令和2(ワ)2916 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年2月3日 札幌地方裁判所
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判決文本文11,657 文字)

- 1 -判決 主文 1 被告は、原告に対し、110万円及びこれに対する令和2年1月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は、炭鉱において労働に従事し、じん肺により死亡したA(以下「亡A」という。)の相続人である原告が、被告に対し、被告が粉じん発生防止策の速やかな普及、実施を図るために鉱山保安法に基づく規制権限を行使することを怠ったことが違法であり、これにより亡Aが損害を被ったと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金110万円及びこれに対する令和2年1月3日(死亡日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(一部請求)事案である。 1 前提事実(証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)⑴ じん肺についてじん肺とは、粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病をいう(じん肺法2条1項1号)。 ア胸部エックス線写真像の区分じん肺法4条1項は、じん肺の胸部エックス線写真像を第一型から第四型まで次のように区分している。 - 2 -(ア) 第一型両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの(イ) 第二型両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの(ウ) 第三型両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が極めて多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの(エ) 第四型大陰影があると認められるものイ管理区分じ と認められるもの(ウ) 第三型両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が極めて多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの(エ) 第四型大陰影があると認められるものイ管理区分じん肺法4条2項は、前記アの区分に肺機能障害を加味して、粉じん作業に従事する労働者及び粉じん作業に従事する労働者であった者について、じん肺健康診断の結果に基づき、管理一から管理四まで次のように区分している。 (ア) 管理一じん肺の所見がないと認められるもの(イ) 管理二エックス線写真の像が第一型で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの(ウ) 管理三イエックス線写真の像が第二型で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるものロエックス線写真の像が第三型又は第四型(大陰影の大きさが一側の肺野の三分の一以下のものに限る。)で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの(エ) 管理四⑴ エックス線写真の像が第四型(大陰影の大きさが一側の肺野の三分の一を超えるものに限る。)と認められるもの⑵ エックス線写真の像が第一型、第二型、第三型又は第四型(大陰影の大きさが一側の肺野の三分の一以下のものに限る。)で、じん肺による著しい肺機能の障害があると認められるもの- 3 -ウじん肺の症状等じん肺は、粉じん作業を離れた後も病状が進行することがある。じん肺は不可逆性の疾病であり、線維増殖性変化、気腫性変化、進行した炎症性変化、血管変化に対する治療方法はない。 じん肺の合併症としては、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸、原発性肺がんが挙げられる(じん肺法2条2項、じん肺法施行規則1条)。 ⑵ 亡Aについて亡Aは、炭鉱坑内において粉じん作業に従 核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸、原発性肺がんが挙げられる(じん肺法2条2項、じん肺法施行規則1条)。 ⑵ 亡Aについて亡Aは、炭鉱坑内において粉じん作業に従事し、粉じんを吸入した結果、じん肺にり患し、平成5年7月1日にじん肺法所定の管理区分管理四(以下単に「管理四」ということがある。)