平成16(行ウ)35 療養補償不支給処分取消請求事件(通称 津島労基署長療養補償給付等不支給処分取消)

裁判年月日・裁判所
平成16年10月26日 名古屋地方裁判所
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判決文本文16,914 文字)

平成16年10月26日判決言渡し平成16年(行ウ)第35号療養補償不支給処分取消請求事件 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告が,平成14年1月18日付けで原告に対してした次の処分を取り消す。 (1) 平成11年1月20日から同年3月29日までの療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する不支給処分(2) 平成11年1月21日の療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する不支給処分(3) 平成11年3月18日から平成12年4月17日までの療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する不支給処分(4) 平成11年3月18日から同年4月30日までの療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する不支給処分(5) 平成11年3月30日から平成12年9月30日までの療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する不支給処分(6) 平成11年3月30日から平成12年4月7日までの療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する不支給処分(7) 平成11年4月6日から平成12年9月30日までの療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する不支給処分(8) 平成12年6月14日から同年9月27日までの療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する不支給処分(9) 平成12年10月1日から同年12月31日までの療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する別紙「処分関係一覧」記載の各不支給処分(10) 平成13年1月1日から同年3月31日までの療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する別紙「処分関係一覧」記載の各不支給処分(11) 平成13年4月1日から同年6月30日までの療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する別紙「処分関係一覧」記載の各不 たる療養の費用請求に対する別紙「処分関係一覧」記載の各不支給処分(11) 平成13年4月1日から同年6月30日までの療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する別紙「処分関係一覧」記載の各不支給処分(12) 平成13年4月5日の療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する不支給処分を取り消す。 (13) 平成11年1月20日から平成13年6月30日までの間に係る休業補償給付請求に対する別紙「処分関係一覧」記載の各不支給処分 2 被告が,平成14年7月8日付けで原告に対してした次の処分(1) 平成13年7月1日から同年11月30日までの療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する別紙「処分関係一覧」記載の各不支給処分(2) 平成13年12月1日から平成14年4月30日までの療養に係る療養補償給付たる療養の費用請求に対する別紙「処分関係一覧」記載の各不支給処分(3) 平成13年7月1日から平成14年4月30日までの間に係る休業補償給付の費用請求に対する別紙「処分関係一覧」記載の各不支給処分第2 事案の概要本件は,被告が,原告に対し,傷病の業務起因性が認められないとして労災保険給付に係る上記各不支給処分(以下「本件各処分」という。)をしたことにつき,原告が,本件各処分はいずれも違法であるとして,それらの取消しを求める事案である。 1 争いのない事実等(1) 原告は,名古屋市a区b町c丁目d番地efビル2階所在の有限会社Aに鳶工として就労していた。 (2) 原告は,平成10年8月22日午前8時50分ころ,A所属の鳶工として屋上広告塔外部足場の解体作業中,5.1メートルの高さから足場とともに墜落した(以下「本件事故」という。)。 (3) 原告は,平成11年1月20日,名古屋第一赤十字病院の救急外来を受診し,「狭心症の疑い」と診断 部足場の解体作業中,5.1メートルの高さから足場とともに墜落した(以下「本件事故」という。)。 (3) 原告は,平成11年1月20日,名古屋第一赤十字病院の救急外来を受診し,「狭心症の疑い」と診断された。原告は,それ以後,名古屋第一赤十字病院の他の診療科のほか,その他の医療機関に通院しているところ,別紙1の1「療養補償給付たる療養の費用請求書一覧表」「傷病名」欄記載のとおりの診断を受けた(以下これら各病院において診断された傷病名を併せて「本件傷病」という。)。 (4) 原告は,本件傷病は本件事故が原因で発生したものであるとして,被告に対し,労働者災害補償保険法に基づき,次のとおり,療養補償給付たる療養の費用請求及び休業補償給付を請求した。 ア平成12年12月27日受付の,8件の療養補償給付たる療養の費用請求(別紙1の1「療養補償給付たる療養の費用請求書一覧表」)及び3件の休業補償給付支給請求(別紙1の2「休業補償給付支給請求書一覧表」)イ平成13年2月6日受付の,2件の療養補償給付たる療養の費用請求(別紙1の1「療養補償給付たる療養の費用請求書一覧表」)及び1件の休業補償給付支給請求(別紙1の2「休業補償給付支給請求書一覧表」)ウ平成13年5月9日受付の,2件の療養補償給付たる療養の費用請求(別紙1の1「療養補償給付たる療養の費用請求書一覧表」)及び1件の休業補償給付支給請求(別紙1の2「休業補償給付支給請求書一覧表」)エ平成13年8月10日受付の,3件の療養補償給付たる療養の費用請求(別紙1の1「療養補償給付たる療養の費用請求書一覧表」)及び1件の休業補償給付支給請求(別紙1の2「休業補償給付支給請求書一覧表」)オ平成14年1月16日受付の,2件の療養補償給付たる療養の費用請求及び1件の休業補償給付支給請求(別紙2「療養 表」)及び1件の休業補償給付支給請求(別紙1の2「休業補償給付支給請求書一覧表」)オ平成14年1月16日受付の,2件の療養補償給付たる療養の費用請求及び1件の休業補償給付支給請求(別紙2「療養補償給付たる療養の費用請求書一覧表」及び「休業補償給付支給請求書一覧表」)カ平成14年6月10日受付の,2件の療養補償給付たる療養の費用請求及び1件の休業補償給付支給請求(別紙2「療養補償給付たる療養の費用請求書一覧表」及び「休業補償給付支給請求書一覧表」)(5) 被告は,実地調査に基づき,要旨「本件傷病が業務に起因した傷病とは認められない。」として,上記アからエまでにつき平成14年1月18日付けで不支給処分をして原告に通知し,上記オ及びカにつき平成14年7月8日付けで不支給決定をして原告に通知した。 (6) 原告は,本件各処分を不服として,上記アからエまでにつき平成14年1月30日付け,上記オ及びカにつき同年7月10日付けで,愛知労働者災害補償保険審査官にそれぞれ審査請求をしたが,愛知労働者災害補償保険審査官は,上記アからエまでにつき平成14年4月30日付け,上記オ及びカにつき同年8月28日付けで,「本件疾病については・・・既に(前回の療養補償給付の請求に対し)審査官において,業務に起因する疾病とは認めがたいとされているもので,なお念のため検討したが判断に影響を及ぼすものはなかった。」などとして,原告の審査請求を棄却する決定をそれぞれした。 (7) 原告は,さらに,上記アからエまでにつき平成14年5月9日受付で,上記オ及びカにつき同年9月11日受付で,愛知労働者災害補償保険審査官の上記決定を不服として労働保険審査会に再審査請求をしたが,労働保険審査会は,「請求人の前回同様傷病については,前裁決と同様に,業務上の事由によるものとは認められ 付で,愛知労働者災害補償保険審査官の上記決定を不服として労働保険審査会に再審査請求をしたが,労働保険審査会は,「請求人の前回同様傷病については,前裁決と同様に,業務上の事由によるものとは認められない。」「請求人の前回傷病と異なる傷病についても,業務上の事由によるものとは認められない。」などとして,平成16年2月26日付けで原告の再審査請求を棄却する裁決をし,同裁決書(甲8)は同年3月3日,原告に対して送達された。 (8) 原告は,平成16年6月1日,名古屋地方裁判所に対し,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著)。 2 争点及び当事者の主張本件の争点は,本件傷病の業務起因性である。 (原告の主張)(1) 労働災害補償制度は,労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべき労働条件の最低条件を定立することを目的に,負傷,死亡又は疾病が業務上のものであることのみを要件として各種の労災補償給付をする法定救済制度であり,損害の衡平な分担を目的とする民事損害賠償制度とは目的を異にするから,労災補償においては,民事損害賠償よりもその救済対象を拡大する必要がある。 したがって,業務起因性の判断において,民事損害賠償における相当因果関係を持ち出すのは相当でなく,業務と負傷,死亡又は疾病との間に合理的関連性があれば足りると解すべきである。 (2) 仮に,業務と負傷,死亡又は疾病との間に相当因果関係が必要であるとしても,その内容としては,業務が他の原因と共に傷病等を誘発し又は憎悪させた場合,すなわち業務が他の原因と共働原因となって傷病等の発症を招いたことで足りるというべきである(共働原因論)。 (3) 本件事故により,原告は,頭部,頚部を強打したのであり,本件事故が,5.1メートルの高さからの墜落という生命,身体に重大な影響を及ぼすものであったこと, りるというべきである(共働原因論)。 (3) 本件事故により,原告は,頭部,頚部を強打したのであり,本件事故が,5.1メートルの高さからの墜落という生命,身体に重大な影響を及ぼすものであったこと,本件事故前には,健康体であった原告が,本件事故を機に身体に痛みやだるさ,脱力感,倦怠感,疲労の増大を自覚するようになり,やがては仕事をすることができなくなったこと,原告の傷病の部位が本件事故により原告が衝撃を受けた部位と一致すること,本件事故後,原告が本件傷病発症の原因となり得る事故に遭遇していないこと,原告に業務逸脱行為や恣意的行為等が存在しないことからも,本件傷病が業務に起因することは明白である。 仮に,原告において頚椎変性,椎間板変性などの「加齢的変化」が見られたとしても,それは正常の範囲で認められるものであり,本件事故による受傷後に症状が顕在化したことからも,本件事故により頚椎変性部の椎間板に外傷性ストレスがかかり,「加齢性変化」と共に本件事故が共働原因となって原告の傷病の発症を招いたと認められるから,本件事故と本件傷病との間には因果関係が認められる。 (被告の主張)(1) 労働者災害補償保険法12条の8第2項,労働基準法75条2項,労働基準法施行規則35条別表第1の2第1号所定の療養補償に関する災害補償事由である「業務上の負傷に起因する疾病」であると認められるためには,業務による負傷の存在が明らかであり,かつ,業務により負傷の結果としての疾病の発症であることが医学的に認められることが必要である。 しかし,本件傷病については,そもそも本件事故による負傷の存在自体明らかでないばかりか,仮に本件事故により何らかの負傷が生じた可能性があるとしても,その負傷と本件傷病との間の業務起因性を認めることはできない。 (2) 原告は,本件事故後,一定期 よる負傷の存在自体明らかでないばかりか,仮に本件事故により何らかの負傷が生じた可能性があるとしても,その負傷と本件傷病との間の業務起因性を認めることはできない。 (2) 原告は,本件事故後,一定期間湿布を貼りながらであっても,通常どおり就業しているといえる。また,原告は,本件事故後約5か月以上経過するまで,医療機関の診断,治療を受けることもなかったのであり,身体に何らの支障も生じていなかった。 したがって,原告には,療養補償給付の補償対象となるべき負傷すら生じていなかったというべきである。 (3) 仮に,原告が本件事故により何らかの負傷をしたとしても,本件傷病の発生までに本件事故後5か月以上の期間が経過していること,さらに,B医師ほか各医師の意見(乙27の2,29の2,37,50,59の2,60の2)を考慮すると,本件傷病が,本件事故による負傷又はその負傷の結果として発症した疾病であるとは認められない。 (原告の反論)(1) 原告は,本件事故後,上半身の痛みやだるさなどの不調に湿布薬や塗り薬で対処していたのであり(この間に数度にわたって右目の脇辺りに光が走るような体験をしたこともある。),数日間働くと身体に痛みやだるさとか,脱力感,倦怠感,疲労が増し,仕事が辛くなるので,次の数日間は仕事を休むという形で,身体をいわば騙し騙ししていたのである。 また,原告は,むち打ち症,その中でもバレーリュー症候群に罹患したものであり,その診断は医師でも困難であり,原告がその判断をすることは困難であるから,原告が本件事故後すぐに身体の異常に気づかなかったとしても,そのことをもって原告の身体に何らの異常も生じていなかったとはいえない。 (2) 被告が根拠とする各医師の意見は,初診日が受傷日より相当日数経過していることだけを根拠とし,さらに,因果関係が不明で ,そのことをもって原告の身体に何らの異常も生じていなかったとはいえない。 (2) 被告が根拠とする各医師の意見は,初診日が受傷日より相当日数経過していることだけを根拠とし,さらに,因果関係が不明であるとするだけで因果関係を積極的に否定するものではないものが多い。また,H医師及びB医師は,原告の診断すらしていない。 被告はこれらの医師の意見を基に本件各処分をしたのであり,重大な事実誤認がある。 第3 当裁判所の判断 1 争いのない事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 原告(昭和17年生,男性)は,名古屋市a区b町c丁目d番地efビル2階所在のAに鳶工として就労していた。 (2) 本件事故の詳細ア日時平成10年8月22日午前8時50分ころイ場所愛知県海部郡g町h他35筆所在のC新築工事現場ウ従事していた労働の内容前記建物屋上広告塔外部足場全体(幅10.8メートル,高さ10.35メートル,奥行き1.2メートルの上下6段の枠組足場)の解体作業エ被災事故の態様原告らが,上記解体作業にとりかかり,上から3段目までの足場部分(幅10.8メートル,高さ5.1メートル,奥行き1.2メートル)を取り外して,クローラークレーン(55トン吊り)で吊り上げるため,同部分の3段目地切り(ジョイントを外す。)