主文 1 原告らの主位的請求をいずれも棄却する。 2 被告らは,原告Aに対し,連帯して385万円及びこれに対する平成25年8月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは,原告Bに対し,連帯して385万円及びこれに対する平成25年8月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の予備的請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は7分し,その1を被告らの負担とし,その余は原告らの負担とする。 6 この判決は,第2,3項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して2750万7300円及びこれに対する平成25年8月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して2750万7300円及びこれに対する平成25年8月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要原告らの子である亡C(平成元年生まれで,当時24歳。)は,平成25年8月14日,被告特定非営利活動法人D(以下「被告法人」という。)が開催し,被告法人の当時の代表者であった被告E(昭和26年生まれ)が指導を担当した水泳教室(以下「本件水泳教室」という。)において,練習中に意識を消失し,緊急搬送先の病院で死亡した(以下,この事故を「本件事故」という。)。本件は,原告らが,被告らに対し,(1)主位的には,被告Eが亡Cの体調を管理すべき注意義務等に違反したために亡Cが死亡した,(2)予備的には,仮に上記 注意義務違反と亡Cの死亡との間の因果関係が認められないとしても,亡Cが死亡しなかった相当程度の可能性 を管理すべき注意義務等に違反したために亡Cが死亡した,(2)予備的には,仮に上記 注意義務違反と亡Cの死亡との間の因果関係が認められないとしても,亡Cが死亡しなかった相当程度の可能性を侵害されたなどとして,被告法人については特定非営利活動促進法8条・一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条又は債務不履行に基づき,被告Eについては不法行為に基づき,逸失利益等の損害賠償金及びこれに対する本件事故日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠等の掲記がない事実は当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア亡Cは,平成元年生まれの男性で,生後9箇月時に結節性硬化症(母斑症の1つ。遺伝性疾患であり,顔面血管線維腫・てんかん・精神発達遅滞の症状が特徴である。)と診断され,同疾患によって併発する自閉傾向・中等度精神遅滞等の精神障害があり,平成22年9月7日に精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令6条3項所定の障害等級1級(日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの)と記載された精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた(甲5,弁論の全趣旨)。 原告らは,亡Cの父母である。なお,原告Aは,平成21年3月29日~平成24年4月1日,被告法人の理事であった(甲2)。 イ被告法人は,平成18年6月に設立された特定非営利活動法人である。 被告法人は,特定非営利活動に係る事業として,①障害者に対するスポーツのインストラクト事業,②障害者及びそれらに係る者のストレス緩和のための各種教室・講座開催事業,③スポーツに関する各種イベントの企画・運営・管理事業,④スポーツ教室等への指導者の派遣及び選手育成事業を行っており,障害者に対する水泳教室や剣道教室を開催して 緩和のための各種教室・講座開催事業,③スポーツに関する各種イベントの企画・運営・管理事業,④スポーツ教室等への指導者の派遣及び選手育成事業を行っており,障害者に対する水泳教室や剣道教室を開催している。なお,被告法人は,プールを所有しておらず,市町村等が設置・管理するプールを利用するなどして上記水泳教室を開催していた(甲2,3,弁論の全趣旨)。 被告Eは,平成25年8月当時,被告法人の代表者であり,被告法人が開催する有償の水泳教室の指導者であって,平成18年6月から同水泳教室の指導を行っていた。被告Eは,一般財団法人日本スイミングクラブ協会のA級インストラクターの資格を有しており,平成10年頃に公益財団法人日本障害者スポーツ協会公認の上級障害者スポーツ指導員(以下「上級障害者スポーツ指導員」という。)の資格を取得した(乙11,被告E本人)。 (2) 水泳教室への入会等亡Cは,平成19年頃,被告法人が開催する水泳教室に入会した。被告Eは,亡Cが水泳教室に入会した当初から亡Cの指導を担当していた(甲6,乙11)。 上記水泳教室には,月会費として9000円,月に4回以上参加する場合には月会費とは別に3000円が必要であり,また,それらの費用とは別にプールの使用料金も必要であった(甲4,原告A本人)。 (3) 本件事故の概要ア亡Cは,平成25年8月14日午後6時頃からFアリーナで行われた本件水泳教室に参加した。本件水泳教室(担当指導員は被告E)には,亡Cのほか,練習生として,G(当時20代),H(当時20代),Iが参加しており,また,原告らとJ(Hの母)が練習に立ち会っていた(乙3,14)。 H及びIは,平成24年に知的障害者水泳連盟の国際大会強化選手に選出される程度の泳力があった。亡Cは,平成25 参加しており,また,原告らとJ(Hの母)が練習に立ち会っていた(乙3,14)。 H及びIは,平成24年に知的障害者水泳連盟の国際大会強化選手に選出される程度の泳力があった。亡Cは,平成25年7月に開催されたジャパン・パラリンピックの100mバタフライの予選で1分17秒の記録(標準記録1分15秒)を出す程度の泳力があった。Gは,亡Cよりも泳力があった(甲40,41,49,乙1,3,被告E本人)。 イ亡Cは,本件水泳教室での練習中,被告Eから指示された泳法と異なる 泳法で泳ぎ始めた。その後,亡Cは,プールの中にいた他の練習生によってプールサイドに引き上げられたが,意識はなく,けいれんが認められた(原告B本人,被告E本人)。 ウ Fアリーナの担当者は,平成25年8月14日午後7時頃,救急搬送を依頼し,同日午後7時9分頃,救急車が現場に到着した。亡Cは,同日午後7時33分頃,K病院に搬送されたが,同日午後8時21分に亡Cの死亡が確認された(甲12~14)。 亡Cについての死体検案書には,てんかん重積症が直接死因であると記載されている(甲15)(ただし,亡Cの死因については,後記争点(3)のとおり当事者間に争いがある。)。 (4) てんかんについての知見アてんかんとは,大脳の神経細胞が過剰に興奮することによって様々な発作を引き起こす病気である。てんかん発作は,特段の誘因がなく発症することが多いが,睡眠不足・疲労・精神的ストレス・運動が誘因となることもある(甲20,30の1)。 イてんかん発作は,①強直間代発作,②間代発作,③強直発作,④脱力発作等に分類される。①強直間代発作は,てんかん大発作とも呼ばれ,意識がある状態での発作を経ずに突然意識を消失し,強直けいれん(筋肉に力が入って硬くなったままの状態 ,②間代発作,③強直発作,④脱力発作等に分類される。①強直間代発作は,てんかん大発作とも呼ばれ,意識がある状態での発作を経ずに突然意識を消失し,強直けいれん(筋肉に力が入って硬くなったままの状態のけいれん),間代けいれん(筋肉に力が入って硬くなった状態と力が抜けた状態を規則的に繰り返すけいれん)を起こす発作,②間代発作は,全身に間代けいれんを起こす発作,③強直発作は,意識がある状態での発作を経ずに意識を消失し,身体の中心線に近い部位の強直けいれんを起こす発作,④脱力発作は,意識がある状態での発作を経ずに意識を消失し,全身の力が抜ける発作である(甲30の1)。 ウてんかん重積症とは,てんかん発作が長時間続いたり,意識を回復しないまま何度も繰り返したりする状態である。てんかん重積症は,けいれん の有無によって,けいれん性てんかん重積症と非けいれん性てんかん重積症に分類されている。