- 1 -平成27年10月29日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成27年(ワ)第1025号特許権侵害差止請求事件口頭弁論終結日平成27年8月20日判決大阪市<以下略>原告サントリーホールディングス株式会社同訴訟代理人弁護士小池 豊 櫻井彰人 青柳昤子 粟田英一同訴訟代理人弁理士山本 修 梶田 剛東京都墨田区<以下略>被告アサヒビール株式会社同訴訟代理人弁護士大野聖二 小林英了 大野浩之同訴訟代理人弁理士堅田健史同補佐人弁理士森田 裕主文原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造- 2 -し,譲渡し,又は譲渡の申出をしてはならない。 2 被告は,被告製品を廃棄せよ。 第2 事案の概要本件は,発明の名称を「pHを調整した低エキス分のビールテイスト飲料」とする特許権を有する原告が,被告に対し,被告による被告製品の製造等が特許権侵害に当たると主張して,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造等の差止め及び廃棄を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者ア原告は,清涼飲料その他の飲料,酒類の製造及び販売等の事業を営む会社等の株式又は持分を所有することにより,当該会社等の事業活動を支 拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者ア原告は,清涼飲料その他の飲料,酒類の製造及び販売等の事業を営む会社等の株式又は持分を所有することにより,当該会社等の事業活動を支配,管理することを目的とする株式会社である。 イ被告は,ビールその他の酒類,清涼飲料その他の飲料の製造,販売等を目的とする株式会社である。 原告の特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請求項1に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である。 特許番号第5382754号原出願日平成24年11月19日出願日平成25年5月27日(特願2013-110731)優先日平成23年11月22日登録日平成25年10月11日発明の名称 pHを調整した低エキス分のビールテイスト飲料イ本件特許の特許請求の範囲の請求項1(ただし,平成26年8月7日に確定した審決による訂正後のもの)の記載は,次のとおりである(以下,- 3 -この発明を「本件発明」といい,同訂正後の明細書及び図面を「本件明細書」という。)。 「 エキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であるノンアルコールのビールテイスト飲料であって,pHが3.0以上4.5以下であり,糖質の含量が0.5g/100ml以下である,前記飲料。」ウ本件発明は,以下の構成要件に分説される。 A-① エキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であるノンアルコールのビールテイスト飲料であって,A-② pHが3.0以上4.5以下であり,A-③ 糖質の含量が0.5g/100ml以下である,B 前記飲料。 本件特許の出願経過等ア原告は,平成23年11月22日に優先権の基礎となる出願を行い(特願 0以上4.5以下であり,A-③ 糖質の含量が0.5g/100ml以下である,B 前記飲料。 本件特許の出願経過等ア原告は,平成23年11月22日に優先権の基礎となる出願を行い(特願2011-255388),平成24年11月19日に優先権を主張して国際出願をした(PCT/JP2012/079973)。この国際出願は日本国に国内移行され(特願2013-516897),原告は,この国内移行された出願につき平成25年5月27日に本件発明に係る分割出願を行った。(乙39,40)イ本件特許の特許出願時の特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりであった。 「 エキス分の総量が2.0重量%以下であるビールテイスト飲料であって,pHが2.7以上4.5以下である,前記飲料。」ウ原告は,平成25年8月5日付けで手続補正書(乙3)を提出し,特許請求の範囲の請求項1を次のとおり補正し(下線部は補正箇所。以下,この補正を「本件補正」という。),同年10月11日に特許登録を受けた。 「 エキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であるビールテ- 4 -イスト飲料であって,pHが3.0以上4.5以下であり,糖質の含量が0.5g/100ml以下である,前記飲料。」エ訂正を認める旨の審決がされた。 被告の行為被告は,平成25年9月上旬からノンアルコールのビールテイスト飲料である被告製品(ドライゼロ)の製造,販売を行っている。 ノンアルコールのビールテイスト飲料の発売ノンアルコールのビールテイスト飲料である原告の「サントリーオールフリー」(以下「オールフリー」という。)及び被告の「アサヒダブルゼロ」(以下「ダブルゼロ」という。)は,平成22年8月3日にそれぞれ発売が開始された(乙4,9) である原告の「サントリーオールフリー」(以下「オールフリー」という。)及び被告の「アサヒダブルゼロ」(以下「ダブルゼロ」という。)は,平成22年8月3日にそれぞれ発売が開始された(乙4,9)。オールフリー及びダブルゼロは,いずれも本件補正前(特許出願時)の特許請求の範囲の請求項1記載の発明の技術的範囲に属するものであったが,本件補正後はその技術的範囲に属しないものとなった(乙1,弁論の全趣旨)。 2 争点被告は,被告製品が本件発明の技術的範囲に属することを争っていない。本件の争点は,本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものとして原告が本件特許権を行使することができないか否かであり(特許法104条の3第1項),被告は本件特許には以下の無効理由があると主張している。 サポート要件(特許法36条6項1号)違反実施可能要件(同条4項1号)違反補正要件(同法17条の2第3項)違反オールフリーに係る発明(以下「公然実施発明1」という。)に基づく進歩性欠如ダブルゼロに係る発明(以下「公然実施発明2」という。)に基づく進歩- 5 -性欠如米国特許第3717471号公報(以下「乙13公報」という。)に記載された発明(以下「乙13発明」という。)に基づく進歩性欠如特開2013-21944号公報(以下「乙17公報」という。)