作業中,上から3段目までの足場を吊り上げ保持していたクローラークレーンの補ジブ(先端部分)が折れ曲がった。このため,同足場が引っ張られる状態となって,補ジブもろとも原告が乗っていた足場全体(上下6段の全体)が横倒しとなり,原告は足場にしがみついたまま,5.1メートルの高さから足場と共にコンクリート造りの屋上床に激突した。 (3) 原告は,本件事故直後,痛みもそれほどひどくなく,応急処置もせずに,しばらく休 しとなり,原告は足場にしがみついたまま,5.1メートルの高さから足場と共にコンクリート造りの屋上床に激突した。 (3) 原告は,本件事故直後,痛みもそれほどひどくなく,応急処置もせずに,しばらく休憩した後に,崩壊した足場の片付け作業に従事した(乙25,26)。本件事故当時,原告と一緒に作業に従事していたDも負傷した様子だったが,たいしたことはなく,同人も少し休んで仕事に従事した(乙25,26,47)。 (4) 原告は,本件事故当日は,病院で診察してもらうほどの症状はなく,自宅で湿布薬を貼って様子をみた(乙25)。 (5) 原告は,本件事故の翌日の平成10年8月23日は日曜日で休日であったので自宅で過ごし,その翌日の8月24日から27日までAの仕事をした(乙24,25,26)。 (6) 原告は,Aの正規の従業員ではなく,仕事の区切りで数日間は出勤しなくてもいいと指示されたり,また,知り合いの建築業者の仕事を手伝うこともあって,自分の方からAの仕事を休むこともあった。原告は,1か月のうちAの仕事以外で,たいだい二,三日は知り合いの建築業者の仕事を手伝っていた(乙25,26,58)。 (7) 原告は,本件事故後も,Aの仕事をし,月に二,三日,Aの仕事の合間に知り合いの建築業者の仕事の手伝いもした(乙25,58)。 (8) 原告は,平成11年1月になってからは,仕事自体が余りなかったことや頭痛や倦怠感で身体の調子が悪かったため,Aの仕事も知り合いの建築業者の仕事もしなかった(乙25,58)。 (9) 原告は,本件事故から約5か月ほど経過した平成11年1月20日夕刻,自宅において急に左背中から左胸にかけて激痛が生じ,吐き気がして息苦しくなったため,原告は,名古屋第一赤十字病院救急外来を受診し,原告は,四,五年前からしめつけられる痛みが瞬間的に起こるこ 日夕刻,自宅において急に左背中から左胸にかけて激痛が生じ,吐き気がして息苦しくなったため,原告は,名古屋第一赤十字病院救急外来を受診し,原告は,四,五年前からしめつけられる痛みが瞬間的に起こることがあり,同日17時30分ころ,左前胸部から背部に放散する痛みが出現し,痛みは来院時にも続いていること,10年前からのどに詰まった感じがあるなどと述べた(乙25,49)。 同病院のE医師は,身体理学所見上は特記すべき異常がなく,虚血性心疾患を疑って,繰り返し心電図を取ったが,正常波形であり,採血データ,胸部レントゲン写真上も特記すべき異常は見られなかった。原告の症状は軽快していたが,血液検査の結果白血球の値が上昇していたので,消化器系の疾患も考慮して,胃粘膜保護剤を処方して帰宅させた(乙59の2)。 原告は,翌1月21日,同病院を再診したが,既往症としてアルコール性膵炎があり,飲酒量,喫煙の量が多かった(ビール1日当たり7,8本,喫煙1日当たり60本)ので,消化器科において精査加療となった(乙59の2)。 (10) 原告は,平成11年2月16日,名古屋第一赤十字病院の循環器科を受診したが,異常所見ないと診断された(乙59の2)。原告は,同日,後頚部から頭にかけての鈍痛,熱感,頚部から背部にかけての違和感,痛みを訴え,同病院の整形外科を受診した(乙29の2)。 原告は,同整形外科において内服薬による治療を受けるも症状は改善せず,頭部から後頚部の鈍痛,熱感が著明であると訴え,同科のF医師は,同月17日にされた頚椎レントゲン検査で頚椎症,頚椎MRI検査で,頚椎第5,第6間(C5/6),第6,第7間(C6/7)間の脊柱管が狭小化し,椎間板が飛び出している状態である(頚椎椎間板ヘルニア)と判断した(乙29の2)。 同病院整形外科のF医師は,本件事故と本件傷病 5,第6間(C5/6),第6,第7間(C6/7)間の脊柱管が狭小化し,椎間板が飛び出している状態である(頚椎椎間板ヘルニア)と判断した(乙29の2)。 同病院整形外科のF医師は,本件事故と本件傷病との因果関係について「平成10年8月22日受傷日より相当日数経過してからの受診であり,当疾病(症状)が受傷によるものとの保証は難しい。これは本人の訴えに頼るしか証明できないと考える。また,加齢性変化によるものであるとの断定もできない。」という意見であった(乙29の2)。 (11) 原告は,平成11年3月8日,名古屋第一赤十字病院の脳神経外科を受診し,同科において頭部CTスキャン,レントゲン検査を受けたが,頭部CTスキャンは正常範囲内であり,レントゲン検査でも骨折は認められなかった。同科は,「頭部外傷,頭頚部症候群」と診断したが,検査のみ行い,特に治療はしなかった(乙27の2)。 