令和3(ネ)10026 損害賠償等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和3年9月30日 知的財産高等裁判所 4部 判決 控訴棄却 大阪地方裁判所 平成30(ワ)5041
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1令和3年9月30日判決言渡令和3年(ネ)第10026号損害賠償等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成30年(ワ)第5041号損害賠償等請求事件)口頭弁論終結日 令和3年7月20日判決5 控訴人 ピーアイ アドバンスト マテリアルズ カンパニー リミテッド 10同訴訟代理人弁護士 城 山 康 文同 後 藤 未 来 控訴人補助参加人 株式会社ヒラノテクシード 15同訴訟代理人弁護士 青 海 利 之同 飯 島 奈 絵 被控訴人株式会社カネカ 20同訴訟代理人弁護士 平 野 惠 稔同 黒 田 佑 輝同 吉 村 幸 祐主文1 本件控訴を棄却する。 252 控訴費用のうち,補助参加によって生じた費用は控訴人補助2参加人の負担とし,その余は控訴人の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 事実及び理由第1 控訴の趣旨51 原判決を取り消す。 2 本件請求のうち,控 る。 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 事実及び理由第1 控訴の趣旨51 原判決を取り消す。 2 本件請求のうち,控訴人が原判決別紙1(機械装置目録)記載の機械装置を使用して原判決別紙2(製品目録)記載のポリイミドフィルムを製造及び販売したことに関し,被控訴人が控訴人に対し原判決別紙3(特許権目録)記載の各特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権をいずれも有しないことの10確認を求める部分を大阪地方裁判所に差し戻す。 3 被控訴人は,控訴人に対し,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●を支払え。 第2 事案の概要等1 事案の概要(以下において略称を用いるときは,別途定めるほか,原判決に15同じ。)本件は,控訴人が被控訴人に対し,①控訴人が原判決別紙1(機械装置目録)記載の各機械装置(本件各装置)を使用して原判決別紙2(製品目録)記載の各フィルム製品(本件各製品)を製造,販売したことにつき,被控訴人が控訴人に対し,原判決別紙3(特許権目録)記載1の日本国特許権(本件日本特許20権)及び同目録記載2の米国特許権(本件米国特許権。本件日本特許権と併せて「本件各特許権」という。)侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権をいずれも有しないことの確認を求め,②被控訴人が,控訴人による本件各製品の米国への輸出等が本件米国特許権を含む被控訴人の特許権を侵害するなどと主張して,米国の裁判所に,控訴人及びその米国関連会社(併せて「控訴人等」と25いう。)を被告として,損害賠償等を請求する訴訟(別件米国訴訟)を提起し3たことが,控訴人に対する不法行為又は債務不履行に当たると主張して,損害賠償として,●●●●●●●●●●● 等」と25いう。)を被告として,損害賠償等を請求する訴訟(別件米国訴訟)を提起し3たことが,控訴人に対する不法行為又は債務不履行に当たると主張して,損害賠償として,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●の支払を求める事案である。控訴人には,被控訴人から本件各特許権について独占的通常実施権の許諾を受け,本件各装置を製造して販売していた控訴人補助参加人(以下「参加人」という。)が補助参加した。 5原判決は,本件米国特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権の不存在確認請求(請求1-1)に係る訴えは民事訴訟法3条の9に該当し,我が国の国際裁判管轄を否定すべき特段の事情があるとして,本件日本特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権の不存在確認請求(請求1-2)に係る訴えは訴えの利益を欠くとして,いずれも却下し,不法行為に基づく損害賠償請求(請10求2-1)及び債務不履行に基づく損害賠償請求(請求2-2)については理由がないとしていずれも棄却したので,控訴人が本件控訴を提起した。 2 「前提事実」,「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は,以下のように原判決の補正をし,後記3のとおり,当審における当事者の補充主張を加えるほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1,3及び4に記載するとおり15であるから,これを引用する。 ⑴ 原判決3頁21行目の後に行を改めて,次のように加える。 「被控訴人が,2011年(平成23年)3月31日付けで,控訴人等を相手方として,アメリカ合衆国国際貿易委員会(ITC)に対し,修正された1930年関税法337条違反に係る調査を開始するように求め(甲79),20調査手続(以下「ITC調査手続」という。)が開始された。 加州裁判所は,2011年7月11日 TC)に対し,修正された1930年関税法337条違反に係る調査を開始するように求め(甲79),20調査手続(以下「ITC調査手続」という。)が開始された。 加州裁判所は,2011年7月11日,控訴人等の申立てにより,ITC調査手続の解決まで別件米国訴訟を停止する旨を命令したが(甲80),ITC調査手続では,2012年(平成24年)5月10日付けで修正された1930年関税法337条違反が存在しないとの予備判定がされ(甲81),25同年10月5日付けで,調査を終了する旨の通知がされた(甲82)。 4これを受け,別件米国訴訟の審理が再開された。」⑵ 原判決5頁5行目及び22頁23行目の各「不行使債務の有無」をいずれも「不行使債務の不履行の有無」に改める。 3 当審における補充主張⑴ 国際裁判管轄の有無(請求1-1について。争点1)5ア 控訴人の主張(ア) 原判決は,請求1-1に係る訴えについて,別件米国訴訟の蒸し返しに当たること,本件訴訟に応訴すべきものとした場合の被控訴人の負担等を理由に,日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情(民事訴訟法3条の9)があるとするが,以下の10とおり誤りである。 (イ) 別件米国訴訟において,陪審及び裁判所は,本件許諾契約では,参加人が本件各装置を被控訴人の競合他社に販売することは許諾されていないと限定的に解釈し,控訴人による特許権侵害を肯定したが,その根拠となったのは,本件許諾契約の交渉経緯について,被控訴人の元従業員15であるAが,宣誓供述書(甲32)で,被控訴人の非競合者である宇部興産に販売するためだとして参加人からライセンスの要求を受けたと供述し,また,証人尋問で,本件許諾契約の交渉過程において参加人と被 であるAが,宣誓供述書(甲32)で,被控訴人の非競合者である宇部興産に販売するためだとして参加人からライセンスの要求を受けたと供述し,また,証人尋問で,本件許諾契約の交渉過程において参加人と被控訴人の間で,参加人が被控訴人の非競合者に販売するのであれば問題ない旨の話合いがなされたと証言したことによるものであった。 20ところが,Aは,参加人と被控訴人との間で係属している,本件許諾契約の販売先制限の存否を主要な争点とする損害賠償請求訴訟(大阪地方裁判所平成30年(ワ)第5037号,別件関連訴訟。一審では,令和3年6月10日,参加人が一部勝訴〔甲83〕)では,本件許諾契約について,被控訴人の内部でどのような議論や検討がされ,被控訴人と25参加人との間でどのような話し合いがなされたのか,契約締結当時を含5め被控訴人に在籍中に把握していなかったと証言している。そうすると,Aの別件米国訴訟における供述及び証言は,同人の認識や記憶に基づかない意図的な偽証であるといえる。そして,被控訴人自身も,そのことを認識したはずであるにもかかわらず,Aの供述や証言を援用して,自らに有利な架空のストーリーを主張していたことになる。 5以上によれば,別件米国訴訟における陪審の判断(別件評決)及び裁判所の判断(別件米国判決)には,民事訴訟法338条1項7号の再審事由が存するといえ,我が国の法秩序の基礎をなす公序,適正手続に照らして到底容認されるべきものではなく,同法118条3号の要件を欠くほどに重大な瑕疵があるから,本件につき我が国の裁判所において適10正に審理して正しい実体判断をする必要性は極めて高い。 したがって,本件について,我が国の裁判所の国際裁判管轄を否定すべきといえるような「特別の事情」があるとは到底いえない。 イ 被 10正に審理して正しい実体判断をする必要性は極めて高い。 したがって,本件について,我が国の裁判所の国際裁判管轄を否定すべきといえるような「特別の事情」があるとは到底いえない。 イ 被控訴人の主張そもそも,民事訴訟法338条1項7号の再審事由は,証人の虚偽の陳15述が判決の証拠となった場合でなければならないが,控訴人は,この点について何ら立証していない。加えて,同号を理由に再審を求める場合には,まず刑事手続で有罪の判決が確定した後等でなければならず(同条2項),本件においてはこのような事情も存在しない。したがって,Aの供述・証言に係る事情をもって同号の再審事由が認められる余地はない。 