平成12(ワ)1543 請求異議等,不当利得金返還,根抵当権設定登記等抹消登記手続各請求

裁判年月日・裁判所
平成14年5月15日 神戸地方裁判所
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判決文本文13,990 文字)

判決平成14年5月15日神戸地方裁判所平成12年(ワ)第1543号請求異議等請求事件平成13年(ワ)第804号不当利得金返還請求事件平成13年(ワ)第2219号根抵当権設定登記等抹消登記手続請求事件 主文 1 被告から原告A及び原告Bに対する神戸地方法務局所属公証人C作成平成6年第747号債務承認等契約公正証書に基づく強制執行はこれを許さない。 2 被告から原告Aに対する神戸地方法務局所属公証人C作成平成8年第297号金銭貸借契約公正証書に基づく強制執行はこれを許さない。 3 被告は,原告A及び原告Bに対し,それぞれ15万円及びこれらに対する平成12年7月30日から支払済みに至るまで年5分の割合による各金員を支払え。 4 本件につき,平成12年7月18日神戸地方裁判所平成12年(モ)第927号強制執行停止及び取消決定は,これを認可する。 5 本件につき,平成12年7月25日神戸地方裁判所平成12年(モ)第928号強制執行停止決定は,これを認可する。 6 被告は,原告Aに対し,別紙物件目録1記載の1ないし5の各土地及び6の建物につき,神戸地方法務局須磨出張所平成6年11月25日受付第48442号根抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。 7 被告は,原告Aに対し,別紙物件目録1記載の1ないし5の各土地及び6の建物につき,神戸地方法務局須磨出張所平成6年11月25日受付第48443号条件付賃借権設定仮登記の各抹消登記手続をせよ。 8 被告は,原告Aに対し,882万3500円及びこれに対する平成13年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 9 原告らのその余の不法行為に基づく損害賠償請求及 よ。 8 被告は,原告Aに対し,882万3500円及びこれに対する平成13年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 9 原告らのその余の不法行為に基づく損害賠償請求及び原告Aのその余の不当利得返還請求をいずれも棄却する。 10 訴訟費用は被告の負担とする。 11 この判決は,3ないし5,8項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求主文1,2,4ないし7項同旨被告は,原告Aに対し100万円,同原告Bに対し70万円及びこれらに対する平成12年7月30日から支払済みに至るまで年5分の割合による各金員を支払え。 被告は,原告Aに対し,900万7755円及びこれに対する平成13年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は以下のとおりの事案である。 ① 被告から原告らに対する別紙公正証書目録1記載の公正証書に基づく強制執行を許さない旨の請求異議の訴え② 上記①の公正証書に基づく強制執行停止仮処分の認可請求③ 被告から原告Aに対する別紙公正証書目録2記載の公正証書に基づく強制執行を許さない旨の請求異議の訴え④ 上記③の公正証書に基づく強制執行停止仮処分の認可請求⑤ 上記③の公正証書に基づいてなされた動産強制執行取消決定の認可請求⑥ 原告らの被告に対する,不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)請求及びこれに対する訴状送達日の翌日以降の遅延損害金請求⑦ 原告Aの被告に対する,不動産の所有権に基づく,根抵当権設定登記及び条件付賃借権設定仮登記の各抹消登記手続請求⑧ 原告 及びこれに対する訴状送達日の翌日以降の遅延損害金請求⑦ 原告Aの被告に対する,不動産の所有権に基づく,根抵当権設定登記及び条件付賃借権設定仮登記の各抹消登記手続請求⑧ 原告Aの被告に対する,過払金の不当利得返還請求及びこれに対する訴状送達日の翌日以降の遅延損害金請求 1 争いのない事実等(末尾に証拠の標目の記載のない事実は当事者間に争いがない)(1) 当事者原告らは夫婦であり,被告は貸金業者である。 (2) 本件公正証書1,2の存在被告を貸主,原告Aを借主,原告Bを連帯保証人とする別紙公正証書目録1記載の公正証書(以下「本件公正証書1」という)が存在する。 また,被告を貸主,原告Aを借主とする別紙公正証書目録2記載の公正証書(以下「本件公正証書2」という)が存在する。 (3) 原被告間の貸借原告Aは,被告から,昭和61年2月27日以降,継続的に金銭を借り入れつつ,弁済を続けた。原告Aが被告から現実に交付を受けた金額及び原告Aが被告に弁済した金額とそれらの年月日は別紙貸借一覧表記載のとおりである。 原告Bは,原告Aの被告に対する上記債務を連帯保証した。 被告が原告Aに金銭を貸し付けるたびごとに,原告Aの金銭消費貸借上の債務及び原告Bの連帯保証債務に関して公正証書が作成された。その内容は以下のとおりである。またいずれの公正証書にも,債務者が分割金又は利息の支払いを1回でも怠ったときは期限の利益を失い,債務の全額を即時支払う旨の期限の利益喪失条項がある(もっとも,これらの公正証書が原告らの意思に基づいて作成されたものかどうかについては後記のとおり争いがある)。 本件公正証書1は ,債務の全額を即時支払う旨の期限の利益喪失条項がある(もっとも,これらの公正証書が原告らの意思に基づいて作成されたものかどうかについては後記のとおり争いがある)。 本件公正証書1は下記⑥,本件公正証書2は下記⑦である。 公正証書の借入日借入金額年利遅延最終返済期限分割方法書証番号損害金 (毎月末日払)①乙17の1・2 S61. 2.27 30万円 18% 36% S61. 8.31 5万円の 6回払②乙18の1・2 S61. 4.18 30万円 18% 36% S61. 9.30 5万円の 6回払③乙19 S62. 5. 8 30万円 18% 36% S62. 9.30 6万円の 5回払④乙21 H 1. 6. 2 120万円 15% 30% H 3. 5.31 5万円の24回払⑤乙22 H 5. 8.25 150万円 15% 30% H 6.11.30 10万円の15回払⑥甲3 H 6.11.24 650万円 15% 30% H 9. 1.30 25万円の26回払⑦甲5 H 8. 3.11 60万円 18% 36% H 8.12.31 6万円の10回払なお,⑥の公正証書上の貸付額は650万円であるが,原告Aが平成6年11月24日に実際に交付を受けた金額は別紙貸借一覧表の番号104記載のとおり500万円であった。これは,当時既に発生していた15 なお,⑥の公正証書上の貸付額は650万円であるが,原告Aが平成6年11月24日に実際に交付を受けた金額は別紙貸借一覧表の番号104記載のとおり500万円であった。これは,当時既に発生していた150万円の債務と新たな500万円の貸付を一本化したためである(甲16)。 (4) 本件根抵当権等の設定被告は原告Aとの間で,平成6年11月25日,原告A所有の別紙物件目録1記載の1ないし6の各不動産(以下「本件各不動産」という)について,ア被告の原告Aに対する金銭消費貸借取引,保証取引,手形債権,小切手債権について極度額1300万円の範囲で担保することを目的とする共同根抵当権(以下「本件根抵当権」という)の設定契約を締結し,同契約に基づいて登記を経由し,イ本件根抵当権確定債権の債務不履行を条件として,賃料1か月1平方メートル当たり10円,支払期毎月末日,存続期間3年の条件付賃借権設定契約を締結し,同契約に基づいて仮登記を経由した。 なお,原告Aと被告との間の取引の終了により,本件根抵当権の担保すべき元本は確定している(民法398条の20第1項1号)。 (5) 被告の本件公正証書に基づく強制執行被告は,平成12年6月22日,本件公正証書1を債務名義として,原告B勉所有の別紙物件目録2記載の不動産について,鹿児島地方裁判所名瀬支部へ強制競売の申立をして,6月26日に競売開始決定を受けた(以下これを「本件不動産執行」という)。 