平成15(行ウ)4 校舎新築工事執行停止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年12月22日 大津地方裁判所 住民訴訟
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判決文本文14,651 文字)

主文 1 原告らの被告に対する滋賀県犬上郡豊郷町α518番地所在の豊郷町立豊郷小学校本校舎の新築工事の差し止めを求める訴えを却下する。 2 被告は,上記豊郷町立豊郷小学校本校舎の新築工事にかかる工事代金を支出してはならない。 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの,その余を被告の各負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 原告ら(1) 被告は,豊郷町立豊郷小学校の本校舎の新築工事を執行してはならない。 (2) 主文第2項同旨 2 被告(1) 本案前ア主文第1項同旨イ原告らの被告に対する豊郷町立豊郷小学校の本校舎の新築工事にかかる工事代金の支出の差し止めを求める訴えを却下する。 (2) 本案原告らの請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要本件は,滋賀県犬上郡豊郷町(以下「豊郷町」という。)の住民である原告らが,豊郷町長(以下「町長」という。)で,町の執行機関である被告に対し,豊郷町α518番地所在の豊郷町立豊郷小学校(以下「豊郷小学校」という。)の本校舎の新築工事(以下「本件工事」という。)及び同工事代金(以下「本件工事代金」という。)にかかる支出が,地方自治法(以下「法」という。)232条の3に違反する等として,本件工事の執行及び本件工事代金支出の差止めを求めた事案である。 Ⅰ 争いのない事実等(争いのない事実のほか括弧内に掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実も含む。) 1 当事者(1) 原告らは,いずれも豊郷町の住民である。 (2) 被告は,町長であり,豊郷町の執行機関を務めるものである。 なお,被告は,平成15年3月9日に行われた被告に対する解職投票によって,同日付けで町長としての地位を失い,同年4月27日に行われた町長選挙により当選し,同日付けで町長に就任した。豊郷町において なお,被告は,平成15年3月9日に行われた被告に対する解職投票によって,同日付けで町長としての地位を失い,同年4月27日に行われた町長選挙により当選し,同日付けで町長に就任した。豊郷町においては,同年3月10日から同年4月26日まで,豊郷町総務課長が,豊郷町長職務代理者(以下「町長職務代理者」という。)として,町長の職務を代理した。(乙67) 2 豊郷小学校の概要(1) 豊郷小学校は,その卒業生である実業家aの寄付により,昭和12年5月30日竣工し,その建築設計は,滋賀県近江八幡市所在のb建築事務所によって行われた。同事務所の主催者であったbは,アメリカ合衆国に生まれ,明治時代後半に来日し,大正年間および昭和初期に建築設計の仕事に携わり,現在,滋賀県の指定文化財となっているb邸(同県近江八幡市)のほか,関西学院大学(兵庫県西宮市),神戸女学院大学(同前),プール女学院(大阪市)等の建物を建築設計した。 (2) 豊郷小学校は,β本線γ駅の北東方面に位置し,同線の北側に平行して通っている県道δ線沿いに,約4万㎡の敷地を有しており,主に,敷地のほぼ中央に建てられた南北に長い鉄筋コンクリート造2階建,一部3階建の本校舎(以下「本件校舎」という。)と,その南北に配置され,それぞれ渡り廊下で本件校舎と繋げられた図書館及び講堂によって構成されている。また,本件校舎の正面(敷地西側)には,ロータリー状のアプローチや噴水のある池からなる前庭や実習農園の水田と畑地が,本件校舎の東側には,陸上トラックを中心とした校庭等の運動施設が整備されている。(甲8) 3 本件工事の着工までの経緯(1) 豊郷町は,平成8年4月,豊郷小学校が建築後60年以上が経過し,老朽化が進んでいることから,株式会社森野設計事務所(以下「森野設計事務所」という。)に対し,耐震診断 本件工事の着工までの経緯(1) 豊郷町は,平成8年4月,豊郷小学校が建築後60年以上が経過し,老朽化が進んでいることから,株式会社森野設計事務所(以下「森野設計事務所」という。)