令和5年3月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成30年(ワ)第24351号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和5年1月6日判決 主文 1 被告東京都は、原告に対し、100万3000円及びこれに対する平成29年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告の被告東京都に対するその余の請求及び被告国に対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、原告に生じた費用の120分の1と被告東京都に生じた費用の60分の1を被告東京都の負担とし、原告及び被告東京都に生じたその余の費用並びに被告国に生じた費用を原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 被告らは、原告に対し、連帯して、6182万7516円及びこれに対する平成29年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、原告の夫でネパール国籍を有するAが、B警察署の留置担当者(以下「留置担当官」という。)により約2時間にわたって戒具(ベルト手錠、捕 縄、新型捕縄)を用いた身体拘束を受けた後、東京地方検察庁(以下「検察庁」という。)に護送され、検察官事務取扱検察事務官(以下「検取事務官」という。)による取調べ中に意識を消失して死亡したことに関し、Aが死亡したのは留置担当官及び検取事務官が職務上通常尽くすべき注意義務に違反したためであると主張して、原告が被告らに対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。) 1条1項に基づき、損害賠償金6182万7516円及びこれに対する不法行 為日である平成29年3月15日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損 1条1項に基づき、損害賠償金6182万7516円及びこれに対する不法行 為日である平成29年3月15日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実) ⑴ 当事者ア A(昭和▲▲年▲▲月▲▲日生。死亡当時▲▲歳)はネパール国籍を有する男性で、平成28年11月、「技能」の在留資格で来日した(弁論の全趣旨)。 イ原告は、Aの唯一の妻である(甲13の1・2)。 ウ被告国は、検察庁において、Aの捜査を担当した検取事務官を任用した。 エ被告東京都は、B警察署において、Aの留置を担当した警察官を任用した。 ⑵ Aは、平成29年3月14日(以下、年の記載がない場合は全て平成29年の出来事である。)午前0時25分、B警察署において、占有離脱物横領罪 の容疑で通常逮捕され、同日午後4時頃に同署の留置場に入った。 ⑶ Aは、3月15日(以下、日の記載がない場合は全て3月15日の出来事である。)午前6時50分過ぎに、保護室に収容された。そして、両手首をベルト手錠、両膝を捕縄、両足首を新型捕縄で拘束され、保護室に収容されている約2時間、上記3つの戒具を装着されていた(丙1、5、6、12)。 アベルト手錠は、腰ベルトの左右に設けられたナイロン製の2つの輪に両手首を通してベルトを腹部で締めることで、両手を拘束する戒具であり、その輪の内側はフェルト生地になっている。 イ捕縄は、太さ直径3ミリメートル以上の縄状のひもであり、膝を固定するため用いられた。 ウ新型捕縄は、上記イと同じ素材の捕縄に、カバーが一体とな 側はフェルト生地になっている。 イ捕縄は、太さ直径3ミリメートル以上の縄状のひもであり、膝を固定するため用いられた。 ウ新型捕縄は、上記イと同じ素材の捕縄に、カバーが一体となっている戒 具であり、カバーの内側はフェルト生地になっている。捕縄の足輪部分に両足首を入れて、両端から捕縄を引っ張り巻き付け、固結びすることによって、両足首を固定する。 ⑷ Aは、午前9時頃、両手首のベルト手錠を、護送用の標準手錠(二つの金属製の輪を鎖で連結したもの)に付け替えられ、両膝に装着していた捕縄を 取り外された。そして、両足首の新型捕縄はそのままの状態で、午前9時14分頃、留置施設から出場し、検察庁に護送された(乙5、丙9)。 ⑸ Aは、午前10時34分頃、両手首の標準手錠と両足首の新型捕縄を装着されたまま、車いすに乗せられた状態で、弁解録取手続のため検察官室に入室した。その後、Aが机を蹴るなどしていたため、検取事務官は、Aを落ち着 かせるために標準手錠の片方を解除するよう指示し、同席していた警察官が片方の手錠を外した。午前11時頃、Aが急に動かなくなり、反応がなくなったため、戒具が全て解除された。(弁論の全趣旨)⑹ Aは、C病院に緊急搬送され、午後2時46分頃死亡が確認された。 2 関係法令の定め 関係法令の定めは、別紙「関係法令の定め」記載のとおりである。 3 争点及びこれに関する当事者の主張⑴ 被告東京都(留置担当官)の行為の国賠法上の違法の有無(原告の主張)ア戒具使用要件を満たさないこと 留置担当官は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」という。)213条1項各号のいずれかの行為をするおそれがある場合でなければ、捕縄又は手錠を使用する を満たさないこと 留置担当官は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」という。)213条1項各号のいずれかの行為をするおそれがある場合でなければ、捕縄又は手錠を使用することはできないところ、Aについては、法213条1項各号のいずれの要件にも該当していなかった。 すなわち、Aは、保護室に収容されている以上、逃走すること(同1号) は不可能である。また、保護室は、「自身を傷つけるおそれがあるとき」 (法214条1項1号)、「他人に危害を加えるおそれがあるとき」(同項2号ロ)に当たる場合に、これらの行為を防止するために収容する部屋であって、Aが保護室に収容された時点で、「自身を傷つけ、又は他人に危害を加える」おそれ(法213条1項2号)は除去され、存在しない。さらに、Aは、逮捕時から死亡に至るまで一度も自傷行為に及んだことはなく、 保護室収容後に自傷行為に及ぶ可能性を推認させる合理的根拠も認められない。以上のとおり、留置担当官は、法213条1項各号の要件がないにもかかわらず、漫然と戒具を使用しており、同項に違反する。 イ戒具使用時に血液循環を妨げないよう注意する義務の違反(以下「血液循環阻害防止義務違反」という。) 刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則(以下「規則」という。)37条2項は、被収容者に捕縄を使用する際に血液の循環を著しく妨げることとならないよう留意すべきことを定め、刑務官の職務執行に関する訓令(以下「訓令」という。)27条1号は、必要以上に緊度を強くして、使用部位を傷つけたり、血液の循環を著しく妨げる等の方法で使用しないことを定 めている。そして、留置施設の被留置者は、刑事施設の被収容者と身体拘束を受けている点で共通しており、それらの者の身体的・精神的安全 けたり、血液の循環を著しく妨げる等の方法で使用しないことを定 めている。そして、留置施設の被留置者は、刑事施設の被収容者と身体拘束を受けている点で共通しており、それらの者の身体的・精神的安全を保障するための規律について別異に解する理由はないから、被留置者にも上記条項は類推適用又は準用されるべきである。警視庁の留置業務執務資料にも同様の定めがある。 しかるに、本件の留置担当官は、保護室入室後の戒具使用の際、必要以上に緊度を強くして、使用部位を傷つけ、血液の循環を著しく妨げていた。 さらに、保護室収容中、Aは、戒具による痛みから逃れようと、床を這いずり回るのみで、自傷他傷を意図した行動はとっていなかったにもかかわらず、留置担当官は、Aの戒具が緩んでいるとして4回にわたって締め直 しており、この間も、必要以上に緊度を強くして、使用部位を傷つけ、血 液の循環を著しく妨げた。そして、拘束時間は午前6時52分から午前11時までの4時間8分と長時間にわたっている。 以上からすると、仮に保護室入室時点においてAに対する戒具使用の必要性が存在するとしても、同人に対する戒具使用方法は上記注意義務に違反している。 ウ医師の意見聴取義務違反法は、被留置者の保護室収容について、収容開始時点において医師の意見を聴取する義務を定めているが(法214条2項、79条5項)、その趣旨は、保護室収容は、健康に与える影響が大きく、危険を伴うため、医師の意見を仰いで被留置者の健康を守る点にある。そうだとすれば、医師 の意見聴取義務は、保護室収容開始時点に限られず、被留置者の健康状態に変化があった場合に適宜発生すると解すべきである。しかし、留置担当官は、Aに複数の戒具の装着による手の鬱血、膨脹等の異常を認めたにもかか 取義務は、保護室収容開始時点に限られず、被留置者の健康状態に変化があった場合に適宜発生すると解すべきである。しかし、留置担当官は、Aに複数の戒具の装着による手の鬱血、膨脹等の異常を認めたにもかかわらず、その健康状態について医師の意見聴取を怠った。 また、医師の意見聴取に関しては実質的な履行律として訓令34条があ り、被留置者にも準用ないし類推適用されるべきであるから、留置担当官は、保護室収容に際して医師に意見聴取を行う際、本人の身体と精神の状況、手錠捕縄の使用状況などについて説明をした上で意見を求めるべき義務を負う。しかるに、留置担当官は、Aにつき、3月12日から14日にかけて、咳、嘔吐、下痢、腹痛等の症状が確認され、逮捕後からほとんど食 事を食べていないことなどから、脱水症状が強く疑われる状態にあったにもかかわらず、医師に対してこれを情報提供をして、意見聴取することを怠った。 エ戒具使用の必要がなくなったときに直ちにその使用を中止する義務の違反(以下「戒具使用中止義務違反」という。) 留置業務執務資料の戒具使用マニュアルによれば、留置担当官は、戒具 の必要がなくなったときは、直ちにその使用を中止するべき義務を負う。 このことは、国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルールズ)の規則48からも裏付けられる。 本件では、仮に保護室入室直後には戒具使用の必要性があったとしても、上記イのとおり、その後にさらにこれを継続する必要はなかったから、被 告東京都が上記注意義務に違反したことは明白である。 オ戒具使用により手足等に腫れや鬱血の状態が生じた場合に直ちに医師に相談して病院に搬送するなどして適切な治療を受けさせる義務の違反(以下「病院搬送義務違反」という。)留置担 オ戒具使用により手足等に腫れや鬱血の状態が生じた場合に直ちに医師に相談して病院に搬送するなどして適切な治療を受けさせる義務の違反(以下「病院搬送義務違反」という。)留置担当官は、戒具を使用した被拘禁者の手足等に腫れや鬱血の状態が 確認された場合には、血栓症等の危険があることから、直ちに医師に相談の上、当該被拘禁者を病院に搬送して適切な治療を受けさせる注意義務を負う。 しかしながら、本件において、留置担当官は、検察庁への護送準備時においてAの両手が激しく腫れて鬱血した状態にあることを現認し、病院に 搬送する必要性があるとの判断までしていたのにもかかわらず、医師に相談することもなく、送致期限までの検察庁への送致手続を優先し、Aを直ちに病院に搬送せず適切な治療を受けさせなかったから、上記注意義務に違反している。 (被告東京都の主張) ア違法性判断の枠組み国賠法1条1項にいう「違法」とは、公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背することであるところ、その具体的な判断基準は、公務員の判断が経験則又は論理則に照らして合理性を有しているか否かという観点から判断されるべきである。 そして、戒具の使用が認められる趣旨からすれば、戒具は、法213条 1項各号のいずれかの行為をするおそれがある場合に使用することができることに加え、留置施設全体の平穏を害してその秩序維持に支障を与える等被疑者拘禁の目的に反する結果を招来する行為があると認める場合も使用できると解すべきである。 したがって、留置担当官による戒具使用(使用開始及び継続の判断、使 用方法)に係る職務行為が国賠法上違法と評価されるか否かは、当時の具体的状況 あると認める場合も使用できると解すべきである。 したがって、留置担当官による戒具使用(使用開始及び継続の判断、使 用方法)に係る職務行為が国賠法上違法と評価されるか否かは、当時の具体的状況に即して客観的に判断されるべきであり、違法と評価されるのは、留置担当官の戒具使用の判断が社会通念上著しく妥当性を欠き、権限濫用にわたると認められる場合に限られるというべきである。 イ戒具使用の要件を満たすこと Aは、留置担当官の指示や制止に従わず暴れて、保護室に連行された際も留置担当官の手を振りほどこうとして暴れ続けていたものであり、これらの行為自体が、法213条1項1号ないし3号所定の「逃走する」、「自身を傷つけ、又は他人に危害を加える」及び「留置施設の設備、器具その他の物を損壊する」おそれに該当することは明白である。