平成13(行ス)60 執行停止決定に対する抗告事件(原審・東京地方裁判所平成13年(行ク)第114号)

裁判年月日・裁判所
平成13年12月18日 東京高等裁判所 警察関係
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判決文本文13,335 文字)

主文 1 原決定主文第1項を取り消す。 2 本件申立てを却下する。 3 本件申立費用及び本件抗告費用は、すべて被抗告人の負担とする。 理由 第1 当事者の申立て及び原決定 1 抗告の趣旨主文同旨 2 被抗告人の答弁(1) 本件抗告を棄却する。 (2) 抗告費用は、抗告人の負担とする。 3 原決定の主文(1) 抗告人が平成13年10月3日付けで被抗告人に対して発付した収容令書(同月30日付けで延長後のもの)に基づく執行は、同年11月9日午前10時以降、本案事件(東京地方裁判所平成13年(行ウ)第287号収容令書発付処分取消請求事件)の第1審判決言渡しがあるまでこれを停止する。 (2) 被抗告人のその余の申立てを却下する。 (3) 申立費用は、抗告人の負担とする。 第2 事案の概要本件は、平成13年8月27日付けで、東京入国管理局(以下「東京入管」という。)において、法務大臣に対し、出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)61条の2に基づく難民認定申請をしていた被抗告人が、抗告人に対し、抗告人が平成13年10月3日付けで被抗告人に対して発付した収容令書(以下「本件収容令書」という。)の発付処分の取消しを求める訴えを提起するに際し、これを本案として、第1審判決言渡しまで本件収容令書の執行を停止する裁判を申し立てた事案である。 原決定は、本件申立ては、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)25条3項の「本案について理由がないとみえるとき」には該当せず、かつ、同法25条2項の「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当すると判断し、さらに同法25条3項の「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」との事情をうかがわせる疎明はないと判断し、上記第1の3のとおり本件申立てを認容したので、抗告人が即時 とき」に該当すると判断し、さらに同法25条3項の「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」との事情をうかがわせる疎明はないと判断し、上記第1の3のとおり本件申立てを認容したので、抗告人が即時抗告をした。 1 判断の基礎となる事実本件記録によれば、以下の事実を一応認めることができる。 被抗告人の人定事項等ア被抗告人は、1974年(昭和49年)1月20日に出生したアフガニスタン国籍を有するハザラ人である。 イ別紙「アフガニスタン人に係る出入国状況について」と題する書面(以下「出入国記録」という。)によれば、被抗告人は、1995年(平成7年)1月22日から2000年(平成12年)8月10日まで6回にわたって来日し、最後に同年11月7日に成田空港から出国したと記録されている。被抗告人が過去6回日本に入国した際の乗機地については、イスラマバード、バンコク及びシンガポールと記録されており、出国した際の降機地については、イスラマバード、バンコク及びロサンジェルスと記録されている。なお、被抗告人は、最後の出国時は、成田空港からロサンジェルスではなく成田空港からシンガポールに出国したと供述している。これらの記録によれば、いずれも本邦における在留資格を「短期滞在」として適法に日本に入国し、90日間の在留期間満了の前後で出国していることになる。 ウ被抗告人は、アフガニスタンの公用語であるダリ語及びハザラ語を解するほか、日常会話程度ならば英語も解する。また、数回にわたり来日して中古車部品の買付けをしているため、日本語を少し解する。 エ日本における被抗告人の活動を裏付ける客観的な疎明資料により明らかな事実は、以下のとおりである。 すなわち、被抗告人は、平成10年12月4日、株式会社東京三菱銀(千葉支店扱い)に普通預金口座を開設しており、その預金 人の活動を裏付ける客観的な疎明資料により明らかな事実は、以下のとおりである。 