主文 原判決を破棄する。 被告人は無罪。 理由 本件控訴の趣意は弁護人中田憲悟作成の控訴趣意書および控訴趣意補充書に,これに対する答弁は検察官矢野敬一作成の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。 訴訟手続の法令違反の主張について論旨は,起訴状に記載された訴因が,暴力行為等処罰に関する法律違反(団体の威力を示し,かつ,数人共同して行った脅迫)および証人等威迫(以下,この両者を合わせて「証人威迫等」という)の共同正犯であるのに,訴因変更手続を経ないで,証人威迫等の片面的な幇助犯である旨認定した原判決について,被告人および弁護人には,幇助行為の可罰性,幇助の因果関係等に関し,攻撃防御の機会が全く与えられておらず,原判決の認定は不意打ちであるから,原審の訴訟手続には法令の違反があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである。 所論にかんがみ記録を調査して検討する。 「,「」,本件公訴事実は被告人はEを長とする暴力団甲の構成員であるところいずれも甲の構成員であるB,CおよびDと共謀の上,平成17年3月4日広島地方裁判所に公訴を提起されたEらに対する銃砲刀剣類所持等取締法違反,建造物損壊被告事件(以下「Eらに対する被告事件」という)の審判に必要な知識を有すると認められる元甲構成員Aに対し,同年4月19日午前11時30分から広島高等裁判所で別件の控訴審が行われる機会に,Aを脅迫するとともに,Eらに対する被告事件に関して強談威迫の行為をしようと企て,同日午前11時30分ころおよび午前11時50分ころの2回にわたり,広島市中区上八丁堀(以下省)「」,略所在の同高等裁判所第302号法廷(以下302号法廷という)においてAに対し,こもごも傍聴席から立ち上がって詰め寄り,にらみ 0分ころの2回にわたり,広島市中区上八丁堀(以下省)「」,略所在の同高等裁判所第302号法廷(以下302号法廷という)においてAに対し,こもごも傍聴席から立ち上がって詰め寄り,にらみつけながら「この嘘つきが,このまま無事に懲役行けると思うなよ。親父陥れるようなこと言いやがって「おう,A「おう,A「このまま一生逃げるんか。このおかま」など」」」と大声で怒鳴りつけるなどし,もって,団体の威力を示し,数人共同してAの生命,身体等に危害を加える旨告知して人を脅迫するとともに,他人の刑事事件に関して強談威迫の行為をした」というものであるところ,原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は「被告人,BおよびCは,いずれも暴力的な団体である甲に属していたところ,平成17年4月19日午前11時30分ころ,302号法廷において,Bは,Eらに対する被告事件の審判に必要な知識を有すると認められる甲の元メンバーAに対し「この嘘つきが,このまま無事懲役行けると思うなよ。親父陥れるようなこと言いやがって」などと大声で怒鳴りつけ,続いて,同日午前11時50分ころ,BおよびCは,暗黙のうちに意を通じて共謀し,Aに対して,立ち上がってにらみつけ,こもごも「おう,A「このおかまやろう,」このまま一生逃げるんか」などと怒鳴りつけるなどし,もって,団体の威力を示し,かつ,数人共同してAの生命,身体等に危害を加える旨告知して脅迫するとともに,他人の刑事事件の審判に関し強談威迫の行為をしたところ,被告人は,同日午前11時50分ころ,同法廷において,BおよびCの近くにおいて,身を乗り出すような姿勢で,Aに対して訴えかけるように凝視し,もってBおよびCの犯行を容易にしてこれを幇助した」というのであって,所論指摘のとおり,原判決は,起訴状に記載された訴因とは異なる いて,身を乗り出すような姿勢で,Aに対して訴えかけるように凝視し,もってBおよびCの犯行を容易にしてこれを幇助した」というのであって,所論指摘のとおり,原判決は,起訴状に記載された訴因とは異なる事実を認定している。 しかし,起訴された訴因と原判決の認定事実とを対比すると,正犯者の行った証人威迫等の実行行為はほとんど同一である上,本件においては,共同正犯の成,,,否をめぐって共謀の有無被告人による実行行為の有無等を主要な争点として本件に至る経緯,302号法廷に行った目的,正犯者であるBらの行為に対する被告人の認識,被告人の行為の態様・趣旨,被告人の行為についてのAの認識・影響等が審理対象となるべきものであるところ,これらの事実は,幇助行為の可罰性や幇助行為の因果性を含め,証人威迫等の幇助犯の成否を検討する際の間接事実を包含していると解される。しかも,原審の審理においては,上記間接事実について当事者双方の攻撃防御は十分に尽くされていることも併せ考えると,原判決が,証人威迫等の共同正犯の訴因に対して,訴因変更手続を経ないで,証人威迫等の幇助犯を認定したことは,不意打ちとなるものではない。