- 1 - 令和4年4月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成30年(ワ)第3979号琉球民族遺骨返還等請求事件口頭弁論終結日令和4年1月20日判決当事者の表示別紙1当事者目録記載のとおり 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告らに対し、別紙2遺骨目録記載の各遺骨を引き渡せ。 2 被告は、原告Aに対し、10万円及びこれに対する平成31年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Bに対し、10万円及びこれに対する平成31年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告は、原告Cに対し、10万円及びこれに対する平成31年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告は、原告Dに対し、10万円及びこれに対する平成31年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 被告は、原告Eに対し、10万円及びこれに対する平成31年1月16日か ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、沖縄地方の先住民族である琉球民族であるとする原告らが、昭和初期に京都帝国大学(当時)の研究者が沖縄県今帰仁村運天に所在する第一尚氏 の王族等を祀る墳墓(以下「百按司墓」という。)から遺骨を持ち去り、京都- 2 - 帝国大学を承継した被告がその遺骨の一部である別紙2遺骨目録記載の各遺骨(以下、併せて「本件遺骨」という。)を現在まで占有保管していることについて、⑴ア原告らが琉球民族の風習に則って祭祀を 帝国大学を承継した被告がその遺骨の一部である別紙2遺骨目録記載の各遺骨(以下、併せて「本件遺骨」という。)を現在まで占有保管していることについて、⑴ア原告らが琉球民族の風習に則って祭祀を行うためには本件遺骨が必要不可欠であるから、原告らは、憲法20条、13条及び国際人権法の定めに より本件遺骨の返還請求権を有する、又は、イ原告A及び同Bは第一尚氏の王族又は士官の直系の子孫であり、その余の原告らは百按司墓に祀られている者に対して畏敬・追慕の念を抱く者(以下「追慕者」ともいう。)であるから、いずれも「祖先の祭祀を主宰すべき者」に当たり、本件遺骨の所有権を有する と主張して、被告に対し、本件遺骨の引渡しを求める(請求の趣旨第1項)とともに、⑵ア被告が、本件遺骨が盗掘されたものであることを知りながら本件遺骨を返還しないことは、原告らが有する本件遺骨の返還請求権(上記⑴ア及びイ)を侵害し、また、祖先の回顧及び祭祀に関する原告らの自己 決定権を侵害する違法行為であり、イ被告が、研究者である原告Cからの本件遺骨の実見の申出に誠実に対応しなかったことは、原告Cの琉球民族としてのアイデンティティ及び研究者としての利益を侵害し、他の原告らを侮辱する違法行為であると主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、各原告につき 慰謝料10万円及び各金員に対する平成31年1月16日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。 以下同じ)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(請求の趣旨第2~6項)という事案である。 2 前提事実(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に- 3 - 認められる事実) 遅延損害金の支払を求める(請求の趣旨第2~6項)という事案である。 2 前提事実(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に- 3 - 認められる事実)⑴ 当事者等ア原告Aは、第一尚氏の王族であった屋比久大屋子の直系の子孫である(甲68〔以下、枝番のある書証については、特に断らない限り、枝番を含む〕~74) 原告Bは、第一尚氏の士官であった伊平屋大里の直系の子孫である(甲56~59)。 原告D、原告E及び原告Cは、いずれも、自らが琉球民族であると主張する者である。なお、原告Cは、龍谷大学経済学部に所属し、琉球列島及び太平洋諸島を対象とする島しょ経済研究並びに国連における先住民族の 権利回復運動を研究している(原告C)。 イ被告は、京都大学(本件遺骨が持ち去られた昭和4年ないし8年当時の名称は京都帝国大学)を設置運営する国立大学法人であり、本件遺骨を占有保管している。 ⑵ 百按司墓 ア百按司墓は、沖縄県国頭郡今帰仁村字運天運天原a番の国定公園内に所在する墳墓であり、今帰仁村の有形文化財として指定されている。百按司墓には、北山国が同所を支配していた時代(14世紀半ば~西暦1420年代まで。以下「北山時代」という。)から第一尚氏の王朝が支配していた時代(西暦1420年代~同1469年まで。以下「第一尚氏時代」と いう。)にかけての、王族を含む支配層の貴族及び有力者並びにその一族の遺骨が納められているとされている。(甲14、18~21)イ百按司墓は、5基の墓(第1号墓所~第5号墓所)で構成され、各墓は、崖の中腹の岩陰を掘り込むなどして、半月状の石組みが設えられた形態となっている。各墓所内には木棺や厨子甕が配置され、墓内の空間は外部に 露出してい 第1号墓所~第5号墓所)で構成され、各墓は、崖の中腹の岩陰を掘り込むなどして、半月状の石組みが設えられた形態となっている。