すなわち、被抗告人は、平成10年12月4日、株式会社東京三菱銀(千葉支店扱い)に普通預金口座を開設しており、その預金通帳には、平成12年11月2日までの間に多数回にわたる入出金が記入されており、外為送金による入金としては、同月10日から平成11年2月23日までの間(上記出入国記録では3回目の入国後の在留期間内)に2回、同年6月3日から同年7月19日までの間(同じく4回目の入国後の在留期間内)に1回、平成12年1月31日から同年4月20日までの間(同じく5回目の入国後の在留期間内)に1回、同年8月11日から同年11月2日までの間(同じく6回目の入国後の在留期間内)に2回、少ないときでも80数万円、多いときは300万円近い相当多額の金員が振り込まれている。また、被抗告人は、上記イの最後の出国の前日である平成12年11月6日、生年月日昭和49年○月○日、本籍アフガニスタン、住所佐倉市αということで、千葉県公安委員会から運転免許証の交付を受けているが、この点について、更新の期限が迫っていたので更新しただけでありまた来日するときのため更新しておこうと思ったと供述している。さらに、被抗告人は、平成13年7月26日、佐倉市α他の山林のうち70坪の土地を、栄徳建設株式会社から、賃料は1か月3万5000円、期間は2年、使用目的は資材置場との約定で賃借した。 (2) 日本に入国するまでの経過に関する被抗告人の供述被抗告人は、日本に入国するまでの経過に関し、概要以下のとおり供述している。 ア被抗告人は、1974年(昭和49年)1月20日、父であるa、母であるbの長男として、アフガニスタン、パルワン、スルフ・パールサ、トルクマンで出生し、高校2年生になるまでカブールにある中学、 。 ア被抗告人は、1974年(昭和49年)1月20日、父であるa、母であるbの長男として、アフガニスタン、パルワン、スルフ・パールサ、トルクマンで出生し、高校2年生になるまでカブールにある中学、高校に通っていたが、1992年(平成4年)に内戦が激化したため、マザリシャリフに家族と共に転居し、そこの高校を卒業した後は、父の自動車修理工の仕事を手伝うようになった。 イ被抗告人は、1994年(平成6年)9月ないし10月、アフガニスタンからパキスタンに初めて出国し、父の従兄弟で中古車部品買付けの事業をしていたcから日本で自動車部品を購入して送って欲しいと言われ、同人がしてくれた手続によりパスポートを取得し、日本の在留資格を取得するためイスラマバードに行き、1995年(平成7年)1月ころ、イスラマバードから北京を経由し、成田から日本に入国し、その後、在留期間内に成田から出国し、北京を経由してイスラマバードに到着し、陸路ペシャワール、カブール等を経由してマザリシャリフまで帰った。 その1回目に日本に入国したときは、cから紹介されたアフガニスタン人2人とともに千葉県四街道市に居住し、中古車の部品の買付けを行った。2回目として、同年12月ころにも、ペシャワール、イスラマバード、北京を経由して成田から日本に入国した。 ウ被抗告人は、その後も4回にわたり来日し、上記四街道市のほか、千葉県佐倉市α1423や鎌ヶ谷市などに滞在した。その間、中古車部品を買い付けてそれを輸出する仕事をしていたが、佐倉市α1423の土地を賃借し(上記(1)、エに記載した賃借の前にも賃借していた経過がある。)、そこにコンテナを置いて住居とし、運転免許も取得し、自己名義のトラックを購入しそれを運転して中古車部品の買付けに出かけるなどしていた。 エ 1996年(平成8年)ころ、cは、 していた経過がある。)、そこにコンテナを置いて住居とし、運転免許も取得し、自己名義のトラックを購入しそれを運転して中古車部品の買付けに出かけるなどしていた。 エ 1996年(平成8年)ころ、cは、マザリシャリフからUAEのドバイに事務所を移転し、1997年(平成9年)1月ころ、被抗告人のためにUAEの3年間のビザを取得した。そのため、被抗告人は、マザリシャリフで自動車修理工の仕事をしながら、1年間に3ないし4回、長くて1か月程度、主としてcと打合せをするためUAEに滞在するようになった。ところが、1997年(平成9年)にタリバンがマザリシャリフに進攻し、翌1998(平成10年)年8月ころにもタリバンが進攻してきたことから、タリバンの兵士に連行されて身柄を拘束され、逃走するなどし、さらに、1999年(平成11年)後半にもマザリシャリフの状況が悪化したため、家族とともに出生地であるトルクマンに戻り、父と農作業に従事していた。しかし、そのような状況下においても、ペシャワール、ドバイを経由して中古車部品買付けのため来日していた。 オ被抗告人は、2001年(平成13年)3月ないし4月ころ、タリバンの兵士に連行されて拘束され、いったんは母がタリバンに400ドルを渡してくれたことから釈放されたものの、親戚宅に身を隠している間、父がタリバンに連行され、妹がタリバンの兵士に殺害されたので、母の勧めに従い、母の従兄弟であるdに紹介されたブローカーらの手引きで出国し日本に入国した。