被告は,平成12年6月28日,本件公正証書2を債務名義として動産差押えの申立をし,7月10日,原告A所有の動産(ミシン7台,エアコン1台,テレビ1台,ロール機1台)を差し押さえた(以下これを「本件動産執行」とい 2年6月28日,本件公正証書2を債務名義として動産差押えの申立をし,7月10日,原告A所有の動産(ミシン7台,エアコン1台,テレビ1台,ロール機1台)を差し押さえた(以下これを「本件動産執行」という)。 被告は,平成12年7月11日,本件公正証書2の再度付与を受け,同月21日,これを債務名義として,原告Aのみなと銀行に対する預金債権について,神戸地方裁判所平成12年(ル)第787号,同年(ヲ)第5078号の債権差押え及び転付命令を取得し,執行に及んだ(以下これを「本件債権執行」という)。 (6) 民事執行法36条に基づく仮処分原告らが神戸地方裁判所に対し,本件公正証書1の執行力ある正本に基づく強制執行の停止を求めたところ,同裁判所は,平成12年7月25日,本案判決において,同決定を取り消し,変更し又は認可する裁判があるまで,本件公正証書1に基づく強制執行を停止する旨の決定をした。 また,原告Aが神戸地方裁判所に対し,本件公正証書2の執行力ある正本に基づく強制執行の停止及び本件動産執行の取消を求めたところ,同裁判所は,平成12年7月18日,本案判決において,同決定を取り消し,変更し又は認可する裁判があるまで,本件公正証書2に基づく強制執行を停止するとともに,本件動産執行を取り消す旨の決定をした。 2 争点本件の争点は次のとおりである。 ①本件公正証書1,2は真正に作成されたものか,②本件各強制執行の権利濫用性,信義則違反性,③原告Aは被告に対する債務を完済し,過払いによる不当利得が生じているか,④原告Aは,同不当利得返還請求権を黙示に放棄したか,⑤同不当利得返還請求権について消滅時効が成立するか,⑥被告による本件各強制執行等が原告らに対する不法行為に該 払いによる不当利得が生じているか,④原告Aは,同不当利得返還請求権を黙示に放棄したか,⑤同不当利得返還請求権について消滅時効が成立するか,⑥被告による本件各強制執行等が原告らに対する不法行為に該当するか。 (1) 請求異議ア本件公正証書1,2の成否(ア) 被告の主張a 本件公正証書1について原告らは,平成6年11月25日,本件公正証書1作成のための委任状に署名押印した。本件公正証書1は,上記委任状に基づいて作成されたものである。 b 本件公正証書2について原告Aは,平成8年3月11日,本件公正証書2作成のための委任状に署名押印した。本件公正証書2は,上記委任状に基づいて作成されたものである。 (イ) 原告らの認否反論a 本件公正証書1について本件公正証書1の成立を否認する。 被告は,本件根抵当権設定のために原告らが署名押印した白紙委任状を流用して,本件公正証書1の作成を嘱託したものである。 b 本件公正証書2について本件公正証書2の成立も否認する。 原告Aは,平成8年3月11日,被告から60万円を借りるに当たり,被告から要求されるままに白紙委任状に署名押印して被告に交付した。被告はこれを利用して無断で本件公正証書2の作成を嘱託したものである。 イ本件各強制執行の権利濫用,信義則違反(ア) 原告らの主張被告による本件各強制執行は,以下の事情を総合すると,権利濫用又は ものである。 イ本件各強制執行の権利濫用,信義則違反(ア) 原告らの主張被告による本件各強制執行は,以下の事情を総合すると,権利濫用又は信義則違反であって無効である。 a 強制執行の必要のないこと被告は,本件公正証書1を債務名義として,債権総額740万円をもって原告B所有の別紙物件目録2記載の各不動産について本件不動産執行を申し立てたほか,本件動産執行,本件債権執行に及んだものであるが,被告は原告Aから本件各不動産について本件根抵当権の設定を受けており,その不動産の実勢価格は1500万円を下らないから,被告の債権は十分担保されていた。したがって,被告による本件各強制執行は必要のないものであった。 b 嫌がらせ等が目的であること被告の本件各強制執行は,原告に対し,履行を強制し,嫌がらせをし,名誉,信用を傷つけることを目的としてなされたものである。 (イ) 被告の認否反論本件根抵当権があるから本件各強制執行は必要のないものであったという原告らの主張を否認する。本件根抵当権の被担保不動産の評価額は,原告らの主張(1500万円以上)とは異なり,553万円であり,競売に付されることを条件として加えると363万円に過ぎない。 本件各強制執行が原告らに対する嫌がらせ等を目的とするものであったという主張は否認する。 ウ原告Aは債務を完済し,過払いによる不当利得が生じているか(ア) 原告らの主張a 本件各借入は以下のとおりであって,弁済期の定めはなかった。 債務を完済し,過払いによる不当利得が生じているか(ア) 原告らの主張a 本件各借入は以下のとおりであって,弁済期の定めはなかった。 借入日借入金額年利S61.2.27 30万円 54.75%S61.4.18 30万円 54.75%S62.5.8 30万円 54.75%H1.6.2 30万円 54.75%H5.8.25 30万円 40.004%H6.11.24 500万円 37%H8.3.11 60万円 30%したがって,利息制限法の定める利息を超える部分を元本に充当して計算すると全て支払済みである。 b 被告は,本件各借入れについて,各公正証書に記載された弁済期の定めがあったと主張し,原告Aは期限の利益を喪失したのであるから,利息制限法の遅延損害金の利率(36パーセント又は30パーセント)をもって計算すべきであると主張する。 しかしながら,原告Aは単に白紙委任状に署名しただけであって,各公正証書が作成されたことすら知らず,被告主張の借入条件を承諾したことはない。 仮に,原告らが各公正証書の作成に同意していたとしても,各公正証書作成後の原告らの返済状況とこれに対する被告の対応をみれば,原被告間の本来の契約は別個にあり,それを両者が知悉していることは明らかであるから,各公 各公正証書の作成に同意していたとしても,各公正証書作成後の原告らの返済状況とこれに対する被告の対応をみれば,原被告間の本来の契約は別個にあり,それを両者が知悉していることは明らかであるから,各公正証書上の契約は心裡留保であって無効である。したがって,各公正証書に定める遅延損害金や弁済期の定めも無効であるから,利息制限法の利息は18パーセント又は15パーセントの利率で計算すべきである。 (イ) 被告の反論原告らの主張を争う。 原告らと被告との間の契約の内容は,前記争いのない事実等(3)記載の公正証書のとおりの,期限の利益喪失約款付き分割払い債務であった。ところが,原告Aは,分割払いの返済を徒過し,期限の利益を喪失しているから,利息制限法に基づく利息の計算は遅延損害金である36パーセント又は30パーセントの利率で計算すべきである。 (2) 根抵当権設定登記等抹消登記手続請求ア原告Aの主張上記のとおり,利息制限法の利息に引き直して計算すると,本件根抵当権の被担保債権は既に完済により消滅している。 また,賃借権仮登記についても,根抵当権の確定債権の債務不履行を条件として設定されたものである以上,根抵当権とともに抹消されるべきものである。 よって,原告Aは,被告に対し,本件各不動産の所有権に基づき,本件根抵当権設定登記及び賃借権仮登記の抹消登記手続をすることを求める。 イ被告の認否原告Aの主張を争う。 (3) 不当利得返還請求ア原告Aの過払いの有無(ア) 原告Aの主張上記のとおり,利息制限法の 原告Aの主張を争う。 (3) 不当利得返還請求ア原告Aの過払いの有無(ア) 原告Aの主張上記のとおり,利息制限法の制限利率に引き直して計算すると,原告Aは被告に対する債務を支払済みである。そして,平成12年5月24日現在で,900万7755円の過払い金が生じている。 被告は,約定利息が利息制限法の制限利率を超過しており,過払い分については不当利得に該当することを知っていた。 よって,原告Aは,被告に対し,不当利得返還請求として,過払い金900万7755円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 (イ) 被告の認否原告Aの主張を争う。 