令和1(ワ)29883 特許権侵害行為差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年11月25日 東京地方裁判所
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判決文本文37,040 文字)

令和2年11月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和元年(ワ)第29883号特許権侵害行為差止等請求事件口頭弁論終結日令和2年10月1日判決原告有限会社宝石のエンジェル (以下「原告会社」という。)原告 X1(以下「原告X1」という。)上記両名訴訟代理人弁護士加藤 毅山谷彰宏 山 谷 奈津子Y2こと被告 Y1(以下「被告Y1」という。)同補佐人弁理士磯野富彦 鉾田慶亮被告石福ジュエリーパーツ株式会社(以下「被告石福ジュエリー」という。)同代表者代表取締役山本孝広同訴訟代理人弁護士横家 豪 主文 1 本件各訴えのうち,原告会社が被告Y1に対して1億2719万0400円,被告石福ジュエリーに対して765万円及びこれらに対する令和元年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の各支払を求める請求に係る部分並びに原告X1 Y1に対して1億2719万0400円,被告石福ジュエリーに対して765万円及びこれらに対する令和元年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の各支払を求める請求に係る部分並びに原告X1が被告Y1に対して158 9万8800円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合 による金員の支払を求める請求に係る部分をいずれも却下する。 2 原告らの被告Y1に対するその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告Y1は,別紙1物件目録記載の製品を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。 2 被告Y1は,別紙1物件目録記載の製品及び半製品を廃棄せよ。 3 被告Y1は,別紙1物件目録記載の製品の製造に供する製造設備を廃棄せよ。 4 被告Y1は,原告会社に対し,1億2719万0400円及びこれに対する令 和元年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告Y1は,原告X1に対し,1589万8800円及びこれに対する令和元年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 被告石福ジュエリーは,原告会社に対し,765万円及びこれに対する令和元年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7 訴訟費用は被告らの負担とする。 8 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「装飾品鎖状端部の留め具」とする特許権(特許第4044598号。以下「本件特許権」という。)を有する原告会社及び原告会社か らその専用実施権の設定を受けた原告X1が,被告Y1が製造,販売し,被告石福ジュエリーが販売する別紙1物件目録記載の商品名の製品(以下「被告製品」という う。)を有する原告会社及び原告会社か らその専用実施権の設定を受けた原告X1が,被告Y1が製造,販売し,被告石福ジュエリーが販売する別紙1物件目録記載の商品名の製品(以下「被告製品」という。)が,本件特許権に係る特記発明の技術的範囲に属するなどと主張して,(1) 被告Y1に対しては,特許法100条1項及び2項に基づく被告製品の製造,販売及び販売の申出の差止め,並びに被告製品,半製品及び製造設備の廃棄を求 めるとともに,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として,原告会社に つき平成28年11月8日から令和元年7月7日までの間の損害額1億2719万0400円,原告X1につき同月8日から同年11月7日までの間の損害額1589万8800円及びこれらに対する不法行為の後の日である令和元年12月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44条による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め,(2) 被告石福ジュエリーに対して,不当利得返還請求権に基づき,原告会社につき平成23年2月からの33か月と平成28年10月の1か月の間の本件特許権の侵害行為に係る765万円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である令和元年12月14日から支払済みまで上記と同様の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定することができる事実)(1) 当事者(甲4,弁論の全趣旨)ア原告会社は,宝石及び貴金属の小売業を営む特例有限会社である。 イ原告X1は,原告の取締役であるAの長女であり,原告代表者の姪である。 ウ被告Y1は,Y2の屋号で宝飾品パーツ及び装身具の製造, び貴金属の小売業を営む特例有限会社である。 イ原告X1は,原告の取締役であるAの長女であり,原告代表者の姪である。 ウ被告Y1は,Y2の屋号で宝飾品パーツ及び装身具の製造,販売業を営む者である。 エ被告石福ジュエリーは,宝飾品パーツ及び装身具の製造加工並びに売買等を業とする株式会社である。 (2) 本件特許権 ア原告会社は,以下の特許権(本件特許権)を有している(以下,本件特許権に係る特許を「本件特許」という。甲1)。 特許番号:特許第4044598号出願日:平成17年6月30日(特願2006-528955号)優先日:平成16年7月14日(特願2004-206769号) 優先権主張国:日本国 登録日:平成19年11月22日発明の名称:装飾品鎖状端部の留め具請求項の数:4イ本件特許に係る特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)の請求項2後段の記載(後記第四次訂正後のもの)は,以下のとおりである (以下,請求項2後段に記載された発明を「本件訂正発明2」というが,訂正の前後を通じ「本件発明2」という場合がある。なお,下線部分が第四次訂正による訂正部分である(ウにおいて同じ。)。また,同訂正後の明細書及び図面を「本件明細書等」といい,特定の時点の明細書の内容を示す場合には,当該時点を示すため,「本件明細書等(登録時)」などという。)。 「あるいは,装飾品の片方の鎖状部の端部に設けたホルダーと他方の鎖状部の端部に設けたホルダー受けとを噛合わせて係止する方式の留め具であって,かつ,前記留め具は,前記ホルダーを閉口動作する事で,前記ホル あるいは,装飾品の片方の鎖状部の端部に設けたホルダーと他方の鎖状部の端部に設けたホルダー受けとを噛合わせて係止する方式の留め具であって,かつ,前記留め具は,前記ホルダーを閉口動作する事で,前記ホルダー受けのネック部に対して,ホルダーの止め部が係止される方式の留め具であって,前記ホルダーとホルダー受けには,これらを正しい噛合い位置に誘 導できる部位に,かつ,前記ホルダーと前記ホルダー受けには,前記ホルダーを閉口動作する事で,前記ホルダー受けのネック部に対して,前記ホルダーの止め部が係止できる位置に誘導できる部位に,互いに吸着する磁石の各一方を,あるいは磁石とこれに吸着される金属材を,それぞれ吸着部材として設けた装飾品鎖状端部の留め具において,前記ホルダーが,ホルダー受け 嵌入用の開口部を構成すると共に先端部に噛合い形状を形成した1対の顎部材を開口/閉口可能に軸支したバネ閉じ式の鰐口クリップであり,かつ,前記の噛合い形状は,内周側へ張り出した止め部を形成していて,かつ,前記ホルダー受けが1対の開口状態の顎部材間に嵌入して係止される係止部材であり,かつ,嵌入するホルダー受けのネック部の径の大きさは,鰐口ク リップの一対の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間以下の大きさであ り,かつ,ホルダー受けの吸着部材の径の大きさは,鰐口クリップの閉口状態の止め部より後部の一対の顎部材間以下の大きさであり,かつ,ホルダー受けの吸着部材の径の大きさは,鰐口クリップの一対の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間より大きく,かつ,ホルダー受けの吸着部材の先端から後部までの長さは,閉口状態の鰐口クリップの中の吸着部材と止め部の間以 下の長さであり,かつ,前記鰐口クリップの内部における1対の顎部材間に一方の吸着部材を設け,前記係止部 の吸着部材の先端から後部までの長さは,閉口状態の鰐口クリップの中の吸着部材と止め部の間以 下の長さであり,かつ,前記鰐口クリップの内部における1対の顎部材間に一方の吸着部材を設け,前記係止部材の先端に他方の吸着部材を設け,前記鰐口クリップの内部に設けた吸着部材を支持する支持部材が前記1対の顎部材を軸支する支軸によって支持されている装飾品鎖状端部の留め具。」ウ本件発明2を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,各構成 要件を符号に従いそれぞれ「構成要件2A」などという。)。 2A 装飾品の片方の鎖状部の端部に設けたホルダーと他方の鎖状部の端部に設けたホルダー受けとを噛合わせて係止する方式の留め具であって,2B かつ,前記留め具は,前記ホルダーを閉口動作する事で,前記ホルダ ー受けのネック部に対して,ホルダーの止め部が係止される方式の留め具であって,2C 前記ホルダーとホルダー受けには,これらを正しい噛合い位置に誘導できる部位に,かつ,前記ホルダーと前記ホルダー受けには,前記ホルダーを閉口動作する事で,前記ホルダー受けのネック部に対して,前記 ホルダーの止め部が係止できる位置に誘導できる部位に,互いに吸着する磁石の各一方を,あるいは磁石とこれに吸着される金属材を,それぞれ吸着部材として設けた装飾品鎖状端部の留め具において,2D 前記ホルダーが,ホルダー受け嵌入用の開口部を構成すると共に先端部に噛合い形状を形成した1対の顎部材を開口/閉口可能に軸支した バネ閉じ式の鰐口クリップであり, 2E かつ,前記の噛合い形状は,内周側へ張り出した止め部を形成していて,2F かつ,前記ホルダー受けが1対の開口状態の顎部材間に嵌入して 閉じ式の鰐口クリップであり, 2E かつ,前記の噛合い形状は,内周側へ張り出した止め部を形成していて,2F かつ,前記ホルダー受けが1対の開口状態の顎部材間に嵌入して係止される係止部材であり,2G かつ,嵌入するホルダー受けのネック部の径の大きさは,鰐口クリッ プの一対の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間以下の大きさであり,2H かつ,ホルダー受けの吸着部材の径の大きさは,鰐口クリップの閉口状態の止め部より後部の一対の顎部材間以下の大きさであり,2I かつ,ホルダー受けの吸着部材の径の大きさは,鰐口クリップの一対 の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間より大きく,2J かつ,ホルダー受けの吸着部材の先端から後部までの長さは,閉口状態の鰐口クリップの中の吸着部材と止め部の間以下の長さであり,2K かつ,前記鰐口クリップの内部における1対の顎部材間に一方の吸着部材を設け,前記係止部材の先端に他方の吸着部材を設け,前記鰐口ク リップの内部に設けた吸着部材を支持する支持部材が前記1対の顎部材を軸支する支軸によって支持されている装飾品鎖状端部の留め具。 (3) 被告らの行為ア被告Y1は,業として,被告製品の製造販売をしており,被告石福ジュエリーは,卸売問屋として,小売店等に被告Y1の製造に係る被告製品を販売 している。なお,被告Y1の製造販売に係る被告製品の製品番号,被告石福ジュエリーの販売に係る被告製品の製品番号は,それぞれ別紙2「被告製品の製品番号目録(各被告が製造又は販売する製品番号の対応)」の「被告Y1製品番号」欄,「被告石福ジュエリー製品番号」欄に記載のとおりである。 (甲4) イ被告製品のう 2「被告製品の製品番号目録(各被告が製造又は販売する製品番号の対応)」の「被告Y1製品番号」欄,「被告石福ジュエリー製品番号」欄に記載のとおりである。 (甲4) イ被告製品のうち,別紙2「被告製品の製品番号目録」番号1(MAG-C R302),同番号7(MAG-CR304)及び同番号10(MAG-CR305)についての構成は,別紙3「被告製品の構成」に掲げた図面のとおりである。なお,被告製品を構成する各部材の外観・形状は,製品番号によって若干異なる場合があるが,各部材の機能・構造は,実質的に異ならないことから,以下,被告製品を構成する各部材を,同別紙記載の符号に従い, 「部材ア」などという(同別紙記載の製品番号以外の被告製品についても,同別紙の例による。)。(甲4)(4) 本件特許権に関する訴訟及び特許請求の範囲の訂正の経緯等ア本件特許登録時における特許請求の範囲の記載本件特許登録時(平成19年11月22日)における本件特許請求の範囲 の請求項1及び請求項2の各記載は,別紙4「本件特許請求の範囲」記載1のとおりであり,請求項2は,請求項1の従属項であった(なお,特定の時点における各請求項の内容を表すために,「請求項1(登録時)」などという場合がある。)。(甲1)イ特許権侵害訴訟の提起及びその審理経過(第一審) (ア) 原告会社は,平成25年10月24日,東京地方裁判所に対し,被告Y1が製造・販売し,被告石福ジュエリーが販売する被告製品(本訴における被告製品と同一のもの。以下も同じ。)が本件特許の請求項1記載の発明(以下,訂正の前後を通じ「本件発明1」という。)の技術的範囲に属すると主張して,①被告Y1に対して,被告製品の製造・販売の差止め及 同一のもの。以下も同じ。)が本件特許の請求項1記載の発明(以下,訂正の前後を通じ「本件発明1」という。)の技術的範囲に属すると主張して,①被告Y1に対して,被告製品の製造・販売の差止め及 び損害の賠償等を求め,②被告石福ジュエリーに対して,被告製品の販売の差止め及び損害の賠償等を求める訴え(同裁判所平成25年(ワ)第28089号特許権侵害行為差止等請求事件。以下「前訴」という。)を提起した。(甲4,乙A2)(イ) 原告会社は,前訴において,被告製品のうち,別紙2「被告製品の製品 番号目録」番号1(MAG-CR302),同番号7(MAG-CR30 4)及び同番号10(MAG-CR305)についての構成は,別紙3「被告製品の構成」に掲げた図面に記載したとおりであるとした上で,被告製品が本件発明1の各構成要件を全て充足すると主張した(なお,前訴における各構成要件A~Gは別紙5「訂正の経緯」の「構成要件」欄の1A~1Gに対応している。)。 前訴において,原告会社は,①構成要件1Bについて,被告製品は,ホルダー受け(部材エ)を引っ張っても,顎部材の爪(部材キ)がホルダー受けの溝に引っかかって抜けず,ホルダー受け(部材エ)の凸凹部分に噛み合って係止されているから,ホルダーとホルダー受けの間に隙間があり,接触していないとしても,「噛み合わせて係止する」方式の留め具に当た る,②構成要件1Bについて,被告製品のホルダー受けとホルダーは,噛み合うように鰐口クリップの内部に磁石があり,ホルダー受け(部材エ)の先端にも磁石が内蔵されているから,「ホルダーとホルダー受けには,これらを正しい噛合い位置に誘導できる部位に」磁石が吸着部材として設けられていると主張し,被告らはこれらをいずれも争った。 )の先端にも磁石が内蔵されているから,「ホルダーとホルダー受けには,これらを正しい噛合い位置に誘導できる部位に」磁石が吸着部材として設けられていると主張し,被告らはこれらをいずれも争った。 (ウ) 東京地方裁判所は,平成26年12月15日に口頭弁論を終結した上,平成27年2月23日,前訴につき,①被告製品が留め具としての機能及び効果を発揮する状態において,部材ア及びイは部材エと接触していないことなどから,被告製品は「ホルダー」と「ホルダー受け」とを「噛合わせて係止」する方式を採用したといえず,これらを「正しい噛合い位置に 誘導できる」部位に「互いに吸着する磁石」を「吸着部材」として設けたものとはいえないので,被告製品は構成要件1B及び1Cを充足しないなどとして,原告会社の請求をいずれも棄却した(以下「前訴第一審判決」という。)。(甲4)原告会社は,平成27年3月5日,前訴第一審判決を不服として,知的 財産高等裁判所に控訴した(同裁判所平成27年(ネ)第10040号特 許権侵害行為差止等請求控訴事件)。(乙A2)ウ前訴控訴審の審理経過(ア) 原告会社は,平成27年3月28日,本件特許の特許請求の範囲の訂正を求める旨の,訂正審判の請求(訂正2015-390027号)を行い,同年4月23日,訂正を許可する旨の審決(以下「本件訂正認容審決1」 という。)を受け,同審決は同年5月12日に確定した(以下,これによる訂正を「第一次訂正」という。)。第一次訂正による訂正後の請求項1及び請求項2の内容は,別紙4「本件特許請求の範囲」記載2のとおりであり(なお,下線部分が訂正箇所。以下,別紙5も含め同じ。),請求項2は,独立項に改められた。(甲9,乙A1) 及び請求項2の内容は,別紙4「本件特許請求の範囲」記載2のとおりであり(なお,下線部分が訂正箇所。以下,別紙5も含め同じ。),請求項2は,独立項に改められた。(甲9,乙A1) (イ) 原告会社は,前訴控訴審において,第一次訂正後の本件発明1(以下「本件訂正発明1-1」という場合がある。)を別紙5「訂正の推移」「請求項1」欄「第一次訂正(控訴審時)」欄のとおり分説し,従前の主張に加え,そもそも,1対の顎部材の先端は,ホルダー受けに対して円弧状の軌跡に沿って噛合い動作するから,噛合い部分に一定の隙間を設定しなけ れば,むしろ円滑な噛合い動作に支障を来たすおそれがあるなどと主張した。(甲5)(ウ) 知的財産高等裁判所は,平成27年6月4日に口頭弁論を終結した上,同年8月6日,前訴第一審判決と同様の争点につき,①本件訂正発明1-1の属する技術分野である装飾品の「留め具」において,「噛み合う」と いう用語は,通常,凸部とそれに対応する凹部とが接触した組合せからなる係止の状態を示しているものと解することができるところ,被告製品は,磁石同士が吸着した後,部材ア及びイの開口部を閉じることにより装着が終了した時点で,両部材は部材エと接触しておらず,部材ウの中に部材エが完全に収まっており(嵌入しており),部材ウ及びエは,それぞれの内 部の磁石の吸着によって固定されているにすぎないから,ホルダーである 部材ア~ウ,オ及びカと,ホルダー受けである部材エとが「噛合わせて係止」した状態ということはできず,構成要件1Bを充足しない,②本件発明1における「正しい噛合い位置」とは,ホルダーとホルダー受けにおける吸着部材同士が吸着した際に音が発生する際のそれぞれの位置のことを指し,「正しい噛合い位置」におい 要件1Bを充足しない,②本件発明1における「正しい噛合い位置」とは,ホルダーとホルダー受けにおける吸着部材同士が吸着した際に音が発生する際のそれぞれの位置のことを指し,「正しい噛合い位置」において,ホルダーとホルダー受けとが噛 み合っていることを要するところ,部材ウ及びエの磁石が吸着した「正しい噛合い位置」において,部材エは,部材ウの中に完全に収納された(嵌入した)状態にあって部材ア及びイと接触しておらず,部材ウ及びエは内部の磁石の吸着により固定されているので,ホルダーである部材ア~ウ,オ及びカと,ホルダー受けである部材エとが「噛合わせて係止」した状態 ということはできず,被告製品は構成要件1Cを充足しないとして,控訴棄却の判決(以下「前訴控訴審判決」という。)をした。(甲5)(エ) 原告会社は,平成27年8月20日,前訴控訴審判決を不服として,上告及び上告受理申立てをしたが(最高裁判所平成27年(オ)第1634号,同年(受)第2043号),最高裁判所は,平成28年7月12日, 上告を棄却するとともに上告受理申立てを受理しない旨の決定(以下「前訴上告審決定」という。)をし,これにより,前訴控訴審判決は確定した。 (甲6,乙A2)エ本件特許の特許請求の範囲の訂正(第二次)原告会社は,平成29年5月29日,本件特許請求の範囲の請求項2につ いて訂正を求める旨の訂正審判の請求(訂正2017-390038号)を行い,同年8月4日,訂正許可の審決(以下「本件訂正認容審決2」という。)を受け,同審決は同月16日に確定した(以下,これによる訂正を「第二次訂正」という。)。第二次訂正による訂正後の請求項2の内容は,別紙4「本件特許請求の範囲」記載3のとおりである。(甲7,9) オ本件特 6日に確定した(以下,これによる訂正を「第二次訂正」という。)。第二次訂正による訂正後の請求項2の内容は,別紙4「本件特許請求の範囲」記載3のとおりである。(甲7,9) オ本件特許の特許請求の範囲の訂正(第三次) 原告会社は,平成30年2月7日,本件特許請求の範囲の請求項1,3及び4について訂正を求める旨の訂正審判の請求(訂正2018-390028号)を行い,同年3月19日,訂正許可の審決(以下「本件訂正認容審決3」という。)を受け,同審決は,同月29日に確定した(以下,これによる訂正を「第三次訂正」といい,第三次訂正後の請求項1記載の発明を「本 件訂正発明1-2」という。)。第三次訂正による訂正後の請求項1の記載は,別紙4「本件特許請求の範囲」記載4のとおりである。(甲9)カ再審の訴えの提起及びその審理経過(ア) 原告会社は,平成30年,知的財産高等裁判所に対し,前訴控訴審判決を取り消し,前訴に係る請求の認容を求める再審の訴えを提起(同裁判所 平成30年(ム)第10003号特許権侵害行為差止等請求再審事件)をした。