- 1 -主文被告人を懲役5年6月に処する。 未決勾留日数中200日をその刑に算入する。 理由 (交通事故の発生及び犯行に至る経緯)平成18年5月20日午後5時10分ころ,佐賀県唐津市a町bc番地東北東約450メートル先の県道d線上のT字型交差点において,被告人が運転する普通貨物自動車と左方から進出してきたA(当時11歳)が操縦する自転車が衝突し,上記Aが頭蓋骨骨折等の傷害を負い頭部から大量に出血して意識不明の状態に陥る交通事故が発生した。 被告人は,自車を停止させ,路上に倒れている上記Aのもとに近付き「もしも,し」と声を掛けたところ,上記Aの左手の指先がわずかに動き,左まぶたがピクピクと動いた。被告人は,タオルで上記Aの頭部の出血を拭いてやり,上記Aを病院に運んで手当を受けさせなければならないと考えたが,携帯電話の持ち合わせがな,,。 かったため他の通行車両や通行人が現れるのを待ったものの誰も通らなかった,,「」,被告人は上記Aは死亡するかもしれないそうなると自分は人殺しとなり。 ,,重い刑罰を受けねばならなくなるなどと恐れたそこで事故発生を隠蔽するため上記Aの自転車をガードレールの外のa川沿いの法面の草むらに投棄するなどした。そして,上記Aを自車の助手席に乗せて,同所を出発し,県道d線ないし県道e線を「B森林公園」方面に向かいしばらく走行したが,その際は,まだ上記Aを病院に運んで手当を受けさせようという考えと,事故を誰にも目撃されていないのを奇貨として,上記Aを人目に付かない山中に運んで遺棄しようという考えが交錯しており,いずれにするか決めかねていた。 こうして,被告人は,同市f町gh番地所在の「B森林公園」付近に至ったが,同所付近において,上記Aを人目に付かない山中に運んで遺棄し,そのまま放置し が交錯しており,いずれにするか決めかねていた。 こうして,被告人は,同市f町gh番地所在の「B森林公園」付近に至ったが,同所付近において,上記Aを人目に付かない山中に運んで遺棄し,そのまま放置して自然に死亡するのを待ち,翌朝遺棄現場に戻って死体を埋めようと決意した。 - 2 -(罪となるべき事実)被告人は,上記のとおり,上記Aを自車の助手席に乗せて県道d線ないし県道e線を「B森林公園」方面に向かい走行し,同市f町gh番地所在の同公園付近に至ったものであるところ,頭部に重傷を負って意識不明の状態に陥っている上記Aは最寄りの病院に運ぶまでの短時間の間に死亡するかもしれないと思う一方で,上記Aはそのままでも数時間程度は生き続ける可能性があるかもしれないとも思い,その場合には,上記Aを人目に付かない山中に運んで遺棄すれば,誰にも発見・救助されないまま頭部の重傷が悪化して死亡するかもしれないが,それもやむなしと決意し,あえて,同日午後5時20分ころ,上記Aを同市f町gij番所在の人目に,,,付かない杉林内に運び杉の木の下付近の地面上に置いて同所から立ち去ったが翌21日午前1時30分ころ,捜索中の家族らが,上記場所に遺棄されたままの上記Aを発見し,搬送先の佐賀県唐津市kl丁目m番l号所在の「C病院」において緊急手術が施されたため,殺害の目的を遂げなかった。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明)第1本件の争点 被告人は,当公判廷において,本件公訴事実について「自車を時速40か,ら45キロメートルの速度で運転中,被害者の自転車がカーブミラーに映っておらず,直前で気が付いて右にハンドルを切ったが,間に合わずに被害者の自転車をはねた。被害者の頭から血が出ていたので,タオルで拭いて,声を掛けたが,指3本が前後にゆっくり動くだけで,反 ラーに映っておらず,直前で気が付いて右にハンドルを切ったが,間に合わずに被害者の自転車をはねた。被害者の頭から血が出ていたので,タオルで拭いて,声を掛けたが,指3本が前後にゆっくり動くだけで,反応がなかったので,被害者が死んだと思い,車に乗せて杉林に置きに行った。被害者を殺すつもりはなかった」旨述べている。 。 弁護人は,概要次のとおり主張し,また,被告人の捜査段階での自白(以下「本件自白」という)の証拠能力を争っている。 。 本件における被告人の行為の作為面は「被害者を山林に連れて行って置(1)- 3 -いた」ことであるが,このような行為は,人の生命侵害の危険を現実的に惹起するものではなく,実行行為としての類型的・定型的な危険性を有しないので,殺人の実行行為とは評価されない。 本件で殺人の実行行為に当たるか否かの評価の対象となる被告人の行為(2)は「被害者を病院に連れて行かずに置き去りにした」という不作為であり,これが殺人未遂罪の不真正不作為犯に当たるか否かを検討すべきであるところ,先行する交通事故に被告人の過失及び違法性がないこと,被告人には被害者の救命可能性の認識はなかったことから,作為義務は発生しておらず,前記不作為と殺人の作為との構成要件的同価値性もない。 被告人には「被害者を病院に搬送すれば生命が助かる」という認識はな(3)く,したがって,被害者を病院に連れて行かずに山林に置き去りにすることが被害者死亡の結果発生の危険性を惹起する殺人の実行行為であるとの認識も,病院に搬送するという作為があれば死亡の結果は発生しないという結果回避可能性(不作為犯における実行行為ないし因果関係の要素)の認識も,いずれもなかったことから,殺人の故意はない。 本件に殺人未遂罪を適用する限りにおいて憲法31条の要請する罪刑法(4)定主 結果回避可能性(不作為犯における実行行為ないし因果関係の要素)の認識も,いずれもなかったことから,殺人の故意はない。 