平成25(行ウ)833 違法建築物除却命令義務付け請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年2月12日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文37,302 文字)

- 1 -平成28年2月12日判決言渡平成25年(行ウ)第833号違法建築物除却命令義務付け請求事件 主文 1 本件訴えを却下する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求処分行政庁は,建築基準法9条1項に基づき,住友不動産株式会社に対し,別紙物件目録1記載の建築物全部を除却せよとの命令をせよ。 第2 事案の概要 1 別紙物件目録1記載の東京都渋谷区所在の建築物(以下「本件建築物」という。)については,参加行政庁により,同目録2記載の10棟の建築物として建築確認と完了検査が行われた。本件は,本件建築物の近隣住民である原告らが,本件建築物は建築基準法上「一の建築物」であり,また,本件建築物には高さ制限など建築基準法令の規定に違反する違法があって,特定行政庁において建築主に対し本件建築物全部の除却を命ずべきであると主張して,延べ面積1万㎡を超える建築物に係る特定行政庁である東京都知事を処分行政庁として,その所属する被告東京都に対し,当該除却命令の義務付けを求める事案である。 2 関係法令の定め(1) 定義ア建築基準法2条1号は,建築物とは,土地に定着する工作物のうち,屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。),これに附属する門若しくは塀,観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所,店舗,興行場,倉庫,その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨線橋, - 2 -プラットホームの上家,貯蔵槽その他これに類する施設を除く。)をいい,建築設備を含むものとする旨規定する。 イ建築基準法施行令1条1号は,敷地とは,一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地をいう旨規定する。 ウ建 を除く。)をいい,建築設備を含むものとする旨規定する。 イ建築基準法施行令1条1号は,敷地とは,一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地をいう旨規定する。 ウ建築基準法施行令2条1項4号は,延べ面積とは,建築物の各階の床面積の合計とする旨規定する。 (2) 一の敷地とみなすこと等による制限の緩和建築基準法86条1項は,建築物の敷地又は建築物の敷地以外の土地で二以上のものが一団地を形成している場合において,当該一団地内に建築される一又は二以上の構えを成す建築物(二以上の構えを成すものにあっては,総合的設計によって建築されるものに限る。以下「一又は二以上の建築物」という。)のうち,国土交通省令で定めるところにより,特定行政庁が当該一又は二以上の建築物の位置及び構造が安全上,防火上及び衛生上支障がないと認めるもの(以下,その認定を「一団地認定」という。)に対する特例対象規定の適用については,当該一団地を当該一又は二以上の建築物の一の敷地とみなす旨規定する。 (3) 敷地内に広い空地を有する建築物の容積率等の特例建築基準法59条の2第1項は,その敷地内に政令で定める空地を有し,かつ,その敷地面積が政令で定める規模以上である建築物で,特定行政庁が交通上,安全上,防火上及び衛生上支障がなく,かつ,その建ぺい率,容積率及び各部分の高さについて総合的な配慮がなされていることにより市街地の環境の整備改善に資すると認めて許可したものの容積率又は各部分の高さは,その許可(以下「総合設計許可」という。)の範囲内において,建築基準法の各規定による限度を超えるものとすることができる旨規定する。 (4) 構造耐力及び構造計算ア建築基準法(平成26年法律第54号による改正前のもの。以下「旧建 - 3 -築基 ,建築基準法の各規定による限度を超えるものとすることができる旨規定する。 (4) 構造耐力及び構造計算ア建築基準法(平成26年法律第54号による改正前のもの。以下「旧建 - 3 -築基準法」という。)20条は,建築物は,自重,積載荷重,積雪荷重,風圧,土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものとして,各号に掲げる建築物の区分に応じ,それぞれ当該各号に定める基準に適合するものでなければならない旨規定する。 イ建築基準法施行令(平成27年政令第11号による改正前のもの。以下「旧建築基準法施行令」という。)81条1項ないし3項は,旧建築基準法20条1号,同条2号イ,同条3号イの基準について規定し,旧建築基準法施行令81条4項は,2以上の部分がエキスパンションジョイントその他の相互に応力を伝えない構造方法のみで接している建築物の当該建築物の部分は,前3項の規定の適用については,それぞれ別の建築物とみなす旨規定する。 ウなお,これらの定めは,現行の建築基準法20条2項が,同条1項(旧建築基準法20条と同一の内容である。)「に規定する基準の適用上一の建築物であっても別の建築物とみなすことができる部分として政令で定める部分が二以上ある建築物の当該建築物の部分は,同項の適用については,それぞれ別の建築物とみなす」旨規定し,現行の建築基準法施行令36条の4が,建築基準法20条2項「の政令で定める部分は,建築物の二以上の部分がエキスパンションジョイントその他の相互に応力を伝えない構造方法のみで接している場合における当該建築物の部分とする」旨規定することにより,その根拠が政令から法律に引き上げられる形で,現行法下でも実質的に引き継がれている。 (5) 違反建築物に対する措置建築基準法9条1項は,特定行政庁 建築物の部分とする」旨規定することにより,その根拠が政令から法律に引き上げられる形で,現行法下でも実質的に引き継がれている。 (5) 違反建築物に対する措置建築基準法9条1項は,特定行政庁は,建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については,当該建築物の建築主,当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含む。)若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは建築物の敷 - 4 -地の所有者,管理者若しくは占有者に対して,当該工事の施工の停止を命じ,又は,相当の猶予期限を付けて,当該建築物の除却,移転,改築,増築,修繕,模様替,使用禁止,使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる旨規定する。 (6) 東京都の区の区域内の建築物に係る特定行政庁ア地方自治法281条1項は,都の区は,これを特別区という旨規定し,同条2項は,特別区は,法律又はこれに基づく政令により都が処理することとされているものを除き,地域における事務並びにその他の事務で法律又はこれに基づく政令により市が処理することとされるもの及び法律又はこれに基づく政令により特別区が処理することとされるものを処理する旨規定する。 地方自治法283条2項は,他の法令の市に関する規定中法律又はこれに基づく政令により市が処理することとされている事務で同法281条2項の規定により特別区が処理することとされているものに関するものは,特別区にこれを適用する旨規定する。 イ建築基準法2条35号は,特定行政庁とは,建築主事を置く市町村の区域については当該市町村の長をいい,ただし,同法97条の3第1項の規定により建築主事を置く市町村の区域内の政令で定める建築物について 建築基準法2条35号は,特定行政庁とは,建築主事を置く市町村の区域については当該市町村の長をいい,ただし,同法97条の3第1項の規定により建築主事を置く市町村の区域内の政令で定める建築物については,都道府県知事とする旨規定する。 建築基準法97条の3第1項は,特別区においては,建築確認に関する事務をつかさどらせるための同法4条2項の規定によるほか,特別区の長の指揮監督の下に,同法中建築主事の権限に属するものとされている事務で政令で定めるものをつかさどらせるために,建築主事を置くことができ,この場合においては,この法律中建築主事に関する規定は,特別区が置く建築主事に適用があるものとする旨規定し,同法97条の3第3項は,同法中都道府県知事たる特定行政庁の権限に属する事務で政令で定めるも - 5 -のは,政令で定めるところにより,特別区の長が行うものとし,この場合においては,同法中都道府県知事たる特定行政庁に関する規定は,特別区の長に関する規定として特別区の長に適用があるものとする旨規定する。 ウ建築基準法施行令2条の2第2項は,建築基準法2条35号ただし書の政令で定める建築物のうち同法97条の3第1項の規定により建築主事を置く特別区の区域内のものは,同施行令149条1項に規定する建築物とする旨規定する。 建築基準法施行令149条1項は,建築基準法97条の3第1項の政令で定める事務は,同法の規定により建築主事の権限に属するものとされている事務のうち,次に掲げる建築物,工作物又は建築設備に係る事務以外の事務とする旨規定して,その1号は延べ面積が1万㎡を超える建築物を掲げ,建築基準法施行令149条2項は,建築基準法97条の3第3項に規定する都道府県知事たる特定行政庁の権限に属する事務で政令で定めるものは,建築基準法施行令149 延べ面積が1万㎡を超える建築物を掲げ,建築基準法施行令149条2項は,建築基準法97条の3第3項に規定する都道府県知事たる特定行政庁の権限に属する事務で政令で定めるものは,建築基準法施行令149条1項各号に掲げる建築物,工作物又は建築設備に係る事務以外の事務であって建築基準法の規定により都知事たる特定行政庁の権限に属する事務のうち,次の各号に掲げる区分に応じ,当該各号に定める事務以外の事務とする旨規定し,その各号には建築基準法9条1項(是正措置命令),59条の2第1項(総合設計許可)及び86条1項(一団地認定)に規定する事務は掲げられていない。 エ以上の規定により,東京都の区の区域内の延べ面積が1万㎡を超える建築物に係る特定行政庁の権限は東京都知事に属し,延べ面積が1万㎡以下の建築物に係る建築基準法9条1項,59条の2第1項及び86条1項に規定する特定行政庁の権限は,各区の区長が行うものとされる。 3 前提事実(当事者間に争いがないか,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)(1) 当事者等 - 6 -ア原告a及び原告b(以下「原告aら」という。)は,本件建築物の敷地(以下「本件土地」という。)の北側に隣接する肩書住所地所在の土地上の建物(以下「原告aら建物」という。)