上記のとおり,利息制限法に基づく利息の計算は遅延損害金である36パーセント又は30パーセントの利率で計算すべきである。 イ債権放棄の黙示の合意の有無(ア) 被告の主張原告Aは,平成6年11月24日,既に発生していた超過利息の返還を求めないまま650万円の金銭消費貸借契約を締結している。また,被告も,原告Aがこれを求めたならば,同契約を締結しなかったであろうことは明らかである。そうすると,原告Aは被告との間で,同日,650万円の金銭消費貸借契約を締結した時点で,それ以前の超過利息の不当利得返還請求権を放棄する旨の黙示の合意をしたとみなすべきである。 (イ) 原告Aの認否否認する。 利息制限法は強行法規であり,たとえ債務者において不当利得 旨の黙示の合意をしたとみなすべきである。 (イ) 原告Aの認否否認する。 利息制限法は強行法規であり,たとえ債務者において不当利得請求権放棄の意思が明示になされたとしても,そのような約束は違法無効である。被告の主張は,利息制限法違反の利息,損害金の支払いを厳格な要件の下でのみ有効な弁済とみなす,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という)のいわゆるみなし弁済規定を死文化するものである。 ウ消滅時効(ア) 被告の主張本訴提起から10年間遡った平成3年4月18日より前に原告Aによってなされた弁済については,過払いが生じているとしても,消滅時効が完成しているので,被告はこれを援用する。 また,被告は原告Aに対し,平成元年6月2日,120万円を貸し渡したが,原告Aは,同日,そのうち90万円をそれ以前の貸付金の残元本に対する弁済として被告に支払った。この弁済金については,過払いがあったとしても,既に弁済の日から10年以上が経過しているので,消滅時効が完成している。被告はこれを援用する。 (イ) 原告Aの認否原告Aと被告の間では,6回にわたって借換えがなされているが,借換えの時点で既に過払いになっていれば,借換えの目的はその時点での精算をすることにもあったはずであるから,原告Aが借換え時に被告から受領した金銭は過払い金額に満つるまでは過払い金の返還として交付され,その残額が新たな貸付金の元本とみなしうる。原告Aは,平成6年11月24日,被告から500万円を受領しており,少なくともその時点で,現存する過払い額はゼロになり,500万円から同過払い額を控除 れ,その残額が新たな貸付金の元本とみなしうる。原告Aは,平成6年11月24日,被告から500万円を受領しており,少なくともその時点で,現存する過払い額はゼロになり,500万円から同過払い額を控除した残額が新債務の額となるはずである。よって,被告の消滅時効の主張は失当である。 なお,本件のような貸金業者に対する過払い金返還請求権の消滅時効の起算点は取引終了時と考えるべきである。なぜなら,取引継続中に債務者がかかる請求をすれば,かえって,債権者から,過払いの事実を否認されるどころか,貸金の一括請求や担保権の実行,強制執行などをされるおそれがあるため,取引継続中は,債務者としては,過払い金の返還請求は事実上困難であるからである。 (4) 慰謝料請求ア原告らの主張被告の以下の行為は不法行為に該当する。 (ア) 法定書面の不交付被告は,原告らに対する貸付け時及び原告らからの弁済受領時に,貸金業法17,18条が定める書面を交付しなかったばかりか,公正証書作成時にも,その謄本を原告らに交付しなかった。 (イ) 白紙委任状の徴求被告は,原告らに対して,公証人に嘱託するための委任状であることの説明もせず,単に署名欄に書名押印することのみを求めて委任状を作成させた。 これは貸金業法20条に違反する。 (ウ) 過剰な担保の徴求と説明義務違反被告は,平成6年11月25日,本件根抵当権の設定を受けた。これらの物件の評価額は,当時1300万円を下らなかった。当時の貸付残高は,約226万円に過ぎず,過剰な担保の徴求であった。 また,原告らとしては,別紙 抵当権の設定を受けた。これらの物件の評価額は,当時1300万円を下らなかった。当時の貸付残高は,約226万円に過ぎず,過剰な担保の徴求であった。 