同病院の脳神経外科のG医師は,本件事故と本件傷病との因果関係について「当科への初診は,平成11年3月8日であり,平成10年8月22日の負傷が原因かは不明である。」という意見であった(乙27の2)。 (12) 原告は,平成11年3月8日,同月29日,再度,名古屋第一赤十字病院の循環器科を受診したが,同科のE医師が,循環器領域では有意な所見がなく,病的心疾患の合併は考えにくいことを説明したところ,原告は納得し,同科における診療は終了した(乙59の2)。 同病院循環器科のE医師は,本件事故と本件傷病との因果関係については,「循環器科としては特記すべき異常なく,また受傷事故との関連を疑わせるかのような所見は確定できず不明であると考えられる。」という意見であった(乙59の2)。 (13) 原告は,平成11年6月15日から同月19日まで,精密検査目的で名古屋第一赤十字病院に入院し, せるかのような所見は確定できず不明であると考えられる。」という意見であった(乙59の2)。 (13) 原告は,平成11年6月15日から同月19日まで,精密検査目的で名古屋第一赤十字病院に入院し,ミエロ(造影剤)を頚椎に挿入する検査を受けたが,ブロックという造影剤が詰まる部分は見られなかった(乙29の2,51)。 (14) 愛知労働基準局地方労災医員であるH医師は,平成11年8月25日付けの意見書を作成したが,本件事故と本件傷病との因果関係について,「平成10年8月22日の受傷と今回症状の発症まで相当期間経過しており,医学経験則上受傷と発症との因果関係は認めがたい。」という意見であった(乙37)。 (15) 原告は,平成12年2月15日,中部労災病院副院長で愛知地方労災医員も務めるI医師の診断を受けた(乙60の2)。 原告の主訴は,①左の肩胛間部に疼痛がある,②右肘関節橈側,右三角筋部,左肩関節部の痛みが出たり消えたりする,③時に,右手指の掌側に痺れを生じる,④後頭部に「ウォーン」というような音がする,⑤月に1,2度,頚部の運動で右眼に閃光が走る,⑥平成11年12月から右踵から足部の内側に痛みが出たり消えたりする,⑦時々呼吸が苦しくなる,⑧希に採尿困難がある,⑨希に下痢をする,⑩新しいことを忘れやすい,というものであった(乙60の2)。 その時の症状は,頚部には運動制限はなく,伸展,左側屈で左項筋部に疼痛があり,左肩胛間部に痛みが放散し,右側屈で左項筋部に疼痛を生じるというものであった。また,上肢に,知覚障害,筋萎縮,運動制限は認められず,上腕三頭筋腱反射は両側において減弱が認められ,上腕二頭筋腱反射,橈骨骨膜反射は正常範囲内であった(乙60の2)。 I医師は,以上のような臨床所見から,頚椎椎間板ヘルニアと腰椎脊椎管狭窄症又は何らかの末梢神 筋腱反射は両側において減弱が認められ,上腕二頭筋腱反射,橈骨骨膜反射は正常範囲内であった(乙60の2)。 I医師は,以上のような臨床所見から,頚椎椎間板ヘルニアと腰椎脊椎管狭窄症又は何らかの末梢神経疾患が疑われると診断した上で,上記疾患の中で,本件事故に起因する外傷との関連の可能性があるのは,頚椎椎間板ヘルニアのみであること,頚椎椎間板ヘルニアが外傷により発生した場合,その多くは脊髄障害を伴うと考えられるが,本例は平成10年8月22日の受傷から平成11年1月20日の名古屋第一赤十字病院受診まで明確な頚椎椎間板ヘルニアによると思われる症状の訴えもなく,現時点でも頚髄の障害に起因すると思われる著しい神経症状は認められないことから,頚椎椎間板ヘルニアと本件事故との因果関係は否定されるものと考える,という意見であった(乙60の2)。 (16) 中部リハビリテーション専門学校名誉校長,名古屋市立城西病院の名誉院長であるB医師は,本件事故と本件傷病との因果関係について,「①平成10年8月22日に「頚部捻挫」があり,②平成11年2月受診の多彩な愁訴は,加齢による頸椎椎間板の変性に由来する「頸椎症」に,③精神的要因あるいは内臓疾患由来の「referredpain」さらには自律神経失調症による「バレー・リュー症状」などが加わったものと考えられる。したがって,現在の愁訴は平成10年8月22日の災害とは無関係な「私病」としてとらえるべきである。」という意見であった(乙50)。 (17) 原告は,平成15年3月11日,杉村記念病院を受診し,頚部痛,肩甲部痛があると訴え,同年4月25日,頚椎捻挫と診断された(甲9)。また,原告は,平成15年3月11日,井野辺病院において頚椎MRI検査を受け(甲10),同病院は,同検査の所見として,C3/C4間,C6/C7間の脊 え,同年4月25日,頚椎捻挫と診断された(甲9)。また,原告は,平成15年3月11日,井野辺病院において頚椎MRI検査を受け(甲10),同病院は,同検査の所見として,C3/C4間,C6/C7間の脊柱管に椎間板の膨隆と前方での硬膜の圧迫が認められるとした(甲11)。 (18) 頚椎椎間板ヘルニアは,頚椎椎体及び椎間板の形状,ルシュカ関節の存在等から発生し難く,腰椎椎間板ヘルニアに比較して極めて稀であり,椎間板ヘルニアの中で,頚椎に係るものは四,五パーセントにすぎない(乙50,51,52)。 