主文 1 原判決を取り消す。 2 本件を東京地方裁判所に差し戻す。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 主文第1項と同旨 2 被控訴人は、控訴人に対し、1億8194万円及びこれに対する平成30年11月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(略称は、原判決のものを用いる。) 1 本件は、控訴人が、被控訴人の信者から違法な勧誘を受け、献金等をさせられたとして、被控訴人に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、1億8194万円及びこれに対する不法行為の後の訴状送達日の翌日である平成30年11月8日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 被控訴人は、これに対し、本案前の答弁として、控訴人との間で不起訴の合意が成立しているとして本件訴えの却下を求めるとともに、被控訴人の信者による違法な勧誘はなく、また、控訴人による献金の事実もないとして、控訴人の請求を争った。 原審は、控訴人及び被控訴人を含む関係当事者との間で平成27年6月5日付けの本件合意書第4項において「将来にわたり献金等返還請求・損害賠償請求など裁判上・裁判外を問わずいかなる請求も行わない」旨の合意(本件不起訴合意)がされたことが認められ、同合意が公序良俗違反又は錯誤を理由に無効であるとは認められないとして、本件訴えは本件不起訴合意により訴えの利益を欠き不適法なものと判断し、これを却下する旨の判決をした。 控訴人は、原判決を不服として控訴した。 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正するほか は、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」2ないし6に記載のとおりであるから、これを引用す 控訴した。 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正するほか は、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」2ないし6に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑴ 原判決2頁12行目の「平成7年5月から、」の次に「Aが昭和36年に創業した」を、同頁13行目の末尾に「なお、控訴人は、株式会社Bの取締役に登記されているが、実際には同社の経営に携わっていない。」をそれぞれ加える。 ⑵ 原判決4頁5行目及び同頁8行目の「本件不起訴合意等の有効性」をいずれも「本件不起訴合意等の成否及び有効性」と改める。 ⑶ 原判決4頁22行目の末尾に「そして、Cは、平成19年1月19日、上記不動産に産興社のために極度額を7500万円とする根抵当権を設定した。」を加える。 ⑷ 原判決5頁19行目の末尾に「したがって、控訴人らは、本件合意書の内容について合意する意思をもって署名押印したものではない。」を加え、同頁24行目の冒頭に、「控訴人は、上記⑴オのとおり、本件合意書に記載された合意をしていない。仮に合意をしているとしても、」を加える。 ⑸ 原判決6頁16行目の「降りかかる」の次に「、色情因縁は血統であり上から来ているものであるので、止めないと子供や子孫に悪いことが起こる」を加え、同頁17行目の「献金をし、物品を購入して」を「多額の献金をし、高額な物品を購入して」と改める。 ⑹ 原判決6頁18行目の末尾を改行して、次のとおり加える。 「 控訴人は、D家の色情因縁から先祖を解放しないといけない、そうしなければ家族に不幸が起こるという不安をずっと持ち続けており、原罪を贖罪して地上天国を実現するためには神の言うとおりにしなければならず、再臨のメシアの言うとおりにすることが自分や家族、世界を救う道であるという話を教え 起こるという不安をずっと持ち続けており、原罪を贖罪して地上天国を実現するためには神の言うとおりにしなければならず、再臨のメシアの言うとおりにすることが自分や家族、世界を救う道であるという話を教え込まれ、すっかり信じ込んでいた。そうして、控訴人は、自分の家族、子供たちに先祖の因縁から来る不幸が降りかからないように、 先祖の因縁を断つため、被控訴人の言うとおりにしなければならないと思い込んでいた。このように、家族を早死に等の不幸から守るために、被控訴人の指示どおり、どんな高額な献金でもしなければならない、被控訴人の言うとおりにしなければならないということは、控訴人にとって絶対的な規範となっていた。」