また、Aの行為 を目撃した他の被留置者に対する影響に鑑みれば、上記行為が「留置場全体の平穏を害してその秩序維持に支障を与える等被疑者拘禁の目的に反する結果を招来する」行為であることは明らかであって、これらの行為を認めた留置担当官がAに戒具使用の必要性があると判断したことに何ら不合理なところはない。 ウ血液循環阻害防止義務違反がないことAにベルト手錠等を装着した際や、緩んだベルト手錠等を装着し直した際、O警部補、E巡査部長及びF警部補は、それぞれベルト手錠等の装着によりAの顔色が悪くなっていないか、手足が腫れたり鬱血していないか、ベルト手錠等が体等に食い込んでいないかを目視で確認している。また、 F警部補及びE巡査部長は、ベルト手錠等とAの身体や足首の間に親指や 手を差し入れて、ベルト手錠等が使用部位を傷つけたり、血流の循環を妨げていないことを確認してお で確認している。また、 F警部補及びE巡査部長は、ベルト手錠等とAの身体や足首の間に親指や 手を差し入れて、ベルト手錠等が使用部位を傷つけたり、血流の循環を妨げていないことを確認しており、同人に対するベルト手錠等の装着方法に関し不合理な点はない。 使用した戒具はいずれも血液の循環を妨げにくい構造になっている上、Aが手足を動かし暴れ続け、留置担当官が戒具の緩みを認める都度、装着 し直していることから明らかなとおり、戒具は手足を動かすことができる状態で使用されていた。仮にAが長時間暴れたことによりベルト手錠等を装着している部位と体が擦れたり圧迫されたとしても、それは同人自身の行為に起因するものであり、戒具の使用それ自体から生じたものとはいえない。 エ医師の意見聴取義務違反がないこと留置担当官は、Aを保護室に収容した後、同人の健康状態をもとに、法214条2項及び79条5項に基づき、医師の意見聴取を行っているから、留置担当官に医師の意見聴取義務違反は認められない。Aについて脱水症状が強く疑われる状態にあったとは認められない上、訓令は留置施設に準 用又は類推適用されない。 オ戒具使用中止義務違反がないことAは、自身の手で戒具を外そうと手足を動かし続けており、戒具を装着し直そうと同人の腕を押さえていたF警部補を壁に接触させたり、動き続ける中で自身の顔面を保護室の壁に打ち付けて右目蓋部分から出血したり していた。かかる状況からすれば、Aに対する戒具使用を中止すれば、同人が保護室内で壁等に自身の身体を打ちつけるなどして怪我をしたり、あるいは、制止する留置担当官に危害を及ぼすおそれがあることが容易に推測できた。 また、上記事情に加え、Aはベルト手錠から標準手錠に替えた際も激しく 身体を打ちつけるなどして怪我をしたり、あるいは、制止する留置担当官に危害を及ぼすおそれがあることが容易に推測できた。 また、上記事情に加え、Aはベルト手錠から標準手錠に替えた際も激しく 抵抗し、足を動かし続けており、新型捕縄の使用を中止すれば、護送に従 事する留置担当官を蹴り上げるなど同課員に危害を及ぼすおそれがあることが容易に推測できた。 以上によれば、保護室内に収容中及び検察庁への護送に際して、戒具使用の要件が存在していたことは明らかであるから、留置担当官が戒具の使用を継続する必要があると判断したことに不合理な点はない。なお、国連被 拘禁者処遇最低基準規則は、被拘禁者の処遇等に関する国際的基準を示したものにとどまり、同規則違反が直ちに国賠法上の違法となるものではない。 カ病院搬送義務違反がないことAの死因は外傷性ショックであり、血栓症を前提に留置担当官の注意義 務違反をいう原告の主張は前提において失当である。また、手の腫れや鬱血がある状態は、肺動脈血栓症の症状として認められていない。 仮に手の腫れや鬱血がある状態を肺動脈血栓症の症状である下肢膨脹であると解したとしても、そもそも医学的な専門的知見を有しないG警部補及びF警部補において、Aの手が赤く腫れていることをもって肺動脈血栓 症を疑うことはおよそ不可能であった。また、検察庁へ向けた護送を準備している間もAは激しく暴れたり、標準手錠を外そうと両手を動かすなどしていたから、このように活発な動作をしていたAを直ちに病院に搬送する必要がないと判断したとしても不合理とはいえないし、F警部補は、検察庁における取調べ終了後である同日中にAを病院に搬送し、手の負傷に ついて医師の診療を受けさせようとしていたのであるから、かかる判断が いと判断したとしても不合理とはいえないし、F警部補は、検察庁における取調べ終了後である同日中にAを病院に搬送し、手の負傷に ついて医師の診療を受けさせようとしていたのであるから、かかる判断が裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したといえないことは明らかである。 ⑵ 被告国(検取事務官)の行為の国賠法上の違法の有無(原告の主張)取調べを担当する検取事務官は、戒具を使用した被拘禁者の手足等に腫れ や鬱血の状態が確認された場合には、血栓症等の危険があることから、直ち に医師に相談の上、当該被拘禁者を病院に搬送して適切な治療を受けさせる注意義務を負う。 検取事務官は、取調室において、Aの取調べ開始から片手錠を解除する間において、Aの両手が激しく腫れて鬱血した状態にあることを現認していたのにもかかわらず、医師に相談することなく、また、Aを直ちに病院に搬送せ ず、適切な治療を受けさせなかった。したがって、上記注意義務に反している。 (被告国の主張)検察庁における被疑者の戒護の責任は、検察庁への身柄押送の担当職員である警察官が負っている上、弁解録取手続開始時における手錠解除に伴う被 疑者の体調悪化に係る注意事項等を定めた規則等もない。 Aの具体的な死亡機序は不明である上、同人は、検察官室内で奇声を発し、机を蹴るなどして暴れていたところ、取調べの途中で、大人しくなりいびきをかき始め、弁解録取に立ち会っていた警察官がAの脈がないことに気が付き、心臓マッサージを始めるなどしたものであり、このような死亡に至る経 緯にも照らせば、検取事務官において、Aの手の腫れや鬱血をもって、同人が死亡することを予見し、これを回避するために直ちに医師の診察を要すると判断することは不可能である。 ⑶ 因果関係の有無 緯にも照らせば、検取事務官において、Aの手の腫れや鬱血をもって、同人が死亡することを予見し、これを回避するために直ちに医師の診察を要すると判断することは不可能である。 ⑶ 因果関係の有無(原告の主張) 被告らが前記各義務に違反したことにより、Aは、肺動脈血栓症を主たる死因として死亡した。また、肺動脈血栓症と筋挫滅症候群は、互いに排他的な関係にはなく、筋挫滅症候群が死因の可能性も否定されない。 ア肺動脈血栓症が死因の場合 違法な戒具使用との因果関係 留置担当官が前記⑴(原告の主張)アないしエの各義務に違反して、 Aの四肢に戒具を使用した結果、血管が強度に締め付けられ鬱血を起こした。鬱血により臓器組織内の静脈や毛細血管内の血流が停滞した状態が続くと、静脈内が澱んで静脈内に血栓が形成される。そして、午前9時18分頃及び午前11時頃、戒具が解除された結果、鬱血部位から血栓が心臓・肺動脈方向に流れはじめ、大きな血栓が肺動脈に詰まり、あ るいは深部静脈に生じた無数の小血栓が少数の塊ごとに徐々に肺動脈を閉塞し、肺動脈血栓症が惹起され、Aは死亡した。 なお、Aは、3月14日に、発熱と共に嘔吐・下痢が認められており、その日に同人が摂取した水分補給は所持品検査の時のコップの水、パックジュース1本、夕食時のコップの水のみであったから、脱水症に近い 状態であったことは明らかであり、血栓の発生に強く作用したものと考えられる。 病院搬送義務違反との間の因果関係留置担当官が、Aの手首から先が赤黒く変色し鬱血している状態であることを現認した時点で、速やかに病院に搬送し、ヘパリン(血栓を溶 かす薬)等を投与して、それでも溶かしきれない血栓が仮に 留置担当官が、Aの手首から先が赤黒く変色し鬱血している状態であることを現認した時点で、速やかに病院に搬送し、ヘパリン(血栓を溶 かす薬)等を投与して、それでも溶かしきれない血栓が仮に血中を流れても肺に詰まらないようにするフィルターを血管内に装着させるなどの適切な医療措置をAに受けさせていれば、死の結果を回避できた可能性があった。 イ筋挫滅症候群が死因の場合 違法な戒具使用との因果関係血中カリウム値の累計が7mEq/Lを超えると心停止するところ、留置担当官が前記⑴(原告の主張)アないしエの各義務に違反して、Aの四肢を継続的かつ広体積にわたり戒具で緊縛した結果、筋肉が壊死を起こし、壊れた筋肉細胞からカリウムが漏出していた。午前9時18分 頃及び午前11時頃、戒具が解除された結果、血行が回復して漏出して いたカリウムが全身に流れ出して血中カリウム値の累計が7mEq/Lを超えたことにより、Aは筋挫滅症候群により死亡した。 病院搬送義務違反との間の因果関係留置担当官が、Aの手首から先が赤黒く変色し鬱血している状態であることを現認した時点で、病院に搬送し、緊縛された部位より中枢側を 縛るなど、筋肉細胞から血中に漏れ出したもの(カリウムやミオグロビン)が全身をめぐらないようにした上で透析を行う等の措置を講じていれば死の結果を回避できた。 (被告東京都の主張)ア外傷性ショックが死因であること Aの直接的な心停止の原因を断定することはできないが、司法解剖の結果等を踏まえると、同人は、全身の多発外傷に伴う循環血液量減少性ショックや、筋挫滅を主因とするミオグロビン血症の状態に陥ったことによる急性腎不全の競合により死亡したものと はできないが、司法解剖の結果等を踏まえると、同人は、全身の多発外傷に伴う循環血液量減少性ショックや、筋挫滅を主因とするミオグロビン血症の状態に陥ったことによる急性腎不全の競合により死亡したものと推定され、同人の死因は、いわゆる外傷性ショックと考えられる。 イ肺動脈血栓症が死因でないこと肺動脈血栓症が生じているのであれば、血液の塊が肺動脈に詰まっているはずであるが、解剖結果では血栓は認められない上、Dダイマー値が異常値であることをもって、深部静脈血栓症等であると診断できるものではない。むしろ、Aの採血データからは、脱水の所見は認められず、血液は サラサラの状態であって、同人が脱水状態に陥っていたとは認められないから、同人の死因が肺動脈血栓症であるとは評価できない。 (被告国の主張)被告東京都の主張アと同旨。 ⑷ 損害の有無・金額 (原告の主張) ア逸失利益合計2320万6833円 平成29年3月16日から令和5年3月15日までの逸失利益Aは、平成23年12月頃に在留資格「技能」で来日し、調理師として勤務してきた。その後、2度ネパールに短期帰国したものの、平成29年3月15日に死亡するまで約6年にわたり、継続的に日本で働いて きた。そして、死亡時も、有効な在留資格を有しており、今後も日本で就労する意思を有していた。以上からすると、Aは、死亡していなければ、同月16日以降も、少なくとも6年間は日本において就労したものといえる。そして、Aは無職であったため、男性労働者全産業平均年収額(549万4300円)を基準とし、これに生活費控除率30%を考 慮し、6年間のライプニッツ係数を乗ずると、上記期間の逸失利益は以下のとおりであ は無職であったため、男性労働者全産業平均年収額(549万4300円)を基準とし、これに生活費控除率30%を考 慮し、6年間のライプニッツ係数を乗ずると、上記期間の逸失利益は以下のとおりである。 549万4300円×(1-0.3)×5.0757=1952万1193円 令和5年3月16日から令和27年までの逸失利益 ネパールの一人当たりのGDP(PPP)は、平成18年が1579ドルであったところ、平成29年は2679ドルと年率平均5%の経済成長を達成している。そうすると、Aが67歳となる令和27年の一人当たりのGDPの予測値は5375ドルとなるところ、令和5年から令和27年までの期間の一人当たりのGDP予測値は平均4010ドル (提訴時の為替レートで約44万1100円)である。以上からすると、上記期間の逸失利益は少なくとも以下のとおりである。 40万円×(1-0.3)×13.163=368万5640円イ慰謝料合計3300万円 A本人 Aは、一家の支柱であるところ、捜査機関の故意の緊縛行為によって 死亡結果が発生しているから、その慰謝料額は少なくとも3000万円を下らない。 原告原告は、突然夫を亡くしたものであり、その慰謝料額は300万円を下らない。 ウ弁護士費用 562万0683円原告は本件訴訟追行を弁護士に委任しているところ、本件と相当因果関係がある弁護士費用は、上記ア及びイの損害額合計5620万6833円の1割である562万0683円である。 (被告東京都の主張) ア逸失利益 平成29年3月15日から令和5年3月15日までの逸 びイの損害額合計5620万6833円の1割である562万0683円である。 (被告東京都の主張) ア逸失利益 平成29年3月15日から令和5年3月15日までの逸失利益Aは、平成27年4月3日から平成28年4月4日までの約1年間、肺結核及び髄膜炎で入院し、退院後の平成28年5月26日から同年11月26日までの6か月間ネパールに帰国し、同月27日に来日してネ パールレストランで就労を開始するも、約2か月後の平成29年2月5日頃に同レストランを解雇され、その後は浮浪生活状態であったと思われる。また、在留期限は同年3月17日までであり、これらの経緯からすると、少なくともAが死亡時以降も6年間は日本において就労したと評価するのは相当でない。 令和5年3月16日から令和27年までの逸失利益ネパールが平成18年から平成29年までの11年間で年率平均5%の経済成長を達成していることで、その28年後の令和27年まで同様の経済成長が遂げられるとする根拠が不明である。 