- 1 -主文原判決を取り消す。 被控訴人の請求を棄却する。 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1控訴の趣旨主文同旨第2事案の概要 本件は,被控訴人が,その実母であるAの死亡により相続した財産にかかる相続税として,課税価格1億2171万1000円,納付すべき税額1273万8700円と申告していたところ,Aが生前提訴し,被控訴人がその地位を承継していた所得税更正処分等取消請求事件について,取消判決が確定したことから,過納金が被控訴人に還付され,これを控訴人がAの相続財産と認定して,その相続税につき,課税価格1億4963万円,納付すべき税額2096万9400円とする更正処分を行ったことに対し,被控訴人が,上記過納金の還付請求権は相続開始後に発生した権利であるから相続財産を構成しないと主張して,その処分の取消しを求めた事案である。 原審は,被控訴人の請求を認容したところ,控訴人がこれを不服として控訴した。 前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり修正するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要」の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1)原判決2頁18行目の「争いがないか,」の後に「証拠(甲2の1及び2,甲4,乙1,2)及び」を加える。 (2)同3頁3行目の「行った」の後に「(甲4)」を加える。 (3)同頁21,22行目の「所得税課税処分取消請求事件」を「所得税更正- 2 -処分等取消請求訴訟」と改め,同頁23行目の「という。」の後に「甲2の1及び2」を加える。 (4)同4頁14行目の「提出した」の後に「(乙1)」を加える。 (5)同頁17行目の「提出した」の後に「(乙2)」を加える。 (6)同5頁10行目の「同処分の取消訴訟」を「 1及び2」を加える。 (4)同4頁14行目の「提出した」の後に「(乙1)」を加える。 (5)同頁17行目の「提出した」の後に「(乙2)」を加える。 (6)同5頁10行目の「同処分の取消訴訟」を「別件所得税更正処分取消訴訟」と改める。 (7)同頁11行目の「別件所得更正処分」を「別件所得税更正処分」と改める。 第3当裁判所の判断 本件過納金の相続財産性(1)相続税法は,相続税の課税財産の範囲を「相続又は遺贈により取得した財産の全部」(2条1項)と定めており,相続税法上の「財産」とは,金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものをいい(相続税法基本通達11の2-1,甲13の9),物権,債権,債務のような現実の権利義務に限らず,財産法上の法的地位も含まれる(甲37)。 また,相続税の納税義務の成立時点は,「相続又は遺贈による財産の取得の時」(国税通則法15条2項4号)であるところ,相続人は相続開始の時から被相続人の財産を包括承継するものであり(民法896条),かつ,相続は死亡によって開始する(民法882条)から,納税義務の成立時点は,原則として,相続開始時すなわち被相続人死亡時である。 (2)本件過納金の原資はAが拠出した納付金である。Aが生前別件所得税更正処分取消訴訟を提起し,Aの死亡後,被控訴人がその訴訟上の地位を相続により承継したところ,別件所得税更正処分の取消判決が確定し,本件過納金が被控訴人に還付されたものである。 取消訴訟の確定判決によって取り消された行政処分の効果は,特段の規定のない限り,遡及して否定され,当該行政処分は,当初からなかった状態が- 3 -回復される。この取消訴訟の原状回復機能はすべての取消訴訟に共通する最も重要な機能である(乙5,8,10の2,乙15,16)。また,取消しの遡及効(民法 政処分は,当初からなかった状態が- 3 -回復される。この取消訴訟の原状回復機能はすべての取消訴訟に共通する最も重要な機能である(乙5,8,10の2,乙15,16)。また,取消しの遡及効(民法121条)の原則とも整合する。被控訴人は,原状回復は取消判決の拘束力によって生ずるものであり,形成力によるものではないとして,取消判決の遡及効を否定するが,異説であって採用できない(乙13)。 したがって,別件所得税更正処分も,同処分の取消判決が確定したことによって,当初からなかったことになるため,判決により取り消された範囲においてAが納めた税金が還付され(国税通則法56条),Aが納税した日を基準時として計算した日数に応じて法定の利率を乗じた還付加算金が支払われるのである(同法58条1項,乙17)。これは,訴訟係属中に相続があった場合でも変わりはない。