令和3(わ)128 威力業務妨害,傷害,航空法違反,公務執行妨害,器物損壊

裁判年月日・裁判所
令和4年12月14日 大阪地方裁判所
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判決文本文23,551 文字)

1 主 文被告人を懲役2年に処する。 未決勾留日数中50日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用中、証人C及び同Dに支給した分は被告人の負担とする。 理 由【罪となるべき事実】被告人は、第1 令和2年9月7日午後1時29分過ぎ頃、北海道釧路市所在の釧路空港を離陸して大阪府泉南郡田尻町所在の関西国際空港に向け航行中のR株式会社が運行するS便航空機内において、他の乗客に侮辱されたとして、別紙記載の同機客室乗務員B(当時35歳)らに対し、同客に謝罪をさせるよう要求し、Bらからその要求に応じられない旨告げられたにもかかわらず、前同様に要求し続けたことから、同機機長Eの指示を受けたBから、前同様の要求を更に継続した場合には緊急着陸して降機させることがある旨通告されていたところ、同日午後2時3分過ぎ頃、Bらに対し、前記通告が職権濫用であるなどと大声で言い、乗務員の職務の執行を妨げ、同機の安全の保持等に支障を及ぼすおそれのある行為をしたものであるが、同日午後2時16分頃、前記機長から、Bを介して、乗務員の職務の執行を妨げ、同機の安全の保持等に支障を及ぼすおそれのある行為を反復し、又は継続してはならない旨の命令を受け、Bから命令書を交付された際、Bに対し、手でその左前腕部に力を加えてひねる暴行を加え、よって、Bの正常な客室保安業務の遂行に支障を生じさせ、前記機長に同機内の安全の保持等のため同機を新潟空港に緊急着陸させるに至らせ、関西国際空港への到着を約1時間37分遅延させ、もって威力を用いてB及び前記機長の業務を妨害するとともに、航空法73条の4第5項に規定する命令に違反し、第2 令和3年1月1 急着陸させるに至らせ、関西国際空港への到着を約1時間37分遅延させ、もって威力を用いてB及び前記機長の業務を妨害するとともに、航空法73条の4第5項に規定する命令に違反し、第2 令和3年1月19日午後1時54分頃から同日午後2時42分頃までの間、 2 茨城県内所在の当時の被告人方において、大阪府警察本部勤務の司法警察員警部F(当時47歳)、同警部補G(当時47歳)、同巡査部長H(当時42歳)、同巡査部長I(当時40歳)及び大阪府関西空港警察署勤務の司法警察員巡査J(当時32歳)らが同月18日付け佐野簡易裁判所裁判官Q発付の被告人に対する威力業務妨害、傷害、航空法違反被疑事件の捜索差押許可状に基づいて被告人方を捜索していた際、前記Fに対し、その左足甲を右足で数回踏み付け、前記Iに対し、その左肩付近を右手で1回たたき、前記Hに対し、同人が着用していた銀縁眼鏡を右手でつかみ取り、その右前額部を左手で所持していたタブレットで1回たたき、前記Jに対し、同人が着用していた黒縁眼鏡を右手でつかみ取り、前記Gに対し、同人が所持していた前記許可状を右手でつかんで引っ張り、さらに、前記Jに対し、同人が被告人から取り返して着用していた前記黒縁眼鏡を右手でつかみ取って放り投げる暴行を加え、もって前記Fらの職務の執行を妨害するとともに、前記J所有の黒縁眼鏡1個を損壊(損害見積額5500円)し、第3 同年4月10日午前11時46分頃、千葉県内所在の食堂店内において、接客業務に従事していた別紙記載の同店従業員Aからマスクの着用を求められたところ、これを拒み、Aや調理業務に従事していた同店経営者Kから退店を求められても、自分は客である旨言ってこれを拒んでいたものであるが、その頃、同所において、Aに詰め寄って尻もちをつかせ、A及び前記Kの業務を中断さ 、Aや調理業務に従事していた同店経営者Kから退店を求められても、自分は客である旨言ってこれを拒んでいたものであるが、その頃、同所において、Aに詰め寄って尻もちをつかせ、A及び前記Kの業務を中断させて正常な業務の遂行に支障を生じさせ、もって威力を用いてA及び前記Kの業務を妨害し、第4 同日午後零時50分頃、前記食堂前路上において、けんか口論の110番通報を受けて同所に臨場した千葉県館山警察署生活安全課勤務の巡査L(当時38歳)からけんかの当事者として職務質問を受けた際、同人に対し、その右顔面を左手拳で1回殴打する暴行を加え、もって同人の前記職務の執行を妨害した。 3 【補足説明】第1 判示第1の事実について1 弁護人は、被告人は威力を用いたり、Bに対して暴行を加えたりしておらず、故意もなく、Bに傷害結果は存在せず、また、航空法73条の4第5項の要件が欠け、同法150条5号の4は適用されない旨いい、被告人は判示第1の事実について無罪であると主張する。 2 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 被告人は、令和2年9月7日午後0時35分頃、釧路空港において、同空港発関西国際空港行きのS便(機番T。以下「本件航空機」という。)に搭乗した。本件航空機では、チーフパーサーのB、Mほか2名の計4名が客室乗務員を、Eが機長を、それぞれ務めた。 本件航空機の左前方搭乗降口から機内に入ったところには、客室乗務員の待機場所兼作業場所に当たる前方ギャレーがあり、客室内の通路を機尾方向に進んだ先(客室の後方)には、同じく後方ギャレーがある。客室には、通路を挟んで、左右に3席ずつ座席が設置され、機首方向から21列目で同方向を向いて左側に設置された3席は、窓側から順に、21A、21B、21Cと、右側に設置された3席は、通路側か がある。客室には、通路を挟んで、左右に3席ずつ座席が設置され、機首方向から21列目で同方向を向いて左側に設置された3席は、窓側から順に、21A、21B、21Cと、右側に設置された3席は、通路側から順に、21D、21E、21Fと座席番号が付されていた。被告人は、21Cの座席に座った。 客室乗務員は、本件航空機が離陸する前、被告人にマスク着用の協力を求めたが、被告人は、マスクを着用しない旨言った。被告人は、自身がマスクを着用しないことに関して、21Aの座席に座っていた乗客(以下「21Aの乗客」という。)との間で口論となった。被告人は、21Aの乗客からマスクを着用しない人と同乗するのは気持ち悪いと言われたなどとして、客室乗務員に、21Aの乗客の発言が侮辱罪に当たるのではないか、謝罪を求めるなどと言った。Mは、21Cの座席に来て、被告人にマスク着用の協力を求めたが、被告人は、マスクを着用しない旨言った。その後、B及び地上係員が、被告人に座席の移動を提案 4 したが、被告人はこれを拒否した。被告人は、自身がマスクを着用しないことに関して、21Eの座席に座っていた乗客との間でも口論となった。21Aの乗客並びに21D及び21Eの座席に座っていた乗客は、Bらの提案を受け、それぞれ座席を移動した。