20なお,Aは,宣誓供述書による供述に関し,別件米国訴訟の証人尋問では,同供述の根拠となった参加人側との電話においては,宇部興産や宇部興産以外の非競合他社の具体的な名前が出たものではなかったことを認めつつも,その電話での会話の中で,「ヒラノが非競合会社に販売するためにライセンスを得ようとしている」ということを明示の言葉ではなくと25も文脈から感じ取れるような内容,そのような印象を持つような会話であ6ったことを明確に証言しており,これは,別件関連訴訟における証言と何ら変わるところはない。また,被控訴人は,別件米国訴訟のトライアルにおける最終弁論では,参加人の従業員のBの証言や本件許諾契約の内容,控訴人と参加人の売買契約の内容や別件米国訴訟を提起された時の言動に重きを置いており,Aの供述・証言はBの証言を補強するものと位置づ5けているにすぎない。被控訴人が,別件米国訴訟において,Aの供述・陳述によってストーリーを組み立て,これによって別件評決ないし別件米国判決がされたとする控訴人の主張には根拠がない。 さらに言えば,仮 ているにすぎない。被控訴人が,別件米国訴訟において,Aの供述・陳述によってストーリーを組み立て,これによって別件評決ないし別件米国判決がされたとする控訴人の主張には根拠がない。 さらに言えば,仮に別件米国判決に重大な瑕疵があるのであれば,控訴人において,米国の訴訟手続を通じて是正すればよい。しかし,別件米国10判決については,再審理の申立て等が認められなかった後に,控訴人からの上告もなく,確定している。控訴人は,別件米国判決を争わないばかりか,その判決に任意に従い,敗訴額全額を強制執行の手続を経ることなく被控訴人に支払っている(乙49)。 ⑵ 確認の利益の有無(請求1-2について。争点3)15ア 控訴人の主張原判決は,請求1-2に係る訴えについて,今後,被控訴人が控訴人に対して控訴人の日本の顧客に対する本件製品の販売等につき,本件日本特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求を行う可能性は,実際上ないか著しく乏しいと見るのが相当であるなどとして,確認の利益を否定したが,20以下のとおり誤りである。 すなわち,被控訴人が現在に至るまで本件日本特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を控訴人に対して行使する意思をうかがわせる具体的な行動を取っていないからといって,将来においても行使しないことの根拠にならないし,本件日本特許権侵害に基づく損害賠償請求権の存否25(とりわけ,その前提となる本件許諾契約の解釈)について争いが現存し7ていることに変わりはなく,また,被控訴人が当該権利を行使しない法的義務を負うわけではないから,将来にわたって確実に権利行使をしないことを保証するものとはいえない。 そして,そもそも消滅時効は正当な利益を有する当事者が援用しなければ効力を生じないものである 法的義務を負うわけではないから,将来にわたって確実に権利行使をしないことを保証するものとはいえない。 そして,そもそも消滅時効は正当な利益を有する当事者が援用しなければ効力を生じないものであるところ(民法145条),控訴人又は参加人5がこれを援用する意向を示していないにもかかわらず,勝手に援用された場合を仮定した消滅時効の可能性を根拠として確認の利益を否定することは不当である。 イ 被控訴人の主張(ア) 確認の訴えは,あくまで現時点で,現に原告の有する権利又は法律10的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許されるものであるが,被控訴人は,本件日本特許権との関係では,本件米国特許権と異なり,これまで権利行使する態度を何らとっていないのであって,専ら控訴人が一方的に侵害を主張しているというにすぎない。控訴人の主張は,こうし15た状況において,なにゆえ現時点において「現に原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在」するといえるのかという点についての説明になっていない。 (イ) 被控訴人は,本件日本特許権の侵害に基づく控訴人に対する損害賠償請求権について,これまで主張,行使する態度を示したことはないこ20とは前記(ア)のとおりであるが,将来にわたって主張,行使する意思もない。 仮に,同請求権があるとしても,これを放棄する。 ⑶ 別件米国訴訟の提起及び追行の違法性等(請求2-1について。争点6)ア 控訴人の主張25原判決は,被控訴人による別件米国訴訟の提起及び追行の違法性につい8て,最高裁判所昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁(63年判決)の枠組みに従い,日本法に 決は,被控訴人による別件米国訴訟の提起及び追行の違法性につい8て,最高裁判所昭和60年(オ)第122号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁(63年判決)の枠組みに従い,日本法によれば,被控訴人による本件米国訴訟の提起及び追行は,控訴人に対する不法行為とはならないとする。 