1主 文被告人を懲役2年6月に処する。 未決勾留日数中230日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。 一般社団法人aから200万円を追徴する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理 由(罪となるべき事実)被告人は、第1 b病院臨床麻酔部副部長として、同部長を補佐し、同病院における手術の際に使用する麻酔等の計画、準備及び実施等の同部の業務を総括して所属職員を監督する業務に従事するとともに、平成30年4月1日以降同部長に就任し、同部長として、自ら前記同部の業務を総括して所属職員を監督する業務に従事するに至る予定であったもの、Aは、手術の際等に使用される医療用医薬品であるcの製造等を行うd株式会社のe営業部長であったもの、Bは、同部f営業所f病診2課長であったものであるが、被告人は、平成30年1月頃から同年3月頃にかけて、津市(住所省略)の前記臨床麻酔部の医師控え室において、Bから、同部においてcを積極的に使用してdにおいてcを多数受注できるようにしてほしい旨の請託を受け、その旨依頼する趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、同社から、平成30年3月20日、株式会社g銀行(当時)h支店に開設されたi大学名義の普通預金口座に現金200万円を振込入金させて同大学に同額の利益を得させ、もって被告人の前記職務に関し請託を受けて第三者に賄賂を供与させ、第2 保険医療機関であるb病院の臨床麻酔部教授であったものであるが、同部准教授であったCと共謀の上、同病院をして、患者にc150mgを投与した事実がないのにこれがあるように装ってj基金f支部及びk連合会に診療報酬を 2請求させようと考え、別表記載のとおり、令和元年9月9日頃から令和2年3月9日頃までの間、 者にc150mgを投与した事実がないのにこれがあるように装ってj基金f支部及びk連合会に診療報酬を 2請求させようと考え、別表記載のとおり、令和元年9月9日頃から令和2年3月9日頃までの間、14回にわたり、情を知らない同病院職員をして、津市(住所省略)の同病院において、同市(住所省略)の前記j基金f支部及び同市(住所省略)の前記連合会に対し、Dら62名に対してc150mgを投与した旨の内容虚偽の診療報酬明細書を電気通信回線に接続した電子計算機を使用して提出させて診療報酬の支払を請求させ、令和元年9月25日頃から令和2年3月25日頃までの間、前記j基金f支部、東京都港区(住所省略)のj基金v部又は前記連合会において、前記j基金f支部、前記j基金v部又は前記連合会の職員らをして、前記診療報酬明細書記載のとおりにc150mgが投与されたものと誤信させ、よって、令和元年10月21日頃から令和2年4月21日頃までの間、前記j基金v部及び前記連合会から、投与していない前記c150mgの薬材料分合計81万9840円を含む合計8539万1158円を津市(住所省略)の株式会社l銀行m支店に開設されたb病院名義の普通預金口座に振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させ、第3 b病院臨床麻酔部長として、同部の業務を統括し、麻酔器その他麻酔に係る諸機械の管理、医療機器を一般競争入札の方法によって購入するに当たり応札者の提案した設備が必要な仕様を満たしているかの技術審査を行うなどの職務権限を有していたもの、Eは、同部講師として被告人の職務を補佐する立場にあったもの、Fは、医理学機器の販売等を営むn株式会社o支店p営業部長であったもの、Gは、同部f営業所長であったもの、Hは、同営業所に勤務していたものであるが、被告人は、Eと共謀の上、平成30年5月頃 ったもの、Fは、医理学機器の販売等を営むn株式会社o支店p営業部長であったもの、Gは、同部f営業所長であったもの、Hは、同営業所に勤務していたものであるが、被告人は、Eと共謀の上、平成30年5月頃から同年7月2日頃にかけて、前記臨床麻酔部医師控え室において、前記F、前記G及び前記Hから、臨床麻酔部において機器を管理する手術室等に設置されていた生体情報モニタ等につき順次n株式会社製の物が納入されるよう有利便宜な取り計らいを受けたい旨の請託を受け、その報酬として供与されるものであることを知りながら、前記Hから依頼された情を知らないq株式会社から、令和元年8 3月30日、株式会社r銀行h支店に開設された、被告人が代表理事を務める一般社団法人a名義の口座に現金200万円を振込入金させて同法人に同額の利益を得させ、もって被告人の前記職務に関し請託を受けて第三者に賄賂を供与させた。 (事実認定の補足説明)第1 争点判示第1のdに係る第三者供賄罪及び判示第2の診療報酬請求に係る詐欺罪が成立するか否かについて争いがある。 第2 前提となる事実関係関係証拠によれば、争点を検討する前提となる事実関係として、以下の事実が明らかに認められる。 1 当事者⑴ dやcに関する事実ア cは、製薬会社であるdが製造・販売する医療用医薬品であり、主に心臓に存在するβ1受容体に作用することで心拍数を抑制する効能を有し(β遮断薬)、頻脈(心拍数が高くなること)を抑えたり頻脈の状態を脱することを目的として使用される。β1受容体に選択的に作用し、作用の持続時間が短い(すなわち投与後すぐに薬効が現れ、投与を止めると速やかに代謝されて薬効が切れる)という特性を持つ点が優れているとされるが、副作用として血圧低下や心拍数減少(徐脈)、心不全が生じるおそれが 間が短い(すなわち投与後すぐに薬効が現れ、投与を止めると速やかに代謝されて薬効が切れる)という特性を持つ点が優れているとされるが、副作用として血圧低下や心拍数減少(徐脈)、心不全が生じるおそれがあり、投与中は血圧や心拍数をモニタリングしながら慎重に投与量を調節する必要があるため、技術や経験がない麻酔科医にとっては取扱いが難しい薬品であった(なお、上記の副作用のリスク等に鑑み、添付文書上、「洞性頻脈においては、その原因検索及びその除去が重要であることに十分留意するとともに、本剤の効果が心拍数の減少作用であることを踏まえて、本剤は緊急処置として必要に応じて使用すること」、「手術後の使用においては、ICU、CCU及びそれに準じた全身管理が可能な施設において、循環動態の評価、不整脈診断及び 4呼吸・循環等の全身管理の十分な経験を持つ医師のもとで、心電図モニターを用い、心拍数の監視、血圧測定を原則として5分間隔で、必要ならば頻回に行うこと」、「本剤は緊急治療を必要とする場合に短期間のみ適応すること。患者の状態を十分観察し、緊急治療の必要がなくなった場合は、漫然と継続使用しないこと」などが強調されていた。)。 イ cは、50mgの粉末がバイアルと呼ばれる小びんに入れられている製品(以下「c50mg」という。)と150mgの粉末がバイアルに入れられている製品(以下「c150mg」という。)とが販売されていたが、いずれも粉末であるcを生理食塩水に溶解した上で、溶解希釈液を(「シリンジ」と呼ばれる)注射器に吸い上げて点滴の方法で患者に投与される。投与の方法としては、一度に一定量を投与する「ボーラス投与」と呼ばれる方法と、一定時間当たりの量を指定して時間をかけて投与する持続投与の方法(手術中や手術後のICU等で使用する方法)の2つがある。ボーラス 法としては、一度に一定量を投与する「ボーラス投与」と呼ばれる方法と、一定時間当たりの量を指定して時間をかけて投与する持続投与の方法(手術中や手術後のICU等で使用する方法)の2つがある。ボーラス投与ではc50mgが主に用いられ、持続投与ではc150mgが主に用いられる。 