本件航空機は、同日午後1時13分、釧路空港を出発した。 Bは、本件航空機が釧路空港を離陸した後である同日午後1時29分過ぎ頃、機内監視のために後方ギャレーに移動する際、被告人に呼び止められた。被告人が、Bに対し、21Aの乗客らに謝罪をさせるよう求めたため、Bは、後方ギャレーに被告人を案内した。被告人は、同所においても同旨の要求をした。B及びMは、客室乗務員が他の乗客に対して謝罪をさせることはできない旨言ったが、被告人は前同様に要求を続けた。Bは 、Bは、後方ギャレーに被告人を案内した。被告人は、同所においても同旨の要求をした。B及びMは、客室乗務員が他の乗客に対して謝罪をさせることはできない旨言ったが、被告人は前同様に要求を続けた。Bは、機長から、インターホンで、被告人がこのまま続けるのであれば、新千歳空港で降りることもできる旨言われたので、被告人にその旨通告すると、被告人は、抗議は撤回する旨言った。 本件航空機のシートベルトサインが、同日午後1時51分頃、乱気流による同機の揺れを理由として点灯し、各人が座席に座ったが、同日午後2時3分頃、シートベルトサインは消灯した。 機長は、R株式会社のオペレーションコントロールセンター(以下「OCC」という。)に対し、同日午後1時39分、「座席21Cの旅客が狂ったように叫んでいるとCAから報告あり。他旅客は不満の様子。」と、同日午後1時40分、「この状況が続けば千歳空港にダイバートするつもり。」と、同日午後1時49分、「当該旅客には口頭にて警告済み。続くようであれば警告書を発行する。」と、同日午後1時52分、「当該旅客にはいまだ発行してないが、次に安全阻害行為等が発生すれば新潟にダイバートする。」と連絡した。OCCは、機長に対し、同日午後2時、「新潟にダイバートを決断する前に、当該旅客に警告書を発行するように。」と連絡した。 前記のシートベルトサインが消灯した後、自席に座っていた被告人が、Mに、Bがしていることは職権濫用である旨言ってきたため、Mは、前方ギャレ 5 ーに被告人を案内した。被告人は、Bらに対し、Bの発言が職権濫用である旨大声で主張し、声の大きさを注意されると、耳が悪いので声が大きくなる、筆談に切り替えるためペンとメモを貸してほしい旨言った。Mがペンとメモ用紙を渡した後、被告人は自席に戻った。 用である旨大声で主張し、声の大きさを注意されると、耳が悪いので声が大きくなる、筆談に切り替えるためペンとメモを貸してほしい旨言った。Mがペンとメモ用紙を渡した後、被告人は自席に戻った。 Bが、前記の際、前方ギャレーにおいて、機長に、インターホンで状況を報告すると、機長は、Bに対し、警告書及び命令書を発出するよう指示をした。 B及びMは、警告書及び命令書を持って、自席に座る被告人のところに行き、Bが、被告人に警告書を読み上げ、同日午後2時16分頃、命令書(以下「本件命令書」という。)を交付した。 本件命令書には、「Flight No.U機長」「お客様の以下の行為に対し、航空法第73条の4第5項に基づき、当該行為を反復、又は継続してはならない、と命令します」との記載があり、その下には、「以下の行為」に当たる項目が列挙され、そのうち「□3.乗務員の職務を妨害し、航空機の安全の保安等に支障を及ぼすおそれのある行為をすること」にチェックがされたが、同記載の直下に設けられた「行為」欄には記載がされなかった。 機長は、OCCに対し、同日午後2時14分、「当該旅客が操縦室扉前で叫んでいる。」「CAの業務を妨害したことから、今、警告書と命令書を発行した。」と連絡した。また、機長は、東京航空交通管制部に対し、同日午後2時18分から19分にかけて、「搭乗中の乗客に問題あり。…客室乗務員に少々攻撃的な態度をとっており、新潟空港へ目的地変更したい。」と連絡し、東京航空交通管制部は、機長に対し、同日午後2時19分、「S便、確認するが、現時点において緊急状態を宣言するのか。」と連絡した。これに対し、機長は、東京航空交通管制部に対し、同時刻、「いいえ。当該乗客に対し、…文書を出す(又は出した)。当初、当該乗客は少し叫んでいただけであったが、現在におい 態を宣言するのか。」と連絡した。これに対し、機長は、東京航空交通管制部に対し、同時刻、「いいえ。当該乗客に対し、…文書を出す(又は出した)。当初、当該乗客は少し叫んでいただけであったが、現在においては、客室乗務員に対して攻撃的な態度をとっており、力ずくでつかみかかろうとしている。そのため、当該乗客を降機させるため、目的地を変更したい。」と返答した。 6 本件航空機は、同日午後2時33分頃、新潟空港に着陸する態勢に入り、同日午後2時48分、同空港に到着した。その後、同空港の地上係員及び警察官が、本件航空機に乗り込み、被告人は、同係員の説得を受け、降機した。 3検察官は、Bが本件命令書を交付する際、被告人が、Bに対し、その左前腕部を両手でつかみ、ねじり上げるなどの暴行を加えたと主張する。 この点、Bは、大要、「被告人の斜め前か横ぐらいに立ち、ラミネート加工された警告書の横の端を両手で持って、警告書を読み上げたところ、被告人は、これをペンで強くたたいた。そして、被告人は、手渡した命令書をくしゃくしゃに丸めて投げ付けた。一緒に行ったCAが、被告人が丸めた命令書を拾ってくれた。シートポケットに入れることも有効であると教わっていたので、中腰かしゃがんだ体勢で、シートポケットを右手で開きながら、左手で命令書をその中に入れようとした。すると、被告人は、シートポケットに命令書を入れさせないようにと逆の力を加える感じで、両手で自分の左腕の腕時計を着けていた辺りを強くつかんで、手の甲がひっくり返るようなひねり方をした。被告人に「あなたのしてることは暴力ですよ。」と言い、Mにも「今見ましたよね。」と言うと、Mは「見ました。」などと言った。機長にインターホンで「彼が私の腕をつかんでひねりました。」というふうに伝えた。その後すぐくらいに、着陸 とは暴力ですよ。」と言い、Mにも「今見ましたよね。」と言うと、Mは「見ました。」などと言った。機長にインターホンで「彼が私の腕をつかんでひねりました。」というふうに伝えた。その後すぐくらいに、着陸前の合図があった。先ほど被告人に両手でつかまれたと証言したが、捜査段階当初は右手かもしれないと供述した。」旨証言し、Mもおおむねこれに沿う証言をする。 検討するに、Bが、被告人の暴行があった後、機長に対し、被告人が私の腕をつかんでひねったと報告した旨証言するのに対し、機長は、東京航空交通管制部に対し、被告人の行為につき「客室乗務員に対して攻撃的な態度をとっており、力ずくでつかみかかろうとしている。」と連絡したことが認められる一方、OCC及び東京航空交通管制部に対し、客室乗務員をつかんでひねった旨連絡した事実はないことが認められる。機長が、Bから、被告人がBの腕をつかんでひねる行為があったとの報告を受けたにもかかわらず、正確な情報を伝えるべき場 7 面で、あえて後退した情報を伝える合理的な理由は見当たらない。