⑺ 原判決7頁25行目の末尾に「このような信者であるうちに心理的強制の下に債権を放棄させ、不起訴等の合意をさせても有効であるとするのであれば、この手法によって今後脱会後、心理的強制の下に多額の献金をした元信者の救済は一切図られないことになるのであり、明らかに正義に反する。」を加える。 ⑻ 原判決8頁5行目の「していなかった。」の次に「控訴人は、献金の返金を請求すれば家族に早死に等の不幸が起こると思っており、法律上献金の返金請求をすることはできても、それによって起こる家族の不幸を考えれば、返金の請求をすることはできないと考えていた。」を加える。 ⑼ 原判決10頁6行目の「そして、」の次に「過去には、信仰を失った被控訴人の元信者が「畏怖誤信・欺罔脅迫によって献金をさせられた」などと虚偽の主張等をして無用の紛争を起こす事例があったところ、」を加える。 ⑽ 原判決10頁21行目の「しなければならない」の次に「、献金の返金を請求すれば、家族に早死に等の不幸が起こる」を加え、同頁22行目の末尾に「控訴人は、自らの意思で主体的に信仰生活を送 加える。 ⑽ 原判決10頁21行目の「しなければならない」の次に「、献金の返金を請求すれば、家族に早死に等の不幸が起こる」を加え、同頁22行目の末尾に「控訴人は、自らの意思で主体的に信仰生活を送り、様々な教会活動を熱心に行っていたのであり、何らの心理的強制も受けていない。」を加える。 ⑾ 原判決12頁13行目の「献金」から同頁14行目の「なかった」までを「法律上献金の返金請求をすることはできても、それによって起こる家族の不幸を考えれば、返金の請求をすることはできないと考えていた」と改める。 ⑿ 原判決15頁1行目の「石板」の次に「(功労牌)」を加える。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は、本件不起訴合意等のうち、本件不起訴合意は、その効力を生じないか、公序良俗に反し無効であると認められるから、同合意を理由に本件訴えが訴えの利益を欠くものということはできないと判断する。その理由は以下のとおりである。 2 認定事実前提事実(補正の上で引用した原判決第2の2)のほか、証拠(甲17、26の1及び2、甲33、35、43の3、甲49、50、乙1の1及び2、乙2、4から7まで、23、43、証人C、証人E、証人F、控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。 ⑴ 本件合意に至るまでの経緯ア控訴人は、昭和58年10月、被控訴人の信者であるGが自宅を訪問したことを契機に、ビデオセンターに通うようになり、被控訴人の信者となった。その後、控訴人は、家族に対して被控訴人の教義を伝道するようになり、昭和61年頃にはAが、その後、C、H及びIが、被控訴人の教義を信仰するようになった。 イ控訴人は、平成2年、被控訴人のJ教会の本部長であるKから、被控訴人は銀行から借入れをすることができないので、「 1年頃にはAが、その後、C、H及びIが、被控訴人の教義を信仰するようになった。 イ控訴人は、平成2年、被控訴人のJ教会の本部長であるKから、被控訴人は銀行から借入れをすることができないので、「絵画購入のため」などと使途を偽って銀行から金を借りて、それを被控訴人に貸してほしいとの依頼を受けた。当時被控訴人に入信していたAは、同依頼に応じ、自宅の土地建物(以下「本件不動産」という。)に根抵当権を設定した上で、銀行から2億1000万円を借り入れ、全額を被控訴人に貸し付けた(Aが平成7年に死亡した後は、Cが根抵当権設定者となった。)。AないしCは、被控訴人から支払われる返済金をそのまま銀行に支払っていたが、最終的に、平成18年5月までに被控訴人による返済が完了し、根抵当権設定登記も抹消された。 ウ Cは、平成12年2月から株式会社Bの所有する建物の2階の一部と3 階を被控訴人のL教会(当時の名称は「M教会」。以下、時期を問わず「L教会」という。)に礼拝堂等として無償で提供(献堂)するほか、L教会が使用する部分の水道光熱費を負担するようになった。 エそうしたところ、平成18年当時、L教会の教会長であったFは、被控訴人の信者から同教会が借りた金について強く返済を迫られていたことから、その返済資金等に充てるため、Cにおいて本件不動産に担保を設定してもらって、返済資金を借りてもらうことを計画した。