に記載された発明(以下「乙17発明」という。)に基づくいわゆる拡大先願要件(同法29条の2)違反優先権の主張が認められないことを前提とする進歩性欠如 3 争点に関する当事者の主張 )について(被告の主張)ア本件発明は,エキス分の総量,pH及び糖質の含量につき数値範囲で限定された発明であり,低エキス分のビールテイスト飲料に飲み応え感及び適度な酸味を付与 )について(被告の主張)ア本件発明は,エキス分の総量,pH及び糖質の含量につき数値範囲で限定された発明であり,低エキス分のビールテイスト飲料に飲み応え感及び適度な酸味を付与するという課題を解決するために,pHの値を特定の数値範囲に限定したものとされる。 しかし,本件明細書において,本件発明の構成要件を満たす実施例は発明品3の1例のみであり,この実施例は本件発明で規定される数値範囲の境界値(エキス分の総量及びpHの下限値,糖質含量の上限値)のものにすぎない(【表1】)。また,本件明細書では,エキス分の総量を高くした場合及び低くした場合のいずれであってもしっかりとした飲み応えを提供できることが示されている(【表1】~【表5】)。そうすると,本件明細書の記載からは,エキス分の総量を0.5重量%以上2.0重量%以下,かつ,糖質を0.5g/100ml以下にしてpHを変化させた場合に本件発明の課題が解決されているかを理解することができない。 イ本件発明はエキス分の総量を0.5~2.0重量%の範囲に限定するものであり,原告はこれにより飲み応え感の付与という効果を奏すると主張する。しかし,本件明細書には,エキス分の総量が0.5~2.0重量%- 6 -の飲料より0.5重量%以下の飲料の方がより好ましいと明記されており(段落【0019】),原告の主張は本件明細書の記載と真っ向から反するものである。 ウ本件明細書に記載された複数の「発明品」(ただし,本件発明の実施品であるのは前記発明品3のみである。)は,エキス分の総量と糖質の含量がほぼ同じであり,飲み応え感の付与の効果がこれらのいずれかによるものなのか不明であるから,エキス分の総量と糖質の含量が大きく異なる値となった場合に本件発明の課題が解決されることはついては 質の含量がほぼ同じであり,飲み応え感の付与の効果がこれらのいずれかによるものなのか不明であるから,エキス分の総量と糖質の含量が大きく異なる値となった場合に本件発明の課題が解決されることはついては,本件明細書に何ら開示されていない。 エしたがって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されたものといえないから,サポート要件(特許法36条6項1号)に違反する。 (原告の主張)ア本件明細書において本件発明の構成要件を満たす実施例は一つであるが,本件発明の数値範囲内で作用効果を奏することは本件明細書の記載から十分に認められ,本件発明の課題を解決できると認識することができる。 すなわち,本件明細書の発明の詳細な説明の欄には,①低エキス分(2. 0重量%以下)かつ低糖質のビールテイスト飲料において,pHの上限を4.5,下限を3.0に調整することにより,飲み応え付与効果,更に適度な酸味付与効果が得られること(段落【0006】,【0007】,【0023】),②本件発明のノンアルコールのビールテイスト飲料の好ましい態様の一つは,低糖質のビールテイスト飲料であって,糖質の含量は0. 5g/100ml以下であることがより好ましいこと(段落【0028】,【0029】),③本件発明の実施例である発明品3に加え,エキス分の総量を0.5~2.0重量%とする発明品4及び発明品5が飲み応えを有すること(【表1】),④エキス分の総量と糖質の含量を固定してpHを- 7 -変化させた場合の飲み応え感と酸味のデータ(【表2】~【表5】)が記載されており,これらを総合すれば,エキス分の総量0.5重量%以上2. 0重量%以下,pH3.0以上4.5以下,糖質の含量0.5g/100ml以下という構成を有するノンアルコールのビールテイスト飲料が本件発明の課題を解決できると当 ,エキス分の総量0.5重量%以上2. 0重量%以下,pH3.0以上4.5以下,糖質の含量0.5g/100ml以下という構成を有するノンアルコールのビールテイスト飲料が本件発明の課題を解決できると当業者が認識することが可能である。 イエキス分の総量は,pH調整による飲み応え付与という本件発明の技術的意義が相対的に高く現れるという意味では低い方がより好ましいものであるが(段落【0019】),絶対量としての飲み応え感はエキス分の総量の減少に応じて低くなる。そうすると,pH調整による技術的意義を好適な程度に有しながら,かつ,飲料として高い飲み応え感と酸味付与を得る観点から全体的にみて最も好適なエキス分の総量が0.5~2.0重量%であることは,明細書の記載(段落【0019】,【0061】,【表1】等)から把握することができる。 ウエキス分の総量は糖質由来のエキス分と非糖質由来のエキス分から構成されるところ(段落【0020】),本件発明においては非糖質由来のエキス分となる各種成分(タンパク質等)を添加してもよいから(段落【0033】),非糖質由来のエキス分を配合することでエキス分の総量と糖質の含量とがかい離することは当然に予定されている。そして,本件明細書の記載(段落【0002】,【0017】,【0019】)を参酌すれば,非糖質由来のエキス分を更に添加して,エキス分の総量のみを0.5~2.0重量%に増量した場合,エキス分の総量による飲み応え感は,糖質由来のエキス分と非糖質由来のエキスを合わせたエキス分による飲み応え感となり,全体として飲み応え感が向上することを認識することができる。 エしたがって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載された発明であって,当業者が本件発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか- 8 え感が向上することを認識することができる。 エしたがって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載された発明であって,当業者が本件発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか- 8 -ら,サポート要件に違反しない。 (特許法36条4項1号)違反)について(被告の主張)ア本件明細書の実施例及び比較例では,pH調整剤(乳酸)の量を調整することによりpHの値を変化させている(段落【0058】)ところ,添加する調整剤の量が異なればエキス分の総量も異なることになる。