また,原告らとしては,別紙物件目録1記載の1及び6の各物件のみを担保に供するつもりであったところが,同2ないし5の各物件もまた担保になっていることを後から知ったのであって,被告は,貸金業者としてなすべき説明義務に違反している。 (エ) 取引履歴開示の拒否と帳簿保管義務違反被告は,原告らから取引履歴の開示を求められても,帳簿を備えていないという答弁に終始した。ところが,被告は,その後,脱落していた弁済の事実を部分的に認めるなどしており,帳簿がないという答弁は信じられない。かかる被告の対応は,債務内容の開示協力義務を定める貸金業法事務ガイドラインに違反するものである。 被告が真実帳簿を備えていないというのであれば,これは貸金業法19条違反である。 (オ) 不当な取立被告は,原告らが弁護士に債務整理を委任したことを平成12年6月16日に原告Aから聞き知るや,同月26日,本件不動産執行に及び,また,同日,弁護士から正式な受任通知を受け取っていながら,同年7月10日,本件動産執行に及び,さらに,同月18日,本件公正証書2について執行停止及び動産差押取消決定が出たことを知りながら,同月19日,同公正証書を債務名義として本件債権執行に及んだものである。 かかる執拗な強制執行は,債権回収目的というよりも,原告らが債務整理を弁護士に依頼したことに対する報復ないし恫喝目的であることが明らかである。 原告らは,本件各強制執行によって,郷里 拗な強制執行は,債権回収目的というよりも,原告らが債務整理を弁護士に依頼したことに対する報復ないし恫喝目的であることが明らかである。 原告らは,本件各強制執行によって,郷里の先祖伝来の土地について競売手続が開始されることで,郷里の親戚に対しては面目を失墜し,従業員の面前で商売道具のミシンなどの動産が差し押さえられたことで従業員の信用を失い,銀行預金が差し押さえられることによって取引先銀行の信用を失ったのであって,その損害は計り知れない。 (カ) まとめ原告らは,被告の以上の不法行為によって著しい精神的苦痛を被った。 よって,原告Aは被告に対し慰謝料80万円及び弁護士費用20万円並びにこれらに対する訴状送達日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを,原告Bは被告に対し慰謝料50万円及び弁護士費用20万円並びにこれらに対する訴状送達日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ請求する。 イ被告の認否原告らの主張を否認ないし争う。 第3 争点に対する判断 1 原告Aの債務は支払済み(過払い)か(1) 原告Aの弁済を利息制限法に引き直して計算すると,別紙貸借一覧表記載のとおりであって,原告Aの被告に対する債務は既に弁済済みであるばかりか,882万3500円の過払いであることが認められる。 (2) これに対して,被告は,被告の原告Aに対する貸付けの契約内容は,契約締結と同時期に作成された公正証書記載のとおりの分割払いを内容とするものであるところ,原告Aはその弁済を遅滞し期限の利益を喪失しているから,利息制限法に従って計 告Aに対する貸付けの契約内容は,契約締結と同時期に作成された公正証書記載のとおりの分割払いを内容とするものであるところ,原告Aはその弁済を遅滞し期限の利益を喪失しているから,利息制限法に従って計算するに際しては,同法4条の遅延損害金の利率(36パーセント又は30パーセント)によるべきであると主張する。 たしかに,争いのない事実等においてみたとおり,上記各公正証書には,分割払いによる旨,分割金又は利息の支払いを1回でも怠ったときは期限の利益を失い債務の全額を即時支払う旨の期限の利益喪失約款がある。 しかしながら,原告Aは,陳述書(甲16)において,上記各公正証書を作成した覚えはない旨,また,被告からの借入時,被告に言われるままに白紙委任状に署名押印するとともに印鑑証明書を交付したが,その際,被告からは,公正証書の作成に用いるなどという説明を受けたことはない旨供述する。 また,これらの領収書に記載された年利は,高いものから順に,54.75%,40%,37.5%,36%,35%,34%,33%,30.1%,30%とバラバラで,上記各公正証書の利息とも損害金とも必ずしも対応していないのであって,被告が便宜的に記載したとしか考えられないものである。