原告会社は,同訴訟において,①本件訂正認容審決3により,ホルダー受け(係止部材,吸着部材,ネック部)とホルダー(鰐口クリップ)の構造や形態が明確となり,「噛み合う」とは,凸部とそれに対応する凹部との組合せによるものであることを要しないこととなり,また,噛み合 い状態において,噛み合い部分が接触するものとも限られず,明白な隙間がある状態でも,ホルダーに引っ掛かることでホルダー受けがホルダーから抜け出ない状態となっていれば,噛み合い状態に含まれることが明らかとなった,②この結果,被告製品は,前訴控訴審判決が充足しないとした本件訂正発明1-2の構成要件1B及び でホルダー受けがホルダーから抜け出ない状態となっていれば,噛み合い状態に含まれることが明らかとなった,②この結果,被告製品は,前訴控訴審判決が充足しないとした本件訂正発明1-2の構成要件1B及び1Cを充足することとなり,前訴 控訴審判決の基礎となった行政処分である本件特許権に係る特許査定が後の行政処分である本件訂正認容審決3により変更されたとして,民訴法338条1項8号の再審事由があると主張した。(乙A2)(イ) 知財高等裁判所は,平成30年9月18日,原告会社の再審請求を棄却する決定(以下「前訴再審棄却決定」という。)をした。同決定において, 同裁判所は,①特許法における特許請求の範囲等の訂正は,「実質上特許 請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならない」と規定し(同法126条6項),訂正前の特許発明の技術的範囲に属しない被疑侵害品が訂正後の特許発明の技術的範囲に属しないことを保障しているのであるから,被疑侵害品が特許発明の技術的範囲に属しないことを理由とする請求棄却判決が確定した後に,特許権者が訂正認容審決を得て,再審の訴 えにおいて被疑侵害品が訂正後の特許発明の技術的範囲に属する旨主張することは,特許法がおよそ予定していない,②原告会社は,前訴において,前訴控訴審判決の基礎となる第一次訂正前の本件発明1及び本件訂正発明1-1の技術的範囲について,主張立証する機会と権能を有していたのであるから,前訴控訴審判決が確定した後に,本件訂正認容審決3が確 定したという,特許法がおよそ予定していない理由によって,前訴控訴審判決を覆すことができるとすることは,紛争の蒸し返しであり,特許権侵害訴訟の紛争解決機能や法的安定性の観点から適切ではなく,同法104条の4の規定の趣旨にかなわない, いない理由によって,前訴控訴審判決を覆すことができるとすることは,紛争の蒸し返しであり,特許権侵害訴訟の紛争解決機能や法的安定性の観点から適切ではなく,同法104条の4の規定の趣旨にかなわない,③原告会社が前訴係属中に第一次訂正を行っていたことからして,その係属中に本件訂正認容審決3を得ること ができなかったとも認められないとした上で,これらの事情を考慮すると,本件訂正認容審決3が確定したことを原告会社が再審事由として主張することは,同法104条の4並びに同法126条1項ただし書及び同条6項の各規定の趣旨に照らし許されないと判断した。(乙A2)キ本件特許の特許請求の範囲の訂正(第四次) 原告会社は,平成31年2月14日,本件特許請求の範囲の請求項2について訂正を求める旨の訂正審判の請求(訂正2019-390025)を行い,令和元年5月8日,訂正許可の審決(以下「本件訂正認容審決4」という。)を受け,同審決は,同月19日に確定した(以下,これによる訂正を「第四次訂正」という。)。(甲8,9) ク原告X1への専用実施権の設定 原告会社は,令和元年5月30日,原告X1との間で,本件特許権につき,以下の内容の専用実施権を設定する旨の専用実施権設定契約を締結し,その登録(同年7月8日受付)をした(以下,この専用実施権を「本件専用実施権」という。)。(甲2,3,9)専用実施権者原告X1 範囲地域日本期間令和元年7月5日から令和3年7月5日まで内容 (1) 法的範囲生産(製造),使用,譲渡(販売)(2) 請求項の制限請求項2項のみケ本訴の提起 原告らは,令和元年1 日まで内容 (1) 法的範囲生産(製造),使用,譲渡(販売)(2) 請求項の制限請求項2項のみケ本訴の提起 原告らは,令和元年11月7日,東京地方裁判所に本訴を提起した。 3 争点(1) 本訴に係る請求が訴訟上の信義則に反するか否か(争点1)(2) 被告製品が本件発明2の技術的範囲に属するか否か(争点2)(3) 原告らの損害額及び被告石福ジュエリーの不当利得額(争点3) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本訴に係る請求が訴訟上の信義則に反するか否か)について(被告らの主張)本訴は,前訴における紛争の蒸し返しであるから,訴訟上の信義則に反し許されず,却下されるべきである。 (1) 原告会社についてア確定した前訴控訴審判決では,被告製品の構成について,請求項1が規定する構成要件のうち,①「噛み合わせて係止する」方式であるか,②「正しい噛み合い位置」との構成を充足するか,といった点につき審理がされ,被告製品が,これらをいずれも充足せず,本件発明1の技術的範囲に属しない 旨の判断がされた。 請求項2は,もともと本件特許登録時には,その時点の請求項1(登録時)を引用する従属項だったものを,その形式を改めて独立項にしたものであり,本件訂正発明2も,請求項1(登録時)の発明特定事項を含み,「噛み合わせて係止する」方式のものであって「正しい噛み合い位置」に吸着部材を設けた構成の「留め具」に係るものである。 原告会社は,前訴において,前記①及び②について主張立証を尽くしており,既に十分な審理がなされている上,同社は,前訴控訴審判決確定後,第三次訂正に係る本件訂正認容審決3を理由と ものである。 原告会社は,前訴において,前記①及び②について主張立証を尽くしており,既に十分な審理がなされている上,同社は,前訴控訴審判決確定後,第三次訂正に係る本件訂正認容審決3を理由として再審請求をし,再審棄却決定を受けたにもかかわらず,その後,第四次訂正に係る本件訂正認容審決4を得て本訴を提起しており,本訴は,実質的に再審の再審というべきもので ある。 イ後訴の請求又は後訴における主張が信義則に照らして許されないか否かは,前訴及び後訴の各内容,当事者の訴訟活動,前訴において当事者がなし得たと認められる訴訟活動,後訴の提起又は後訴における主張をするに至った経緯,訴訟により当事者が達成しようとした目的,訴訟をめぐる当事者双 方の利害状況,当事者間の公平,前訴確定判決による紛争解決に対する当事者の期待の合理性,裁判所の審理の重複,時間の経過などの諸事情を考慮して,後訴の提起又は後訴における主張を認めることが正義に反する結果を生じさせることになるか否かで決すべきである。 そして,以下の(ア)~(キ)の事情を考慮すれば,本訴は前訴の蒸し返しにす ぎず,本訴の提起及び原告らの主張を認めることが正義に反する結果を生じさせるものということができるので,本訴の提起は信義則に反し許されないというべきである。 (ア) 前訴と本訴の当事者は同一であり,被疑侵害対象物件もいずれも被告製品で同一である。また,前訴に係る本件発明1と本訴に係る本件発明2は, いずれも「噛み合わせて係止する」方式の留め具の発明であり,かつ,「正 しい噛み合い位置」に吸着部材を設けたものであって,共通の構成を有する。そして,前記アのとおり,争点も共通するから,本訴の審理内容は,前訴の審理内容と重複する。 明であり,かつ,「正 しい噛み合い位置」に吸着部材を設けたものであって,共通の構成を有する。そして,前記アのとおり,争点も共通するから,本訴の審理内容は,前訴の審理内容と重複する。 (イ) 原告会社は,前訴において,被告製品が「噛み合わせて係止する」方式の留め具であること,「正しい噛み合い位置」に吸着部材を設けた留め具 であることについて主張し,かつ,前訴において,当該主張及びその立証の機会を既に十分に与えられていた。 (ウ) 原告会社は,唯一の独立項であった請求項1のみを対象として提訴した前訴の継続中に,請求項2を従属項から独立項の形式に改める第一次訂正をしており,同訂正後の請求項2後段に基づく請求を前訴の審理対象とす ることも可能であった。 (エ) 被告らは,前訴控訴審判決が確定したことをもって,紛争が解決済みであるとの期待を抱き,さらに,再審請求の棄却決定により,そのことを確信した上で事業を継続しているものである。前訴控訴審判決に対する上告の棄却決定から本訴提起まで,3年以上もの期間が経過しており,その間 に,被告らの上記期待は十分に形成されているのであって,被告らの上記期待,確信は,公平かつ十分な審理の上で示された司法判断の結果に基づくものであるから,合理性を有する。 (オ) 第二次訂正及び第四次訂正に係る訂正審判の判断には誤りがあるにもかかわらず,原告会社は,訂正が認容されたことを奇貨として,本訴提起 をしている。 (カ) 原告会社は,前訴控訴審判決確定後に第三次訂正に係る訂正審判が認容されたことを理由として再審請求をし,その棄却決定において,当該再審請求が特許法126条6項等の規定の趣旨に照らし許されない旨の判断が明確に示されたにもかかわらず 後に第三次訂正に係る訂正審判が認容されたことを理由として再審請求をし,その棄却決定において,当該再審請求が特許法126条6項等の規定の趣旨に照らし許されない旨の判断が明確に示されたにもかかわらず,本訴においてもなお,訂正後の請求項 2後段の「噛み合う」との文言が訂正前の同文言よりも拡張解釈されるか のような,同条項の趣旨に反する主張を続けている。 (キ) 原告らは,本訴提起直前に,事実上無意味な専用実施権を設定し,専用実施権者の請求を本訴に含めることで,本訴が前訴の蒸し返しにすぎないと判断されるのを不当に回避しようと企図している。 (2) 原告X1について 原告X1についても,①本件専用実施権は,原告会社が,その代表者の姪に対して設定したものであること,②本件専用実施権の設定範囲が,本訴の対象である請求項2のみである上,わずか2年間であること,③原告会社は本件特許権のほかにも宝飾品の留め具に関する複数の特許を保有しているにもかかわらず,それらのいずれについても原告X1に対して実施権を設定した形跡が ないこと,④原告X1は,本件専用実施権の設定日から半年以上が経過しても「宝飾品の販売を考えており」と述べるのみで,その事業を現実に行っているとはうかがわれないことに加え,原告らが,訴状において,本訴が前訴の蒸し返しではない旨の主張を自発的に行っており,本訴が前訴の蒸し返しか否かが本訴における主要な争点となることを十分に想定していたことも併せ考えれ ば,原告らが本訴に先立って本件専用実施権を設定した真の動機は,前訴の当事者でもその承継人でもない原告X1の請求を本訴に加えることによって,本訴の審理において本訴が前訴の蒸し返しにすぎないと判断される不利益を避けるためであったと考えられる。 