各墓所内には木棺や厨子甕が配置され、墓内の空間は外部に 露出している。(甲14、83)- 4 - ⑶ 沖縄地方にみられる伝統的な葬送文化(甲17、50、64、65)ア沖縄地方においては、伝統的に、一定の範囲の親族が血縁による共同体(村落)を形成しており、共同体の構成員が死亡すると、その霊魂が共同体の守護神である「祖霊神」になり、共同体全体を守護する存在となるとする祖霊神信仰が行われている。祖霊神は、祖先の遺骨に宿ると考えられ ていることから、遺骨自体も「骨神」として信仰の対象とされているが、祖霊神は家単位ではなく、共同体全体の守護神となることから、遺骨の個別性は問題とならず、当該共同体に生存中の子孫らにとって、当該共同体の祖先らの遺骨は全体として拝みの対象となるとされる。(甲17、50、64、65) イ沖縄地方においては、家単位ではなく、門中(父系血縁者による親族集団。通常は数十~百数十世帯で構成される。)ごとに墓を作り、祭祀を行う風習がみられる。この場合、墓は、自然の洞窟や岩陰など空間や庇のある場所を利用して、又は崖に穴を掘りこんで空間を作り出して作られる。 遺体は、軟部組織が残ったまま、上記のような外部に露出した環境の墓に 安置され、年月をかけて風葬により骨化し、その後、子孫により海水等で洗われた後(洗骨)、地中に埋葬されることなく、墓内に、祖先の遺骨とともに安置される。(崖葬墓文化。甲17、30)。 ウまた、門中ごとに、一定の期間に1回(毎年又は3、5、7、9年ごとなど、巡拝地までの距離によって間隔は異なる)、祖先に関係する城跡、 墓、泉、御嶽等の聖地を巡 葬墓文化。甲17、30)。 ウまた、門中ごとに、一定の期間に1回(毎年又は3、5、7、9年ごとなど、巡拝地までの距離によって間隔は異なる)、祖先に関係する城跡、 墓、泉、御嶽等の聖地を巡拝する行事が行われている。中でも、「今帰仁上り」は多くの門中によって行われる巡拝行事であるところ、百按司墓は、今帰仁上りの主要な巡礼地の一つである。(甲31~33、54)⑷ 京都帝国大学(当時)所属の研究者による沖縄地方における人骨収集について ア Gによる人骨収集(甲41、55)- 5 - 京都帝国大学医学部(当時は医科大学。以下同じ)に所属する研究者であったGは、昭和4年1月8日から同月12日にかけて、百按司墓から人骨を収集した(甲41)Gは、収集した人骨を京都帝国大学に持ち帰った後、昭和9~11年頃、当時の台北帝国大学(現在の国立台湾大学)に転任するに際し、そ の全部又は一部(少なくとも頭蓋骨33体分)を同大学に持ち出した(甲41〔268頁〕、55〔11頁、13頁〕)。 Gが台北帝国大学に持ち出した人骨のうち一部(頭蓋骨33体分)は、平成31年3月、国立台湾大学、同医学院、沖縄県教育委員会及び今帰仁村教育委員会の協議に基づき、沖縄県立埋蔵文化財センター収蔵庫へ と移管された(甲55、原告C)。 イ Hによる人骨収集京都帝国大学医学部に所属する研究者であったHは、昭和8年12月25日頃から同月28日頃にかけて、沖縄本島の国頭、中頭、島尻等において、本件遺骨のうち一部(別紙2遺骨目録記載2ないし19)を含む約7 0体の人骨を収集した(甲42、55)。 ⑸ 本件遺骨の保管態様ア被告は、本件遺骨を被告が設置する京都大学総合博物館(以下「被告博物館」という。)収蔵室内において保管しており、 む約7 0体の人骨を収集した(甲42、55)。 ⑸ 本件遺骨の保管態様ア被告は、本件遺骨を被告が設置する京都大学総合博物館(以下「被告博物館」という。)収蔵室内において保管しており、一般には公開していない。同収蔵室内は、温度及び湿度が一定に保たれ、虫害を予防するための 措置がとられ、セキュリティシステムを利用して常に施錠されている。 (乙9、弁論の全趣旨)イ本件遺骨は、別紙2遺骨目録記載の番号ごとに、プラスチック製の直方体の箱に入れられ、被告博物館の収蔵室内に設置されたレール式移動棚において保管されている。各箱にはラベルが貼付されており、同ラベルには 別紙2遺骨目録記載の標本番号、発見地名等が記載されている。(乙9、- 6 - 14)ウ被告において収蔵する人骨のうち、標本番号1号から750号については、目録が現存し、当該人骨の収集場所や収集時の状況等が記録されている(甲43)が、標本番号751号以降の目録は見つかっていない。また、本件遺骨のうち別紙2遺骨目録記載の2ないし19(標本番号1042~ 1058)に対応する目録は見つかっていない。 ⑹ 原告Cによる本件遺骨の利用申請等ア原告Cは、平成29年5月8日、被告博物館に対し、本件遺骨について標本利用申請をしたところ(以下「本件利用申請」という。)、被告は、同月12日付で、本件利用申請について不許可とした(甲2、乙5)。 イ原告Cは、同月18日、被告博物館に対し、本件遺骨の保管状況等についての質問事項を記載したメールを送信したところ、被告は、全ての館蔵資料について、収蔵状況等の個別の問合せには応じていない旨をメールで回答した(甲3)。 ウ原告Cは、同年8月23日、被告に対し、本件遺骨の返還を求めること 等を記載し 、被告は、全ての館蔵資料について、収蔵状況等の個別の問合せには応じていない旨をメールで回答した(甲3)。 ウ原告Cは、同年8月23日、被告に対し、本件遺骨の返還を求めること 等を記載した「琉球人骨返還に関する公開質問・要望書」(甲4)を送付するとともに、開示対象文書を「京大人骨番号表のそれぞれの内容にかかわる文書」として法人文書開示請求をしたところ、被告は、人骨標本番号ごとに記録された文書762枚(備考欄に記録された個人識別情報を除く)を開示した。