ウ Bは、平成27年10月からdでe営業部f営業所病診2課長を務めており、MRとして、主に医師に対して医薬品の情報を提供する営業職の仕事を担当していた。なお、本件当時、Bの直属の上司としてf営業所長のIが、さらにその上司としてe営業部長のAがいた。 ⑵ b病院臨床麻酔部に関する事実ア 被告人は、平成11年4月から、sセンターで医師として勤務し、同センターでスタッフ(他の医師の指導をする医師)として勤務する中で、レジデント(指導を受ける医師)として勤務するC及びEをそれぞれ指導し、その後も交流を続けていた。 イ 被告人は、平成28年4月、b病院の臨床麻酔部(以下「臨床麻酔部」という。)の准教授に就任し、同病院に赴任した。その後、被告人は、平成29年、臨床麻酔部の次期教授の選考に際し、立候補することを決めるとともに、自身が教 5授に選考されることは確実であるとの見込みの下、自身の考える臨床麻酔部の体制を構築するため、Cに対しては主に研究面を、Eに対しては後期研修医等の医局の医師の教育をそれぞれ期待して、当時働いていた病院を辞めてb病院で働くよう勧誘した。平成30年2月14日、教授選の結果、同年4月1日付けで被告人が臨床麻酔部の教授に就任することとなった。そして、C及びEは、同日付けでb病院に講師として着任した。 ⑶ 被告人とBとの出会い被告人は、平成29年12月頃、京都で行われるcに関する講演会(d開催)の依頼を受けたことから、その準備のために担当MRの Eは、同日付けでb病院に講師として着任した。 ⑶ 被告人とBとの出会い被告人は、平成29年12月頃、京都で行われるcに関する講演会(d開催)の依頼を受けたことから、その準備のために担当MRのBと打合せを行うことになり、その機会を通じてBと知り合った。そして、平成30年1月12日から翌13日にかけて、上記講演会に講師として出席するに当たり、三重から京都の講演会場までの行き帰りに、Bのアテンド(随行)を受けた。 2 dからi大学への寄附dは、平成30年3月20日、臨床麻酔部に対する寄附としてi大学名義の口座に200万円を振込入金した。 3 平成30年3月末までの「積み上げ」作業⑴ 被告人は、前記の京都での講演会以降(平成30年1月中旬頃以降)、臨床麻酔部に訪問してくるBに対し、Bからの提案資料を受けて、被告人自身の手で使用が見込める症例を修正したり、臨床麻酔部における現実の症例数を教えるなどして、同部において使用が見込めるcの量について、具体的な症例数を基にした推計(積み上げ)に協力した。また、被告人は、秘書に指示をして、b病院の年間の手術件数や各科ごとの手術件数等に関する資料を作成させ、これをBに提供した。 ⑵ Bは、被告人から提供された情報等をもとに推計(積み上げ)を行い、①ハイリスクの症例の手術で、㋐手術中からのc150mgの持続投与と㋑気管チューブの抜管時に(抜管の刺激に対して交感神経が過剰な反応を示して心拍数や血圧が上がることがあるのを抑止する趣旨で)c50mgのボーラス投与とを行うとす 6ると年間1734バイアル(なお、1バイアル当たり50mgのものと150mgのものとがあるので全てを50mgに換算したバイアル量で示したものである。以下、単位として用いるとき「V」と表記する。)使用でき、②その他の手術で ル(なお、1バイアル当たり50mgのものと150mgのものとがあるので全てを50mgに換算したバイアル量で示したものである。以下、単位として用いるとき「V」と表記する。)使用でき、②その他の手術でも、気管チューブの抜管時に(前同様の趣旨で)c50mgのボーラス投与が必要になるケースが一定割合で発生すると見込まれ、それが30%の割合と仮定すると年間1374V使用でき、40%の割合と仮定すると年間1796V使用できる計算になり、③他にも、(被告人が、周術期合併症の心筋障害〔MINS〕を予防するためにcの持続投与が有効であるとして、ゆくゆくはICUの管理を臨床麻酔部でやるようになったら術後のICU患者についてcの持続投与をやっていくつもりであり、術後に始めるのであれば術中からもcの持続投与を始めていきたいという方針を持っていることを踏まえると)「術後の頻脈性不整脈の予防+治療」という趣旨でc150mgの持続投与が期待できるから、月間使用量を500Vまで伸ばすことは可能であると見積もった。そして、遅くとも平成30年3月22日までに、被告人に対し、平成30年中にb病院におけるcの使用実績を1か月当たり500Vにまで伸ばすことを内容とする見積もり資料を提示した。同資料は、別紙に示すとおりのものであって、b病院において使用が見込めるcの量に関して、1枚目に、上記推計(積み上げ)の結果が具体的に記載され、2枚目に、月次の数値目標を明示した棒グラフが示され、平成30年の4月から12月にかけて毎月緩やかに使用量を増加させていき、10月に500V突破を目指すことや、7月からは手術中からの投与(持続投与)を開始することなどが記載されていた。 4 「積み上げ」た年間計画の実現に向けた被告人の動き⑴ 前提―cの使用実績の推移b病院の手術場におけるcの使 、7月からは手術中からの投与(持続投与)を開始することなどが記載されていた。 4 「積み上げ」た年間計画の実現に向けた被告人の動き⑴ 前提―cの使用実績の推移b病院の手術場におけるcの使用実績は、平成28年度は年間94件、平成29年度も年間103件にとどまっていたが、平成30年4月に月間の使用実績が81件に急増し、その後、同年6月にはc50mgの使用の増加が中心となって使用実績が151件にまで増加した。その後、同年8月は88件、同年9月には101件 7と減少したが、同年10月にはc150mgの使用が増え、使用実績が181件(うちc150mgの使用量が28箱。なお、1箱5バイアル入り)にまで増加した。その後、使用実績は減少傾向に転じ、平成31年2月に114件まで減少したが、同年3月に176件(うちc150mgの使用量が20箱)に、同年4月には257件(うちc150mgの使用量が27箱)に増加し、令和元年6月には310件(うちc150mgの使用量が29箱)、同年7月には376件(うちc150mgの使用量が39箱)に増加した。その後も、令和2年3月まで、使用実績は概ね月250件程度(うちc150mgの使用量が30箱前後)で推移した。なお、b病院がcの大量廃棄を把握して調査を開始した同年4月以降は使用実績が急減し、同月に54件に、同年5月には23件にまで減少した。 ⑵ 平成30年3月末の時点における被告人の動き被告人は、平成30年3月22日、C及びEに宛てて、件名を「内緒の話」とするメールを送信した。同メールの内容には、「dが3月に200万いれてくれることになった。」「うちは、研究でのし上がる」「文部省の研究費獲得は、困難で、労力のわりにはバントヒットみたいな額しかあたらない。厚生労働省の方もきびしくなってきて、ほとんど裏で 00万いれてくれることになった。」「うちは、研究でのし上がる」「文部省の研究費獲得は、困難で、労力のわりにはバントヒットみたいな額しかあたらない。厚生労働省の方もきびしくなってきて、ほとんど裏で研究班が組織されてからアプライしているできレースみたいなのばっかりだ。とくに麻酔科医がアプライできる内容はなくきびしい状況がつづいている。厚労省は事務方への政治的アプローチが必要なので、国循人脈でなんとか開拓しようと試みているところだ。」「というわけで企業からの研究費は極めて貴重」「なんとか、dにはうちの主力のひとつになってもらいたいので、c使用量 全国トップを目指したい。」「ちょっと資料添付するよ。i大の症例数から考えた予想。」