平成10(受)168 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成13年3月13日 最高裁判所第三小法廷 判決 その他 東京高等裁判所 平成9(ネ)610
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判決文本文6,000 文字)

主    文 1 原判決主文第1項を次のとおり変更する。    第1審判決を次のとおり変更する。 (1)被上告人は,上告人ら各自に対し,1900万4634円及びうち1810 万4634円に対する昭和63年9月14日から支払済みまで年5分の割合による 金員を支払え。 (2)上告人らのその余の請求を棄却する。   2 訴訟の総費用は,これを3分し,その1を上告人らの,その余を被上告人の負 担とし,参加によって生じた費用は,これを3分し,その1を上告補助参加人らの ,その余を被上告人の負担とする。          理    由 上告代理人森永友健の上告受理申立て理由第一ないし第三及び第五について  1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。 (1) 上告人らの長男であるE(昭和57年1月13日生)は,昭和63年9月 12日午後3時40分ころ,埼玉県上福岡市ab丁目c番d号先路上において,自 転車を運転し,一時停止を怠って時速約15㎞の速度で交通整理の行われていない 交差点内に進入したところ,同交差点内に減速することなく進入しようとした上告 補助参加人C1株式会社の従業員である同C2運転に係る普通乗用自動車と接触し ,転倒した(以下「本件交通事故」という。)。  (2) Eは,本件交通事故後直ちに,救急車で被上告人が経営するB1病院( 以下「被上告人病院」という。)に搬送された。被上告人の代表者で被上告人病院 院長であるB2医師(以下「B2医師」という。)は,Eを診察し,左頭部に軽い 皮下挫傷による点状出血を,顔面表皮に軽度の挫傷を認めたが,Eの意識が清明で - 1 - 外観上は異常が認められず,Eが事故態様についてタクシーと軽く衝突したとの説 明をし,前記負傷部分の痛みを訴えたのみであったことから,Eの歩行中の軽微な 事故であると考えた。そして,B2 で - 1 - 外観上は異常が認められず,Eが事故態様についてタクシーと軽く衝突したとの説 明をし,前記負傷部分の痛みを訴えたのみであったことから,Eの歩行中の軽微な 事故であると考えた。そして,B2医師は,Eの頭部正面及び左側面から撮影した レントゲン写真を検討し,頭がい骨骨折を発見しなかったことから,さらにEにつ いて頭部のCT検査をしたり,病院内で相当時間経過観察をするまでの必要はない と判断し,前記負傷部分を消毒し,抗生物質を服用させる治療をした上,E及び上 告人Aに対し,「明日は学校へ行ってもよいが,体育は止めるように。明日も診察 を受けに来るように。」「何か変わったことがあれば来るように。」との一般的指 示をしたのみで,Eを帰宅させた。 (3) 上告人Aは,Eとともに午後5時30分ころ帰宅したが,Eが帰宅直後に おう吐し,眠気を訴えたため,疲労のためと考えてそのまま寝かせたところ,Eは ,夕食を欲しがることもなく午後6時30分ころに寝入った。Eは,同日午後7時 ころには,いびきをかいたり,よだれを流したりするようになり,かなり汗をかく ようになっていたが,上告人らは,多少の異常は感じたものの,Eは普段でもいび きをかいたりよだれを流したりして寝ることがあったことから,この容態を重大な こととは考えず,同日午後7時30分ころ,氷枕を使用させ,そのままにしておい た。しかし,Eは,同日午後11時ころには,体温が39度まで上昇してけいれん 様の症状を示し,午後11時50分ころにはいびきをかかなくなったため,上告人 らは初めてEが重篤な状況にあるものと疑うに至り,翌13日午前0時17分ころ ,救急車を要請した。救急車は同日午前0時25分に上告人方に到着したが,Eは ,既に脈が触れず呼吸も停止しており,同日午前0時44分,F病院に搬送された が,同日午前0時45分,死 日午前0時17分ころ ,救急車を要請した。救急車は同日午前0時25分に上告人方に到着したが,Eは ,既に脈が触れず呼吸も停止しており,同日午前0時44分,F病院に搬送された が,同日午前0時45分,死亡した(以下「本件医療事故」という。)。  (4) Eは,頭がい外面線状骨折による硬膜動脈損傷を原因とする硬膜外血し - 2 - ゅにより死亡したものであり,被上告人病院から帰宅したころには,脳出血による 脳圧の亢進によりおう吐の症状が発現し,午後6時ころには傾眠状態を示し,いび き,よだれを伴う睡眠,脳の機能障害が発生し,午後11時ころには,治療が困難 な程度であるけいれん様の症状を示す除脳硬直が始まり,午後11時50分には自 発呼吸が不可能な容態になったものである。  