本件に殺人未遂罪を適用する限りにおいて憲法31条の要請する罪刑法(4)定主義に反し,違憲である。 ,,(5)被告人の本件自白は被告人の知的能力や迎合しやすい性格に照らせば身柄拘束の影響や,体調に特段配慮することなく連日長時間にわたって行われた取調官の理詰め尋問,誘導の影響を受けたものであり,供述内容の重要部分が不合理に変遷していることから見ても,任意性を欠くものである。また,平成18年6月8日の取調べ以降の自白は,秘密交通権侵害の影響下になされたものであるから,違法収集証拠に当たる。 以上より,本件の主たる争点は,①被告人の行為が殺人の実行行為に当たるか否か,及び,②殺人の故意の有無であり,以下,順次補足して説明する。 第2前提事実- 4 -前掲関係各証拠によれば,次の各事実が認められる。 交通事故の発生及び本件事故現場の状況平成18年5月20日午後5時10分ころ,佐賀県唐津市a町bc番地東北(「」。),東約450メートル先県道線上以下本件事故現場というにおいてd県道d線を南方のa町n方面から北方のf町g方面に向けて進行中の被告人が運転する普通貨物自動車の左前部と,前記県道に西方から交わる市道から前記県道へと進出したA(以下「被害者」という)が操縦する自転車とが衝突す。 る交通事故(以下「本件事故」という)が発生した。本件事故現場は,前記。 県道に,西方のb公民館方面から通じる前記市道が直角に交わる交通整理の行われていないT字型交差点であり,前記県道は北方に向けて上り勾配に,前記市道はT字型交差点に向けて下り勾配になっている。前記県道の西側にコンクリートの法面があることにより が直角に交わる交通整理の行われていないT字型交差点であり,前記県道は北方に向けて上り勾配に,前記市道はT字型交差点に向けて下り勾配になっている。前記県道の西側にコンクリートの法面があることにより,前記県道のa町n方面から前記市道の見通しは利かない。被害者は,本件事故により,頭蓋骨骨折等の傷害を負い,頭部から大量に出血した。 本件事故後の被告人の行動,被害者の遺棄等被告人は,車を降りて道路上に倒れている被害者に近付き,被害者の頭部の血をタオルで拭き「もしもし」と声を掛けた。被告人が声を掛けると,被害,者の左手の指先がわずかに前後に動き,左まぶたがピクピクと動いたが,目は閉じたままで,頭部からの出血は続き,右手と足は動かず,声は発せられなかった。被告人は,被害者を抱き上げて車の助手席側に運び込んだ。その際,シートが破れて汚れたスポンジ素材があらわになっていた座席と,被害者の頭部との間にタオルを敷いた。被告人は,事故を隠蔽するために,被害者の自転車を本件事故現場の県道東側に設置されたガードレールの外のa川沿いの法面の草むらに投棄した。被告人は,車を運転して事故現場からf町g方面に向けて県道d線から県道e線へと進行し,アスファルト舗装された「B森林公園」内(「」。),管理車道以下管理車道というへの入り口を少し過ぎた地点で後退し- 5 -管理車道に左折進入し,突き当たりまで進行して停車した。被告人は,運転中の車内でも,被害者に何度か「もしもし」と声を掛けていたが,被害者は,やはり,左手の指先をわずかに動かし,左まぶたがピクピクと動くのみで,それ以上の反応はなかった。被告人は,車を降りて付近を確認し,同日午後5時20分ころ,被害者を抱えて車から降ろし,さらに杉林の中の山道を約50メートル進み,杉の木の下付近の地面の上 クと動くのみで,それ以上の反応はなかった。被告人は,車を降りて付近を確認し,同日午後5時20分ころ,被害者を抱えて車から降ろし,さらに杉林の中の山道を約50メートル進み,杉の木の下付近の地面の上に,被害者の身体を横たえ,遺棄した(以下,同場所を「本件遺棄現場」という。この時も,被害者は,被告人が。)声を掛けると左手の指先がわずかに前後に動き,左まぶたがピクピクと動いた,。 ,が目は閉じたままで覚せいしなかった被告人は被害者に対して手を合わせ「ごめんなさい。安らかに眠ってください」と言って,何度か拝み,管理車。 道の突き当たりまで戻って被害者の頭部を拭いたタオルや助手席上に乗せていた土嚢袋等を付近に投棄し,車で現場を離れた。 なお,管理車道に左折進行せずにそのまま県道を進行した場合,本件事故現場から約30分程度で市街地に至り,同所には被告人もその所在を知る病院があった。また,被告人は自車にスコップ等の穴を掘る道具は積載していなかった。 本件遺棄現場及び付近の状況,。 「」本件遺棄現場は杉が密生する山中の私有地内にある付近はB森林公園となっており,周辺には溜池,管理車道,遊歩道,広場等が,さらにその周辺には杉林,田畑があり,同公園東側は県道e線が通っているが,周囲に人家はなく,直近の民家までの距離は約1.4キロメートルである。本件遺棄現場と本件事故現場の距離は約3.2キロメートルである。本件遺棄現場は人気のな,,,,い山中にあり同所に行くには県道e線を通り同公園北側出入口から直接又は同公園東側から駐車場や遊歩道等を経由して管理車道に入り,突き当たりまで約700メートル進行し,さらに未舗装の山道に入って杉林の中へ約50メートル進行する(被告人が採ったルート)か,杉林の南側の道から未舗装の- 6 - 歩道等を経由して管理車道に入り,突き当たりまで約700メートル進行し,さらに未舗装の山道に入って杉林の中へ約50メートル進行する(被告人が採ったルート)か,杉林の南側の道から未舗装の- 6 -山道に入って杉林の中を2回左折しながら約250メートル進行する必要がある。