そして,けいれん性てんかん重積症で,意識が回復せずに3回以上の強直間代発作を繰り返すか,又は10分以上けいれんを持続する場合には,救急搬送を依頼する必要があるとされている(甲30の1,甲52の文献11)。 2 争点(1) 被告Eの体調管理についての注意義務違反の有無(2) 被告Eの救護処置についての注意義務違反の有無(3) 因果関係(4) 相当程度の可能性の侵害の有無(5) 損害額(6) 過失相殺 3 争点についての当事者の主張(1) 争点(1)(被告Eの体調管理についての注意義務違反の有無)について(原告らの主張)ア被告Eが負っていた注意義務違反の内容次の(ア)~(カ)の事実等に照らせば,被告Eは,本件水泳教室において,亡Cの体調を慎重に管理し,練習環境を確認した上で,熱中症が発生する危険性を検討し, 被告Eが負っていた注意義務違反の内容次の(ア)~(カ)の事実等に照らせば,被告Eは,本件水泳教室において,亡Cの体調を慎重に管理し,練習環境を確認した上で,熱中症が発生する危険性を検討し,熱中症の発症を警戒すべき暑熱環境下においては,通常よりも軽度の練習にとどめたり,定期的に十分な休憩時間を設けて休憩させたり,強制的に水分補給をさせたりするなどの積極的な措置をとるべき注意義務を負っていた。 (ア) 一般に,運動する者を監督する指導者は,天候の特徴(急に暑くなったか,特に蒸し暑いか等)や練習を行う環境が,「熱中症予防運動指針」中の5段階(運動は原則中止,厳重警戒,警戒,注意,ほぼ安全)のど の段階に該当するかを確認した上で練習メニューを検討すべきである(甲31)。また,精神障害者のスポーツ指導に当たっては,身体不調や体調の変化を訴えない者が少なくないことから,運動中の表情等(チアノーゼ,発汗の様子等)を見ながら運動量を加減することが必要である(甲32)。 (イ) 亡Cは,精神障害があったため,自らの体調不良を訴えたり,自ら練習内容を調整するなどして熱中症を予防することは困難であった。 (ウ) 被告Eは,上級障害者スポーツ指導員であり,長年にわたって,有償で,障害者の水泳指導を行っていた。 (エ) 被告Eは,亡Cに対して指定居宅介護等のサービスを提供していた有限会社Lの代表取締役兼契約担当者であり,同社の業務を通じて知り得た亡Cに関する情報を利用し得る立場にあった(甲7~11)。 (オ) 平成25年8月14日午後6時時点におけるFアリーナの外気温は37.2℃,プール室温は36.0℃,プール水温(水中温度)は32. 7℃であり,環境省熱中症予防情報サイトにおいて開示されているWBGT(暑さ指数)は25.3℃であ 時点におけるFアリーナの外気温は37.2℃,プール室温は36.0℃,プール水温(水中温度)は32. 7℃であり,環境省熱中症予防情報サイトにおいて開示されているWBGT(暑さ指数)は25.3℃であって,熱中症を警戒すべき状況であった(甲16,17の1・2)。 (カ) 被告Eは,平成25年1月頃から,練習生に対して罰金の制度を課しており,同年8月10日には練習生を叱責して練習の途中で帰るなどした。これにより,同月14日の練習(本件水泳教室)は,練習生が被告Eに対して練習内容に異議を述べたり,自由なタイミングで休憩・水分補給をすることがはばかられる状況で行われた。 イそれにもかかわらず,被告Eは,平成25年8月14日に行われた本件水泳教室において,亡Cの体調を慎重に管理した上で,通常よりも軽度の練習にとどめたり,定期的に十分な休憩時間を設けて休憩させたり,強制的に水分補給をさせたりするなどの積極的な措置をとっておらず,上記注 意義務に違反した。 ウこれに対し,被告らは,平成25年8月14日の練習前に亡Cに体調不良等を申告させるようにしていた旨主張するが,被告法人開催の水泳教室でそのような申告の機会が設けられたことはなく,仮にそのような機会が設けられていたとしても,中等度精神遅滞等の精神障害を有する亡Cが自らの体調不良を訴えることは困難であり,自己申告による体調管理に意味はない。 また,被告らは,平成25年8月14日の練習メニューが過酷ではなかった旨主張するが,ウォーミングアップの後すぐに2000mの距離を僅かな休憩を挟みながら全力で泳ぎ続けることは相当過酷な練習であったというべきである。 (被告らの主張)ア被告Eが,平成25年8月14日当時,スポーツ指導者として,亡Cの体調を管理すべき抽象的な義務を負って がら全力で泳ぎ続けることは相当過酷な練習であったというべきである。 (被告らの主張)ア被告Eが,平成25年8月14日当時,スポーツ指導者として,亡Cの体調を管理すべき抽象的な義務を負っていたことは認める。 イしかし,次の(ア)~(ウ)の事実等に照らせば,被告Eに上記注意義務違反はなかったというべきである。 (ア) 亡Cが被告Eの指示と異なる泳法で泳ぎ始めたのは1800mを泳いだ時点であるが,亡Cは平成25年当時2時間の練習時間内に5000mを泳ぐこともあったのであるから,当日の練習が過酷であったとはいえない。 (イ) 被告Eは,平成25年8月14日,練習が一区切りつくたびに練習生に休息をとらせており,30分おきに休息をとらせていた。 (ウ) 被告Eは,平成25年8月14日,プール到着後,ロビーでの待ち時間を利用して,練習生の体調不良等についての申告を受けるようにしていた。亡Cは,同日,体調不良を訴えることはなかった。 (2) 争点(2)(被告Eの救護処置についての注意義務違反の有無)につ いて(原告らの主張)ア被告Eが負っていた注意義務違反の内容次の(ア)~(カ)の事実等に照らせば,被告Eは,亡Cがプールサイドに引き上げられ,意識がない状態でのけいれんが認められた時点で,亡Cが熱中症を発症していることを疑い,速やかに,救急車を要請した上で,亡Cを涼しいところに運び,身体冷却を行うなどの応急処置を行うべき注意義務を負っていた。 (ア) 一般に,暑い時期の運動中に熱中症が疑われるような症状がみられた場合,まずは熱中症を発症しているか否かを判断する必要があり,応答が鈍い,言動がおかしいなどの意識障害が少しでもみられた場合には,速やかに救急搬送を依頼した上で,対象者 疑われるような症状がみられた場合,まずは熱中症を発症しているか否かを判断する必要があり,応答が鈍い,言動がおかしいなどの意識障害が少しでもみられた場合には,速やかに救急搬送を依頼した上で,対象者を涼しいところに運び,身体冷却を行うことが必要である(甲31)。 (イ) 公益財団法人日本障害者スポーツ協会が編集する『障害者スポーツ指導教本初級・中級〈改訂版〉』(平成24年)(甲32)では,暑い環境下で生ずる不具合については「熱中症」を疑うことが大切なポイントであるとされており,意識障害・けいれん・運動障害・高体温が認められた場合には上記(ア)のような応急処置をとるべきであるとされている。 (ウ) 被告Eは,上級障害者スポーツ指導員であり,長年にわたって,有償で,障害者に対する水泳の指導に当たっていた。 (エ) 平成25年8月14日午後6時時点におけるFアリーナの外気温は37.2℃,プール室温は36.0℃,プール水温(水中温度)は32. 7℃であり,環境省熱中症予防情報サイトにおいて開示されているWBGT(暑さ指数)も25.3℃であり,熱中症を警戒すべき状況であった。 (オ) 亡Cは,意識がない状態でのけいれんが発生する直前,①シャドース トロークを行っていた際に大量の汗をかいて息切れし(亡Cが大量の汗をかいていたことは,K病院で行われた血液検査の結果からも推測される。),②被告Eの指示に対する反応が鈍くなり,③近くに置かれていたボトルからスポーツドリンクを飲んだ後,少し離れた位置にあるウォータークーラーまで水を飲みに行き,④被告Eから指示された泳法とは異なる泳法で泳いだりするなどしていたが,これらの行動等は熱中症を疑わせるものであった。 (カ) 亡Cには,プールサイドに引き上げられた際,体温の上昇,けいれん及び意識 告Eから指示された泳法とは異なる泳法で泳いだりするなどしていたが,これらの行動等は熱中症を疑わせるものであった。 (カ) 亡Cには,プールサイドに引き上げられた際,体温の上昇,けいれん及び意識消失の症状が認められた。 イそれにもかかわらず,被告Eは,亡Cがプールサイドに引き上げられた際,亡Cが熱中症を発症していることを疑わず,速やかに救急搬送を依頼したり,亡Cを涼しいところに運んだり,身体冷却を行ったりすることをしておらず,上記注意義務に違反した。 ウこれに対し,被告らは,亡Cのけいれんがてんかんによるものだと疑った旨主張する。しかし,暑熱環境下における運動中にけいれんが発生した場合,まずは熱中症の発症を疑うべきであって,てんかん発作によるけいれんであると即断すべきではない。