Fは、Cに対し、その旨を申し入れたところ、Cは、株式会社Bの経営が苦しくなっていたことから、借入金の半分を自らが使用すること、上記ウの賃料相当額や水道光熱費についてもL教会において負担してもらうことにし、その負担分を自己の借入金の返済に充てることを条件に、上記申入れに応じることにした。 Cは、平成19年1月19日付けで、産興社から50 水道光熱費についてもL教会において負担してもらうことにし、その負担分を自己の借入金の返済に充てることを条件に、上記申入れに応じることにした。 Cは、平成19年1月19日付けで、産興社から5000万円を借り入れた(以下「本件借入金」という。)。産興社は、同日付けで、控訴人及びCが共有していた本件不動産に極度額を7500万円とする根抵当権を設定した。 Fは、Cに対し、同日付けで、「L教会(教会長F)はC氏より金二千三百五十万円をお借り致しました。返済は月額百万円を目標に必ずいたします。尚、産興社より借りた五〇〇〇万に対する金利分は教会が負担することにより、家賃にあてさせていただきます。」と記載され、Fの署名押印のある書面(乙2)をCに差し入れた。なお、Cは、本件借入金のうち2500万円を自らの借入れの返済に充てた。 オ Fは、上記エの書面にあるとおり、L教会は本件借入金の約半分について支払義務を負うという認識であったが、Cはある時点から本件借入金の全額をL教会が返済する約束であると主張するようになった。L教会は、本件合意に至るまでに、Cからの借入金の弁済として509万9000円 を支払っており、本件合意時における当該債務の残金は1840万1000円であった。 カ控訴人は、平成22年1月に本件不動産の共有持分各10分の1をH及びIにそれぞれ贈与した。その結果、本件不動産は、C、H及びI3名の共有となった。 ⑵ 本件合意書の作成経過等ア Cは、平成27年5月の時点で、産興社から本件借入金の返済を迫られていた。そこで、Fは、Cと協議して、L教会が本件借入金の返済金を負担することによってCから産興社への返済を可能にし、本件不動産の根抵当権を外すことに協力することとした。 イこれを受けて、同年6月1日、被控訴人の本 、Cと協議して、L教会が本件借入金の返済金を負担することによってCから産興社への返済を可能にし、本件不動産の根抵当権を外すことに協力することとした。 イこれを受けて、同年6月1日、被控訴人の本部にある法務局業務部の部長の地位にあるNは、本件合意書の文案を作成し、合意の当事者である6人分を印刷し、被控訴人の署名欄に押印した上で、L教会に送付した。Nは、同日、産興社に対する本件借入金の返済と本件不動産に対する根抵当権の抹消登記手続に関して、その決済当日(同月5日)の段取りを記載した最終確認書(乙5)を作成し、被控訴人の関係者に送付した。最終確認書には、控訴人の氏名の記載はなく、同月5日時点での産興社に対する精算金は4050万7156円であるとの記載がある。 ウ Nは、同月2日、O弁護士に対し、「Dの件、6/5予定」という件名で、「Dとの合意書については、教会で記名押印した書面をPに送ってあります。それにD側が押印して当日、持参する予定になっています。また、債務承認弁済契約書も記名押印して持参する予定です。」と記載されたメール(乙6)を送信した。 エ決済当日である同月5日午前10時、スイスホテルのロビーにおいて、O弁護士の立会いのもと、L教会関係者からCに対し、紛争解決金として4050万7156円が支払われ、Cはこれを受領した旨のF宛ての受領 書(乙23)を差し入れた。その後、Cは、同日午前11時頃、本件借入金の返済のため、上記金額を産興社宛てに振り込み、これによって、産興社の本件不動産についての根抵当権設定登記は抹消された(なお、同日、スイスホテルのロビーにH及びIがいたことは争いがないが、控訴人がいたことを認めるに足りる的確な証拠はない。)。 オ本件合意書の作成日と同じ同月5日付けで、C及び被控訴人のQ教区信者会 、同日、スイスホテルのロビーにH及びIがいたことは争いがないが、控訴人がいたことを認めるに足りる的確な証拠はない。)。 オ本件合意書の作成日と同じ同月5日付けで、C及び被控訴人のQ教区信者会信徒代表のRを当事者とする本件債務承認弁済契約書(甲33、乙4)が作成された。同契約書の書式はNがあらかじめ準備したものであり、その内容はRがCに対して平成25年4月に貸し付けた1525万円及び平成26年5月に貸し付けた350万円の合計1875万円について、CがRに対して支払義務があることを相互に確認し、CはRに対して返済することを約束するというものであるが、RのCに対する上記各貸付金の交付の事実を証する証拠はなく、Cは、同書面に署名押印したことは認めているが、Rを知らず、同人ないし被控訴人の信者から金を借りた認識はない旨供述している。 ⑶ その他の関連する事情ア控訴人は、本件訴訟においては、聖本代金1億2000万円、天運石代金2000万円、天聖経代金2150万円及び石板代金90万円について、被控訴人の違法な勧誘により購入させられた旨主張しているが、上記の物品の購入以外の献金を含めれば、被控訴人に対して5億円を超える金額を献金していると主張している。 イ被控訴人は、上記アの控訴人の主張事実を否認し、聖本については控訴人の被控訴人に対する献金以外の貢献により授与されたものであるなどと反論している。 ウ平成27年6月5日付けの本件合意書が作成された時点で、控訴人らの間で被控訴人に対する献金に法律上の問題があることが話題になっていた ことはうかがわれず、控訴人が被控訴人との間で献金の返金について協議をした事実や、被控訴人に対して献金の返金等の請求をしていたなどの事実はなく、献金についての法律上の紛争が顕 になっていた ことはうかがわれず、控訴人が被控訴人との間で献金の返金について協議をした事実や、被控訴人に対して献金の返金等の請求をしていたなどの事実はなく、献金についての法律上の紛争が顕在化していたとは認められない。 3 争点1(本件不起訴合意等の成否及び有効性)について⑴ 本件合意書について、控訴人はその意思に基づいて署名押印したものであるから、同合意書は真正に成立したものと認められ、同合意書によれば、控訴人と被控訴人との間で本件不起訴合意等がされたものと認められる。 ⑵ 本件合意書の有効性本件合意書は、第1項で、FとCの間で、FがCに対して4050万7156円の支払義務があることを認め、平成27年6月5日付けでCに対して同金員を支払うとし、第2項で、控訴人らは、第1項に定める以外に「Fとの間に」一切の債権債務が存在しないことを相互に確認するものである。本件借入金の借主はCであるが、借入れについてはCの家族である控訴人らも本件不動産に根抵当権が設定されていたことなど、一定の利害関係を有することからすると、第1項の金銭支払債務に関し、Cだけでなく、控訴人らとの間で清算合意をすること自体には一応の合理性が認められる。 しかしながら、控訴人らが被控訴人に対し献金等の返還を求めていたなどの状況にはなく、この点について何ら紛争が顕在化していない中で、本件借入金の処理をめぐるFの4050万7156円の支払債務のほかに、控訴人らが被控訴人に対し行った献金等を含め、その名義いかんを問わず、「被控訴人との間に」一切の債権債務が存しないことを確認する旨の本件清算合意(第3項)については、被控訴人において一方的に入れた合意条項であって、被控訴人においてはともかく、控訴人らにおいて直ちにはこのような合意をする必要性、相当 が存しないことを確認する旨の本件清算合意(第3項)については、被控訴人において一方的に入れた合意条項であって、被控訴人においてはともかく、控訴人らにおいて直ちにはこのような合意をする必要性、相当性があるものとは認め難いもので、同条項が和解合意であるとすれば、合意当時において、「争いの目的である権利」の存在を欠くもので あるとの疑いもある。ましてや、本件合意書第1項のFのCに対する義務が履行される限り(前記2⑵のエのとおり、第1項の支払義務は履行されている。)、控訴人らは「F又は被控訴人に対し」、「将来にわたり献金等返還請求・損害賠償請求など裁判上・裁判外を問わずいかなる請求も行わない」との本件不起訴合意(第4項)は、その文言上、紛争解決において定型的に用いられる形式文言である上、実体法上の権利の存否について、裁判で争うことも許されないという重大な効果をもたらすものであり、法律上の知識が不十分な控訴人において、合意の効果を十分に理解できなかったとしてもやむを得ない条項であるといえるし、本件合意書において、不起訴合意の対象となる法的紛争について、被控訴人において、何らかの譲歩をして、実体的な合意をしたものでもないのに、本件借入金に関する紛争とは何ら関係のない紛争についてまで不起訴合意の効果を認めることは、控訴人の合理的意思にそぐわないものといえる。そうである以上、控訴人が本件不起訴合意の意味内容を正しく理解していたかは疑問であり、その趣旨の法的効果を生じないとするなど、限定的に解釈すべきものであるといえる。 ⑶ 本件不起訴合意の有効性(公序良俗違反の有無)この点、本件不起訴合意等のうち本件不起訴合意については、上記⑵で説示した事情及び後記ア及びウの事情によれば、当事者の合理的意思として、不起訴の合意としての効力を生じな 効性(公序良俗違反の有無)この点、本件不起訴合意等のうち本件不起訴合意については、上記⑵で説示した事情及び後記ア及びウの事情によれば、当事者の合理的意思として、不起訴の合意としての効力を生じないものと解するのが相当である。