(甲5) エ原告Cは、同年12月9日、京都大学大学院理学研究科自然人類学研究室に対し、本件遺骨に係る骨格閲覧申請をしたが、同研究室は、対象標本は管理資料に存在しない旨を回答した(甲7、弁論の全趣旨)。 オ当時被告の学長であったFは、令和元年8月6日、京都大学の職員組合委員長との対談において、原告Cを指して、「この件を訴えている方は問 題のある人と承知している」と述べた(甲77)。 - 7 - 3 争点⑴ 本件遺骨の返還請求に関する争点ア国際人権法又は憲法に基づく本件遺骨の返還請求権の有無(争点1)イ所有権に基づく本件遺骨の返還請求権の有無(争点2)ウ被告による本件遺骨の占有権限の有無(争点3) ⑵ 不法行為に基づく損害賠償請求に関する争点ア被告による不法行為の成否(争点4)被告が本件遺骨を占有保管していることの違法性の有無(争点4ア)原告Cに対する被告の対応の違法性の有無(争点4イ)イ原告らに生じた損害の有無及び金額(争点5) 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点1(国際人権法又は憲法に基づく本件遺骨の返還請求権の有無)(原告らの主張)ア琉球民族にとっては、遺骨そのものが礼拝、祭祀の対象であ 争点5) 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点1(国際人権法又は憲法に基づく本件遺骨の返還請求権の有無)(原告らの主張)ア琉球民族にとっては、遺骨そのものが礼拝、祭祀の対象であるから、遺骨が奪われ、本来あるべき場所になく、その返還が拒否されているという 状態は、琉球民族である原告らの民族的、宗教的自己決定権を侵害するものである。したがって、原告らは、憲法13条及び20条に基づき、本件遺骨について、埋葬管理及び再風葬するために返還を受ける権利を有する。 イ市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)27条には、「種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、 当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。」と記載されており、先住民族の権利に関する国連宣言第12条には、「先住民族は、その精神的及び宗教的な伝統、慣習及び儀式を表現し、実践し、発展させ、教える権利、その宗教的及び文化的な場所 を維持し、保護し干渉を受けることなく立ち入る権利、儀礼用具の使用と- 8 - 管理をする権利並びにその遺体及び遺骨の返還に対する権利を有する。」「国は、関係する先住民族と協力して設けた公平で透明かつ効果的な措置によって、国が保有する儀式用具、その遺体及び遺骨へのアクセス並びに返還を可能にするよう努めなければならない」と記載されている。 原告らは、国際人権法上の先住民族としての琉球民族であるから、上記 少数民族の文化享有権に基づき、琉球において脈々と行われてきた崖葬墓文化及び百按司墓への巡礼という文化を共有するため、本件遺骨について、埋葬管理及び再風葬するために返還を受ける権 るから、上記 少数民族の文化享有権に基づき、琉球において脈々と行われてきた崖葬墓文化及び百按司墓への巡礼という文化を共有するため、本件遺骨について、埋葬管理及び再風葬するために返還を受ける権利を有する。 (被告の主張)争う。 原告らの掲げる憲法及び国際人権法の各規定は、具体的な本件遺骨の返還請求権を基礎づけるものではない。 ⑵ 争点2(所有権に基づく本件遺骨の返還請求権の有無)(原告らの主張)ア本件遺骨の所有権の帰属は、慣習並びに祖先らに対する畏敬・追慕の念 及び祭祀の状況に基づいて判断されるべきであるところ、「慣習」(民法897条)の解釈は、先住民族・少数民族の文化伝統を持続する権利等を定めた国際人権法の定めに照らして行われるべきである。 イ琉球においては、琉球民族固有の死生観が存在し、祖先全体の神としての祖霊神を信仰している。祖霊神は、遺骨に宿ると考えられており、遺骨 それ自体が「骨神」として拝みの対象となる。そして、祖先の魂は共同体全体を守護する神となるから、共同体の子孫らにとって、遺骨の個別性は問題とならず、当該共同体の祖先らは、全員が拝みの対象である祖霊神なのである。このような信仰に基づき、琉球の人々は、近しい祖先やいわゆる「家」の墓だけではなく、数百年も前の祖先らが一緒に眠る墓所(集合 墓)をそれぞれが拝み続けるという慣習を有する。 - 9 - 百按司墓に埋葬されている遺骨は、北山時代及び第一尚氏時代の貴族等のものであるところ、百按司墓は、琉球民族の人々によって行われる巡礼行事(今帰仁上り)の主要な巡礼地となっており、人々によって定期的に継続して参拝されている。 このような琉球の慣習からすれば、百按司墓について「祖先の祭祀を主 宰すべき者」(民法897条1項) 行事(今帰仁上り)の主要な巡礼地となっており、人々によって定期的に継続して参拝されている。 このような琉球の慣習からすれば、百按司墓について「祖先の祭祀を主 宰すべき者」(民法897条1項)は、特定の戸主等の個人ではなく、広く百按司墓内に祀られている北山時代及び第一尚氏時代の貴族及びその一族の末裔ら全員となり、その他、祖先らに対する畏敬・追慕の念をもって祭祀を行う者はいずれも「祖先の祭祀を主宰すべき者」に当たる。 ウ原告Bは、平成12年頃から、定期的に百按司墓を訪れて祭祀を行って おり、原告Aは、平成30年以降、複数回にわたって百按司墓を訪れて祭祀を行っている。