また,平成25年8月14日に亡Cに認められたけいれんの態様は,強直間代発作の態様(甲30の2参照)とは異なるものであり,同日以前の練習中に亡Cに生じたてんかん発作の態様とも異なっていた。 (被告らの主張)ア被告Eが,平成25年8月14日当時,スポーツ指導者として,亡Cに対し,熱中症に対応した救急処置を行うべき抽象的な義務を負っていたことは認める。 イしかし,次の(ア)~(ウ)の事実等に照らせば,被告Eは,平成25年8月14日当時の具体的状況下において,亡Cに対して熱中症に対応した救急 処置を行うべき注意義務を負っていなかったというべきである。 (ア) 原告らは,亡Cがプールサイドに引き上げられた際に体温上昇があった旨主張するが,少なくとも亡Cがプールサイドにいた段階において,体温上昇は認められなかった。 (イ) 原告らは,亡Cがプールサイドでシャドーストロークを行っていた際に大量の汗をかいていた旨主張するが,そ るが,少なくとも亡Cがプールサイドにいた段階において,体温上昇は認められなかった。 (イ) 原告らは,亡Cがプールサイドでシャドーストロークを行っていた際に大量の汗をかいていた旨主張するが,そのような事実はなかった。 (ウ) 被告Eは,プールサイドに引き上げられた亡Cのけいれんをてんかん発作から生じたものと考えた。そして,被告Eは,平成23年以降,亡Cが練習中に強直間代発作を起こした様子を数回見ており,上記けいれんがてんかん発作から生じたものと考えたことも当然であった。 ウまた,被告Eは,亡Cの異変に気付いてからは直ちに原告Aに対して亡Cを止めるように呼び掛け,亡Cを引き上げてからは直ちに救急搬送を依頼しようとした(この救急搬送の依頼は,原告らの意向で行われなかった。)のであって,その当時に行うことができることは全て行った。 (3) 争点(3)(因果関係)について(原告らの主張)ア亡Cの死因亡Cの直接の死因は,本件水泳教室での練習中に発症した熱中症であり,てんかん重積症が直接死因であるとの死体検案書(甲15)の記載は誤りである。 イ争点(1)の注意義務違反と亡Cの死亡との間の因果関係一般に,熱中症は,適切な措置を講じることによって予防することができ,平成25年の時点で,熱中症の予防法が広く提唱されていた。そうすると,仮に,被告Eが,亡Cの体調を慎重に管理し,練習環境を確認した上で熱中症が発生する危険性を検討し,通常よりも軽度の練習にとどめたり,定期的に十分な休憩時間を設けて休憩させたり,強制的に水分補給を させたりするなどの積極的な措置をとっていたならば,亡Cが熱中症を発症することはなく,亡Cが死亡することもなかった。 ウ争点(2)の注意義務違反と亡Cの死亡との間の因 補給を させたりするなどの積極的な措置をとっていたならば,亡Cが熱中症を発症することはなく,亡Cが死亡することもなかった。 ウ争点(2)の注意義務違反と亡Cの死亡との間の因果関係現場における熱中症への応急処置の方法は,平成25年の時点で,既に確立していた。そうすると,仮に,被告Eが,亡Cの意識がない状態でのけいれんが認められた際に速やかに救急搬送を依頼し,亡Cを涼しいところに運び,身体冷却を行っていたならば,亡Cが死亡することはなかった。 (被告らの主張)ア亡Cの直接死因はてんかん重積症である(甲15)。亡Cが熱中症を発症していたこと,熱中症が亡Cの死亡に影響したことが立証されていない。 イ仮に,亡Cの死亡が熱中症を原因とするものであったとしても,被告Eの争点(1)及び(2)の注意義務違反と亡Cの死亡との間の因果関係は立証されていない。 (4) 争点(4)(相当程度の可能性の侵害の有無)について(原告らの主張)仮に,被告Eの争点(1)及び争点(2)の注意義務違反と亡Cの死亡との間の因果関係が認められないとしても,平成25年当時において熱中症の発症や重篤化を予防するための方法が定着していたことからすれば,被告Eの争点(1)及び争点(2)の注意義務違反がなかったならば,亡Cが平成25年8月14日午後8時21分時点で生存していた相当程度の可能性があった。 そして,上記の亡Cの相当程度の生存可能性は,保護法益として認められるべきである。 (被告らの主張)原告らの主張は否認し,又は争う。 (5) 争点(5)(損害額)について (原告らの主張)上記各注意義務違反と相当因果関係のある原告らの損害額は,次のア~エのとおり,合計5501万4601円である。 ア (5) 争点(5)(損害額)について (原告らの主張)上記各注意義務違反と相当因果関係のある原告らの損害額は,次のア~エのとおり,合計5501万4601円である。 ア亡Cの損害額本件患者の損害額の合計は4251万4601円であり,原告らは,法定相続分に応じて亡Cの被告らに対する損害賠償請求権を承継した。 (ア) 死亡逸失利益亡Cは死亡当時24歳であり,就労可能年数は43年である。本件患者の死亡当時の年収は,116万1185円であった。また,亡Cは,年額78万6500円の国民年金(障害基礎年金)を受給しており,79歳(平均余命)までの55年間にわたって上記国民年金を受給し続けていたはずである。そして,亡Cの生活費控除率は50%が相当である。 したがって,亡Cの死亡逸失利益は,1751万4601円(=116万1185円×17.5459〔43年のライプニッツ係数〕×0. 5+78万6500円×18.6334〔55年のライプニッツ係数〕×0.5)である。 (イ) 死亡慰謝料亡Cが被った精神的苦痛を慰謝するためには,2500万円が相当である。 イ葬儀費用原告らは,亡Cの葬儀費用として,それぞれ75万円の損害を被った。 ウ原告ら固有の慰謝料原告らが被った精神的苦痛を慰謝するためには,それぞれ300万円が相当である。 エ弁護士費用原告らが請求することができる弁護士費用は,それぞれ250万円が相 当である。 (被告らの主張)原告らの主張は否認し,又は争う。 (6) 争点(6)(過失相殺)について(被告らの主張)次のア~キの事実等に照らせば,仮に,被告Eに注意義務違反があるとされる場合であっても,原告らの過失を考慮して,損害賠償 又は争う。 (6) 争点(6)(過失相殺)について(被告らの主張)次のア~キの事実等に照らせば,仮に,被告Eに注意義務違反があるとされる場合であっても,原告らの過失を考慮して,損害賠償の額が定められるべきである。 ア原告らは,本件水泳教室に先立って,被告Eに対し,亡Cに熱中症の既往症があったことについて詳しい報告をしていなかった。 イ原告らは,本件水泳教室に先立って,被告Eに対し,亡Cに対して処方されているてんかんの治療薬によって熱中症類似の症状が出現することがある旨を申告していなかった。 ウ本件水泳教室は,原告らの要望を受けて行われたものであった。 エ原告Bは,亡Cがシャドーストローク中に大量に発汗しているのを見たなどと供述する。仮にそれが事実であれば,原告Bは,被告Eに対し,亡Cに対して休憩や給水をさせるように進言すべきであったが,そのような進言をしなかった。 オ原告Bは,亡Cが被告Eの指示と異なった泳法で泳ぎ始めた時点で,被告Eに対し,亡Cを積極的に止めるように進言すべきであったところ,原告Bはそのような進言をしなかった。 カ原告らは,亡Cがプールサイドに引き上げられた後,救急搬送の依頼を一度断った。 キ原告らは,本件水泳教室に立ち会っていたのであるから,亡Cの体調等を管理すべき義務を負っていた。 (原告らの主張) 被告らの主張は否認し,又は争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は,次のとおりである。 (1) 亡Cの障害の状態及びその程度等ア亡Cは,生後9箇月時に結節性硬化症と診断され,同疾患によって併発する自閉傾向,中等度精神遅滞等の精神障害があり,障害等級は1級であっ る。 (1) 亡Cの障害の状態及びその程度等ア亡Cは,生後9箇月時に結節性硬化症と診断され,同疾患によって併発する自閉傾向,中等度精神遅滞等の精神障害があり,障害等級は1級であった。 イ亡Cは,平成4年頃から,結節性硬化症の治療を目的として,M病院に通院していた(同年頃~平成25年6月頃は主に小児科を受診し,同月頃以降は主に神経科精神科を受診した。)(甲21,22)。 亡Cは,平成25年当時,抗不安薬(セルシン)や抗てんかん薬(マイスタン)を服用していた。 