すなわち、同ブローカーの手引きでパキスタンのペシャワルまで行き、さらに紹介された別のパキスタン人ブローカーがアフガニスタンの旅券(後に同ブローカーに取り上げられた。)を偽造し、同ブローカーとともに飛行機でカラチに行き、そこからドバイ、香港、韓国のソウルヘと行き、韓国内で約40 のパキスタン人ブローカーがアフガニスタンの旅券(後に同ブローカーに取り上げられた。)を偽造し、同ブローカーとともに飛行機でカラチに行き、そこからドバイ、香港、韓国のソウルヘと行き、韓国内で約40日監禁された後、同ブローカーと2人でプサンにバスで行き、11日間ほど民家に滞在してから同ブローカーの案内で大型貨物船に乗り込み、その後は韓国人船員の案内で、同年7月初めころ、横浜港に上陸した。 上陸後は、出迎えのワゴン車に乗って1時間ほど走ったところで降車し、そこからタクシーで千葉県佐倉市α1423に行き、そこに居住して、cから現金を送ってもらい、解体屋や会社を回って中古車部品を買い付け、これを上記居住地に集め、コンテナに入れてドバイ宛輸出する仕事をしていたものであり、これにより1か月約15万円の収入を得ていた。 (3) 被抗告人の難民認定申請等被抗告人は、平成13年8月27日、東京入管において、同年8月13日ごろに横浜に上陸したなどと申告し、法61条の2に基づく難民認定申請をした。 (4) 本件収容の経緯及び被抗告人の供述ア東京入管は、平成13年10月3日、警視庁及び千葉県警と合同で、千葉県佐倉市α1423を強制調査し、その結果、被抗告人を含むアフガニスタン人ら7名を摘発した。そして、同日、東京入管入国警備官は、被抗告人の違反調査を実施した結果、被抗告人が法24条1号に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして、抗告人から本件収容令書(収容期間は同月3日から同年11月1日まで)の発付を受けてこれを執行し、被抗告人を東京入管の収容場(以下「本件収容場」という。)に収容した(以下「本件収容」という。)上、同月5日、法24条1号に該当する容疑者として東京入管入国審査官に引き渡した。 イ当初、被抗告人は、アフガニスタン人ブローカーであるd(男 容場」という。)に収容した(以下「本件収容」という。)上、同月5日、法24条1号に該当する容疑者として東京入管入国審査官に引き渡した。 イ当初、被抗告人は、アフガニスタン人ブローカーであるd(男、年齢不詳)が手配してくれたことにより、2001年(平成13年)7月23日ごろ、パキスタンのカラチ港で船籍船名不詳の大型船舶に乗船し、同年8月13日ころ、横浜港に到着し入国した、出迎えに来ていたワゴン車に乗せられ、1時間ほどで降ろされてから、タクシーで以前日本にいたときに居住していた千葉県佐倉市α1423のコンテナハウスに行き、そこで中古車部品の解体・販売の仕事をした、そして、ドバイにいる叔父のcの注文に応じて部品の調達、輸出をしており、収入は1か月約15万円であることなどの入国経緯を申告していた。ところが、被抗告人は、引き続いて行われた取調べにおいて、母親の従兄弟であるdと同人が紹介してくれたパキスタン人ブローカーの手引きでパキスタンのペシャワルまで行き、さらに紹介された別のパキスタン人ブローカーがアフガニスタンの旅券を偽造し、同ブローカー一とともに飛行機でカラチに行き、そこからドバイ、香港、ソウルヘと行き、韓国内で約40日監禁された後、ブローカーと2人でプサンにバスで行き、11日間ほど民家に滞在してからブローカーの案内で大型貨物船に乗り込み、その後は韓国人船員の案内で、同年7月初めころ、横浜港に到着したと供述し、入国の経路・方法について大幅に供述を変更するに至った。 (5) 被抗告人と同時に摘発された容疑者の供述等ア被抗告人が摘発された千葉県佐倉市α1423においては、合計7名の容疑者が摘発されているが、そのうち、e及びfは、被抗告人と同様に、千葉県佐倉市α1423を外国人登録上の居住地としており、これにgを加えた3名については、被抗 倉市α1423においては、合計7名の容疑者が摘発されているが、そのうち、e及びfは、被抗告人と同様に、千葉県佐倉市α1423を外国人登録上の居住地としており、これにgを加えた3名については、被抗告人と同様に、複数回にわたり、「短期滞在」との在留資格で適法に来日し、90日間の在留期間満了の前後で出国した旨の出入国状況が記載され、また、それぞれそのような出入国歴を供述しており、かつ、いずれも2001年(平成13年)7月ころ、韓国から横浜港に密入国したと供述しており、同年8月、ほとんど同時期に難民認定申請をしているのである。 