しかし,別件米国訴訟において被控訴人が勝訴したからといって,それ5が,本件の裁判管轄を有する我が国の裁判所からみて,正当な判断であることを意味しないことはもちろん,被控訴人が米国で主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知らず,また容易に知り得なかったことを何ら意味しない。 別件関連訴訟におけるAら被控訴人従業員ないし元従業員の証言からも,10被控訴人においては,別件米国訴訟の際,本件許諾契約の背景や参加人との交渉内容について知る従業員等は誰もおらず,そのことを被控訴人も認識していた。したがって,被控訴人は,別件米国訴訟において自ら主張した本件許諾契約の解釈の重要な基礎事実が,根拠を欠くものであることを認識していたものであり,それにもかかわらず契約交渉の経緯について架15空のストーリーを作り上げて主張し,それに沿ったAの虚偽の供述や証言を,虚偽であることを知り又は容易に知り得たのに,援用したものである。 そして,米国の陪審及び裁判所は,そのような被控訴人の架空のストーリーの主張に沿って,Aの虚偽の供述・証言等を根拠に,決定的に誤った判断を下したのであるから,63年判決の判断枠組によったとしても,被控20訴人による別件米国訴訟の提起及び追行は,違法であり,不法行為を構成する。 イ 被控訴人の主張63年判決は「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において」と前置き 控20訴人による別件米国訴訟の提起及び追行は,違法であり,不法行為を構成する。 イ 被控訴人の主張63年判決は「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において」と前置きをした上で,不法行為の成否を論じており,前訴で勝訴25の確定判決を受けた場合においては,「当該訴訟において提訴者の主張し9た権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起した」といえることはないことを含意するものである。 また,控訴人の主張は,米国裁判所が適法・正当であると認めた提訴・5訴訟追行について,それを違法・不当であったと評価することを求めるものであるが,訴訟制度も異なり,前訴の訴訟手続の全部を把握できるわけではない日本の裁判所が,米国裁判所が米国手続法・実体法に照らして適法・正当であると判断したことを差し置いて,軽々に,当該提訴・訴訟追行が違法・不当であったと評価できるものではない。 10結局のところ,控訴人の主張は,別件米国訴訟における自己の主張が正しいことを前提として,陪審及び裁判所の証拠評価及び判断の誤りをいうものにすぎない。 ⑷ 本件許諾契約に基づく被控訴人の控訴人に対する本件各特許権不行使債務の不履行の有無(請求2-2について。争点7)15ア 控訴人の主張原判決は,第三者と被控訴人との法律関係については,本件許諾契約によって何ら定められておらず,被控訴人は,本件許諾契約に基づき,控訴人に対し,本件特許権を行使しない義務を負わず,その不履行はあり得ないとする。 20しかし,参加人は機械装置メーカーであって,機械装置を自ら使用して樹脂フィルムを製造し販売すること 訴人に対し,本件特許権を行使しない義務を負わず,その不履行はあり得ないとする。 20しかし,参加人は機械装置メーカーであって,機械装置を自ら使用して樹脂フィルムを製造し販売することは全く想定されず,控訴人のような化成品メーカー等の顧客に機械装置を販売することを専らの事業内容としてきており(そのことは被控訴人もよく認識していた。),当該顧客が当該機械装置を使用して樹脂フィルムを製造し販売することが本件各特許25権の行使により妨げられるとすれば,機械装置メーカーである参加人とし10て想定され得る唯一の実施形態である機械装置の製造販売が実際上不可能となり,参加人にとって本件許諾契約を締結する意味が失われる。 上記の点を含め,参加人と被控訴人の属性,両当事者の事業内容,本件許諾契約を締結した参加人の目的,それらに関する両当事者の認識ないし認識可能性,本件許諾契約の内容や交渉過程等に照らせば,本件許諾契約5は,参加人が本件各特許発明を実施して機械装置を顧客に販売し,参加人から購入した顧客は当該機械装置を使用して樹脂フィルムを製造し販売できることが当然の契約内容となっていたことは明らかである。 本件契約書において,本件各特許発明を実施して製造した機械装置を譲り受けた第三者と被控訴人との法律関係が明示的には規定されていない10のは,前記のとおり,機械メーカーである参加人に対する本件各特許発明の実施許諾には,参加人が顧客企業に対して機械装置を販売して使用させることができること,さらに,当該顧客企業が機械装置を使用できることは当然のことだからである。