に対し,耐震診断調査を依頼し,また,豊郷町議会においても,豊郷小学校の建て替えの要否等につき議論を重ねていたが,被告は,豊郷小学校の校舎建設のために,本件校舎,講堂及び附属施設を解体することを計画し,豊郷町議会は,平成13年12月6日,上記講堂の解体工事費用についての補正予算を議決した。 (2) その後,被告は,上記講堂を保存し,平成14年度及び平成15年度に本件校舎を解体して,その跡地に新校舎を建設するとして,上記(1)の計画を変更し,豊郷町議会は,平成14年9月6日,豊郷小学校改築事業にかかる工事請負費等を内訳とする豊郷小学校整備費18億8407万5000円についての補正予算(以下「平成14年度補正予算」という。)を議決した。 同月30日,豊郷小学校等改築工事にかかる指名競争入札が実施され,株式会社桑原組彦根支店(以下「桑原組」という。)が落札し,被告は,同日,桑原組との間で,工期を契約成立日から7日以内の日から平成15年3月31日まで,請負代金を19億1100万円とする建設工事請負仮契約を締結し,同契約は,同年10月4日,豊郷町議会での議決を経て成立した(以下「本件請負契約」という。)。 (3) 被告は,平成14年12月24日,本件校舎を保存し,敷地内に新校舎を建設するとして,上記(2)の計画を変更した(以下,同変更後の計画を「新計画」といい,上記(2)の変更前の計画を「旧計画」という。)。 町長職務代理者は,平成15年3月31日,本件請負契約の工期を平成16年3月31日までに変更する旨の建設工事請負変更契約を締結し,平成14年度豊郷町一般会計予算におけ 計画を「旧計画」という。)。 町長職務代理者は,平成15年3月31日,本件請負契約の工期を平成16年3月31日までに変更する旨の建設工事請負変更契約を締結し,平成14年度豊郷町一般会計予算における豊郷小学校費18億6598万2000円(事業名・豊郷小学校等改築事業)のうち15億4903万8000円を平成15年度に繰り越す(以下「本件繰越明許費」という。)等を内容とする専決処分を行った(以下「本件専決処分」という。)。 被告は,本件繰越明許費等についての平成14年度豊郷町一般会計繰越明許費繰越計算書を調製し,同年5月20日,豊郷町議会においてこれを報告し,その議決を経た。 (4) 桑原組は,平成15年5月25日から,新校舎の建設工事(本件工事)に着工し,被告は,本件繰越明許費に基づいて,本件工事代金を支出することを予定している。 (以上につき,甲3,44,103,175,乙8,18ないし20,50,53,56ないし61) 4 監査請求原告らは,平成14年12月27日,豊郷町監査委員に対し,本件工事の着工及び本件工事代金の支出の停止の勧告を求める住民監査請求を行ったが,同監査委員は,平成15年2月21日,原告らに対し,上記各請求を認めることはできない旨を通知した。(甲1)Ⅱ 争点 1 本件各差止請求にかかる訴えの適否 2 本件工事の執行及び本件工事代金の支出の適否(1) 本件工事代金の支出が,法232条の3に違反するか否か。 (2) 被告が町長としての裁量権を逸脱して新計画を決定したといえるか否か。 Ⅲ 争点に関する当事者の主張 1 争点1について(被告の主張)(1) 本件工事の差止請求について本件工事は,豊郷町と本件請負契約を締結した請負業者が施工するものであるから,法242条の2が住民訴訟の対象として規定する財務会計上の行為に いて(被告の主張)(1) 本件工事の差止請求について本件工事は,豊郷町と本件請負契約を締結した請負業者が施工するものであるから,法242条の2が住民訴訟の対象として規定する財務会計上の行為に該当しない。したがって,原告らの本件工事の差止請求にかかる訴えは不適法である。 (2) 本件工事代金の支出の差止請求について法242条の2に基づく差止請求は,当該財務会計行為に先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても,これを前提としてされた当該行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限って認められる(最高裁判所平成4年12月15日第三小法廷判決民集46巻9号2753頁)。また,私法上の契約が無効でない場合,豊郷町は当該契約の相手方に対して債務を履行すべき義務を負うから,義務履行行為は違法ではなく,その差止請求は不適法である。