イ平成13年10月3日に摘発された容疑者は、アに記載した者を含め、合計13名にのぼり、そのうち12名が本件収容場に収容されているところ、東京都八王子市β所在のアパートにおいて摘発されたkことhは、身柄を収容された当初、ブローカーが用意してくれた偽造旅券を用いて同年5月下旬にパキスタンからタイのバンコク経由でソウルに行き、同年7月上旬、大型貨物船に乗って韓国の港を出航し神戸付近の港に上陸した旨を供述していたが、その後、上記供述は虚偽であり、真実は、同年3月3日に在留資格を「短期滞在」として適法に来日した後、在留期限を徒過して不法に残留したものである旨供述するに至り、旅券を所持して適法に入国した上で不法残留したと言うより初めから不法入国したと言う方が難民認定してもらいやすいと他から聞いたので、同年7月1日に密入国したとの虚偽の事実を述べ、同年8月に難民認定申請した旨及び出入国の記録上、hの弟がhの旅券を使用して出国した旨を供述した。 そして、被抗告人とともに千葉県佐倉市α1423において摘発された者のうち、g及びiは、hと同じく、東京都八王子市β所在のアパートを外国人登録上の居住地としており、jは、hが摘発された八王子 た。 そして、被抗告人とともに千葉県佐倉市α1423において摘発された者のうち、g及びiは、hと同じく、東京都八王子市β所在のアパートを外国人登録上の居住地としており、jは、hが摘発された八王子市β17-33内藤第2ビル302を外国人登録上の居住地としているなど、千葉県佐倉市α1423で摘発された被抗告人らアフガニスタン人とhの間には密接な関係があることが窺われるのであって、そうすると、被抗告人も、hと同様に、難民認定を受けるため、不法残留の事実を隠し、本邦への虚偽の密入国の経緯を述べている可能性があることを否定できない。 ウさらに、被抗告人と同じ日に摘発された者の中には、アフガニスタン人と偽り難民認定申請をしていたパキスタン人2名が含まれている。(6) 被抗告人の収容中における動静等ア被抗告人は、本件収容場に収容される際、食欲不振、筋肉痛及び腰痛を訴えていたものの、本件収容場に収容された後は、平成13年10月30日に心動悸を理由に診療を受け、処方薬の投薬を受けたが、診療所の医師から「次回診療の必要はない」と診断されており、それ以外に体調の不良を訴えて診療を受けるなどしたことはなかった。また、被抗告人は、本件収容場の居室内において、トランプゲームをしたりテレビを見たりペルシャ語を理解する同室者と雑談するなどして過ごしており、官給食の摂食も良好で、シャワーも使用していた。 イちなみに、被抗告人が収容されていた本件収容場では、被収容者に寝具として1人当たりに毛布を、夏期(6月15日から9月15日まで)は3枚以上8枚以下、夏期以外は5枚以上12枚以下貸与しているほか、枕1個、枕カバー、シーツ、毛布カバー各1枚を貸与しており、被収容者から毛布の追加申し出があれば個別に必要枚数を追加貸与している。また、被収容者のシャワー使用は、週2回 上12枚以下貸与しているほか、枕1個、枕カバー、シーツ、毛布カバー各1枚を貸与しており、被収容者から毛布の追加申し出があれば個別に必要枚数を追加貸与している。また、被収容者のシャワー使用は、週2回実施しており、1人当たりのシャワー使用時間は概ね10分程度である。 ウ本件収容場には診療室が設けられており、医師1名が毎週火曜日と金曜日に派遣され、看護婦1名が週5日派遣され、被収容者の申し出等により診療を行っており、定期診療日以外や夜間に医師の診療を要する被収容者が発生した場合は、外部の病院に連絡して病院に連行し、又は救急車の出動要請を行っている。加えて、診療室には、被収容者のため、各種薬剤のほか心電計及び全自動血圧計等が備えられている。 (7) 本件収容令書執行後の状況ア被抗告人は、平成13年10月19日、本件収容令書の発付処分は違法であるとしてその取消しを求める本案訴訟を東京地方裁判所に提起するとともに、本案訴訟の第1審判決の言渡しがあるまで本件収容令書に基づく執行を停止するよう求めて本件申立てをした。抗告人は、同月30日、本件収容令書による収容期間を同年11月2日から12月1日まで延長したが、原審が前記第1の3のとおり執行停止の決定をしたため、被抗告人を釈放した。 イ法務大臣は、上記アの釈放後である平成13年11月27日、上記(3)の難民認定申請につき、被抗告人に対し難民不認定処分をした。2 当番における当事者の主張(1) 抗告人の本件抗告の理由は、平成13年11月21日付け抗告理由書のとおりである。その骨子は、①本件申立ては、執行停止の積極要件である「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件を満たさず、②消極要件である「本案について理由がないとみえるとき」に該当するというものである。 (2) これに対する被抗告 の積極要件である「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件を満たさず、②消極要件である「本案について理由がないとみえるとき」に該当するというものである。 (2) これに対する被抗告人の反論は、2001年12月6日付け相手方意見書(1)、同日付け相手方意見書(2)及び同月11日付け相手方意見書(3)のとおりである。その骨子は、①本件収容及び再度の収容は、ATSD(急性心的外傷ストレス傷害)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)など被抗告人の精神状態に重大な悪影響を及ぼし、耐え難い精神的肉体的苦痛を生じさせる上、難民認定申請に関する被抗告人の主張・立証活動を制約し、かつ、本件収容に伴う被抗告人の深刻な精神状態が難民認定自体にも悪影響を及ぼすから、回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるときに当たると認められる、②被抗告人は、法2条3号の2及び難民の地位に関する条約(昭和56年条約第21号。以下「難民条約」という。)31条に定める「難民」に該当し、本件収容は難民条約31条2項所定の必要な移動の制限に当たらないから、本案について理由がないときの要件を満たさないというものである。 第3 当裁判所の判断当裁判所は、被抗告人の本件申立ては、行訴法25条2項の「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件に該当することの疎明がないから、理由がないものと判断する。そのように判断する理由は、以下のとおりである。 1 「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件該当性本件収容令書の発付処分について、その「処分の執行により生ずる回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件が存するか否かを検討する。 (1) 総論収容令書の執行による収容は、法24条各号に定める退去強制事由のいずれか1つに該当すると疑うに 生ずる回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件が存するか否かを検討する。 (1) 総論収容令書の執行による収容は、法24条各号に定める退去強制事由のいずれか1つに該当すると疑うに足りる相当の理由のある外国人について、その出頭を確保して当該容疑事実の有無の調査を円滑に行うとともに、審査の結果退去強制事由に該当すると認定された場合における退去強制令書の発付、その執行を支障なく行い、その者の送還を確実に実施できるようにするため必要な限度で、当該外国人の身体を拘束しておく手続であって、我が国の外国人に対する出入国管理行政の遂行上必要な手続として法が認めているものである。 したがって、法は、収容令書の執行により被収容者が収容場に収容されてその自由が制限されることやその収容自体がもたらす精神的苦痛等の不利益を受けることを当然に予定しているものというべきところ、そのような自由の制限や精神的苦痛等の不利益が収容による通常の程度のものにとどまる限りにおいては、これによって被収容者が被る損害は事後的な金銭賠償によって回復が図られるべきであり、収容令書の執行の停止を求める申立てにおいて、行訴法25条2項にいう「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当するというためには、上記のような身体拘束による自由の制限や精神的苦痛等の不利益を超え、被収容者の身体的状況、収容場等の環境その他諸般の事情により、収容を不相当とするような特別の損害を被るおそれがあることを要すると解するのが相当である。 この点に関し、被抗告人は、収容は人身の事由を拘束する処分であるから、収容すること自体が「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当する旨を主張するようであるが、採用することはできない。 そこで、被抗告人について、本件収容により、 する処分であるから、収容すること自体が「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当する旨を主張するようであるが、採用することはできない。 