に居住する者である(甲2)。 イ原告cは,本件土地と道路を挟んだ直ぐ西側に位置する肩書住所地所在の建物(以下「原告c建物」といい,原告aら建物と併せて「原告ら建物」という。)に居住する者である(甲2)。 ウ住友不動産株式会社(以下「住友不動産」という。)は,本件建築物の建築主である(甲1,6(枝番を含む。))。 エ渋谷区は,被告東京都の区たる特別区であり,建築主事を置いている。 オ参加行政庁は,建築基準法77条の 以下「住友不動産」という。)は,本件建築物の建築主である(甲1,6(枝番を含む。))。 エ渋谷区は,被告東京都の区たる特別区であり,建築主事を置いている。 オ参加行政庁は,建築基準法77条の18の規定の定めるところにより,同法6条の2第1項及び同法7条の2第1項の規定による国土交通大臣の指定を受けた指定確認検査機関であり,渋谷区建築主事に代わる立場で本件建築物の建築確認及び完了検査をした者である(甲14,15)。 (2) 本件建築物及び本件土地ア本件土地は,第二種低層住居専用地域内の渋谷区α×番●の宅地(不動産登記簿上の地積合計1万5723.11㎡,住居表示・同町×番地)である(甲4,5)。 本件土地における建築物の高さの限度は,その地域地区における都市計画においては,12mと定められている(甲7。建築基準法55条1項,都市計画法8条3項2号ロ参照)。 イ本件土地上には,別紙物件目録2記載(1)ないし(10)のいずれも鉄筋コンクリート造地上6階,地下2階建ての共同住宅(各棟とも計画上の建築基準法上の最高の高さは17.95m)が,南北方向に2列,1列に5棟ずつ,ロの字型に,合計10棟配置されており,これらが本件建築物を構成している(別紙配置図(丙16)参照。なお,同図面における階数は,建築確認申請上の地下2階をもってB1F(地下1階)と表記されており, - 7 -その上階もそれぞれ1階分ずつ相違しているが,以下では建築確認申請上の表記による。また,各棟には,最も北西に位置するA棟から上から見て時計回りに順にJ棟までのアルファベットが付されているところ,以下,それぞれ順に「A棟」ないし「J棟」という。)。 A棟ないしJ棟の地下2階は,駐車場の車路により接続し,地下1階は,ロの字の中空部分に設けられた内廊下によ ファベットが付されているところ,以下,それぞれ順に「A棟」ないし「J棟」という。)。 A棟ないしJ棟の地下2階は,駐車場の車路により接続し,地下1階は,ロの字の中空部分に設けられた内廊下により接続している。また,地下1階及び地上1階には,各棟が接合している部分がある。すなわち,隣り合う棟の間に土留めの壁が設けられている部分,設備施設などを格納した構築物が設けられている部分があって,その構築物の上端は地上2階の床付近に及んでいるところもある。この構築物は,その両側の棟と接合しており,設計上,接合部分の一方はその接合対象となる棟と構造上分離されていないが,接合部分の他方はその接合対象となる棟との間にエキスパンションジョイントを用いることとされ,構造上分離されることになっている。 これらに対し,A棟ないしJ棟の概ね2階以上の部分は,接合しておらず,約2.5mの間隔がある。(甲3,8,丙15,16,33ないし35,37)ウ本件建築物の延べ面積について検査済証上の本件建築物の延べ面積は,10棟合計4万9954.25㎡であるが,各棟はそれぞれ1万㎡以下である(A棟4382.24㎡,B棟4210.35㎡,C棟3579.42㎡,D棟3829.15㎡,E棟5219.6㎡,F棟8670.05㎡,G棟6027.98㎡,H棟6090.15㎡,I棟4229.68㎡,J棟3715.63㎡)(甲18の10,18の13,18の16,18の19,18の22,18の25,18の28,18の31,18の34,18の37)。 エ本件建築物の高さについて検査済証上の本件建築物のA棟ないしJ棟の平均地盤面からの最高高 - 8 -さは,いずれも17.95mである(建築基準法施行令2条1項6号及び2項参照。甲18の9,18の10,18の12,18の13 済証上の本件建築物のA棟ないしJ棟の平均地盤面からの最高高 - 8 -さは,いずれも17.95mである(建築基準法施行令2条1項6号及び2項参照。甲18の9,18の10,18の12,18の13,18の15,18の16,18の18,18の19,18の21,18の22,18の24,18の25,18の27,18の28,18の30,18の31,18の33,18の34,18の36,18の37,18の39ないし18の62,丙15)。 (3) 本件建築物に係る経緯ア本件開発許可渋谷区長は,本件土地上に本件建築物を建築することを前提として,平成19年10月30日付けで,住友不動産に対し,本件土地の開発許可をした(以下「本件開発許可」という。)。 イ本件一団地認定住友不動産は,平成19年11月1日,本件建築物のA棟ないしJ棟の敷地としての本件土地について建築基準法86条1項に基づく一団地認定を申請したところ,渋谷区長は,平成20年1月21日付けで,住友不動産に対し,本件土地について建築基準法86条1項に基づく一団地認定をし(以下「本件一団地認定」という。),その旨告示した。(丙2,4)ウ本件総合設計許可住友不動産は,平成19年11月1日,本件建築物のA棟ないしJ棟について建築基準法59条の2第1項に基づく総合設計許可の申請をしたところ,渋谷区長は,平成20年1月21日付けで,住友不動産に対し,同項に基づき,同法55条1項(第二種低層住居専用地域内における建築物の高さの限度)を緩和し,本件建築物のA棟ないしJ棟の最高の高さを17.95mとすることを許可した(以下「本件総合設計許可」という。 丙3)。 エ本件構造計算 - 9 -一級建築士であるd及びeは,平成20年3月24日付けで,建築士法(平成18年法律 17.95mとすることを許可した(以下「本件総合設計許可」という。 丙3)。 エ本件構造計算 - 9 -一級建築士であるd及びeは,平成20年3月24日付けで,建築士法(平成18年法律第114号による改正前のもの)20条2項の規定により,①地上6階の建物であるが構造上地下1階レベルがGL(地盤面)となるため,地上7階として応力解析を行う,②A棟ないしJ棟は地下1階でエキスパンションジョイントにより切り離し,構造は各棟ごとに独立して成立するとする設計方針に基づく構造計算(以下「本件構造計算」という。)によって,旧建築基準法20条,旧建築基準法施行令81条に定める基準に適合することについて,本件建築物のA棟ないしJ棟の安全性を確かめた旨の証明書を作成し,設計の委託者である住友不動産に交付した(丙17ないし26,32)。 オ本件建築確認住友不動産は,平成20年3月24日,本件建築物のA棟ないしJ棟の建築計画について,それぞれを別個の建築物として,参加行政庁に対し,建築確認を申請したところ,参加行政庁は,本件建築物のA棟ないしJ棟について,住友不動産に対し,平成20年4月10日付けで,それぞれを別個の建築物として,建築確認処分を行った(第○建確○号ないし○号。 以下,併せて「平成20年4月10日付け建築確認処分」という。甲6(枝番を含む。))。 また,住友不動産は,平成22年7月28日,本件建築物のA棟ないしJ棟の建築計画について,それぞれを別個の建築物として,参加行政庁に対し,計画変更確認を申請した(甲18の40,18の42,18の45,18の48,18の51,18の53,18の55,18の57,18の59,18の62)ところ,参加行政庁は,本件建築物のA棟ないしJ棟それぞれについて,住友不動産に対し,平成22年8 ,18の45,18の48,18の51,18の53,18の55,18の57,18の59,18の62)ところ,参加行政庁は,本件建築物のA棟ないしJ棟それぞれについて,住友不動産に対し,平成22年8月27日付けで建築確認処分を行った(第○建確○変○号,同○変○号,同○変○号,同○変○号,同○変○号,同○変○号,同○変○号,同○変○号,同○号変○号, - 10 -同○号変○号。以下,平成20年4月10日付け建築確認処分と併せて「本件建築確認」という。甲18の9,18の12,18の15,18の18,18の21,18の24,18の27,18の30,18の33,18の36)。 カ開発工事の完了住友不動産は,平成22年8月23日付けで,渋谷区長に対し,本件開発許可に係る開発行為が同日完了した旨の工事完了届出書を提出した。これを受けて,渋谷区長は,同月26日,住友不動産に対し,上記開発行為に係る工事の検査済証を交付し,同工事が完了した旨の公告をした。(乙2)キ建築工事の完了本件建築物の新築工事が完了し,工事施工者が住友不動産に引き渡した(甲15,18の5ないし18の7)ところ,参加行政庁は,本件建築物のA棟ないしJ棟それぞれを別個の建築物として完了検査を行い,住友不動産に対し,平成22年9月1日付けで検査済証を交付した(第○建完○号ないし○号。甲18の10,18の13,18の16,18の19,18の22,18の25,18の28,18の31,18の34,18の37,丙5ないし14)。 ク不動産登記本件建築物は,住友不動産の申請により,平成22年9月22日,別紙物件目録1記載のとおりの一棟の建物として表示の登記がされた(甲1,18の1ないし18の4)。 (4) 本件建築物をめぐる紛争ア本件開発許可に係る訴訟 申請により,平成22年9月22日,別紙物件目録1記載のとおりの一棟の建物として表示の登記がされた(甲1,18の1ないし18の4)。 (4) 本件建築物をめぐる紛争ア本件開発許可に係る訴訟原告らは,平成21年1月27日,本件開発許可の無効確認等を求める訴えを提起した(当庁平成21年(行ウ)第35号開発許可処分無効確認 - 11 -等請求事件)ところ,当庁は,平成22年5月13日,原告らの訴えをいずれも却下する判決をした。これを受けて,原告らが控訴を提起した(東京高等裁判所平成22年(行コ)第207号開発許可処分無効確認等請求控訴事件)ところ,東京高等裁判所はその控訴を棄却した。(乙1,2,丙1)イ平成20年4月10日付け建築確認処分に係る争訟原告らは,平成20年7月18日,平成20年4月10日付け建築確認処分について,渋谷区建築審査会に対して審査請求をした(○渋建審・請第○号)ところ,同審査会は,同年12月11日,これを棄却する裁決をした(甲14,乙3)。 原告らは,平成21年7月2日,平成20年4月10日付け建築確認処分の取消しを求める訴えを提起した(当庁平成21年(行ウ)第330号建築確認処分取消請求事件)ところ,当庁は,平成22年9月1日,原告らの請求をいずれも棄却する判決をした。これを受けて,原告らが控訴を提起した(東京高等裁判所平成22年(行コ)第315号建築確認処分取消請求控訴事件)ところ,東京高等裁判所は,平成23年6月23日,本件建築物の建築工事が完了したとして,原告らの訴えをいずれも却下する判決をした。原告らは,これに対し,上告及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所が,平成24年2月28日付けでその上告を棄却し,上告審として受理しない決定をしたことにより,上記判決は確定した。