定した真の動機は,前訴の当事者でもその承継人でもない原告X1の請求を本訴に加えることによって,本訴の審理において本訴が前訴の蒸し返しにすぎないと判断される不利益を避けるためであったと考えられる。 そうだとすれば,このような不適切な動機に基づく専用実施権の設定に係る 主張を含む原告らの請求は,それ自体が信義則に反するものである上,本訴の原告は,実質的に原告会社のみということができるので,この点からも本訴は前訴の蒸し返しにすぎない。 なお,原告会社は,前訴において,被告製品が「噛み合わせて係止する」方式の留め具であること,「正しい噛み合い位置」に吸着部材を設けた留め具で あることについて,主張及び立証の機会を既に十分に与えられた上で判決を受 けたのであり,原告X1は,原告会社から専用実施権の設定を受けたことによりかかる利益を承継したということができる。原告X1は,原告会社により手続保障が代替されているから,本件訴えを却下することによる原告X1の不利益は考慮する必要がない。 (3) 「噛み合う」との用語を請求項1及び請求項2後段で同義に解すべきこと ア 「噛み合う」との用語は,装飾品の留め具の分野では,通常,凸部とそれに対応する凹部とが接触した組合せからなる係止の状態をいい,本件訂正認容審決1で訂正が認められた本件明細書等(第一次訂正後)にも,それ以前の本件明細書等(登録時)にも,「噛み合う」との用語やその態様について明確な記載は存在しないから,その一般的な意味で用いられているものと解 釈すべきであり,前訴控訴審判決で示された請求項1の「噛み合う」と実質的に同一の意味と解釈されるべきである。 イまた,特許法70条2項に則り,本件明細書等の記載を考慮しても,請求項1及び2後段 べきであり,前訴控訴審判決で示された請求項1の「噛み合う」と実質的に同一の意味と解釈されるべきである。 イまた,特許法70条2項に則り,本件明細書等の記載を考慮しても,請求項1及び2後段の「噛み合う」の用語をその一般的意義と別異に解釈すべき理由はない。 すなわち,本件明細書等の記載のうち,「第5図に示すように,鰐口クリップ3が閉じて係止部材4と噛み合ったときには,1対の顎部材6の上記止め部14が,ネック部15に食い込む」(甲1・7頁49~50行,乙A1・10頁1~2行),「第9図に示すように鰐口クリップ3が閉じて係止部材4と噛み合った時,S極磁石16とN極磁石10との吸着動作が,N極磁石 10を固定した方の顎部材6の止め部によって邪魔される恐れがない。同時に,N極磁石10を固定していない方の顎部材6に設けた止め部14が,係止部材4のネック部15に食い込むので,鰐口クリップ3と係止部材4との噛み合い状態は確保される」(甲1・9頁44~49行,乙A1・11頁29~32行)との記載によれば,噛み合った状態において,止め部がネック 部に対して食い込むのであるから,止め部とネック部とが互いに接触した状 態になることが明らかである。 また,本件明細書等の「係止部材は,開口状態にある鰐口クリップの顎部材間に嵌入可能である適宜な形状と,鰐口クリップの顎部材が確実に噛合うことができる形状の噛合い部分を備えていれば良い。噛合いの確実性を期するために,顎部材の先端部にも一定の適宜な噛合い形状を形成することがで きる」(甲1・5頁11~14行,乙A1・7頁36~38行)との記載によれば,止め部がネック部に確実に噛むこと,すなわち,顎部材の先端部の止め部が,凹凸でいう凸に相当し,これが凹んだネック部と接 きる」(甲1・5頁11~14行,乙A1・7頁36~38行)との記載によれば,止め部がネック部に確実に噛むこと,すなわち,顎部材の先端部の止め部が,凹凸でいう凸に相当し,これが凹んだネック部と接触することが想定されているということができる。 そして,本件明細書等の【図5】~【図7】に構成の概略が示された本願 の第2発明の説明文である,④「本願の第2発明においては,第1発明に係るホルダーが1対の顎部材を開口/閉口可能に軸支したバネ閉じ式の鰐口クリップであり,ホルダー受けが前記1対の開口状態の顎部材間に嵌入して係止される係止部材である。」(甲1・3頁11~13行,乙A1・6頁5~6行)との記載にも,③の「嵌入可能である適宜な形状」と同様に「嵌入」 という用語が使用されている。 他方,本件明細書等(登録時)(甲1)及び本件明細書等(第一次訂正後)(乙A1)のいずれにおいても,「噛み合う」との用語について,止め部がネック部に接触せずに隙間のある状態で係止される態様を含むことを裏付ける明確な記載はない。 このように,本件明細書等の記載及び図面を考慮しても,請求項2後段の「噛み合わせて係止する」との文言の「噛み合う」との用語は,その訂正の前後を通じ,前訴控訴審判決で明示された請求項1における同文言の解釈と実質的に異なるものではない。 ウなお,第四次訂正後の請求項2後段には,請求項1とは異なり,「ホルダ ー受けの吸着部材の径の大きさは,鰐口クリップの一対の閉口状態の顎部材 の止め部と止め部の間より大きく」との文言が付加されているが,この付加文言は,単に吸着部材の径の範囲を規定しているにすぎず,「噛み合う」との文言の解釈に何ら影響を与えるものではない。すなわち,請求項2後段には め部の間より大きく」との文言が付加されているが,この付加文言は,単に吸着部材の径の範囲を規定しているにすぎず,「噛み合う」との文言の解釈に何ら影響を与えるものではない。すなわち,請求項2後段には,留め具において「径」の範囲を特定した部材が用いられるとの限定が付されているにすぎず,このような所定部材が適用されることを意味するだけ であって,ホルダー及びホルダー受けにおける「一方の凸部」と「他方の凹部」とが互いに接触した状態で係止される構成に変わりはない。 エ以上のとおり,請求項2後段の「噛み合う」との文言の解釈は,請求項1のそれと実質的に同一であり,しかも本訴の侵害被疑物件である被告製品は前訴のそれと同一であるから,本訴の侵害論においても前訴と全く同一の解 釈をすべきことは明らかである。 したがって,本訴は,前訴の蒸し返しにほかならない。 (4) 原告らの主張について原告らは,本件発明2では,ホルダーの中の吸着部材の「径」よりもホルダー受けの吸着部材の「径」が短く,ホルダー受けのネック部の「径」がホルダ ーの閉口状態の止め部と止め部との間よりも短いことから,「噛み合う」には噛み合い部分が接触していない状態も含むと主張する。 しかし,請求項2後段には,ホルダー受けの吸着部材の径の大きさについて,「鰐口クリップの一対の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間より大きく」(構成要件2I)との限定があるにとどまり,係止時における「ホルダーの一 対の止め部」と「ホルダー受けの吸着部材」との相対的な位置関係まで規定しているわけではない。すなわち,本件発明2において,例えば,「ホルダー」に対して「ホルダー受けの吸着部材」が同軸的に配置された状態で係止されるといった限定はないから,ホルダー 的な位置関係まで規定しているわけではない。すなわち,本件発明2において,例えば,「ホルダー」に対して「ホルダー受けの吸着部材」が同軸的に配置された状態で係止されるといった限定はないから,ホルダーとホルダー受けとが互いに係止した状態において,ホルダー受けの所定径を有する吸着部材は,必ずしも,その中心軸が 止め部と止め部の間のちょうど真ん中の位置に来るように配置されるもので はない。このことから,ネック部の径が止め部と止め部との間以下の大きさに形成されるとしても,それだけでは,止め部と吸着部材とが互いに接触していない状態で係止されることにはならない。 しかも,請求項2後段のホルダー受けの吸着部材の径の大きさに関する構成要件は,前訴控訴審判決後の本件訂正認容審決2により付加されたものである ところ,訂正の結果,訂正前から存在する同一の文言を,訂正後に拡張して解釈すること自体が許されないことは,特許請求の範囲を実質的に拡張し又は変更する訂正を禁ずる特許法126条6項の趣旨からも明らかである。「噛み合わせて係止」する留め具でないとして本件特許発明の技術的範囲に属しないとされた物件が,ホルダー受けの吸着部材の径の大きさに関する構成要件を付加 する訂正により,「噛み合わせて係止」する留め具に該当し,本件特許発明の技術的範囲に属することになるのは不合理である。 「噛み合う」との用語の解釈に関する原告らの主張は,訂正の内容が,実質的に特許請求の範囲を拡張・変更したものであって,本件特許が無効理由を有するものであること(特許法123条1項8号,126条6項)を自白するに 等しい。また,「噛み合う」との文言を,凹部と凸部とが接触しない状態で係止される態様を含むように解釈させる文言を訂正により付加したのだと と(特許法123条1項8号,126条6項)を自白するに 等しい。また,「噛み合う」との文言を,凹部と凸部とが接触しない状態で係止される態様を含むように解釈させる文言を訂正により付加したのだとすれば,訂正後の請求項2後段の記載はその内容に矛盾が生じ,不明確となるから,訂正後の請求項2後段は同法36条6項2号に反し,本件特許は無効理由を有することになる(同法123条1項8号,126条7項)。 なお,原告らは,請求項2後段では,ホルダーの中の吸着部材の径よりもホルダー受けの吸着部材の径を短くした旨,すなわち,本件発明2の構成要件に「ホルダーの中の吸着部材の径よりもホルダー受けの吸着部材の径が短い」ことが含まれる旨の主張をするが,吸着部材の径の大小関係については,請求項2後段には何ら規定されておらず,その文言からは導くことができない。 (原告らの主張) 前訴は,本件特許権の請求項1に関するものであり,請求項2後段に関する本訴とは訴訟物が異なり,また,以下のとおり,請求項1と請求項2後段ではその内容が異なっており,「噛み合う」という用語の意義も異なるため,本訴は,紛争の蒸し返しではなく,その提起が訴訟上の信義則に反するものではない。 (1) 原告会社について ア請求項1に係る本件発明1は,顎部材を軸支する支軸又は支軸に巻き付くバネをそのまま一方の吸着部材として扱うものである(別紙6〔請求項1〕参照)。他方,請求項2後段に係る本件発明2では,支軸又は支軸に巻き付くバネとは別に支持部材を設け,それを使って吸着部材を設けるものである(別紙7〔請求項2の1〕,別紙8〔請求項の2の2〕参照)。このため, 本件発明2では,支持部材を設けることにより,吸着部材の位置をホルダーの入口に近 ,それを使って吸着部材を設けるものである(別紙7〔請求項2の1〕,別紙8〔請求項の2の2〕参照)。このため, 本件発明2では,支持部材を設けることにより,吸着部材の位置をホルダーの入口に近づけることができるし,本件発明1では支軸又は支軸に巻き付くバネを磁石にすることは耐久性の問題から困難であるのに対し,ホルダーの中の吸着部材を磁石にすることも容易になるため,本件発明1よりも,吸着部材間の吸引力を強くすることが可能となる。 また,本件発明1では,支軸又は支軸に巻き付くバネ自体が吸着部材となるため,常にその位置はホルダーの中心線上に一定する(別紙6〔請求項1〕参照)。