「4月からは、全身麻酔症例で、抜管時頻脈予防・治療で50mg1A(引用者注・「アンプル」の意味で「バイアル」と同義)を基本に(使わなくても)、目立たないように、増やしていきたい。」「最終的には、上室性不整脈予防と心筋虚血予防ってことで、ICU症例でぶん回したい。」「以上は、公には話しづらいんで。とにかく研究でのし上がりたいので、背景を理解してうまくやっ 8てくれ。」などと記載されていた。同メールには、前記3⑵でBが被告人に提示した見積もり資料がそのまま添付されていた。 ⑶ 平成30年10月初頭の時点における被告人の動き被告人は、平成30年10月3日、C及びEに対し、「c使用数やばいので持続ででかいのいって。10/26に東海会議あって、来年度の研究費はなしあわれるんだって。9月が1/3におちこんでるので、まきかえし必要。確実に1本きるだけでは間に合わない。」と記載したメールを送信した。Cからは「c、やばいですね。了解しました。頑張ります。ただ、dもあっさり研究費切ってきますかね。向こうが切ってきたらこっちはカー 確実に1本きるだけでは間に合わない。」と記載したメールを送信した。Cからは「c、やばいですね。了解しました。頑張ります。ただ、dもあっさり研究費切ってきますかね。向こうが切ってきたらこっちはカートからも外して全く使わなくなるだけです。向こうとしては全く使われなくなるよりか、それなりの付き合いにしてくれるような気が。」と返信されたが、被告人は、同月4日、「cたのむな。200万はすでに基盤C(引用者注・文科省の科学研究費)ごえ、300万までいけるとおもう。全国1位を本気でめざそう。50をやめて150使用に10月だけいけないかな」と記載したメールを返信した。 ⑷ Bによる使用実績の報告とそれへの対応Bは、平成30年4月以降、1週間から2週間に1回程度、被告人をアポイントメントなしで来訪してcの使用実績を報告し、使用実績が落ち込んでいるときは被告人に対応を求めていた。なお、被告人を来訪する業者でアポイントメントなしで来訪することが認められていたのは、Bのみであった。 5 cの術前溶解⑴ Cは、平成30年4月頃から、c50mgを担当麻酔科医に使用予定の有無を確認することなく術前溶解し、その溶解希釈液を各手術室に配布するようになり、さらに、遅くとも平成31年3月頃までに、c150mgについても、同様に術前溶解し、その溶解希釈液を各手術室に配布するようになった。 ⑵ なお、(術中・術後に頻脈が生じやすいハイリスク症例の典型と一般に認識されていてcの持続投与の必要性について理解が得られやすい)心臓血管外科と 9呼吸器外科の症例については、平成31年4月から、持続投与を前提に、薬剤部がc150mgの術前溶解をするようになったが、これは、同年2月頃、cの使用量が低迷したことを受けて、Bによる被告人への使用実績報告の場(前記4⑷)でCやEも 1年4月から、持続投与を前提に、薬剤部がc150mgの術前溶解をするようになったが、これは、同年2月頃、cの使用量が低迷したことを受けて、Bによる被告人への使用実績報告の場(前記4⑷)でCやEも交えて対応が協議され、臨床麻酔部として薬剤部との間で調整した結果であった。 6 問題視されかねない事象の発生⑴ 薬剤部からの指摘ア 前提-b病院の麻酔記録システムと診療報酬請求の関係ところで、b病院では、手術で患者に麻酔をかけた場合に、使用した薬剤や量等の情報を麻酔記録システム(以下単に「麻酔記録」という。)を利用して記録しており、麻酔記録で入力した使用薬剤等の情報は、電子カルテシステムと連動の上、医事会計システムとも連動し、その情報を基に診療報酬請求がされていた。すなわち、麻酔記録上に「コスト情報」というタブが存在し、「コスト情報」に表示されている情報が、そのまま診療報酬請求等をするのに必要な薬剤等の使用情報となっていた。 そして、実際に手術等で使用した薬剤等と麻酔記録上に計上されている薬剤等に齟齬がある場合(すなわち麻酔記録に記載漏れがある場合)、「コスト情報」のタブ内の「単品入力」から当該薬剤等の種類や量を選択して、手術中に当該薬剤等を使用した情報を記録として残すことができるようになっていた(なお、この記載漏れの修正作業は、b病院では「コスト修正」と呼ばれており、薬剤部が行うことになっていた。)。 イ 「コスト修正」が多すぎること等が薬剤部から問題視されたことCが術前溶解し配布したcの中には、患者に投与されなかったものも多数存在していたが、当該cについて、手術を担当した各医師は麻酔記録に登録していなかったため、平成31年3月の段階で、cに関するコスト修正の量が増加しており、その修正額も高額となっていた。これを問題と感じ 在していたが、当該cについて、手術を担当した各医師は麻酔記録に登録していなかったため、平成31年3月の段階で、cに関するコスト修正の量が増加しており、その修正額も高額となっていた。これを問題と感じた薬剤部は、同月における 10b病院の多職種間ミーティングで、臨床麻酔部の担当者として出席していたEに対し、その改善を求めた。Eは、同月15日、被告人を含む臨床麻酔部のメーリングリスト(以下「本件メーリングリスト」という。)に対して、「麻酔記録の麻薬確認がされていない症例が散見されます」などと記載されたメールを送信した。しかし、その後も手術室でcの登録漏れの状況が改善せず、かつ、ほぼ使用していないように見えるシリンジが置かれていることがあったことから、薬剤部は、同年4月4日の多職種間ミーティングにおいて、Eに対し、cについて溶解しただけで使用していないのではないかと質問するに至った。その後も、cの登録漏れの状況は改善せず、令和元年5月9日、同年6月6日、同年7月11日での多職種間ミーティングにおいても同様の指摘が繰り返された。Eは、同年5月15日及び同年7月17日に、本件メーリングリストに対して、cを含む薬品の登録漏れが頻発していることを指摘するメールを送信し、被告人も同メールを開封した。 Cは、令和元年7月17日付けのメールを受けて、遅くとも同年9月5日までに、Cがcの術前溶解等を行った症例について、cを投与した記録の有無を確認し、記録がない場合、自らが「コスト修正」を行うようになった。 もっとも、Cは、「コスト修正」を単品入力の形で行うことを負担に感じ、普段から使い慣れた麻酔記録画面を確認すれば、cを投与した記録の有無がすぐにわかることから、同年の夏か秋頃から、使用薬剤リストや麻酔記録を改ざんすることで、「コスト修正」を行うように を負担に感じ、普段から使い慣れた麻酔記録画面を確認すれば、cを投与した記録の有無がすぐにわかることから、同年の夏か秋頃から、使用薬剤リストや麻酔記録を改ざんすることで、「コスト修正」を行うようになった。その結果、実際には投与されていないc150mgの薬剤料を含めて診療報酬の請求がなされ、前記(罪となるべき事実)第2記載の投与されなかったc150mgの薬剤使用料(合計81万9840円)を含む金員がb病院に支払われた。 Cによる「コスト修正」作業により、令和元年9月までに、薬剤部においてcについてのコスト修正を行うことはなくなり、同月5日の多職種間ミーティングでは、Cが対応していることが確認され、コスト漏れの問題は解決したと整理された。 11もっとも、Cが術前溶解し、配布したものの使用されなかったcが薬剤トレイに戻され、全量残した状態で薬剤部に返却されるという問題は残されていた。 薬剤部は、令和元年9月の多職種間ミーティングで、溶解したcについては、廃棄してほしい旨をEに伝え、cを廃棄するよう求めた。Eは、同月10日、本件メーリングリストに対して、「cを準備して使用しなかった際、薬剤トレイに戻してくれている先生方がおられるようですが、廃棄していただいて構いません」などと記載したメールを送信し、被告人もそのメールを開封した。