すなわち,別件所得税更正処分の取消判決が確定したことにより,Aが別件所得税更正処分に従い納税した日に遡って本件過納金の還付請求権が発生していたことになる(乙10の1)。別件所得税更正処分の取消判決の遡及効を制限する特段の規定も存在しない。 ちなみに,国税通則法74条1項は,還付金等に係る国に対する請求権の消滅時効の起算日を「その請求をすることができる日」と定めており,本件については,当該日は別件所得税更正処分の取消判決の確定日となり,本件過納金を納入した日と異なるが,これは行政処分の公定力の効果によるものであって,前記判断と何ら矛盾するものではない。 (3)以上のとおり,本件過納金の還付請求権は,Aの死亡時にAの有していた財産に該当し,相続税の対象となるから,本件更正処分は相当であり,取り消す理由はない。 被控訴人の主張について(1)被控訴人は,本件過納金の還付請求権は,別件所得税更正処分 時にAの有していた財産に該当し,相続税の対象となるから,本件更正処分は相当であり,取り消す理由はない。 被控訴人の主張について(1)被控訴人は,本件過納金の還付請求権は,別件所得税更正処分の取消判決確定により初めて発生し,Aの相続開始時には訴訟係属中でまだ発生していなかったのだから相続財産を構成せず,原始的に被控訴人に帰属すると主- 4 -張する。 しかし,無効な処分に基づき最初から法律上の原因を欠いていた利得であり,納税者がただちに不当利得としてその還付を求めることができる誤納金と異なり,過納金は,有効な行政処分に基づいて納付ないし徴収された税額であるから,基礎になっている行政処分が取り消され,公定力が排除されない限り,納税者は不当利得としてその還付を求めることができない(甲22)という意味で,租税手続法的に見て,取消判決の確定により還付請求権が生じると言われるだけであって,租税実体法上は納付の時から国又は地方公共団体が過納金を正当な理由なく保有しているのである(乙3)。したがって,取消判決の確定により行政処分が取り消されれば,過納金及びその還付請求権も納付時に遡って発生していたことになる。当該行政処分の公定力も排除される。過納金の発生時期について,確定判決の効力が生じた時にその発生が「認識される」と,区別している文献もある(乙4,11,17)。 (2)被控訴人の主張によれば,別件所得税更正処分が重大かつ明白な瑕疵により無効なのか,取り消し得べき瑕疵を有しているのかは,いずれも確定判決を待たなければ判明しないにもかかわらず,無効判決だった場合は還付請求権は納付時に発生しているので相続財産となり,取消判決だった場合は相続財産から外れることになる(乙9,12)。このように,更正処分の瑕疵の重大性,明白性如何により相続財産性 判決だった場合は還付請求権は納付時に発生しているので相続財産となり,取消判決だった場合は相続財産から外れることになる(乙9,12)。このように,更正処分の瑕疵の重大性,明白性如何により相続財産性が左右されるのは相当ではない。 また,取消判決の確定時にAが存命であれば,当然本件過納金は相続財産となったにもかかわらず,訴訟係属中にAが死亡したという偶然のできごとによって,同じ本件過納金が相続財産とならなくなる(乙12)。しかし,このように偶然のできごとによって相続財産性が左右されるのは相当ではない。 さらに,本件過納金は,そもそもAが納付したものであり,被控訴人に還付されたのは,別件所得税更正処分取消訴訟の訴訟手続を被控訴人が相続に- 5 -より受継したためであるにもかかわらず,同訴訟の勝訴の結果得た実体的な権利である本件過納金の還付請求権を被相続人の原始取得であると主張するのは背理である(乙12)。 (3)被控訴人は,控訴人が還付加算金を雑所得として所得税課税の対象としているのは矛盾であると指摘する。 しかし,還付加算金の性格は,還付金に対する利息であるので,還付金それ自体は相続税の課税対象となる財産に含まれるとしても,その還付金に附帯して法令の規定に基づいて生ずる加算金について,相続税の課税対象となる財産に含めるべきであるとする解釈を採るべき必然性はない。所得税基本通達35-1は,還付加算金については,利子所得には分類されない各種の利子と同様のものとみなして,雑所得としての取扱いをすべきと明示しているのだから,控訴人の取扱いに矛盾はない(乙13)。 (4)被控訴人は,国税通則法施行令23条1項の「還付金等が生じた時」とは,課税処分が判決により取り消されたことにより生じた還付金等の場合は,その確定判決の効力が生じた時とされている点 乙13)。 (4)被控訴人は,国税通則法施行令23条1項の「還付金等が生じた時」とは,課税処分が判決により取り消されたことにより生じた還付金等の場合は,その確定判決の効力が生じた時とされている点(国税通則法基本通達の57条関係の9-(3),甲12の6)を指摘する。 