平成15(行ウ)57 行政文書不開示決定取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年7月15日 名古屋地方裁判所
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判決文本文16,235 文字)

主文 1 被告が原告に対して平成15年7月30日付けでした下記文書の一部開示決定のうち,別表通番2「火災原因判定理由書」の枝番5のうち当時の風向・風速を記載した箇所及び同じく枝番13のうち添付資料の名称を記載した箇所を不開示とした部分をいずれも取り消す。 記平成15年5月5日豊明市A町○○番地にて発生した火災に関する報告書 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の請求被告が原告に対して平成15年7月30日付けでした主文1項掲記の文書の一部開示決定のうち,別表記載の各「抹消箇所」を不開示とした部分を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,豊明市情報公開条例(平成13年12月26日豊明市条例第29号。以下「本件条例」という。)に基づき,本件条例所定の実施機関である被告に対し,隣家で発生した火災に関する報告書の開示を請求したところ,被告が一部開示決定をしたため,そのうち別表記載の各「抹消箇所」(以下「本件各情報」という。)を不開示とする部分の取消しを求めた抗告訴訟である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠から容易に認定できる事実等)(1) 原告は,平成15年7月25日,被告に対し,本件条例5条1項に基づき,主文1項掲記の文書(当初の開示請求の対象とされた文書は,「豊明市A町○○番地」で発生した火災に関する報告書であるが,その後の手続過程で上記のように特定された。以下「本件文書」という。)の開示を請求した(以下「本件開示請求」という。)。 (2) 被告は,同年7月30日付けで,原告に対し,本件条例7条1号・2号所定の不開示情報が記録されていること 定された。以下「本件文書」という。)の開示を請求した(以下「本件開示請求」という。)。 (2) 被告は,同年7月30日付けで,原告に対し,本件条例7条1号・2号所定の不開示情報が記録されていることを理由に,本件文書の一部を開示し,大部分を不開示とする処分(平成15年7月30日豊消第313号。以下「本件処分」という。 甲1,4)をした。 (3) 本件文書は,平成15年5月5日午前11時16分ころ豊明市A町○○番地において出火した火災(以下「本件火災」という。)について,豊明市消防職員が,消防法34条1項に基づいて調査した内容を,豊明市火災原因損害調査規程9条,10条,13条,22条,24条,27条にのっとってまとめたものであって,次の各書類から構成されている(乙1,2)。 ア火災原因損害調査報告書(別表通番1)本件火災の出火場所,出火日時,火元者,火元責任者,出火原因の判定結果等の本件火災の概要を総括して記録したものイ火災原因判定理由書(同表通番2)本件火災の実況見分調書,質問調書等を引用して,これらから出火箇所及び出火原因を判定したものウ実況見分調書(同表通番3)本件火災について,平成15年5月5日,同月6日,同月8日及び同月9日に実施された実況見分の結果を記載したものであって,り災建物の状況が記載されているものエ出火出動時における見分調書(本訴に係る取消請求の対象外)消防職員が,平成15年5月5日午前11時27分ころ,本件火災現場に出動した際の見分状況を記載したものオ質問調書(同表通番4ないし9)消防職員が,本件火災に関係のある者に対して質問し,その者から得た供述を記載したもの(なお,B作成に係る平成15年5月5日付け第1回質問調書(12時35分終了のもの)及び同月6日付け第1回質問調書は,エと同様,取消請求の対象 ある者に対して質問し,その者から得た供述を記載したもの(なお,B作成に係る平成15年5月5日付け第1回質問調書(12時35分終了のもの)及び同月6日付け第1回質問調書は,エと同様,取消請求の対象外である。)カ火災損害額集計表(エと同様,取消請求の対象外)り災建物等の焼損面積,その程度及びそれらの内訳が記載されているものキ死傷者明細書(エと同様,取消請求の対象外)ク火災即報(エと同様,取消請求の対象外)(4) 原告は,本件処分後,豊明市個人情報保護条例に基づいて,本件火災に関する報告書の開示請求をしたところ,原告に関する情報については開示を受けた(甲3)。 (5) 本件条例の抜粋(甲2)(目的)1条この条例は,地方自治の本旨にのっとり,市の保有する情報を市民の知る権利として尊重し,情報の開示を請求する権利につき定めること等により,情報の一層の公開を図り,もって市の諸活動を市民に説明する責務を果たすとともに,市民の市政への参加による,市民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な市政の推進を図ることを目的とする。 (実施機関の責務)3条実施機関は,この条例の目的に鑑み,公文書の開示を請求する者の権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し,運用するものとする。この場合において,実施機関は,個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。 2項略(開示請求権)5条何人も,この条例の定めるところにより,実施機関に対して公文書の開示を請求することができる。 2項略(開示請求の手続)6条公文書の開示の請求(以下「開示請求」という。)をしようとする者は,実施機関に対して,次の事項を記載した請求書を提出しなければならない。 (1) 開示請求をする者の 項略(開示請求の手続)6条公文書の開示の請求(以下「開示請求」という。)をしようとする者は,実施機関に対して,次の事項を記載した請求書を提出しなければならない。 (1) 開示請求をする者の氏名及び住所(略)(2) 公文書の名称その他の開示請求に係る公文書を特定するに足りる事項(3) その他実施機関が定める事項(公文書の開示義務)7条実施機関は,開示請求があったときは,開示請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該公文書を開示しなければならない。 (1) 法令及び条例(以下「法令等」という。)の定めるところにより,公にすることができないと認められる情報(2) 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。 ア法令等の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報イ人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報ウ当該個人が公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員をいう。)である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分(3) 以下略(6) 原告 2条に規定する地方公務員をいう。)である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分(3) 以下略(6) 原告は,平成15年10月22日,本件処分のうち不開示部分の取消しを求めて本訴を提起し,その後,第2回弁論準備手続において,取消しを求める対象を本件各情報を不開示とした部分に減縮した。 2 本件の争点(1) 前提問題-本件条例における不開示情報の解釈のあり方(2) 本件各情報が本件条例7条1号所定の不開示情報に該当するか。その前提として,消防法4条4項が,「公にすることを禁止する法令」に該当するか。 (3) 本件各情報が本件条例7条2号本文所定の不開示情報に該当するか。 (4) 仮に本件各情報が7条2号本文所定の不開示情報に該当するとしても,さらに,同号ただし書イの除外事由(以下「本件除外事由」という。)に当たるか。 3 当事者の主張の要旨(1) 争点(1)(本件条例における不開示情報の解釈のあり方)について(原告)人が自己の思想・意見を形成するためには,情報を自由に得ることができなければならないが,今日,国民にとって必要な情報は,国家機能の増大とともに政府・地方公共団体に集中する傾向が顕著となり,個人は自分で必要な情報を得ることが困難になっている。このような状況下においては,知る権利を保障することが憲法21条の定める表現の自由にとって不可欠というべきであるが,同条は,抽象的な情報公開請求権を認めたにすぎず,法律及び条例において,初めて情報の公開基準やその手続が具体化される。 そして,本件条例は,情報公開請求権を定めて憲法21条が保障する国民の情報開示を求める権利を具体化するものであるが,その1条で,市民の知る権利を尊重し,情報の一層の公開を図り,市 続が具体化される。 そして,本件条例は,情報公開請求権を定めて憲法21条が保障する国民の情報開示を求める権利を具体化するものであるが,その1条で,市民の知る権利を尊重し,情報の一層の公開を図り,市の諸活動を市民に説明する責務を果たすとともに,民主的な市政の推進を図ることを目的として定め,その3条1項で,実施機関がその目的に鑑み,知る権利及びその他請求者の権利を尊重するとともに,個人情報が正当な理由なく開示されないように比較衡量するという解釈・運用の指針を定めている。 