しかし、その後も使用されなかったcが薬剤トレイに戻されることが続き、薬剤部から、同様の指摘が繰り返された。Eは、同年10月及び同年11月に、本件メーリングリストに対して、「cのシリンジは使用しなかった場合も捨ててもらって構いません。トレイに戻す必要はありません」「cを使用しなかった場合、トレイに戻さず、破棄してもらって構いません」などと注意喚起するメールを送信し、被告人もこれらのメールを開封した。 ⑵ 診 って構いません。トレイに戻す必要はありません」「cを使用しなかった場合、トレイに戻さず、破棄してもらって構いません」などと注意喚起するメールを送信し、被告人もこれらのメールを開封した。 ⑵ 診療報酬の査定との関係Cは、令和元年10月頃、b病院の医事課の担当者にcの査定率(健康保険の診療報酬請求において精査される率)を確認したり、その査定で診療報酬請求として認められない事態が発生しないようにする対処方法を確認するなどした。 第3 dに係る第三者供賄罪について1 争点判示第1のdに係る第三者供賄罪について、弁護人は、①被告人はBから「請託」を受けていない上、②dがi大学に対して行った200万円の寄附金はcの使用との間に「対価性」をもたされていたわけではないから、同罪の客観的構成要件を充足しないばかりか、③被告人は「請託」を受けているとも「対価性」があるとも思っていなかったから同罪の故意を欠くとして、無罪を主張する。 2 前認定の前提事実からの推認⑴ そこで検討するに、前認定の前提事実によると、①平成30年1月中旬か 12ら同年3月末までの間、被告人は、dのMRであるBと頻繁に会い、臨床麻酔部で使用が見込めるcの量の推計において便宜を図り、一方で、Bは、被告人に対し、月次の数値目標を具体的に設定した資料(症例ごとに達成を見込める処方量を示すとともに、どの月からcの持続投与を開始するかといった医師の裁量に属する領域にまで深く立ち入った内容を記載したものであった。)を被告人に交付する方法で、被告人に対して処方の増加を期待していることを伝えたこと(第2の3)、②同年3月末以降、被告人は、C及びEに対し、Bから交付された月次の数値目標が記載された資料を示すとともに、dからの研究費の獲得に欠かせないことを指摘しながらc ていることを伝えたこと(第2の3)、②同年3月末以降、被告人は、C及びEに対し、Bから交付された月次の数値目標が記載された資料を示すとともに、dからの研究費の獲得に欠かせないことを指摘しながらcの処方量を増大させるよう強く求め、一方で、Bは、多忙ゆえ寄附をしない業者との面会を断っていたという被告人とアポイントメントなしで頻繁に来訪して面会し、cの使用実績を報告し、使用実績が落ち込んでいるときは被告人に対応を求めていたこと(第2の4⑵~⑷)、③現に、被告人が臨床麻酔部の教授に就任した同年4月以降、同部におけるcの処方量が急増するに至ったこと(第2の4⑴)、以上のとおりの事実が認められる。これらは、被告人とBとの間で「dからの寄附とcの処方増加とが密接に関連付けられていた」と見ないと合理的な説明を付けることができない事実関係に当たるといえるから、200万円の寄附がcの処方(使用量増加)との間に「対価性」をもたされていたと優に推認することができる。 ⑵ なお、被告人は、cを積極的に使用していく方針を採用したのはcの効能に着目したからであり、dからの寄附とは関係がない(「対価性」の「認識」はなかった)という如くであるが、前項(第3の2⑴)に説示したところに照らして信用できない。被告人の供述は「対価性」の推認を覆すに足るものとはいえない。 3 B供述による認定⑴ B供述の内容加えて、Bは、被告人との間では、dからの寄附とcの処方増加とが密接に関連付けて考えられていたとして、要旨以下のように供述する。 ア 被告人から少なくとも2回寄附金の話をされた。1回目は、平成30年1 13月12日に、被告人が講演する講演会に行くために、被告人、dの当時のt営業所所長(J)と同行したところ、京都駅から講演会場に向かうタクシーの中で、被告人が同 された。1回目は、平成30年1 13月12日に、被告人が講演する講演会に行くために、被告人、dの当時のt営業所所長(J)と同行したところ、京都駅から講演会場に向かうタクシーの中で、被告人が同所長に対し、研究費が非常に重要でそれが不足している旨の話をした上で、dからのバックアップを求めていた。同日夜、社内の慰労会において、同所長から、u大を担当し被告人と関係があったときに、w500という麻酔中に使用する薬について処方量が増えたこと、被告人はdが頑張った分だけちゃんと返してくれる医師であること(ギブアンドテイクの関係)等の話を聞き、チャンスだと思った。2回目は、同月13日、京都駅で被告人と共に新幹線を待っている際に、被告人から『c全国1位を目指していこうよ。一緒に大きくなっていこうよ。』『寄附金が必要だ頼むよ』『結果を必ず出す。私は結果を出す男だ。』『最初に世話になったところは忘れないよ。』などと言われたことから、被告人がcの処方量を全大学病院の中で1番を目指していこうと言っており、dが寄附金等で医局をバックアップすれば、cの処方につながると認識し、チャンスだと思った。 イ そこで、cの処方増加につながるので寄附が相当である旨を説いた社内向けレポートを作成し、AやIに確認してもらった上で、d本社に上げて寄附が受けられるよう手続を進めるとともに、平成30年1月頃から同年3月頃までの間、Aの指示の下、被告人の協力を得ながらcを使用できる症例の「積み上げ」作業を行い、cの月間使用量を500Vまで伸ばすという目標を被告人と共有した。 ウ 平成30年4月以降も頻繁に被告人と面会して、cの使用実績の報告をし、使用実績が落ち込んでいるときは被告人に対応してもらっていた(平成30年は週に1回から10日に1回くらい、令和元年は2週間に1回くらい被告人 4月以降も頻繁に被告人と面会して、cの使用実績の報告をし、使用実績が落ち込んでいるときは被告人に対応してもらっていた(平成30年は週に1回から10日に1回くらい、令和元年は2週間に1回くらい被告人と面会しており、被告人との面会は令和2年3月頃まで続いた。)。 ⑵ B供述の信用性評価ア 基本的な評価以上のB供述は、①その供述内容に殊更な虚偽や誇張を疑わせるような不自然な点がないだけでなく、②前記(第3の2記載)の「dからの寄附とcの処方増加と 14が密接に関連付けられていた」と見ないと合理的な説明を付けることができない状況の存在によって強力に裏付けられている上、③Bが業務のために反復継続して作成したもので信用性の認められる社内向け報告文書である週報(平成30年1月13日の欄)に、「KDr講演(京都) c処方拡大のチャンス 4月よりTOPになる。」「u大卒のDrで、豪快な性格。u大でJ所長とコンタクトが高く、w5で大変お世話になったDrでギブ&テイクは理解され立証されている。講演会活動を通じ、i大で“cをもっと出すための相談”が行えた。そのもっとを今後具体化していく段階に今後していこうとなり(中略)cが臨床上役立つところを具体化してi大の症例数を基に積み上げていく、とのやり取りをしていく。」「進めていく上で相談事項がありますので口頭でご相談します。」などと記載されており、cの使用量をb病院で増やすための話がBと被告人の間でなされたことや、関連して被告人から寄附の要求があったことをうかがわせる記述が存在すること(なお、その4日後である同月17日にBがA及びIに送信したメールに添付された前記の社内向けレポートには、「現在、K先生から『条件次第では、cを全国大学1位にしてあげるよ』と言って頂いています。