ところが,発明品1~5と対照品1~5はそれぞれエキス分の総量が等しくなっており(【表1】),本件発明の実施品の製造方法の記載(段落【0058】)に従っても,当業者は本件発明の数値範囲内にあるビールテイスト飲料を調製することができない。実際に被告が行った再現実験(乙1)では本件発明の実施例である発明品3を調製することができなかった。 イ本件明細書の実施例及び比較例(【表1】~【表5】)では,エキス分の総量の数値と糖質の含量の数値がほぼ等しい値となっているものが示されているのみであり,糖質の含量を下げつつ,エキス分の総量を増加させる方法については何ら開示されていないから,本件明細書の記載に基づいてエキス分の総量と糖質の含量が大きくかい離したノンアルコールのビールテイスト飲料を調製することはできない。 ウしたがって,本件明細書における発明の詳細な説明の記載は,当業者において本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないから,本件特許は実施可能要件(特許法36条4項1号)に違反する。 (原告の主張)ア被告が行った再現実験は,本件明細書の段落【0058】の記載に基づかないものである。そして,本件明細書の段落【0055】 許は実施可能要件(特許法36条4項1号)に違反する。 (原告の主張)ア被告が行った再現実験は,本件明細書の段落【0058】の記載に基づかないものである。そして,本件明細書の段落【0055】~【0058】には本件発明の実施品の製造方法の記載があり,その他本件明細書の記載(段落【0020】~【0022】,【0029】,【0030】,【0- 9 -033】等)を参酌すれば,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験を行うことなく,本件発明を実施することができる。 イ本件明細書には,エキス分の総量が糖質の含量より多い例として発明品4及び発明品5(【表1】)が記載されるとともに,エキス分の総量を調整する工程と糖質の含量を調整する工程の両方が独立して記載されているから(段落【0041】,【0043】),エキス分の総量と糖質の含量が大きく異なる本件発明の実施品を容易に製造することができる。 ウしたがって,本件特許は実施可能要件に違反しない。 (特許法17条の2第3項)違反)について(被告の主張)本件補正はエキス分の総量の下限値を0.5重量%と限定するものであるところ,本件明細書にはエキス分の総量の上限値を0.5重量%とする技術事項のみ開示されており(段落【0019】,【0061】),エキス分の総量の下限値を0.5重量%に定める技術事項は何ら開示されていない。 また,本件補正は,エキス分の総量について下限値を,糖質の含量について上限値を定めたものであり,これによりエキス分の総量の値と糖質の含量の値とを大きくかい離させるという技術事項を導入することになったが,このことは本件明細書には何ら開示されていない。 したがって,本件補正は,新たな技術的事項を導入するものであって,補正要件(特許法17条の2第3項)に違反する。 を導入することになったが,このことは本件明細書には何ら開示されていない。 したがって,本件補正は,新たな技術的事項を導入するものであって,補正要件(特許法17条の2第3項)に違反する。 (原告の主張)エキス分の総量0.5重量%は,本件明細書の段落【0019】に記載されているとおり,より好ましい範囲の上限値であるものの,同時に好ましい範囲の下限値でもあるから,本件明細書にはエキス分の総量を「0.5重量%以上2.0重量%以下」とすることは記載されている。 また,本件明細書には非糖質由来のエキス分の添加が許容されることが記- 10 -載されているから(段落【0033】),エキス分の総量と糖質の含量とがかい離することも当然予定されている技術事項である。 したがって,本件補正が補正要件に違反することはない。 発明1(オールフリー)に基づく進歩性欠如)について(被告の主張)アオールフリーの公然実施オールフリーが本件特許の優先日前に発売されたことにより,オールフリーに係る発明(公然実施発明1)は日本国内において公然実施をされた発明となった。 イ公然実施発明1の構成公然実施発明1は,以下の構成を備えている。 a-① エキス分の総量が0.39重量%であるノンアルコールのビールテイスト飲料である,a-② pHは3.78である,a-③ 糖質の含量は0.5g/100ml未満である,b 前記飲料。 ウ本件発明と公然実施発明1との一致点及び相違点本件発明と公然実施発明1とは,本件発明がエキス分の総量を0.5重量%以上2.0重量%以下としているのに対し,公然実施発明1がこれを0.39重量%としている点で相違し,その余の点で一致する。 エ相違点の容易想到性ビールの分析方法については,ビ を0.5重量%以上2.0重量%以下としているのに対し,公然実施発明1がこれを0.39重量%としている点で相違し,その余の点で一致する。 エ相違点の容易想到性ビールの分析方法については,ビール等の間接税課税物件等の試験方法を定めた「国税庁所定分析法」とビール酒造組合国際技術委員会が定めた「BCOJビール分析法」があるところ,いずれの分析方法においてもエキス分が分析項目として挙げられており,ビールに関してエキス分を測定することは当業者では当然の事項となっている。特開2008- 11 --43231号公報(以下「乙14公報」という。),特開2011-139699号公報(以下「乙26公報」という。),特開2009-11200号公報(以下「乙27公報」という。)の記載から明らかなとおり,ビールとノンアルコールビールとは同じ技術分野に属するので,ビールの分析項目であるエキス分につきノンアルコールビールでも測定することが当業者では常識となっている。現に,本件特許の優先日前に頒布された「BierederWelt(世界のビール)」と題する文献及び特開2011-229538号公報(乙29)には,アルコールの有無にかかわらず,エキス分が測定されることが開示されている。 このように,エキス分は,本件特許の優先日前において当業者に広く知られた技術事項であり,ビールテイスト飲料を調整するに当たっては,当然に着目する事項である。 また,特開2009-142233号公報(乙5),特開平11-127839号公報(乙6),特開2010-279349号公報(乙7),特開2007-124960号公報(乙8),乙14公報,特開2005-13166号公報(乙15),特開2011-142901号公報(乙16)に記載されているとおり,本件特許の優先日前において 7),特開2007-124960号公報(乙8),乙14公報,特開2005-13166号公報(乙15),特開2011-142901号公報(乙16)に記載されているとおり,本件特許の優先日前においては,アルコールの有無にかかわらず,飲料中のエキス分が低い場合に,風味,ボディ感,コク味ないし味の厚みに欠けることは当業者に広く知られていた。