本件工事代金の支出の原因行為である本件請負契約には,何ら財務会計法規上の違法はなく,原告らは,本件請負契約が無効となるような具体的事情を一切主張していない。したがって,原告らの本件工事代金の支出の差止請求にかかる訴えは不適法である。 (原告らの主張)(1) 本件工事の差止請求について本件工事は,法242条が規定する「契約の締結」である本件請負契約の履行として施工されるものであるから,本件請負契約との間には一体的関係が存し,先行行為の違法性が後行行為に承継される。後記2の原告らの主張のとおり,本件請負契約は,違法・無効であり,本件工事が財務会計上の行為に該当しないとしても,先行行為である本件請負契約の違法・無効によって,後行行為である本件工事も違法・無効となる。 また,本件工事代金の支出の差止めだけでは,支出時まで本件工事が進行し,新校舎が完成に近づくことになり,結局,本件請負契約の解除 約の違法・無効によって,後行行為である本件工事も違法・無効となる。 また,本件工事代金の支出の差止めだけでは,支出時まで本件工事が進行し,新校舎が完成に近づくことになり,結局,本件請負契約の解除・中止によって豊郷町が負担する損害賠償額が増大する結果を招くから,これを回避するためには,本件工事を差し止めることが不可欠である。 さらに,本件請負契約は,注文主である豊郷町において,請負人が仕事を完成しない間は,いつでも契約を解除して工事を中止させることができる旨が契約条項に規定されているから,被告は,工事の差止めを認める判決を受けても,契約を解除して工事を中止又は中断することができ,本件請負契約を履行せざるを得ない事態に陥ることはない。 したがって,本件工事の差止請求にかかる訴えは適法である。 (2) 本件工事代金の支出の差止請求について原告らは,後記2の原告らの主張のとおり本件請負契約が無効となる理由を具体的に主張して,本件工事代金の支出の差し止めを求めており,適法な訴えである。 2 争点2(1)について(原告らの主張)(1) 被告は,以下のとおり,法232条の3に規定された支出の原因となるべき契約その他の行為(以下「支出負担行為」という。)が存在しないのにもかかわらず,本件工事を執行して,本件工事代金を支出しようとしており,いずれも違法である。 新計画に基づく本件工事については,旧計画に基づく新校舎の建設工事請負契約(本件請負契約)を流用することは許されない。即ち,新計画による設計は,校舎の構造,階数,デザイン,内容,延べ面積,建設費等,設計内容が旧計画におけるそれと,大幅に変化しているから,旧計画に基づく本件請負契約は,目的物の喪失によって無効となる。 したがって,新計画については,改めて,設計契約のコンペを行って設計案を公 ,設計内容が旧計画におけるそれと,大幅に変化しているから,旧計画に基づく本件請負契約は,目的物の喪失によって無効となる。 したがって,新計画については,改めて,設計契約のコンペを行って設計案を公募してこれを選定した上で,工事費の積算見積りを行い,入札を実施して,落札者との間で請負契約を締結し,同契約につき,法96条1項5号及び豊郷町議会の議決に付すべき契約および財産の取得または処分に関する条例(甲174)に従って,議会の議決を得る必要がある。 しかるに,被告は,上記手続等を経ることなく,森野設計事務所との間に随意契約で新計画の設計を依頼し,旧計画による見積もりの下で講じられた予算を,職務代理者の専決処分によって来年度予算への繰越明許費として流用し,請負契約も旧計画について平成14年10月4日付けで成立した桑原組との本件請負契約を新計画によるそれに流用し,建築確認申請を一旦取り下げて,新たな建物で再申請をなした。 (2) また,本件工事の執行及び本件工事代金の支出については,法232条の3に規定された予算の定めに従った支出負担行為が存在しない。 新校舎の建設に関する予算は,解職投票及びそれに続く町長選挙において,争点とされた重要事項であって,本来議会が議決すべきであり,法179条1項が規定する長の専決処分の対象には含まれないから,町長職務代理者による本件専決処分は,同項所定の要件を欠き違法である。 (被告の主張)新計画については,以下のとおり,法232条の3に規定された法令及び予算の定めに従った支出負担行為が存在するから,本件工事の執行及び本件工事代金の支出は,適法である。 (1) 新計画の決定に伴い,被告は,新校舎の建築位置やその仕様を変更し,また,本件校舎の解体差止の仮処分(大津地方裁判所平成14年(ヨ)第100号)に伴う工 び本件工事代金の支出は,適法である。 (1) 新計画の決定に伴い,被告は,新校舎の建築位置やその仕様を変更し,また,本件校舎の解体差止の仮処分(大津地方裁判所平成14年(ヨ)第100号)に伴う工事の遅延により,本件請負契約の工期を平成16年3月までに変更した。 地方公共団体においては,工事の施工中に当初の想定と異なる施工条件が発生したり,地元との調整上,当初の計画を変更せざるを得ない事態が生じた場合,自らの意思で図面及び仕様書を変更しなければならず,その場合,当初の契約の同一性を失わない範囲で,契約を変更することが実務上許されている。新計画における工事と,旧計画におけるそれとは,同一敷地内の建設工事であって,新校舎の建築という契約の目的や請負代金の変更もないから,契約の同一性は失われない。 したがって,新計画について,新規に建設工事請負契約を締結する必要はなく,本件請負契約の変更は適法である。 本件請負契約が新計画の決定によって,当然に無効になることはない。本件請負契約を豊郷町の都合によって解除する場合には,請負業者の被った履行保証の費用や工事開始の遅延により発生した損害を賠償する必要がある。 (2) また,本件工事代金の支出については,平成14年度補正予算に計上され,議会の議決を経ていたが,これが同年度内に執行されないまま町長が失職し,町長選挙が平成15年度に実施されることが確定したため,町長職務代理者は,取り敢えず,当時点の予算状況を凍結し,新町長がこれを執行するか否かを決定すればよいとの判断の下に,議会の招集を行う暇がないとして,法179条1項に基づいて,本件専決処分を行った。同項は,その文言上,本来議会が議決しなければならない事項を除き,その議決事項の全てに及び得るから,本件繰越明許費の決定は,長の専決処分の対象となり,本件専 条1項に基づいて,本件専決処分を行った。同項は,その文言上,本来議会が議決しなければならない事項を除き,その議決事項の全てに及び得るから,本件繰越明許費の決定は,長の専決処分の対象となり,本件専決処分は適法である。 新町長となった被告が,同年5月20日の豊郷町議会において,本件繰越明許費を報告して,その承認議決を経ている。したがって,本件工事代金の支出については,予算に従った支出負担行為が存する。仮に,本件専決処分に何らかの瑕疵があるとしても,上記の議会の承認議決により,その瑕疵は治癒されている。 更に,そもそも,予算措置そのものは,特定の計画を前提とするものではない。 3 争点2(2)について(原告らの主張)(1) 豊郷小学校は,県下における鉄筋コンクリート造りの小学校建築の先駆けであり,充実した建築が整然と配置された環境を保持する我国有数の小学校であり,地元関係者の間では東洋一の学校と言われ,地域的歴史的遺産の価値の高い秀でた近代建築といえる。しかし,被告が決定した新計画は,本件校舎を保存するとしながら,これを教育施設として使用せず,立ち腐れさせるものであって,以下のとおり,町長としての裁量権を逸脱し,これに基づく本件工事の執行及び本件工事代金の支出は,違法である。 ア本件校舎は,補強改修工事により,教育施設として十分に活用することができ,また,補強改修工事に要する費用は,約7億8000万円であり,新校舎の建設費用約15億円に比べて,はるかに安い。 本件校舎のコンクリート強度は,時間の経過に比例して強くなっており,一度,補強改修工事を行えば,新築と同じ耐用年数を有することになるから,再度の補修の必要はない。被告が本件校舎の耐震性及び工事費に関して依拠した唯一の建築専門家の意見は,本件校舎の新築につき営業上の利益を得る森野建築 を行えば,新築と同じ耐用年数を有することになるから,再度の補修の必要はない。被告が本件校舎の耐震性及び工事費に関して依拠した唯一の建築専門家の意見は,本件校舎の新築につき営業上の利益を得る森野建築事務所によってなされた虚偽の調査結果に基づく報告書である。上記報告書においても,本件校舎を解体する必要はなく,補強で十分対応できるとされている。本件校舎は,解体しなければ,児童の命が危険にさらされるという状況にはない。 したがって,新計画は,地方財政法8条に基づく善良な管理者としての注意義務及び同法4条1項,法2条14項に定められたいわゆる経済的合理性の原則に違反する。 