原審の訴訟手続に所論の法令違反はない。論旨は理由がない。 事実誤認の主張について論旨は,原判決が,Bが,原判示の日の午前11時30分ころ,302号法廷において,Eらに対する被告事件の審判に必要な知識を有すると認められるAに対し「この嘘つきが,このまま無事懲役行けると思うなよ。親父陥れるようなこ」,,,と言いやがってなどと大声で怒鳴りつけ続いて同日午前11時50分ころBおよびCが,暗黙のうちに意を通じて共謀し,Aに対して,立ち上がってにらみつけ,こもごも「おう,A「このおかまやろう,このまま一生逃げるんか」」などと怒鳴りつけるなどし 同日午前11時50分ころBおよびCが,暗黙のうちに意を通じて共謀し,Aに対して,立ち上がってにらみつけ,こもごも「おう,A「このおかまやろう,このまま一生逃げるんか」」などと怒鳴りつけるなどし,もって,団体の威力を示し,かつ,数人共同してAの生命,身体等に危害を加える旨告知して脅迫するとともに,他人の刑事事件の審判に関し強談威迫の行為をした際,被告人は,同日午前11時50分ころ,同法廷において,BおよびCの近くにおいて,身を乗り出すような姿勢で,Aに対して訴えかけるように凝視し,もってBおよびCの犯行を容易にしてこれを幇助した旨認定したことについて,原判決が事実認定の根拠とした証人Fおよび同Aの原審各公判供述(以下,原審公判供述のことを「公判供述」という)は信用できないのであって,被告人が,BおよびCの近くにおいて,身を乗り出すような姿勢で,Aに対して訴えかけるように凝視していた(以下「凝視行為」という」)旨認定することはできない,仮に凝視行為が認められたとしても,凝視行為をもって幇助行為ということはできない,被告人に幇助の意思はない,被告人の凝視行為により,正犯者の行為が促進されたとは認められないから,幇助の因果性を否定すべきであるにもかかわらず,FおよびAの各公判供述を信用して凝視行為を認定し,被告人につき幇助犯の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。 所論にかんがみ記録を調査して検討するに,原判決の事実認定は,被告人が,証人威迫等(以下「本件証人威迫等」という)について,B,CおよびDと共謀したと認定するには合理的疑いが残る旨説示した点は,正当であるものの,被告人について幇助犯の成立を認めた点は是認することができない。その理由は以下のとおりである。 (1)関係証拠によれば, と共謀したと認定するには合理的疑いが残る旨説示した点は,正当であるものの,被告人について幇助犯の成立を認めた点は是認することができない。その理由は以下のとおりである。 (1)関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア302号法廷には傍聴席が60席あり,これが裁判官席に向かって右側,,,「」「」「」中央左側の3列(以下各列のことを右側の列中央の列左側の列という)に配置され,4席横並びになった傍聴席が,右側の列と中央の列には各6列,左側の列には3列,それぞれ縦方向に配置されている。 イB,Cおよび被告人は,原判示の日,302号法廷において,Aに対する傷害等被告事件の控訴審の審理(以下「本件審理」という)を傍聴した。傍聴席での各人の位置は,おおよそ,Bは右側の列の前から2列目の右側,Cは中央の列の前から2列目の右側,被告人は右側の列の左側または中央の列の右側で,前から2列目ないし3列目であった。なお,被告人は,白いマスクをしていた。 ウBは,同日午前11時30分ころ,本件審理の開廷直前,裁判官の入廷前に,拘置所職員に付き添われてAが302号法廷に入って来るや,同人に対し「この嘘つきが,このまま無事懲役行けると思うなよ。親父陥れるようなこと言いやがって」と怒鳴りつけた。 ,,エ本件審理が終了し裁判官が退廷した後の同日午前11時50分ころBは退廷しようとしているAに対し「おう,A。なんやこら」などと怒鳴り,これと相前後してCは座っていた位置から前に歩み出ながらAに対しお,,,「うA「このおかまやろう,このまま一生逃げるんか「なんだその面は」」」などと怒鳴りつけた。 (2)凝視行為の有無についてアFは,原審公判において,Aが302号法廷から退出する際,傍聴席の前から1番目か2番目の列 ,このまま一生逃げるんか「なんだその面は」」」などと怒鳴りつけた。 (2)凝視行為の有無についてアFは,原審公判において,Aが302号法廷から退出する際,傍聴席の前から1番目か2番目の列にいた白いマスクをした被告人が,前方に身を乗り出して,Aに向かって一生懸命何かを伝えているという感じで,同人の方を凝視するという感じでずっと見ていた,同人に何かを訴えかけるというような表情であった,腰を斜め前方に前傾姿勢を取ったような状態で,中腰になったかのような姿勢だった,Eのけん銃への関与を供述したり証言したりするなということを伝えに来たのだと思った旨供述している。 