主文 被告人を懲役1年6か月に処する。 未決勾留日数中20日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 平成15年3月3日夜,神戸市a区b通c丁目d番e号A駅前ビル地下1階所在の飲食店「B」で飲食中,来店したC(当時58歳)が被告人の体に触れたなどとして立腹し,同日午後9時50分ころ,同店内において,前記Cに対し,その頭部及び顔面を手拳で数回殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に加療約8日間を要する顔面打撲の傷害を負わせた。 第2 引き続き,前記飲食店「B」前通路において,前記Cの知人で,被告人の前記第1記載の暴行を制止していたD(当時44歳)に対し,その頚部を手拳で殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に加療約8日間を要する急性咽頭炎,頚部打撲等の傷害を負わせた。 第3 引き続き,前記A駅前ビル1階所在の兵庫県A警察署A駅前交番内において,前記Cの知人で,被告人の前記第1記載の暴行を警察官に通報したE(当時54歳)に対し,その顔面を手拳で殴打するなどの暴行を加え,さらに,逃げ出した同人を追い掛け,同ビル先歩道上において,同人を押し倒した上,転倒した同人に馬乗りになって同人の頚部を右腕で押さえ付けるなどの暴行を加え,よって,同人に加療約3週間を要する歯牙破折,顔面打撲の傷害を負わせた。 (証拠) 括弧内の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。 省略(事実認定の補足説明)弁護人及び被告人は,第3の事実について,被告人が兵庫県A警察署A駅前交番内(以下「交番内」という。)において,Eに対して暴行を加え 検察官請求証拠の番号を示す。 省略(事実認定の補足説明)弁護人及び被告人は,第3の事実について,被告人が兵庫県A警察署A駅前交番内(以下「交番内」という。)において,Eに対して暴行を加えたことは争わないとしつつも,その具体的態様につき,手拳で殴打したのではなく,頭突きであった旨主張し,被告人もその旨供述する。 そこで,検討するに,被害者であるEはもとより,直近で犯行を目撃していたFは,いずれも,警察官調書あるいは検察官調書において,F及びEが交番内において110番通報した後,交番内に被告人が現れ,右手拳でEの顔面を1回殴打したため,Eは交番を出て,東方へ走って逃げた旨供述しているところ,両者の供述は,具体性に欠けるところはなく,自然であるし,互いにほぼ一致していること,交番内での出来事であり,特にその視認条件等に問題があったとは考えがたいこと,特に,Fは,被告人と利害関係のない第三者である上,本件犯行を目撃した時,ほかの関係者とは違って,酒に酔っていたとは認められないことから,その記憶は正確であるということができることなどからすれば,前記二名の供述の信用性は高い。 これに対し,被告人は,本件犯行当日は,午前中から継続的に飲酒をし,犯行時にまでに相当量のアルコールを摂取しており,被告人自身は否定するものの,犯行時において,相当程度酔った状態であったことは否定できない。また,そもそも,本件犯行は,被告人が被害者の一人から挑発されたと思い込み,逆上して,被害者らに一方的な暴行を加えたというものであるから,本件犯行当時,被告人はかなりの興奮状態にあったものと推認することができる。加えて,被告人が包丁を持ち出した時点についての被告人の供述は,他の関係者の供述と食い違っているなど,被告人の供述は,関係各証拠から認められる事実と齟齬す 興奮状態にあったものと推認することができる。加えて,被告人が包丁を持ち出した時点についての被告人の供述は,他の関係者の供述と食い違っているなど,被告人の供述は,関係各証拠から認められる事実と齟齬する点も見受けられる。 そうすると,被告人は,本件各犯行時,相当酔って興奮状態にあったと推認でき,そのため,本件各犯行の細部については正確に記憶できていないと考えられるのであって,E及びFの供述に比して,被告人供述は信用性が低い。 したがって,被告人のこの点についての供述は採用できず,第3の事実の通り認定することに合理的な疑いをいれない。 よって,弁護人及び被告人の主張は理由がない。 (法令の適用)罰条いずれも刑法204条刑種の選択いずれも懲役刑を選択併合罪の加重刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い第3の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,被告人が,被害者の一人から挑発されたと一方的に思いこんで腹を立てたのをきっかけに,被害者らに対し,順次暴行を加えて傷害を負わせたという事案であり,その動機は短絡的で酌量の余地はない。被告人は,無抵抗の被害者らに対して,一方的に激しい暴行を加え,交番内で犯行に及んだり,パトカーが駆けつけようとしているのもかまわずに暴行を加え続けるなど,犯行態様は執拗で悪質である。その際,被告人が包丁を持ち出している点も看過し得ない。被害者の負った傷害の程度は決して軽くはないところ,被害者らにはこのような被害にあわなければならないような落ち度は認められないのであって,その処罰感情が厳しいのも頷けるところ,被告人は何らの慰謝の措置を講じていない。さらに,被告人の前科の内容に照 被害者らにはこのような被害にあわなければならないような落ち度は認められないのであって,その処罰感情が厳しいのも頷けるところ,被告人は何らの慰謝の措置を講じていない。さらに,被告人の前科の内容に照らせば,被告人には,酒を飲んで立腹すると,刃物を手にして相手に迫るほどに興奮する粗暴な性向があることを指摘することができ,これも量刑上看過することはできない。以上からすると,被告人の刑事責任は重いといわざるをえない。 他面,被告人は,捜査段階からおおむね事実を認めて反省の態度を示していること,本件が酔余の上での偶発的犯行であること,被告人は,転職こそ多いものの,これまでおおむね真面目に社会生活を送ってきており,今後の稼働先も確保される見込みであること,被告人は,これまでに罰金前科しかないこと,本件ですでに3か月近く身柄を拘束されていること,被告人の母親が当公判廷において,今後の被告人の監督を誓っていること,被告人自身,今回の事件を教訓に酒を控えようと考えていること,被告人にとって今回がはじめての正式裁判であり,それなりに思うところがあるものと思われるなどの事情も認められる。 そこで,これら被告人に有利・不利な事情を総合考慮した結果,被告人に対しては,主文の刑に処してその刑事責任を明らかにした上,その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり,判決する。 (求刑懲役1年6か月)平成15年5月28日神戸地方裁判所第12刑事係乙裁判官川上宏
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