また、原告Bが所属する門中(親族集団)である翁姓門中会も、定期的に今帰仁上りを実施して百按司墓を訪れているほか、原告C及び原告Eも、平成30年以降、複数回百按司墓を訪れて祭祀を行っている。原告A及び原告Bは、自らが百按司墓の祭祀承継者であると考えて おり、他に祭祀承継者となることを希望する第一尚氏の子孫がいれば、共同して祭祀承継者となりたいと考えている。 エ原告らは、上記ウのとおり、全員が、琉球民族として、本件遺骨に対して並々ならぬ追慕の念を持って百按司墓の祭祀を支援してきたのであるから、少数民族の権利を定めた国際人権法の各規定に照らして解釈される民 法897条1項により、祖先の祭祀を主宰すべき者として、本件遺骨について、埋葬、管理、再風葬及び供養を目的とする所有権を承継し、有する。 仮に、原告ら全員が祭祀を主宰すべき者とはいえないとしても、原告A及び原告Bは第一尚氏の子孫であり、現在も百按司墓の祭祀を行っているところ、これについて他の子孫からも異議が述べられたこともなく、百按 司墓を文化財として管理する今帰仁村は祭祀を行う予定もないから、 告Bは第一尚氏の子孫であり、現在も百按司墓の祭祀を行っているところ、これについて他の子孫からも異議が述べられたこともなく、百按 司墓を文化財として管理する今帰仁村は祭祀を行う予定もないから、少な- 10 - くとも、原告A及び原告Bは、祖先の祭祀を主宰すべき者として、本件遺骨について、上記の意味での所有権を承継し、有する。 したがって、被告は、原告らの本件遺骨の所有権に基づく返還請求に応じ、本件遺骨を百按司墓に再安置すべきである。 (被告の主張) 否認し、争う。 民法897条1項の文言及び共同相続による承継を回避することを企図した立法の経緯からすれば、祭祀承継は単独承継が前提であり、特別の事情がある場合にのみ、2人以上の者が分割承継又は共同承継することができると解すべきである。百按司墓については、久しく祭祀承継者が途絶えていたし、 原告らは、何度か百按司墓を訪れて祭祀を執り行っているというのみであって、中心となって祭祀を執り行っている者(主宰者)が誰であるかも明らかにせず、特定の者をして祭祀を主宰する者とする慣習があることについての主張も立証もしない。 したがって、原告らは、いずれも百按司墓ないし本件遺骨について、祖先 の祭祀を主宰すべき者には当たらず、本件遺骨の所有権を有しない。 ⑶ 争点3(被告が本件遺骨に係る占有権限を有するか)(被告の主張)G及びHは、当時、必要と考えられる手続を経て、人骨を収集した。したがって、被告が本件遺骨を占有することについて、正当な権限がある。 (原告らの主張)争う。GやHが沖縄地方において遺骨を収集した経緯をみると、適法な収集とはいえず、被告は本件遺骨に係る占有権限を有しない。 ⑷ 争点4(被告による不法行為の成否)ア争点4ア(被告が本件 張)争う。GやHが沖縄地方において遺骨を収集した経緯をみると、適法な収集とはいえず、被告は本件遺骨に係る占有権限を有しない。 ⑷ 争点4(被告による不法行為の成否)ア争点4ア(被告が本件遺骨を占有保管していることの違法性の有無) (原告らの主張)- 11 - 京都帝国大学医学部に所属していたG及びHは、その人類学研究の一環として、琉球の百按司墓について、遺骨の子孫、門中(親族集団)及び地域住民の了承を得ることなく盗掘したものであり、これは極めて悪質、違法な行為であるところ、被告は、同盗掘行為によって得られた本件遺骨について、事情を知った上でその占有を承継し、現在に至るまで 占有保管している。被告は、本件遺骨の返還を求められてもなお本件遺骨を百按司墓に返還せず、占有保管を継続していることに加え、本件遺骨の目録を紛失するなど、本件遺骨を極めて杜撰に管理している。 このように、被告が本件遺骨を占有保管し、原告らに返還しないことは、故意により、原告らの琉球民族としての遺骨返還請求権を侵害する ものであり、違法である。 また、琉球民族である原告らにとって、遺骨は祖霊神の宿るものであり、それ自体が骨神である。骨神は、子孫全体にとっての守護神であり、拝みの場所である墓に遺骨が納められているということが極めて重要である。したがって、被告が百按司墓から持ち出された本件遺骨を占有し、 墓に戻さず、杜撰に管理していることにより、原告らは遺骨のない墓を拝まざるを得ないという状況になっているのであるから、原告らの祖先の回顧・祭祀に関する自己決定権、すなわち死者である祖先を悼む権利が違法に侵害されている。 (被告の主張) 争う。 Gは、沖縄県庁、沖縄県立図書館、沖縄県警を訪れ、人骨の収集につい 祖先の回顧・祭祀に関する自己決定権、すなわち死者である祖先を悼む権利が違法に侵害されている。 (被告の主張) 争う。 Gは、沖縄県庁、沖縄県立図書館、沖縄県警を訪れ、人骨の収集について協力を求め、了解を得ており、人骨の収集に当たっては地元の人の助力も得て行ったし、その収集に当たって苦情を受けたこともないから、Gの収集行為は違法ではない。Hも、Gと同様、関係機関の了承を得て人骨を 採集したはずである。したがって、被告が本件遺骨の占有を継続している- 12 - 行為も、違法ではなく不法行為を構成しない。 また、被告は、被告博物館収蔵室内において、本件遺骨をプラスチック製の箱に収納し、レール式移動棚に置いて適切に管理しているから、その管理形態が原告らに対する不法行為を構成することもない。 イ争点4イ(原告Cに対する被告の対応の違法性の有無) (原告らの主張)被告は、原告Cがした本件利用申請を不許可とし、質問を無視した上、本件遺骨について、被告とは無関係であると述べたり、虚偽の回答をしたりするなど、本件遺骨の実見の申出に対して誠実に向き合っていない。また、被告学長(当時)は、原告Cについて「問題のある人と承知している」 等と述べた。