硬膜外血しゅは,骨折を伴わずに発生することもあり,また,当初相当期間の意 識清明期が存することが特徴であって,その後,頭痛,おう吐,傾眠,意識障害等 の経過をたどり,脳障害である除脳硬直が開始した後はその救命率が著しく減少し ,仮に救命に成功したとしても重い後遺障害をもたらすおそれが高いものであるが ,早期に血しゅの除去を行えば予後は良く,高い確率での救命可能性があるもので ある。したがって,交通事故により頭部に強い衝撃を受けている可能性のあるEの 診療に当たったB2医師は,外見上の傷害の程度にかかわらず,当該患者ないしそ の看護者に対し,病院内にとどめて経過観察をするか,仮にやむを得ず帰宅させる にしても,事故後に意識が清明であってもその後硬膜外血しゅの発生に至る脳出血 の進行が発生することがあること及びその典型的な前記症状を具体的に説明し,事 故後少なくとも6時間以上は慎重な経過観察と,前記症状の疑いが発見されたとき には直ちに医師の診察を受ける必要があること等を教示,指導すべき義務が存した のであって, 型的な前記症状を具体的に説明し,事 故後少なくとも6時間以上は慎重な経過観察と,前記症状の疑いが発見されたとき には直ちに医師の診察を受ける必要があること等を教示,指導すべき義務が存した のであって,B2医師にはこれを懈怠した過失がある。 (5) 他方,上告人らにおいても,除脳硬直が発生して呼吸停止の容態に陥るま でEが重篤な状態に至っていることに気付くことなく,何らの措置をも講じなかっ た点において,Eの経過観察や保護義務を懈怠した過失があり,その過失割合は1 割が相当である。 - 3 - (6) なお,本件交通事故は,本件交差点に進入するに際し,自動車運転手とし て遵守すべき注意義務を懈怠した,上告補助参加人C2の過失によるものであるが ,Eにも,交差点に進入するに際しての一時停止義務,左右の安全確認義務を怠っ た過失があり,その過失割合は3割が相当である。 (7) 上告人らは,Eの本件交通事故及び本件医療事故による次の損害賠償請求 権を各2分の1の割合で相続した。Eの死亡による上告人らの弁護士費用分を除く 全損害は,次のとおりである。     逸失利益   2378万8076円     慰謝料 1600万円     葬儀費用    100万円  なお,上告人らは,上告補助参加人C1株式会社から葬儀費用として50万円の 支払を受けた。  2 本件は,上告人らが,B2医師の診療行為の過失によりEが死亡したとして ,被上告人に対し,民法709条に基づき損害賠償を求めている事案である。  原審は,前記事実関係の下において,概要次のとおり判断した。  (1) 被害者であるEの死亡事故は,本件交通事故と本件医療事故が競合した 結果発生したものであるところ,原因競合の寄与度を特定して主張立証することに 困難を伴うので,被害者保護の見地から,本件交通事故におけ  被害者であるEの死亡事故は,本件交通事故と本件医療事故が競合した 結果発生したものであるところ,原因競合の寄与度を特定して主張立証することに 困難を伴うので,被害者保護の見地から,本件交通事故における上告補助参加人C 2の過失行為と本件医療事故におけるB2医師の過失行為とを共同不法行為として ,被害者は,各不法行為に基づく損害賠償請求を分別することなく,全額の損害の 賠償を請求することもできると解すべきである。  (2) しかし,本件の場合のように,個々の不法行為が当該事故の全体の一部 を時間的前後関係において構成し,その行為類型が異なり,行為の本質や過失構造 - 4 - が異なり,かつ,共同不法行為を構成する一方又は双方の不法行為につき,被害者 側に過失相殺すべき事由が存する場合には,各不法行為者は,各不法行為の損害発 生に対する寄与度の分別を主張することができ,かつ,個別的に過失相殺の主張を することができるものと解すべきである。すなわち,被害者の被った損害の全額を 算定した上,各加害行為の寄与度に応じてこれを案分して割り付け,その上で個々 の不法行為についての過失相殺をして,各不法行為者が責任を負うべき損害賠償額 を分別して認定するのが相当である。  (3) 本件においては,Eの死亡の経過等を総合して判断すると,本件交通事 故と本件医療事故の各寄与度は,それぞれ5割と推認するのが相当であるから,被 上告人が賠償すべき損害額は,Eの死亡による弁護士費用分を除く全損害4078 万8076円の5割である2039万4038円から本件医療事故における被害者 側の過失1割を過失相殺した上で弁護士費用180万円を加算した2015万46 34円と算定し,上告人らの請求をこの金員の2分の1である各1007万731 7円及びうち917万7317円に対する本件医療事故の後である昭和63年 した上で弁護士費用180万円を加算した2015万46 34円と算定し,上告人らの請求をこの金員の2分の1である各1007万731 7円及びうち917万7317円に対する本件医療事故の後である昭和63年9月 14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容 すべきものである。  