- 1 -令和5年7月6日判決言渡令和4年(行ケ)第10099号審決取消請求事件口頭弁論終結日令和5年4月25日判決当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求特許庁が無効2021-800050号事件について令和4年8月9日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は、特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり、争点は、進歩性についての認定判断の誤りの有無である。 1 手続の経緯被告は、発明の名称を「レーザ加工方法及びレーザ加工装置」とする発明につき、平成16年1月9日に特許出願(以下「本件出願」という。)をし、同発明に係る特許(以下「本件特許」という。)は、平成22年5月14日に特許第4509578号として設定登録された(請求項の数14)。 原告は、令和3年6月22日、本件特許の特許請求の範囲の請求項8及び11に係る発明についての特許を無効とすることを求める無効審判請求をした。特許庁は、これを無効2021-800050号事件として審理し、令和4年8月9日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。本件審決の謄本は、同月22日、原告に送達された。 2 発明の要旨 - 2 -(1) 本件特許の特許請求の範囲の請求項8の記載は、次のとおりである(以下、この請求項8に係る発明を「本件発明1」という。)。(甲22)「第一のレーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、前記第1のレーザ光を前記加工対象物に向けて集光す 加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、前記第1のレーザ光を前記加工対象物に向けて集光するレンズと、前記加工対象物と前記レンズとを前記加工対象物の主面に沿って移動させる移動手段と、前記レンズを前記主面に対して進退自在に保持する保持手段と、前記移動手段及び前記保持手段それぞれの挙動を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は前記集光点が前記加工対象物内部の所定の位置に合う状態となる初期位置に前記レンズを保持するように前記保持手段を制御し、当該位置に前記レンズを保持した状態で前記第一のレーザ光を照射しながら、前記制御手段は前記加工対象物と前記レンズとを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して前記切断予定ラインの一端部において改質領域を形成し、前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する、レーザ加工装置。」(2) 本件特許の特許請求の範囲の請求項11の記載は、次のとおりである(以下、この請求項11に係る発明を「本件発明2」といい、本件発明1と併せて「本件発明」という。)。(甲22) - 3 -「前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象 いて改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成し、更に、前記制御手段は前記レンズを前記主面に向かう方向に駆動させずに保持するように前記保持手段を制御すると共に、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御する、請求項8~10のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。」(3) 本件発明は、次のとおり分説される。 ア本件発明1(1A)第一のレーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、(1B)前記第1のレーザ光を前記加工対象物に向けて集光するレンズと、(1C)前記加工対象物と前記レンズとを前記加工対象物の主面に沿って移動させる移動手段と、(1D)前記レンズを前記主面に対して進退自在に保持する保持手段と、(1E)前記移動手段及び前記保持手段それぞれの挙動を制御する制御手段と、を備え、(1F)前記制御手段は前記集光点が前記加工対象物内部の所定の位置に合う状態となる初期位置に前記レンズを保持するように前記保持手段を制御し、(1G)当該位置に前記レンズを保持した状態で前記第一のレーザ光を照射しながら、前記制御手段は前記加工対象物と前記レンズとを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して前記切断予定ラインの一端部において改質領域を形成し、 - 4 -(1H)前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、 に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して前記切断予定ラインの一端部において改質領域を形成し、 - 4 -(1H)前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する、(1I)レーザ加工装置。 イ本件発明2(2A)前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成し、(2B)更に、前記制御手段は前記レンズを前記主面に向かう方向に駆動させずに保持するように前記保持手段を制御すると共に、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御する、(2C)請求項8~10のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。 3 本件審決の理由の要点(1) 原告は、本件発明は、甲1(国際公開第02/22301号)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)に、周知の技術的事項を適用して、容易に発明することができたものであって、進歩性欠如の無効理由があると主張するところ、甲1には、次の甲1発明が記載されていると認められる。 (1a)レーザ光Lを加工対象物1であるシリコンウエハの内部に集光点Pを合わせて照射し、前記シリコンウエハの切断予定ライン5に沿って前記シリコンウエハの内部に改 発明が記載されていると認められる。 (1a)レーザ光Lを加工対象物1であるシリコンウエハの内部に集光点Pを合わせて照射し、前記シリコンウエハの切断予定ライン5に沿って前記シリコンウエハの内部に改質領域7を形成するレーザ加工装置100であって、(1b)前記レーザ光Lを前記シリコンウエハに向けて集光するレンズ105と、(1c)前記シリコンウエハと前記レンズ105とを前記シリコンウエハの表面 - 5 -3(レーザ光Lの入射面)に沿って移動させるX、Y軸ステージ109、111及びステージ制御部115と、(1d)前記レンズ105を前記表面3に対して進退自在に保持する保持手段と、(1e)前記X、Y軸ステージ109、111、ステージ制御部115、及び前記保持手段それぞれの挙動を制御する全体制御部127と、を備え、(1f’)前記全体制御部127は前記集光点Pが前記シリコンウエハ内部の所定の位置に合う状態となる調整された固定位置に前記レンズ105を保持するように前記保持手段を制御し、(1g+1h’)シリコンウエハ内部の調整された固定位置に集光点Pが位置するように前記レンズ105を保持した状態で前記レーザ光Lを照射しながら、前記全体制御部127は前記シリコンウエハと前記レンズ105とを前記表面3に沿って相対的に移動させるように前記X、Y軸ステージ109、111及びステージ制御部115を制御して前記切断予定ライン5の一端部を含む前記切断予定ライン5に沿って改質領域7を形成する、(1i)上記レーザ加工装置100。 (2) 本件発明1と甲1発明を対比すると、次の一致点において一致し、相違点1において相違する。 (一致点)「第一のレーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象 明を対比すると、次の一致点において一致し、相違点1において相違する。 (一致点)「第一のレーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、前記第1のレーザ光を前記加工対象物に向けて集光するレンズと、前記加工対象物と前記レンズとを前記加工対象物の主面に沿って移動させる移動手段と、前記レンズを前記主面に対して進退自在に保持する保持手段と、前記移動手段及び前記保持手段それぞれの挙動を制御する制御手段と、を備え、 - 6 -前記制御手段は前記集光点が前記加工対象物内部の所定の位置に合う状態となる位置に前記レンズを保持するように前記保持手段を制御し、当該位置に前記レンズを保持した状態で前記第一のレーザ光を照射しながら、前記制御手段は前記加工対象物と前記レンズとを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して前記切断予定ラインの一端部において改質領域を形成する、レーザ加工装置。」(相違点1)本件発明1は、「初期位置」にレンズを保持した状態で「前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する」ことを特定しているのに対して、甲1発明は、シリコンウエハ内部の調整された固定位置に集光点Pが位置するようにレンズ105を保持した状態でレーザ光Lを照射しながら、全体制御部127はシリコンウエハとレンズ105とを表面3に沿って相対的に移動させるよう エハ内部の調整された固定位置に集光点Pが位置するようにレンズ105を保持した状態でレーザ光Lを照射しながら、全体制御部127はシリコンウエハとレンズ105とを表面3に沿って相対的に移動させるようにX、Y軸ステージ109、111及びステージ制御部115を制御して切断予定ライン5の一端部を含む切断予定ライン5に沿って改質領域7を形成することから、「前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に」おいても、シリコンウエハ内部の調整された固定位置に集光点Pが位置するようにレンズ105を保持したままの状態で、改質領域7を形成する点。 (3) 相違点1についての検討ア周知の技術的事項(ア) 甲3(特開昭53-145564号公報)、甲4(特開平10-189496号公報)及び甲5(特開2000-306865号公報)から、次の技術事項(以下「周知の技術的事項1」という。)が周知であると認められる。(判決注:半導体 - 7 -ウエハ(ウェハ)のうち、シリコンが素材のものをシリコンウエハと呼ぶ。)「半導体ウエハをレーザ加工する技術分野において、半導体ウエハに反りがあると加工位置に対して加工用レーザ光の焦点がずれることから、測距用レーザ光を半導体ウエハに照射し、半導体ウエハの切断予定ラインに沿った表面(主面)の変位を取得して、取得した主面の変位に基づき、加工用レーザ光のレンズと半導体ウエハの主面との間隔を調整することで、加工用レーザ光の焦点の位置を調整し、半導体ウエハの表面を加工すること。」(イ) 甲6(特公平6-100711号公報)及び甲7(特開平10-288734号公報)から、次の技術事項(以下「周知の技術的事項2」という。)が周知であると認められる。 「対象物であるシリコンウエハについて、シリコンウエハの一端部に存在 )及び甲7(特開平10-288734号公報)から、次の技術事項(以下「周知の技術的事項2」という。)が周知であると認められる。 「対象物であるシリコンウエハについて、シリコンウエハの一端部に存在する平坦ではない部分(段差部や研磨ダレ部分等)に起因して光の合焦動作が困難になることから、そのような部分において合焦動作を一時的に停止させて焦点を固定し、そのような部分を外れると合焦動作を再開することにより、光の合焦動作を改善すること。」