本件遺棄現場の南側は傾斜が激しい草地で,南側から直進で本件遺棄現場に進入できる経路は見当たらない。進入経路及び本件遺棄現場周囲には照明設備はない。本件遺棄現場は管理車道から見通すことはできず,周囲には杉が密生し,地面には枯れ葉や枯れ枝が堆積している。本件事故当日から翌日にかけての本件遺棄現場の夜間の最低気温は摂氏9度前後と推測される。本件遺棄現場は私有地であるため,同公園の管理者も立ち入ることはなく,所有者は年に1回山道の草払いのために入るのみである。 ,。 このように本件遺棄現場は通常では発見・救出が極めて困難な場所である 被害者の発見・救出の経緯同日午後5時16分ころ,被害者の近隣住民が,本件事故現場付近を車で進行した際,道路上に細かい破片等を発見した。同人は,帰宅後に,本件事故現場を進行した別の住民から,本件事故現場で交通事故が起きたことや被害者がまだ帰宅していないことを聞き,再度本件事故現場を見に行き,道路上に血こん等を認め,ガードレールの外のa川沿いの法面の草むらに自転車と片方の運動靴を発見したため,被害者の家族に連絡した。同日午後6時35分ころ,被害者の実母が被害者が交通事故に遭った可能性がある旨を警察署に届け出て,被害者の家族,警察官計84名,消防団員合計56名の他,近隣住民や学校職員等も合わせ,総勢150名以上による被害者の捜索が行われた。 翌21日午前1時ころ,消防団員の一人が,撤収連絡のために他の消防団員を捜していた際,管理車道の突き当たり付近の 名の他,近隣住民や学校職員等も合わせ,総勢150名以上による被害者の捜索が行われた。 翌21日午前1時ころ,消防団員の一人が,撤収連絡のために他の消防団員を捜していた際,管理車道の突き当たり付近の草むらに血の付いたタオル等が入った土嚢袋を発見したので,警察官に報告し,これを聞いた被害者の家族らが同所付近の捜索を開始し,同日午前1時30分ころ,被害者の実兄が,本件遺棄現場で被害者を発見した。被害者の側にはリュックサックが落ちていた。 発見・救出時の被害者の状況及び緊急手術等発見時,被害者は,枯れ葉や枯れ枝の堆積した地面の上に直接仰向けに横た- 7 -,。 ,わっており創傷部である頭部や身体の上にも枯れ葉が付着していたそして微かに「ウーウー」とうなり声を上げ,いびきのような音をさせて呼吸をし,両足及び身体をくの字に曲げ,手足をわずかに震わせた。被害者は,声掛けに対する反応はなく,刺激しても覚せいしないものの,痛み刺激に対しては払いのけるような動作をする状態であった。 被害者は,同日午前2時22分,佐賀県唐津市kl丁目m番l号所在の「C病院」に救急搬送され,本件事故から約9時間後に漸く医師の治療を受けた。 血圧は上が77,下が66と低い状態であり,頭蓋骨骨折,右側頭部の急性硬膜外血腫とその周辺に脳腫脹を伴う脳挫傷,髄液漏等が認められた。 しゅちょうずいえきろう被害者は血腫を取り除くために約3時間にわたる緊急手術を受け,同年6月13日までの24日間入院し,さらに約1か月間の通院療養を要する旨の診断を受けた。また,高次脳機能障害の疑いから,現在もリハビリを続けている。 被告人の逃走・逮捕等被告人は,被害者が発見・救出された平成18年5月21日,唐津市内の作業現場で警察官から声を掛けられたが,隙を見て逃走し,山中に隠れるなどしていた もリハビリを続けている。 被告人の逃走・逮捕等被告人は,被害者が発見・救出された平成18年5月21日,唐津市内の作業現場で警察官から声を掛けられたが,隙を見て逃走し,山中に隠れるなどしていたが,同月24日,タバコを買うために国道にいたところを勤務先の上司らに発見され,通報を受けた警察官に,業務上過失傷害,道路交通法違反の被疑事実で逮捕された。 第3被告人の行為は殺人の実行行為に当たるか否か はじめに本件公訴事実には「同人に医師の適切な治療を受けさせることなく」と,,いう文言があるので,検察官は被告人の不作為を問題としているかのようにも思われるが「殺意をもって」以下には「同人を(中略)杉林付近まで連れ,,去り(中略)通常では発見が困難な上記杉林内に置き去りにした」と記載さ,,,,「」「」れこれによれば明らかに検察官は被告人の連れ去り及び置き去りという一連の作為を殺人行為に当たるものとして起訴したと解される。 - 8 -そうだとすれば,裁判所がまず判断すべきことは,検察官が問題にした「,被害者を本件事故現場から杉林内に連れ去り,同所に置き去りにした」という一連の作為(故意の要件をひとまずおく。以下,これを「被告人の行為」と,いう)が客観的に殺人の実行行為に当たるか否かである。 。 そして,これは構成要件該当性の問題であるから,その判断は,通常人が認識・予見し得たであろう事実及び行為者が現に認識・予見していた特別の事実を内容とする具体的状況を基礎として,科学的見地と社会通念の双方から見て結果発生の定型的危険性があるか否かという枠組みでなされるべきである。 被告人の行為は被害者を死亡させる定型的危険性があるか否か被害者の受傷の程度と緊急に医師による治療を受けさせる必要性等(1)ア被害者 型的危険性があるか否かという枠組みでなされるべきである。 被告人の行為は被害者を死亡させる定型的危険性があるか否か被害者の受傷の程度と緊急に医師による治療を受けさせる必要性等(1)ア被害者の受傷の程度前記前提事実のとおり,被害者は,本件事故により,頭蓋骨骨折等の重傷を負って頭部から大量に出血し,被告人の声掛けに対して,左手の指先がわずかに前後に動き,左まぶたがピクピクと動くだけで,目は閉じたままで覚せいせず,意識不明の状態に陥っていた。