M病院の小児科の担当医師は,平成25年6月頃,同病院の神経科精神科の担当医師に対し,亡Cの症状について,生後9箇月頃に全身けいれん発作があったが,幼少期から同月頃まではけいれんは認められず,泳いでいる途中で動かなくなることがあるのみであった旨伝達した(同病院の診療録には,同月13日に全般強直間代発作の治療を開始した旨の記載があるが,上記伝達内容を踏まえて検討すると,上記記載は,亡Cについて,同日以前に強直間代発作が認められたことを示す趣旨の記載ではないと解される。)(甲22)。 ウ亡Cは,平成23年5月以降,被告法人が開催する水泳教室において,シュノーケルを用いた練習中に沈んだり,練習中に指示を聞かなくなったり,泳法が途中で変わったり,泳いでいる途中で立ち止まったりすることがあった(甲35~38,乙5,12,14,証人J,原告B本人,被告 E本人)。 (2) 被告Eの知識等ア被告Eは上級障害者スポーツ指導員の資格を有する者であるが,障害者スポーツ指導員は,その資格を取得しようとする者が,公益財団法人日本障害者スポーツ協会に対して申請を行い,同協会から推薦を受けて取得する資格である。初級障害者スポーツ指導員の資格を取得 るが,障害者スポーツ指導員は,その資格を取得しようとする者が,公益財団法人日本障害者スポーツ協会に対して申請を行い,同協会から推薦を受けて取得する資格である。初級障害者スポーツ指導員の資格を取得するためには,実技を含む講習を4日間程度受ける必要があり,中級障害者スポーツ指導員の資格を取得するためには,初級障害者スポーツ指導員の資格を取得してから2年以上が経過した後,実技を含む講習を80時間程度受ける必要がある。そして,上級障害者スポーツ指導員の資格を取得するためには,中級障害者スポーツ指導員の資格を取得してから2年以上が経過した後,講習を10日間程度受ける必要がある(被告E本人)。 イ被告Eは,平成23年1月16日,大阪障害者スポーツ指導者協議会が主催する,発汗時の脱水とその対処法についての知識の取得を目的とする研修会に参加した(乙11,13の1・2,被告E本人)。 被告Eは,平成25年当時,暑熱環境下での運動に際して熱中症の発症に注意しなければならないこと,水泳は発汗量が多い運動であるため水分補給が特に重要であること等の知識を有していた(甲32,乙11,被告E本人)。 (3) 練習状況等ア亡Cは,平成19年頃,被告法人が開催する水泳教室に入会した。被告Eは,亡Cが水泳教室に入会した当初から,亡Cの指導を担当していた。 イ亡Cは,平成25年頃,被告法人が開催する水泳教室に週4回(基本的に火曜日・木曜日・金曜日・土曜日)参加していた。上記水泳教室は,毎回約2時間行われ,練習生は,1回の練習で3000~4000mの距離を泳ぐことが多かったが,5000mの距離を泳ぐこともあった(甲42, 乙1,2の1~6)。 また,原告Bは,上記水泳教室の終了後,亡Cと共にプールに残り,亡Cに居残り練習 mの距離を泳ぐことが多かったが,5000mの距離を泳ぐこともあった(甲42, 乙1,2の1~6)。 また,原告Bは,上記水泳教室の終了後,亡Cと共にプールに残り,亡Cに居残り練習をさせることがあった(原告B本人)。 ウ被告Eは,平成22年頃から練習中にため息をついた練習生に対して50円の罰金を課していたところ,平成25年1月頃には「金ブタのルール!」という題の紙を練習生に渡すなどして,練習生に対し,「無理」,「しんどい」等の「マイナスの言葉」を用いた場合には50円,「無断欠席」,「無断遅刻」には200円の罰金をそれぞれ課していた(甲49,58,原告B本人)。 (4) 平成25年7月下旬~8月下旬の気象状況等平成25年は例年にない猛暑で,同年7月下旬~8月下旬にかけて,降水量も少なく,気象庁も「高温注意情報」を発表し,新聞やテレビにおいても熱中症への注意が呼び掛けられていた(甲18,50)。 (5) 平成25年8月1日~同月12日の練習状況等ア平成25年8月1日の練習状況等亡Cは,平成25年8月1日午後6時頃~午後8時頃,被告法人が大阪市a区所在のNプールで開催した水泳教室に参加し,合計5200mを泳いだ。上記水泳教室が開催されていた時間帯のNプールは,室温が約30. 5℃,湿度が約70%,水温が約29℃であった(甲43の1,55,56,乙1,2の3,4の8)。 イ平成25年8月2日の練習状況等亡Cは,平成25年8月2日午後6時頃~午後8時頃,被告法人がNプールで開催した水泳教室に参加し,合計4400mを泳いだ。上記水泳教室が開催されていた時間帯のNプールは,室温が約29.8℃,湿度が約64%,水温が約28.8℃であった(甲43の2,乙1,2の4,4の8)。 泳教室に参加し,合計4400mを泳いだ。上記水泳教室が開催されていた時間帯のNプールは,室温が約29.8℃,湿度が約64%,水温が約28.8℃であった(甲43の2,乙1,2の4,4の8)。 ウ平成25年8月4日の練習状況等亡Cは,平成25年8月4日午後5時頃~午後7時頃,被告法人がNプールで開催した水泳教室に参加し,合計3520mを泳いだ。上記水泳教室が開催されていた時間帯のNプールは,室温が約30.0℃,湿度が約64%,水温が約28.8℃であった(甲43の3,乙1,2の5,4の8)。 エ平成25年8月6日の練習状況等亡Cは,平成25年8月6日午後7時15分頃~午後8時15分頃,被告法人がOスポーツセンターのプールで開催した水泳教室に参加した(乙1,4の8)。 オ平成25年8月8日の練習状況等亡Cは,平成25年8月8日午後6時頃~午後8時頃,被告法人がFアリーナのプールで開催した水泳教室に参加した。上記水泳教室が開催されていた時間帯のFアリーナのプールは,室温が約34.5℃,水温が約31.5℃であった(甲44の1,乙1,4の8)。 亡Cは,平成25年8月8日,被告Eの指導の下,ウォーミングアップとして200mを約5分間かけて泳ぎ,次に,クロールで100mを10本泳ぐ練習(2分間で1本泳ぎ,余った時間は休憩することができる。),その次に専門種目(亡C及びIの専門種目はバタフライ)で100mを10本泳ぐ練習(約2分間で1本泳ぎ,余った時間は休憩することができる。)を行うなど,合計4500mの距離を泳いだ(以下「本件練習メニュー」という。乙2の6)。 平成25年8月8日の水泳教室には,元高校体育教師であるP(以下「Pコーチ」という。)がコーチ ができる。)を行うなど,合計4500mの距離を泳いだ(以下「本件練習メニュー」という。乙2の6)。 平成25年8月8日の水泳教室には,元高校体育教師であるP(以下「Pコーチ」という。)がコーチとして参加し,Pコーチが上記練習メニューを考案した。練習生は,同日,上記練習メニューを十分にこなすことができなかった(甲49,乙11,原告B本人,被告E本人)。 カ平成25年8月9日の練習状況等亡Cは,平成25年8月9日午後5時頃~午後7時頃,被告法人がNプールで開催した水泳教室に参加した。上記水泳教室が開催されていた時間帯のNプールは,室温が約31.0℃,湿度が約63%,水温が約29. 0℃であった(甲43の4,乙1,4の8)。 キ平成25年8月10日の練習状況等亡Cは,平成25年8月10日午前10時40分頃~午後1時頃,被告法人がFアリーナのプールで開催した水泳教室に参加した。上記水泳教室が開催されていた時間帯のFアリーナのプールは,室温約34.5℃,水温約31.5℃であった(甲44の2,乙4の8)。 被告Eは,平成25年8月10日の水泳教室において,遅刻してきたIを叱責して,同日午後0時30分頃,練習に立ち会っていた原告Bにその後の練習の監督を依頼し,上記水泳教室に参加していた練習生(H,I,G,Q,亡C)を残してその場を立ち去った。被告Eが水泳教室の練習の途中でその場を立ち去ったのは,同日が初めてであった(甲49,被告E本人)。 被告Eは,平成25年8月10日午後1時30分頃,同日の水泳教室を途中で帰ったことについて,原告Bを含む練習生の親(J,R,S,T)に対し,①練習生がだらけているとしか考えられない,②練習生には,被告Eをコーチとして受け入れることができないのであれば,他のコーチを探 帰ったことについて,原告Bを含む練習生の親(J,R,S,T)に対し,①練習生がだらけているとしか考えられない,②練習生には,被告Eをコーチとして受け入れることができないのであれば,他のコーチを探しなさいと伝えているので,家で話し合ってみてほしい,③年甲斐もなくとも思ったが,この時間を過ごすことができればいいかという気持ちは持ち合わせておらず,後の練習を原告Bに任せて帰った旨を記載した電子メールを送信した(甲45,49)。 上記電子メールに対し,Tは,平成25年8月10日午後2時頃,被告Eに対し,①被告Eに水泳指導以外のこともお願いしていて申し訳ないと 思っている,②被告Eの考えに沿わないことがあればはっきりと言ってもらいたい旨の電子メールを返信した。