の行政上の決定を受け、令和2年1月3日、じん肺を原因として死亡した。 原告は、亡Aの子であり、令和2年10月7日に成立した遺産分割協議により、亡Aのじん肺死を原因とする損害賠償請求権について単独相続した(甲B14の7、8)。 ⑶ 前件和解亡Aは、平成19年4月20日頃、被告に対し、被告が鉱山保安法に基づく規制権限を行使することを怠ったことが違法であり、これによりじん肺にり患して管理四の行政上の決定を受け、これによる損害を被ったと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償として慰謝料1000万円及び弁護士費用相当額150万円並びにこれらに対する遅延損害金の支払を請求する訴えを提起した(乙2。当庁平成19年(ワ)第1046号。以下「前訴」という。)。 前訴について、平成21年5月29日に行われた第13回弁論準備手続期日において、被告が、亡Aに対し、損害賠償金として、806万6666円及びこれに対する遅延損害金を支払う旨の裁判上の和解が成立し、その後、- 4 -被告は亡Aに対し、上記金員を支払った(甲B14の10。以下「前件和解」という。)。 上記損害賠償金は、慰謝料相当額733万3333円及び弁護士費用相当額73万3333円を合計したものとして算定された。 ⑷ 本件訴訟の経緯原告は、被告に対し、令和2年12月7日、本件訴訟を提起した。 被告は、本件訴訟において、昭和35年4月以降、当時の通 額73万3333円を合計したものとして算定された。 ⑷ 本件訴訟の経緯原告は、被告に対し、令和2年12月7日、本件訴訟を提起した。 被告は、本件訴訟において、昭和35年4月以降、当時の通商産業大臣が、鉱山保安法に基づく規制権限を直ちに行使しなかったことが、国家賠償法1条1項の適用上違法というべきであることを争わない。 2 争点⑴ 前件和解は、その成立後に発生し得る損害の賠償請求を妨げる趣旨のものか⑵ 損害額 3 争点についての当事者の主張⑴ 争点⑴(前件和解は、その成立後に発生し得る損害の賠償請求を妨げる趣旨のものか)について(被告の主張)ア前件和解は、筑豊じん肺訴訟最高裁判決(国関係、最高裁平成13年(受)第1760号同16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁)を踏まえて行われたものであり、その和解金額は、筑豊じん肺訴訟控訴審判決(福岡高裁平成7年(ネ)第643号、同7年(ネ)第936号、同8年(ネ)第513号同13年7月19日判決)が算定した基準慰謝料額に基づくものである。そして、筑豊じん肺訴訟控訴審判決における基準慰謝料額は、同訴訟における原告らのじん肺に係る病態がその後に進展してじん肺管理区分が変更され、又は同人らがじん肺死したとしても、管理区分変更による進展後の病態に係る損害又はじん肺死に係る損- 5 -害について更に損害賠償請求することはできないという性質を有する請求であることを前提として算定されたものである。したがって、前件和解においても、前訴における原告らのじん肺に係る病態がその後に進展してじん肺管理区分が変更され、又は同人らがじん肺死したとしても、管理区分変更による進展後の病態に基づく基準慰謝料額又はじん肺死に基づく基準慰謝料額と前件和解に基づき受領済みの和解金 がその後に進展してじん肺管理区分が変更され、又は同人らがじん肺死したとしても、管理区分変更による進展後の病態に基づく基準慰謝料額又はじん肺死に基づく基準慰謝料額と前件和解に基づき受領済みの和解金との差額を請求すること(以下「差額請求」という。)はできないとすることが、和解を行った当事者の合理的な意思である。 イ本件訴えの提起後である令和3年1月中旬、被告指定代理人が、原告訴訟代理人に対し、既に亡Aとの間で前件和解が成立し、和解金を支払っているから、原告の請求は認められない旨を申し入れたところ、同年2月17日、原告訴訟代理人が、被告指定代理人に対し、取扱いを弁護団で協議中であるが、石炭じん肺訴訟においてこれまで差額和解は考えておらず、原告側のミスで二重提訴してしまった旨を述べた。この経過に照らせば、亡Aは前件和解において差額請求をしない意思であったというべきである。 ウ被告は、筑豊じん肺訴訟最高裁判決(国関係)で被告の責任が認められた被災者らと同様の状況にあった元労働者らについて、上記基準慰謝料額に相当する損害賠償金の支払を内容とする裁判上の和解を行っており、これまでに相当数の裁判上の和解を重ねてきたが、和解後に差額請求をされたことは本件に至るまでなく、むしろ和解後に差額請求をすることはできないことを前提として、和解金が返還されたこともあった。これらの事案には原告の代理人らも関与しているものがあることから、前記アのとおり、前件和解に際し、被告と亡Aとの間で、差額請求が認められないとすることが前提となっていたことが裏付けられる。 