この状態は,被害者を被告人が自車に乗せて搬送している間も,本件遺棄現場に遺棄した時もほとんど同じであった。 イ医師の診察,意見等被害者は,本件事故の約9時間後の診察で,右側頭部の急性硬膜外血腫及びその周辺に脳腫脹を伴う脳挫傷,骨折による髄液漏等が認められた。 ,,被害者を診察したD医師によれば受傷後一般に6時間程度経過すると血腫や腫脹が拡大して脳が圧迫されて脳ヘルニアを起こし,脳幹部が圧迫されて呼吸や循環器系等の生命維持に必要な機能が止まって死亡につながること,骨折による損傷部から頭蓋内に菌が侵入すると,髄膜炎や感染症を起こして死亡につながるおそれがあること,気温が体温より低いとエネルギーが消耗して免疫力を低下させる要因となること,被害者は発見・救- 9 -出されなければ,死亡していたことは間違いないこと,が認められる。 また,佐賀大学E医師によれば,被害者には,受傷後に悪化した所見として,大脳右側部の脳浮腫,右側脳室の狭小化,大脳正中線の左方への変移があり,受傷後時間が経過すれば,大脳右側部の脳浮腫が増大して脳ヘルニアを起こす可能性があったことが認められる。 ウ被告人及び通常人の認識・予見前記アのような被害者の状態は,被告人も認識していたし,通常人であれば,より明確に,被害者は生き 脳浮腫が増大して脳ヘルニアを起こす可能性があったことが認められる。 ウ被告人及び通常人の認識・予見前記アのような被害者の状態は,被告人も認識していたし,通常人であれば,より明確に,被害者は生きていること,被害者は頭部等に重傷を負っていること,もとより前記イのような専門的知識なくそのような判断はできないとしても,緊急に医師による治療を施さなければ頭部等の傷害が悪化して死に至るおそれがあると認識・予見し得るものであった。 被害者の本件遺棄現場への搬送,遺棄等(2)被告人は,頭部という身体の枢要部分に重傷を負って大量に出血して意識を失い,救護を要する状態に陥っている被害者を,車に乗せて運び,事故現場から約3.2キロメートル離れた,夜間の気温が低く,通常では発見が困難な杉林の中に,不衛生な状態で置いて立ち去った。 ,,,本件事故現場が県道上であり平日の午後5時台という時間帯や実際に本件事故から約6分後の午後5時16分ころには近隣住民が本件事故現場を通りかかって事故の痕跡を発見していること,また,被害者は本件事故により重体となってはいたものの,実際に,本件事故から約9時間後に病院で治療を受けて死亡の結果を免れていることからすれば,被害者を車に乗せて運んで杉林の中に置き去りにするという被告人の行為がなければ,被害者が早期に事故現場で第三者に発見・救護され,病院で緊急治療を受けて死亡の結果を回避できた蓋然性は高かったものと認められる。 したがって,重体の被害者を,自己の車に乗せて移動させ,夜間の気温が低く,通常では発見・救出が極めて困難な杉林の中に運び込み,遺棄して立- 10 -ち去るということは,自己が救護しないばかりか,第三者による発見・救護の機会をも奪うことを意味する。 このことは,取りも直さず,医師による緊急治療の機会を奪い,頭 に運び込み,遺棄して立- 10 -ち去るということは,自己が救護しないばかりか,第三者による発見・救護の機会をも奪うことを意味する。 このことは,取りも直さず,医師による緊急治療の機会を奪い,頭部の重傷を進行・増悪させ,救命の可能性を閉ざすものである。 本件遺棄現場の気温,衛生状態(3)同所付近は夜間気温が下がり,当日の最低気温は9度前後であった。さらに,被害者は枯れ葉や枯れ枝の堆積した地面の上に直接横たえられ,創傷部,。 である頭部や身体の上にも枯れ葉等が付着しており不衛生な状態であったそうすると,本件遺棄現場に放置された被害者は,そのこと自体でも,エネルギー消耗により免疫力が低下したり,傷口から菌が侵入し髄膜炎や感染症を引き起こすおそれもあった。 小括(4)以上によれば,本件事故により重傷を負ったがまだ生きており,医師による緊急治療の必要がある被害者を,自己の車に乗せて搬送し,夜間の気温が低く,通常では発見・救出が極めて困難な杉林の中に運び込み,不衛生な状態のまま置いて立ち去った被告人の行為は,医師による緊急治療の機会を奪い,頭部の重傷を進行・増悪させたり,エネルギー消耗により免疫力を低下させたり,傷口から菌が侵入し髄膜炎や感染症を引き起こしたりするおそれが強い。これらは被害者の生命侵害の危険性を死が確実と言い得るほどにまで高めるという点で,被害者の生命に対する新たで重大な危険性を生じさせるものであることは,医学的見地のみならず,社会通念に照らしても,極めて明白である。 そうすると,被告人の行為は,被害者の死亡の結果を引き起こす定型的危険性を十分に備えた行為であり,客観的には,殺人の実行行為に該当すると言わなければならない。 第4殺人の故意の有無及び故意発生の時期- 11 - 殺人の故意の有無はじめに(1 こす定型的危険性を十分に備えた行為であり,客観的には,殺人の実行行為に該当すると言わなければならない。 第4殺人の故意の有無及び故意発生の時期- 11 - 殺人の故意の有無はじめに(1)殺人の故意は,行為者が,自己の実行行為によって,被害者を死亡させるに至ること,又はそのおそれがあることを予見しながら,その結果を認容し,あえてその行為に出る場合に認められる。 被害者が生きていること等についての被告人の認識の有無(2)ア被害者が生きていること及びそのままでも数時間程度生き続ける可能性についての認識の有無ァ前記前提事実のとおり,被害者は,本件事故により,頭蓋骨骨折等()の重傷を負って頭部から大量に出血し,被告人の声掛けに対して,左手の指先がわずかに前後に動き,左まぶたがピクピクと動くだけで,目は閉じたままで覚せいせず,意識不明の状態に陥っていた。