そこで、被抗告人について、本件収容により、被収容者が収容に通常伴う程度の自由の制限や精神的苦痛等の不利益を受けるにとどまらず、収容又は収容の継続を不相当とするような特別の損害を被るおそれがあるか否かをさらに立ち入って検討する。 (2) 被抗告人に対する自由の制限及び被抗告人の被る精神的苦痛等の程度ア被抗告人は、本件収容は、ATSDやPTSDなど被抗告人の精神状態に重大な影響を及ぼし、耐え難い精神的肉体的苦痛を生じさせるから、回復困難な損害を避けるため緊急の必要がある旨を主張し、被抗告人について、病名は①PTSD、②精神不安症、③不眠症であり、本件収容易に拘束されてから症状はさらに悪化するようになったもので、今後いかなる場合でも症状の悪化を防ぐため拘束はすべきでないとの記載がある診断書を提出している。 しかしながら、被抗告人が収容されていた本件収容場では、前記第2の1、(6)のとおり、寝具として相当量の毛布、枕、枕カバー、シーツ、毛布カバー等が貸与され、被収容者のシャワー使用は、週2回で1回につき10分程度実施されており、特に衛生上問題があるとは認められないし、各種薬剤が常備されている診療室には、定期的に医師及び看護婦各1名が派遣され診療を行っており、定期診療日以外や夜間であっても、医師の診療を要する被収容者が発生した場合は外部の病院に連行しているなど、被収容者の健康管理上も特に問題は見られない。 そうすると、本件収容場においては、その環境が過酷であって人道上容認し難いような状況にあるということはできず、他に本件収容場がそのような状態にあることを認めるに足りる疎明はない。 また、 ない。 そうすると、本件収容場においては、その環境が過酷であって人道上容認し難いような状況にあるということはできず、他に本件収容場がそのような状態にあることを認めるに足りる疎明はない。 また、被抗告人に対する上記各診断書には、病名として、(1)PTSD、(2)精神不安症、(3)不眠症と記載されているが、上記第2の1、(6)のとおり、被抗告人は、心動悸を訴えて1回投薬を受けているが、それ以上に体調の不良を訴えて診療を受けるなどしたことはなかったし、居室内においても、トランプゲームをしたりテレビを見たりペルシャ語を話す同室者と雑談するなどして過ごしていたものであり、上記各疾病の症状に悩まされていた形跡はない。仮に、これらの疾病による症状があらわれたとしても、投薬、医師の診察及び速やかに外部の病院に連行することが可能であること等本件収容場の健康管理体制に照らすと、本件収容の継続が被抗告人の健康にとって看過し難い状態をもたらし、被抗告人に精神的肉体的に耐え難い苦痛を与えると認めることは困難である。 なお、上記診断書には、今後いかなる場合でも本件収容場での拘束をすべきでないという医師の意見にわたる記載があるが、本件収容場の健康管理体制を的確に把握した上での意見かどうか疑問が残るところであるから、これをもって本件収容により通常の程度を超える著しい不利益が生じると認めることはできない。 イ以上のとおり、被抗告人は、本件収容によって、自由が制限され精神的苦痛等を被ることがあったとしても、それだけでは収容を不相当とするような特別の損害を被るおそれがあるということはできない。 (3) 難民認定申請及び難民該当性に関する影響ア次に、被抗告人は、法2条3号の2及び難民条約31条に定める「難民」に該当すると主張して難民認定申請をしているところ、本件収容は、 ことはできない。 (3) 難民認定申請及び難民該当性に関する影響ア次に、被抗告人は、法2条3号の2及び難民条約31条に定める「難民」に該当すると主張して難民認定申請をしているところ、本件収容は、訴訟代理人との十分な打合せを含め難民認定申請に関する被抗告人の主張・立証活動を制約し、本件収容に伴う被抗告人の深刻な精神状態が難民認定自体に悪影響を及ぼすから、回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるときに当たると主張する。 イそこで検討するに、まず、被収容者は、訴訟代理人である弁護士との面会(被収容者処遇規則33条1項2号)や保安上支障があると認められない通信文の発受(同規則37条)等を認められており、被抗告人がこれらの権利を行使して訴訟代理人である弁護士と面会し、連絡を取り、難民認定申請手続及び退去強制手続において必要な打合せや証拠資料の収集を行うことは十分可能であるし、法務大臣は、難民認定の申請人が提出した資料のみでは適正な難民認定ができないおそれがある場合、その他難民の認定に関する処分を行うため必要がある場合には、難民調査官に事実を調査させることができ(法61条の2の3第1項)、難民調査官は、上記調査のため必要があるときは、申請人の供述のみならず、関係人に対し、出頭を求め、質問をし、又は文書の提示を求めたり(同条の2の3第2項)、公務所等に照会して必要な事項の報告を求めることができる(同条の2の3第3項)ものとされているのであって、これらを考慮すると、本件収容により被抗告人の上記権利行使及び上記各手続に関する準備・立証活動が通常の収容に伴う制約を超えて著しく妨げられるとまで認めることはできない。 