主文 1 原判決中被控訴人国に関する部分を次のとおり変更する。 2 被控訴人国は、控訴人父に対し、3361万2057円及びこれに対する令和元年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人国は、控訴人母に対し、3361万2057円及びこれに対する 令和元年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 控訴人らの被控訴人国に対するその余の請求を棄却する。 5 控訴人らの被控訴人A及び同Bに対する本件各控訴をいずれも棄却する。 6 訴訟費用は、控訴人らと被控訴人国との関係では、第1、2審を通じてこれを5分し、その1を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人国の負担と し、控訴人らと被控訴人A及び同Bとの関係では控訴費用を控訴人らの負担とする。 7 この判決は、第2項及び第3項に限り、本判決が被控訴人国に送達された日から14日を経過したときは、仮に執行することができる。ただし、被控訴人国が各控訴人に対して3000万円の担保を供するときは、対応する控 訴人との関係でその仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人らは、連帯して、控訴人父に対し、4050万6811円及びこれ に対する平成27年10月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人らは、連帯して、控訴人母に対し、4050万6811円及びこれに対する平成27年10月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。 第2 事案の概要(略称は、原判決の例による。) 1 事案の要旨 本件は、陸上自衛隊の陸曹候補生課 員を支払え。 4 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。 第2 事案の概要(略称は、原判決の例による。) 1 事案の要旨 本件は、陸上自衛隊の陸曹候補生課程に入校し、共通教育中隊の配属中に自死したC陸士長(本件学生)の父母である控訴人らが、本件学生の自死の原因は、被控訴人A及び同Bによる指導の名を借りた暴力的、威圧的ないじ めないし嫌がらせ行為にある旨主張して、被控訴人A及び同Bに対しては民法709条に基づき、被控訴人国に対しては民法715条、国家賠償法1条又は債務不履行に基づき、それぞれ損害賠償金4050万6811円及びこれに対する不法行為日の後である平成27年10月7日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5 分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 原審は、被控訴人A及び同Bに対する請求について、国家賠償法1条の適用があるから、同人らは民法709条に基づく損害賠償責任を負わないとして請求を棄却し、被控訴人国に対する請求について、安全配慮義務違反があったと認めたものの、本件学生の死亡との間に相当因果関係があるとはいえ ないとして、それぞれ110万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和元年8月2日から支払済みまで年5分の遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容したところ、これを不服とする控訴人らが控訴した。 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、原判決「事実及び理由」欄の第2の2ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(被控訴人A及び同Bが平成27年10月5日から同月6日にかけて本件学生に対して行った各行為の内容)、争点(2)(被控 おりであるから、これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(被控訴人A及び同Bが平成27年10月5日から同月6日にかけて本件学生に対して行った各行為の内容)、争点(2)(被控訴人国の安全配慮義務違反の有無)について原判決「事実及び理由」欄の第3の1及び2に記載のとおりであるから、こ れを引用する。 2 争点(3)(被控訴人国の安全配慮義務違反と本件学生の死亡との間の相当因果関係の有無)について(1) 本件学生が自死に至る機序について以下のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄の第3の3(1)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ア原判決47頁19行目「(前記第2の2(7))」の次に「、他の医師も、適応障害あるいは重症うつ病エピソードを発病していたと意見を述べていること(甲73、76、95、乙49、50)」を付加する。 