イ甲1発明に周知の技術的事項1及び周知の技術的事項2を適用することについて甲1は、加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を進行させて加工対象物を切断する従来の方法では加工対象物の表面のうち切断する箇所となる領域周辺も溶融されてしまうことを課題として、レーザ光Lの集光点Pを加工対象物1の内部に位置させて、改質領域を加工対象物1の内部にのみ形成して加工対象物を切断することが記載されているから、そもそも半導体ウエハの表面に集光点を合わせて、(表面を)加工をするものである周知の技術的事項1を適用する動機付けがない。 また、甲1には、全体を見渡しても、加工対象物に反りがあることについての記載は見当たらないし、甲1発明は、「シリコンウエハ内部の調整された固定位置に集光点Pが位置するように前記レンズ105を保持した状態で前記レーザ光Lを照射 - 8 -しながら、前記全体制御部127は前記シリコンウエハと前記レンズ105とを前記表面3に沿って相対的に移動させるように前記X、Y軸ステージ109、111及びステージ制御部115を制御して前記切断予定ライン5の一端部を含む前記切断予定ライン5に沿って改質領域7を形成する」ものであって、シリコンウエハに反りがあることを想定したものでないことは明らかであるから、甲1発 部115を制御して前記切断予定ライン5の一端部を含む前記切断予定ライン5に沿って改質領域7を形成する」ものであって、シリコンウエハに反りがあることを想定したものでないことは明らかであるから、甲1発明に、加工対象物に反りがあることを課題とした解決手段である周知の技術的事項1を適用する動機付けも見いだせない。 加えて、仮に、甲3ないし甲5に記載されているように、半導体ウエハが実際には反るものであるとしても、周知の技術的事項1では、半導体ウエハの表面を加工するため、その位置の誤差の許容幅が小さいものとなり、正確な位置に集光点を合わせることに必然性を有するものと認められる一方、甲1発明は、上記のとおり改質領域を加工対象物1の内部にのみ形成するものであり、加工対象物1に厚みを有すること(加工される内部は許容範囲を有すること)を考慮すれば、周知の技術的事項1のように表面の加工を行うものと、甲1発明とでは集光点のZ軸方向の位置に係る条件が異なる。そして、甲1発明の「シリコンウエハ内部の調整された固定位置に前記レンズ105を保持した状態で前記レーザ光Lを照射しながら、前記全体制御部127は前記シリコンウエハと前記レンズ105とを前記表面3に沿って相対的に移動させるように前記X、Y軸ステージ109、111及びステージ制御部115を制御して前記切断予定ライン5の一端部を含む前記切断予定ライン5に沿って改質領域7を形成する」ことにより、例えばシリコンウエハの加工ができないような特段の事情は見当たらないから、甲1発明に上記周知の技術的事項1を適用する動機付けは見いだせない。 そうすると、甲1発明に周知の技術的事項1を適用することが当業者にとって容易になし得るものではないから、更に周知の技術的事項2を適用して相違点1に至ることも、当業者が容易に想到し得たも だせない。 そうすると、甲1発明に周知の技術的事項1を適用することが当業者にとって容易になし得るものではないから、更に周知の技術的事項2を適用して相違点1に至ることも、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 ウ甲1発明に周知の技術的事項1及び周知の技術的事項2を適用する改変につ - 9 -いて仮に、甲1発明に周知の技術的事項1を適用することができたとしても、以下に説示するとおり、甲1発明に周知の技術的事項1を適用した上で周知の技術的事項2を適用することは多段階の改変に該当し、そのような多段階の改変を要する本件発明1が、甲1発明に基づいて容易になし得たものということはできない。 甲1には、光の合焦動作(フォーカス調整)を行うことの記載はあるものの、当該合焦動作がシリコンウエハの一端部に存在する平坦でない部分についても行われることは記載されていないし、加工対象物の平坦でない部分がフォーカス調整やレーザ加工に対して悪影響を及ぼすとの課題についての記載も見当たらない。 さらに甲1には、加工対象物の表面に対してフォーカス調整を行った後に、Z軸ステージでレ一ザ光Lの集光点を加工対象物の内部に移動させて、X、Y軸ステージ109、111を制御して改質領域7を形成することが記載されていると認められるから、該フォーカス調整は、改質領域の形成(加工)に先立って、加工対象物の内部における改質領域の厚さ方向の位置(固定位置)を定めるためだけに行われ、当該加工中は加工対象物の端部であるか否かに関わらず、全体に固定位置を維持するものであり、当該フォーカス調整は、加工対象物の表面の全体に沿って連続的に行うものではないから、そもそもシリコンウエハの一端部に存在する平坦ではない部分(段差部や研磨ダレ部分等)に起因して光の合焦動作が困難になるとの課題が 調整は、加工対象物の表面の全体に沿って連続的に行うものではないから、そもそもシリコンウエハの一端部に存在する平坦ではない部分(段差部や研磨ダレ部分等)に起因して光の合焦動作が困難になるとの課題が甲1に内在しているということもできない。 したがって、甲1発明に、合焦動作を連続的にすることを前提とする上記周知の技術的事項2を適用する動機も見当たらない。 そして、シリコンウエハの一端部に存在する平坦ではない部分(段差部や研磨ダレ部分等)に起因して光の合焦動作が困難になるとの課題認識は、甲1発明に、フォーカス調整を、加工対象物の表面の切断予定ラインの全体に沿って連続的に行って加工対象物の表面の変位を取得して、取得した主面の変位に基づき、加工用レーザ光のレンズと半導体ウエハの主面との間隔を調整することで、加工用レーザ光の - 10 -集光点の位置を調整するとの技術的事項(例えば、周知の技術的事項1)を適用するという改変をした際に初めて生じるものであるから、仮に甲1発明に周知の技術的事項1を適用できたとしても、その改変によって新たに生じた課題を解決するために、シリコンウエハの一端部に存在する平坦ではない部分については該フォーカス調整を一時的に停止させて焦点を固定し、当該平坦ではない部分を外れると合焦動作を再開するとの技術的事項(周知の技術的事項2)を更に適用することは、多段階での改変に該当するものであることは明らかであり、このような多段階の改変が、当業者にとって容易に想到し得たということはできない。 エ以上から、甲1発明に周知の技術的事項1及び周知の技術的事項2を適用することが当業者にとって容易になし得るものではない。 オまた、甲2(特開平6-122084号公報)には、レーザ加工装置おいて、円筒体の表面に微細な凹凸を形成したり、微細 周知の技術的事項2を適用することが当業者にとって容易になし得るものではない。 オまた、甲2(特開平6-122084号公報)には、レーザ加工装置おいて、円筒体の表面に微細な凹凸を形成したり、微細な孔を穿ったりする技術において、その加工精度は、レーザ光の焦点距離の精度に依存するので、集光レンズと被加工面との間隔を、加工作業中は常に所定の範囲内に保つ必要があることが記載されているところ、甲2は、被加工物である円筒体の表面の加工に関するものであって、その内部の加工をするものではないし、甲3ないし7を見ても、被加工物の内部を加工する際の集光点の位置調整に関する課題を示すものではなく、甲1発明に周知の技術的事項1及び周知の技術的事項2を適用することが動機付けられるものではないから、上記の判断を左右するものではない。 カしたがって、本件発明1は、甲2ないし7の記載を踏まえても、甲1発明、周知の技術的事項1及び周知の技術的事項2に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、原告の主張する無効理由によって本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。 (4) 本件発明2について本件発明2は、本件発明1の構成を含んで更に限定したものに相当し、本件発明2と、甲1発明とは、上記相違点1を有するものであるから、本件発明1と同様の - 11 -理由により、原告の主張する無効理由によって本件発明2に係る特許を無効とすることはできない。 (5) 結論したがって、本件発明は、甲1発明、甲3ないし5に記載の周知の技術的事項1並びに甲6及び7に記載の周知の技術的事項2に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、甲1発明に基づく進歩性欠如の無効理由によってそれらの特許を無効にすることはできない。 第3 原告が主張する審決取消 載の周知の技術的事項2に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、甲1発明に基づく進歩性欠如の無効理由によってそれらの特許を無効にすることはできない。 第3 原告が主張する審決取消事由 1 取消事由1(本件発明1に係る進歩性判断の誤り)(1) 甲1発明の認定について本件審決は、前記第2の3(1)のとおり甲1発明を認定したが、(1f’)及び(1g+1h’)の構成の認定には誤りがある。 ア甲1の記載からすると、甲1発明の構成(1f’)及び(1g+1h’)は次のとおり認定されるべきである(本件審決の認定と異なる部分に下線を付した。)。 (1f’) 前記全体制御部127は前記集光点Pが前記シリコンウエハ内部の所定の位置に合う状態となる初期位置に前記レンズ105を保持するように前記保持手段を制御し、(1g+1h’) 前記レーザ光Lを照射しながら、前記全体制御部127は前記X、Y軸ステージ109、lll及びステージ制御部ll5を制御して前記切断予定ライン5の一端部を含む前記切断予定ライン5に沿って改質領域7を形成する、イ構成(1f’)について甲1には、「レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部になる位置に、Z軸ステージ113により加工対象物1をZ方向に移動させる」という、初期位置におけるレンズの位置を合わせが記載されているから、構成(1f’)は、上記のとおり認定すべきである。 本件審決は、初期位置ではなく「固定位置」と認定したが、甲1発明の構成Fは、 - 12 -集光点の初期位置設定のためのレンズ保持制御に係る構成であり、集光点を静止した加工対象物内部に対して、位置合わせをするという動作であるから、このような位置合わせにおいて、焦点の位置を「固定」するという概念は生じ得ないので、構成Fに対応する構成(1 成であり、集光点を静止した加工対象物内部に対して、位置合わせをするという動作であるから、このような位置合わせにおいて、焦点の位置を「固定」するという概念は生じ得ないので、構成Fに対応する構成(1f’)を認定するに当たり、「固定位置」という認定をするのは適切ではない。 ウ構成(1g+1h’)について甲1には、「レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部になる位置に、Z軸ステージ113により加工対象物1をZ方向に移動させる」(甲1・54頁3~5行)、「切断ライン5に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させて、溶融処理領域を切断ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成する。」(同9~11行)というように、加工時におけるステージの移動に係る記載はあるものの、当該ステージの移動中に、集光点PがZ軸方向に対してどのような状態にあるかについては記載がない。そうすると、本件審決が、「固定位置に集光点Pが位置するように前記レンズ105を保持した状態で」、「前記シリコンウエハと前記レンズ105とを前記表面3に沿って相対的に移動させるように」との構成を認定したのは、根拠のないものであって誤りである。 被告は、原告の審判請求書における主張が甲1発明の認定の根拠となるかのような主張をするが、引用発明の認定は、引用文献に記載された事項及び当事者の技術常識に基づいて行うべきであるから、被告の主張は失当である。 (2) 一致点及び相違点の認定本件発明1と前記(1)で認定した甲1発明とを比較すると、両発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 (一致点)「第一のレーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、 - (一致点)「第一のレーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、 - 13 -前記第一のレーザ光を前記加工対象物に向けて集光するレンズと、前記加工対象物を前記加工対象物の主面に沿って移動させる移動手段と、前記レンズを前記主面に対して進退自在に保持する保持手段と、前記移動手段及び前記保持手段それぞれの挙動を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は前記集光点が前記加工対象物内部の所定の位置に合う状態となる初期位置に前記レンズを保持するように前記保持手段を制御し、前記第一のレーザ光を照射しながら、前記制御手段は前記加工対象物を移動させるように前記移動手段を制御して前記切断予定ラインの一端部において改質領域を形成する、レーザ加工装置。」(相違点1)「本件発明1は、「初期位置」にレンズを保持した状態で「前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する」ことを特定しているのに対して、甲1発明は、改質領域が形成されている間の集光点PのZ軸方向の制御については、明示的記載がない点。」(3) 容易想到性について本件審決は、相違点1のうちの「改質領域の形成を、集光点のAF制御をしながら行う点」(以下「相違点(ア)」という。)及び「前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解 成を、集光点のAF制御をしながら行う点」(以下「相違点(ア)」という。)及び「前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除する点」(以下「相違点(イ)」という。)について容易想到ではないと判断したが、次のとおり誤りである。 ア相違点(ア)について(ア) 相違点(ア)を次のとおり修正して論じる。 - 14 -「本件発明においては、前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段(レンズ保持手段)を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させる制御(加工中の集光点のAF(オートフォーカス)制御)を切断予定ラインの一端部以外で行うのに対し、甲1発明においては、切断中の集光点のAF制御を行う点について、明示的な記載がない点。」(イ) 本件出願時において、レーザ加工を行いつつ、高さ方向の集光点をAF制御することは、当業者の技術常識であった。というのも、レーザ加工では、加工時におけるレーザビームの振動やテーブルの振動などの外的要因によって、原点位置となる焦点位置の決定に不確定さが残り、品質低下が生じることや(甲33、38)、また、加工対象物に凹凸があったり、ウエハに反りが存在したりすると、これらもレーザ光の焦点ずれの原因の一つになることから(加工対象物を原因とする焦点ずれ)、加工をしながら高さ方向の集光点をAF制御する必要があり、加工をしながら集光点のAF制御を行うことの当然のこと(周知)であったのである。 例えば、本件特許に係る明細書(以下、本件特許に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。甲22)に特許文献1として引用されている特開2002-219591号公報(甲32)に非連続出力型のレーザ光を被照 件特許に係る明細書(以下、本件特許に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。甲22)に特許文献1として引用されている特開2002-219591号公報(甲32)に非連続出力型のレーザ光を被照射面に照射する際に、「照射位置のズレを常時測定して、常に焦点を合わせるように焦点位置駆動機構をフィードバック制御すること」(段落【0010】)と記載があり、甲36(特開平6―254691号公報)においても、その従来技術として、「モータM3による加工ヘッドのZ軸方向の移動を案内するZ軸ガイド」を設け、「ワークWに対する加工ヘッド1の距離を一定にするために加工ヘッド1の先端に取り付けられた距離センサ2がワークに対する加工ヘッド1の距離を一定に保持するために加工ヘッド1の先端に取り付けられた距離センサ2がワークWと加工ヘッドの距離を測定し、NC制御部15へ測定信号をフィードバックし、最終的にレーザ光Lのスポット制御をしている。」との記載がされている(段落【0003】、図9)。 また、甲3においては、「半導体ウエハにソリがあると、受光器21の受光光量が - 15 -変化する」(甲3・2頁左下欄下から4~2行)との理由により、半導体ウエハ表面における反射光を受光する受光器の受光状態に応じてレーザ光線の集光レンズが上下動せしめられて焦点調整を行うようにすること(甲3・2頁右上欄下から6~2行)が記載されている。甲4及び5にも、甲3と同様の技術が記載されており、レーザ加工においては、加工対象物を原因とする焦点ずれの観点からも、AF制御が当然に必要とされていたことが理解できる。なお、甲5では、レーザ距離計9が具体的にどのように対物レンズ14とウエハ4との距離を測定しているのかについては記載がないが、レーザ光を照射している以上、反射光から距離を測定してい ことが理解できる。なお、甲5では、レーザ距離計9が具体的にどのように対物レンズ14とウエハ4との距離を測定しているのかについては記載がないが、レーザ光を照射している以上、反射光から距離を測定していることは自明である。 以上からすると、少なくとも本件出願日の時点においては、「半導体ウエハをレーザ加工により切断する際に、レーザビームの振動や、テーブルの振動などの外的影響、及び、ウエハの反り(ウエハ大径化及び熱処理に基づく反り)の問題に起因して生じる、加工用のレーザ光線の焦点ずれを防ぐために、加工中にレーザ光を用いてその反射光によりレーザ光の対物レンズとウエハ表面の距離(変化)を測定し、これに応じて、加工用のレーザ光の対物レンズの位置を調整すること」は、当業者の技術常識であったと理解できる(「周知の技術的事項1’」。なお、周知の技術的事項1’は、本件審決の「周知の技術的事項1」をより正確にしたものであり、実質的な違いはない)。 (ウ) 前記(イ)の本件出願日時点における技術常識(周知の技術的事項1’)に照らせば、前記(ア)の相違点(ア)は、実質的には存在しないか、仮に存在するとしても、当業者が容易に想到し得るものである。 すなわち、甲1発明においては、被加工対象であるウエハが載置されたステージを移動させて改質領域を形成していくから、甲1の記載に触れた当業者であれば、当然にステージの振動などにより、焦点がずれるものと理解し、加工中の集光点のAF制御が甲1に明示されてはいないものの、当然に採用されるものと理解するから、甲1には、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動さ - 16 -せる制御(集光点のAF制御)が記載されているに等しい。仮にそうとはいえない場合であっても、集光点のAF制御に係る技術常識からすると、甲1 対象物とを前記主面に沿って相対的に移動さ - 16 -せる制御(集光点のAF制御)が記載されているに等しい。仮にそうとはいえない場合であっても、集光点のAF制御に係る技術常識からすると、甲1発明に対して、集光点のAF制御を追加することは、当業者が容易になし得るものである。 (エ) 本件審決は、甲1発明が、レーザ光の集光点を加工対象物の内部に位置させて、改質領域を加工対象物の内部にのみ形成するものであり、加工される内部は許容範囲があるなどとして、加工中に集光点のAF制御を適用する動機付けがないと判断したが、誤りである。 甲1記載のいわゆる「ステルスダイシング」は、本件出願時には公知の技術であったが、その加工対象物として、30㎛程度までの薄いウエハが切断可能であることが本件出願前に既に技術常識であった。このような技術常識を踏まえて甲1の内容に触れた当業者は、振動などの外的要因の影響があっても、そのような薄いウエハから外れることなく内部のみに改質領域を形成するためには、加工中の集光点の制御が必要になると考えるから、加工中の集光点のAF制御については、ますます、甲1に記載されているに等しいと理解する。 (オ) 本件審決は、甲3~5に示された技術では、半導体ウエハの表面を加工するため、その位置の誤差の許容幅が小さくなるから、正確な集光点を合わせることが必然となるが、甲1発明では、改質領域を加工対象の内部に形成するところ、加工対象物の厚みを考慮すると、シリコンウエハの加工ができないような特段の事情が見当たらず、また、甲1には「ウエハの反り」についての記載がなく、問題とならないなどとして、甲1発明においては、加工中の集光点のAF制御適用する動機付けがない旨判断しているが、誤りである。 すなわち、甲1に記載された技術は、改質領域(クラック領 ての記載がなく、問題とならないなどとして、甲1発明においては、加工中の集光点のAF制御適用する動機付けがない旨判断しているが、誤りである。 すなわち、甲1に記載された技術は、改質領域(クラック領域)より形成されるクラックを成長させてウエハ等の割断を行うものであるところ、比較的厚いウエハの場合には、改質領域のZ方向の位置が割断精度に影響を与えるものであることは甲1にも明記されているし(甲1・105頁15~23行)、加えて、前記(エ)のとおり、甲1のようなステルスダイシングでは、30㎛程度までの極めて薄いウエハ - 17 -が切断可能である。そして、甲1に、シリコンウエハが加工対象物として明確に記載されているところ、本件出願時において、反りのあるウエハが加工対象となることが避けられないから(甲3~5)、甲1発明(装置の発明)においても、反りのあるシリコンウエハが加工対象になり得ることは、当業者であれば、十分に予想する。 また、甲44(特開平11-345785号公報。本件明細書の特許文献2)の記載から、切り残し部分が半分程度のセミフルカットのダイシングであっても、切断深度のバラツキに起因して、クラックが生じるなどの要因によりチップ分割に支障を来すことが理解できる。このような従来技術の問題に照らせば、従来技術のダイシングよりもはるかに分割の契機となる改質領域が少なく、改質領域以外の部分が大きい甲1発明において、改質領域の深度がばらつけば、チップ分割に支障を来すであろうことを当業者は当然に認識する。 (カ) 被告は、本件出願よりも1年以上前の平成14年12月6日、ステルスダイシングにおいて加工中のAF制御を組み合わせた出願をしたが(特開2004―188422号公報参照。甲38)、進歩性なしとされ、拒絶査定に至っており(甲39、40)、 成14年12月6日、ステルスダイシングにおいて加工中のAF制御を組み合わせた出願をしたが(特開2004―188422号公報参照。甲38)、進歩性なしとされ、拒絶査定に至っており(甲39、40)、被告は、拒絶査定不服審判請求をしなかった(甲41)。この点からも、相違点(ア)を容易想到と判断することが妥当であることが理解できる。 イ相違点(イ)について(ア) 相違点(イ)を次のとおり修正して論じる。 「本件発明においては、「初期位置」にレンズを保持した状態で前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除するのに対し、甲1発明においては、この点について、明示的な記載がない点。」(イ) 相違点(イ)に係る構成は、要するに、AF制御に向かない部分(端部)に対して、集光点のAF制御を行わないということにすぎない。甲1発明においては、切断対象材料として、広くシリコンウエハが開示されているところ、シリコンウエハでは、面取り(べべリング)は、通常行われる処理であるから、甲1発明のシリ - 18 -コンウエハにおいても、周縁部(端部)に集光点のずれの原因となる傾斜や段差が生じるので、甲1発明においては、シリコンウエハ端部における集光点のずれの問題が内在している。 (ウ) 本件審決は、甲1には、合焦動作がシリコンウエハの一端部に存在する平坦でない部分についても行われることや、加工対象物の平坦でない部分がフォーカス調整やレーザ加工に対して悪影響を及ぼすとの記載もないこと、甲1におけるフォーカス調整は、改質領域の形成(加工)に先立ってのみ行われ、加工対象物の表面の全体に沿って連続的に行うものではないから、シリコンウエハの一端部に存在する平坦ではない部分(段差部や研磨ダレ部 けるフォーカス調整は、改質領域の形成(加工)に先立ってのみ行われ、加工対象物の表面の全体に沿って連続的に行うものではないから、シリコンウエハの一端部に存在する平坦ではない部分(段差部や研磨ダレ部分等)に起因して光の合焦動作が困難になるとの課題が甲1に内在しているとはいえないと判断したが、誤りである。 すなわち、本件審決は、周知の技術的事項2と同じ解決課題が、甲1に記載されていなければ、甲1発明に対して周知の技術的事項2を組み合わせることができないとしたが、解決課題の共通性は、複数文献(周知技術の場合も同じ)の組合せを肯定する一つの理由にすぎず、それが全てではないから、上記のような考え方自体が誤っている。 そして、前記ア(オ)及び前記(イ)のとおり、当業者は、甲1発明では反りのあるウエハが加工対象となり得ると認識するところ、周知の技術的事項2として、加工対象物であるシリコンウエハについて、シリコンウエハの一端部に存在する平坦ではない部分(段差部や研磨ダレ部分等)に起因して光の合焦動作が困難になるとの課題が存在すること及び当該課題に対応して、そのような部分において合焦動作を一時的に停止させて焦点を固定し、そのような部分を外れると合焦動作を再開することにより、光の合焦動作を改善するという解決手段が知られていたから、甲1発明に係る装置においても、当業者は、当然に問題になり得る上記課題を解決すべく、周知の技術的事項2に係る解決手段を採用することは容易になし得た。 (エ) 本件審決は、シリコンウエハの一端部に存在する平坦ではない部分(段差部や研磨ダレ部分等)に起因して光の合焦動作が困難になるとの課題認識は、甲1発 - 19 -明に、加工中の集光点のAF制御に係る技術的事項(例えば、周知の技術的事項1)を適用するという改変をした際に初めて 部分等)に起因して光の合焦動作が困難になるとの課題認識は、甲1発 - 19 -明に、加工中の集光点のAF制御に係る技術的事項(例えば、周知の技術的事項1)を適用するという改変をした際に初めて生じるものであるから、その改変によって新たに生じた課題を解決するために、シリコンウエハの一端部に存在する平坦ではない部分について技術的事項(周知の技術的事項2)を更に適用することは、多段階での改変に該当するものであり、当業者にとって容易に想到し得たということはできないと判断した。 しかしながら、相違点(ア)(加工中における集光点のAF制御)は、当業者の技術常識に基づくと、甲1に記載されているに等しい。仮にそうでないとしても、相違点(ア)に係る構成は、レーザ加工ではいわば当たり前の構成であるから、容易想到性のハードルは極めて低い(実際、相違点(ア)は、本件明細書に当然の前提として記載されている構成である)。 そうすると、相違点(ア)(実際には相違点ではない。)を周知技術により容易想到と述べた上、相違点(イ)について、周知技術に基づいて容易想到としたとしても、多段階の改変(いわゆる容易の容易)には該当しない。 ウ被告の主張に対する反論(ア) 被告は、相違点1に係る本件発明1の構成は、AF追従制御に関連する一まとまりの構成であり、二つの相違点に分けることは妥当ではないと主張するが、本件審決も周知の技術的事項1の適用の可否(相違点(ア)に対応)と周知の技術的事項2の適用の可否(相違点(イ)に対応)の二つに分けて検討しているし、被告が、甲1発明に集点光のAF制御を組み合わせた発明を出願していたことからしても、相違点(ア)に係る構成が、分離可能な技術的に独立した構成であることは明らかである。 (イ) 相違点(ア)に関してa 被告は、相違点( のAF制御を組み合わせた発明を出願していたことからしても、相違点(ア)に係る構成が、分離可能な技術的に独立した構成であることは明らかである。 (イ) 相違点(ア)に関してa 被告は、相違点(ア)の容易想到性を論じる前提として、当該相違点を克服するために必要な技術常識は、甲1発明と同様の「加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工」において、加工中の集光点のAF制御を行うことに限定され - 20 -なければならないかのような主張をしているが、改良技術の初期の文献というのは、改良された部分に着目して説明するものが多く、ベースとなる包括的な技術において、基本的な技術を省略して記載する場合もあり得るのであり、対象とすべき文献に狭い縛りをかけることは不当である。 b 被告は、甲1・105頁15~23行の記載につき、改質領域を形成する深さ方向の位置が加工対象物の表面から遠すぎても近すぎても問題が生じ得るとの事項を表したものにすぎず、AF追従制御の必要性を何ら示唆するものではないと主張するが、これは、甲1に「文言として」何が書いてあるかを主張するにとどまり、甲1の記載を見た当業者が、技術常識に基づいて、どのように理解するかという点を考慮しないものである。 c 被告は、本件明細書は、「加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工」に「加工時におけるAF制御」の技術を適用すること自体の新規性や進歩性については何も述べていないと主張するが、本件明細書の段落【0004】には、「上記特許文献1記載のレーザ加工技術においては、次のような解決すべき課題がある。」とした上で、「加工対象物の端部においてレーザ光の集光点がずれる場合がある」と記載されているのであるから、本件発明において見いだされた解決課題は、「特許文献1記載のレーザ加工技術」すな 題がある。」とした上で、「加工対象物の端部においてレーザ光の集光点がずれる場合がある」と記載されているのであるから、本件発明において見いだされた解決課題は、「特許文献1記載のレーザ加工技術」すなわち、一般的なレーザ加工技術から導かれている。 被告は、なぜ、当業者が、出願時の技術常識に照らして、改質領域を形成する加工装置において加工中の集光点のAF制御が不要であると認識するのかについて、明確な根拠を示していない。 (ウ) 相違点(イ)に関して被告の「多段の改変」に関する主張は、相違点(ア)が容易想到でないことを述べるにとどまっており、被告も、相違点(イ)の容易想到性については争っていないものと理解される。 2 取消事由2(本件発明2に係る進歩性判断の誤り)本件審決の本件発明1に関する進歩性の判断は誤りであるから、本件発明2につ - 21 -いて、「本件発明1と同様の理由」により進歩性を欠如するということはできない。 本件発明2は、本件発明1を引用した上で、構成(2A)及び(2B)を備えているものであるところ、(2A)の構成は本件発明1に含まれる構成であり、(2B)の「前記制御手段は前記レンズを前記主面に向かう方向に駆動させずに保持するように前記保持手段を制御する」との構成は、必ずしも明確ではないが、加工対象物の他端においても、「端部一定高さ加工」を行うことを意味するものであると善解しても、当該構成も、前記1(3)イで述べた理由により、「周知の技術事項2」に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。 したがって、本件発明2に係る本件審決の判断は誤りである。 第4 被告の主張 1 取消事由1(本件発明1に係る進歩性判断の誤り)について(1) 甲1発明の認定及び相違点の認定について原告は、本件審決について、甲1発明 る本件審決の判断は誤りである。 第4 被告の主張 1 取消事由1(本件発明1に係る進歩性判断の誤り)について(1) 甲1発明の認定及び相違点の認定について原告は、本件審決について、甲1発明の認定並びに一致点及び相違点の認定に誤りがあると主張するが、次のとおり、本件審決の認定に誤りはない。 ア構成(1f’)について原告は、構成(1f’)の「固定位置に」を「初期位置に」と修正すべきであると主張するが、「初期位置」という用語は、本件発明1の構成(1F)~(1H)で使用されている用語であり、AF追従制御(レンズの焦点位置を加工対象物の表面の変位に追従するように自動的に制御するもの)の初期の位置という意味での「初期位置」であるところ、甲1には、そのような初期位置についての記載はないから、構成(1f’)を原告主張のように修正して認定することは妥当ではない。 甲1の記載からは、「改質領域7を形成する工程では、レンズ105の集光点の加工対象物内部のZ軸方向の調整された位置は、切断予定ライン5に沿って改質領域7を形成する工程において固定されたもの(固定位置)であること」が理解でき、審決が認定した構成(1f’)以上に本件発明の構成(1F)と対比するにふさわしい構成は甲1には開示されていないのであるから、審決の構成(1f’)についての - 22 -認定に誤りはない。 イ構成(1g+1h’)について原告は、本件審決が、①「固定位置に集光点Pが位置するように前記レンズ105を保持した状態で」、②「前記シリコンウエハと前記レンズ105とを前記表面3に沿って相対的に移動させるように」との構成を認定したが、これらについては甲1に記載がないから、本件審決の認定は誤りであると主張する。 しかしながら、甲1に文言上明記がされていないとしても、「甲 に沿って相対的に移動させるように」との構成を認定したが、これらについては甲1に記載がないから、本件審決の認定は誤りであると主張する。 しかしながら、甲1に文言上明記がされていないとしても、「甲1に記載されている事項から本件特許の出願時における技術常識を参酌することにより当業者が導き出せる事項」は、「甲1に記載されているに等しい事項」といえ、甲1発明の構成として認定して差し支えない。 そして、甲1の記載に、「甲1には、切断予定ライン5に沿って改質領域7を形成する際にレーザ光Lの集光点のZ軸方向の位置を調整すること示す記載は存在しない」という事実を考慮すれば、甲1に接した当業者が、甲1発明を、「改質領域を形成する工程で集光点のZ軸方向の位置を調整する」ことを含む発明であると理解することはあり得ず、甲1発明においては、「改質領域を形成する工程では集光点のZ軸方向の位置は固定位置に保持されている」と理解する。そうすると上記①部分は、甲1に記載されているに等しいといえる。 また、上記②部分は、原告が、審判請求書(甲23・13~14頁、15頁)において甲1発明が備える構成として主張していた構成そのものであるし、②部分を備えていないとしても、そのことが本件審決の結論にどう影響するか、原告の主張からは不明である。その点を措くとしても、甲1の5頁16~19行の「改質領域は、加工対象物の内部に合わされたレーザ光の集光点に対して、加工対象物を相対的に移動させることにより形成される。これによれば、上記相対的移動により、加工対象物の表面上の切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に改質領域を形成している。」等の記載を考慮すれば、上記②部分の構成も、「甲1に記載されているに等しい事項」といえる。 - 23 -ウ相違点1について前記ア及びイのと 加工対象物の内部に改質領域を形成している。」等の記載を考慮すれば、上記②部分の構成も、「甲1に記載されているに等しい事項」といえる。 - 23 -ウ相違点1について前記ア及びイのとおり、本件審決の甲1発明の構成の認定に誤りはないから、相違点の認定にも誤りはない。なお、本件審決が認定したとおりの相違点1が存在することも、本件の審判請求時には、原告が実質的に認めていた事項である。 (2) 容易想到性についてア相違点1に係る本件発明1の構成は、AF追従制御に関連する一まとまりの構成であるから、原告が主張するように二つの相違点(相違点(ア)及び相違点(イ))に分けることは妥当ではない。また、前記(1)のとおり、本件審決の相違点1の認定に誤りはないから、原告の主張するように相違点を修正することは妥当ではない。 