しかるところ,本件火災によって自宅を含む全てを失った原告が,その原因や経緯を知りたいと思うのは当然の感情であり,他方,本件火災に関する情報は全て被告が保有しているから,独占している情報を火災被害を被った市民に開示することも市政の一環というべきである。 したがって,本件条例7条1号や同条2号の定める不開示情報は,その文言に形式的にとらわれることなく,条例の趣旨・目的に沿って,制限的に解釈されるべきであり,開示することに不都合のない情報は広く開示していくことが要請されている。 (被告)原告の主張は争う。 本件条例の「公正で民主的な市政の推進を図る」という目的にかんがみて,原告の主張が,市政に関する公文書については不開示を定めた例外規定を制限的に解釈すべきであるという趣旨であるならば理解できないことはないが,本件文書は市政に全く関係のない文書であり,しかも,本件条例3条1項は,実施機関の責務として,開示請求者の権利の尊重とともに,個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう「最大限の配慮」をしなければならない旨定めていることからすると,本件条例7条各号の不開示情報を制限的に解釈しなければならない理由はない。 (2) 争点(2)(本件条例7条1号所定の不開示情報の該当性)に 限の配慮」をしなければならない旨定めていることからすると,本件条例7条各号の不開示情報を制限的に解釈しなければならない理由はない。 (2) 争点(2)(本件条例7条1号所定の不開示情報の該当性)について(被告)ア本件文書は,消防法34条1項に基づく検査等の結果を記載した文書であるところ,同条2項によって準用される同法4条4項は,消防職員は検査等によって知り得た関係者の秘密をみだりに他に漏らしてはならない旨定めており,この規定は,本件条例7条1号の「法令」に当たる。 そして,本件各情報は,検査等によって知り得た関係者の秘密を内容としており,かつ,原告が開示を求めるにつき正当な理由もないから,同号所定の不開示情報に当たる。 イこの点について,原告は,①原告が本件火災の被害者・当事者であるから,本件各情報を開示することが消防法4条4項が禁止する「他に」漏らすことにはならない,②不法行為責任に基づく損害賠償請求権の有無を判断する目的が正当な目的に当たる旨主張する。 しかし,①については,同項の「他(に)」は,「消防職員」以外の者を意味することが明らかであり,②については,消防法34条の検査等は,罰則による強制力を背景に,火災予防及び警防施策策定等の消防行政上の必要を満たすために行われるものであって,これによって得られた秘密の保持は厳密に行われる必要があること,上記検査等は,不法行為責任の有無の調査や民事訴訟上の証拠収集を目的とするものではないこと,かえってそのような目的を有する者に情報を開示すれば,火元者等関係者の協力を得ることが困難になることなどを考慮すると,原告の上記目的は正当な目的に当たらないというべきであるから,原告の主張は失当である。 (原告)被告の主張は争う。 ア消防法4条4項は,消防職員が「みだりに」「他に」秘密を となどを考慮すると,原告の上記目的は正当な目的に当たらないというべきであるから,原告の主張は失当である。 (原告)被告の主張は争う。 ア消防法4条4項は,消防職員が「みだりに」「他に」秘密を漏らすことを禁止しているにすぎず,原告に本件各情報を開示することはこれに当たらない。 なぜなら,本件火災によって原告所有家屋は全焼しており,原告は多大な損害を被った被害者として,まさに本件火災の当事者に当たるから,原告に情報を開示することは「他に」情報を漏らすことにはならない。 仮に原告が「他」の者に当たるとしても,自宅全焼という被害を被った原告が,どのような原因で全財産を失うことになったのか,また,原因は特定できないとしても,消防署ではいかなる検証を行い,どのような判断過程を経て原因不明という結論が出されたのか,その内容を知りたいと思うことは当然の心情であって,原告には,それらの情報を知る権利があるといえるし,本件火災の出火元建物の居住者に不法行為責任を問えるか否かという法律上の権利行使の可否を判断するという目的は,正当なものであるから,本件開示請求に応じて原告に本件各情報を開示することは「みだりに」漏らすことにならない。 イ被告は,本件各情報を開示すれば,関係者の協力が得にくくなる旨主張するが,そのような事態は,調査側に適切な権限を付与することで防止されるべきであって,情報を開示しないことで解決すべき問題ではない。検査に支障が生ずるという理由で,被害者に対する情報開示を制限するのは本末転倒である。 (3) 争点(3)(本件条例7条2号本文所定の不開示情報の該当性)について(被告)ア本件条例7条2号は,「個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別できるもの(他の情報と照合することに 開示情報の該当性)について(被告)ア本件条例7条2号は,「個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別できるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」を不開示情報として定めているところ,本件各情報には,別表の「記載内容」欄のとおり,上記個人識別情報が記録されており,同号所定の不開示情報に該当する。 イこの点について,原告は,本件開示請求以前から,火元住所及びその世帯主名が特定されているので,本件各情報を開示しても,個人識別情報の開示を禁止する本件条例7条2号の趣旨に反しない旨主張するが,そもそも,本件開示請求は,単に火元の住所とその世帯主名を明らかにすることを目的とするのではなく,本件各情報の開示により,さらに具体的な不法行為者を特定の個人として識別することを目的とするものであるから,上記趣旨が該当しないとは到底いえない。 (原告)被告の主張は争う。 本件条例が個人識別情報の公開を禁止している趣旨は,当該情報の開示によって初めて特定の個人が識別されることを防止することにあるが,本件火災は原告の隣家から出火したものであって,原告は,本件開示請求以前から,火元の住所・世帯主等について認識しているから,そもそも,本件各情報は,本件条例7条2号所定の個人識別情報に当たらない。 (4) 争点(4)(本件除外事由の該当性)について(原告)ア本件条例7条2号ただし書イは,「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」については,個人識別情報に当たる場合であっても開示しなければならないと規定する。この規定の解釈及び適用においても,本件条例の目的,解釈・運用の指針に照らすと,知る権利を 要であると認められる情報」については,個人識別情報に当たる場合であっても開示しなければならないと規定する。この規定の解釈及び適用においても,本件条例の目的,解釈・運用の指針に照らすと,知る権利を最大限に保障することが要請されるから,本件各情報が本件除外事由に当たるかについて,開示請求の目的,開示者の利益・事情,開示されることによる個人の不利益,情報の重要性,代替性などを総合考慮して,個別に判断することが必要である。 イ被告は,本件除外事由の「人」は市民一般を指すと主張するが,「人の生命,健康,生活又は財産」といった事項は,個人が日々の生活において一番関心を抱く事項であり,これらの利益を守ろうとする個別の利益帰属主体によってこそ,最も実効的な行政監視が行われると考えられることからすれば,むしろ個別的利益と理解する方が,「市民による理解と批判の下,公正で民主的な市政の推進を図る」という本件条例の目的により合致するというべきである。 したがって,「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」の「人」とは,個人を意味すると解すべきである。 ウそして,本件各情報は,原告にとって,本件火災の原因を知る唯一の手がかりであり,出火元に損害賠償を請求するか否かを判断するために必要不可欠な証拠である。全焼という本件火災の結果からも,賠償請求額は決して低いものではあり得ないから,本件各情報は,例外的開示事由である本件除外事由の「人の……財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に当たる。 (被告)原告の主張は争う。 本件除外事由は,個人情報として保護されるべき情報であっても,なおこれに優越する公益が認められる場合に開示を認める規定であるから,「人」が,特定の個人ではなく市民一般を指 被告)原告の主張は争う。 本件除外事由は,個人情報として保護されるべき情報であっても,なおこれに優越する公益が認められる場合に開示を認める規定であるから,「人」が,特定の個人ではなく市民一般を指すことは解釈上明らかであり,原告個人の訴訟上の証拠収集という私的な必要があるからといって本件除外事由に該当するものではない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件条例における不開示情報の解釈のあり方)について憲法21条は,表現の自由を保障しているところ,知る権利も,それから派生し,それを実質的に支えるものとして尊重されるべきは当然であるが,同条は,情報公開請求権を具体的権利として国民に付与するものとはいえない。そうすると,情報公開請求権は,当該地方公共団体等がその具体的範囲,行使方法等について定めた条例等を制定することにより,初めて実定法上の根拠が与えられたものというべきである。