イ A本人及び原告固有の慰謝料 前記のAの在留及び就労経過からすれば、日本とネパールの経済状況の 差異を考慮して慰謝料額が算定されるべきである。 (被告国の主張)不知ないし争う。 ⑸ 国賠法6条の憲法及び市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)違反の有無 (原告の主張)ア自由権規約7条、2条3項違反本件不法行為は、自由権規約7条において禁止される「拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い」に該当し、同条約が保障する権利の侵害であるところ、自由権規約2条3の一般的意見20は、「7条 は2条3とともに読 において禁止される「拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い」に該当し、同条約が保障する権利の侵害であるところ、自由権規約2条3の一般的意見20は、「7条 は2条3とともに読まれるべきである。締結国は、その法制度が7条で禁じられたあらゆる行為を直ちにやめさせること並びに適正な補償について、いかに効果的な保障措置を取っているかを示すべきである」としているから、日本国は原告が本件不法行為に関して効果的な救済措置を受けることを保障しなければならない。 したがって、効果的な救済措置を受けることを妨げる国賠法6条は、自由権規約7条及び2条3に違反する。 イ自由権規約26条、2条1項違反外国人が法の下の平等を定めた自由権規約26条により保護されることは、外国人の地位に関する一般的意見15でも確認されているところ、国 賠法6条は自由権規約26条に違反する。また、国賠法6条は差別を禁止した自由権規約2条1項にも違反している。 ウ憲法14条1項、17条、98条2項違反 憲法17条が保障する公の賠償請求権は、その性質上、日本国民のみを対象としているものではないから、日本に在留する外国人に対しても 等しく保障されているものと解すべきである。憲法17条が「法律の定 めるところにより」と規定しているのは、賠償責任要件や手続要件等の権利行使の態様について法律に委ねる趣旨にすぎない。 日本人が救済を得られない場合に救済を与える必要がないという考えは、国家主義的、排外的な思想であり、被害を受けた外国人の救済をないがしろにするものであって、合理的な制限ということはできない。 したがって、国賠法6条は憲法17条に違反する。 また、国賠法6条は、外国人の権 あり、被害を受けた外国人の救済をないがしろにするものであって、合理的な制限ということはできない。 したがって、国賠法6条は憲法17条に違反する。 また、国賠法6条は、外国人の権利を上記のとおり何らの合理性もなく制限するものであるから、国際協調主義を定めた憲法98条2項及び法の下の平等を定めた憲法14条1項にも違反している。 (被告東京都の主張) ア憲法14条1項、17条違反 憲法14条1項は、合理的理由のない差別を禁止する趣旨の規定である。したがって、法律の規定において、各人の存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その立法趣旨が合理的根拠を欠くか、立法趣旨に照らして 合理的な内容とはいえない区別であって、不合理な差別であるといえない限り、同項の規定に違反しない。 憲法17条は、「法律の定めるところにより」損害賠償を請求できる旨を規定しており、同条に基づいて具体的な損害賠償請求権が直ちに生ずるものではないことからすれば、同条は外国人について、わが国の国 民による国家賠償請求と同一の保障をすべきことを要請するものではなく、法律で特別の定めを設けて制約を加えることも、その内容が不合理なものでない限り、同条の規定に違反しないものと解される。 国賠法6条の趣旨は、我が国の国民に対し国家賠償による救済を認めていない国の国民に対し、我が国が積極的に救済を与える必要がないと の衡平の観念に基づき、相互の保証を必要とすることにより、外国にお ける我が国の国民の救済を拡充するところにある。 したがって、同条の規定の趣旨及び内容には合理性が認められるから、同規定は憲法14条1項、17条に違反しない。 とすることにより、外国にお ける我が国の国民の救済を拡充するところにある。 したがって、同条の規定の趣旨及び内容には合理性が認められるから、同規定は憲法14条1項、17条に違反しない。 イ憲法98条2項違反憲法98条2項は、我が国が締結した条約及び確立された国際法規が国 内法上の効力を有することを規定したものであり、国賠法6条が外国人による国家賠償請求に一定の制限を加えることは、自由権規約が国内法上の効力を有することと抵触しないから、憲法98条2項には違反しない。 ウ自由権規約2条1及び26条違反法の下の平等ないし差別を禁止した自由権規約2条1及び26条の規定 が保障する権利の性質、内容及び範囲自体は、憲法14条1項の保障の範囲を超えるものではないから、上記アのとおり、国賠法6条は自由権規約2条1及び26条にも違反しない。 エ自由権規約7条、2条3項(a)違反外国人である原告による国家賠償請求について相互の保証の存在を条件 とすること自体が、自由権規約7条に違反するということはできない上、留置担当官のAに対する一連の対応は、自由権規約7条にいう「拷問又は残虐な非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い」に該当しない。また、自由権規約2条3(a)は、「この規約において認められる」権利又は自由を侵害された者についての救済措置を規定したものであるところ、国賠法 6条の規定は自由権規約2条1、同7条及び同26条に違反しないから、同規約において認められる権利又は自由を侵害されたとはいえず、国賠法6条は自由権規約2条3(a)に違反しない。 (被告国の主張)争う(被告東京都の主張と同旨)。 ⑹ 相互保証の有無 (原告の主張) れたとはいえず、国賠法6条は自由権規約2条3(a)に違反しない。 (被告国の主張)争う(被告東京都の主張と同旨)。 ⑹ 相互保証の有無 (原告の主張)ア憲法17条が公務員の不法行為につき何人も賠償を求めることはできると定め、憲法第3章が「国民」と「何人も」を使い分けていること、憲法前文が国際主義を謳っていること、被害者側に相互保証の立証を課すことは過度の負担となることに照らせば、相互保証の不存在の立証責任は被告 らが負うと解すべきである。 イネパールでは、外国人の被害者は、ヤータナに対する賠償法2053(以下「ヤータナ賠償法」という。)の第4条に基づき、ヤータナ(拘禁中の者に対して加えられた身体的又は精神的に重い苦痛等)について、政府に損害賠償請求をすることができる。そして、ヤータナ賠償法2条は、「ヤ ータナ」の定義に「故意に」という主観的要件を付していないし、文言の通常の意味としても、「ヤータナ」は故意を前提とする拷問を意味していない。したがって、拘禁中の者が過失行為により損害を受けた場合も、同法に基づき損害賠償請求を行うことができる。 また、本件事実関係からすれば、留置担当官には、Aの自傷他害防止と いう意図を超えた積極的な加害意思があったことが明らかである上、検取事務官は、筋挫滅症候群のおそれがあったのに戒具を解除したのであるから、少なくとも傷害の限度では故意が認められ、仮に「ヤータナ」が故意行為に限定されるとしても、本件請求について相互保証が認められる。 ウ被告らは、仮に相互保証が認められるとしても、その賠償金額の上限は 10万ルピーであると主張するが、被害者保護の観点からは国賠法6条の適用は制限的に解釈すべきである。また、外 められる。 ウ被告らは、仮に相互保証が認められるとしても、その賠償金額の上限は 10万ルピーであると主張するが、被害者保護の観点からは国賠法6条の適用は制限的に解釈すべきである。また、外国の法制度の内容は、法律の規定だけでなく現実の運用も含めて検討する必要があるところ、ネパールでは公務員による個人の権利侵害に関する賠償責任について、10万ルピー以上の金額が認められた例が多数存在する。 (被告東京都の主張) ア国賠法6条の規定の体裁からすれば、相互保証があることは、外国人による損害賠償請求権の取得要件として規定されているものと解され、証拠との距離や証明の難易度からしても、相互保証が存する旨の主張立証責任は外国人たる原告が負う。 イヤータナ賠償法でいう「ヤータナ」は「拷問」を意味する上、同法11 条は、現行の法律に基づき拘禁されることにより自ずと発生する苦痛は、同法の適用において「ヤータナ」とみなされないと規定しており、法213条1項に基づく戒具使用はヤータナ賠償法の適用外である。 ウまた、ヤータナ賠償法6条⑴及び8条が、「被害者の収入に依存する家族の数と、その生活に必要な最低限の費用を考慮して」賠償を認める決 定を出すことができる旨を定めていることからすると、ヤータナ賠償法の補償は、当該死亡者の損害賠償請求権を家族が相続するものではなく、当該死亡者の収入によって生活する者の生活扶助を一定額に限って認めたものであると解される。これに対し、本件請求の損害は、Aの逸失利益及び慰謝料、妻固有の慰謝料、弁護士費用であり、ヤータナ賠償法によって補 償が認められていない性質のものである。 エ仮に相互保証が認められるとしても、賠償責任の範囲は外国法の定める責任範囲に限定さ 料、妻固有の慰謝料、弁護士費用であり、ヤータナ賠償法によって補 償が認められていない性質のものである。 エ仮に相互保証が認められるとしても、賠償責任の範囲は外国法の定める責任範囲に限定されるところ、ヤータナ賠償法は10万ルピーを上限としているから、本件でも定額の範囲に限定されると解すべきである。 (被告国の主張) ア相互保証の主張立証責任の所在、ヤータナ賠償法でいう「ヤータナ」の意味、仮に相互保証があるとしても賠償額は10万ルピーの限度の範囲内とされるべきことは、被告東京都の主張と同旨である。 イ相互保証の不存在に関しては、ネパールの政府関係者が、ネパールには国賠法に相当する法令が存在せず、また、相互保証に関する規定等もない 旨を明確に回答しているから、ネパールに相互保証がないことは明らかで ある。また、仮にヤータナ賠償法が注意義務違反に適用されるとしても、日本人に対しても賠償を認めているか明らかではない。 ⑺ 原告の相続による損害賠償請求権取得の有無(原告の主張)ア Aに原告以外の妻及び子はおらず、原告は、ムルキ・アイン第3部第1 6章「遺産相続について」の第2条1項1号の「共同家族の妻」として、Aの被告らに対する損害賠償請求権を相続した。 イ上記「共同家族」とは、ネパールの伝統的大家族制度における共同財産の下に生活する世帯を意味するところ、Aと原告は、共同財産分割を行っておらず、共同家族に属している。また、Aは、出稼ぎ目的で来日してお り、将来的に原告と同居することを前提とし、一時帰国中は原告と同居していて、遺言書を作成していない。なお、原告は、Aの本籍地で登録されているが、同人の実父の共同家族ではない。 (被告東京都の主張)原告 することを前提とし、一時帰国中は原告と同居していて、遺言書を作成していない。なお、原告は、Aの本籍地で登録されているが、同人の実父の共同家族ではない。 (被告東京都の主張)原告はAと別居状態であり、ネパールの住所地において、Aの実父の世帯 に属している。他方、Aは日本での自己の収支を基に生活していたことが窺われるので、原告との共同財産の下に生活する世帯とはいえない。したがって、原告とAの実父は、ムルキ・アイン第3部第16章「遺産相続について」の第2条1項4号の「共同家族を解消した妻、父」として同順位になり、同等の相続分を有する。 (被告国の主張)否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実に加え、後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ る(なお、居室及び保護室での出来事に関しては、カメラ映像が存在するとこ ろ、丙5の動画の表示時刻は正規時刻より1分30秒早いことが認められるが(丙38)、証拠とのつながりを保つため、以下の時刻は動画の表示時間をもって認定した。)。 ⑴ 逮捕されるまでの経緯ア Aは、平成23年12月頃に在留資格「技能」で来日し、調理師として 勤務していた。その後、平成27年4月3日から平成28年4月4日までの約1年間、肺結核及び髄膜炎で入院し、退院後の平成28年5月26日から同年11月26日までの6か月間ネパールに帰国した。Aは、一時帰国中は、原告と居住していた。 平成28年11月27日、Aは、原告を日本に呼ぶ準備を兼ねて、再来 日してネパールレストランで就労を開始したが、約2か月後の平成29年2月5日頃に同レストランを解雇され、その後は浮浪生活状態であった。 (以上につき、 日本に呼ぶ準備を兼ねて、再来 日してネパールレストランで就労を開始したが、約2か月後の平成29年2月5日頃に同レストランを解雇され、その後は浮浪生活状態であった。 (以上につき、甲1、13の1・2、弁論の全趣旨)イ平成29年3月13日午後4時前頃、Aは、B区の店舗でおもちゃの銀行券を使用して買い物しようとして、警察に通報された。そして、駆け付 けたB警察署員がAに対して所持品検査を行ったところ、同人が、遺失物届を出されていた他人名義のクレジットカードを所持していたため、B警察署に任意同行を求められた。 