原告の主張は、独自の見解に基づく相違点(ア)及び相違点(イ)についての容易想到性を論じるものであり、主張自体失当である。 イ(ア) 原告は、「本件出願時において、レーザ加工を行いつつ、高さ方向の集光点をAF制御することは、当業者の技術常識であった。」旨主張し、その根拠として甲32及び36を挙げる。しかしながら、甲32及び36には、「周知の技術的事項1」に相当する技術的事項と同様の技術的事項が記載されているだけであり、それらに記載された技術的事項が甲1発明のような「加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工」にも当てはまることを示す記載はないから、上記原告の主張は失当である。 (イ) 原告は、甲3~5を根拠として、加工対象物に凹凸があったり、ウエハに反りが存在したりすることが、レーザ光の焦点ずれの原因の一つとなり、加工をしながら集光点のAF制御が採用される理由となる旨の主張もしているが、甲3~5は、本件審決が正 象物に凹凸があったり、ウエハに反りが存在したりすることが、レーザ光の焦点ずれの原因の一つとなり、加工をしながら集光点のAF制御が採用される理由となる旨の主張もしているが、甲3~5は、本件審決が正しく認定しているとおり、「半導体ウエハの表面を加工すること」に関する事項を示すにすぎず、甲1発明のような「加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工」にも当てはまる「加工しながらの集光点のAF制御が採用される理由」を何ら示すものではない。 ウ原告は、甲1には集光点のAF制御が記載されているに等しく、仮に記載さ - 24 -れているに等しいといえないとしても、集光点のAF制御に係る技術常識からすると、甲1に対して集光点のAF制御を追加することは当業者が容易になし得るものであるなどと主張するが、甲1には、「前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させる制御」(集光点のAF制御)は全く記載されていないし、甲1に対して、集光点のAF制御を追加することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 本件明細書の記載(段落【0004】、【0006】)は、「加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工」に特許文献1(甲32)に開示されているような「加工時におけるAF制御」の技術を適用することを仮定した場合には、「加工対象物の端部におけるレーザ光の集光点のずれ」という新たな問題が生じる、という課題を記載したものであり、「加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工」に「加工時におけるAF制御」の技術を適用すること自体の新規性や進歩性については何も述べておらず、AF制御を採用することを当然の前提として発明の解決課題を論じるものではない。 原告の集光点のAF制御に関する主張はいずれも根拠を欠き、希望的臆測を述べるものにすぎない。 いては何も述べておらず、AF制御を採用することを当然の前提として発明の解決課題を論じるものではない。 原告の集光点のAF制御に関する主張はいずれも根拠を欠き、希望的臆測を述べるものにすぎない。 エ原告は、甲1の「クラック領域9と表面3の距離が比較的長いと、表面3側においてクラック91の成長方向のずれが大きくなる。これにより、クラック91が電子デバイス等の形成領域に到達することがあり、この到達により電子デバイス等が損傷する。」「表面3に近すぎる箇所にクラック領域9を形成するとクラック領域9が表面3に形成される。このため、クラック領域9そのもののランダムな形状が表面3に現れ、表面3のチッピングの原因となり、割断精度が悪くなる。」などの記載(105頁15~23行)を根拠にるる主張するが、甲1の当該部分の記載は、改質領域を形成する深さ方向の位置が加工対象物の表面から遠すぎても近すぎても問題が生じ得る、という事項を述べたものにすぎず、AF追従制御の必要性を示唆するものではない。 - 25 -原告は、本件出願時には、甲1記載の「ステルスダイシング」の加工対象物として、30㎛程度までの薄いウエハが切断可能であることは技術常識であり、当業者は、そのような薄いウエハの内部に改質領域を形成するためには、加工中の集光点の制御が必要であると考えるなどと主張するが、論理の飛躍がある。甲34(高岡秀嗣「極薄半導体ウェハのダイシングに最適なステルスダイシング技術の原理と特徴」(工業調査会発行「電子材料(2002年9月号)」17頁))、甲35(株式会社日経BP発行「日経マイクロデバイス(2003年12月号)」118頁)に、甲1発明に示されるようなステルスダイシング技術により厚さ30㎛までの薄型Siウエハにも適用可能である旨の記載があることは事実である P発行「日経マイクロデバイス(2003年12月号)」118頁)に、甲1発明に示されるようなステルスダイシング技術により厚さ30㎛までの薄型Siウエハにも適用可能である旨の記載があることは事実であるが、そのことは、甲1発明に甲3~5で知られていた技術的事項(周知の技術的事項1)を適用することについての動機付けがあったことを意味するものではない。甲34、35には周知の技術的事項1の適用を示唆する記載はなく、当業者がこれらの文献に接したとしても、甲1発明に周知の技術的事項1の適用を動機付けられることはない。 また、甲1にウエハの「反り」に関する記載がないということは、たとえ甲1発明が「反り」のあるウエハをも加工対象とするものであるとしても、甲1発明にとってはその「反り」は何らかの対策を講じる必要がある問題ではなかったということを表していると解されるから、甲1発明に周知の技術的事項1を適用する動機付けがないことを意味する。 オ一般に、「出願人が拒絶査定不服審判請求をしなかったこと」が、「出願人が拒絶査定の判断を認めたこと」も「拒絶査定の認定判断が正しいこと」も意味しないことは明らかである。したがって本件についても、被告が、甲38の特許出願についての拒絶査定不服審判請求をしなかったことが、「甲1発明において「加工中のAF制御」を適用することが容易想到であったこと」の理由にならないことは明らかである。なお、甲38は、本件出願時点では未公開であったから、本件発明1、2の新規性、進歩性の判断においては考慮する必要のないものである。 カ原告は、本件審決が、周知の技術的事項2と同じ解決課題が甲1に記載され - 26 -ていなければ、甲1発明に対して周知の技術的事項2を組み合わせることができないとしたなどと主張するが、本件審決の判断内容を正解し 、周知の技術的事項2と同じ解決課題が甲1に記載され - 26 -ていなければ、甲1発明に対して周知の技術的事項2を組み合わせることができないとしたなどと主張するが、本件審決の判断内容を正解しないものである。本件審決は、甲1発明に直接(周知の技術的事項1を採用することなく)周知の技術的事項2を組み合わせる動機付けが存在しないことが明らかであるとし、甲1発明からみると、周知の技術的事項2を適用することは多段階の改変に該当すると判断したものであり、その判断内容に誤りはない。 キ甲1発明が「反り」のあるウエハをも加工対象とするものであるとしても、周知の技術的事項1(加工中のAF制御)を採用しない甲1発明においては、「シリコンウエハの一端部に存在する平坦ではない部分(段差部や研磨ダレ部分等)に起因して光の合焦動作が困難になる」との課題は問題になり得ないから、「甲1発明に係る装置においても、当然に問題になり得る上記課題を解決すべく、周知の技術的事項に係る解決手段を採用することは、当業者が容易になし得るものである。」との原告の主張が誤りであることは明らかである。 ク原告は、本件審決が、多段階での改変に当たると判断したことが誤りであると主張するが、同主張は、加工中における集光点のAF制御が甲1に記載されているに等しいか、極めて容易に想到されるものであることを前提とするものであって、失当である。 2 取消事由2(本件発明2に係る進歩性判断の誤り)について本件発明2が、本件発明1の構成を含んで更に限定したものに相当することに争いはなく、本件発明1の進歩性が肯定される場合には当然に本件発明2の進歩性も肯定される。そして、前記1のとおり、本件発明1の進歩性を肯定した本件審決の判断に誤りはないから、本件発明2の進歩性も肯定されることとなり、原告 の進歩性が肯定される場合には当然に本件発明2の進歩性も肯定される。そして、前記1のとおり、本件発明1の進歩性を肯定した本件審決の判断に誤りはないから、本件発明2の進歩性も肯定されることとなり、原告の主張する取消事由2は存在しない。 第5 当裁判所の判断 1 本件発明について(1) 本件明細書(甲22)には、別紙「特許公報」のとおりの記載がある。 - 27 -(2) 前記(1)の記載によると、本件発明は次のとおりと認められる。 本件発明は、レーザ光を照射することで加工対象物を加工するためのレーザ加工方法及びレーザ加工装置に関するものである(本件明細書の段落【0001】。以下、段落番号のみで示す。)。 従来のレーザ加工技術には、加工対象物を加工するためのレーザ光を集光する集光レンズに対し、加工対象物の主面高さを測定する測定手段(接触式変位計や超音波距離計等)を所定の間隔をもって並設させたものがあり、このようなレーザ加工技術では、加工対象物の主面に沿ってレーザ光でスキャンする際に、測定手段により加工対象物の主面高さを測定し、その測定点が集光レンズの直下に到達したときに、その主面高さの測定値に基づいて集光レンズと加工対象物の主面との距離が一定となるように集光レンズをその光軸方向に駆動するものであるが、加工対象物の外側の位置からレーザ光の照射を開始してレーザ光と加工対象物とをその主面に沿って移動させて加工を行う場合に、測定手段は加工対象物の外側から測定を開始し、加工対象物の内側へと測定を行っていくことになるところ、この測定によって得られた主面高さの測定値に基づいて集光レンズを駆動すると、加工対象物の端部においてレーザ光の集光点がずれる場合があるという課題があった(【0002】、【0004】)。また、主面が凸凹している加工対象物を た主面高さの測定値に基づいて集光レンズを駆動すると、加工対象物の端部においてレーザ光の集光点がずれる場合があるという課題があった(【0002】、【0004】)。また、主面が凸凹している加工対象物を加工する従来技術には、加工準備として加工を施す部分全ての平面度を平面度測定手段(投光器と反射光受光器とを有する平面度測定器)によって測定した後、測定した平面度に基づいて加工対象物を加工するものがあるが、加工対象物の主面の平面度を正確に把握できるのものの、加工準備と実際の加工とで同じ部位を2度スキャンしなければならないため、時間がかかり加工効率が低下するという課題があった(【0003】、【0005】)。 そこで、本件発明1では、加工対象物の端部におけるレーザ光の集光点のずれを極力少なくしつつ効率よくレーザ加工を行うことができるレーザ加工方法及びレーザ加工装置を提供することを目的とし(【0006】)、本件発明のレーザ加工装置は、第一のレーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、加工対象物 - 28 -の切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、第1のレーザ光を前記加工対象物に向けて集光するレンズと、加工対象物とレンズとを加工対象物の主面に沿って移動させる移動手段と、レンズを主面に対して進退自在に保持する保持手段と、移動手段及び保持手段それぞれの挙動を制御する制御手段と、を備え、制御手段は集光点が加工対象物内部の所定の位置に合う状態となる初期位置にレンズを保持するように保持手段を制御し、当該位置にレンズを保持した状態で第一のレーザ光を照射しながら、制御手段は加工対象物とレンズとを主面に沿って相対的に移動させるように移動手段を制御して切断予定ラインの一端部において改質領域を形成し、切断予定ライン ズを保持した状態で第一のレーザ光を照射しながら、制御手段は加工対象物とレンズとを主面に沿って相対的に移動させるように移動手段を制御して切断予定ラインの一端部において改質領域を形成し、切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、制御手段はレンズを初期位置に保持した状態を解除してレンズと主面との間隔を調整しながら保持するように保持手段を制御し、レンズと加工対象物とを主面に沿って相対的に移動させるように移動手段を制御して改質領域を形成するとの構成をとることにより(【0023】)、初期位置にレンズを保持した状態で切断予定ラインの一端部において改質領域を形成するので、加工対象物の端部の形状変動による影響を極力排除して改質領域を形成することができ、切断予定ラインの一端部において改質領域を形成した後にレンズを保持した状態を解除し、レンズの位置を調整しながら残部において改質領域を形成するので、加工対象物内部の所定の位置に改質領域を形成することができるという効果を奏する(【0024】)。 