したがって,具体的な情報公開請求権の有無,範囲の判断は,当該条例の趣旨,目的を踏まえながら,各条項の文言に即して,合理的かつ客観的な見地から行われるべきものである。 この点について,原告は,本件条例1条や3条1項の規定を根拠に,不開示情報の解釈は制限的に行われるべきである旨主張するところ,なるほど,本件条例は,その目的として,地方自治の本旨にのっとり,市民の知る権利を尊重し,情報の開示請求権につき定めること等により,情報の一層の公開を図り,もって市の諸活動を市民に説明する責務を果たすとともに,市民の市政への参加による,市民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な市政の推進を図ることを掲げ(1条),実施機関の責務として,この条例の目的に鑑み,公文書の開示を請求する者の権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し,運用すべきことを定めている(3条1項1文)。 しか 進を図ることを掲げ(1条),実施機関の責務として,この条例の目的に鑑み,公文書の開示を請求する者の権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し,運用すべきことを定めている(3条1項1文)。 しかしながら,一口に情報公開といっても,その対象となる情報の性質,内容によっては,保護すべき他の権利・利益を犠牲にすることもあり得るので,その利害調整,比較衡量が必要となることはいうまでもない。現に本件条例においても,実施機関は,個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならないと定め(3条1項2文),開示請求の対象とされた公文書については,開示を原則としつつ,一定の不開示情報に該当する場合には,これを開示の対象外としている(7条各号。もっとも,9条は,この場合においても,公益上特に必要がある場合には,7条1号に該当する情報を除き,裁量的に開示することができる旨定めている。)。そうすると,不開示情報の該当性の判断は,あくまでも規定の文言に即して行われるべきものであって,これを超えた解釈を行うことは相当でないといわねばならない。 2 争点(2)(本件条例7条1号所定の不開示情報の該当性)について(1) 本件条例7条1号は,法令及び条例の定めるところにより,公にすることができないと認められる情報が不開示情報に該当すると定めている。これは,地方公共団体の条例制定権は,そもそも国の立法形式である法律(ないしこれを受けた規則,命令)の範囲内で認められたものであること(憲法94条,地方自治法14条1項)を反映するとともに,他の条例の趣旨,目的を実質的に損なわない限度で情報公開制度を運営することを宣命したものと解される。 (2) そこで,被告の主張するように,消防法34条2項の準用する同法4条4項が上記法令等に該当するかについて判 ,目的を実質的に損なわない限度で情報公開制度を運営することを宣命したものと解される。 (2) そこで,被告の主張するように,消防法34条2項の準用する同法4条4項が上記法令等に該当するかについて判断するに,同法は,火災を予防し,警戒し及び鎮圧し,国民の生命,身体及び財産を火災から保護するとともに,火災又は地震等の災害に因る被害を軽減し,もつて安寧秩序を保持し,社会公共の福祉の増進に資することを目的とするものである(同法1条)。この目的を達成するため,火災が発生した場合,消防長又は消防署長(前者は市町村が設置する消防本部の長であり,後者は同じく消防署の長である。以下,両者を併せて「消防長ら」という。消防組織法13条1項,14条1項)は,火災の原因並びに火災及び消火のために受けた損害の調査に着手しなければならないとされ(消防法31条),そのために必要があるときは,関係者に対して質問したり,関係官公署に対して通報を求めることができるとされている(同法32条)。また消防長らは,火災の原因及び損害の程度を決定するために火災によって破壊等された財産を調査することができるとされ(同法33条),そのために必要があるときは,関係者に対して必要な資料の提出を命じ,若しくは報告を求め,又は当該消防職員に関係のある場所に立ち入って,火災により破損され又は破壊された財産の状況を検査させることができるとされている(同法34条。火災が発生した場合でなくとも,その予防のために必要がある場合に,上記と同様の立入検査権や質問権の行使が許されることにつき同法4条,4条の2参照)上,その実効性を担保するために,これに応じなかった者等に刑罰を課することとしている(同法44条2号)。 そして,消防長らの上記権限は,火災の鎮圧,予防を通じて国民の利益を保護し,もって公共の福祉に資 ,その実効性を担保するために,これに応じなかった者等に刑罰を課することとしている(同法44条2号)。 