被告によるこれらの行為は、原告Cの研究者としての利益を侵害するのみならず、琉球民族である原告らに対する侮辱として不法行為を構成する。 (被告の主張)争う。 被告博物館が、資料の閲覧の可否を判断するに当たっては、研究目的及び資料の取り扱いの熟達度や研究実績等を考慮する。原告Cが提出した本件利用申請に係る申請書には、その考慮要素に照らし、閲覧を許可できるだけの十分な内容の記載がなかったため、許可しなかったにすぎない。被告が、Gが持ち帰った遺骨等について 考慮する。原告Cが提出した本件利用申請に係る申請書には、その考慮要素に照らし、閲覧を許可できるだけの十分な内容の記載がなかったため、許可しなかったにすぎない。被告が、Gが持ち帰った遺骨等について被告とは無関係であると述べたとか、 骨格閲覧申請について存在しない旨の虚偽の回答をしたとかの事実はない。 ⑸ 争点5(原告らに生じた損害の有無及び額)について(原告らの主張)被告が百按司墓から持ち出された本件遺骨を占有していることにより、原告らは、祖霊神としての本件遺骨を返還してもらえず、本件遺骨のない墓を 拝まざるを得ないという状況になっており、原告らには精神的苦痛が生じて- 13 - いる。 また、被告が原告Cに対してした違法な対応により、原告らは、本件遺骨を実見してその目前で供養することもできず、原告らの琉球民族としての尊厳が傷つけられ、精神的苦痛が生じた。 これら原告らの被った精神的苦痛を慰謝するための金額は、10万円を下 らない。 (被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前提事実に証拠(後掲各証拠のほか、原告A及び原告C〔ただし、いずれも後記認定に反する部分を除く。〕)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 被告所属の研究者による沖縄地方における人骨収集についてア G及びHは、昭和4年ないし9年当時、いずれも京都帝国大学医学部 (当時は医科大学)に所属する研究者であり、両者は親交があった。 イ Gによる人骨収集の経緯(甲41、55)Gは、昭和3年12月31日、鹿児島に到着し、当時鹿児島県史跡調査委員嘱託であったIを訪ね、本件遺骨のうち別紙2遺骨目録記載1の遺骨を見学した。同遺骨は、その後、当時京都帝国大学の教授であった Jに 和3年12月31日、鹿児島に到着し、当時鹿児島県史跡調査委員嘱託であったIを訪ね、本件遺骨のうち別紙2遺骨目録記載1の遺骨を見学した。同遺骨は、その後、当時京都帝国大学の教授であった Jに提供され、被告が占有するに至った。(甲41〔189~191頁〕、55〔19頁〕)Gは、昭和4年1月5日、沖縄に到着し、同月6日、沖縄県立図書館を訪問し、当時の同館長と面会し、同月7日、沖縄県庁を訪問した。 Gは、同月8日、沖縄県庁の自動車に乗り、県庁職員の案内で百按司 墓に立ち寄った。Gは、百按司墓に所在していた人骨のうち、できるだ- 14 - け完全なものとして4個の頭蓋骨を持ち出した。(甲41〔236頁〕)Gは、同月9日、百按司墓における人骨収集に関して沖縄県警察部の許可を得た。 Gは、同月11日、名護小学校の校長であったK及び巡査1名とともに、百按司墓に向かった。百按司墓に到着後、Gは、人骨(良質の頭蓋 15個、頭蓋破片十数個、躯幹四肢骨多数)を収集した(甲41〔240~242頁〕)。 Gは、同月12日、駐在所の巡査及び雇った人夫とともに、百按司墓からできる限りの人骨を収集し、持ち帰った。(甲41〔242~245頁〕) Gは、上記、で収集した人骨を京都帝国大学に持ち帰った後、昭和9~11年頃、台北帝国大学(当時。現在の国立台湾大学)に転任するに際し、その全部又は一部(少なくとも頭蓋骨33体分)を同大学に持ち出した(甲41〔268頁〕、55〔11頁、13頁〕)。 上記でGが台北帝国大学に持ち出した遺骨のうち一部(頭蓋骨33 体分)は、平成31年3月、国立台湾大学、同医学院、沖縄県教育委員会及び今帰仁村教育委員会の協議に基づき、沖縄県立埋蔵文化財センター収蔵庫へと移管された(甲 出した遺骨のうち一部(頭蓋骨33 体分)は、平成31年3月、国立台湾大学、同医学院、沖縄県教育委員会及び今帰仁村教育委員会の協議に基づき、沖縄県立埋蔵文化財センター収蔵庫へと移管された(甲55、原告C)。 ウ Hによる人骨の収集Hは、昭和8年12月25日頃から同月28日頃にかけて、沖縄本島の 国頭、中頭、島尻等において、約70体の人骨を収集したが、この中には本件遺骨のうち一部(別紙2遺骨目録記載2ないし19)が含まれる(甲42、55)。 ⑵ 本件遺骨の保管について被告は、本件遺骨を、前記前提事実記載の方法により、被告博物館収蔵室 内において保管しているところ、日本人類学会は、被告に対し、本件遺骨を- 15 - 含む琉球人の人骨について、その学術調査を継続することを要望する書面を提出している(弁論の全趣旨)。 ⑶ 百按司墓の現状等ア今帰仁村教育委員会は、平成13年から平成14年にかけて、百按司墓の調査を行った。その結果、同時点において、百按司墓の第1号墓所に4 2体の人骨が存在することが確認された。(甲14)イ今帰仁村は、百按司墓が所在する土地を所有し、百按司墓を文化財として指定しているが、祭祀を行ったことはなく、今後もその予定はない(甲82、88)。 今帰仁村教育委員会は、被告に対し、本件遺骨を含む今帰仁村運天人骨 資料の返還について、協議の要請をしている(甲11)。 ウ原告Bは、平成12年頃、自らが第一尚氏の子孫であることを知り、その頃から数回、百按司墓を訪れて墓所を拝んだ。