また、本件発明のレーザ加工装置では、切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、制御手段はレンズを初期位置に保持した状態を解除してレンズと主面との間隔を調整しながら保持するように保持手段を制御し、レンズと加工対象物とを主面に沿って相対的に移動させるように移動手段を制御して改質領域を形成し、更に、制御手段はレンズを主面に向かう方向に駆動させずに保持するように保持手段を制御すると共に、レンズと加工対象物とを主面に沿って相対的に移動させるように移動手段を制御するものとすると、改質領域を形成した後にレンズを - 29 -主面に向かう方向に駆動しないように保持するので、例えば、次の切断予定ラインの加工に移行する際に円滑な移行が可能となるとの効果を 御するものとすると、改質領域を形成した後にレンズを - 29 -主面に向かう方向に駆動しないように保持するので、例えば、次の切断予定ラインの加工に移行する際に円滑な移行が可能となるとの効果を生じる(【0027】。 本件発明2)。 2 甲1発明について(1) 平成14(2002)年3月21日に国際公開された甲1(国際公開第02/22301号)は、発明の名称を「レーザ加工方法及びレーザ加工装置」とする特許協力条約に基づいて公開された国際出願の公開公報であり、その明細書及び図面には、次のア~オの記載がある。 ア技術分野「本発明は、半導体材料基板、圧電材料基板やガラス基板等の加工対象物の切断に使用されるレーザ加工方法及びレーザ加工装置に関する。」(甲1の明細書の1頁。 以下頁数のみで示す。)イ背景技術「レーザ応用の一つに切断があり、レーザによる一般的な切断は次の通りである。 例えば半導体ウエハやガラス基板のような加工対象物の切断する箇所に、加工対象物が吸収する波長のレーザ光を照射し、レーザ光の吸収により切断する箇所において加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を進行させて加工対象物を切断する。 しかし、この方法では加工対象物の表面のうち切断する箇所となる領域周辺も溶融される。よって、加工対象物が半導体ウエハの場合、半導体ウエハの表面に形成された半導体素子のうち、上記領域付近に位置する半導体素子が溶融する恐れがある。 加工対象物の表面の溶融を防止する方法として、例えば、特開2000-219528号公報や特開2000-15467号公報に開示されたレーザによる切断方法がある。これらの公報の切断方法では、加工対象物の切断する箇所をレーザ光により加熱し、そして加工対象物を冷却することにより、加工対象物の切断する箇所に熱衝撃を生じ 報に開示されたレーザによる切断方法がある。これらの公報の切断方法では、加工対象物の切断する箇所をレーザ光により加熱し、そして加工対象物を冷却することにより、加工対象物の切断する箇所に熱衝撃を生じさせて加工対象物を切断する。」(1頁)ウ発明の開示 - 30 -「しかし、これらの公報の切断方法では、加工対象物に生じる熱衝撃が大きいと、加工対象物の表面に、切断予定ラインから外れた割れやレーザ照射していない先の箇所までの割れ等の不必要な割れが発生することがある。よって、これらの切断方法では精密切断をすることができない。特に、加工対象物が半導体ウエハ、液晶表示装置が形成されたガラス基板や電極パターンが形成されたガラス基板の場合、この不必要な割れにより半導体チップ、液晶表示装置や電極パターンが損傷することがある。また、これらの切断方法では平均入力エネルギーが大きいので、半導体チップ等に与える熱的ダメージも大きい。 本発明の目的は、加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しないレーザ加工方法及びレーザ加工装置を提供することである。」(1~2頁)「(1)本発明に係るレーザ加工方法は、加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成する工程を備えることを特徴とする。 本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射しかつ多光子吸収という現象を利用することにより、加工対象物の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に係るレーザ加工方法によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加 成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に係るレーザ加工方法によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的小さな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。 また、本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の内部に局所的に多光子吸収を発生させて改質領域を形成している。よって、加工対象物の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないので、加工対象物の表面が溶融することはない。なお、集光点とはレーザ光が集光した箇所のことである。切断予定ラインは加工対象物の - 31 -表面や内部に実際に引かれた線でもよいし、仮想の線でもよい。」(2頁)エ発明を実施するための最良の形態(本実施形態の具体例)「[第1例]本実施形態の第1例に係るレーザ加工方法について説明する。図14はこの方法に使用できるレーザ加工装置100の概略構成図である。レーザ加工装置100は、レーザ光Lを発生するレーザ光源101と、レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、レーザ光Lの反射機能を有しかつレーザ光Lの光軸の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光Lを集光する集光用レンズ105と、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1が載置される載置台107と、載置台107をX方向に移動させるためのX軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移 光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1が載置される載置台107と、載置台107をX方向に移動させるためのX軸ステージ109と、載置台107をX軸方向に直交するY軸方向に移動させるためのY軸ステージ111と、載置台107をX軸及びY軸方向に直交するZ軸方向に移動させるためのZ軸ステージ113と、これら三つのステージ109、111、113の移動を制御するステージ制御部115と、を備える。 Z軸方向は加工対象物1の表面3と直交する方向なので、加工対象物1に入射するレーザ光Lの焦点深度の方向となる。よって、Z軸ステージ113をZ軸方向に移動させることにより、加工対象物1の内部にレーザ光Lの集光点Pを合わせることができる。また、この集光点PのX(Y)軸方向の移動は、加工対象物1をX(Y)軸ステージ109(111)によりX(Y)軸方向に移動させることにより行う。X(Y)軸ステージ109(111)が移動手段の一例となる。」(50~51頁)「レーザ加工装置100はさらに、載置台107に載置された加工対象物1を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119と、を備える。ビームスプリッタ119と集光用レンズ105との間にダイクロイックミラー103が配置されている。ビームスプリッタ11 - 32 -9は、可視光線の約半分を反射し残りの半分を透過する機能を有しかつ可視光線の光軸の向きを90°変えるように配置されている。観察用光源117から発生した可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され、この反射された可視光線がダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105を透過し、加工対象物1の切断予定ライ いる。観察用光源117から発生した可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され、この反射された可視光線がダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105を透過し、加工対象物1の切断予定ライン5等を含む表面3を照明する。 レーザ加工装置100はさらに、ビームスプリッタ119、ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えばCCD(charge-coupleddevice)カメラがある。切断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は、集光用レンズ105、ダイクロイックミラー103、ビームスプリッタ119を透過し、結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され、撮像データとなる。」(51~52頁)「レーザ加工装置100はさらに、撮像素子121から出力された撮像データが入力される撮像データ処理部125と、レーザ加工装置100全体を制御する全体制御部127と、モニタ129と、を備える。撮像データ処理部125は、撮像データを基にして観察用光源117で発生した可視光の焦点が表面3上に合わせるための焦点データを演算する。この焦点データを基にしてステージ制御部115がZ軸ステージ113を移動制御することにより、可視光の焦点が表面3に合うようにする。よって、撮像データ処理部125はオートフォーカスユニットとして機能する。また、撮像データ処理部125は、撮像データを基にして表面3の拡大画像等の画像データを演算する。この画像データは全体制御部127に送られ、全体制御部で各種処理がなされ、モニタ129に送られる。これにより、モニタ129に拡大画像等が表示される。」(52頁)「全体制御部127には、ステージ制御部115からのデータ、撮 127に送られ、全体制御部で各種処理がなされ、モニタ129に送られる。これにより、モニタ129に拡大画像等が表示される。」(52頁)「全体制御部127には、ステージ制御部115からのデータ、撮像データ処理部125からの画像データ等が入力し、これらのデータも基にしてレーザ光源制御部102、観察用光源117及びステージ制御部115を制御することにより、レ - 33 -ーザ加工装置100全体を制御する。」(52~53頁)「加工対象物1はシリコンウエハである。 まず、加工対象物1の光吸収特性を図示しない分光光度計等により測定する。この測定結果に基づいて、加工対象物1に対して透明な波長又は吸収の少ない波長のレーザ光Lを発生するレーザ光源101を選定する(S101)。次に、加工対象物1の厚さを測定する。