これらの事実は,原告らと被告との間における契約の内容が,上記各公正証書の内容とは異なるものであったことを推認させる。 それどころか,別紙貸借一覧表の原告Aの弁済のうち,昭和62年8月15日,平成4年6月15日,平成6年12月26日から平成12年5月24日までの間の53回の各弁済について被告が作成した領収書(甲15の1・2,乙16の1ないし53)をみるに,平成10年6月8日の弁済までは,被告は損害金ではなく利息として受け取っていることが認められ 日までの間の53回の各弁済について被告が作成した領収書(甲15の1・2,乙16の1ないし53)をみるに,平成10年6月8日の弁済までは,被告は損害金ではなく利息として受け取っていることが認められる。このことは,原告Aと被告の間には,上記各公正証書に記載された分割払いの約束及び期限の利益喪失約款がなかったことを推認させるものである。 以上の事実を総合すると,上記各公正証書の記載から,原告らと被告との間の貸借について分割払いの約束及び期限の利益喪失約款があったとは認めることができない。 したがって,利息制限法に引き直した計算をする際には,18パーセント又は15パーセントの利率をもって計算すべきである。被告の主張は採用できない。 (3) そうすると,原告らの被告に対する請求異議の訴え及び強制執行停止・取消決定の認可請求は,その余の争点(本件公正証書の成否,本件各強制執行が権利濫用又は信義則違反かどうか)について検討するまでもなく,いずれも理由がある。 (4) また,原告Aの被告に対する本件根抵当権設定登記抹消登記手続請求についても,本件根抵当権の確定債権が上記のとおり弁済により消滅した以上,理由がある。 (5) さらに,原告Aの被告に対する条件付賃借権設定仮登記抹消登記手続請求についても,同賃借権設定契約は,本件根抵当権の確定債権の債務不履行を停止条件とするものであるところ,上記のとおり同確定債権が弁済により消滅し停止条件の不成就が確定したことによって,被告の仮登記を保持する権原が消滅したというべきであるから,理由がある。 2 不当利得返還請求権放棄の黙示の合意の成否上記認定の過払い分882万3500円について,原告Aは被告に対し,不当利得として返還を求めること というべきであるから,理由がある。 2 不当利得返還請求権放棄の黙示の合意の成否上記認定の過払い分882万3500円について,原告Aは被告に対し,不当利得として返還を求めることができる。 これに対して,被告は,原告Aが,被告に対し,それ以前に発生していた超過利息の返還を求めないまま,平成6年11月24日に新たに650万円(但し,実際に交付を受けたのは500万円)を借り受けていることを理由に,原告Aはこの時点で不当利得返還請求権を黙示に放棄した旨主張する。 しかしながら,そもそも,原告Aが,平成6年11月24日の時点において,超過利息の発生とその返還請求ができることを認識していたかどうかは不明である。また,たとえ原告Aがこれらを認識していたとしても,一般に貸借関係において貸主に対して弱い立場に置かれる借主の心理としては,新たな借受けの際に超過利息の返還を求めることなどできないと解されるから,借主が返還請求権を行使しなかったからといって返還請求権を放棄したとみなすのは,当事者の合理的意思解釈として妥当でないというべきである。 以上の次第で,不当利得返還請求権の黙示の放棄という被告の主張は認めることができない。 3 不当利得返還請求権の消滅時効の成否被告は,原告Aの過払い分の不当利得返還請求について,本訴提起から10年間遡った平成3年4月18日より以前の分については,既に弁済の日から10年以上が経過しているので,消滅時効が完成していると主張する。 しかしながら,債務者が,弁済によって既に消滅した債務について後から消滅時効を主張することができないのと同様に,利息制限法によれば過払いが発生していたとしても,その後に新たな貸付けがなされ,これが元本に組み入れられたこ ,弁済によって既に消滅した債務について後から消滅時効を主張することができないのと同様に,利息制限法によれば過払いが発生していたとしても,その後に新たな貸付けがなされ,これが元本に組み入れられたことによって過払いが消滅した場合には,それ以前に発生していた過払い分について,後から消滅時効を主張することはできないというべきである。 