3 しかしながら,原審の前記2(2)(3)の判断は是認することができない。 その理由は,次のとおりである。  原審の確定した事実関係によれば,本件交通事故により,Eは放置すれば死亡す るに至る傷害を負ったものの,事故後搬入された被上告人病院において,Eに対し 通常期待されるべき適切な経過観察がされるなどして脳内出血が早期に発見され適 切な治療が施されていれば,高度の蓋然性をもってEを救命できたということがで きるから,本件交通事故と本件医療事故とのいずれもが,Eの死亡という不可分の 一個の結果を招来し,この結果について相当因果関係を有する関係にある。したが - 5 - って,【要旨1】本件交通事故における運転行為と本件医療事故における医療行為 とは民法719条所定の共同不法行為に当たるから,各不法行為者は被害者の被っ た損害の全額について連帯して責任を負うべきものである。本件のようにそれぞれ 独立して成立する複数の不法行為が順次競合した共同不法行為においても別異に解 する理由はないから,被害者との関係においては,各不法行為者の結果発生に対す る寄与の割合をもって被害者の被った損害の額を案分し,各不法行為者において責 任を負うべき損害額を限定することは許されないと解するのが相当である。けだし ,共同不法行為によって被害者の被った損害は,各不法行為者の行為のいずれとの 関係でも相当因果関係に立つものとして,各不法行為者はその全額を負担すべきも のであり,各不法行為者が賠償すべき損 る。けだし ,共同不法行為によって被害者の被った損害は,各不法行為者の行為のいずれとの 関係でも相当因果関係に立つものとして,各不法行為者はその全額を負担すべきも のであり,各不法行為者が賠償すべき損害額を案分,限定することは連帯関係を免 除することとなり,共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられると している民法719条の明文に反し,これにより被害者保護を図る同条の趣旨を没 却することとなり,損害の負担について公平の理念に反することとなるからである。 したがって原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は原判 決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。  4 本件は,本件交通事故と本件医療事故という加害者及び侵害行為を異にする 二つの不法行為が順次競合した共同不法行為であり,各不法行為については加害者 及び被害者の過失の内容も別異の性質を有するものである。ところで,過失相殺は 不法行為により生じた損害について加害者と被害者との間においてそれぞれの過失 の割合を基準にして相対的な負担の公平を図る制度であるから,【要旨2】本件の ような共同不法行為においても,過失相殺は各不法行為の加害者と被害者との間の 過失の割合に応じてすべきものであり,他の不法行為者と被害者との間における過 失の割合をしん酌して過失相殺をすることは許されない。 - 6 -  本件において被上告人の負担すべき損害額は,Eの死亡による上告人らの損害の 全額(弁護士費用を除く。)である4078万8076円につき被害者側の過失を 1割として過失相殺による減額をした3670万9268円から上告補助参加人C 1株式会社から葬儀費用として支払を受けた50万円を控除し,これに弁護士費用 相当額180万円を加算した3800万9268円となる。したがって,上告人ら 各自の請求 70万9268円から上告補助参加人C 1株式会社から葬儀費用として支払を受けた50万円を控除し,これに弁護士費用 相当額180万円を加算した3800万9268円となる。したがって,上告人ら 各自の請求できる損害額は,この2分の1である1900万4634円となる。  5 以上によれば,上告人らの本件請求は,各自1900万4634円及びうち 1810万4634円に対する本件医療事故の後である昭和63年9月14日から 支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由 があり,その余は理由がないから棄却すべきである。したがって,これと異なる原 判決は,主文第1項のとおり変更するのが相当である。  よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 元原利文 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田 昌道) - 7 -

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