また,原告Bは,同日の夕方,Sに対し,①練習の前半に出し切っていなかった練習生は,いくら反省しても練習の後半にペースアップすることはできず,同日の練習の後半は,ただ20本を泳いだだけという印象である,②ほんの序の口のインターバル練習で弱音を吐く練習生(亡Cを含む)の心技体をどのように導くか,被告Eも試行錯誤しているのだろうと思う旨を記載した電子メールを送信した(甲46,乙9,原告B本人)。 ク平成25年8月12日の練習状況等亡Cは,平成25年8月12日,機具を用いた筋力トレーニングを1時間程度行った(乙4の8)。 亡Cを含む練習生は,平成25年8月12日の上記トレーニング終了後,Jから被告Eに再度コーチをお願いするかどうかを尋ねられ,被告Eに対して土下座をした(甲49,50,原告A本人,原告B本人)。 (6) 本件水泳教室の状況,本件事故の状況ア平成25年8月14日に練習を行うことになった経緯被告法人が開催する水泳教室は,例年,8月14 9,50,原告A本人,原告B本人)。 (6) 本件水泳教室の状況,本件事故の状況ア平成25年8月14日に練習を行うことになった経緯被告法人が開催する水泳教室は,例年,8月14日頃には開催されていなかったが,亡Cが平成25年8月17日になみはやマスターズ水泳選手権(健常者と障害者が一緒に泳ぐ大会)に出場する予定であり,Iも同日からINAS(アイナス:国際知的障害者スポーツ連盟)がニューカレドニアで開催する大会に出場する予定であったことから,同月14日,Fアリーナにおいて本件水泳教室が開催された(乙4の8,11,証人J,原告B本人,被告E本人)。 イ亡Cの平成25年8月14日の体調亡Cは,平成25年8月14日の朝,体調に変わったところはなく,職場を出て同日午後6時頃にFアリーナのプールに到着した際にも,少なく とも外観上,体調不良は認められなかった(甲50,乙3,証人J,原告A本人)。 ウ本件水泳教室の練習内容等(ア) 参加者等本件水泳教室(指導担当者は被告E)には,亡Cの他に,練習生として,G,H,Iが参加しており,練習生の親として原告らとJが練習に立ち会っていた。 亡Cは,本件水泳教室に参加した練習生の中で,Gに次いで泳力があった(被告E本人)。 (イ) 練習環境平成25年8月14日午後6時頃のFアリーナのプールは,外気温が約37.2℃,室温が約36.0℃,水温が約32.0℃であった。また,Fアリーナのプールでは湿度が計測されていなかったが,同プールが温水プールであること,同じく温水プールであるNプールの平成25年8月1日,2日,4日,9日の湿度が60~70%であったことからすれば,同月14日のFアリーナのプールの湿度も相当 ったが,同プールが温水プールであること,同じく温水プールであるNプールの平成25年8月1日,2日,4日,9日の湿度が60~70%であったことからすれば,同月14日のFアリーナのプールの湿度も相当程度に高かったものと推測される(甲16)。 被告Eは,本件水泳教室の練習メニューを決める際,Fアリーナのプールの水温が他のプールと比較して高めに設定されていること,室温が高いことを認識していた。なお,Fアリーナのプールでは,平成25年8月14日時点で,水温・室温の表示はされていなかった(乙11,被告E本人)。 (ウ) 練習メニュー等被告Eは,本件水泳教室において,Pコーチが後日練習に参加した際に練習生が本件練習メニューをこなすことができるようにするため,平成25年8月8日に練習生がこなすことができなかった本件練習メニュ ーを行わせることとした。被告Eは,本件水泳教室において,水分補給を禁止することはなく,水分補給をするように声を掛けることはあったが,休憩をするための時間を設けるなどの措置はとっていなかった(乙2の6,11,被告E本人)。 エ本件水泳教室の練習状況等(ア) 亡Cは,本件水泳教室において,被告Eの指導の下,ウォーミングアップとして200mを約5分間かけて泳ぎ,次に,クロールで100mを10本泳ぐ練習(2分間で1本を泳ぎ,余った時間は休憩することができる。),その次に専門種目(亡C及びIの専門種目はバタフライ)で100mを10本泳ぐ練習(2分間で1本を泳ぎ,余った時間は休憩することができる。)(本件練習メニュー)を行った(乙11,被告E本人)。 本件水泳教室においては,別紙の斜線部分のコースが使用された。そして,練習開始時,原告B,被告E,Jは,別紙の①の位置におり,原告Aは )(本件練習メニュー)を行った(乙11,被告E本人)。 本件水泳教室においては,別紙の斜線部分のコースが使用された。そして,練習開始時,原告B,被告E,Jは,別紙の①の位置におり,原告Aは,別紙の②の位置にいた(乙3,証人J,原告A本人,原告B本人,被告E本人)。 (イ) 被告Eは,亡C及びIが専門種目(バタフライ)の6~7本目を泳いだ辺りで,亡C及びIに対し,リズムが遅いのでフォームを修正するようになどと言って,プールサイドでシャドーストロークを行うように指示した。亡C及びIは,被告Eの上記の指示に従い,プールサイドでシャドーストロークを行った。亡Cは,別紙の③の位置でシャドーストロークを行った(乙3,11,証人J,被告E本人)。 (ウ) 被告Eは,G及びHが専門種目の10本目をスタートした時点で,亡C及びIに対し,シャドーストロークを中断してバタフライで100mを泳ぐように指示した。Iは,被告Eの上記指示を受けてすぐに準備を始めた。これに対し,亡Cは,被告Eの上記指示を受けたにもかかわら ず,近くに置いてあったボトルからスポーツドリンクを少し飲んだ上で,プールサイドに設置されていたウォータークーラーで水を飲むなどしていた。その後,原告Bは,コースに戻ってきた亡Cに対し,「Iはもう行ったで。」などと声を掛けた。亡Cは,原告Bの呼び掛けには反応せず,プールに入り,被告Eから指示されたバタフライではなくクロールで泳ぎ始めた(甲49,乙11,原告B本人,被告E本人)。 (エ) 被告Eは,亡Cが指示した泳法とは違う泳法で泳ぎ始めたことを受け,原告Bに対し,「あれっ,発作かな。」などと言った。これに対し,原告Bは,亡Cが指示された泳法で泳ぎ始めた原因がてんかん発作だったかどうかは分からなかったため,明確な回答はせず ぎ始めたことを受け,原告Bに対し,「あれっ,発作かな。」などと言った。これに対し,原告Bは,亡Cが指示された泳法で泳ぎ始めた原因がてんかん発作だったかどうかは分からなかったため,明確な回答はせず,「いつもより速い」などと言った(甲49,乙11,原告B本人,被告E本人)。 (オ) 亡Cは,プールの対岸でターンして合計100mを泳いだ辺りでプールの中にいた練習生に止められ,プールサイド(別紙の④の位置)に引き上げられた。亡Cは,プールサイドに引き上げられた際,意識がなく,仰向けに寝て,肘のところで手を90度くらい曲げ,足を伸ばし,小刻みに震えるような様子であった。プールサイドに横たわっている亡Cに対し,原告Bは,亡Cの顔の近くで亡Cの体を触りながら「C,C,大丈夫。」などと声を掛け,被告Eは,けいれんがてんかん発作によるものであると考え,亡Cの胸と腕をさするなどしており,原告A及びJは,亡Cの足をさするなどしていた。また,原告Bは,亡Cに対し,スポーツドリンクを飲ませようとしたが,亡Cがむせたため,スポーツドリンクを飲ませることはできなかった。なお,被告Eは,亡Cの体温の確認などは行わなかった(甲49,50,乙3,11,証人J,原告A本人,原告B本人,被告E本人)。 オ救急搬送が依頼されるまでの経緯亡Cがプールサイドに引き上げられた直後(平成25年8月14日午後 6時58分頃),Fアリーナの監視員が,原告らに対し,救急車を呼ぼうかなどと声を掛けた。これに対し,原告Bは,ちょっと待ってくださいなどと発言した。その後,被告Eは,Fアリーナのコーチ室に行き,同日午後7時頃,救急搬送が依頼された(甲12,49,乙11,原告B本人,被告E本人)。 (7) 救急車要請後の経緯ア救急隊員が現場に到着した際の 告Eは,Fアリーナのコーチ室に行き,同日午後7時頃,救急搬送が依頼された(甲12,49,乙11,原告B本人,被告E本人)。 (7) 救急車要請後の経緯ア救急隊員が現場に到着した際の状況救急隊は,平成25年8月14日午後7時9分頃,亡Cが倒れている現場に到着した。救急隊が現場に到着した際,亡Cは,JCS(ジャパン・コーマ・スケール)300(刺激をしても覚醒しない状態で,痛み刺激に全く反応しない状態)で,プールサイドに仰向けの状態で横になっており,けいれんが認められた(甲13)。 