原告Bは、平成29年頃、百按司墓から持ち出された本件遺骨を被告が保管していることを知ったが、その後も複数回、百按司墓を訪れ、墓所を拝んでいる。(甲61、79) 原告Aは、平成29年ないし平成 Bは、平成29年頃、百按司墓から持ち出された本件遺骨を被告が保管していることを知ったが、その後も複数回、百按司墓を訪れ、墓所を拝んでいる。(甲61、79) 原告Aは、平成29年ないし平成30年ころ、百按司墓の存在を知り、その後、百按司墓に自らの祖先が祀られていることを知った。原告Aは、同年9月14日、平成31年1月12日及び令和元年9月7日、百按司墓を訪れ、墓前に供物を措き、線香を立てて祈るなどし、墓所を拝んだ(甲27~28)。原告Aは、その後も数回、百按司墓を訪れ、同様に墓所を 拝んでいる。 2 本件遺骨の返還請求について⑴ 争点1(国際人権法又は憲法に基づく本件遺骨の返還請求権の有無)についてア原告らは、憲法13条、20条及び自由権規約27条を根拠として、少 数民族の文化享有権に基づき、本件遺骨に係る返還請求権を有すると主張- 16 - する。 しかし、自由権規約は、締約国が、同規約において認められる権利を実現するために必要な立法措置その他の措置をとるため、必要な行動を約束する旨を定めるにとどまり(同規約2条)、締約国における個々の国民がその権利を確保するための具体的な手続・手段を規定するものではないこ とに照らせば、同規約27条が、「種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。」と規定する趣旨は、締約国において、少数民族の有する自己の宗教を信仰しかつ実践する権利を否定しては ならないことを確認し、締約国がこの権利の実現に向けて政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣言したものにとどまり、少数民族に属する者に当該民族の遺骨の を信仰しかつ実践する権利を否定しては ならないことを確認し、締約国がこの権利の実現に向けて政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣言したものにとどまり、少数民族に属する者に当該民族の遺骨の返還を請求する具体的権利を付与すべきことを直接に定めたものとは解されないし、憲法13条及び20条が、自由権規約27条を具現化することにより、原告らに遺骨の返還を請求する権利ないし法 的地位を直接に付与していると解することもできない。その他、原告らの援用する国際人権法の規定も、原告らに遺骨の返還請求に係る具体的な権利を付与するものとは解されない。 イしたがって、原告らが、国際人権法又は憲法に基づき本件遺骨の返還請求権を有するということはできない。 ⑵ 争点2(所有権に基づく返還請求権の有無)についてア本件遺骨は、第一尚氏の支配層の貴族等の遺骨を納めた墳墓であるとされる百按司墓から持ち去られたものであるところ、遺骨が墳墓から持ち出されたことにより祭祀財産である墳墓と独立して扱われるべきものであるとしても、祭祀財産に準じて、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者に 帰属すると解するのが相当である(民法897条1項、最高裁昭和63年- 17 - (オ)第969号平成元年7月18日第三小法廷判決・家月41巻10号128頁参照)。 イ原告らは、琉球における慣習によれば、百按司墓に祀られている者の子孫に限らず、畏敬・追慕の念を抱いて祭祀を行う者(追慕者)であれば誰でも「祖先の祭祀を主宰すべき者」として祭祀承継者となるなどと主張す る。 しかしながら、遺骨の帰属関係は、その性質上、明確に定められるべきものであって、遺骨に関する権利は、埋葬管理・祭祀供養の範囲においてのみ認められるなどの制約を受けるとしても、その制約 る。 しかしながら、遺骨の帰属関係は、その性質上、明確に定められるべきものであって、遺骨に関する権利は、埋葬管理・祭祀供養の範囲においてのみ認められるなどの制約を受けるとしても、その制約の範囲内では排他的にこれを行使し得るものと解されることに照らすと、特定の複数人が共 同で遺骨を承継する場合があり得ることは別として、不特定多数の追慕者ら全員に遺骨が帰属し、追慕者であれば何人でも遺骨の返還請求権を行使することができるなどと解することはできず、原告らの上記主張は、採用できない。原告らは、国際人権法の規定と適合するように「慣習」を解釈すべきであると主張するが、沖縄地方において、遺骨を骨神として拝みの 対象とする風習が認められること(前提事実⑶)などを勘案しても、上記の判断は左右されない。 ウ原告らは、また、第一尚氏の子孫である原告A及び原告Bが「祖先の祭祀を主宰すべき者」に当たるとも主張するところ、原告Bは平成12年頃、原告Aは平成29年ないし平成30年頃、それぞれ百按司墓に祖先が祀ら れていることを知り、それ以降、複数回、百按司墓を訪れて墓所を拝んだことが認められる(前記1⑶ウ)。 他方で、百按司墓の祭祀に係る慣習についてみると、沖縄地方の伝統的な風習においては、家族墓ではなく、一定範囲の親族により墓が作られて祭祀が行われていること、共同体の子孫らにとって、祖先らは全体として 「祖霊神」として信仰の対象であること、百按司墓は、多数の門中により、- 18 - 今帰仁上りの中で参拝されており、聖地の一つとされていることが認められる。これらの事実に照らすと、原告A及び原告Bによる百按司墓への参拝は、他の多数の子孫らないし門中と同じ立場で、共同墓において信仰の対象である「祖霊神」を拝むという行為にす されていることが認められる。