エ亡Aは、かつての就労先であった企業との間でそれぞれ和解しているところ、文言に多少の違いはあるものの、いずれの和解においても、今後じ- 6 -ん肺死、管理区分の進行又は合併症発症などがあっても、 亡Aは、かつての就労先であった企業との間でそれぞれ和解しているところ、文言に多少の違いはあるものの、いずれの和解においても、今後じ- 6 -ん肺死、管理区分の進行又は合併症発症などがあっても、更なる請求は行わない旨の合意がなされている。このように、亡Aは、一次的な損害賠償義務がある就労先企業との間で将来発生し得る損害は請求しないとして紛争の一回的解決を図っているのであるから、二次的な損害賠償義務を負う被告との間でも、同様に紛争の一回的解決を図ったと解される。 (原告の主張)ア前件和解条項の第1項は、筑豊じん肺最高裁判決(国関係)が被告の規制権限不行使を違法と判示した部分を表示するものであるし、第2項及び別表には、損害金額が筑豊じん肺訴訟控訴審判決における解釈を前提とした金額である旨の記載(将来における差額請求を放棄する旨の記載)はなく、被告の主張は、前件和解条項及び別表の記載と整合しない。長崎北松最高裁判決(最高裁平成元年(オ)第1667号同6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号441頁)及び筑豊じん肺最高裁判決(企業関係、最高裁平成13年(受)第1759号同16年4月27日第三小法廷判決・集民214号119頁参照)によれば、じん肺法所定の管理区分管理二ないし四の各損害及びじん肺死による損害は質的に異なる別個のものであり、管理区分の変更やじん肺死が生じた場合には新たな損害賠償請求が可能である。そのため、前件和解条項の第6項の「本件に関し」とは、あくまで管理四に基づく損害賠償請求のみを意味し、じん肺死に基づく損害賠償請求は含まれない。 イ被告が援用する令和3年2月17日の原告訴訟代理人の発言は、あくまで、これまでの石炭じん肺訴訟においては差額請求をする方針を採用しておらず、これまでは受任段階でチェックしていたもの まれない。 イ被告が援用する令和3年2月17日の原告訴訟代理人の発言は、あくまで、これまでの石炭じん肺訴訟においては差額請求をする方針を採用しておらず、これまでは受任段階でチェックしていたものの、そのチェックが働かなかったことを認めたものにすぎず、今後の対応を検討しているという趣旨であって、前件和解における亡Aの意思にはかかわりがない。 ウ前件和解における合理的意思は、当事者たる亡Aの意思に即して解釈さ- 7 -れるべきであり、弁護団の方針と亡Aの合理的意思の解釈とは関係がない。 エ亡Aが、かつて就労先であった企業との和解において、将来発生し得る損害についての請求を放棄する旨を明記しているにもかかわらず、被告との和解においてはこれを明記していないのは、被告との関係では将来発生し得る損害についての請求を放棄する意思がなかったためである。 オじん肺患者の損害賠償請求に関する和解について、一定の管理区分で相手方と一度和解をすると、その後症状が悪化してもその後の損害賠償請求が一切認められないと解することは、じん肺患者の救済に著しく反する。 ⑵ 争点⑵(損害額)について(原告の主張)じん肺死により、亡Aには、慰謝料として1000万円及び弁護士費用相当額として150万円の合計1150万円の損害が生じたところ、本件では、そのうち110万円を請求する。その根拠は、以下のとおりである。 ア慰謝料 833万3333円イ前件和解で受領した和解金のうち慰謝料相当額▲733万3333円ウ損害残額 100万0000円エ弁護士費用 10万0000円オ合計 110万0000円(被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 100万0000円エ弁護士費用 10万0000円オ合計 110万0000円(被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(前件和解は、その成立後に発生し得る損害の賠償請求を妨げる趣旨のものか)について⑴ 前件和解について、証拠(甲B14の10)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 - 8 -ア前件和解が成立した前訴の第13回弁論準備手続調書に記載された和解条項は、そこで引用された原告目録及び別表を除き、別紙「和解条項」記載のとおりであり、上記原告目録には亡Aが記載され、上記別表中の亡Aに係る記載は、「総額」欄が「8,066,666円」、「遅延損害金起算日」欄が「平成19年5月8日」というものである。 