また,譲渡が許容される第三者の範囲や参加人の被控訴人に対する譲受人に関する事項の報告義務等,被控訴人が予想15外の事業上の不利益を受けることを回避するための定めが存在 は当然のことだからである。また,譲渡が許容される第三者の範囲や参加人の被控訴人に対する譲受人に関する事項の報告義務等,被控訴人が予想15外の事業上の不利益を受けることを回避するための定めが存在しないのは,本件許諾契約の文言上,本件各特許発明につき参加人が独占的に実施できる範囲や方法・態様,本件各特許発明を実施して製造した機械装置を販売できる相手について,制限が付されていないことが明白であることから,このような独占的な実施権に基づき参加人が製造した機械装置を購入20した全ての顧客に対して,当該機械装置を使用することに対する裁判上の権利行使も含めた全ての権利行使をしない義務を被控訴人が負うことは当然かつ明白だったからである。 なお,被控訴人が,実質的に無償で,範囲全部にわたる独占的通常実施権を参加人に付与することを内容とする本件許諾契約を締結したのは,本25件各特許発明の不可欠の要素である「乾燥初期段階にカウンターフロー式11を用いること」を提案したのが参加人であり,参加人従業員であるBの発明した本件発明を,被控訴人が参加人に無断で特許申請したことを,被控訴人が理解したという経緯があるからである。 以上を前提にすれば,本件許諾契約については,控訴人を含む参加人の顧客を受益者として,参加人と被控訴人の間で締結された第三者のために5する契約(民法537条)と理解することができ,控訴人は,本件各装置を取得した時点で,被控訴人に対して本件特許権の不行使を求める地位を取得する旨の受益の意思表示を黙示的になしたと解される。また,本件許諾契約の下で参加人が本件各装置を控訴人に販売して使用等させることができるということは,少なくともその範囲で,控訴人は参加人から本件10各特許発明の再実施許諾を受けたと解することもできる。 諾契約の下で参加人が本件各装置を控訴人に販売して使用等させることができるということは,少なくともその範囲で,控訴人は参加人から本件10各特許発明の再実施許諾を受けたと解することもできる。 イ 被控訴人の主張(ア) 本件において,控訴人が債務不履行行為として主張しているのは,別件米国訴訟の提起・追行であり,そうであるとすれば,控訴人が主張する義務(債務)の内容とは,不提訴を義務付けるものでなければなら15ない。 本件契約書(甲1)には,誰に対してどのような権利行使が禁止されるのかという問題以前に,不提訴を義務付けるような文言が存在せず,そればかりか,当事者間の紛争解決に関する条項自体存在しないし,締結過程においても,この点に係る説明はされていない。したがって,本20件許諾契約をもって,販売先に対する不提訴合意が成立したと認める余地はないし,控訴人との関係においては,なおさら不提訴義務を認める余地はない。 (イ) 本件許諾契約を締結することになった契機は,参加人が,クラレ(ポリイミドフィルムメーカーである被控訴人とは競合しない。)に装置を25販売しようとした際,クラレから,被控訴人の許諾を得るよう依頼され12たことであり,この事実は,本件許諾契約が,参加人が締結以後将来永劫自由に販売できることを目的としたものではないこと,参加人にとって,控訴人を含めた被控訴人の競合他社(FPC用ポリイミドフィルムメーカー)に対してまで販売できなくとも,クラレのような非競合他社に対する販売との関係で,本件許諾契約を締結する意味があったことを5示すものである。 また,第三者のためにする契約が成立するには,被控訴人と参加人との間で,第三者に権利を取得させる旨の契約を締結する必要があるが,本件許諾 諾契約を締結する意味があったことを5示すものである。 また,第三者のためにする契約が成立するには,被控訴人と参加人との間で,第三者に権利を取得させる旨の契約を締結する必要があるが,本件許諾契約には,被控訴人と参加人の販売先との関係は何ら規定されておらず,まして,被控訴人と直接競合する控訴人に対して実施権を取10得させる契約を締結することなどあり得ない。さらに,本件許諾契約においては,報告条項もなく,被控訴人が参加人の販売先を知る術もなかったのであるから,本件許諾契約が第三者のためにする契約と解する余地も,それにより被控訴人の控訴人に対する債務が生じると解する余地もないし,再実施が許諾されていると解釈することもできない。全ての15顧客に対して全ての権利行使をしない義務を被控訴人が負うことは当然かつ明白であったから,何らの規定もされなかったなどということは乱暴な解釈であり,被控訴人が,実質的に無償で,範囲全部にわたる独占的通常実施権を参加人に付与することを内容とする契約を締結する理由はない。 20第3 当裁判所の判断1 国際裁判管轄の有無(本件各請求について。争点1)について⑴ 後記⑵のとおり控訴人の当審における補充主張に対する判断を付加するほか,原判決の第3の1の説示のとおりであるから,これを引用する。 ⑵ 控訴人の当審における補充主張に対する判断25控訴人は,請求1-1に関し,前記第2の3⑴アのとおり,別件評決ない13し別件米国判決は,被控訴人の元従業員であるAの認識や記憶に基づかない意図的な偽証に基づきされたのであり,被控訴人自身も,そのことを認識したはずであるにもかかわらず,Aの供述や証言を援用して,自らに有利な架空のストーリーを主張していたことになり,別件評決及び別件米国判決には,民事訴 きされたのであり,被控訴人自身も,そのことを認識したはずであるにもかかわらず,Aの供述や証言を援用して,自らに有利な架空のストーリーを主張していたことになり,別件評決及び別件米国判決には,民事訴訟法338条1項7号の再審事由が存するといえ,我が国の法秩序の5基礎をなす公序,適正手続という観点に照らして到底容認されるべきものではなく,同法118条3号の要件を欠くほどに重大な瑕疵があると主張する。 しかし,民事訴訟法338条1項7号の再審事由は,証人の虚偽の陳述が判決の証拠となった場合でなければならず,同号を理由に再審を求める場合には,まず刑事手続で有罪の判決が確定した後等でなければならないところ10(同条2項),本件においてはこのような事情は認められない。したがって,Aの供述・証言に係る事情をもって同号の再審事由が認められるとする控訴人の主張は失当というほかない。証人の供述の信用性等は,本来,別件米国訴訟の中で攻撃防御を尽くした上,誤った判断がされたのであれば,最終的には上告や再審といった手続の中で是正されるべきものであるところ,別件15米国訴訟においては,そのような機会を経た上で,控訴人の敗訴が確定し,現在に至っているのであるから,請求1-1に係る控訴人の訴えは,別件米国訴訟の蒸し返しに当たるといわざるを得ない。 なお,念のために付言すれば,Aは,2015年(平成27年)2月15日付けの宣誓供述書(甲32)で,参加人が宇部興産に本件発明の実施品を20販売するために本件特許のライセンスを被控訴人に要求し,被控訴人は宇部興産が非競合者であるためライセンスを与えることを許諾したと供述しているものの,別件米国訴訟における証人尋問においては,A自身はライセンスの交渉自体には関与していないこと,Cから,本件特許により設備を販売 非競合者であるためライセンスを与えることを許諾したと供述しているものの,別件米国訴訟における証人尋問においては,A自身はライセンスの交渉自体には関与していないこと,Cから,本件特許により設備を販売できなくなり参加人としては困るとの話があったので購買部門に話をつないだ25こと,参加人が販売対象として考えているのが非競合他社であるかどうかに14ついては明確な議論はなく,ただ,その後上級管理者からは,非競合他社である宇部興産に販売しようとしているので問題はないだろうと言われたことを証言し(甲35),別件関連訴訟における陳述書(甲50)では,Cからライセンスの打診は受けたが上司に話をつないだだけであるとし,別件関連訴訟の証人尋問では,Cから本件特許が製品の販売に支障をきたすので何と5かならないかという話があったので,上司に話をつないだこと,宇部興産という具体名は出なかったが,被控訴人の競合相手ではない同社のことだろうと推測したものであることを証言している(甲51)。このような経緯に照らせば,別件米国訴訟においてAが意図的な偽証をしていたとまで認めることは困難であり,また,その偽証に基づき被控訴人が別件米国訴訟を追行し10ていたともいい難い。 その他,控訴人がるる主張する点を考慮しても,日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害する特別の事情(民事訴訟法3条の9)があるとの判断を覆すに足りるものではない。 2 確認の利益の有無(請求1-2について。争点3)15確認の利益が認められるためには,原告の権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するために,原告と被告の間で,その訴訟物である権利あるいは法律関係の存否を確認することが必要かつ適切であることを要する。 被控訴人は,令和3年7月20日の当 地位に危険又は不安が存在し,これを除去するために,原告と被告の間で,その訴訟物である権利あるいは法律関係の存否を確認することが必要かつ適切であることを要する。 被控訴人は,令和3年7月20日の当審第1回口頭弁論期日において,仮に,本件日本特許権の侵害に基づく被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求権が存20在するとしても,請求権自体放棄すると陳述した。 そうすると,請求1-2の対象となる権利については,被控訴人による権利行使の意思がないことはもちろん,本件口頭弁論終結時におけるその存在自体が認められないことになり,権利の存否を巡る法律上の紛争は解決されたといえるから,現に控訴人の法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去する25ため被控訴人に対し確認判決を得ることが必要かつ適切であると認めることは15できない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,請求1-2に係る訴えには確認の利益が認められないから,不適法というべきである。 