これらの事実に照らすと、原告A及び原告Bによる百按司墓への参拝は、他の多数の子孫らないし門中と同じ立場で、共同墓において信仰の対象である「祖霊神」を拝むという行為にすぎず、原告A及び原告Bが百按司墓を訪れて参拝しているからといって、同原告らが慣習に従って「祖 先の祭祀を主宰すべき者」に当たると認めることはできない。 これに対し、原告らは、原告A及び原告Bが第一尚氏の子孫として百按司墓の祭祀を行うことについて他の子孫から異議が述べられたことはなく、利害関係人たり得る今帰仁村が祭祀を行う予定もないから、原告A及び原告Bが「祖先の祭祀を主宰すべき者」に当たると主張するが、上記のとお り、百按司墓の参拝を行っている門中ないし子孫らは他にも多数存在することが認められるし、また、今帰仁村教育委員会は、原告らとは異なる立場で、被告に対し、本件遺骨を含む今帰仁村運天人骨資料の返還について協議の要請をしていること(前記1⑶イ)、台北帝国大学に持ち出された遺骨(頭蓋骨33体分)については、国立台湾大学、同医学院、沖縄県教 育委員会及び今帰仁村教育委員会の協議に基づき、原告らその他の子孫に返還されることなく沖縄県立埋蔵文化財センター収蔵庫に移管されていること(前記1⑴イ)などに照らすと、「祖先の祭祀を主宰すべき者」として原告A及び原告Bに本件遺骨を承継させることが、百按司墓の存在する今帰仁村ないし共同体構成員の総意であると認めることも困難である。 よって、原告らの上記主張は、採用できない。 そして、他に、原告A及び原告Bが慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者に当たることを認めるに足りる証拠はない。 エ以上によれば、百按司墓ないし本件遺骨に関し、原告らが慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者で 告A及び原告Bが慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者に当たることを認めるに足りる証拠はない。 エ以上によれば、百按司墓ないし本件遺骨に関し、原告らが慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者であるとは認められないから、本件遺骨が原告 らに帰属するとの主張は、理由がない。 - 19 - オなお、付言するに、沖縄地方における伝統的な葬送文化等に鑑みれば、原告らが琉球民族として祖先の遺骨を百按司墓に安置して祀りたいという心情には汲むべきものがある。しかしながら、第一尚氏系統を祖先とする門中ないし第一尚氏系統の子孫とされる者は相当多数存在し、本件遺骨を信仰の対象とする者は原告らに限られない。また、本件遺骨は、信仰の対 象としてのみならず、学術的、文化的にも貴重な資料としての性質を有していることは否定できず、百按司墓を文化財として管理する今帰仁村教育委員会から、本件遺骨の返還について協議の要請がされる一方、日本人類学会からは、本件遺骨を含む琉球人の人骨についての学術調査を継続することを要望する書面が出されるなど、本件遺骨について利害関心を有する 個人ないし団体は、子孫ら以外にも複数存在することが窺われる。これらを勘案すれば、本件遺骨の処遇については、原告らと被告との間のみで解決できる問題ではなく、関係諸機関を交え、返還の是非及び返還する場合の手順、時期、受入機関等を協議することにより、解決に向けた環境整備が図られるべきものである。このような環境が整わない状況下で、本件遺 骨について子孫ないし追慕者らによる個別の権利行使を認めた場合には、本件遺骨をめぐる権利関係をいたずらに複雑化させ、後発の紛争を誘発してその帰趨が定まらない状態を作出することになりかねず、祖先の霊を安らかに祀りたいとする原告らの期待にも反する 使を認めた場合には、本件遺骨をめぐる権利関係をいたずらに複雑化させ、後発の紛争を誘発してその帰趨が定まらない状態を作出することになりかねず、祖先の霊を安らかに祀りたいとする原告らの期待にも反する結果となる。 ⑶ 小括 以上によれば、原告らが本件遺骨の返還請求権を有するとは認められないから、原告らによる本件遺骨の引渡請求は、争点3について判断するまでもなく、理由がない。 3 不法行為に基づく損害賠償請求について⑴ 争点4(被告による不法行為の成否)について ア被告が本件遺骨を占有保管していることについて- 20 - 本件遺骨の返還請求権が侵害されたとの主張について前記2に判示したとおり、原告らは、本件遺骨の返還請求権を有しないから、本件遺骨の返還請求権が侵害されたことを理由とする不法行為の主張は、理由がない。 祖先を悼む権利が侵害されたとの主張について a 原告A及び原告Bについて(a) 百按司墓からは、Gにより少なくとも33体分、Hにより少なくとも18体分(別紙2遺骨目録記載2~19)の遺骨が持ち出され(前提事実⑷)、JがIから譲り受けた1体分(同目録記載1)も併せると、少なくとも52体の遺骨が現在墓の外に所在する状態 であり、うち19体の遺骨(本件遺骨)を被告が保管していること、他方、現在墓の中には42体分の遺骨が納められていること(甲14)が認められる。 百按司墓は、王族を含む支配層の貴族及び有力者並びにその一族の遺骨を納めた墳墓であるとされているところ、原告A及び原告B は、第一尚氏の王族又は支配層である有力者の子孫であり、祖先らの遺骨を信仰の対象とする沖縄地方の伝統的葬送文化を勘案すれば、原告A及び原告Bについて、祖先の遺骨を百按司墓内に安置した状態で は、第一尚氏の王族又は支配層である有力者の子孫であり、祖先らの遺骨を信仰の対象とする沖縄地方の伝統的葬送文化を勘案すれば、原告A及び原告Bについて、祖先の遺骨を百按司墓内に安置した状態で祀りたいという期待ないし利益は、宗教上の人格的利益として法的保護に値すると解する余地がある。 