平成31(ネ)10032 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和元年9月18日 知的財産高等裁判所 1部 判決 控訴棄却 大阪地方裁判所 平成29(ワ)1752
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判決文本文6,221 文字)

- 1 -令和元年9月18日判決言渡平成31年(ネ)第10032号損害賠償請求控訴事件(原審大阪地方裁判所平成29年(ワ)第1752号)口頭弁論終結日令和元年8月14日判決 控訴人株式会社グランパレコートドール 同訴訟代理人弁護士横山晃崇 被控訴人株式会社中田水産 同訴訟代理人弁護士奥島直道和田聖仁城戸昭憲 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,1000万円及びこれに対する平成28年10月7日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(略称は,特に断らない限り,原判決に従う。) 1 本件は,名称を「稚魚を原料とするちりめんの製造法及びその製品」とする発明(本件発明)に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が,その専用実施権を - 2 -設定する旨の契約(本件契約)の相手方である被控訴人は,本件契約上専用実施権者に義務付けられた特許発明の実施をせず,また,実施に係る報告もしなかったとして,債務不履行による損害賠償請求権に基づき,本件契約第16条第2項による約定損害金1000万円及びこれに対する請求日の翌日である平成28年10月7日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は,被控訴人は本件発明を実施 害金1000万円及びこれに対する請求日の翌日である平成28年10月7日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は,被控訴人は本件発明を実施しており,また,報告義務の不履行による控訴人の損害は認められないとして,控訴人の請求を棄却した。 そこで,控訴人がこれを不服として本件控訴を提起した。 2 前提事実は,原判決の「事実及び理由」の第2の2に記載されたとおりであるから,これを引用する。 3 争点⑴ 実施義務違反の有無ア被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反するものか(争点1)イ被告製品の製造販売が実施義務の履行として十分なものでなかったか(争点2)⑵ 報告義務違反の有無(争点3)⑶ 損害の有無及び額(争点4)第3 争点に関する当事者の主張 1 原判決の引用争点に関する当事者の主張は,後記2のとおり補正し,後記3のとおり当審における補充主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3に記載されたとおりであるから,これを引用する。 2 原判決の補正原判決9頁21行目及び10頁25行目の「仕入れ」をいずれも「納品」に改める。 - 3 - 3 当審における補充主張(被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反するものか(争点1)について)〔控訴人の主張〕被告製品の製造工程に粗熱をとって冷ます工程を入れることの可否について,確かに,本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には,稚魚をボイルした後に氷冷熟成すると記載されているだけで,粗熱をとって冷ます工程を入れることを禁じる旨の記載はないが,そのことから当然に「冷ます」工程を入れることが許容されることにはならず,本件発明の目的に照らして更に検討し判断されるべきである。 本件発明は,し 冷ます工程を入れることを禁じる旨の記載はないが,そのことから当然に「冷ます」工程を入れることが許容されることにはならず,本件発明の目的に照らして更に検討し判断されるべきである。 本件発明は,しらすの旨味成分を維持しつつ長期間の保存を可能にするところにその目的があるのに,被控訴人が販売していた被告製品に含まれるイノシン酸と水分の量は,その2年以上前に本件発明の製造方法に従って製造された製品と比較しても少なく,被告製品においてはイノシン酸による旨味成分が維持されていない。 被控訴人が販売していた被告製品は,粗熱をとって冷ます工程を入れて製造されているために,イノシン酸による旨味成分の維持という本件発明の目的を達成できていないのであるから,その製造工程が本件発明の製造工程に反し,本件発明の実施をしていないと評価されるべきである。 〔被控訴人の反論〕控訴人の主張は争う。 控訴人がイノシン酸と水分の量の少ないことを指摘する試料(甲21)が被控訴人において販売していた製品であることの証明はないから,被告製品中のイノシン酸と水分の量が少ないことを示す的確な証拠はなく,控訴人の主張はその前提を欠いている。 第4 当裁判所の判断当裁判所も,被控訴人に実施義務の不履行は認められず,報告義務の不履行は認められるがこれによる控訴人の損害が認められないから,債務不履行による損害賠償を求める控訴人の請求には理由がないものと判断する。 - 4 -その理由は,次のとおりである。 1 本件発明に係る被控訴人の実施義務について前記(引用に係る原判決の「事実及び理由」の第2の2⑶)のとおり,控訴人は,平成26年3月28日,被控訴人との間で本件契約を締結し,(ア) 控訴人は,被控訴人に対し,本件特許の専用実施権を許諾し(第1条),(イ) 被 判決の「事実及び理由」の第2の2⑶)のとおり,控訴人は,平成26年3月28日,被控訴人との間で本件契約を締結し,(ア) 控訴人は,被控訴人に対し,本件特許の専用実施権を許諾し(第1条),(イ) 被控訴人は,その許諾に係る対価として,控訴人に対し,毎月末日限り,実施製品の販売数量に応じてこれに2ないし5%の割合を乗じた額のランニング実施料を支払い(第3条),(ウ) 被控訴人は,控訴人に対し,毎月末日限り,販売した製品の形式,単価,販売数量,販売先,総販売額,実施料及び消費税を記載した実施報告書を送付し,当該期間に製品の販売実績がない場合にもその旨を記載した報告書を送付し(第4条),(エ) 控訴人は,被控訴人が本件契約に違反したときは,何らの催告を要せず本件契約を解除することができ(第15条第1項),(オ) 被控訴人の本件契約違反により被った損害の賠償に係るその損害の額は,金1000万円と予定する(第16条第2項)旨合意したことが認められる。 被控訴人は,本件契約に基づき本件特許の専用実施権を取得し,本件発明を独占的に実施し得る地位を取得する。一方,控訴人は,自ら実施することができないのみならず,被控訴人以外の者に実施の許諾をして実施料を得ることができないにもかかわらず,特許維持費用を負担する義務を負う。控訴人は,被控訴人が本件発明を実施して製品を顧客に販売することができなければ,実施料の支払を全く受けられない。このような当事者双方の法的地位に照らすと,本件契約においては,本件特許の許諾を受けた被控訴人においてこれを実施する義務を負う旨の黙示の合意があるものと認めるのが衡平にかない,また,被控訴人において本件発明を実施する義務を負うこと自体は,被控訴人も争っていない。 もっとも,このように解したとしても,実施義務の具体的内容,言い換 合意があるものと認めるのが衡平にかない,また,被控訴人において本件発明を実施する義務を負うこと自体は,被控訴人も争っていない。 もっとも,このように解したとしても,実施義務の具体的内容,言い換えれば,被控訴人において何をすれば義務を履行したといえるか,あるいは,不完全な履行に対してどのような効果が付与されるかについて,一義的に定まるわけではない。 - 5 -そうすると,本件契約の趣旨に加え,実施品の製造及び販売に係る被控訴人の態度を具体的な事情の下で総合的に検討することにより,本件契約違反に基づく損害の賠償請求の可否を判断するのが相当である。 2 実施義務違反の有無について⑴ 被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反するものか(争点1)ア控訴人は,被告製品の製造工程には,稚魚をボイルした後に,粗熱をとって冷ます工程が入っていることから,本件発明の製造工程に反し,そのことにより,本件契約上専用実施権者に義務付けられた特許発明の実施がされていない旨主張する。 しかしながら,本件において被告製品の製造工程が本件発明の製造工程に反していると認めることはできない。 その理由は,後記イのとおり補正し,後記ウのとおり,当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第4の1(原判決12頁19行目から22頁20行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用する。 イ原判決の補正原判決22頁15行目及び20行目の「本件特許」をいずれも「本件発明」に改める。 ウ当審における補充主張に対する判断控訴人は,被告製品の製造工程に粗熱をとって冷ます工程を入れることの可否については,確かに,本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には,稚魚をボイルした後に氷冷熟成すると記載されているだけで 判断 控訴人は,被告製品の製造工程に粗熱をとって冷ます工程を入れることの可否については,確かに,本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書には,稚魚をボイルした後に氷冷熟成すると記載されているだけで,粗熱をとって冷ます工程を入れることを禁じる旨の記載はないが,そのことから当然に「冷ます」工程を入れることが許容されることにはならないと主張する。 そして,本件発明は,しらすの旨味成分を維持しつつ長期間の保存を可能にすることを目的とするものであるのに,被告製品に含まれるイノシン酸と水分の量は, - 6 -その2年以上前に本件発明の製造方法に従って製造された製品と比較しても少なく,被告製品においてはイノシン酸による旨味成分の維持がされていないことからすれば,本件発明の製造工程に従って製造されていないと認めるべきであり,このことは被控訴人の実施義務の違反を構成すると主張する。 