ウ B警察署において、Aは、クレジットカードを路上で拾ったと供述したため、3月14日午前0時25分、占有離脱物横領罪の容疑で通常逮捕さ れ、同日午前3時過ぎまで取調べを受けた(丙15)。 ⑵ 病院での診察B署組織犯罪対策課員は、Aから結核の既往症があるとの申出があったため、3月14日午前10時25分頃、同人をH病院に護送し、診察を受けさせたが、結核検査の結果は陰性であった。また、Aは、診察時、医師に対し、 嘔吐、下痢、腹痛の症状を訴え、37度8分の発熱が認められたところ、急 性胃腸炎と診断され、薬が処方された(甲29、丙2)。 なお、同日の朝、Aに対し朝食が提供されたが、同人は、白米には手を付けず、おかずを少し食べただけであった。 ⑶ 留置施設での様子(3月14日)Aは、3月14日午後3時頃、B警察署に戻り、昼食(コッペパン2つ)を 取り、午後4時頃に同署の留置施設に留置された。F警部補は、午後4時15分、Aに、留置施設内での遵守事項について、ネパール語で記された告知書を提示し、同人は、告知書提示確認書に署名押印した。また、F警部補は、午後4時半から午 施設に留置された。F警部補は、午後4時15分、Aに、留置施設内での遵守事項について、ネパール語で記された告知書を提示し、同人は、告知書提示確認書に署名押印した。また、F警部補は、午後4時半から午後5時頃までAの身体検査を行ったところ、右足内側太ももあたりに痣、左耳たぶに切れたような傷があるのを認めた。(丙3の1・ 2、丙4、15、29、証人F)その後、F警部補及びE巡査部長は、Aを居室に入室させた。なお、居室には他に被疑者は入っておらず、A1人であった。Aは、その日の夕食で白米には手を付けず、おかずのみを食べた。 ⑷ 保護室収容の経緯(3月15日午前6時30分頃から午前6時51分頃) ア O警部補らは、午前6時30分頃から、寝具を保管場所にしまうため、順次被留置者に寝具の搬送を行わせていた。 O警部補らは、Aに対しても寝具の搬送要領を指示するために、同人の入室する居室の扉を開けたところ、途端に同人が居室の外に出ようとしたことから、O警部補は、これを制止し、居室内にAを戻した。次に、O警部 補は、Aに対し、歯ブラシ等を持ってくるように伝えたが、うまく伝わらなかったため、自身が居室内に入って、歯ブラシ等を回収し居室から出た。 (丙5・動画1、丙26)イ I巡査長は、午前6時47分頃、Aに対し、寝具を持ってくるよう指示しようと、居室の扉を開けたところ、同人が突然居室から出ようとしたた め、I巡査長はこれを制止した。 再度、I巡査長及びJ巡査長が、Aに対して寝具を居室出入口まで持ってくるよう指示したところ、同人は、居室の出入口付近の廊下にいたJ巡査長に対して、投げるように寝具を渡すやいなや、廊下に出て歩き出してしまった。そこで、I巡査長が、Aの腕をつかんで制止したが、同人は振り切って再度歩 ところ、同人は、居室の出入口付近の廊下にいたJ巡査長に対して、投げるように寝具を渡すやいなや、廊下に出て歩き出してしまった。そこで、I巡査長が、Aの腕をつかんで制止したが、同人は振り切って再度歩いていった。I巡査長が、再びAの左腕を掴んで、居室の 方に戻そうとすると、同人は足を踏ん張り抵抗した。O警部補及びJ巡査長も加わり、O警部補がAの背後から、左手で同人のトレーナーの襟首の後ろを、右手で同人の右手首を掴んで、居室前まで連れ戻そうとしたが、この際も同人は足を踏ん張り抵抗していた。 O警部補らは、Aを居室前まで連れ戻した後、同人を居室に戻そうとし たが、同人は体を反転させ居室の扉の縁に手を掛け、入室を拒んだ。そのため、O警部補は、Aの体勢を崩そうとして、背後から同人の顎に腕を回して身体を回転させ、廊下に置かれていた寝具の上にあおむけに倒し、「おら」、「ちゃんと入ってろ」と大声で警告しながら、同人の抵抗を制止した。さらに他の留置担当官が加わり、合計約5名の留置担当官が加勢の上、 I巡査長がAの背後から両脇を抱え立ち上がらせ、居室に入れようとしたが、同人は、ネパール語を発しながら、廊下にいたJ巡査長の服を掴んで引っ張るなどして強い力で暴れた。Aを抱えていたI巡査長が居室の扉に自らの体を打ち付けながら、Aを居室に戻そうとするも、同人は、F警部補の腕を掴むなどして抵抗した。(丙5・動画2、丙26、29、証人O) ウ Aは、留置担当官に抱えられながら居室内に入ったものの、居室の出入口に立っていたO警部補の方に向かってきたため、留置担当官は居室の扉を閉めることができなかった。そして、O警部補は、Aのトレーナーの襟首を掴んで制止しようとしたが、同人は、居室の外に出て、居室外側の鉄格子にしがみついた。 O警部補 、留置担当官は居室の扉を閉めることができなかった。そして、O警部補は、Aのトレーナーの襟首を掴んで制止しようとしたが、同人は、居室の外に出て、居室外側の鉄格子にしがみついた。 O警部補及びF警部補は、一連の状況をみて、午前6時50分頃、保護 室に収容することを決定した。 そこで、O警部補、I巡査長及びF警部補は、Aを居室外側の鉄格子から引き離し、O警部補が、背後から右手をAの首に回し、身体を後ろに反転させ、保護室への連行を開始した。 (以上につき、丙5・動画2、丙20、26、29、証人O、証人F) エ保護室への連行中、I巡査長及びJ巡査長がAの両腕をそれぞれ掴み、O警部補がAの背後から服の襟と腰を掴み、同人を歩かせる形で保護室まで移動した。(丙5・動画3及び4、丙26、29、証人O、証人F)午前6時51分頃、Aは保護室内に入った。 ⑸ 保護室での戒具使用の状況(午前6時51分から午前8時56分頃) ア O警部補及びF警部補は、このままAを保護室に収容しようとしても、戒具を使用しなければ、保護室内から出ようとして暴れ、保護室内で扉や壁等に自身の身体を打ち付けて怪我をしたり、それらを制止する留置担当官に危害を及ぼすおそれがあると判断し、Aに対する戒具使用の必要性を認めた。(丙5・動画5、丙19、26、29、証人O、証人F) イ O警部補ら4名の留置担当官は、午前6時51分頃、Aを保護室に入れると同時に、同人の身体を押さえて仰向けに寝かした。そして、5名の留置担当官でAの両手、両足首に戒具の装着を開始したが、同人が手足を動かしたり身体をよじらせて暴れたりしたため、なかなか装着することができなかった。 この頃、駆け付けた複数のB署員が応援に加わり、保護室内では十数名の留置担当 開始したが、同人が手足を動かしたり身体をよじらせて暴れたりしたため、なかなか装着することができなかった。 この頃、駆け付けた複数のB署員が応援に加わり、保護室内では十数名の留置担当官らがAを取り囲んだ。7、8名の留置担当官でAの身体を押さえ、同人の両手首にベルト手錠、両足首に新型捕縄、両膝に捕縄の順でそれぞれ装着を始めた。この際も、Aは起き上がろうとするなど暴れ続け、なかなか装着することができなかったが、午前6時58分頃、全ての戒具 の装着が完了し、留置担当官は全員保護室を退室した。 (以上につき、丙5・動画5、丙26、29、証人O、証人F)ウ Aは、保護室の扉が閉まった後、手首をひねったり、膝を曲げたり伸ばしたりして、戒具を外そうと動き続け、午前7時04分頃には、膝を曲げて両膝に装着した捕縄をほどき始めた。そのため、対面監視を行っていたE巡査部長は、保護室内に入り、Aの体を押さえた上で、応援に駆け付け たJ巡査長と共に、戒具を装着し直そうとした。しかし、Aが激しく体をよじって暴れたため、戒具の装着を始められず、I巡査長及びF警部補の応援を得て、4名がかりでようやく、Aの腹部より上に上がってきたベルト手錠を正しい位置に装着し直すとともに、捕縄と新型捕縄を結び直した。 (丙5・動画5、丙27、29、証人E、証人F) エその後、Aは、手首をひねって動かしたり、両足を曲げたり伸ばしたりして、再度戒具を外そうとしていたが、午前7時13分頃、膝を曲げて両膝に装着した捕縄をほどこうとする動きをみせたため、E巡査部長は、保護室内に入り、速やかに捕縄を結び直した。 さらに、Aは戒具を外そうと、上記のとおり動き続けていたところ、E 巡査部長は、午前7時18分頃、足首に装着された新型捕 、E巡査部長は、保護室内に入り、速やかに捕縄を結び直した。 さらに、Aは戒具を外そうと、上記のとおり動き続けていたところ、E 巡査部長は、午前7時18分頃、足首に装着された新型捕縄の固結びの部分に更に2、3回ほど固結びを加えてひもが余らないようにした。午前7時22分頃、Aは、再度、膝を曲げて捕縄をほどこうとする動きをみせたため、E巡査部長及びJ巡査長は捕縄を速やかに装着し直した。 (以上につき、丙5・動画5、丙27、証人E) オその後も、Aは、身体をのけぞらせたりして動き続け、保護室の壁面や鉄格子の扉に頭を擦りつけたり打ち付けたりしていた。E巡査部長は、Aの右目蓋付近から出血しているのを発見したため、午前7時30分頃、保護室内に入り確認したところ、傷口の浅い擦過痕であったため、ちり紙で血をふき取った。 Aは、午前7時50分頃から、動かず横になっている時間も増えたもの の、時折、手首をひねったり、膝を曲げたり伸ばしたり、転がったりする動きを繰り返していた。午前8時53分頃、対面監視をしていたF警部補は、Aの右目蓋から出血を認めたため、E巡査部長と共にちり紙で血をふき取りに保護室内に入ったが、その際、ベルト手錠の金具が壊れて床に落ちているのを発見した。 (以上につき、丙5・動画5、丙27、29、証人E、証人F)カ結局、Aは、午前6時58分頃に戒具を装着してから約2時間、身体を動かし続けていた。(丙5・動画5)⑹ 検察官送致の準備(午前9時頃)ア G警部補及びF警部補ほか2名の留置担当官は、午前8時57分頃に、 Aを検察庁に送致する準備を行うため、保護室内に入り、同人に対し、「オッケー」「グッドボーイ」「ビー、リラックス」などと英語で声を掛け、ベルト手錠から金属 留置担当官は、午前8時57分頃に、 Aを検察庁に送致する準備を行うため、保護室内に入り、同人に対し、「オッケー」「グッドボーイ」「ビー、リラックス」などと英語で声を掛け、ベルト手錠から金属製の標準手錠に付け替えようとした。その際、G警部補は、Aの手首から先が赤黒く膨脹していることに気付き、「すごい手してるな、こいつ」と述べた。ベルト手錠を取り外す際、Aは、手を上下させ、 暴れ続けたため、G警部補らは、これを制止しながら、ベルト手錠を外した。このとき、Aは、手首から先が赤黒く膨脹している一方、ベルト手錠が接触していた手首の部分には白い跡が残っていた。 その後も、Aが抵抗し暴れたため、留置担当官は、Aの両手首をつかんで、膝の捕縄を外して標準手錠を装着した。そして、留置担当官は、両足 首に装着していた新型捕縄をほどこうとしたが、結び目が固く結ばれており、ほどけなかったため、G警部補らは、新型捕縄の解除をあきらめて装着したまま検察庁に護送することを決めた。 留置担当官は、Aの腹部に逃走防止用の護送用ベルトを装着し、これに連行ロープを結着させた後、新型捕縄により歩行できない状態の同人を抱 き上げて保護室から運び出した。 (以上につき、乙5、丙5、証人G)イ F警部補ら留置担当官は、Aを単独護送により検察庁に送致することとして、車いすに乗せて、午前9時14分頃、護送車両で留置施設から出発した。F警部補らは、午前9時40分頃に検察庁に到着したが、この間、Aの標準手錠と両足首の新型捕縄の使用は継続していた。(丙5、9、証 人F)⑺ 検察庁での取調べ(午前10時30分頃から午前11時頃)Aは、午前10時34分頃、標準手錠と両足首の新型捕縄を装着されたまま、車いすに乗せられた状態で検察官室に入 、9、証 人F)⑺ 検察庁での取調べ(午前10時30分頃から午前11時頃)Aは、午前10時34分頃、標準手錠と両足首の新型捕縄を装着されたまま、車いすに乗せられた状態で検察官室に入室した。その後、検取事務官による取調べが開始されたが、Aは机を蹴るなど暴れたため、戒具の使用が継続 された。 しばらくして、検取事務官は、Aを落ち着かせるため、同人の手錠の片方を解除するよう指示し、片方の手錠が外された。 その後もAは暴れ続けていたが、午前11時頃、大人しくなり、身体が動かなくなった。異変に気付いた留置担当官が、Aの脈を測ったところ、脈の 確認が取れなかったことから、同人を検察官室内の床に寝かせ、戒具を全て解除し、119番通報をした。留置担当官は、Aに心臓マッサージをするとともに、自動体外式除細動器(AED)を取り付けて作動させたが、AEDを使用する必要がない旨のアナウンスが流れ、AEDは起動しなかった。その後、午前11時24分頃に救急車が到着した。 (以上につき、甲1、7、証人F、弁論の全趣旨)⑻ 死亡確認と司法解剖救急隊が、午前11時24分頃と28分頃の2回にわたり、Aにアドレナリンを投与したところ、いったん心拍は再開した。しかし、午前11時34分頃、再び心停止となり、その後心臓は動くことはなかった。Aは、心停止のま ま、午前11時53分にC病院に収容され、午後2時46分頃、死亡が確認さ れた。(甲1、7、弁論の全趣旨)Aの死体は、3月16日午前9時30分から午後2時30分までの間に、K研究科法医学教室において、鑑定処分許可状に基づき解剖された。解剖の結果、主な損傷部位等として、左右上下肢及び体幹部の皮下出血、四肢及び右臀部の筋肉内出血が確認された(乙1 2時30分までの間に、K研究科法医学教室において、鑑定処分許可状に基づき解剖された。解剖の結果、主な損傷部位等として、左右上下肢及び体幹部の皮下出血、四肢及び右臀部の筋肉内出血が確認された(乙1)。 ⑼ 死亡後の経緯警視庁刑事部刑事総務課長は、平成30年2月23日、Aの死亡事案について、被疑者不詳の殺人被疑事件として検察官に送致したが、同年3月23日、傷害致死被疑事件とされた上で不起訴処分になった。 2 争点1(被告東京都(留置担当官)の行為の国賠法上の違法の有無) ⑴ 戒具使用の違法性の判断基準ア法213条1項は、被留置者が「逃走する」、「自身を傷つけ、又は他人に危害を加える」、「留置施設の設備、器具その他の物を損壊する」おそれがある場合には、留置担当官が、捕縄又は手錠を使用することができる旨を定めている。また、拘束衣及び防声具については、同条5項において使 用期間が定められているのに対し、捕縄又は手錠の使用期間については特に定められていない。そして、戒具使用は、被留置者や留置施設の個々具体的な状況に応じて適時適切に行う必要があるから、使用に関する必要性や使用方法等に関する判断は、上記事情に通暁した留置担当官の合理的な裁量に委ねられていると考えられる。 イしかしながら、他方において、捕縄又は手錠は、拘束性が比較的弱いとしても、その使用方法によっては、血液の循環を阻害し、身体に重大な影響を及ぼすおそれがある。上記危険性を踏まえ、規則37条2項は、刑事収容施設における捕縄使用の際の留意事項として、血液の循環を著しく妨げることとならないよう留意しなければならないと定めており、留置施設 に関する施行規則に同様の規定は存在しないものの、身体拘束に内在する 危険性 際の留意事項として、血液の循環を著しく妨げることとならないよう留意しなければならないと定めており、留置施設 に関する施行規則に同様の規定は存在しないものの、身体拘束に内在する 危険性は被収容者と被留置者の間で差異がない上、被告東京都提出の留置業務執務資料(丙12)にも同趣旨の記載があるから、規則37条2項の趣旨は留置施設にも妥当すると解すべきである。 以上を前提とすると、被留置者に対する捕縄又は手錠の使用は、法213条1項各号に定める事由を防止するために、必要な限度で行わなければ ならないのであって、捕縄又は手錠使用に係る留置担当官の裁量的判断も、上記の限度内において合理的に行われなければならない。そして、被留置者に対する捕縄又は手錠の使用の必要性、使用方法等に関する留置担当官の具体的な判断が、上記の限度内における合理的なものといえない場合には、このような捕縄又は手錠の使用は、留置担当官の裁量権の範囲を逸脱 又は濫用したものとして、違法となるといえる。 ⑵ 保護室収容時の戒具使用要件の充足についてそこで、以上を踏まえ、保護室に収容する時点で、Aに関し、法213条1項が定める戒具使用要件が存在するとした留置担当官の判断に裁量権の逸脱・濫用があるかについて検討する。 前記認定事実⑷によれば、Aは、保護室収容前、居室から外に出ようとし、制止した留置担当官に強い力で抵抗した上、4、5名の留置担当官が居室に戻そうとしても、居室の扉や外側の格子にしがみつくなどして、Aを居室に入れて扉を閉めることができない状況にあったことが認められる。また、この間、Aが留置担当官の服や腕をつかむなどして暴れ、居室に戻そうとした 留置担当官が扉に体を打ち付けることもあった。 上記状況からすると、Aを保 できない状況にあったことが認められる。また、この間、Aが留置担当官の服や腕をつかむなどして暴れ、居室に戻そうとした 留置担当官が扉に体を打ち付けることもあった。 上記状況からすると、Aを保護室に収容しようとしても、戒具を使用しなければ、居室への入室を抵抗したときと同様に、保護室から出ようと抵抗して暴れ、自身を傷つけ又は留置担当官に危害を加える可能性があった上、その過程で留置施設の設備等が損壊される可能性もあったといえる。また、居 室から出ようとしたAの行為は、外形上、拘束を逃れて外に出ようという意 思に基づくものと見るほかなく、逃走のおそれもあったと認められる。 以上によれば、保護室に収容する段階において、Aについて法213条1項1号ないし3号の要件を満たし、戒具使用の必要性があるとした留置担当官の判断に不合理な点があったとは認められない。 ⑶ 血液循環阻害防止義務違反について 前記⑴説示のとおり、留置担当官は、法213条1項に基づく戒具使用要件を満たす場合であっても、その危険性に鑑み、必要以上に緊縛して血液の循環を妨げることとならないよう留意すべき義務がある。 もっとも、この点について、保護室収容時の装着やその後の装着し直しに関与したO警部補、E巡査部長及びF警部補は、戒具が血液の循環を妨げて いないか確認するために、Aの手足の鬱血の有無や戒具の食い込みの有無を目視で確認したり、戒具と体との間に指を差し入れて余裕を確認したりした等と証言しており、上記各証言と矛盾する証拠は提出されていない。また、前記認定事実⑸ウ及びエのとおり、捕縄については、Aも、1回目の装着後に自身でひもをほどくことができている上、留置担当官が捕縄を装着し直す 際も、速やかに結び目をほどくことができており、必要 前記認定事実⑸ウ及びエのとおり、捕縄については、Aも、1回目の装着後に自身でひもをほどくことができている上、留置担当官が捕縄を装着し直す 際も、速やかに結び目をほどくことができており、必要以上の強度で拘束していたとまでは認められない。ベルト手錠の手首部分については、1回目の装着時からベルト手錠が解除されるまでの間、特に締め直しはされていないところ、Aは、終始、手首をひねる動きをしており、手首を動かせる程度にはすき間があったことが窺われる。新型捕縄については、検察官送致のため 取り外そうとした際に、結び目が固く結ばれていて取り外すことができなかったものの、これについては、保護室収容中に、E巡査部長が余っているひもを短くしようと一つ目の固結びの上から何度も固結びを行ったこと及びAが足を動かして縄が外側に引っ張られたこと等が影響している可能性があり、上記事情から、直ちに捕縄により両足首が強度に緊縛されていたと認め ることはできない。 他方、前記認定事実⑹アのとおり、ベルト手錠を取り外した直後、Aは、手首から先が赤黒く膨脹していたことが認められ、血流が阻害されていたことが窺われる。しかしながら、これは、前記認定事実⑸のとおり、保護室収容中、Aが、ベルト手錠を外そうとして、同手錠を引っ張ったり、手首をひねったり、ベルト手錠を装着したままの状態で、膝に手を伸ばして捕縄をほ どこうとしたりして動き続けたことにより、ベルト手錠と両手首との接着部分が強く擦れ、使用部位が圧迫されたことによるものである可能性も十分に考えられ、上記の点をもって、ベルト手錠が必要以上に強く装着されていたとは推認できない。 したがって、留置担当官が、必要以上の強度でAの身体を拘束したことで、 使用部位を傷つけ、血液の循環を著しく妨げた 記の点をもって、ベルト手錠が必要以上に強く装着されていたとは推認できない。 したがって、留置担当官が、必要以上の強度でAの身体を拘束したことで、 使用部位を傷つけ、血液の循環を著しく妨げたと認めるに足りる証拠はない。 ⑷ 医師の意見聴取義務違反について原告は、①医師の意見聴取義務は、被留置者の健康状態に変化があった場合に適宜発生すると解すべきであるとした上で、留置担当官は、Aに、手の鬱血、膨脹等の異常が認めたにもかかわらず、医師からの意見聴取を怠った こと、②被留置者においても訓令34条が準用ないし類推適用されることを前提として、留置担当官は、Aについて脱水症状が強く疑われる状態にあることを認識しながら、医師に情報提供をしなかったことを指摘し、医師の意見聴取義務違反がある旨主張する。 ア ①の注意義務違反について まず、前記認定事実⑹アのとおり、検察庁への護送準備を開始した午前9時頃時点では、Aの両手首から先が赤黒く膨脹していたことが認められるものの、護送準備を開始するより前の保護室収容中において、Aの両手首が上記状態であったことは、証拠(乙5、丙5・動画5)からは明らかでない。したがって、午前9時より前に、Aの両手首に異常が生じていたと の事実を認めるに足りる証拠はなく、留置担当官に医師への意見聴取義務 があったとはいえない。 他方で、午前9時頃時点における留置担当官の医師の意見聴取義務については、病院に相談し適切な治療を受けさせる義務と重なるため、後記⑹において判断する。 イ ②の注意義務違反について 次に、留置担当官は、Aを保護室に収容した後、医師に対し、Aの健康状態について、「留置前診察で結核検査を実施し、陰性であったが、更に医師に嘔吐、 イ ②の注意義務違反について 次に、留置担当官は、Aを保護室に収容した後、医師に対し、Aの健康状態について、「留置前診察で結核検査を実施し、陰性であったが、更に医師に嘔吐、腹痛を訴えたことから急性胃腸炎と診断され整腸のためビオフェルミンが処方された。以後、症状なし」との情報提供を行った上で意見聴取をしていたと認められる(丙20)。したがって、仮に被留置者に 訓令34条が準用ないし類推適用されるとしても、留置担当官は必要な情報提供を行っており、医師の意見聴取義務違反は認められない。 なお、原告は、Aが脱水症状を強く疑われる状態にあったことを医師に情報提供すべきであったと主張する。しかしながら、Aが留置されていた居室内は洗面台からいつでも水を補給できる環境にあり(丙30)、留置 担当官において、Aの脱水症状を強く疑うべき状態にあったとは認められない上、血液検査結果の指標でも、同人が脱水状態であったことを示す明らかな所見は存在しない(甲1、丙34の1ないし4)。原告の上記主張は採用できない。 ⑸ 戒具使用中止義務違反について 前記⑴のとおり、戒具による拘束は、使用方法によっては、血液の循環を阻害し、身体に重大な影響を及ぼす危険性を有するものであるから、留置担当官は、法213条1項の要件を満たさなくなった場合には、戒具の使用を中止する義務を負うと解される。この点は、被告東京都提出の留置業務執務資料にも記載されているところである(丙41)。 もっとも、Aが保護室に収容される前に居室から出ようとし、留置担当官 の制止にも抵抗し続けて、居室の扉が閉められない状況になっていたことは前記⑵のとおりである。そして、保護室収容後も、戒具を外そうと動き続け、暴れて留 される前に居室から出ようとし、留置担当官 の制止にも抵抗し続けて、居室の扉が閉められない状況になっていたことは前記⑵のとおりである。そして、保護室収容後も、戒具を外そうと動き続け、暴れて留置担当官4名がかりでないと戒具を装着し直すことができなかった上(前記認定事実⑸ウ)、その後も、保護室の壁面や鉄格子の扉に頭を擦りつけたり打ち付けたりして右目蓋付近から出血していたのであるから(同 オ)、戒具を外せば、再度Aが保護室から外に出ようとして暴れ、これを制止する留置担当官との間でもみ合いとなって自傷他害行為や設備等損壊行為に及ぶおそれは継続していたとみるのが相当である。 他方、この間において、Aの身体に何らかの異変を窺わせる徴表が認められなかったことは、前記⑷アのとおりである。 したがって、留置担当官らが、法213条1項1号ないし3号の使用要件が継続していると判断したことが不合理であるとはいえず、使用中止義務違反は認められない。 ⑹ 病院搬送義務違反の有無ア法201条1項1号は、留置業務管理者は、被留置者が「負傷し、若し くは疾病にかかっているとき、又はこれらの疑いがあるとき」に該当する場合には、速やかに、当該留置業務管理者が委嘱する医師等による診療を行い、その他必要な医療上の措置を執るものと規定している。 したがって、B警察署の留置担当官は、上記法令に基づいて、被留置者の健康が害されることのないよう注意し、被留置者に負傷又は疾病が認め られた場合には必要に応じて医師の診察を受けさせ、さらに必要のあるときには病院等の施設に収容あるいは移送するなどの適切な措置を講じ、もって自由が拘束され、自己決定に基づいて自力ではその回復措置のとれない状態のある被留置者の生命、身体の保 けさせ、さらに必要のあるときには病院等の施設に収容あるいは移送するなどの適切な措置を講じ、もって自由が拘束され、自己決定に基づいて自力ではその回復措置のとれない状態のある被留置者の生命、身体の保持に努める注意義務を負っていると解すべきである。 イ以上を本件についてみるに、Aは、戒具によって約2時間にわたって拘 束されており、午前9時頃の時点でベルト手錠を外した際には、その両手首から先は赤黒く膨脹し、同手錠のフェルト生地が接触していた手首部分には白い跡が残っていた状態であったから(前記認定事実⑸カ、同⑹ア)、Aが戒具の拘束により血流を妨げられ、虚血が生じている状況であったことは外見上明らかであったといえる。 そして、G警部補及びF警部補は、拘束から両手の腫張までの一連の状況を把握ないし現認していたところ、両警部補は、被留置者の拘束部位に鬱血等から腫れが生じている場合には、被留置者の生命、身体に危険が生じるおそれがあるため、必要に応じて病院に搬送する対応をとるべきとの指示教養を受けており、実際にもF警部補は、時期はともかくとして、A を病院に搬送する必要があると判断していた(証人F、証人G)。 以上によれば、G警部補及びF警部補は、Aの両手の腫張を確認した午前9時頃の段階で、拘束部位の血液循環阻害により生命、身体に危険が生じることを回避するため、同人を速やかに病院に搬送するなどして医師の診察を受けさせ、適切な治療が受けられるように措置を講ずるべき注意義 務があったというべきである。したがって、これを怠ったことは、職務上の注意義務に違反したものとして、国賠法上違法といえる。 