そのため,ホルダーの閉口状態の内径とホルダー受けの吸着部材の径と同じだけ開口すれば,ホルダー受けの吸着部材はホルダーの止め部に当たることなく,ホルダーへの挿入又は離脱ができる(別紙6〔請求項1〕(4) 及び(5)参照)。しかし,本件発明2のように支持部材を使って吸着部材を設けると,ホルダー内の吸着部材の位置は,完全に開口しなければホルダーの中心線上に一定せず,ホルダーの上又は下に寄ることになる(別紙7〔請求項2の1〕(1)及び(4),別紙8〔請求項2の2〕(1),(2),(4)~(6),(4)'~(6)'参照)。そして,ホルダー受けの挿入時にホルダーの吸着部材がホル ダーの上又は下に寄った場合,ホルダーの中の吸着部材の径とホルダー受け の吸着部材の径が同じ大きさだと,ホルダーがホルダー受けの吸着部材の径と同じだけ開口しても,ホルダー受けの吸着部材がホルダーの止め部に当たり,ホルダーの中に挿入できない(別紙7〔請求項2の1〕(1)参照)。そのため,本件発明2では,ホルダー受けをホルダー内に挿入しやすくするため,ホルダーの中の吸着部 吸着部材がホルダーの止め部に当たり,ホルダーの中に挿入できない(別紙7〔請求項2の1〕(1)参照)。そのため,本件発明2では,ホルダー受けをホルダー内に挿入しやすくするため,ホルダーの中の吸着部材の径よりもホルダー受けの吸着部材の径を短くす る必要がある(別紙8〔請求項2の2〕(1)及び(2)参照)。 さらに,本件発明2では,ホルダー受けのネック部の径がホルダーの閉口状態の止め部と止め部の間と同じ大きさの場合,ホルダーが閉口すると常にホルダー受けがホルダーの中心に位置することになる(別紙9〔請求項2の3〕(1)~(4)参照)。そして,ホルダーを開口すると,完全開口になるまで はホルダー内の吸着部材の位置はホルダーの中心線上に一定せず,ホルダーの上又は下に寄ることがあるため,その場合,ホルダーがホルダー受けの吸着部材の径と同じだけ開口しても,ホルダーの上下の2つの止め部が開口しなければ,ホルダー受けの吸着部材がホルダーの止め部に引っ掛かり,ホルダー受けがホルダーから離脱できない(別紙9〔請求項2の3〕(5)~(8)参 照)。そこで,ホルダー受けのネック部の径をホルダーの閉口状態の止め部と止め部の間よりも短くすることで,ホルダーが閉口しても,ホルダー受けの吸着部材がホルダーの中心に位置することはなく,挿入時の位置を一定程度維持できる。そうすると,ホルダーがホルダー受けの吸着部材の径と同じだけ開口し,ホルダー受けの吸着部材が引っ掛かっている一方の止め部が開 口すれば,ホルダー受けがホルダーから離脱できるようになる(別紙8〔請求項2の2〕(4)~(7)参照)。なお,ホルダー受けの吸着部材が引っ掛かっていない方の止め部が開口した場合には,ホルダーがホルダー受けの吸着部材の径と同じだけ開口しても,ホルダー受けの吸 紙8〔請求項2の2〕(4)~(7)参照)。なお,ホルダー受けの吸着部材が引っ掛かっていない方の止め部が開口した場合には,ホルダーがホルダー受けの吸着部材の径と同じだけ開口しても,ホルダー受けの吸着部材がホルダーの止め部に引っ掛かり,ホルダー受けがホルダーから離脱できないが,それはやむを 得ない(別紙8〔請求項2の2〕(4)'及び(5)'参照)。そのため,本件発明 2では,ホルダー受けをホルダーから離脱しやすくするため,ホルダーの閉口状態の止め部と止め部の間の径よりもホルダー受けのネック部の径を短くする必要がある。 このように,請求項2後段では,ホルダーの中の吸着部材の径よりもホルダー受けの吸着部材の径を短くし,ホルダー受けのネック部の径をホルダー の閉口状態の止め部と止め部の間よりも短くすることで,ホルダー受けがホルダー内に挿入しやすく,また離脱しやすいようになるという意味で,請求項1とは大きな違いがある。 イ前訴控訴審判決においては,「「噛み合う」という用語は,通常,凸部とそれに対応する凹部とが接触した組合せからなる係止の状態を示している ものと解することができる。…止め部14とネック部15やS極磁石16との間に明白な隙間がある状態が「噛合い状態」に含まれることを前提とした記載とみることはできない。」と判断されたが,本件発明2では,ホルダーの中の吸着部材の径よりもホルダー受けの吸着部材の径を短くし,ホルダー受けのネック部の径をホルダーの閉口状態の止め部と止め部の間よりも短 くすることが製品の性能を向上させるために当然に予定されているため,「噛み合う」という用語は,必ずしも凸部とそれに対応する凹部とが接触している必要はなく,明白な隙間がある状態でも,「噛合い状態」に含まれる。 製品の性能を向上させるために当然に予定されているため,「噛み合う」という用語は,必ずしも凸部とそれに対応する凹部とが接触している必要はなく,明白な隙間がある状態でも,「噛合い状態」に含まれる。 実際,本件訂正認容審決2及び4により,本件発明2に係る請求項2後段においては,ホルダーの中の吸着部材の径よりもホルダー受けの吸着部材の 径を短くし,ホルダー受けのネック部の径をホルダーの閉口状態の止め部と止め部の間よりも短くすることが予定されていること,すなわち,「噛み合う」という用語は,必ずしも凸部とそれに対応する凹部とが接触している必要はなく,明白な隙間がある状態でも「噛合い状態」に含まれることが認められている。 ウ以上のとおり,請求項1(本件発明1)と請求項2後段(本件発明2)の 内容は異なるため,本訴は紛争の蒸し返しとはならず,前訴の結果が本訴に影響することはない。 (2) 原告X1について原告X1は宝飾品の販売を考えており,原告会社は,後継者を育てるために,その特許権の一部について原告X1に専用実施権を設定し,商品の販売を経験 させた。例えば,原告X1は,令和2年1月20日から同月23日まで東京ビッグサイトで開催された国際宝飾店に原告会社と一緒に出店した。原告X1は,その後も別の展示会への出店を計画していたが,新型コロナウイルスの関係で展示会が中止となったため,出店を止めている。原告会社が原告X1に専用実施権を設定したのは,後継者としての自覚を持たせるためであり,その対象が 請求項2に限られているのは,販売する商品が請求項2に該当する商品だからであって,原告X1への本件専用実施権を設定した理由に合理性がないということはない。 (3) 被告らの主張についてア被告らは れているのは,販売する商品が請求項2に該当する商品だからであって,原告X1への本件専用実施権を設定した理由に合理性がないということはない。 (3) 被告らの主張についてア被告らは,「噛み合う」という用語が本件発明1及び2で同義であること を前提とした主張をし,また,請求項2後段が当初は請求項1の従属項であったことを指摘する。 しかし,複数の請求項に係る発明は相互に独立しており,請求項1と請求項2後段が同じ文言を使用していても,当然に両者が同じ意味となるわけではない。本件特許出願当時,原告会社は,「噛み合う」という用語には,当 然に,噛合い部分が接触している状態だけでなく,明白な隙間がある状態をも含むと考えていたため,請求項2後段の記載において請求項1を引用したのである。前訴によって,「噛み合う」という用語が,凸部とそれに対応する凹部とが接触している状態を意味するとされたとしても,それは,請求項1の性質を前提とするものであり,請求項2後段の「噛み合う」の解釈にま で影響を及ぼすものではない。ましてや,請求項2後段は,本件訂正認容審 決1により請求項1を引用しない独立項である。 被告らは,本件特許の請求項1と請求項2後段の実質的な違いを無視し,請求項2後段(登録時)が請求項1を引用し,「噛み合う」という同じ文言を使っているという形式的な理由から,本訴を紛争の蒸し返しと主張するものであって,失当である。 イ被告らは,第二次訂正及び第四次訂正は,特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものであると主張する。 しかし,請求項2後段では,ホルダーの中の吸着部材の径よりもホルダー受けの吸着部材の径を短くし,ホルダー受けのネック部の径をホルダーの閉口状態の止 拡張・変更するものであると主張する。 しかし,請求項2後段では,ホルダーの中の吸着部材の径よりもホルダー受けの吸着部材の径を短くし,ホルダー受けのネック部の径をホルダーの閉口状態の止め部と止め部の間よりも短くすることが,製品の性能を向上させ るために当然に予定されている。そのため,請求項2後段における「噛み合う」という用語は,もともと,請求項1と異なり,必ずしも噛み合い部分が接触している必要はなく,明白な隙間がある状態でも「噛み合い状態」に含まれるのであるから,上記各訂正は,特許請求の範囲を実質的に拡張し又は変更するものではない。 2 争点2(被告製品が本件発明2の技術的範囲に属するか否か)について(原告らの主張)被告製品は,以下のとおり構成要件2A~2Kの全てを充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する。 (1) 構成要件2A 本件発明2において,「装飾品」とは,鎖状の形態からなり,又は鎖状の形態部分を有する限りにおいて限定されず(本件明細書等〔甲1〕4頁18~20行,同〔乙A1〕7頁2~3行),「鎖状部」とは,全体として自由に屈曲できる細長い部材であることを意味し,通常の鎖状の部材に限定されるものではなく(同〔甲1〕4頁21~27行,同〔乙A1〕7頁4~9行),「ホル ダー及びホルダー受け」は,任意の形態の噛合わせにより留め具の係止を行う とともに,その噛合わせの解除により留め具の係止状態を開放する機構である限りにおいて,その種類及び構造を限定されない(同〔甲1〕4頁29~31行,同〔乙A1〕7頁11~12行)。 そして,本件発明2における「噛合わせて係止」とは,ホルダーを閉口した際にホルダー受けをホルダーから離脱させないものをいい,凸部 〔甲1〕4頁29~31行,同〔乙A1〕7頁11~12行)。 そして,本件発明2における「噛合わせて係止」とは,ホルダーを閉口した際にホルダー受けをホルダーから離脱させないものをいい,凸部とそれに対応 する凹部とが接触した組合せからなる係止の状態に限られない。なぜなら,構成要件2G~2Jに規定された,①ホルダー受けのネック部の径の大きさ,②鰐口クリップの一対の閉口状態の顎部材の止め部と止め部の間の大きさ,③ホルダー受けの吸着部材の径の大きさ,④鰐口クリップの閉口状態の止め部より後部の一対の顎部材間の大きさ,⑤ホルダー受けの吸着部材の先端から後部ま での長さ,⑥閉口状態の鰐口クリップの中の吸着部材と止め部の間の長さからすれば,ホルダーを閉口した際にホルダー受けがホルダーと接触しない状態も「噛合わせて係止」した状態として,当然に想定されているからである。 被告製品は,鎖状の形態となるネックレスの端部につけるものであり,部材ア~ウ,オ及びカからなる集合体が閉口することにより部材エを離脱させるも のであるから,構成要件2Aを充足する。 (2) 構成要件2B被告製品は,部材ア~ウ,オ及びカからなる集合体(ホルダー)が閉口することにより,部材エ(ホルダー受け)を同集合体(ホルダー)から離脱させないようにするとともに,同集合体(ホルダー)が開口することにより,部材エ (ホルダー受け)を離脱させるものであるから,構成要件2Bを充足する。 (3) 構成要件2C本件発明2における「吸着部材」は,ホルダーとホルダー受けの双方に設けられ,互いに吸着するN極磁石とS極磁石との組合せであってもよいし,磁石とこれに吸着される一定の金属材(例えば鉄材)との組合せであってもよい(甲 本件明細 ,ホルダーとホルダー受けの双方に設けられ,互いに吸着するN極磁石とS極磁石との組合せであってもよいし,磁石とこれに吸着される一定の金属材(例えば鉄材)との組合せであってもよい(甲 本件明細書等〔甲1〕5頁18~22行,同〔乙A1〕7頁42~45行)。 被告製品には,部材ア~ウ,オ及びカからなる集合体(ホルダー)と部材エ(ホルダー受け)の双方に磁石が設けられており,かかる磁石は,同集合体(ホルダー)を閉口した際に部材エ(ホルダー受け)を同集合体(ホルダー)から離脱させない部位に誘導するものであり,吸着部材であるから,構成要件2Cを充足する。 (4) 構成要件2D本件発明2における「バネ閉じ式の鰐口クリップ」は,一対の顎部材が基本的に平行に軸支される非交差式のものと,一対の鰐部材が交差状に軸支される交差式のものとが考えられるが,いずれも,係止部材の係止用部分を接着するための一対の顎部材を備え,一対の顎部材は支軸によって回動可能に拘束され, これらの顎部材間に設けたバネ手段により顎部材の先端部(係止部材に対する接着部)同士が開いた状態から閉じた状態へ移行するように付勢されている(本件明細書等〔甲1〕4頁43~50行,同〔乙A1〕7頁22~27行)。 被告製品は,部材アが一対の顎部材として平行に軸支された非交差式のもので,部材ア(顎部材)は部材カ(支軸)によって回動可能に拘束され,これら の顎部材間に設けられた部材オ(バネ手段)により部材ア(顎部材)の先端部同士が開いた状態から閉じた状態に移行するように付勢されているから,構成要件2Dを充足する。 (5) 構成要件2E被告製品は,部材アにおいて,内周側へ張り出した止め部が形成されている から,構成要件 た状態に移行するように付勢されているから,構成要件2Dを充足する。 (5) 構成要件2E被告製品は,部材アにおいて,内周側へ張り出した止め部が形成されている から,構成要件2Eを充足する。 (6) 構成要件2F本件発明2における「係止部材」は,開口状態にある鰐口クリップと顎部材間に嵌入可能である適宜な形状と,鰐口クリップの顎部材が確実に噛み合うことができる形状の噛合い部分を備えていればよい(本件明細書等〔甲1〕5頁 11~16行,同〔乙A1〕7頁36~40行)。 被告製品は,部材エ(ホルダー受け)が開口状態の部材ア(顎部材)の間に嵌入するものであり,部材アは,部材ア~ウ,オ及びカからなる集合体(ホルダー)を閉口した際に部材エ(ホルダー受け)を同集合体(ホルダー)から離脱させない形状を備えているから,構成要件2Fを充足する。 (7) 構成要件2G 被告製品は,部材エ(ホルダー受け)のネック部の径の大きさが,部材ア(顎部材)の止め部と止め部の間以下の大きさであるから,構成要件2Gを充足する。 (8) 構成要件2H被告製品は,部材エ(ホルダー受け)の磁石(吸着部材)の径の大きさが, 鰐口クリップの閉口状態の止め部より後部の一対の顎部材(部材ア)間以下の大きさであるから,構成要件2Hを充足する。 (9) 構成要件2I被告製品は,部材エ(ホルダー受け)の磁石(吸着部材)の径の大きさが,鰐口クリップの一対の閉口状態の顎部材(部材ア)の止め部と止め部の間より 大きいから,構成要件2Iを充足する。 (10) 構成要件2J被告製品は,部材エ(ホルダー受け)の磁石(吸着部材)の先端から後部までの長さが,閉口状 の止め部と止め部の間より 大きいから,構成要件2Iを充足する。 (10) 構成要件2J被告製品は,部材エ(ホルダー受け)の磁石(吸着部材)の先端から後部までの長さが,閉口状態の部材ア~ウ,オ及びカからなる集合体(鰐口クリップ)の中の磁石(吸着部材)と止め部の間以下の長さであるから,構成要件2Jを 充足する。 (11) 構成要件2K被告製品は,部材ア(顎部材)の間と部材エ(ホルダー受け,係止部材)の双方に磁石(吸着部材)を設け,部材アの間にある磁石(吸着部材)を支持する部材ウ(支持部材)が部材ア(顎部材)を軸支する部材カ(支軸)によって 支持されているから,構成要件2Kを充足する。 (被告らの主張)争う。 3 争点3(原告らの損害額及び被告石福ジュエリーの不当利得額)について(原告らの主張)被告Y1の不法行為により,原告会社が受けた損害は1億2719万0400 円,原告X1が受けた損害は1589万8800円であり,被告石福ジュエリーが原告会社に返還すべき不当利得額は765万円である。 (1) 原告らの損害額被告Y1が本訴提起の日から過去3年間に譲渡(販売)した被告製品の数量は,少なくとも1か月3000個を下らず,被告製品1個当たりの利益額は1 324.9円であるから,原告らの損害額は,合計1億4308万9200円(=3000個×1324.9円×36か月)となる。 そして,このうち原告会社の損害は,平成28年11月8日から令和元年7月7日までの32か月分として1億2719万0400円,原告X1の損害は,同月8日から同年11月7日までの4か月分として1589万8800円と なる。 (2) 被告石福ジュエ 令和元年7月7日までの32か月分として1億2719万0400円,原告X1の損害は,同月8日から同年11月7日までの4か月分として1589万8800円と なる。 (2) 被告石福ジュエリーの不当利得額被告石福ジュエリーは,少なくとも平成23年2月からの33か月間と平成28年10月の1か月間の合計34か月間,被告Y1の製造した被告製品を販売するという本件特許権侵害行為により,法律上の原因なく利得を得ているた め,その得た利益を原告会社に返還すべき義務を負う。 その不当利得額は,上記期間の被告石福ジュエリーの被告製品の売上高が少なくとも7650万円(=1500個×1500円×34か月)を下らず,装飾品のパーツの実施料率は10%を下らないから,少なくとも765万円(=7650万円×10%)となる。 (被告らの主張) 争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本訴に係る請求が訴訟上の信義則に反するか否か)について(1) 前訴と本訴の訴訟物の同一性等ア損害賠償請求及び不当利得返還請求(以下,併せて「損害賠償等請求」と いう。)について原告会社は,前訴において,被告製品に係る本件特許権侵害の不法行為に基づき,①被告Y1に対し,平成23年2月以降を損害賠償の対象期間(終期については,本件証拠上判然としないが,前訴第一審判決言渡しの日以降の法定利息の支払を求めていることからすると,第一審判決の口頭弁論終結 日である平成26年12月15日までであるか,最も遅くとも,前訴控訴審判決の口頭弁論終結日である平成27年6月4日時点(以下「本件基準時」という。)までと考えられる。)とする損害賠償金及びこれに対する法定利息の支払を求め,②被告石福ジュエ ,最も遅くとも,前訴控訴審判決の口頭弁論終結日である平成27年6月4日時点(以下「本件基準時」という。)までと考えられる。)とする損害賠償金及びこれに対する法定利息の支払を求め,②被告石福ジュエリーに対し,平成23年2月以降を損害賠償の対象期間とする損害賠償金及びこれに対する法定利息の支払を求め た(甲4)。 一方,原告らは,本訴において,①被告製品による本件特許権侵害の不法行為に基づき,被告Y1に対し,原告会社につき平成28年11月8日から令和元年7月7日までの間を,原告X1につき同月8日から同年11月8日までの間を,それぞれ損害賠償の対象期間とする損害賠償金及びこれに対す る遅延損害金の各支払を求め,②被告石福ジュエリーに対し,不当利得返還請求権に基づき,原告会社につき平成23年2月からの33か月と平成28年10月の1か月の間の本件特許権の侵害行為に係る不当利得金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている。 そうすると,原告会社と被告ら各自との間の損害賠償等請求については, 前訴と本訴とで訴訟物がいずれも異なっているということができる。 したがって,被告X1が原告会社の口頭弁論終結後の承継人(民訴法115条1項3号)に当たるか否かにかかわらず,原告らの本訴における損害賠償等請求について,前訴の既判力は及ばない。 イ差止め及び廃棄請求(以下,併せて「差止等請求」という。)について原告会社は,前訴において,被告製品が本件発明1の技術的範囲に属する として,①被告Y1に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造及び販売の差止め並びに被告製品及びその金型の廃棄を求め,②被告石福ジュエリーに対し,同各条項に基づき,被告製品の販売の差止め及びその Y1に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造及び販売の差止め並びに被告製品及びその金型の廃棄を求め,②被告石福ジュエリーに対し,同各条項に基づき,被告製品の販売の差止め及びその廃棄を求めていた(甲4)。 一方,原告らは,本訴において,前訴と同一の被告製品が本件発明2の技 術的範囲に属するとして,被告Y1に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造,販売及び販売の申出の差止め並びに被告製品,半製品及び製造設備の廃棄を求めている(被告石福ジュエリーに対する差止め及び廃棄請求はされていない。)。 