さらに,ノンアルコールビールテイスト飲料に限ってみても,特開2003-250503号公報(乙25),乙26公報,乙27公報に記載されているとおり,エキス分を増やせば飲み応えが付与されることは当業者における技術常識であった。 そして,オールフリーについては,多くの消費者から,「コクがない」,「味が薄い」等の厳しい評価を受けており,コク(飲み応え)に乏しいことが当業者に認識されていた。そうすると,公然実施発明1及びこれ- 12 -に関する評価を見た当業者において,飲み応えを出すためにエキス分を増やそうとする動機付けや示唆があったことは明らかである。したがって,公然実施発明1において,飲み応えを高めるためにエキス分を0. 5重量%以上まで増加させることは,容易に想到できたものである。 本件明細書の発明品2(エキス分の総量は0.1重量%)と発明品3(同0.5重量%)を比較すると飲み応えに差異がなく(【表1】),かえって,エキス分の総量を0.5%以上とすると飲み応え及び酸味が劣ることが示されており(【表2】~【表5】),エキス分の総量を0. 5重量%以上とすることに技術的意義はない。また,本件明細書には,本件発明のエキス分の総量である「0.5重量%以上2.0重量%以下」と比較して,より好ましい範囲のエキス分の総量として0.5重量%以下であることが記載されているところ(段落【0019】),本件発明は,公然実 エキス分の総量である「0.5重量%以上2.0重量%以下」と比較して,より好ましい範囲のエキス分の総量として0.5重量%以下であることが記載されているところ(段落【0019】),本件発明は,公然実施発明1を回避するために,上記のエキス分の総量のより好ましい範囲(0.5重量%未満)を除外したものであるから,従来技術である公然実施発明1と比べて何らの技術的貢献をもたらすものではない。 オ小括したがって,本件発明は,公然実施発明1に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠く(特許法29条2項)。 (原告の主張)ア本件発明の認定本件発明はエキス分の総量,pH及び糖質の含量を一体として捉えることで技術的意義を有するものであり,これらはひとまとまりの構成として捉える必要があるから,本件発明の構成は以下のとおりとなる。 「 エキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であるノンアルコールのビールテイスト飲料であって,pHが3.0以上4.5以下で- 13 -あり,糖質の含量が0.5g/100ml以下である,前記飲料。」イ公然実施発明1の認定被告がオールフリーを分析した結果(乙1,41の1)を見ると,別紙1-1~3のとおり,数十に及ぶ分析項目が存在する。オールフリーそのものは本件発明の技術思想(エキス分の総量,pH及び糖質の含量の各数値範囲と飲み応え感,適度な酸味付与効果との相関に関する技術思想)を開示するものではないから,多数の分析項目の中からエキス分の総量,pH及び糖質の含量の3つの成分のみを抜き出すことは本件発明の解決手段ないし解決結果を踏まえなければ不可能である。すなわち,被告が主張する構成は事後分析的な後知恵に基づくものというべきであるから,これを公然実施発 量の3つの成分のみを抜き出すことは本件発明の解決手段ないし解決結果を踏まえなければ不可能である。すなわち,被告が主張する構成は事後分析的な後知恵に基づくものというべきであるから,これを公然実施発明1の構成とすることはできない。 オールフリーの上記分析結果に従うとすれば,公然実施発明1の構成は以下のとおりとなる。 a 別紙1-1~3の分析結果における各成分及び含有量であるノンアルコールのビールテイスト飲料である,b 前記飲料。 ウ本件発明と公然実施発明1との一致点及び相違点本件発明と公然実施発明1は,本件発明がエキス分の総量を0.5重量%以上2.0重量%以下,pHを3.0以上4.5以下,糖質の含量を0. 5g/100ml以下としているのに対し,公然実施発明1がその分析結果における各成分及び含有量としている点で相違し,その余の点で一致する。 エ相違点の容易想到性本件特許の優先日当時,健康志向の高まりで,ノンアルコールのビールテイスト飲料の市場は活気を帯びていたところ,オールフリーは市場での販売金額上位10品目のランキングで1位を占めており,消費者の満足度- 14 -は極めて高く,飲み応えの課題があったとは想定し難い。そうすると,公然実施発明1から本件発明の解決課題(エキス分の総量が低いノンアルコールのビールテイスト飲料であっても飲み応え感が付与された飲料を提供すること)を容易に認識し得ないから,相違点に係る構成に至ることが容易であったとはいえない。 また,飲み応え感を付与するという課題を認識できたとしても,アルコール飲料において飲み応え感を付与するためには,エキス分を増やすのではなく,各種添加剤の種類や量を検討してみることが一般的であったから,エキス分の総量,pH及び糖質の含量のみに着 たとしても,アルコール飲料において飲み応え感を付与するためには,エキス分を増やすのではなく,各種添加剤の種類や量を検討してみることが一般的であったから,エキス分の総量,pH及び糖質の含量のみに着目する示唆や動機付けは一切ない。 さらに,オールフリーの商品コンセプトは,トリプルゼロ(アルコール,カロリー,糖質のゼロ)であり,エキス分が薄い飲料であることを特徴としてそれが消費者に受け入れられていたのであるから,このコンセプトを破壊するようなエキス分の総量を増やす行為は,オールフリーそのものを否定することであり,設計事項としてなし得ない。 オ本件発明の顕著な効果本件発明の技術的意義は,pH調整による技術的意義としての高さと絶対量としての飲み応え感の高さとはトレードオフの関係にあるという新規な発見の中で,双方を両立させた範囲としてエキス分の総量を0.5~2.0重量%とした点にあり,低糖質(0.5g/100ml以下)であっても所定のpH範囲であればこの技術的意義を維持できることが特徴である。本件発明の効果は,このような技術的意義に裏打ちされたものであり,公然実施発明1からは全く予測できない顕著なものであった。 カ小括したがって,本件発明は,公然実施発明1に対して十分に進歩性を有するものである。 - 15 - 発明2(ダブルゼロ)に基づく進歩性欠如)について(被告の主張)アダブルゼロの公然実施ダブルゼロが本件特許の優先日前に発売されたことにより,ダブルゼロに係る発明(公然実施発明2)は日本国内において公然実施をされた発明となった。 