イ被告は,新計画の決定において,豊郷町の歴史的文化的な環境の保全及び良き教育環境の育成という行政目的の達成の下に,本件校舎についての保存改修の要請と学校設備の整備充実の要請とをいかに調和させるべきかにつき,建築学,文化財,教育学等の客観的な専門家の意見を聴取して情報を収集し,調査を尽くすべき義務があるが,これを怠り,尽くすべき調査を行なっていない。 ウ被告は,自己の諮問機関として,本件校舎の解体を前提とする委員からなる豊郷小学校改築等検討委員会を設置して,強引に本件校舎の解体を決定し,町民に対し情報も公開せずに,非民主的な手法で強行に豊郷小学校の改築計画を進行させた。また,豊郷小学校の寄贈者の子孫,遺族に対して,本件校舎について虚偽の説明をして,これを解体することへの了解を求めるという人道に反する方法をとった。被告の行為は,民法90条の公序良俗に違反し,法2条16項,17項により違法である。 被告が主張する豊郷小学校旧校舎後利用検討委員会は,本件校舎の保存を求める原告らの意見を一切聞かないという態度に始終しており,上記の豊郷小学校改築等検討委員会と本質的に何ら変わりがな 違法である。 被告が主張する豊郷小学校旧校舎後利用検討委員会は,本件校舎の保存を求める原告らの意見を一切聞かないという態度に始終しており,上記の豊郷小学校改築等検討委員会と本質的に何ら変わりがない。 エ本件校舎は,文化財保護法2条1項に規定する文化財に該当し,同法56条の2所定の登録有形文化財として認められるための要件を全て充足している。建物は,使用しないでおくと,急速に立ち腐れする。したがって,豊郷町は,同法4条2項に基づき,本件校舎を保存改修によって,教育施設として活用しながら文化財として保存すべきである。 (2) 被告の主張に対する反論本件校舎を補強改修した上で教育施設として使用することは,児童に良い教育環境を与え,その福祉を増進することになるのに対し,新計画は,新校舎から講堂,図書館及び体育館に行くために,百数十メートルの長い渡り廊下で繋ぐ必要があること,運動場に1日中影がかかること,運動場が狭小になること,児童への目の届かない死角部分が多いこと,本件校舎の他用途利用による問題が多いこと,新校舎内部の設計そのものに問題点が多いこと等の欠陥,デメリットがある。 被告が小学校教育に欠かせないとするコンピュータ教室,多目的室,ランチルーム教室の設備は,本件校舎を改修あるいは別棟を建設することで設置可能である。 また,オープンスペースの確保は,教育に必要なものではないが,本件校舎は,将来の機能の改良に対して,既存の非耐力壁を自由に撤去し,要所に耐力壁を付加することで,オープンスペースを設けて,耐震性能を容易に向上できるように配慮されている。 (被告の主張)(1) 行政機関は,その保有する建物の利用方法について,行政的見地からの広い裁量権を有しており,その判断が違法と評価されるのは,その裁量権を逸脱ないし濫用した場合に限られる。 。 (被告の主張)(1) 行政機関は,その保有する建物の利用方法について,行政的見地からの広い裁量権を有しており,その判断が違法と評価されるのは,その裁量権を逸脱ないし濫用した場合に限られる。 地域の中核的な小学校である豊郷小学校をいかに整備するかは,豊郷町における極めて行政的な問題であり,被告は,豊郷小学校の教育機能の充実を図るとの行政目的の下に,本件校舎を保存し,校舎とは別の目的に活用し,近代的な設備と機能を有する新校舎を建築することとして,新計画を決定したのであって,以下のとおり,裁量権の逸脱ないし濫用はない。 ア本件校舎は,現代の教育をするために適切なスペースが不足している。豊郷町内に新築された日栄小学校は,現代的な設備が完備されており,同じ町内の小学生が同等の教育環境を享受しえない状態を容認することはできず,町民もそれを容認しない。教育環境をよりよいものにすることは,豊郷町における最大の政策的コンセンサスである。 イ本件校舎は,建築後65年を経過し,鉄筋コンクリート建築の一般的な耐用年数である50年を経過しており,床,壁等が老朽化し,また,耐震性にも問題がある。 ウ被告は,町長選挙における最大の公約として校舎の改築(新築による改築)を掲げ,町民の多数の支持を得て当選しており,公約を推進することは当然の責務である。 