3 訴訟物の特定の有無(請求2について。争点4)当裁判所も,請求2に係る訴訟物の特定に欠けるところはないものと判断す5る。その理由は,原判決の第3の3の説示のとおりであるから,これを引用する。 4 請求2-1に係る訴えの準拠法(争点2)並びに別件米国訴訟の提起及び追行の違法性等(争点6)⑴ 日本法に基づく不法行為の成否10ア 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,原則として加害行為の結果発生地の法による(通則法17条本文)。もっとも,不法行為について外国法によるべき場合において,当該外国法を適用すべき事実が日本法によれば不法とならないときは,当該外国法に基づく損害賠償その他の処分の請求は,することができない(同法22条1項)。このため,請求215 るべき場合において,当該外国法を適用すべき事実が日本法によれば不法とならないときは,当該外国法に基づく損害賠償その他の処分の請求は,することができない(同法22条1項)。このため,請求215-1に係る訴えの準拠法をいずれの地の法と考えるとしても,被控訴人による別件米国訴訟の提起及び追行につき日本法により不法行為といえる必要があることになる。そこで,以下,この点につきまず検討する。 イ 別件米国訴訟は,被控訴人が勝訴して確定するに至っており,このような場合に,訴えの提起や追行が不法行為となるためには,確定判決の騙取20が不法行為となる要件,すなわち判決の成立過程において,被控訴人が控訴人の権利を害する意図のもとに,作為又は不作為によって控訴人の訴訟手続に対する関与を妨げ,あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔する等の不正な行為を行い,その結果,本来あり得べからざる内容の確定判決を取得したこと(最高裁判所昭和43年(オ)第906号同44年7月258日第三小法廷判決・民集23巻8号1407頁),ないしはこれに準ず16る特段の事情を要すると考えるのが相当である。そもそも,法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求め得ることは,法治国家の根幹に関わる重要な事柄であるから,訴えの提起や追行が不法行為を構成するか否かを判断するに当たっては,裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないような慎重な配慮が必要とされるのであり,民事訴訟を提起した5者が敗訴の確定判決を受けた場合ですら,当該訴えの提起が相手方に対する違法な行為となるには,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを るには,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起し,又はそれを維持したなど,訴えの提起・追行が裁判10制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められることを要すると理解されている(63年判決)のであるから,民事訴訟を提起した者が勝訴の確定判決を受けている場合には,前示のとおり,より高次の特段の事情を要するというべきである。 これを前提にして本件を見れば,引用に係る原判決第2の1(補正後の15もの)及び第3の1(2)イで認定された事実関係に照らせば,本件が,確定判決の騙取が不法行為となる要件ないしはこれに準ずる特段の事情どころか,民事訴訟を提起した者が敗訴した場合の要件すら満たし得ないものであることは明らかというべきである(なお,別件米国訴訟においてAが意図的な偽証をしていたとまで認めることは困難であり,また,その偽証20に基づき被控訴人が別件米国訴訟を追行していたともいい難いことは,前記1(2)において判示したとおりである。)。 以上のとおりであるから,被控訴人による別件米国訴訟の提起・追行が不法行為となるとはいえない。 ⑵ 小括25以上によれば,請求2-1に係る訴えの準拠法をいずれの地とした場合17でも,日本法によれば,被控訴人による別件米国訴訟の提起及び追行につき,控訴人に対する不法行為は成立しない以上,損害賠償その他の処分の請求をすることはできない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,請求2-1は理由がない。 55 請求2-2に係る訴えの準拠法(争点2)及び本件許諾契約に基づく被控訴人の控訴人に対する本件各特許権不 い。