しかしながら、このような宗教上の人格的利益は、所有権や生命・身体等の排他的・支配的な絶対権とはその性質を異にし、その範囲を客観的に確定することができず、外延が不明確なものであるから、社会生活における他の利益等との調整を図る必要があり、上記の人格的利益と衝突・抵触する行為が行われたとしても、これを もって直ちに不法行為法上違法な行為と評価することはできず、当- 21 - 該行為の態様、目的、利益侵害の程度等に照らして社会生活上許容される限度を超える場合にのみ、上記の人格的利益を違法に侵害するものとして不法行為を構成すると解するべきである。 (b) そこで検討するに、原告A及び原告Bの上記人格的利益の侵害とされる被告の行為は、本件遺骨を百按司墓に戻すことなく保管し ている行為であるところ、その保管態様は、温度及び湿度が一定に保たれた博物館収蔵室内において、虫害を予防するための措置がとられた上で、プラスチック製の直方体の箱に入れられ、レール式移動棚に置かれており、一般には公開されておらず、同収蔵室内は、セキュリティシステムを利用して常に施錠されているというもので あって(前提事実⑸ア、イ)、本件遺骨が劣化したり散逸したりするような杜撰な管理をしているとは認められず、被告による本件遺骨の保管態様が、死者を冒とくしたり、死者に対する畏敬追慕の念を甚だしく害したりするような不適切なものであるともいえない(なお、原告らは、本件 な杜撰な管理をしているとは認められず、被告による本件遺骨の保管態様が、死者を冒とくしたり、死者に対する畏敬追慕の念を甚だしく害したりするような不適切なものであるともいえない(なお、原告らは、本件遺骨の目録が紛失した可能性を指摘するが、 本件遺骨は、その標本番号や発見地名が記載されたラベルとともに管理されているから、仮に目録が紛失していたとしても、本件遺骨それ自体の管理が杜撰であるとはいえない。)。 また、本件遺骨は、子孫らによる信仰の対象であると同時に、学術資料的・文化財的価値をも有するものであり、被告による保管の 目的は、そのような価値のある本件遺骨の散逸や劣化等を防止することにあると認められるところ、その目的が不当なものであるということはできない。 他方、百按司墓には42体分の遺骨が現存しており、信仰の対象としての祖先の遺骨が墳墓内に存在しないという事態が生じている ものではない。 - 22 - これらを総合勘案すると、被告が本件遺骨を百按司墓に返還することなく保管していることが、原告A及び原告Bの有する宗教上の人格的利益を違法に侵害するものとまではいえず、被告の上記行為が原告A及び原告Bに対する関係で不法行為を構成すると認めることはできない。 b その余の原告らについて上記aに判示したところに照らせば、被告が本件遺骨を百按司墓に返還することなく保管していることが、第一尚氏の子孫ではないその余の原告らに対する関係で、追慕者としての宗教上の人格的利益を違法に侵害するとはいえず、不法行為を構成するとは認められない。 イ原告Cに対する被告の対応が違法であるとの主張について原告Cが被告博物館に提出した本件利用申請に係る申請書(乙5、甲81)には、原告Cは「日本人種論の観点から、琉球 は認められない。 イ原告Cに対する被告の対応が違法であるとの主張について原告Cが被告博物館に提出した本件利用申請に係る申請書(乙5、甲81)には、原告Cは「日本人種論の観点から、琉球人遺骨の歴史社会的な位置づけ、遺骨の保存状態や保存方法(標本のどの部位が重視されているか等)に関する研究」を行ってきた旨の記載はあるものの、その実績を示 す具体的な記載や資料の添付はなく、本件遺骨をどのように利用して研究を行うのか、また、標本の取扱いをどのように行うかといった点に関する具体的な記述もない。これに鑑みると、被告において、原告Cにつき本件遺骨を標本として利用する必要性、相当性が認められないと判断したことが不当であるとはいえず、本件標本利用申請を許可しなかったことが、原 告Cないしその余の原告らに対する関係で不法行為法上違法であるとはいえない。 また、原告らの問合せに対する被告の対応(前提事実⑹イ~エ)が、原告Cの研究者としての利益ないしその余の原告らの法益を違法に侵害するものとは認められないし、「この件を訴えている方は問題のある人と承知 している」との被告学長の発言(同オ)についても、これが社会通念上許- 23 - 容される限度を超えた侮辱行為であるとまでは認められない。 ⑵ 小括したがって、原告らの不法行為に基づく損害賠償請求は、争点5について判断するまでもなく、理由がない。 4 まとめ 以上によれば、原告らの被告に対する請求は、いずれも理由がない。 第4 結論以上の次第で、原告らの請求は理由がないから、これらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 京都地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官増森珠美 裁判官村松 主文 がないから、これらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 理由 京都地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官増森珠美 裁判官村松教隆 裁判官藤野真歩子
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