また、関係証拠によれば、本件航空機が新潟空港に緊急着陸した後、同空港の地上係員が本件航空機内に乗り込んだ際、同係員が「手首をつかんで…」と被告人に述べたところ、被告人が「一切つかんでないです。」と否定したのに対し、Mは、「手をはたく(たたく)行為はありました。」などと言ったことが認められる。緊急着陸後の慌ただしい状況であったことを踏まえても、被告人の行為についてつかんだかどうかが問題となっている場面で、Mが、「はたく」又は「たたく」としか言わなかったのは、「つかむ」、すなわち「手の指をまげて強く保持する」行為があったとMが認識しなかったからであると考えられる。そうすると、被告人に左腕の腕時計を着けていた辺りを強くつかまれた旨いう 言わなかったのは、「つかむ」、すなわち「手の指をまげて強く保持する」行為があったとMが認識しなかったからであると考えられる。そうすると、被告人に左腕の腕時計を着けていた辺りを強くつかまれた旨いうBの証言はそのままには信用できない。 もっとも、Mが、この点について、「捜査段階において、手首をつかんだのを見たとは言わずに、別のことを言ったという記憶はないか。」との問いに対して、「払いのけているような様子であった」旨証言していることや後記からまで及び4で説示する点等にも照らせば、Bの証言は、被告人が、手でBの左前腕部に力を加えてひねる暴行(以下「本件暴行」という。どのようにどの程度ひねったのかは的確な裏付けがなく、Bの証言そのままには信用できない。)を加えたとする限度では信用でき、その旨認定することができる。 これに対し、Bが本件命令書を21Cの前に設置されたテーブル(以下「本件テーブル」という。)の上に置いていったとし、被告人がBの腕をひねったことはなかった旨いう被告人の公判供述は、信用できない。被告人がMから渡されたメモ用紙に本件航空機内で記載した「ご質問書」と題する書面の内容等からして、被告人は、本件命令書の交付時点においても、客室乗務員に対し、21Aの乗客らに謝罪をさせてほしいとか、新千歳空港での降機可能性を通告されたことが職権濫用に当たるのではないかといった考えを引き続き有していたと認められるが、この点に関する被告人の公判供述によれば、自らの行為が場合によっては 8 刑罰の対象となる旨告知する内容の本件命令書が本件テーブルの上に置かれたのに、これを自らのナップサックの中にただ入れて持ち帰ったというのであり、それまでの被告人の行動と不整合である。また、この点に関する被告人の公判供述によれば、本件命令書が不規則に多 ルの上に置かれたのに、これを自らのナップサックの中にただ入れて持ち帰ったというのであり、それまでの被告人の行動と不整合である。また、この点に関する被告人の公判供述によれば、本件命令書が不規則に多数のしわがついた状態となることはないが、これは、後に当時の被告人方内において差し押さえられた本件命令書が不規則に多数のしわがついた状態であったことともそぐわない。 弁護人は、Bの証言は、緊急着陸直後に本件航空機内に臨場した警察官の事情聴取に対し、「怪我は特にないが、迷惑行為者に対し、降機の命令書を提示した際、同人がいずれかの手をBのいずれかの上腕に押し当て、命令書とともに下方に押し下げた際、Bの手首が多少ひねるような状況となった」とBが供述した旨記載のある捜査報告書の内容と整合していないと主張する。 しかしながら、前記捜査報告書の内容は、Bが警察官に対し、被告人の手によってBの腕に力が加えられ、ひねることとなった旨いうものであり、むしろ、緊急着陸してすぐ後の時点からのBの供述の大筋での一貫性を示すものといえる。 被告人の暴行の態様に関するBの供述が一貫していないというところがあっても、被告人の暴行の態様が明瞭に言語化することが困難なものであったことなどによるものとみられ、Bの供述が、暴行の有無に関わるほど信用できないとみるべき理由とはいえない。短い時間のうちに(前記捜査報告書によれば、前記警察官がBから事情聴取をした時刻は、午後3時15分頃とされている。)、Bが、被告人が自分に何ら暴行を加えていないのに加えたとする虚偽の事実を作出したなどとは考え難い。なお、前記捜査報告書上の「上腕」が「手首」と取り違えられて記載されたものであるとすれば、文意は多少、より理解できるものとなる。 弁護人は、Bがシートポケットに命令書を入れようとした際、 考え難い。なお、前記捜査報告書上の「上腕」が「手首」と取り違えられて記載されたものであるとすれば、文意は多少、より理解できるものとなる。 弁護人は、Bがシートポケットに命令書を入れようとした際、本件テーブルが出ていたため、物理的にシートポケットに命令書を入れることは不可能であり、Bの証言は信用できない旨主張する。 確かに、B及びMが、本件命令書を持って被告人のところに来た際、本件テー 9 ブルが出ていたかもしれない旨証言する一方、Bがシートポケットに本件命令書を入れようとするまでに、本件テーブルを片付けた者がいた旨証言するところはない。しかしながら、この点に関するB及びMの証言は、前記のとおり、本件命令書が不規則に多数のしわがついた状態であったという客観的事実と整合するものであり、また、Bがシートポケットに本件命令書を入れようとした事実がないのにあったと、B及びMが虚偽の証言までする理由は認め難く、本件命令書を持って被告人のところに来た際、既に本件テーブルは片付けられていたなどと端的に証言してしまうこともできるのに、本件テーブルが出されていたかもしれない旨証言していることは、むしろ両名がこの点に関して率直に証言していることの証左である。この点の弁護人の主張は採用できない。 4 検察官は、医師N(以下「医師」という。)の診断書及び証言は信用できるとし、被告人の暴行により、Bは加療約2週間を要する左前腕捻挫の傷害を負ったと主張する。 確かに、Bが、本件暴行のあった翌日である9月8日に、クリニックに行き、医師が、Bから左前腕から左手にかけての疼痛やしびれの申告を受け、上腕三頭筋部圧痛を認め、左前腕捻挫、約2週間の通院加療を要する見込みであると診断したことが認められる。しかしながら、Bが本件暴行を加えられた際、身体の痛みを口に かけての疼痛やしびれの申告を受け、上腕三頭筋部圧痛を認め、左前腕捻挫、約2週間の通院加療を要する見込みであると診断したことが認められる。しかしながら、Bが本件暴行を加えられた際、身体の痛みを口にすることはなく、本件航空機内にいるときには、機長、臨場した警察官を含め、他の者に痛みを訴えた様子が認められないこと、診察時にBに腫れ等は認識されなかったこと、医師はBから申告を受けた受傷機転及び同人の身体所見から左前腕捻挫と診断した旨証言するが、前記のとおり、暴行の態様及び強度に関するBの証言がそのままには信用できない以上、Bが医師に対して暴行の態様及び強度を正確に申告したのか必ずしも明らかでないことなどからすると、医師の診断内容のとおりの傷害結果を認めるには合理的な疑いを入れる余地があるというべきである。 