ウまた、被抗告人は、本件収容に伴う被抗告人の深刻な精神状態が被抗告人の難民認定に悪影響を及ぼすと主張するが、被抗告人は、前記第2の1、 う制約を超えて著しく妨げられるとまで認めることはできない。 ウまた、被抗告人は、本件収容に伴う被抗告人の深刻な精神状態が被抗告人の難民認定に悪影響を及ぼすと主張するが、被抗告人は、前記第2の1、(1)ないし(5)のとおり、過去6回にわたり在留資格を「短期滞在」として適法に日本に入国した経過を反覆しているが、いずれも中古車部品を買い付けて輸出する事業に従事していたこと、しかも、銀行に預金口座を開設し、相当多額の外為送金による入金やその預金の出し入れ等をしており、千葉県佐倉市α1423に土地を賃借し、そこに住居及び買い付けた部品の資材置場を確保し、運転免許を取得するなど、我が国において継続的かつ活発に上記事業活動を行っていたこと、しかも、アフガニスタンで父がタリバンに連行され妹がタリバンの兵士に殺害されたため、自らも命からがら出国して日本に上陸した旨供述していながら、上陸後2月近く難民認定申請を行わず、これまで来日したときと同様の事業活動を行っていること、被抗告人を含め、平成13年10月3日に摘発された容疑者の間には、密接な関係があり、不法入国したとの被抗告人の供述の信用性に疑いを生じさせる事情も見られることなどの事実が一応認められるのであり、これらの事実を総合すると、被抗告人の本邦への入国及び在留は、本邦内において中古車部品の買付け及びその輸出という事業に従事し、又は他の可能な事業につき稼働・就労することを目的とするものと推認することができる。 そうすると、本件収容に伴う被抗告人の精神状態が被抗告人の難民認定に否定的ないし消極的な影響を及ぼすものとは到底解されない。 エ以上のように、本件収容は難民認定申請に関する被抗告人の主張・立証活動を著しく制約するとまでいうことはできず、被抗告人の精神状態が難民認定自体に悪影響を及ぼすと認める すものとは到底解されない。 エ以上のように、本件収容は難民認定申請に関する被抗告人の主張・立証活動を著しく制約するとまでいうことはできず、被抗告人の精神状態が難民認定自体に悪影響を及ぼすと認めることも困難である。そして、上記第2の1、(7)、イのとおり、平成13年11月27日、法務大臣が被抗告人に対し難民不認定処分をしているのであり、この点との関連でも、本件収容を不相当とする特別の損害を被るおそれがあると認めることはできない。 (4) 上記(2)及び(3)の認定判断のとおり、本件収容令書の執行に基づく被抗告人の本件収容を不相当とするような特別の損害の発生を避けるため緊急の必要があるということはできず、本件記録を仔細に検討しても、他にそのような特別の損害の発生を避けるため緊急の必要があることの疎明資料はないから、本件においては、行訴法25条2項にいう「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件に該当することについての疎明はないというべきである。 そうすると、被抗告人は、他にも本件申立てにつき行訴法上の執行停止要件の該当性についてるる主張しているが、それらについて判断するまでもなく、本件申立ては、理由がないことに帰する。 2 結論以上の次第であるから、本件収容令書の執行停止を求める本件申立ては、理由がなく、却下を免れないところ、平成13年11月9日午前10時以降という始期を付したとはいえ、本件申立てを認容した原決定主文第1項は不当であり、本件抗告は理由があるから、原決定主文第1項を取り消し、本件申立てを却下し、本件申立費用及び本件抗告費用につき行訴法7条、民事訴訟法67条2項、61条を適用してこれらをすべて被抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。 東京高等裁判所第9民事部裁判長裁判官雛形要松裁判官小林正 件抗告費用につき行訴法7条、民事訴訟法67条2項、61条を適用してこれらをすべて被抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。 東京高等裁判所第9民事部裁判長裁判官雛形要松裁判官小林正裁判官萩原秀紀

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