頚椎椎間板ヘルニアの病像は,後頭,頚部から肩甲,背部の凝り,不快感,疼痛などと頚椎運動制限が先行し,一般に,小外傷を契機として頚部痛に始まり,頚椎の運動痛が著明で,一定の頭位(肢位)を取って来院することが多い(乙50,51)。また,C6/C7間の頚椎椎間板ヘルニアの場合,中指に知覚障害が発症する。頚椎椎間板ヘルニアは外傷によっても発生する可能性があるが,その場合,受傷直後のほか数時間後あるいは一両日経って亜急性に発症することもあり,その多くは脊髄障害を伴う(乙51,60の2)。 (19) 頚椎症(頚部脊椎症,頚部骨軟骨症)は,頚椎柱,とりわけ運動と加重を負担する椎間板の退行変性に基づき,椎体後外側を形作っているルシュカ関節を含む椎体周辺に反応性骨増殖を生じ,神経根圧迫,脊髄圧迫及び両者の合併を生じるものである(乙51)。中年以降に好発し,比較的頻度の高い疾患である(乙51)。出現頻度としては,C5/C6,次いでC6/C7,C4/C5の順であるが,終局的には全頚椎レベルに起こり得る(乙51)。椎間板変性の進行と共に椎間間隙の狭窄化,椎体辺縁の骨棘,さらに椎間関節の変性,頚椎柱アライメント異常を生じ,結果として脊柱管,椎間孔狭窄による神経症状を引き起こすほ レベルに起こり得る(乙51)。椎間板変性の進行と共に椎間間隙の狭窄化,椎体辺縁の骨棘,さらに椎間関節の変性,頚椎柱アライメント異常を生じ,結果として脊柱管,椎間孔狭窄による神経症状を引き起こすほか,外側の骨棘は椎骨動脈の圧迫も生じ得る(乙51)。 臨床症状としては,椎間板変性などによる頚肩部の疼痛,運動制限が長期にわたり先行し,漸次進行する傾向にあり,圧迫に伴う神経根刺激症状としては,上肢のしびれ,放散痛,知覚異常等があるほか,頚椎椎間板ヘルニアと共通する症状がある(乙51)。レントゲン検査上,椎間間隙狭窄,椎体終板の骨硬化,椎体辺縁の骨棘形成椎間孔狭窄化などが見られるが,中年以降に発症するものであり,無症状であってもレントゲン検査上一定の所見を示すものも多数みられるので,神経症状と併せて診断することが必要とされている(乙51)。 (20) 椎間板軟骨の変性は,主として30歳代から始まり,加齢と共に進行する。無症状の対象群においてMRI画像上,頚椎椎間板のヘルニアの所見が見られることが多い(乙50)。 健常者469人の頸椎MRI撮影をして椎間板の加齢変化を検討したところ,画像所見において,椎間板の後方突出,前方突出,狭小化及びT2強調矢状断像における輝度低下は,加齢とともに頻度が高くなり,特に輝度低下は20歳代で既に男女の椎間板に見られ,60歳以上では高率に認められたという結果がある(乙54)。また,頚部疾患の症状の既往歴を持たない者63人に対し,MRI検査をしたところ,その19パーセント,内訳は40歳以下の14パーセント,40歳を超えるうちの28パーセントにMRI画像の異常が認められたという調査結果がある(乙55の2)。また,頚部疾患の症状が見られない20歳から65歳までの年齢の男女を側面からレントゲン撮影したところ,60歳から65歳 28パーセントにMRI画像の異常が認められたという調査結果がある(乙55の2)。また,頚部疾患の症状が見られない20歳から65歳までの年齢の男女を側面からレントゲン撮影したところ,60歳から65歳まででは,男性の95パーセントと女性の70パーセントにレントゲン画像上少なくとも一つの退行性変化が認められたという調査結果がある(乙56の2)。さらに,無症状の対象群における骨孔の10年間の退行性の形態的変化を,症状のある対象のそれと比較してみたところ,形態学的分析によれば,高齢者では椎体下面の椎間関節の肥大により孔が小さくなる傾向があるという調査結果がある(乙57の2)。 (21) 外傷性頭頚部症候群は,外傷直後又は短時間の無症状の時期を経て頚髄性知覚過敏帯に一致して多量の発汗や上肢の浮腫を認め,上肢の知覚異常,知覚過敏を訴えることが多く,このほか頭痛,頭重,眼症状,めまい,耳鳴り,顔面紅潮,皮膚温異常又は心悸亢進を訴えるものもあり,これらは一般にバレーリュー症候群として扱われている(乙50)。また,狭心症と誤診されることのある胸部痛は,第7頚神経根症で生じることがほとんどである(甲17)。 2 争点(本件傷病の業務起因性)について原告は,本件傷病の業務起因性は認められると主張するが,次のとおり採用することができない。 (1) 原告は,労働災害補償制度は,労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべき労働条件の最低条件を定立することを目的に,負傷,死亡又は疾病が業務上のものであることのみを要件として各種の労災補償給付をする法定救済制度であり,損害の衡平な分担を目的とする民事損害賠償制度とは目的を異にするから,労災補償においては,民事損害賠償よりもその救済対象を拡大する必要があり,業務起因性の判断において,民事損害賠償における相当因果 損害の衡平な分担を目的とする民事損害賠償制度とは目的を異にするから,労災補償においては,民事損害賠償よりもその救済対象を拡大する必要があり,業務起因性の判断において,民事損害賠償における相当因果関係を持ち出すのは相当でなく,業務と負傷,死亡又は疾病との間に合理的関連性があれば足りると解すべきであると主張する。 