イ公然実施発明2の構成公然実施発明2は,以下の構成を備えている。 a-① エキス分の総量が1.07重量%であるノンアルコールのビールテイスト飲料である, 然実施をされた発明となった。 イ公然実施発明2の構成公然実施発明2は,以下の構成を備えている。 a-① エキス分の総量が1.07重量%であるノンアルコールのビールテイスト飲料である,a-② pHは3.05である,a-③ 糖質の含量は0.9g/100mlである,b 前記飲料。 ウ本件発明と公然実施発明2との一致点及び相違点本件発明と公然実施発明2とは,本件発明が糖質の含量を0.5g/100ml以下としているのに対し,公然実施発明2がこれを0.9g/100mlとしている点で相違し,その余の点で一致する。 エ相違点の容易想到性糖質の含量は,栄養表示基準で規定されているように,本件特許の優先日前において当業者に広く知られた技術事項であり,ビールテイスト飲料を調整するに当たって当然に着目する事項である。 同基準は,糖質が0.5g/100ml未満であれば食品に「糖質0(ゼロ)」と表示することができる旨定めているところ,「糖質ゼロ」のビールテイスト飲料に対して健康志向の強い消費者の関心が高まっており,実際,糖質を減らした商品が多数販売されていた。そうすると,「糖質ゼロ」の表示という商業的アピールをするために,糖質の含量を- 16 -0.5g/100ml未満に下げる強い動機付けがあった。 したがって,糖質の含量を下げることは一般的な課題にすぎず,当業者であれば容易に想到できたものである。 本件明細書では,糖質の含量を0.5g/100ml以下にすることで,これを0.5g/100mlより高くした例と比べて,飲み応えや酸味が格段に改善されたということは何ら示されておらず,糖質の含量を0.5g/100ml以下にすることに技術的意義はない。かえって,本件明細書の【表1】では,糖質の含量を0.5g/100mlより高く 味が格段に改善されたということは何ら示されておらず,糖質の含量を0.5g/100ml以下にすることに技術的意義はない。かえって,本件明細書の【表1】では,糖質の含量を0.5g/100mlより高くした発明品4及び発明品5と比べて,糖質の含量を0.5g/100ml以下とした発明品3の方が飲み応えに関して劣った結果になることが記載されている。また,本件発明の特許出願時の特許請求の範囲の請求項1には糖質の含量について何ら限定されていなかったが,本件補正により糖質の含量を0.5g/100ml以下と限定されたところ,これは公然実施発明2を回避するために行ったものであるから,従来技術である公然実施発明2と比べて何らの技術的貢献をもたらすものではない。 公然実施発明2のエキス分,pH及び糖質の含量は本件明細書における発明品4(【表1】)に概ね合致するものであるところ,発明品4と本件発明の実施例である発明品3を比べると,飲み応えは発明品4の方が優れており,本件発明は公然実施発明2と比較して有益な効果を奏するとはいえない。 オ小括したがって,本件発明は,公然実施発明2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠く(特許法29条2項)。 (原告の主張)ア本件発明の認定- 17 -公然実施発明1についてと同様の理由により,本件発明の構成は以下のとおりとなる。 「 エキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であるノンアルコールのビールテイスト飲料であって,pHが3.0以上4.5以下であり,糖質の含量が0.5g/100ml以下である,前記飲料。」イ公然実施発明2の認定上記と同様の理由により,被告が主張する構成を公然実施発明2の構成とすることはできない。 ダブルゼロについての被告に 0.5g/100ml以下である,前記飲料。」イ公然実施発明2の認定上記と同様の理由により,被告が主張する構成を公然実施発明2の構成とすることはできない。 ダブルゼロについての被告による分析結果(乙1,41の3)に従うとすれば,公然実施発明2の構成は以下のとおりとなる。 a 別紙2-1~5の分析結果における各成分及び含有量であるノンアルコールのビールテイスト飲料である,b 前記飲料。 ウ本件発明と公然実施発明2との一致点及び相違点本件発明と公然実施発明2は,本件発明がエキス分の総量を0.5重量%以上2.0重量%以下,pHを3.0以上4.5以下,糖質の含量を0. 5g/100ml以下としているのに対し,公然実施発明2がその分析結果における各成分及び含有量としている点で相違し,その余の点で一致する。 エ相違点の容易想到性本件特許の優先日当時,ダブルゼロは相応の売上げを達成していた商品であり,飲み応えに課題があったとは認められない。そうすると,公然実施発明2から本件発明の解決課題を容易に認識し得ないから,相違点に係る構成に至ることが容易であったとはいえない。 また,公然実施発明2の各種成分のうち,糖質の含量に着目する動機付けはなく,糖質の含量は本件発明の課題ないし効果(飲み応え感の付与効- 18 -果)とは全く異質なものであるから,公然実施発明2から相違点に係る構成に至ることは容易でない。 さらに,ダブルゼロは麦芽エキスを使用することを特徴としているところ,麦芽エキスの主成分は糖質であるから,糖質の含量を少なくすることは,麦芽エキスを少なくすることに等しく,ダブルゼロの製造目的に反することになるので,公然実施発明2について糖質の含量を少なくするとの課題ないし動機付けは生じない るから,糖質の含量を少なくすることは,麦芽エキスを少なくすることに等しく,ダブルゼロの製造目的に反することになるので,公然実施発明2について糖質の含量を少なくするとの課題ないし動機付けは生じない。現に,被告は,平成24年2月21日にダブルゼロの後継商品(初代「ドライゼロ」)を発売しているところ,この商品は糖質を3.4g/100mlも含むものであるから,公然実施発明2の糖質含量0.9g/100mlを更に引き下げるという技術的課題は認識されていなかったというべきである。 オ本件発明の顕著な効果公然実施発明1についてと同様の理由により,本件発明の効果は公然実施発明2からは全く予測できない顕著なものであった。 カ小括したがって,本件発明は,公然実施発明2に対して十分に進歩性を有するものである。 発明に基づく進歩性欠如)について(被告の主張)乙13公報には,乙13発明,すなわち,エキス分の総量が1.12重量%であるビール飲料であり,pHは4.00であり,糖質(還元糖及びデキストリン)の含量は0.44g/100mlである,前記飲料が開示されている。 