イ原判決47頁20行目から21行目「違法な指導を一つの要因として適応障害を発症し」を「違法な指導を一つの要因として適応障害あるいは重 症うつ病エピソードを発症し」に改める。 (2) 相当因果関係の有無についてア心理的負荷による精神障害の労災認定基準や精神疾患等の公務上災害の認定基準は、特定の精神疾患(ICD-10のF0からF4に分類されるもの)を発症後に症状が継続していた場合、当該精神疾患の病態として自 死念慮が出現する蓋然性が高いと医学経験則上認められることを前提に、公務により当該精神疾患(ICD-10のF2からF4に分類される精神障害を想定)を発症し、その後症状が継続していた場合には、特段の事情が認められない限り、公務による精神疾患が正常な認識、行為選択能力を著しく阻害するなどして自死に至ったものとし F4に分類される精神障害を想定)を発症し、その後症状が継続していた場合には、特段の事情が認められない限り、公務による精神疾患が正常な認識、行為選択能力を著しく阻害するなどして自死に至ったものとして、公務と自死との相当因 果関係を推認する旨定めているところ、適応障害もその精神疾患に含まれるとしており(甲30、44の1、84)、ICD-10と並んで世界的に精神疾患の診断基準として用いられているDSM-Ⅴでは、適応障害が自死既遂の危険の増加と関連する旨や適応障害が自死行動の見られる精神疾患である旨が記載されている(甲35、73、95)。 さらに、複数の医師が、適応障害によっても自死が起こる危険性は高い との意見を述べ(甲73、76、95)、同医師らは、いずれも本件学生の受けた心理的負荷が強度であり、公務外の心理的負荷は見当たらず、本件学生に素因と評価できるようなぜい弱性も存在しないと意見を述べていること(甲73、76、95)を踏まえると、本件学生が、被控訴人A及び同Bの違法な指導によって適応障害あるいは重症うつ病エピソードを発 病し、それらの精神疾患が原因となって自死に至ったことは、想定される範囲内の予見可能な経過と評価できるから、被控訴人A及び同Bの違法な指導と本件学生の自死という結果の間には相当因果関係があると認められる。 イこれに対し、医師の中には、本件学生への医師による直接的な聴取がで きておらず、得られる情報が限られていることから、本件学生が適応障害あるいは重症うつ病エピソードを発病していたと判断することに反対ないしは慎重であるべきであるとの理由や、適応障害から自死に至ることはまれであって確率的には低い事象であるとの理由などから、適応障害から自死に至ることが予見可能とはいえないとの意 判断することに反対ないしは慎重であるべきであるとの理由や、適応障害から自死に至ることはまれであって確率的には低い事象であるとの理由などから、適応障害から自死に至ることが予見可能とはいえないとの意見を述べる者もいる(乙32、 33、49,50)。 しかしながら、本件学生が適応障害あるいは重症うつ病エピソードを発病していたと判断することに反対ないしは慎重であるべきとの意見を述べる点は、本件学生を直接診断したわけではなく、資料が限られているため確定診断には至らないと述べているに過ぎないところ、本件で医師の意見 が求められている場面は、学術的な正確さが求められる場面ではなく、発生した事象を法的に判断するため、医学的な観点から最も合理的に当該事象を説明することが求められている場面であるから、得られる情報が限られていることは、医学的な観点からの説明の確実さに影響を与えることはあっても、説明自体の価値を無価値にしてしまうものではない。また、適 応障害から自死に至ることはまれであって確率的には低いとの意見につい ては、アで判示した判断の内容や、意見を述べた医師も、適応障害と重症うつ病エピソードのいずれの診断であっても、病態理解や初期の治療方針に違いはないとして、保護的環境下で衝動行為に注意しながら経過観察を行うという治療方針である(乙49)と述べており、本件学生についても、自死を念頭においた治療や措置を行うことを否定していないと解されるこ とを踏まえると、前記認定を覆すに足りない。 ウ以上のとおり、被控訴人A及び同Bの違法な指導と自死という結果の間には相当因果関係があると認められる。 3 争点(4)(控訴人らの損害額)について(1) 死亡慰謝料 被控訴人A及び同Bが本件学 人A及び同Bの違法な指導と自死という結果の間には相当因果関係があると認められる。 3 争点(4)(控訴人らの損害額)について(1) 死亡慰謝料 被控訴人A及び同Bが本件学生に対して行った行為の態様、本件学生が自死するに至ったこと、本件学生の死亡時の年齢や家族関係等、本件訴訟に現れた一切の事情を勘案すれば、本件学生の死亡慰謝料は2500万円と認めるのが相当である。 (2) 死亡逸失利益 本件学生が、三等陸曹に昇進するための試験に合格し、陸曹候補生課程の履修中であったこと、本件学生の死亡時の年齢が22歳であったことからすれば、基礎収入は、死亡時である賃金センサス平成27年の男女計・学歴計・全年齢の平均年収額である年額489万2300円を採用するのが相当である。 