その上で、なお、以下において、本件の審理の経過に鑑み、本件合意書をその文言どおりに解釈した場合に公序良俗に違反するといえるかを検討する。 ア目的について(理由①に関して)前記認定のとおり、本件合意書は、本件借入金についての権利義務に関する清算を主たる目的とするものであるところ、当該権利義務とは関係のない控訴人の被控訴人に対する献金等の返還請求や損害賠償請求について、何らの紛争が顕在化していない状況にあるのに、法律的な知識も十分では ない被控訴人の信者である控訴人との間で、被控訴人において一方的に将来の裁判上、裁判外を問わずいかなる請求も行わない旨の不起訴合意をさせたというもので、紛争を解決した上で、解決した紛争につきその後更に紛争が生じることを防止するという本来の不起訴合意の目的を逸脱するものといわれてもやむを得ないものである。 被控訴人は、将来の無用の紛争を防止する趣旨であると主張するが、本件不起訴合意を含む本件合意書において控訴人の被控訴人に対する献金等返還請求や損害賠償請求について何らかの解決が図られているわけではないのであるから、本件合意書で解決していないことについて、およそ裁判上・裁判外を問わずいかなる請求もすることはできないとする本件不起訴合意は、一方的に控訴人の裁判による権利救済を否定するという効果を生じさせるものとして、合理性を欠くものである。 イ控訴人の心理状態について(理由②に関して)控訴人は、本件合意書は控訴人が被控訴人の要求 判による権利救済を否定するという効果を生じさせるものとして、合理性を欠くものである。 イ控訴人の心理状態について(理由②に関して)控訴人は、本件合意書は控訴人が被控訴人の要求を拒否できない心理状態にあることに乗じて締結されたものであると主張する。 控訴人が、本件合意書の作成時点で、被控訴人の主張するようにいわゆる自然脱会の状態にあったことを認めるに足りる証拠はなく、本件訴訟で主張する物品の購入等の時期は平成20年より前であること、Aの死後、株式会社Bの経営は苦しくなっており、従前のように多額の献金等をすることは難しくなっていたものと思われるから、控訴人は被控訴人との間に一定の距離を置くようになっていたことがうかがわれるが、そうだからといって控訴人と被控訴人及びその信者との関係がなくなっていたものとは認められず(乙27の1ないし20)、控訴人本人も、教会には通わなくなっていたが、被控訴人の教えは信じており、家庭で勉強会を行っていたと供述しているから、本件合意書の作成当時、控訴人は一定の限度で被控訴人の心理的影響下にあったものと認めるのが相当である。 ウ控訴人に対する意思確認及び説明の有無について(理由③に関して)本件合意書の作成に当たり、控訴人が被控訴人から説明を受けたか、受けたとしてその程度・内容については争いがあるところ、平成27年6月5日にスイスホテルでO弁護士が控訴人に対し本件合意書の内容について説明をしたという被控訴人の主張に関し、Nが作成した最終確認書(乙5)には、C、H及びIの記載があるものの、控訴人の記載は全くなく、E、Fの両名とも、具体的な説明の内容については分からないと証言しているから(証人E、同F)、被控訴人の上記主張を前提にしても、O弁護士が少なくとも控 Iの記載があるものの、控訴人の記載は全くなく、E、Fの両名とも、具体的な説明の内容については分からないと証言しているから(証人E、同F)、被控訴人の上記主張を前提にしても、O弁護士が少なくとも控訴人の理解できる程度に本件合意書の内容について予め説明したものとは認められない。 特に、本件合意書においては、本件借入金に関して、Cとの間で合意がされているものの、控訴人の被控訴人に対する献金等の返還請求や損害賠償請求について被控訴人が何らかの譲歩をした上で本件不起訴合意等をしたものではない上、本件不起訴合意等については、将来にわたり、献金等の返還請求などの実体法上の請求権のみならず、献金等の返還請求や賠償請求に係る訴権を放棄するという重大な効果をもたらすものであるから、将来的に献金の返還等の請求をする意思を有しているかを確認することが必要であると解されるが、O弁護士を含め、被控訴人の関係者がその旨を控訴人に説明して確認をした事実は認められない(Eは、本件合意書の内容についてCに説明したと証言するが、Cに対しても、控訴人に対しても、献金の返金請求の意思があるかを確認したことはない旨証言している。)。 