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,請求2-1は理由がない。 55 請求2-2に係る訴えの準拠法(争点2)及び本件許諾契約に基づく被控訴人の控訴人に対する本件各特許権不行使債務の不履行の有無(争点7)について⑴ 準拠法について本件許諾契約には,その成立及び効力に係る準拠法を明示的に定めた規定10はない。もっとも,本件許諾契約により参加人に対する独占的通常実施権の許諾を行う被控訴人は,日本に主たる事務所を有する日本法人であること等を踏まえれば,本件許諾契約の効力の準拠法は,その最密接関係地である日本法とするのが相当である(通則法8条2項,1項)。 ⑵ 債務不履行の有無について15控訴人は,前記第2の3⑷アのとおり,参加人と被控訴人との間で締結された第三者のためにする契約の効果又は参加人が本件各特許発明について再実施許諾する権限に基づき控訴人に本件各特許権の再実施を許諾したことにより,控訴人は本件各発明について実施権を有し,被控訴人は控訴人に対し本件各特許権を行使しない義務を負っているところ,これに反して被控訴人20が別件米国訴訟を提起したことが控訴人に対する債務不履行となると主張する(なお,控訴人のこの点に係る請求は,被控訴人が別件米国訴訟を提起,追行したことにより生じた弁護士費用相当額の損害賠償である。)。 しかし,控訴人の特許権者の実施権者に対する提訴が債務不履行となるとすれば,それは実質的には訴権の放棄に等しい効果をもたらすものであるか25ら,特許権者が実施権者に不提訴義務を負うことが前提となるというべきで18ある。仮に参加人からの機械装置の購入者が,本件許諾契約に基づき,本件各特許発明について実施権を取得し,それが被控訴人に主張できるものであるとしても,そ 務を負うことが前提となるというべきで18ある。仮に参加人からの機械装置の購入者が,本件許諾契約に基づき,本件各特許発明について実施権を取得し,それが被控訴人に主張できるものであるとしても,そのことは,被控訴人が購入者に対し差止請求権や損害賠償請求権を行使して訴えを提起しても,抗弁が成立して請求が棄却されることを意味するだけで,当然に被控訴人に参加人からの機械装置の購入者に対する5訴えの提起をしない義務を負わせるものとはいえない。 本件許諾契約には,参加人から機械装置を購入して本件各特許発明(製法特許)を実施した者に対する不提訴義務が規定されていないことはもちろん,参加人に対する不提訴義務についても規定されていない。事情が変更する可能性があり,様々な形態をとり得る特許権者と実施権者ないし実施権者から10の機械装置の購入者の将来の紛争について,明文の規定もなく不提訴の合意があったと軽々に認めることはできない。控訴人は本件許諾契約の当事者ではなく,当時存在もしていなかったのであるから(控訴人の成立は,原判決第2の1⑴アのとおり,2008年〔平成20年〕4月頃である。),なおさら,本件許諾契約が控訴人に対する不提訴義務を定めていると認めること15はできない。その他に,本件において,不提訴の合意があったことを裏付けるに足りる事情は見当たらない。 したがって,その他の点について判断するまでもなく,本件において被控訴人の控訴人に対する不提訴義務は認められず,被控訴人が別件米国訴訟の提起をしたことについて,債務不履行が成立する余地はないというべきであ20る。 ⑶ 小括以上のとおり,被控訴人が別件米国訴訟を提起したことについて債務不履行は認められず,請求2-2は理由がない。 第4 結論25以上によれば,本 いというべきであ20る。 ⑶ 小括以上のとおり,被控訴人が別件米国訴訟を提起したことについて債務不履行は認められず,請求2-2は理由がない。 第4 結論25以上によれば,本件米国特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権の不19存在確認請求(請求1-1)に係る訴えは,民事訴訟法3条の9に該当し,我が国の国際裁判管轄を否定すべき特段の事情があり,本件日本特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権の不存在確認請求(請求1-2)に係る訴えは,訴えの利益を欠くから,いずれも却下すべきであり,不法行為に基づく損害賠償請求(請求2-1)及び債務不履行に基づく損害賠償請求(請求2-2)に5ついてはいずれも理由がないから棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当である。 したがって,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 10知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官菅 野 雅 之15 裁判官本 吉 弘 行 20 裁判官岡 山 忠 広

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