しかし,労働者災害補償保険法12条の8第1項によれば,同法の保険給付の種類,内容は,労働基準法上の災害補償とほぼ同一である上,労働者災害補償保険法8条1項によれば,労働基準法の平均賃金が補償金額の計算の基礎とされているなど保険給付の要件及び範囲は,労働基準法における災害補償の要件及び範囲に対応しているし,労働基準法84条によれば,労災保険給付がされるべき場合には労働基準法上の補償責任が免責されるという関係にあることを考慮すると,労災保険制度は,労働基準法上の災害補償責任を担保することを目的としていると解される。次に,労働基準法上の災害補償責任は,使用者責任に基づく補償の一形態であり,損害の填補ということを目的とするものであるし,労災保険制度は,事業主が負担する保険料と国庫負担により運営され,財源に一定の限界があることに照らすと,業務と負傷,死亡又は疾病との間に相当因果関係が認められることが必要であり,業務と負傷,死亡又は疾病との間に合理的関連性があれば足りるという要件では緩やかすぎるというべきである。 したがって,原告の前記主張を採用することはできない。 (2) 原告は,本件事故により,頭部,頚部を強打したのであり,本件事故が,5.1メートルからの高さからの墜落という生命,身体に重大な影響を及ぼすものであったこと,本件事故前には,健康体であった原告が,本件事故を機に身体に痛みやだるさ,脱力感,倦怠感,疲労の増大を自覚するようにな ートルからの高さからの墜落という生命,身体に重大な影響を及ぼすものであったこと,本件事故前には,健康体であった原告が,本件事故を機に身体に痛みやだるさ,脱力感,倦怠感,疲労の増大を自覚するようになり,やがては仕事をすることができなくなったこと,原告の傷病の部位が本件事故により原告が衝撃を受けた部位と一致すること,本件事故後,原告が本件傷病発症の原因となり得る事故に遭遇していないこと,原告に業務逸脱行為や恣意的行為等が存在しないことからも,本件傷病が業務に起因することは明白であると主張し,これを基礎付ける医学的知見として,J医師の意見書(甲13,14)などを提出するが,これを採用することはできない。 (3) 原告は,本件事故により,頭部,頚部を強打したと主張し,証拠(甲19)がこれに沿う。 しかし,5.1メートルの高さから墜落して,頭部,頚部を強打したのであれば,原告は,その直後に,頭部,頚部の異常に係る症状を訴えるはずであるが,原告は,前記のとおり,本件事故後は,病院で診察してもらうほどの症状はなく,自宅で湿布薬を貼って様子をみたというのであり,本件事故により負傷したとしてもそれは軽微なものであったというべきである。 (4) 原告は,本件事故前には,健康体であった原告が,本件事故を機に身体に痛みやだるさ,脱力感,倦怠感,疲労の増大を自覚するようになり,やがては仕事をすることができなくなったと主張し,証拠(甲19)がこれに沿う。 しかし,前記のとおり,原告が平成11年1月以降,仕事をしなくなったのは,一つには仕事そのものが余りなかったことも理由であるし,原告は,本件事故後約5か月もの間,医療機関の診断,治療を受けることはなかったのであるし,前記のとおりの勤務状況に照らせば,原告は本件事故の後も通常どおり鳶工として勤務を継続していたといわざ るし,原告は,本件事故後約5か月もの間,医療機関の診断,治療を受けることはなかったのであるし,前記のとおりの勤務状況に照らせば,原告は本件事故の後も通常どおり鳶工として勤務を継続していたといわざるを得ないのであるから,その間原告の体調が不良であったとしてもそれは軽微なものであったといわざるを得ない。 また,原告は,本件傷病の傷病名を診断することは医師でも困難であり,原告がその判断をすることは困難であるから,本件事故後異常がないことはなかったと主張するが,傷病名が何かが分からなくても,身体に何らかの異常があれば,医療機関の診断,治療を受けることは可能であるから,原告の前記主張を採用することはできない。 (5) 原告は,原告の傷病の部位が本件事故により原告が衝撃を受けた部位と一致すると主張する。 しかし,本件事故により原告が衝撃を受けた部位を特定し,それを認めるに足りる的確な証拠はないから,その部位が原告の傷病の部位と一致すると認めることはできない。 (6) 原告は,その主張を基礎付ける医学的知見として,J医師の意見書(甲13,14)を提出するが,その内容を直ちに信用することはできない。 ア J医師は,「外傷性頚部症候群として本傷病をとらえその中の一病態として頚椎椎間板ヘルニアを含めて考えるならば因果関係ありと思う。」「経過より外傷性頚部症候群の症状が事故後より継続していたものの受診に至らず,おそらくは頚椎椎間板ヘルニア由来の症状もその中に含まれていたと考えられる。」としている。すなわち,本件事故により原告は外傷性頚部症候群に罹患し,その中には頚椎椎間板ヘルニアも含まれ,本件傷病はその頚椎椎間板ヘルニアによって発症したものであるとする。 