生活費控除率50%、就労可能期間を67歳までの45年間とし、中間利息を年5%のライプニッツ方式により控除すると(係数は17.7741)、逸失利益の額は、次の計算式により4347万8114円となる。 489万2300円×(1-0.5)×17.7741(3) 過失相殺について 被控訴人国は、本件学生の心理的要因も自死に寄与したというべきであり、 民法722条の類推適用による過失相殺がされるべきである旨主張するが、被控訴人A及び同Bから指導を受けるまで、本件学生の体調や精神の状態に特段の異常はなかったこと、本件学生が「入校所見」(甲11)及び「本教育における抱負」(甲12)に記載した自己の性格やこれから始まる教育に対する不安や緊張は、通常の人間であれば抱くであろう範囲内のものであること (甲73、76、乙32)、被控訴人国の提出する意見書(乙49)に記載された医師の意見は、本件学生にストレスに対 教育に対する不安や緊張は、通常の人間であれば抱くであろう範囲内のものであること (甲73、76、乙32)、被控訴人国の提出する意見書(乙49)に記載された医師の意見は、本件学生にストレスに対するぜい弱性があった可能性を指摘するにすぎず、他に、本件学生の性格が個性の多様さとして通常想定される範囲を外れる程度にストレスに対してぜい弱であったと認めるに足りる証拠がないことからすると、本件学生の心理的要因が自死に寄与したとは認 められないから、主張は採用できない。 (4) 損益相殺についてア前提事実に記載のとおり、被控訴人国は、控訴人らに対し、遺族補償一時金725万4000円、葬祭補償53万2620円を支払ったことが認められる。 イ遺族補償一時金について国家公務員災害補償法5条1項は、国が国家賠償法等の法律による損害賠償の責めに任ずる場合において国家公務員災害補償法による補償を行ったとき、同一の事由については、国は、その価額の限度においてその損害賠償の責めを免れる旨規定しているところ、遺族補償一時金は、遺族に対 する損失補償及び生活保障を与えることを目的としていることを踏まえると、遺族補償一時金の給付によって遺族が受ける利益は、死亡した者の得べかりし収入を損害として算定する逸失利益と実質的に同質のものといえるから、遺族補償一時金の給付額を逸失利益の算定額から控除すべきである。 遺族補償一時金の給付額725万4000円を逸失利益の算定額434 7万8114円から控除すると、残額は3622万4114円となる。 ウ葬祭補償について葬祭補償は、葬祭を行う遺族等に、葬祭費用を補助することを目的としているところ、控訴人らが損害として主張する慰謝料及び逸失利 22万4114円となる。 ウ葬祭補償について葬祭補償は、葬祭を行う遺族等に、葬祭費用を補助することを目的としているところ、控訴人らが損害として主張する慰謝料及び逸失利益は、葬祭とは関連性のない損害であるから、同質のものとはいえず、控除するこ とはできない。 (5) 控訴人らの相続額死亡慰謝料と逸失利益の残額を合計すると6122万4114円となる。 控訴人らは、本件学生の被控訴人国に対する損害賠償請求権を2分の1の割合で相続したから、各控訴人らの相続した額は3061万2057円となる。 (6) 弁護士費用本件の事案の内容、認容額等の諸事情を総合すると、弁護士費用は控訴人それぞれについて300万円と認めるのが相当である。 (7) 合計各控訴人について、3361万2057円となる。なお、安全配慮義務違 反による損害賠償債務は期限の定めのない債務であり、履行の請求を受けたときにはじめて遅滞に陥るから、遅延損害金の起算日は訴状送達の日の翌日である令和元年8月2日となる。 4 争点(5)(被控訴人国の民法715条又は国家賠償法1条に基づく責任の有無)、争点(6)(被控訴人A及び同Bの民法709条に基づく責任の有無)について 原判決「事実及び理由」欄の第3の5及び6に記載のとおりであるから、これを引用する。 5 よって、控訴人らの被控訴人A及び同Bに対する請求は、いずれも理由がないから、控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却し、被控訴人国に対する請求は、各控訴人について、3361万2057円及び令和元年8月2日から支払済み まで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があ るところ、これと異なる原判決は一 は、各控訴人について、3361万2057円及び令和元年8月2日から支払済み まで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があ るところ、これと異なる原判決は一部不相当であるから、控訴人らの控訴に基づいて原判決を変更し、主文第7項のとおり仮執行宣言を付すとともに、被控訴人国の申立てにより担保を条件とする仮執行免脱宣言を付すこととして、主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第2民事部 裁判長裁判官新谷晋司 裁判官平井健一郎 裁判官石川千咲
▼ クリックして全文を表示