5 弁護人は、被告人は威力を用いていないと主張する。そこで検討するに、本 10 件暴行が威力にも該当することは明らかであるが、検察官が威力に該当すると主張したその余の事実のうち、前方ギャレーでの行為以外の行為は、証拠上、客室乗務員の意思を制圧するに足りるほどのものがあったとまではみられず、同じく前方ギャレーでの行為についても、被告人が客室乗務員に対して大声で自己の主張を言ったことは認められるものの、その言辞自体は、脅迫的又は威圧的なものではない上、客室乗務員が被告人の大声を注意していることや被告人が客室乗務員の指示を受けて自席に戻ったことも認められることなどからすると、やはり、客室乗務員の意思を制圧するに足りる勢力の行使があったとみるのはためらわれる。 6弁護人は、本件命令書発出の前提となる、航空法にいう安全阻害行為等は存在しないと主張する。 しかしながら、被告人は、他の乗客に侮辱されたとして、客室乗務員に対し、同客に謝 ためらわれる。 6弁護人は、本件命令書発出の前提となる、航空法にいう安全阻害行為等は存在しないと主張する。 しかしながら、被告人は、他の乗客に侮辱されたとして、客室乗務員に対し、同客に謝罪をさせるよう要求し、その要求に応じられない旨告げられたにもかかわらず、前同様に要求をし続け、客室乗務員にその対応を余儀なくさせ、その中で、客室乗務員を介して、機長から到着目的地でない新千歳空港で降りてもらうことになる可能性まで通告され、被告人は、そのような状況を認識し(同通告は機内秩序上の問題としてされ、被告人にその旨の認識もあったことが認められる。)、一旦は前記のような要求をやめたのに、前方ギャレーにいた時点で、客室乗務員に対し、またもその通告を職権濫用であるなどと大声で自己の主張を続けた被告人の行為は、客室乗務員の職務の執行を妨げ、本件航空機の安全の保持等に支障を及ぼすおそれのあるものといえ、本件命令書発出の前提となる安全阻害行為等は存在したと認められる。 弁護人は、本件命令書には、安全阻害行為等の具体的な内容が記載されておらず、通常の判断能力を有する一般人の理解において、どのような具体的な行為をやめなければ処罰され得るかの理解を可能ならしめるような行為内容が明示されていないから、航空法施行規則164条の17第1号の記載がされたものと 11 はいえず、命令書が発出されたとは評価できない以上、航空法150条5号の4における「第73条の4第5項の規定による命令」という要件に欠けている旨主張する。 しかしながら、これを検討するに当たっては、同法73条の4第5項及び同法150条第5号の4の規定が、航空機の機長が、航空機内にある者の安全阻害行為等のうちそれ自体が軽微であっても反復又は継続の抑止を図る必要があるものに、迅速かつ柔軟に対 、同法73条の4第5項及び同法150条第5号の4の規定が、航空機の機長が、航空機内にある者の安全阻害行為等のうちそれ自体が軽微であっても反復又は継続の抑止を図る必要があるものに、迅速かつ柔軟に対処するためのものであると解せられることを前提とする必要があるところ、本件命令書に前記2の記載はあり、航空法施行規則164条の16各号が定める安全阻害行為等のうちいずれに該当するとされたのかは明らかとなっていること、被告人が、機長から客室乗務員を介して到着目的地でない新千歳空港で降機させられる可能性まで通告され、被告人は、そのような状況を認識し、一旦は前記のような要求をやめたのに、前方ギャレーにいた時点で、客室乗務員に対し、またもその通告を職権濫用であるなどと大声で自己の主張を続けたことなどに照らすと、本件命令書の記載につき同法施行規則164条の17第1号の記載として不十分とまでいうべきものではなく、この点の弁護人の主張は採用できない。 7 その余の弁護人の主張を踏まえても、判示第1の事実のとおり認定することができ、被告人は、威力業務妨害罪、暴行罪及び航空法違反の罪の責めを負う。 第2 判示第2の事実について1 弁護人は、被告人が警察官の黒縁眼鏡をつかんだ行為における器物損壊の故意、同行為及び別の警察官の銀縁眼鏡をつかんだ行為における公務執行妨害の故意、その他公訴事実記載の有形力の行使及び故意はいずれもなく、公務は不適法であり、被告人の何らかの行為が構成要件に該当するとしても、被告人の行為は正当防衛又は誤想防衛である旨いい、被告人は判示第2の事実について無罪であると主張する。 2 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 12 司法警察員警部F(肩書については当時のもの。以下同じ。)、同警部補G、同巡査部長H、同巡査 について無罪であると主張する。 2 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 12 司法警察員警部F(肩書については当時のもの。以下同じ。)、同警部補G、同巡査部長H、同巡査部長O、同巡査部長I及び同巡査Jは、令和3年1月19日午後1時50分頃、判示の捜索差押許可状(以下「本件令状」という。)に基づき、当時の被告人方の捜索差押え(以下「本件捜索差押え」という。)を行う目的で、同所を訪れた。Gは、被告人に対し、同日午後1時54分頃、本件令状を呈示し、本件捜索差押えを開始した。 被告人は、白色iPad(以下「タブレット」という。)を所有していたが、事件後に購入したものであるから事件と無関係であるとして、その差押えを拒んだ。そして、被告人は、Fが、被告人に声を掛けた際の被告人の呼び方に反応し、Fに顔を近づけて、Fが着用していたマスクにかみつくように歯をカチカチさせた。被告人が、Fの左足甲を右足で踏んだため、Fが、被告人にその旨指摘すると、被告人は、こんな場所に足を置いているお前が悪いなどと返答し、更に複数回踏み付け、再度、顔をFの方に突き出しながら、歯をカチカチさせた。 Iは、被告人がFに詰め寄る姿を目にしたため、Fと被告人の間に入り、被告人を制止した。Iは、被告人に対し、落ち着くよう伝えつつ、自らの胸の前付近に手のひらをかざすような動作をして、被告人を制止した。その際、Iの手が、被告人の胸元付近に触れた。すると、被告人は、右手のひらを前に押し出し、Iの左肩付近をたたいた。Iは、被告人の右手を押さえるとともに、その様子を見たJが、被告人の右手首付近をつかみ、被告人を制止した。 その後、Gが、被告人に通帳の所在を尋ねると、被告人は、これを差し押さえられると生活ができなくなる旨言った。Gは、被告人が手にする を見たJが、被告人の右手首付近をつかみ、被告人を制止した。 その後、Gが、被告人に通帳の所在を尋ねると、被告人は、これを差し押さえられると生活ができなくなる旨言った。Gは、被告人が手にする通帳を取ろうとするなどしたが、被告人は、これに抵抗した上、証拠品袋に差し押さえたパスポートを入れる作業中で下方を向くHに対し、同人が着用していた銀縁眼鏡を、通帳を持ったままの右手でつかんだ。