そして,別紙貸借一覧表記載のとおり,原告Aと被告の間においては,平成6年11月24日に500万円の貸付けがなされ,これが過払い分に充当された結果,不当利得返還請求権はこの時点でいったん消滅したのであるから,それ以前に発生していた過払い分の不当利得返還請求権について後から消滅時効を主張することはできない。そして,その後に発生した過払い分については,いまだ10年間の消滅時効は完成していないことが認められる。 以上の次第で,不当利得返還請求権の消滅時効に関する被告の主張は認めることができない。 4 原告らの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求の成否(1) 前記認定のとおり,利息制限法に引き直した場合,原告Aと被告との間では882万3500円もの過払いが生じていること,被告が貸金業者であることを総合すると,被告としては,利息制限法に引き直した場合,原告Aに対する債権が少なくとも支払済みであることについては,認識していたか,少なくとも,容易に認識し得たはずであると認められる。 ところが,証拠(甲7の1・2,8,16),上記争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告Aから,平成12年6月16日,弁護士に債務整理を委任した旨聞き及ぶや,その6日後の同月22日に本件不動産執行の申立てを,同月28日に本件動産執行の申立てをし,同弁護士から,同年7月11日到着の書面 から,平成12年6月16日,弁護士に債務整理を委任した旨聞き及ぶや,その6日後の同月22日に本件不動産執行の申立てを,同月28日に本件動産執行の申立てをし,同弁護士から,同年7月11日到着の書面によって取引帳簿のコピーを提出するように求めらてもそれをしないまま,同月21日には,本件債権執行に及んでいることが認められ,かかる事実の経緯に鑑みると,上記各強制執行は,原告らが弁護士に債務整理を委任したことに対する報復として行われたことが明らかである。 以上の次第で,被告は,債務の不存在を認識し又は容易に認識し得たにもかかわらず,債務者である原告らが弁護士に債務整理を委任したことに対して報復的に強制執行を行ったものと認められる。そうすると,かかる強制執行は,貸主としての権利の実現とみることはできず,むしろもっぱら原告らに対する嫌がらせとしてなされたものということができるから,原告らに精神的苦痛を与える不法行為であると認めることができる。 (2) もっとも,本訴において,上記認定のとおり,原告Aの被告に対する882万3500円の不当利得返還請求が認容されることによって,原告らが被った精神的苦痛はかなりの程度慰謝されるであろうと推認されることも併せ考慮すると,上記不法行為によって原告らが被った精神的苦痛に対する慰謝料としては各10万円をもって相当と認める。 また,原告らが訴訟代理人弁護士にそれぞれ支払う弁護士費用のうち各5万円の範囲で上記不法行為と相当因果関係があると認める。 (3) よって,被告は原告らそれぞれに対し15万円の支払義務を負う。 5 結論以上の次第で,原告らの請求のうち,請求異議の訴え,強制執行停止・取消決定の認可請求,根抵当権設定登記の抹消登記手続請求,条件付賃借 れぞれに対し15万円の支払義務を負う。 5 結論以上の次第で,原告らの請求のうち,請求異議の訴え,強制執行停止・取消決定の認可請求,根抵当権設定登記の抹消登記手続請求,条件付賃借権仮登記の抹消登記手続請求をいずれも認容し,原告Aの不当利得返還請求及び原告らの慰謝料請求をいずれも一部認容し,訴訟費用については,原告らの請求棄却部分が少額であることに鑑み,その全額を被告の負担とする。 神戸地方裁判所第4民事部裁判官太田敬司

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