そして,消防長らの上記権限は,火災の鎮圧,予防を通じて国民の利益を保護し,もって公共の福祉に資するために与えられたものであり,その行使の過程で,他人に知られたくない事実を明らかにされるなど,国民に対して一定の受忍を強いることがあり得るため,同法34条2項の準用する同法4条4項は,「消防職員は,第1項の規定により関係のある場所に立ち入って検査又は質問を行った場合に知り得た関係者の秘密をみだりに他に漏らしてはならない。」と定めている。もっとも,消防職員がこの義務に反した場合,消防法自体には格別の罰則規定が置かれていないが,当該消防職員が地方公務員である場合は,地方公務員法34条1項によって課せられた守秘義務に反することになり,罰則を科せられることになる(同法60条)。 消防法の前記趣旨,目的に照らせば,上記の「みだりに」とは,火災の鎮圧,予防等を図ることと無関係な意図,態様をもってする漏洩行為を指すものと解される。また,同法4条4項にいう関係者の「秘密」は,その取得の経緯,方法が限定されている上,その用語に照らすと,当該関係者の評価を下げる可能性があるなど,通常人ならばそれを他人に知られたくないと考えることが客観的にも肯定されるものに限られるというべきである(なお,国家公務員法100条1項の「秘密」につき,行政機関が秘密と考える全ての情報を指すのではなく,非公知の事実であって,実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいうと判示した最高裁判所昭和52年12月19日第二小法廷決定・刑集31巻7号1053頁参照)。 (3) 他方,本件条例7条2号は,個人に関する情報であって個人を識別できる情報を不開示情報として定めているとこ した最高裁判所昭和52年12月19日第二小法廷決定・刑集31巻7号1053頁参照)。 (3) 他方,本件条例7条2号は,個人に関する情報であって個人を識別できる情報を不開示情報として定めているところ,同号の趣旨及び文言に照らすと,それがどのような経緯で取得されたかを問わず,また,次項で述べるとおり,その内容が当該関係者の評価を下げるものか上げるものかなどを問わず,個人の私生活に関する一切の情報を含むと解される。 そうすると,消防法34条2項の準用する同法4条4項が定める関係者の秘密に該当する情報は,本件条例7条2号の個人識別情報にも該当する関係にあると解されるから,本件各情報が本件条例7条1号に該当するかを独自に判断する必要はないというべきである(なお,本件条例7条1号には,同条2号と異なり,本件除外事由のような例外的開示事由が設けられていないが,同号ただし書ア及びウに当たる場合には,そもそも消防法4条4項所定の「秘密」性を欠くと考えられるし,同号ただし書イに当たる場合には,同じく「みだりに」の要件を満たさないと考えられる。)。 3 争点(3)(本件条例7条2号本文所定の不開示情報の該当性)について(1) 本件条例7条2号は,「個人に関する情報(略)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」を不開示情報として定めている。同号は,個人のプライバシーに関する情報を最大限に保護しようとする趣旨の規定であり,ここにいう「個人に関する情報」は,事業を営む個人の当該事業に関する情報が除外されている以外には文言上何らの限定がないから,個人の私生活に関わりのある情報であって,特定の個人が識別され,又は識別 ,ここにいう「個人に関する情報」は,事業を営む個人の当該事業に関する情報が除外されている以外には文言上何らの限定がないから,個人の私生活に関わりのある情報であって,特定の個人が識別され,又は識別することができるものは,原則として同号所定の不開示情報に該当するというべきである。また,「特定の個人を識別することができる」には,当該情報自体に個人の氏名,住所などの記述が含まれている場合だけでなく,一般人を基準として,他の情報と照合することにより,特定の個人を識別し得る場合をも含むとされている。 (2) ところで,前提事実及び証拠(甲1,3,乙1,2)並びに弁論の全趣旨によれば,原告は,本件火災によって延焼した家屋の所有者であること,そのため,原告は,本件火災に関する報告書の開示を請求したこと,本件各情報の内容は,別表のとおりであり,これを類型的に区分すれば,下記のとおりであること,以上の事実が認められる。 