イ前件和解条項の第2項において、被告が支払うこととされた損害賠償金(慰謝料及び弁護士費用)のうち、管理四に該当する者及びじん肺死した者に対する慰謝料額は、以下のとおりであり、これらは筑豊じん肺控訴審判決が示した慰謝料額に一致する。 (ア) 管理四の場合 733万3333円(イ) (ア)によるじん肺死の場合 833万3333円⑵ 上記のとおり認められる事実に照らし、前件和解の趣旨について検討する。 ⑶ 前件和解条項の第1項は、筑豊じん肺訴訟最高裁判決(国関係)を受けて、被告が関係者らに謝罪すること、第4項は、被告が粉じんに係る保安の確保に努めることを定めている。第2項は、被告の前訴における原告らに対する損害賠償債務の有無及び額を確認するものであり、第3項は、その支払について定めている。 被告は、前件和解が筑豊じん肺訴訟最高裁判決(国関係)を踏まえたものであり、筑豊じん肺控訴審判決の示した基準慰謝料額に 債務の有無及び額を確認するものであり、第3項は、その支払について定めている。 被告は、前件和解が筑豊じん肺訴訟最高裁判決(国関係)を踏まえたものであり、筑豊じん肺控訴審判決の示した基準慰謝料額に基づいて慰謝料額を算定していることから、前件和解は将来発生し得る損害を含む被告の行為に起因する全損害を填補するものであると主張する。しかし、第1項及び第4項において、筑豊じん肺訴訟最高裁判決(国関係)は、被告が厳粛に受け止める対象として記載されているにとどまり、第1項及び第4項から、前件和解の内容として和解成立後に生じた損害の賠償請求を認めないとする旨の当事者の意思を読み取ることはできない。また、筑豊じん肺控訴審判決は、和解条項において何ら言及されておらず、筑豊じん肺控訴審判決を踏まえて和- 9 -解成立後に生じた損害の賠償請求を行わないことを和解の内容とすることにつき、当事者が検討していたことをうかがわせる事情も証拠上認められない。 したがって、第2項の損害賠償金のうち慰謝料相当額が筑豊じん肺控訴審判決で示された慰謝料額に一致することを根拠に、前件和解の内容として、和解成立後に生じた損害の賠償請求を行わないことが含まれていたと認めることはできない。 ⑷ 前件和解条項の第5項について検討する。 裁判上の和解において、「原告は、その余の請求を放棄する。」旨の条項は、一般には、当該訴訟の訴訟物たる請求権のうち他の条項において触れられていないものはこれを放棄するという趣旨に解される。 そして、じん肺は進行性の疾患であり、じん肺法所定の管理区分についての行政上の決定を受けている場合であっても、その後、じん肺を原因として死亡するか否か、その蓋然性は医学的にみて不明であり、じん肺死による損害は、管理二ないし四に相当する病状に基づく各損害と についての行政上の決定を受けている場合であっても、その後、じん肺を原因として死亡するか否か、その蓋然性は医学的にみて不明であり、じん肺死による損害は、管理二ないし四に相当する病状に基づく各損害とは質的に異なるものと解されるから、管理二ないし四に相当する病状に基づく各損害の賠償請求権と、じん肺死による損害の賠償請求権とは、別個のものというべきである(最高裁平成13年(受)第1759号同16年4月27日第三小法廷判決・集民214号119頁参照)。 前訴での亡Aの請求は、前記前提事実⑶のとおり、管理四に相当する病状に基づく損害に係るものであるところ、本件訴訟での原告の請求は、亡Aのじん肺死による損害に係るものであるから、両請求は、質的に異なる損害についての損害賠償を請求するものであって、訴訟物を異にする。 したがって、前件和解条項の第5項によって、亡Aが、じん肺死による損害賠償請求権まで放棄したと解することはできない。 ⑸ 前件和解条項の第6項は清算条項であるところ、清算条項について「本件に関し」と限定する場合には、一般に、訴訟物又はこれと関連する一定の範- 10 -囲について清算する趣旨であると解される。したがって、前記⑷のとおり、本件におけるじん肺死による損害賠償請求は、前訴における管理四に相当する病状に基づく損害賠償請求と訴訟物を異にするとはいえ、前訴における請求と関連する請求であり、亡A及び被告は、第6項により、じん肺死による損害賠償請求権についても清算する趣旨であったと解する余地もないではない。 しかし、前件和解の成立時点において、亡Aにじん肺死という損害が生じるか否かについては明らかではなかった。また、前件和解により被告から亡Aに支払われることとされた損害賠償金のうち慰謝料相当額は733万3333円であ 成立時点において、亡Aにじん肺死という損害が生じるか否かについては明らかではなかった。また、前件和解により被告から亡Aに支払われることとされた損害賠償金のうち慰謝料相当額は733万3333円であるところ、前件和解においてじん肺死した者の相続人に対して支払われた損害賠償金のうち慰謝料額は833万3333円であり(前記⑴イ)、その差は100万円であって小さいとはいえない。