所論は,本件が,極めて短時間の出来事である上,Fは,本件以前に被告人と面識はなく,大きなマスクで顔面を覆った被告人の表情をにらみつける表情と評価することはできない筈である,Fは,Aの弁護人として,甲メンバーに対し,恐怖心を有するとともに処罰感情を強く抱いているから,その,,,供述は客観性に欠け極めて主観的な印象に基づくものであるなどとしてFの公判供述は信用することができない旨主張する。 しかし,Fの公判供述は,弁護士であるFが,宣誓の上,場合によっては偽証罪に問われるという状況において行ったものであり,記憶にあることとないこととを区別して述べているほか,弁護人の反対尋問にも動揺がない。 また,その供述内容は,具体的で迫真性に富んでいる。 したがって,Fの公判供述は,十分に信用することができるというべきである。 所論は,被告人とCとの位置関係に関し,Fの公判供述とAの公判供述とでは食い違いがあり,被告人がいた位置に関し,Fの公判供述と証人Gの公判供述とでは食い違いがあるなど,不正確であるとも主張する。しかし,これらの供述を全体的に考察してみると,上記位置関係について,それほど い違いがあり,被告人がいた位置に関し,Fの公判供述と証人Gの公判供述とでは食い違いがあるなど,不正確であるとも主張する。しかし,これらの供述を全体的に考察してみると,上記位置関係について,それほど大きく食い違っているわけではない。加えて,本件証人威迫等は,Fらにとって予想外の出来事であり,しかも,複数の者によって短時間のうちに行われたものである上,正犯者であるCは,傍聴時に座っていた位置から前方に移動しながら犯行に及んでいることも併せ考えると,Fらが,B,Cおよび被告人の位置関係等を正確に観察・記憶できなかったとしても,やむを得ない面があるのであって,被告人とCの位置関係等に関する供述に多少の食い違いがあるからといって,被告人の凝視行為という供述の根幹部分の信用性に疑問は生じない。 イ他方,被告人は,原審公判において,Cが立ち上がって声を出した勢いにつられ,自分も中腰の姿勢になり,前の座席の背に手をつくような格好となったが,Aを凝視したことはなく,見ていたに過ぎない,下から上を見るような感じだったので,にらみ上げていると思われたかもしれない,眼鏡をしていなかったので,余計目つきも悪かったのではないかと思うなどと供述している。 しかし,被告人の公判供述は,原判決も説示するとおり,Cが声を出した勢いにつられて中腰の姿勢になりながら,Cの方を見ないで,Aをずっと見ていたということ自体,いささか不自然である。また,単に見ていただけであるのに,Aに向かって一生懸命何かを伝えているという感じで同人の方を凝視するように見ていたという印象をFが受けるということは,通常考え難い。 したがって,被告人の公判供述は信用することができない。 ウ以上説示したとおり,信用できるFの公判供述によれば,被告人が,身を乗り出すような姿勢で,Aに対して訴えかけるよ うことは,通常考え難い。 したがって,被告人の公判供述は信用することができない。 ウ以上説示したとおり,信用できるFの公判供述によれば,被告人が,身を乗り出すような姿勢で,Aに対して訴えかけるようにして凝視したことは,優に認めることができる。 なお,Aは,原審公判で,この認定事実と符合する供述をしているが,Aの公判供述の信用性については後述する。 (3)幇助犯の成否について被告人が,本件証人威迫等の際,凝視行為をしたことを前提に,幇助犯の成否について検討する。 ア原判決は,被告人は,BおよびCの近くにおいて,身を乗り出すような姿勢で,Aに対して訴えかけるように凝視し,もってBおよびCの犯行を容易にしてこれを幇助した旨認定し,被告人につき幇助犯の成立を認めている。 イところで,Aは,原審公判において,被告人が,傍聴席の右側の列の前から2番目の列の1番左の席の前辺りに立って,自分をにらみつけていた旨供述しているところ,これは,被告人が凝視行為に及んでいることを認識していたことを前提とする供述である。 しかし,本件証人威迫等の翌日に作成されたAの警察官調書(原審弁護人請求証拠番号3。以下「本件警察官調書」という)には,以下のとおり,Aが,本件証人威迫等の際に,被告人の行為を認識していなかったとしか考えられない供述が記載されている。