(甲14な 決をした。原告らは,これに対し,上告及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所が,平成24年2月28日付けでその上告を棄却し,上告審として受理しない決定をしたことにより,上記判決は確定した。(甲14ないし16)ウ原告らは,平成25年12月27日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 4 争点及び争点に関する当事者の主張本件の争点は,①原告らが原告適格を有するか否か(争点1),②本件建築物の除却命令がされないことにより原告らに重大な損害を生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方法がないときに当たるか否か(争 - 12 -点2),③被告が被告適格を有するか否か(争点3),④処分行政庁が本件建築物の除却を命ずべきであることが法令の規定から明らかであると認められ又はその命令をしないことが裁量権の濫用・逸脱に当たるか否か(争点4)であり,これらに関する当事者の主張は以下のとおりである。 (1) 原告らが原告適格を有するか否か(争点1)(原告らの主張の要旨)ア都市計画法29条に規定する開発許可によって予定建築物に適した敷地の開発がされていないため,原告らは損失を被る。すなわち,予定建築物に都市計画上必要であるとされた都市計画法33条で定められた開発許可の基準に適合する開発地の整備がなされていない状態で,予定建築物ではない違法な本件建築物が建てられたことにより,道路等の地域環境が悪化し,安全な避難方法が確保できず,その結果,都市計画区域内の原告らの住居について,東京直下型地震などの大地震や本件建築物の炎上による延焼被害が危惧される。原告適格は,都市計画区域居住者全員に認められるべきである。 イ本件建築物によって原告らは日常的に被害を受ける。すなわち,原告らは,本件建築物に隣接する原告ら建物に居住しているため が危惧される。原告適格は,都市計画区域居住者全員に認められるべきである。 イ本件建築物によって原告らは日常的に被害を受ける。すなわち,原告らは,本件建築物に隣接する原告ら建物に居住しているため,本件建築物の日影によって日照被害を被り,本件建築物によるビル風によってその生活環境が害されるなどの被害を受けているほか,地域の環境に調和した良好な生活環境を享受する権利及び良好な住生活を営むことができる権利が日常的に侵害されているから,原告適格を有する。 ウ被告は,上記イの点につき,抽象的な利益の侵害を述べるのみであるなどと主張する。しかし,建築物の倒壊炎上等の災害のおそれがあることを理由として違法建築物等の除却措置の義務付けを求めるにつき法律上の利益を有するというためには,その者の居住し,又は所有する建築物が,当該建築物の建築によって直接阻害されるという関係があることをもっ - 13 -て足り,そのためには,建築物の敷地の境界線からその高さと同程度の距離の範囲内に存する建物の居住者及び所有者であれば,その生命,健康又は財産に直接の影響を受ける者として原告適格を有する者と解すべきであるところ,原告ら建物はいずれも本件建築物が火災に遭い又は大震災によって倒壊等すれば直接損傷を受ける蓋然性がある範囲内にあるから,原告らは,本件建築物の除却の義務付けを求める訴えの原告適格を有する。 (被告の主張の要旨)原告らは,抽象的な利益侵害を述べるのみで,本件建築物について除却命令がなされないことにより原告らのいかなる権利若しくは法律上保護された利益が侵害され,又は必然的に侵害されるおそれがあるのかについて具体的に明らかでなく,原告らは本件訴えについての原告適格を有しない。 (2) 本件建築物の除却命令がされないことにより原告らに重大な損害を が侵害され,又は必然的に侵害されるおそれがあるのかについて具体的に明らかでなく,原告らは本件訴えについての原告適格を有しない。 (2) 本件建築物の除却命令がされないことにより原告らに重大な損害を生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方法がないときに当たるか否か(争点2)(原告らの主張の要旨)ア重大な損害を生ずるおそれがあること(ア) 本件建築物の日影及びビル風等による被害本件建築物は,平均地盤面とされる地点からの高さが17.95mであり,建築基準法55条1項による法令上の制限12mを大幅に超える違法建築物であるところ,原告らは,本件建築物により,自己の居宅において本来受けるべきでない日影被害,ビル風によってその生活環境が害される被害,良好な住居の環境を享受する利益を失う被害等を受けており,原告らの身体及び精神に対して,重大な損害を及ぼすおそれがある。 (イ) 本件建築物の炎上による被害本件建築物は,仮に10棟の建築物の集合であると想定すれば,全く - 14 -接道がない個別建物が存在し,各個別建物に火災が発生した場合には,当該建物についての火炎の回り先,粉塵・噴煙が逃れる隙間がなく,消火活動にあたる緊急車両が建物の至近にまで入って消火・救援活動をすることもできないばかりか,近隣の住宅棟に火の粉が飛び散るなどして延焼しても近隣住民が対応することもできず,近隣住民が避難する余地のない状況にある。 また,本件建築物は,実体的に一棟の巨大なロの字型の建築物が,住宅街として狭隘な道路が網目状に設けられている地域の真ん中に建築されたものであって,本件建築物が建っている場所には,周辺地域の住民が通り抜けることのできる道路も空間も存在しないものである。そうすると,本件建築物の周辺住民は,地域内の れている地域の真ん中に建築されたものであって,本件建築物が建っている場所には,周辺地域の住民が通り抜けることのできる道路も空間も存在しないものである。そうすると,本件建築物の周辺住民は,地域内の建物で火災が発生したり,大規模地震等の災害が発生した場合,安全な方向に避難しようとしても,本件建築物の存在によりその進路を阻まれ,大きく迂回するか,本件建築物と反対の方向に避難せざるを得なくなり,その結果安全な避難方向を選択することができなくなり,被災する危険性がある。さらに,本件建築物の存在により消防車や救急車などの緊急車両の進路が妨げられ,これらの車両が災害現場に到着するのに時間がかかり,あるいは火災発生の場所によっては現場に到達できないおそれもある。 したがって,原告らは,本件建築物が炎上した場合,それが周辺地域に拡大し,自己の身体,生命又は財産に重大な損害が生じる具体的なおそれがある。 (ウ) 本件建築物の倒壊ないし構造物の崩落による被害本件建築物は,1階,地下1階及び地下2階で物理的に結合されて一体をなす建築物であるから,建築基準関係規定に基づき構造耐力を確認するための構造計算は,本件建築物全体を一体のものとして行う必要があるところ,本件建築物については各棟個別の構造耐力を確認している - 15 -にすぎず,本件建築物について旧建築基準法20条の基準に基づく構造計算による安全性が確認されていない。そうである以上,本件建築物が,想定される地震等の震動又は衝撃により倒壊ないし構造物の崩落などが生じる危険性を否定できず,そのような事態が発生した場合,当該建築物の居住者に対してはもとより,本件建築物の隣接地ないし近隣に居住する住民である原告らの生命,身体又は財産に対して,重大な損害を及ぼすおそれがある。 イ損害を避ける 事態が発生した場合,当該建築物の居住者に対してはもとより,本件建築物の隣接地ないし近隣に居住する住民である原告らの生命,身体又は財産に対して,重大な損害を及ぼすおそれがある。 イ損害を避けるため他に適当な方法がないこと(ア) 本件建築物は,本件土地が,都市計画法29条に定める開発許可の要件を定めた同法33条を蹂躙して,同法8条で定めた都市の地域地区の規定に適合する「一敷地一建築物」の敷地として整備がされていないところに建築され,都市計画法上遵守すべき環境を破壊しているため,その存在自体が都市環境を破壊するものであるから違法であり,また,建築基準法59条の2の適用要件に違反して緩和を実施したことにより,本件建築物の周辺に広がる都市環境を破壊するものとなっている。 環境破壊の原因となっている本件建築物そのものを除却しない限り,その被害を回復することはできない。 (イ) そして,本件建築物は,地盤面を脱法により操作してもなお全体的に高さが17.95mあり,5.95mも高さ制限を超えている。建築物の高さを法律どおりに作った場合,本件土地に本件建築物が実現している大きさ(容積)の住居を建築することはできないところ,本件建築物は堅固な建物で,その上層部から全体的に5.95mだけ除却することもできない構造であるから,建築物全体を除却する以外に方法はない。 (被告の主張の要旨)ア重大な損害を生ずるおそれはないこと - 16 -原告らは,抽象的な危惧や被害を述べるのみであり,原告らにいかなる重大な損害を生ずるおそれがあるのかについて具体的に明らかでなく,本件建築物の除却命令がなされないことにより原告らに重大な損害を生ずるおそれは存しない。 イ本件建築物の炎上による被害について仮に本件建築物を構成するA棟ないしJ棟が 体的に明らかでなく,本件建築物の除却命令がなされないことにより原告らに重大な損害を生ずるおそれは存しない。 イ本件建築物の炎上による被害について仮に本件建築物を構成するA棟ないしJ棟が接道していないとしても,それによってなぜ,火炎の回り先,粉塵及び噴煙が逃れる隙間がなくなるのか,近隣住民が延焼に対応できず避難する余地がなくなるのか全く不明である。なお,本件一団地認定において,本件建築物について,防火上支障がないことが確認されている。 ウ本件建築物の倒壊ないし構造物の崩落による被害について本件建築物のA棟ないしJ棟は,1階,2階及び地下1階がエキスパンションジョイントで隣棟と接しているのみであり,構造的には接続していないから,地下2階の車路及び地下1階の内部廊下を通じて建築物がつながっている場合であっても,地上部分が構造的に分離しているため別の建築物とみなして構造計算を行うこととなり,本件建築物は,A棟ないしJ棟ごとに構造計算を行っていることに違法はない。 (3) 被告が被告適格を有するか否か(争点3)(原告らの主張の要旨)ア本件建築物の違反是正等の措置権限を東京都知事が有すること本件建築物は,以下のとおり,構造上,外観上及び機能上一体をなす「一の建築物」であり,その総床面積(延べ面積)は登記上5万0499㎡であり,本件建築物についての違反是正等の措置を行う権限は,東京都知事に属するから,その所属する被告が被告適格を有する。 