令和5年(わ)第164号殺人被告事件 主文 被告人を懲役10年に処する。 未決勾留日数中250日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、同居人で実母であるAが、長年にわたり、被告人が誰かに自分を尾行させたりしている等と言って被告人を非難することを繰り返すなどしてきたことから、Aが自分に言い掛かりをつけたり嫌がらせをしたりしていると考えて怒りや憎しみの感情を募らせていたところ、令和5年6月20日、Aが、被告人に対し、被告人のせいで自分のスリッパが汚れたかのような発言をしたことなどから、立腹するとともにAを殺害して同人から言い掛かりをつけられるような状況を終わらせようと考え、同日午後9時40分頃、高知市(住所省略)被告人方において、A(当時83歳)に対し、殺意をもって、包丁(刃体の長さ約14.6センチメートル。 令和6年押第4号)でその左胸部を1回突き刺し、よって、その頃、同所において、同人を胸部刺創による心損傷により死亡させて殺害した。 (量刑の理由) 1 本件は、被告人が単独で、実母に対し、刃物を用いて行った殺人既遂1件の事案である。そこで、この種の事案で、処断罪名と異なる主要な罪がなく、被告人に見るべき前科がない事案を同種事案として本件の犯情を検討し、更に一般情状を検討して被告人に対する量刑を決める。 2 まず、本件の犯情について検討する。 被告人は、本件まで、一時的な別居期間を挟み、長年にわたって被害者と2人で同居して生活し、その間、判示のとおり被害者から言い掛かりを受け続けたと考えて鬱憤を募らせていたところ、犯行当日、同人からいわれのない非難を受けたことなどをきっかけに鬱積した怒りや憎しみの感情を爆発させ、突発的、衝動 示のとおり被害者から言い掛かりを受け続けたと考えて鬱憤を募らせていたところ、犯行当日、同人からいわれのない非難を受けたことなどをきっかけに鬱積した怒りや憎しみの感情を爆発させ、突発的、衝動 的に犯行に及んだものである。本件犯行は、計画性は認められないものの、直前に被告人から頭部を踏みつけられるなどしたことで抵抗できない状態にあった被害者に対し、鋭利な包丁を持ち出した上、肋骨を貫通させ心臓に達するほどの強い力で、同人の左胸部を突き刺しており、殺意は強固で確定的である。本件では、妄想性障害の疑いのあった被害者が被告人に対して妄想的な言動を繰り返すなどする一方、シゾイドパーソナリティ症を有する被告人がストレスを蓄積しやすい状態にあったことが犯行の動機形成に影響しており、さらに、そのような状況でなされていた被告人及び被害者に対する行政の福祉的支援が組織再編に伴って途絶えてしまった後に本件犯行が発生したという経緯が認められるが、被害者には殺害されるほどの落ち度はない上、被告人のシゾイドパーソナリティ症は被害者を殺害するという意思決定自体に直接的な影響を与えてはいないし、前記福祉的支援が被告人の負の感情の蓄積の解消に果たしてきた役割も大きいものではないから、前記経緯等に同情の余地があるとしてもその程度は限定的であり、刑を大きく減じる事情とまではいえない。なお、被告人が飲酒していたことは、本件犯行に特段の影響を及ぼしておらず、量刑上特に考慮すべき事情ではない。 被害者は、本件直前まで、被告人との関係を除けば、趣味を楽しんだり、二男の妻と連絡を取り合ったりして平穏に生活していたところ、実の息子によって突然に命を奪われることとなったもので、その無念は察するに余りある。本件の結果は取り返しのつかない重大なものであり、実母を殺害された被害者の 取り合ったりして平穏に生活していたところ、実の息子によって突然に命を奪われることとなったもので、その無念は察するに余りある。本件の結果は取り返しのつかない重大なものであり、実母を殺害された被害者の二男や証人として出廷した同人の妻が厳しい処罰感情を示すのは当然である。 そして、以上を踏まえて同種事案における本件の犯情の位置付けを検討すると、同種事案には、本件よりも犯行態様が執拗かつ残忍なものが存在する一方、精神障害の影響で心神耗弱状態にあったものや被害者に落ち度があったものが存在すること、中程度の部類に属するものには被告人の精神障害が犯行に直接的に影響したものが多く存在すること等を考慮すれば、本件の位置付けは、中程度の中でやや重い部類に属するといえる。 3 次に、一般情状について検討する。 被告人は、今なお被害者の行動を非難する言葉を述べており、心から悔悟しているか疑問の余地はあるものの、事実を認めた上、自らの行動が誤ったものであったなどと反省の言葉を述べ、自らの刑事責任に向き合う態度を示している。また、被告人については、犯行翌日に自首したこと、社会福祉士が情状証人として出廷し本件犯行の経緯や被告人の特性を踏まえた更生支援計画を策定したことや被告人を今後支援する旨を述べ、被告人がそれに従う意向を示していることなども、被告人の刑をいくらか軽くする事情といえる。 4 以上で検討したところを基に、本件で被告人に科すべき刑を決める。同種事案の量刑は、概ね懲役6年ないし懲役16年の範囲に分布していて中間は懲役9年である。本件の犯情が同種事案の中で中程度の中でやや重い部類に属することや、前記の一般情状を考慮すれば、被告人に対し、主文の刑をもって臨むのが相当である。 (求刑:懲役14年、弁護人の科刑意見:懲役6年)令 同種事案の中で中程度の中でやや重い部類に属することや、前記の一般情状を考慮すれば、被告人に対し、主文の刑をもって臨むのが相当である。(求刑:懲役14年、弁護人の科刑意見:懲役6年) 令和6年10月22日 高知地方裁判所刑事部 裁判長 裁判官稲田康史 裁判官大友真紀子 裁判官徳舛純一
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