平成15(わ)362 殺人未遂被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年7月15日 神戸地方裁判所
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判決文本文4,971 文字)

主文 被告人を懲役3年に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成15年3月7日午前6時ころ,兵庫県伊丹市a町b丁目c番地A荘1階B方において,かねてより交際していたC(当時54歳)から「別れようね。」と言われ,同女が本気で自分と別れようとしていると感じたことなどから腹を立て,同女に対し,その顔面等を手拳で多数回殴打するなどの暴行を加えるうち,自分が同女を大切に思っているのに,同女はそれに答えてくれないなどとの思いを募らせて激高し,この上は同女を殺害しようと決意し,同居宅内にあったこたつの電気コード(平成15年押第62号の2)を転倒していた同女の頸部に巻き付けて強く絞め付けたが,同女がコードと首の間に両手の指を入れて抵抗するなどしたため,殺害の目的を遂げないまま,ついで,同女に対し,「今まで買ってやったもん返せ。」などと言ったところ,同女から「男が1回くれたもん,返せって言うんか。」と文句を言われたことなどからまた激高し,同女が死亡するに至るかもしれないことを認識しながら,あえて,台所から持ち出したフライパン(直径約27センチメートル,重量約1060グラム,同押号の1)で,同女の頭部を数回強打する暴行を加えたが,同女が身動きしなくなったことから,同女が死亡したものと思い込んで更なる攻撃を加えなかったため,同女に加療約3週間を要する顔面・頭部打撲兼血腫,頸部こうやく等の傷害を負わせたにとどまり,同女を殺害するに至らなかったものである。 (証拠の標目)-括弧内は証拠等関係カードの検察官請求証拠番号省略(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,被告人には被害者に対する殺意がなかったので,傷害罪が成立するにと らなかったものである。 (証拠の標目)-括弧内は証拠等関係カードの検察官請求証拠番号省略(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,被告人には被害者に対する殺意がなかったので,傷害罪が成立するにとどまる旨主張し,被告人も当公判廷ではこれに沿う供述をするが,当裁判所は,被告人が電気コードで被害者の頸部を絞め付けた行為には被害者に対する確定的な殺意が認められるし,フライパンで被害者の頭部を数回殴打した行為には被害者に対する未必的な殺意が認められるから,殺人未遂罪が成立すると判断したので,以下,その理由について補足して説明する。 2 電気コードで被害者の頸部を絞め付けた行為について(1) 人の頸部を相当な力でもって一定の時間絞め付ければ,人を死に至らしめる危険性が高いことは言を俟たないところ,関係各証拠によれば,被告人は,テレビ台に後頭部をぶつけてうずくまっている被害者の頸部に電気コードを巻き付け,向かい合う形でその頸部を絞め付けた後,更に被害者がもがいているにもかかわらず,背後にまわってその頸部を1分ほど絞め付け,そのため,被害者の眼球には被害6日後においても頸部内の静脈の閉塞によって生じた鬱血が見られ,その頸部には被害9日後においても2本の索状痕がはっきりと残っていたことが認められ,被告人は相当に強い力で被害者の頸部を絞め付け,その時間も決して短いものではなかったというべきであるから,被害者がコードと首との間に指を入れて頸部が絞まらないように抵抗するなどしていなければ,被告人が被害者を殺害するに至っていたことも十分あり得たとみるのが相当である。 そして,被告人は,捜査段階において,上記認定したとおりの経緯から激高し,被害者を殺害しようと思って本件犯行に及んだと供述していたものであって,その内容は被害者を殺害する動機として決して不 。 そして,被告人は,捜査段階において,上記認定したとおりの経緯から激高し,被害者を殺害しようと思って本件犯行に及んだと供述していたものであって,その内容は被害者を殺害する動機として決して不自然なものではないということができるし,上記行為態様や創傷の程度などとも合致しているのであるから,その信用性を十分に認めることができる。 (2) これに対し,被告人は,当公判廷において,被害者を懲らしめるつもりで電気コードで被害者の頸部を絞め付けたものであって,殺すつもりはなかったし,絞め付けたのが1回か2回かはっきり覚えておらず,その時間も10秒か20秒くらいに過ぎない旨供述し,また,被害者も,当公判廷においては,被告人から電気コードで頸部を絞められたのは1回だけであり,それほどきつく絞められてはいないし,その時間もそれほど長くなかったと思う旨供述する。 しかしながら,被告人及び被害者の当公判廷における各供述のいう上記のような行為態様では,被害者がコードと首の間に指を入れて頸部が絞まらないように抵抗しているのにかかわらず,被害者に上記のような創傷が生じ得るとは考え難い上,特に,被害者は,現在では本件の被害届を取り下げ,公判廷でも被告人をできれば執行猶予にして欲しいと述べるなど,被告人の刑事責任の軽減を望んでいるものであって,その公判廷における供述は被告人をかばって殊更被告人に有利に供述している様子が明らかに認められるのであるから,上記のような被告人及び被害者の当公判廷における各供述をそのまま信用することはできない。 (3) 以上のとおりであるから,被告人は,被害者に対する確定的な殺意をもって,電気コードで被害者の頸部を絞め付けたものと認定するのが相当である。 3 フライパンで被害者の頭部を殴打した行為について(1) 関係各証拠によれ から,被告人は,被害者に対する確定的な殺意をもって,電気コードで被害者の頸部を絞め付けたものと認定するのが相当である。 