厚さの測定結果及び加工対象物1の屈折率を基にして、加工対象物1のZ軸方向の移動量を決定する(S103)。これは、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部に位置させるために、加工対象物1の表面3に位置するレーザ光Lの集光点を基準とした加工対象物1のZ軸方向の移動量である。この移動量を全体制御部127に入力される。 加工対象物1をレーザ加工装置100の載置台107に載置する。そして、観察用光源117から可視光を発生させて加工対象物1を照明する(S105)。照明された切断予定ライン5を含む加工対象物1の表面3を撮像素子121により撮像する。この撮像データは撮像データ処理部125に送られる。この撮像データに基づいて撮像データ処理部125は観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置するような焦点データを演算する(S107)。 この焦点データはステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ113を 17の可視光の焦点が表面3に位置するような焦点データを演算する(S107)。 この焦点データはステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115は、この焦点データを基にしてZ軸ステージ113をZ軸方向の移動させる(S109)。 これにより、観察用光源117の可視光の焦点が表面3に位置する。」(53頁)「全体制御部127には予めステップS103で決定された移動量データが入力されており、この移動量データがステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115はこの移動量データに基づいて、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部となる位置に、Z軸ステージ113により加工対象物1をZ軸方向に移動させる(S111)。 次に、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを加工対象物1の表面3の切断予定ライン5に照射する。レーザ光Lの集光点Pは加工対象物1 - 34 -の内部に位置しているので、溶融処理領域は加工対象物1の内部にのみ形成される。 そして、切断予定ライン5に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させて、溶融処理領域を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成する(S113)。」(54頁)「[第10例]本実施形態の第10例は、加工対象物の厚み方向におけるレーザ光の集光点の位置を調節することにより、加工対象物の厚み方向における改質領域の位置を制御している。」(104頁)「図98に示すクラック領域9は、パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面(入射面)3に近い位置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工対象物1の内部中の表面3側に形成される。図99は図98に示す加工対象物1の部分断面図である。クラック領域9が表面3側に形成されているので い位置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工対象物1の内部中の表面3側に形成される。図99は図98に示す加工対象物1の部分断面図である。クラック領域9が表面3側に形成されているので、自然に成長するクラック91は表面3又はその近傍に到達する。よって、切断予定ライン5に沿った割れが表面3に生じやすいので、加工対象物1を容易に切断することができる。」(105頁)「なお、パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面3に遠い位置に調節してクラック領域9を形成することもできる。 この場合、クラック領域9は加工対象物1の内部中の裏面21側に形成される。」(105~106頁) - 35 -オ図面 - 36 - (2) 甲1発明について前記(1)によると、甲1には、次のとおりの甲1発明が記載されているものと認められる(前記第2の3(1)の本件審決の認定した甲1発明とは異なる部分に下線を付 - 37 -した。)。 (1a)レーザ光Lを加工対象物1であるシリコンウエハの内部に集光点Pを合わせて照射し、前記シリコンウエハの切断予定ライン5に沿って前記シリコンウエハの内部に改質領域7を形成するレーザ加工装置100であって、(1b) 前記レーザ光Lを前記シリコンウエハに向けて集光するレンズ105と、(1c) 前記シリコンウエハと前記レンズ105とを前記シリコンウエハの表面3(レーザ光Lの入射面)に沿って移動させるX、Y軸ステージ109、111及びステージ制御部115と、(1d) 前記レンズ105を前記表面3に対して進退自在に保持する保持手段と、(1e) 前記X、Y軸ステージ109、111、ステージ制御部115、及び前記保持手段それぞれの挙動を制御する全体制御部127 ) 前記レンズ105を前記表面3に対して進退自在に保持する保持手段と、(1e) 前記X、Y軸ステージ109、111、ステージ制御部115、及び前記保持手段それぞれの挙動を制御する全体制御部127と、を備え、(1f’) 前記全体制御部127は前記集光点Pが前記シリコンウエハ内部の所定の位置に合う状態となる位置に前記レンズ105を保持するように前記保持手段を制御し、(1g+1h’) 前記レーザ光Lを照射しながら、前記全体制御部127は前記X、Y軸ステージ109、111及びステージ制御部115を制御して前記切断予定ライン5の一端部を含む前記切断予定ライン5に沿って改質領域7を形成する、(1i)上記レーザ加工装置100。 (3) 甲1発明の認定についての補足ア構成(1f’)について本件審決は、構成(1f’)において、前記レンズ105が「固定位置」に保持されるものと認定したが、甲1には、レンズ105の位置が固定である旨の記載はない。そして、前記(1)のとおり、甲1には「全体制御部127には予めステップS103で決定された移動量データが入力されており、この移動量データがステージ制御部115に送られる。ステージ制御部115はこの移動量データに基づいて、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部となる位置に、Z軸ステージ113によ - 38 -り加工対象物1をZ軸方向に移動させる(S111)。」(54頁)との記載があるから、甲1発明においては、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部となる位置に、加工対象物1をZ軸方向に移動させており、この移動量については、甲1に「加工対象物1の厚さを測定する。厚さの測定結果及び加工対象物1の屈折率を基にして、加工対象物1のZ軸方向の移動量を決定する(S103)。」(53頁)とあるから、甲1発 この移動量については、甲1に「加工対象物1の厚さを測定する。厚さの測定結果及び加工対象物1の屈折率を基にして、加工対象物1のZ軸方向の移動量を決定する(S103)。」(53頁)とあるから、甲1発明による厚さの測定結果及び加工対象物1(シリコンウエハ)の屈折率から決定されるものである。そして、加工対象物1をZ軸方向に移動させることにより、加工対象物1との関係におけるレンズ105の位置が定まるので、上記各記載によると、甲1発明においては、レンズ105は、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部となる位置に合う状態となる位置に保持されるものと認められる。 なお、原告は、「固定位置」に代えて「初期位置」と認定すべきと主張するが、甲1の記載からは、上記のように定められたレンズ105の位置が、本件発明1と同じ意味における初期位置であるとの限定がされているとまではいえないので、甲1発明については、前記(2)のとおり認定するのが相当である。 イ構成(1g+1h’)について本件審決は、構成(1g+1h’)について、「シリコンウエハ内部の調整された固定位置に集光点Pが位置するように前記レンズ105を保持した状態で前記レーザ光Lを照射しながら、」「前記全体制御部127は前記シリコンウエハと前記レンズ105とを前記表面3に沿って相対的に移動させるように前記X、Y軸ステージ109、111及びステージ制御部115を制御」して改質領域を形成するものと認定した。 しかしながら、前記アで指摘した甲1の記載によると、甲1発明においては、レーザ光Lの集光点Pが加工対象物1の内部となる位置に合うようにレンズ105が保持されるものであるものの、集光点Pがシリコンウエハ内部の固定位置に位置することについての記載はないから、甲1発明において、「シリコンウエハ内部の調整さ の内部となる位置に合うようにレンズ105が保持されるものであるものの、集光点Pがシリコンウエハ内部の固定位置に位置することについての記載はないから、甲1発明において、「シリコンウエハ内部の調整された固定位置に集光点Pが位置するように前記レンズ105を保持した状態で前 - 39 -記レーザ光Lを照射」しているとは認められない。 また、前記(1)のとおり、甲1には「切断予定ラインは加工対象物の表面や内部に実際に引かれた線でもよいし、仮想の線でもよい。」(2頁)との記載があるとともに、甲1発明に相当する本実施形態の具体例[第1例]について、「レーザ光Lを加工対象物1の表面3の切断予定ライン5に照射する。レーザ光Lの集光点Pは加工対象物1の内部に位置しているので、溶融処理領域は加工対象物1の内部にのみ形成される。そして、切断予定ライン5に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させて、溶融処理領域を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成する(S113)。」(54頁)との記載があるから、甲1発明における切断予定ライン5は加工対象物1の表面に実際に又は仮想的に引かれた線であると認められる。そして、上記の(S113)に係る記載のとおり、甲1には、レーザ光Lを照射しながら加工対象物1であるシリコンウエハをX軸方向やY軸方向に移動せることが記載されているものの、レーザ光Lを照射しながら加工対象物1をZ軸方向に移動させることについての記載はなく、示唆もない。 そうすると、甲1発明においては、表面3に引かれた切断予定ライン5に沿うようにX軸方向及びY軸方向にシリコンウエハを移動するような制御がされていると認められるものの、シリコンウエハの厚みやZ軸方向の位置に変化があった場合に、シリコンウエハとレンズ105を、表面3のZ ようにX軸方向及びY軸方向にシリコンウエハを移動するような制御がされていると認められるものの、シリコンウエハの厚みやZ軸方向の位置に変化があった場合に、シリコンウエハとレンズ105を、表面3のZ軸方向の変化に合わせて、Z軸方向に移動させるような制御がされているとはいえない。 3 取消事由1について(1) 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点本件発明1と前記の甲1発明を比較すると、次の一致点及び相違点があると認められる。 ア一致点第一のレーザ光を加工対象物の内部に集光点を合わせて照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域を形成するレーザ加工 - 40 -装置であって、前記第1のレーザ光を前記加工対象物に向けて集光するレンズと、前記加工対象物と前記レンズとを前記加工対象物の主面に沿って移動させる移動手段と、前記レンズを前記主面に対して進退自在に保持する保持手段と、前記移動手段及び前記保持手段それぞれの挙動を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は前記集光点が前記加工対象物内部の所定の位置に合う状態となる位置に前記レンズを保持するように前記保持手段を制御し、前記第一のレーザ光を照射しながら、前記制御手段は前記加工対象物を移動させるように前記移動手段を制御して前記切断予定ラインの一端部において改質領域を形成する、レーザ加工装置。 