エ豊郷町においては,豊郷小学校の改築のための資金として,教育施設設備基金12億5319万9584円(平成12年末時点)が積み立てられているところ,豊郷町は,平成17年に滋賀県彦根市との合併が予定されており,合併後は政策選択において常に豊郷町の事情が優先される保障はなく,早急かつ確実に教育施設の整備を行うためには,早期に新計画を実施する必要がある。 オ豊郷小学校の校舎改築問題については,平成5年12月議会か 政策選択において常に豊郷町の事情が優先される保障はなく,早急かつ確実に教育施設の整備を行うためには,早期に新計画を実施する必要がある。 オ豊郷小学校の校舎改築問題については,平成5年12月議会から議論が開始され,本件校舎が現代の教育の場として相応しくないとの見地から,議会での質問等が再三にわたって行われ,被告も,教育の場としてどのような施設が相応しいかを,財政問題,父兄や職員の意見等を含め,十分考慮して,新計画を決定した。 (2) 原告らの主張に対する反論ア被告及び豊郷町は,助役及び14名の委員からなる豊郷小学校旧校舎後利用検討委員会を設置して,積極的に本件校舎の後利用計画の早期構築を目指して活動を開始しており,原告らの主張するような立ち腐れを狙っていることはない。 イ原告らが主張する本件校舎の補強改修工事にかかる費用は,他の校舎等の例に基づく抽象的なもので,本件校舎の現状に即して算定されたものではない。 また,本件校舎を小学校として,メンテナンスを続けながら活用しようとすれば,多額の補修費用を継続的に支出する必要がある。 本件校舎の耐震性については,劣化の程度について十分な調査がされていないとの原告らからの批判を受け,被告としては,豊郷小学校旧校舎後利用検討委員会の議論の進展をまって,詳細な耐震性の調査を実施し,後の用途に相応しい保存のあり方と耐震改修を行う予定である。 ウ原告らが主張する新計画の欠陥,デメリットは,いずれも,解決可能な問題であって,新計画の合理性を覆すものではない。 第3 判断Ⅰ 争点1について(1) 本件工事の差止請求にかかる訴えの適否原告らは,法242条の2第1項1号の規定に基づき,本件工事の差止めを求めるところ,同条に定める住民訴訟は,地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とし,その対象とさ 止請求にかかる訴えの適否原告らは,法242条の2第1項1号の規定に基づき,本件工事の差止めを求めるところ,同条に定める住民訴訟は,地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とし,その対象とされる事項は,同項に定める事項,すなわち普通地方公共団体の執行機関又は職員が行う公金の支出,財産の取得・管理・処分,契約の締結・履行,債務その他の義務の負担,公金の賦課・徴収を怠る事実,財産の管理を怠る事実に限られるのであり,これらはいずれも財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものである(最高裁判所平成2年4月12日第1小法廷判決・民集44巻3号431頁)。 そこで,検討するに,本件工事は,前記第2のⅠ3(4)掲記のとおり,豊郷町の小学校建設のために行われるものにすぎず,同項が住民訴訟の対象として定めるいずれの事項にも該当しない。 したがって,本件工事は,住民訴訟の対象となる行為とはいえないから,原告らの本件工事の差止請求にかかる訴えは不適法というべきであり,この点に反する原告らの主張は理由がない。 (2) 本件工事代金の支出の差止請求にかかる訴えの適否前記第2のⅢ2(2)摘示の原告らの主張のとおり,原告らは,被告が法232条の3所定の支出負担行為が存在しないにもかかわらず,本件工事代金を支出しようとしている等と主張して,法242条の2第1項1号の規定に基づき,公金の支出の差止めを求める訴えを提起するところ,上記訴えは,原告らにおいて,本件請負契約を違法無効であるとした上で,同契約を原因とする被告の上記支出行為自体が,支出負担行為が存在しないにもかかわらずなされようとする違法なものであるとして,その差し止めを求めるものであるから,法242条の2第1項1号に定める住民訴訟の対象となる行為であることは明らかである。 したがって,原告ら いにもかかわらずなされようとする違法なものであるとして,その差し止めを求めるものであるから,法242条の2第1項1号に定める住民訴訟の対象となる行為であることは明らかである。 