イ亡Cの救急搬送時の状況等亡Cは,平成25年8月14日午後7時13分頃,救急車に乗せられ,同日午後7時33分頃,K病院に搬送された。亡Cは,K病院に搬送されるまで,JCS300の状態でけいれんが継続しており,搬送中の体温は39.5℃,K病院搬送時の体温は41.9℃であった。亡Cは,同日午後7時44分頃,心停止となった(甲13,14)。 ウ亡Cの検査数値亡Cは,平成25年8月14日午後7時43分頃,K病院において,血液検査(以下「本件血液検査」という。)を受けた。本件血液検査の結果は,次のとおりであった(甲14,52,57)。 (ア) Na(血清ナトリウム:脱水症状の有無の検査に有効な指標)150mEq/ℓ(基準範囲:134.5~148.4mEq/ℓ)(イ) AST(肝機能障害の有無の検査に有効な指標)64u/ℓ(基準範囲:7~38u/ℓ) (ウ) LDH(肝機能障害の有無の検査に有効な指標)300u/ℓ(基準範囲:101~202u/ℓ)(エ) Cr(CRE:腎機能障害の有無の検査に有効な指標)2.3㎎/dℓ(基準範囲:0.75~1.24㎎/dℓ)(オ) CK(CPK:筋原性酵素)611μ/ℓ(基 囲:101~202u/ℓ)(エ) Cr(CRE:腎機能障害の有無の検査に有効な指標)2.3㎎/dℓ(基準範囲:0.75~1.24㎎/dℓ)(オ) CK(CPK:筋原性酵素)611μ/ℓ(基準範囲:50~200μ/ℓ)(カ) Dダイマー(血液凝固異常の有無の検査に有効な指標)1.16μg/mℓ(基準範囲:0~0.72μg/mℓ)エ亡Cの死亡亡Cは,平成25年8月14日午後8時21分,死亡した(甲14)。 オ亡Cの解剖U医師は,平成25年8月15日午前8時10分頃,V警察署の担当警察官から依頼を受け,亡Cの解剖を行った。U医師は,上記解剖の結果,亡Cの直接死因はてんかん重積症であると判断した(甲15)。 (8) 熱中症についての知見等ア熱中症の分類及びそれに応じた対処方法等熱中症とは,暑熱環境で発生する障害の総称であり,日本救急医学会において,その重症度に応じてⅠ度~Ⅲ度(Ⅲ度が最も重症)に分類されている。各重症度の内容は次のとおりである(甲51の1・2,52,乙17,22)。 (ア) 重症度Ⅰ度(臨床症状からは,熱けいれん・熱失神に分類される。)症状として,めまい,立ちくらみ,生あくび,大量の発汗,筋肉痛,筋肉の硬直(こむら返り)が認められ,意識障害が認められない状態である。現場での治療で対応可能とされる。 (イ) 重症度Ⅱ度(臨床症状からは,熱疲労に分類される。)症状として,頭痛,嘔吐,倦怠感,虚脱感,集中力・判断力の低下が 認められる。医療機関での診察が必要であるとされる。 (ウ) 重症度Ⅲ度(臨床症状からは,熱射病に分類される。)中枢神経症状(意識障害,小脳症状,けいれん症状),肝・腎機能障害(入院経過観察・入院加療が必要な程度の肝又は腎障害) であるとされる。 (ウ) 重症度Ⅲ度(臨床症状からは,熱射病に分類される。)中枢神経症状(意識障害,小脳症状,けいれん症状),肝・腎機能障害(入院経過観察・入院加療が必要な程度の肝又は腎障害),血液凝固異常のうちいずれかに該当する場合である。入院加療(場合によっては集中治療)が必要とされる。重症度Ⅲ度の熱中症(熱射病)は,体温調節が破綻し,過度に体温が上昇(40℃以上)し,脳機能に異常が生じた状態であり,死亡事故につながることもある(甲31)。 イ WBGT(暑さ指数)についてWBGT(暑さ指数)とは,暑さに関する環境因子のうち気温,湿度,輻射熱の3因子を取り込んだ指標であり,熱中症予防の温度指標として有効であるとされている(甲17の1,31)。 ウ熱中症予防・対処についての一般的な知見公益財団法人日本体育協会は,スポーツ活動中の熱中症による死亡事故等が発生していることを踏まえ,その防止を目的として,平成3年に「スポーツ活動における熱中症事故予防に関する研究班」を設置し,その研究成果を踏まえ,平成6年に「熱中症予防運動指針」を作成・発表した。また,公益財団法人日本体育協会は,同年,上記指針に解説を付した『スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック』を発行した。同ガイドブックにおいては,気温・湿度が高いほど熱中症の危険は高くなるため,環境条件に応じて運動強度を調節し,適宜休息をとり,適切な水分補給を行うことが大切であるとされており,自由に水分補給をすることができる環境を整えることが大切であるとしている。また,暑い時期の運動中に熱中症が疑われるような症状がみられた場合,応答が鈍い,言動がおかしいなどの意識障害が少しでもみられた場合には,速やかに救急搬送を依頼し,対象者を涼しいところに運び,身体冷却を行うことが必要で 中に熱中症が疑われるような症状がみられた場合,応答が鈍い,言動がおかしいなどの意識障害が少しでもみられた場合には,速やかに救急搬送を依頼し,対象者を涼しいところに運び,身体冷却を行うことが必要であるとされている(甲 31)。 また,運動中の水分補給の方法について,練習生の好きなときに給水することができるようにする方法(自由飲水)と給水のための時間を設けて強制的に給水させる方法(強制飲水)があるが,自由飲水は練習生が熱中症に対する知識を持っていることが前提となるため,熱中症予防の観点からは,強制飲水の方が安全であるとする指摘もされている(甲54)。 エ水泳指導についての一般的な知見公益財団法人日本水泳連盟が作成し,平成22年4月1日から施行されているプール公認規則によれば,公認プール(公益財団法人日本水泳連盟が公式競技会及び公認競技会に使用する適格があると認めたプール〔プール公認規則2条〕)の条件として,水温が競技中を通じて常に25~28℃に保たれるような設備が必要とされている(プール公認規則31条)(甲52の文献9)。 公益財団法人日本水泳連盟は,平成14年5月,『水泳指導教本〔初版〕』を発行し,平成17年5月,『水泳指導教本〔第2版〕』(以下「水泳指導教本」という。甲52の文献10)を発行した。水泳指導教本では,水温について,多くのプールの水温は約30℃に設定されているが,競技を行う際のプールの水温としては約27℃が適温であるとしており,屋外プールについて,「水温+気温」が,①40℃以下は不適,②40~45℃はやや不適,③45~50℃はやや適,④50~55℃は適,⑤60℃前後は最適,⑥65℃以上は不適(日射病や熱射病に注意)とされている(甲52の文献10)。 オ知的障害 不適,②40~45℃はやや不適,③45~50℃はやや適,④50~55℃は適,⑤60℃前後は最適,⑥65℃以上は不適(日射病や熱射病に注意)とされている(甲52の文献10)。 オ知的障害者のスポーツ指導についての一般的知見等知的障害者のスポーツ指導に関し,休憩時間について「休む」ということが理解し難い者も多く,情緒の安定には具体的な指導者の動きと指示が必要であるとされる。また,知的障害者の中には,身体不調や変化を訴え ない者も少なくなく,運動展開中の表情(チアノーゼ,発汗の様子等)を観察しながら運動量を加減することが必要であるとされている(なお,身体所見は,熱中症の治療に当たって注意すべき点の1つであるとされている。)(甲32,52の文献4)。 2 事実認定の補足説明(1) 亡Cに大量の発汗があったか否かについて原告らは,亡Cが本件水泳教室でシャドーストロークを行っていた際に大量の汗をかいていた旨主張し,原告Bも同旨の供述をする。そして,本件血液検査の結果,Na(血清ナトリウム)値が基準範囲を超えており,本件血液検査前に亡Cが発汗していたことが推測される(前記認定事実(7)ウ,甲51の1・2)。 しかし,上記の検査結果によっても,亡Cがどの段階でどの程度発汗していたかを推測することができず,仮に亡Cが本件水泳教室中に相当量の汗をかいていたとしても,シャドーストローク中ではなく,水泳中に発汗していた可能性がある。また,原告Bは,亡Cがシャドーストロークを行っていた際に大量に汗をかいていた旨供述するが,亡Cは,その時点において,プールから上がったばかりであって,体についていた水滴と汗とを明確に区別することは困難であったと考えられる。 したがって,亡Cがシャドーストローク中に大量の汗をかいてい ,亡Cは,その時点において,プールから上がったばかりであって,体についていた水滴と汗とを明確に区別することは困難であったと考えられる。 したがって,亡Cがシャドーストローク中に大量の汗をかいていたことは,これを認めるに足りない。 (2) 亡Cのけいれんの態様について証人Jは,プールサイドに引き上げられた際の亡Cのけいれんの態様について,右手左手が15秒間程度小刻みに震えた後,全身が硬直し,その後に左手右手が15秒間程度小刻みに震えるという態様であった旨証言する。しかし,上記の証言は,現場で亡Cのけいれんを見ていた原告A・原告B・被告Eのいずれの供述内容とも整合していないこと等に照らし,採用すること ができない。 3 争点(1)(被告Eの体調管理についての注意義務違反の有無)について(1)ア被告Eは,平成10年頃に上級障害者スポーツ指導員の資格を取得し,平成18年6月頃から障害者の参加する水泳教室の指導を担当しており,平成25年当時,暑熱環境下での運動に際して熱中症の発症に注意しなければならないこと,水泳を行うに当たっては水分補給が特に重要であること等の知識を有していた(前記認定事実(2)イ)。 イ(ア) 平成25年は例年にない猛暑で,同年7月下旬~8月下旬にかけて,降水量も少なく,気象庁も「高温注意情報」を発表し,新聞やテレビにおいても熱中症への注意が呼び掛けられていた(前記認定事実(4))。 そして,本件水泳教室の練習環境は,外気温が37.2℃,室温が36. 0℃,水温が32.0℃であり,湿度も相当高かった(前記認定事実(6)ウ(イ))。水泳指導教本では,屋外プールでの競技について,プールの水温と気温の合計が65℃以上であれば,競技を行う環境としては「不適(日射病や熱射病に注意)」とされており った(前記認定事実(6)ウ(イ))。水泳指導教本では,屋外プールでの競技について,プールの水温と気温の合計が65℃以上であれば,競技を行う環境としては「不適(日射病や熱射病に注意)」とされており(前記認定事実(8)エ),プール室温とプール水温の合計が68℃になる本件水泳教室の環境は,競技に近い強度の水泳の練習を行うには適さない環境であったといえる。 そして,被告Eは,平成25年8月14日のFアリーナのプールの水温が他のプールよりも高く設定されていること,同日の室温が高かったことを認識していた(前記認定事実(6)ウ(イ))。 (イ) 亡Cの大会でのタイム(100mバタフライで1分17秒)等からすると(前記前提事実(3)ア),本件水泳教室で実施された本件練習メニューは,亡Cにとって練習強度が相当高いものであったことを推認することができる。被告Eは,本件練習が亡Cにとって練習強度が相当高いものであったことを認識していた(被告E本人)。 (ウ) また,被告Eは,平成25年1月頃から,被告法人が開催する水泳教室の練習生に対し,「金ブタのルール!」と題する罰金の制度を課しており,同年8月10日には,遅刻してきた練習生を叱責して,水泳教室の監督を原告Bに任せてその場を去り,同日,原告Bを含む練習生の親に対し,コーチを辞めることも考えていること等を記載した電子メールを送信した(前記認定事実(5)キ)。亡Cを含む練習生は,同月12日,被告Eに対し,土下座をして,コーチを続けてもらえるように懇願した(前記認定事実(5)ク)。以上の事実を総合すれば,本件水泳教室において,亡Cを含む練習生は,被告Eの指示に異議を述べたり,指示された練習の途中で適宜休憩したりすることなどはし難い状況であったことを推認することができる。 (エ 事実を総合すれば,本件水泳教室において,亡Cを含む練習生は,被告Eの指示に異議を述べたり,指示された練習の途中で適宜休憩したりすることなどはし難い状況であったことを推認することができる。 (エ) そして,平成25年当時,一般に,熱中症の危険性が認識され,熱中症予防のための「熱中症予防運動指針」が示され,練習生に適宜休息をとらせて自由に水分補給をすることができる環境を整えることの重要性が認識されるなどしており,特に,障害者スポーツ指導においては,練習生に対して具体的な指示を出して休息させることの重要性が指摘されていた(前記認定事実(8)オ)。 ウ以上の事実等に照らせば,本件水泳教室において精神障害者である亡Cの指導に当たっていた被告Eは,本件水泳教室の指導に当たり,亡Cに対し,その生命・身体の安全を確保するよう配慮すべき義務の一環として熱中症予防に努めるべき注意義務を負っており,具体的には,一定時間ごとに強制的にプールから上げて給水させるなどの措置をとるべき注意義務を負っていたというべきである。 (2) それにもかかわらず,被告Eは,本件水泳教室において,一定時間ごとに亡Cを含む練習生を強制的にプールから上げて給水させるなどの措置をとっておらず(前記認定事実(6)ウ(ウ)),上記注意義務に違反した。 (3) なお,原告らは,本件水泳教室の練習環境等からすれば,被告Eは,本水泳教室において,通常よりも軽度の練習にとどめるべき注意義務を負っていた旨主張する。しかし,①亡Cが平成25年8月8日に本件水泳教室とほぼ同じ練習環境で本件練習メニューの練習を行っていたこと(前記認定事実(5)オ),②Fアリーナのプールは同月14日の時点で水温・室温の表示はされておらず,被告Eは,本件水泳教室の練習メニューを決める ぼ同じ練習環境で本件練習メニューの練習を行っていたこと(前記認定事実(5)オ),②Fアリーナのプールは同月14日の時点で水温・室温の表示はされておらず,被告Eは,本件水泳教室の練習メニューを決める際,Fアリーナのプールの水温が他のプールと比較して高めに設定されていること,室温が高いことを認識していたことにとどまること(前記認定事実(6)ウ(イ)),③本件水泳教室開始時,亡Cの体調に特段の異変が認められなかったこと(前記認定事実(6)イ),④同月8日にこなすことができなかった本件練習メニューを再度行うことによって亡Cを含む練習生の泳力強化を図るという目的(前記認定事実(6)ウ(ウ))それ自体は,不合理なものとはいい難いことに照らせば,被告Eが本件水泳教室において本件練習メニューを実施したこと自体は,法的な注意義務に違反したとまではいえない。 4 争点(2)(被告Eの救護処置についての注意義務違反の有無)について原告らは,被告Eは,亡Cがプールサイドに引き上げられて意識がない状態でのけいれんが認められた時点で,亡Cが熱中症を発症していることを疑い,速やかに救急搬送を依頼した上で,適切な応急処置を行うべきであった旨主張する。 しかし,亡Cは,平成23年以降,被告法人が開催する水泳教室において,複数回てんかん発作(主として脱力発作であると思われる。)を起こしており,練習中に指示を聞かなくなったり,泳法が途中で変わったりすることがあった(前記認定事実(1)ウ)。そして,本件水泳教室において亡Cが被告Eの指示とは異なる泳法で泳ぎ始めたこと等は,従前のてんかん発作の症状と一部共通するものであるといえる。また,原告らは,本件水泳教室で亡Cに認められたけいれんの態様がてんかん発作におけるけいれんの態様とは異なるものであ った旨主 前のてんかん発作の症状と一部共通するものであるといえる。また,原告らは,本件水泳教室で亡Cに認められたけいれんの態様がてんかん発作におけるけいれんの態様とは異なるものであ った旨主張するが,一般に,けいれんの態様の違いによってその原因を判断することは必ずしも容易ではなく,本件の現場において,亡Cのけいれんがてんかん発作によるものか熱中症によるものかを見分けることは困難であったといえる(現に,原告Bも亡Cの救急搬送を一度断っている〔上記認定事実(6)オ〕)。そうすると,本件の現場における判断として,被告Eが亡Cのけいれんがてんかん発作によるものであると考えたことはやむを得ないというべきであり,原告らの上記の主張は理由がない。なお,被告Eは,亡Cがプールサイドに引き上げられてから約2分後に救急搬送を依頼し,亡Cがプールサイドに引き上げられてから約10分後には救急隊員が現場に到着したのであるから,相応の対処をしていたといえる。 したがって,原告らの上記の主張は理由がない。 5 争点(3)(因果関係)について(1) 亡Cの死因ア亡Cは,けいれんを起こす直前,わざわざ遠くのウォータークーラーまで水を飲みに行ったり,被告Eの指示と異なる泳法で泳ぎ始めたりするなどしたが,これらの事情は,せん妄状態や奇異行動といった熱中症の前駆症状であった可能性がある。また,本件血液検査の結果,肝機能異常(AST,LDHが基準値よりも高い値を示している。),腎機能異常(Crが基準値よりも高い値を示している。),CK及びDダイマーが基準値よりも高い値を示していることが認められ,これらの所見は,重症度Ⅲ度の熱中症の典型的な所見であるといえる。そして,本件水泳教室の練習環境及び練習メニューは,熱中症を誘発しやすいものであったといえる。