この状態は,被害者を被告人が自車に乗せて搬送している間も,本件遺棄現場に遺棄した時もほとんど同じであり,このような被害者の状態については,被告人もそのとおり認識していた。 ィ被告人は,当公判廷において「被害者が死んだと思った「被害(),」,者を病院に連れて行っても助からないと思った」旨の供述をしている。 一方で,被告人は,当公判廷において「翌朝にまた来て被害者が死,んでいれば埋めようと思っていた」と,前記供述とは矛盾する内容の。 供述もしており,被害者が本件遺棄現場において数時間程度生存し続ける可能性を認識していたことを自認している。しかも被告人は,自車にスコップ等の穴を掘る道具を積載していなかったので,被害者を埋めるためにもう一度本件遺棄現場に戻って来る必要はあったものの,それは時間を置かずに実行した方が他人に怪しまれるおそれは少ないはずであるのに,あえて 穴を掘る道具を積載していなかったので,被害者を埋めるためにもう一度本件遺棄現場に戻って来る必要はあったものの,それは時間を置かずに実行した方が他人に怪しまれるおそれは少ないはずであるのに,あえてそうではなく「翌朝にまた来て被害者が死んでいれば,埋めようと思っていた」と供述しているのである。 。 - 12 -また,被告人は,当公判廷において「被害者の胸を触るなどして心,臓が動いているかどうかを確認することはしていない。被害者が呼吸しているかどうかは確認していない。被害者の体温が下がっているかどうかは確認していない。被害者の顔を見ていないので顔色は確認していない」旨供述しており,人の生死の判断をするに当たって通常行われる。 であろう心臓の鼓動,呼吸,体温,顔色等の確認をしないままに「被,害者が死んだと思った「被害者を病院に連れて行っても助からない」,と思った」などの供述をしていることが認められる。 そうすると,被告人は,前記ァのような重篤な被害者の状態を認識()していたことから,被害者は間もなく死亡するかもしれない,病院に搬送する前に死亡するかもしれないという考えを有していたことは否定できないが,他方,そのような判断は人の生死を判断するに当たって通常行われるであろう確認を何ら行うことなくなされていること「翌朝に,また来て被害者が死んでいれば埋めようと思っていた」旨の,被害者。 がそのままでも数時間程度は生き続けることを前提とした内容の供述もしていることを併せ考えると,被告人は,被害者がそのままでも数時間程度は生き続ける可能性があることも認識していたと推認するのが合理的である。 イ被害者を最寄りの病院に搬送し得る客観的可能性についての認識の有無前記前提事実のとおり,本件事故現場から車で約30分走った所に病院があり,そ あることも認識していたと推認するのが合理的である。 イ被害者を最寄りの病院に搬送し得る客観的可能性についての認識の有無前記前提事実のとおり,本件事故現場から車で約30分走った所に病院があり,そこに被害者を搬送するのに格別の困難はないところ,被告人はかかる事実も認識していたと認められる。 ウ被害者を本件遺棄現場に遺棄したこと及び同場所の状況等についての認識の有無,,,前記前提事実のとおり被告人は管理車道の突き当たりで停車した後いったん車を降りて付近を確認した上で,被害者を本件遺棄現場に運び込- 13 -んで遺棄した。そして,そのような被告人の行動からすれば,被告人は,本件遺棄現場が被害者を隠匿するのに適した,通常では発見・救出が極めて困難な場所であることを認識していたと認められる。 被告人が自己の実行行為によって被害者を死亡させるに至ることを認識(3)・認容していたか否か前記アないしウのとおり,被告人は,被害者が生きており,そのままでも数時間程度は生き続けることを可能性の一つとして認識した上で,事故現場から車で約30分のところに病院がありそこに被害者を搬送するのに格別の困難はないこと,本件遺棄現場が通常では発見・救出が極めて困難な場所であることも認識していたことが認められる。 そうすると,被告人は,被害者を本件遺棄現場に運び込んで遺棄するという自己の実行行為によって,本件事故により傷害を負ったというだけの状態と比較して,医師による緊急治療を施せば救命が可能であった被害者からその機会を奪って頭部の重傷を進行・増悪させることにより,被害者の死の結果を惹起する現実的危険性を著しく高めてより確実にする可能性があることを予見しながら,それもやむなしとし,あえて,その行為に出たものと認められる。 以上より,被告人には,殺人の未必の 被害者の死の結果を惹起する現実的危険性を著しく高めてより確実にする可能性があることを予見しながら,それもやむなしとし,あえて,その行為に出たものと認められる。 以上より,被告人には,殺人の未必の故意が認められる。 (4) 殺人の故意発生の時期及び実行行為の着手時期はじめに(1)被告人は,当公判廷において「被害者を車に乗せた時には病院に連れて,行く気持ちもあった,B溜池付近で被害者を山の中に置いてこようと思った」旨供述している。そこで,殺人の故意が発生した時期が問題となり,。 これに関連して,殺人の実行行為の着手時期が問題となる。 殺人の故意の発生時期(2)ア前記前提事実のとおり,被告人は,被害者を車に乗せる直前に,事故を- 14 -隠蔽するために被害者の自転車を投棄しており,このような行動からすれば,被告人が被害者を病院に搬送するのではなく,当初から,事故を隠蔽するために被害者を山中に運んで遺棄する目的で自車に乗せたものとも考えられる。 