したがって,原告らの本件工事代金の支出の差止請求にかかる訴えは,適法であって,この点に反する被告の主張は理由がない。 また,被告が主張する本件請負契約の有効性は,本件工事代金の支出の適否にかかる事柄であって,このことから直ちに被告の上記公金支出行為が同号にいう住民訴訟の対象となる行為にあたらないとはいえず,上記被告の主張は失当である。 Ⅱ 争点2(1)について1(1) 前記第2のⅠ3掲記の事実,証拠(乙50)及び弁論の全趣旨によれば,本件工事は,桑原組が,新計画に基づく工程表に従って施工し,本件工事代金は,本件繰越明許費から支出されることが予定されていることが認められるところ,新計画の決定後,豊郷町が,新たに法234条所定の手続を履践して,桑原組との間で,豊郷小学校改築工事についての建設工事請負契約を締結した事実がないことは被告も自認するところである。 (2) この点につき,被告は,前記第2のⅠ3(3)掲記の新計画における工事と旧計画におけるそれとは建設工事請負契約の同一性が失われないから,新計画について新規に建設工事請負契約を締結する必要はなく,本件請負契約の変更をもって,本件工事代金の支出の原因となるべき支出負担行為が存在すると主張する。 そこで,新計画に基づく新校舎の建設施工について,新たな建設工事請負契約を締結せず,旧計画の下に作成された図面及び仕様書(設計図書)に従って施工することを内容とした本件請負契約(乙57)の変更をもって,本件工事代金の支出につき,法232条の3にいう支出負担行為が存在するといえるか否かを,以下,検討する。 ア(ア) 証拠(甲 )に従って施工することを内容とした本件請負契約(乙57)の変更をもって,本件工事代金の支出につき,法232条の3にいう支出負担行為が存在するといえるか否かを,以下,検討する。 ア(ア) 証拠(甲161,173,178ないし180,乙19ないし20,52の1ないし5,53)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 本件請負契約の施工内容とされた旧計画は,本件校舎を解体した跡地(敷地のほぼ中央)に,南北に鉄筋コンクリート造2階建(一部3階建),床総面積4932㎡の新校舎を建設するというものであり,新校舎の内部は,1階の中央に玄関と玄関ポーチを設け,その北側に職員室,校長室,家庭科調理室,会議室等を,南側に保健室,オープンスペースを備えた2つの障害児教室と4つの普通教室を並べ,その奥にL字型にランチルーム,調理室等を設け,2階は,中央に図書室を置き,その北側にコンピュータ室,理科室,図工・書写室,児童会室等,南側にオープンスペースを備えたIT教室と6つの普通教室,多目的室等を並べ,3階は,中央に音楽室を置くこととされた。新校舎の形状はL字型で,南端のランチルーム等が設置された部分が1階建,中央部分が3階建となっている他は2階建である。 その後,被告によって決定された新計画は,本件校舎を保存し,校庭の東側(敷地の東端)に南北に鉄筋コンクリート造3階建,総床面積約5078㎡の新校舎を建設するというものであり,新校舎の内部は,1階の中央に玄関と保健室を設け,北側にオープンスペースを備えた2つの障害児教室と2つの普通教室等を,南側に職員室,校長室,会議室,用務員室,ランチルーム,調理室等を,2階は中央に図書室を置き,その北側にオープンスペースを備えた4つの普通教室等を,南側にコンピュータ室,理科室,児童会室等を,3階は,中央にオープンス 室,会議室,用務員室,ランチルーム,調理室等を,2階は中央に図書室を置き,その北側にオープンスペースを備えた4つの普通教室等を,南側にコンピュータ室,理科室,児童会室等を,3階は,中央にオープンスペースを備えたIT教室を置き,北側にオープンスペースを備えた4つの普通教室等を,南側に多目的室,家庭科調理室,図工・書写室,音楽室等をそれぞれ配置することとされている。新校舎の形状は,南北に長いほぼ長方形で,南端のランチルーム等が設置された部分が1階建となっている他は3階建である。 また,新計画の設計については,豊郷町は,森野設計事務所に対し,新たに随意契約によって,設計を依頼し,その実施設計委託料として2840万円を支払った。なお,森野設計事務所に対する旧計画の設計委託料は,4620万円であった。 (イ) 以上のとおり,新計画における新校舎の建設施工の内容は,新校舎の建設位置,建物の構造,形状,建物内部の教室等の配置や総床面積等建物の仕様の各点で旧計画と異なっており,新たに施工方針となる設計図書の作成が必要とされる他,必要な建築資材,骨材等の材料の種類,規格,数量等も,旧計画のそれと相当程度異なるものと推認され,建物の構造の変更や総床面積の増加等に伴ない工事代金の変更も予想されること,新計画の実施設計につき旧計画のそれにかかる委託料の6割を超える委託料が支払われていることを総合すれば,両計画が新校舎の建設を目的としている点で共通することを考慮しても,旧計画による施工の内容と新計画によるそれとの間に,建設工事請負契約上の同一性を認めることはできない。 イそして,公金の支出にかかる支出負担行為の存否については,地方公共団体における公金の支出に先だって,その支出の原因となる行為(支出負担行為)を債務発生の第一段階として捉え,その段階において,地 イそして,公金の支出にかかる支出負担行為の存否については,地方公共団体における公金の支出に先だって,その支出の原因となる行為(支出負担行為)を債務発生の第一段階として捉え,その段階において,地方財務行政の計画的な統制を行って,負担する債務の限度を明らかにするとともに,予算を超過する支出義務の負担を未然に防止し,予算執行の適正化を図ることを目的とする支出負担行為制度の趣旨を考慮して判断すべきところ,新計画による本件工事については,上記ア認定のとおり,旧計画による施工内容との同一性が認められず,また,被告主張の本件請負契約の変更をもって,本件工事に関して豊郷町が負担することになる債務の限度が明らかになるとは断言できないこと(後記2(1))からして,被告は,法に則った方法によって,改めて設計契約を締結し,その設計に基づいて新たに建設工事請負契約を締結する必要があるというべきである。 したがって,新たな建築工事請負契約を締結することなく施工された本件工事にかかる工事代金の支出について,支出負担行為が存すると認めることはできない。 2 被告の主張に対する補足説明(1) 被告は,新計画による施工工事と旧計画によるそれとの間の工事請負代金に変更がないと主張するが,これを裏付ける的確な証拠はない(乙60は,本件請負契約について,工期を平成16年3月31日に改める旨の変更契約書であって,新計画に基づく施工内容について請負代金額に変更がないことを裏付ける証拠とはいえない。)。 (2) また,被告は,工事の施工中に,当初の計画を変更せざるを得ない事態が生じた場合,地方公共団体は自らの意思で,図面及び仕様書を変更しなければならず,契約の同一性を失わない範囲で契約を変更することが許されると主張して,これに沿う内容が記載された乙62を提出する。 しかしなが 合,地方公共団体は自らの意思で,図面及び仕様書を変更しなければならず,契約の同一性を失わない範囲で契約を変更することが許されると主張して,これに沿う内容が記載された乙62を提出する。 しかしながら,前記1(2)ア認定のとおり,旧計画による施行内容と新計画によるそれとの間に建設工事請負契約上の同一性が認められない以上,被告の上記主張はその前提において採用できず,乙62は,前記1(2)の認定を左右しない。 (3) さらに,被告は,豊郷町の都合によって本件請負契約を解除する場合には,請負業者の被った損害を賠償する必要があると主張するが,そのような問題は,被告において,旧計画の中止を判断する際に考慮すべき事柄であって,新計画の決定後に行われることになる本件工事代金の支出の適法性を左右する事情とはいえない。 3 以上のとおり,本件工事代金の支出については,支出の原因となるべき支出負担行為の存在を認めることができないから,原告らの主張するその余の違法理由を判断するまでもなく,原告らの本件工事代金の支出の差止めを求める請求には理由がある。 Ⅲ 結論よって,原告らの被告に対する本件工事の差止請求にかかる訴えは不適法であるからこれを却下し,本件工事代金の支出の差止請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき,行政訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条,65条1項を適用して,主文のとおり決定する。 大津地方裁判所民事部裁判長裁判官神吉正則裁判官山口芳子裁判官本多智子

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