しかし,これは,還付金が生じたときに還付すべき相手方に納付すべき国税がある場合に,還付によらず他の国税に当該還付金を充当すべきとされる場合において,他の国税に充当するに適した状態の還付金が発生する時期を定めたものであり,取消判決の遡及効及びこれに基づき還付金が納付時に遡って発生することを否定するものではない(乙13)。 (5)被控訴人は,取消訴訟の訴訟物は当該処分に係る違法性一般であって,取消しに基づく還付金の還付請求権の有無ではないから,相続財産の中に還付請求権は含まれないと主張する。 しかし,取消訴訟の訴訟物は,当該訴訟の審判の範囲及び判決の効力の及ぶ範囲を確定するだけであって,取消訴訟の対象はおよそ財産的な価値を持- 6 -たないことまでも意味するものではない。これは,不動産や動産の帰属をめぐって争われる民事訴訟の場合と異なるところはない。そもそも被控訴人は,取消しの遡及効を無視して訴訟係属中は還付請求権が発生しないことを前提に上記主張をするもので,その前提を欠く上,控訴人は,Aの別件所得税更正処分取消訴訟上の地位を相続財産としたものではないから,同訴訟の訴訟物が何かということは無関係である。 (6)被控訴人は,訴訟中の権利の価額は,課税時期の現況により係争関係の真相を調査し,訴訟進行の状況をも参酌して原告と被告との主張を公平に判断して適正に評価するという取扱い(財産評価基本通達210,甲12の10)があるが,控訴人は本件過納金は発生しないものと別件所得税更正処 調査し,訴訟進行の状況をも参酌して原告と被告との主張を公平に判断して適正に評価するという取扱い(財産評価基本通達210,甲12の10)があるが,控訴人は本件過納金は発生しないものと別件所得税更正処分取消訴訟中は主張していたはずであるから,Aの相続の時点において,本件過納金還付請求権は金銭に見積もることができる経済的な価値があるものとは認められず,相続の対象とならないと主張する。 しかし,この基本通達は,相続が発生した場合について,課税庁が相続財産を適正に評価する際の目安を示したものであって,相続税納付後に納税者が勝訴した場合に,勝訴によって確定した権利の価格と通達にしたがった評価との差額が相続税の対象にならないということを意味しない(乙10の1)。 この点,被控訴人は,交通事故で被相続人の遺族が加害者に損害賠償請求訴訟を提起している間に申告期限を徒過した場合において,相続開始時における損害賠償請求権の価額を評価することが困難であることから,その判決の損害賠償額を相続税の課税価格に算入することができないとされていること(甲25)を指摘する。しかし,この事案では交通事故時に損害賠償請求権が発生していることに争いはなく,損害額は判決で確定しても遡及するわけではないから,判決後に増加した損害額を相続税の課税価格に算入できないのは当然であり,判決確定により遡及して請求権が発生した本件とは事案- 7 -を異にする。 (7)被控訴人は,取消判決の確定が相続税の法定申告期限から3年を経過していた場合は,更正の期間制限によって,還付金について相続税が課税漏れになるという矛盾が生じると主張する。 しかし,更正処分を受けた被相続人が当該更正処分に係る税額を納付しないまま死亡した場合の相続税の取扱いも同様であり,これとの整合性からすると,納付済みの事案 れになるという矛盾が生じると主張する。 しかし,更正処分を受けた被相続人が当該更正処分に係る税額を納付しないまま死亡した場合の相続税の取扱いも同様であり,これとの整合性からすると,納付済みの事案である本件過納金も相続税の課税対象とするのが合理的である。 (8)被控訴人は,相続税法3条1項2号が退職手当金等で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものに限りみなし相続財産としていることから,還付金についても納付者の相続開始後に発生した場合には,相続人の新たな収入金額として扱うことも不合理ではないと主張する。 しかし,上記規定は,本来相続財産ではないものを政策的に相続財産とみなしたものであって,このような特段の規定を有しない還付金の相続財産性の有無とは無関係である。 (9)被控訴人は,本件更正処分は租税法律主義に反する,本件過納金の還付請求権の取得は収入金額に算入すべき金額に該当し,所得税の課税対象となる等と主張するが,いずれも本件過納金の還付請求権を被控訴人が原始取得したことを前提とした主張であり,前記のとおり,その前提を欠く。 以上によれば,本件控訴は理由があるから原判決を取り消し,被控訴人の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所第2民事部裁判長裁判官石井宏治- 8 -裁判官太田雅也裁判官瀬戸さやか
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