前訴請求は,被告製品が請求項1に係る本件訂正発明1-1の技術的範囲 に属することを前提とする請求であったのに対し,本訴請求は,被告製品が独立項である請求項2後段に係る本件訂正発明2の技術的範囲に属することを前提とする請求であるが,民事訴訟において,原告は訴訟物を特定する責任があり,それが被告に対し防御の目標を提示する手続保障の役割を果たすとともに,裁判所に対し審判の対象を提示する機能を有するところ,本件 においては,①原告会社と被告Y1との間の前訴と本訴の差止等請求は,原告会社に関しては当事者が同一であり,いずれも本件特許権に基づく請求であって,差止めの対象となる製品も同一であること,②2以上の発明については,経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは,一の願書で特許出願をすること ができるものとされ(特許法37条),これを受けた特許法施行規則25条 の8第1項は,上記技術的関係とは,2以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより,これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するよ れを受けた特許法施行規則25条 の8第1項は,上記技術的関係とは,2以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより,これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう旨を定めていることによれば,本件特許の特許請求の範囲の各請求項も相互に技術的関係を有する単一の発明であるということができること,③本訴の前提とされている本 件訂正発明2に係る請求項2は,もともとは請求項1の従属項であり,その後第一次訂正により独立項とされたものの,「噛合わせて係止」,「正しい噛合い位置」などの構成も含め,前訴控訴審時の審理対象であった本件訂正発明1-1の発明特定事項を全て含み,その権利範囲を限定するものであることなどの事情が認められ,これによれば,前訴と本訴の差止等請求に係る 訴訟物は同一であり,根拠となる請求項が異なることは攻撃方法の差異にとどまるものと解するのが相当である(知財高裁平成28年(ネ)第10103号同29年4月27日判決参照)。 なお,前訴では被告製品の製造及び販売の差止めが請求されていたのに対し,本訴ではこれらに加えて販売の申出の差止請求が追加されているが,製 造及び販売と販売の申出とでは,侵害の態様が異なるにすぎないから,この点の異同(追加)は訴訟物の同一性に影響を及ぼさない。 (2) 損害賠償請求について以上を踏まえ,まず,本訴請求のうち原告らの損害賠償等請求が,本訴提起が訴訟上の信義則に反するか否かにつき検討する。 ア民訴法2条は,当事者は,信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない旨を定めており,後訴の請求又は主張が前訴の請求又は主張の蒸し返しにすぎない場合には,後訴の請求又は主張は,信義則に照らして許されないものと解 者は,信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない旨を定めており,後訴の請求又は主張が前訴の請求又は主張の蒸し返しにすぎない場合には,後訴の請求又は主張は,信義則に照らして許されないものと解するのが相当である(最高裁昭和49年(オ)第331号同51年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8号799頁,最高裁昭和49年 (オ)第163,164号同52年3月24日第一小法廷判決・裁判集民事 120号299頁参照)。 そして,後訴の請求又は後訴における主張が信義則に照らして許されないか否かは,前訴及び後訴の各請求及び主張内容,前訴における当事者の主張・立証の状況,前訴と後訴の争点の同一性,前訴において当事者がなし得たと認められる訴訟活動,後訴の提起に至る経緯及び後訴提起の目的,前訴判決 の確定からの経過期間,前訴確定判決による紛争解決に対する当事者の期待の合理性や当事者間の公平の要請などの諸事情を考慮して,後訴の提起又は後訴における主張を認めることが正義に反する結果を生じさせることになるか否かで決すべきである。 そこで,これを踏まえ,前記前提事実に基づき,以下検討する。 イ原告会社について(ア) 前訴は,原告会社が,被告らに対して,被告製品が本件特許に係る本件訂正発明1-1(請求項1)の技術的範囲に属するとして,その製造・販売の差止等や損害賠償を求めたものであるところ,本訴は,原告らが,被告らに対して,前訴と同一の被告製品が前訴と同一の特許に係る本件訂正 発明2(請求項2後段)の技術的範囲に属するとして,その製造・販売の差止等や損害賠償等を求めるものである。 (イ) 本件発明2は,本件発明1と同様に,「装飾品の片方の鎖状部の端部に設けたホルダーと他方の 2後段)の技術的範囲に属するとして,その製造・販売の差止等や損害賠償等を求めるものである。 (イ) 本件発明2は,本件発明1と同様に,「装飾品の片方の鎖状部の端部に設けたホルダーと他方の鎖状部の端部に設けたホルダー受けとを噛合わせて係止する方式の留め具」に関する発明であって,本件特許請求の範囲 の請求項2は,前記判示のとおり,もともとは請求項1の従属項であり,請求項1(登録時)の発明特定事項を更に限定するものであった。 そして,上記請求項2は,第一次訂正により独立項とされ,第二次訂正及び第四次訂正を経ているものの,第四次訂正後の本件訂正発明2は,「噛合わせて係止」(別紙4の「第二次訂正」欄の構成要件2A),「正しい 噛合い位置」(同2C)などの構成も含め,前訴控訴審時の審理対象であ った第一次訂正による訂正後の請求項1(本件訂正発明1-1)の発明特定事項を全て含み,更に発明特定事項の限定をするものである。 そうすると,被告製品が本件訂正発明1-1の技術的範囲に属しないのであれば,本件訂正発明2の技術的範囲にも属しないことは明らかである。 (ウ) また,前記前提事実(4)イ及びウのとおり,前訴第一審及び前訴控訴審 においては,本件訂正発明1-1の構成要件に含まれる「噛合わせて係止」,「正しい噛合い位置」などの語の意義が争点となり,前訴控訴審は,「噛み合う」という用語は,通常,凸部とそれに対応する凹部とが接触した組合せからなる係止の状態を示し,「正しい噛合い位置」とは,ホルダーとホルダー受けにおける吸着部材同士が吸着した際に音が発生する際のそ れぞれの位置のことを指し,「正しい噛合い位置」において,ホルダーとホルダー受けとが噛み合っていることを要するとした上で,被 ホルダー受けにおける吸着部材同士が吸着した際に音が発生する際のそ れぞれの位置のことを指し,「正しい噛合い位置」において,ホルダーとホルダー受けとが噛み合っていることを要するとした上で,被告製品はこれらの構成要件を充足しないと判断した。 このように,原告会社は,前訴第一審及び前訴控訴審において,上記争点に関する主張及び立証を十分に尽くしており,前訴係属中までに請求項 2の訂正審判請求をし,これに基づく主張をなし得なかったとする事情もうかがえない(現に,前訴係属中に本件訂正認容審決1を得ている。)。 原告らは,本訴において,「噛み合う」という用語は,必ずしも凸部とそれに対応する凹部とが接触している必要はなく,明白な隙間がある状態でも「噛合い状態」に含まれると主張し,前訴の確定判決とは異なる解釈 に基づき,被告製品は,本件訂正発明2の「噛合せて係止」(構成要件2A),「正しい噛合い位置」(同2C)を充足すると主張するが,同主張は,前訴の確定判決が示した判断とは異なる解釈を展開することにより,同一の争点について再度判断を求めるものであり,前訴における紛争を蒸し返すものにほかならないというべきである。 (エ) 原告会社が前訴を提起したのは平成25年10月24日であるところ, 原告会社の請求を全て棄却する旨の前訴第一審判決及び前訴控訴審判決がなされ,更に同控訴審判決に対する上告及び上告受理申立てを経て,前訴控訴審判決が確定したのは平成28年8月25日である。 これに加えて,原告会社は,平成30年,知的財産高等裁判所に対し,前訴控訴審判決を取り消し,前訴に係る請求の認容を求める再審の訴えを 提起し,本件訂正認容審決3により,「噛み合う」とは,凸部とそれに対 えて,原告会社は,平成30年,知的財産高等裁判所に対し,前訴控訴審判決を取り消し,前訴に係る請求の認容を求める再審の訴えを 提起し,本件訂正認容審決3により,「噛み合う」とは,凸部とそれに対応する凹部との噛み合い部分が接触するものとも限られず,明白な隙間がある状態でも噛み合い状態に含まれることが明らかになったなどと主張し,同裁判所は,平成30年9月18日,原告会社の再審請求を棄却する決定をした。 以上のとおり,被告らは,前訴の被告として約3年間にわたり原告の主張に対する反論や反証の負担を負った上,前訴控訴審判決の確定後に提起された再審の訴えに対しても応訴することを余儀なくさせられたものであり,再審棄却決定により,被告製品の製造・販売が本件特許権を侵害するものではなく,今後,本件特許権に基づく差止めや損害賠償等の請求を 受けることがないと期待するのは当然であるということができる。 本訴は,再審棄却決定から1年以上も経過した令和元年11月7日に提起されたものであり,対象となる被告製品,侵害されたと主張されている特許権,争点はいずれも同一であり,原告会社が本訴により達成しようとする目的も前訴と異なるものではない。かかる訴訟において,前訴と同様 の争点について改めて審理することによる被告らの負担は決して軽いものではなく,上記の合理的期待を著しく損なうものであって,当事者の公平の観点からも容認し得ないというべきである。 (オ) したがって,原告会社が本訴において損害賠償請求及びこれに係る主張をすることは,前訴の蒸し返しにすぎないというべきであり,原告会社と 被告らとの間において同請求を審理することは,被告らとの関係で正義に 反する結果を生じさせるということができるので をすることは,前訴の蒸し返しにすぎないというべきであり,原告会社と 被告らとの間において同請求を審理することは,被告らとの関係で正義に 反する結果を生じさせるということができるので,訴訟上の信義則に反し,許されないというべきである。 ウ原告X1について前記前提事実によれば,①原告X1は,原告の取締役の長女であり,原告代表者の姪であること,②原告X1が本件専用実施権の設定を受けたのが, 本件再審棄却決定後であり,令和元年5月19日に第四次訂正に係る本件訂正認容審決4が確定した直後の同月30日であること,③本件専用実施権の対象が,本訴請求の対象である本件発明2に係る請求項2のみであり,しかもその設定期間は2年間に限定されていることという各事実が認められ,また,原告X1が本件専用実施権に基づき本件発明2の実施をしていると認め るに足りる証拠はない。 そうすると,原告X1は,前訴と同様の争点につき,改めて判断を求めるべく,原告会社のために本訴の共同原告となったものと推認することができるから,本訴の損害賠償請求につき,固有の利益を有するものとは認められない。 それにもかかわらず,原告X1が同請求及びこれに係る主張をすることは,実質的には,原告会社による前訴の蒸し返しにすぎないというべきであり,原告X1と被告Y1との間においても,同請求を審理することは,やはり,同被告との関係で正義に反する結果を生じさせるといえるから,訴訟上の信義則に反し,許されないというべきである。 エ原告らの主張について(ア) 原告らは,本件特許の請求項1及び請求項2後段では発明の内容が異なり,「噛み合う」という用語の意味も異なるなどとして,本訴の提起が訴訟上の信義則 エ原告らの主張について(ア) 原告らは,本件特許の請求項1及び請求項2後段では発明の内容が異なり,「噛み合う」という用語の意味も異なるなどとして,本訴の提起が訴訟上の信義則に反するものではないと主張する。 しかし,以下のとおり,請求項1及び請求項2で共通して用いられてい る「噛み合う」等の用語が,各請求項で異なる意味内容のものであるとは 認められない。 