イ本件建築物は「一の建築物」であること(ア) 「一の建築物」の判断基準 - 17 -「一の建築物」とは,社会通念に照らし,構造上,外観上及び機能上の一体性の各面から総合的に判断して,外観上分離されておらず,また構造上も外壁,天井,屋根といった建築物の主要な構造部分 - 17 -「一の建築物」とは,社会通念に照らし,構造上,外観上及び機能上の一体性の各面から総合的に判断して,外観上分離されておらず,また構造上も外壁,天井,屋根といった建築物の主要な構造部分が一体として連結し,あるいは密接な関連をもって接続しているものをいう。 また,旧建築基準法施行令81条4項の規定等からすると,エキスパンションジョイントで接続されている場合,当該建築物は構造上の一体性があるものと判断し,外観上の一体性や機能上の一体性を欠く場合等,社会通念上明らかに「一の建築物」とは認められない場合でない限り,当該建築物は「一の建築物」というべきである。 (イ) 外観上の一体性本件建築物の外観写真によれば,本件建築物が一体の建物としての外観を有している。 また,本件建築物の工事施工者は,10棟の合計を各階の床面積として記載した工事完了引渡証明書を作成して,住友不動産に交付し,住友不動産は,本件建築物を1棟の建物として登記申請し,その旨の建物表示登記がされており,住友不動産は,本件建築物を物理的に1棟の建物と認識していた。本件建築物は,ブル-マップ上も,ロの字型の建物として表示されている。 (ウ) 構造上の一体性本件建築物は,地上2階部分以上において,あたかも10棟の建物がそれぞれ一定の空隙を隔ててロの字型に配列されているようにみえるものの,地下2階の駐車場部分でロの字型に結合し,地下1階では共用エントランスホール及び内部廊下で物理的に結合し,1階でもロの字型に結合していることからすれば,一体の建築物を構成しているものである。 仮に,本件建築物が,地下1階,1階及び2階でエキスパンションジ - 18 -ョイント等のみにより接続されているとしても,本件建築物は,エキスパンションジョイントによる接続に ものである。 仮に,本件建築物が,地下1階,1階及び2階でエキスパンションジ - 18 -ョイント等のみにより接続されているとしても,本件建築物は,エキスパンションジョイントによる接続により,エキスパンションジョイントカバーも相まって当該部分は一応一体化するものであり,構造上の一体性がある。 (エ) 機能上の一体性本件建築物は,総戸数139戸の居室からなる共同住宅であり,建築物全体に対し1つの玄関をもち,共同のレセプション1箇所で建築物全体が管理され,外部から各居室部分に入るには,建物の1階部分の入口から建物に入り,地下1階のエントランスホールに降り,当該ホールを通り抜け,ホール北西部分から北方に向けて接続している内部廊下を経由し,各居室部分の地下1階に入り,エレベーター又は階段で各居室部分に至ることになっており,全館の居住者のための共用施設としてエントランスホール,フロントデスク,フィットネスルーム,キッズルーム,パーティールーム,サロン,管理人室等を備えており,機能上も一体の建物として使用されている。 ウ被告は,「一の建築物」であるか否かについては,建築確認・完了検査の時点で判断すべきであって,実際に建築された建物の現況から判断するものではなく,建築確認・完了検査を行う行政庁と違反是正権限を行使する行政庁が異なってはならないと主張するが,建築物の工事完了検査の後に発生ないし発見された建築基準法令違反事由に関しては,当然に現に存在する建築物の延べ面積に応じて,違反是正措置を命ずる権限が定まるものであるから,被告の主張は認められない。 また,被告は,本件建築確認の申請時における予定建築物の平面上の配置計画を示した配置図を根拠に,本件建築物は構造上の一体性はないと主張するが,当該配置図は,現実に建築された本 は認められない。 また,被告は,本件建築確認の申請時における予定建築物の平面上の配置計画を示した配置図を根拠に,本件建築物は構造上の一体性はないと主張するが,当該配置図は,現実に建築された本件建築物の実体を示すものではなく,被告の主張は認められない。 - 19 -(被告の主張の要旨)ア本件建築物の違反是正等の措置権限を東京都知事が有しないこと「一の建築物」であるか否かについては,建築確認・完了検査の時点で判断すべきものであって,建物の現況から判断するものではない。なぜなら,違法建築物の是正権限を適切に行使するためには,建築確認や完了検査に係る図書等の資料が必要不可欠であり,建築基準法は,建築確認・完了検査を行う行政庁(指定確認検査機関が確認・検査を行い,確認審査報告書・完了検査報告書を特定行政庁に提出した場合の特定行政庁を含む。 以下同じ。)と違反是正権限を行使する行政庁が異なるという事態が生じることを予定していない。 建築物の現況をもって「一の建築物」か否かを判断するものとすると,当該建築物の延べ面積が裁判によって確定されるまで違反是正権限を有する行政庁が定まらず,長期にわたり違反の是正がされないまま違法建築物が放置されるという事態が生じかねず,違法建築物の早急な是正を可能にするためには,違反是正権限を行使する行政庁が建築確認・完了検査の時点で明確に定まることが不可欠であり,建築確認・完了検査を行う行政庁と違反是正権限を行使する行政庁は同一の行政庁になるとするのが建築基準法の趣旨である。 しかるに,原告らは,本件建築物の建築確認処分取消訴訟において,建築確認の権限を有する行政庁は渋谷区長ではないとして争っていないのであるから,本件建築物について違反是正権限を行使する行政庁が渋谷区長であることは明ら ,本件建築物の建築確認処分取消訴訟において,建築確認の権限を有する行政庁は渋谷区長ではないとして争っていないのであるから,本件建築物について違反是正権限を行使する行政庁が渋谷区長であることは明らかである。 また,以下のとおり,本件建築物を構成する各棟がそれぞれ「一の建築物」に当たるものであり,これらの各棟のそれぞれの延べ面積は最大のF棟でも8794.61㎡であって,いずれも1万㎡を超えるものではない。 したがって,これらの各建築物について建築基準法9条1項に基づいて違 - 20 -反是正等の措置を行う権限は,当該各建築物についての特定行政庁となる渋谷区長にあり,被告の東京都知事にはなく,被告は本件訴えについての被告適格を有しない。 イ本件建築物の全体が「一の建築物」ではないこと(ア) 「一の建築物」の判断基準「一の建築物」とは,外観上分離されておらず,また構造上も外壁,床,天井,屋根といった建築物の主要な構造部分が一体として連結し,あるいは密接な関連をもって接続しているものを指すと解される。参加行政庁は,本件建築物を構成する各棟は,以下のとおり「一の建築物」には当たらないと判断したものと考えられる。 (イ) 外観上分離されていること本件建築物は,本訴訟において提出された書証等による限り,地下2階の車路及び地下1階の内部廊下部分を通じて地下でつながってはいるものの,地上部分においては,それぞれ2.85m以上の離隔を持つ,地上高さ17.95mの独立した10棟の建築物としての外観を有する。 原告らは,不動産登記に関する書類やブルーマップにおける記載を根拠として本件建築物が「一の建築物」であると主張するが,不動産登記法上は,数棟の建物が効用上一体として利用される状態にある場合には,所有者の意思に反しない限り,1個 類やブルーマップにおける記載を根拠として本件建築物が「一の建築物」であると主張するが,不動産登記法上は,数棟の建物が効用上一体として利用される状態にある場合には,所有者の意思に反しない限り,1個の建物として取り扱うものとされ,構造上区分された住居であっても所有者が同一であるときはその所有者の意思に反しない限り,1個の建物として取り扱われることからすれば,本件建築物が1個の建物として登記されていること等から直ちに「一の建築物」であるとはいえない。 (ウ) 構造上の一体性がないこと本件建築物は,本訴訟において提出された書証等による限り,地下1階,1階及び2階が,エキスパンションジョイントで隣棟と接している - 21 -のみで,構造的には接続しておらず,構造力学上,10個の別の構造体であると説明することができる。上記接続部分は,各棟のごく一部に限定されているため,社会通念に照らしても,接続された隣棟同士について,外壁,床,天井,屋根等の主要な構造部分を一体として連結し,密接な関連をもって接続しているものとは解しがたい。 原告らは,複数の構造物がエキスパンションジョイントによって接続されている場合には通常は構造上の一体性を有すると判断されるかのように主張する。しかし,その依拠する裁判例によっても,本件建築物のように,建築主が複数の建築物であることを前提に,建築物本体の安全や衛生に係る主として建築基準法第2章のいわゆる単体規定及び敷地を基準とする建築物と都市との関係に係る同法第3章のいわゆる集団規定のいずれにも適合しているものとして建築確認を受けた建築物についてまで,一様に,専門的及び技術的見地から「一の建築物」に当たるという一応の合理的な説明ができるとの一事をもって「一の建築物」に該当するものとして,これを前提に建築基準法 築確認を受けた建築物についてまで,一様に,専門的及び技術的見地から「一の建築物」に当たるという一応の合理的な説明ができるとの一事をもって「一の建築物」に該当するものとして,これを前提に建築基準法を適用しなければならない旨の見解が示されたものではないと解すべきである。そのように解しないと,複数の構造物が存する場合に,それぞれの構造物が「一の建築物」に該当するものとして,単体規定の適用に慎重を期する取扱いをすることができなくなる等,建築物に関する最低の基準を定める建築基準法の趣旨を損ないかねない事態が出現することが容易に想定される。エキスパンションジョイントによりA棟ないしJ棟が接続されている本件建築物についても当然に構造上の一体性を有するかのような原告の主張は認められない。 (エ) 機能上の一体性に係る原告らの主張について本件建築物は,地下2階は駐車場の車路が接続しているが各棟ごとに扉で区画されており,本件建築物の地下1階はエントランスホール及び - 22 -内部廊下を通じて接続し,内部廊下を経由して各棟の地下1階からエレベーター又は階段で各住戸にいたることができるものの,各棟の地上1階に出入口がある。これらの接続をもって本件建築物が「一の建築物」となるわけではない。 (4) 処分行政庁が本件建築物の除却を命ずべきであることが法令の規定から明らかであると認められ又はその命令をしないことが裁量権の濫用・逸脱に当たるか否か(争点4)(原告らの主張の要旨)ア高さ制限違反本件建築物の最高部の高さは,本件建築確認の申請上,基準地盤面より17.95mとされているが,本件建築物の周囲に造成された「空堀り」の底面こそ開発許可でつくられた敷地の本来の地盤面であって,かかる本来の地盤面から高さを計測した場合,建築物の高さは2 準地盤面より17.95mとされているが,本件建築物の周囲に造成された「空堀り」の底面こそ開発許可でつくられた敷地の本来の地盤面であって,かかる本来の地盤面から高さを計測した場合,建築物の高さは20m以上であり,本件土地における建築物の高さ制限12mを8mも超え,建築基準法55条1項に違反している。 