これらの事情からすれば、亡A及び被告の意思として、第6項により、じん肺死による損害賠償請求権についても清算する趣旨であったと解することはできない。 ⑹ 前件和解条項の第7項は、当事者間の訴訟費用の負担について定めているところ、この条項は、訴訟費用の清算を定めるものにとどまるから、亡Aに和解成立後に発生し得る損害賠償請求権に影響を及ぼすものではない。 ⑺ア被告は、令和3年2月17日の原告訴訟代理人の発言を援用して、亡Aが将来発生する損害の賠償請求を行わない意思であったと主張し、被告指定代理人が作成した乙第6号証には、被告指定代理人が、本件訴え提起後の同年1月中旬、原告訴訟代理人に対し、亡Aと被告との間には前件和解が成立しており、被告は既に和解金を支払済みであることから、原告の請求は認められない旨を申し入れたところ、同年2月17日、原告訴訟代理人は、原告の取扱いを弁護団で協議中であること、石炭じん肺訴訟においては、これまで差額和解は考えていなかったこと、今回は弁護団側のミスで二重提訴してしまったことを述べた旨の記載がある。 - 11 -しかし、上記記載のとおりの原告訴訟代理人と被告指定代理人とのやり取りがあったとしても、原告訴訟代理人の上記発言は、対応を協議中であるとしたうえでの暫定的なものにすぎず、前件和解が前件和解成立後に発生した損害の賠償請求を行わない 訟代理人と被告指定代理人とのやり取りがあったとしても、原告訴訟代理人の上記発言は、対応を協議中であるとしたうえでの暫定的なものにすぎず、前件和解が前件和解成立後に発生した損害の賠償請求を行わない趣旨であることを述べたものではない。 イ被告は、これまでの裁判上の和解において、前件和解と同じような文言で和解した事例でも和解後に発生した損害の賠償請求をされたことはなく、むしろ和解後に発生した損害の賠償請求をすることはできないことを前提に和解金が返還されたことがあったことから、前件和解についても、当事者は和解後に発生した損害の賠償請求を認めないとする意思を有していたと解されると主張し、証拠(乙3ないし5)によれば、前訴及び本件訴訟とは別の事件(当庁平成23年(ワ)第2656号)において、亡Aとは別の被災者との間で、被告が同被災者に管理四の症状に相当する損害賠償金806万6666円及び遅延損害金を支払う旨の和解が成立し、被告が同額を支払ったところ、同被災者がじん肺死した後、同被災者の相続人との間で、じん肺死に相当する損害賠償金916万6666円及び遅延損害金を被告が支払う旨の和解が成立し、被告が同額を支払った後、同相続人から被告に対し、916万6666円及び遅延損害金全額が返還された例があることが認められる。 しかし、被告が主張する上記事情は、亡Aに係るものではないから、前件和解における亡Aの意思を解釈するうえで直ちに参考となるものではない。 なお、訴訟代理人は、あくまで個々の事件において、それぞれの当事者の意思に基づいて訴訟活動をするのであるから、別件の和解における訴訟代理人の活動を、前件和解における亡Aの意思解釈の根拠とすることはできない。 ウ被告は、亡Aがかつて就労していた企業との和解において、将来におけ- 12 - のであるから、別件の和解における訴訟代理人の活動を、前件和解における亡Aの意思解釈の根拠とすることはできない。 ウ被告は、亡Aがかつて就労していた企業との和解において、将来におけ- 12 -るさらなる請求を行わない旨の条項が設けられていたことから、二次的な損害賠償債務を負うにすぎない被告との間の前件和解についても、前件和解成立後に発生した損害の賠償請求を行わないとする趣旨であったと解されると主張し、証拠(乙1)によれば、①亡Aは、平成18年11月16日、就労先であった三井鉱山株式会社及び三井石炭鉱業株式会社との間で、じん肺の損害賠償に係る合意書を結んだところ、当該合意書の第2項には、「甲〔亡Aら〕は、乙〔三井鉱山株式会社〕及び丙〔三井石炭鉱業株式会社〕から第1項に定める金員の支払を受けたときは、本件和解を以てすべての賠償を完了したことを認め、今後、じん肺死、管理区分の進行ないしは合併症発症などがあっても、更なる請求は行わない。」との記載があること、②亡Aは、平成20年3月21日、就労先であった三井住友建設株式会社との間で、じん肺の損害賠償に係る和解契約書を結んだところ、当該契約書の第2条には、「乙等〔亡Aら〕は、前条に定める金員の支払を受けたときは、本和解を以て、じん肺罹患による甲〔三井住友建設株式会社〕に対するすべての賠償を完了したことを認め、今後じん肺死、管理区分の進行ないしは合併症発症などがあった場合においても、甲に対し、財産上又は非財産上の別を問わず、また名目の如何を問わず、一切の請求を行わない。」