イしかしながら,前記前提事実によれば,被告人は重傷を負った被害者の頭部と汚れた座席との間にタオルを敷いたり,車内で被害者に声を掛けたりしたこと,本件事故現場から発車後の被告人の進行方向は,県道d線であれ県道e線であれ,市街地へと向かうものであったこと,被告人は管理車道への入り口を少し過ぎてから後退して管理車道に左折進入したことが認められ,これらの事実に照らせば,被告人が被害者を自車に乗せて運転を開始した後もしばらくの間は,被害者を病院に搬送するかどうか逡巡していたと見るのが自然である。 ウしたがって,検察官主張のように,被告人が被害者を車に乗せた時点で被害者を山中まで運んで遺棄することを決意したと認定することはできず,被告人は,市街地へと向かう県道e線をそのまま直進せずに,管理車 したがって,検察官主張のように,被告人が被害者を車に乗せた時点で被害者を山中まで運んで遺棄することを決意したと認定することはできず,被告人は,市街地へと向かう県道e線をそのまま直進せずに,管理車道への入り口を少し過ぎてから後退し,山中へ向かう管理車道に左折進入した時点で,被害者を山中に運んで遺棄することを決意したことが認められる。 殺人の実行行為の着手時期(3)前記によれば,被告人の殺人の実行行為の着手時期も,検察官主張の(2)ように,被告人が被害者を車に乗せた時点と認定するには合理的な疑いが残るのであり,この点については,被告人が,市街地へと向かう県道e線から管理車道に左折進入した時点と認定すべきである。 第5まとめ以上によれば,被告人は,県道e線から管理車道に左折進入した時点で,未必的な殺意をもって,殺人の実行行為たる,頭部に重傷を負った被害者を本件- 15 -遺棄現場に運び込んで遺棄するという行為に及んだことが優に認められる。 第6被告人の本件自白の任意性及び信用性の検討 本件自白の概要本件事故の後,男の子が頭からたくさん血を流し,血が止まらず,目もずっと閉じたままで,私が何度声を掛けても返事をしてくれなかったので,男の子が死んでしまうかもしれないと思った。すぐに病院に連れて行っても絶対に助からないとまで思っていた訳ではなかったが,病院に連れて行っても助からないかもしれない,もしかすると病院に連れて行く途中で死んでしまうかもしれ。 ,「」ないと思った自分が事故を起こして相手が死んでしまえば自分が人殺しになってしまい,自分の人生が終わってしまうと思って怖くなった。以前,私,,がまだ小さかった自分の子供を間違って車でひいて怪我をさせてしまった時警察官から「死んだらブタ箱行きになるぞ」などと言われた ってしまい,自分の人生が終わってしまうと思って怖くなった。以前,私,,がまだ小さかった自分の子供を間違って車でひいて怪我をさせてしまった時警察官から「死んだらブタ箱行きになるぞ」などと言われたことがあるのを。 思い出し,そうなれば,これまでのような自由気ままな暮らしができなくなると思った。男の子が死んでしまえば,自分の免許証が取り上げられてしまい,今の仕事が続けられなくなるし,周りの人から一生「人殺し」という白い目で見られるのは嫌だと思った。もし男の子が病院で治療を受けて命が助かった場合でも「かたわ」になってしまうかもしれない,そうなったら私が一生面倒,を見なければいけなくなる,たくさんお金がかかると思った。そのようなことをあれこれと考えて,自分を守るためには,事故をなかったことにするしかない,そのためには,大けがをした男の子を誰にも見つからないように山奥に隠し,男の子に死んでもらうしかないと考え,男の子を山奥に連れて行って置き去りにして殺そうとした。頭からたくさん血を流して意識がなく,自分一人ではとても動けない状態であった男の子を,病院にも連れて行かず,誰にも見つからないような山奥に置き去りにしてくれば,怪我の状態から考えても,男の子が死んでしまうと思った。男の子は,次の日の朝までにはほぼ間違いなくその場で死んでしまうと思った。私が男の子を山奥に連れて行って置き去りにす- 16 -ることによって,男の子を死なせることになり,私が男の子を殺すことになると分かっていた。 本件自白の任意性の有無被告人は,被告人質問の際,同じ事項について質問者や質問の方法によ(1),,って答えをたびたび変遷させたり長い質問や論理的な矛盾を追及する質問捜査段階での自白内容を要約した質問に対して,即座に「はい」などと肯。 定する答えを繰り いて質問者や質問の方法によ(1),,って答えをたびたび変遷させたり長い質問や論理的な矛盾を追及する質問捜査段階での自白内容を要約した質問に対して,即座に「はい」などと肯。 定する答えを繰り返したりしており,十分に質問の意味内容を理解した上でその趣旨に即して答えているかどうかが疑わしい場面が多く見られ,理解力・表現力に乏しい面があるのみならず,性格的な小心さも手伝って,追及的な質問に対して迎合的な受け答えをしやすい傾向があることも否定できない。 しかしながら,被告人のこれまでの生活状況や,同居していた知人女性(2)に宛てた手紙の文面から判断すると,被告人は通常の日常生活を送る能力は備わっていると見られ,責任能力の有無が問題となるような知的能力の低さまではうかがわれない。 また,被告人は,取調べ中に手のしびれや血尿などの体調不良を訴えていたが,すみやかに医師の診察,検査,薬の処方を受けており,被告人の体調が取調べに影響したことは認め難い。 