平成28(わ)671 詐欺未遂

裁判年月日・裁判所
平成28年9月23日 神戸地方裁判所
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判決文本文2,771 文字)

平成28年9月23日宣告詐欺未遂被告事件 主文 1 被告人を懲役2年6月に処する。 2 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は,氏名不詳者らが,平成28年6月28日頃から同月30日までの間,複数回にわたり,神戸市a区b町c丁目d番e号fg号A(当時71歳)方に電話をかけ,同人に対し,その子を装って,株式投資の損失を補うために会社の現金を使い込んだ,その現金を至急補填する必要があり,そのための資金として300万円を用意してほしい等とうそを言い,引き続き,Aを装った女性警察官に対し,電話で,用意した現金を「マツムラ」に渡してほしい旨申し向け,Aの子が現金を至急必要としているかのように信じ込ませて現金を騙し取ろうとしているのに乗じ,そのような事情を知りながら,自らの報酬欲しさから犯行に加わり,同月30日,前記氏名不詳らと共謀の上,被告人が,同日,同市h区i町j丁目k番l号先北側路上において,A役の女性警察官に対し,マツムラと名乗って声をかけ,通話状態の携帯電話を渡すなどし,Aをして一連の電話の相手が同人の子であり,同人が現金を至急必要とし,マツムラがその現金を預かるものと信じ込ませ,現金300万円の交付を受けようとしたが,Aから通報を受けて同所に待機していた警察官に逮捕されたため,詐欺の目的を遂げなかったものである。 【証拠の標目】省略【法令の適用】・罰条刑法60条,250条,246条1項・刑の執行猶予刑法25条1項・訴訟費用(不負担) 刑事訴訟法181条1項ただし書【詐欺未遂罪が の適用】・罰条刑法60条,250条,246条1項・刑の執行猶予刑法25条1項・訴訟費用(不負担) 刑事訴訟法181条1項ただし書【詐欺未遂罪が成立することについての補足説明】 1 本件につき,被告人は事実関係をすべて認め,弁護人もあえて法律的観点からの無罪主張はしない旨述べているが,念のため,当裁判所において詐欺未遂罪が成立すると判断した理由を説明する。 2 事案の概要被告人の供述等の関係証拠によると次の事実関係が認められ,当事者間でも特に争いはない。 すなわち,被告人は,平成28年6月29日,以前にパチンコ店で知り合った「アズマ」と名乗る男から,電話で,荷物を受け取る仕事をしないかと誘われ,報酬欲しさから,翌30日,指示されたとおりにワイシャツにネクタイを着用するなどビジネスマン風の服装で犯行現場に赴き,これまた指示どおりに「マツムラ」と偽名を名乗って被害者から現金を受け取ろうとした。遅くともこの時点においては,被告人には,未必的にせよ自分が詐欺に加担し,騙された被害者から現金を受け取ろうとしているとの認識があった。 ところで,被害者は,当初は騙されて現金を準備しようとしたが,途中で気づいて警察に届出をし,その後,警察官らにおいて「騙されたふり作戦」と称する捜査手法を実施し,被告人が被害者から現金を受け取ろうとした時点で被害者だと思っていたのは実は被害者に扮した女性警察官であり,被告人が受け取ろうとした現金は実際は偽装した現金様のものであった。 3 検討以上の事実関係からすれば,被告人に氏名不詳の共犯者らとの共謀が成立し得るのは,被告人が被害者から現金を受け取ろうとする直前の時点であると認められるが,その時点では,すでに騙されたふり作戦が実施中であった 事実関係からすれば,被告人に氏名不詳の共犯者らとの共謀が成立し得るのは,被告人が被害者から現金を受け取ろうとする直前の時点であると認められるが,その時点では,すでに騙されたふり作戦が実施中であったから,客観的には詐欺の結果が発生する現実的危険性はなくなっていたといえる。 しかし,氏名不詳の共犯者らにおいて,被害者に対する欺罔行為をし,被害者が錯誤に陥って現金を交付しようとしたのだから,当初はその危険性があったことは明らかである。被告人は途中から関与しているが,未必的にせよ共犯者らのした欺罔行為を認識しながら,自らの報酬欲しさという動機から,共犯者らのした欺罔行為を利用する意思で現金(様のもの)を受け取ろうとする行為をしている。そして,その際の状況は,一般人からすれば,騙されて錯誤に陥った被害者が,まさに詐欺の犯人に現金を交付しようとするものといえるから(被告人の認識も同様である。),欺罔行為時に存在した金銭騙取の現実的危険性は,被告人の受け取ろうとする行為の時点でもなお失われていないと見るべきである。 そうすると,被告人のした現金を受け取ろうとする行為はまさしく詐欺の実行行為(騙取行為)であり,かつ,被告人は,共犯者らによる欺罔行為も含め詐欺未遂の共同正犯(実行共同正犯)としての罪責を負うと認めることが相当である。 なお,前記の騙されたふり作戦にあっては,共犯者らや被告人の犯意の発生に捜査機関は関与しておらず,厳格な要件を求められる「おとり捜査」には該当しないと判断した。 【量刑事情】本件はいわゆる劇場型詐欺による詐欺未遂1件の事案である。 その手口は,氏名不詳の共犯者らにおいて,高齢女性に対し,その子あるいは会計事務所の者を装い,あたかも実の子が緊急に大金を必要としているかのように信じ込ませるというもので,組 1件の事案である。 その手口は,氏名不詳の共犯者らにおいて,高齢女性に対し,その子あるいは会計事務所の者を装い,あたかも実の子が緊急に大金を必要としているかのように信じ込ませるというもので,組織的背景をうかがわせる卑劣かつ悪質なものである。 被告人は,前記のような経緯で途中から犯行に関与した者ではあるが,共犯者らが詐欺をしようとしていることを未必的ではあっても気付いていながら,自らの報酬欲しさからいわゆる「受け子」の役を担当したもので,犯行に加わった動機,経緯に酌量の余地はなく,その関与を軽く見ることもできない。 しかしながら,幸いにも被害者が詐欺に気づいたことで本件は未遂に終わっていること,これまでに前科もなく,やや曖昧な供述をしている点はあるものの大筋で事実関係を認め,謝罪と反省の言葉を述べていること,元の雇用主が証人出廷し,今後被告人を住み込みで再度雇い入れるなどしてその更生に協力する旨述べていること等からすれば,今回に限りその刑の執行を猶予することが相当である。 なお,本件の背景には被告人の生活態度の不良さがあることは検察官指摘のとおりであるが,今回は前記のとおり元雇用主の更生への協力が見込まれること等から,保護観察に付す必要性まではないものと判断した。 (求刑-懲役2年6月)平成28年9月23日神戸地方裁判所第1刑事部 裁判官畑口泰成

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