被告人が、銀縁眼鏡を返すよう言われても返さなかったため、Gが、同眼鏡を取り返し、Hに返した。 Hは、その後、再び下方を向いて証拠品袋に証拠品を入れる作業をしてい 13 たが、被告人が、左手に持っていたタブレットで、Hの右前額部をたたいた。 被告人は、その後、Jが着用していた黒縁眼鏡を右手でつかみ、握り込んだが、Jが、何度か眼鏡を返すよう言うと黒縁眼鏡から手を離した。 被告人は、その後、Gに対し、本件令状を見せるよう言った。Gは、本件令状を手に持ったまま、被告人に対し、差し押さえるべき物が記載された3頁目を示したところ、被告人は、本件令状の左下付近を右手でつかんだ。Gは、被告人の右手首付近を押さえ、他の警察官も、被告人が本件令状をつかんでいる右手首付近を中心に持つなどし、本件令状を離すよう言った。被告人は、本件令状を引っ張り、その3頁目の左下部分が破れた。 被告人が、その後、タブレットで捜索差押えの状況を撮影しようとする動作をしたため、Gは、他の警察官に対し、タブレットを差し押さえようと声を掛けた。その際、Jは、被告人に対し、タブレットから手を離すよう注意しつつ、これを差し押さえようとした。その場にいた警察官が、被告人からタブレットを差し押さえるため、これを拒む被告人の身体を押さえようとしたところ、被告人は、その場に仰向けに倒れる体勢とな よう注意しつつ、これを差し押さえようとした。その場にいた警察官が、被告人からタブレットを差し押さえるため、これを拒む被告人の身体を押さえようとしたところ、被告人は、その場に仰向けに倒れる体勢となり、タブレットを差し押さえられた。すると、被告人は、Jが着用していた黒縁眼鏡を右手で握った。Jが、被告人に対し、壊れるから離すよう言ったが、被告人は、黒縁眼鏡を握って曲げてしまい、最終的にはこれを放り投げ、その右側テンプルが外れた。本件捜索差押えの手続が終了すると、Fが、判示第1の事実に関して被告人を逮捕する手続をとった。 3 前記認定のうち、その多くを本件捜索差押えに従事した警察官の証言によっているが、これらの者に被告人を殊更陥れる目的で虚偽の証言をするような事情があるとまでは考え難く、それらの証言内容は、合理的で、相互に基本的に整合しており、本件捜索差押えの際に撮影された写真等から認められる客観的な事実によっても一部裏付けられ、前記認定の限度では信用することができ、他方、これに反する被告人の公判供述は信用できない。 4弁護人は、被告人がFの足を踏み付けたとは認められない、現場で写真を 14 撮影していたOがその場面を1枚も撮影していないことや、F自身、Oに対し、足を踏んだ場面において写真撮影の指示等もしてないことがこれを裏付けている旨主張する。 しかしながら、Oの証言によれば、Oの写真撮影は、本件捜索差押えの状況を撮影する目的で行われたのであって、公務の執行を妨害する被告人の言動を証拠化する目的で行われたのではないというのであり、また、Oは写真撮影のみ行うことになっていたわけでもないというのであるから、被告人がFの足を踏み付けている時間がそれほど長いとも思われないことなどにも照らせば、Oが、被告人がFの足を踏んだ場面の写真 た、Oは写真撮影のみ行うことになっていたわけでもないというのであるから、被告人がFの足を踏み付けている時間がそれほど長いとも思われないことなどにも照らせば、Oが、被告人がFの足を踏んだ場面の写真を撮影しておらず、FがOにその場面の写真撮影を指示するなどしなかったことも不自然ではない。 弁護人は、Iは、被告人から左肩付近を右手で2、3回たたかれた旨証言するが、Oがその前後に写真を撮影したとされているにもかかわらず、その場面を1枚も撮影していないなどとして、被告人がIの左肩付近を右手でたたいたとは認められない旨主張する。 しかしながら、Iは、撮影された写真を基に、たたかれた前後の経緯も含め、被告人から自分の左肩付近を右手でたたかれたさまを証言していて、その有無について疑いを入れる余地はない。もっとも、他の警察官に、被告人がIの左肩付近をたたいた回数が複数であったと断定する者がいないことにも照らすと、被告人がIの左肩付近を右手でたたく行為は1回との限度で認められる。 弁護人は、被告人の公判供述を前提に、被告人が意図的に銀縁眼鏡をつかんだわけではないから、故意は認められず、そうである以上、公務執行妨害における暴行とはいえない旨主張する。 しかしながら、被告人は、右手の親指と人差し指に銀縁眼鏡が引っ掛かった旨供述するが、そもそもこのような場面で他人が着用している眼鏡を偶然右手の親指と人差し指に引っ掛けて外してしまうとは考え難い上、被告人が銀縁眼鏡を握り込んでいることにそぐわず、警察官の証言に反していて、この点の被告人の公 15 判供述は信用できないのであって、被告人が銀縁眼鏡をつかんだ行為は、公務執行妨害における暴行に当たり、故意に欠けるところもない。 弁護人は、被告人のタブレットでのHへの殴打が事実であれば、複数の警察官 は信用できないのであって、被告人が銀縁眼鏡をつかんだ行為は、公務執行妨害における暴行に当たり、故意に欠けるところもない。 弁護人は、被告人のタブレットでのHへの殴打が事実であれば、複数の警察官がこれを現認していながら、その場で被告人の制圧又はタブレットの差押えに至らないことなど考えられない、Hはこの殴打行為に関する告訴状すら作成しておらず、周囲の人物もHにけがをしていなかったかと確認をした者すらいなかったという事実の経緯は、本当に殴られたのであれば説明がつかない、Hも何があったか分からなかったと証言しているし、殴られたとされる時点の僅か4秒後も、Hはその方向を確認してもいないなどとして、被告人のタブレットでのHへの殴打の事実は認められない旨主張する。 しかしながら、Fは、捜索差押えが終わって、逮捕状を執行するというのが最も効率が良く、途中で公務執行妨害で逮捕すると、捜索差押えを中断しなければいけなくなるので、捜索差押えが終了するまで逮捕は控えていた旨証言し、Gも、この時に現行犯逮捕した方がよいのではないかというような話もあったが、被疑者方も遠方であり、捜索差押えの最中であったというところから、このまま捜索差押えを続行するという判断で、公務執行妨害で現行犯逮捕はしなかった旨証言するところ、そのような判断は捜索差押えの現場の判断として合理的なものであって納得できる。被告人がタブレットでたたいたことがHに外傷をもたらすというような強度のものでなければ、Hが告訴状を作成しなかったり、周囲の警察官がHにけがをしなかったか確認をしないのも自然なことである。その意味で、Hがかなり強い衝撃であったと証言するのも限度のあるものとして評価されることになる。そして、被告人がHの右前額部を左手で所持していたタブレットでたたいた回数については、Hは2回ぐ ある。