イ相違点本件発明1は、「初期位置」にレンズを保持した状態で「前記切断予定ラインの一端部において改質領域が形成された後に、前記制御手段は前記レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前 レンズを前記初期位置に保持した状態を解除して前記レンズと前記主面との間隔を調整しながら保持するように前記保持手段を制御し、前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する」ことを特定しているのに対して、甲1発明は、そのような特定がされない点。 (2) 容易想到性ア本件審決の認定したとおり、証拠(甲3~5)によると、周知の技術的事項1(半導体ウエハをレーザ加工する技術分野において、半導体ウエハに反りがあると加工位置に対して加工用レーザ光の焦点がずれることから、測距用レーザ光を半導体ウエハに照射し、半導体ウエハの切断予定ラインに沿った表面(主面)の変位を取得して、取得した主面の変位に基づき、加工用レーザ光のレンズと半導体ウエハの主面との間隔を調整することで、加工用レーザ光の焦点の位置を調整し、半導 - 41 -体ウエハの表面を加工すること)が、証拠(甲6及び7)によると、周知の技術的事項2(対象物であるシリコンウエハについて、シリコンウエハの一端部に存在する平坦ではない部分(段差部や研磨ダレ部分等)に起因して光の合焦動作が困難になることから、そのような部分において合焦動作を一時的に停止させて焦点を固定し、そのような部分を外れると合焦動作を再開することにより、光の合焦動作を改善すること)が、それぞれ周知であったものと認められる(前記第2の3(3)ア)。 イ前記(1)イの相違点に係る構成を甲1発明において採用することが容易想到といえるか検討するに、甲1には、加工対象物の反りや、X、Y軸ステージの振動等により、レーザ光の焦点ずれが生じ得ることについての記載はなく、加えて、前記2(1)エのとおり、甲1(105頁)には「図98に示すクラック領域9は、パルスレーザ光Lの集光 、X、Y軸ステージの振動等により、レーザ光の焦点ずれが生じ得ることについての記載はなく、加えて、前記2(1)エのとおり、甲1(105頁)には「図98に示すクラック領域9は、パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面(入射面)3に近い位置に調節して形成されたものである。クラック領域9は加工対象物1の内部中の表面3側に形成される。」「パルスレーザ光Lの集光点を加工対象物1の厚み方向において厚みの半分の位置より表面3に遠い位置に調節してクラック領域9を形成することもできる。」といった記載があり、甲1発明においては、シリコンウエハ内部の改質領域の位置は、シリコンウエハの厚み方向において厚みの半分の位置よりも表面に近い位置から、同半分の位置よりも表面に遠い位置までの、ある程度の幅をもった範囲に設定され得るものであると理解されることからすると、甲1の記載に触れた当業者が、直ちに、X、Y軸ステージの振動等の外的要因や加工対象物であるシリコンウエハの反りのために、レーザ光の集光点のZ軸方向の位置がずれ、改質領域の位置がずれることによって、シリコンウエハの割れに大きな影響を及ぼして品質低下を生じさせると理解するとはいえない。 そうすると、甲1発明において、AF制御をする動機付けがあると認めることはできない。また、周知の技術的事項1は半導体ウエハの表面の加工についてのAF制御をいうものであるところ、これが周知であるからといって、動機付けがないにもかかわらず、甲1発明のようなステルスダイシングに適用できるとはいえない。 - 42 -したがって、甲1発明において「前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する」構成を採用することについて、当業者が容 - 42 -したがって、甲1発明において「前記レンズと前記加工対象物とを前記主面に沿って相対的に移動させるように前記移動手段を制御して改質領域を形成する」構成を採用することについて、当業者が容易に想到できたと認めることはできない。 ウ(ア) 原告は、レーザ加工の技術分野において、加工時におけるレーザビームの振動やテーブルの振動などの外的要因や加工対象物の凹凸や反りが、レーザ光の焦点ずれの原因となることが知られており、高さ方向(Z軸方向)の集光点をAF制御することは当然のことであり技術常識であったから、Z軸方向のAF制御をすることは甲1に記載されているに等しく、少なくとも容易想到であると主張する。 しかしながら、甲1には、加工時に、レーザ光Lの集光点Pについて、Z軸方向の制御をすることについての記載はない。また、前記2(1)ウのとおり、甲1(2頁)には「本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射しかつ多光子吸収という現象を利用することにより、加工対象物の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に係るレーザ加工方法によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的小さな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。」との記載があり、同記載に照らすと、甲1発明は、加工対象物であるシリコンウエハの内部に改質領域を形成して、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物を割るというものである。そして、前記アのとおり、周 あり、同記載に照らすと、甲1発明は、加工対象物であるシリコンウエハの内部に改質領域を形成して、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物を割るというものである。そして、前記アのとおり、周知の技術的事項1は、半導体ウエハの表面を加工する際に、半導体ウエハに反りがあると加工位置に対して加工用レーザ光の焦点がずれることから、表面の変位に基づいてAF制御をして表面を加工するというものであるところ、シリコンウエハの内部に改質領域を形成する際に、このような半導体ウエハの表面加工に係る周知の技術的事項1をそのまま適用できるとはいえない。 - 43 -(イ) 当業者が、甲1の記載から、甲1発明において、加工中の集光点AF制御が当然に採用されるものと理解するといえるには、甲1発明において、シリコンウエハの反りやX、Y軸ステージの振動により、集光点のZ軸方向の位置がずれ、その結果、改質領域が形成される位置がずれることとなり、その改質領域の位置のZ軸方向のずれに起因して割断精度が悪くなる等の品質低下の問題を生じることが明らかであり、そのために、AF制御が必要であることまでを当業者が認識することを要するものと考えられる。ところが、当業者にとって、上記のような問題が生じることが明らかであると認識できたと認めるに足りる証拠はなく、そのような技術常識は認められないところ、前記のとおり、甲1には、改質領域が形成される位置が、ある程度の幅をもった範囲に設定され得ることを示唆する記載があるから、周知の技術的事項1を考慮しても、また、甲1発明の加工対象物として、30㎛程度までの薄いシリコンウェアが対象となり得ることを考慮しても、当業者が、甲1の記載から、甲1発明において加工中の集光点のAF制御が当然に採用されると理解するとはいえない。 (ウ) 原告は 30㎛程度までの薄いシリコンウェアが対象となり得ることを考慮しても、当業者が、甲1の記載から、甲1発明において加工中の集光点のAF制御が当然に採用されると理解するとはいえない。 (ウ) 原告は甲1の「クラック領域9と表面3の距離が比較的長いと、表面3側においてクラック91の成長方向のずれが大きくなる。これにより、クラック91が電子デバイス等の形成領域に到達することがあり、この到達により電子デバイス等が損傷する。クラック領域9を表面3付近に形成すると、クラック領域9と表面3の距離が比較的短いので、クラック91の成長方向のずれを小さくできる。よって、電子デバイス等を損傷させることなく切断が可能となる。但し、表面3に近すぎる箇所にクラック領域9を形成するとクラック領域9が表面3に形成される。このため、クラック領域9そのもののランダムな形状が表面3に現れ、表面3のチッビングの原因となり、割断精度が悪くなる。」との記載(105頁15~23行)をもって、比較的厚いウエハの場合には、改質領域のZ軸方向の位置が割断精度に影響を与えるものであることが甲1に明記されていると主張するが、同記載をもって、シリコンウエハの反りやX、Y軸ステージの振動に起因する改質領域の形成される位 - 44 -置のZ軸方向のずれが、品質低下の問題を生じる程度のものであることが明らかとなるものではないから、上記記載部分を踏まえても、当業者が、甲1の記載から甲1発明において加工中の集光点のAF制御が当然に採用されると理解するとはいえない。 (エ) 原告は、本件明細書(【0004】)に、従来技術に加工対象物の端部においてレーザ光の集光点がずれる場合があるとの課題があると記載されていることからも、一般的なレーザ加工技術の課題として、甲1発明においても、加工中の集光点のAF 】)に、従来技術に加工対象物の端部においてレーザ光の集光点がずれる場合があるとの課題があると記載されていることからも、一般的なレーザ加工技術の課題として、甲1発明においても、加工中の集光点のAF制御が必要であると主張するが、本件明細書の上記記載を踏まえても、前記(イ)のとおり、当業者が、甲1発明において、加工対象物の内部に改質領域を形成するために、加工時におけるAF制御としての加工中のZ軸方向の位置の制御が必要であるとの課題を認識するとはいえない。また、原告が指摘する証拠はいずれも、加工対象物の内部に改質領域を形成する甲1発明において、加工中のZ軸方向の位置の制御が必要であることが技術常識であることを裏付けるものとはいえない。 そして、原告主張に係る被告の本件以外の出願の状況が、本件発明の進歩性の判断を左右するものではない。 (オ) そうすると、原告の主張はいずれも理由がない。 (3) 小括したがって、本件発明1が、甲1発明に周知の技術的事項を適用して当業者が容易に想到できたものとは認められないから、原告の主張する取消事由1には理由がない。 (4) 本件発明2について本件発明2は、本件発明1の構成を全て包含するものであるところ、前記のとおり、本件発明1の構成は甲1発明に周知の技術的事項を適用して当業者が容易に想到できたものではないから、本件発明2についても、甲1発明に周知の技術的事項を適用して当業者が容易に想到できたものとはいえない。 したがって、原告の主張する取消事由2には理由がない。 - 45 -第6 結論以上の次第であるから、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 第であるから、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 主文 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 本多知成 裁判官 浅井憲 裁判官 勝又来未子 (別紙)当事者目録 原告 株式会社東京精密 同訴訟代理人弁護士 服部誠 中村閑 柿本祐依 同訴訟代理人弁理士 相田義明 山下崇 同訴訟復代理人弁理士 加藤志麻子 被告 浜松ホトニクス株式会社 同訴訟代理人弁護士 設樂隆一 尾関孝彰 河合哲志 松本直樹 大澤恒夫 同訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹 柴田昌聰 小曳満昭 同訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹 柴田昌聰 小曳満昭
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