仮に本件建築物の最高部の高さが基準地盤面より17.95mであることを前提にしても,それ自体で,本件土地における建築物の高さ制限を5. 95mも超えており,建築基準法55条1項に違反している。 なお,本件総合設計許可は,それぞれ独立したA棟ないしJ棟の10棟の建物についてされたものであり,1棟の建築物である本件建築物についてなされたものではないから,本件建築物についての本件総合設計許可は存在しない。また,総合設計制度は,建築基準法上の「一敷地一建物の原則」の適用を前提としつつ,その狭い範囲での例外的運用を一定の条件,一定の限度内で認めるにすぎない規定であるから,法令上は,各住宅等に関しそれぞれ固有の敷地を定め,そこに建築基準法59条の2の規定を適用すべきものであり,複数の敷地全体について,それを一体として総合設 - 23 -計制度の適用すること自体できない(「一敷地一建物の原則」を排除する本件一団地認定も,後述のとおり本来適用できないはずであるが,これに総合設計制度を重畳的に適用するという法律違反の解釈を重ねている。)ところ,本件総合設計許可は,本来適用できない建築物・計画に対してされたものであって無効である。さらに,総合設計許可は,周辺を含む「市街地の環境の整備改善に資する」(同条)内容のものであると認められる場合に,高さ制限等を地域地区における都市計画決定の範囲内で緩和できることとする制度であるのに,明らかにその周辺を含む市 を含む「市街地の環境の整備改善に資する」(同条)内容のものであると認められる場合に,高さ制限等を地域地区における都市計画決定の範囲内で緩和できることとする制度であるのに,明らかにその周辺を含む市街地の環境の整備改善に逆行する本件建築物に対する本件総合設計許可は,同条の趣旨を逸脱,濫用してされた無効なものである。 イ接道義務違反仮に本件建築物が10棟の建築物であるとしても,建築基準法上,10棟の建築物を建築する場合には,10の敷地が造られ,そのいずれの敷地も建築基準法43条の敷地の接道条件を満足していなければならないところ,本件建築確認の申請がされた10棟の建築物それぞれの敷地とされる10の土地は,いずれも接道条件を満たしていない。 なお,建築基準法86条に基づく一団地認定は,都市計画法11条1項8号に規定する「一団地の住宅施設」として都市計画決定した場合にのみ,「一敷地一建物の原則」を排除することを認めた規定であるところ,本件建築物は,「一団地の住宅施設」の都市計画決定を受けていない土地を敷地として建築されており,一団地認定を適用することはできないし,そもそも本件土地のような旗竿状の一群の土地は,「一敷地一建築物の原則」を排除することが認められるような「一団地」に該当するものとは解し得ない。 したがって,本件建築物の敷地は,建築基準法43条に違反する。 ウ構造耐力違反 - 24 -本件建築物は,1階,地下1階及び地下2階で物理的に結合されて一体をなす建築物であるから,一体の建築物として本件建築物の構造耐力を確認しなければならないところ,本件建築物においては,A棟ないしJ棟を個別に構造計算しているにすぎず,全体を一体のものとして構造計算していない。 したがって,本件建築物は,構造耐力について定めた建築 しなければならないところ,本件建築物においては,A棟ないしJ棟を個別に構造計算しているにすぎず,全体を一体のものとして構造計算していない。 したがって,本件建築物は,構造耐力について定めた建築基準法20条3号,建築基準法施行令36条3項,36条の3,71条ないし79条,81条3項及び82条に反する。 エ除却命令をすべきことの一義性以上のとおり,本件建築物は,建築基準法令の規定に違反していることが明白かつ重大であるから,本件建築物の建築主である住友不動産に対して被告に所属する処分行政庁である東京都知事が建築基準法9条1項に基づきその除却命令をすべきであることは,法令の規定から明らかであると認められ,又は被告がその処分をしないことが裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となる。 (被告の主張の要旨)ア高さ制限違反の主張について建築基準法59条の2第1項に基づく総合設計許可は,一棟の建築物であることを前提にはしておらず,10棟の建築物について適用することも可能であるから,本件建築物についての本件総合設計許可は不存在又は無効であるといえない。 したがって,本件建築物は,建築基準法55条1項に反するものではない。 イ接道義務違反の主張について本件建築物については,本件一団地認定がされているから,接道義務の適用にあたっては,本件建築物は同一の敷地内にあるものとみなされるし, - 25 -本件建築物のA棟ないしJ棟の1階にはそれぞれ専用の出入口があり,道路まで接続している。 したがって,本件建築物は,建築基準法43条に反するものではない。 ウ構造耐力違反の主張について本件建築物は,1階,2階及び地下1階において,エキスパンションジョイントで隣棟と接しているのみであり,構造的には接続していない。そ 43条に反するものではない。 ウ構造耐力違反の主張について本件建築物は,1階,2階及び地下1階において,エキスパンションジョイントで隣棟と接しているのみであり,構造的には接続していない。そして,本件建築物は,地下2階の車路でつながっているものの,上記のとおり地上部分が構造的に分離しているのであるから,建築物の2以上の部分がエキスパンションジョイントその他の相互に応力を伝えない構造方法のみで接している場合(旧建築基準法施行令81条4項)にあたり,別の建築物とみなして構造計算を行うことができる。 したがって,本件建築物は,建築基準法20条3号,建築基準法施行令36条3項,36条の3,71条ないし79条,81条3項又は82条に反するものではない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(原告らが原告適格を有するか否か)について(1) 原告適格の判断の枠組みについて本件訴えは,建築基準法9条1項所定の措置の義務付けを求めるものであり,同項所定の措置の申請権を認める法令の規定は存しないから,同項所定の措置の義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項1号所定のいわゆる非申請型の義務付けの訴えに当たると解されるところ,非申請型の義務付けの訴えは,「行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者」に限り提起することができ(同法37条の2第3項),この「法律上の利益を有する者」の判断については,処分の相手方以外の者がその取消しの訴えを提起した場合についての原告適格についての解釈規定である同法9条2項が準用される(同条4項)。 - 26 -そして,同条2項によれば,法律上の利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並び る(同条4項)。 - 26 -そして,同条2項によれば,法律上の利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべきものであり,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠なる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものとされる。これらを考慮して,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである(最高裁平成元年(行ツ)第130号同4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571頁,最高裁平成16年(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁等参照)。 そこで以下,上記の見地に立って,原告らの主張する①本件建築物の炎上による被害,②本件建築物の倒壊ないし構造物の崩落による被害,③本件建築物の日影による被害,④本件建築物の新築に伴うビル風の被害に基づき,原告らが,「行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者」として,本件建築物の除却命令の義務付けを求める本件訴えの原告適格を有 物の新築に伴うビル風の被害に基づき,原告らが,「行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者」として,本件建築物の除却命令の義務付けを求める本件訴えの原告適格を有するといえるかを検討する。 (2) 建築基準法令の規定の趣旨と個別的利益の保護この点,原告らが義務付けを求める建築基準法9条1項に基づく違反建築物に対する措置は,建築基準法令の規定に違反する建築物又は敷地を取り締 - 27 -まる目的で規定されたものである。 そして,建築基準法は,「建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準を定めて,国民の生命,健康及び財産の保護を図ることで公共の福祉の増進に資する」ことを目的とするものであり(同法1条),建築物の構造耐力の基準(同法20条),大規模の建築物の主要構造部に係る耐火構造物の基準(同法21条),敷地の接道義務(同法43条),建築物の容積率制限(同法52条),第一種低層住居専用地域及び第二種低層住居専用地域内における建築物の高さ制限(同法55条),建築物の各部分の高さ制限(同法56条),日影による中高層の建築物の高さ制限(同法56条の2),高度地区内の建築物の高さ制限(同法58条)等を規定している。 これらの規定は,当該建築物の安全性を確保し,その居住者の生命,身体の安全及び健康の保護を図るとともに,建築密度,建築物の規模等を規制することにより,建築物の敷地上に適度な空間を確保し,もって,当該建築物及びこれに隣接する建築物等における日照,通風,採光等を良好に保つことを目的とするものであり,さらに,当該建築物が地震,火災等により倒壊,炎上するなど万一の事態が生じた場合に,その周辺の建築物やその居住者に重大な被害が及ぶことがないようにすることをもその目的に含むものと解 するものであり,さらに,当該建築物が地震,火災等により倒壊,炎上するなど万一の事態が生じた場合に,その周辺の建築物やその居住者に重大な被害が及ぶことがないようにすることをもその目的に含むものと解するのが相当である。 上記のような建築基準法令の規定が保護しようとしている利益の内容や性質に鑑みると,当該建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する他の建築物に居住し又はこれを所有する者及び当該建築物により日照,通風等を阻害される周辺の他の建築物に居住する者は,それぞれ当該建築物が自己の法律上の利益に関係のある建築基準法令の規定に違反する建築物であることを理由として,特定行政庁に対し,建築基準法9条1項に基づく措置を求める義務付けの訴えの原告適格を有すると解するのが相当である。 - 28 -(3) 本件についての検討ア上記を前提に検討すると,前記前提事実(1)ア及びイ,同(2),証拠(甲2,8)並びに弁論の全趣旨によれば,原告aら建物の敷地境界線から本件建築物までの距離は11.65m,原告c建物から本件建築物までの距離は,幅員6mの道路及び幅員4mの歩道状空地を含み,12mであることが認められる。これに対して,本件建築物は,鉄筋コンクリート造の共同住宅であり,地上6階,地下2階建て,最高高さは17.95mであり,証拠(甲9)によれば,原告らが居住する建物の敷地に本件建築物の日影の影響があることも認められる。 以上のような本件建築物の高さ及び原告ら建物との位置関係に鑑みれば,原告らは,本件建築物の倒壊,炎上により被害を受けることが予想される範囲の地域に存し,本件建築物により日照を阻害される建物に居住する者に該当するというべきであり,原告らは,①本件建築物の炎上による被害,②本 本件建築物の倒壊,炎上により被害を受けることが予想される範囲の地域に存し,本件建築物により日照を阻害される建物に居住する者に該当するというべきであり,原告らは,①本件建築物の炎上による被害,②本件建築物の倒壊ないし構造物の崩落による被害,③本件建築物により日照を阻害されることを根拠として,建築基準法9条1項所定の措置の義務付けを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に当たる。 イ他方で,原告らは,本件において原告適格を有することの根拠として,本件建築物の新築に伴うビル風の被害も主張する。 しかし,建築基準法令の規定が,通風に関して,隣接する建築物の所有者又は居住者の個別的利益として保護しようとしていると考えられるのは,建築物の新築等によって直接的に隣接建築物における通風が阻害されないように規律する限度においてであると解され,建築物の新築等によって発生する周辺地域における一切の通風の変化を許さない趣旨であるとは解されない。 しかるところ,原告らが本件建築物の新築によりビル風が発生したと主張する点が,原告ら建物に対する通風の阻害等を述べているものとは解さ - 29 -れず,原告らは,④本件建築物の新築に伴うビル風の被害を根拠としては,建築基準法9条1項所定の措置の義務付けを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に当たるとは認められない。 (4) 小括以上によれば,原告らは,①本件建築物の炎上による被害,②本件建築物の倒壊ないし構造物の崩落による被害,③本件建築物により日照を阻害されることを根拠として,原告適格を有することが認められる。 2 争点2(本件建築物の除却命令がされないことにより原告らに重大な損害を生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方法がないときに当たるか否か)について とが認められる。 2 争点2(本件建築物の除却命令がされないことにより原告らに重大な損害を生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方法がないときに当たるか否か)について(1) 「重大な損害を生ずるおそれ」の判断の枠組みについて前記1(1)のとおり,建築基準法9条1項所定の措置の義務付けを求める本件訴えは,いわゆる非申請型の義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項1号)に該当するものと解されるところ,非申請型の義務付けの訴えについては,訴訟要件として,当該処分がされないことにより「重大な損害を生ずるおそれ」があることが必要とされ(同法37条の2第1項),その重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮するものとし,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされている(同条2項)。 このように,非申請型の義務付けの訴えについて,重大な損害を生ずるおそれがあることが必要とされているのは,非申請型の義務付けの訴えは,法令上一定の処分を求める申請権のない者において第三者に対する規制権限の行使として一定の処分をすべき旨を命ずることを求める訴えであり,法令上の申請権がない者にあたかも申請権を認めることと同じような結果をもたらすものであるから,そのような訴訟上の救済を認めるのは,国民の権利利益の実効的な救済と司法と行政の権能の適切な均衡の双方の観点から,そ - 30 -のような措置を行わなければならないだけの救済の必要性がある場合であることを要するものとする趣旨であると解される。 そうすると,非申請型の義務付けの訴えの訴訟要件としての「重大な損害を生ずるおそれがあること」が認められるか否かは,上記の趣旨を踏まえた上で,同条2項が規定する上記の 旨であると解される。 そうすると,非申請型の義務付けの訴えの訴訟要件としての「重大な損害を生ずるおそれがあること」が認められるか否かは,上記の趣旨を踏まえた上で,同条2項が規定する上記の要素を勘案して判断することが相当である。 上記の見地に立って,原告らの主張する,①火災による被害,②本件建築物の倒壊ないし構造物の崩落による被害,③本件建築物の日影による被害,④本件建築物の新築に伴うビル風の被害に基づき,原告らに現に重大な損害を生ずる具体的なおそれがあると認められるかを検討する。 (2) 火災による被害についてアまず,上記(1)の①火災による被害を理由として,原告らに重大な損害を生ずるおそれがあるといえるか検討する。 イ前記1(3)アによれば,原告aら建物の敷地境界線から本件建築物までは11.65m,原告c建物と本件建築物の間には12mの距離があり,いずれも一定の空間を形成していることが認められる。そうすると,仮に本件建築物に火災が発生した場合において,原告ら建物が火炎の回り先となることにより延焼するという損害が発生することについて現実的な可能性があるとはにわかに認め難い。 また,証拠(甲2)によれば,本件建築物の敷地は,その南辺と西辺が全面的に道路に接しており,北辺と東辺はその一部が道路に接しているから,火災時において,緊急車両等が本件建築物に接近できない状況にあるわけではなく,原告らが避難することが困難であるとの状況にもない。なお,原告らは,本件建築物以外の地域内の建物で火災が発生した場合において,本件建築物が存在することにより本件土地を経由した避難が阻まれる可能性がある旨の主張もするようであるが,そのような支障は,本件建築物として存在するのでなくても,本件土地が公共的な空地とされず いて,本件建築物が存在することにより本件土地を経由した避難が阻まれる可能性がある旨の主張もするようであるが,そのような支障は,本件建築物として存在するのでなくても,本件土地が公共的な空地とされず,そ - 31 -こに他の建築物が建築されたり,本件土地の敷地境界線付近に遮蔽物が設けられたりする限り,発生し得る事態であるから,本件建築物が存在することによって生ずるおそれのある重大な損害であるとはいえない。 ウそうすると,本件建築物において生じ得る火災の観点からみて,本件建築物につき除却命令を発して原告らを救済する必要があるといえる程度の損害が生じるおそれがあるとはいえず,原告らに重大な損害を生ずるおそれがあるとは認められない。 (3) 本件建築物の倒壊ないし構造物の崩落による被害についてア次に,上記(1)の②本件建築物の倒壊ないし構造物の崩落による被害を理由として,原告らに重大な損害を生ずるおそれがあるといえるか検討する。 イ前提事実(2)イ,同(3)エ及びオ並びに弁論の全趣旨によれば,本件建築物については,A棟ないしJ棟の各階接合部につき,エキスパンションジョイントを用いて相互に応力を伝えない構造方法で接続するという設計が行われ,このことを前提に,構造が各棟ごとに独立して成立するとの設計方針に基づく構造計算(本件構造計算)が行われ,それが旧建築基準法20条等に定める基準に適合する旨の証明書が作成され,これに基づいて建築確認処分がされているところ,本件構造計算については,その考え方について瑕疵があるとはいえず,また,その計算の過程に疑義がある等の事情の主張立証もない。他方,本件建築物について,各棟間で応力の伝達のあり得る全体を一体の一棟の建物として構造計算した場合において,本件建築物にどの程度倒 えず,また,その計算の過程に疑義がある等の事情の主張立証もない。他方,本件建築物について,各棟間で応力の伝達のあり得る全体を一体の一棟の建物として構造計算した場合において,本件建築物にどの程度倒壊ないし構造物の崩落の危険性があることになるのかは,全く明らかでない。 また,原告らは,本件建築物の設計方針が以上のとおりであったとしても,本件建築物の完成施工の状態と計画図面の内容が異なっている可能性について疑義を示し,このことを前提として,本件構造計算によっては本 - 32 -件建築物の構造耐力の安全性が確認されたことにはならない旨の論述を展開するが,本件建築物の完成施工の状態と計画図面の内容が異なっているとするその前提については,単にその可能性があるという趣旨を述べるにとどまっていて,その疑義につき相応の根拠を伴うものとはいえない。 以上のとおりであるから,本件建築物の構造耐力が不十分である相当程度の蓋然性があるものとは認められない。 ウそうすると,本件建築物の倒壊等の観点からみて,本件建築物につき除却命令を発して原告らを救済する必要があるといえる程度の損害が生じるおそれがあるとはいえず,原告らに重大な損害を生ずるおそれがあるとは認められない。 (4) 本件建築物により日照が阻害されることについてアさらに,上記(1)の③本件建築物により日照が阻害されることを理由として,原告らに重大な損害を生ずるおそれがあるといえるか検討する。 イ証拠(甲9,14)及び弁論の全趣旨によれば,本件建築物は,北側の原告aら建物には,地表面を基準として,冬至(午前8時から午後4時までの間。以下,時間帯について同じ。)において,南側のわずかな部分に3時間を超え4時間以下の間日影を生じさせ,その余の部分のうちの大部分に 建物には,地表面を基準として,冬至(午前8時から午後4時までの間。以下,時間帯について同じ。)において,南側のわずかな部分に3時間を超え4時間以下の間日影を生じさせ,その余の部分のうちの大部分に2時間を超え3時間以下の間日影を生じさせ,その残部に1時間を超え2時間以下の間日影を生じさせるが,春分,秋分及び夏至においては,日影を生じさせず,西側の原告c建物には,地表面を基準として,冬至において,1時間を超え2時間以下の間日影を生じさせるが,春分及び秋分においては,一部に1時間を超え2時間以下の間日影を生じさせるものの,その大部分には1時間以下の間日影を生じさせるにとどまり,夏至においては,その大部分に1時間以下の間日影を生じさせ,残りの一部には日影を生じさせないことが認められる。 