その意味で、Hがかなり強い衝撃であったと証言するのも限度のあるものとして評価されることになる。そして、被告人がHの右前額部を左手で所持していたタブレットでたたいた回数については、Hは2回ぐらいであると思うと証言する一方、捜査段階においては1回であるように供述していることがうかがわれる上、他の警察官が間違いないものとして証言するところは1回であるとみられることなどに照らすと、その回数は1回であったと認められる。 16 弁護人は、被告人の公判供述に沿い、被告人はJの黒縁眼鏡を意図的につかんだわけではない旨主張する。 しかしながら、被告人は、左側に視線を向けていたところ、急に右後ろからJが突っ込んできたので、右手をかざして防ごうとしたとき、ちょうど右手がJの眼鏡に当たり、意図せずしてつかんだ旨供述するが、そもそもこのような場面で他人が着用している眼鏡を偶然つかんで外してしまうとは考え難い上、眼鏡を偶然つかんで外してしまったことを意外に受け止めるような被告人の言動も見受けられず、かえってOが撮影した写真によれば、被告人が黒縁眼鏡を握り込んでいることが認められるところであり、このようなことなどにも照らすと、この点の被告人の公判供述は信用できず、被告人が黒縁眼鏡を意図的につかんだと認められる。 弁護人は、被告人は、本件令状をつかんで引っ張っていない旨主張する。 しかしながら、複数の警察官がその状況についてそれぞれ証言している上、実際に本件令状の3頁目左下部分にしわが入り一部が破れていることもこれを裏付けていて、この点の弁護人の主張は採用できない。 弁護人は、被告人は、Jに一旦返した黒縁眼鏡を再度つかみ取って投げていない、仮に、この際、被告人がJの黒縁眼鏡をつかんだことがあっても、Jに転倒させられるもみあいの中で、無意 張は採用できない。 弁護人は、被告人は、Jに一旦返した黒縁眼鏡を再度つかみ取って投げていない、仮に、この際、被告人がJの黒縁眼鏡をつかんだことがあっても、Jに転倒させられるもみあいの中で、無意識につかんだ可能性もある、逮捕の際のもみあいのアクシデントとしてJの黒縁眼鏡が壊れてしまった可能性は排斥できない旨主張する。 しかしながら、壊れるから離すよう言ったが、被告人は黒縁眼鏡を離さずに握って曲げてしまい、最終的にはこれを放り投げ、その右側テンプルが外れた旨いうJの証言が他の警察官の証言と整合すること、黒縁眼鏡の破損状況からしても、黒縁眼鏡に対して相応の外力が加わったと考えられることなどからすれば、この点の弁護人の主張は採用できない。弁護人は、Oが、この時点において写真撮影すらしていないのは信じ難い旨もいうが、Oは被告人の制圧を優先した旨証言す 17 るのであって、それまで断続的に公務執行妨害にいう暴行に及んでいた被告人の制圧を優先したことは不合理ではなく、Oがこの時点の写真を撮影しなかったことに疑問はない。 5 弁護人は、警察が、被告人が当時の被告人方においてオンラインで勤務先である大学の仕事をしていることを把握し、被告人がこれに従事していることが確実である時間帯を狙って、本件捜索差押えを行ったとして、本件捜索差押えは、学問の自由(憲法23条)に対する侵害であり、不適法であるから、保護すべき公務に当たらず、そのような公務に対する一切の行為は公務執行妨害罪に当たらないなどと主張する。 しかしながら、判示第1の事件に関する証拠が存在する蓋然性の高い当時の被告人方において、被告人立会いの下捜索差押えを行う必要性があったところ、Fの証言によれば、被告人がオンラインで仕事等をする時間帯がいつなのか把握していたわけではなく、これを する蓋然性の高い当時の被告人方において、被告人立会いの下捜索差押えを行う必要性があったところ、Fの証言によれば、被告人がオンラインで仕事等をする時間帯がいつなのか把握していたわけではなく、これを妨害する意図もなかったというのであり、これを疑うべきものはないから、弁護人の主張は前提を欠く。そして、これに加え、本件捜索差押えの対象物に被告人の研究に直結するものが含まれていたわけでもなく、また、被告人は、本件捜索差押え時、勤務先である大学において本来担当する予定であったチューター業務の担当を他の講師に交代してもらうことができていたと認められることなどにも照らせば、本件捜索差押えによる学問の自由に対する制約は、必要かつ合理的な範囲にとどまるものであったといえる。本件捜索差押えが、学問の自由に対する侵害であり、不適法であったなどとみる余地はない。 6 弁護人は、被告人の行為が構成要件に該当するとしても、被告人が不適法な行為又はそう誤信した行為に対する防衛行為であるから、違法性又は責任が阻却されると主張する。しかしながら、前記のとおり、本件捜索差押えは不適法ではないから、違法性が阻却される余地はないし、被告人がこれに係る事実を誤信したとみるべきものもないから、責任も阻却されない。この点の弁護人の主張も理由がない。 18 7 その余の弁護人の主張を踏まえても、判示第2の事実のとおり認定することができ、被告人は、公務執行妨害罪、器物損壊罪の責めを負う。 第3 判示第3の事実について1 弁護人は、被告人は威力を用いていない旨いい、被告人は判示第3の事実について無罪であると主張する。 2 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 令和3年4月10日当時、Aは、判示第3の食堂(以下「本件食堂」という。)で接客業務に従事していた従業員 3の事実について無罪であると主張する。 2 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 令和3年4月10日当時、Aは、判示第3の食堂(以下「本件食堂」という。)で接客業務に従事していた従業員であり、Kは、本件食堂で調理業務に従事するとともに、本件食堂を経営していた店主であった。 本件食堂店内は、南北方向に約3.5メートル、東西方向に約12.1メートルの間取りで、店内中央付近に設置されたカウンター(以下「本件カウンター」という。)及び壁面により、その西側(店舗出入口側)がホール(以下「本件ホール」という。)、その東側が厨房におおむね区分されている。本件ホール内には、椅子18脚、机9台が、本件ホール内北東端部分には、冷蔵庫(以下「本件冷蔵庫」という。)が、本件カウンター上南端部には、ビールサーバー(以下「本件ビールサーバー」という。)がそれぞれ置かれていた。 本件食堂の出入口ドアには、事件当時、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策として、飲食客に対して食事以外のタイミングにおけるマスク着用の協力を求める記載のある紙が貼られ、本件ホール内の机上にも、同様の紙が貼られていた。 被告人は、同日午前11時46分頃、本件食堂を訪れた。その時点で、本件ホール内はほぼ満席であった。被告人は、本件ホール内南側に3列並んだ机のうち最も東側のそれに向かい、その北東部に置かれた椅子(以下「本件座席」という。)