との記載があること、③亡Aは、平成20年3月27日、就労先であった住友石炭鉱業株式会社との間で、じん肺の損害賠償に係る和解契約書を結んだところ、当該契約書の第3条には、「甲〔亡Aら〕は、将来において、じん肺症による死亡 Aは、平成20年3月27日、就労先であった住友石炭鉱業株式会社との間で、じん肺の損害賠償に係る和解契約書を結んだところ、当該契約書の第3条には、「甲〔亡Aら〕は、将来において、じん肺症による死亡、じん肺症状の進行、じん肺法に定める合併症の罹患等本件の和解の基礎となった事情に変更が生じても、乙〔住友石炭鉱業株式会社〕に対し、何らの請求をしない。」との記載があることが、それぞれ認められる。 しかし、亡Aの元就業先企業との上記各和解では、前件和解とは文言が異なるとはいえ、明確に、亡Aが将来じん肺により死亡した場合でも、そ- 13 -の損害の賠償請求を行わない旨の条項が設けられていたにもかかわらず、被告との前件和解には、そのような条項が設けられていないことからすれば、亡Aとしては、むしろ被告との関係では和解成立後に発生した損害の賠償請求を行うことを排除する意思ではなかったと考えるのが合理的である。 エ以上のとおり、被告の主張する各事情は、いずれも、前件和解の当事者において、前件和解成立後に発生した損害の賠償請求を行わないとする意思を有していたことをうかがわせる事情とはいえない。 ⑻ そして、他に、前件和解が、その成立後に発生し得る損害の賠償を妨げるものであると解すべき事情は見当たらない。 以上からすれば、前件和解が、その成立後に発生し得る損害の賠償請求を妨げる趣旨のものと解することはできない。 2 争点⑵(損害額)について前提事実⑵のとおり、亡Aは、じん肺により死亡したところ、前記1⑺ウのとおり、亡Aは、これまでに就労先との間で和解をしており、三井鉱山株式会社及び三井石炭鉱業株式会社から23万0220円、三井住友建設株式会社から39万3162円、住友石炭鉱業株式会社から252万4064円の和解金の支払を受けていること、前 解をしており、三井鉱山株式会社及び三井石炭鉱業株式会社から23万0220円、三井住友建設株式会社から39万3162円、住友石炭鉱業株式会社から252万4064円の和解金の支払を受けていること、前件和解による和解金として、被告から、管理四に相当する病状についての慰謝料として733万3333円の支払を受けていることを考慮すれば、じん肺死による損害について、亡Aの相続人である原告に対して現時点で支払われるべき慰謝料額としては、100万円が相当である。 また、被告による国家賠償法1条1項の適用上違法というべき行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、10万円と認める。 これらを合計すると、110万円となる。 3 結論よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。 - 14 -なお、仮執行免脱宣言は、相当でないからこれを付さない。 札幌地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官守山修生 裁判官石川紘紹 裁判官斎 藤 由里阿 - 15 -(別紙) 和解条項第1項被告(経済産業大臣)は、筑豊じん肺訴訟最高裁判所判決において、昭和35年4月以降、石炭じん肺防止のための鉱山保安法上の規制権限を直ちに行使しなかったことが国家賠償法の適用上違法と判断されたことを厳粛に受け止め、関係の皆様にお詫びする。 第2項被告は、原告目録記載の原告らに対し、損害賠償金として、別表「総額」欄記載の金員及びこれに対する同表「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで、いずれも年5分の割合による金員の支払義務があることを認める。 第3項被告は、原告らに対し、前項の合計の金員を、平成21年7月28日限り、「新・北海道じん肺事務局弁護士B」名義の〔中略〕普通預金 いずれも年5分の割合による金員の支払義務があることを認める。 第3項被告は、原告らに対し、前項の合計の金員を、平成21年7月28日限り、「新・北海道じん肺事務局弁護士B」名義の〔中略〕普通預金口座〔中略〕に送金する方法により支払う。 第4項被告(経済産業省)は、鉱山におけるじん肺対策については、筑豊じん肺訴訟最高裁判決を厳粛に受け止め、鉱山保安業務に関し、粉じんに係る保安の確保に努める。 第5項原告らは、その余の請求を放棄する。 第6項原告ら及び被告は、原告らと被告との間には、本件に関し、本和解条項に定めるほか、他に何らの債権債務がないことを相互に確認する。 第7項訴訟費用は、各自の負担とする。 以上

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