そして,本件自白は「男の子の靴を自転車と一緒に隠したかどうかとい(3),うことと,男の子を山奥に置き去りにした時に男の子が背負っていたリュックサックを私が背中から外したかどうかということについては,覚えがない」など,客観的状況から被告人によるものと合理的に疑われる事情につ。 いても,被告人の弁解どおりに録取してあることに照らせば,被告人はそれなりに自らの思うところを捜査官に対し主張する場面もあったことが推認される。 さらに,取調べが行われていた期間,ほぼ連日,弁護人との接見が行わ(4)- 17 -れており,助言を受ける機会があったことも無視し得ない。 小括(5)以上によれば,後記のとおり,本件自白の信用性については問題とすべき点が多いものの,任意性については,これを疑わせるような事情 -れており,助言を受ける機会があったことも無視し得ない。 小括(5)以上によれば,後記のとおり,本件自白の信用性については問題とすべき点が多いものの,任意性については,これを疑わせるような事情までは認め難いと言うべきであるし,他に本件自白を証拠とすることが違法であるような事情も見当たらないから,被告人の本件自白には証拠能力が認められる。 本件自白の信用性の有無被告人の供述のうち,客観的な事実関係や,被害者を本件遺棄現場に運(1)んで遺棄したのは事故を隠蔽する目的であったという点については,捜査段階から公判までほぼ一貫しており,他の客観的証拠とも符合している。 しかしながら,殺意の有無や被害者の救命可能性等,本件で争点となっ(2)ている事柄について供述した部分については,上記のような被告人の理解力・表現力の乏しさや,迎合しやすい供述傾向に照らすと,その信用性については,次のとおり問題点を指摘せざるを得ず,どこまで信用できるか,見極めが困難である。 ア本件自白はいつの時点での記憶や心情を述べたものかという点について,被告人質問において,質問者や質問の方法によって答えが二転,三転,,「。」し質問の趣旨と答えがかみ合わなかったり被告人がもう分からんなどと言い出して混乱したりする場面がしばしば見られたところ,このような被告人の供述状況に照らすと,取調べ時においても,被告人が十分に質問の意味内容を理解した上で,本件犯行当時の記憶や心情を正確に表現し得ているかどうか,疑問が残るところであり,取調官から理詰めで追及,。 されてこれを肯定したり後付けで考えて供述した可能性を否定できないイ被告人は,平成18年5月24日,業務上過失傷害,道路交通法違反の被疑事実で逮捕され,同年6月5日,殺人未遂の被疑事実で逮捕されたもので れを肯定したり後付けで考えて供述した可能性を否定できないイ被告人は,平成18年5月24日,業務上過失傷害,道路交通法違反の被疑事実で逮捕され,同年6月5日,殺人未遂の被疑事実で逮捕されたものであるところ,その翌日の同年6月6日付け検察官調書において,初め- 18 -て「死んでもらうしかないと思った」という供述が録取されている。 。 しかしながら,非常に強い独特の方言を話す被告人が「死んでもらう,。」,,しかないと思ったという表現を自ら使ったというのは唐突であって被告人の供述を取調官なりに解釈し,これを標準語の表現に言い直して質問したところ,被告人が迎合的に肯定し,以後その表現で通したという可能性が否定できず,これが被告人の本件犯行当時の記憶や心情を正確に言い表しているとは認め難い。 ウ被告人の供述書については,捜査官が「男の子に死んでもらうしかな,」,,いと思った理由などのテーマを与え取調官の立ち会いのもとで書かせ手が止まったときには「今何を考えてるの」等と質問しながら作成させたことが認められる(証人Fの証言による。 。)この種の供述書は,本来,被告人の意思に任せ,自由に記載させて初めて独自の価値があると考えられるところ,上記のように,捜査官が記載すべきテーマを与えて記載させることは,供述書の内容の方向性を左右するおそれがある上,捜査官が終始被告人のそばにいて,横から口を差し挟むような状況下では,供述録取書の作成と大差がないと言うべきであって,その独自の価値は高くない。 小括(3)以上より,被告人の本件自白は,その供述経過,被告人の理解力・表現力の乏しさや迎合しやすい供述傾向に照らせば,取調べの中で繰り返し理詰めで矛盾点を追及されるなどして迎合的になり,質問を肯定したり,後付けで考えて供述したものであ その供述経過,被告人の理解力・表現力の乏しさや迎合しやすい供述傾向に照らせば,取調べの中で繰り返し理詰めで矛盾点を追及されるなどして迎合的になり,質問を肯定したり,後付けで考えて供述したものである疑いが払拭できない。すなわち,本件自白は,本件犯行当時の記憶や心情をどこまで正確に述べたものか,見極めるのは困難であって,良質な証拠とは言い難く,証拠としての価値は低いと言わざるを得ない。 以上の次第で,当裁判所は,本件の争点に対する判断をするに当たっては,- 19 -自由心証主義に従って,本件自白を認定に供することなく,これを除く他の証拠(ただし,被告人の公判供述を含む)のみで,判断することにした。 。 そして,前記第3ないし第5のとおり,本件自白を除く他の証拠から,被告人が,県道e線から管理車道に左折進入した時点で,未必的な殺意をもって,殺人の実行行為たる,重傷を負った被害者を本件遺棄現場へ運んで遺棄するという行為に及んだことが優に認められる(なお,仮に本件自白を採用したと。 しても,被告人が,被害者は最寄りの病院に連れて行く途中で死んでしまうかもしれないと思っていたことは否定されないので,自己の実行行為により被害者が死亡することが確定的であるとまで認識していたと認めることはできず,未必的殺意にとどまるという認定は左右されない)。 