その条件は、現在、4月から新 同月17日にBがA及びIに送信したメールに添付された前記の社内向けレポートには、「現在、K先生から『条件次第では、cを全国大学1位にしてあげるよ』と言って頂いています。その条件は、現在、4月から新たに医局体制(外部から4人の麻酔科着任予定)を組むにあたり、奨学寄附(200万)をして欲しい、と懇願されています。K先生からは、「私は必ず結果を出す男です」との言葉を得ており、J所長からもu大で当時w5が300万実績遂げたとの爆発力を伺うと、発言の信憑性が高いものと考えております」などと記載されている。)によっても裏打ちされているから、十分に信用することができる。 イ 弁護人の主張を踏まえた検討これに対し、弁護人は、Bが作成した前記の社内向けレポートは、d内で年度末に突如発生した寄附金の余剰枠を、全国の営業所間で取り合いになる中でf営業所が獲得するために、「話を盛って」作成されたものであったのに、これが真実を語っているという前提で、これに沿うようにB供述が獲得されて収賄事件へと発展させられた可能性があるなどとして、B供述を信用することはできない旨主張する。 15しかし、仮に弁護人が主張するように「対価性」も「請託」も存在していなかったのなら「大学への寄附」が罪に問われるいわれはないのであるから、Bにとって「被告人からcの処方増加をちらつかせながら寄附を求められた」事実がないのにこれがあったかのように供述するメリットは全くなく、この点について虚偽供述をする動機はないといわなければならない。したがって、社内向けレポートが「話を盛って」作成された可能性があることを考慮しても、供述を取り巻く状況(②)や週報の記載(③)によって強力に裏打ちされているB供述の核心部分の信用性は揺らがない。 ⑶ B供述により認定できる事実以上の信 された可能性があることを考慮しても、供述を取り巻く状況(②)や週報の記載(③)によって強力に裏打ちされているB供述の核心部分の信用性は揺らがない。 ⑶ B供述により認定できる事実以上の信用できるB供述によると、①平成30年1月13日、被告人が「c全国1位を目指していこうよ。一緒に大きくなっていこうよ。」「寄附金が必要だ頼むよ。」「結果を必ず出す。私は結果を出す男だ。」「最初に世話になったところは忘れないよ。」などと言い、dがi大学に寄附を行えば、cの使用量を増加させることを約束した上で、Bに対して寄附を求めたこと、②Bと被告人の間では、dからの寄附とcの使用量の増加とが密接に関連付けられており、これを前提に、Bと被告人は、平成30年1月頃から同年3月頃にかけて実際にcの使用量を増加させるための「積み上げ」作業を行い、その後も使用実績のフォローを継続して行っていたことが認められる。 4 結語以上のとおりであるから、㋐Bと被告人の間で、i大学に対する200万円の寄附とcの処方(被告人の職務)とが密接に関連付けられていたこと(対価性の存在)は明らかであり、㋑これを前提に、Bは、被告人との間で、cの処方(使用量)を増加させるための「積み上げ」作業を行っていたのであるから、そこに「請託」の存在を認めることが十分に可能であり、被告人がこれらの事実(「対価性」や「請託」の存在)を認識していたことも優に認められる。したがって、被告人に第三者供賄罪の成立が認められる。 16第4 診療報酬請求に係る詐欺罪について1 争点等⑴ 判示第2の診療報酬請求に係る詐欺罪の関係で訴因に掲げられているのはいずれも、c150mgが術前溶解されながら現実に患者に投与されなかった症例について、Cが麻酔記録を改ざんしてc150mgを現実に患者に 第2の診療報酬請求に係る詐欺罪の関係で訴因に掲げられているのはいずれも、c150mgが術前溶解されながら現実に患者に投与されなかった症例について、Cが麻酔記録を改ざんしてc150mgを現実に患者に投与したかのような作為を施した結果、c150mgが現実に患者に投与されたという前提で診療報酬が支払われたというものであるところ、以上の事実は証拠上優に認められ(第2の6⑴イ参照)、これが詐欺罪の客観的構成要件を充足していることも明らかである(この点は、弁護人も争っていない。)。 ⑵ 検察官は、(被告人に麻酔記録の改ざんが行われていることの認識があったとまでは認められないとしても、)被告人は、❶c150mgの術前溶解が行われて現実に投与されないままに終わった症例が存在していると(未必的にせよ)認識していたことに加え、❷そうした症例の中に、そもそも投与を予定することなく術前溶解が行われたものが含まれていると(未必的にせよ)認識していたこと、そして、❸この❷の症例についても、廃棄されるcの薬剤料を患者や病院の負担にするのではなく、診療報酬として支払を受けるものと認識していたことがいずれも認められるから、詐欺罪の故意が認められると主張している。 ⑶ これに対し、弁護人は、被告人とCの間で、cの術前溶解が話題になったこと自体は否定しないものの、被告人の認識としては、担当麻酔科医がそれぞれの担当症例ごとに医学的合理性を判断した上で、術前溶解をするという前提で話題となっていたのであり、(Cが現実にしたような)担当麻酔科医と協議することもなく、c150mgを術前溶解し、黙って手術室に置いてくることなど全く予想外のことであった(すなわち、担当麻酔科医が関知しない形で術中に使用する薬品を術前溶解すること自体が麻酔科医の常識に反しており、このようなやり方では多 溶解し、黙って手術室に置いてくることなど全く予想外のことであった(すなわち、担当麻酔科医が関知しない形で術中に使用する薬品を術前溶解すること自体が麻酔科医の常識に反しており、このようなやり方では多くのcが使われずに廃棄されても不思議ではないが、被告人にとっては全く予想外の事態であった)、また、⒝cの使用実績が伸びていることは把握していたが、臨床 17麻酔部の症例数を前提にするとそれくらいの使用数になってもおかしくないと考えていたから、大量のcが廃棄されていることなど知る由もなかったとして、「そもそも投与を予定することなく行われた術前溶解」が存在していることの認識があったこと(上記❷)を否定し、被告人に詐欺罪の故意は認められないと主張する。 ⑷ 当裁判所は、検察官主張の❶から❸の事実がいずれも認められ、詐欺罪の規範に直面し得るだけの事実認識はあったといえるから、詐欺罪の故意を否定することはできないと判断した。以下その理由について詳述する。 なお、検察官は、論告において、㋐医師が医学的合理性があると判断して現実に投与した薬剤であっても、薬剤の添付文書に記載された「適応」から外れた使用方法で用いられたものについては、診療報酬の支払対象にならないのではないか、また、㋑頻脈発症のリスクが高く、頻脈が発生した場合の患者への影響が大きいとして、術前溶解して頻脈治療に備えることが医学的に合理的であると医師が判断して術前溶解しておいたが、幸いにして頻脈発症がなく済んだなどの理由で現実の投与に至らず、廃棄されたcについては、現実に投与されなかった以上は、診療報酬の支払対象にならないのではないかといった観点からも、詐欺罪の成立を基礎付けようとする論証をしているが(38頁以下)、弁護人が弁論(30頁以下、40頁)において指摘しているとおり臨床現場に深 療報酬の支払対象にならないのではないかといった観点からも、詐欺罪の成立を基礎付けようとする論証をしているが(38頁以下)、弁護人が弁論(30頁以下、40頁)において指摘しているとおり臨床現場に深刻な混乱をもたらす可能性を内在している問題であって慎重な検討が必要な論点である上、本件の公判前整理手続において議論の対象から外された論点であり十分に攻防が尽くされていないから、本判決においては、これらの観点から詐欺罪の成否を検討することはしない。 