すなわち,被告人,Dの2人が,これといった言葉を発したかどうかは,気づかなかったものの,同人らにとって,わざわざ傍聴に来る必要のない裁判であったし,B,C同然,私に敵意を持っていたことは間違いないと思う,私とすれば,怒鳴っている者しか目に入らなかったわけで,もし被告人やDと目が合っていれば,同人らがどういった言動や行動をしたかは判らないし,もしかしたら私と目の合わないところでにらんでいたのかも知れない,とに 怒鳴っている者しか目に入らなかったわけで,もし被告人やDと目が合っていれば,同人らがどういった言動や行動をしたかは判らないし,もしかしたら私と目の合わないところでにらんでいたのかも知れない,とにかく,覚えているBとCの文言はお話しした,もっといろいろな罵声や脅しがあったと思う,私も相手を見るのが精一杯で,全部は覚えていない,というのである。 そして,関係証拠によれば,Aは,本件審理の閉廷後すぐに,広島拘置所において,接見に来たF弁護人から,B,C,被告人およびDの4人を証人等威迫罪により告訴ないし告発する意向を告げられ,これに賛同したこと,その後すぐに,Fは,広島東警察署の巡査部長Hに対し,上記告訴等の意向を電話で告げたこと,これを受けて,その翌日,H巡査部長は,本件証人威迫等に関し,Aを取り調べ,同人は,本件警察官調書の作成に応じたことが認められる。そうすると,本件警察官調書は,告訴等がなされる予定であることを前提として,上記4名の関与を明らかにする目的で作成されたものであり,しかも,本件証人威迫等の翌日,記憶が新鮮な時期に作成されたものである上,Aも,原審公判で,上記取調べにおいて,ありのままを話したつもりである旨供述していることに照らすと,本件警察官調書の上記記載は,信用できるというべきである。 したがって,Aの公判供述中,被告人の凝視行為を認識していたことを前提とする,被告人と目が合ってにらまれた旨の供述部分の信用性には疑問が残るといわざるを得ず,Aが,被告人の凝視行為を認識していたことの証明はないといわざるを得ない。 ウまた,本件証人威迫等の正犯者であるBおよびCの各公判供述を精査しても,同人らが,被告人の凝視行為を認識していたことを窺わせるようなことは供述していない上,被告人が凝視行為をした際の被告人とBおよびCとの 件証人威迫等の正犯者であるBおよびCの各公判供述を精査しても,同人らが,被告人の凝視行為を認識していたことを窺わせるようなことは供述していない上,被告人が凝視行為をした際の被告人とBおよびCとの位置関係を併せ考えると,同人らが,被告人の凝視行為を認識していたとは認められない。 エ以上検討したところを総合すると,被告人の凝視行為は,正犯者であるBおよびCからも,本件証人威迫等の対象となったAからも,認識されていなかったことに帰する。ところで,他人の刑事事件の審判に必要な知識を有すると認められる者を威迫する目的で,その者に対し脅迫文言を浴びせている犯人のそばにいて,その相手を凝視する行為が,当該脅迫や威迫の効果を促進させ,その犯行を容易にするものと評価できることは原判決が説示するとおりである。しかし,そのように評価することができるのは,その凝視行為が,相手に認識できるような形でなされ,または,相手が凝視行為を認識していなくても,正犯者が,その凝視行為を認識して犯意を強化するなど,その犯行を容易にしたと評価できることが必要である。本件においては,被告人の凝視行為は,Aにも,正犯者であるBらにも認識されていないのであるから,それが,正犯者であるBおよびCの犯行を容易にするものであったと評価することは困難であり,被告人が,本件証人威迫等を片面的にせよ幇助したと認めることはできない。 (4)以上説示したとおり,被告人が,BおよびCの近くにおいて,Aを凝視したことは認められるものの,これが本件証人威迫等の幇助行為とはいえないから,被告人につき幇助犯の成立は認められない。したがって,原判決は,この点において事実を誤認したものであり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 よって,刑事訴訟法397条1項,382条により,原判決を破棄し, 成立は認められない。したがって,原判決は,この点において事実を誤認したものであり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。 よって,刑事訴訟法397条1項,382条により,原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,当裁判所において更に判決する。 本件公訴事実は,1記載のとおりであるところ,2で検討したとおり,被告人が,Bらと共謀したことを認定するには合理的疑いが残り,かつ,原判決が認定したような幇助犯の成立も認められない。したがって,被告人については犯罪の証明がないことに帰するから,同法336条により,無罪の言渡しをすることとし,主文のとおり判決する。 平成19年4月10日広島高等裁判所第1部裁判長裁判官楢崎康英裁判官森脇淳一裁判官友重雅裕
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