのパターンに分類し報告した。タイプ1は動脈瘤の発生後短期間(数日から数カ月)のうちに破裂するもの,タイプ2は発生後経年的に徐々に増大する過程で破裂するもの,タイプ3は発生後経年的に徐々に増大するが破裂しないもの,タイプ4は発生後小さな動脈瘤のまま形もサイズも変化しないもの,この分類に基づき今回のSUAVeStudyの448動脈瘤を振り分けると,タイプ1は未破裂瘤として通常我々が目の当たりすることはないと考えられる。タイプ2は7動脈瘤(1.6%),タイプ3は30動脈瘤(6.7%),タイプ4は411動脈瘤(91.7%)であった。もし,小さな動脈瘤の多くがタイプ1のように発生後短期間のうちに破裂すると考えるなら,小型未破裂瘤の破裂率の低さと日常遭遇する破裂瘤には小型のものが多いという疫学的乖離が説 明できると考えられる。」とし(以下「P9ら見解」という。),また,「P10らは過去の未破裂脳動脈瘤と破裂脳動脈瘤に関する文献によるデータから,動脈瘤の形成から破裂までの期間を独自の数学モデルで計算した。それによると10㎜以下の小型の未破裂瘤に関しては動脈瘤の発生後,数日から長くても8週間の間に破裂する危険性が高く,それ以降は安定し,破裂する率は低下すると報告した。」(178頁)とされている(以下「P10ら見解」という。)。 P9ら見解及びP10ら見解によれば,P1の脳動脈瘤は大きさは脹らみの高さ4.3㎜,根元3.7㎜の小型脳 と報告した。」(178頁)とされている(以下「P10ら見解」という。)。 P9ら見解及びP10ら見解によれば,P1の脳動脈瘤は大きさは脹らみの高さ4.3㎜,根元3.7㎜の小型脳動脈瘤の段階で破裂しているからタイプ1に該当すると考えられる。そして,タイプ1は未破裂瘤として通常我々が目の当たりすることはなく,10㎜以下の小型の未破裂瘤に関しては動脈瘤の発生後,数日から長くても8週間の間に破裂する危険性が高いとされている。 エ P1が本件疾病を発症した機序について上記のP9ら見解及びP10ら見解によれば,タイプ1の小型脳動脈瘤が破裂した場合には,必ずしもその発症の基礎となる血管の病変が長い年月の間に徐々に形成され,進行,増悪する経過を経て発症に至るわけではないから,P1が15年以上前から高血圧症の状態にありながら,その治療を受けなかったとしても,このことにP1の本件疾病の発症の原因を求めることはできないことになる。また,P1に,日本酒に換算すると1日2合から3合程度を毎日飲む習慣があったとしても,本件疾病の発症前に特にP1の飲酒量が増えていたことを認めるに足りる証拠はない。そして,本件疾病発症前1箇月間において,P1が通常の日常の公務と比較して特に過重な公務に従事したものと評価することが相当であることは,上記(原判決35頁2ないし10行目)のとおりである。 そうすると,高血圧症や飲酒の習慣というリスクファクターを抱えてい たP1が本件疾病を発症し,死亡したことが,P1の個体的要因の自然的経過によるものであるとは断じ難く,かえって,本件疾病の発症前にP1が特に過重な公務に従事していたことが本件疾病の発症の原因となったと認めることが相当である。 (3) P1の本件 要因の自然的経過によるものであるとは断じ難く,かえって,本件疾病の発症前にP1が特に過重な公務に従事していたことが本件疾病の発症の原因となったと認めることが相当である。 (3) P1の本件疾病を発症したことの公務起因性についてP1は,E高校の情報処理科の主任として,「情報処理(パソコン実技等)」等5教科を担当し,その責任的な立場にあり,情報処理部の顧問や生徒の実習用パソコン(211台)を含むE高校における情報機器システムの責任的な立場にもあったところ,本件疾病発症前1箇月間は愛知県商業実務総合競技大会,全商協会の情報処理検定,体験入学及び情報処理技術者試験の行事が重なり時間外労働時間は少なくとも95時間35分にも及び,しかも生徒の就職や学校の評価にも関わる情報処理技術者試験及び全商協会の情報処理検定の合格者数を確保するため,本件疾病発症前1箇月間のP1の精神的負担は極めて大きかったと認められるから,P1が本件疾病を発症したのは,E高校の情報処理科の主任としての公務に内在する危険性が現実化したものと評価することが相当であり,P1が本件疾病を発症したことについての公務起因性を肯定すべきである。 第4 結論以上のとおりであって,本件処分を取り消した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第2部 裁判長裁判官孝橋宏 裁判官近田正晴 裁判官剱持亮 晴 裁判官剱持亮

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