2 前認定の前提事実からの推認⑴ 被告人が、患者の状態や現場の医師の技量と無関係に、dからの寄附金を獲得するために、cの使用量を増大させる方針をとっていたことア 前認定の前提事実によると、被告人は、①臨床麻酔部の教授に就任する直前の平成30年3月22日に、C及びEに対しメールを送信して、「企業からの研究費は極めて貴重」であることを強調しつつ、dから提示された月次の目標数値を 18示しながら「全身麻酔症例で、抜管時頻脈予防・治療で50mg1Aを基本に(使わなくても)、目立たないように、増やしていきたい」「最終的には、上室性不整脈予防と心筋虚血予防ってことで、ICU症例でぶん回したい」などと告げて、dからの研究費(寄附金)を獲得するために臨床麻酔部内でcを積極的に使用して処方量を増大させていく方針を打ち出したこと(第2の4⑵)、また、②同年10月3日から4日にかけて、C及びEに対しメールを送信して、同年9月のcの使用実績が落ち込んでいるのでこのままでは来年度の研究費(寄附金)の獲得に支障が生じかねないとして、「確実に1本きるだけでは間に合わない」と告げて、全身麻酔症例で抜管時頻脈予防・治療の趣旨でc50mgを確実に使っていくだけでは目標数値を達成できないから対応するよう強く求め、Cからは「た いとして、「確実に1本きるだけでは間に合わない」と告げて、全身麻酔症例で抜管時頻脈予防・治療の趣旨でc50mgを確実に使っていくだけでは目標数値を達成できないから対応するよう強く求め、Cからは「ただ、dもあっさり研究費切ってきますかね」と返信されたが、(dからの研究費は)「300万までいけるとおもう」、(cの処方量)「全国1位を本気でめざそう。50をやめて150使用に10月だけいけないかな」と告げて、dからの研究費(寄附金)を獲得・増加させるために、c50mgの使用をやめてもいいからc150mgを使用するように求めたこと(第2の4⑶)が認められる。 イ 以上認定の被告人のメールに現れた被告人の考えはcの使用を進めていくことが医学的に合理的だから積極的に使用するよう指導してもらいたいというにとどまるものでないことは明らかで、(平成30年10月3日の時点で)dからの(来年度の)寄附金を獲得するためにはcの処方量を増大させる必要があり、抜管時にc50mgを確実に使っていくだけでは目標数値を達成できない以上、(患者の状態や現場の医師の技術・経験を度外視してでも)c150mgの使用を強行するしかないというものであったと認められる。そして、このような、患者の状態や現場の医師の技量と無関係に(あくまでも寄附金獲得のための数値目標の達成に拘って)c(特にc150mg)の使用量を増大させようとした被告人の方針は、これが強行されると、現場において目標数値を達成するためだけに(投与を予定することなく)術前溶解が行われるという「歪み」を生み出しかねない危険をはらんで 19いたことは明らかである。 ウ この点、被告人は、当公判廷において、㋐b病院の実情(マンパワーの不足等)に対応するためcの積極使用の方針を打ち出していたものの、cを使用するか否かは、あ 19いたことは明らかである。 ウ この点、被告人は、当公判廷において、㋐b病院の実情(マンパワーの不足等)に対応するためcの積極使用の方針を打ち出していたものの、cを使用するか否かは、あくまでも手術を担当する麻酔科医が担当する手術ごとに麻酔計画を立てた上で判断するべき事項と考えており、CやEがしかるべく担当麻酔科医を指導してくれるものと思っていた、㋑cの使用実績が伸びていることは把握していたが、臨床麻酔部の症例数を前提にするとそれくらいの使用数になってもおかしくないと考えていたから、大量のcが廃棄されているとは思いもしなかった旨供述している。 しかし、被告人は、平成30年10月3日から4日にかけてc150mgの持続投与の開始を求めるに当たって、10月のみc150mgの使用をするよう求め、さらにはc50mgの使用を止めてもよいとまで言っているのであって、およそ個別具体的な患者の状態を踏まえてcの使用を求める趣旨であったとは考え難く、dからの寄附金を獲得するためにcの使用量を増大させることしか眼中になかったと認めざるを得ない。 しかも、cは「副作用として血圧低下や心拍数減少(徐脈)、心不全が生じるおそれがあり、投与中は血圧や心拍数をモニタリングしながら慎重に投与量を調節する必要があるため、技術や経験がない麻酔科医にとっては取扱いが難しい薬品であった」が(第2の1⑴ア)、被告人は、抜管時のボーラス投与ですら十分に現場に浸透していないことがうかがわれる状況(すなわち、c50mgの使用実績が被告人の積み上げた数値目標に達していない状況)で、一層扱いが難しいとされるc150mgの持続投与を開始しようとしたのであり、その際、CやEに対して、現場の医師らがc150mgの持続投与に対応できるだけの習熟度合いに達しているかを問うたり、自分で麻 層扱いが難しいとされるc150mgの持続投与を開始しようとしたのであり、その際、CやEに対して、現場の医師らがc150mgの持続投与に対応できるだけの習熟度合いに達しているかを問うたり、自分で麻酔記録等を見て現場の医師らの習熟度合いを確認することもなかったと認められる(なお、現場の医師の教育に当たっていたEは、平成30年10月3日の被告人からのメールについて、「薬を使用するのに習熟するのは時間がかかると思ってましたから、先月少なかったから今月増やそうよと言って、すぐ 20に下の子たちが習熟して使用数を増やすとは思えないので、時間のかかることという認識の中では、この指示というのは、基本的には実現不可能と思いました」とコメントしている。)。 上記(㋐及び㋑)の点に関する被告人の供述は、信用することができない。 ⑵ 現場において「歪み」が生じていることを被告人が認識していたことさらに前認定の前提事実によると、c150mgの使用が本格化したとうかがわれる平成31年3月以降(第2の4⑴参照)、薬剤部からcの「コスト修正」が多すぎるという問題意識が再々示されるようになり、「cを術前溶解しただけで使用していないのではないか」という指摘までされるに至った末に、Cが薬剤部に代わって「コスト修正」の作業を行うという形で問題を解決したことが認められるが(第2の6⑴)、薬剤部から見て「手術中の投与を予定して術前溶解しておいたものの、必要がなくなったので使用しなかった」と理解することができないほどに大量のcが、術前溶解されただけで使われることなく廃棄されていたと認められ、前記した「現場において目標数値を達成するためだけに(投与を予定することなく)術前溶解が行われるという『歪み』」が生じていたことを如実にうかがわせる。これは、被告人の無理な方針によ いたと認められ、前記した「現場において目標数値を達成するためだけに(投与を予定することなく)術前溶解が行われるという『歪み』」が生じていたことを如実にうかがわせる。これは、被告人の無理な方針によって構造的に生み出された問題事象であり、なおかつ、他の部門から厳しく問題視されかねない事柄であった(現に本件に関するb病院の内部調査が始まったのは、薬剤部が臨床麻酔部において不正行為が行われているのではないかと疑ったことがきっかけであった)から、臨床麻酔部の長である被告人に相談しないでCが独断で対応を決めたとは考え難い。したがって、被告人も、現場において上記の「歪み」が生じていることを認識していたと推認することができる(なお、Cは、令和元年10月頃に、Cがb病院の医事課にcの査定率を確認しに行っているが〔第2の6⑵〕、これは、「歪み」が生じていることを受けて、診療報酬の査定で問題が起きていないかを確認する趣旨であったと思われるが、Cの独断で行動したものではなく、当然に被告人とも情報共有していたと推認できる。)