また,前記のとおり,名古屋第一赤十字病院整形外科のF医師も頚椎椎間板ヘルニアと診断し,愛知地方労災医員I 椎間板ヘルニアも含まれ,本件傷病はその頚椎椎間板ヘルニアによって発症したものであるとする。 また,前記のとおり,名古屋第一赤十字病院整形外科のF医師も頚椎椎間板ヘルニアと診断し,愛知地方労災医員I医師も,頚椎椎間板ヘルニアの疑いがあるとしている。 しかし,頚椎椎間板ヘルニアについては,前記のとおり,その発生が極めて希であるし,その症状は,後頭,頚部から肩甲,背部の凝り,不快感,疼痛などと頚椎運動制限が先行し,頚部痛に始まり,頚椎の運動痛が著明で,一定の頭位を取って来院し,さらに,腕の筋力の筋力低下,指の知覚異常等の症状が発症し,これらの症状は外傷性の場合,受傷直後か数日後に発症するというものであるが,原告が本件事故直後に上記所見に適合する症状を発症したことを認めるに足りる的確な証拠はないし,前記のとおり,原告が平成11年1月20日に名古屋第一赤十字病院を受診した際にも,そのような症状はなく,同年2月11日になって初めて頚部痛を訴えたものである。また,そもそもJ医師自身「診断的には頚椎症か頚椎椎間板ヘルニアかまたはその他の疾病か迷うところである。」としている。これらに照らすと,原告の本件傷病が頚椎椎間板ヘルニアによるものかどうかの確定は困難であるといわざるを得ない。 また,外傷性頚部症候群については,前記のとおり,外傷直後又は短時間の無症状の時期を経て頚髄性知覚過敏帯に一致して多量の発汗や上肢の浮腫を認め,上肢の知覚異常,知覚過敏を訴えるというものであるが,原告が本件事故直後に上記所見に適合する症状を発症したことを認めるに足りる的確な証拠はないし,前記のとおり,原告は本件事故直後も通常どおり鳶工として働いていたことに照らすと,原告が外傷性頚部症候群に罹患したと認めることはできない。 したがって,本件事故から本件傷病に至る因果の流れに関 いし,前記のとおり,原告は本件事故直後も通常どおり鳶工として働いていたことに照らすと,原告が外傷性頚部症候群に罹患したと認めることはできない。 したがって,本件事故から本件傷病に至る因果の流れに関するJ医師の前記意見を直ちに信用することはできない。 イまた,J医師は,本件傷病が頚椎椎間板ヘルニアによるものではないとしても,「被災者の主訴が受傷後から顕在化している状況に鑑みて本傷病と災害との因果関係がありとすべきである。」「今回受傷後に症状が顕在化したとなれば頚椎変性部の椎間板(C6/C7)に外傷性のストレスが加わったと推測される。」とする。 しかし,前記のとおり,原告の本件事故後の受診状況,稼働状況に照らせば,被災者の主訴が受傷後から顕在化していると評価することはできず,J医師は,専ら原告本人が回顧的に述べる主観的な愁訴のみを基にして意見を述べているといわざるを得ないから,J医師の前記意見を直ちに信用することはできない。 ウまた,原告は,J医師の意見に沿うものとして,証拠(甲17,18)を提出する。 しかし,甲17によれば,頚部の障害神経根の特定には,頚部痛,上肢痛特に上腕部痛の部位が重要であること,狭心症と診断されることのある胸部痛はC7神経根障害で生じることがほとんどであることなどが認められ,甲18によれば,C6/C7神経根障害では,神経学的所見の重複する部分が多く,診断は慎重を要するとされていることが認められるが,これらの証拠は,原告の本件傷病が,頚椎の障害に由来するものであることの根拠とはなり得るが,それを超えてその障害が本件事故に由来するものであることまで認めるに足りるものではない。 (7) 以上のとおり,原告は,本件事故後は,しばらく休んだ後,仕事に戻り,特に病院を受診せずに湿布を貼る程度の治療しかせず,その後も,通常 に由来するものであることまで認めるに足りるものではない。 (7) 以上のとおり,原告は,本件事故後は,しばらく休んだ後,仕事に戻り,特に病院を受診せずに湿布を貼る程度の治療しかせず,その後も,通常どおり鳶工としての勤務を継続していること,本件事故後約5か月間もの間,医療機関の診断,治療を受けなかったこと,本件傷病と本件事故との因果関係を認めることができないとする前記各医証が存在すること,また,B医師の所見(乙50)によれば,原告の本件傷病は加齢性によるものである可能性もあることが認められることに照らすと,原告の前記主張に沿う前記各証拠を信用することはできず,他に本件事故と本件傷病との相当因果関係を認めるに足りる証拠はなく,相当因果関係の内容について,原告の主張する共働原因論を採用したとしても,本件事故と本件傷病との相当因果関係を認めることはできない。B医師が原告を診断していないことは,上記認定を左右するものではない。 (8) 以上によれば,本件各処分はいずれも適法であると認められる。 第4 結論よって,原告の請求はいずれも理由がない。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判官上村考由(別紙省略)

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