ウこれに対し、被告東京都は、医学的知見を有しないG警部補及びF警部補において、肺動脈血栓症を疑うことはおよそ不可能で たことは、職務上の注意義務に違反したものとして、国賠法上違法といえる。 ウこれに対し、被告東京都は、医学的知見を有しないG警部補及びF警部補において、肺動脈血栓症を疑うことはおよそ不可能であったし、活発に動いていたAの様子を前提とすれば、直ちに病院に搬送する必要はなく、 同日中に病院に搬送し診療を受けさせようとしたF警部補の判断に、裁量権の逸脱又は濫用はない旨主張する。 しかしながら、注意義務の前提となる予見可能性を肯定するに当たって、留置担当官が具体的な疾患名まで認識している必要はない。Aの両手が膨脹し赤黒く変色している状況等から、G警部補及びF警部補が、法201 条1項1号にいう「負傷し、若しくは疾病にかかっている」又は「これら の疑いがある」と判断できたことは明らかであり、具体的な疾患名を疑うことができなかったことは、上記判断を左右しない。 また、負傷や疾病には様々な内容・程度があることから、講ずべき医療上の措置の内容や時期に関する判断について、留置担当官の合理的裁量に委ねられる部分があることは否定できないものの、暴れ続けた後のAの両 手首から先の膨脹及び変色の状況は、ベルト手錠の取り外しに当たったG警部補が「すごい手してるな、こいつ」と思わず口にするほどの状態であったものである。さらに、戒具を装着した状態で腕や足を動かすと相当の痛みを伴うため、2時間以上も暴れ続けること自体が異常であり、経験豊富な留置担当官らも初めての経験であると口を揃える事態でもあった(丙 28、証人G、証人F)。以上に加え、F警部補が、血流の循環を妨げると鬱血して血栓ができるとの知識を有し(証人F)、鬱血が急激に身体の状態を悪化させる可能性があることを認識していたことを踏まえれば、Aが活発に動作していたこと に加え、F警部補が、血流の循環を妨げると鬱血して血栓ができるとの知識を有し(証人F)、鬱血が急激に身体の状態を悪化させる可能性があることを認識していたことを踏まえれば、Aが活発に動作していたことをもって緊急性がなく、検察官送致を優先すべきとした判断は、裁量権の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。被告東 京都の上記主張は採用することができない。 3 争点2(被告国(検取事務官)の行為の国賠法上の違法の有無)⑴ 原告は、取調べを担当する検取事務官は、戒具を使用した被拘禁者の手足等に腫れや鬱血の状態が確認された場合には、直ちに医師に相談の上、当該被拘禁者を病院に搬送して適切な治療を受けさせる注意義務を負うことを前 提として、Aの両手が激しく腫れて鬱血した状態にあることを現認していたのにもかかわらず、医師に相談することなく、また、Aを直ちに病院に搬送せず、適切な治療を受けさせなかったことは上記注意義務に反している旨主張する。 ⑵ しかしながら、検取事務官が、Aが、約2時間にわたってベルト手錠、捕 縄、新型捕縄を装着されていた事情を把握していたと認めるに足りる証拠は なく、仮に検取事務官においてAの両手が腫れているようにみえたとしても、このことから、検取事務官が、Aが死亡することを予見し、これを回避するために直ちに医師の診察を要すると判断することは困難である。また、検察官が手錠の解除を警察官に指示するに際して、被疑者に対する戒具の使用状況や健康状態を押送担当の警察官から聴取するなどして事情を把握すべき調 査義務ないし注意義務が一般的にあるとも解し得ない。 したがって、検取事務官に注意義務違反は認められず、その余の争点について判断するまでもなく、被告国に国賠法1条1項に基づく損害賠償責任は認 義務ないし注意義務が一般的にあるとも解し得ない。 したがって、検取事務官に注意義務違反は認められず、その余の争点について判断するまでもなく、被告国に国賠法1条1項に基づく損害賠償責任は認められない。 4 争点3(因果関係の有無) ⑴ Aの死因Aの死因については複数の見解が示されており、①Aの司法解剖を行ったK研究科法医学教室の鑑定人3名は、全身の皮下出血及び筋肉内出血を原因とする循環血液量減少性ショックや筋挫滅症候群による急性腎不全の競合(いわゆる外傷性ショック)であるとし(乙1。以下「本件鑑定書」という。)、 ②原告代理人から依頼を受けて、Aの遺体について再度の検死を行ったL医師は、筋挫滅症候群を原因として大量のカリウムが血中に溶出したことによる心停止であるとし(甲1、7。以下「L医師意見書」という。)、③同じく原告代理人から依頼を受け、解剖記録や血液検査結果等を踏まえて意見書を提出したM医師は、死因は肺動脈血栓症であるが、筋挫滅症候群の発症が死 亡に結びついた可能性も否定できないとし、証人尋問でも同様の証言をしている(甲30、33、証人M)。 そこで、因果関係の判断の前提として、以下、Aの死因について検討する。 ア肺動脈血栓症の可能性についてM医師は、①鬱血により、臓器組織内の静脈や毛細血管内の血流が停滞 した状態が続くと、静脈血が澱むため、静脈内に血栓が形成される、②ベ ルト手錠を取り外した直後のAの手首から先が赤黒く膨脹していたことからすると、同人の両手首には鬱血が生じているため、血栓が形成されていた可能性が高い、③本件では、拘束が解かれた後、鬱血部位から血栓が心臓・肺動脈方向に流れ始め、最終的には肺動脈が血栓で詰まって肺動脈血栓症を生じ、これが致命傷になったと いるため、血栓が形成されていた可能性が高い、③本件では、拘束が解かれた後、鬱血部位から血栓が心臓・肺動脈方向に流れ始め、最終的には肺動脈が血栓で詰まって肺動脈血栓症を生じ、これが致命傷になったと考えられるとの意見を述べる。 しかしながら、肺動脈血栓症が生じているのであれば、血液の塊が肺動脈に詰まっているはずであるが、司法解剖の結果、Aの肺動脈に血液の塊が詰まっている状況は確認されていない(丙31、32の1ないし3)。 この点について、M医師は、司法解剖を行った医師が、血栓症があるということを念頭に入れずに解剖し、その診断を欠落させた可能性を指摘する が、司法解剖では、頭蓋腔、胸腔、腹腔を必ず開検することとされており(丙45)、解剖に当たった鑑定人3名がこれを見逃すとは俄かに考え難い。 また、M医師は、Aの血液生化学検査でDダイマーの値が31.04μg/ml(正常上限値は1以下)と高値であることを一つの根拠として、 Aの体内に血栓が形成されていた可能性が極めて高いとしているが、M医師も認めるとおり、Dダイマー値は血栓症の存在を否定する指標として用いられるものであり(丙33の1ないし5)、これが高値であることから、肺動脈血栓症であったと直ちに推認することはできない。さらに、M医師は、Aが脱水状態にあったことも一つの根拠としているが、保護室収容前 の同人の水分摂取状況は定かではない上、同人の血液検査結果の指標からは同人が脱水状態にあったとは必ずしも認められず、この点も根拠として採用し難い。 以上からすると、Aの体内に血栓が形成されていた可能性はあるものの、主たる死因が肺動脈血栓症であるとまでは認められない。 イ循環血液量減少性ショック又は急性腎不全の競合の可能性について Aの体内に血栓が形成されていた可能性はあるものの、主たる死因が肺動脈血栓症であるとまでは認められない。 イ循環血液量減少性ショック又は急性腎不全の競合の可能性について 循環血液量減少性ショックについて本件鑑定書は、Aの死因の一つを、全身の多発外傷に伴う循環血液量減少性ショックとし、その原因としては、主に皮下及び筋肉内出血や一部肋骨骨折に伴う出血が考えられるとしている。 しかしながら、このうち肋骨骨折については、Aの死亡に至る経過に照らせば、同人の意識消失後に心臓マッサージが行われたことに伴う骨折であると推認されるから(証人M)、肋骨骨折に伴う出血が循環血液量減少性ショックの原因になったとは直ちに考えられない。他方、皮下及び筋肉内出血については、C病院搬送時のAの四肢の状況からその存 在は認められるものの、出血性ショックで重症化する場合には2250ml以上もの出血量が必要であるとされており(丙14)、Aについて、これほどの多量の出血があったことを裏付ける証拠はない。 ミオグロビン血症の状態に陥ったことによる急性腎不全について次に、本件鑑定書は、ミオグロビン血症の状態に陥ったことによる急 性腎不全の可能性を指摘するところ、本件鑑定書及びL医師意見書によれば、①Aについては、3月15日午前11時56分にC病院で採血が行われ、血液ガス・生化学検査が行われていること、②上記検査におけるAの血液中のミオグロビンの値は681ng/ml(基準値上限85)と高値であること、③司法解剖時のAの血液中ミオグロビン濃度も55 9,100ng/dlと著明な高値であったことが認められ、Aは高ミオグロビン血症の状態にあったと推認される。 もっとも、上記①の血液生化学検査によれば、測定時点にお 中ミオグロビン濃度も55 9,100ng/dlと著明な高値であったことが認められ、Aは高ミオグロビン血症の状態にあったと推認される。 もっとも、上記①の血液生化学検査によれば、測定時点における腎機能低下は軽度であったことが認められ(甲1)、死後の血液生化学検査でも、明らかに致死的となる腎不全状態とはいい難い数値であるとされ ている(乙1)。以上によれば、高ミオグロビン血症による腎機能障害 が、後記のとおり、カリウム排出を阻害した可能性はあるとしても、急性腎不全がAの主たる死因であると認めることは困難である。 小括したがって、Aの主たる死因が、全身の多発外傷に伴う循環血液量減少性ショックや、筋挫滅を主因としてミオグロビン血症の状態に陥った ことによる急性腎不全の競合であるとは認められない。 ウ筋挫滅症候群による高カリウム血症の可能性についてL医師意見書は、Aは、身体、特に四肢の強い拘束の結果、筋肉が壊死を起こし、その後に拘束を解いたことから、カリウムやミオグロビンなどの身体に有害な物質が血中に流れ出し(筋挫滅症候群)、高濃度のカリウ ムにより心停止を起こしたと考えられるとしている。 そこで、その根拠について検討するに、L医師意見書によれば、①3月15日午前11時56分にC病院で行われた血液生化学検査では、Aの血液中から、筋肉に多く含まれる酵素であるLD(乳酸脱水素酵素)が5170U/L(基準値上限220)、CPK(クレアチンフォスフォキ ナーゼ)が4523U/L(基準値上限253)、AST(GOT)が2157U/L(基準値上限38)、ALT(GPT)が784U/L(基準値上限44)と異常高値で検出されており、何らかの原因により筋肉が壊れ、そこから筋肉中の酵 上限253)、AST(GOT)が2157U/L(基準値上限38)、ALT(GPT)が784U/L(基準値上限44)と異常高値で検出されており、何らかの原因により筋肉が壊れ、そこから筋肉中の酵素が血液に漏れ出していると推測されること、②筋肉中に存在するタンパク質で、激しい運動や外傷などによる筋肉の壊 死などにより血液中に放出されるミオグロビンの値についても、上記検査では、681ng/ml(基準値上限85)と高値であったこと、③上記検査における、Aの血中カリウムは8.2mEq/L(基準値上限5)と高値であり、これも筋肉の壊死により血中に出てきたものと考えられること、④カリウムには心臓毒性があり、血液中の濃度が上昇すると心臓は電 気的に傷害され、7mEq/L程度を超えると心臓が停止すること、⑤ミ オグロビンは、それ自身には毒性がないが、これが血中に排出されると、腎臓の尿細管に詰まって腎機能を低下させるため、血液中に漏れ出したカリウムの排出を妨げ、危険性がさらに高まることが認められる。 これらの所見及び医学的知見からすると、Aは、戒具の使用又は使用中の自身の行動により、使用部位の筋肉細胞が破壊され、そこから溶出した 多量のカリウムが、戒具を解除されたことにより徐々に血液中に流れ出し、致死量に達したことで死亡するに至ったと推認するのが合理的である。 なお、L医師意見書(甲1)では、高カリウム血症による突然死の場合、緊縛が解かれ死亡に至るまでの時間は、ケースバイケースではあるが、経験則上少なくとも30分以内に生じると記載されているところ、本件では、 Aが午前9時頃にベルト手錠及び膝の捕縄を解除されてから、心停止となる午前11時34分までの間に約2時間半が経過しているため、上記所見と整合しないように ると記載されているところ、本件では、 Aが午前9時頃にベルト手錠及び膝の捕縄を解除されてから、心停止となる午前11時34分までの間に約2時間半が経過しているため、上記所見と整合しないようにもみえる。しかし、L医師は、致死量のカリウム量に達するのは、緊縛を解除された筋肉の体積と、緊縛が解除される時間間隔に依存するので、30分以上の時間を必要とする可能性があるとも述べて いる(甲7)。そして、本件では、両手首のベルト手錠及び両膝の捕縄が解除されたのは午前9時頃であるが、両足首の新型捕縄が解除されたのは午前11時頃であって、段階的に拘束が解かれていることから、致死量のカリウム量が流れるまでに多少の時間を要したとしても矛盾するとはいえない。したがって、緊縛を解かれてから心停止に至るまでの時間は、上記認 定を左右しない。 ⑵ 因果関係以上の死因を前提に、留置担当官の病院搬送義務違反とAの死亡との間の因果関係について検討する。 L医師意見書によれば、緊縛により筋肉細胞が破壊され、カリウムが血液 中に溶出している場合には、腎透析などの適切な措置を講じる必要があるこ とが認められる。