本件発明と乙13発明とは,本件発明がノンアルコールのビールテイスト飲料であるのに対し,乙13発明がビール飲料である点で相違し,その余の点で一致する。 - 19 -本件発明は,低エキス分のビールテイスト飲料に飲み応え感及び適度な酸味を付与するという課題を解決するため,pHを特定の範囲に限定したものであるところ,飲み応え感を付与することはビールテイスト飲料にアルコールが含まれているか否かは関係がない(乙14~16)。そして,本件特許の優先日当時においてはノンアルコールビール飲料の需要が高かったことからすれば,乙13発明のエキス分の総量,pHの値及び糖質 コールが含まれているか否かは関係がない(乙14~16)。そして,本件特許の優先日当時においてはノンアルコールビール飲料の需要が高かったことからすれば,乙13発明のエキス分の総量,pHの値及び糖質の含量をノンアルコール飲料に流用することは,当業者であれば容易に想到することができた。 したがって,本件発明は,乙13発明に基づいて容易に発明することができたものであるから,進歩性を欠く(特許法29条2項)。 (原告の主張)乙13発明の飲料には,アルコール,タンパク質,灰分,炭水化物等の各種成分が含まれるはずであり,これら全ての成分とその含有量が乙13発明の構成となる。また,被告が主張する乙13発明の糖分の含量の計算方法は本件明細書において規定されている食品の栄養表示基準に基づく方法と異なるから,被告が主張する乙13発明の糖分の含量は誤りであり,正確には,0.7593g/100mlとなる。 本件発明と乙13発明の一致点及び相違点は上記を踏まえて行うべきであり,被告が主張する一致点及び相違点は誤りである。 そして,アルコール飲料とノンアルコール飲料は技術分野が全く異なるので,アルコール飲料において見いだされた手段がノンアルコールのビールテイスト飲料にそのまま適用できるものではない。 したがって,本件発明は,乙13発明に対して十分に進歩性を有するものである。 乙17発明に基づくいわゆる拡大先願要件(特許法29条の2)違反)について- 20 -(被告の主張)乙17公報には,乙17発明,すなわち,エキス分の総量が0.5重量%であるノンアルコールビールテイスト飲料であり,pHは3以上4.5以下であり,糖質の含量は0.5g/100ml以下である,前記飲料が開示されている。 本件発明は乙17発明と同一であるから,本件特許 であるノンアルコールビールテイスト飲料であり,pHは3以上4.5以下であり,糖質の含量は0.5g/100ml以下である,前記飲料が開示されている。 本件発明は乙17発明と同一であるから,本件特許は特許法29条の2に違反する。 (原告の主張)乙17発明は,ビール様の風味を有さない単なる炭酸飲料であるから,本件発明の構成要件である「ビールテイスト飲料」を充足しない。また,乙17公報は,乙17発明のエキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であること,pHが3以上4.5以下であること及び糖質の含量が0.5g/100ml以下であることを開示していない。 したがって,本件発明が乙17発明と実質的に同一であるとは認められないから,特許法29条の2違反をいう被告の主張は失当である。 優先権の主張が認められないことを前提とする進歩性欠如)について(被告の主張)本件特許の優先権の基礎となった特願2011-255388には本件発明の根拠となっている唯一の実施例(発明品3)が開示されていないから,本件発明が優先権の利益を受けることはないので,本件発明は本件発明の親特許の国際出願が行われた平成24年11月19日を基準として進歩性が判断されるべきである。そうすると,本件発明は,国際公開2011/145670号公報(乙38)に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものとなるから,進歩性を欠く(特許法29条2項)。 (原告の主張)- 21 -本件特許の優先権の基礎となった上記出願に係る明細書の記載は実質的に本件明細書の記載と同等であり,本件発明は基礎出願の明細書に記載されている。したがって,本件発明に関する優先権は有効であるから,優先権主張が認められないことを前提とする被告の主張は失当である。 第3 当裁判 の記載と同等であり,本件発明は基礎出願の明細書に記載されている。したがって,本件発明に関する優先権は有効であるから,優先権主張が認められないことを前提とする被告の主張は失当である。 第3 当裁判所の判断 2年8月3日に原告が販売を開始したものであり,その成分等を分析することが格別困難であるとはうかがわれないから,オールフリーに係る発明(公然実施発明1)は日本国内において公然実施をされた発明(特許法29条1項2号)に当たる。被告は,本件発明は公然実施発明1に基づいて容易に発明をすることができたので特許を受けることができない旨(同条2項)主張するものである。 本件発明と公然実施発明1の対比アの請求項1記載のとおり,「エキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であるノンアルコールのビールテイスト飲料であって,pHが3.0以上4.5以下であり,糖質の含量が0.5g/100ml以下である,前記飲料。」というものである。 一方,公然実施発明1は,証拠(乙1,4,41の1)及び弁論の全趣旨によれば,別紙1-1~3に示された各分析項目の成分量ないし特性を備えたノンアルコールのビールテイスト飲料であり,エキス分の総量は0. 39重量%,pHの値は3.78,糖質はゼロ(栄養表示基準に基づき100ml当たり0.5g未満)であると認められる。 そうすると,本件発明と公然実施発明1は,エキス分の総量につき,本- 22 -件発明が0.5重量%以上2.0重量%以下であるのに対し,公然実施発明1が0.39重量%である点で相違し,その余の点で一致する。 イこれに対し,原告は,本件発明はエキス分の総量,pH及び糖質の含量の各数値範囲と飲み応え感及び適度な酸味付与という効果の関連性を見いだしたことを技術思想とするもの 違し,その余の点で一致する。 イこれに対し,原告は,本件発明はエキス分の総量,pH及び糖質の含量の各数値範囲と飲み応え感及び適度な酸味付与という効果の関連性を見いだしたことを技術思想とするものであり,公然実施発明1はこのような技術思想を開示するものではないから,オールフリーの多数の分析項目の中からエキス分の総量,pH及び糖質の含量のみを抜き出して公然実施発明1を特定することは許されず,エキス分の総量,pH及び糖質の含量をひとまとまりの構成として相違点を認定すべきである旨主張する。 そこで判断するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり解することができる。 