に座った。 被告人は、本件ホール内で他の飲食客と争いになり、最終的に、飲食客により本件ホール内から外に連れ出された。 19 3 Aの証言は、大要、以下のようなものである。 マスクを着けていない被告人が食堂に入ってくる様子が見えたため、「ちょっとお待ちください、お客様。」と言って、出入口まで走って近づき、「すみません、マス Aの証言は、大要、以下のようなものである。 マスクを着けていない被告人が食堂に入ってくる様子が見えたため、「ちょっとお待ちください、お客様。」と言って、出入口まで走って近づき、「すみません、マスクの着用をお願いできますか。」などと言ったところ、被告人は、大声で「マスクはしません。」と言った。後ずさりするような形で本件カウンターの方まで戻る一方、被告人は、自分と対面する格好で前進し、本件カウンター付近まで来て本件座席に座った。Kに被告人への対応を相談し、自分とKが、被告人に「出て行って。」と言ったが、被告人は、「誰に言ってんだ。誰に口聞いてんだ。」などと怒鳴った。被告人は、オーダーを取りに行っていないのに、大声で天丼を注文したため、自分かKのいずれかは定かではないが、提供できない旨伝えた。それを聞いた被告人は、本件食堂から出て行かないといった趣旨のことを言った。何回もマスクを着用するようお願いしたが、被告人は、「マスクはしねえ。」などと怒鳴った。被告人が、本件ビールサーバーのレバーに手を掛けたので、「やめてください。」と言うと、被告人は、大声を出しながら近寄ってきた。 本件カウンター付近にいた自分は、本件冷蔵庫を背にして立っていたが、2、3歩後ずさりし、その際、詰め寄る被告人のつま先が自分のつま先の上に乗ることがあり、よろけた感じで、本件冷蔵庫の前で尻もちをついた。立ち上がって、被告人にマスクを手渡したが、被告人は、それを投げ付けた。最終的に、他の飲食客が、被告人を外に連れ出してくれた。 4Aに、被告人を殊更陥れる目的で虚偽の証言をするような事情まであるとは考え難く、Aの証言内容は、Aの接客態度に対して不満を抱いていたとみられる被告人の当時の心理状態に照らして、自然かつ合理的なものであり、Kの証言内容や、事件直後に本件食堂の関係者 な事情まであるとは考え難く、Aの証言内容は、Aの接客態度に対して不満を抱いていたとみられる被告人の当時の心理状態に照らして、自然かつ合理的なものであり、Kの証言内容や、事件直後に本件食堂の関係者に対して事実関係の確認をした警察官Lの証言内容とも核心部分で整合し、被告人が、本件ホール内で他の飲食客と争いになり、最終的に、同飲食客により本件ホール内から外に連れ出された事実にも沿い、基本的には信用することができる。 20 そうすると、被告人が、A及びKから、マスク着用の協力を求められても退店を求められてもいずれも応じず、かえって勝手に本件ビールサーバーからビールを注ごうとする行為に及び、当該行為を制止しようとしたAに対し、互いのつま先が触れるほど近距離にまで詰め寄って、Aが、2、3歩後ずさりして尻もちをついた事実が認められる。これに反する被告人の公判供述は、被告人が本件座席で壁の方を向いて座っていたところ、他の飲食客が被告人に突如いい加減にするよう言い、理不尽にも暴行を加えたことをいう不自然なものであって、信用できない。 5 弁護人は、①Aが事件から4日後の警察官の事情聴取においては怖くて腰が抜けたとしか述べておらず、足を踏まれたなどとは一切説明していなかったこと、②弁護人が公判廷において尻もちをついた状況について質問しても、覚えていないなどと繰り返したことなどから、被告人がAに詰め寄って転倒させたという事実を認めるに足りる証拠が皆無である旨主張する。 ①については、警察官が、Aが足を踏まれた点に重点を置いて聴取せず、また、通常の飲食客の行動とは乖離した行動に及ぶ被告人や騒然とした店内の状況を目の当たりにし、精神的に動揺したとみられるAが、正確に供述できなかったとも考えられ、この点に関してAに虚偽の証言をする事情も見い 常の飲食客の行動とは乖離した行動に及ぶ被告人や騒然とした店内の状況を目の当たりにし、精神的に動揺したとみられるAが、正確に供述できなかったとも考えられ、この点に関してAに虚偽の証言をする事情も見いだし難く、警察官調書の記載と証言との食い違いは、Aの証言の基本的な信用性には影響しないというべきである。また、②についても、覚えていないなどとのAの証言は、被告人がAに詰め寄り、Aが後ずさりして尻もちをついた時点と他の飲食客が被告人を取り押さえに入った時点との先後関係に対する程度のものにすぎず、Aの証言の基本的な信用性には影響しないというべきである。 弁護人は、Aが、被告人が本件ビールサーバーからビールを注いだ旨の証言につき、被告人への悪感情から作り上げられたイメージにすぎない旨主張する。 しかしながら、Lが、110番通報を受け、本件食堂に臨場した際、Aから、被告人が本件ビールサーバーから急にビールを注ぎ出したので制止した旨聞いた 21 と証言していることなどからすれば、Aが、事件直後から、特異な具体性のある虚偽のイメージを被告人への悪感情からとっさに作出したことを前提とする弁護人の主張は、採用できない。 6 被告人がAに対して詰め寄った事実については、それによりAが後ずさりして尻もちをついたこと、それに至る経緯、本件ホールが狭く、Aの逃げ場が限られていたことなども併せみれば、威力に該当するというに十分であり、これにより、Aの業務及び本件食堂を経営するKの業務を妨害したものといえる。なお、この事実のほかに、検察官が威力に該当すると主張したその余の事実は、行為として証拠上認められるとはいえないか、A及びKの意思を制圧するに足りるほどであったとはいえないものである。 7 その余の弁護人の主張を踏まえても、判示第3の事実のとおり認定 たその余の事実は、行為として証拠上認められるとはいえないか、A及びKの意思を制圧するに足りるほどであったとはいえないものである。 7 その余の弁護人の主張を踏まえても、判示第3の事実のとおり認定することができ、被告人は、威力業務妨害罪の責めを負う。 第4 判示第4の事実について1 弁護人は、判示第4の事実について、被告人が暴行を加えた事実はなく、公務執行妨害における暴行の故意はない旨いい、被告人は無罪であると主張する。 2 この点に関するLの証言は、大要、以下のようなものである。 本件食堂に隣接する駐車場において、被告人に職務質問をしていたが、その途中で、被告人が、帰る、俺は飯を食いに行くんだなどと言いながら、本件食堂に向かおうとした。本件食堂に行かないよう言ったが、被告人が従わずに本件食堂に大分近づいたため、被告人の横から、手を前に伸ばして、被告人の進路をふさぐ形で制止を試みた。それでも止まろうとしない被告人に対し、向かい合う形で、被告人の胸又は肩付近を両手で押さえて、その動きを止め、本件食堂付近のブロック塀に被告人の背中を押し付け、制止した。