3 フライパンで被害者の頭部を殴打した行為について(1) 関係各証拠によれば,本件犯行に用いられたフライパンは,重量約1060グラム,鋼鉄製の正円形状の調理フライパンであって,身体の枢要部である頭部等を相当な力で多数回殴打すれば相手を殺傷することが可能なものであること,被告人は,上記認定した経緯から再び激高し,被害者を殴るために台所から上記フライパンを持ち出し,倒れ込んでいる被害者に対して,上記フライパンを肩の高さまで振り上げて横に振るようにしてその右頭部を3回殴った後,被害者が逃げようと玄関の方向へ這って進んでいるのを見て,「しぶといやっちゃな。」と言い,右手に持っていた上記フライパンを肩よりやや上に持ち上げ,被害者の後頭部を狙ってやや斜め下に振り下ろして2回殴打した(なお,被害者は,当公判廷においては,被告人にフライパンで頭部を殴られたのは合計2回である旨供述するが,前示のとおり,被害者のこの供述を信用することはできない)こと,被告人は,上記殴打行為後,被害者が動かなくなったことを認識したのに,何ら救護措置を執らず,さらに,部屋の鍵を閉めてその場を離れ,犯行後3日間自宅に帰らずに野宿をし,逮捕後は,犯行当日被害者宅にいたこと自体を否定する供述をしていたことが認められる。 (2) 以上の事実によれば,本件のフライパンによる頭部殴打の行為には被害者を死に至らしめる危険性があったことを否定できないこと,被告人がその行為に及ぶ前に被害者に対する憤激の情がおさまる事情が生じていたとは認められないこと,被告人は被害者が動かなくなるまで上記殴打行為を続けていること,被告人は本件犯行後救護措置を執らなかっただけでなく,上記の 前に被害者に対する憤激の情がおさまる事情が生じていたとは認められないこと,被告人は被害者が動かなくなるまで上記殴打行為を続けていること,被告人は本件犯行後救護措置を執らなかっただけでなく,上記のとおり発覚防止工作をしたり,自宅に帰らず逃亡したりしているのであるから,被害者に対して重大な結果を生じさせたと思ったものと推察されることなどを併せ考えると,その行為態様やそれによって生じたと思われる被害者の負傷の程度等からして,被告人がフライパンで被害者の頭部を殴打した行為が確定的な殺意に基づくものとまでは認め難いけれども,未必的な殺意に基づくものであることは間違いないと認めるのが相当である。 4 以上のとおりであって,被告人の判示の行為には被害者に対する殺意を認めることができるから,被告人には殺人未遂罪が成立する。 (法令の適用)被告人の判示所為は包括して刑法203条,199条に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で,被告人を懲役3年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,男女関係にあった被害者から別れ話をもちかけられたことなどに激高し,確定的な殺意をもって,電気コードで被害者の頸部を絞め付けて同女を殺害しようとし,さらに未必的な殺意をもって,フライパンでその頭部を多数回殴打するなどしたものの,同女を殺害するに至らなかったという殺人未遂の事案である。 被告人は,被害者から本気で別れを告げられたものと思い,前記認定した経緯から本件犯行に及んだものであって,その安易かつ短絡的な犯行動機に酌量の余地は乏しいこと,被告人は,同女に対して 案である。 被告人は,被害者から本気で別れを告げられたものと思い,前記認定した経緯から本件犯行に及んだものであって,その安易かつ短絡的な犯行動機に酌量の余地は乏しいこと,被告人は,同女に対して一方的に執拗かつ強力な暴行を加えた上,うずくまっている被害者の頸部を電気コードで2回強く絞め付け,さらに上記暴行等を加えられて倒れ込んでいる被害者の頭部を狙いフライパンを5回も振り下ろして殴打しているのであって,その犯行態様は執拗かつ悪質であり,被害者の生命を侵害する危険性の高いものであったこと,被害者は本当に死んでしまうのではないかという恐怖感を味わわされた上,軽微とはいえない傷害をも負わされたものであって,その精神的肉体的苦痛は大きいこと,被告人は,本件犯行後被害者宅に施錠して逃走するなど,本件が発覚しないような工作をもしていること,被告人は捜査段階の後半まで被害者宅に行ったこと自体を否認し,公判廷においても被害者の首を強くは絞め付けていないなどと不合理な弁解を述べており,反省の態度が十分みられないことなどを考え併せると,犯情は悪く,被告人の刑事責任は軽くはないといわざるを得ない。 しかしながら,幸いにも本件犯行は未遂に止まり,被害者の負った傷害の程度も重篤なものではないこと,本件犯行は,互いに酒に酔った状態のときに,本気かどうか明らかではないが,被害者が唐突に別れ話を切り出したために,被告人が激高して行われたものであって,被害者に責められるべき点が全くないとはいいきれないし,酔余の上の偶発的な犯行であること,被告人の兄が被害者に対し治療代として5万円を支払った上,被害弁償金及びお詫び料等として20万円を支払っていること,被害者は当公判廷において被告人を執行猶予にして欲しい旨述べ,寛大な判決を求める旨の上申書をも提出し,被告人を宥恕して て5万円を支払った上,被害弁償金及びお詫び料等として20万円を支払っていること,被害者は当公判廷において被告人を執行猶予にして欲しい旨述べ,寛大な判決を求める旨の上申書をも提出し,被告人を宥恕していること,被告人は一応反省の弁を述べており,被告人の兄が今後の監督をする旨述べていること,被告人は本件により4か月以上の期間身柄を拘束されていることなどの,被告人のために酌むべき事情もまた認められるので,今回に限り,被告人に対して社会内更生の機会を与えることとし,主文の刑に処した上で,その刑の執行を猶予するのが相当である。 (検察官の科刑意見懲役5年)よって,主文のとおり判決する。 平成15年7月15日神戸地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官森岡安廣 裁判官川上宏 裁判官伏見尚子

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