そうすると,原告ら建物は,本件建築物による日影の影響を一定程度は - 33 -受けることが認められるものの,その日影に入る時間は,地表面を基準としても,冬至において,敷地境界線から10m以内に位置すると考えられる原告aら建物のわずかな部分について3時間を超えるにすぎず,原告c建物を含め,その余は冬至に近い時期においてせいぜい2時間前後の日影が本件建築物により生じるにとどまる。そして,本件土地を含む地域地区における都市計画による日影規制の内容は,平均地盤面からの高さ1.5mの水平面において,冬至日の真太陽時による午前8時から午後4時までの間に,敷地境界線から5mを超え10mの範囲において5時間以上,10mを超える範囲において3時間以上,それぞれ日影となる部分を生じさせてならないというものであり(甲7。建築基準法56条の2第1項,同法別表第4の1項(3)参照。),高さの上がった測定面においては日影が発生する時間の長さはより短くなると考えられることからすれ じさせてならないというものであり(甲7。建築基準法56条の2第1項,同法別表第4の1項(3)参照。),高さの上がった測定面においては日影が発生する時間の長さはより短くなると考えられることからすれば,本件建築物の日影により原告ら建物に生じる日照被害が重大な損害であるとまでは認め難い。 ウしたがって,本件建築物の日影の観点からみて,本件建築物につき除却命令を発して原告らを救済する必要があるといえる程度の損害が生じるおそれがあるとはいえず,原告らに重大な損害を生ずるおそれがあるとは認められない。 (5) 本件建築物の新築に伴うビル風の被害について最後に,上記(1)の④本件建築物の新築に伴うビル風の被害については,前記1(3)イに判示したとおり,建築基準法令の規定が建築基準法9条1項に基づく措置において個別的利益として保護しようとしているものとは認められないところ,このような損害及び処分の性質に照らすと,ビル風の被害をもって,原告らに重大な損害を生ずるおそれがあるとは認められない。 (6) 小括以上によれば,原告らの主張はいずれも採用できず,原告らは,本件建築 - 34 -物の除却命令がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあるとは認められないから,本件建築物の除却命令の義務付けを求める本件訴えの訴訟要件は認められない。 3 争点3(被告が被告適格を有するか否か)について(1) 違反建築物に対する是正措置命令の主体建築基準法9条1項に規定する是正措置命令の権限は特定行政庁に属するものであるが,前記第2の2の関係法令の定め(6)エのとおり,東京都の特別区においては,延べ面積が1万㎡を超える建築物については,この特定行政庁の権限は東京都知事に属し,延べ面積が1万㎡以下の建築物については, 前記第2の2の関係法令の定め(6)エのとおり,東京都の特別区においては,延べ面積が1万㎡を超える建築物については,この特定行政庁の権限は東京都知事に属し,延べ面積が1万㎡以下の建築物については,この特定行政庁の権限は,各区の区長に属する。 この点,本件建築物に対する是正措置命令の権限を有する特定行政庁は,前記前提事実(2)によれば,本件建築物が全体として「一の建築物」である場合には,その延べ面積が1万㎡を超えるため東京都知事というべきであり,本件の被告適格はその所属する被告にあることになるが,本件建築物が全体としては「一の建築物」に当たらず,A棟ないしJ棟がそれぞれ是正措置命令の対象となる「一の建築物」である場合には,これらの延べ面積はいずれも1万㎡を超えないため渋谷区長であり,本件の被告適格はその所属する渋谷区にあることになると考えられる。 なお,被告及び参加行政庁は,是正措置命令の権限を行使すべき特定行政庁は,資料を保持している者として,建築確認及び完了検査を行った建築主事等が属する地方公共団体の長たる特定行政庁又は指定確認検査機関が報告書を提出した特定行政庁と同一であるべきとの趣旨の主張をするが,是正措置命令は,建築確認を受けないで建築された建築物に対して発すべき場合もあり得ることからすれば,資料を保持しているか否かが,権限ある特定行政庁を識別する基準となり得ないことは明らかであり,是正措置命令の権限を行使すべき特定行政庁が,資料を保持する行政庁と当然に同一であるとは解 - 35 -することはできない。 そこで,以下では,本件建築物が全体として「一の建築物」といえるか検討する。 (2) 認定事実前記前提事実,争いのない事実,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 で,以下では,本件建築物が全体として「一の建築物」といえるか検討する。 (2) 認定事実前記前提事実,争いのない事実,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア本件建築物のA棟ないしJ棟の接続又は接合の状況について(前提事実(2)イ)(ア) 地下2階本件建築物のA棟ないしJ棟の地下2階は,駐車場の車路により接続している(甲3,18の66,18の71,丙16)。 (イ) 地下1階本件建築物のA棟ないしJ棟の地下1階は,A棟からG棟の方向に伸び,それぞれ東西に分岐している廊下により接続している(甲3,18の65,18の71,丙16)。 (ウ) 地下1階及び地上1階本件建築物のA棟ないしJ棟の地下1階及び地上1階には,隣り合う棟が接合している部分がある。すなわち,隣り合う棟の間に土留めの壁が設けられている部分,設備施設などを格納した構築物が設けられている部分があって,その構築物の上端は地上2階の床付近に及んでいるところもある。そして,この構築物は,その両側の棟と接合している。(甲13,18の8,19,21(枝番を含む。),22,丙15,33ないし35,37)(エ) 地上2階以上の部分本件建築物のA棟ないしJ棟の2階(ただし上記(ウ)の接合部分を除く。)ないし6階部分においては,各棟間に2.55mないし2.7 - 36 -31m程度の離隔がある(甲3,18の71)。 イ本件建築物の用途について(ア) 住居A棟の1階ないし6階に合計13戸,B棟の1階ないし6階及び地下1階に合計10戸,C棟の1階ないし6階,地下1階及び地下2階に合計13戸,D棟の1階ないし6階,地下1階及び地下2階に合計13戸,E棟の1階ないし6階,地下1階及び地下2階に合計13戸,F棟の 下1階に合計10戸,C棟の1階ないし6階,地下1階及び地下2階に合計13戸,D棟の1階ないし6階,地下1階及び地下2階に合計13戸,E棟の1階ないし6階,地下1階及び地下2階に合計13戸,F棟の2階ないし6階に合計16戸,G棟の1階ないし6階及び地下1階に合計16戸,H棟の1階ないし6階,地下1階及び地下2階に合計18戸,I棟の1階ないし6階,地下1階及び地下2階に合計13戸,J棟の1階ないし6階,地下1階及び地下2階に合計13戸あり,本件建築物の住民が居住する(甲12,丙16)。 (イ) 出入口E棟及びF棟の地下2階に駐車場出入口,F棟の1階及び地下1階に徒歩の出入口及びエントランスホール,F棟の地下1階にフロント及び管理事務室があり,本件建築物の住民,来訪者等が利用する。また,A棟ないしJ棟の1階に,上記出入口を利用することなく公道から各棟のエレベーターホールに移動できる通路がある。(甲12,丙16)(ウ) 廊下及び車路A棟ないしJ棟の地下1階に廊下及び地下2階に車路があり,本件建築物の住民,来訪者等がA棟ないしJ棟間を移動する(甲12,丙16)。 (エ) エレベーターA棟に1機(地下2階から地上6階まで),B棟に1機(地下2階から地上6階まで),C棟に1機(地下2階から地上6階まで),D棟に1機(地下2階から地上6階まで),E棟に1機(地下2階から地上6階まで),F棟に4機(地下2階から地上6階まで2機,地下1階から - 37 -地上1階まで2機),G棟に1機(地下2階から地上6階まで),H棟に1機(地下2階から地上6階まで),I棟に1機(地下2階から地上6階まで),J棟に1機(地下2階から地上6階まで)のエレベーターがあり,本件建築物の住民,来訪者等が各棟の地下2階ないし地上6階間を移動する(甲 階から地上6階まで),I棟に1機(地下2階から地上6階まで),J棟に1機(地下2階から地上6階まで)のエレベーターがあり,本件建築物の住民,来訪者等が各棟の地下2階ないし地上6階間を移動する(甲12,丙16)。 (オ) 駐車場及び駐輪場A棟ないしJ棟の地下2階及びF棟の地下1階に駐車場,F棟の地上1階及びG棟の地下1階に駐輪場があり,本件建築物の住民,来訪者等が利用する(甲12,丙16)。 (カ) 共用施設A棟の地下1階にフィットネスルーム及びキッズルーム,F棟の地下1階にパーティールーム及びサロンがあり,本件建築物の住民が利用する(甲12,丙16)。 (3) 本件建築物が「一の建築物」であるかア 「一の建築物」の判断基準(ア) 前記第2の2の関係法令の定め(1)イのとおり,建築基準法施行令1条1号は,敷地とは,「一の建築物」又は「用途上不可分の関係にある二以上の建築物」のある一団の土地であると規定しており,原則として「一の建築物」ごとに敷地が成立する(一建築物一敷地の原則)。 しかるところ,建築物がいかなる場合にここにいう「一の建築物」に当たるかという点は具体的には定められていないため,ある建築物が「一の建築物」に該当するか否かの判断は,社会通念を前提としつつ,建築基準法,建築基準法施行令その他の関係法令が,いかなる要素につき,建築物の単位を観念した上での規制をしているのかという点をも踏まえて決するのが相当である。 (イ) この点,まず,建築基準法は,前記第2の2の関係法令の定め(1) - 38 -アのとおり,土地に定着する工作物のうち,屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)を建築物である(同法2条1号)と定義している。そして,各個の建築物の敷地,構造及び設備に関す とおり,土地に定着する工作物のうち,屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)を建築物である(同法2条1号)と定義している。そして,各個の建築物の敷地,構造及び設備に関する最低の基準を定め(同法1条,第2章。いわゆる単体規定),これらの規定の中には,構造上の耐力に関する規制(同法20条),防火性,耐火性,避難等に関する規制(同法21条ないし27条,35条,35条の2,35条の3),設備に関する規制(同法32条ないし34条)が含まれているところ,このうち,構造上の耐力に関する規制は,建築物の単位を観念した上でのものであることが明らかであるし,避難,設備等に関する規制についても,建築物の単位を観念した上で,それが備えるべき性能ないし機能の観点からのものであると考えることが可能である。 