a 前記判示のとおり,特許法37条及び特許法施行規則25条の8第1項によれば,本件特許に係る請求項1及び2記載の各発明は,単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係を有することを前提として特許されたものであるということができる。 b そして,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならず(同法70条1項),特許請求の範囲に記載された用語の意義は,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して解釈すべきものであるところ(同条2項),用語は,その有する普通の意味で使用し,かつ,明細書及び特許請求の範囲全体を通じて 統一して使用するものとされていること(特許法施行規則様式第29(備考)8本文)に照らすと,請求項1及び2における用語が,本件特許請求の範囲や本件明細書等において,それぞれ特定の別の意味を有するものとして定義され使用されている(同8ただし書)といった格別の事情がない限り,それらは同一の意味内容を表すものと解すべきことに なる。 c そこで,請求項1及び2で共通して用いられている用語が異なる意味を有するか否かにつき,本件特許請求の範囲や本件明細書等の記載(甲1,乙A1)をみても,前訴において争われた「噛み合う」,「噛み合わせ そこで,請求項1及び2で共通して用いられている用語が異なる意味を有するか否かにつき,本件特許請求の範囲や本件明細書等の記載(甲1,乙A1)をみても,前訴において争われた「噛み合う」,「噛み合わせて係止」,「正しい噛合い位置」といった用語を含め,請求項1と 請求項2で共通して用いられた用語がそれぞれ特定の別の意味を有するものとして定義され使用されているなど,それぞれ異なる意味に用いられていることをうかがわせる事情は見当たらない。 かえって,本件明細書等の発明の詳細な説明の【発明の開示】の項には,「本願の第1発明は,装飾品の片方の鎖状部の端部に設けたホルダ ーと他方の鎖状部の端部に設けたホルダー受けとを噛合わせて係止す る方式の留め具であって,前記ホルダーとホルダー受けには,これらを正しい噛合い位置に誘導できる部位に,互いに吸着する磁石の各一方を,あるいは磁石とこれに吸着される金属材とを吸着部材として設けた装飾品鎖状端部の留め具である。」(甲1・2頁42~46行,乙A1・5頁40~43行),「本願の第2発明においては,第1発明に係るホ ルダーが1対の顎部材を開口/閉口可能に軸支したバネ閉じ式の鰐口クリップであり,ホルダー受けが前記1対の開口状態の顎部材間に嵌入して係止される係止部材である。」(甲1・3頁11~13行,乙A1・6頁5~6行),「本願の第3発明においては,第2発明に係る鰐口クリップの内部に一方の吸着部材を設け,係止部材の先端に他方の吸着部 材を設けている。」(甲1・3頁18~19行,乙A1・6頁10~11行),「本願の第4発明においては,第3発明に係る鰐口クリップの内部に設けた吸着部材が,前記1対の顎部材のいずれか一方に固定され,あるいはこの吸着部材を支持する支持部材が1対の A1・6頁10~11行),「本願の第4発明においては,第3発明に係る鰐口クリップの内部に設けた吸着部材が,前記1対の顎部材のいずれか一方に固定され,あるいはこの吸着部材を支持する支持部材が1対の顎部材を軸支する支軸によって支持されている。」(甲1・3頁25~27行,乙A1・ 6頁16~18行)との記載があるが,これらの記載と請求項1(登録時)及び請求項2(登録時)の発明特定事項(構成要件)を対比すると,「第1発明」に係る記載は請求項1(登録時)の構成要件1A~1Cと,「第2発明」に係る記載は構成要件1D及び1Eと,「第3発明」に係る記載は構成要件1F及び1Gと,それぞれ同内容であり,「第4発明」 に係る記載は,請求項2(登録時)の「前記鰐口クリップの内部に設けた吸着部材が前記1対の顎部材のいずれか一方に固定され,あるいはこの吸着部材を支持する支持部材が前記1対の顎部材を軸支する支軸によって支持されている」との記載(請求項1を引用する発明特定事項を更に限定する部分の記載)と同内容である(別紙5「訂正の推移」参照。)。 しかも,本件明細書等の上記記載によれば,「第2発明」は「第1発 明」を,「第3発明」は「第1発明」及び「第2発明」を,「第4発明」は「第1発明」,「第2発明」及び「第3発明」を,それぞれ前提として,更に発明特定事項を付加することで,先の発明の内容を限定しているものであることが明らかであって,「第3発明」が請求項1(登録時)に,「第4発明」が請求項2(登録時)に,それぞれ対応するものとい うことができるから,請求項2(登録時)に係る本件発明2は,請求項1(登録時)に係る本件発明1と同一の発明特定事項を全て包含しつつ,これを更に限定するものであると解される。 とい うことができるから,請求項2(登録時)に係る本件発明2は,請求項1(登録時)に係る本件発明1と同一の発明特定事項を全て包含しつつ,これを更に限定するものであると解される。 このことは,請求項2がもともとは請求項1の従属項であったことや,本件明細書等の【発明を実施するための最良の形態】の項に「以下にお いて,単に「本発明」と言う時は,第1発明~第6発明の内の該当する発明群を一括して指している。」と記載されていること(甲1・4頁12~13行,乙A1・6頁46~47行)からも裏付けられる。 d そうすると,前訴において争われた「噛み合う」,「噛み合わせて係止」,「正しい噛合い位置」といった用語を含む,請求項1及び2に記 載の発明特定事項に係る同一の用語は,同一の意味内容を有するものと解するのが相当というべきである。 (イ) 原告らは,第二次訂正に係る本件訂正認容審決2や第四次訂正に係る本件訂正認容審決4が出され,ホルダー受けのネック部や吸着部材の径等に係る発明特定事項が限定されたことなどを根拠として,請求項2後段にお ける「噛み合う」という用語は,必ずしも凸部とそれに対応する凹部とが接触している必要はなく,明白な隙間がある状態でも「噛合い状態」に含まれると主張する。 しかし,訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならないとする特許法126条6項は,訂正前の特許請求の範囲に は含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることになると,第 三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため,そうした事態が生じないことを担保する趣旨の規定であると解され,特許法は,訂正前の特許発明の技術的範囲に属しない被疑侵害品は,訂正後の特許 三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため,そうした事態が生じないことを担保する趣旨の規定であると解され,特許法は,訂正前の特許発明の技術的範囲に属しない被疑侵害品は,訂正後の特許発明の技術的範囲に属しないことを保障しているということができる。原告らが主張するホルダー受けのネック部や吸着部材の径等の限定は,いずれも第二次訂 正や第四次訂正によりなされたものであるから,こうした訂正により訂正前の発明の技術的範囲が拡張することはあり得ないというべきである。 本訴において問題となる本件訂正発明2(第一次訂正により独立項とされ,第二次訂正及び第四次訂正による訂正を経た後の請求項2後段)は,本件訂正発明1-1(前訴控訴審時の審判対象であった第一次訂正後の請 求項1)の発明特定事項を全て含み,更に発明特定事項の限定をしているものである上(別紙5「訂正の推移」参照),前記のとおり,請求項1及び請求項2で共通して用いられている用語は同一の意味内容を有するものと解すべきことも考慮すれば,被告製品が本件訂正発明1の技術的範囲に属しない以上,本件訂正発明2の技術的範囲に属する余地はないという べきである。 したがって,原告らの上記主張は採用し得ない。 (3) 差止等請求について上記(1)イのとおり,前訴と本訴の差止等請求に係る訴訟物は同一であると解すべきところ,前訴と本訴との間で訴訟物が同一である場合には,本訴にお いて前訴確定判決の既判力ある判断と矛盾,抵触する判断ができなくなるので(民訴法114条1項),本件請求については,基準時後に生じた新たな事由が認められない限り,前訴確定判決の既判力に触れることになる。 本件において,原告X1は,本件基準時後に原告会社から本 (民訴法114条1項),本件請求については,基準時後に生じた新たな事由が認められない限り,前訴確定判決の既判力に触れることになる。 本件において,原告X1は,本件基準時後に原告会社から本件特許に係る専用実施権の設定を受けているが,特許権者が特許権について専用実施権を設定 したときは,専用実施権者が,設定行為で定めた範囲内において,業としてそ の特許発明の実施をする権利を専有する半面,特許権者は上記範囲内における特許発明の実施をする権利を喪失する(特許法68条,77条1項,2項)のであるから,原告X1は,民訴法115条1項3号が定める口頭弁論終結後の承継人に当たり,原告会社と被告との間の前訴確定判決の既判力は,原告X1にも及ぶというべきである。 なお,本件においては,前訴の既判力の基準時より後に,請求項2に係る第二次訂正及び第四次訂正がされているが,原告会社は,同時点より前に,これらの訂正を求める訂正審判請求をし,前訴においてそれを踏まえた主張をすることができた(現に,前訴係属中に本件訂正認容審決1を得ている。)のにしなかったのであるから,これを本訴の既判力の基準時の後に生じた新たな事由 に当たるということはできず,他に同事由の存在を認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告らの差止等請求は,前訴控訴審判決の既判力に抵触し許されないものというべきであり,仮にそうでないとしても,前記(2)の同様の理由から,訴訟上の信義則により許されない。 2 以上のとおり,本件各訴えのうち損害賠償請求に係る訴え部分は訴訟上の信義 則に反し許されないものであり,その余の差止等請求に係る部分は前訴確定判決の既判力によって遮断されることになる。 よって,本件各訴えのうち損害賠償請 償請求に係る訴え部分は訴訟上の信義則に反し許されないものであり、その余の差止等請求に係る部分は前訴確定判決の既判力によって遮断されることになる。よって、本件各訴えのうち損害賠償請求に係る訴え部分は却下することとし、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 主文 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 三井大有 裁判官 齊藤敦

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