被告人が腕を振り回したりする状態にあったため、両腕をほぼ前方に、水平よりもやや下方に伸ばし、右手で被告人の左手首付近を、左手でその右手首付近をつかんだ。 自らがつかんだ被告人の両腕を、ほぼ垂直に下げさせる形で押さえ、被告人を 22 気をつけのような体勢にさせた。被告人が「離せ。」などと叫んでいたため、「じゃ、離しますよ、暴れないでくださいね。」と何度か言って、一歩下がりながら、被告人の両腕の手首付近をつかむ手を離した。 すると、被告人は、急に、下ろしていた左手を伸ばして、拳を握るようにして突き上げ、その拳が自分の右顎の辺りに当たった(以下、これを「本件殴打」という。)。 人の両腕の手首付近をつかむ手を離した。 すると、被告人は、急に、下ろしていた左手を伸ばして、拳を握るようにして突き上げ、その拳が自分の右顎の辺りに当たった(以下、これを「本件殴打」という。)。その直後、公務執行妨害だと言って、他の警察官とともに、被告人を現行犯逮捕した。 3 Lが、被告人を殊更陥れる目的で虚偽の証言をするような事情まであるとは考え難く、その証言内容は、合理的で不自然さはなく、判示第4の事実の認定に当たって、信用することができる。Lのそばで被告人の職務質問に当たり、その動静を監視していた警察官Pも同旨の証言をしている。 これに対し、被告人は、右手を前にかざすようなジェスチャーをしながら、ちょっと距離を取りましょうよというようなことを言ったところ、手がLの顔に当たったという感触は一切なかったが、いきなり逮捕と言われた旨供述するが、この公判供述は、自らの手がLの体に当たりながら感触がなかったことをいうものか、警察官が理由もなく唐突に被告人を逮捕したことをいうもので、いずれであっても不合理であって信用できない。 4 弁護人は、Lが、被告人の手の動きを視認できる位置状況にはなく、意図的な暴行と認識できる状況にもなかったなどと主張する。確かに、Lは、被告人の手の動き出しは見えなかった旨証言するが、他方、その胸の前辺りは視界に入っており、下から被告人の手が上がってくる様子が見えた旨証言しており、本件殴打が一回的かつ一瞬の出来事にすぎないことからすれば、被告人の手が動き出す瞬間からこれを視認していないことが不自然であるとはいえない。 5 また、本件殴打の直前、Lが、手を下ろした状態にあった被告人の手を離したという状況に照らせば、被告人が意識的に左手を下から突き上げる動作を行わなければ、その左手がLの顔面に触れることは考えら 5 また、本件殴打の直前、Lが、手を下ろした状態にあった被告人の手を離したという状況に照らせば、被告人が意識的に左手を下から突き上げる動作を行わなければ、その左手がLの顔面に触れることは考えられない。被告人が、ためを 23 作ってLを殴打したわけではないとはいえ、公務執行妨害における暴行の故意を認めるに十分である。 6 その余の弁護人の主張を踏まえても、判示第4の事実のとおり認定することができ、被告人は、公務執行妨害罪の責めを負う。 【法令の適用】罰条判示第1の所為威力業務妨害の点 それぞれ刑法234条、233条暴行の点 刑法208条航空法違反の点 航空法150条5号の4、73条の4第5項、航空法施行規則164条の16第3号判示第2の所為公務執行妨害の点 包括して刑法95条1項器物損壊の点 刑法261条判示第3の所為 それぞれ刑法234条、233条判示第4の所為 刑法95条1項科刑上一罪の処理判示第1 刑法54条1項前段、10条(1罪として刑及び犯情の最も重いBに対する威力業務妨害罪の刑で処断)判示第2 刑法54条1項前段、10条(1罪として犯情の重い公務執行妨害罪の刑で処断)判示第3 刑法54条1項前段、10条(1罪として犯情の重いAに対する威力業務妨害罪の刑で処断)刑種の選択 いずれも懲役刑を選択併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の最 24 も重い判示第2の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入 選択 いずれも懲役刑を選択併合罪の処理 刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の最 24 も重い判示第2の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入 刑法21条刑の全部の執行猶予 刑法25条1項訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項本文(訴訟費用のうち証人C及び同Dに支給した分は負担)【量刑の理由】判示第1の犯行は、航空機内において、客室乗務員の腕に手で力を加えてひねる暴行を加え、同人及び機長の業務を妨害するとともに、同機の安全の保持等に支障を及ぼすおそれのある行為を反復又は継続してはならない旨の機長の命令に違反したもの、判示第2の犯行は、同第1の犯行に係る捜索差押え時に、複数の警察官に暴行を加えるとともに、警察官が着用していた眼鏡を損壊したもの、判示第3の犯行は、食堂において接客に従事していた従業員に詰め寄り、同人及び店主の業務を妨害したもの、判示第4の犯行は、同第3の犯行を受けて臨場した警察官に暴行を加えたものである。判示のいずれの犯行とも、被告人が自らの考えを押し通そうとする思いの強さに起因しているが、被告人は、判示第1及び同第2の犯行につき公訴を提起されたにもかかわらず、あろうことか、その公判前整理手続中に判示第3及び同第4の犯行を重ねたのであって、自らの行いを省みる姿勢に乏しいことが明らかである。 もっとも、判示第1の犯行につき、被告人の犯行があったがゆえに航空機の緊急着陸に至ったという関係は認められるが、暴行の程度は大きなものとはいえず、客室乗務員の証言は緊急着陸を予期していた内容をいうものではなく、検察官が機長の証人尋問の請求を撤回したためその証言が得られないこともあって、緊急着陸の高度の必要性があったのかなどは不明である。判示第4の犯行 の証言は緊急着陸を予期していた内容をいうものではなく、検察官が機長の証人尋問の請求を撤回したためその証言が得られないこともあって、緊急着陸の高度の必要性があったのかなどは不明である。判示第4の犯行における暴行も、それ自体は軽いものであり、被害者自身もその旨証言している。以上に加え、被告人にこれまでに前科がないことなどの事情をも適切に考慮して、主文のとおり刑を量定した。 25 (求刑 懲役4年)令和4年12月20日大阪地方裁判所第6刑事部 裁判長裁判官 大 寄 淳 裁判官嶋 玲 哉 裁判官安福幸江は差し支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官 大 寄 淳 26 (別紙省略)

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