本件発明は,特許請求の範囲の記載上,エキス分の総量,pH及び糖質の含量につき数値範囲を限定しているが,各数値がそれぞれ当該範囲内にあれば足りるのであり,これらが相互に特定の相関関係を有することは規定されていない。また,本件明細書の発明の詳細な説明の欄をみても,例えば,エキス分の総量が0.5重量%であるときはpHをどの範囲とし,これが2.0重量%であるときはpHをどの範囲とするのが望ましいなどといった記載は見当たらず,要は,エキス分の総量,pH及び糖質の含量がそれぞれ数値範囲内にあれば足りるとされている。 証拠(乙4,21,28の1)及び弁論の全趣旨によれば,①リキュールの品質及び成分の評価においてエキス分の総量,pH及び糖質の含量が一般的な分析項目とされていること,②本件特許の優先日前に頒布された「BierederWelt(世界のビール)」と題する文献(乙28の1)に,各種のノンアルコールビールテイスト飲料についてエキス分及びpHを測定項目に含めた一覧表が掲載されていること,③原告が公然実施発明1の発売に当たり糖質の含量を測定し,糖質がゼ- 23 - の1)に,各種のノンアルコールビールテイスト飲料についてエキス分及びpHを測定項目に含めた一覧表が掲載されていること,③原告が公然実施発明1の発売に当たり糖質の含量を測定し,糖質がゼ- 23 -ロであることを宣伝文句としていることが認められる。これら事実関係に照らせば,エキス分の総量,pH及び糖質はノンアルコールのビールテイスト飲料の性状を特定する上でごくありふれた項目であり,当業者であれば当然に着目する事項とみることができる。 さらに,本件発明は,特許請求の範囲の記載上,エキス分又は糖質として具体的にどのような物質をいかなる量含有するか,pHの数値をどのように規制するかを特定するものでなく,また,他の成分の存否や測定値につき触れるところもない。本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の記載をみても,エキス分の具体的成分及び総量を規制する手段,pH調整剤の種類及び使用方法,糖質の種類,その他の添加物の有無等に格別の限定はされていない(段落【0020】,【0021】,【0024】~【0027】,【0030】,【0033】)。そうすると,別紙1-1~3に示された公然実施発明1の多数の分析項目のうちエキス分の総量,pH及び糖質以外の成分等の分析結果は,本件発明の進歩性を検討するに当たり考慮する必要はないと考えられる。 以上によれば,本件発明の進歩性を判断する前提として公然実施発明1との相違点を認定するに当たっては,エキス分の総量,pH及び糖質の各数値をみれば足りると解すべきであるから,原告の上記主張を採用することはできない。 相違点の容易想到性ア後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 公然実施発明1は,本件特許の優先日当時,我が国におけるノンアルコールのビールテイスト飲料の中で販売金額が最も大きかっ 容易想到性ア後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 公然実施発明1は,本件特許の優先日当時,我が国におけるノンアルコールのビールテイスト飲料の中で販売金額が最も大きかったが,その一方で,消費者から,コク(飲み応え)がない,物足りない,味が薄いといった評価を受けていた。(乙10,34~36)ノンアルコールのビールテイスト飲料については,本件特許の優先日- 24 -以前から,濃厚感,旨味感,モルト感,ボリューム感やコク感を欠くという問題点が指摘されており,これらを解消して飲み応えを向上させるため,穀物の摩砕物にプロテアーゼ処理を施して得られる風味付与剤,麦芽溶液を抽出して得られる香味改善剤又は香料組成物,植物性タンパク分解物や麦芽抽出物,麦芽エキス,清酒由来のエキスを用いる風味向上剤,茶葉の水又はエタノール抽出物といった添加物を用いる技術が周知となっていた。(乙14~16,25~27)本件明細書におけるエキス分の総量とは,アルコール度数が0.005%未満の飲料の場合,脱ガスしたサンプルをビール酒造組合国際技術委員会(BOCJ)が定めるビール分析法に従って測定したエキス値(重もこの方法の測定対象となるエキス分に当たる。(甲2,乙2)イ上記事実関係によれば,公然実施発明1に接した当業者において飲み応えが乏しいとの問題があると認識することが明らかであり,これを改善するための手段として,エキス分の添加という方法を採用することは容易であったと認められる。そして,その添加によりエキス分の総量は当然に増加するところ,公然実施発明1の0.39重量%を0.5重量%以上とすることが困難であるとはうかがわれない。そうすると,相違点に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべきである。 ころ,公然実施発明1の0.39重量%を0.5重量%以上とすることが困難であるとはうかがわれない。そうすると,相違点に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべきである。 なお,飲料中のエキス分の総量を増加させた場合にはpH及び糖質の含量が変化すると考えられるが,エキス分には糖質由来のものとそれ以外のものがあり(本件明細書の段落【0020】,【0033】参照),pHにも多様のものがあると解されることに照らすと,公然実施発明1にエキス分を適宜(例えば,非糖質由来で酸性又は中性のものを)加えてその総量を0.5重量以上としつつ,pH及び糖質の含量を公然実施発明1と同- 25 -程度のもの(本件発明の特許請求の範囲に記載の各数値範囲を超えないもの)とすることに困難性はないと解される。 ウこれに対し,原告は,①公然実施発明1については,消費者の満足度が高く,飲み応えに関する課題はなかったこと,②飲み応え感を付与する方法としてエキス分の総量に着目する動機付けがないこと,③公然実施発明1は,トリプルゼロ(アルコール,カロリー及び糖質のゼロ)を商品コンセプトとし,エキス分が薄いことを特徴としていたから,エキス分を増加させることは考え難いこと,④本件発明には公然実施発明1から予測できない顕著な効果があることを理由に,本件発明に進歩性がある旨主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。 ①についであり,飲み応えに乏しいとの意見もあったから,当業者(原告に限らない。)において公然実施発明1より飲み応えが高いノンアルコールのビールテイスト飲料を開発することの動機付けはあったと考えられる。 ②について,ノンアルコールのビールテイスト飲料につき飲み応え感を付与するために各種のエキス分を添加する技術が周知 ンアルコールのビールテイスト飲料を開発することの動機付けはあったと考えられる。 ②について,ノンアルコールのビールテイスト飲料につき飲み応え感を付与するために各種のエキス分を添加する技術が周知であったことは前記当然に想定されるということができる。 ③について,公然実施発明1の商品コンセプトは,アルコール,カロリー及び糖質がゼロであることであり(乙4),エキス分には糖質に由来しないものがあるから(上記イ),エキス分の総量を増加させることが上記コンセプトの破壊につながるとは認められない。 ④について,エキス分の増加により飲み応えが向上することが周知であるから,本件発明が公然実施発明1から予測し得る範囲を超えた顕著な効果を奏するということはできない。 小括- 26 -以上によれば,本件発明は公然実施発明1に基づいて容易に想到することができたから,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められる(特許法123条1項2号)。 開始したものであり,その成分等を分析することが格別困難であるとはうかがわれないから,ダブルゼロに係る発明(公然実施発明2)は日本国内において公然実施をされた発明に当たる。被告は,これに基づく本件発明の進歩性欠如を主張するものである。 本件発明と公然実施発明2の対比アりのものである。 一方,公然実施発明2は,証拠(乙1,9,41の3)及び弁論の全趣旨によれば,別紙2-1~5に示された各分析項目の成分量ないし特性を備えたノンアルコールのビールテイスト飲料であり,エキス分の総量は1. 07重量%,pHの値は3.05,糖質は0.9g/100mlであると認められる。 そうすると,本件発明と公然実施発明2は,糖質の含量につき,本件発明が0.5g/100ml以下 キス分の総量は1. 07重量%,pHの値は3.05,糖質は0.9g/100mlであると認められる。 そうすると,本件発明と公然実施発明2は,糖質の含量につき,本件発明が0.5g/100ml以下であるのに対し,公然実施発明2が0.9g/100mlである点で相違し,その余の点で一致する。 イこれに対し,原告は,ダブルゼロの多数の分析項目の中からエキス分の総量,pH及び糖質の含量のみを抜き出して公然実施発明2を特定し,相と同様の理由により,これを採用することはできない。 相違点の容易想到性- 27 -ア証拠(乙10~12)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許の優先日当時,健康志向の高まりを受けて,ノンアルコールのビールテイスト飲料の分野では「糖質ゼロ」との表示のある商品が消費者から支持されていたこと,栄養表示基準(平成15年4月24日厚生労働省告示第176号)においては,糖質を100ml当たり0.5g未満とすれば糖質を含まない旨の表示をすることができることが認められる。 イ上記事実関係によれば,公然実施発明2に接した当業者においては,糖質の含量を100ml当たり0.5g未満に減少させることに強い動機付けがあったことが明らかであり,また,糖質の含量を減少させることは容易であるということができる。そうすると,相違点に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべきである。 なお,飲料中の糖質の含量を減少させた場合にはエキス分の総量が減り,pHが変化すると考えられるが,エキス分には糖質由来のものとそれ以外のものがあり(本件明細書の段落【0020】,【0033】参照),そのpHにも多様のものがあると解されることに照らすと,公然実施発明2の糖質の含量を減少させてこれを0.5g/100ml以下としつつ,糖 のがあり(本件明細書の段落【0020】,【0033】参照),そのpHにも多様のものがあると解されることに照らすと,公然実施発明2の糖質の含量を減少させてこれを0.5g/100ml以下としつつ,糖質に由来しないエキス分であって,酸性又は中性のものを増加させるなどして,エキス分の総量及びpHを公然実施発明2と同程度のもの(本件発明の特許請求の範囲記載の各数値範囲を超えないもの)とすることに困難性はないと解される。 ウこれに対し,原告は,①公然実施発明2は主成分を糖質とする麦芽エキスを使用することを特徴としているから,糖質の含量を低下させることに阻害要因があること,②本件発明には公然実施発明2から予測のできない顕著な効果があることを理由に,本件発明に進歩性がある旨主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。 - 28 -①について,前記アのとおり「糖質ゼロ」のノンアルコールのビールテイスト飲料が消費者の支持を受けていたことに照らせば,当業者(被告に限らない。)において麦芽エキスの使用量を減少させてでも糖質の含量を低下させようとする動機があったものと解される。 ②について,公然実施発明2のエキス分の総量,pH及び糖質の含量は本件明細書中の発明品4とほぼ同じであるところ(【表1】),発明品4と本件発明の実施例である発明品3(同)を比べると,飲み応えの平均値をみても(発明品3は3.3,発明品4は4.0),pHの調整による飲み応えの変化をみても(発明品3は対照品3に対し1.0の改善,発明品4は対照品4に対し1.0の改善),発明品3の効果が顕著に優れているとは認められない。 小括以上によれば,本件発明は公然実施発明2に基づいて容易に想到することができたから,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認 発明品3の効果が顕著に優れているとは認められない。 小括以上によれば,本件発明は公然実施発明2に基づいて容易に想到することができたから,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。 3 結論以上の次第で,原告は被告に対して本件特許権を行使することができないから(特許法104条の3第1項),その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川浩二 - 29 -裁判官中嶋邦人 裁判官清野正彦は,転官のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官長谷川浩二 - 30 -(別紙)被告製品目録 製品名:「AsahiDRYZERO -ドライゼロ-」
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