また,建築基準法第3章は,各個の建築物について,都市計画区域を始めとする周辺地域における規制の状況との関係を踏まえた各種の秩序制限規定を置いており(いわゆる集団規定),かかる集団規定の中には,道路との関係に関する規制(同法43条,45条)や,建築制限に関する規制(同法43条の2,44条,46条,47条),容積率制限(同法52条,57条の2),建ぺい率制限(同法53条),高さ制限(同法55条,56条,56条の2)などの空間に関する規制が含まれている。これらの規制も,個々の建築物の周辺地域との関係における交通上,安全上,防火上,衛生上の観点から,建築物の規模や建築密度等について各種の規制をするものであると解される。 (ウ) 建築基準法による以上のような規制の在り方を踏まえると,「一の建築物」といえるか否かは,第一に,屋根,柱,壁等の形状,形態において外観上の一体性が認められるか,第二に,構造の観点から構造上の一体性が認められる よる以上のような規制の在り方を踏まえると,「一の建築物」といえるか否かは,第一に,屋根,柱,壁等の形状,形態において外観上の一体性が認められるか,第二に,構造の観点から構造上の一体性が認められるか,第三に,主として避難,設備等の観点から機 - 39 -能上の一体性が認められるかを総合的に勘案して,社会通念上一体性があると認められる建築物をもって「一の建築物」に当たるものと解するのが相当である。 そこで以下,上記の見地に立って,本件建築物が「一の建築物」であるといえるか検討する。 イ外観上の一体性について(ア) まず,本件建築物の外観をみると,本件建築物は,A棟ないしJ棟の各棟ごとに屋根,柱,壁等を有していることが認められ,外観上はそれぞれが別の建築物であるととらえるのが社会通念に合致する。 また,前提事実(2)イ及び前記認定事実によれば,本件建築物の各棟は,地下2階には車路が,地下1階には廊下が設けられ,通路により接続しているが,このような接続通路は,それよりも上階には存在しない。さらに,外観上の判断において中心となる建物の地表部分(概ね地下1階以上)についてみると,地上1階までの範囲では,各棟の間には構築物があってその両側の棟と接合しているが,概ね地上2階以上6階までの範囲では,接合はしておらず,約2.5mの間隔がある。 以上によれば,本件建築物は,外観としては,A棟ないしJ棟の各棟ごとがそれぞれ別個の建築物というべきであり,これらが全体として1個の建築物であるとは認められない。 (イ) これに対し,原告らは,本件建築物が,前記前提事実(3)クのとおり登記上や,地図上1棟の建物であるかのように表示されていることも,外観上の一体性の根拠として主張する。 しかしながら,このうち登記についていえば,不動産登記事 築物が,前記前提事実(3)クのとおり登記上や,地図上1棟の建物であるかのように表示されていることも,外観上の一体性の根拠として主張する。 しかしながら,このうち登記についていえば,不動産登記事務取扱手続準則(昭和52年9月3日付け法務省民三第4473号民事局長通達)上は,①効用上一体として利用される状態にある数棟の建物は,所有者の意思に反しない限り,1個の建物として取り扱うものとされる - 40 -(同準則78条1項)一方,②一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居,店舗,事務所又は倉庫その他の建物としての用途に供することができるものがある場合でも,所有者が同一であるときは,その所有者の意思に反しない限り,一棟の建物の全部又は隣接する数個の部分を1個の建物として取り扱う(同条2項)ものとされており(丙27),登記の1個性は,登記実務上,外観の観点から判断されているわけではないことが明らかである。また,地図上の表示と実際の建築物の外観上の個数が合致するという保障は何らない。したがって,これらは外観上の一体性を認めるべき根拠とはならない。 (ウ) さらに,原告らは,本件建築物の地下1階,1階及び2階が仮にエキスパンションジョイント等のみで接続されている場合においては,エキスパンションジョイントカバーがあることも相まって,その構造上の一体性があるかのようにも主張するが,エキスパンションジョイントは,構造上応力を伝えない接合方法であると考えられるから,これは実質的には,むしろエキスパンションジョイントカバーによって外観上の一体性が認められるという趣旨の主張であるとも解される。 しかし,エキスパンションジョイントカバーにより外観上接合しているように見えることを考慮しても,本件建築物の外観は,上記(ア)に判示したとお 体性が認められるという趣旨の主張であるとも解される。 しかし,エキスパンションジョイントカバーにより外観上接合しているように見えることを考慮しても,本件建築物の外観は,上記(ア)に判示したとおりのものにとどまるのであり,仮に原告らの主張を上記のように理解しても,上記(ア)の判断を左右するものではない。 ウ構造上の一体性について次に,本件建築物の構造をみると,前提事実(2)イ及び前記認定事実によれば,本件建築物のA棟ないしJ棟のおおむね地上2階以上では離隔があることが認められるから,構造上の一体性の検討において問題となるのは,おおむね地上1階以下で各棟が接合又は接続していることをもって,一体性が認められるというべきか否かの点にある。 (ア) - 41 -この点,一般に,地下が一体で地上部分が別棟となるような建築物については,これまでの大地震時においては一般的な建築物の地下部分に被害例がほとんどないことや,建築物の変形に影響のある水平力が上部構造に作用する地震力や風圧力等であることから,旧建築基準法施行令81条4項(現行の建築基準法施行令36条の4)に定める「建築物の2以上の部分がエキスパンションジョイントその他の相互に応力を伝えない構造方法のみで接している」場合と同様に扱うことができ,各棟ごとに構造計算をすることが許容されているところ(丙36),これは,上記のような建築物の各棟について,構造上の独立性を肯定できるとの考え方に基づくものということができる。 しかるところ,前提事実(2)イ及び(3)エ並びに前記認定事実によれば,本件建築物は,計画図面上,物理的に応力を伝える連結方法が予定されていたのは地下2階のみであり,本件構造計算において地上階として扱うべきであるとされた地下1階以上の接合部においては,相互に応 れば,本件建築物は,計画図面上,物理的に応力を伝える連結方法が予定されていたのは地下2階のみであり,本件構造計算において地上階として扱うべきであるとされた地下1階以上の接合部においては,相互に応力を伝えない構造方法であるエキスパンションジョイントを用いることが予定されているものであるから,本件建築物のA棟ないしJ棟は,その設計において,上記の意味における構造上の独立性を有しているといえる。そして,証拠(丙37)及び弁論の全趣旨によれば,本件建築物の上記のエキスパンションジョイントによる接合部は,上記の設計どおり施工されたものと推認されるところ,前記2(3)イに判示したとおり,これに疑いを抱かせるような具体的な事情の主張は何ら存在しない。 これらの点を勘案すると,本件建築物は,構造上の観点からは,本件建築物のA棟ないしJ棟の各棟ごとがそれぞれ別個の建築物というべきであり,これらが全体として1個の建築物であるとは認められない。 エ機能上の一体性について前提事実(2)イ,前記認定事実及び証拠(丙16)によれば,本件建(イ)(ウ) - 42 -築物の各棟の居住者は,平常時においては,F棟の地上1階を介して地下1階のエントランスホールに入り,同階の内部廊下を経由して各棟の住居部分に至るものとされていることが認められ,また,地下2階が駐車場の車路で接続しているほか,フロント,管理事務所,郵便受け,駐輪場,パーティールーム,サロン,フィットネスルーム,キッズルームなど,本件建築物のA棟ないしJ棟の住民が共用すると考えられる施設も一部の棟(主としてF棟)にのみ存在していることが認められる。 もっとも,証拠(丙16)によれば,本件建築物の各棟には,それぞれ,各棟専用のエレベーター,エレベーターホール及び階段が1箇所又は2箇所 棟(主としてF棟)にのみ存在していることが認められる。 もっとも,証拠(丙16)によれば,本件建築物の各棟には,それぞれ,各棟専用のエレベーター,エレベーターホール及び階段が1箇所又は2箇所設けられ,本件建築物の主要部分である住居(A棟ないしJ棟合計138戸)へは,それぞれ各棟ごとに独立して設置された上記施設を経由しなければ至ることができない。また,各棟の地上1階以上においては,隣棟に至る通路が接続されておらず,隣棟の住居に至るには,地下1階の廊下又は地下2階の車路を経由しなければならない。このように,本件建築物の主要部分である住居部分についてみると,各棟相互の利用上の一体性は低い。 また,前記認定事実及び証拠(丙16)によれば,F棟の地上1階の出入口を経由することなく各棟から公道に至ることができる通路も存在し,各棟の居住者は,非常時において,これらの通路を各棟から公道に直接避難する経路として利用できるようになっている。 以上のとおり,本件建築物の居住者は,平常時の利用方法において,主としてF棟に存在するエントランス部分や利便施設を共用するという点で,本件建築物には機能上の一体性を有するともみられる面を持っているが,各棟の住居部分についてみると,独立した専用設備が設けられ,居住者が相互に共用するという要素に乏しいものであり,このことに加えて,建築基準法上の大きな関心事と考えられる避難経路に関し,個別性が確保 - 43 -されていることをも勘案すると,A棟ないしJ棟の各棟につき,機能上の一体性の程度は必ずしも高いものではないというべきである。 オ総合判断イないしエに検討したところよれば,本件建築物は,外観上及び構造上の一体性を有しているものとはいえず,また,機能上の一体性の程度は必ずしも高いものではないことか いうべきである。 オ総合判断イないしエに検討したところよれば,本件建築物は,外観上及び構造上の一体性を有しているものとはいえず,また,機能上の一体性の程度は必ずしも高いものではないことからすると,社会通念上,一体性があるとはいえないというべきである。 (4) 小括本件建築物は,全体として建築基準法施行令1条1号規定の「一の建築物」に当たるものとは認められず,それぞれが「一の建築物」であるそのA棟ないしJ棟の各棟の延べ面積はそれぞれ1万㎡以下であるから,被告は,本件建築物の除却命令を発すべき特定行政庁の所属する地方公共団体として,その義務付けを求める被告としての適格を有さない。本件訴えの訴訟要件はこの点においても認められない。 4 結論以上によれば,本件訴えは,上記2及び3の点において訴訟要件が認められないから,その余の争点について判断するまでもなく,本件訴えは訴訟要件を欠く不適法なものであって,却下を免れない。 よって,本件訴えを却下することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官谷口豊 - 44 - 裁判官平山馨 裁判官大西正悟

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