主文 1 被告古川町長が平成14年2月19日にした原告及び選定者らの転入届を不受理とする各処分を取り消す。 2 被告古川町は,原告に対し,原告及び選定者らのために一人当たり5万円及びこれに対する平成14年2月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告の被告古川町に対するその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用のうち,原告と被告古川町長との間に生じたものは被告古川町長の負担とし,原告と被告古川町との間に生じたものはこれを10分し,その1を被告古川町の,その余を原告の各負担とする。 5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主文第1項と同旨 2 被告古川町は,原告及び選定者ら(以下「原告ら」という。)に対し,各自金100万円及び各金員に対する平成14年2月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,原告らが,岐阜県吉城郡古川町(以下,単に「古川町」という。)の区域内に転入したとして,被告古川町長に対し,それぞれ転入届を提出しようとしたところ,被告古川町長は,平成14年2月19日,原告らがオウム真理教(現アレフ)となんらかの関係を有していると思料されることを理由として,いずれの転入届も受理しない処分(以下「本件各不受理処分」という。)をしたことから,原告らが被告古川町長に対し,本件各不受理処分の取消しを求めるとともに,被告古川町に対し,本件各不受理処分により精神的苦痛を受けたとして,国家賠償法1条に基づく損害賠償及びこれに対する不法行為の日である平成14年2月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 当事者間に争いのない事 ,国家賠償法1条に基づく損害賠償及びこれに対する不法行為の日である平成14年2月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 当事者間に争いのない事実(1)ア原告らは,遅くとも平成14年2月13日までに古川町の区域内である各肩書地に居住するようになったと主張して,原告Aにおいて,平成14年2月15日,古川町役場に赴き,係官に対し,転入届用紙の交付を求めたところ,係官が転出証明書の提示を要求したので,原告ら4名分の転出証明書を提出したが,転入届用紙の交付を拒絶されるとともに,同町町民福祉課住民係長から,口頭で「転入届は受理しかねます。」と告げられた。 イ原告らは,住民基本台帳法22条1項に定める必要的記載事項を記載した転入届を自ら作成し,同月18日,原告A及び選定者Bにおいて,これを古川町役場に持参し,再度転入届の受理を求めた。しかし,係官が,書面で後日返事する旨述べたため,原告A及び選定者Bは,上記転入届の写しを上記係官に預けて古川町役場を辞去した。 ウ原告A及び選定者Bは,同月19日,古川町役場において,係官から,原告らに対する古川町長名義の同日付けの「転入届の不受理について(通知)」と題する書面を交付された。同書面により,原告らは,いずれも被告古川町長から,転入届を受理しない処分(本件各不受理処分)を受けた。 (2) 原告らは,平成14年2月21日,岐阜県知事に対し,本件各不受理処分の取消しを求める審査請求をしたが,本件口頭弁論終結日である同年4月24日の時点において,岐阜県知事の裁決はされていない。 (3) 古川町長の任期満了日は平成14年11月28日であり,同月ころに古川町長選挙が行われる見込みである。 3 争点(1) 岐阜県知事の裁決を経て て,岐阜県知事の裁決はされていない。 (3) 古川町長の任期満了日は平成14年11月28日であり,同月ころに古川町長選挙が行われる見込みである。 3 争点(1) 岐阜県知事の裁決を経ていない本件訴えが適法か否か。 (2) 本件各不受理処分が適法か否か。 (3) 被告古川町が,本件各不受理処分が違法であることを原因として,国家賠償法1条に基づく損害賠償責任を負うか否か。 4 争点1についての当事者の主張(1) 原告の主張本件訴えについては,審査請求の裁決を経ていないが,①このまま転入届が受理されない状態が続けば,原告らは選挙権の行使を妨げられるおそれがあるし,その他様々な権利侵害や日常生活上の支障が生じることになるから,行政事件訴訟法8条2項2号の「著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当する事由があるし,②従前の岐阜県内における同種事例に対する岐阜県知事の対応をみれば,本件でも岐阜県知事に公正な救済を期待することができないことは明白であるから,同法8条2項3号の「裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に該当する事由がある上,③仮に上記各号に該当しないとしても,裁決がなされないまま審査請求の日から3か月が経過すれば,本件訴えの瑕疵は治癒されるから,訴訟経済の面からも本件訴えは却下されるべきではない。 (2) 被告らの主張本件訴えは,岐阜県知事の裁決を経ていないから,住民基本台帳法32条に反し違法である。 5 争点2についての当事者の主張(1) 被告らの主張ア地域の秩序を維持し,治安を確保して,犯罪による危険から住民を守り,安全な社会生活を保障することは,地方公共団体にまず求められる基本的な責務である。この責務を考慮すれば,転入届がなされた際に市区町村長が住民基本 維持し,治安を確保して,犯罪による危険から住民を守り,安全な社会生活を保障することは,地方公共団体にまず求められる基本的な責務である。この責務を考慮すれば,転入届がなされた際に市区町村長が住民基本台帳法施行令に基づいて有する審査権は,単に届出事項の内容が事実に合致しているかどうかだけではなく,転入届をした者に関して,地域の秩序を破壊し,住民の生命や身体の安全を害する危険性が高度に認められる特別の事情が存在するかどうかについても及ぶと解すべきである。 イオウム真理教の教団は,教祖Cに対する帰依と服従を絶対とする体制と同人の説く教義に基づいて,松本サリン事件や地下鉄サリン事件を実行し,一般市民に恐怖を与え,我が国の治安に対する信頼を根本から揺るがせたものであり,現在はアレフと改称し,表面的にはオウム真理教との違いを強調しているものの,依然として上記教祖Cの強い影響下にあり,従前と同様の危険性を有しているとみられる。 原告らは,既にアレフから脱会していると主張するものの,脱会の事実を裏付ける確証はない上,一度オウム真理教及びアレフの教義を徹底的に修得させられ,内面から変えられた人間が容易に元に戻れるとは到底信じがたいし,原告らが本件で提出している証拠からも,原告らがいまだにアレフの元信者同士で連絡を取り合っていることが窺われる。 ウ以上によれば,原告らが古川町に転入することにより,地域の秩序が破壊され,住民の生命や身体の安全が害される危険性が高度に認められる特別の事情が存在するというべきであり,これを考慮して被告古川町長が行った本件各不受理処分は適法である。 (2) 原告の主張被告町長は,転入者から転入届の提出があった場合には,住民基本台帳法5条ないし8条の規定に基づき,住民票に住民に関する記載をして住民 た本件各不受理処分は適法である。 (2) 原告の主張被告町長は,転入者から転入届の提出があった場合には,住民基本台帳法5条ないし8条の規定に基づき,住民票に住民に関する記載をして住民基本台帳に記録すべき義務があり,被告らが主張するような理由で転入届を受理しないことは許されないから,本件各不受理処分は違法である。 6 争点3についての当事者の主張(1) 原告の主張ア本件各不受理処分は違法であるところ,被告古川町長は,違法と知りながら,その職務として本件各不受理処分を行ったものであるから,被告古川町は,国家賠償法1条により,原告らに対して損害賠償責任を負う。 イ本件各不受理処分により,原告らには,選挙権を行使することができないおそれが生じたほか,様々な権利侵害や日常生活上の支障が生じ,原告らは多大な精神的苦痛を受けたものであり,これを慰謝するのに必要な金額は,少なくとも各自100万円を下らない。 (2) 被告古川町の主張本件各不受理処分は適法であるから,原告らの慰謝料請求はいずれも理由がない。 また,被告古川町長は,公共秩序の維持等の前記地方公共団体の責務を考慮して本件各不受理処分をしたのであるから,被告古川町に損害賠償責任を負わせることは,正義に反するというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 争点1について本件訴えが住民基本台帳法32条所定の裁決を経ずに提起されたものであることは原告らの自認するところである。 しかし,古川町長選挙が平成14年11月ころに執行される見込みであることは当事者間に争いがないところ,原告らが申し立てた審査請求に対する裁決がされるまでには通常一定の期間を要すると解されるから,その裁決を待った上で訴えを提起していたのでは,原告らが住民基本台帳に記録されな 者間に争いがないところ,原告らが申し立てた審査請求に対する裁決がされるまでには通常一定の期間を要すると解されるから,その裁決を待った上で訴えを提起していたのでは,原告らが住民基本台帳に記録されない状態が続き,ひいては原告らが選挙人名簿に登録されず,上記古川町長選挙において,原告らが選挙権を行使できなくなるおそれが強い(住民基本台帳法15条,公職選挙法42条1項,19条2項,21条1項参照)。 そして,選挙権は国民の最も重要な基本的権利の一つであるから,この点だけをみても,原告らには,現段階において,本件各不受理処分により生ずる著しい損害を避けるための緊急の必要性があるものと認められる。 よって,原告らには行政事件訴訟法8条2項2号に該当する事由があるから,審査請求に対する裁決を経ることなくなされた本件訴えは適法というべきである。 