さら も高い値を示していることが認められ,これらの所見は,重症度Ⅲ度の熱中症の典型的な所見であるといえる。そして,本件水泳教室の練習環境及び練習メニューは,熱中症を誘発しやすいものであったといえる。さらに,てんかん重積症の予後因子として,てんかん重積症の原因(急性脳炎や脳症であること),発作持続時間(少なくとも45分間以上発作が持続したこと)等があるところ,亡Cは急性脳炎や脳症を発症しておらず,けいれん発生から50分足らずで心停止に至ったという経緯からすれば,て んかん重積症が直接死因とは考え難い。以上の事情等を総合すれば,亡Cの死因は熱中症であったことを推認することができる(W医師作成の意見書〔甲51の2〕は,その判断の前提としている事実とその評価について特段の誤りはなく,判断に用いられている医学的知見が他の文献〔甲52の文献4~6〕とも整合していること等に照らし,十分に信用することができる。)。 イこれに対し,被告らは,亡Cの死因はてんかん重積症である旨主張し,死体検案書(甲15)及びU医師作成の回答書(甲34の1~3)にはこれに沿う記載がある。しかし,上記死体検案書及び上記回答書は,亡Cに普段からけいれん発作が認められていたことを前提としているところ,亡Cに普段からけいれん発作が認められていたという事実はない(前記認定事実(1)イ)。また,仮にてんかん重積症が亡Cの直接死因であったとすると,本件血液検査の結果が熱中症の典型的な所見であったことやけいれん発生から50分足らずで心停止に至ったことを合理的に説明することができない。そうすると,上記死体検案書及び上記回答書の上記記載部分を採用することはできず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。したがって,被告らの上記の主張は理由がない。 (2) 因果関係の有無 い。そうすると,上記死体検案書及び上記回答書の上記記載部分を採用することはできず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。したがって,被告らの上記の主張は理由がない。 (2) 因果関係の有無原告らは,練習生に強制的に給水させるなどの措置をとることが熱中症予防に有効であることが一般に認識されていることなどからすれば,仮に,被告Eが,本件水泳教室において,亡Cに対し,一定時間ごとに強制的にプールから上げて給水させるなどの措置をとっていたならば,亡Cが熱中症を発症することもなく,亡Cが死亡することもなかった旨主張する。 しかし,一般に,強制的に給水させることは熱中症予防のために有効な方策の1つではあるものの,熱中症発症には練習環境や運動強度も関係しており(前記認定事実(8)ウ),強制的な水分補給によって確実に熱中症を回 避することができたとまではいい難い。さらに,本件で,亡Cには,突如としてせん妄状態や奇異行為が認められ,その直後に意識がない状態でのけいれんがあり,そこから50分足らずで心停止に至っている(前記認定事実(6),(7))。このような熱中症の急激な発症・進行からすれば,仮に,被告Eが,本件水泳教室の練習環境下において本件練習メニューを実施する中で,練習生を強制的にプールから上げて給水させるなどの措置をとっていたとしても,亡Cの熱中症の発症及び死亡を回避することができたことが高度の蓋然性をもって認められるとはいい難い。そうすると,被告Eの前記3の注意義務違反と亡Cの死亡との間の因果関係は認められない。 6 争点(4)(相当程度の可能性の侵害の有無)について本件水泳教室に練習生として参加した精神障害者である亡Cの生命・身体の安全は本件水泳教室の指導を担当していた被告Eにその大部分が委ねられていたものとい 4)(相当程度の可能性の侵害の有無)について本件水泳教室に練習生として参加した精神障害者である亡Cの生命・身体の安全は本件水泳教室の指導を担当していた被告Eにその大部分が委ねられていたものといえることに照らせば,被告Eは,本件水泳教室において,亡Cに対し,亡Cの生命・身体を保護すべき注意義務を負っていたというべきである。 そして,上記のような被告Eと亡Cとの関係,特に被告Eの専門性,亡Cの被告Eに対する依存性等に照らせば,被告Eが適切な熱中症対策措置を講じていたならば亡Cがその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性は,法律上保護される利益であるということができる。 ところで,一般に,強制的に給水させることは,熱中症予防のために有効な方策の1つであるとされており,熱中症予防に一定の効果が認められている(前記認定事実(8)ウ)。上記の知見を前提にして前記認定事実,特に亡Cがプールに戻る直前の状況(前記認定事実(6)エ(ウ))等を総合すれば,仮に,被告Eが,本件水泳教室において,亡Cに対し,一定時間ごとに強制的にプールから上げて給水させるなどの措置をとっていたならば,亡Cがその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性があったことを推認することができる。そうすると,被告Eの前記3の注意義務違反により亡Cがその死亡の時 点においてなお生存していた相当程度の可能性が侵害されたというべきである。 7 争点(5)(損害額)について(1) 亡Cの損害額について被告Eの注意義務違反の内容・程度,亡Cが死亡当時25歳であって普段水泳をするなどしていたことその他本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡Cの精神的苦痛に対する慰謝料は,700万円が相当である。 そして,原告らは,亡Cの死亡によって,各自の法定相続分 であって普段水泳をするなどしていたことその他本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡Cの精神的苦痛に対する慰謝料は,700万円が相当である。 そして,原告らは,亡Cの死亡によって,各自の法定相続分に応じて,それぞれ350万円の損害賠償請求権を承継した。 なお,前記のとおり被告Eの注意義務違反と亡Cの死亡との間の因果関係は認められないから,亡Cに生じた損害として逸失利益を認めることはできない。 (2) 葬儀費用について上記のとおり被告Eの注意義務違反と亡Cの死亡との間の因果関係は認められないから,亡Cの葬儀費用の賠償は認められない。 (3) 原告ら固有の慰謝料について上記のとおり被告Eの注意義務違反と亡Cの死亡との間の因果関係は認められないから,原告ら固有の慰謝料は認められない。 (4) 弁護士費用について原告らは本件訴訟の進行を弁護士に委任しているところ,本件事案の難易,請求額,認容額その他諸般の事情を総合考慮すると,原告らが被告らに対して請求することができる弁護士費用は,原告らそれぞれについて35万円が相当である。 8 争点(6)(過失相殺)について被告らは,仮に,被告Eに注意義務違反があるとされる場合であっても,原告らの過失を考慮して,損害賠償の額が定められるべきである旨主張する。そ して,原告らが練習生の親として本件水泳教室に立ち会って本件事故及びその前後の状況を目撃していたことが認められる(前記前提事実(3),前記認定事実(6))。 しかし,本件水泳教室においてどのようにして練習生に休憩させるかなどの事項は,専ら本件水泳教室の指導を担当した被告Eが検討・判断すべきことであるといえることに照らせば,原告らが本件水泳教室に立ち会っていたこと等から直ちに過失相殺を うにして練習生に休憩させるかなどの事項は,専ら本件水泳教室の指導を担当した被告Eが検討・判断すべきことであるといえることに照らせば,原告らが本件水泳教室に立ち会っていたこと等から直ちに過失相殺を認めることは相当でない。また,その他諸般の事情を考慮しても,過失相殺を認めるべき事情は認め難い。 したがって,被告らの上記の主張は理由がない。 9 結論よって,原告らの主位的請求は,理由がないからこれを棄却し,原告らの予備的請求は,被告らに対して770万円及びこれに対する本件事故日である平成25年8月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の予備的請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第19民事部裁判長裁判官山地修 裁判官藪田貴史 裁判官若林慶浩
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