。 21⑶ 小括以上のとおりで、被告人の推し進めたc(特にc150mg)の使用量を増大させていく方針は、現場において目標数値を達成するためだけに(投与を予定することなく)術前溶解が行われるという「歪み」を生み出す危険を構造的にはらんでいたが、現にc150mgの使用が本格化した平成31年3月以降、「歪み」が生じ、他部門から問題視されかねない事象(術前溶解されたcの大量廃棄)として現れるに至っていたと認められ、こうした現場の状況(他部門から問題視されかねない事象の発生)は被告人にも当然に伝えられていたと推認することができる。すなわち、証拠上明らかに認められる前提事実のみによっても、被告人について、❶「c150mgの術前溶解が行 から問題視されかねない事象の発生)は被告人にも当然に伝えられていたと推認することができる。すなわち、証拠上明らかに認められる前提事実のみによっても、被告人について、❶「c150mgの術前溶解が行われて現実に投与されないままに終わった症例が存在していること」の認識に加えて、❷「そうした症例の中に、そもそも投与を予定することなく術前溶解が行われたものが含まれている」との認識もあったと推認することができる。そして、❸大学病院の部長という職にあった被告人が、術前溶解したc150mgが健康保険に診療報酬請求されることを認識していなかったとはおよそ考えられない。したがって、検察官主張の❶から❸の事実をいずれも認定することができ、詐欺罪の規範に直面し得るだけの事実認識はあったといえるから、詐欺罪の故意が認められる。 3 C供述からの認定⑴ C供述の内容ところで、Cは、当公判廷において、c150mgの術前溶解(第2の5⑴)が行われた経緯について、「平成30年夏頃(c50mgの術前溶解を始めてしばらくしてから)、医局員全員にc150mgを使わせたいという話を被告人からされた。c50mgのボーラス投与に関しては麻酔科医の間で知名度のある投与方法だったが、c150mgの術中の持続投与に関しては知名度のある使い方ではなく、自分自身が見たことも聞いたこともなかったので躊躇していた。しかし、その後、被告人から、b病院では心筋障害のケースが多く、術中の心筋障害を予防したいの 22で持続投与を活用していきたいという説明をされ、被告人の言うことならそうなんだろうと思い、その実現のために力を尽くそうと思った。そして、平成30年の秋頃(被告人からメールで150mgの術前溶解をプッシュされたとき)に、c150mgを溶解希釈して配布することを始めた。また、 だろうと思い、その実現のために力を尽くそうと思った。そして、平成30年の秋頃(被告人からメールで150mgの術前溶解をプッシュされたとき)に、c150mgを溶解希釈して配布することを始めた。また、被告人から、c150mgの持続をやらせたい、使用しやすい環境を整え使ってほしいという意思表示の意味も込めて、c150mgの溶解希釈をやったらどうかという話が出たことがあり、そのときに薬剤部に頼めばやってくれるから頼んでみようかという話もあって、実際、呼吸器外科の症例に関しては、手術室薬局に頼んで150mgの溶解希釈をやってもらう手はずを整えたりしていたので、他の症例まで手術室薬局に頼むことになったら手術室薬局も大変だろうと思い、自分の方でできる範囲でやっておきますよと言って、被告人の了解を得て、実際にc150mgを溶解希釈して手術室に配るようになった。c150mgの術中の持続投与は、知名度がある使い方ではないことから、使用されるのは難しいと思っていた。実際、c150mgはほとんど使用されておらず、その旨を何度か被告人に報告したが、被告人からは『だったら、なおさら配り続けなければいけない。ここで配るのをやめてしまったら、今までやってきたことが何なのかと医局員に思われてしまう。自分たちの本気の思いが伝わらない。』などとcの配布を継続するよう指示された。このときの被告人の言葉は、うまくいかない現状に対してそれをやめてしまう・引いてしまうのではなく、更に一歩前に進めるという部分が、実に被告人らしいなと受け止め、強く印象に残った。」旨述べている。 ⑵ C供述の信用性評価ア 基本的な評価以上のC供述は、①その内容に殊更な虚偽や誇張を疑わせるような不自然な点がないだけでなく、②臨床麻酔部におけるcの使用実績の推移(第2の4⑴)と整合しているし、 の信用性評価ア 基本的な評価以上のC供述は、①その内容に殊更な虚偽や誇張を疑わせるような不自然な点がないだけでなく、②臨床麻酔部におけるcの使用実績の推移(第2の4⑴)と整合しているし、③被告人が患者の状態や医師の技量と無関係に、dからの寄附を獲得するために、ひたすらcの使用量を増大させる方針をとっていたと認められること 23(第4の2⑴)や、被告人の無理な方針が現場に生み出した問題事象(歪み)である大量のcの廃棄が生じていることが被告人に伝えられていると見られること(第4の2⑵)とよく照応しているばかりか、④(c150mgの使用実績が増加した)平成30年10月頃と平成31年3月頃に、それぞれcの使用実績が伸び悩んでいることが被告人とBとの間で問題になり、被告人がそれに対する対策を講じる必要に迫られていたと認められること(第2の4⑶、第2の5⑵)や、被告人の年間計画の中で平成30年7月頃からc150mgの術中持続投与を開始することが予定されていたと見られること(第2の4⑵)ともよく照応しているから、基本的に信用することができる。 イ 弁護人の主張を踏まえた検討これに対し、弁護人は、Cは、被告人のc積極使用の方針に賛同していたものの、現場の医師にcを使用させるだけの指導力を持っていなかったことから、(現場の医師に対する指導が行き届いているのでcの使用量が増えているという体裁を整えるべく)担当麻酔科医と協議することなくcを術前溶解するという非常識な行為に及んで、大量のcが廃棄される事態を招いた挙句、その事後処理に困って麻酔記録の改ざんを行うという更なる異常行為に及んだのに、それをごまかすために虚偽の供述をしている可能性があるなどとして、C供述を信用することはできない旨主張する。 しかしながら、Cは、医局員の指導を 録の改ざんを行うという更なる異常行為に及んだのに、それをごまかすために虚偽の供述をしている可能性があるなどとして、C供述を信用することはできない旨主張する。 しかしながら、Cは、医局員の指導を期待されたEと異なり、主に臨床麻酔部での研究を期待されて被告人から勧誘されているから(第2の1⑵イ)、指導力の不足を取り繕うためにcの術前溶解に走ったとする弁護人の想定は、合理性がない。 むしろ、平成30年10月3日のメールの返信(第2の4⑶)に明らかなように、Cは、寄附金のための目標数値を達成するためにcの使用数を伸ばすという方針には気乗りしなかったものの、被告人からc150mgの使用数を伸ばすよう強く頼み込まれて、c150mgの術前溶解を始めるに至ったと認められる。被告人の意向と無関係に(Cによる)c150mgの術前溶解が開始されたのが事の実相であ 24ったかのようにいう弁護人の主張は採用できない。C供述には責任転嫁の危険があることを念頭に、弁護人が弁論で指摘するところを踏まえて慎重に検討しても、前記したC供述の核心部分の信用性は揺らがない。 