そして、前記認定事実⑹及び⑻によれば、G警部補及びF警部補は午前9時頃にはAの両手首の鬱血を認識しているところ、同人が最終的に心停止となったのは午前11時34分頃であるから、午前9時頃の時点において、同人を病院に搬送し、同人の両手首の鬱血が生じるに至った原因を医師に説明していれば、腎透析などの適切な措置が行われ、Aが午前1 1時34分頃の時点で心停止の状態に陥ることはなかったであろうと認められる。 したがって、病院搬送義務違反とAの死亡との間には因果関係が認められる。 5 争点5(国賠法6条 1時34分頃の時点で心停止の状態に陥ることはなかったであろうと認められる。 したがって、病院搬送義務違反とAの死亡との間には因果関係が認められる。 5 争点5(国賠法6条の憲法及び自由権規約違反の有無) 本件事案に鑑み、争点4(損害の有無・金額)に先んじて、争点5(国賠法6条の憲法及び自由権規約違反の有無)及び争点6(相互保証の有無)について判断する。 ⑴ 憲法違反についてア憲法17条は、「何人も」公務員の不法行為による損害賠償を求めるこ とができると規定しているが、他方で、「法律の定めるところにより」請求できる旨規定しており、賠償請求権の具体的内容を立法政策にゆだねていると解される。そして、国賠法6条が外国人による国家賠償請求を相互の保証のある場合に限定しているのは、国際協調主義の理念をもってしても、日本人が受けた被害について当該外国を相手に損害賠償請求ができな い場合にまで、我が国がその外国人の被害に対して損害賠償責任を負わなければならない理由はないという、衡平の観念に基づくものであるから、同条は、その趣旨及び内容において一定の合理性が認められ、憲法17条に違反するとは解し得ない。 イ憲法14条1項は、法の下の平等を定めているが、この規定は合理的理 由のない差別を禁止する趣旨のものであって、各人に存する経済的、社会 的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り、同条に違反するものではない。しかして、国賠法6条が外国人による国家賠償請求について相互の保証を要することとした趣旨は前記アのとおりであり、その趣旨及び内容には一定の合理性が認められるから、同条の規定が憲法14条1項に違反す 。しかして、国賠法6条が外国人による国家賠償請求について相互の保証を要することとした趣旨は前記アのとおりであり、その趣旨及び内容には一定の合理性が認められるから、同条の規定が憲法14条1項に違反す るということはできず、憲法98条2項にも反しない。 ⑵ 自由権規約違反についてア自由権規約2条1は差別禁止を、同26条は法の下の平等を定めているが、合理的な根拠に基づく区別、取扱いを禁ずるものとは解されないところ、国賠法6条の趣旨は前記⑴アのとおりであるから、同条は自由権規約 2条1及び26条に違反しない。 イ自由権規約7条は拷問等の禁止を定めるところ、外国人である原告による国家賠償請求について相互の保証の存在を条件とすることが、直ちに自由権規約7条に違反するとは解し得ない。また、自由権規約2条3(a)は、「この規約において認められる権利又は自由を侵害された者」に対する効 果的な救済措置の確保を規定しているところ、上記のとおり、国賠法6条の規定は自由権規約2条1、7条及び26条に違反しないから、「この規約において認められる権利又は自由を侵害された」場合には該当せず、自由権規約2条3(a)に違反するとも認められない。 6 争点6(相互保証の有無) 以上によれば、Aが国賠法の適用を受けるためには、ネパールと我が国との間において、同法6条に規定する「相互の保証」が存することが必要である。 そこで、その存否について検討する。 ⑴ 相互保証の判断基準国賠法6条1項の趣旨は、前記5のとおり、衡平の見地に基づくものであ るが、各国の法制のあり方は様々であり、我が国と全く同一の要件・効果を 期待することは困難である上、同一性を厳格に要求するといたずらに権利救済を困難にするおそ 平の見地に基づくものであ るが、各国の法制のあり方は様々であり、我が国と全く同一の要件・効果を 期待することは困難である上、同一性を厳格に要求するといたずらに権利救済を困難にするおそれがあることから、「相互の保証」とは、我が国の国賠法と全く同一の規定であることを求めるものではなく、要件及び効果の点から見て実質的に同程度の賠償を受け得ることをもって足りるというべきである。 ⑵ ネパールにおける賠償法の存否ア証拠(甲14の1・2)によれば、ネパールにおいては、ヤータナ賠償法が存在し、同法4条及び5条は、ネパール政府公務員が何人に対しても「ヤータナ」を加えたとみなされた場合は、被害者はネパール政府に対して賠償請求できる旨を規定していることが認められる。また、実際にも、ネパ ールの治安当局が私人に対し加害行為をした事件について、裁判所が賠償命令を発したり政府が賠償を行ったりした事例が複数存在する(甲44の1・2、甲45)。以上からすると、ネパールでは、ヤータナ賠償法の規定に該当する範囲において、政府から損害賠償金の支払を受けることができる法令ないし事例が存していると認められる。 イこれに対し、証拠(乙2の1・2)によれば、在ネパール日本国臨時代理大使による調査結果として、①ネパールには、日本国における国賠法に相当する法令又は同趣旨の規定を含む法令等は存在しない上、国賠法6条にある相互保証主義と同内容の規定も存在しないこと、②公務員の行為によって私人に生じた損害の賠償を認めた判例・先例も存在しないことが回答 されていることが認められるが、ヤータナ賠償法は、我が国の国賠法のように事例を限定せずに、公務員の職務上の違法行為一般に対する国の賠償責任を定めたものではないから、乙2号証の回答は上記アの認 されていることが認められるが、ヤータナ賠償法は、我が国の国賠法のように事例を限定せずに、公務員の職務上の違法行為一般に対する国の賠償責任を定めたものではないから、乙2号証の回答は上記アの認定と矛盾せず、同回答をもってネパールでは相互保証がないと認めることはできない。 ⑶ ヤータナ賠償法の適用対象 次に、ヤータナ賠償法の適用対象について見るに、「ヤータナ」とは、「取 調べ、捜査、または訴訟手続の下に、あるいは、その他の理由で拘禁中の者に対して加えられた身体的、または精神的に重い苦痛」及び「その者に対して加えられた無慈悲、非人道的、あるいは尊厳を傷つける取扱い」と定義されているところ(同法2条)、上記定義には、ネパールが平成3年に加入した拷問等禁止条約で「拷問」の定義規定で用いられている「故意に」(「ジ ャーニー・ジャーニー」)を意味する形容詞が使用されていない(甲25ないし28)。また、ネパール語の一般的な訳語としても、「ヤータナ」は必ずしも故意を前提とする「拷問」とは解されていない(甲15ないし17)。したがって、「ヤータナ」が、故意の拷問のみを意味しているとは解し得ず、拘禁者に対して加えられた身体的又は精神的苦痛が、公務員の過失行為により 生じている場合も含まれると解される(なお、ヤータナ賠償法11条が適用を除外しているのは、法令に基づく適法な拘禁に伴う苦痛であると解される。)。 また、同法4条は「何人」と規定しており、これを制限する旨の特別の規定が存することを認めるに足りる証拠はないから、外国人に対しても同様に 適用されるものと推認される。 そして、本件における留置担当官による病院搬送義務違反が、被拘禁者に対して身体的に重い苦痛を与えるものであることは明らかである。したがって、ネパー ても同様に 適用されるものと推認される。 そして、本件における留置担当官による病院搬送義務違反が、被拘禁者に対して身体的に重い苦痛を与えるものであることは明らかである。したがって、ネパールでは、本件と同一の事実関係において、我が国の国民が要件の点から見て同程度の賠償を受け得ると認められる。 ⑷ 賠償の性質これに対し、被告東京都は、ヤータナ賠償法6条⑴及び8条の定めからすると、同法は、当該死亡者の損害賠償権を家族が相続するものではなく、当該死亡者の収入によって生活する者の生活扶助を一定額に限って認めたものであると解されると主張する。 しかしながら、同法8条によれば、賠償額は、被害者に加えられた身体 的、または精神的な苦痛とその程度(被害者固有の精神的苦痛に関する損害と解される。)、身体的、または精神的な傷害による被害者の逸失利益を補償する額(被害者の逸失利益に相当する損害と解される。)なども考慮して決定されるから、死亡者の収入によって生活する者の生活扶助を一定額に限って認めたものとは解し得ない。被告東京都の主張は採用できない。 ⑸ 定額賠償限定の要否最後に、ヤータナ賠償法6条⑴は賠償額の上限を10万ルピーと規定しているところ、前記⑴に説示したところによれば、相互保証の判断において、当該外国と我が国の賠償制度に関し厳密な同一性を要求するのは相当ではない。しかしながら、当該外国における賠償額が定額であり、かつ、その金額 が我が国の賠償額に比して著しく低いことが明らかである場合には、当該外国において日本人が効果の点において実質的に同程度の賠償を受け得るとは認められない。したがって、かかる場合には、前記国賠法6条の制度趣旨に照らし、当該外国人に対する我が国の国家賠償責任も、当該外国に 国において日本人が効果の点において実質的に同程度の賠償を受け得るとは認められない。したがって、かかる場合には、前記国賠法6条の制度趣旨に照らし、当該外国人に対する我が国の国家賠償責任も、当該外国において認められる定額賠償の範囲に限定されると解するのが相当である。 もっとも、ヤータナ賠償法第6条⑴の上限額は10万ルピーであるものの、2007年ネパール暫定憲法第107条⑵は、最高裁判所は、救済手段が定められていてもなお不適当若しくは効果がないと思われる法律上の問題の解決のため、必要かつ適当な命令を発する特別の権限を有する旨を定めており(別紙関係法令の定め⑺参照)、実際に、最高裁判所は、同法第100条及 び第107条⑵に基づき、治安当局による加害行為について被害者に20万ルピーの支払を命じていることが認められる(甲44の1・2)。また、治安当局による加害行為について政府による賠償が行われた事例においては、複数の事例で100万ルピーの支払が行われている(甲45)。 以上によれば、ネパールにおける賠償は、我が国に比して著しく低い金額 の定額賠償となっていることから、相互保証の制度趣旨に基づきこれを上限 とせざるを得ないものの、定額の上限については、実務的取扱いとして100万ルピーまでの賠償を認めた先例が複数あることを踏まえ、これを限度とすることが相当である。 7 争点4(損害の有無・金額)前記6のとおり、本件については100万ルピーの限度で賠償が認められる ところ、口頭弁論終結時のネパールルピー・円の為替レートは1.0030円であるから(丙47)、100万ルピーを日本円に換算すると、100万3000円である。 そして、Aに生じた損害(逸失利益、同人の慰謝料)が上記金額を超えることは明らかであ 替レートは1.0030円であるから(丙47)、100万ルピーを日本円に換算すると、100万3000円である。 そして、Aに生じた損害(逸失利益、同人の慰謝料)が上記金額を超えることは明らかであるから、100万3000円が損害として認められる。 8 争点7(原告は相続により損害賠償請求権を取得するか)⑴ 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。 ア原告とAが婚姻する以前、Aはバジュラ郡ヴディーナンダ市第a区b村第c区の住民であり、原告はドルパタン市第d区e村第f区の住民であったが、原告は、結婚後から令和2年1月23日まで、Aと同一の住所地(バ グルン郡ドルパタン市第d区e村第f区)に登録されていた(甲13の1・2)。 イ原告は、令和元年6月30日付で、自分が、①Nの義理の娘であり、Aの唯一の妻であり、バジュラ、gの永住民であること、②Aの不動産及び動産の唯一の相続人であることを宣誓している(甲8の1・2)。 ウ Aは、平成23年12月頃に就労のために来日した後、平成28年5月26日から同年11月26日までの6か月間ネパールに帰国し、その間は原告と同居していた。そして、その後、原告を日本に呼ぶ準備を兼ねて、平成28年11月27日、再来日した(前記認定事実⑴ア)。 ⑵ 以上を前提に、Aの相続関係について検討するに、証拠(甲12の1ない し3)及び弁論の全趣旨によれば、ムルキ・アイン第3部16章「遺産相続 について」の第2条1項1号の「共同家族」とは、居住地を一にするとの意味ではなく、ネパールの伝統的大家族制度における共同財産の下に生活する世帯を意味すると認められる。 そして、上記⑴によれば、Aは出稼ぎ目的で来日しており、ネパールに帰国中は原告と居住し、将来的には原告 なく、ネパールの伝統的大家族制度における共同財産の下に生活する世帯を意味すると認められる。 そして、上記⑴によれば、Aは出稼ぎ目的で来日しており、ネパールに帰国中は原告と居住し、将来的には原告と同居する予定であったのであるから、 両者は、共同財産の下に生活する世帯であったと評価できる。 これに対し、被告東京都は、原告は義父(Aの父)の世帯に属している旨主張するが、上記⑴イの宣誓内容から、原告と義父が共同財産の下に生活している世帯であることは読み取れない。また、上記⑴アのとおり、原告はAとの結婚後、令和2年1月23日まで、Aと同一の住所地に登録されている から、同人の死亡当時、同住所地において生活していたと推認できる。よって、被告東京都の主張は採用できない。 ⑶ したがって、原告は、ムルキ・アイン第3部16章第2条1項1号の「共同家族の妻」といえる。そして、原告は唯一の妻であるから(前記前提事実⑴イ)、Aの被告東京都に対する損害賠償請求権を相続したと認められる。 第4 結論以上によれば、原告の請求は、被告東京都に対して100万3000円及びこれに対する不法行為日である平成29年3月15日から支払済みまで年5分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告の被告東京都に対するその余の請求及び原告の被告国に対する請求にはいずれも理由がないから、これ らを棄却することとして、主文のとおり判決する。 なお、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。 東京地方裁判所民事第4部 裁判長裁判官福田千恵子 裁判官君島直之 裁判官河合美月 裁判長裁判官福田千恵子 裁判官君島直之 裁判官河合美月 別紙関係法令の定め ⑴ 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第78条(捕縄、手錠及び拘束衣の使用) 1 刑務官は、被収容者を護送する場合又は被収容者が次の各号のいずれかの行為をするおそれがある場合には、法務省令で定めるところにより、捕縄又は手錠を使用することができる。 一逃走すること。 二自身を傷つけ、又は他人に危害を加えること。 三刑事施設の設備、器具その他の物を損壊すること。 2項ないし5項略 6 被収容者に拘束衣を使用し、又はその使用の期間を更新した場合には、刑事施設の長は、速やかに、その被収容者の健康状態について、刑事施設の職員である医師の意見を聴かなければならない。 7 捕縄、手錠及び拘束衣の制式は、法務省令で定める。 第79条(保護室への収容)1項ないし4項略 5 被収容者を保護室に収容し、又はその収容の期間を更新した場合には、刑事施設の長は、速やかに、その被収容者の健康状態について、刑事施設の職 員である医師の意見を聴かなければならない。 6 略第201条(診療等) 1 留置業務管理者は、被留置者が次の各号のいずれかに該当する場合には、速やかに、当該留置業務管理者が委嘱する医師等による診療を行い、その他 必要な医療上の措置を執るものとする。ただし、第一号に該当する場合にお いて、その者の生命に危険が及び、又は他人にその疾病を感染させるおそれがないときは、その者の意思に反しない場合に限る。 一負傷し、若しくは 執るものとする。ただし、第一号に該当する場合にお いて、その者の生命に危険が及び、又は他人にその疾病を感染させるおそれがないときは、その者の意思に反しない場合に限る。 一負傷し、若しくは疾病にかかっているとき、又はこれらの疑いがあるとき。 二飲食物を摂取しない場合において、その生命に危険が及ぶおそれがある とき。 2 留置業務管理者は、前項の規定により診療を行う場合において、被留置者を病院又は診療所に通院させ、やむを得ないときは被留置者を病院又は診療所に入院させることができる。 第213条(捕縄、手錠、拘束衣及び防声具の使用) 1 留置担当官は、被留置者を護送する場合又は被留置者が次の各号のいずれかの行為をするおそれがある場合には、内閣府令で定めるところにより、捕縄又は手錠を使用することができる。 一逃走すること。 二自身を傷つけ、又は他人に危害を加えること。 三留置施設の設備、器具その他の物を損壊すること。 2項ないし4項略 5 拘束衣及び防声具の使用の期間は、三時間とする。ただし、拘束衣の使用については、留置業務管理者は、特に継続の必要があると認めるときは、通じて十二時間を超えない範囲内で、三時間ごとにその期間を更新することが できる。 6 留置業務管理者は、前項の期間中であっても、拘束衣又は防声具の使用の必要がなくなったときは、直ちにその使用を中止させなければならない。 7 被留置者に拘束衣若しくは防声具を使用し、又は拘束衣の使用の期間を更新した場合には、留置業務管理者は、速やかに、その被留置者の健康状態に ついて、当該留置業務管理者が委嘱する医師の意見を聴かなければならない。 8 捕縄、手錠、拘束衣及び防声具の制式は、内閣府令で定める。 第214条 (保 に、その被留置者の健康状態に ついて、当該留置業務管理者が委嘱する医師の意見を聴かなければならない。 8 捕縄、手錠、拘束衣及び防声具の制式は、内閣府令で定める。 第214条 (保護室への収容) 1 留置担当官は、被留置者が次の各号のいずれかに該当する場合には、留置業務管理者の命令により、その者を保護室に収容することができる。 一自身を傷つけるおそれがあるとき。 二次のイからハまでのいずれかに該当する場合において、留置施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるとき。 イ留置担当官の制止に従わず、大声又は騒音を発するとき。 ロ他人に危害を加えるおそれがあるとき。 ハ留置施設の設備、器具その他の物を損壊し、又は汚損するおそれがあ るとき。 2 第79条第2項から第6項までの規定は、被留置者の保護室への収容について準用する。この場合において、同条第2項から第5項までの規定中「刑事施設の長」とあるのは「留置業務管理者」と、同条第2項中「刑務官」とあるのは「留置担当官」と、同条第5項中「刑事施設の職員である医師」とある のは「当該留置業務管理者が委嘱する医師」と、同条第6項中「法務省令」とあるのは「内閣府令」と読み替えるものとする。 ⑵ 刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則第37条(捕縄及び手錠の使用方法) 1 略 2 被収容者に捕縄を使用する場合には、血液の循環を著しく妨げることとならないよう留意しなければならない。 ⑶ 刑務官の職務執行に関する訓令(法務省矯成訓第3285号、甲24) 第27条(捕縄、手錠及び拘束衣の使用上の留意事項) 刑務官は、法第78条第1項から第3項までの規定により捕縄、手錠又は拘束衣を使用する場合には、次に掲げる 号、甲24) 第27条(捕縄、手錠及び拘束衣の使用上の留意事項) 刑務官は、法第78条第1項から第3項までの規定により捕縄、手錠又は拘束衣を使用する場合には、次に掲げる事項に留意しなければならない。 ① 必要以上に緊度を強くして、使用部位を傷つけたり、血液の循環を著しく妨げる等の方法で使用しないこと。 ②ないし④ 略 第34条(医師の意見聴取) 1 刑事施設の長は、法第78条第6項の規定により医師の意見を聴取する場合には、その医師が被収容者等の健康状態を直ちに把握できる場合を除き、看護師又は准看護師にその状況を把握させ、その医師へ報告させるものとする。 2 前項の報告がなされたときは、その報告を受けた医師において診察の要否を判断するものとする。 3 刑事施設の医師は、診察、看護師又は准看護師の報告その他の方法により拘束衣を使用されている被収容者等の健康状態を把握し、法第78条第6項に規定する意見を述べるものとする。 第36条(医師の意見聴取)法第79条第5項の規定により医師の意見を聴取する場合については、第34条の規定を準用する。 ⑷ 市民的及び政治的権利に関する国際規約 第2条 1 この規約の各締約国は、その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人に対し、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保するこ とを約束する。 2 略 3 この規約の各締約国は、次のことを約束する。 この規約において認められる権利又は自由を侵害された者が、公的資格 認められる権利を尊重し及び確保するこ とを約束する。 2 略 3 この規約の各締約国は、次のことを約束する。 この規約において認められる権利又は自由を侵害された者が、公的資格で行動する者によりその侵害が行われた場合にも、効果的な救済措置を受けることを確保すること。 ⒝及び⒞ 略第7条何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない。特に、何人も、その自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けない。 第26条すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため、法律は、あらゆる差別を禁止し及び人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のか つ効果的な保護をすべての者に保障する。 ⑸ ムルキ・アイン(平成28年2月改正、平成30年8月17日失効)(甲12の1ないし3)第3部第16章遺産相続について 第2条 1 この章の他の条文において、その他の記載がある場合を除き、相続人は、何らかの遺言書がある場合は、それに基づき、また、そのような遺言書がない場合は、下記の者のうち、優先順位に従い、生存している者があれば、その者が、また該当する人物が誰もいない場合は、この章の1条に基づく相続 人がその遺産を得る。 一共同家族の夫、又は妻二共同家族の息子、娘、息子の寡婦三共同家族の父、母、父の妻ら、息子又は娘の子、その妻四共同家族を解消した夫、妻、息子、娘、父、母、父の妻ら、結婚した娘(五号以下略) 子、娘、息子の寡婦三共同家族の父、母、父の妻ら、息子又は娘の子、その妻四共同家族を解消した夫、妻、息子、娘、父、母、父の妻ら、結婚した娘(五号以下略) 2 略付記)この条項の適用に当たり、同じ優先順位の相続人が複数の場合は、等しく相続する。 ⑹ ヤータナに対する賠償法2053(平成8年12月18日国王承認公布、平成 22年1月21日大統領承認公布。甲14の1・2)第2条定義表題又は条文によって他の意味を付さない限り、この法において、「ヤータナ」とは、取調べ、捜査、または訴訟手続の下に、あるいは、その他の理由で拘禁中の者に対して加えられた身体的、または精神的に重い苦痛 を意味する。また同じく、その者に対して加えられた無慈悲、非人道的、あるいは尊厳を傷つける取扱いをも意味する。 ⒝ 「被害者」とは、拘禁中にヤータナを加えられた者を意味する。 第4条賠償ネパール政府公務員が何人に対してもヤータナを加えたとみなされた場合 は、被害者に対し、この法に基づき賠償される。 第5条提訴⑴ 被害者は、ヤータナを受けた日、もしくは釈放された日から35日以内に賠償請求し、その拘禁に係る管轄の地方裁判所に提訴できる。 (⑵以下略) 第6条提訴における手続と賠償 ⑴ 第5条の提訴に係る地方裁判所は、略式訴訟手続2028に基づいて手続を進めなければならず、その提訴の理由を正当と認めたときは、被害者に対し、ネパール政府から10万ルピーを上限とする賠償を認める決定を出すことができる。 ⑵ 略 第8条賠償額の決定第6条第⑴項を適用するため、賠償額は、以下項目を考慮して決定される。 被害者に を上限とする賠償を認める決定を出すことができる。 ⑵ 略 第8条賠償額の決定第6条第⑴項を適用するため、賠償額は、以下項目を考慮して決定される。 被害者に加えられた身体的、または精神的な苦痛とその程度 身体的、または精神的な傷害による被害者の逸失利益を補償する額 回復困難な身体的、または精神的傷害を負った被害者の年齢、及び家族に 対する責任 治癒可能な傷害を負った場合、治癒に至る大概の治療費 ヤータナの結果、被害者が死亡した場合、被害者の収入に依存する家族の数と、その生活に必要な最低限の費用 被害者の申立てにおいて合理性が認められるもの 第11条ヤータナを与えたとされない場合この法律の他の条文にかかわらず、現行法に基づく拘禁から自ずと生じる苦痛は、この法律の適用において、ヤータナを与えたとみなされない。 ⑺ 2007年ネパール暫定憲法(甲43の1・2) 第100条(司法に関する権限を行使する裁判所)⑴ ネパールにおける司法に関する権限は、この憲法の規定、法律及び認識された司法の原則に従って、裁判所及びその他の司法機関によって行使されるものとする。 ⑵ ネパールの司法は、独立した司法の概念、規範及び価値を認識し、民主主 義の精神及びジャナ・アンドランの願望を実現することによって、この憲法 に積極的に関与しなければならない。 第107条(最高裁判所の管轄)⑴ 略⑵ 最高裁判所は、この憲法が与える基本的権利の行使のため、他に救済手段が定められていないその他の法律上の権利の行使のため、又は救済手段が定 められていてもなお不適当若 ⑴ 略⑵ 最高裁判所は、この憲法が与える基本的権利の行使のため、他に救済手段が定められていないその他の法律上の権利の行使のため、又は救済手段が定 められていてもなお不適当若しくは効果がないと思われる法律上の問題の解決のため、又は公共の利害若しくは関心に関する紛争に係る憲法上若しくは法律上の問題の解決のため、必要かつ適当な命令を発する特別の権限を有する。これらの目的のために、最高裁判所は、完全な正義を与え、適切な救済を与えるという観点から、人身保護令状、マンダムス令状、上訴状、禁止状 及び令状状を含む適切な命令及び令状を発することができる。 ただし、最高裁判所は、裁判権のないことを理由とする場合を除く外、この条文の下に、議会の特権の侵害及びこれに対して課する刑罰に関する立法府の手続及び決定に干渉してはならない。
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