そして、前記2⑵のとおり、本件借入金をCが産興社に返済したことにより、本件不動産について同社の根抵当権が消滅し、競売等により自宅である本件不動産を失うというリスクがなくなったことは、控訴人にとって大きな利益であり、控訴人は被控訴人に恩義を感じていた可能性はあるが、もともと本件不動産に設定された根抵当権は、L教会の借入金返済資金を 借りる目的で設定されたものであり、同根抵当権の抹消は控訴人にとっては当然のことであったと理解できるものといえる。 そうすると、本件合意書の項目は全部で4項で、A4用紙1枚に収まる内容であることを で設定されたものであり、同根抵当権の抹消は控訴人にとっては当然のことであったと理解できるものといえる。 そうすると、本件合意書の項目は全部で4項で、A4用紙1枚に収まる内容であることを考慮しても、控訴人がそのうちの本件不起訴合意の持つ法的意味を十分に理解した上で、本件合意書に署名押印したものとは認められない。 エ本件債務承認弁済契約書について(理由④に関して)控訴人は、被控訴人は本件不起訴合意等により控訴人らからの将来の返金請求を防ぎつつ、被控訴人のCに対する債権については、Rの債権であるとして本件債務承認弁済契約書を作成し、信者会名義を使用してCへの債権を保存していることが一方的であり不当であると主張する。 この点、本件債務承認弁済契約書で承認され、弁済することが約されたのは、Cの債務であって、控訴人の債務ではない。しかし、控訴人とCは親子であり、控訴人が被控訴人に入信し、控訴人が伝道してCも被控訴人の教義を信じるようになったこと(前記2⑴のア)からすると、被控訴人との関係においては、控訴人とCは経済的に一体であるといえる。しかも、本件債務承認弁済契約書の書式はNが準備したものであり、O弁護士宛てのメールにも記載されていること(前記2⑵のウ)、Cは、本件債務承認弁済契約書に記載されたRに対する借入金債務について、Rから借り受けた事実はなく、同契約書は、被控訴人の信者であるSから言われるままに署名押印したもので、R本人も全く知らない人であると述べていること(甲49、証人C)からすると、被控訴人は、自らの意図する権利義務関係を控訴人らとの間で形成するため、本件合意書と本件債務承認弁済契約書をセットにして、控訴人らに署名押印させる意思であったことが明らかである。 そうすると、控訴 自らの意図する権利義務関係を控訴人らとの間で形成するため、本件合意書と本件債務承認弁済契約書をセットにして、控訴人らに署名押印させる意思であったことが明らかである。 そうすると、控訴人らは本件不起訴合意により将来にわたり名目のいか んを問わず被控訴人に対し、裁判上・裁判外の請求をすることができなくなるのに対し、被控訴人は、Rないし信者会の名をもって本件債務承認弁済契約書に記載された合計1875万円について裁判上・裁判外を問わずCに請求をすることができるということになるから、控訴人らに一方的に不利な内容というべきであり、明らかに均衡を欠くものである。 オ本件不起訴合意等のもたらす結果について(理由⑤に関して)控訴人は、平成15年2月の時点で、被控訴人に対する献金額は5億円を超えていた旨主張し、本件訴訟では、このうち除斥期間が経過しておらず、立証が比較的容易であるという聖本代金等1億6240万円について請求の対象としているところ、本件不起訴合意は、上記の控訴人の請求について、裁判所において判断を受ける機会すら失わせるものであり、これが有効であるとすると正義に反する結果を招くものといわざるを得ない。 ⑷ 小括以上によれば、本件不起訴合意等のうち、本件不起訴合意については、合理性、相当性を欠き、控訴人らに著しく不利益な内容といえるから、公序良俗に違反し、無効である(民法90条)。 4 結論そうすると、本件不起訴合意は、その効力を生じず、また無効であるから、控訴人は本件訴えについて訴えの利益を有するというべきところ、これと異なり、本件不起訴合意により控訴人は訴えの利益を有しないとして本件訴えを却下した原判決は相当ではなく、本件控訴は理由がある。そして、本件清算合意の効力及び控訴人に を有するというべきところ、これと異なり、本件不起訴合意により控訴人は訴えの利益を有しないとして本件訴えを却下した原判決は相当ではなく、本件控訴は理由がある。そして、本件清算合意の効力及び控訴人による献金の有無等の本案について更に審理を尽くさせるため、原判決を取り消して、本件を東京地方裁判所に差し戻すこととする。 よって、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第5民事部 裁判長裁判官木納敏和 裁判官和久田道雄 裁判官上原卓也
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