第7弁護人の主張について 弁護人の各主張については,それぞれに対応する箇所で,当裁判所の判断を示すことを通じて,実質的に判断済みのものである。若干補足する。 弁護人の不真正不作為犯に関する主張について弁護人は「被害者を本件遺棄現場に移動させて置く」作為自体は被害者(1),の死亡の危険を現実的に惹起するものではないこと,本件事故につき被告人の過失及び違法性がなく,被告人には被害者を病院に搬送す 護人は「被害者を本件遺棄現場に移動させて置く」作為自体は被害者(1),の死亡の危険を現実的に惹起するものではないこと,本件事故につき被告人の過失及び違法性がなく,被告人には被害者を病院に搬送すれば生命が助かるという認識がなかったのであるから,作為義務は発生しておらず,作為との構成要件的同価値性もなく,したがって「被害者を病院に連れて行かずに置き去りにした」不作為について不真正不作為犯は成立しないなどと主張している。 しかしながら,本件では「被害者を車に乗せて運び,杉林の中の本件遺(2),棄現場に置き去りにした」という被告人の具体的な行為全体を評価の対象とすべきであり,これを「被害者を本件遺棄現場に移動させて置く」面と「被害者を病院に連れて行かずに置き去りにした」面に分けて評価すべきでないことは,前記第3で判示したとおりである。弁護人の主張は,被告人の行為- 20 -のうち,その一部のみを抽出して評価し,不真正不作為犯の成否を判断すべきというものであるが,そのように被告人の一連の行為を分割すること自体合理的な根拠を欠くものである。 したがって,本件につき不真正不作為犯の成否が問題となるものとし,(3)それを前提としてなされた弁護人の各主張は,違憲の主張を含め,いずれもその前提を欠くことになり,理由がないから,採用の限りでない。 (法令の適用)罰条刑法203条,199条刑種の選択有期懲役刑を選択未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,被告人の運転する普通貨物自動車と被害者の操縦する自転車が接触する交通事故が発生した後で,被告人が被害者を自車に乗せて事故現場から運搬する途中,山中へと入る公園管理車道付近を通りかかった際に,被害者を救護する意思を,,完全に 被害者の操縦する自転車が接触する交通事故が発生した後で,被告人が被害者を自車に乗せて事故現場から運搬する途中,山中へと入る公園管理車道付近を通りかかった際に,被害者を救護する意思を,,完全に放棄し交通事故の発覚を防ぐために被害者を山中に遺棄することを決意し頭部に重傷を負って意識を失った被害者を人目に付かない山中に運び込んで遺棄すれば,誰にも発見・救助されないまま頭部の重傷が悪化して死亡するかもしれないが,それもやむなしと決意し,被害者を車に乗せたまま山中に進入し,被害者を杉林の中に運び込んで遺棄したが,被害者が捜索活動により発見・救出され,病院に搬送されて医師による緊急手術が施されたため一命を取り留めたという殺人未遂の事案である。 被告人は,自己の責任や刑罰を恐れる余り,事故の発覚を防ぎたい一心から本件犯行に及んだものであり,このような動機は誠に自己中心的で卑劣であり,もとより酌量の余地はない。 被害者の頭蓋骨骨折等の重傷の原因である交通事故自体における被告人の過失は- 21 -乏しいものの,その相手方である当時11歳の被害者が頭部に重傷を負って意識不明の重体となっているにもかかわらず,自車に乗せた同人を,夜間の気温が低く,通常では発見・救出が困難な杉林の中まで運び込み,不衛生な状態で置いて立ち去ったという被告人の行為は,自らが被害者を救護しないというばかりか,第三者による発見・救護,医師による緊急治療の機会や救命の可能性を奪うことにより,被害者の容態を悪化させて,死の結果を惹起する危険性を,死が確実と言い得るほどにまで高めたものであり,極めて悪質である。幸いにして,被害者は,家族らの懸命な捜索活動により発見され,約9時間後に病院に搬送されて一命を取り止めたも,,のの本件が当時11歳であった幼い被害者に与えた肉体的・精神的苦 ,極めて悪質である。幸いにして,被害者は,家族らの懸命な捜索活動により発見され,約9時間後に病院に搬送されて一命を取り止めたも,,のの本件が当時11歳であった幼い被害者に与えた肉体的・精神的苦痛は大きくまた,大切な息子やきょうだいがこのような悲惨な被害に遭った被害者の家族の被った心痛は甚大であり,被害者の家族が被告人に対して厳しい処罰感情を抱くのは。 ,,。 当然であるしかるに被告人は被害者に対する慰謝の措置を何ら講じていないさらに,本件は,被害者の発見・救出のために,地域住民も含めた大規模な捜索活動が行われたものであり,本件が悪質な児童連れ去り事件として地域社会に与えた衝撃や不安感は格段に大きく,一般予防の必要性も高い。 これらの情状に照らせば,被告人の刑事責任は重い。 ,,,,他方被告人は殺意の点はともかく客観的事実関係や犯行の目的などは認め公判廷では被害者と家族に謝罪したい旨述べるなど,被告人なりに反省の態度を示していること,平素は土木作業員として稼働し,禁錮以上の刑の前科もないことなど,被告人のために酌むことのできる情状も認められる。 以上の諸情状を考慮の上,主文のとおり量刑した。 (求刑懲役7年)平成19年2月28日佐賀地方裁判所刑事部裁判長裁判官若宮利信- 22 -裁判官伊藤ゆう子裁判官稲吉彩子
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