2 争点2について(1) 住民基本台帳法は,市町村長に対し,住民基本台帳を整備し,住民に関する正確な記録が行われるよう努める義務(3条1項),個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して,住民基本台帳を作成する義務(6条1項)及び住民基本台帳の正確な記録を確保するため必要な措置を講じる義務(14条1項)等を負わせ,住民に対し,住民としての地位の変更が生じた場合に届出をする義務を負わせ(22条から24条まで),正当な理由がなくてこれらの届出をしない者は5万円以下の過料に処することとしており(51条2項),また,住民基本台帳法施行令7条は,市町村長に対し,新たに市町村の区域内に住所を定めた者の住民票を作成する義務を負わせているところ,これらの法令の規定は,市区村長が住民基本台帳に居住の実態と一致した正確な記録をすることを目的とするものと解される。 以上の住民基本台帳に関する法令の目的に照らすと,住 を負わせているところ,これらの法令の規定は,市区村長が住民基本台帳に居住の実態と一致した正確な記録をすることを目的とするものと解される。 以上の住民基本台帳に関する法令の目的に照らすと,住民基本台帳は,住民の居住の事実があればそれを公証するために作成されるものであるから,住民の居住の実態があり,それを反映した届出がなされれば,市町村長は,これを受理し,それに応じた住民基本台帳を作成すべき法的義務を負うものと解される。 (2) 被告らは,アレフが依然としてオウム真理教と称していたころと同様の危険性を有しているとみられること,原告らがアレフを脱退したことを裏付ける確証がないことなどから,原告らが古川町に転入することにより,地域の秩序が破壊され,住民の生命や身体の安全が害される危険性が高度に認められる特別の事情が存在するというべきであり,これを考慮して被告古川町長が行った本件各不受理処分は適法であると主張する。 しかし,住民基本台帳法及び同法施行令には,前記のとおり,市区村長が住民基本台帳に居住の実態と一致した正確な記録をしなければならないとする規定はあるものの,市町村の区域内において居住の実態を有する者から転入等の届出がなされた場合において,公共秩序の維持その他の居住の実態に関する事項以外の事項を考慮して,市町村長が届出の受理,不受理を決することができる旨の規定は存在しない。また,法の趣旨に沿って定められた住民基本台帳法施行令11条において,市町村長は,法の規定による届出があったときは,当該届出の内容が事実であるかどうかを審査して,住民票の記載等を行わなければならないとしているが,ここにいう「当該届出の内容」とは,住民基本台帳法22条1項に定める氏名,住所,転入をした年月日,従前の住所その他の事項を意味するものである。 ,住民票の記載等を行わなければならないとしているが,ここにいう「当該届出の内容」とは,住民基本台帳法22条1項に定める氏名,住所,転入をした年月日,従前の住所その他の事項を意味するものである。 住民基本台帳法及び同法施行令の規定は上記のとおりであるから,市町村長は,転入届に記載された居住の実態等に関する事項の内容が事実か否かの審査をすることはできるが,被告らが主張するような公共秩序の維持等の要素を審査して転入届の受理,不受理を決することは許されないと解される。 よって,被告らの前記主張は採用することができない。 (3) 甲第16号証の1ないし4,第17号証の1ないし4,第18号証,第19号証の1ないし4,第20号証の1ないし4,第22号証,第25号証の1ないし4によれば,原告らが古川町の区域内である肩書住所地において居住の実態を有するに至っていることが認められるから,被告古川町長が前記のような理由で原告らの転入届を不受理とした本件各不受理処分は違法といわざるを得ない。 3 争点3について(1) 本件各不受理処分は,被告古川町長が職務を行うについて行ったものであるところ,これが違法であることは前項で説示したとおりである。そして,本件各不受理処分が住民基本台帳法の規定に反することは認識可能であるから,被告古川町長には,違法な本件各不受理処分をしたことにつき過失があったと認められる。 よって,被告古川町は,国家賠償法1条に基づき,本件各不受理処分により原告らが被った損害につき賠償責任を負うというべきである。 (2) 甲第17号証の1ないし4及び弁論の全趣旨によれば,原告らが本件各不受理処分により精神的苦痛を受けたことが認められるところ,本件記録から窺われる諸般の事情を総合考慮すると,原告らが被った上記 2) 甲第17号証の1ないし4及び弁論の全趣旨によれば,原告らが本件各不受理処分により精神的苦痛を受けたことが認められるところ,本件記録から窺われる諸般の事情を総合考慮すると,原告らが被った上記精神的苦痛に対する慰謝料の額は,一人当たり5万円と認めるのが相当である。 第4 結語以上のとおり,原告の被告古川町長に対する本件各不受理処分の取消請求は理由があるからこれを認容し,被告古川町に対する損害賠償請求は原告らのために一人当たり5万円及びこれに対する不法行為の日である平成14年2月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文,65条1項を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 岐阜地方裁判所民事第2部裁判長裁判官林道春裁判官古閑裕二裁判官宮 﨑 朋紀
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