その上で,被告製品に含まれるイノシン酸と水分の量を示す証拠として,平成30年2月1日付け愛媛県産業技術研究所長作成の成績表(29産研分第252―1号。甲18)及び平成30年3月8日付け愛媛県産業技術研究所長作成の成績表(29産研分第286号。甲24)並びに被告製品の写真(甲21)を提出する。 しかしながら,甲21の被告製品の写真は,上記各成績表に係る試料となる検体を撮影したものであると説明されているものの,上記被告製品は,賞味期限を平成28年11月19日とするものであり(甲21,24),試験の依頼日である平成30年3月5日までに1年3か月以上経過していた。上記被告製品が上記試験までの間どのように保存されていたかは,試験結果に影響を与え得る事情であると考えられるが,その保存状況を明らかにする客観的な証拠は見当たらない。むしろ,上記試験の結果によれば,イノシン酸の含有量 験までの間どのように保存されていたかは,試験結果に影響を与え得る事情であると考えられるが,その保存状況を明らかにする客観的な証拠は見当たらない。むしろ,上記試験の結果によれば,イノシン酸の含有量の値が41と低く(甲18),被控訴人において,粗熱を取ったしらすに対し冷凍と解凍を繰り返したときの試験結果(乙69)とイノシン酸の含有量の傾向が一致していることからすると,上記被告製品の保存の状態も,同様に解凍と冷凍をしたものであったことがうかがわれる。 そうすると,上記の試験結果が被告製品の状態を的確に示すものといえるか否かについては疑義があり,この疑義を払拭するに足りる的確な証拠はない。 よって,控訴人の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。 ⑵ 被告製品の製造販売が実施義務の履行として十分なものでなかったか(争点2)ア控訴人は,被控訴人が本件契約の締結後すぐには被告製品を製造しなかったことや,その後に支払われた実施料が少額であったことをとらえて,被告製品の製造販売が実施義務の履行として十分なものでなく,そのことにより,本件契約上専 - 7 -用実施権者に義務付けられた本件発明の実施がされていない旨主張する。 しかしながら,本件事実関係の下において,被告製品の製造販売が実施義務の履行として十分なものでなかったと評価することはできない。 その理由は,後記イのとおり補正するほかは,判断の基礎となる事実関係については,原判決の「事実及び理由」の第4の2⑴(原判決22頁25行目から28頁18行目まで)に記載されたとおりであり,判断については,同第4の2⑶(原判決29頁末行から33頁14行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用する。 イ原判決の補正(ア) 原判決23頁7行目,19行目,24頁24行目,26頁23 いては,同第4の2⑶(原判決29頁末行から33頁14行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用する。 イ原判決の補正(ア) 原判決23頁7行目,19行目,24頁24行目,26頁23行目,30頁1行目,14行目,18行目,26行目,31頁24行目,25行目,32頁1行目,2行目,7行目の「本件特許」を,いずれも「本件発明」に改める。 (イ) 同26頁23行目の「従来通り」を「従来どおり」に,27頁2行目の「契約通り」を「契約どおり」に,それぞれ改める。 (ウ) 同29頁末行の「⑶」を「⑵」に改める。 (エ) 同30頁1行目の「上記⑵のような観点から,」から2行目の「検討すると,」までを,「前記1の観点から,被告製品の製造販売が実施義務の履行として十分なものでなかったかどうかを検討すると,」に改める。 (オ) 同頁18行目の「被告が前記⑵で判示した」を「さらに,被控訴人が」に改める。 3 報告義務違反の有無(争点3)及び損害の有無(争点4)について⑴ 本件事実関係の下において,被控訴人に本件契約上の報告義務の不履行は認められるが,これによる控訴人の損害は認められない。 ⑵ その理由は,後記⑶のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の第4の3(原判決33頁18行目から36頁14行目まで)に記載されたとおりであるから,これを引用する。 - 8 -⑶ 原判決の補正ア原判決35頁7行目,9行目,10行目の「本件特許」をいずれも「本件発明」に改める。 イ同36頁11行目から14行目までを,次のとおりに改める。 「 なお,仮に,本件契約第16条第2項の賠償額の予定によるのでなく,債務不履行による損害賠償の一般原則によるとしても,本件において報告義務違反による何らかの損害が生じたことを認める りに改める。 「 なお,仮に,本件契約第16条第2項の賠償額の予定によるのでなく,債務不履行による損害賠償の一般原則によるとしても,本件において報告義務違反による何らかの損害が生じたことを認めるに足りない。」 4 結論以上の次第であるので,控訴人の請求には理由がない。 よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官高部眞規子 裁判官小林康彦 裁判官関根澄子

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