ア本件火災の火元者,火元責任者又は関係者の氏名,住所,職業,年齢等が記載されているもの(ア) 通番1(火災原因損害調査報告書)の枝番1ないし4(イ) 通番2(火災原因判定理由書)の枝番1,2(ウ) 通番3(実況見分調書)の枝番1,2,4,12,16(エ) 通番4(B作成の質問調書第1回)の枝番1ないし4(オ) 通番5(C作成の質問調書第2回)の枝番1ないし4(カ) 通番6(C作成の質問調書第3回)の枝番1ないし4(キ) 通番7(D作成の質問調書第1回)の枝番1ないし4(ク) 通番8(D作成の質問調書第2回)の枝番1ないし4(ケ) 通番9(E作成の質問調書第1回)の枝番1ないし4イ本件火災の火元者,火元責任者又は関係者の供述内容や署名・押印が記載されているもの(ア) 通番2の枝番6,10(イ) 通番4の枝番6(ウ) 通番5の E作成の質問調書第1回)の枝番1ないし4イ本件火災の火元者,火元責任者又は関係者の供述内容や署名・押印が記載されているもの(ア) 通番2の枝番6,10(イ) 通番4の枝番6(ウ) 通番5の枝番6(エ) 通番6の枝番6(オ) 通番7の枝番6(カ) 通番8の枝番6(キ) 通番9の枝番6ウ本件火災によってり災した建物の状況等が記載されているもの(ア) 通番2の枝番3ないし5,8,9,14ないし17(イ) 通番3の枝番5ないし8,11ないし22エ本件火災の出火原因又は出火場所について判定内容等が記載されているもの(ア) 通番1の枝番7(イ) 通番2の枝番5(当時の風向・風速を含む。)ないし12オ本件火災原因を判定する上で他庁から送付を受けた教科書的な添付資料の名称と,通番2の枝番14ないし17に添付した写真の名称が記載されているもの通番2の枝番13(3) 前記認定事実によれば,以下のとおり,通番2の枝番5のうち当時の風向・風速を記載した部分及び通番2の枝番13のうち教科書的な添付資料の名称を記載した部分は,いずれも一般的な情報にすぎず,およそ個人に関する情報とはいえない(したがって,これらは,本件条例8条1項により,部分開示の対象とされるべきである。)が,これらを除く本件各情報は,個人に関する情報にして,特定の個人を識別し得る情報に該当すると判断するのが相当である。すなわち,ア上記(2)アの(ア)ないし(ケ)は,本件火災の火元者,火元責任者又は関係者の氏名,住所,職業,年齢等についての情報が記載されているところ,これらは,それ自体,火元者,火元責任者又は関係者を特定し得るものであって,これらを開示すれば,その者が本件火災の火元者,火元責任者又は関係者であることが分かるから,個人識別情報に当たることが明らかで らは,それ自体,火元者,火元責任者又は関係者を特定し得るものであって,これらを開示すれば,その者が本件火災の火元者,火元責任者又は関係者であることが分かるから,個人識別情報に当たることが明らかである。 イ上記(2)イの(ア)ないし(キ)は,本件火災の火元者,火元責任者又は関係者の供述内容が記載されているところ,これらは,火元責任者等の行動や認識状況等について情報であって,個人に関する情報に該当し,かつ,これらを開示すれば,原告の有する情報や本件開示請求の経緯などから,本件火災の関係者である特定の個人の行動や認識状況が分かるから,個人識別情報に当たるというべきである。 ウ上記(2)ウの(ア),(イ)は,本件火災によってり災した建物の状況等が記載されているところ,これらは,本件火災の火元建物及び延焼建物の所有者又は占有者の個人情報に該当し,かつ,これらを開示すれば,原告の有する情報や本件開示請求の経緯などから,本件火災の関係者である特定の個人の所有又は占有する建物の状況が分かるから,個人識別情報に当たるというべきである。 エ上記(2)エの(ア),(イ)は,出火原因や出火場所についての判定の経緯やその内容が記載されているところ,これらには,出火場所や出火状況のほか,本件火災の原因と関連すると考えられる火元者,火元責任者又は関係者の行動についての情報が記録されているから,これらは,火元者等の個人情報に該当し,かつ,これらを開示すれば,原告の有する情報及び本件開示請求の経緯から,本件火災の関係者である特定の個人の行動や所有又は占有する建物の状況が分かるから,個人識別情報に当たるというべきである。 もっとも,当時の風向・風速については,特定の個人と関わりない一般的な情報であり,気象台等に問い合わせることによって容易に入手し得るし,現に被告 が分かるから,個人識別情報に当たるというべきである。 もっとも,当時の風向・風速については,特定の個人と関わりない一般的な情報であり,気象台等に問い合わせることによって容易に入手し得るし,現に被告も甲1の「火災即報」と題する書面の気象欄において当時の風向・風速等の情報を開示しているから,個人識別情報として不開示にすべきものとはいえない。 オ通番2の枝番13には,本件火災原因を判定する上で他庁から送付を受けた教科書的な添付資料の名称と,通番2の枝番14ないし17に添付した写真の名称が記載されているところ,そのうち,前者は,特定の個人と関わりない一般的な情報にすぎないから,個人に関する情報とはいえないが,後者は,出火場所及びその床下の写真の名称であることから,出火建物所有者の個人情報に当たり,かつこれを開示すれば,原告の有する情報や本件開示請求の経緯から,本件火災の関係者である特定の個人の所有又は占有する建物の状況が分かるから,個人識別情報に当たるというべきである。 (4) この点について,原告は,個人情報の開示を禁止しているのは,当該情報を開示することによって初めて特定の個人が識別されることを防止する趣旨であるところ,本件火災は,原告の隣家から出火したものであって,原告にとっては,開示請求以前から,火元の住所・世帯主等について認識しているから,本件各情報はそもそも本件条例7条2号に該当しない旨主張する。 しかしながら,本件条例7条2号は,個人に関する情報であって,個人を識別できる情報を不開示情報として定めているものであって,開示によって初めて個人を識別し得ることを要件とするものではない(このことは,仮に原告の主張に従った場合,誰に関する情報であるかを認識している者による個人情報の開示請求に対しては,行政機関が保有する当該個人に関する情 人を識別し得ることを要件とするものではない(このことは,仮に原告の主張に従った場合,誰に関する情報であるかを認識している者による個人情報の開示請求に対しては,行政機関が保有する当該個人に関する情報すべてを開示しなければならないことになって,個人情報を保護することが不可能となることからも明らかである。)上,本件開示請求は,出火場所の住所や世帯主の氏名だけの開示を求めているものではないこと,その住所・氏名に関する情報についても,それが広く知られている場合はともかくとして,個人情報として保護するのが本件条例の趣旨と考えられることなどを考慮すると,原告の上記主張は採用できない。 4 争点(4)(本件除外事由の該当性)について本件条例7条2号のイは,個人識別情報であっても,「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に当たるときは,開示すべきことを定めている。これは,不開示とすることにより保護される利益と開示することにより保護される利益とを比較衡量して,後者の利益が上回る場合には開示の対象とすることを明らかにした調整規定と解される。そして,その判断に際しては,個人に関する情報の中にも,個人的な性格が強いものから社会的な性格が強いものまで様々なものがあり得ることを踏まえて,開示により保護される生命,身体,財産等の利益の性質及び程度などを総合的に考慮し,個人のプライバシーを犠牲にしてまで開示することが必要か否かを慎重に検討すべきである。 しかるところ,本件各情報は火災についての情報であり,これによる影響は必ずしも個人的にものにとどまらないことを考慮すると,これに関する情報は純粋に個人的な性格のものであるとはいえないが,反面,本件火災は個人住宅に関するものであって,大規模火災等の理由により社会の関心を特 しも個人的にものにとどまらないことを考慮すると,これに関する情報は純粋に個人的な性格のものであるとはいえないが,反面,本件火災は個人住宅に関するものであって,大規模火災等の理由により社会の関心を特に集めるものであるとはいえないことからすると,社会的性格が強いとまではいえない。また,開示によって保護される利益は,専ら本件火災によって被害を受けた個人による損害賠償請求権の行使を容易にすることにあると考えられる(付随的に,出火原因等を知りたいという被害者の感情を満たすことも考えられる。)ところ,上記権利を行使するために本件各情報の開示請求以外に手段がないとはいえない(一般に,火災報告書は,消防機関が専門的な立場から作成するものであるから司法機関等の有効な証拠資料としての側面を有していると評価されている(乙2)ところ,民事訴訟法上の調査嘱託ないし文書送付嘱託の手続においては,被害者の保護に欠けることがないような配慮が求められる。)。そうすると,本件各情報については,開示によって保護される利益が不開示によって保護される利益を上回るものではなく,本件除外事由に該当しないと判断するのが相当である。 5 結論以上の次第で,原告の本訴請求は,別表通番2の枝番5のうち当時の風向・風速を記載した箇所及び同じく枝番13のうち添付資料の名称を記載した箇所を不開示とした部分の取消しを求める限度で理由があるから認容することとし,その余についてはいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行訴法7条,民訴法61条,64条ただし書を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部裁判長裁判官加藤幸雄裁判官 名古屋地方裁判所民事第9部 裁判長裁判官 加藤幸雄 裁判官 舟橋恭子 裁判官 尾河吉久 (別表添付省略)

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