なお、弁護人は、Eが「手術室の中で、廊下ですれ違ったときに(Cが)薬を持って運んでおられるのを見て、驚いた」と供述していることを指摘しつつ、Cがc150mgの術前溶解について「薬剤部に頼めばやってもらえるから頼んでみようかという話もあって、実際、呼吸器外科の症例に関しては、手術室薬局に頼んで150mgの溶解希釈をやってもらう手はずを整えたりしていたので、他の症例まで手術室薬局に頼むことになったら手術室薬局も大変だろうと思い、自分のほうでできる範囲でやっておきますよと言って」c150mgの術前溶解を始めることになった旨述べているのは、Eの上記供述と齟齬している旨主張する。すなわち、薬剤部にc 室薬局も大変だろうと思い、自分のほうでできる範囲でやっておきますよと言って」c150mgの術前溶解を始めることになった旨述べているのは、Eの上記供述と齟齬している旨主張する。すなわち、薬剤部にc150mgの術前溶解を頼むことになったのは平成31年に入ってからのことであることが証拠上明らかであり(第2の5⑵参照)、心臓血管外科と呼吸器外科の症例に関して薬剤部に術前溶解を頼むことはEも同席している場で決まったと認められ、Cの供述を前提にすればその時にCが他の症例に関して術前溶解することになったのだから、Eに「Cがc150mgの術前溶解をすることになった」旨の認識があって然るべきなのに、Eが「驚いた」というのは矛盾する、というのである。しかし、Eは、「驚いた」時期や、何に対して「驚いた」のかを明確に供述しておらず、「c150mgの術前溶解が始まる前の時期」に「臨床麻酔部のナンバー2の立場にあるC医師が自ら(c50mgを)術前溶解して手術室に配布して回っていること」を知って「驚いた」と見る余地が十分にあるから、C供述と矛盾するとはいえず、弁護人指摘の点はC供述の信用性を覆すに足るものとはいえない。 ⑶ C供述から認定できる事実とその評価以上の信用できるC供述によると、被告人がCに対して、c150mgを術前溶解し、各医師に配布するよう指示していたことが認められ、また、Cが被告人に対 25してc150mgが(術前溶解したが)なかなか使用されていないことを伝えた際に、それでも配布を続けるよう指示したことが認められる。そうすると、被告人は、(Cが)術前溶解したものの使用されなかったc150mgが多いことを認識しながら、Cに対して術前溶解を続けるよう指示したものであって、その後も使用されずに廃棄されるc150mgが生じることを認識していたと )術前溶解したものの使用されなかったc150mgが多いことを認識しながら、Cに対して術前溶解を続けるよう指示したものであって、その後も使用されずに廃棄されるc150mgが生じることを認識していたと認められる。この事実は、前示(第4の2)の推認が正しいことを裏打ちしているといえる。 4 結語以上により、被告人に詐欺罪の故意が認められ、詐欺罪が成立する。 (法令の適用)罰条 判示第1の行為刑法197条の2判示第2の行為被害者(別表の「国/社」欄の「社」に対応するj基金及び「国」に対応するk連合会を指す。)ごとに包括して刑法60条、246条1項判示第3の行為刑法60条、197条の2併合罪の処理刑法45条前段、47条本文、10条(刑及び犯情の最も重い判示第2のk連合会に対する詐欺罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条刑の執行猶予刑法25条1項追徴刑法197条の5後段(判示第3の罪により情を知った第三者が収受した賄賂は、没収すべきものであるが、既に費消されていて没収することができないためその価額である200万円を追徴)訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑の理由) 261 本件は、b病院の麻酔部副部長及び部長や教授の地位であった被告人が、医薬品等の製造販売会社から請託を受け、医薬品の使用量増加の対価として大学に寄附をさせた第三者供賄(判示第1)、部下である共犯者と共謀の上、前記医薬品の使用量を増加させる過程で、使用されなかった前記医薬品を使用したものとして診療報酬を支払わせた詐欺(判示第2)及び部下である共犯者と共謀の上、医理学機器等の販売会社からの請託を受け、その報酬として被告人が代表理事を務める法人管理の口座に振込入金させたという第 ものとして診療報酬を支払わせた詐欺(判示第2)及び部下である共犯者と共謀の上、医理学機器等の販売会社からの請託を受け、その報酬として被告人が代表理事を務める法人管理の口座に振込入金させたという第三者供賄(判示第3)からなる事案である。 2 まず、犯罪行為そのものに関する事情(犯情)から検討を始める。 ⑴ d関係被告人は、特定の医薬品の使用量を増加させる見返りとして、製薬会社から200万円という比較的高額の寄附をさせている。①贈賄側にも前記医薬品の使用量増加によるメリットがあったことから、被告人が寄附金を強く要求したとまでは認められない点や、②寄附金を求めた目的が、専ら私利私欲のためではなく、被告人の所属する麻酔部のための費用を調達するためであった点、③(少なくとも被告人の主観においては)医学的な合理性が否定されない範囲で処方を増大させていく方針であったことまで否定することはできない点を考慮しても、製薬会社からの寄附金を獲得するためになりふり構わず処方量の増大に突き進んだことは異常というほかなく、職務の公正さやそれに対する社会の信頼を害した程度は大きいといわざるを得ない。 しかも、被告人が(現場の医師の技量を顧慮することなく)なりふり構わずに処方量の増大に突き進んだ結果、使用されずに廃棄される医薬品が大量に生じるという「歪み」が不可避的に発生し、それが診療報酬の詐取につながった。被告人自身が詐欺の実行行為をしたわけではないし、診療報酬を詐取することを積極的に意図していたわけではないとはいえ、大量の医薬品が使われないまま廃棄され診療報酬の査定で問題にされかねない状況が生じていることを認識していながら敢えて「歪み」の拡大を放置していたと認められ、詐欺についても十分に非難に値する。 27⑵ n関係さらに被告人は、医療機器の入 査定で問題にされかねない状況が生じていることを認識していながら敢えて「歪み」の拡大を放置していたと認められ、詐欺についても十分に非難に値する。 27⑵ n関係さらに被告人は、医療機器の入札に関して強い影響力を有する地位や立場を背景に、入札に当たって便宜を受けたければ高額の寄附金を提供するよう強く要求し、難色を示していた医療機器の販売会社に対し200万円という比較的高額な賄賂を供与させている。①寄附金を求めた理由が専ら私利私欲のためであったとまでは認められない点や、②当該医療機器を導入することには十分な合理性があったと認められる点を考慮しても、賄賂の提供を強く要求して渋る相手に賄賂を提供させたことは悪質というほかなく、職務の公正さやそれに対する社会の信頼を害した程度は大きいといわなければならない。 ⑶ 小括以上の犯情面の分析に照らすと、被告人の刑事責任は、到底軽視できないものの、前科のない被告人を直ちに刑務所に収容するのは重きに過ぎるというべきである。 3 以上を前提に、一般情状として、①(d関係について)被告人が不合理な弁解に終始して真摯な反省はうかがわれないものの、詐欺に係る被害弁償金を弁護人に預託して被害弁償に備えていること、②(n関係について)被告人が200万円を贖罪寄附していること、③(その他)被告人の妻が今後の監督を約束して被告人の更生を支える旨述べていること等の事情を踏まえて、主文の刑が相当であると判断した。 (求刑 懲役4年、一般社団法人aから追徴200万円)令和5年1月20日津地方裁判所刑事部裁判長裁判官 柴 田 誠裁判官 深 見 翼裁判官 山 本 健 太(別表及び別紙省略) 長裁判官 柴 田 誠裁判官 深 見 翼裁判官 山 本 健 太(別表及び別紙省略)
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